報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「橘丸」 航海中

2020-08-01 22:53:33 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日23:30.天候:曇 東海汽船 橘丸5F客室]

 外洋に出たのか、少し船の揺れ具合が大きくなったような気がした。
 それでも大きく揺れるというほどのものではない。
 私は大丈夫だが、それでも船酔いをする者は発生するかもしれない。

 愛原:「次、シャワーどうぞ」

 部屋備え付けのシャワーを使った私は、浴衣に着替えてシャワールームを出た。

 霧崎:「それでは次、リサ様か御嬢様、どうぞ」
 リサ:「サイトー、先に入……」
 斉藤:「リサさん、一緒に入りましょ!」

 斉藤さんは鼻息を荒くしてリサに迫った。

 愛原:「いや、2人は狭いよ?」

 シャワールームの広さは、電話ボックスより一回りか二回り大きいくらい。
 明らかに1人用だ。

 斉藤:「リサさん、体洗ってあげるから!」
 リサ:「サイトーがそこまでしてくれるというのなら……」
 愛原:「おいおい、マジかよ」
 霧崎:「仲がよろしいことで」

 この2人の場合、仲の良さが友情レベルを超えてしまっているからな。
 別の意味で監視対象なのだが、霧崎さんは特に気にしていない。
 因みに備え付けの浴衣は大人用しか無い為、これを着れるのは私と霧崎さんだけである。
 その為、JC2人は独自に寝巻を用意する必要がある。

 リサ:「サイトー、かわいいパジャマ!」
 斉藤:「萌えへへへ……。ありがと」

 リサに褒められて、斉藤さんは照れ笑いを浮かべた。
 リサの方はというと、シンプルに白い半袖のTシャツに黒い一分丈スパッツである。

 斉藤:「リサさんのは涼し気ね」
 リサ:「愛原先生が、『動き易い服装で』って言うから」
 愛原:「いや、悪いな……」

 リサにもかわいいパジャマ、買ってあげた方が良かったかな?
 リサの私服とかは高野君に任せているのだが、実は寝巻関係まではタッチしていないのかもしれない。

 リサ:「そうと決まったら、早速入ろう。メイドさん、待たせてる」
 斉藤:「そ、そうね」
 霧崎:「いえ、どうぞ、私のことはお気になさらずに……」

 リサは私の前で脱ぎ始めた。

 斉藤:「ちょっ……、リサさん!?」
 愛原:「俺は部屋の外に出てるよ」

 既にリサは上半身裸になっているが、全く気にする様子は無い。
 確かにこいつ、家の中では平気で裸になるようなコだ。
 BOW自体が裸でいる奴が多く、服を着てターゲット達を追い回す輩は数えるほどしかない。
 汚い服とはいえ、それでもリサ・トレヴァーは数少ない服を着ているBOWのはずだが……。

 斉藤:「リサさん、中で脱ぎましょうよ!」

 斉藤さんもさすがに驚いた様子で、リサの背中を押すようにシャワールームに飛び込んだ。

 霧崎:「愛原さん……?」

 さすがの霧崎さんも、驚いた様子で私を見た。

 愛原:「は、ははは……。こ、こんな感じでね、リサとはフレンドリーに過ごしてます」

 いつもはリサが私の前で脱ぐ度に高橋君が注意してくれるのだが、今回はその高橋君がいなかったので油断した。
 今回は斉藤さんが止めてくれたので良かったが、もし誰も止めなかったら、リサは平気で全裸になっていただろう。
 私は気を取り直して、冷蔵庫に保管しておいた缶ビールを取り出した。
 そして、自動販売機で買ったおつまみの袋を開ける。

 愛原:「うむ。風呂上りのビールは格別だ」
 霧崎:「さようで……」

 霧崎さんはシャワールームに一瞬入ると、リサ達の脱いだ服を一気に回収した。

 斉藤:「きゃっ!リサさん、冷たい!」
 リサ:「サイトー、ゴメン」

 その時、シャワールームからJC達の仲の良い声が聞こえた。

 霧崎:「マサから何か連絡はありましたか?」
 愛原:「いや、全然」

 ビールを口に運びながら答えた私は、ふとあることに気が付いた。
 確か、この船には公衆電話が搭載されている。
 恐らく、衛星通信を利用したものになっているのだろう。
 今の高橋は、公衆電話なら電話に出る。
 ふーむ……。

[7月23日00:00.天候:曇 橘丸4F案内所]

 リサと斉藤さんが仲良くシャワーから出て来た。
 その後で霧崎さんがやっと入るわけだ。
 私は霧崎さんがメイド服を脱いでシャワーに入るまで、部屋の外に出ることを強く申し出た。
 リサ達はまだ子供だからという言い訳ができるが、20歳を過ぎたばかりの霧崎さんにはその言い訳は通用しない。
 しかし、それは表向き。
 霧崎さんがシャワーを使っている間、高橋と連絡を取るのが理由だった。
 急いて4階に下りた私は、早速1台だけある公衆電話の受話器を取った。
 すぐに100円硬貨を入れて、高橋のケータイに電話を入れる。
 真夜中に不謹慎かもしれないが、私達の近況と高橋の近況の交換はしておきたい。

 高橋:「もしもし……?」
 愛原:「高橋!良かった。俺だ。愛原だ」
 高橋:「先生!?どうしたんです、こんな時間に?」
 愛原:「今、船で八丈島に向かってる。オマエは今どこだ!?」
 高橋:「船で八畳島に向かってんスか!?え、どうしてです!?」
 愛原:「どうしてもこうしてもあるか!オマエが離島に逃亡しているから、心配して向かっているんだろうが!」
 高橋:「俺は東京にいますよ!?」
 愛原:「だから!伊豆諸島も東京都だから、『東京から出ていない』という言い訳は分かった!問題は、オマエの目的だ!オマエは一体、何から逃げてるんだ!?もし警察とかヤクザだったら、俺から斉藤社長や善場主任に頼んで、経済と政治から圧力掛けてもらう!」
 高橋:「先生こそ、どうして八丈島に!?」
 愛原:「オマエが八丈島行きの飛行機に乗って、しかもそこから別の離島に向かったっていう情報を得たんだ。だから……」

 その時、私のスマホが震えた。
 リサからのメッセージで、もう霧崎さんがシャワーから出たらしい。
 早いとこ戻らないと怪しまれる。

 愛原:「いいか!?また後で電話する。絶対、着信拒否するなよ!?」
 高橋:「あ、あの、先生……」

 私は電話を切った。
 急いで戻らないと、霧崎さんにナイフで拷問される!
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“私立探偵 愛原学” 「橘丸」 出港後

2020-08-01 14:26:16 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日23:00.天候:曇 東京湾 東海汽船“橘丸”5F船尾甲板→船内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 私は今、洋上だ。
 離島へ逃亡した助手の高橋を追い、また、クライアントからの依頼で、まずは八丈島へ向かう船に乗っている。
 夜行船なので、到着は明朝になる。

 愛原:「ほら、さっき通ったレインボーブリッジだよ」
 リサ:「おー!初めて見るー!」
 斉藤:「何年ぶりかしらー!」

 先ほど“ゆりかもめ”で渡ったレインボーブリッジを、今度は海上から船で潜り抜ける。
 こういう体験は滅多に無いから、眼福ものだぞ。

 リサ:「え?サイトー、初めてじゃないの?」
 斉藤:「昔ね、お父さんと一緒に小笠原に行った時もここを通ったの。もちろん、この船じゃなかったけど」
 愛原:「凄いな!小笠原まで行ったんだ!?あれかな?“おがさわら丸”かな?」
 斉藤:「違いますよ。何だか、貨物船だったような気がします」
 愛原:「は?何それ?共勝丸?」
 斉藤:「キョーショー?いえ、そんな名前じゃなかったと思いますけど……」

 外洋に出られるクルーザーとかだったら、さすが富裕層といったところだが、貨物船とは……?
 時々面白いことをする社長だ。

 斉藤:「父とその船の船長さんが知り合いとかで、乗せてもらったらしいですけど……」
 愛原:「そうなんだ」

 別に違法ではない。
 貨物船であっても、12名以下なら旅客を乗せても良いことになっている。
 そこが陸上の貨物運送とは違うところだ。
 小笠原航路の共勝丸も、その法律に基づき、9名まで旅客を乗せていた時期があった(現在、旅客は乗せていないもよう)。

 愛原:「よし。最初のハイライトを体験したところで、船に戻ろうか」
 リサ:「えー?せっかく夜景がきれいなのに、もったいない」
 愛原:「風が出て来た。その恰好じゃ、スカートの中見えちゃうよ」
 斉藤:「そんなことは……きゃっ!」

 その時、ビュウッと突風が吹いた。
 リサより裾の長いスカートを穿いている斉藤さんはパンチラを避けられたが(そもそも、斉藤さんはオーバーパンツを穿いている)、被っていた帽子が飛ばされてしまった。

 リサ:「よっと!」

 しかしそこを、リサが優れた跳躍力でパッと帽子を掴む。
 おかげで帽子が海に投げ出されることは避けられた。

 リサ:「はい」
 斉藤:「あ、ありがとう、リサさん!」
 リサ:「どういたしまして」

 リサは完全に人間の姿を維持した第0形態だが、あくまでも見た目が人間態というだけであって、身体能力が化け物なのは変わらないらしい。

 愛原:「これで分かったら、早く中に戻るんだ」
 斉藤:「分かりました」
 リサ:「しょうがない」

 船内に戻る。

 愛原:「そろそろ部屋に……」
 リサ:「もう少し探検したい」
 斉藤:「私からもお願いします」
 愛原:「怖いメイドさんが迎えに来たら、すぐに戻るんだぞ」
 斉藤:「はい。それはもう」

 霧崎さんだけ別行動。
 船内は禁煙なので、タバコは喫煙所で吸わなければならない。
 そういうこともある。

 斉藤:「あのレストラン、明日の朝も利用できるんですよね?」
 愛原:「そうだな。明日の朝は、あのレストランで朝食にしよう」

 出港後も営業しているようだが、あいにくともう夕食は食べてしまったからな。
 とはいえ、夜食でも食べながら一杯やりたいところだ。
 まあ、自販機コーナーもあって、そこでアルコールやおつまみは買える。

 愛原:「今はリサがいるから安心だな」
 リサ:「ん、何が?」
 愛原:「俺の記憶からは消えてしまったが、豪華客船“顕正”号でバイオハザードが発生しただろう?リサがいれば、この船でバイオハザードが発生しても安心だなって」
 リサ:「うん、任せて。むしろ私がウィルスばら撒く方」
 愛原:「おーい!」
 リサ:「先生の命令があったら、すぐにウィルスばら撒く」
 愛原:「するなよ!?するなよ!?絶対するなよ!?」
 リサ:「先生の命令は絶対。それならしない」
 愛原:「よし。いいコだ」
 リサ:「メーデー、メーデー……」
 愛原:「ん?」
 リサ:「メェェェェェデェェェェェェイ……!こちら、橘丸……救難信号……メーデー、メーデー、メェェェェェェェデェェェェェェェ……!」
 愛原:「わーっ!2005年のバイオテロ事件みたいになってるぞ!?」

 地中海を航行中の豪華客船“クイーンゼノビア”号と“クイーンディード”号で起きたバイオハザード事件。
 2005年、BSAAの活躍により解決し、これらの船は今、地中海の海底にて生き残ったBOWと共に沈んでいる。

 リサ:「冗談」
 愛原:「こらぁ!」

 その時、リサが自販機コーナーで何かを見つけた。
 それはアイスの自販機。

 リサ:「おー!サイトー、見て。アイス」
 斉藤:「ここでもハーゲンダッツが売られてるのね」

 リサはおねだりするかのように私を見た。
 というか、本当におねだりするかのようだ。

 愛原:「分かった、分かったよ。何にする?」
 リサ:「おー!私……」

 因みにジュースやお菓子の自販機もあったが、それらは竹芝客船ターミナルのヤマザキショップで購入していたので、ここで買う必要は無かったようだ。
 代わりに私がおつまみとビールを買って行く。
 食べ物は他にもカップ麺とか冷凍食品の自販機もあるので、レストランが閉まっても、基本的に食うのに困らない。

 霧崎:「お帰りなさいませ」

 部屋に戻ると、霧崎さんが待っていた。

 霧崎:「御嬢様、そろそろお休みの時間でございます」
 斉藤:「分かってるわよ。でも、先に先生に入って頂いたらどう?」
 愛原:「俺かい?」
 霧崎:「愛原先生、如何なさいますか?」
 斉藤:「偉い方が一番風呂に入るべきよ」
 霧崎:「この船にはシャワーしか無いようですが?」
 愛原:「分かった分かった。お言葉に甘えて、先に入らせてもらうよ」

 斉藤さんが目で訴えてきている。
 『なるべく、ゆっくり入ってください』と。
 共用シャワーにはアメニティは無いが、ここにはそれがある。
 入って見ると、ホテルのユニットバスから、バスタブを撤去したような感じになっていた。
 船内では真水は貴重なので、水を大量に使わないようにする為だろう。
 私は替えの下着と備え付けの浴衣を持って、シャワールームに入った。
 まだまだ船旅は始まったばかり。
コメント (1)
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