[8月22日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 ホテル東横イン仙台駅西口中央]
今日宿泊するホテルに到着した私達。
高橋:「先生!『走る死亡フラグ』がフラグ折りました!」
愛原:「良かったじゃないか」
公一伯父さんは御年70代だ。
高齢者マークのステッカーを貼り、白いプリウスを駆っている。
高橋はそれを、『ブレーキとアクセル踏み間違えて突っ込むこと上等の死亡フラグ』だと言うんだな。
ま、否定はすまい。
そんな伯父さんの運転するプリウスで到着した私達の両親。
愛原学:「いいかな?チェックインの手続きするよ?」
愛原公一:「待てい」
学:「なに?」
公一:「お祖父ちゃんからのお小遣いぢゃw」
リサ:「わぁい。ありがとうございます~」
学:「『孫にお小遣いをあげるお祖父ちゃん』の役やりたかっただけでしょ!」
公一:「肝心の甥っ子がいつまでも結婚しないので、痺れを切らしたのだ」
学:「すいませんね!愛原家は私の代で強制終了ですよ!」
リサ:「私で良かったら、法統相続協力する」
公一:「うむ。実に頼もしい」
学:「とにかく、フロントに行って来ますから」
私はフロントに行った。
学:「今日から一泊で予約している愛原です」
フロント係:「はい、愛原様でございますね」
私はツインの鍵2つとシングルの鍵を1つもらった。
学:「それじゃ行きましょう。伯父さんもありがとうございました」
公一:「うむ。いつでも遊びに来ていいぞ。小牛田の駅まで迎えに行ってやる」
学:「そりゃどうも」
エレベーターで客室フロアに向かう。
学:「でも公一伯父さんと夕食だよね?」
愛原薫:「この時間、大学の研究室に顔を出しに行くんだろう」
愛原節子:「大学の人達と食事をするから、こっちはキャンセルして来たりしてね」
薫:「十分あり得る。昔から兄さんは自由人だったからなぁ……」
エレベーターを降りると、私達はそれぞれの部屋に入った。
学:「夕食までゆっくりしてるか」
高橋:「先生の伯父さん、太っ腹っスね。先生がフロントに行ってる間、俺にも小遣いくれたんスよ」
学:「マジか。若いっていいなぁ!」
ま、私も昔はよく伯父さんからお年玉だの、色々と買ってもらったりだのしたものだ。
伯父さんこそ天涯孤独な人だからな。
高橋:「リサも諭吉先生1人分もらってた感ありますよ?」
学:「当人にとってはお年玉あげるような感覚だろう」
高橋:「お正月に会ったら、ガチでお年玉くれそうですね」
学:「かもしれないな」
高橋は湯沸かしサーバーに水を入れて、それでお湯を沸かした。
高橋:「今、お茶入れますんで」
学:「ああ、悪いな。俺は自分の事務仕事でもしてるよ」
私はそう言って荷物の中からノートPCを出し、それをライティングデスクの上に置いた。
学:「おっ、窓の外は新幹線の線路かぁ」
窓の下を見ると、新幹線が通過して行った。
シンカリオン好きの子供なら、大喜びだろうな。
学:「ん?メールが来てるな……」
このホテルにはWi-Fiが飛んでいるので、それでインターネットは簡単に使える。
それでメールチェックすると、善場主任からメールが来ていた。
善場:『高野事務員から、愛原所長が仙台市内に向かったと伺いましたのでちょうど良かったです』
とのこと。
落ち着いたら電話が欲しいとのことだった。
学:「何だろう?」
私は自分のスマホを取り出し、それで善場主任に掛けてみた。
善場:「愛原所長ですか?」
学:「はい、愛原です。確かに私は今、仙台市内にいますが、ちょうど良かったというのは、どういうことですか?」
善場:「仙台市若林区で起きた爆発事故については御存知ですね?」
学:「知ってるも何も、実家が少し巻き込まれてしまって、それで両親の安否を確認しに向かったわけです」
善場:「そうだったのですか。それで御両親は御無事だったのですか?」
学:「おかげさまで。ただ、現場周辺はまだ停電中かつ立入規制中なので、家に入れないので、今日は市内のホテルに泊まります。実家の片付けとかを手伝わないといけないので……」
善場:「そうですか。その爆発現場がどういった場所なのかは御存知ですか?」
学:「さっき知りましたよ。旧アンブレラと因縁のある家系、トレヴァー家の屋敷があったらしいですね。もっとも、私が生まれる前に行方不明になったらしいですが」
善場:「日本国内に旧アンブレラ本体の関係者が潜伏しているという情報は得ていました。ただ、行方が掴めなくなっていたので、死亡説も組織内にあったのは事実です」
学:「その屋敷の地下室から人骨が見つかったらしいですよ。もしかしたら、そこに住んでたトレヴァーさんの人骨かもしれませんね」
善場:「それをこれからうちの組織が調査します。月曜日にそちらに向かいますが、所長は立ち会えますか?」
高野君、事務所はよろしく頼む!
学:「前向きに善処します」
善場:「よろしくお願いしますよ。できれば、そちらのリサ・トレヴァーにも来て頂きたいものですね」
学:「えっ?」
善場:「もしかしたら、『愛原リサ』として暮らしている、そちらの日本版リサ・トレヴァーは、本当にそこの家の子であった可能性がありますので」
やっぱりか!
学:「分かりました。ますます可及的速やかに事務所に連絡致します」
善場:「よろしくお願いします」
学:「……善場主任」
善場:「何ですか?」
学:「善場主任の所属する組織は、リサを将来の政府エージェントとして使いたいんですよね?」
善場:「最初に御説明申し上げたと思いますが?」
学:「BOWのままで本当に大丈夫なのでしょうか?」
善場:「ああ、そういうことですか。……詳しい真意は時が来たらお話しさせて頂こうと思っていましたが、結論から先に申しますと、愛原リサはアメリカの政府エージェント、シェリー・バーキン氏のような者にするつもりです」
学:「でも、シェリー氏は人間ですよ?まあ、幼少時に一時BOW化しかかったようですが……」
善場:「はい。有名な話ですね。それですよ」
学:「?」
善場:「私達は愛原リサを人間に戻す方法を考えています」
学:「な、何ですって!?」
リサを人間に戻す!?
そんなことができるのか!?
善場:「あくまでも計画です。しかし、その計画は既に上からの承認を得ております。アメリカのシェリー・バーキン氏にできたのです。こちらのリサ・トレヴァーにできないことはないと考えております。ですので、愛原所長にはその計画の推進の為に、尚一層の御協力を頂きたいのです」
私は開いた口が塞がらなかった。
善場主任達、陰でそんな計画を立てていたとは……。
善場:「確かに今のリサ・トレヴァーは危険です。いつ暴走するか分かりません。しかしバーキン氏のように超人的な能力は残しつつ、且つ人間の姿のまま絶対に変化することはないのであれば……とても安全だと思いませんか?バーキン氏は人間です。私達は愛原リサをそのような存在にし、それから私達の組織に迎え入れたいのです」
学:「……その計画、成功できるアテはあるんですか?」
善場:「これ以上は機密事項ですので、まだ申し上げられません。しかし、全くアテが無ければ、そもそも承認など得られませんよ」
善場主任はそう言って電話を切った。
高橋:「大丈夫ですか、先生?お茶です」
学:「リサを人間に戻す……」
高橋:「えっ?」
学:「リサを人間に戻すという計画を、善場主任達は進めようとしているんだってさ」
高橋:「ええっ、マジっすか!?パネェっすね、あの姉ちゃん達!?」
高橋が驚くのも無理はない。
だが、リサにはまだ内緒にしておいた方がいいだろう。