「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「芙蓉」

2006-08-26 16:45:30 | 和歌

 木槿の花に暫らく遅れて、「芙蓉」が今を盛りと咲いている。





 今週の中ほどには、朝晩で色が変化する「酔芙蓉」を紹介した。ピンクや白のままの大輪の「芙蓉」も、それぞれに見事な花を咲かせるが、何れもたった一日限りで命を終える定めだ。

 同じ花でも何日か咲き続けると、折角の花が虫に食われたり、風に吹かれて傷んだりすることが多い。そのような姿を晒すのは、観る者にとっても忍び難いものがある。花を咲かせて最も美しいままに、夕暮れと共に花を閉じるのは、最高の美学かもしれない。

 林芙美子は色紙に「花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき」とよく書いたが、私生児として生まれ、貧困の生活を重ねた自分の半生の想いを、儚い花の命に重ねたものであろうか。花は、観る者のこころの在り様によってどうにでも変わり得る。

 一日を限りに花を閉じる芙蓉であるが、隣を見ると莟が割れ初めて、其処には濃き紅の色をのぞかせている。次つぎと花を咲かせて、子孫繁栄のための営みを逞しく整えている芙蓉でもある。






             夕されば芙蓉の花はみな閉じて

             穢れぬままに逝くぞいとしき 



             薄色の芙蓉は夕べに定めとて
 
             色濃く閉じぬはかなき命を 



             夕されば散り逝く芙蓉の隣りには

             紅のぞかせ莟割れそむ