「うつろ庵」の裏庭の隅には茗荷を植えてあるが、虚庵夫人は朝方、片手に余る茗荷の花芽を摘んできた。
既に薄く透ける花を付けているものもあって、「ふっくら」とふくよかな形が何とも言えない。
絵心があれば、早速に写生して一首を添えたいところだが、取敢えずカメラに収めた。
立派な茗荷に触発されて、「素麺」が食卓に供された。朝取りの茗荷を薬味に、その香りが食欲をそそり、清涼な昼食であった。茗荷を食べると「忘れっぽくなる」と俗に言われるが、虚庵夫妻は元々「忘れっぽいタチ」ゆえ、茗荷の影響の有無は定かでない。
この茗荷は、現在の住まい「うつろ庵」に引っ越して来た際に、お仲人の労をお執り下さったN様から、新居祝いに一株頂戴したものだ。思えばあれから既に三十余年、毎年の真夏の猛暑を凌げたのも、茗荷の恵によるところ大であった。深く感謝している。
幼児をふところ深くにかき抱く
母の姿を 茗荷に観しかな
乳呑み児は母のふところかき分けて
顔のぞかせぬ夏の朝に
蝉しぐれ素麺すするこの夏も
茗荷の薬味に猛暑を凌がむ