Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

「バーコード」の刺青

2007-06-16 16:27:46 | 中東
バグダッド北西部で従軍を開始して1週間がたった。

今回一緒にいる部隊はまだイラクに来たばかりで、まだキャンプの外にでていないため街の様子は全くつかめていないのだが、パトロールで忙しくなる前のこの準備期間は、僕らにとって兵士たちの素顔を知るためのいいチャンスになった。

僕らの従軍しているプラトゥーンは18名。そのうちの8名にとって今回がはじめてのイラク派兵となる。

その新参兵たちの一人に、手首に「バーコード」の刺青をしている青年がいた。マイクという名のその兵士はまだ22歳、「バーコード」は、イラクに来る前に彼が初めていれた刺青だという。

いったん軍にはいれば、厳格に管理され、そこには個人の人間性の尊重など存在しない。兵士はバーコードをつけられたプロダクト、すなわち軍に所有された物品と同じというわけだ。

家族を養うためと、「なにか人生の目的、のようなものが欲しかった」という理由で軍にはいったマイクは、現在の米軍のイラク政策には批判的だ。

「9.11テロもイラクがやったわけでもない、大量破壊兵器だってみつかっていない。。。侵攻して4年以上もたって、なぜ僕らがここにいなくてはならないのか、意味が見出せない。。。」

「だけど、そういう意味や理由を考えることは僕らの仕事ではないんだ。。。兵士はただ与えられた日々の仕事をこなすだけ。これが終われば15ヶ月後には家に帰れる」

一概にはいえないが、米兵たちと話をしていて、多くの兵士たちがこの戦争にすでに意義を見出せなくなっているような感じを受ける。それでも、マイクのいうように、意識的にそういうことを考えないように思考をシャットダウンし、彼らは毎日の「職務」をこなしているのだ。さもなければ、猛暑と路上爆弾の危険に晒されながら、15ヶ月という長い期間を愛する家族と離れてやっていくことは難しいのだろう。

「もしここで死んだら、いったい何のために死んだのか、全然わからないね」

マイクは言った。

今晩、パトロールに同行してようやくキャンプの外に出ることができる。


最新の画像もっと見る

13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (yuli(dumbo))
2007-06-16 18:38:07
お久しぶりです。
この日記を読んで初めてkuniさんにコンタクトを取った時のことを思い出しました。当時と状況は違っているけど、これはあの時私が知りたかったこと。曲の改訂版は仕上がったからもう過ぎたことなのに心がザワザワしています。また何かに触発されるかな?高橋さんにとっては面白くないことかもしれないですけれど、また報告お願いします。
返信する
Unknown (sono)
2007-06-16 23:37:35
あんなアメリカの政策のせいでこれ以上死ぬ人が
出ては絶対いけないと思います!

もののけ姫ではありませんが・・・
「生きろ」と心から思います!
ああ早く終わって欲しいですね
返信する
Unknown (じゅて)
2007-06-16 23:46:48
大きな思惑と個人の思いは必ずしも一致しないですね
心を殺さなくてはやっていけない仕事、着かなくては行けない思いと刺青が交叉します
返信する
お元気ですか? (maki)
2007-06-17 01:35:35
また、イラクにいらしていたのですね。ごぶさたしてます。ビザの関係(米国赤十字が私が日本人のため、雇えなかった!)で4月から日本に戻ってきています。アメリカに残れなかった事で、かなり鬱状態ではありましたが、3月にはHIV・AIDS キャンプでケニアに3週間弱行ってました。ボランティア薬剤師として働きましたが、念願のアフリカでいろいろ良い経験となりました。また、戻りたかったのですが、今度は8月からインドネシアと東チモールに1年もしくはそれ以上派遣されます。東チモールもとても良い状況とは言えませんが、体力整えて、がんばるつもりです。
くにさんも、身体に気を付けて、がんばってください。次は、どこでお会い出来るか?楽しみです。
返信する
質問! (えどしん)
2007-06-17 15:00:04
いったん軍にはいれば、厳格に管理され、そこには個人の人間性の尊重など存在しない。兵士はバーコードをつけられたプロダクト、すなわち軍に所有された物品と同じというわけだ。

↑これってマイク氏のコメントですか?「」が使われていないし、出典元も書かれいないので確認したく思いました。

いみし。
返信する
質問 (Kuni Takahashi)
2007-06-18 14:28:03
実際にこの刺青をいれた理由としてマイクが言ったのは「兵士はプロダクトとおなじで、軍が僕らを所有している」という部分であり、あとは前後のインタビューのなかで彼が語ったことを僕が要約して文章にしました。
返信する
smiyaba@yahoo.co.jp (えどしん)
2007-06-18 16:32:39
忙しい中、回答ありがとうございます。

この写真を見た際にとてもショックを受けた。今の米軍を雄弁に語る一枚と感じた。とても良い写真だ。

が、バーコードに関しての3行の文章が弱いと思った。

マイク氏から「兵士はプロダクトとおなじで、軍が僕らを所有している」というコメントをしっかり取っているのだったら、私ならここは要約ではなく、彼に語らせる手法を取った。また、このコメントを最初に書いたな。そのほうがインパクトがあるし、後からの彼の入隊の動機とか、イラク政策に対する批判のコメントとのコントラストも出たしね。ちょっともったいない気がした。ただそれだけ。文章表現に対する考え方の差かな。

いみし。
返信する
Unknown (miura)
2007-06-18 20:25:40
ぞっとする話ですね。

写真とタイトルが、ふつうの戦争の話とちがうので、なんだろう? と思うし、
強い写真ですね。

返信する
Unknown (硝子)
2007-06-18 21:52:12
写真をみて、この2日間言葉を探していました。なんか違和感を感じませんか?青年の自虐的ともいえる行為もわからなくはないのですが、少なくとも自ら志願して「兵士」という職業を選択しており、「辞める」という選択肢もあるのでは・・また自分は「軍のプロダクト」と位置づけていますが、その先には「戦争」という一種の正当化された殺人行為に加担しているという意識はないのでしょうか?
たとえば、「この戦争に目的など感じられない」と第三者的に発言してますが、もし自国が戦地と化してすぐそばに愛する家族がいたら・・
決してこの青年を批判しているのではありません。
彼がもとからそういう思考の持ち主だったのでしょうか?それとも軍隊で強烈に洗脳されてしまうのでしょうか?たまたま彼は軍隊に帰属していますが、同じような思考(というより思考を停止したままで長いものに巻かれろ的な)行動していることって結構日常にありませんか?

高橋さんが、前回のブログで「イラク一般市民の視点が抜けおちないように」とおっしゃってましたが、ぜひその点での報告もお待ちしています。
返信する
思いついた言葉は"混乱" (えどしん)
2007-06-19 09:47:32
前の書き込みで間違えてタイトルにメアドを書いてしまった@えどしんです。

当HPでもこの写真の件を取り上げてみました。事後報告となりましたが、お知らせしておきます。

硝子氏の書き込みの"違和感"という表現は妥当と思います。私は"混乱"という言葉が思いつきました。

>長いものに巻かれろ的な)行動していることって結構日常にありませんか?
#これもそう思う。が、巻かれずにいると損をすることが多いのが今の世の中。
で、私はしょっちゅう損をしている方。が、これも有形のもので、無形のもの、つまりは金に直接結びつかない点では得るものも多い。てなところかな。

いみし。
返信する

コメントを投稿