Kuni Takahashi Photo Blog

フォトグラファー高橋邦典
English: http://www.kunitakahashi.com/blog

イラク復興?

2007-11-19 09:44:56 | 中東
プロジェクトをキャンセルされたあと、結局他の部隊に1週間ほど従軍取材をしてからイラクを発ち、2日前にシカゴに戻ってきた。まだ時差ぼけで午前3時頃眼が覚めてしまう。いくら国外取材を重ねても、こればかりは慣れることはないなあ。

今回の従軍で興味深かったのは、イラクを取材するようになった2003年以来、初めて少しは状況が良くなってきたかなと感じたことだ。

バグダッドから30キロほど北にあるタジという街を中心に取材したが、このあたりは米軍に対するイスラム抵抗勢力の攻撃や、スンニ、シーア派の宗派間の争いが激しく、今年はじめあたりまで非常に危険な地域だった。それが、今春にはじまった米軍のサージ(追加派兵)が功を奏し、4ヶ月ほど前から徐々に治安が回復しはじめた。

治安が戻るにつれ、米軍がある程度の治安を維持できるうちにイラクの再建を進めるのが得策だという部族リーダーたちの思惑と、もう殺し合いにはうんざりという街の気運が一致して、宗派や部族をこえた和解、協力がおこなわれるようになってきたのだ。

同時に、アメリカ側も兵士だけではなく、国際開発庁などから出向してきた一般市民を含んだチームで学校や病院の再建にのりだした。このチームのおかげで、イラクの復興支援のための資金にすばやくアクセスできるようになった。

「これまでは、米軍がくるたびに援助を約束してくれたにもかかわらず、なにひとつ実現しなかった。しかし今回は希望がでてきました。病院の設備も少しずつ整ってきたのです」

内壁のきれいに塗り替えられた病院で、ドクターのマフムード氏が質問に答えてくれた。

地域の学校も同様に整備されはじめ、コンピュータなども設置されるようになってきた。前述したように、僕にとっては、バグダッドの陥落以来、初めて見るイラク復興の姿だった。

しかし、これでイラクも落ち着いていくのかといえば、正直いってまだまだ疑問は残る。これまでの例からしても、米軍が集中的に攻勢をかけた地域からはアルカイダが逃げ出し一時的に治安が良くなるが、兵力が手薄になるとまた武装抵抗勢力が戻って問題を引き起こすからだ。現に米軍の増兵でタジやバグダッドから追いだされたアルカイダの一部は北部に移動したため、最近では北部のキルクークなどで逆に治安が悪化している。

米軍の追加派兵が終わり、兵力を減らしていく来年以降にここにまた武装抵抗勢力が戻ってこないという保証などどこにもないし、むしろそれは予期されるべきことだろう。そのときまでに、どれだけイラクが警察、軍隊を含めた治安維持の制度を強化できるか、また、経済を回復させ失業率を下げることができるかにこの国の将来はかかってくるだろう。仕事がなく生活が困窮していれば、幾ばくかの金のためにアルカイダの手先となって爆弾を仕掛けたりする一般市民は少なくないからだ。

また、状況が好転してきているとはいえ、ここに到達するまでにイラクの払った犠牲はあまりに多大であり、アメリカとの溝は深くなりすぎた。

いまや大部分のイラクの一般市民たちはアメリカに憎しみさえをも抱いているといって過言はないだろう。彼らは、アメリカが嫌いとは決してアメリカ人の前では口にしないが、僕が日本人だとわかると本音をだしてくるからこれはよくわかる。トリビューンの現地スタッフたちでさえ、僕にはこっそりと、「もういまでは本当にアメリカが嫌いになった」などと言ってくるし、街でであう子供達でさえ、「アメリカは駄目だ」と臆することなく口にする。

治安が回復し物質的な国の再建はできても、アメリカがイラク市民たちに残した精神的な傷を癒すのには、遥かに長い年月がかかるだろう。

(写真:宗派間をこえた和解会議にあつまるリーダーたち)










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8 コメント

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Unknown (硝子)
2007-11-19 21:42:08
取材お疲れ様でした。いろいろあったようですが、まずはご無事でよかったです。今回の記事を読んで、ずっと「兵士」とか「戦争」とかの話題のなかで、「復興?」(まだ疑問符がついてますが)という明るい話題で、嬉しくなりました。確かに、イラク市民のアメリカに対する感情や傷は癒えるのに時間はかかるとおもいますが、市民レベルでの援助や復興支援がすでにはじまっているところが米国民らしいというのでしょうか?すごいなと思いました。そんな敵、味方を超えた人間同士の交流が続き真の和平がおとずれることを祈らずにはいられません。
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参考! (えどしん)
2007-11-21 11:17:11
ティー・タイム中の@えどしんです。

ここの記事中にある米国国際開発庁のアドレスを参考にあげておきます。
イラクやソマリアに関するコンテンツもあります。

http://www.usaid.gov/

いみし。
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写真 (**kom)
2007-11-21 20:16:59
文章を読まず、何度か写真だけを眺めていました。今日時間があって、最後までゆっくり読んだのですがなるほどと思いました。凄い写真なんですね、これは。

>バグダッドの陥落以来、初めて見るイラク復興の姿

kuniさんからみたイラクは、あの本にあるイラクではなくなった。これもまたなんというか時間と歴史を感じます。

先日テレビで「アメリカのドルは紙くず」と言ったのは、イランの大統領でした。実際ドルの価値も三分の一になっているともささやかれ、イラク政策の失敗からアメリカ自体も不況が語られ始められている。その上イラクから嫌われてしまう。双方にとっていったいなんのための戦争だったのか、と考えさせられます。何もいいことがなかったんじゃないか?あったのか?というような。

イラク戦争が始まったとき、「水のライン」の確保について語られていました。オイルではなくてなぜ水なのか?と思っていました。先日、海外のニュースをみたらアメリカの一部でひどい渇水状態になっているということを知りました。あの当時からきっと予測できていた状況なのかな、と今頃昔読んだ記事を思い出しているしだいです。

しかし、戦争が宗教を超えて人と人を繋ぐきっかけになる、ということがなんだかよくわからないけれども、私はとても複雑な気持ちにさせます。
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訂正です (**kom)
2007-11-21 20:19:39
私は → 私を

というか、こんなこと訂正しなくてもいいと思いました。
が、一応。
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普通は気づくものです! (えどしん)
2007-11-22 12:58:32
昼休み中の@えどしんです。

上の**kom氏の事例のように、てにをはのおかしな部分や誤字などは「普通」読み返せば気づくもの。高橋氏は掲載後、3日経っても自分の誤りを直さない。というこは普通ではないということなのか?

さて、この記事中にまたおかしな記述があった。
>内壁のきれいに塗り替えられた病院で

こういうものは、私が指摘する前に、ここの取り巻き連中がメールでそっと本人に知らせればいいのにね、とまた書かねばならない。彼らも結局のところ高橋氏と同様に日本語の読み書きが不自由なのか、単に不親切なのか?

いみし。
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えどしん (T)
2007-11-22 22:00:08

えどしんがメールで教えればいいのに。

以前は自分のブログでわざわざ
「高橋氏とメール交換をしている」
などとどうでもいいことを自慢げに書いていたのにね。

えどしんのブログも誤字やおかしな部分、
かなり大量にあるしw
ほんと愉快な奴だ。
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え! (Y)
2007-11-23 15:37:46
えどしんって40過ぎなの?
それでこんなことやってるなんて救いようがないな。

某サイトで本名とか晒されてるんだけど、
ここで書くのは敢えてやめときます。

可哀想な奴だ。
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Unknown (miura)
2007-11-23 23:46:46
写ってる方々、みなさん同じスタイルに見えますが、宗派が違うんですか。ケサ(?)の色で区別されているのでしょうか。
恰幅がいいのはリーダーだから? 顔がゆがんで見えるのは、レンズのせいでしょうか。
素朴な疑問ばっか並べてますね。
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