ポール・キメイジによるカヴェンディッシュのインタヴューは、とても悲しい話だった。
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カヴの2歳年下の弟のアンディは、先週の火曜日にコカインと大麻の密輸・所持の罪で6年間の服役が決まった。
弟は少年時代は、才能溢れる自転車選手だった。むしろ、カヴより…。カヴがU16、アンディがU14の時の地区選手権で、冬の間もトレーニングを続けたカヴは2位(U16カテゴリー)、9ヶ月間自転車に乗りもしなかった弟は優勝(U14カテゴリー)した。
では、何が現在の明暗を分けたのか? カヴ曰く「弟は、常に周りから褒められたり、励まされることを必要としていた。自分はその逆で、無能と言われれば言われるほど(見返そうと)燃えた。彼にはそれがなかったんだ…」。
自転車選手らしからぬ、ずんぐりとした顔・体・脚。ペダリングも美しいと言われた弟と違って、特筆するものはなかった。身体能力のテストも平凡。ゴールスプリントで見せる爆発的な勝負強さは、身体的な才能からくるものではなかった。
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幼なじみの元婚約者、メリッサとの別れについては、多くを語らなかったカヴだが(※ カヴの自伝本『Boy Racer』のペーパーバック版では、加筆して多少触れているそうだ)、挙式4ヶ月前に、迷いが生じる。メリッサとの人生は心地よく、彼女は全てを犠牲にして、カヴのサイクリストとしての生活を助けてくれた。
フェアな関係でなくなっていった? 詭弁とも思えるが、彼女との関係がプレッシャーになったのだろうか。
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両親との確執。昨年のツール・ド・フランス、カヴは、最終日に離婚した両親がパリを訪れることを知る。嬉しくなかった。
「何故、パリなんだ。何故、山で苦しんでいる僕を応援してくれない?」
カヴは、シャンゼリゼで母親が来ていることをチームメイトに告げられるが、会いたくないと言った。翌朝、祝勝会からホテルの部屋に戻り、ドアの下に「マーク、君に会いたかったよ」という父親のメッセージを見つけるが、後悔の気持ちはなかった。
自転車選手としての人生に、両親が不在だったことを「自分がその機会を欲しなかったから」とカヴは話すが、遣りたい放題キャラの彼が、このように心を閉ざしていたのかと思うと、切なかった。
私が見聞きした、自転車選手の家族は、献身的にサポート、応援し、時にはステージパパ&ママ、世界中追いかけまわし、その親バカっぷりは微笑ましくもあり、子も親に感謝の気持ちで一杯だ。ピーター・ケノーは「うちの両親は、僕の追っかけで破産寸前さ」なんて以前語っていた。カヴは家族というくくりでは、一人ぼっちだった。
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昨年8月、トスカーナの家に、トレーニングから帰ってきたカヴは、弟の留守電メッセージを聞く。「マーク、就職の面接に、スーツを貸してもらえないか?」。
カヴはミズーリを前に忙しくしていた。弟のメッセージを無視した。1週間後、弟は逮捕された。
キメイジ: 「そのあとすぐに、弟に会いに行った?」
カヴ: 「いや、行かなかった。帰ったのは3ヶ月後だ…」
キメイジ: 「何故?」
カヴ: 「……。分からないんだ」
カヴは泣いていた。
キメイジ: 「分かってるんじゃないか?」
カヴ: 「分からない。理由を考えようとした。怒っていた? 後ろめたかった? 親友のジョニー・ベリスが(スクーター事故で)イタリアで入院していた。彼を置き去りにしたくなかった」
もし、スーツを貸して、まともな仕事を見つけていたら?
弟のことを顧みなかった後悔。
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その後は、現在のガールフレンドの故郷、パラグアイを訪れた時の話。歯並びをよくする手術を受けたカヴは、3日間運動を禁止されたのに、これを無視して出血。傷は炎症を起こし、大変なことに。
昨シーズン、ゴールスプリントで競り負けたのは、わずか2回。今季は既にフレイレに負け、テオ・ボスに負け。。。 更に、グライペルには突き上げられ。
今は、トンネルの中だけれど、モチベーションがあるから、きっと這い上がってみせる、と。
キメイジはこのインタヴューで、旧約聖書の「サムソンとデリラ」の話をカヴにぶつけている。
サムソンは美女デリラの色香に迷い、同胞を裏切り、破滅する怪力男の話だ。
因みに、カヴはこのストーリーを知っており、何度も思い出したそうだ。自分でも何をやったか分かってるのね(苦笑)。でも、もう後戻りはできない、と。
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カヴの2歳年下の弟のアンディは、先週の火曜日にコカインと大麻の密輸・所持の罪で6年間の服役が決まった。
弟は少年時代は、才能溢れる自転車選手だった。むしろ、カヴより…。カヴがU16、アンディがU14の時の地区選手権で、冬の間もトレーニングを続けたカヴは2位(U16カテゴリー)、9ヶ月間自転車に乗りもしなかった弟は優勝(U14カテゴリー)した。
では、何が現在の明暗を分けたのか? カヴ曰く「弟は、常に周りから褒められたり、励まされることを必要としていた。自分はその逆で、無能と言われれば言われるほど(見返そうと)燃えた。彼にはそれがなかったんだ…」。
自転車選手らしからぬ、ずんぐりとした顔・体・脚。ペダリングも美しいと言われた弟と違って、特筆するものはなかった。身体能力のテストも平凡。ゴールスプリントで見せる爆発的な勝負強さは、身体的な才能からくるものではなかった。
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幼なじみの元婚約者、メリッサとの別れについては、多くを語らなかったカヴだが(※ カヴの自伝本『Boy Racer』のペーパーバック版では、加筆して多少触れているそうだ)、挙式4ヶ月前に、迷いが生じる。メリッサとの人生は心地よく、彼女は全てを犠牲にして、カヴのサイクリストとしての生活を助けてくれた。
フェアな関係でなくなっていった? 詭弁とも思えるが、彼女との関係がプレッシャーになったのだろうか。
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両親との確執。昨年のツール・ド・フランス、カヴは、最終日に離婚した両親がパリを訪れることを知る。嬉しくなかった。
「何故、パリなんだ。何故、山で苦しんでいる僕を応援してくれない?」
カヴは、シャンゼリゼで母親が来ていることをチームメイトに告げられるが、会いたくないと言った。翌朝、祝勝会からホテルの部屋に戻り、ドアの下に「マーク、君に会いたかったよ」という父親のメッセージを見つけるが、後悔の気持ちはなかった。
自転車選手としての人生に、両親が不在だったことを「自分がその機会を欲しなかったから」とカヴは話すが、遣りたい放題キャラの彼が、このように心を閉ざしていたのかと思うと、切なかった。
私が見聞きした、自転車選手の家族は、献身的にサポート、応援し、時にはステージパパ&ママ、世界中追いかけまわし、その親バカっぷりは微笑ましくもあり、子も親に感謝の気持ちで一杯だ。ピーター・ケノーは「うちの両親は、僕の追っかけで破産寸前さ」なんて以前語っていた。カヴは家族というくくりでは、一人ぼっちだった。
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昨年8月、トスカーナの家に、トレーニングから帰ってきたカヴは、弟の留守電メッセージを聞く。「マーク、就職の面接に、スーツを貸してもらえないか?」。
カヴはミズーリを前に忙しくしていた。弟のメッセージを無視した。1週間後、弟は逮捕された。
キメイジ: 「そのあとすぐに、弟に会いに行った?」
カヴ: 「いや、行かなかった。帰ったのは3ヶ月後だ…」
キメイジ: 「何故?」
カヴ: 「……。分からないんだ」
カヴは泣いていた。
キメイジ: 「分かってるんじゃないか?」
カヴ: 「分からない。理由を考えようとした。怒っていた? 後ろめたかった? 親友のジョニー・ベリスが(スクーター事故で)イタリアで入院していた。彼を置き去りにしたくなかった」
もし、スーツを貸して、まともな仕事を見つけていたら?
弟のことを顧みなかった後悔。
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その後は、現在のガールフレンドの故郷、パラグアイを訪れた時の話。歯並びをよくする手術を受けたカヴは、3日間運動を禁止されたのに、これを無視して出血。傷は炎症を起こし、大変なことに。
昨シーズン、ゴールスプリントで競り負けたのは、わずか2回。今季は既にフレイレに負け、テオ・ボスに負け。。。 更に、グライペルには突き上げられ。
今は、トンネルの中だけれど、モチベーションがあるから、きっと這い上がってみせる、と。
キメイジはこのインタヴューで、旧約聖書の「サムソンとデリラ」の話をカヴにぶつけている。
サムソンは美女デリラの色香に迷い、同胞を裏切り、破滅する怪力男の話だ。
因みに、カヴはこのストーリーを知っており、何度も思い出したそうだ。自分でも何をやったか分かってるのね(苦笑)。でも、もう後戻りはできない、と。
カブちゃんのインタビューは胸を打ちました。
判官贔屓の日本人には堪らない?エピソードかも。
今のカブを支えているのはあのミスイタリアとチームメイト(特にレンショー)かもしれませんね。
こちらでははじめまして~。
いつもTL上でplusyさんの呟き、楽しみにしております。
勿論、キメイジも“知られざるカヴの一面”的な話の持って行き方していますが、私も感動秘話的な味付けをしてしまったかも(苦笑)。
とは言え、うちのいぬたろうは「でも結局、長年世話になった女を捨てたろくでなし」と、けんもほろろな感想でしたorz
>レンショー
!!!!!(笑)
この心の支えだけには捨てられたくないでしょうね~。
今手元にある英サイスポ5月号の疲れた選手特集記事でポール・キメイジは87年ツールのガリビエ峠で遅れてツーリング中の素人に抜かされた人としてでてますね。
著書「ラフ・ライド」は和訳がでてるのでいつか読んでみたい本です。以前ちょっと読むのを見送ったのですが今なら出版当時関係者一同の顰蹙を買ったというドーピングに関する記述にも堪えることができるかも..
キメイジのインタヴューって、結構えげつないですよねー。
わざと同じことを何度も聞いたり、誘導尋問風だったり。
警察の取り調べみたい(←決して経験者ではありません)。
好ましい人物とは思わないけど、文章面白いです。
>疲れた選手特集
↑こんな面白いコラムに気づかずorz
早速、読んでみたら、脛毛が生えてる荷物満載の人に追い抜かれたんですね(涙)。
「ラフ・ライド」、売り上げのために、あることないことをスキャンダラスに書いてるんだろうな~と、以前は思ったのですが、今となってはあることあることでしょうか(ははは…)。
自転車文化センターで、ちゃんと読んでみようと思います。