「30年前、僕はこんな夕べを想像していたのだろうか」

2016年06月08日 | 随想

初夏の夕べ。蒼い空に星々が輝き出す前の特別な時間。

耳を澄ますと10種類、20種類の小鳥たちの様々な声が響き合い、
遠くに、近くに重なり合い、風が揺らす笹の葉や松の葉の間から、
海辺のさざ波のように、山小屋の夕べの音のように、彼等だけの
言葉を交わしている。





仕事などしたくなかった初夏の一日がこうして暮れてゆく。
そして、少し白夜のような、本当は異国の、北国の夜が近づいてくる。
それでも今日はさっきまで、まだ昼間のような夕方の太陽を見上げながら、
緑の中の大きなプールを10回も20回も往復していたんだ。
その上、昼には庭の草も摘んで、初めてオーブンで豆腐の田楽も
作ってみた。

今、夜が来る。



薄口の出汁につけた白いアスパラガスは、淡い薄紅色の
新生姜にほんのりと軽く肩を抱かれるようにして、少しの柚子の絞り汁
と清澄な薄淡い数滴の醤油と共に、僕の口に収まった。

そろそろ赤い火星も、周りの星も見えてきた。



僕はまだ一人で庭に座っている。ロゼのワインもまだ少しある。

30年前、日本を出た時、僕はこんな夕べを想像していたのだろうか。


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 今年の6月3日に記した文章、
「ドイツに戻って - 人生の 2/3 あたり 」
とつながりのあることがらです。


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