南ドイツ、ニュールンベルグからクルマで20分ほど、中世からの城壁に
囲まれた小さな村「ラオフ」の旅籠屋「白い羊/ヴァイセス・ラム」の
宿にて。
この村に初めて来たのは25年以上前のこと、僕もようやく30代の初めで、
今は成人した三人の子供達もまだいなかった。
当時は仕事盛り、年に100日はドイツ国内のあちこちに泊まりがけの
出張をしていた頃だ。
昨日何処にいたのかも定かでないような忙しさだった。
よくやっていたと思う。
異国で生まれて初めての商売をしながら会社を起こし、自分を見失わい
ことに必死でいながら、既に人生の道に迷ってしまっていたことには、
当時はまだ気がついていなかったのだと思う。
今日は久し振りにこの村に来た。夜の10時ごろに到着すると、どこの
レストランも閉まっていて、外は秋の真っ暗な空。
昔からの知り合いの宿屋の大将を訪ねる。
もう彼の厨房も閉まっていたが、ひとまずビールだけを頼みしばらく
すると、『何を食べるかい?」と大将が尋ねてきて、今日作ったばかり
だという粗挽きの地元のハーブの効いたソーセージを焼いてくれた。
少し焼き過ぎのような表面の焦げ具合。やや甘めのザウワークラウトと
一緒に、地元のマスタードをつけて食べる。美味しかった。
ラオウの村一番の別嬪さんだった大将の奥さんも今日はお客さんの
テーブルで大分酔っ払って上機嫌だ。小さかった息子さんも30過ぎに
なったそうだ。常連さんの冗談も愛想よく、上手にあしらっている。
夏休みで実家に帰って来ているのだろう。
僕の地元の赤ワインへの質問にも実に親切に応えてくれる。
此処は世界の何処にでもある村の居酒屋、何万、何千の料理屋の風景だろう。
僕にとっては今も少し哀しく懐かしい、自分のまだ若かった人生の、
当時の自分には見えなかった岐路を思い出すような村だ。