聖徳太子研究の最前線

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2015年度の変格漢文研究プロジェクトの国際研究集会

2015年12月19日 | その他
 古代東アジアの変格漢文に関する科研費研究の国際研究集会が開催されました。これで四年目、回数としては五回目です。

12月19日  研究発表(駒澤大学会館246) 
1.共同研究の状況説明……………………………………………………………… 石井公成(駒澤大学教授)
2.「智雲『妙経文句私志記』『妙経文句私志諸品要義』の変則漢文」……… 石井公成(駒澤大学教授)
*コメンテーター:師 茂樹(花園大学教授)   
<昼食>
3.「声律から見た「古事記序」と「懷風藻序」 …………………………… 金文京(鶴見大学教授)
    *コメンテーター:崔植(韓国・東国大学准教授)
4.「『古事記』の接続詞「尓」の来源」…………………………………… 瀬間正之(上智大学教授) 
    *コメンテーター:崔植(韓国・東国大学准教授)
5.「『日本書紀』所引書の変格漢文――「百済三書」を中心に」……… 馬 駿(中国・対外経済貿易大学教授)
    *コメンテーター:鄭在永(韓国・韓国技術教育大学校教授)
6.「『日本書紀』の特殊な言語現象探源」………………………… 董志翹(中国・南京師範大学教授)
    *コメンテーター:鄭在永(韓国・韓国技術教育大学校教授)

以上です。

 仏教学である私の発表は、唐の石皷寺の僧侶と伝えられてきた智雲の著作は、中止形の「之」を使ったりするなど、古代韓国・古代日本の変格漢文の用法が見られるため、智雲は新羅僧だろうと推測したものです。智雲は、唐代天台宗の再興の祖とされる湛然(711-782)の弟子らしいため、8世紀終わりか9世紀初め頃の新羅僧ということになります。新羅の場合、初期の天台宗の資料は少ないため、仏教史の面でも語法の面でも注目すべき資料の発見となりました。

 中国文学の金文京さんの発表は、平仄の面から「古事記序」と「懷風藻序」を比較したものであって、『古事記』序の著者問題に新たな視点を加える発表でした。意外かつ有益な指摘が多く、漢文である古代の資料を読むには、漢文学の知識が必須であることを痛感させられたことでした。

 国語学の瀬間さんの発表は、昨年の崔{金公}植さんの発表を承け、『古事記』の接続詞「尓」の来源について検討したものです。「尓」の字体の違いによる意味や用法の違いが検討され、新羅の金石文との綿密な対比がなされました。一つの活字本だけに頼っておこなう議論の危うさがよく分かりました。また、鄭在永さんが今回、韓国から来日する飛行機の中で読んだ新聞で知ったという、発見されたばかりの新羅の金石文の紹介もされており、情報が早いと皆が感心したことでした。

 古代日本の変格漢文の専門家である馬 駿さんの発表は、『日本書紀』中の基礎資料としてきわめて重要な百済三書を検討し、正格漢文、変格漢文、仏格漢文(仏教漢文)の三つに分けて語法を検討したものです。百済三書は、意外にも仏教漢文の用法が多いなど、興味深い指摘がたくさんありました。これについては、仏教漢文に取り入れられた口語の問題も考慮すべきだなとする意見も出されました。ともかく、百済三書を、こうした視点から細かく検討したのは初めてでしょう。

 円仁の在唐日記における倭習の研究で知られ、唐代俗語研究の大家である董志翹さんは、古代朝鮮特有の表現として知られている「~月中」といった言い方は、漢代の中国にはかなり見られることを指摘しました。また、「噵」についても、中国の早い例を示し、「これこれは古代新羅特有の変格語法」などと簡単に決めつけられないことを明らかにされました。
 
 コメンテーターのうち、日本の仏教学・仏教史学の成果を考慮しつつ、古代から現代までの幅広い韓国仏教史研究をされ、新羅僧の変格漢文に関する論文もある崔植さんは、通訳も兼ね、有益なコメントをされていました。

 日本の訓点語学会に当たる韓国の口訣学会会長である鄭在永さんは、変格漢文の語法に関して実に豊富な知識を有しており、次から次へと用例をあげつつ、コメントをされていました。

 プロジェクトのメンバーである森博達さんが用事で出席できなかったのは残念でしたが、日本語、韓国語、中国語を駆使して時には通訳も担当してくださった金文京さんを筆頭に、会議場では諸国語が飛び交い、非常に熱心な討議がなされました。

 『日本書紀』を理解するには、こうした語法などの面に注意を払い、最新の金石文研究の成果を含め、百済・新羅、また中国の用例を考慮しながら読み進めていかねばならないことを痛感させられた密度の濃い7時間半のワークショップでした。
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