「辛さ」の漢字と和語

2022年07月12日 | 苦痛の価値論
2-5-5. 「辛さ」の漢字と和語   
 漢字の「辛」は、針のように鋭い刃物をかたどったものだといわれる。皮膚表面を切るのではなく、突き刺して深く傷つけ痛めつける鋭利な刃物である。刺して深刻なダメージを与える痛みに「辛」をいうのであろう。和語で「つらい」は、つらつらと連なる、苦の果てのない状態の形容であろうか。鞭打たれ続ける奴隷のように、苦が長々とつらつら(熟々)と持続することでの苦の極限の状態であろう。「辛」の漢字は激痛、痛みの強さをいい、和語の「つらさ」は、つらつらと連なる苦の長さをいうのであろう。
 つらつら、づらづらの連なりは、いくつものもののつながった横拡がりになろうが、縦方向での連続的な延長に「つる」がある。苦の長い連なりは、「つる」という連続的なつながりの方がイメージとしてはより近い感じがする。文法的には難がありそうだが、つらいは、「釣る」で見てもよいであろうか。釣って引き延ばしての辛さである。引きつるとは、引っ張られて強烈に緊張した感じであろう。「鶴」も「蔓」も「弦」も、長く伸びたものである。苦痛が長々と続く辛さである。苦から、痛みから逃げようとしているのを、内奥からこれを引きとめつづけて、敗けるな耐えろとぎりぎりの状態を営々と続ける。忍耐を貫き、耐える状態、つらいは、蔓のように長く伸びて、「つらぬき」とおすこととも言えようか。苦しみ・痛みを最後まで耐えて、つらぬくのが辛さであると。
 苦痛で「つらい」というのは、はじめからではなく、だいたいが、苦しい思いをかさねての最後の段階にいうことであろう。「辛」は、針などで深部を傷つける。痛みが多く表面的であるのとちがい、深部を刺し貫いての苦痛である。あるいは、苦をつらつらとつらねて、これを耐えつらぬくところに辛さは生じる。その長い苦しみを耐えるのは、意志をもってである。自然感性的にはその苦を放棄したり逃げたりするのに対して、その意志がこれを抑制して葛藤に耐える。苦の限界になり、敗北を目の前にしての悲しみさえも抱く。つらなる苦しみ悲しみに、つらさをつのらせつつ、おのれをつらぬき通すのである。
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