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ヤマハ発動機の社員が1983年に創設した人力飛行機のサークル、
チーム・エアロセプシーが今春、直線飛行距離の世界記録に挑戦するため
静岡県にある富士川滑空場で準備を進めていました。
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挑戦のために製作された「極楽トンボ」は昨年来テストや改良を重ね、
“エンジン”となる操縦者にも充分な訓練を積ませるなどの準備が整ったため、
飛行に適する天候の多いこの時期に挑戦を決めたもの。
『航空ファン』もそのタイミングで取材を決め、
この手の挑戦モノの大好きな私が担当することになりました。
最初に飛行が予定されたのは5月29日(あるいは30日)でしたが、
この週末は直前にキャンセルが決まり、
翌週末の6月5日(同6日)が新たな決行日となりました。
そこで4日夜、仕事を終えた私は最終の新幹線で新富士駅へ、
そこからタクシーで富士川河川敷にある滑空場へ向かいました。
なぜこんなスケジュールなのかと言うと、
風が凪ぎ状態となる午前4時くらいに離陸したいという事情からで、
この時間帯なら周囲も明るく安全性も高まります。
ちなみに土日を決行日としたのは、チーム全員がヤマハの社員で構成されているから。
国や大企業の事業ではなくサラリーマンの挑戦であったことも、
私が興味を持った理由の1つでした。
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【操縦者兼エンジンの山本和弘氏。】
彼らが挑むのは1988年に、アメリカのマサチューセッツ工科大学の
「ダイダロス」が作った115,11kmという記録。
これを4時間半の洋上飛行で破り、直線飛行記録(出発点と着水点を結んだ直線距離)
と滞空時間の世界記録を達成しようというのです。
操縦者はマウンテンバイクのプロライダーで、
MTB世界選手権の日本代表でもある山本和弘氏。
記録達成には脚力だけでなく操縦も大切な要素のため、
3年前からモーターグライダーなどに同乗して
高アスペクト比の航空機の操縦感覚を身につけたそうです。
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【大きな機体はトラック1台に納めて搬送する。】
私が駅(居酒屋)で時間を調整して現場に着いたのは午前1時。
すでに真っ暗な中、何人ものスタッフが最後の打ち合わせをしていました。
間もなく照明灯が点き、機体の組み立て作業が始まりました。
ほとんどの部位・部品は4tトラック1台に器用に積み込まれており、
本当にこれが全幅35.6m(ちなみに全長は9.5m、重量は40kg)という
人力機としては空前の大型機になるのかと観察していたところ、
見る見るうちに各部が接合され約1時間で全容が整いました。
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【胴体や主翼の桁はカーボンファイバー製。】
テストのため、これまでに何回も組み立て・分解・収納を
繰り返してきたわけですから、手馴れた作業なのも当然。
誰に指示されるでもなく全員が淡々と仕事をこなし、じつに鮮やかな手際でした。
やがて操縦者の山本氏も姿を見せ、ウォーミングアップを開始。
空が白々するころには、見物人の数も徐々に増えてきました。
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【垂直尾翼と水平尾翼の取り付け&プロペラの取り付け。後方はコックピット。】
午前4時、天気は良いのですが、しかし一向に風が治まりません。
強いというほどではないのですが、
とくに海上の風速が規定の2mを下回らないのです。
公式立会人として日本航空協会から派遣された2名の係官も
所定の配置につき(1名は海上で待機)、
操縦者への花束贈呈や飛行宣言書へのサインといったセレモニーも終了、
あとはGOサインを待つだけという状況でさらに1時間半ほど待ちましたが、
どうにも風が止みません。飛行場を使える時間も少なくなり、
午前6時、ついにリーダーの金城友樹氏はこの日の飛行中止を決断しました。
残念ですが、海上に不時着水した後は、操縦者の安全を第一に考えて
機体を放棄するため、チャンスは一度きりですから慎重にならざるを得ません。
直後、翌日曜日も気象条件は回復しないと判断され、
挑戦は1週間後に順延となりました。
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【朝焼けの中、全容を見せた「極楽トンボ」。】
結局、その後の6月中の週末は気象条件が整わずに順延が続き、
ついにチームは今シーズンの挑戦を断念、
6月29日には来春の再挑戦が発表されました。
1年後になった理由は、季節的に5月後半から梅雨のこの時期が穏やかな天候が多く、
飛びやすいからだそうです。とくに急ぐ必要もないのですから、
最適の条件下での再挑戦は正しい判断でしょう。
もちろん私も、また取材に行きたいと思っています。(三井)
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