現在発売中の『航空ファン』12月号の巻頭では、築城基地航空祭で待望のアクロ展示を
再開したブルーインパルスの密着取材を掲載していますが、こうした取材の際に
われわれ報道陣の対応を担当してくれるのが飛行隊の「広報幹部」といわれる人です。
通常、階級やさまざまな仕事の役割分担もあり、広報幹部は5番機操縦者が担当します。
現在の広報幹部は5番機のOR、井川“SETTER”広行3佐。ブルーの50周年イヤー、
2010年1月にテレビ放映された正月特番『さんタク』で、SMAPの木村拓哉さんを
同乗させてアクロをしたことでも有名な、ブルーを心から愛するパイロットのひとりです。
皆さんすでにご承知のとおり、東日本大震災が発生した3月11日、ブルーは
福岡県の博多駅前での展示飛行を翌日に控え、芦屋基地に展開していたため
部隊の主要メンバーと機材は難を逃れましたが、松島基地は津波で甚大な被害を受け、
ブルーも基地内の施設や機材をたくさん失い、いまも訓練は他基地に移動して
実施しています。
井川3佐もご家族は無事だったものの震災後、しばらくは実家に奥様とお子さんを帰し、
地域や基地の復興、復旧に努めていました。また津波によって基地に駐車してあった
愛車は流されて水田の真ん中で“5番機パイロットらしく”(本人談)
ひっくり返っていたそうです。震災を逃れたと思われがちですが、
ブルーメンバーにとっても震災は大きな痛手だったわけですね。
訓練についても震災の影響が出ており、5番機TRの乃万(のま)“JEANE”剛一3佐は
そのTR練成が予定よりかなり遅れ気味になってしまっています。
本来であれば5番機は8月ごろに乃万3佐がORの展示パイロットとなるはずでしたが、
震災後、訓練が再開されてからも芦屋での移動訓練では現ORパイロットの技量回復が
最優先となり、築城でのフィールドアクロ訓練でもそれは同様でした。
今後、築城でのフィールドアクロ訓練は折に触れ実施されるようなので、
徐々にTR練成も進んでいくと思われますが、本来3年勤務であるはずのブルーも、
この時期はどうしても在任期間が長くなってしまいそうです。そしてそれは
同じくTR訓練中の2番機、4番機も同様です。
ちなみに築城でのフィールドアクロも多くは芦屋からのリモートで実施されるため、
5番機、6番機の離陸課目はとくに訓練チャンスが少なくなってしまいます。
築城基地航空祭の数日前、久しぶりにローアングルキューバンを自身の操縦で
行なった乃万3佐は「チョー緊張しましたよ!」と言っていました。
築城の取材時には、ほかの広報関連対応も忙しい井川3佐に加え、乃万3佐も
『航空ファン』取材の対応を行なってくれました。
井川3佐は「ブルーインパルスがどういう組織なのか、表から見るだけでは
分からないことを雑誌などで紹介してもらえたらうれしい。いまの仕事は
ファンの皆さんと触れ合うこと、皆さんの前でフライトをすること、
取材の対応をすること、すべてが楽しくて有意義です」と言ってくれます。
また乃万3佐も「ブルーインパルスは広報部隊。航空自衛隊を代表して
皆さんに紹介してもらわなければいけない部隊です。そのためには取材の対応も、
先輩(井川3佐)の思いを継いで無理のない範囲で積極的にやっていきます」と
話してくれました。
井川3佐にも部隊を離れるまでまだしばらくはお世話になることになりますが、
今後は乃万3佐にもご協力いただくことがたくさんありそうです。
そして乃万3佐のヘルメットに描かれている「5」のポジションナンバーが
背面飛行の多い5番機の一人前のパイロット、OR資格取得を示す逆さまに
貼りかえられる日がいつになるのか、楽しみに待ちたいところです。
『航空ファン』、『世界の傑作機』など、
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