死者40人、負傷者192人を出した2009年の、中国の高速鉄道事故の舞台となった温州のニュースは、まだ日本人の記憶には消えていない事だろう。
高架から落下した車両をあっという間に埋めてしまい、事故究明のために再び掘り返して、事故検証を行ったと言うような報道もあったと思う。
日本人の多くは、新幹線が無事故操業を継続をしているのに比較し、中国の高速鉄道技術などは、たかが知れているのだと冷笑したものだ。
ところが中国レポートを行っている姫田小夏(ジャーナリスト])氏のコラムによると、なんと「中国の高速鉄道網は、日本の新幹線網が約2600kmにとどまるのに対し、中国の高速鉄道網はその5倍の1.3万km」と世界一だという。「中国の高速鉄道技術は日本に負けず劣らず、走行距離や規模からも技術、信頼性において遜色はない」と人民日報(人民網)が胸を張って伝えていると言うのだ。
鉄道網の建設は、新興国のインフラ整備としては、各国で採用が検討され、つい最近もメキシコ高速鉄道プロジェクトに、中国企業が落札したと言われている。
姫田氏によれば、日本の三菱重工や、フランスのアルストン、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンスも入札を検討していたが、時間的に間に合わなかった報道されている。
しかし、国家がらみの落札競争であるため、内実はいろいろな見方があるようだ。
どちらにしても、中国の鉄道メーカーの技術力は急速に力をつけ、コスト競争力も発揮し、日本メーカーには強敵の存在であるようで、安倍首相が海外訪問を繰り返し、時々鉄道建設に参画するとの話題も聞くが、中国の実力は日本人が思っている以上にあり、現実の技術力の差は少ないのかもしれない。
ただコンフォートやアメニティをより演出できる技術では、一日の長が日本メーカーには有るようであるが、新興国の購入余力を考えると、コストの安さがなんといっても強力な武器となる。
日本メーカーは、よりコスト競争力に力を注ぐ必要があると感じた次第だ。
「世界一の鉄道大国」を既成事実化する中国
日本は“安心安全”を売り込めるか
姫田小夏 [ジャーナリスト]
2014年11月7日
●メキシコ高速鉄道プロジェクトに
三菱重工が応札を「断念」?
話しは少し前の10月19日にさかのぼる。この日、10月19日、レコードチャイナは「メキシコの高速鉄道プロジェクト、中国企業が唯一の応札者に=日本企業は断念」を見出しに、中国語記事の日本語訳を掲載した。これをヤフーニュースやエキサイトニュースが取り上げ、記事は瞬時に伝播。すると、日本全国の鉄道ファンから失望の声が上がった。
「メキシコは安全性より価格を取ったのか」――。
記事はメキシコシティ~ケレタロ間高速鉄道国際競争入札の結果を伝えるもので、「日本の三菱重工、フランスのアルストン、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンスも入札を検討していたが、最終的には断念した」と報じられた。
自称“乗り鉄”の友人にこの話題を向けると、電話の向こうから「ああ、それねえ……」と苦しそうな声が返ってきた。ニュースは彼の聞き及ぶところでもあり、「中国が唯一の応札者になったということは、安さ以外に理由はない。日本が入札断念したのは、メキシコ側がすべて価格で決めるとわかっていたからだろう」と解説を加えてくれた。
一方、時期をほぼ同じくして、日本では10月20日、「海外交通・都市開発事業支援機構」が発足した。鉄道や高速道路などのインフラ輸出に官民連携で取り組もうと、いよいよ本腰が入ったのだ。だがそんな中で流れた「断念」というニュースは、決して幸先のいいものではない。世界の市場が最後には安全性ではなく価格を取るとしたら、高コストと言われる日本勢にとって勝負は見えているからだ。
本当に三菱重工は「安い中国」に負けてしまったのだろうか。ことの次第を三菱重工の広報に問い合わせると、意外な答えが返ってきた。
「メキシコで高速鉄道の計画があるということは知ってはいるが、当社としてフォローはしていません」
「断念」もへちまもない。記事は事実に反していたのだ。
他方、米メディアのモニターグローバルアウトルックの“落ち”だが、記事は次のように締めくくっている。
「メキシコ政府によれば、中国の入札は審査の過程にあり、条件に合わなければ、再び入札が行われるだろう」
記事は、中国が唯一の入札者だったとしても、それが契約を勝ち取ったことを意味するものではないということを伝えていた。
●「世界一の鉄道大国」の
自信強める中国
これら一連の中国側の誇張に満ちたメディア操作が追い風を形成したのだろうか。11月6日、日本経済新聞は最終的に中国がこのメキシコの案件を落札したことを伝えた。
いつのまにか「世界一の鉄道大国」と自称するようになった中国。今年下半期、中国の優勢ぶりを伝えるニュースが相次いだ。
10月13日、中国はモスクワ~カザンの高速鉄道事業について覚書を取り交わした。また同月、中国北車長春軌道客車(鉄道車両メーカー大手の「中国北車集団」の傘下企業)は、タイ国有鉄道と鉄道旅客列車115両の売買契約を締結、中国はASEAN地域の高速鉄道プロジェクトに一歩食い込んだ。また7月には中国の高速鉄道にとって初の海外進出案件となったトルコのアンカラ~イスタンブール間の第2期工事が完成した。
最近は、中国の二大鉄道車両メーカーの「中国南車集団」と「中国北車集団」の合併が話題になった。目下、最終調整に入ったと伝えられているが、共に時速380km/hの高速鉄道車両の生産技術を持つ2社の合併で、文字通り世界最大の車両メーカーが誕生することになる。
中国は今、東はブラジル、ペルー、西は欧州、南はタイ、インド、北はモンゴル、ロシアと全方位で高速鉄道外交を展開、その海外受注金額は今年だけでも1000億元を超えたと言われている。
日本の新幹線網は約2600kmにとどまるのに対し、中国の高速鉄道網はその5倍の1.3万kmと世界一だ。「中国の高速鉄道技術は日本に負けず劣らず、走行距離や規模からも技術、信頼性において遜色はない」(人民網)と胸を張る。さらに中国は、高速鉄道建設を中国-欧州、中国-アセアン、さらにその先の海上のシルクロードに結び付け、自国の経済的・政治的利益に直結させる狙いだ。その一方で、日本が狙う海外受注は国内産業の救済策にとどまるとし、戦略においても中国は日本に比べ優れていると自認する。むしろ価格競争が始まれば「日本に財政圧力が高まるのは必至だ」(同)とも釘を刺す。
●新興国が求めるのは価格か安全か――
日本の闘い方は曲がり角に?
筆者は今年5月、中国の高速鉄道に乗車した。その行先は奇しくも、死者40人、負傷者192人を出した2009年の高速鉄道事故の舞台となった温州だった。あれから5年、さすがに車内にはヘルメット着用の乗客はいなくなり、乗客の脳裡から事故の記憶がすっかり消えたかのような、ゆるい空気が漂っていた。
当然だが、筆者は事故もなく目的地に到着した。しかし、4時間近くも乗車したにもかかわらず“旅情”はまったく湧かず、無機質に人を運ぶだけの乗り物の中で、時計とにらめっこする息苦しい時間が続いた。
日本で新幹線が走り始めた1960年代、中国はまだ蒸気機関車が走っていた。その中国の猛スピードの躍進は注目に値するが、さすがに日本は一日の長がある。“乗り鉄”の友人の言葉を借りれば、日本の鉄道は日本企業の良心の結晶だ。言うまでもなく、新幹線の「50年間死亡事故ゼロ」という技術と安全性は、世界に誇れるものであり、しかも車両には乗客に対する「心地よさ」の追求が、細部にわたって作り込まれている。
間違いなく日本製は優れている。それは鉄道車両に限った話ではない。だが、例えば日本の家電が中国で「価格が高い」ことを理由に「一部の日本製ファン」への普及にとどまるように、多くの新興国でも「価格の高さ」を理由に市場参入できないのが常だった。
鉄道を含む新興国を中心とした世界のインフラ需要は、年間230兆円と言われている。日本は、現状約10兆円の受注を2020年までに30兆円に引き上げることを目標にしている。その新興国が求めるのは、安全性なのかそれとも価格なのか。日本が新興国で闘うとき、ついて回るのがこの価格という足かせだ。「中国とは勝負にならない」と言う諦めの声もある中で、日本企業の闘い方は大きな曲がり角に差し掛かっている。
(貼り付け終わり)
高架から落下した車両をあっという間に埋めてしまい、事故究明のために再び掘り返して、事故検証を行ったと言うような報道もあったと思う。
日本人の多くは、新幹線が無事故操業を継続をしているのに比較し、中国の高速鉄道技術などは、たかが知れているのだと冷笑したものだ。
ところが中国レポートを行っている姫田小夏(ジャーナリスト])氏のコラムによると、なんと「中国の高速鉄道網は、日本の新幹線網が約2600kmにとどまるのに対し、中国の高速鉄道網はその5倍の1.3万km」と世界一だという。「中国の高速鉄道技術は日本に負けず劣らず、走行距離や規模からも技術、信頼性において遜色はない」と人民日報(人民網)が胸を張って伝えていると言うのだ。
鉄道網の建設は、新興国のインフラ整備としては、各国で採用が検討され、つい最近もメキシコ高速鉄道プロジェクトに、中国企業が落札したと言われている。
姫田氏によれば、日本の三菱重工や、フランスのアルストン、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンスも入札を検討していたが、時間的に間に合わなかった報道されている。
しかし、国家がらみの落札競争であるため、内実はいろいろな見方があるようだ。
どちらにしても、中国の鉄道メーカーの技術力は急速に力をつけ、コスト競争力も発揮し、日本メーカーには強敵の存在であるようで、安倍首相が海外訪問を繰り返し、時々鉄道建設に参画するとの話題も聞くが、中国の実力は日本人が思っている以上にあり、現実の技術力の差は少ないのかもしれない。
ただコンフォートやアメニティをより演出できる技術では、一日の長が日本メーカーには有るようであるが、新興国の購入余力を考えると、コストの安さがなんといっても強力な武器となる。
日本メーカーは、よりコスト競争力に力を注ぐ必要があると感じた次第だ。
「世界一の鉄道大国」を既成事実化する中国
日本は“安心安全”を売り込めるか
姫田小夏 [ジャーナリスト]
2014年11月7日
●メキシコ高速鉄道プロジェクトに
三菱重工が応札を「断念」?
話しは少し前の10月19日にさかのぼる。この日、10月19日、レコードチャイナは「メキシコの高速鉄道プロジェクト、中国企業が唯一の応札者に=日本企業は断念」を見出しに、中国語記事の日本語訳を掲載した。これをヤフーニュースやエキサイトニュースが取り上げ、記事は瞬時に伝播。すると、日本全国の鉄道ファンから失望の声が上がった。
「メキシコは安全性より価格を取ったのか」――。
記事はメキシコシティ~ケレタロ間高速鉄道国際競争入札の結果を伝えるもので、「日本の三菱重工、フランスのアルストン、カナダのボンバルディア、ドイツのシーメンスも入札を検討していたが、最終的には断念した」と報じられた。
自称“乗り鉄”の友人にこの話題を向けると、電話の向こうから「ああ、それねえ……」と苦しそうな声が返ってきた。ニュースは彼の聞き及ぶところでもあり、「中国が唯一の応札者になったということは、安さ以外に理由はない。日本が入札断念したのは、メキシコ側がすべて価格で決めるとわかっていたからだろう」と解説を加えてくれた。
一方、時期をほぼ同じくして、日本では10月20日、「海外交通・都市開発事業支援機構」が発足した。鉄道や高速道路などのインフラ輸出に官民連携で取り組もうと、いよいよ本腰が入ったのだ。だがそんな中で流れた「断念」というニュースは、決して幸先のいいものではない。世界の市場が最後には安全性ではなく価格を取るとしたら、高コストと言われる日本勢にとって勝負は見えているからだ。
本当に三菱重工は「安い中国」に負けてしまったのだろうか。ことの次第を三菱重工の広報に問い合わせると、意外な答えが返ってきた。
「メキシコで高速鉄道の計画があるということは知ってはいるが、当社としてフォローはしていません」
「断念」もへちまもない。記事は事実に反していたのだ。
他方、米メディアのモニターグローバルアウトルックの“落ち”だが、記事は次のように締めくくっている。
「メキシコ政府によれば、中国の入札は審査の過程にあり、条件に合わなければ、再び入札が行われるだろう」
記事は、中国が唯一の入札者だったとしても、それが契約を勝ち取ったことを意味するものではないということを伝えていた。
●「世界一の鉄道大国」の
自信強める中国
これら一連の中国側の誇張に満ちたメディア操作が追い風を形成したのだろうか。11月6日、日本経済新聞は最終的に中国がこのメキシコの案件を落札したことを伝えた。
いつのまにか「世界一の鉄道大国」と自称するようになった中国。今年下半期、中国の優勢ぶりを伝えるニュースが相次いだ。
10月13日、中国はモスクワ~カザンの高速鉄道事業について覚書を取り交わした。また同月、中国北車長春軌道客車(鉄道車両メーカー大手の「中国北車集団」の傘下企業)は、タイ国有鉄道と鉄道旅客列車115両の売買契約を締結、中国はASEAN地域の高速鉄道プロジェクトに一歩食い込んだ。また7月には中国の高速鉄道にとって初の海外進出案件となったトルコのアンカラ~イスタンブール間の第2期工事が完成した。
最近は、中国の二大鉄道車両メーカーの「中国南車集団」と「中国北車集団」の合併が話題になった。目下、最終調整に入ったと伝えられているが、共に時速380km/hの高速鉄道車両の生産技術を持つ2社の合併で、文字通り世界最大の車両メーカーが誕生することになる。
中国は今、東はブラジル、ペルー、西は欧州、南はタイ、インド、北はモンゴル、ロシアと全方位で高速鉄道外交を展開、その海外受注金額は今年だけでも1000億元を超えたと言われている。
日本の新幹線網は約2600kmにとどまるのに対し、中国の高速鉄道網はその5倍の1.3万kmと世界一だ。「中国の高速鉄道技術は日本に負けず劣らず、走行距離や規模からも技術、信頼性において遜色はない」(人民網)と胸を張る。さらに中国は、高速鉄道建設を中国-欧州、中国-アセアン、さらにその先の海上のシルクロードに結び付け、自国の経済的・政治的利益に直結させる狙いだ。その一方で、日本が狙う海外受注は国内産業の救済策にとどまるとし、戦略においても中国は日本に比べ優れていると自認する。むしろ価格競争が始まれば「日本に財政圧力が高まるのは必至だ」(同)とも釘を刺す。
●新興国が求めるのは価格か安全か――
日本の闘い方は曲がり角に?
筆者は今年5月、中国の高速鉄道に乗車した。その行先は奇しくも、死者40人、負傷者192人を出した2009年の高速鉄道事故の舞台となった温州だった。あれから5年、さすがに車内にはヘルメット着用の乗客はいなくなり、乗客の脳裡から事故の記憶がすっかり消えたかのような、ゆるい空気が漂っていた。
当然だが、筆者は事故もなく目的地に到着した。しかし、4時間近くも乗車したにもかかわらず“旅情”はまったく湧かず、無機質に人を運ぶだけの乗り物の中で、時計とにらめっこする息苦しい時間が続いた。
日本で新幹線が走り始めた1960年代、中国はまだ蒸気機関車が走っていた。その中国の猛スピードの躍進は注目に値するが、さすがに日本は一日の長がある。“乗り鉄”の友人の言葉を借りれば、日本の鉄道は日本企業の良心の結晶だ。言うまでもなく、新幹線の「50年間死亡事故ゼロ」という技術と安全性は、世界に誇れるものであり、しかも車両には乗客に対する「心地よさ」の追求が、細部にわたって作り込まれている。
間違いなく日本製は優れている。それは鉄道車両に限った話ではない。だが、例えば日本の家電が中国で「価格が高い」ことを理由に「一部の日本製ファン」への普及にとどまるように、多くの新興国でも「価格の高さ」を理由に市場参入できないのが常だった。
鉄道を含む新興国を中心とした世界のインフラ需要は、年間230兆円と言われている。日本は、現状約10兆円の受注を2020年までに30兆円に引き上げることを目標にしている。その新興国が求めるのは、安全性なのかそれとも価格なのか。日本が新興国で闘うとき、ついて回るのがこの価格という足かせだ。「中国とは勝負にならない」と言う諦めの声もある中で、日本企業の闘い方は大きな曲がり角に差し掛かっている。
(貼り付け終わり)
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