数量経済学の野口悠紀雄氏が、内閣府などの発表した統計数字から、ものの見事に、今の日本経済の景気停滞は、人件費削減にあると喝破しておられる。
最近はさすがに、安倍政権も景気が浮揚しないのは、賃金の伸び悩みにあると、経団連などにボーナスの増加や最低賃金の見直しが必要だと言い出している。
経営者が企業の経営内容から見て、賃金アップなどを決断すべき事項であり、政府が横槍を入れるのはどうかと思うやり方で、筆者などは、まるで社会主義国家の政治だと思ってしまう。
しかし、野口氏が統計数字を分析して、今の企業業績が良くなっているのは、明らかに人件費の削減効果だと証明している。
日本のGDPの60%を占める消費支出と設備投資の伸び悩みだ。賃金が減少傾向にあるため、当然、消費支出は減少する。 国内消費が伸びないため、企業は設備投資は海外に求める。
このような状態が続く限り、日本経済の先行きに明るさが見いだせない。
特に多くのウエイトを占める中小企業では、非正規社員に頼る傾向が強く、人件費の削減で利益を出しているのが現状だ。
野口氏も、「企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。」
そして「 企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。 製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。」と提言している。
確かに、今のアメリカはアップルやGoogle,Facebookなど巨大に成長したIT産業や遺伝子関係の医薬品、種子産業などが次世代産業として力を持ち、米国の収益源になりつつある。
(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)
景気停滞の真の原因は企業の人件費削減
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
2015年11月26日
●企業業績は総じて好調なのに、なぜ賃金は伸びない?
企業利益が歴史的な高水準になっている。それにもかかわらず、経済が停滞しているのはなぜか?
その原因は、利益増加のメカニズムそのものの中にある。企業利益が増加するのは、人件費が抑圧されるからなのである。このため消費支出が伸び悩み、それが経済成長の足を引っ張っているのだ。
●連続マイナス成長の本当の問題は
消費支出が伸びないこと
2015年7~9月期のGDP(国内総生産)は、2期連続のマイナス成長になった。これをもたらした原因は、表面的には、設備投資と在庫投資の伸びがマイナスになったことだ。しかし、本当の問題は、消費が伸びないことだ。
消費支出は、GDPの中で最大のウエイトを占める。したがって、経済成長や景気動向に最も大きな影響与えるのは、消費支出である。
7~9月期で実質消費が増えたのは、原油価格の下落によって消費者物価の上昇率が低下したためである。消費者の選択というよりは、結果としてそうなったという側面が強い。消費者の選択が反映されるのは、名目消費である。また、景気実感により強い影響を与えるのも、名目の消費である。ところが、それが伸び悩んでいるのだ。
これまでは、実質消費が伸びないことが問題だった。例えば、13年頃には、実質消費はそれほど増えておらず、マイナス成長になることもあった。それが問題だったのである。しかし、この期間においては、(消費税増税の影響を除けば)名目消費は増加していた。ところが最近になって、名目消費そのものが増えないという問題が生じているのである。例えば、15年1~3月期には、実質では対前期比プラス成長だったが、名目ではマイナス成長になった。
消費がこのように伸び悩んでいる原因として考えられるのは、第1は、消費税増税前の駆け込み需要が消滅したことだ。その影響は確かにあるだろう。しかし、それだけとは考えられない。
図表1に見られるように、消費支出がGDPに占める比率は、14年1~3月期をピークとして傾向的に低下を続けているのである。家計最終消費支出がGDPに占める比率は、そのときに比べて3.2%ポイントも低下している。これはかなり大きな変化だ。現在の比率は、10年頃よりも低い。
◆図表1 家計最終消費支出がGDPに占める比率 (表示できないため省略)
●消費伸び悩みの原因は
企業の人件費削減
消費が伸び悩むのは、雇用者所得が伸びないからである。
図表2に示すのは、GDP統計算出されている雇用者報酬の動向だ(名目季節調整値)。2014年7~9月期から15年1~3月期の間に、1.2%ポイントも落ち込んでいる。11、12年頃の水準に比べても、かなり低い。
これは消費税の影響でも円安の影響でもない。賃金収入が減ったからだ(なお、分配状況を正確に見るには国民経済計算の分配勘定が必要であるが、現在のところ13年度までしか分からない)。
◆図表2 雇用者報酬がGDPに占める比率 (表示できないため省略)
企業は、人件費を減らしているのである。
この状況をもう少し詳しく見るために、法人企業統計によって、営業利益と人件費の対売上高比率を示すと、図表3、4のとおりである(全産業、全規模)。
13年頃から営業利益の対売上高比率が上昇する一方で、人件費の対売上高比率が低下していることが分かる。したがって、人件費を抑えたために利益が増加したと推測することができる。
◆図表3 営業利益の対売上高比率(全産業、全規模) (表示できないため省略)
◆図表4 人件費の対売上高比率(全産業、全規模) (表示できないため省略)
この点を確かめるため、11、12年度平均と14年度を比較すると、図表5のとおりだ。
売上高はこの間に約1.5%増加している。売上原価も、それに合わせて、約1.5%増加している。しかし、人件費は3.9%ほど減少しているのである。
もし、人件費が売上増加率と同率で伸びたのなら、14年度において175.6兆円となったはずだ。しかし、実際には166.3兆円なので、差は9.3兆円だ。これは利益増の72.7%に当たる。つまり、企業の利益増の約4分の3は、人件費の圧迫によって実現されたと考えることができる。
◆図表5 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(全産業、全規模) (表示できないため省略)
●輸出企業は円安で売り上げ増
一方人件費は抑制で利益が増加
先に見たように、営業利益の対売上高比率は上昇しているが、人件費の対売上高比率は低下している。
こうなる原因は2つある。
第1は輸出の増加だ。これは主として製造業の大企業(資本金10億円以上)において生じている現象である。これは、図表6に示されている。
2011、12年度平均と14年度を比べると、売上高が2.1%増加したにもかかわらず、売上原価はほとんど不変に留まった。人件費は、減少はしているものの、さほど大きな変化ではない。
◆図表6 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(製造業、10億円以上) (表示できないため省略)
この場合の売上高増は、輸出売上の円評価額が円安によって増加したという計算上のものである。そのため生産は変化しておらず、原価が変わらないのだ。そして、売上増加額5.2兆円が、ほぼそのまま利益増加額になっている。
売上高の増加率は2.2%にすぎないのだが、増加分のすべてが利益増になり、しかも、売上高営業利益率が11、12年度平均で2.9%という低い値なので、利益が75.3%も増加するのである。
この結果、売上高に対する人件費の比率は、11年4~6月には11.9%だったが、14年11~12月には9.9%に低下した。
●中小の製造業や非製造業では
非正規労働者の増加により人件費削減
人件費の対売上高比率が低下する第2の理由は、非正規労働者の増加等による人件費の削減である。これは非製造業や、大企業以外の製造業で生じている。
非製造業(全規模)の場合について示すと、図表7のとおりだ。
この場合、売上原価の増加率は3.5%であり、売上高の増加率2.6%より若干高めの値になっている。売上高の中に輸入は含まれておらず、他方、円安によって原材料価格が上昇したために、売上原価が増加しているのだ。
◆図表7 売上高、売上原価、営業利益、人件費の変化(非製造業、全規模) (表示できないため省略)
ところが、人件費が5.0兆円、率では4.2%も削減されたため、利益が増えた。人件費削減額は、利益増加額7.2兆円の68.3%を占める。
この場合には、人件費削減が利益を増加させていることになる。
企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。
●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要
以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。
図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。
これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。
第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。
政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。
しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。
企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。
●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要
以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。
図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。
これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。
第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。
政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。
しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。
企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。
(貼り付け終わり)
最近はさすがに、安倍政権も景気が浮揚しないのは、賃金の伸び悩みにあると、経団連などにボーナスの増加や最低賃金の見直しが必要だと言い出している。
経営者が企業の経営内容から見て、賃金アップなどを決断すべき事項であり、政府が横槍を入れるのはどうかと思うやり方で、筆者などは、まるで社会主義国家の政治だと思ってしまう。
しかし、野口氏が統計数字を分析して、今の企業業績が良くなっているのは、明らかに人件費の削減効果だと証明している。
日本のGDPの60%を占める消費支出と設備投資の伸び悩みだ。賃金が減少傾向にあるため、当然、消費支出は減少する。 国内消費が伸びないため、企業は設備投資は海外に求める。
このような状態が続く限り、日本経済の先行きに明るさが見いだせない。
特に多くのウエイトを占める中小企業では、非正規社員に頼る傾向が強く、人件費の削減で利益を出しているのが現状だ。
野口氏も、「企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。」
そして「 企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。 製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。」と提言している。
確かに、今のアメリカはアップルやGoogle,Facebookなど巨大に成長したIT産業や遺伝子関係の医薬品、種子産業などが次世代産業として力を持ち、米国の収益源になりつつある。
(ダイヤモンド・オンラインより貼り付け)
景気停滞の真の原因は企業の人件費削減
野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
2015年11月26日
●企業業績は総じて好調なのに、なぜ賃金は伸びない?
企業利益が歴史的な高水準になっている。それにもかかわらず、経済が停滞しているのはなぜか?
その原因は、利益増加のメカニズムそのものの中にある。企業利益が増加するのは、人件費が抑圧されるからなのである。このため消費支出が伸び悩み、それが経済成長の足を引っ張っているのだ。
●連続マイナス成長の本当の問題は
消費支出が伸びないこと
2015年7~9月期のGDP(国内総生産)は、2期連続のマイナス成長になった。これをもたらした原因は、表面的には、設備投資と在庫投資の伸びがマイナスになったことだ。しかし、本当の問題は、消費が伸びないことだ。
消費支出は、GDPの中で最大のウエイトを占める。したがって、経済成長や景気動向に最も大きな影響与えるのは、消費支出である。
7~9月期で実質消費が増えたのは、原油価格の下落によって消費者物価の上昇率が低下したためである。消費者の選択というよりは、結果としてそうなったという側面が強い。消費者の選択が反映されるのは、名目消費である。また、景気実感により強い影響を与えるのも、名目の消費である。ところが、それが伸び悩んでいるのだ。
これまでは、実質消費が伸びないことが問題だった。例えば、13年頃には、実質消費はそれほど増えておらず、マイナス成長になることもあった。それが問題だったのである。しかし、この期間においては、(消費税増税の影響を除けば)名目消費は増加していた。ところが最近になって、名目消費そのものが増えないという問題が生じているのである。例えば、15年1~3月期には、実質では対前期比プラス成長だったが、名目ではマイナス成長になった。
消費がこのように伸び悩んでいる原因として考えられるのは、第1は、消費税増税前の駆け込み需要が消滅したことだ。その影響は確かにあるだろう。しかし、それだけとは考えられない。
図表1に見られるように、消費支出がGDPに占める比率は、14年1~3月期をピークとして傾向的に低下を続けているのである。家計最終消費支出がGDPに占める比率は、そのときに比べて3.2%ポイントも低下している。これはかなり大きな変化だ。現在の比率は、10年頃よりも低い。
◆図表1 家計最終消費支出がGDPに占める比率 (表示できないため省略)
●消費伸び悩みの原因は
企業の人件費削減
消費が伸び悩むのは、雇用者所得が伸びないからである。
図表2に示すのは、GDP統計算出されている雇用者報酬の動向だ(名目季節調整値)。2014年7~9月期から15年1~3月期の間に、1.2%ポイントも落ち込んでいる。11、12年頃の水準に比べても、かなり低い。
これは消費税の影響でも円安の影響でもない。賃金収入が減ったからだ(なお、分配状況を正確に見るには国民経済計算の分配勘定が必要であるが、現在のところ13年度までしか分からない)。
◆図表2 雇用者報酬がGDPに占める比率 (表示できないため省略)
企業は、人件費を減らしているのである。
この状況をもう少し詳しく見るために、法人企業統計によって、営業利益と人件費の対売上高比率を示すと、図表3、4のとおりである(全産業、全規模)。
13年頃から営業利益の対売上高比率が上昇する一方で、人件費の対売上高比率が低下していることが分かる。したがって、人件費を抑えたために利益が増加したと推測することができる。
◆図表3 営業利益の対売上高比率(全産業、全規模) (表示できないため省略)
◆図表4 人件費の対売上高比率(全産業、全規模) (表示できないため省略)
この点を確かめるため、11、12年度平均と14年度を比較すると、図表5のとおりだ。
売上高はこの間に約1.5%増加している。売上原価も、それに合わせて、約1.5%増加している。しかし、人件費は3.9%ほど減少しているのである。
もし、人件費が売上増加率と同率で伸びたのなら、14年度において175.6兆円となったはずだ。しかし、実際には166.3兆円なので、差は9.3兆円だ。これは利益増の72.7%に当たる。つまり、企業の利益増の約4分の3は、人件費の圧迫によって実現されたと考えることができる。
◆図表5 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(全産業、全規模) (表示できないため省略)
●輸出企業は円安で売り上げ増
一方人件費は抑制で利益が増加
先に見たように、営業利益の対売上高比率は上昇しているが、人件費の対売上高比率は低下している。
こうなる原因は2つある。
第1は輸出の増加だ。これは主として製造業の大企業(資本金10億円以上)において生じている現象である。これは、図表6に示されている。
2011、12年度平均と14年度を比べると、売上高が2.1%増加したにもかかわらず、売上原価はほとんど不変に留まった。人件費は、減少はしているものの、さほど大きな変化ではない。
◆図表6 売上高、原価、営業利益、人件費の変化(製造業、10億円以上) (表示できないため省略)
この場合の売上高増は、輸出売上の円評価額が円安によって増加したという計算上のものである。そのため生産は変化しておらず、原価が変わらないのだ。そして、売上増加額5.2兆円が、ほぼそのまま利益増加額になっている。
売上高の増加率は2.2%にすぎないのだが、増加分のすべてが利益増になり、しかも、売上高営業利益率が11、12年度平均で2.9%という低い値なので、利益が75.3%も増加するのである。
この結果、売上高に対する人件費の比率は、11年4~6月には11.9%だったが、14年11~12月には9.9%に低下した。
●中小の製造業や非製造業では
非正規労働者の増加により人件費削減
人件費の対売上高比率が低下する第2の理由は、非正規労働者の増加等による人件費の削減である。これは非製造業や、大企業以外の製造業で生じている。
非製造業(全規模)の場合について示すと、図表7のとおりだ。
この場合、売上原価の増加率は3.5%であり、売上高の増加率2.6%より若干高めの値になっている。売上高の中に輸入は含まれておらず、他方、円安によって原材料価格が上昇したために、売上原価が増加しているのだ。
◆図表7 売上高、売上原価、営業利益、人件費の変化(非製造業、全規模) (表示できないため省略)
ところが、人件費が5.0兆円、率では4.2%も削減されたため、利益が増えた。人件費削減額は、利益増加額7.2兆円の68.3%を占める。
この場合には、人件費削減が利益を増加させていることになる。
企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。
●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要
以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。
図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。
これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。
第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。
政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。
しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。
企業が人件費を削減するのは、賃金コストを減らすためである。そして、こうした事態に追い込まれるのは、日本の産業の競争力が低下しているからである。これが、消費を停滞させて、経済を停滞させ、それがさらに賃金引き下げをもたらす。
こうして、日本経済は所得減少の悪循環に陥っているわけだ。これを消費税のせいにしたり、中国経済減速化のせいにしたりするのでなく、日本経済が内包する問題であることを認識すべきだ。
●企業の合理的判断に介入する政策は無意味
円安を止め、生産性を高めることが必要
以上で見たような状況に、どのように対処すべきか。
図表6で見た製造業大企業の場合の変化は、円安によるものである。したがって円安を止めれば止まる。
これに対して、図表7で見た変化は、企業の利益最大化行動の結果であり、その意味で合理的な判断に基づくものである。これを変えるには、経済全体の条件を変えるしかない。しかし、実際に政府が行なおうとしているのは、次のようなものだ。
第1は、春闘などに介入して、名目賃金を上げようとしている。しかし、これは民間企業の決定に介入するという意味で問題であるばかりでなく、無意味でもある。なぜなら、春闘で賃金が決まる企業は全体のごく一部でしかないからだ。
政府が行なおうとしている第2の政策方向は、企業の海外移転によって国内の雇用が減少するのを望ましくないと考え、円安政策をとることだ。
しかし、海外移転も、企業の合理的な判断に基づくものである。行き過ぎた円安によって仮に国内回帰が生じたとしても、リーマンショック前にエレクトロニクス産業で起きたような国内での過剰投資が生じ、将来に重荷を残すことになるだろう。
企業の海外移転による雇用減への対処は、国内に生産性の高い新しい産業を誕生させることで実現すべきだ。製造業が海外に移転してしまっても国内の産業が成長することは、アメリカの経験が示すとおりである。
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