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パレスティナ自治の終焉と展望

2023-10-09 | 時評
パレスティナ・ガザ地区を支配するイスラーム武装勢力ハマースによる7日の大規模なイスラエル軍事攻撃は、パレスティナ自治の創始に至った1993年オスロ合意からちょうど30年の節目に自治を終わらせ、なし崩しの形ですでに形骸化していた同合意を事実上失効させる最終的な契機になると言えそうである。
 
今般攻撃によりイスラエル建国史上最多という民間死者を出したことで、イスラエル側が倍返しの報復的軍事行動に出ることは確実で、また元凶であるハマースを完全に解体するにはガザ地区の軍事占領も必要であろうことから、二つの自治区のうち少なくともガザ地区に関しては自治は終焉することになるだろう。
 
このような結果は、およそ抵抗運動・革命運動における強硬派がはまる逆説的な陥穽とも言える。相手に打撃を加える軍事攻撃のような強硬手段はかえって相手方の結束を促し、強烈な反撃の機会を与えるからである。その点では、アル‐カーイダによる9.11事件後、米国の報復作戦によりアル‐カーイダが事実上壊滅した状況と似ている。まさに墓穴を掘るとはこのことである。
 
実際、イスラエルではネタニヤフ首相の汚職疑惑や汚職裁判を議会が帳消しにすることをも可能にする司法改悪策を含む改憲策動に対して民衆の抗議活動が激化していたところ、今回の攻撃でこうした抗議活動は吹き飛び、かえってネタニヤフ政権への挙国一致の支持を強め、今般の軍事攻撃を抑止できなかったことへの批判は提起されたとしても、対ハマース壊滅作戦への国民的支持も確実である。
 
現ネタニヤフ政権はユダヤ教超保守派も参加する保守・極右連立政権であり、ガザ封鎖措置の継続やもう一つの自治区であるヨルダン河西岸地区へのユダヤ入植地拡大政策などにより、パレスティナ自治を形骸化させてきた元凶でもある。そのことが今回のハマースによる攻撃の背景でもあるが、ハマースの強硬策によりかえってこのような問題政権の支持基盤を強化することになる。
 
さしあたり穏健派ファタハが支配するヨルダン河西岸地区の自治は存続するが、こちらもユダヤ人入植地拡大政策による浸食によって風前の灯であるので、すでに形骸しているパレスティナ自治は両地区を通じてほぼ終焉に向かうと見てよい。その結果、イスラエルとハマース及びその周辺支援勢力との戦争が激化するかもしれない。
 
このような結果はイスラエル・パレスティナ双方での宗教反動勢力の台頭と激突によるものであるが、そもそもはイスラエル国内の狭い地区にパレスティナ人を囲い込むという隔離政策(アパルトヘイト)を内容とするオスロ合意に内包されていた無理が30年を経て明確に表出されたものであり、このような合意はノーベル平和賞に値するようなものではなかったのである。
 
今後の最も暗い展望は、今般軍事攻撃の背後にあってハマースを支援していたともされるイランに対してイスラエルが矛先を向けることで戦線が拡大し、1970年代以来の「第五次中東戦争」に発展することである。ただし、従前の中東戦争当時とは異なり、周辺アラブ諸国はイスラエルの存在を容認する方向にあることから、戦争の性格や規模は異なるものとなるだろう。
 
明るい展望は、双方に痛みをもたらす今般事変を機に、イスラエルとパレスティナの民衆同士の連携が進み、両民族が一つの領域を共有し合うような革新的な統治のアイデアが誕生することである。その点、筆者は以前、イスラエルとパレスティナの両民族が一つの領域を共有する体制(仮称:南部レバント合同領域圏)を未来的に予示したことがある(拙稿)。
 
砲弾が飛び交う現時点では空想として一笑に付されかねない私案であろうが、あらゆる戦争の最大契機となる排他的な主権国家という観念から自由になれば、こうした領域共有論も空想ではなくなるのである。さすれば、排他的主権国家内に隔離的自治区を設ける策のほうがよほど空論であったことが理解されるだろう。
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