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比較:影の警察国家(連載第48回)

2021-09-26 | 〆比較:影の警察国家

Ⅳ ドイツ―分権型二元警察国家

[概観]

 ドイツ(以下、特に断りない限り、1990年以後の統一ドイツを指す)は、13の州と3つの州級大都市で構成された連邦国家であるため、警察制度も州警察を基本に、連邦は限定的な警察機関を擁する分権型の構制を採る。
 連邦制という点ではアメリカと類似するが、基本的に連邦と州の簡素な二元的分権であり、かつアメリカの連邦警察集合体のように複雑に林立し、かつ肥大化した連邦警察機関網は存在しない。
 ただし、一部の自治体は交通違反その他の軽微な法規違反を取り締まる小規模な自治体警察を擁する場合があり、厳密に見れば、連邦‐州‐自治体の三元的な分権体制とみなすことも可能である。
 総体として、ドイツにおける影の警察国家化は表面上さほど進展していないように見えるが、その背景として、第二次大戦前における旧ナチスドイツのファッショ警察国家体制、さらに戦後の東西分断時代における旧東ドイツの社会主義警察国家体制という二つの代表的な旧警察国家体制に対する反省が根深いことが挙げられるだろう。
 とりわけ連邦全土を管轄する中央集権的な連邦警察を創設することには長年消極的であったが、2005年に至り、連邦国境警備隊が連邦警察(Bundespolizei:BPOL)と改称された。これは、従来の国境警備隊が国境警備にとどまらず、連邦における総合的な警備警察及び海外派遣警察としても機能してきた実態に鑑み、名称変更に踏み切ったもので、任務・権限の増強は伴っていない。
 従って、新連邦警察は刑事警察及び公安警察としての任務・権限は有しておらず、警備警察に純化された警察機関であって、フランスの国家治安軍のように警察としての全権を備えた完結的な集権型警察組織ではない。
 その他、ドイツ警察の特色として、州警察とは別途、各州に重大犯罪捜査に当たる州刑事庁(Landeskriminalamt:LKA)が設置されていることである。言わばアメリカのFBIに相当するような組織であるが、FBIのような連邦機関ではなく、各州ごとに分権化されつつ、連邦に中央調整機関として連邦刑事庁(Bundeskriminalamt:BKA)が置かれる形で、ここでも二元的構制が貫徹されている。
 また、政治警察に相当する機関に関しては、連邦と州に国内保安機関としての憲法擁護庁(Verfassungsschutz)が設置されているが、犯罪捜査権を持たない機能的政治警察であり、政治的な犯罪の捜査は、州警察や上掲BKAの国家保安担当部署が行う。


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