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近代革命の社会力学(連載第301回)

2021-09-24 | 〆近代革命の社会力学

四十三 アフリカ諸国革命Ⅱ

(4)ダオメ=ベナン革命
 西アフリカのベナンは、かつて大西洋奴隷貿易で奴隷供給国として栄えたダオメ(ダホメ)王国がフランスの軍門にくだり、フランス領西アフリカの一部となった後、1960年に独立を果たしたダオメ共和国が1970年代の革命後に国名変更したものである。
 革命以前のダオメ共和国では、北部と南部に分かれた三つの主要部族がそれぞれの指導者の元で政党を結成し、三つ巴の抗争を繰り広げる典型的な部族主義が近代的な政党政治の形態をまとって続いていた。初代大統領ユベール・マガは北部の部族出身であったが、三党鼎立状態を止揚することはできないまま、63年の軍事クーデターで失権した。
 このクーデターは南部の部族出身のクリストフ・ソグロ軍参謀総長が主導したもので、いったんは政権を同じ南部の別部族出身のスル・ミガン・アピティに譲った。言わば、南部のクーデターであったわけであるが、当然にも北部が反発し、政権は行き詰まったため、ソグロが再びクーデターを起こし、今度は自ら大統領に就任するが、成功せず、67年に若手将校のクーデターで失権した。
 その後、再度のクーデターを経て、1970年には如上のマガとアピティに南部出身のジャスティン・アホマデグベを加えた三頭政治という窮余の一策が打たれたが、これも失敗する中、72年に中堅将校の主導するクーデターで、三頭体制も打倒された。
 このクーデターを指揮したマチュ―・ケレク少佐は上掲67年クーデターに参加して台頭してきた中堅将校であったが、本来は北部出身で、マガ初代大統領の引きで昇進したマガ派と見られていた。しかし、ケレクはクーデター後、マガを含む三指導者を拘束し、従前のダオメ支配体制を解体した。
 ただ、当初ケレクの政治路線は曖昧で、外来のイデオロギーには依存しないと言明していたが、1974年になって、マルクス‐レーニン主義の採択を宣言した。この宣言は唐突で、外来イデオロギーを排するとした以前の言明にも反していたが、ケレクの後年のさらなる変節を見ると、信念というより、当時アフリカでも風靡していたマルクス‐レーニン主義が権力維持にとって有利と見た日和見主義による選択であったと見られる。
 ともあれ、ケレクは新たな宣言に沿って、1975年には国名をベナン人民共和国と改め、マルクス‐レーニン主義を綱領とするベナン人民革命党による一党支配体制を樹立したのである。こうして、1972年クーデターは社会主義革命へと進展することになった。
 ちなみに、新国名のベナンとは、上掲のダオメ王国が台頭する以前、現在のナイジェリア領内で奴隷供給国家として栄えたベニン王国にちなんでいるが、この国はダオメとは歴史的に無関係であり、単に便宜的な借用にすぎない。こうした国名選択にもケレクの日和見主義がにじんでいる。
 ともあれ、この革命により従前の地域的な部族対立構造は強制終了させられ、以後は1991年に至るまで、実態としてはケレクの個人崇拝的な独裁体制が継続していくので、ある種の政治的安定は得られたことになる。
 こうして、新生ベナンは東側陣営に身を置くマルクス‐レーニン主義国家として再出発し、銀行や石油を含む産業の国有化など定番政策が打ち出されるが、80年代に入ると、経済的な失敗が明らかとなった。すると、ケレクは社会主義政策を修正し、市場経済化にシフトし、89年にはIMFの構造調整も受け入れた。
 さらに、90年代に入って一党支配体制に反対する民主化運動が高揚すると、あっさり複数政党制の復活を受け入れた。ただし、これは一党支配体制時代における数々の人権侵害に対する免責を得るための取引であったと見られる。
 そうした動機はともあれ、1991年には直接投票による大統領選挙が実施された結果、現職として立候補したケレクはソグロ元大統領の甥ニセフォール・ソグロに敗北し、下野した。
 ところが、ケレクは1996年の大統領選挙に再び立候補しソグロを破って当選、民選大統領として二期十年を全うし、ベナンの民主的な安定化を見届けたのであった。このように、第二次アフリカ諸国革命におけるマルクス‐レーニン主義の革命指導者が民主化後に民選大統領として返り咲いて成功した例は他になく、ここにもケレクの日和見主義が見て取れる。
 ただ、見方を変えれば高度に技巧的なプラグマティズムとも言えるケレクの日和見主義の恩恵により、1972年革命以後のベナンは、政情不安にさいなまれるサハラ以南アフリカ諸国で相対的に最も安定した民主化を達成できたと言えなくもないだろう。


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