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比較:影の警察国家(連載第47回)

2021-09-12 | 〆比較:影の警察国家

Ⅲ フランス―中央集権型警察国家

2:市警察と郷土巡視隊

 見てきたように、中央集権性が極めて強いフランスの警察制度であるが、近年は市長が管轄する自治体警察としての市警察(Police Municipale)が増加し、こうした市警察を持つ自治体は3000以上に達し、所属する警察官総数も2万人を超えている状況にある。
 なお、首都パリ市の場合は国家警察の部門としてのパリ警視庁が存在するため、市独自の警察は持ってこなかったが、2021年に、市警察官と同等の権限を持つ保安監視官3000人以上を擁する抑止・保安・警備局(Direction de la Prévention, de la Sécurité et de la Protection:DPSP) が事実上の市警察として創設された。
 こうした市警察は市長の監督下にあるものの、米英の自治体警察のように、完全な権限を備えた自己完結的な警察組織ではなく、国家警察や国家治安軍の管轄権を損なうことなく、防犯や公序良俗、公共安全のために職務を遂行することがその中心任務であり、実際の活動においても、国家警察や国家治安軍と連携することが多く、全体として補完的な警察組織と言える。
 そのため、市警察は非武装警察であり、市警察官は銃器を携行せず、特定の状況下や夜間などに限り、市長の要請に基づき県の許可により武装することが多いが、近年は治安管理の強化策として、日常的に銃器を携行する市警察も増加し、市警察の武装警察化も進んできている。
 一方、農村部では、市長の管轄下に郷土巡視隊(garde champêtre)が組織されている場合もある。この制度の歴史は古く、フランス革命時代の1791年から1958年まで、農村では設置が義務付けられ、言わば農村警察としての役割を果たしてきた。
 その任務は、農村部での治安維持全般であるが、特に農村部特有の森林監督や密猟監視が重要であり、そのため、市警察よりも広範囲な武装が認められた武装警察としての性格を持つ。
 フランスが長く農業国であった時代は郷土巡視隊が実質的な自治体警察として機能してきたが、1960年代以降、都市化の進展により減少していき、要員数も全国で千人未満まで減少している。
 こうした市警察及び郷土巡視隊に関しては、2014年にこれらを新たな地方警察組織に統合・再編する立法提案もなされており、将来的には統廃合される可能性があるが、そうなると、二つの国家警察組織に加え、地方警察という二段構えの警察国家化が進展する可能性もあるだろう。


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