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近代革命の社会力学(連載第456回)

2022-07-11 | 〆近代革命の社会力学

六十六 アラブ連続民衆革命:アラブの春

(1)概観
 アラブ連続民衆革命は、2010年末に始まる北アフリカからアラビア半島に及ぶ広範囲なアラブ諸国で連続したドミノ的な民衆革命であるが、実際に革命と呼び得る実態を備える事象が発生したのは、チュニジア、エジプト、イエメン、リビア、シリア(未遂)の5か国にとどまる。
 これらの革命中核国を見ると、端緒となったチュニジアを含め、北アフリカ諸国が4か国を占めるため、「北アフリカ革命」としての性格も強い。
 これら5か国ではいずれも1950年代から60年代にかけての革命によって社会主義体制が樹立され、濃淡の差はあれ、冷戦時代はソ連圏に組み込まれていた諸国でありながら、いずれもソ連邦解体後の世界を生き延びていた。
 しかし、その生き延びは世襲を含む長期体制の強権によって担保されていたものであり、2010年代になると、人権抑圧や政治腐敗、経済失政に対する鬱積した国民的不満が革命的に表出されてきたのである。
 そうした意味で、「アラブの春」と総称された2010年代の連続革命は、およそ20年遅れでの中・東欧脱社会主義革命のアラブ版とも言えるが、その余波は、程度差はあれ、湾岸の専制君主制諸国や同様の体制が続くヨルダンやモロッコなどの君主制国家にも及び、一定の体制内改革を導いたため、必ずしも脱社会主義革命としてはくくれず、より広く民主化革命として把握される。
 とはいえ、革命の成否という点からみると、「アラブの春」の結果は芳しいものではなく、唯一成功例と言えるのは端緒となったチュニジアのみで(ただし、最近揺り戻しの動きあり)、エジプトは反革命反動、シリアやリビア、イエメンは凄惨な長期内戦に突入するなど、総じて未遂や失敗に終わっている。
 その結果、従来「独裁の中の平和」が保持されてきた中東アラブ地域にいくつもの内戦が並行する中、アメリカ、ロシアに地域の覇権を争うイランとサウジアラビアの利害が交錯し、従来からのイスラエルを軸とする対立紛争に付加された新たな中東紛争の動因を作り出す結果となった。
 なお、地方的な革命の独自の成功例として、シリア未遂革命から派生した同国北部ロジャヴァ地方における少数民族クルド人主体の革命は実験的な革命的自治体制を生み出したが、この革命は理念的にも連続革命を超えた独自のものがあるため、独立した派生章を設けて扱うことにしたい。

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