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持続可能的計画経済論(連載第29回)

2018-07-23 | 〆持続可能的計画経済論

第7章 計画経済と消費生活

(1)生産様式と消費様式
 マルクスは、『経済学批判要綱』の序説で、「消費は新しい生産のための欲求を作り出し、かくて生産の前提である」とし、「消費の仕方もまた、客体的にだけでなく、主体的にも、生産によって生産される」と指摘していた。つまりは、消費様式も生産様式いかんにかかるということである。
 そのくだりで、マルクスは料理された肉をフォークやナイフで食して充たされる空腹と、手や爪、歯で貪り食って充たされる空腹とを対比した興味深い例を挙げている。しかし、この事例はやや的確性を欠いている。というのも、前者はどのような形態かは別にしても肉や食器が生産品であることを前提としているが、後者は生産活動をしない狩猟民の消費行動を示唆しているからである。
 前者の事例でも、肉や食器が自給自足されている場合と商品として量産されている場合とでは、消費様式に大きな違いがある。前者は前資本主義的な農業社会の消費様式に相当するが、後者は商品生産社会の消費様式に相当する。
 今日の資本主義的生産様式にあっては、周知のとおり、商品として量産された物・サービスを貨幣と交換して取得・消費するという大量生産‐大量消費様式が定着しているから、人々は肉も食器も通常は量産品を購入している。
 これに対して、商品生産が廃される共産主義的生産様式では、肉や食器も商品として生産されるのではなく、非商品として、無償で供給されることになる。
 ここで生産品の取得方法についてみると、資本主義市場経済では、生産品は原則として市場で貨幣との交換によって取得され、一般消費者は賃労働で得た貨幣報酬をその交換手段に供するのが通例である。
 これに対して、共産主義社会では労働力を商品化する賃労働も廃されるから、労働と消費は分離される。標語的に言えば、「各人はその能力に応じて(働き)、各人にはその必要に応じて(分配する)」となる。
 従って、労働のいかんを問わず、各人は必要な物やサービスを無償で取得できる。先の例で言えば、肉や食器も各自が必要とするだけ取得できるわけである。
 ただ、このような消費様式となると、資本主義市場経済では消費制限の意義をも担っている手持ちの貨幣量(俗に言うサイフの中身)のような抑えがないため、一人占めや高需要物品の品切れといったモノ不足が恒常化する「不足経済」に陥る危険と隣り合わせである。そこで、そうした問題を回避するためには、供給末端での取得量の制限措置が不可欠となる。
 このような消費様式は配給制に近いものであるが、供給される物品の種類が限られている配給制とは異なり、供給される物品・サービスの種類に制限はなく、日常必需的な物品・サービスが全般的に無償供給される。ただし、非日常的な驕奢品・希少品については、多く物々交換慣習に委ねられるだろう。

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