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持続可能的計画経済論(連載第23回)

2018-07-02 | 〆持続可能的計画経済論

第5章 計画経済と企業経営

(4)二種の企業会計
 マルクスは、『資本論』第二巻のあまり注目されない記述の中で、生産過程が社会化されればされるほど、簿記の必要性は高くなるとして、「共同的生産」では資本主義的生産におけるよりもいっそう簿記が必要になるが、簿記の費用は削減されると指摘した。
 資本主義的な市場経済は、企業の収益活動を記録し、いっそう利益拡大を図るための道具としても企業会計の技術と制度を発達させた。資本主義経済下での企業会計は、収益活動に関する収支の公開記録と収益的な経営計画策定上の参照データとしての意義を担っている。すなわち財務会計、管理会計いずれであれ、収益活動の計算=貨幣単位会計という点に最大の重点がある。
 別の視点から見れば、資本主義下の企業会計はその生産活動を金銭的に評価した間接的な計算記録であるがゆえに、それは極めて複雑に体系化され、簿記自体にコストを要するとともに、しばしば実態と乖離した粉飾決算のような不正も起こりがちとなる。
 この点で、持続可能的計画経済は貨幣交換経済の廃止という前提条件で成り立つものであるから、企業会計から金銭的計算という要素は排除され、金銭的に評価されない生産活動そのものの直接的な生産記録となる。そのため、それは基本的に保有材の状態を記録する資産表と物財のインプット・アウトプットを物量単位で簡明に記録する出納書が中心となるので、簿記に要する労力も節約される。
 ただし、計画経済の対象たる公企業の会計と対象外の私企業の会計には相違点がある。公企業の場合は、生産活動の大枠となる経済計画の範囲内での生産活動の公開証明記録としての意義に力点が置かれるのに対して、私企業の場合は物々交換にも一定従事するため、その限りでは収益的な活動もあり、計算的な要素も認められる。
 しかし持続的計画経済下での企業会計で最大の特徴を成すのは、環境会計の技術と制度が高度に発達することである。環境会計は、環境的持続可能性が考慮された市場経済下でも導入されてきているが、収益活動に重点がある限り、計算会計に比べれば優先順位は低く、補完的な役割を果たすにすぎない。
 これに対して、持続可能的計画経済下の環境会計は生産会計に対して環境的な枠付けの意義を持つ優先的な会計であり、両者が一体となって、環境的に持続可能な生産活動の記録を成すのである。

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