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不具者の世界歴史(連載第25回)

2017-06-13 | 〆不具者の世界歴史

Ⅴ 参加の時代

「保護」から「参加」へ
 障碍者を「保護」するため、施設で隔離・管理するという施策は今日でも大なり小なり継続されているが、そうした中で、別の視座が開かれてきた。それは、障碍者を一般社会に受け入れようという潮流である。その端緒は1960年代以降に現れたノーマライゼーションの思潮と実践である。
 この思潮の発祥地は北欧、特にデンマークであった。これは、障碍者を社会から隔離するのではなく、かれらが一般社会で健常者とも対等に暮らしていけるよう社会の側を改良する必要があるという社会改良主義的な発想に基づいており、北欧で有力な社会民主主義とも合致する考え方であった。
 この思潮は欧米諸国を中心に拡散され、その最初の国際的集約として、1975年、国際連合(国連)における「障碍者の権利宣言」に結実した。これは従来、先行する国際人権条約上明確でなかった障碍者の基本的人権を改めて確認する意義を持つ国際宣言であった。
 十三項目の宣言文の中でも、「障碍者は、その家族または里親とともに生活し、すべての社会的・創造的活動またはレクリエーション活動に参加する権利を有する。障害者の居所に関しては、障碍者の状態によって必要とされ、または、かれらがその状態に由来する改善のため必要とされる場合以外、差別的な扱いを受けない。もし、障碍者が施設に入所する絶対の必要性がある場合でも、そこにおける環境や生活状態は、同年齢の人の普通の生活に可能限り似通ったものであるべきである。」とする第九宣言には、ノーマライゼーションの思想が盛り込まれていると言える。
 同時に、この宣言文においては、「障碍者がすべての社会的・創造的活動またはレクリエーション活動に参加する権利」として、「参加」に言及されていることが注目される。これは、障碍者が「保護」されるばかりでなく、より積極的に社会に「参加」できることの保障を求めるものである。
 この「宣言」を起点として、1981年は「国際障碍者年」に指定され、83年‐92年期を「国連・障害者の十年」と位置づけ、初めて障碍者の権利向上が国際的な共通課題として明示された。
 ところで、「参加」の権利を明言した「宣言」には、ノーマライゼーション=対等化からさらに進んで、障碍者を積極的に社会に迎え入れるインクルージョン=包摂化の思想が現れていた。しかし、インクルージョンを空理念に終わらせないためには、社会の側でも様々な障壁を除去していく必要がある。
 その最初の一歩は段差解消に代表されるようなバリアフリー化であるが、それにとどまらず、様々な道具・設備の規格を障碍の有無を問わず広く普遍的に使い勝手のよいものにしていくユニバーサル・デザインの理念と実践も現れた。これには、20世紀末から21世紀にかけて進展した情報技術革新が反映されている。
 そうした新展開を踏まえつ、2006年には国連障害者権利条約が採択された。これは障碍者の基本的権利を網羅的に保障するとともに、いまだ「宣言」にとどまっていたものを法的効力を持つ条約に高めた意義を持つ。
 そこでは、物理的なバリアフリーを越えて、障碍者が様々なサービスを享受するうえでの可能性・容易性を広げるアクセシビリティーの権利が明示されていることも大きな前進点である。21世紀前半期は、この条約を踏まえた障碍者の社会参加の時代に入ったと言えるであろう。

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