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旧ソ連憲法評注(連載第14回)

2014-09-12 | 〆ソヴィエト憲法評注

第五十条

1 人民の利益にしたがい、社会主義体制を強化し、発展させる目的で、ソ連市民は、言論、出版、集会、会合、街頭および示威行進の自由を保障される。

2 これらの政治的自由の行使は、公共の建物、街路および広場の勤労者とその団体への提供、情報の広範な普及ならびに出版物、テレビジョンおよびラジオを利用できることによって、保障される。

 本条から先は自由権の規定になるが、家族の保護に関する第五十三条を除くと、自由権条項は本条を含めて6か条しかなく、ソ連憲法における自由権の扱いは素っ気ないものとなっている。このことが自由抑圧の直接の根拠ではないにせよ、自由のなかったソ連体制の象徴と見られてもやむを得ない面はある。
 自由権条項筆頭の本条が表現の自由を保障する規定である点は常道的と言えるが、第一項で「人民の利益にしたがい、社会主義体制を強化し、発展させる目的で」という限定が付されていることが、特徴的である。
 この限定は反対解釈すれば、所定の目的を持たない表現活動の自由は保障されず、場合によって処罰される可能性を示唆する。実際、ソ連では体制批判的な表現活動は抑圧された。「人民の利益」といった文言の曖昧さを含め、問題を含む条項であった。
 一方、第二項は表現活動に際して、公共の建物やマスメディアなどから便宜を受ける権利を保障するもので、表現の自由の社会権的な拡張を目指す先進的な規定と見る余地もある規定であったが、これも第一項と読み合わせれば、「人民の利益にしたがい、社会主義体制を強化し、発展させる目的」を持つとみなされた表現活動に限って便宜を受けられるという差別的な対応の根拠となり得るところであった。

第五十一条

1 共産主義建設の目的にしたがい、ソ連市民は、政治的な積極性および自主的ならびにその多様な利益をみたすことを促進する社会団体に、団結する権利をもつ。

2 社会団体は、その規約の定める任務の遂行の成功のための条件を保障される。

 本条は結社の自由を保障する規定であるが、構造上は前条と同様に、目的によって制約されている。しかも、本条は「共産主義建設の目的」と前条以上に狭く限定されている。この規定からすると、本条で保障される結社は共産主義を奉じる団体に事実上限られ、それはつまるところ、共産党の傘下ないし関連団体ということになろう。社会団体の活動に対する支援を定めた第二項の規定が素っ気なく漠然としているのも、そのためである。

第五十二条

1 ソ連市民は、良心の自由すなわち任意の宗教を信仰し、またはいかなる宗教も信仰せず、宗教的礼拝を行ない、または無神論の宣伝を行なう権利を保障される。信仰とむすびつく敵意または憎悪をよびおこすことは、禁止される。

2 ソ連における教会は国家から分離され、学校は教会から分離される。

 かつて西側ではソ連は無神論の総本山と目され、そのことが信仰者の間に強い反ソ主義者を生む原因でもあったが、少なくとも憲法上は信仰の自由と無信仰の自由とを同等に保障する体裁が採られていた。ただ、第一項第一文でわざわざ「無神論の宣伝を行なう権利」に言及されていることは意味深長である。ここでは宣伝を行なう主体は国家でなく、ソ連市民とされているが、無神論を教義とする体制の本音を滲ませた箇所とも受け取れる。なお、第一項第二文は宗教的な憎悪表現の禁止を定めており、これ自体は先進的な規定であった。
 第二項は政教分離と教教分離を定めている。ソ連初期にはロシア正教会への弾圧政策が採られたこともあったが、晩期にはそうした宗教弾圧姿勢を改め、ブルジョワ憲法的な政教分離政策に転換していた。ただし、それは学校の非宗教性まで要求する徹底した分離であった。

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