ザ・コミュニスト

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NBA事件―差別の連鎖

2014-05-01 | 時評

NBAに所属する米プロバスケットボールチームのオーナーの人種差別発言による永久追放処分はスポーツ界の単なるスキャンダルではなく、仔細に見ると、なかなか根深い問題を含んでいる。

もし件のオーナー・スターリング氏が一般のヨーロッパ系アメリカ白人であったら、普通の差別事件で終わっただろう。しかし同オーナー自身、本姓トコウィッツといい、被差別民族ユダヤ人の両親を持つユダヤ系アメリカ人であった。今でこそユダヤ系アメリカ人は大きな発言力を持つが、氏が弁護士資格を取得した1960年代初頭、ユダヤ系では就職に不利で、氏も大手法律事務所に就職できず、離婚専門弁護士という下積みから始めざるを得なかったとされる。

その後、氏は不動産業に転じて財を成し、バスケットチームのオーナーにもなったわけだが、自身が経営する賃貸マンションの入居をめぐってアフリカ系やヒスパニック系への人種差別をしたとして連邦政府から訴訟を起こされたり、雇用上の人種差別でも民事訴訟を起こされるなど、相当確信犯的な人種差別主義者のように見える。

このように自ら被差別体験を持つ者が他人を差別するという現象について、筆者はかつて自らへの劣等感が差別行為に転化していく反転的差別、より一般化して被差別者が差別者に転じる差別の連鎖として論じたことがあるが(拙稿参照)、スターリング氏の一連の差別行為はこうした反転的差別‐差別の連鎖の個人的な実例と言える。

ともあれ、今回のように全く私的な場での人種差別的暴言であっても厳正なペナルティーの対象となるという前例を米スポーツ界が示したことは、公民権法確立以後の米国ならではのことと評価できる。

しかし、これでスターリング氏が改心し、沁みついてしまった差別的価値観を捨てるとは思えない。差別が差別を生み出す。そういう根深い差別は教育の力によってしか本質的には解消されない。

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