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ザ・コミュニスト

連載論文&時評ブログ 

旧ソ連憲法評注(連載第5回)

2014-06-28 | 〆ソヴィエト憲法評注

第十三条

1 勤労所得がソ連市民の個人的所有の基礎である。個人財産となることができるものは、家庭用品、個人的な必要品および便益品、家庭副業用品、住宅ならびに勤労による貯金である。市民の個人財産およびその相続権は、国家の保護をうける。

2 市民は、法律の定める手続きにより、副業経営(家畜および家禽の飼育をふくむ)、園芸および野菜栽培をいとなむため、ならびに個人住宅の建設のために供与される土地を利用できる。市民は供与された土地を合理的に利用する義務をおう。国家およびコルホーズは、市民が副業経営をいとなむことを援助する。

3 市民は個人的に所有または利用する財産を不労所得をえることに使い、これを利用して社会に存在をあたえてはならない。

 本条は、個人財産制度に関する規定である。第一項にあるように、勤労所得と住宅その他の日常生活に必要な生活財は、社会主義経済の下でも個人に帰属し、相続も認められていた。そのため、次条に見られる応能・成果給制度とあいまって、資本主義と同様の所得・資産格差を生じさせていた。第二項で副業の権利をわざわざ憲法上認めて、生活の足しにすることを推奨せざるを得なかったゆえんである。
 第三項は、例えば所有する住宅を個人的に賃貸するなどして不労所得で生活することを許さない規定であり、第一項とセットで、稼得労働を基礎とする社会主義的な個人財産のあり方を示している。

第十四条

1 社会の富の増大ならびに人民および一人ひとりのソヴィエト人の福祉の向上の源泉は、ソヴィエト人の、搾取から自由な労働である。

2 「各人はその能力におうじて、各人へはその働きにおうじて」という社会主義の原則にしたがい、国家は、労働および消費の尺度を規制する。国家は課税される所得の税率を定める。

3 社会的有用労働とその結果が、社会における人間の地位を決める。国家は、物質的刺激と道徳的刺激とを結合し、仕事にたいする革新と創造的取組みを奨励し、労働が一人ひとりのソヴィエト人の生活の第一的な欲求に転化することを促進する。

 本条は、個人的所有の基礎が勤労所得にあるとする前条に引き続いて、労働が社会的発展と福祉の向上の源泉であることを宣言する。その労働と消費は第二項にあるように、能力・成果によって評価されることから、結果として資本家が羨望する搾取的な応能・成果給制度を導き出した。それによって働く意欲が低下しかねないことを、第三項第二文にあるように、国家による政策的な労働意欲の促進―労働規律強化―で補おうという趣旨である。
 第二項で「社会主義の原則」とされている「各人はその能力におうじて(働き)、各人へはその働きにおうじて(分配する)」は、「各人はその能力におうじて(働き)、各人へはその必要におうじて(分配する)」という共産主義的な労働・消費原則の後半部分を都合よくすりかえたもので、要するに労働時間の外延的延長で搾取する資本主義に対して、成果主義と規律強化による労働時間の内包的延長で搾取するのがソ連式社会主義労働であり、両者の相違は搾取の方法論の差にすぎない。第二項第二文が規定する所得税制度も、所得格差を前提とした資本主義的な税制である。
 なお、第三項第一文で、社会的有用労働とその結果を人間の社会的評価の尺度としているのは、稼得労働とは別に政治活動に従事する共産党員の優越的地位を滲ませる暗示規定である。

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旧ソ連憲法評注(連載第4回)

2014-06-27 | 〆ソヴィエト憲法評注

第二章 経済システム

 政治システムに関する第一章に続く本章は、ソ連共産党を頂点に置く政治構造の土台となる社会主義的な経済構造について定めている。その内容は大きく分けて、所有制度、個人財産・労働・消費、生産方式の三部から成り、ソ連型社会主義経済の全体構造が俯瞰されている。

第十条

1 ソ連の経済システムの基礎は、国有(全人民的)財産およびコルホーズ・協同組合の財産の形態をとる生産手段の社会主義的所有である。

2 労働組合その他の社会団体の、その規約の定める任務の実現に必要な財産も、社会主義的財産である。

3 国家は、社会主義的財産を保護し、その増大の条件をつくる。

4 いかなる者も、個人的利得その他の私欲のために社会主義的財産を利用する権利をもたない。

 本条は、社会主義経済の法的基礎となる社会主義的所有の諸原則を定めている。このように実質的な生産方式より法的な所有権規定が先行するのは、いささかブルジョワ憲法的な構成と言える。
 第一項及び第二項にあるように、社会主義的所有は、国家・協同組合・社会諸団体の各レベルで多元的に認められていたが、それら社会主義的財産の保護責任という形での管理権限は、第三項にあるように国家に与えられていた。
 第四項は、社会主義的財産の私的流用を禁止する条項であるが、このような条項があえて付加されているということは、党や企業幹部らによる社会主義的財産の横領事犯が跡を絶たなかったことを裏書きしている。

第十一条

1 国有財産は、全ソヴィエト人民の共同の資産であり、社会主義的所有の基本的形態である。

2 国家だけが、土地、地下資源、水資源および森林を所有する。国家は、工業、建設および農業における基本的生産手段、運輸手段、通信手段、銀行、国家の組織した商業企業、公益企業およびその他の企業の財産、都市の基本的住宅資産ならびに国家の任務の遂行のために必要なその他の財産を所有する。

 前条で総覧された社会主義的所有形態の中でも、最も主要な国家的所有の具体的な規定である。第二項第一文にあるように、土地をはじめとする広い意味での天然資源は、国家に専有されていた。さらに、第二文では、いわゆる基幹産業の国有化が規定されている。注目すべきは、国家は商業企業をも組織化するということである。こうして国家を総資本家の地位に置くことが(国家中心社会主義)、ソ連型社会主義体制であった。

第十二条

1 コルホーズその他の協同組合およびその統合体は、その定款の定める任務の実現に必要な生産手段その他の財産を所有する。

2 コルホーズは、その占有する土地の無料、無制限の利用を保証される。

3 国家は、コルホーズ・協同組合的所有の発展およびその国家的所有への接近を促進する。

4 コルホーズその他の土地利用者は、土地を効果的に利用し、それを大切にとりあつかい、その肥沃度をたかめる義務をおう。

 本条は、社会主義的所有の中で、国家的所有に次ぐ協同組合的所有について規定している。協同組合の中でも特に中心を成したコルホーズ(農協)は、第四項で課せられる土地の効果的利用等の義務と引き換えに、第二項で国が所有する土地(農地)の無償・無制限の利用権を保証されていた。
 第三項は、協同組合的所有の国家的所有への吸収を目指す規定であり、多元的所有といいながらも、国家的所有の優位性が前提にあったことの証左であり、ここにも国家中心社会主義の特質が滲み出ている。

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旧ソ連憲法評注(連載第3回)

2014-06-14 | 〆ソヴィエト憲法評注

第六条

1 ソヴィエト社会の指導力および先導力ならびにその政治システムおよび国家的組織と社会団体の中核は、ソヴィエト連邦共産党である。ソ連共産党は人民のために存在し、人民に奉仕する。

2 マルクス・レーニン主義の理論で武装した共産党は、社会の発展の総合的な展望およびソ連の内外政策の路線を決め、ソヴィエト人民の偉大な創造的活動を指導し、共産主義の勝利のためのかれらの闘争に計画的で、科学的に根拠のある性格をあたえる。

 共産党一党支配の直接的な根拠として、(悪)名高い条文であった。第一項第二文で、付け足しのように人民への奉仕が謳われているとはいえ、第一文で共産党の指導性が明確に宣言され、第二項では共産党がソ連の内外政策の路線や未来まで決定するという形で、事実上恒久的に指導政党であり続けることが示唆されているからには、人民への奉仕は空虚なレトリックにすぎなかった。
 結局、この条文はソ連最末期の「ペレストロイカ」の中で、削除されることになったが、ソ連共産党の指導なきソ連とはソ連の解体・消滅へのステップにほかならなかった。

第七条

労働組合、全連邦レーニン共産主義青年同盟、協同組合およびその他の社会団体は、その規約の定める任務にしたがい、国家的および社会的なことがらの管理ならびに政治的、経済的および社会的、文化的な問題の解決に参加する。

 労組をはじめとする社会団体の役割に関する規定であるが、前条と合わせ読むと、これら社会団体もあくまで共産党の指導下に所定の管理と問題解決に参加するという枠付けがなされているのであり、各社会団体の自立性は保障されていない。

第八条

1 労働集団は、国家的および社会的なことがらの討議と決定、生産と社会的発展の計画づくりおよび労働条件と生活条件の改善の問題ならびに生産の発展、社会的、文化的措置および物質的奨励にあてられる資金の利用の問題の討議および決定に参加する。

2 労働集団は、社会主義競争を発展させ、先進的作業方法の普及および労働規律の強化を促進し、その構成員に共産主義的倫理を教育し、かれらの政治的自覚、文化および職業的技能の向上について配慮する。

 労働集団という独自の概念は、およそ企業的組織における経営管理層を含む全従業員を包括するもので、当時の「発達した社会主義国家」の段階にあっては資本主義的な労使対立はもはや存在しないという想定(プロパガンダ)で成り立つ概念であった。
 従って、資本主義的な用語では労働集団は企業と置き換えても誤りではない。すなわち、労働集団=企業は生産計画や労働問題のみならず、国家社会に関わる問題や公的資金の利用に関する討議や決定にも参加するという原則が本条で与えられていることになる。
 企業を単なる生産組織に限局せず、社会の基礎集団としてこうした幅広い役割を与えることは、社会主義の一つの特徴とも言えるが、これとて第六条が規定する共産党の指導下での「参加」という枠付けに変わりはなく、いわゆる自主管理社会主義とは異なるものであった。
 ちなみに、第二項に労働集団の対内的な役割の一つとして、「社会主義競争を発展させ(る)」とあるのは、社会主義にも市場的な競争原理を一部導入しようという試みの表れと読めるが、すでにこの時期、こうした市場経済への接近傾向が生じ始めていたことの証左である。

第九条

ソヴィエト社会の政治システムの発展の基本方向は、社会主義的民主主義のいっそうの展開、すなわち国家と社会のことがらの管理への市民のますます広範な参加、国家機構の改善、社会団体の積極性の向上、人民的監督の強化、国家生活および社会生活の法的基礎の強化、公開の拡大ならびに世論についての恒常的な考慮である。

 第一章の末尾を飾る本条はやや唐突な観もあるが、前文でも宣言されていた共産主義の実現へ向けたソ連社会の未来展望を改めて具体化して述べ、政治システムについて定める第一章の締めくくりとしたものである。
 それは「社会主義的民主主義」という概念で総括されているが、内容上は市民参加や法治主義、情報公開、世論重視などブルジョワ民主主義的な項目がやや雑多に並べ立てられており、「社会主義的民主主義」固有の特質には乏しいように感じられる。西側からの非民主性への批判を意識したのかもしれない。
 ただ、いかに「社会主義的民主主義のいっそうの発展」を謳ったところで、それは共産党の指導性を大前提としたうえでのことであるから、憲法内部での理論的な矛盾をいっそう深めるだけであった。

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旧ソ連憲法評注(連載第2回)

2014-06-13 | 〆ソヴィエト憲法評注

第一編 ソ連の社会体制および政策の諸原則

 全9編174か条から成るソ連憲法中、筆頭の第一編は総則に当たる部分で、ここでは全5章32か条にわたってソ連の基本的な体制と政策の基本理念が体系的に列挙されている。

第一章 政治システム

 本章は、経済システムを定める次章とセットで、ソ連の政治経済体制の基本原則を列挙している。このように社会システム論的な構成を採るのは、政体論が中心のブルジョワ憲法よりも先進的な特徴であった。
 ただ、政治的な原則が経済的な原則より優先されているのは、経済的なもの、特に生産様式が社会の土台となるとするマルクス理論からは外れ、むしろ政治哲学が優先されるブルジョワ社会思想への傾斜が見られる。

第一条

ソヴィエト社会主義共和国連邦は、労働者、農民およびインテリゲンチャならびに国のすべての民族および小民族の勤労者の意思と利益を表現する社会主義的全人民国家である。

 本条は、ソヴィエトの政体を「社会主義的全人民国家」と規定する。前文でも述べられていたとおり、当時のソ連体制は「プロレタリアート独裁」の労働者階級国家の段階をすでに終了し、農民や知識人、諸民族を束ねる階級・民族包括国家となったとの規定である。
 この「全人民国家」という概念は、支配民族の優位性を前提とする「国民国家」とは異なり、小民族(少数民族)を含めた多様な人々を包摂する意義を持っていたが、実際のところ多数派ロシア民族の優位性が裏に隠されていた。

第二条

1 ソ連におけるすべての権力は、人民に属する。

2 人民は、ソ連の政治的基礎である人民代議員ソヴィエトをとおして、国家権力を行使する。

3 他のすべての国家機関は、人民代議員ソヴィエトの監督をうけ、それにたいする報告義務をもつ。

 本条は、人民主権の原則を宣言したものである。ただし、第二項にあるように、国家権力は人民代議員ソヴィエトを通じて行使される。これは間接民主制を規定したものである。
 人民代議員ソヴィエトとは、形の上ではブルジョワ議会制における国会及び地方議会に相当するが、単なる立法機関ではなく、全国家権力の源泉となる人民代表機関である。第三項はそうしたソヴィエトの国家監督権を規定したもので、人民主権原理の具体的な表現である。

第三条

ソヴィエト国家は、下から上までのすべての国家権力機関が選挙され、それらが人民にたいして報告義務をもち、下級機関は上級機関の決定にしたがう義務をもつという民主主義的中央集権の原則にしたがって、組織され、活動する。民主主義的中央集権は、統一的な指導を、現地のイニシアチブおよび創造的な積極性ならびにすべての国家機関および公務員が自分にゆだねられた仕事について責任をもつことと結合させる。

 本条は民主集中制という本来はレーニン主義的な共産党の運営原則を国家機関の活動にもあてはめたものである。この原則が真に民主的に機能するのは、条文にあるとおり、下から上までのすべての国家権力機関が選挙されるという保障がある限りであるが、結局のところ共産党の一党支配下では、国家機関も共産党の指導に拘束されることとなり、本条の意義は共産党中央指導部への権力集中にすり替わっていた。

第四条

1 ソヴィエト国家およびそのすべての機関は、社会主義的適法性にもとづいて活動し、法秩序、社会の利益および市民の権利と自由の保護を保障する。

2 国家的組織、社会団体および公務員は、ソ連憲法およびソヴィエトの法律を遵守する義務をおう。

 本条は、社会主義的法治国家原則を規定している。単に国家機関の活動の形式的合法性のみならず、社会的利益と市民の権利自由の保護まで義務づけていることが注目される。第二項で憲法・法律遵守義務が、公務員のみならず、社会団体に及ぶことも社会主義的法治国家の特徴である。

第五条

国家生活のもっとも重要な問題は、全人民的討議にかけられ、全人民投票(レファレンダム)に付される。

 第二条で間接民主制を原則としつつ、国政上の重要問題については人民投票に付するという形で限定的に直接民主制を取り入れる規定であるが、共産党支配下では実際のところ機能しない空文であった。

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旧ソ連憲法評注(連載第1回)

2014-05-31 | 〆ソヴィエト憲法評注

 ソ連憲法(ソヴィエト社会主義共和国連邦憲法)は、ソヴィエト連邦自体が解体・消滅した現在、すでに過去の法文献にすぎない。しかし、そこには現在、再び世界の憲法のスタンダードとなった古典的なブルジョワ憲法には見られない特徴も多々認められる。一方で、事実上ソ連憲法最終版となった1977年憲法には、ブルジョワ憲法の影響も認められる。いろいろな意味で、興味深い内容を持つのが、ソ連憲法である。本連載は、そうした旧ソ連憲法を改めて現時点で振り返り、その長短を総決算することを目的とする。
 ソ連憲法は、ロシア10月革命の翌年1918年に制定されたロシア社会主義連邦ソヴィエト共和国憲法を下敷きにして、ソ連邦結成の2年後、1924年に最初のものが制定された。以後スターリン政権時代の36年(スターリン憲法)、そしてブレジネフ政権時代の77年(ブレジネフ憲法)に大改正され、結果としてこの77年憲法が最後のものとなった。もっとも、ソ連末期ゴルバチョフ政権時代の88年と90年にもいわゆる「ペレストロイカ」の憲法的な担保として77年憲法に実質大改正に近い重大な修正が加わっており、これを含めれば、実質3回(ないし4回)改正されたことになる。
 年代順に並べると、このゴルバチョフ憲法が最終版となるが、これはソ連を社会主義的一党制から資本主義的議会制へ転換していく反革命的な―好意的にとらえれば民主的な―志向性を明確にしたものであったため、いわゆる社会主義的な憲法としては、77年憲法が最終版となるのである。
 その意味で、77年憲法にはソ連型社会主義国家の集大成としてのエッセンスが詰まっている。本連載では、この77年憲法(以下、単に「ソ連憲法」という)を逐条的に評注しながら、その先進性と限界性を明らかにしていく。日本語訳は『新ソ連憲法・資料集』(ありえす書房)の訳文に基づく(一部訳文変更)。

 

前文

 ソ連憲法前文は日本国憲法をはじめとするブルジョワ諸憲法とは大きく異なり、その内容はロシア10月革命の成果とその後の発展の総括・讃美に始まり、ソ連社会の中間到達点と未来展望を発展段階論に基づいてイデオロギシュに叙述する一種の論文の体裁を取っている。相当に長文であるので、ここでは全文表示せず、要約評注するにとどめる。
 一連の文章で記述された前文は大きく歴史的総括・現状認識・未来展望・憲法誓約の四つの部分に分けることができるが、その最初の部分では、「ロシアの労働者と農民が、ヴェ・イ・レーニンのひきいる共産党の指導のもとになしとげた十月社会主義大革命」によって作り出された「プロレタリアートの独裁を確立し、新しい型の国家であり、革命の成果の防衛および社会主義と共産主義の建設の基本的手段であるソヴィエト国家」が内戦と帝国主義的な干渉に勝利したうえ、ソ連邦を結成して「人類の歴史上はじめて社会主義社会がつくられた」ことを謳い上げる。
 その後、ソ連邦は大祖国戦争(第二次世界大戦)にも勝利し、さらなる社会主義的発展を経て、「ソヴィエト国家はプロレタリアート独裁の任務をはたしおえて、全人民国家となった」とされる。
 こうした歴史的総括に基づき、ソ連の現状を「発達した社会主義社会」と規定する第二の部分では、この「社会主義がそれ自身の基礎のうえに発展する段階」の諸特徴が記述される。すなわち、それは「強力な生産力および先進的な科学と文化がつくりだされ、人民の福祉がたえず向上し、個人の全面的発達にとり、ますます好ましい条件がつくられつつある社会」であり、「成熟した社会主義的社会関係の社会」であり、「愛国者であり、国際主義者である勤労者が高度の組織性、思想性および自覚をもつ社会」であり、「各人の幸福についての万人の配慮と万人の幸福についての各人の配慮が、生活のおきてとなっている社会」であり、「真の民主主義の社会」であるとされる。
 こうした現状認識を踏まえ、第三の部分は「発達した社会主義社会は、共産主義への道における法則にかなった段階である」であると規定し、ソヴィエト国家―「社会主義的全人民国家」―の最高目的は「社会的共産主義的自治が発達している無階級の共産主義社会の建設」にあるとする。すなわち、そうした未来の共産主義社会の実現の過程にある中間到達点が「発達した社会主義社会」だということであって、現時点はそのための準備段階にあるとされるのである。
 そのうえで、社会主義的全人民国家としての現ソヴィエト国家の任務を「共産主義の物質的、技術的基礎をつくりだし、社会主義的社会関係を改善し、それを共産主義的社会関係に改造し、共産主義社会の人間をそだて、勤労者の物質的および文化的な生活水準をかため、国の安全を保障し、平和の強化および国際協力の発展を促進すること」と規定する。
 最後に以上の趣旨を理解・実践するソヴィエト人民の憲法誓約で結ばれる。この部分はソヴィエト人民が憲法制定権者であることの宣言ともなっている。
 かくして、ソ連憲法前文の特色は歴史的な総括・現状認識とともに未来展望が明示される点にある。この点、ブルジョワ憲法の内容は本質的に反革命的であるので、このように未来に向けたさらなる発展方向が憲法前文に示されることは通常なく、その意味で静止的・現状保守的なのであるが、ソ連憲法は発展的・革新的な性格を持っていた。
 他方で、プロレタリアート独裁期を過ぎて全人民国家となった現ソヴィエト国家では「全人民の前衛である共産党の指導的役割が大きくなった」とし、共産党の指導性が宣言されている。これが、悪名高い「一党独裁」の典拠でもある。
 このような規定は実のところ、ソ連が立脚していると公称していたマルクスの政治理論に反するばかりか、同じ前文が別の箇所で発達した社会主義社会の特徴の一つを「真の民主主義」だとして「その政治システムは、・・・・・国家生活への勤労者のますます積極的な参加ならびに市民の現実的な権利および自由とかれらの義務および社会に対する責任との結合を保障する」と謳う規定とも自己矛盾するものであった。  

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