「基本指圧」に憧れて ― 村岡曜子のブログ

我が国固有の指圧を広く浸透させ、社会の保健と福祉の増進に寄与したい。

赤ちゃんの施療は、お母さんも同じ気持ちになって!

2010年02月04日 | 基本指圧の素晴らしさ
  子供は幼いほど本能的な感覚が強い、と日々の仕事の中で感じます。例えば、自分が生きていくためには一番必要な人は誰か、を本能的に知っているのです。そしてその人を守る働きを、身体を使って行おうとします。 
 実は、病気になったり怪我をしたりするのもそのため、ということもありますから、それを念頭においた上で子供と付き合うと、意外な発見があったり自分の対応の間違いに気付いたりすることがあるので、心して対応したいものです。  

 3年ほど前のことです。指圧をこよなく愛してくださるSさんに初孫ができました。彼女は、なぜかお嫁さんにかなり気を遣っていました。その様子を「今の時代は、嫁と姑が逆転しているのかしら」などと思って見ていました。初孫が目に入れても痛くないほど可愛いというのは、こういうことかと思うほどの可愛がりようで、成長していく姿は、時々見せていただく微笑ましい写真で知っていました。
 あるときその子が先天異常を持って生まれていたが、外科手術により元気に歩けるようになったと話されたのには驚きました。左内反足で内踝(うちくるぶし)がなかったそうなのです。
 Sさんが私にそんな話をされたのは、元気に歩き回るその子の左足が極端に内股であることと、左足第1指の付け根の関節が内側へ凹んだ形が不自然であることの2点が、指圧で治療可能かどうかを知りたかったからです。
 すでにリハビリは終了しているそうです。細かいことが知りたくて色々聞くのですが、Sさんは細かいことをあんまり知りません。お嫁さんと、コミュニケーションがとれていないことがよく分かりました。不安を感じたので、指圧治療をお嫁さんも希望しているかどうかの確認を、Sさんに何回もしました。あとは直接本人に会って細かいことを聞くことにしたのでした。

 なにも処置がなされなければ、その赤ちゃんにとっては歩くことがかなり困難だったはずです。現代医学の恩恵をうけて歩けるようになってよかったと思うと同時に、“メスが入った後こそ指圧でケアを!”と、Sさんのお孫さんを圧すことになりました。
 いつもどおり、子供の治療の仕上げは母親を圧すとの了解をSさんから得ました。この時点ではお嫁さんには会っていませんでしたが、治療開始を決めました。Sさんがホッとした表情になったのは、私の見間違いではなかったと思います。

 異常を持つ胎児がお腹にいたのですから、母親の妊娠中の体調はあまりよくなかったようです。結局、帝王切開による出産だったと聞きました。
 初めて赤ちゃんを抱いて来院されたお嫁さんは、スラッとした長身でとても綺麗な方でした。3ヶ月間ギブスで固めた彼の左足は成長が悪く、長さも太さも左右差が激しい状態でした。そのうえ、小さい身体のアチコチに負担がかかって色々問題があり、結構苦労しながらの仕事になりました。それでも子供の生命力と発育の力に助けられ、左右差もなくなり、かなりの成果があがってきました。
 出産時、母体に薬品が入ると何故か色ぐろの赤ちゃんになることがかなりの確率で起きています。親はこの子は色ぐろな子だと思ってしまい、あまり気にかけないことが多いようです。この子もそうでした。その上、全身に黄色も入っていましたので、それらも視野に入れながらの治療になりました。

 治療が進むにつれ、肌の色がみるみる綺麗になるのには、皆さん驚いていらっしゃいました。生活上の注意もお願いしてもうあと一歩というところで、こともあろうに彼が骨折をしてしまいました。しかも必死に頑張って改善に向かっていた、左足第1指の付け根の間接部を折ってしまったのです。狙ってもできることではありません。
 すっかり力が抜けてしまったのが、私の正直な気持ちです。緊急入院になったと聞きました、またギブスがかけられたのです。一生懸命やった仕事が元の木阿弥どころか、彼が痛い思いをしたのを考えると、いたたまれない気持でした。
 治療開始前に漠然とあった不安は、私の直感だったのでしょう。コミニケーションがうまくいかない嫁と姑。思い返すと母親の指圧への信頼はなかったと思います。行くように言われて、連れて来ていただけだったのでは? というのが正直な感想でした。
 指圧がいかなるものなのかを理解していただければ、何かがもっと違う方向へ動いたような気がしています。

 楽しく関われるはずの、小さい子供の指圧における辛い思い出です。2月2日に投稿した記事「赤ちゃんには『赤ちゃんの生活』が必要ですよ!!」のM君の鼠径ヘルニアの1件で思い出した治療例です。
 その子の身体改善が必要であれば、なにがなんでもやらねばなりません。それには親子と術者、みんなが1つの気持になって立ち向かわなければいけないのだ、という教訓として忘れないようにしようと自分にいい聞かせています。Sさんは相変わらず指圧を楽しみに、毎週休むことなく来院されています。しかしお孫さんについては、その後話に聞くだけで顔を見ることはありません。

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