ダウン症では日本の第一人者といわれる医師から依頼され 、Mさん(27歳、女性)に指圧治療を行うことになりました。彼女はダウン症ですが、約7年間、睡眠が阻害されるほどの外反母趾の痛みで悩んでいるということでした。初めに、「外反母趾の指圧は一般的に改善まで時間がかかる」と説明して取りかかるつもりでした。
主訴は左足指の痛みです。初診時、彼女の足を見て本当に驚きました。確かに「外反母趾」ではあるのですが、それは想像を絶する状態でした。足指が、10本とも正規の位置に並んでいません。
しかも、上足底(足裏の指関節の根元に近い所)に、非常に大きなコブ状のものができていて、医師は「粉瘤(ふんりゅう)」と診断したそうです。切除手術で取るかどうか、判断に迷った結果、今に至っていると母親から聞きました。
私がいちばん気になったのは、第1指の位置が陥没して、第2指がその上に重なっています。足を裏側から見ると指が4本しか見えません。本来身体は、仰臥位になった時、第1指が下がってしまうと、「もう歩きません」 と言うメッセージだと、指圧学校の実技講師に教えてもらったことがあります。
このコブ状のものがあることで、第1指が下がっていても、かろうじて歩けていたのでしょうか。であれば、「身体の意思」は改善したいと訴えている、と思いました。ダウン症の彼女は言葉を発しません。でも圧すことで、彼女の意思はよく分かります。同時に人の身体の不思議を感じて、何とも言えない気持ちになりました。
この状態を見た時、「さて如何したものか?」 と思いつつ 、「やるしかない!」 というのが結論でした。ところが何と! 全身指圧1回でみごとに痛みは取れました。痛いその部分だけを圧しても、こういう効果は出ないのです。基本指圧のありがたさを圧し手としても強く感じ、本当にホッとしました。現在、痛みは取れましたが、このままでは、いつまた痛くなるかわからないし、反対側の足も同じような変形が、進んできています。
しばらくは2週間に1回のペースで圧すことにしました。彼女は、とても指圧が気に入ってくれたようです。
お母さんが、彼女が通っている施設で、障害福祉サービスのモニタリング報告書を持ってきて見せてくれました。
「足の調子が、良く…」 と、書類の中のあちこちに、指圧に通って喜んでいる様子が、たくさん書かれていました。
きわめつけは、初めて参加した運動会で走っている写真を持って見せてくれました。走れるようになっていたのです。
このケースは、私が経験したことのない厳しい外反母趾ですが、彼女やお母さんと一緒に頑張ってみたいと思っています。粉瘤といわれるコブも、わずかずつ小さくなり始めたように見えます。しかし粉瘤の中は「垢(あか)」のようなものらしので、果たして小さくなるものかどうかはわかりません。また報告ができる日がくることを楽しみにしています。それまで…。
初めて目にした厳しい外反母趾
足裏には巨大な粉瘤もできている