Hちゃんは中学生の女の子です。今回、お母さんが指圧を受けるとき一緒に来院しました。
「村岡先生、こんにちは!」
元気な声は以前とまったく変わらず、声だけですぐHちゃんとわかりました。でも会ってビックリ、ずいぶん背が高くなり、すっかりお姉さんになっていました。
Hちゃんの治療で、私はとても不思議な体験をしたことがあります。今も忘れることができません。
彼女が幼稚園の年長さんのとき、小児喘息で苦しんでいるので指圧が有効なのでは、とお母さんから相談を受け、鈴木先生の指導をいただき、四苦八苦しながら治療をしたことがあります。
もちろん、治療の仕上げは指導通り、「お母さんを圧す」ということで進めました。しかし当時の私の技量では、どこでお母さんの治療に切り替えるか、その判断がなかなかつけられず、様子をみながら圧していました。
状況から見て、Hちゃんが鼻水を垂らしたらお母さんの治療に切り替えようと考えていました。というのは、喘息の子どもは例外なく鼻を詰まらせていて、体調がよくなってくると鼻水が出て鼻が通るのです。それを判断の基準にしようと考えたのです。
来院したある日、Hちゃんの鼻の先がかすかに光っていて、鼻水がほんの少し出ていました。私はこれが治療切り替えのときと判断し、さっそくお母さんを圧すことにしました。
Hちゃんの治療効果は順調だったのですが、ただ一つ気なるのが魚(うお)の目でした。左足裏にある3個の魚の目は、幼児のものとは思えないほど立派で、指圧で本当に取れるのかしら、と思うほどでした。
そもそも魚の目は、お腹の状態が表れたものです。彼女の身体の状態はきわめてよくなったのですが、魚の目は全く変化を見せないのが不思議でした。
仕方なくそれには目をつむることにしました。 お母さんの治療をしてみて、子供を産んで育てて、やっと一息ついて、一気に疲れが出たのだろうと感じました。喘息で、命の危険と向かい合っている子を育ててきた心労は、大変なものであったろうと思います。
身体は詰まって、身長も小さくなっているのが圧してわかりました。お母さんのひどい便秘症、これは治療により改善しました。
ところがそのあと来院したときには、不思議なことに、Hちゃんの魚の目が取れてなくなっていたのです。Hちゃんの魚の目は、お母さんのお腹の状態を表していたのです。 これは事実です。
常に鈴木先生から「子どもの指圧治療の仕上げは、母親を圧すこと」と指導されますが、母と子は不思議な絆(きずな)でつながっているのだ、と改めて実感しました。
改めて言葉にすると、ウソっぽくなってしまうような話ですが、これは本当の出来事で、今も忘れることはできません。