「基本指圧」に憧れて ― 村岡曜子のブログ

我が国固有の指圧を広く浸透させ、社会の保健と福祉の増進に寄与したい。

療育図書「はげみ」に掲載された藤原一枝先生の論文を紹介(2)

2020年08月30日 | お知らせ

便秘改善のための体操、指圧(腹部マッサージ)について

       東京都立墨東病院 脳神経外科
       心身障害児総合医療療育センター
                         藤 原 一 枝

(前回のつづき)

2 何が良いのか

 「指圧が便秘に劇的に有効であり、効果は持続的で、もう浣腸や洗腸をしなくてもよくなった」患者さんの発見は、いろいろな視点から検討されました。
 まず、腸の働きには、栄養吸収と便の排泄があります。便の排泄のために腸が収縮する動きは蠕動(ぜんどう)と呼ばれています。いつだってその動きの方向は肛門の方に向かっています。腸の中に動きを敏感に感じる神経があるのですが、ストレスだったり、運動不足で蠕動が悪くなり、便秘になります。
 その時に、「あなたのことを気にしているよ」というメッセージが、温かい手で、優しい仕草で伝われば、腸の動きをコントロールしている副交感神経は働きを高めます。おなかの皮膚のマッサージだけでも副交感神経には効果があり、腸の動きは良くなります。
 つまり「お腹を上手に押す(圧す)こと」はおなかの外から腸管まで(物理的な)刺激を与え、さらに効果のある蠕動を起こしているのです。

3 指圧(図表2)

 基本の基本、落ち着いた環境で始めます。
 温かい手でゆっくり触ります。
 仰向けに寝かせた子どもが息を吐き終えたタイミングで、両方の手のひらを重ねた上の方の手のひらで、やさしくゆっくり垂直におなかを圧(お)します。
 おへそから時計回りに少しずつ手の位置を移動させながら、左太ももの付け根まで「の」の字に押すのがコツです。大人の手が大きくてやりにくいときは、おなかの四隅を、右下→右上→左上→左下と圧すだけで十分です。
 圧すことに慣れてくると、便がどこに溜まっているかわかってきます。圧した後に、便通がありますが、便秘のときに圧すだけでなく、予防として毎日行うことをお勧めします。
 1度に行うのは5周くらいで、朝か夕の1日1~2度で良いでしょう。満腹の時は避けましょう。

 *注意*

 頑固な便秘は、それを治してから取り組んでください。「便秘にならないように習慣づける」気持ちで、始めることをお勧めします。

 *動画紹介* 

 実技はYouTubeにアップロードされていますので、ご覧ください。日本指圧専門学校実技講師の鈴木林三先生の実技は後半に収録されています。「正しい指圧、子ども」で検索可能です。
 (https://www.youtube.com/watch?v=f_pzT5YRdfw 正しい指圧)

 エピソード紹介

 先の村岡先生によると、おなかの指圧を受けるときに「息を吸って、次に吐く時に圧す」というタイミングを覚えてから、深呼吸をよくやるようになった幼児がいたそうです。意識的な腹式呼吸が、腹筋を強くしていたと思われたので、小さい子どもに、深呼吸を促すことを勧めているそうです。
 二分脊椎で浣腸が習慣だった高校3年生の車椅子の男性に、私も指圧を紹介しました。「春から1人暮らしをするので、是非チャレンジしたい」を3回指圧を受け、自分で実技をマスターしました。便も硬さが減って出やすくなりました。なによりも便意が分かるようになったことが嬉しかったそうです。

4 体操の開発秘話

 静岡市にある日本平動物園のニシキヘビの便秘を園医の長倉綾子先生がレポートしていました。ヒントをいただき、動物の便秘の苦しさを見せながら、「快調は快腸から」と子どもにアピールする絵本を私は作りました。便秘の解消は脳にも良いのです。ニシキヘビの名前を取って、本の題名は「ちょうかいちょうのキョウコちゃん」です。

 キョウコちゃんの便秘の原因は、運動不足でした。絵本で展開される体操を実際に行おうと、ジャズダンスの心得のある友人・根岸道子さんの協力を得て、歌付き体操を考案しました。
 その「スーパーヘルシーキョウコちゃん体操」は、おなかをひねったり、伸ばしたり縮めたりして、腸の動きを促します。覚えやすい歌詞で、正味1分間の体操です。
 道具も不要で、ちょっとしたスペースがあれば年齢を問わずできます。短い時間でできるので、家庭だけでなく、保育園や幼稚園、学校でも毎朝の習慣として取り入れてほしいと、平成28年から出前授業も行っています。紙芝居やぬいぐるみ、(硬いウンチ代わりのボールが出てくる。動画にも登場)も作りました。(次回につづく)


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療育図書「はげみ」に掲載された藤原一枝先生の論文を紹介(1)

2020年08月30日 | お知らせ

 脳神経外科医・藤原一枝先生が、社会福祉法人日本肢体不自由児協会発行の療育図書「はげみ」(令和2年度6/7)に、便秘に対する指圧の有効性について詳述しておられます。
 私は長年の体験に基づいて二分脊椎症児の排泄障害に取り組んできましたが、今回、藤原先生が医師の立場で便秘に指圧が有効であることを述べておられることはエポックメーキングなことといえます。先生のご許可を得て、その全文を3回程度に分けて弊ブログに掲載させていただきます。

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便秘改善のための体操、指圧(腹部マッサージ)について

                         東京都立墨東病院 脳神経外科
                         心身障害児総合医療療育センター
                                                        藤 原 一 枝

 はじめに

 脳神経外科で、生後まもなく手術する二分脊椎という病気があります。腰部の脊髄神経の一部に機能障害があって、足の変形を伴い、歩き出しても不安定歩行は避けられず、「膀胱直腸障害」とまとめて呼ばれる、尿失禁・尿閉・便失禁・頑固な便秘などを伴いがちです。
 この中の一つの症状である便秘は苦しく、生活していくうえでつらいことも少なくありません。原因はもともとの病気のせいではなく、足が不自由なために生じる運動不足や腸への刺激が少ないために腸の動きが悪くなることなどからです。この便秘はこじらせやすく、薬や浣腸、洗腸に頼ることになります。
 二分脊椎の方以外にも運動不足になりやすい方や便秘でお困りの方はたくさんいらっしゃいます。
 ここで「腸を刺激すること」と「運動をすること」を意識した実技と、目標設定を紹介します。

1 発端になった患者さん

 平成21年春、心身障害児総合医療療育センターの外来で初めて会った、二分脊椎による歩行障害のある男子中学生A君から話は始まります。不思議な依頼でした。
 「よく転んでいたので、ヘルメットをかぶらされていたけれど、転ばなくなった。もう要らないので、学校に出す診断書にそう書いてください」と言うのです。
 事情を聞けば、体を大きく左右に振りながら危なっかしく通学する彼を見かけた指圧師さんが、無償でナンバ式体操を導入した指圧治療を申し出てくれたそうです。その提案された「歩き方の安定」は、ほどなく効果が出てきましたが、指圧師さんは同時に「洗腸に頼るほどの便秘が何年も続いていることに気が付きます。

 指圧師さんにとって、便通のための指圧は得意分野です。専門家としての観察・試行・情熱に加え、A君とその家族のやる気にもかき立てられ、並々ならぬ熱意でおよそ9ヵ月、試行錯誤を繰り返しました。
 洗腸から脱出した経過は図表1(ここでは省略)に示しましたが、さらに10年以上たった現在も排便は「便意もあり、自立している」状態だというのです。
 このケースは病気だから便秘になるのではなく、「良い習慣を身につければ、便秘は予防できる」という見本なのです。
 驚いた私は、患者さんの許可のもと、埼玉県川越市で治療院を開業するその指圧師・村岡曜子先生と連絡を取り、成果と根拠を共同で、平成21年の日本二分脊椎研究会で発表しました。

 「薬や浣腸や洗腸や手術以外に、手軽な便秘解消の方法がある」という発表は注目され、反響がありました。その後、指圧だけを試みる患者さんも増え、村岡先生は成果と理論付けをして、平成24年の日本二分脊椎研究会に発表しました。また、平成25年には、心身障害児総合医療療育センターのスタッフのために、日本指圧専門学校の実技行使を長く務めた鈴木林三先生と村岡先生がおいでになって、指導くださいました。
 そして、村岡先生の主催するNPO法人基本指圧研究会は、平成26年には公益財団法人日本二分脊椎症・水頭症研究振興財団から助成金を授与され、“公認された便秘の治療法”になったのです。(次回につづく)


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藤原先生が「便秘改善のための体操、指圧について」を執筆・掲載

2020年08月26日 | 素晴らしい指圧効果

 久々の投稿になってしまいましたが、本日は嬉しい報告をさせていただきます。
 今回、脳神経外科医・藤原一枝先生が、社会福祉法人日本肢体不自由児協会発行の療育図書「はげみ」に、「便秘改善のための体操、指圧(腹部マッサージ)について」と題した論文を執筆されました。『手足の不自由な子どもたち「はげみ」』6/7月号に「排泄・トイレ」という特集です。
 藤原先生は元東京都立墨東病院脳神経外科医長で、藤原QOL研究所を主宰しておられます。先生は、私が二分脊椎症の中学生を自力排便に導いて成功したことをお知りになり、2009年と2012年の2回、学会で発表してくださいました。
 当時はまだ3例しか扱っていませんでしたが、これがきっかけになり指圧治療にも拡がりがでてきました。治療院に来て指圧を受けるだけではなく、ママ達が自宅で圧すこと覚えたいという気運が自然発生的に盛り上がってきました。今では、その方々のLINEグループができています。しかも、それなりに成果を出してきたのには驚いています。

 最初に「指圧を覚えて子どもを圧す」ことにチャレンジしたのは、青森のお母さんでした。素人が覚えるのはたいへんだったと思います。「これでいいのかな?」と、圧しても手応えを感じるまでは、疑問ばかりだったようです。頼れるのは、自前の「わが子を思う一念」だったのでしょう。
 2週間に1回、子供の排便状況をファクスで送信、私がそれに対して指導をする。また、年に1~2回来院して、親子共ども指圧を受けて勉強。カゼ程度は、圧して治せるようになってしまいました。彼女とのファクスは、約3年分になりました。当時のたいへん貴重な資料として、またお母さんと私の頑張りの証として大事に保存しています。
 二分脊椎症との関わりは、およそ12年になりました。現在、自力排便成功は、12名。現在チャレンジ中が4名で、もうひといきです。

 藤原一枝先生が、便秘の問題への取り組みを、わかりやすいカタチにしてくださったのが、絵本「ちょうかいちょうのきょうこちゃん」です。その後便秘解消のための「きょうこちゃん体操」ができました。音楽になりCDもできました。
 先生とのご縁で、指圧を通して二分脊椎症の方々の「はげみ」になればなにより嬉しいことです。それは私のはげみでもあります。圧すことで、1人でも多くの人に喜んでいただけることが、いちばん喜びなのです。


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