便秘改善のための体操、指圧(腹部マッサージ)について
東京都立墨東病院 脳神経外科
心身障害児総合医療療育センター
藤 原 一 枝
(前回のつづき)
2 何が良いのか
「指圧が便秘に劇的に有効であり、効果は持続的で、もう浣腸や洗腸をしなくてもよくなった」患者さんの発見は、いろいろな視点から検討されました。
まず、腸の働きには、栄養吸収と便の排泄があります。便の排泄のために腸が収縮する動きは蠕動(ぜんどう)と呼ばれています。いつだってその動きの方向は肛門の方に向かっています。腸の中に動きを敏感に感じる神経があるのですが、ストレスだったり、運動不足で蠕動が悪くなり、便秘になります。
その時に、「あなたのことを気にしているよ」というメッセージが、温かい手で、優しい仕草で伝われば、腸の動きをコントロールしている副交感神経は働きを高めます。おなかの皮膚のマッサージだけでも副交感神経には効果があり、腸の動きは良くなります。
つまり「お腹を上手に押す(圧す)こと」はおなかの外から腸管まで(物理的な)刺激を与え、さらに効果のある蠕動を起こしているのです。
3 指圧(図表2)
基本の基本、落ち着いた環境で始めます。
温かい手でゆっくり触ります。
仰向けに寝かせた子どもが息を吐き終えたタイミングで、両方の手のひらを重ねた上の方の手のひらで、やさしくゆっくり垂直におなかを圧(お)します。
おへそから時計回りに少しずつ手の位置を移動させながら、左太ももの付け根まで「の」の字に押すのがコツです。大人の手が大きくてやりにくいときは、おなかの四隅を、右下→右上→左上→左下と圧すだけで十分です。
圧すことに慣れてくると、便がどこに溜まっているかわかってきます。圧した後に、便通がありますが、便秘のときに圧すだけでなく、予防として毎日行うことをお勧めします。
1度に行うのは5周くらいで、朝か夕の1日1~2度で良いでしょう。満腹の時は避けましょう。
*注意*
頑固な便秘は、それを治してから取り組んでください。「便秘にならないように習慣づける」気持ちで、始めることをお勧めします。
*動画紹介*
実技はYouTubeにアップロードされていますので、ご覧ください。日本指圧専門学校実技講師の鈴木林三先生の実技は後半に収録されています。「正しい指圧、子ども」で検索可能です。
(https://www.youtube.com/watch?v=f_pzT5YRdfw 正しい指圧)
エピソード紹介
先の村岡先生によると、おなかの指圧を受けるときに「息を吸って、次に吐く時に圧す」というタイミングを覚えてから、深呼吸をよくやるようになった幼児がいたそうです。意識的な腹式呼吸が、腹筋を強くしていたと思われたので、小さい子どもに、深呼吸を促すことを勧めているそうです。
二分脊椎で浣腸が習慣だった高校3年生の車椅子の男性に、私も指圧を紹介しました。「春から1人暮らしをするので、是非チャレンジしたい」を3回指圧を受け、自分で実技をマスターしました。便も硬さが減って出やすくなりました。なによりも便意が分かるようになったことが嬉しかったそうです。
4 体操の開発秘話
静岡市にある日本平動物園のニシキヘビの便秘を園医の長倉綾子先生がレポートしていました。ヒントをいただき、動物の便秘の苦しさを見せながら、「快調は快腸から」と子どもにアピールする絵本を私は作りました。便秘の解消は脳にも良いのです。ニシキヘビの名前を取って、本の題名は「ちょうかいちょうのキョウコちゃん」です。
キョウコちゃんの便秘の原因は、運動不足でした。絵本で展開される体操を実際に行おうと、ジャズダンスの心得のある友人・根岸道子さんの協力を得て、歌付き体操を考案しました。
その「スーパーヘルシーキョウコちゃん体操」は、おなかをひねったり、伸ばしたり縮めたりして、腸の動きを促します。覚えやすい歌詞で、正味1分間の体操です。
道具も不要で、ちょっとしたスペースがあれば年齢を問わずできます。短い時間でできるので、家庭だけでなく、保育園や幼稚園、学校でも毎朝の習慣として取り入れてほしいと、平成28年から出前授業も行っています。紙芝居やぬいぐるみ、(硬いウンチ代わりのボールが出てくる。動画にも登場)も作りました。(次回につづく)