昨年夏のことでした。鈴木林三先生の治療所で、先生が丹精されている草花がみごとに開花したのを見て、思わず「これは何という花ですか?」と聞いたことがあります。曼陀羅華という朝鮮朝顔の原種であることを、初めて知りました。
白い花ですが、渋みのある葉の色が花の清楚さをより引き立たせています。花と葉の相性の素晴らしさに、さすが自然の世界は素晴らしいと心底感心しました。こんな素敵な花の柄の着物が着たいなぁ、などと思ったほどです。先生にお願いして、種を少しいただきました。5月頃が巻き時と聞いたので、ティッシュにソッと包み大事にしまってそのときを待ちました。
ゴールデンウィーク前々日。
「よし、今日がいい!」
新しい植木バチに土を入れて、種をソッと蒔きました。日当たりのよい場所に置き、毎日水やりを欠かさずに芽が出るのを待ちました。可愛らしい双葉がでてからは順調に育ち、あの清楚な白い曼陀羅華を毎日楽しめるようになりました。「種が取れたらほしい」との予約がたくさんあります。
250年前、華岡青洲が世界で初めて、全身麻酔で乳癌の手術を行ったのは有名な話です。後に西洋薬学の発達により、華岡青洲が生み出したこの「痛仙散」といわれる麻酔薬は使用されることがなくなりました。当時、治療所・医学校・住居を兼ねた春林軒の青洲のもとに、全国から全身麻酔を学ぶために若い医師が大勢訪れたそうです。その医師たちにより痛仙散は、各地で多くの病人を助けたといわれています。
曼陀羅華がその痛仙散の主成分であることは、様々な調査で明らかになっています。曼陀羅華の実の部分が用いられ、その他にトリカブトなど五種類の薬草を配合して作られたといいます。
ひとつ間違えると人の命を奪ってしまう劇薬の痛仙散です。この成分分量は文字に残してはならないとのかたくなに教えが守られていて、文献として現存しないといいます。それゆえ、今でも正確な痛仙散を再現することはできないそうです。
そんな毒を持つ曼陀羅華が、この夏の厳しい暑さの中で美しい姿を見せてくれます。猛暑の中の一服の清涼剤となった美しい白い花。理屈抜きで素敵です。