私の指圧治療室は建物の1階。2階と3階は大家さんが使っています。名前は中村マチ子さん、美容師です。2階が彼女の仕事場、3階が自宅です。マチ子さんは、体調が悪くなるとすぐ1階に降りてきます。
先日の日曜日も、夕方降りてきて、「頭が痛いのヨ」と、とても辛そうな顔をしていました。マチ子さんの「痛み」は、ほとんどの場合は5~6分圧せば楽になってしまうのです。
この日の頭痛も圧し始めて3分、「あー、楽になった」と言うので、そばにいた患者さんが「えー? 手品みたい。たった今、あんなに辛そうな顔をしていたのに」とびっくりして、本人の“落差”の激しさに、思わす笑っていました。
受け手の筋肉のバランスを考えて、さらにもう少し圧し、10分強の施術で、元気に町内の集会に出かけていきました。
かなり具合が悪いときでも、30分もあれば彼女は生まれ変わったように元気になります。 先日も「腰が変なの」と言って、安木節を踊っているような格好で降りて来ながら、10分程度の治療で腰が伸びて、改めてびっくりしていました。
私は治療室へ自宅から通っています。朝着いたら、真っ先にやるのが掃除です。治療室に着いたとき、掃除が終わっていることが時々あります、朝からマチ子さんがやってくれたのです。そんなときは彼女の身体に何か異常があって、私の指圧を待っているときです。
圧される人も、それを見ている人も、簡単に治しているように見えるようですが、これができるようになるには、強圧しの指圧をやってきた18年と、必死で“浪越徳治郎先生の指圧”を学んだ10余年があるからです。
痛い所だけを圧したのでは、かえって悪くしてしまいます。受け手の身体の手応えを感じながら、バランスをとって身体を弛めていくのがとても大事なのです。
もちろんまだまだ未熟ですから、さらなる上達に向けて日夜精進しています。
今日は、「書道について」です。
私が書いた単行本「自然治癒力を高める基本指圧の絶大効果」の中でも触れていますが、私には2つのコンプレックスがあります。今もこのコンプレックスが消えたとは言えません。
1つは「歌」。カラオケに行っても、皆に聞いてもらえるほど、自信を持って歌える曲がないのです。
いま1つは「字」です。これは文章力を言っているのではありません、書く文字が、自分で贔屓(ひいき)目に見ても、「上手(じょうず)」とは言えません。端的に言えば「下手(へた)」ということなのです。
私が指圧の師匠として尊敬し、ご指導をいただいている鈴木林三先生が、ご自身の還暦祝いのとき、「指圧だけではなく、もうひとつ何かを持つことが大事だと思う」と仰ったことに触発され、私も「何かをしたい」と思うようになりました。指圧しかなかった頭にひらめいたのが、2つのコンプレックスでした。
「50の手習いで、書道に挑戦しよう」
私は恥も外聞もかなぐり捨てる決意をかためました。ところが、家族はびっくりしたようです。
「生来の悪筆が、何を今さら」
基礎を知らない私の挑戦は大変でした。書道塾の先生に、筆の持ち方ひとつから教えてもらい、7級からの出発でした。
初段か、2段になった頃だと思います。私が夫に「また昇段した」と伝えたところ、「虚仮(こけ)の一念だね」との言葉が返ってきたのです。私は、褒(ほ)められたのか、貶(けな)されたのか、とっさのリアクションに迷ってしまいました。
つぎに書道の練習に行ったとき、先生に夫から言われた言葉を伝えたところ、これが大受け。先生はつぎに、私の書いた書を褒めるとき、「虚仮の一念だわね」と言うのです。私は思わず、「先生、それって褒められていると思えないんですけど」と言ってしまいました。
私は必死でした。仕事をしながら暇を見つけては練習に励みました。3年たって5段、その半年後には錬士に昇進しました(墨雅書道会公認)。
2つのコンプレックスの1つが、いくらか薄れてきた感じがありますが、「厳しい評論家」の夫には、「せっかく昇進しても、ふだんの字には生きてこないなぁ」と言われています。
今日は、69歳の男性のお話をお伝えしましょう。この方は会社の経営者で、ゴルフもホールインワンを2回もやったほどお上手です。今年のゴールデンウイーク頃から、ときどき膝に違和感を覚えるようになったそうです。
夏が近づき気温が上昇するにつれ、違和感は強くなってきました。ゴルフもできるし、階段の上がり降りも問題ないのに、正座だけができません。膝が曲がらなくなったのです。この方は会社でも、自分の椅子の上に正座しているほどなので、その苦痛を強く訴えていました。
糖尿病の人は、自分の身体をよくしようなどと考えない人が多い。自己管理をしようとしない傾向が見られます。この方も糖尿病です。
膝の違和感は腰からのものなので、圧して腰が弛めば正座はできます。ですから、施術後すぐなら、その場で正座できるのです。腰には身体を冷やすことがいちばん悪いので、折にふれて「身体を冷やさないでほしい」と話すのですが、自己管理のできる人ではありません。「早く直して…」と他力本願のみなのです。
“圧せば坐れるが、すぐまたダメになる”―この繰り返しでイライラするらしく、あるとき「接骨院へ行ってきた」と言って、シップ薬を貼っていました。そんなことをしても、治るわけではないのに…
先週、施術のとき、「大丈夫、もうすぐ治りますから」と断言して、その通りになったのが不思議だったらしく、昨日来院した折、「暗示にかけられたのかな」と言いながらも、膝が楽になって嬉しそうでした。
涼しくなったので事務所のクーラーもかけなくなり、大好きなビールも一気飲みしなくなったから、体が強く冷えなくなり、腰が弛み、膝が楽になったのです。冷えた部屋でビールの一気は、69歳の身体には厳しかったという、「膝の痛みも彼岸まで…」のお話でした。
9月20日、4回目の来院だったS子さん。20歳のすらりとした美人女子大生、ニコニコしてとても元気そうでした。
この夏休みに入ってすぐ、お母様から相談がありました。娘さんがうつ病と診断され、投薬治療を始めたが、指圧を受けさせてみたいというのです。当院スタッフにより施術を開始しましたが、前頸部の治療がなかなか難しく、2回目から私が担当することになりました。
前頸部4点目が、極端に内側に入り込んでしまって、うまく圧せない。腹部もとても頼りない感じでしたが、「これなら大丈夫!」と直感できる手応えがありました。
今回の施術は4回目、彼女の前頸部は見違えるほどきれいになり、十分圧せるまでに変わりました。本人の主訴であった強いイライラも消え、下肢の皮膚の痒み、極度の不眠と食欲不振、吐き気、下痢、便秘等の繰り返しが改善されました。
今週末から語学留学のため「タイ」へ出発することになっていましたが、予定通り元気に行けると喜んでいました。病院で処方されていた抗うつ剤も、ここ1カ月は必要がなくなり、やめたということです。
彼女は学業とアルバイトで超多忙の上、身体を極端に冷やしてしまい、全身コチコチに固めてしまっていたのです。 毎日の入浴も、時間がないとシャワーだけで過ごしていたそうです。
ことに夏は、汗をかいただけでも身体を冷やします。その上クーラーや、冷たい飲み物、食べ物等々……。夏こそ、毎日ゆっくり、湯舟で温まらなくてはいけないのです。
「指圧の感想は?」と聞いてみた。
「圧されるとすぐお腹がすくし、その日は翌朝までぐっすり眠れます。身体がよくなったので、すっごく嬉しい」
それにしても「病膏肓(こうこう)のツボ」(注)と言われる、前頸部4点目の治療効果は凄い、と実感しました。
(注)「病膏肓のツボ」については、興味のある方は 「『自然治癒力を高める基本指圧の絶大効果』 村岡曜子著 文芸社」 を参照してください。 文芸社の「電子書籍」はhttp://www.boon-gate.com/からリンクできます。15のゲートのうち、09「趣味・実用・スポーツ・健康」の項にあります。
この患者さんは、北海道へ3泊の旅行をして、帰宅して10日間、全く便通がないということでした。私の治療院へ来られた日も、「細い物がわずかにあった」と言うことです。 脊椎分離すべり症が持病だそうですが、これは分離症があるために椎骨の前の部分が前方にすべった状態になるもので、腰痛や足の痺れの原因になります。
この方も、長年、腰痛を忘れたことがないということでした。全身が驚くほどコチコチ、それを指圧で「どうだ!」というぐらいお腹を弛(ゆる)め、3日後まで様子を見て、ダメならまた電話を下さい、と言って帰ってもらいました。
3日後、朝一番で電話がありました。ほとんど変化がなく、ごくわずかに細いのが出ただけ、と言うのです。またまた残業のハメになりました。 鈴木林三先生に、状態を話して指導を頂いた。「頸(くび)だね。神経的な便秘は、お腹を弛めるだけでなく、頸にも原因があるはず。全身を圧し終えて、もう一度頸に戻って圧してみなさい」
先生のアドバイスを念頭に、もう一度旅行の様子を聞いてみたところ、相当神経を使う旅行だったとか……。「あった、あった」 全身を圧したあと戻ってみたら、左後頸部1点目のすぐ下に、それまでなかったコリが出ていた。固く詰まって隠れていたコリだったが、全身が弛んで、頸も少し伸びたので出てきたのです。
翌日その方の娘さんが治療に見え、「今朝、父が感激していました」と報告を受けました。以後、この方のお腹の具合は順調で、とても元気。定期的に指圧を受けたいと、予約が入りました。
人間の身体ってすごいなあ、と改めて感じさせられたものです。 余談ですが、これでもか、と言うほど腹部を弛めたので、「この3日間、こんなに腰の軽いことは今までになかった」、と仰っていました。腰痛はやっぱりお腹です。