たんなるエスノグラファーの日記
エスノグラフィーをつうじて、ふたたび、人間探究の森へと分け入るために
 



7月半ばから8月にかけての体調の絶不調から、9月は絶好調へと転じ、今月、わたしは、夜間におこなわれる油ヤシのプランテーションでのイノシシ猟に4回、昼間のジャングルでのハンティング2回、計6回の狩猟行に同行した。

ジャングルでのハンティングとは、当初は、なんと厳しいものかと感じたが、しだいにそれに慣れてきたように思う。それは、獣に感づかれないために、なるべく音を立てないように、ゆっくりとゆっくりとジャングルのなかを進んでいくタイプの狩猟であり、ときには、急峻な山を登ったり、険しい箇所をくぐりぬけたりしなければならないこともあるが、最近は、それほど苦には感じなくなってきた。しかし、時間をかけて(5~6時間におよぶ場合もある)ジャングルのなかを歩きまわるので、わたしにとっては、その疲れが、後からどっとやって来ることが多い。

さて、ジャングルのハンティングでは(も)、獲物としては、イノシシがもっとも好まれるが、あたりに、イノシシの新しい足跡が見あたらない場合、樹上のサル類や鳥類、シカ類などが狙われる。そのような過程で、狩猟を成功させるために、さまざまなしかけがおこなわれることが分かってきた。ようやく、ハンティングの奥深さを知る入り口に立つことができたように思う。

そのひとつとして、わたしが観察することができたのは、大空を舞うある鳥(日本名など未同定)をおびき寄せるためにおこなわれる、鳥の鳴きまね(pekewe)の様子である。その鳥の鳴き声が、コー…、コー…、クワッ、クワッ、クワッ…と、ほとんどそっくりにまねされる。鳥は、オスでもメスでも、その鳴き声に誘われて、近づいてくるのだという。残念ながら、その日は、鳴きまねをするハンターの近くにはやって来なかった。ハンティングから戻って、一人の老人に、そういったことをおこなったことがあるかどうかを尋ねたところ、鳥の鳴きまねは、古くからおこなわれているもので、彼は、若いころには、樹上によじ登って鳥の鳴きまねをして、やってきた鳥を吹き矢で射止めたと語った。

もうひとつは、シカ、とりわけ、マメジカをおびき寄せるために吹かれる草笛という猟のための工夫である。ジャングルのなかを歩いている途中、藪のなかから、ガサガサという音が聞こえた。プナンのハンターは、その足跡を見て、マメジカが逃げ散ったのだと判断して、草笛を吹いた。ふつう、そのような場合、マメジカは、その草笛の音色を聞いて、その場に戻ってくるのだという。しかし、それは、そこには戻ってこなかった。戻って来ないことから考えると、それは、マメジカではなく、イノシシだったのだろうと、彼は語った。

吹き矢を用いたジャングルのハンティングでは、プナン人のハンターが、小鳥を二羽とらえた。一羽は、木に止まったところを、10メートル位の距離からしとめた。もう一羽は、虫類を食べるために、地上近くに降りて来たところをしとめた。吹き矢猟では、見事に、百発百中であった。小鳥は、矢に塗られた毒が身体にまわるあいだ、数分間動いていたが、急に、頭をガックリと倒して、息絶えた。

プナンのハンターたちは、どの動物が、人間のにおいに対して敏感であり、どの動物が、においには無頓着なのか、ということについて、豊富な知識をもっている。前者には、イノシシ、ブタオザル、シカ(サンバー)、マメジカなどと、鳥類の一部がいる。ジャングルのなかで、それらの動物を追う場合、風上に立たないようにしなければならない。

知識と経験を生かしながら、今日も、プナン人のハンターによって、ジャングルでのハンティングがおこなわれている。



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