Reflections

時のかけらたち

黒澤 明 樹海の迷宮 ・・・  Akira Kurosawa ・・・the labyrinth in sea of trees

2019-11-04 08:47:23 | books


図書館に早く返さなければとやっと先月の下旬より読み始めましたが、フェアアイルとか入ってきて
やっと昨日読み終わりました。次に借りたいマイスキーのチェロのCDがみつかったからです。延滞の本があると次の
予約ができません。600ページを超える本は簡単には読めませんでした。



最後についている映画のスクリプトは省きましたが、それでも400Pを超えました。
本のカバーが魅力的だと思ったら、マーク・ロスコの絵でした。

確かにこの映画は黒澤のターニングポイントだったのですね。それまでの大げさな表現ではなく、ナチュラルに
静かに淡々と友情と大自然を描きました。そしてこのメイキング日誌は映画よりもある意味おもしろくドラマティックでした。
この映画は自然とまたそれと闘う人間の尊厳ととして人間も大自然の一部ということを言いたかった、自然を大切にしたいと
いう黒澤の思いからできました。
映画と同じようにメイキングもそれ以上のドラマのようでした。池澤夏樹は未完の長編小説と書いています。



彼のその後の映画人生を広げるきっかけとなったこの作品のメイキングを明らかにしたことで
映画つくりと言うものがどれだけ、多くの人たちの努力によってなされるかと言うことが、よくわかるドキュメントでした。
世界の自殺未遂の後のクロサワに映画を作ってもらいたいという願いが、素晴らしい作品を生み出していきました。
今だから明かされる彼を支えた人々や、三船との関係など、興味深かったです。この映画には大げさな演技は必要なかった
のです。

彼の窮地を救ったソ連。またそれをおぜん立てした映画人。何十億と言う予算をかけても作り上げたい支える人たちの情熱。
ですから彼の作品は大ヒットしてもらわないと、制作費のカバーやそれに数年他を犠牲にしてかかわった人たちが
浮かばれません。

デルス・ウザーラの主役は大自然でシベリアロケだけで確か8か月。主役の二人はドンぴしゃでそこに至るまでの経緯や
トラまで子供のトラをみつけて育てて使ったという凝りようでトラの食費は監督の日当より高かったとか・・
せっかく育てたトラもうまく利用できず、主役のソローミンがこれ以上動物虐待を続けたら降りると監督に
言って、飼いならされたトラを使ったという…そしてそのトラが見事な演技をしたとか・・
自然を相手にした映画つくりは時期やロケーションや黒澤の思い通りにはいかず大変な苦労でした。ウォッカを一日に
一本あけながらわがままで暴言だらけの監督について行くスタッフやキャスト。今ならパワハラですね。

限りのあるフィルムの中でなんテイクも撮り直し、この映画は完成までに3年かかったとのことでした。
通訳の問題、気候の問題、多くの困難の中で作られた映画。他の映画もここまでではなくても、1作品を作るのは
どれだけ大変なのかと思いました。

この映画により、一度死んだ黒澤が、行き返りその後もいい映画を外国の力を得て作っていきました。乱で人間の愚かさと
世界平和を願った黒澤が今でも世界で見続けられていることは嬉しいことです。
映画はすべてがアートなんですね。自然も作る。スモークをおこしたり・・
ソ連映画も地元でよく見て、音楽の使い方などを研究して、作曲家を決めたり、民族音楽をたくさん聴いて
曲を選んでいく・・ 動物博物館に行って動物の足跡とか研究して、動物の準備するのも大変な苦労。
季節が違えば、造花の枯葉を敷き詰めたり・・。映画とは作り上げることだったのです。
予算によるフィルムの質。タルコフスキーの忠告を聞かなかったばかりに苦労する黒澤。そして
フィルムの事故による撮り直しの多発。フィルムをモスクワまで送って焼いて試写するという長い時間が
かかる作業。ライトが台無しにする映像・・・
数時間の作品を作るのにこの労力・・・ 衣類にもすごいこだわりがある黒澤。
黒澤が怒り、ほめ、誕生祝には主役に絵をプレゼントするやさしさもあり・・

今ではもうこんな映画つくりをする監督はいないのだろうなと思いながら、それでも映画つくりの手間は
同じようにいろいろな進化の中でもあるのだろうと感じてはいます。
淡々とそして人間に対する強いメッセージが底にある映画をいつかは劇場で見れたらと思います。


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