じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

葉室麟「蜩ノ記」

2019-12-11 18:11:24 | Weblog
☆ 葉室麟さんの「蜩ノ記」(祥伝社文庫)を読んだ。考えさせられる時代小説だった。

☆ お家の派閥争いに巻き込まれて、戸田秋谷は幽閉の身となった。家譜編纂のためとして切腹は10年間猶予された。命の期限を切られた生活。しかし死を前にしても彼は粛々と日々を過ごした。その日暮らしの記録を「蜩ノ記」に記しながら。

☆ 奥祐筆を務めていた檀野庄三郎。居合の腕がたち将来を嘱望された若い侍だった。ふとしたはずみで友人との刃傷沙汰に及び、切腹となる所を助命され、家老から戸田秋谷の監視役を言い渡される。

☆ 庄三郎は秋谷やその家族、村の人々と暮らすうちに、人として成長していく。

☆ 村では一揆の動きがあり、田畑を買い占めようとする商人とのいさかいがあり、横柄な役人との騒動があった。それに、主家の血筋をめぐる陰謀。こうした難事に遭遇しながらも、秋谷は武士としての筋を通して務めを全うする。

☆ 武士道とは言いながら、現実は権力を求めて陰謀、策略がまかり通る。取り巻きは権力者の顔色を窺い、忖度に余念がない。商人は利潤を求めて権力者にすり寄り、権力者は彼らのカネで潤う。難渋するのは百姓であり、市井の人々、庶民と呼ばれる人々だ。

☆ 身分社会は崩壊しても、この構図、人間模様は変わらない。

☆ あらぬ疑いをかけられて、農民の子どもが責め殺される。彼は幼い妹が怖がらないように笑い顔で死んだという。斉藤隆介さんの「ベロ出しちょんま」のように。

☆ 彼は秋谷の息子、郁太郎の友達だった。堪忍袋の緒が切れた郁太郎は、庄三郎とともに家老の屋敷へと向かう。そして・・・。

☆ 最後、使命を郁太郎や庄三郎に託し、物語は終わる。余韻が残る。


☆ 庄三郎は秋谷の生きざまを目の当たりにして「ひとは心の目指すところに向かって生きているのだ、と思うようになった」(352頁)という。示唆に富む。

☆ 術策を駆使しその地位を得た家老は「心がけの良き者はより良き道を、悪しき者はより悪しき道をたどるように思える」(374頁)と述懐する。それを知るがゆえに彼は秋谷を恐れたのであろう。

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