ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2022.10.7 エンハーツ33クール目 さらに減量29回目投与後9日目のこと 寒い金曜日に思うこと~つらくない抗がん剤治療もあるのですか?

2022-10-07 20:55:40 | 日記
 昨夜のこと。夫が「お風呂が沸いているから早く入って」と勧めてくれるので、それに従い脱衣所に行き、ぱっぱと裸になって入浴剤を手に浴槽の蓋を開けた。栓が抜けていて浴槽は空っぽ。アチャー、またやられた。こんなに寒いのに!慌ててまた洋服を着込み、ブーたれてソファに一直線。タオルケットに丸まった。

 この空っぽ浴槽事件はこれまでに一度や二度ではないので、まぁそれほど驚かないけれど、どうして栓をしないでそのままお湯を張るかなぁと思う。まあ、自分で確認しないのもいけないのだけれど。
 何とか身体を冷やすことなく温まり、風邪をひくことからは免れたようだった。身体が弱っているから何が起こるかわからない。くわばらくわばら。

 金曜日。いつも通りの目覚ましが鳴ってすんなり起きた。寒い。パジャマの上にニットのロングカーディガンを羽織る。夫などつい先日まで半袖リップルのパジャマを着ていたというのに。
 今にも降り出しそうな曇天だ。夫は出勤。洗濯物が溜まっているので、諦めて廻す。洗い上がったものは浴室乾燥と乾燥機と2つに分ける。元気なうちに夕飯の下ごしらえも済ませる。こうして一気に動くとまだ疲れるけれど、とりあえず気力が戻ってきたのが嬉しい。
 と、昨日は落ち着いていたお腹がまた痛み始め、普通便から泥便まで一気に乱下した。はあ。

 お昼過ぎには洗濯物の始末も全て終え、レンチンランチを恐々お腹に入れて、E先生の易しいデトックスヨガのクラスに向かった。外は冷たい雨だ。結構降っている。厚めのカットソーにロングコートで出かけた。
 参加者は16,7人。寝ポーズから座りポーズ、足のマッサージ、四つん這いと女神のポーズ等の若干の立ちポーズの後は長いシャヴァーサナで、ウトウトしてしまった。それにしても普段なら呼吸やマッサージのタイミングで汗びっしょりになるのに、相変わらず汗が殆どかけない。

 クラスが終わった後はシャワーを済ませて、夫のサプリ等を買いにドラッグストアに向かったが、土砂降りの雨で散々だった。夫の帰宅時も土砂降り。玄関で「タオル~」と言うくらいスーツがびっしょりだった。
 夕食も終え、母へのMeet通話も終え、リラックスタイムである。

 さて、いつも愛読している、読売新聞yomi.Drの連載コラム「Dr.高野の『腫瘍内科医になんでも聞いてみよう』」の最新号で、改めて今の自分の状況を整理することが出来た。長文だが、下記に転載させて頂く。最近は中学生のがん教育に因んで、中学生からの質問に答える形でコラムが記されている。

 ※  ※  ※(転載開始)

つらくない抗がん剤治療もあるのですか?(2022年10月5日)

 今回も、中学生からの質問です。
 「抗がん剤治療はつらいという話を聞きますが、楽にできる抗がん剤もあるのですか?」
副作用の出方は、一人ひとり違う
 がんになったら抗がん剤を使うということは、よく知られていますね。ただ、つらい副作用をもたらす悪いイメージが先行していると思います。髪の毛が抜けて、ゲーゲーと吐き、食欲もなくなって、やせてしまい、ぐったりと横になって過ごしている――というのが典型的なイメージでしょうか。
 確かに、抗がん剤は、世の中に存在する薬剤の中でも副作用が強い方であるのは間違いありません。でも、副作用の出方や程度は、使う抗がん剤によっても違いますし、同じ抗がん剤でも、患者さん一人ひとりで違います。生活に支障が出て仕事を休むことになる方もいますし、普通に生活し、仕事を続けながら抗がん剤治療を続けている方もいます。
 副作用を和らげる「支持療法」も進歩していて、吐き気などは以前よりもだいぶ抑えられるようになっています。見た目(アピアランス)のケアや、気持ちのつらさのケアなども含め、様々な形で、患者さんを支える仕組みもできてきました。
分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬は
 副作用が比較的軽い抗がん剤も増えています。抗がん剤とは、狭義では、細胞を無差別に攻撃するような「殺細胞性抗がん剤」を指しますが、広義では、がんを抑えるために用いる薬剤の総称で、「分子標的治療薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」や「ホルモン療法」なども含みます。
 分子標的治療薬は、がん細胞に特徴的な分子に狙いを定め、がん細胞だけに作用することを意図して作られた薬剤です。正常細胞も無差別に攻撃してしまう抗がん剤よりも副作用が軽いとされています。体全体の免疫に作用する免疫チェックポイント阻害薬や、ホルモン環境に作用するホルモン療法も、比較的副作用は軽めです。
 近年開発される広義の抗がん剤の主流は、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬で、患者さんに比較的やさしい治療が増えていることになります。ただし、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬でも、つらい副作用や、命にかかわるような重篤な副作用を起こすことはあり、どの薬剤を使うときも慎重な対応が求められます。
マイナスを上回るプラス面を期待して
 副作用の軽い薬剤が増えつつあり、副作用を和らげる方法も進歩していますが、それでも、副作用をゼロにできるわけではありません。唯一、副作用をゼロにする方法があるとすれば、それは、「抗がん剤治療をやらないこと」です。
 ただ、ここまでの説明では、大事なことが抜けています。治療によって得られるプラス面です。副作用というマイナス面だけを考えるのではなく、プラス面とのバランスで考えることが重要です。
 「抗がん剤にはつらい副作用がある」というのは事実で、そんな治療を好んでやりたいという人はまずいないでしょう。それでも治療を受けるのは、マイナスを上回るプラスがあることを期待しているからです。抗がん剤がつらいだけで、好きなこともできなくなってしまうのであれば、そんな治療はやらない方がよいに決まっています。治療は、何らかの目標に近づくためにやるものですので、自分が何を大事にしたいのか、どのように過ごしたいかという思いがなければ、治療を選択することはできません。
治療で何を目指すのか
 仕事を続けることを一番大事にしたいのであれば、仕事を続けるのにマイナスになってしまうような治療は見送った方がよいでしょう。でも、抗がん剤で病気を抑えることが、長期的に見たら、仕事を続けるのにプラスにはたらく可能性もありますので、長期の予測も含めたプラスとマイナスのバランスで判断する必要があります。
 「いい状態で穏やかに過ごすこと」が目標であるならば、その目標に近づけていることを実感しながら抗がん剤治療を受けるのが理想です。
 もし、何もプラスを感じられないのであれば、治療中止も考えるべきでしょう。
 「担当医がやった方がよいと勧めているから」
 「これが標準治療だと言われたから」
 というだけで、何のために治療しているのかを理解しないまま漫然と治療を受けていると、つらい副作用というマイナス面だけが際立ってしまいます。目指すべき目標があって、それに見合ったつらさだと思えるかどうかが重要です。
 もし、今受けている治療がつらいだけだと思っている患者さんがいるとすれば、それを担当医に伝え、よく話し合うことをお勧めします。つらさを上回るプラスがあることを説明してくれるかもしれませんし、プラスを感じられないのであれば、やっぱり中止が妥当なのだと思います。
治療をしないことがプラスになることも
 病状によって考え方は多少異なります。
 早期がんの術後に、再発予防のために受ける抗がん剤治療は、今はつらい思いをするとしても、再発を防ぐことで将来得られるものが、マイナスを上回るかどうかで考える必要があります。
 遠隔転移のある進行がんで、がんに伴う症状がある患者さんは、抗がん剤治療を受けることで症状が改善しているか、副作用も含めて総合的に体調が上向いているか、それを本人がプラスと実感できているかどうかが、治療を継続すべきかどうかを判断する重要なポイントとなります。
 進行がんなら何らかの治療をしていて当然、ということはなく、治療をお休みするという選択肢は常にあります。今受けている治療がマイナスになっていると感じるのであれば、その治療は休んだ方がよいでしょう。
 薬は単なる道具であって、「プラスになるなら使う、そうでないなら使わない」のが原則です。「何か治療をしていなければいけない」という前提で考えると、治療をしないことは、「あきらめ」のように感じてしまいがちですが、あきらめたくないからと、つらいだけの治療を続けてしまうのは得策ではありません。マイナスになる治療をしないことの方がプラスであって、それはけっして何かをあきらめるということではなく、「いい状態で穏やかに過ごす」ための積極的な選択です。
 総合的に「楽な」状態を目指すのが医療の本質であり、抗がん剤でそれが得られるなら積極的に使い、逆行してしまうなら、「つらい抗がん剤治療」をしないのが得策です。そして、抗がん剤を使っていても使っていなくても、積極的に緩和ケアを行うことで、より「楽な」状態を目指すことができます。
楽に過ごせるような選択を
 「楽にできる抗がん剤もあるのですか?」という質問には、こう答えたいと思います。
 「つらい抗がん剤」と「楽な抗がん剤」があるということではありません。「つらい」状態を和らげ、「楽な」状態を目指すために使う道具の一つが抗がん剤であって、重要なのは、その使い方です。抗がん剤を使えば楽になる、というのが本来の使い方ですし、抗がん剤をお休みする方が「楽な」状態であれば、休んだ方がよいわけです。「つらいだけだけど、やらなければいけないもの」というイメージを 払ふっ拭しょく できるように、抗がん剤の適切な使い方を考えていきたいですね。(高野利実 がん研有明病院院長補佐)

 (転載終了)※  ※  ※

 患者が、出来ることなら少しでもつらくない治療を求めるのは人情だ。だからたとえ胡散臭くても、藁にもすがる思いで代替療法やら自由診療やらに流れたくなる気持ちはよくわかる。
 けれど、進行再発乳がん患者の私が求めるものは、少しでも楽に普通の生活を続ける時間を稼ぐこと。これは揺るがない。だから今は納得して“10日耐えて18日動き回る生活”を続けている。この10日間については、先生が冒頭で書いておられるような、抗がん剤の典型的な副作用に見舞われる、かなりしんどい状況であるのは間違いない。

 もちろん、もし10日耐えて25日動き回れる生活を同様に保障してもらえるならば、3週間に1度を4週間に1度にした今の治療のタイミングを、さらに5週間に1度に変更することも出来るかもしれない。
 そもそも3週間を4週間にしたのは、そのインターバルでは好中球が上がらなくなったという事態だったから。内心ほっとしたのも事実で、21日のうち10日耐えるという生活を続けていくのは精神的にも肉体的にももう限界だなぁと思っていた。均らせば1か月のうちに半分はほぼ寝たきりに近い体調不良であり、1年生きていても実際には半年しか動けないという状況はかなり辛かったからだ。

 けれど、それは保証の限りではないし、自分の身体で人体実験をするしかない。5週に1度でも今の症状をキープ出来るかもしれないけれど、逆にそれをきっかけに増悪して、リカバリーが難しくなるかもしれない。
 だから、様子を見ながら身体が悲鳴を上げないうちは納得して(その割には毎クール弱音が出まくりだが)今の4週間に1度の治療を続行しているわけである。

 ホルモン治療や分子標的治療が広義の抗がん剤治療に含まれるのは言うまでもない。17年半にわたり、多種多様な治療をやってきて、副作用の出方は本当に人それぞれだと思う。私は単純なのか、薬への感受性が高く、どの薬も総じて良く効く。そのかわり副作用もしっかり出る。

 初発の術後、ホルモン治療と放射線治療が並行して始まった。
 ホルモン治療は比較的楽だといわれたけれど、他の治療法を経験していない身としては「そんなことはない。滅入るし、注意力は散漫になって堪え性がなくなるし、しんどいではないか。」と思われた。

 放射線治療は1回の時間も短く、その時に痛みはない。しかし、25回連続で毎日通院するのは大変だった。当時は疲れやすさと皮膚の赤みやかゆみが出た以外に特にしんどさは感じなかったが、汗腺がやられていまだに照射部にろくに汗をかかないという置き土産がある。

 再発後、抗がん剤タキソテールを体験したら、いきなり好中球減少症による高熱にノックアウトされて緊急入院。冗談ではなく自分の葬儀がリアルに夢に出た。これに比べればホルモン治療も放射線治療もとんでもなく楽だとも思った。その他EC、ナベルビン、ジェムザール、ハラヴェン、ゼローダ等々、一概には言えない。

 一方、抗HER2分子標的治療薬のハーセプチンは初回発熱し、少し疲れやすいという副作用はあったが、全体的にとても楽で、良く効く薬だった。その他、カドサイラも後半は吐き気等が酷く出たが、最初の頃はかなり楽に過ごせた。タイケルブやパージェタは下痢に悩まされたものの、上乗せ抗がん剤と組み合わせなければ比較的楽にやり過ごせた。

 けれど、これまでの治療で初めて2年を超えてお世話になっているエンハーツは、同じ抗HER2分子標的治療薬であるとはいえ、大量の抗がん剤(デルクステカンの抗腫瘍活性はイリノテカンの約10倍)をリンクさせているだけあって、私にとっては狭義の抗がん剤に匹敵する辛さである(それでも、一度も入院せずに通院だけで体調管理しているのだから我ながらよく頑張っていると思う。)。

 このように、再発後も出来るだけ仕事を長く続けることを目標に、14年半にわたって治療を続けてきた。おかげさまで目標だった定年まで勤めあげることが出来た。
 そして今、こうしてエンハーツが効いてくれて、今まで出来なかったことが出来る時間を得られたとなると、また欲張りな気持ちが湧いてくる。自分でこれほどまでにしぶとくかつ貪欲だとは思わなかったのだけれど。

 病気ではなかった頃、定年まで頑張って働いて、その後は好きな時に海外旅行に行って、映画を観て、本を読んで、新しい趣味も始めて・・・という第二の人生を思い描いていた。けれど、再発した時に、あぁ、もうそんな生活はとても叶わないのだな、と覚悟した。それが、今、治療を続けながら、コロナ禍の難しさはある中でも現に叶っているではないか。
 しかも患者会で瞑想ヨーガのクラスを担当するという、再発当初には考えられなかった活動さえ続けさせて頂いている。

 辛い治療かもしれないけれど、それによって得られるプラスは決して小さくない。だからこそ、治療を続けられるのだ、と思いを新たにしつつ、これから先の旅行のスケジュール等をチェックして、ニヤリとする金曜日の夜である。

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