ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2013.7.15 傷つく進行再発患者―という視点

2013-07-15 21:29:35 | 日記
 以前から何度もご紹介している読売新聞の医療サイトyomiDr.に連載中の高野先生の「がんと向き合う ~腫瘍内科医・高野利実の診察室~ 」。
 長文だが、本日付最新号を以下、転載させて頂く。
 以前よりどうもなんだかなあ・・・と思っていたことを代弁して頂き、とても嬉しかったので・・・。今回のお題はエビデンスとは無縁のイメージ先行スローガンに絡めた「早期発見・早期治療」の意味である。

※  ※  ※(転載開始)

「早期発見・早期治療」の意味
 がん検診は、がんになっていない人を対象に行うものですので、今生きているすべての人に関係する話です。
 でも、多くの日本人は、「がん検診は受けたほうがよいのか?」という疑問に直面しながらも、結局、「自分の問題」として考えることはなく、社会全体としても、議論が深まらないまま、この問いかけは、曖昧に放置されています。

エビデンスなきスローガン
 ちまたでは、「早期発見・早期治療」というスローガンが連呼され、それが「素晴らしいもの」だというイメージだけが、ばらまかれていますが、実際のところ、「早期発見」や「早期治療」とはどういうことなのでしょうか?そして、本当に、それは、人々の幸せにつながっているのでしょうか?
 自治体の担当者も、「早期発見・早期治療」を訴えますが、検診を受けることで、どれだけ「いいこと」があるのか、あるいは、どれだけ「よくないこと」があるのか、という説明は、あまりしてくれません。彼らにとって大事なのは、ただ、「検診受診率」を上げることであって、受診者が恩恵を受けるかどうかには、興味がないのかもしれません。
 残念ながら、これまでの日本では、がん検診について、エビデンス(根拠)に基づく議論は、ほとんどありませんでした。「早期発見・早期治療」というのは、いわば、信仰の対象であって、その教義を信じるか、信じないか、という問題になってしまっています。自治体の担当者も、それをお経のように唱えて、日本人の信仰心に訴えようとしているわけですが、この方法では、検診受診率は上がっていないというのが現状です。
 今こそ、エビデンスに基づく議論をすべき時なのだと思います。

「見せかけ」の可能性も
 まず、「早期発見」「早期治療」の意味を考えてみましょう。
 「早期発見」というのは、放っておけば、進行して命を奪うようながんを、根治可能な早期の段階で見つけることです。「早期治療」というのは、放っておけば、進行して命を奪うようながんを、早期のうちに治療して、根治させることです。
 理想的ながん検診が行われ、本当の「早期発見・早期治療」を実現できれば、早期がんで見つかる人が増え、その分だけ、進行がんになる人が減り、がんで死亡する人も減ります。
 でも、現実は、それほど単純な話ではありません。本当の「早期発見・早期治療」で命を救われる人がいる一方で、「早期発見・早期治療」が、「見せかけ」のものである可能性もあります。
 「早期発見」したつもりでも、そのがんは、「治療の必要のないがん」かもしれませんし、いつ見つけたとしても(検診以外でも見つかったとしても)、「進行がんにはならないようながん(あとで見つかっても治せるがん)」かもしれません。
 そういうがんを「早期発見」しても、ただ、「早期がん」が増えるだけであって、「進行がん」が減ったり、死亡数が減ったりすることには、つながりません。
 逆に、「早期発見」したつもりでも、そのがんは、よく調べたら、「進行がん」かもしれませんし、「早期治療」したとしても、根治できずに死亡してしまうかもしれません。こういう場合も、「進行がん」や死亡数が減ることには、つながりません。
 そもそも、検診によって、急速に進行するがんを、早期がんの段階で発見するのは困難であり、検診で見つかるがんの多くは、進行がゆっくりで、検診で見つけなくても問題になりにくいがんだという話もあります。
 検診を受ければ、誰もが「早期発見・早期治療」の恩恵を受けられるかのようなイメージで、このスローガンが使われていますが、実は、検診を受ける人のうち、本当の「早期発見・早期治療」で命を救われる人は、ごく一部であって、その陰には、見せかけの「早期発見・早期治療」もあるわけです。
 がん検診の中にも、子宮頸がん検診のように、本当の「早期発見・早期治療」を実現できる可能性が比較的高く、実際に多くの命を救っていると考えられるものから、前立腺がん検診のように、一部の命を救っているとしても、見せかけの「早期発見・早期治療」が比較的多いと考えられているもの、さらには、命を救えるという根拠が全くないものまで、いろいろとあります。
 すべてのがん検診を、「早期発見・早期治療」というスローガンで、ひとくくりに語ってしまうのではなく、「どのがん検診に積極的に取り組むべきなのか」や、「どういう人ががん検診を受けるべきなのか」について、社会全体で、エビデンスに基づく議論を行うべきなのだと思います。
 そういう議論が盛り上がれば、がん検診は、多くの人にとって、「自分の問題」となり、本当に必要ながん検診の受診率も上がるはずです。

傷つく「進行がん」患者
 そして、もう一つ、指摘しておきたいことがあります。「早期発見・早期治療」というスローガンによって、傷ついている人がいるということです。それは、「進行がん」と向き合っている多くの患者さんたちです。

「早期に発見すればがんは治る」
「進行がんになってからではもう手遅れ」
「だから、がん検診で、早期発見・早期治療を!」

 そんなことが、まことしやかに語られるのを聞いて、進行がんと向き合う患者さんは、どのように感じるでしょうか。
 「早期発見・早期治療」を信じきっている人から、「がん検診を受けなかったからこんなふうになっちゃったのよ。自業自得ね」といった冷たい言葉を投げられたという話も聞いたことがあります。実際、がん検診を受けていなかったことで、自分を責めてしまう人は多いようです。
 でも、今回解説したように、「早期発見・早期治療」で、進行がんになるのを免れるのは、ごく一部にすぎません。検診を受けていても同じ結果になった可能性が高いということです。
 また、がん検診を真面目に受けていたのに進行がんになってしまったという患者さんたちからは、「早期発見・早期治療」というスローガンはなんだったのか、という思いを聞くこともあります。
 いずれの場面でも、「早期発見・早期治療」というスローガンを過信するのではなく、その本当の意味を、エビデンスに基づいて理解することが必要なのだと思います。そして、単純な思い込みやイメージで傷ついている人がいるということへの想像力も、必要な気がします。

(転載終了)※  ※  ※

 本当に「早期発見、早期治療すれば治ります」と安易に言わないでほしい、と思う。
 何度も書いているけれど、私は毎年検診を受けていたが、実際にはその年の検診を受ける前に自分でごく早期のうちにしこりを見つけ、治療を始めた(つまり1年前の検診では異常なしとされ、全くなかったしこりが10カ月の間で触れると判るようになったということだ。)。
 一通りの初発治療が終わった時に「この病院でこの治療(温存手術、放射線治療)をして再発した人はこれまでに誰もいない。」という医師の言葉を信じて、術後の補助療法であるホルモン治療(ノルバデックス内服)も真面目に続けた。経過観察にもきちんと通い、半年ごとにCTや骨シンチ等の検査も受けた。
 その結果、3年経たずして再発転移したわけだ。その時の主治医の「解せない・・・」という、苦しそうな表情から絞り出された台詞は、今も忘れることが出来ない。
 そのため、私はこの「早期発見・早期治療」スローガンにはとても懐疑的である。

 こうした再発進行患者の気持ちを代弁してくれるような最後のパラグラフ。心にじんわり沁み込んだ。
 哀しいかな、「早期発見してもがんは治らない」ことがある。そう、なりたくて再発進行がんになる患者などいないのだ。放置しておいたわけでないのに自業自得等と言われたら、一体どうすればよいのだろう。自分を責めてみたってどうにもならないのだ。やれることは全てやってきた筈なのだから。
 そして「進行がんになってからではもう手遅れ」などと言われたくもないのだ。もちろん今の私は、それなりに長いこと進行再発乳がん患者をやってきているから、能天気に「治るかもしれない・・・」などとは全く思っていない。とはいえ、日々落ち込みそうになる気持ちを立て直しながら、希望を捨てずに辛い治療を続けている。

 今日は通常授業開講日のため予定通り出勤した。さすがに出勤者も少ないので電話もメールもいつもより断然少ない静かな月曜日だ。
 息子は午前中から涼しい塾の自習室に籠った。夫は1人で好きなジャズでも聴きながらのんびりと休日が過ごせただろうか。
 今日もやや曇ってはいたが、相変わらず35度の猛暑日。三者三様の海の日であった。
 
コメント (3)
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