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東京オリンピック 競技会場 競技場 最新情報 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン 世界一コンパクトな大会 (上)

2020年01月24日 16時59分58秒 | 東京オリンピック
膨張する開催経費 
どこへいった五輪開催理念 “世界一コンパクトな大会”(上)
最新情報 東京2020 競技会場の全貌





新国立競技場 工事順調90%完成 芝生張り、陸上トラック工事に着手 12月21日にオープニングイベント 元旦の天皇杯サッカー開催



新国立競技場迷走 「陸上の聖地」復活か? 球技専用撤回へ

海の森水上競技場、完成披露式典開催
 2019年6月16日、2020東京五輪大会でボート・カヌー会場となる海の森水上競技場の完成披露式典が行われた。小池百合子都知事が「(五輪では)世界最高峰の試合が繰り広げられ、連日、世界中の多くの方々に感動を与えると確信している。大会後も、様々なイベントで活用していきたい」とあいさつした。
 ボート・カヌー会場はもともと新設予定だったが、小池知事が見直しを表明し、大会コスト削減のため、宮城県の長沼ボート場への変更が検討したが、施設の一部を仮設にするなどして、試算段階で約490億円だった整備費を約310億円に削減して新設された。
 大会後は、国際大会や国内大会など年間30大会や水上スポーツ体験や水上レジャーのイベントを開き、来場者数を年間約35万人と見込むが、収支は約1億6千万円の赤字としている。




出典 日本ボート協会



 2020東京オリンピック・パラリンピックの競技は、1964年の東京オリンピックでも使用された代々木競技場や日本武道館など過去の遺産を活かした「ヘリテッジゾーン」と、有明・お台場・夢の島・海の森など東京湾に面した「東京ベイゾーン」を中心開催する計画である。
 選手村から半径8キロメートルの圏内に85%の競技会場を配置するという「世界一コンパクトな大会」がキャッチフレーズだったが、相次ぐ「建設中止」や「会場変更」で、「世界一コンパクトな大会」は完全に消え去った。
 競技会場は、「既存施設」と「新設」があり、「既存施設」については改修や増設工事が伴う場合があり、「新規建設」は「恒久施設」と「仮設施設」に分けられている。
 2018年5月2日、国際オリンピック委員会(IOC)は、スイス・ローザンヌで開いた理事会で最後に残ったサッカー7会場を一括承認し、43競技会場がすべて決まった。
 この内、オリンピッックは42会場、パラリンピックは21会場(ボッチャ競技のみ幕張メッセCをパラリンピック単独会場として使用 その他はオリンピックと共通競技会場を使用)である。
 オリンピックで開催される競技数は、東京大会組織委員会が提案した追加種目、5競技18種目を加え、合計競技数は33競技、種目数は339種目で、選手数の上限を11,900人とすることが決定されている。一方、パラリンピックは22の競技が開催される。
 今回承認されたサッカー会場は、札幌ドーム、宮城スタジアム、茨城カシマスタジアム、埼玉スタジアム、横浜国際総合競技場、新国立競技場、東京スタジアムの7会場で、決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場で開催する。。
 また復興五輪のシンボルとなる野球・ソフトボールの福島あづま球場での開催も承認され、野球とソフトボールそれぞれ1試合(日本戦)を行う。
 43の競技会場の内、新設施設は18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設は25か所(内改修17)、既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では既存施設を最大限利用したと胸を張る。
 しかし、競技会場の決定に至る経過は、相次いだ迷走と混迷繰り返した結果であった。
* 2019年11月、四者協議で、暑さ対策でIOCの要請によりマラソンと競歩の札幌開催が決まった。

東京2020大会全競技会場マップ 最新詳細情報 必見!テストイベント開催(画像付き)

2020恒久施設(新設)の競技場

 2020東京大会競技場の「新設」(恒久施設)は、6万8000人収容可能なスタジアムへ建て替えられる「新国立競技場」(オリンピックスタジアム)を始め、東京アクアティックセンター(水泳・飛び込み・アーティスティクスイミング)、有明アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート、カヌー)、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場、カヌー・スラロームセンター、武蔵野の森総合スポーツプラザ(バドミントン 近代五種[フェンシング])の8施設である。
 国が建設するのは新国立競技場だけで、7か所の施設整備は東京都が担当し約1828億円で整備を行う。但し、新国立競技場については東京都も整備費総計約1849億円(本体工事と関連経費を含む)の内、約448億円を負担することが決まっている。

迷走を重ねた新国立競技場
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国(主管は日本スポーツ振興センター[JSC])、その他の恒久施設は東京都、仮設施設は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会が責任を持つことが決められていた。
 「新国立競技場」は、2012年にデザイン競技公募を開始した際は、総工費は「1300億円を目途」としていたが、斬新な流線型のデザインのザハ・ハディド案が採用され、施工予定者のゼネコンが総工費を見積もると「3088億円」に膨張することが判明し、世論から激しい批判を浴びた。
 2015年7月、開閉式の屋根の設置の先送りなど設計見直しを行い「2520」億円に圧縮したが、それでも当初予定の倍近い額となり批判は一向に収まらず、ザハ・ハディド案の白紙撤回に追い込まれた。最終的に、安倍首相が収拾に乗り出し、2015年8月、屋根の設置を止めたり観客席の規模を見直すなどして総工費を「1550億円」(上限)とすることで決着した。迷走に迷走を繰り返して醜態を演じたのは記憶に新しい。
 2015年9月、新たな整備計画に基づき、総工費と工期を重視した入札事業者向けの募集要項を公開し、公募を開始した。
 新整備計画では、開閉式の屋根は止めてコンサートやイベントなども開催する「多目的利用」は放棄され、陸上競技やサッカー、ラグビーなどの競技スタジアムへ転換することを打ち出した。
 観客席は五輪開催時には約6万8000席(旧国立競技場 約54000席)とし、五輪後にはFIFA ワールドカップの開催も可能にするために観客席を陸上トラック上部に増設して8万席以上確保する。屋根は観客席全体(8万席拡張時を想定)を覆う固定式とした。建物の最高高さは70メートル以下、フィールドを含む面積は約19万4500平方メートル(同7万2000平方メートル)で、旧整備計画の約22万4500平方メートルから約3万平方メートル削減するとした。
 公募には、大成建設を中心に梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループと、竹中工務店、清水建設、大林組の3社の共同企業体と日本設計、建築家の伊東豊雄氏で構成するグループが応募した。
 2015年12月22日、審査の結果が公表され、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにした大成建設、梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループが選ばれた。
 木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴のデザインで、地上5階、地下2階建て、スタンドはすり鉢状の3層にして観客の見やすさに配慮する。高さは49・2メートルと、これまでの案の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総工費は約1490億円、完成は2019年11月末としている。当初目指したラグビーワールドカップ2019の開催は断念した。


出典 Olympic Channel

「新国立競技場」はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに 「陸上競技の聖地」の夢は無残にも消えた
 2017年11月14日、「新国立競技場」の整備計画を検討する政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)は14日、五輪大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに改修する計画案を了承した。22年後半の供用開始をめざす。
 計画案では、大会後に陸上競技のトラックをなくし、収益性を確保するため、観客席を6万8千席から国内最大規模の8万席に増設する。
 運営方針として、(1)サッカーのワールドカップ(W杯)の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(4)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げた。
 新国立競技場の維持管理費は長期修繕費を含めて年間約24億円とされている。収入が確保できなければ、50年、100年、延々と赤字を背負うことになる。
 結局、「新国立競技場」が“負のレガシー”(負の遺産)になるのは避けられそうもない。



東京アクアティクスセンター
 オリンピックアクアティクスセンターは、「競泳」、「シンクロナイズド・スイミング」、「飛び込み」の競技会場として、大規模な国際大会が開催可能な国際水準の水泳場として整備計画が立てられた。整備費は招致計画では総工費321億円としていたが、その後の見直しで683億円と約倍以上経費が膨れ上がった。
 整備計画では、建設時には延床面積5万7850平方㍍、約2万席の観客席とするが、大会後は屋根を低くして3階席を撤去するなどして観客席を5000席まで減らし、延床面積を3万2920平方㍍まで縮小する減築を行うとした。減築後も国際大会開催時には観客席を1万席から最大1万5000席(仮設席を含む)に拡張可能とした。メインプール(50m×25m)、サブプール(50m×25m)、飛込プール(25m×25m)が整備される。
 その後、2016年の「四者協議」トップ級会合で、座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の「減築」は取りやめて建設することで、683億円から567億円に削減する方針を明らかにした。
 五輪開催後は都民のための水泳場としても活用するとしている。メーンプールとサブプールの床や壁を可動式にすることで多様な目的に使えるようにした。
 2016年1月、本体工事については、大林・東光・エルゴ・東熱異業種特定建設共同企業体が、469億8000万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。予定価格は538億円(本体工事)で落札率は87%だった。
 しかし、約300メートルほどの近接した場所に東京辰巳国際水泳場があるのに、なぜ巨額の税金を投じて「二つ」も整備するのか、当初から過剰施設の象徴だとして批判にさらされていた。
 東京辰巳国際水泳場は1993年に開館し、世界水泳や五輪選考会など国内外の主要大会が開かれてきた水泳競技の「聖地」。50メートルのメインとサブのプール、飛び込みのプールがあり、一般にも開放している。整備費は181億円、維持費は年間4億7000万円である。2008年には五輪競泳の金メダリスト北島康介選手が、200メートル平泳ぎで世界新記録を出したことで有名な水泳競技場である。
 ところが、辰巳水泳場は、観客席は固定席が約3600席、仮設席が約1400席、合わせて約5000席が限界である。国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準は観客席1万2000席、この基準を満たすためには、大幅な拡張工事が必要だが、建物の北側が運河に面していて工事は不可能とされていた。またこの水泳場は、水深が両サイドの約半分は2メートルしかなく、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準「水深2メートル」は満たしているが、推奨基準「水深3メートル」は満たしていない。「水深2メートル」の部分があるとシンクロナイズドスイミングの競技開催では支障が生じるとされている。さらに辰巳水泳場は、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準、コース幅2.5メートルも満たしていない。
 このため東京都は、一回り大きい国際水準の水泳場として辰巳の森海浜公園内にオリンピックアクアティクスセンターを新設することとし、東京辰巳国際水泳場は水球競技場として使うことにした。当初は水球競技場をオリンピックアクアティクスセンターに併設してウォーターポロアリーナを建設する計画だったが建設は中止された。


東京アクアティクスセンター  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

都政改革本部調査チーム オリンピックアクアティクスセンターの大幅な見直しを提言

四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意


有明アリーナ
 有明アリーナは、地上5階建てで、延べ面積約4万5600平方メートル。座席数は仮設席を含めて大会開催時には仮設を含めて約1万5000席を確保するが、五輪開催後は、約1万2700席に縮小する。メインアリーナはバレーボールコート4面又はハンドボールコート3面で競技可能な規模に、サブアリーナ はバスケットボールコート2面が配置可能な規模とする。整備費は、招致計画では、総工費約176億円としていたが、見直し後は約404億円に膨れ上がった。
 五輪開催後は、ワールドカップや日本選手権といった国内外の主要な大会の会場として利用するほか、コンサートなどの各種イベント会場としても活用するとした。そのためメーンアリーナの床はコンクリート製とし、機材搬入用の大型車が通れるようになっている。 またショップやレストランを充実させたりすることで、五輪開催後は、首都圏での新たな多目的施設を目指す。
 2016年1月、本体工事は、竹中・東光・朝日・高砂異業種特定建設共同企業体が360億2880万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。

都政改革本部調査チーム 有明アリーナ建設中止も
 都政改革本部調査チームでは、バレーボール会場は既存のアリーナや大規模展示場を改修するなどして開催は可能とし、まず競技開催計画の変更を検討すべきと提言した。
 既存の会場変更する場合の候補として、「横浜アリーナ」を改修して使用する案を有力視した。
 また新設する場合でも、五輪開催後は他の既存施設でバレーボール競技大会の開催は十分運用可能なことから、有明アリーナの利用があまり見込めないとし、イベントやコンサートなど多目的展示会場の施設を目指すべきだとした。関東圏ではコンサートなどの利用に関しては、数万人を収容するアリーナクラスへの需要は高い水準が続くと見込まれているとしている。
 しかしイベント会場を目指すにしても、建設費については類似施設に比べ高く、404億円からさらにコストダウンの努力が必要とし、大会後の適切な座席数を見積もる必要や、コンサート会場として施設整備など民間事業者を巻き込んだ事業計画の詰めが必要と指摘した。
 既存施設を利用する開催計画の変更や、新設の場合にもイベント利用に向けた計画の詰めやコストの見直しが求めた。
 これに対し、日本バレーボール協会の木村憲治会長は、都政改革本部の調査チームのヒアリングに出席し、「国際基準である1万5000人を収容できる体育館が欲しい」と述べ、計画通り有明アリーナの建設を求めた。
 有明アリーナ建設用地については、約183億円の用地取得費を有明アリーナの整備費とは別枠で処理していることから、「五輪経費隠し」として批判されている。
 2016年12月21日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、前回結論を先送りしたバレーボール会場は小池都知事が「有明アリーナ」を計画通り建設する方針を表明した。
 “ARIAKE LEGACY AREA”と名付けて、その拠点に「有明アリーナ」に据えて、有明地区を再開発して“五輪のレガシー”にする計画を示した。
 計画では、「有明アリーナ」はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用し、周辺には商業施設や「有明体操競技場」も整備するとした。
 焦点の整備費は404億円を339億円に圧縮し、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用し経費圧縮に努める計画だ。


有明アリーナ  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

海の森水上競技場
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、防波堤内の埋立地の間を締め切る形で競技施設を建設するが、会場レイアウトの変更や護岸延長の縮小などにより整備費を大幅に圧縮し、延床面積3万2170平方メートル規模とする。建設費については、招致ファイルでは、約69億円としたが、地盤強化や潮流を遮る堤防の追加工事が必要とわかり、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円の膨れ上がることが明らかになり、世論から激しい批判を浴び、“無駄遣い”の象徴となった。舛添元都知事は防波堤工事などを見直して約491億円に縮減した。
 五輪開催後は、国際大会開催可能なボート、カヌー場として活用するとともに、海の森公園と連携した緑のネットワークを構成し、サイクリングコースや整備都民のレクリエーションの場、憩いの場とする計画だ。水辺を生かした水上イベントなどのイベントも開催して、多目的に活用するとしている。
 海の森水上競技場の本体工事については、大成・東洋・水ing・日立造船異業種特定建設共同企業体が248億9832万円(税込価格)で設計・施工を落札し着工した。
 しかし、その後も、整備費が巨額に上る上に、埋め立て地の先端に立地するた強風や波の影響を受けやすく、海水によるボートへの塩害の懸念や航空機の騒音問題などでも批判が止まず、小池都知事が設立した都改革本部の五輪調査チームは宮城県の長沼ボート場に会場変更をして建設中止をする提案をした。
 2016年11月29日、国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、小池都知事海の森水上競技場を20年程度存続の「スマート施設」(仮設レベル)として、整備費は当初の491億円から298億円に縮減して建設することを明らかにした。都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事も歓迎した。


海の森水上競技場  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心

カヌー・スラロームセンター(葛西臨海公園隣接地)
 カヌー(スラローム)の競技場は、水路に人工的に流れを作り出し、競技を実施することができる国内で初めてのカヌー・スラロームコースである。葛西臨海公園に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園は貴重な自然環境を後世に残すという目的で整備された施設であることを配慮した。 大会後は、葛西臨海公園と一体となったラフティングも楽しめるレジャー・レクリエーション施設となるように計画を練り直した。整備経費、約73億円は東京都が負担する。




カヌー・スラロームセンター  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

大井ホッケー競技場
 大井ホッケー競技場は、大井ふ頭中央海浜公園内のサッカー用の第一球技場敷地にメーンピッチ(決勝など)を新設、サッカーやアメフト用の第二球技場敷地にサブピッチ(予選)を改修整備する計画である。
 座席数は、メーンピッチが大会時には仮設を含めて約1万席、大会後は約2600席、サブピッチは仮設を含めて大会時5000席、大会後は536席とする。
 立候補ファイルでは、公園内の球技場と野球場、6面をつぶしてメーンピッチ、サブピッチを整備する計画でいたが、地元の軟式野球連盟などから3万8千人分の反対署名が出され、東京都は見直し作業を進めた。野球場は残し、五輪開催時は大会運営に使うが、大会後はこれまでどおり4面の野球場が利用が可能となった。
 総事業費は約48億円を見込んでいる。


大井ホッケー競技場  提供 TOKYO2020

夢の島公園アーチェリー場
 夢の島公園内(新木場)に建設するアーチェリー場は、当初計画では緑地エリアを潰して建設する計画だったが、批判を浴びて、緑地を極力減らさない方向で会場計画を見直して整備することになった。
 予選会場は円形広場(多目的コロシアム)に、決勝会場は公園内にある陸上競技場にスタンドを仮設するなどして整備をする計画に変更し、緑地を極力残すことになった。また取り壊す予定だった「東京スポーツ文化館」も選手控室などで活用する。整備費は約24億円。
 夢の島公園は、運河と水路に囲まれた43ヘクタールの総合公園、ごみの最終処分場であった東京港埋立地夢の島を整備して作られた。熱帯植物館や競技場や野球場などのスポーツ施設やバーベキュー広場などが整備され、四季折々の花が咲き乱れる緑のオアシスに生まれ変わっている。せっかく整備した緑地を潰して五輪施設を建設することに対しては都民から強い批判を受けていた。


手前が決勝会場 奥が予選会場(竣工済) 提供 TOKYO2020

武蔵野の森総合スポーツプラザ
 武蔵野の森総合スポーツ施設(仮称)は、東京都調布市の東京スタジアムの隣接地の約3万3500平方メートルの敷地にメインアリーナとサブアリーナを建設する。
 メインアリーナは、バレーボール4面、バスケットボール4面が可能な競技フロアを備え、観客席は固定席で6662席、仮設席対応も含めると約11000席が収容可能である。大規模なスポーツ大会やイベントの開催も可能である。
 サブアリーナは、バレーボール2面、バスケットボール2面が設営可能なフロアが整備され、可動畳で武道競技の開催も可能である。屋内プールも設置し、50m、8コースの国際公認プールとなる。さらにトレーニングルームやフィットネススタジオ、カフェ等も設ける。 隣接地には東京スタジアムや「西競技場[陸上トラック]」がある。
 整備費は351億円。 バドミントンと近代五種[フェンシング(ランキングラウンド)]の競技場となる。


武蔵野の森総合スポーツプラザ  出典:東京都

有明テニスの森公園
 有明テニスの森公園は、当初計画では既存の屋内外のコート計49面を、35面のコートや観客席などに再整備し、ショーコートを2面(観客席5000席と3000席付きコート)やインドアコートを建設するとしていた。しかし、日本プロテニス協会などから「コートの減少を最小限にとどめてほしい」といった要望や、ショーコートを整備予定のイベント広場についても、近隣住民らから存続を希望する声が寄せられていた。こうした要望を受けてコートの配置を変更することで、大会開催時には37面を整備し、大会終了後には元の49面に復元。また、2面整備予定のショーコートは1面を大会後撤去し、イベント広場に戻すとした。また観客席を仮設とすることで34億円縮減し、改修費は約110億円となった。


有明テニスの森公園  提供TOKYO2020

建設中止や会場変更をする競技施設
 恒久施設では、「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」、「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」、「若洲オリンピックマリーナ(セーリング)」、仮設施設では、「ウォーターポロアリーナ(水球)」、「有明ベロドローム(自転車・トラック)」、「有明MTBコース(マウンテンバイク)」、「夢の島競技場(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)」は建設中止となり、他の既存施設に振り替える。
 「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」と「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」は、招致計画では、建設費を364億円としたが、見直しの結果、683億に膨張し建設中止に追い込まれた。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に会場変更された。
 「若洲オリンピックマリーナ(セーリング [ヨット・ウンドサーフィン])」は、招致計画では建設費を92億円としたが、見直しの結果、土手の造成費が新たに必要となることが明らかになり、417億円に膨れ上がり建設は取りやめられた。会場は江の島ヨットハーバー[藤沢市]に変更となった。
 水球は「東京辰巳国際水泳場」で開催する。
 自転車(トラック)は、日本サイクルスポーツセンター内の「伊豆ベロドローム」に会場変更し、マウンテンバイク(MTB)は同じ日本サイクルスポーツセンター内のMTBコースを改修して開催することが決まった。
 また馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は馬事公苑(世田谷区)に会場を変更し、カヌー・スラローム会場は、葛西臨海公園から公園に隣接する都有地に建設地が変更された。

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仮設施設の競技場

 「仮設施設」では、皇居外苑コース(自転車・ロードレース)、お台場海浜公園(トライアスロン・マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、海の森クロスカントリーコース(馬術・クロスカントリー)、有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX]、スケートボード)、青海アーバンスポーツパーク(バスケットボール[3×3]、スケートボード)、陸上自衛隊朝霞訓練場(射撃)が整備される。当初計画では整備にかかる経費は原則として五輪組織員会が負担するとしていたが、結局、大会組織員会が約950億円を負担し、東京都が2100億円を負担することになった。 これとは別に東京都は周辺整備費や道路などの交通基盤整備費の負担も背負うことになる。
 馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は夢の島競技場内に仮設施設を建設する予定だったが、建設を中止し馬事公苑に会場を変更した。
 一方、馬術(クロスカントリー)については、計画通り、「海の森クロスカントリーコース」が仮設施設として整備される。
 マラソンは、スタート、ゴール共に新国立競技場で、競歩は、皇居外苑の周回コースで行う計画だったが、2019年12月、暑さ対策で札幌に会場が変更された。
 そのほかの「仮設施設」では、お台場海浜公園(トライアスロン[水泳]、マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、青海アーバンスポーツ会場(バスケットボール3×3、スポーツクライミング)が整備される。
 自転車(ロードレース)は、当初計画ではスタート地点が皇居、ゴール地点が武蔵野の森公園としていたが、テレビ映りや景観を重視した国際自転車連合(UCI)から富士山を背景に走るコースを強く要請され、スタート地点を武蔵野の森公園、ゴール地点を富士スピードウェイ(静岡県小山町)とすることが決まった。



有明体操競技場
 有明体操競技場は鉄骨造・一部木造の地上3階建てで、敷地面積は約9万6400平方メートル(都有地)、延べ面積約3万9300平方メートル、観客席1万2000席の計画で整備される。3万2000平方メートルの体操競技場と約5000平方メートルのウオームアップ施設などが建設される。
 大会後は、敷地面積を3万6500平方メートル、延べ面積を約2万7600平方メートルに縮小し、面積は約1万平方メートルの展示場とする。ウオームアップ施設は撤去され、バックスペースは駐車場となる。
 有明体操競技場は当初計画では、「仮設施設」として、組織委員会が総工費約89億円で整備し、大会後は取り壊す方針だったが、「大会後に有効活用せずに取り壊すのはもったいない」との意見が出ていた。その後、資材の高騰などでさらに総工費が膨れ上がり、「恒久施設」として建設する場合と比較してもあまり経費に大きな差がなくなったが判明し、大会終了後、10年間をメドに存続させ、再活用する「半恒久」施設として整備することになった。 展示場やイベント会場などで10年程度利用され、都の関連企業の「東京ビッグサイト」が管理運営を行う。
 東京都では、組織委員会が管理する「仮設施設」として仕分けしているので、「五輪開催費用」に計上していない。
 整備費の総額は「約253億円」とし、「後利用に相当する部分」を「193億円」、「大会時のみ使用する部分」を「60億円」に仕分けすることで東京都と組織委員会で合意している。「193億円」は東京都が負担することが決まったが、「60億円」の負担の割合は調整がついていない。
 2016年11月、清水建設が本体工事を205億2000万円で落札した。


有明体操競技場  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

海の森クロスカントリーコース
 海の森クロスカントリーコースは、東京湾の最先端にある中央防波堤の埋め立て地に建設される。この埋め立て地では緑化事業が進められ、海の森公園が整備され、公園内に馬術のクロスカントリーコースが仮設施設で整備され、総合馬術(クロスカントリー)が開催される。
 海の森公園からは東京ゲートブリッジなど東京湾と巨大都市、東京の景観が一望に見渡すことができ、大会開催後は、「海の森」として、都民のレクレーション・エリアにしたいとしている。
 ボートとカヌー競技が開催される海の森水上競技場が隣接している。


海の森クロスカントリーコース  提供 TOKYO2020

青海アーバンスポーツ会場 
 選手村からも近い青海エリアの敷地に、仮設で整備される競技会場。東京湾が見える場所に位置し、都市型スポーツ競技のバスケットボールの3×3やスポーツクライミングが開催され、世界各国の若者のアスリートが集う東京2020大会を象徴する会場のひとつとなる。
パラリンピックでは、5人制サッカーの競技会場となる。


青海アーバンスポーツ会場の建設地(現駐車場)  筆者撮影

潮風公園
 潮風公園の前身は、東京港改造計画に基づいて造成された13号埋立地の一画の「13号地公園」で、この地域が臨海副都心として整備されるに伴い、全面改修工事が行われ「潮風公園」として生まれ変わった。臨海副都心内では最大の海辺の公園で、レインボーブリッジを背景とした東京湾の景観も素晴らしい。お台場海浜公園と隣接している。
 潮風公園の中心にある「太陽の広場」にビーチバレーボールの競技会場が仮設で建設される。


潮風公園 ビーチバレー競技会場 提供 TOKYO2020

有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX] スケートボード)
 若者に人気のあるBMX競技については、江東区有明地区に仮設会場を整備する計画だったが、大会組織員会は自転車(トラック・MTB)と共に既設施設の「日本サイクルスーツセンター」に会場を変更したいとした。しかし国際自転車連合は観客が集まりやすい首都圏での開催にこだわって難色を示し、結局、有明地区で開催することが決まった。約5000席の観客席を備えたBMXコースを、ゆりかめめ・有明テニスの森駅の隣接地に仮設で建設する。さらにスケートボードの競技会場も建設し、周辺を「都市型スポーツ」の拠点、アーバンスポーツパークとして整備する


有明アーバンスポーツパーク 完成予想図  提供 TOKYO2020


陸上自衛隊朝霞訓練場
 陸上自衛隊朝霞訓練場は、陸上自衛隊朝霞駐屯地に隣接して設置された施設で、訓練場内は自動車教習所、屋内射撃場、弾薬庫等が設置されており、一部の区域で陣地構築等の小規模な訓練も可能である。3年に一度、自衛隊記念日に中央観閲式が実施されことで知られている。
 屋内射撃場は、射撃の競技場・練習場として使用され、1964年東京五輪大会では射撃競技の会場となった。
 2020東京五輪大会時には訓練場内に仮設施設が整備され、オリンピックとパラリンピックの射撃競技が開催される。


陸上自衛隊朝霞訓練場  出典 東京2020大会招致委員会

既存施設の競技場

東京辰巳国際水泳場
 水球の競技会場となる東京辰巳国際水泳場は、東京都の水泳競技場の代表的な施設として建設され、1993年にオープンした。
50m×25mで公認8レーンで、水深を1.4mから3mまで変えられる可動床が設置されているメインプールや50m×15mで7レーンのサブプール、25m×25mで水深5mの国際公認ダイビングプールを備え、全国規模の大会などが多数開催されている。観覧席は固定で3,600席、仮設で1,400席、あわせて5,000席がある。ダイビングプールの観客席はメインプールと共通である。
 このメインプールは2008年に北島康介選手が世界新記録を樹立したり、2017年には渡辺一平選手がその記録を塗り替えるなどの舞台となった。


東京辰巳国際水泳場  出典 東京2020大会組織委 

お台場海浜公園 

マラソン水泳・トライアスロン 深刻な東京湾の水質汚染
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソンの水泳とトライアスロンの会場で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。
 組織委では、雨期に海岸から流出する細菌の量を抑制するために、お台場マリンパークに水中スクリーンを設置するなど多数の実験を行い、水質改善に努めているとした。
 コーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。大会組織委から水のスクリーニング・カーテンの入れ方などの実験について説明を受けが、この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。


お台場海浜公園  提供 TOKYO2020

江の島ヨットハーバー
 江の島ヨットハーバーは神奈川県藤沢市の沖にある「江の島」の中にある。
 1964東京オリンピックのヨット競技の会場となり、江の島の北東側海岸にあった岩場を埋め立てて、ヨットハーバーを整備した。
 埋め立て地の内、約330平方メートルにヨット係留施設を建設し、鉄筋3階建クラブハウスや約500台駐車可能の駐車場なども整備された。また2000t級の観光船なども発着できる岸壁も建設した。
 2020東京五輪大会ではセーリング(ヨット ウインドサーフィン)の競技会場となる。

シラス漁に影響 江の島セーリング会場
 セーリング競技については、国際セーリング連盟は、バンコクの会議で、「準備が1年遅れている」と指摘し、地元の漁業者との交渉が進まず、レース海面決定が遅れていることや津波対策や警備対策に懸念を持っているとした。
 コーツ副会長も、記者会見で、2020東京大会組織委員会に対し、地元の漁業者へ与える影響について懸念を表明したと付け加えた。
 江の島で開催されるセーリング競技では、ディンギー5艇種によるヨットとウインドサーフィンが行われる。海上に設置された3つのブイ(三角形のコース)を周回して争われる競技である。
 レース海面は、鎌倉市沖から葉山町沖の海域に、直径1852メートルと1574メートルの円形の5つのエリアの設定が計画されている。
 一方この海域は、古くから湘南名物のシラス漁の好漁場として知られている。
 セーリング競技団体はレース海面をなるべく沿岸に近い浅瀬に設定することを求めているのに対し、漁業者はシラス漁への影響を懸念してなるべく沖合にしたいとして調整が継続されていて、未だにレース海面が決まっていない。
 シラス漁の操業海域は、5市1町の8漁業組合に独占的に認めている「共同漁業権」エリアが設定され、さらにその沖合にはどの漁協も操業できる海域が広がっている。
 シラス漁は、元旦から3月10日までは禁漁だが、五輪セーリング競技の公式練習や大会開催期間はシラス漁の漁期と重なり、漁業者への影響は必至である。
 そこで浮上するのが漁業補償の問題だが、神奈川県と関連漁協の間の具体的な協議は始まっていない。
 漁業補償がからんでレース海面の決定は難航が予想され、セーリング開催準備も難問を抱えている。


江の島セーリング会場  提供 TOKYO2020


江の島沖のセーリング会場  提供 TOKYO2020  

釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ
 釣ヶ崎海岸(通称志田下ポイント)は九十九里浜(千葉県一宮町)の南端の海岸で、「世界最高レベル」ともいわれる良質な波が、年間を通じて打ち寄せる海岸として知られ、多くのサーファーが訪れる。
 プロサーファーやハイレベルなサーファーが集まることから「波乗り道場」とも呼ばれ、地元出身の多くの有力選手が活躍している。
ハイレベルな大会も多数開催されており、平成28年5月と平成29年5月にはこれまで国内で開催された国際大会の中でも最高レベルにあたる「QS6000 ICHINOMIYA CHIBA OPEN」が開催され、世界トップレベルの選手達がライディイグを披露した。
 2020東京五輪大会ではサーフィン競技の会場になる。


釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ  提供 TOKYO2020

 
釣ヶ崎海岸 サーフィン  提供 TOKYO2020
 

迷走 霞ケ浦CCゴルフ会場
 2017年1月4日、森喜朗組織委会長は、ゴルフ会場の霞ケ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)について「輸送を計画通りにできるのかどうか。選手の疲労なども考えると、運営側としては心配だ」と述べ、アクセス面の懸念を示した。
 東京晴海の選手村から会場までは40キロ以上も離れている上に、渋滞の激しい関越自動車道を通るため、期間中に設置される五輪専用レーンを設置しなければならない。専用レーンを利用しても1時間半程度かかるとし、「強い(上位)選手ほど帰るのが遅くなる。遅ければ選手村に午後10時ごろ。翌朝6時(始動)となれば大変だ」と述べ、4日間の日程で選手の疲労度を懸念した上で、輸送計画の精査を求めた。 
さらに、内陸部で真夏には気温が40度近くになることもあり暑さ対策の懸念も指摘した。
 森会長は、問題の解決が難しい場合、2012年招致計画の会場だった江東区の若洲ゴルフリンクス(都営パブリックコース)や、千葉県などにゴルフ場があることも指摘し、会場変更の検討にも言及した。
 一方、小池都知事は、「21世紀に女性が正会員になれないということに違和感がある」と述べ。男女平等をうたう五輪憲章に反するという懸念を示した。国際オリンピック委員会(IOC)は日本ゴルフ協会(JGA)など4団体で構成する五輪ゴルフ対策本部や大会組織委員会に対応を求めた。
また2013年の立候補ファイルでは、若洲から霞ケ浦へ変更されたが、なぜ変更されたのか、その経緯が不明朗だという批判がこれまでも巻き起こっていた。「誰がどう考えても若洲の方が良い」とする意見も強い。
 2017年3月20日、「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は、臨時の理事会を開き、規則を改定し、女性正会員を容認することを出席した理事が全員一致で議決した。
 これまで霞ヶ関カンツリー倶楽部は、女性がすべての営業日を通じて利用できる正会員になることを認めていなかった。
 「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は「時代に沿った対応をすすめるため、自主的に改定の判断をした」とのコメントを出した。


霞ヶ関カンツリー倶楽部  提供 TOKYO2020

伊豆ベロドローム
 伊豆ベロドロームは、国際自転車競技連合(UCI)規格の周長250m木製走路を有する屋内型自転車トラック競技施設として2011年に開業した。観客席は、常設で1,800席、仮設で1,200席。全日本選手権自転車競技大会トラック・レースなど多くの国内主要大会で使用されている。また ナショナルトレーニングセンターとしての役割を果たすとともに、広く一般の方も利用できる施設になっている。
 自転車(トラック)は当初計画では、「有明ベロドローム」(仮設施設)を建設する予定だったが、建設費の高騰で、計画見直しを大会組織委員会が提案し、伊豆・修善寺にある「日本サイクルスポーツセンター」内にある「伊豆ベロドローム」に変更することが承認された。「伊豆ベロドローム」では、パラリンピックの自転車競技(トラック)も開催する。
 またマウンテンバイク(MTB)も、「海の森マウンテンバイクコース」(仮設)の建設を中止して、「日本サイクルスポーツセンター」内の既存の「伊豆MTBコース」を改修して使用することが決まった。
 このコースは全長2,500m、高低差85mのオフロードコースで全日本選手権大会なども開催され、初級者から上級者までが利用できるようにエリアやルートが分かれている。コースの途中には、富士山を望むことができるビューポイントもある。
 五輪大会のマウンテンバイク(MTB)競技は、クロスカントリーで行われ、起伏に富む山岳コースを舞台に全選手が一斉にスタートして着順を競うものでパワーとテクニックが必要となる。
 1周5km以上のコースを使用し、周回数は予想競技時間(男子2時間)にあわせた周回数となる。

* 「ベロドローム」とは自転車競技場の意味で、『Velo(ベロ)』はラテン語が語源のフランス語で自転車、『drome(ドローム)』はラテン語で競技場を意味する。




伊豆ベロドローム  


日本サイクルスーツセンター全景 出典 日本サイクルスーツセンター

富士スピードウェイ
 ロードレースのコースは、当初は、スタートとゴール共に、観客の集まりやすい皇居外苑としていた。
 しかし、ロードレースのコースは選手の実力差が出るように勾配のある難しいコース設定が求められ、リオ五輪では終盤は高低差約500メートルの山岳ルートを周回するコースが選ばれている。競技団体から、こうした条件を満たす富士山麓のコースが求められた。しかもテレビ映りの絶好な富士山を背景にすることができることも大きな要因だった。ゴールは富士スピードウェイ(静岡県小山町)が決まり、出発点は武蔵の森公園となった。
 組織委員会としても、都内の周回コースは一般交通への影響や警備の負担が大きく、富士山コースを受け入れた。
 それにしても「テレビ五輪」を象徴する計画変更である。


富士スピードウェイ  提供 TOKYO2020

サッカーの予選開催競技場 
 サッカーの予選開催競技場は、札幌ドーム(札幌市)、宮城スタジアム(宮城県利府町)、埼玉スタジアム2002(さいたま市)、横浜国際総合競技場(横浜市)の4か所がすでに決まっていた。組織員会では、茨城県立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、豊田スタジアム(愛知県豊田市)、吹田市立スタジアム(大阪府吹田市)の3か所を追加したいとして国際サッカー連盟と調整したが、最終的に、茨城立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、新国立競技場、東京スタジアムの4か所が追加開催競技場として決まり、全国7カ所で開催されることになった。
 決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場」で開催する。
 
選手村
 中央区晴海の東京ドーム3個分に及ぶ広大な都有地、約13万4000ヘクタールの敷地に、14~17階建ての21棟のマンション型の選手村と商業施設が建設される。工事費は約954億円。選手村の居住ゾーンは3街区に分けて、約1万7000人の五輪関係者が宿泊可能な施設となる。各住戸は、東京湾の風景が望めるつくり。周辺環境、海からのスカイラインを考慮し、様々な高さの建物を配置するとしている。
 大会終了後は分譲マンションとして販売する計画で、超高層住宅棟2棟を建設し、住宅棟21棟、商業棟1棟に整備して、5650戸のニュータウンに衣替えする。2016年7月、三井レジデンスなど11社で構成する民間事業者グループが開発事業を受注し、2017年1月には着工する。基本的に国や都の財政負担なしに整備する方針だ。日本の気候に応じた伝統的な建築技術と最先端の環境設備と融合した環境負荷の少ない街づくりを体現する1つのモデルとなることを目指す。
 しかし、東京都は選手村用地の盛り土や防潮堤の建設を始め、上下水道や周辺道路の整備に410億円を投入する計画だ。大会後は臨海ニュータウンになるので、社会資本整備投資経費として理解できるが、東京都の五輪開催経費、選手村整備費にはまったく算入していない。
 また都有地約13万4000ヘクタールを、周辺価格の約10分の1という「破格の優遇措置」で事業者グループに売却したという疑念が生まれて批判が集まった。


選手村  提供 TOKYO2020

IBC/MPC
 東京オリンピックの世界の報道機関の拠点、国際放送センター(IBC International Broadcasting Center)とメインプレスセンター(MPC Main Press Center)は東京ビッグサイト(江東区有明地区)に設置される。
 国際放送センター(IBC / International Broadcasting Center)は、世界各国。の放送機関等のオペレーションの拠点となる施設である。IBCの設営・運営は五輪大会のホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)であるOBS(Olympic Broadcasting Services )が行う。
 IBCには、国際映像・音声信号のコントロール(Contribution)、分配(Distribution)、伝送(Transmission)、ストレージ(VTR Logging)など行うシステムが設置されるOBSエリアや各放送機関等がサテライト・スタジオや放送機材、ワーキング・ブースなどを設置する放送機関エリアなどが整備される。
 メインプレスセンター(MPC / Main Press Center)は、新聞、通信社、雑誌等の取材、編集拠点である。共用プレス席、専用ワーキングスペース、フォト・ワーキングルーム、会見室・ブリーフィングルームなどが整備される。
 IBCとMPCには、約2万人のジャーナリストやカメラマン、放送関係者などのメディア関係者が参加する。
 
 東京ビックサイトは、江東区有明地区の東京湾ベイエリアにある国際展示場で、敷地面積24万平方メートル、延べ床面積23万平方メートル、会議棟、西展示棟、東展示棟からなる日本で最大のコンベンションセンターで、毎年さまざな業種の約230の見本市・展示会が開催されている。
 五輪大会開催のために、西展示棟南側に、延床面積約6万5000平方メートルの5層階の「拡張棟」を、約228億円の整備費で建設している。展示ホールや会議施設、事務所などが設けられる。さらに床面積約1万平方メートルの東展示棟の「増設棟」を約100億円で建設した。
 東京ビッグサイトは、当初はフェンシングなど3つの競技場として使用する予定だったが、その後の調整で、IBCのスペースが狭隘なことから、3競技会場を幕張メッセに変更して、IBCは東展示棟に集約して配置することになった。また、MPCの配置については、ICの配置変更に伴って余裕が生まれた会議棟と西展示棟のスペースで配置が可能になり、「拡張棟」は、MPCとしては使用しないことが決まった。
 東京ビックサイトにIBC/MPCに設置すると、最大20カ月に渡って占有されるため、見本市・展示関連企業から約2兆円の売り上げを失うとして反発を受けている。


国際放送センター・メインプレスセンター  提供 TOKYO2020



何処へ行った「世界一コンパクトな大会」
 新規に競技場を建設すると、建設費はもとより、維持管理費、補修修繕費などの後年度負担が確実に生まれる。施設利用料などの収入で賄えるのであれば問題ないが、巨額の赤字が毎年生まれるのでは、“レガシー”(未来への遺産)どころか次世代への“負の遺産”になる懸念が大きい。五輪開催期間は、オリンピックが17日、パラリンピックが13日、合わせてわずか30日間である。新規の施設整備は極力止めるのが基本だろう。
 また忘れてはならないのは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンの選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約は消え去ってしまった。

 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一前都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」と述べている。結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは都民であり国民である。



東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌



月刊ニュメディア「東京オリパラ」連載 加筆
2016年12月7日  初稿
2019月1月12日   改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)

***************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
***************************************

コメント (4)
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Media Closeup Report 記事リスト 国際メディアサービスシステム研究所 IMSSR

2020年01月17日 13時15分15秒 | 国際メディアサービスシステム研究所
★ Media Close-up Report 記事リスト

Web Magazine “Media Close-up Report”
Published by IMSSR


★「月刊ニューメディア」TokyoOlyPara NewsCenter連載記事執筆
▼2015年12月号 国際放送センター(IBC)メインプレスセンター(MPC)設営場所と使用後の再活用策
▼2015年 1月号 次世代ICT競争の決戦の場は「2020東京オリンピック・パラリンピック」 2016年は2020年の前哨戦 
▼2016年 2月号 リオ五輪開催まであと半年 巧妙な官民パワーの連携策
▼2016年 3月号 伊勢志摩サミットのIBC/MPCの概要決まる 安倍首相はリーダーシップをどう発揮するのか?
▼2016年 4月号 テロの主戦場は“サーバー空間” 伊勢志摩サミット・東京五輪
▼2016年 5月号 新国立競技場 次世代に残される巨額の負担に耐えきれるか?
▼2016年 6月号 特集 東京オリンピック・パラリンピック IBC/MPCの基礎知識
▼2016年 7月号 8K/Super Hi-Vision、VR 次世代映像サービスに挑戦 リオデジャネイロ五輪
▼2016年 8月号 混乱極まる五輪開催都市 リオデジャネイロ、そして東京
▼2016年 9月号 インターネット配信はオリンピックの“救世主”になるのか
▼2016年10月号 混迷 東京五輪開催経費 誰が負担するのか
▼2016年11月号 “異例”づくめ 海の森水上競技場
▼2016年11月号 映像コンテンツ海外売上高を「2018年までに3倍」という国策を机上の空論に終わらせるな
▼2016年12月号 “陸の孤島”東京五輪施設 豊洲市場移転問題で“頓挫”する道路インフラ事情
▼2017年 1月号 2017年 世界はポピュリズム台頭のターニングポイント
▼2017年 2月号 相次いだ“撤退” どうなる2024年夏季五輪誘致
▼2017年 3月号 2020年はICTで「お・も・て・なし」
▼2017年 4月号 2024年夏季五輪 パリ・ロサンゼルス、ブタペスト したたかなメディア施設整備戦略
▼2017年 5月号 2020東京五輪はどう見られているか 準備状況 「順調でない」80% 「開催費用不安視」77%
▼2017年 6月号 “空の産業革命” ドローン最前線 高まる期待と安全性確保「飛行規制」
▼2017年 7月号 “最貧国”から“アジアの虎”へ ICT立国を目指すバングラディシュ
▼2017年 8月号 2020年東京オリンピック・パラリンピック 最も重要な点は“レガシー”の実現だ!
▼2018年 3月号 東京ビックサイト隣接の「防災公園」に仮設見本市会場を建設するのも一案だ 甘利明・石積忠夫対談 戦略なき東京五輪 混迷を続ける「見本市中止問題」
▼2018年 5月号 “ICT”で平昌五輪に先を越された2020東京五輪 “ICT”長期戦略の乗り出したインテル
▼2018年11月号 平昌からモスクワ、そして東京 5G/AI/VR・AR/UHD 加速する映像革命
▼2019年 2月号 加速する「MICE戦略」 建設ラッシュ国際会議場・展示場
▼2019年 7月号 ラグビーW杯 9月に開幕 初の日本大会 ホストブロードキャスターはIGBS 全試合初の4K中継に挑戦
ラグビーW杯に執念を燃やすJ SPOTS 全48試合4K/HDで生放送
▼2019年 8月号 ラグビーW杯日本大会 NHK地上波・BSで31試合 新4K8K衛星放送で6試合
▼2019年 9月号 国立競技場 スマートスタジアム
▼2019年10月号 BS日テレ 9月1日 4K放送開始 ラグビーW杯中継放送実施
▼2019年12月号 5G×ラグビーW杯 ドコモの5Gプレサービス
▼2020年 2月号 東京2020 OBSのIBC戦略
▼2020年 7月号 バッハの憂鬱
▼2020年 8月号 IOCの最後通牒 OlyPara開催規模縮小・経費節減
▼2020年10月号 コロナ禍 五輪 『対立』と『分断』の超克 冷戦後最大の危機

月刊ニューメディア

★新聞・雑誌対応
▼2017年2月号  国際イベントニュース 「メディア会場 豊洲移転提案に波紋 専門家“検討に値するアイデアだ”
▼2017年2月号  月刊THEMIS 「都と組織委がなすりあい 東京五輪 森喜朗組織委の“税金浪費”は止まらない」
▼2017年5月1日 朝日新聞夕刊 「展示場しわ寄せ ビックサイト20カ月利用制限 “商機失う” 中小悲鳴」
▼2017年7月19日 日刊ゲンダイ 「オリンピックで消える1兆円問題 見本市に五輪施設は世界の非常識」
▼2017年8月14日 日刊ゲンダイ 「五輪放送センターに豊洲新市場利用 一石二鳥のウルトラC」
▼2017年11月24日 サイゾー 「東京五輪・メディア施設は新設すべき」ビッグサイト使用計画に、数々の五輪を見た放送関係者からも疑問の声」
▼2019年9月号   民放(民間放送連盟) 「5Gは何ができるのか」 


★座談会・講演会
▼2015年 1月  新春座談会 「危うし! コンベンション都市東京」
「危うし! 展示会都市 東京」(日本展示協会)
▼2016年 3月25日 月刊「ニューメディア」研究会(ソラシティ・カンファレンスセンター)  「東京五輪・パラリンピック プレスセンター施設構築の常識」
2016年 7月11日 雷害リスク低減オープンセミナー(秋原UDXシアター) 「今、この瞬間を伝える ~情報伝達を途絶えさせないための備え~」 主催 雷害リスク低減コンソーシアム
▼2018年 8月3日 「東京AI利用研究会」 東京国際フォーラム ガラス棟会議室






★テレビ・ラジオ出演
▼TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ 現場にアタック」 「サミット争奪戦」 (2015年4月28日放送)
森本毅郎・スタンバイ 現場にアタック
▼フジテレビ 「めざましテレビ」   「東京五輪 課題は?」 (2016年8月22日放送)
▼フジテレビ 「みんなのニュース」  「東京五輪 課題は?」 (2016年8月23日放送)
▼テレビ朝日 「ワイドスクランブル」 「東京五輪国際放送センター問題」 (2016年9月5日放送)
▼フジテレビ 「新報道2001」   「伊勢志摩サミットメディア施設問題」 (2016年10月9日放送)
▼TBS 「ビビット」      「お台場海浜公園 水質汚染問題 ~トライアスロン・マラソンスイミング~」(2019年8月19日放送)
▼TBS   「Nスタ」       「お台場海浜公園 水質汚染問題 ~トライアスロン・マラソンスイミング~」(2019年8月19日放送)




Web Magazine “Media Close-up Report”
Published by IMSSR



新型コロナウイルス SARS-CoV-2 出典 NIAID

★新型肺炎
新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~
ワクチンの種類 遺伝子ワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 不活性化ワクチン
トランプ大統領 新型コロナに感染
米、規制当局の承認後すぐに配布開始 コロナワクチン計画
BARDA   NIH(米国立衛生研究所) NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所) CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
「ワープ・スピード作戦」 トランプ政権の賭け ワクチン開発でコロナ禍克服





出典 Rugby World Cup 2019


★Rugby World Cup 2019
ラグビーW杯2019日本大会開催 日本初の決勝トーナメント進出 南アフリカ優勝 ラグビー人気列島に沸騰 Topics 競技情報
ラグビーワールドカップ2019日本大会開催地
NHKは31試合 日本テレビは19試合放送 BS日テレ4Kでも放送 J Sportsは全48試合 HD/4Kで放送
日本代表 登録メンバー 31名発表
日本チームをけん引するコーチ・選手は?
なぜラグビーでは外国人選手が多いのか?
ラグビーの試合はこうして行われる 得点・反則・ペナルティ・プレー

初戦ロシア戦 苦しみながらも勝利で発進
日本代表 スコットランド戦の登録メンバー発表 ゲームキャプテンは、リーチマイケルが復帰
日本、アイルランドに19-12で劇的勝利 世界ランキング2位の強豪を撃破 勝ち点4を獲得 決勝リーグ進出に大きく前進
ラグビーW杯 日本 サモア 38-19で三連勝 ボーナスポントも獲得
日本代表 スコットランド戦の登録メンバー発表 ゲームキャプテンはリーチマイケルが復帰 堀江翔太、トンプソンルーク、福岡堅樹、ウイリアムトゥポウ先発
記録的な大雨で冠水したスタジアム 開催を支えた懸命の復旧作業 横浜国際総合競技場
記録的な強大な勢力を携える台風19号関東地方を直撃 プール戦の3試合は中止 注目の日本vsスコットランド戦はかろうじて開催
日本戦「日程変更してでも」 スコットランド協会が訴え 開催国に圧倒的有利な日程に不満 中3日で対戦のスコットランド監督が思わず本音
日本、宿敵スコットランドを28-21で猛反撃を振り切り、全勝でA組を一位通過、念願の決勝トーナメント進出
日本vsスコットランド戦 今年最高の視聴率39.2% サモア戦 32・8% ロシア戦 18・3%
ラグビーW杯 経済波及効果 4300億円
ラグビーワールドカップ大会ボランティア 「TEAM NO-SIDE」 1 万 3 千人
スーパーラグビーから外されるサンウルブズ

森喜朗氏の悲願 ラグビーW杯日本大会開催
ラグビーワールドカップはこうして始まった
記録的な大観衆を集めたラグビー黄金期 早稲田・明治
絶頂ラグビー人気 新日本製鐵釜石と神戸製鋼 ラグビーのリジェンド 松尾雄二と平尾誠二



筆者撮影 2019年12月15日



マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承

大会開催経費 1兆3500億円を維持 組織委員会予算 V4発表 苦渋のつじつま合わせ
もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
五輪関連支出、「1兆600億円」 会計検査院指摘 開催経費3兆円超」
東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国が「8011千億円」支出 組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘
「1725億円」は五輪開催経費隠し 検証・国の会計検査院への反論 青天井体質に歯止めがかからない

竹田JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑 窮地に追い込まれた東京2020大会
The Gaudian(2016年5月11日)の記事抄訳
Tokyo Olympics: €1.3m payment to secret account raises questions over 2020 Games


東京オリンピック ボランティア タダ働き やりがい搾取 動員 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!

東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパククトな大会”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
東京2020競技会場マップ
“迷走”海の森水上競技場
海の森水上競技場 Time Line Media Close-up Report

混迷を繰り返した四者協議 組織委・東京都・国・IOC 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如
主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
アクアティクスセンターは規模縮小で建設を検討か? 国際水泳連盟・小池都知事会談
「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園
江の島セーリング会場 シラス漁に影響 ヨットの移設や津波対策に懸念

東京オリンピック 難題!交通対策 渋滞マップ 15%削減 渋滞・混雑は解消できるか?
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心

北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至

““選手村は一つ”、“選手村はオリンピックの魂”の矛盾 どこへ行った五輪改革
唖然とする“五輪専門家”の無責任な発言 膨れ上がった施設整備費


★レガシー(未来への遺産) 負の遺産
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
冬季五輪の“宿命”“負のレガシー”(負の遺産)を抱える平昌冬季五輪
ロンドン五輪 東京五輪への教訓 ~周到に準備されたロンドン五輪レガシー戦略~
苦難の再出発 ロンドン オリンピック スタジアム~
“迷走”海の森水上競技場 深刻“負の遺産”


★平昌冬季五輪
平昌五輪のメディア拠点 国際放送センター(IBC)
平昌冬季五輪 競技場の全貌 最新情報
平昌冬季五輪 NBCは2400時間以上の五輪番組を放送
平昌冬季五輪 4Kに乗り出したNBC
視聴率低下に歯止めがかからなかったNBCの平昌冬季五輪中継
平昌冬季五輪は“5Gオリンピック” 韓国の戦略~2020東京五輪は平昌五輪に先を越されたか?~
冬季五輪の“宿命” “負のレガシー”(負の遺産)を抱える平昌冬季五輪
“陸の孤島”解消の主役、五輪高速鉄道(KTX)は赤字必至

相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市


★2018 FIFA World Cup Russia
2018FIFAワールドカップ 4K/HDRサービスに乗り出したHBS 国際放送センターはクロクス・エキスポに設置 VARが“勝敗の分かれ目”を決める その威力と功罪

Foxの“悪夢” 米国チーム抜きのモスクワ大会 視聴率は?
FIFAのスポンサーは中国企業が席捲
Ultra HDとVRサービスに挑むBBC 2018 FIFA World Cup Russia
巨額を投入したスタジアム建設 “負の遺産”に転落するのは必至
空前の汚職スキャンダルに見舞われたFIFA 再生は果たせるか?
止まらないW杯の膨張体質を支える放送権料 FIFAの収入の約62%は放送権料


2022カタール大会 目を見張る新スタジアム建設 65億6000万ドル(約7200億円)の巨額収入 新機軸eスポーツ


★2016リオデジャネイロ五輪
リオデジャネイロ五輪 波乱の幕開け 競技場の全貌
ロシア・ドーピング問題 タイムライン 最新情報
VR(Virtual Reality) Super Hi-Vision 次世代映像サービスに挑戦 リオデジャネイロ五輪
NHK 8Kスーパーハイビジョン試験放送開始 リオデジャネイロ五輪 8K番組表 パブリックビューイング
リオデジャネイロ五輪 インターネット配信はオリンピックの“救世主”になるのか?
ブラジル政治混乱 政治腐敗 混乱極める五輪開催都市リオデジャネイロ、そして東京
地獄へようこそ 治安の悪さ 世界的に突出 リオデジャネイロ
リオデジャネイロ五輪開会式はこうなる 監督はフェルナンド・メイレレス


★新国立競技場
迷走! 球技専用か陸上競技の“聖地”か 新国立競技場は負の遺産?
破格に高額 新国立競技場「1550億円」
聖火台「夢の大橋」設置へ 新国立競技場内は開閉会式時のみ使用の仮設聖火台
新国立競技場に暗雲 破綻寸前 日本スポーツ振興センター(JSC)

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)

審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏
有識者会議の責任 ~国立競技場将来構想有識者会議~
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト

デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?
検証 周辺整備費 新国立競技場
日本青年館 五輪便乗 JSC本部 新高層ビル>


★国際放送センター(IBC)
“迷走” 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメディア施設整備~IBC(国際放送センター)・MPC(メインプレスセンター)~”
Tokyo May Loose Its Status as an Exhibition City (English)
2020東京五輪大会 国際放送センター(IBC)とメインプレスセンター(MPC) 設営場所と使用後の再活用策
平昌五輪のメディア拠点 国際放送センター(IBC)
ロンドン五輪 リオ五輪 北京五輪 オリンピックのメディア拠点 IBC(国際放送センター) MPC(メイン・プレス・センター)/ MPC(メイン・プレス・センター)
オリンピックのメディア施設(IBC/MPC)はこうして整備される ~ロンドン五輪・その機能・システムと概要~
ロンドン五輪 東京五輪への教訓 ~周到に準備されたロンドン五輪レガシー戦略~
伊勢志摩サミット 最新情報 2016年G7主要国首脳会議
国際放送センター(IBC) IMF世銀総会 東京国際フォーラム 2012年10月
北海道洞爺湖サミット国際放送センター(IBC)
国際放送センターIBC(International Broadcasting Centre)サービス・システムIBC
国際放送センター(IBC)で使用される映像信号フォーマット(Video Signal Format)
IBC(International Broadcasting Center) System (English)


★東京五輪エンブレム
東京五輪エンブレム A案の「組市松紋」
“迷走”五輪公式エンブレム


★4K8K 超高精細テレビ放送
新4K8K衛星放送 苦難のスタート 2020年までに普及は可能か
新4K8K衛星放送 今週のイチオシ! NHK-BS日テレ-BS-TBS-BSフジ-BS朝日-BSテレ東 「ピュア4K番組」を見よう!
NHK BS8K BS左旋波で放送開始
8Kスーパーハイビジョン NHK技術研究所公開 その最先端技術は? 試験放送開始準備着々
“4K”サービス”競争 勝者は誰か? 出そろった“4K”(放送・配信)サービス ~衛星・IPTV・インターネットTV・CATV~
Re-mastering The Silk Road: Digital Image-Restoration Technology Re-masters Film Images as High Quality HD


★5G第五世代移動通信
米国、孟晩舟CFO逮捕 トランプ米政権、中国に対して強硬 米中対立激化
韓国 5G周波数オークション 携帯電話事業者3社に3.5GHz/28GHz帯割当て決定
5G・第5世代移動体通信 “世界に先駆け”2020年東京オリンピックに向けて実現へ
5G NR標準仕様の初版策定が完了 3GPP
総務省、「5G」の周波数帯をNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天の携帯4社に割り当て NTTドコモとKDDI(au)が優位に
5G周波数割り当ての審査方針総務省公表 地方を重視 通信事業者の重荷に
韓国 5G周波数オークションで携帯電話事業者3社に3.5GHz/28GHz帯割当て決定
 

★ICT

ウエアラブル端末 NTT Future Vision 2020
岐路に立つケーブルテレビ ケーブルテレビ60年
ラストワンマイル 通信回線・勝者は誰に? 検証ICT社会


★サイバー攻撃

サイバー攻撃 人材不足に危機感 東京2020五輪大会の備えは?
東京オリンピック サイバー攻撃 狙われる重要インフラ ウクライナ停電
“進化”するサイバー攻撃 マルウェア ~標的型攻撃 リスト型攻撃 DoS攻撃/DDoS攻撃~ 「サイバーセキュリティ立国」の脅威
“年金情報流出 標的型メール攻撃 サイバー攻撃
伊勢志摩サミット サイバー攻撃 2016年サミットは格好の標的に テロの主戦場は“サイバー空間”


★G20大阪サミット

G20大阪サミット 安倍首相 真価が問われる 咲洲に設置された国際放送センター(IBC)
G20 大阪サミットの会場となったインテックス大阪・負の遺産 咲洲はどうなるのか


★G7伊勢志摩サミット

G7伊勢志摩サミットの成果は? 主要国首脳会議2016

国際放送センターIBC(International Broadcasting Centre)サービス・システム G7伊勢志摩サミット・G8北海道洞爺湖サミット
伊勢志摩サミット・G7外相会合 広島で開催 ~伊勢志摩サミット 最初の閣僚会議~
G7北九州エネルギー大臣会合 「北九州イニシアチブ」を採択して閉幕 日本にLNGの国際市場創設
エルマウ サミット ドイツ G7 Germany2015 Schloss Elmau
伊勢志摩サミット サイバー攻撃 2016年サミットは格好の標的に テロの主戦場は“サイバー空間”
伊勢志摩サミット ICTサミット “ICT立国”のショーケースを伊勢志摩サミットで!


★US Open Tennis
大坂なおみの初優勝を台無しにしたセリーナ 全米オープンテニス決勝戦(2018) 人種差別に抗議 マスク着用で二回目の優勝(2020年)



★メディア・リテラシー
私たちの「顔」は誰のもの? ~肖像権(Portrait rights)・パブリシティ権・プライバシー権~
Who Owns our Faces? -- Portrait Rights

news zero迷走 有働由美子 ニュースキャスター失格 ニュースは「あさイチ」ではない
小池氏勢力過半数獲得 自民、歴史的惨敗 “風”は「反安倍政権」に激しく吹いた 2016都知事選
「憲法改正」世論調査の“読み方
大阪都構想 住民投票 出口調査 各社比較
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NHKニュースの看板が泣いている! 安保関連法ニュース ~どこへ行った「NHKニュース7」~
安全保障関連法案 戦争法案? ~海外メディアはどう伝えたか? 海外の反応は?~
米ワシントンポスト紙WEB版に沖縄意見広告が「普天間辺野古移転反対」のバナーが掲載
美濃加茂市長に無罪判決 検証・メディアの報道姿勢!
大川小学校の悲劇 検証・大川小学校事故報告 検証はまだ終わっていない 東日本大震災4年


★エッセイ
“まわりみち”~横浜市青葉区 保木地区 桃源境~
あざみ野“桜通り”




2020年1月1日
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
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thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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反安倍政権 風が吹いた 小池都知事 都民ファースト 過半数確保 歴史的惨敗 反自民の受け皿 安倍1強

2020年01月17日 10時14分22秒 | 政治
小池氏勢力過半数獲得 自民、歴史的惨敗





“風”は「反安倍政権」に激しく吹いた
 2016年7月2日、東京都議選挙(定数127)で、 小池都知事が代表を務める地域政党「都民ファーストの会」が49議席を獲得し、都議会第1党となった。公明党などと合わせ、小池知事を支持する勢力は79議席を確保し、過半数の64議席を大きく超えた。自民党は過去最低の38議席を下回る23議席にとどまり、歴史的惨敗となった。安倍政権にとって大きな打撃で、厳しい政権運営を強いられる。
 今回の都議選は、昨年8月に就任した小池知事に対する事実上の審判として注目を集め、投票率は前回を7・77ポイント上回る51・27%だった。
 期日前投票を行った人は135万5163人で、前回(4年前)の選挙と比べて45万人余り、率にして51%も増えた。
「共謀罪」法案の強行採決、「森友学園」や「加計学園」問題への政権の対応、稲田防衛相の発言、豊田議員の暴言など、安倍政権に対する批判が都議会選挙で強烈な逆風となった。
“風”は「反安倍政権」に激しく吹いた。

自民党と圧倒した小池都知事

 都民ファーストは、50人の公認候補者のうち、島部の1人を除く49人が当選。また同会は、当選した6人の無所属の推薦候補について、公認に切り替えることを決めた。
 小池都知事と選挙協力を結んだ公明党は、今回23人を擁立し、7回連続で全員当選を果たした。
 一方、自民党は、都議会議長などが相次いで落選。過去最低の38議席を下回り、改選前の57議席の半分以下の23議席に終わった。都連は「連帯責任」として、下村博文会長や高島直樹幹事長ら5役全員が辞任するとしている。
 37人を擁立した共産党は、改選前の17議席を上回る19議席を獲得。離党者が相次いだ民進党は改選前の7議席から5議席に減らした。

 小池都知事に初の選挙となる今回の東京都議会選挙では、「都議会自民党」への批判姿勢や「豊洲市場移転」や「東京五輪」などが焦点になるはずであった。とりわけ「豊洲市場移転」問題では、結論を先延ばした上に、築地市場も残存を図るとした曖昧な計画に示し、「いつまでも決められない小池都知事」と批判を浴びた。
 その結果、6月下旬の朝日新聞の都民調査では、小池知事支持は、74%(2017年4月)から急落して59%、 都議選投票先は都民ファーストと自民と同じ25%と、両者は拮抗してしまう。
小池都知事への「風」は失速していた。
 こうした情勢を激変させたのは、選挙前1カ月の「森友学園」や「加計学園」問題への政権の対応、稲田防衛相の発言、豊田議員の暴言など安倍政権に対する国民の激しい“憤り”であった。小池都知事にとっては、まさに“神風”であった。
今回の敗因について、自民党の閣僚経験者は「THIS IS敗因」と述べたと伝えられている。T=豊田真由子衆議院議員、H=萩生田光一官房副長官、I=稲田朋美防衛相、S=下村博文都連会長が「THIS」であるとしている。

“安倍政権の支持は、“消極的支持” 他に“受け皿”がない!
 安倍政権が世論調査では、高い支持率を誇っていた。朝日新聞の調査では47%5月24、25日実施)と「共謀罪」強硬採決に対する批判が高まっているなかで、50%近い高い水準を維持していた。もっとも6月17、18日に実施した世論調査では、安倍内閣の支持率は41%でと大幅に下落して、政権に動揺が走ったとされている。

これまで、安倍政権が高支持率を保持して背景は、選挙民は安倍政権を“積極的に支持”してわけではないと筆者は考える。あくまで“消極的な支持”で、「他に支持できる政党がない」からだろう。
とりわけ、本来は自民党政権の“受け皿”になるはずの民進党への信頼感が喪失しているのが大きな要因だ。
今回の東京都議選挙では、民進党は、安倍政権への逆風で、恰好の場を得て、議席数拡大の絶好の機会だったのに逆に議席を減らした。
選挙民は民進党を自民党政権の“受け皿”として認めていなかったのである。
しかし、忘れてはならないのは、国民は安倍政権に対して、100%信頼を置いていたのではなく、その政権運営の手法に、「批判」と「不満」を頂いていたのに違いない。
ところが、余りにも頼りなく感じられる野党に向かうのは躊躇していた。

“小池都知事が「反自民」の受け皿に
 今回の東京都議選で、小池都知事と都民ファーストの登場は、こうした「批判」と「不満」を抱いていた国民にとって、絶好の自民党政権の“受け皿”となったとなったのである。国民は、信頼できそうな“受け皿”を探していたのである。

 次の国政選挙で、自民党政権の“受け皿”として幅広く支持を得られる政党が現れたなら、自民党は“大敗”する可能性がある。今の既成野党、民進党や共産党などはその役割は担えない。

 国政選挙でも、「風」は反安倍政権に吹く可能性は十分にある。重要なのはその“受け皿”となる新たな政党が生まれることだ。政党再編の軸になるのは、小池都知事の政治勢力かもしれない。
「安倍1強」に終わりを告げる日は、そう遠くないかもしれない。



2017年07月03日

Copyright (C) 2017 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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8K放送 NHK BS左旋波

2020年01月17日 09時35分08秒 | 4K8K
NHK BS8K BS左旋波で放送開始

NHK BS8Kは、午前10時から午後10時10分で、毎日、約12時間、放送する。8K放送は定時枠を基本とした編成ではなく、番組の内容に応じた柔軟編成となるとしている。
 BS8Kが力を入れているのは、毎週日曜日の夜7時から時間枠で、集中的に8K大型番組を編成する。しかしほとんどの時間は、新作のリピート放送や旧作の再放送が多い。
 音楽の分野では「世界三大オーケストラの響き」と題し、「ウィーン・フィル」、「ベルリン・フィル」、「ロイヤル・コンセルトヘボウ」の三つのオーケストラの演奏会を放送、FIFAワールドカップ・ロシア大会で8K中継を行った8K中継車を、そのままヨーロッパに転戦させて収録した。NHKは8K中継車を2019年度中に1台増やし、合わせて4台にする予定だ。2020東京五輪大会では8K中継車、4台体制で臨む。
 また歌劇団の公演も、5組全て新作を収録して放送する。
 美術番組では、フランスとの国際共同制作で進めている「ルーブル美術館 美の殿堂の400年」を4回にわたって放送する。
 さらに「黄金のマスク」をはじめ4,000点以上の秘宝をその魅力と秘められた物語に迫る3回シリーズのドキュメンタリー、「シリーズ ツタンカーメンの秘宝」やゴッホが描いた日没を迎える数分間に空に不思議な色が現れる「マジックアワー」の力作を描く「マジックアワー ~ゴッホが描いた空の光~」、中世の街並みが残る世界遺産の街、ベルギーのブルージュに伝わる伝統楽器、カリヨンの演奏を伝える「カリヨン 時を超えるブルージュの鐘」なども放送する。
 紀行番組では、「メキシコ・ユカタン半島 驚異の大自然 神秘の水中鍾乳洞 セノーテ」や「北米イエローストーン 躍動する大地と命」、「南米イグアスの滝」、「アジアの巨大遺跡 ミャンマー パガン遺跡」などを放送する。

 8Kは70mmで撮影された映画のリマスター版製作にも威力を発揮する。
 1968年に制作された「2001年宇宙への旅」はSF映画の「金字塔」と言われているが、この映画は当時、最高の画質を求めて70mmフィルムで撮影された。
 現在は、70mmフィルムのプロジェクターがほとんど消え去り、一部の施設でしか上映するのは不可能になった。この貴重な映像資産、70mmフィルム映画が高画質を誇る8Kで蘇ることにになる。来年3月には「マイフェアレディ」の8K版を放送する予定だ。70mmフィルム映画の8Kリマスター版製作は今後注目される。
 来年3月には、ノーベル文学賞を受賞した作家、カズオ・イシグロ原作の「浮世の画家」を8K特集ドラマで放送。カズオ・イシグロ作品のテレビドラマ化は初となる
 また「大相撲」や「NHK杯フィギュア」などの大型スポーツ中継や随時編成される。
 オデジャネイロ五輪、平昌五輪、サッカーW杯モスクワ大会などのこれまでに放送した豊富な8Kスポーツ中継・コンテンツも放送する計画だ。
 勿論、2019年の「ラグビーW杯」、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」も8Kライブ中継されるだろう。
 NHKでは、8Kクォーリティで制作・放送する“ピュア8K”の比率は、約60%程度としている。


NHK 平成31年度8Kチャンネル編成イメージ

NHK 8K週刊番組表

 フランスとの国際共同制作「ルーブル美術館 美の殿堂の400年」については、“またまたルーブル美術館”かという印象が強い。ことあるごとにルーブル美術館という発想の貧困が見え隠れする。筆者も美術番組には興味があり、NHKや民放の番組はよく見るが、単なる美術館紹介番組はもう飽きた。高繊細・高画質を掲げる8K番組であるにしても、多くの視聴者の思いも同じであろう。モナリザやミロのビーナスは8Kで撮影すると、どのように見えるのか程度は興味があるが、作品を丁寧に紹介されても興味はわかない。そもそも多くの視聴者は、ルーブル美術館を訪れ、現物の作品を見ているのではと考える。もっとも8K撮影は映像資料アーカイブとしてはは意味があるだろうが、放送番組としては如何か?。
 美術番組が視聴者の興味と感心を引き付けるのは、単なる作品の紹介ではなく、作品や作者のストリー性である。それには制作者の取材力が試される。高繊細・高画質だけを「売り物」にしても、最早、視聴者はついていかないだろう。NHKの番組制作能力の真価が試される番組だ。
 コンサート番組は、22.2サラウンドの高音質が「売り物」だ。しかし、パブリックビューイングならともかく、22.2サラウンドの音響システムを備えている家庭は果たしてどの位いるのだろうか。そもそも8Kテレビ自体の家庭への普及はほとんど進まないが実態だろう。そもそも22.2サラウンドの音響システムは市販されたいない。
 一方、「ラグビーW杯」や「2020東京五輪大会」などの大型スポーツ中継は期待は持てるだろう。リオデジャネイロ五輪、平昌五輪、サッカーW杯モスクワ大会などの8Kアーカイブコンテンツも興味深い。
 NHKの8K放送の最大の問題は、一般家庭に8Kテレビがまったく普及しないと見られていることである。「究極の二次元テレビ」で超高繊細を掲げても、その威力が発揮できるのは100インチクラス以上の大型テレビとされている。日本の一般家庭で、100インチのテレビを設置可能な世帯は果たしてどの位あるのだろうか?
 NHKでは、有機ELのフイルム製の超薄型8KテレビをLGやASTROと共同開発してInter BEE2018で展示した。フィルムは厚さわずか1mm、88インチのパネルである。「壁かけテレビ」にすれば一般家庭でも設置できるのではしている。
 しかし、富裕層の豪邸なら、シアタールームなどで100インチクラスの大型画面で8Kコンテンツを楽しむことはできるだろうが、一般家庭のリビングルームでは100インチクラスの大型画面は大きすぎ、圧倒されて番組を楽しむどろこではないだろう。そもそも一般家庭で見るテレビ番組は、ニュース・情報番組、娯楽番組がほとんどで8Kでは放送していない。かといって100インチクラスの「壁掛けテレビ」と40インチクラスの液晶テレビをふたつ置くほどのスペースはない。
 8K放送を一般家庭に普及させようとするサービス・モデルは基本的に無理がある。
 膨大な受信料を投入して8K放送を開始したNHKはその普及をどう実現するのか、公共放送として大きな責任を背負った。 


NHK 8K中継車 SHC1 リオデジャネイロ五輪、平昌冬季五輪、2018FIFA ワールドカップ・ロシア大会では2台(SHC1/SHC2)を投入して8K中継を実施


22.2マルチチャンネル音声中継車 SA1 NHK

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新国立競技場 球技専用 陸上競技の聖地 サッカー ラグビー  

2020年01月16日 11時47分10秒 | 国際放送センター(IBC)
迷走!球技専用か陸上の聖地か 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)?(6)


深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



新国立競技場竣工
 迷走に迷走を重ねた新国立競技場が、全体工期36か月を経て、工事計画通り11月30日に竣工した。
 新国立競技場の整備経費については、1590億円を上限として、賃金や物価変動が発生した場合のスライド、消費税10%の反映、設計変更に伴う修正などを行う契約で工事が開始されたが、最終的に21億円下回る1569億円となった。
 厳しいとされていた36カ月の工期は悠々達成し、工費も上限を下回ることで、日本の建築技術の高さが実証されてといっても良い。
 計画段階の唖然とした迷走ぶりに比べて、一転して見事な施工管理で完了した。
 問題は、五輪大会開催後の後利用の計画が未だに示されていないことである。
 計画では、今年中に後利用の計画を策定して大会後の改修工事の方向を決めて、指定管理者の選定を開始する予定だった。
 新国立競技場の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
 これによると、陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保する。観客席は6万8千席(五輪大会終了後)から国内最大規模の8万席に増設し、改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、陸上競技関係者などから、陸上トラックを残して、新国立競技場を「陸上競技の聖地」として存続するべきだという声が強く出され、陸上トラックは残して陸上と球技の兼用にする方向で調整も進んでいることが明るみにでた。新国立競技場の後利用の方向性が再び混迷を始めている。
 こうした中で、11月19日、萩生田光一文部科学相は、新国立競技場の後利用について、民営化の計画策定時期を大会後の2020年秋以降に先送りし、その後に指定管理者の公募を行うと明らかにした。今年半ばごろに計画を固める予定はあっさり放棄した。
 先送りした理由については、大会の保安上の理由で現時点では詳細な図面を開示できず、運営権取得に関心を持つ民間事業者側から採算性などを判断できないとの声が上がったためだと説明した。しかし、真相は後利用の事業性にめどがつかず、結論を出せないからでろあろう。
 また萩生田氏は、焦点となっている陸上トラックの存続可否については「民間の方の意見を聞いた上で最終方向は決めるが、基本的には球技専用スタジアムに改修する方向性で継続して検討を続けていきたいと思っている」と述べた。しかし、政府関係者にも「今のままでは手を挙げるところがない」という声が出ているという。
 一方、橋本聖子五輪相は後利用について「トラックを残すべきだという意見もあるというのは承知している。新国立にふさわしい運営をしていただけるような検討をお願いしたい」と語った。(11月19日 共同通信)
 新国立競技場の改修後の供用開始、2022年は大幅に遅れることは必至である。その間も、新国立競技場は年間24億円の維持管理費が必要となるとされている。当面所有者の日本スポーツ振興センター(JSC)は毎年24億円の赤字を背負うことになる。
 陸上トラックを存続して「陸上競技の聖地」として出発しても、陸上トラックを撤去してサッカーなどの球技専用のスタジアムになるにしても、6万8000人(五輪大会時6万人)収容の巨大スタジアムを維持するのは至難の業である。フランチャイズチームもたないスタジアム経営はなりたたないというのが常識である。
 一方、収益性の確保のカギとなる「多機能スタジアム」化は、経費削減で、屋根の設置が取りやめになり挫折した。
 「木と緑のスタジアム」、新国立競技場は、五輪のレガシーどころか大会後は赤字を背負ってのスタートとなるのは避けられない。
 負の遺産になる懸念は拭えない。


提供 日本スポーツ振興センター(JSC) 2019年11月撮影


トラック、ピッチの芝生工事は完了 日照不足に対応する芝生養生用の投光器に照らされて芝生の一部がオレンジ色に

聖火台「夢の大橋」設置へ 新国立競技場内は開閉会式時のみ使用の仮設聖火台


新国立競技場 「陸上の聖地」 復活か?
 2019年11月末に完成する新国立競技場について、大会後に改修して球技専用とする方針を変更し、陸上トラックを残して陸上と球技の兼用にする方向で調整が進んでいることが明らかになった。
 これを受けて、小池百合子都知事は会見で、「国から変更したとはまだ聞いていないが、球技、陸上、エンタメの3つで使えることになれば、国の施設として有効に利用できるのではないか」と話した。「球技専用になると世界大会並みの国際標準の大会ができないと、陸上ファンの方からいろんな声を聞いていた」とも述べた。(日刊スポーツ 7月6日)

 新国立の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
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 基本運営方針として、(1)ラグビーW杯の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(4)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げ、大会後に陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保するとした。陸上競技のトラックを撤去し、収益性を確保するため観客席を6万8千席から国内最大規模の8万席に増設する。改修後の供用開始は2022年を目指すとしている。

 しかし、その後の検討で、陸上トラックなどを撤去して客席を増設する改修工事には、100億円程度が必要な上に、サッカーの試合の開催は天皇杯や日本代表戦などに極めて限定され、頼みにしていたJリーグの公式試合の開催は絶望となり、利用効率の改善が期待できないことが明らかになった。
 またFIFA ワールドカップの開催を目指すとしてもまだまったく目途がたっていない。ラグビーW杯は今年開催され新国立競技場は完成が間に合わず、決勝トーナメントは横浜国際総合競技場と東京スタジアムで開催されることになっていて、また開催される可能性は遠い先である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、民間事業化に向けて行った民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を行ったが、球技専用に改修してもあまり収益が見込めないことが明らかになってきた。
 また収益性を高める柱となるコンサートやイベントの開催については、経費節減で屋根の設置が取りやめになり、観客席の冷房装置も設置されなかったことが大きなマイナス要素となる。
 屋根がない新国立競技場では天候に左右される上に、近隣への騒音も問題になる。8万人の大観衆を集めることができる集客力のあるイベントは自ずから限定されるのは明らかだ。
 また、コンサートなどイベント開催は、傷みやすい天然芝の上にステージや観客席を設置しなければならないことで開催回数は増やせない。イベント関係者はむしろトラックを存続した方が芝生へのダメージは防げるとしている。
 一方、陸上関係者からは、2020東京五輪大会のレガシーとして新国立競技場は陸上競技場として存続して欲しいという声は根強い。
 旧国立霞ヶ丘競技場は、「陸上の聖地」として歴史あるナショナル・スタジアムとして国民の評価を受けてきた。「陸上の聖地」が消えるのは余りにも無念ということだろう。
 陸上トラックを残しておけば、陸上競技大会開催だけでなく、イベントのない日などに市民にトラックを開放したり、市民スポーツ大会を開催したりして市民が利用できる機会が生まれて、2020東京五輪大会のレガシーにもなるだろう。
 国際的にも最高クラスの9レーンの陸上トラックを、2020東京五輪大会だけのため整備するのでは余りにももったいない。
 しかし、国立霞ヶ丘競技場の陸上トラックを存続させ、陸上競技大会や市民スポーツ大会開催を目指しても、収益性の改善にはほとんどつながらないし、そもそも陸上競技では、6万人規模のスタジアムは大きすぎて、観客席はガラガラだろう。全国大会クラスでも数万人収容規模のスタジアムで十分である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の長期修繕費を含む維持管理を年間約24億円としている。大会開催後の新国立競技場の収支を黒字にするのは簡単ではない。

 日本スポーツ振興センター(JSC)では、事業スキームに民間の創意工夫を最大限反映させるため、民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を進めながら、文科省と協議して新国立競技場の大会後の在り方の検討を進め、指定管理者を公募して新国立競技場の運営管理を委託するとしている。
 新国立競技場は球技専用スタジアムになるのか、陸上競技場として存続するのか、新国立競技場の迷走は、まだまだ終わらない。

 12月21日は、「国立競技場オープニングイベント~HELLO, OUR STADIUM~」を開催することが決まった。そして2019年元旦の天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会が「こけら落とし」の大会となる。


竣工した国立競技場 「杜のスタジアム」 提供 JSC


筆者撮影 2019年12月15日
日本の伝統建築の技法、「軒庇」を取り入れる。縦格子には全国47都道府県の木材を使用


筆者撮影 2019年12月15日


筆者撮影 2019年12月15日
国産木材を使用した巨大屋根 観客席を覆う


筆者撮影 2019年12月15日
南北の3層に設置された大型スクリーン 南/9.7m×32.3m 北9.7m×36.2m フルHD画質


筆者撮影 2019年12月15日
五色に塗り分けらられた観客席 木漏れ日を表現 約6万席(五輪大会開催時)


筆者撮影 2019年12月15日
9レーンの最新鋭の「高速トラック」
 大会組織委員会はイタリアのモンド社とソールサプライヤー契約を結び、陸上競技トラックなどの陸上競技の備品の独占的供給を受ける契約を結んだ。モンド社は11大会連続で陸上競技トラックの公式サプライヤーとなった。トラックは二層の合成ゴム製で、表層はノンチップエンボス仕上げ、下層はハニカム構造のエアクッション層となっている。


提供 JSC
 芝生は鳥取県の天然の砂丘の砂地で生産された「北条砂丘芝」を採用。2019年7月、暖地型芝草(バミューダグラス系)の「ティフトン」を敷き詰めて、秋には冬芝の種をまいて冬期間の芝生の緑も保つ。

迷走! ロンドン五輪スタジアム サッカー専用か陸上競技場か



最難関の屋根工事完了 フィールド・トラック工事へ
 2019年5月17日、日本スポーツ振興センター(JSC)は2020年東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の屋根が完成したと発表した。木材と鉄骨を組み合わせる最難関の工事とされたが、2月に工事は順調に終了したとした。
 屋根の工事がほぼ終了したことでフィールド内に置かれていた重機が撤去され、フィールド工事が本格化している。基礎工事である排水路工事を行い、玉砂利を敷き詰め、土壌を入れて天然芝を張る工事が行われる。トラック部分では9レーンの最新鋭のトラックの敷設が始まる。
 またスタンドでは約6万席の観客席の取り付け工事や歩行者デッキなどの周辺工事を行い、9月末までに主な工事を完了し、11月末の完成を目指す。



出典 新国立整備スケジュール 2019年5月17日 JCS スタンドを覆う屋根は完成


出典 新国立整備スケジュール 2019年5月17日 JCS 工事用重機は撤去されている


出典 新国立整備スケジュール 2019年5月17日 JCS


■ 新国立競技場 2019年2月12日

全容を現した新国立競技場 工期・コストも順調 工事はピーク 一日2500人の作業員が従事 出典 新国立整備スケジュール 2019年2月12日 JCS


屋根の鉄骨工事はヤマを越す 5月中旬には完成  出典 新国立整備スケジュール 2019年2月12日 JCS


フィールド工事は3月に開始  出典 新国立整備スケジュール 2019年2月12日 JCS


6万席の観客席の内、1万席の設置が終了  出典 新国立整備スケジュール 2019年2月12日 JCS



陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
 2017年11月14日、「新国立競技場」の整備計画を検討する政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)は14日、五輪大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに改修する計画案を了承した。22年後半の供用開始をめざす。
 計画案では、大会後はサッカーのワールドカップ(W杯)開催などにも対応可能するとともに収益性を確保するために、陸上競技のトラックを撤去して観客席を設けたり、スタンド上部に観客席を増設したりして、観客席を6万8000席から1万2000席増やし、国内最大規模の8万席にする。
 運営方針として、(1)サッカーのワールドカップ(W杯)の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(3)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げた。
 老朽化した国立霞ヶ丘競技場の建て替えが検討された時に、新しい国立競技場を建設して、東京の新たな“ランドマーク”にし、陸上競技の“聖地”として2020東京大会の“レガシー”にすると意気込んだ。
 しかし、陸上競技では、8万席の観客席を埋めるのは、絶望的で、オリンピックや陸上世界選手権などを除けば、せいぜい1~2万人程度が集まる程度で、スタンドはがらがらだろう。
 また陸上競技の主要大会の開催には必要不可欠なサブトラックが確保できないため、陸上競技の“聖地”にはなれないことは当初から指摘されていた。
 国際規格に適合した9レーンの最高品質のトラックは、取り壊され、まったく無駄になる。
 サッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムなら3万~5万人程度の観客が期待できる。日本代表戦のほか、天皇杯、皇后杯や国際カップ戦の決勝、大学選手権の決勝などで使用することを想定しているが、開催回数は限られている。
 年間の稼働率を上げて収益性を高めるには、Jリーグの開催を実現したいところだが、Jリーグの各チームのホーム・スタジアムは、日産スタジアム(横浜)や味の素スタジアム(調布)、埼玉スタジアム(浦和)があり、新国立競技場の開催ができるかどうか今の段階では「未定」とされ、先行き不透明だ。
 イベントやコンサートの開催は集客もあり収益性も高いことから魅力的ではあるが、イベント開催に必須な屋根の設置は取りやめた。雨天対策や近隣への騒音問題で、屋根のないスタジアムでは、自ずからイベント開催も限られる。
 子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会の積極開催を掲げているが、「8万人」の観客席を備えた巨大なスタジアムはこうしたイベントにはまったく適さない。
 大会後に新国立競技場で開催するスポーツ競技大会は年間80日、その内通常の競技会は44日で、ビックイベントは36日(サッカー20日、ラグビー5日、陸上11日)程度を見込み、コンサートや展示会などのイベントは12日程度と見込んでいる。残りの約270日は、一体、何に利用するのか。
 新国立競技場の使用料は破格に高額になることも懸念材料だ。
 イベント使用の場合、新国立競技場は、1日で「5000万円」程度を想定している。同じ都心にある東京ドームは「2000万円」、しかも屋根付きのドームスタジアムである。日産スタジアム(横浜)は「1440万円」、さいたまスタジアムは「959万円」、味の素スタジアム(調布)は「1080万円」で、とにかく新国立競技場の利用料は飛びぬけて高額だ。コンサートの開催で人気のある武道館は「480万円」、横浜アリーナは「650万円」、「5000万円」を掲げる新国立競技場のイベント会場としての競争力は果たしてどの程度あるのだろうか。
 スポーツ競技大会についても、日産スタジアム(横浜)ではアマチュア・スポーツ競技の場合は、わずか48万円、1964東京五輪のサッカー予選会場となった駒沢陸上競技場は収容人数約2万人の適正規模のスタジアム、利用料は23万円、入場料を徴収する場合でも27万3000円である。これに対して新国立競技場は通常の競技大会では200万円、サッカーやラグビー、陸上競技などのビックイベントともなると800万円程度、サッカーW杯クラスの超ビックイベントでは2000万円程度されている。
 増築後は収容人数「8万人」を有する巨大スタジアムを、破格に高額な利用料を払って、一体、誰が利用するのだろうか。
 五輪後の展望はまったく見えない。

 新国立競技場の維持管理費は長期修繕費を含めて年間約24億円とされている。これには約5億円程度とされている人件費や公租公課が含まれていないので、実質的には年間30億円程度になるだろう。経費を上回る収入確保できなければ、50年、100年、延々と赤字を背負うことになる。
 陸上競技の“聖地”とし、2020東京大会の“レガシー”するために国立競技場を立て直すのではなかったのか。本当に1984東京大会の“レガシー”になった旧国立競技場(国立霞ヶ丘陸上競技場)を取り壊す必要があったのだろうか。余りにも杜撰な計画に唖然とさせられる。
 結局、新国立競技場が“負のレガシー”(負の遺産)になるのは避けられそうもない。

JSC 794億円の資金不足に 五輪大会開催後の改修計画に見通し立たず
 新国立競技場は、2019年11月末の完成に向けて、順調に工事が進み、2017年度中に地上躯体工事が完了し、現在は屋根工事、内装仕上工事等に着手している。
 新国立競技場の整備は日本スポーツ振興センター(JSC)が実施しているが、スタジアム本体の工事だけではなく、周辺整備や設計・監理に加えて、旧競技場の解体工事、埋蔵文化財調査、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転、新国立競技場の通信・セキュリティ関連機器や什器の整備など幅広い業務を担う。JSCは2013年度から2017年度までの支払額はすでに計738億余円に達した。
  
 東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点では協定書等は締結されておらず、東京都からの支払も行われていない。JSC法によれば、費用の額及び負担の方法はJSCと東京都が協議して定めることとされており、また、支払等の期限は定められていない。JSCや東京都によると、今後JSC法に基づいて協議を進めて支払うこととしているが、29年度末時点でJSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている。
 また、JSCは、2017年度に五輪特定業務勘定から国立代々木競技場の耐震改修等工事に必要な費用として約7296万円、ナショナルトレニンセンター(NTC)の拡充整備のための用地取得等に係る費用として46億余円が支出している。
 JSCは、29年度中に支払のための資金が不足したことから、スポーツ振興くじ勘定から五輪特定勘定へ50億1000万円の資金を融通した。そして2017年度の決算に当たりスポーツ振興くじ勘定へ返済するために民間金融機関から同額の融資を受けた。

 JSCによると、新国立競技場の五輪特定勘定の収入は2020年度までは毎年、110億円程度の収入がある。また2019年度には東京都から分担経費負担額と道路上空連結デッキの整備費用の残額の約431億円が支払わられるとしている。しかし、支払いをめぐるJSCと東京都が協議は終わっていないので、入金時期の目途はたっていない。
 第Ⅱ期業務では、Wi-Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器整備を約27億2715万円で整備したり、国立代々木競技場の耐震改修等工事を実施したりして、支出が膨れ上がり、その結果2018年、2019年の2年度でJSCは794億円の資金不足に陥ることが見込まれている。
 JSCは、スポーツ振興くじ勘定などからの資金の融通はこれ以上不可能なことから、2018年4月に311億円を民間金融機関から長期借入金として借り入れた。
 311億円については2023年度までに返済する計画だが、今後借り入れる予定の約500億円の借入金の返済については、返済が始まる2024年度以降はスポーツ振興くじからのJSCの収入が売上金額の5%に戻され減少するので、返済期間は長期にわたるり、難航することが見込まれている。
 この収支の見通しはまだ不確定で、想定どおり毎年度110億円程度の収入があるかは不明である。また東京都からの支払が想定どおり31年度中に行われるかはまだ決定していない。
 こうしたJSCの危機的な財務状況で、膨大な経費が必要な新国立競技場の「球技専用」改修工事は本当に実現可能なのだろうか、疑念は深まる。
 「世界に誇れる日本らしいスタジアム」の迷走は、まだ止まらない。

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)



迷走 ロンドン五輪スタジアムの再出発 サッカースタジアムへの転用は?


ロンドン・オリンピック・スタジアム 出典 LOCOG

 2006年10月、ロンドン・オリンピック組織委員会は、McAlpine(建設会社)、POPULOUS、Buro Happold(建設コンサルタント)のコンソーシアムによるオリンピック・スタジアム設計案を採用した。スタジアムは屋根が建物をまるごと覆う独特の外観で、「筋肉が人体を支持するのと同じ構造で、スタジアム自体が人体を表現する」と、デザイン案を評価した。
 設計者のPOPULOUSは、アメリカ・ミズーリ州・カンザスシティに本社を持つ、スポーツ施設及びコンベンションセンターなどの設計を専門とする設計事務所、建設コンサルタント。スポーツ施設やコンベンションセンターの設計から大規模イベントの企画までを専門とする建築設計事務所である。

 ロンドン・オリンピック・スタジアムは、オリンピックパークの敷地の一画にあった廃止されたドッグレース場の跡地に建設された。
 着工は2007年、2011年の竣工まで4年間を要した。 オープンは2012年5月。
 スタジアムは、広さ310メートル×260メートル、高さ67.7メートルの建物で、観客席は8万席、1層の恒久エリアの観客席が2万5000席、2層の仮設エリアの観客席が5万5000席とした。
 固定式の屋根で観客席を覆っているが、全体の観客席のうち1層前方の約40%が屋根に覆われていない構造だった。

 施工者は、ロンドン五輪の競技場や交通機関などのインフラ建設・整備を担当するODA(Olympic Delivery Authority)である。
 建設費は、ロンドン五輪招致時は、2億8000万ポンド(約381億2000万円)だったが、2011年には約4億8600万ポンド(733億円)、2013年には4億2900万ポンド(約655億円)とした。
 9レーンの陸上トラックはイタリアの会社Mondoによって設計され、最新のMondotrack FTXを使用された。
 2012年のロンドン夏季オリンピックの主競技場として、開閉会式と陸上競技が開催された。
 五輪大会終了後は、観客席を5万4000席に減築して、夏季期間は陸上競技やコンサートなどのイベントで使用、冬季期間はサッカー専用スタジアムとして使用する計画とした。
 改修工事は、約2万5000席の上層部の観客席の撤去や、サッカー試合の観戦環境を改善するために陸上トラックの上を覆う「収納式」可動席の設置(約2万1000席)、観客席の全てを覆う屋根の設置(五輪大会開催時は約40%の観客席が屋根なし)をLLDC側の責任で実施する。
 2016年に改修工事は終えて、可動席を含めると約6万人収容のスタジアムとして再出発することになった。


ロンドン・スタジアム 出典 ARC 5824 Advanced Studio2 Case Study
 
英プレミアムリーグ、ウエストハムの本拠地へ
 2013年3月23日、ボリス・ジョンソンロンドン市長とニューハム評議会のロビン・ウェールズ市長は、最終的にウェストハムを長期アンカー・テナントとして選定し、ウェストハムとテナント契約を仮締結した。紆余曲折を経て難航したコンペは、ようやく決着した。
 ロンドン市側とウェストハムは、陸上トラックは残し、夏季期間は陸上競技やコンサート、その他のイベントをスタジアムで開催し、サッカーシーズンは、ウェストハムがサッカースタジアムとして使用する「多目的スタジアム」にするスキームで合意した。
 ウェストハムはこれを条件に99年間の占有使用権(テナント料)を、年間250万ポンド(約38億2000万円)を支払うことでホームスタジアムとして使用する権利を手にした。ウェストハムは年間250日程度、サッカーの試合で使用するとしている。
 仮締結が行われた際に見積もられた改修経費は、スタジアムとしては全座席を覆う最大級の片流れ式の屋根や陸上競技場のスタジアムを「サッカーモード」に改修するために整備する「格納式」可動座席、21,000席の設置などで、総額1億5400万ポンド(約235億1000万円)とした。すべてLLDC側で改修工事を行う。
 スタジアムを所有するLLDC(Boris Johnson議長)とニューハム評議会は、スタジアムの改修工事や運営を担うために、「E20スタジアムパートナーシップ」を設立した。
 * 為替レート  £=152.70円  2013年の平均レート

 ウエストハムが支払う年間250万ポンドのテナント料は、インデックス連動で変動し、2016年/ 17年に支払ったテナント料は210万ポンド(約30億3000万円)で、2017年4月1日の増税後には230万ポンド(約33億2000万円)に増えた。
 これに対し、ウエストハムのライバルのアーセナル(Arsenal Football Club)は、エミレーツスタジアム(Emirates Stadium 収容人数 6万260人)のテナント料を、300万ポンド(約44億2000万円)を支払い、新しいプレミアリーグチャンピオン、チェルシー(Chelsea Football Club)は、スタンフォードブリッジ(Stamford Bridge 収容人数 4万1631人)に200万ポンド(約29億5000万円)を支払っている。
 * 為替レート  当時の年平均レート
 ウエストハムとの契約では、スタジアムの運営経費はスタジアムを所有するロンドンレガシー開発公社(LLDC)とニューハム評議会が全額負担をするになっている。
 LLDCは、運営はコンセッション方式を採用し、フランスのインフラ運営会社、ヴィンチ(Vinci)に25年契約で委託することとした。 ヴィンチへ委託することで、五輪スタジアムの運営コストはさらに膨れ上がったとして批判が巻き起こっている。
 またウェストハムは、ホスピタリティ施設やケータリングから収入を得ることが認められた。
 こうした取引に対して、ウェストハムが納税者の費用で「今世紀の取引」を手に入れたとして批判を浴びた。
 また夏季期間(6月~7月末)の運営は、英国陸上競技連盟(UK Athletics)に対して、30年間のコンセッションを委託した。


ウェストハムのホームスタジアムになったロンドンスタジアム 出典 e-Architect

膨張した改修経費にロンドン市長、スキームの見直しを表明
 2016年5月、労働党のサディク・カーン(Sadiq Khan)氏はロンドン市長に選出された。前任者の保守党のボリス・ジョンソン氏の後任である。カーン氏はロンドン五輪スタジアムの改修費用が膨張したのは、「すべて前市政による混乱が責任」と批判した。
 2016年11月、カーン市長は、「前市長は2015年、スタジアムを改修費用が2億7200万ポンド(約401億5000万円)と発表したが、 実際には、5100万ポンド(約73億8000万円)以上の多い、3億2300万ポンド(約476億8000万円)であることが明らかになった」と述べて、スタジアム改修費用に関わるあらゆる問題について詳細な調査を指示した。
 改修費用は、当初は
 3億2300万ポンド(約476億8000万円)に増えた主な原因を、サッカーの観戦体験を改善するために設置する可動座席の費用が 1億2300万ポンド(181億6000万円)増えたことだと明らかにした。また大画面デジタルスクリーンやスタジアムの外壁を覆う「ラップ」の整備費用などが増加したこともその原因としてあげている。

 改修費用膨張の主因となった「格納式」可動座席は、設置後も座席を移動するごとに多額の経費がかかることが明らかになって、問題化している。
 カーン市長が発表したデータによると可動座席の出し入れに必要な推定年間運用コストは800万ポンド(約11億8000万円)に膨れ上がるとした。夏の一ヶ月間、陸上競技などのイベント開催のために座席を移動する経費である。
 2017年夏にはスタジアムの座席の移動作業にかかった運用経費が1180万ポンド(約17億4000万円)だったことが明らかになっている。これだけの経費をかけてもそれを上回る収入が陸上競技の開催で確保できれば問題はないが、果たして達成できるのか問題視された。
 改修工事費は、当初は1億5400万ポンド(約235億2000万円)と見積もられていたが、可動席の設置や屋根の設置費用が増えたとして2億7200万ポンド(約401億5000万円)に増えて、最終的には3億2300万ポンド(約493億2000万円)に膨れ上がった。
 * 為替レート  £=152.70円  2013年の平均レート
 3億2300万ポンド(約476億8000万円)に膨れ上がった改修経費の原資は、LLDCが拠出する1億4880万ポンド(約219億7000万円)を中核に、ニューハム評議会が4000万ポンド(約59億円)(E20スタジアムパートナーシップへの35%の出資を振替)を融資、五輪開催予算の93億ポンドから4000万ポンド(約59億円)、さらに政府が2500万ポンド(約39億9000万円)を拠出した。また英国陸上競技は100万ポンド(約14億8000万円)を投資し、ロンドンマラソン慈善信託は350万ポンド(約51億7000万円)を提供すること賄うことが決まった。
 スタジアムを本拠地にするウェストハムは、世論から巨額に膨れ上がった改修費の負担もすべきだと激しい批判を浴び、冬季期間のスタジアムのアンカーテナントとしての契約料、年間250万ポンド(約36億9000万円)を支払うことに加えて、改修費用としてさらに総額1500万ポンド(約22億1000万円)を寄付することを表明した。
 * 為替レート  £=147.62円  2016年の平均レート


ウェストハムのホームスタジアムになったロンドンスタジアム 出典 e-Architect
 
 大会終了後の改修費用が3億2300億円(約476億8000万円)に膨らんだことで、建設費用の4億2900万ポンド(633億3000万円)を加えると五輪スタジアムの総額は7億5200万ポンド(約1110億1000万円)という巨額の経費に達することが明らかになった。
 2017年12月1日、ロンドン市長は、独立調査員会の報告を公表した。

■ 報告書の骨子
•元市長はスタジアムの改修計画を適切な分析をせずに決定し、納税者にとって「高価で厄介な」取引につながった。その結果、スタジアムの改修費は3億2300万ポンド(約476億8000万円)
に膨れ上がりユナイテッドと英国陸上競技連盟との拘束力のある契約を結び、現市長の選択肢を厳しく制限した。
•2015年にラグビーワールドカップ大会を開催するが決定され、改修費用は更に膨らんだ。改修工事の追加や遅延、混乱、そしてコスト増が経費膨張の要因となった。またプレミアリーグが開始に先立って2016年7月に再オープンしなければならないというタイトな工期もコスト増につながっている。
•スタジアムは2017年から2018年の間に2400万ポンド(約34億8000万円 2017年 £=144.46円)赤字が出ると予測。今後に何らかの措置が取られなければ、スタジアムは毎年約2000万ポンド(約28億9000万円 2017年 £=144.46円)の赤字を計上すると予測し、投資額の回収は不可能である。
•ロンドン市長は、損失を最小限に抑えるための再交渉を、ニューハム評議会(Newham Council)と共に開始する。
 2016年に改修工事は終了し、スタジアムは再オープンした。
 2017年8月4日から8月13日には「世界陸上競技選手権大会」が開催され、2015年9月18日から10月31日まで開催された「ラグビーワールドカップ2015 イングランド大会」ではプール戦(予選)や三位決定戦の5試合が行われた。
 2019年6月29、30日の2日間、米大リーグ、MLBは、リーグ史上初めてロンドンで公式戦を開催し話題を集めた。歴史的な試合だったこともあり、MLBはリーグ屈指の好カードのヤンキース対レッドソックス戦を用意し、ロンドンスタジアムには2試合で約12万人(MLB発表11万8718人)の観客でスタンドは埋まった。
 MLBではすでに来年もロンドン開催を決定しており、カブス対カージナルス戦を2020年6月13、14日に行う予定になっている。


London Stadium transformed into MLB ballpark
Youtube

 ロンドンスタジアムの状況を見ると、陸上競技、サッカー、その他のスポーツやコンサートなどイベント開催を目指す巨大「多目的スタジアム」の運営は、極めて難問なことが明らかになった。


筆者作成 各種資料を参照



新国立競技場建設が浮上したのはラグビーW杯開催
 国立競技場の建て替えの突破口を開いたのはラグビーW杯である。2009年に長年の悲願であった日本大会の招致に成功。2011年に「ラグビーW杯2019日本大会成功議員連盟」が建て替えを決議し、その後、国が調査費を計上して建て替え計画が動き出した。
 ラグビーW杯は2019年9月から11月に開催される。  
 関係者が新国立競技場の2019年春の完成にこだわるのも、ラグビーW杯に間に合わせるためだ。6月28日に退任するまで10年間、日本ラグビー協会長を務めた森五輪組織委会長の存在は極めて大きかった。
 そして、建設計画が急速に具体化したのは、勿論、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致である。
 2020東京オリンピック・パラリンピック招致委員会では、招致を成功させる“切り札”の一つに新国立競技場の建設を位置付けた。開会式、閉会式、陸上競技を都心に整備される最新鋭のスタジアムで開催することで各国の指示を得ようとしていた。
 新国立競技場の建設は、国際“公約”になっていた
 1964のオリンピック・スタジアムとなった国立霞ヶ丘競技場(旧国立競技場)は、老朽化が激しく、耐震強度にも問題があり、建て替えか改修工事が迫られていた。
 新しい国立競技場を建設して、東京の新たなランドマークにし、陸上競技の“聖地”として2020東京大会のレガシーにすると意気込んだ。
 一方で、2011年、日本スポーツ振興センター(JSC)は大規模改修を検討していたことが明らかになっている。市民グループが情報公開で入手した内部資料によると、JSCが設計会社に詳細な耐震補強調査を依頼し、7万人収容規模への改修工事を4年の工期、総工費770億円で行えるとの試算結果がまとめられていた。
 改修案が一掃されたのは、ラグビーW杯の開催と2020東京五輪大会の招致に間違いない。
 新築か改築か、十分に議論を行わなわずに、2012年新国立競技場建設に向けて国際コンクールが行われ、建設計画が始動した。
 そして、国立霞ヶ丘競技場は、2015年3月、解体工事が開始され、9月には跡形もなく取り壊された。
 しかし、新国立競技場建設計画を巡る“迷走”と“混迷”を繰り返した結果、
招致活動の“象徴”として使用したザハ・ハディド氏の斬新な流線形のデザインの白紙撤回に追い込まれた。さらに「2019年春の完成」が間に合わなくなり、「ラグビーW杯2019」の開催も断念した。
約1500億円を投じて新たに建設する意味の半分近く失われた。
 まったくお粗末な経緯に、唖然とするほかない。


取り壊された旧国立競技場  出典 日本スポーツ振興センター(JSC)

“迷走”と“混迷”を重ねた 新国立競技場
 2020東京五輪大会の競技場の整備経費については、「新国立競技場」は国(主管は日本スポーツ振興センター[JSC])、その他の恒久施設は東京都、仮設施設は2020東京五輪大会大会組織員会が責任を持つことが決められていた。
 「新国立競技場」の設計デザインは、国際デザインコンクールを行い、幅広く国内外から斬新なアイデアを求めることになった。2012年、募集が行われ世界中から46の作品が応募された。募集にあたって掲げられたスローガンは「『いちばん』をつくろう」、審査員長の安藤忠雄氏のコンセプトである。コンクール実施するにあたって、想定した総工費は「1300億円を目途」としていた。審査は紙一重の激戦だったが、安藤忠雄氏の最終的な決断で、「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」を評価してザハ・ハディド氏のデザインが採用された。
 ザハ・ハディド氏は、斬新なデザインの建築物を設計することで知られていたが、ユニークさが批判を浴びたり、建設費が膨大になったりして、建設中止になるケースが相次ぎ、「アンビルドの女王」と揶揄されていた。 
 「ザハ・ハディド案」も、斬新な流線型のデザインの巨大な屋根付きスタジアムは「明治神宮の景観を壊す」として反対論が巻き起こった。さらに総工費が施工予定者のゼネコンが見積もると「3000億円超」に膨張することが明らかになって、世論から激しい批判が集中した。また斬新なデザインを実現するためには難工事が見込まれて、工期も「50か月程度」が必要で、2019年3月の完成予定が8か月程度延びるとされた。2019年9月開催のラグビー・ワールドカップに間に合わない可能性も浮上して関係者に衝撃が走った。
 2015年7月、建設計画を見直し、建物の面積を22万2000平方メートルに約13%削減したり、8万人観客席のうち1万5000席を仮設席に変更したりするとともに、焦点のグランド上部の開閉式屋根については、屋根を支える2本のキールアーチは設置するが屋根の設置は五輪後に先送りにするなどして費用を圧縮して、総工費「2520億円」にするとした。
 しかし「2520億円」に縮減しても、当初予定「1300億円」の倍近い額に膨らみ、世論の批判は一向に収まらなかった。
 最終的に安倍首相が収拾に乗り出し、2015年8月、総工費を「1100」億円削減し、「1550億円」(上限)とする方針が示された。
 「ザハ・ハディド案」は、“迷走”に“迷走”を重ねた上に、結局、白紙撤回に追い込まれた。

■ 見直しの骨子
▽ 観客席は6万8000程度とし、サッカーのワールドカップも開催できるように1万2千席を増設し8万席にすることを可能にする。
▽ 屋根は観客席の上部のみで、「キールアーチ」は取りやめる。
▽ 観客席の冷暖房施設は設置しない。
▽ スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽ 総面積は22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。

 あれだけこだわった可動式屋根の設置は完全になくなった。
 そしてコンサートやイベント開催を視野に入れた「多目的スタジアム」も消え去った
“迷走”に“迷走”を繰り返し醜態を演じた文科省と日本スポーツセンター(JSC)の責任は重大でだろう。
 東京オリンピック・パラリンピックは、準備段階で早くも大きな汚点を残した。

 2015年9月、「ザハ・ハディド案」は白紙撤回され、新たな整備計画を作成し、総工費と工期を重視した入札事業者向けの募集要項を公開して、再公募を実施することになった。
 新整備計画ではコンサートやイベントなども開催する「多目的利用」は放棄され、陸上競技やサッカー、ラグビーなどのスタジアムへ転換することを打ち出した。
 観客席は五輪開催時には約6万8000席とし、五輪後に陸上トラック上部などに観客席を増設して8万席以上確保し、FIFA ワールドカップの開催を可能にする。屋根は開閉式を取りやめ、固定式にして観客席全体(増設後を想定)を覆うようにする。建物の最高高さは70メートル以下。フィールドを含む面積は約19万4500平方メートルで、2014年5月に策定された旧整備計画の約22万2000平方メートルから、更に約3万平方メートルを削減するとした。
 ザハ・ハディド案の当初計画では約29万平方メートル(駐車場を含む)、結局、当初計画と比べると、約9万5000平方メートル、約30%削減されることになった。
 公募には、大成建設を中心に梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループと、竹中工務店、清水建設、大林組の3社の共同企業体と日本設計、建築家の伊東豊雄氏で構成するグループが応募した。注目されたザハ・ハディド氏は、意欲は示したが、結局応募しなかった。
 2015年12月22日、審査の結果が公表され、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにした大成建設、梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループが選ばれた。
 木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴のデザインで、地上5階、地下2階建て、スタンドはすり鉢状の3層にして観客の見やすさに配慮する。高さは49・2メートルと、これまでの案の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総工費は約1490億円、完成は2019年11月末としている。
 しかし当初計画のラグビー・ワールドカップの開催は頓挫した。 





技術提案書A案のイメージ図  新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

資金難深刻JSC 新国立競技場の改修計画は宙に浮く懸念
 東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる「新国立競技場」の整備をめぐり、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が今後2年間で790億円程度の資金不足を見込んでいることが会計検査院の調べで明らかになった。
 会計検査院によると、JSCは昨年度、「新国立競技場」の整備費や国立代々木競技場の耐震改修工事などの支払いに必要な資金が不足し、50億円余りを民間の金融機関から一時的に借り入れた。
 さらに、来年度までの2年間で790億円程度の巨額の資金不足が見込まれ、民間金融機関からの借り入れで対応しようとしていることが明らかになった。790億円の返済長引くことが予想されていて、JSCの資金難は深刻化しそうだ。
 国は、大会終了後、新国立競技場の9レーンの陸上競技のトラックを取り外し、観客席を張り出してサッカーやラグビーなど球技専用のスタジアムに改修する方針を決めている。そして、FIFAワールドカップ(8万席)やワールドラグビー競技が開催可能な臨場感あるスタジアムにしたいとしている。五輪大会開催後の運営については、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用して、ボックス席の設置などホスピタリティ機能を充実する計画も打ち出している。大会終了後にすみやかにこうした改修を行い、運営については指定管理者制度を導入して、2024年後半以降の供用開始を目指すとしている。
 しかし、未だに財源や工事の内容、スケジュールについては何も決まっていない。
 そして今回の会計検査院の調査で日本スポーツ振興センター(JSC)の資金不足の深刻化が明らかになった。新国立競技場の改修計画は挫折寸前である。
 新国立競技場は、「負の遺産」に転落する瀬戸際に立たされている。





新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委

巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト

デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?

審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国が8011千億円支出 組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘

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東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”

東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2018年5月1日  初稿
2019年7月10日  改訂
Copyright (C) 2018 IMSSR


***************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック 輸送対策 交通渋滞マップ 交通規制 交通量削減 「30%削減」はできるか?

2020年01月16日 08時41分14秒 | 政治
最大の難問 交通渋滞は克服できるのか 2020東京五輪大会



首都高値上げ、都内全域 日中は1千円上乗せ
 8月26日、2020東京五輪大会の渋滞対策で、政府と大会組織委員会、東京都は、都内の首都高速道路の料金(ETC利用の普通車で300~1300円)に日中は1千円を上乗せをして値上げし、深夜から未明は料金を半額にする「ロードプライシング」を導入する方針を決めた。
 値上げ期間は五輪開会式の4日前の20年7月20日から閉会式翌日の8月10日までと、パラ期間中の8月25日から9月6日までの午前6時~午後10時の間、都内全域で、1千円値上げする。自家用車が対象で物流トラックやタクシーなどは除外される。一方、午前0~4時は首都高全線でETC搭載車をすべて半額とする。
 また過去大会で実績のあるナンバープレート規制や、複数人が相乗りした車両(HOV)の専用レーンを設ける対策は、本線料金所等で誤進入した車両の転回スペースがないことや、首都高本線が片側2車線で渋滞を発生させることなく、専用レーンを確保することが困難なことから、導入は困難であるとした。
 しかし、あくまで任意での協力を求めることは検討したいとした。
 今年の7月に、大会開催に備えて交通規制など大規模な交通渋滞対策の試行を行ったが、その効果は、首都高速道路で交通量が約7%減、一般道で約4%減にとどまったことが明らかになった。ときわけ首都高速道路では大会関係者料の円滑な輸送を実現するために「30%削減」を目指しているが、遠く及ばす、さらに強力な交通量削減追加策が求められていた。 
 しかし、7月の試行でも、首都高速道路は、渋滞解消に向かったものの、その影響で一般道の渋滞が激しくなることが分かっている。料金1000円上乗せで、首都高速道路の通行量抑制に効果が上がっても、そのしわ寄せで一般道の渋滞が激しくなる懸念が大きい。一般道の渋滞激化は、市民生活への影響が極めて多い。宅配便やコンビニへの配送にも大きな影響は必至である。
 結局、交通量の十分な削減が実現しない限り、「1000円値上げ」も「ランプ閉鎖」も、むしろ都内の一般道路の渋滞を悪化させることにつながりかねない。
 首都高速道路の渋滞が解消されて約5500千台とされている大会関係車両のスムーズな通行は確保されるが、一般市民は渋滞に苦しむという構図も見えてきた。
 東京都は、8月27日から1カ月間、都民や企業に対しパブリックコメント(意見公募)を行った上で、関係機関や関連自治体と調整を進めて年内に方針を固めるとしている。


試行の検証について 交通輸送技術検討委資料





閉鎖された首都高速渋谷線三軒茶屋料金所 7月26日午前10時 筆者撮影


三軒茶屋料金所閉鎖のしわ寄せで国道246号線は大渋滞

「首都高の通行量はわずか7%減 一般道の渋滞は悪化
 2020年東京五輪の開幕まで1年となった7月24日と26日の二日間に渡って、本番での都心部の混雑緩和に向けた大がかりな交通規制実験が行われた。競技会場への主要ルートとなる首都高速道路では、通勤時間帯を中心に最大で33カ所の入口を閉鎖し、環状7号線では都心方向への流入を抑制した。交通規制の試行としては過去に例のない規模である。大会組織委員会ではこの結果を検証し、大会開催時の交通対策を詰めることにしている。
 首都高では終日、新国立競技場(東京・新宿)最寄りの「外苑」(上り・下り)と選手村(同・中央)近くの「晴海」など4カ所の入り口を閉鎖。さらに高速道への流入量が多く、渋滞発生に影響を与えやすい三軒茶屋などの料金所入口が最大で約33カ所が閉鎖された。
 また、東名高速や中央高速、東北自動車道などから首都高へ入る計11カ所の料金所ではレーン数を減らし、流入台数を抑制した。
 一般道では幹線の環状7号の交差点118カ所で、早朝5時から正午まで、都心に向かう「青信号」の時間を、最大10秒程度、短縮して流入を抑えた。警視庁幹部は「交通規制のテストとしては過去最大」と話している。
 その結果、首都高各線では通行台数が激減し、警視庁によると、24日では、昨年同時期比で、臨海部の湾岸線は、午前8時から午後3時までの間は、東行きは94%、西行きで84%の混雑度が大幅に減少、新国立競技場付近を通る新宿線では上りで78%、下りで89%減り、スムーズな通行が実現した。
 しかし、交通規制のしわ寄せも大きかった。レーン規制が行われた料金所手前では渋滞が発生し、東名高速では一時15キロ、東北自動車道で6キロの渋滞が発生した。
 また首都高に入れなかった車両が一般道に迂回し、国道246号では191%、国道1号線では200%、混雑度が増えた。特に信号規制が行われた環状7号線周辺などでは渋滞が激しくなる個所が目立ったという。
 国交省は、24日に首都高を通った車は、昨年同時期と比べて7.3%少ない101万4000台で、26日は6.8%減の107万5000台、一般道の都内15地点を通った車はいずれも約4%減で、24日は63万8000台、26日は66万5000台だったことを明らかにした。 
 首都高速の交通量は、朝や日中の時間帯はかなり減少したように見えたが、ピーク時の交通量が分散しただけで1日平均するとさほど全体の交通量は減っていなかったのである。
 また、大会組織委員会は、選手村と国立競技場間の所要時間については、晴海から外苑までが約24分となり、目標としていた20分の達成はできなかったとした。
 二回目の7月26日の実験では、警視庁によると、朝方、都心に向かう一般道の上りが渋滞し、去年の同じ時期の金曜日に比べ、国道1号線は約3倍、国道20号線と246号線は約1.5倍の混雑となった。
 交通量全体を十分に減らさないで首都高の交通規制を行うと、一般道へ迂回する車が押し寄せて渋滞がむしろ悪化して、経済活動や市民生活に大きな影響を及ぼす。
 大会開催時の交通量は、選手や大会関係者、1000万人が見込まれている観客や観光客、激増する物流などで、通常時より10%以上は、交通量が増えるとされている。
 大会開催時に増加する交通量を見込んだ上に、通常時の「30%」減の目標を達成するのは、極めて厳しい状況になってきた。 

「スムーズビズ」始まる  2020東京五輪大会の交通混雑緩和対策
 2019年7月22日、2020東京五輪大会開催1年前にあわせて、東京都は企業や官公庁、団体に協力を求め、混雑時間を避ける時差出勤やテレワークなどに取り組む「スムーズビズ推進期間」を開始した。2020東京五輪大会の交通対策に活かそうとする取り組みである。
 大会開催期間中は、参加選手や大会関係者や観光客など首都圏には1000万人以上が訪れ、首都圏の鉄道は、乗客が通常時より1割程度増えると予想され、とりわけ朝夕の通勤時間帯の混雑悪化が懸念される。東京都では、山手線、京王線、臨海部の路線では、乗車率が最大で約180%に達すると予想している。
 東京都の取り組みに合わせて、通勤時間帯の混雑緩和のために、JR東日本は7月22日~26日、山手線と中央・総武線で午前5、6時台の列車を増発し、東急電鉄も7月22日~31日のうちの平日の6時台に臨時列車を運行する。
 東京都は、こうした取り組みを「スムーズビズ」と名付け、企業や官公庁、団体には「テレワーク」や「時差Biz」、物流企業には配送時間やルート変更などで交通量を削減する「2020TDM」への取り組みを呼びかけ、約3000社の企業が協力する予定だ。しかし、東京商工会議所が都内の企業475社にアンケート調査を実施したところ、物流面の対策について社内や取引先との間で何らかの検討を始めたと答えたのは約11%にとどまり、「企業単独での対応は難しい」としているという。(NHKニュース 7月23日)。物流企業の対応の難しさが浮き彫りとなった。
 「スムーズビズ推進期間」は7月22日から9月6日まで行われる。



五輪専用・優先レーン、競技会場周辺一般道に 交通規制
 2019年6月19日、東京都と大会組織委員会は輸送連絡調整会議を開き、大会開催期間中に競技会場周辺の一般道に専用・優先レーンを設けるなどの輸送運営計画案をまとめた。今夏、様々な渋滞対策を試行し、年末までに計画を完成させる。
 これによると、新国立競技場周辺や有明地区の2カ所に関係車両以外の通行を禁止する専用レーン(計約3・5キロ)を設置し、7カ所に優先レーン(計約19・8キロ)を設ける。競技会場周辺には一般車両に迂回を要請する区域を設置するとともに、進入禁止や通行制限などの規制も行う。
 首都高速道路は、車線が少ないこともあり、専用・優先レーンを設けるとむしろ渋滞が加速して、大会関係車両の通行に影響がでることが予想され、専用・優先レーンは見送られる方向だ、また一般高速道路への専用・優先レーンの設置は、当面は検討していないとしている。

東京五輪大会の交通渋滞対策 本番さながらの規模で今年の夏に試行
2019年夏の交通マネジメントの試行計画
▼ 大会本番並みの目標を掲げ、交通混雑緩和に向けた取組を総合的にテストする期間を設定
・一般交通
 東京圏に広域における一般交通は、大会前の交通量の一律10%減を目指す。特に重点取組地区は、出入りする交通量の30%減を目指す。
・首都高速道路の交通量の更なる減
 首都高速道路は、交通量を最大30%減とすることで、休日並みの交通環境を目指す。

▼ オリンピック・パラリンピックの期間に相当する期間を集中取組期間とし、一回目を7月22日~8月2日に、二回目を8月19日~8月30日に設定し、企業や団体に重点的な取組を依頼する。一回目の 7月22日~8月2日の内、前半の7月22日~26日は「チャレンジウィーク」とし、その中で集中取組期間の「コア日」とした7月24日や、週末で交通量が多い7月26日(金)に、大会開催時と同規模で交通規制や信号調整などを行う。

▼各社取組のピークを合わせる「チャレンジウィーク」(7月22日~26日)、及びコア日(7月24日)には、効果測定を実施 する。

▼交通規制や信号調整(TSM)は、7月24日と26日の二日間に渡って実施し、課題や確認事項があれば8月23日(金)にも実施する計画である、また開会式・閉会式を想定して、8月25日には選手村~競技会場間でバス20台~30台の隊列走行を試みる。

▼交通規制や信号調整(TSM)の内容
・高速道路において終日実施する対策(7月24日と26日)
  都心方向への高速道路における11箇所(圏央道内側の32か所の内)の本線料金所でレーン数を終日制限
  選手村周辺等の4つの入口(新国立競技場近くの「外苑」の上下、選手村付近の「晴海」とさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)最寄りの「新都心」の上りの計4カ所)については終日閉鎖
・環状七号線上の信号機を、午前5時から正午にかけて都心方向の青信号時間を短縮


・交通状況によって段階的に行う交通規制
 交通状況をモニタリングし、交通量が基準を超えた場合は、渋滞を未然に防ぐために入口閉鎖を行う。それでも交通量が増加する場合は、入口閉鎖の箇所を追加していく。渋滞等が発生する恐れがなくなった際は閉鎖解除。
 閉鎖対象の入口は50カ所(首都高速49カ所、中央高速1カ所 [圏央道内側の302か所の内])


出典 警視庁


出典 警視庁


出典 2020東京オリンピック・パラリンピック輸送連絡会議 2019年6月19日

 交通規制や信号調整(TSM)を有効に機能させる前提として、全体の交通量を削減(TDM)須である。全体の交通量が十分に削減されないままで、交通規制や信号調整(TSM)を実施すると、むしろ深刻な大渋滞が発生し、都心の交通はマヒ状態になる可能性がある。
 輸送連絡調整会議では、交通量を、重点取組地区や首都高速道路では、約30%の削減を目指す。
 約30%の削減を実現するために、企業や物流関係者、団体、官公庁に時差出勤やテレワーク(在宅勤務)、休暇の取得、会議・打ち合わせ・商談時期の変更、商品納品時期をずらす、まとめ発注といった交通量削減へ取組を求めている。
 東京都では、「2020TDM推進プロジェクト」を立ち上げ、企業や団体に対し交通量削減への取り組みを呼び掛けているが、現在(2019年6月)、1636社が参加を表明している。
 しかし、こうした交通量削減の取り組み(TDM)は、「協力ベース」なので強制力はなく、結果としてどの程度の削減に結び付くのか読めないのが課題として残る。



 そこで併用しなければならない交通対策は、強制力を持つ交通規制や信号調整などの「交通システムマジメント」(TSM)導入である。
 「交通システムマジメント」(TSM)は、自主的な協力を前提にした「交通需要マネジメント(TDM)」と異なって、強制力のある交通規制が基本となるだけに企業や団体、とりわけ市民生活への影響が大きい。
 これまでの検討で、都心部の高速道路では、車線数が少なくて合分流が多いことから、大会専用・優先レーンの設置は、むしろ渋滞を深刻化させて、逆に大会関係車両にも影響を与えることが明らかになっていた。
 一方、競技会場周辺の一般道路については、専用・優先レーンの設置は可能とし、今回のその案が公表された。
 大会専用・優先レーンの設置に代わる手法として、料金所の閉鎖やレーン規制よる流入規制、首都高速道路の料金上乗せ課金をする「ロードプライシング」、ナンバープレート末尾の数字で通行を規制する「ナンバープレート規制」、複数人が相乗りした車両を優先する「相乗り専用レーン」(HOVレーン)などが検討されている。
 いずれにしても、一般車両の通行が制限されることになり、都市の経済活動や市民生活へ大きな影響がでると思われる。

 東京都と組織委は、新たに大会開催期間中の鉄道の混雑予測も明らかにした。
 首都圏の鉄道は、朝のピーク時間帯には、「ラッシュアワー地獄」が連日、常態化しているが、通常時の混雑区間(朝7時~10時で混雑率150%以上を超える区間)に比べて大会開催時は観客増が加わり、混雑区間約13%増加して、混雑は更に拍車がかかるとしている。乗客数を「10%」削減できれば、通常時に比べて混雑区間は約38%削減可能とした。

 それでも局所的にはピーク時の混雑は解消不可能で、ゆりかもめ(新橋―日の出)で7日間で15回(30分単位で計上)、JR京葉線(西船橋-南船橋)は6日間で6回、京王線(調布―飛田給)で5日間で9回が、混雑率150%以上となるなど一部で深刻な混雑が発生するとしている。

 鉄道の混雑解消策は、輸送力の増強は限界があり、不慣れな乗客に対する案内・誘導などを改善することも必要だが、あくまで、乗客の任意の協力ベースに頼らざるを得ないため、情報発信に力を入れ理解を求めることが重要となる。


首都高料金 1000円上乗せへ
 2020東京五輪大会の交通渋滞対策として、国、東京都、大会組織委員会は、大会開催期間中の首都高速道路の交通量を抑制する対策案をまとめた。
 首都高速道は、大会開催期間中の選手や大会間関係者の輸送の幹線ルートで、こうした車両が交通渋滞に巻き込まれれると大会運営に支障が起きる懸念が大きい。
 対策案よると、首都高速道路の大会期間中の通行料金を、深夜午前0時から早朝午前4時までは、全車両を対象に半額程度に引き下げる一方で、午前6時から午後10時までは、バスやタクシーなど公共交通や物流を担うトラックなどを除き、マイカーなどは東京都内で1000円程度上乗せするとしている。
 さらに、開会式や閉会式が行われる日は、大会関係者や選手を輸送する車両を除き、ほぼ全車両を対象に、午後4時から深夜までの長時間の通行禁止を実施する。
 渋滞に関する試算では、選手村から新国立競技場まで(約10キロ)、何も手を打たない場合で午後5~6時ごろに最大で80分かかる。時差出勤など企業への呼びかけで40分に減り、さらに首都高の1千円の上乗せと料金所の一部閉鎖などで約20分に短縮できるなどの結果が出た。
 通行料金引き上げの他に、過去の五輪大会で導入されたナンバープレートの奇数、偶数で通行を規制したり、複数人が相乗りした車両の専用レーンを設けたりする対策も検討したが、それぞれ課題が多く実施は難しいとされている。唯一現実的な対策は通行料金値上げだろう。
 今年の夏、7月22日~8月2日と8月19日~30日(土日を除く)に渋滞対策の総合テストを実施し、首都高速道路の料金所閉鎖やレーン規制などの交通規制を大会開催時と同じ規模を想定して、その効果や影響を検証するとしている。
 国、東京都、大会組織委員会では、この対策案を元に議論を進め、8月にも大会開催期間中の交通渋滞策を決めるとしている。
 企業や物流関係者、市民が交通量削減に自主的に協力してもらい交通渋滞を解消しようとする「交通需要マネジメント(TDM)」では十分な効果が得らず、市民生活に影響が大きい直接的な交通渋滞規制が現実となってきた。
 (参考 NHKニュース 5月29日、報道ステーション 5月31日 朝日新聞 6月8日)



G20大阪サミット開催 史上空前の警備体制 大規模な交通規制で交通量50%削減 経済活動や観光、市民生活を直撃
 G20大阪サミットでは、全国から3万2千の警察官を動員し、大阪は厳戒態勢に置かれた。メイン会場となったインテック大阪のある大阪湾の人工島・咲洲は、「封鎖」状態、阪神高速道などは通行止め、大阪市内の9エリアでは、一般道でも大規模な規制を実施した。
 阪神高速環状線を中心に、6月27日から6月30日まで早朝から深夜まで通行止め規制が行われた。
 またVIPが往来する関西空港と大阪市内を結ぶ高速道路は、6月27日(木)と6月28日(金)は関西空港から大阪市内に向かう車線がVIPの通行時は通行止めになり、6月28日(金)と6月29日(土)は、大阪市内から関西空港に向かう車線が通行止めとなった。
 一般道路では、首脳が宿泊するホテル周辺の9エリアに、迂回エリアや煩雑に交通規制を行うエリアが設けられた。
 37の国や国際機関の首脳、政府代表団、海外メディアなど関係者は約3万人に上り、各国首脳や関係者は大阪市内のホテル13カ所に分散して宿泊したため、大規模な交通規制が必要となった。ホテル周辺などで規制が行われた一般道では、想定よりも通行止めが長期化した。当初は短時間で規制と解除が繰り返される見込みだったが、ホテルが集中するJR大阪駅周辺は連日、早朝や夕方に2時間半~3時間半ほど連続して通行止めになった。28日に晩餐会の会場となった大阪城公園周辺は、午後5時ごろから約7時間半、通行止めが続いた。
 大規模な交通規制が行われると激しい渋滞が発生する可能性があるが、地元の13機関と団体で構成する「G20大阪サミット交通総量抑制連絡会」では、サミット開催金の総交通量を50%削減を掲げ、企業や物流関係者、市民に協力を呼び掛けた。
 連絡会では渋滞を回避するためには50%削減が必要だとした。
 府警は昨年10月から企業や業界団体をまわり、開催中の休業や営業車の利用自粛を呼びかけた。
 府警によると、4日間の平均で前週と比べ大阪市中心部の交通量は4日間平均で51・2%減で、府警は目標を達成できたとしている。G20開催中の大阪市内の一般道路は、閑散として交通規制による渋滞は発生しなかったいう。
 しかし、大阪市周辺の経済活動や観光、市民生活への影響も大きかった。
 好調な観光業が直撃を受けた。
 大阪城の天守閣では開催前日の27日と、28日の2日間、臨時休館を決めた。サミット期間中には各国の首脳らが出席し、大阪城にある迎賓館で晩さん会が行われる予定で、厳重な警備態勢に加え大阪市内を中心に大規模な交通規制が行われるからだ。
 大阪市内でも営業を見合わせる観光施設が相次いでいる。1日4000人近くが訪れる梅田スカイビル屋上の空中庭園展望台は、外国人観光客に人気のスポットだが、サミット開催前後の27日から30日までの4日間休館する。
 大阪中心街を川面から見る水上バス「アクアライナー」も同じく4日間、運航を中止する。
 百貨店の客足にも影響が出た。阪急梅田本店では、4日間の客数が前年同期に比べ約2割減った。大丸梅田店でも、雨の影響もあり、同期間の客数が前年より10~15%ほど減った。「交通規制の影響で、車で来るお客様が少なかった」という。
 府警交通部の幹部は「結果的に市民の移動や経済活動に影響が生じ課題が残った」と述べているという。

 G20大阪サミットは、わずか3~4日間程度だが、2020東京五輪大会は17日間に渡って開催される。警備体制や交通規制はさらに大規模で長期間に渡る。大会開催期間の経済活動や市民生活は一体どうなるのだろうか、懸念は深まるばかりだ。


大阪府警


出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


「50%交通量削減」の効果? 一般道はガラガラ 出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


「50%交通量削減」の効果? 一般道はガラガラ 出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日

“超厳戒”大阪から人・車が消えた!首脳が続々到着(19/06/27)



2020東京大会開催時に首都高通行料金上乗せや通行制限、専用レーン設置へ
 2019年2月6日、大会組織委員会と東京都は、国や有識者らを交えた交通輸送技術検討会を都庁で開き、大会時の渋滞緩和策として、首都高速道路の通行料金を五輪大会の競技時間帯には500円から3000円を上乗せして交通量を調整する「ロードプライシング」や、ナンバーによる通行制限、「相乗り」専用レーンの導入に向け、検討を本格化することを確認した。「ロードプライシング」は、中央環状線の内側を中心に行われ、物流への影響を考慮して中型以上のトラックなど物流関係の車両は対象から除外する方向で検討するとしている。
 首都高速道路の平日の交通量は、現在、1日約110万台で、通行料金は距離や時間帯に応じて300円から1300円(ECT普通車)で設定されている。仮に3000円上乗せが実施される区間の通行料金は最大で4300円という破格の高額となり、利用者からの反発は必至で、都市活動にも大きな影響を及ぼす。

 五輪大会開催中は、選手や大会役員の輸送で専用バスや乗用車など約6千台が選手村や競技場、成田・羽田空港などを往来する。さらに、観光客の輸送や食料品や飲料、日用品など貨物を輸送する車両が都心に溢れるだろう。
 交通量抑制など何も対策を取らなければ、1日約110万台が通る首都高では交通渋滞が現状の2倍近くになるという試算が明らかになった。大会運営はもとより、経済活動や都市活動、市民生活に大きな影響が出るのは必至で、交通渋滞対策が五輪大会成功の最大の難問になっている。

破綻した「交通需要マネジメント(TDM)」 交通渋滞緩和は達成できず
 交通渋滞を緩和させる方策として、これまで大会組織委や都は、大会開催期間中、都心部の首都高速道路や一般道の平日の交通量を「15%減」(休日並み)とするという目標を掲げ、企業や物流関係者、市民に呼びかけ、時差出勤や物流ルートの変更などで交通量を抑制する「交通需要マネジメント(TDM)」による交通渋滞緩和を目指していた。
 従来から「交通需要マネジメント(TDM)」の効果が一体どの位のあるのか懸念されていたが、今回、都心部などで一律に10%の交通量の削減が達成されても、23区内の一般道では利用台数が11%減るのに対し、首都高では6%減にとどまるとの試算結果を明らかになった。
 とりわけ問題なのは、大会開催期間中に選手や大会関係者の基幹輸送ルートとなる首都高の渋滞緩和効果が極めて薄いことが明らかになったことである。
 さらに問題なのは、こうした「交通需要マネジメント(TDM)」の取り組みは、あくまで企業や物流業界、市民の協力ベースよる交通量の削減策で、実際、どれくらいの交通量削減が達成できるのか、まったく未知数だという弱点がある。ようするに、大会を開催期間中にならないとその効果はよく分からないのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、「交通需要マネジメント(TDM)」による交通量削減策について、「定量的」に効果を把握できないとして疑問視する指摘を繰り返していた。 昨年、11月下旬に開催された大会の準備状況を検証する「調整委員会」でも、「交通需要マネジメント(TDM)」では不十分だという指摘を大会組織委員会は受けたと思われる。
 今回、開催された「交通輸送技術検討会」では、国際オリンピック委員会(IOC)の指摘も踏まえて、大会期間中の首都高渋滞解消の検討を行ったが、自主的な協力を前提にした「交通需要マネジメント(TDM)」では交通渋滞抑制の効果が不十分と判断し、追加対策の必要性を確認したのである。
 これまで組織員会と都が進めてきた自主的な取り組みによる「交通需要マネジメント(TDM)」は破綻し、結局、強制力を伴う交通量削減策が導入されることになった。
 その結果、登場した追加対策が、首都高速道路の料金上乗せ課金をする「ロードプライシング」や、ナンバープレート末尾の数字で通行を規制する「ナンバープレート規制」、複数人が相乗りした車両を優先する「相乗り専用レーン」(HOVレーン)などである。
 いずれも海外でも実績があり、この日の会合でも「ロードプライシング」については海外でも実績があり、「ETCなどのインフラもあり、導入したらいいのではないか」との意見が出て、反対はなかったという。
 これまで協力ベースで懸命に交通量削減に努力してきた経緯をどう考えているのだろうか。
 さらにこうした追加対策に加えて、首都高速道路などに「オリンピック優先レーン」の設置も検討されている。首都高速の一般車両の通行が1車線に制限されたら、たとえ交通量の削減を図ったにしても、激しい渋滞が発生して、都心の交通は麻痺する可能性が強く、大混乱するのは必至だろう。 

 組織委や都などで今後協議を進め、3月中にも方向性を取りまとめ、首都高の料金変更に必要となる沿線自治体の同意などについては19年末頃までには得たいとしている。
 2018年4月、大会組織委員会と東京都は、交通マネージメント推進するにあたって、その理念の最初に、「大会運営と都市活動の安定との両立」を上げた。「ラッシュアワーを中心に激しい渋滞や混雑が発生している状況の下、東京 2020 大会に当たっては、安全・円滑かつ効率的で信頼性の高い輸送と都市活動の安定と の両立を目指します」と宣言し、五輪開催にあたっては、大会輸送と都市活動の両立を最重要課題として掲げている、
 しかし、高速道路料金上乗せ課金やナンバープレート規制、相乗り規制などが実施されれば、明らかに都市活動や市民生活に大きな影響を及ぼすのは間違いない。
 これでは「大会輸送と都市活動の両立」ではなく、「都市活動」や「市民生活」へのしわ寄せの上に「大会輸送」が成り立っていると言っても良い。
 一体、誰のための五輪大会開催なのか、また、一つ「負のレガシー」が生まれそうだ。



出典 第4回交通輸送技術検討会資料

五輪渋滞マップ公開 重点取組地区指定 都内16地区
 2018年10月31日、大会組織委員会と東京都は、交通輸送技術検討会(第3回)を開き、東京2020大会期間中の交通渋滞や鉄道の混雑状況について、「大会輸送影響度マップ」をまとめて公表した。
 期間中で最も渋滞・混雑が激しいとされている7月31日のシミュレーションでは、何も対策を講じないと、高速道路、一般道では広範囲に渋滞や混雑が発生し、鉄道では、朝夕の都心のターミナル駅や日中の競技会場を中心に、激しい混雑が出ることが明らかになった。
 交通輸送技術検討会では、「大会輸送影響度マップ」は、今後、競技日程がより具体的になっていくのに合わせて更新していくとしている。


東京2020大会における交通マネジメントの検討状況について 交通輸送技術検討会(第3回)

 また交通渋滞解消に向けての交通量抑制に重点的に取り組む必要がある16地区を指定し、物流の抑制や配送ルート、配送時間の調整、時差出勤、夏季休暇などを企業や個人に協力を要請し、物流業界や企業には、交通量抑制の「アクションプラン」を作成してもらうとしている。
 16地区は、競技会場が多い臨海部や新国立競技場周辺の新宿、渋谷や、道路・鉄道の混雑箇所を通過する交通が多いエリアである。都心の繁華街のほぼ全域が指定された。

■重点的に対策に取り組む16地区
▼ ヘリテッジゾーン
 (1)新宿(2)渋谷(3)品川(4)浜松町・田町(5)新橋・汐留(6)大手町・丸の内・有楽町(7)八重洲・日本橋(8)神田・秋葉原・お茶の水(9)九段下・飯田橋(10)番町・麹町(11)青山・表参道(12)赤坂・六本木(13)霞が関・虎ノ門
▼ 東京ベイゾーン
(14)晴海・有明・台場・豊洲・大井ふ頭
▼ その他
(15)池袋(16)大崎


東京2020大会における交通マネジメントの検討状況について 交通輸送技術検討会(第3回)

“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心



首都高速道路の渋滞 「1.8倍」に
 2018年1月19日、2020年東京五輪・パラリンピックの交通・輸送を検討している「輸送連絡調整会議」で、大会組織委員会と東京都は、大会開催時の交通の見通しについて、「交通対策を行わない場合、 一般交通に大会関係車両が加わること で交通状況は厳しくなる見通しであり、 首都高の渋滞は現況の約2倍近くまで 悪化する」とし、「首都高の渋滞で無駄になる時間が約1.8倍に悪化する」との想定を明らかにした。そして「都市活動、 大会輸送ともに影響が大きいことから、 交通マネジメントの導入が不可欠」とした。
 首都高速道路は大会関係者の円滑な輸送を担う基幹道路として位置づけられている。都心環状線、11号台場線、3号渋谷線、4号新宿線、9号深川線、10号晴海線、湾岸線がオリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)に指定されている。首都高速道路の広範囲に渡る渋滞対策が最重要となっている。 

 交通マネジメントの導入にあたっては、大会輸送と都市活動の両立を最重要課題として掲げて、輸送を安全・円滑に行うために3つの柱を明らかにした。

① 交通需要抑制・分散・平準化を行う「交通需要マネジメント」(TDM)
② 道路状況に応じて交通の需給関係を高度に運用管理する「交通システムマジメント」(TSM)
③ 鉄道等の安全で円滑な輸送を実現する「公共交通輸送マネジメント」



「15%程度交通量減」
 大会期間中は、大会関係者や夏休みの旅行客が加わり、通行量は大きく増える見込みだ。
 市民の日常生活や都市活動を妨げることなく、円滑かつ安全で確実な大会輸送を確保するためには、全体の交通量を削減する必要があるとし、交通量を、全体で「休日並み」の「15%減」にするという目標に掲げた。
 「15%減」の目標を達成するために、全体として、「交通需要マネジメント」(TDM)で「10%減」を行った上で、それでも混雑が残る「重点取組地区」などは、TDMでの削減目標を「15%減」に引き上げ、さらに「交通システムマジメント」(TSM)を導入して、交通規制を行い、「20~30%削減」を図るとしている。
 
 TDMで全体の平均で「10%減」を実現しても、その効果は一般道路では「12%減」となるが、高速道路ではわずか「6%減」、さらに最も重要な首都高速道路ではわずか「1%減」にとどまることが明らかになっている。一般道路では混雑・渋滞はかなりの程度、解消するが、首都高速道路など局所的にしてもかなりの混雑・渋滞が残る。そこでこうした地域では、TDMの目標値を「15%減」に引き上げ、混雑・渋滞の解消を図る。しかし、「15%減」を達成しても、首都高速道路では、局所的に時速20キロメートル以下の渋滞や時速20~40キロメートルの混雑が解消できない。何も対策を行わない場合には、首都高速道路の渋滞は現況の2倍になると想定されている。渋滞を通り越して「麻痺」である。
 首都高速道路の大会開催時の通行台数は最大で117万7000台が予想されるが、同時期の休日の通行台数は88万7000台(2018年)、「休日並み」の通行台数に削減するためには、平日の通行量の3割程度、大幅に削減する必要があるとしている。
 一般車両に対して、首都高速道路のランプ閉鎖などの流入規制や車線規制などを行う「交通システムマネジメント」(TSM)」の導入が必須の状況だ。首都高速道路は大会関係者の輸送ルートの根幹となる輸送路である。
 企業や市民が協力ベースで行う「交通需要マネジメント」(TDM)での交通量抑制では十分でないことが明らかになってきた。
 「交通システムマネジメント」(TSM)」は、一部の地域や区間で規制を実施して交通量の更なる分散・抑制を図り、局所的な渋滞や混雑を解消させ、大会開催時にも円滑な交通環境を実現させるという手法である。TSMはTDMとは基本的にコンセプトが異なり、「任意」の協力ベースではなく、「強制的」に交通規制を行うのである。
 公共交通(鉄道)では、大勢の観客が集まる競技会場周辺駅や関連路線を中心に、大混雑が発生する可能性を指摘している。
 こうした混雑エリアではさまざまな対策を実施して現状と同程度の混雑状況を維持して、安全で円滑な運行状況を目指すとした。



交通需要マネジメント(TDM)とは
 交通需要マネジメント(TDM)については、高速道路と一般道の両方について交通量の抑制・分散を図る必要があるとしている。
 首都高の渋滞・混雑は、都心部と隣接県との接点で発生する。一般道の渋滞・混雑エリアは、都心部に集中している。
 渋滞・混雑発生の大きな原因となっている物流については、臨海部の港湾物流や競技会場周辺の都心部の物流の焦点が当てられている。とりわけ、都心部と埼玉県、千葉県との往来が多い。
 大会 期間中は、物流(大会関連物流や観 光客増に伴う物流等)は増加するのが必至とされる中で、物流の業種や品目などを具体的に分析して、物流業界や企業、市民に具体的に協力を求め、効果的な交通量削減を実現していく。


東京2020大会の交通マネージメントに関する提言の概要 交通輸送技術検討会 2018年2月19日

 その際に、利用者の特性に応じた働きかけを行うのが重要で、利用者分析(発着地、移動目的等)を行い、特性に応じた呼びかけを行う。
 集荷・ 配送を担う運送企業だけでなく、荷主や配送先の企業や商店などに、集荷・配送の変更の協力を得ることが重要になる。
 具体的には集荷・配達は、混雑時間を避ける時間帯に変更したり、回数も減らしたり、在庫として置くことが可能な物資は、大会前に配送するといった協力を呼びかけることが柱に据えられている。





 交通需要マネジメント(TDM)は2017年度末までにTDM全体行動プランを策定し、試行・展開の準備を進める。
 初期は、協力企業を限定して(リーディングカンパ ニー)試行を実施し、順次対象を拡大し、勤務時間や配達方法、個人の消費行動(eコマース) の変更など、働きかけを都内から全国に向けて展開するとしている。

難題 「15%」削減
 交通需要マネジメント(TDM)の手法は、物流業界や企業、個人に対して、あくまで「お願い」ベースで、交通量削減の協力を要請する。従って交通規制のように「強制力」を伴うものではない。
 しかも、協力を要請する内容は、物流業界に対しては、輸送ルートの変更や時間変更、共同配達はまとめ調達、路上荷捌きの抑制、集荷配送の回数減などで、一般企業に対しては夏季休暇の促進やテレワークの推進、勤務時間変更、まとめ発注、出張の前倒しや延期、電話・テレビ会議の奨励、個人に対しては、休暇取得、時差出勤、買い物・レジャーの行先・時期の変更、宅配便の利用や再配達の抑制など、実に多岐多様に渡る細かな項目を積み上げている。
 ひとつひとつの項目では有効な交通量削減が期待できないが、「ちりも積もれば山となる」という作戦である。まさに「小さな努力」の積み重ねだ。
 大会組織委員会では「ちりつも作戦」(大会組織委員会輸送部長 大澤雅章氏)としている。
 問題は、「ちりつも作戦」では、一体どのくらいの交通量が削減できるのか定量的に算定することが不可能なことだ。「15%」が果たして達成できるかどうか事前にはほとんど分からない。
 大会組織委員会では、2020TDM推進プロジェクトを発足させ、30の業界団体参加に呼びかけて、約200社超の企業がこのプロジェクトに参加している。目標は1000社以上としているが、後2年果たして達成できるのだろうか。
 交通量削減の最大の課題は、物流の抑制で、そのためにはサプライチェーン全体の協力体制を得なければならない。配送・集荷を抑制するためには、発送側と受け取り側の双方の荷主が一体で取り組みを進めなければ実効性は確保できない。
 配送時間変更、まとめ配送、ルート変更など簡単には実現できない難問だ。
 そもそも、選手や五輪関係者、大量の観客であふれる都心には、飲料や食料、日常品など大量の物資を配送しなければならいのは明らかである。配送量は削減どころか大幅増は必至だろう。
 また物流の網は全国、世界とつながっており、東京圏の枠を超えて個人・企業の協力を取り付けなければならないという難問が残る。
 「15%減」は果たして達成できるのだろうか? 結局、十分な交通量削減が達成できず、渋滞・混雑が深刻化して、都市活動や市民生活を妨げる強制力を伴う交通規制に頼ることになるという懸念が極めて大きい。

交通システムマネジメント(TSM)  導入の条件
 交通システムマネジメントとは、高速道路などの流入規制や信号調整、レーン規制や通行禁止などの交通規制である。TDMのように任意の交通対策ではなく、強制的な交通規制なので効果は確実である。
 しかしTSMを効果的に実施するためには、その前提として、なにより TDMによる交通量抑制が不可欠であり、その上で渋滞・混雑の発生状況に応じ て段階的なTSMをする必要がある。 十分な交通量抑制ができないままで、TSMを実施すると、迂回する車両などでむしろ交通渋滞が深刻化してむしろ輸送環境は悪化してしまう。
オリンピック・ルートネットワーク及びパラリンピック・ルート・ネットワークについて
 大会組織委員会では、選手や大会関係者の輸送を確実にするために、 「オリンピック・ルート・ネットワーク(ORN:Olympic Route Network)」と「パラリンピック・ルート・ネットワーク(PRN)」の関係者輸送ルートを設定した。
 関係者輸送ルートは、3つのルートから構成されている。
▼ 大会ルート:選手村、宿泊施設と空港、競技会場などを結び、大会期間を通じて設定されるルート
▼ 練習会場ルート:選手を選手村から練習会場まで輸送する際に使用するルート
▼ 代替ルート:事故や渋滞等の発生により、大会ルートが使用できない時に緊急の対応として使用するルート
 そして、それぞれのルートでオリンピックレーン(専用レーン)やプライオリティレーン(優先レーン)の設置など交通規制が検討されている。
 その中で最も重要なのはオリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)主軸となる首都高速道路のレーン規制や流入規制だが、一般道の渋滞を加速する懸念が大きい。
 一般道は道路環境が多様であることから、交通規制を実施するには難題が多く不可能に近い。













頼みの綱、オリンピック専用レーンの設置は期待できない
 オリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)で、大会関係車両のスムーズな通行を確保するためには、オリンピック専用レーンの設置に実効性がある。ロンドン五輪やリオデジャネイロ五輪でもオリンピック専用レーンが設定された。
 しかし、首都高速道路などの都心部の高速道路でオリンピック専用レーンを全面的に導入しても、JCT では1車線のために専用レーンが設置できず、一般車両と混ざって通行せざるを得ないので大渋滞が発生する。
 その影響が全線に渡って拡大し深刻な混乱が発生し、結果、大会関係車両は渋滞に巻き込まれて、専用レーンを設置してもむしろ遅滞をもたらすことが明らかになった。
 大会関係者の輸送ルートの中核となる首都高速道路に広範囲にオリンピック専用レーンを設置することはほとんど不可能になった。
 オリンピック専用レーンの設置は、基本的に片側三車線の道路でないと極めて難しいとされている。専用レーンの設置で渋滞が悪化する可能性があり、大会関係者の輸送にむしろ遅延を招くことになるからだ。
 オリンピックレーン(専用レーン)やプライオリティレーン(優先レーン)の設置は、日本の道路事情では、極めて限定的にならざるを得ない。
 成田から都心に向かう湾岸道路や臨海部の一部の道路は片側三車線のため専用レーンの設置は部分的には可能だろう。
 また競技会場周辺部の一般道路については、局所的に専用レーンの設置が検討されている。

 全体の交通量の削減が達成できない状態で、首都高速道路や主要高速道路で流入規制などの交通規制を行うと、一般道路に迂回する大量の車両で、大渋滞が発生するのは避けられない。都市活動や市民生活に大きな影響を及ぼす流入規制は安易に行うべきではない。何のための五輪大会開催なのか、厳しい批判を浴びるだろう。 







都心部への流入車両を「強制的」に規制 都市活動や市民生活に影響
 平日の朝は、大量の車両が東名高速や中央高速、関越自動車道、東北自動車道、常磐自動車道などの路線から首都高速道路に殺到し都心へ向かう。 夕方は、逆に都心部から抜け出す大量の車両で渋滞する。
 平日の朝など料金所の閉鎖や入口で流入規制を行えば、 都心部における車両の時間的集中を緩和できるだろう。
 TDMによる交通量の総量抑制を実施しても、なおかつ交通量が交通容量を超えている場合には、朝晩のピーク 時など中心に、TSMで「強制的」な交通規制を行わざるを得ない。
 しかし、流入規制を行えば、一般道路は大渋滞になり通行に支障が出て、都市活動や市民生活に大きな影響を与えることは明らかだろう。
 TSMによる交通規制は「諸刃の刃」であることを忘れてはならない。








公共交通輸送マネジメント
 公共交通輸送マネジメントでは、3本柱を掲げる。
① 輸送力の確保
 特に混雑の激しいと予想される路線では、可能な限り輸送力 を増強させる。 また、競技会場や各駅の状況などを考慮し、各駅の対応を検討することが重要である。
② 観客の需要分散・平準化
 観客が一度に入退場に殺到するのを避けるため、入退場時間の分散を検討していくことが必要である。 観客に早め入場を呼び掛けたり、ブロック別退場を誘導したりする。周辺でのイベントへの誘導 も有効としている。
③ 一般利用者の需要分散・抑制(TDM)
観客に対して「混雑が予想されるエリア・時間帯」などについて、情報提供を行い、混雑回避の協力を得ることが必要となる。
 以上の3つの施策の組合せにより安全で円滑な観客輸送の実現を目指す。




オリンピック・パークがない東京2020大会 交通対策は難しい
 ロンドン2012大会やリオ2016大会では、オリンピック・パークが整備されて、オリンピック・パークの中やその周辺に集中的に五輪施設を建設した。
 ロンドン2012大会では、オリンピック・パークの中に、オリンピック・スタジアム、アクアティック・センター、ウオーターポロ・アリーナ、ハンドボール・アリーナ、ベロドローム、ホッケーセンター、バスケットボール・アリーナ、選手村、IBC/MPCを建設した。
 リオ2016大会では、オリンピックの中に、アクアティック・スタジアム、マリレアン・アクアティック・センター、カリオカ・アリーナ、フューチャー・アリーナ、ベロドローム、テニス・センター、IBC/MPCを建設し、近接エリアの選手村を整備した。
 選手や大会関係者は、宿舎から競技場まで移動するのにほとんど時間がかからないのである。


リオ2016 ロンドン2012における競技場配置 輸送連絡調整会議

 これに対して、東京2020大会では、招致段階から、オリンピック・パークを建設せず、都心部の“ヘリテッジゾーン”と臨海部の“東京ベイゾーン”のテーマ・ゾーンを設け、五輪施設を立地させる計画で準備が進められてきた。
 そして、晴海の選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置し、ほとんどの競技場に20分以内で移動できる「世界一コンパクトな大会」を目指すとしていた。
 2013年1月、2020東京大会招致員会はIOCに立候補ファイルを提出したが、この輸送計画によると、2020年東京大会では、競技会場の約85%を選手村から半径8kmのエリア内に配置することで、選手にとって最高の移動環境を提供すると宣言した。

 輸送計画の決め手となるのは、オリンピック・専用レーンや優先レーンの設置である。
 2000年のシドニー大会以降、 競技会場、練習会場、選手村、メディアセンター、 空港などオリンピック関連施設を結ぶ道路には、大会関係車両が専用に利用できる車線などを設置し、輸送の円滑化を図ってきた。2016年リオデジャネイロ五輪、2012ロンドン五輪でも交通対策の決め手となった。
 東京2020大会の立候補ファイルの輸送対策では、首都高速道路を中心にオリンピック・レーン及び オリンピック・プライオリティ・ルートを設置し、全ての競技会場や練習会場、関連施設を、約6000台の大会関係車両を往来させて快適な輸送サービスを確保する計画だった。指定するオリンピック・レーンは合計約317km、オリンピック・プライオリティ・ルートは約290kmにも及ぶ。
 そして最も重要とされている選手村-オリンピックスタジアムパーク間の移動には、主に環状2号線を使用し、移動距離は7kmで、所要時間は10分を達成すると公約した。
 また選手村-皇居地区の競技場への移動には、 主に首都高速道路を使用し、移動距離は19kmで、その所要時間 は25分とした。
 その結果、選手の72%が10分以内に選手村から競技場にアクセス可能で、選手の87%が20分以内にアクセス可能、すべての競技場に30分以内で移動が可能とした。
 立候補都市 がオリンピック関係者の円滑な移動を保障できるインフラと輸送計画を持つかどうかは、IOC(国際オリンピック委員会)が開催都市を決定する際の重要な判断材料とされている。立候補ファイルで宣言した輸送計画は、「国際公約」であることを忘れていはならない。
 競技会場の約85%を選手村から半径8kmのエリアに設置する計画は破綻、首都高速道路などにオリンピック・レーンを設置してすべての競技場を結ぶという計画は頓挫寸前、肝心の環状二号線は暫定開通で完全開開通は先延ばし、立候補ファイルで「公約」をした「選手にとって最高の移動環境」を実現できるかどうか、瀬戸際に追い込まれている。
「国際公約違反」という批判を浴びる懸念も生まれてきた。

 
オリンピック・レーンなどを都心に広範囲に設置を計画 立候補ファイル 2013年1月 招致委

挫折した「世界一コンパクトな大会」 各県に拡散した競技場
 「世界一コンパクトな大会」を目指して開催準備を進める中で、膨れ上がった競技場建設経費が世論の厳しい批判を浴びて、見直しをする必要に迫られ、競技場の新設を中止し、極力既存の競技場を利用する計画に変更した。そして競技場は次々に首都圏近県に拡散していった。
 セーリング会場として建設を計画した若洲オリンピックマリーナは、招致計画では建設費を92億円としたが、見直しの結果、417億円に膨れ上がり建設は取りやめられ、江の島ヨットバーバーに競技会場を変更した。
 夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」は、招致計画では建設費を364億円としたが、見直しの結果、683億に膨張し建設中止に追い込まれ、バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に変更された。
 自転車(トラック)会場の有明ベロドロームも中止、伊豆ベロドローム(伊豆サイクルスポーツセンター 静岡県伊豆市)に変更、自転車(MTB)は海の森マウンテンバイクコースを中止して、伊豆MTBコース(伊豆サイクルスポーツセンター 静岡県伊豆市)に変更した。
 また、当初は東京ビックサイトで開催予定のレスリングやフェンシング、テコンドーの競技場は幕張メッセ(千葉市)に変更となった。

 これに加えて、ゴルフ会場は、霞ケ浦カンツリークラブ(埼玉県川越市)、射撃会場は陸上自衛隊朝霞訓練場(埼玉県朝霞市)、サーフィン会場は釣ケ崎海岸(千葉県一宮町)、野球・ソフトボール会場は横浜スタジアム(横浜市)や福島あづま球場(福島市)、バドミントン、近代五種(フェンシング)は武蔵の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)、サッカー、ラグビー、近代五種(水泳、スイミングなど)会場は東京スタジアム(東京都調布市)、自転車(ロードレース ゴール)は富士スピードウイとなる。

 またサッカー会場として、首都圏では、埼玉スタジアム(さいたま市)、茨城カシマスタジアム(茨城県鹿嶋市)、横浜国際競技場(横浜市)が使用される。首都圏以外では、札幌ドーム(札幌市)、宮城スタジアム(宮城県利府町)、茨城カシマスタジアム(茨城県鹿嶋市)も会場となる。

東京2020競技会場マップ

 この結果、競技場は都心部や臨海部だけでなく、千葉県、埼玉県、神奈川県、静岡県、福島県に拡散し、東京2020大会のキャッチフレーズ、晴海の選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置し、ほとんどの競技場に20分以内で移動できる「世界一コンパクトな大会」という「公約」は挫折した。
 こうした競技場の立地条件では、きわめて広範囲に渡る高速道路や一般道路の交通対策が必須となる。選手や大会関係者、メディア関係者の円滑な輸送を確保するために、これまでの大会では前例のない大規模でかつ困難な取り組みが迫られることになった。
 羽田空港や成田空港への円滑なアクセス確保も肝要である。
 都心部をターゲットにした「交通量15%」削減だけでは、拡散した競技場への円滑な輸送が確保できないのは明らかだ。
 東京2020大会で、大会輸送と都市活動の両立をはかる交通対策は果たして実現可能なのだろうか。大会開催によって、市民生活や都市活動が大きく妨がれるようになるなら、市民から厳しい批判を浴びるのは間違いない。
 残された時間は、2年足らず、2020東京大会の最大の難題、輸送対策は正念場を迎えた。




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2018年11月20日 初稿
2019年8月20日  改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

*****************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute (IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net 
imssr@a09.itscom.net
*****************************************
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2018FIFAワールドカップ 国際放送センター IBC 4K HDR VAR 8K HBS UHD

2020年01月14日 10時29分26秒 | 東京オリンピック
2018FIFAW杯 4K/HDRサービスに乗り出したHBS
国際放送センターはクロクス・エキスポ設置
VARが“勝敗の分かれ目”を決める その威力と功罪


▼ 219の国と地域から79のライツホルダー((MRLs:media rights licensees)、約5000人が参加するIBC
▼ 放送機関の拠点、IBCの設備と機能
▼ 初めて導入されたVideo Assistant Refree(VAR)は威力を発揮するか
▼ VARが“勝敗の分かれ目”を決める その威力と功罪
▼ 日本対コロンビア戦で登場 “Goal Line Technology”
▼ 全64試合はUHD/HDR(4K/HDR)で配信
▼ スタジアムのカメラ配置はこうなる
▼ NHKは全64試合をBS1、32試合を総合TV、4K8Kは12試合を放送
▼ 民放は日本戦、決勝トーナメント戦を放送




巨額を投入したスタジアム建設 “負の遺産”に転落するのは必至
止まらないW杯の膨張体質を支える放送権料 FIFAの収入の約62%は放送権料
Ultra HDとVRサービスに挑むBBC 2018 FIFA World Cup Russia

空前の汚職スキャンダルに見舞われたFIFA 再生は果たせるか?
2022カタール大会 65億6000万ドル(約7200億円)の巨額収入 目を見張る新スタジアム建設 新機軸eスポーツ


ロシアで開催される2018 FIFA World Cup
 2018 FIFA World Cup Russiaは、2018年6月14日から7月15日まで、世界各国から32のチームが参加し、32日間に渡って合計64試合が行われる。
 この大会で放送権を獲得したメディア(MRLs:media rights licensees)は、世界219の国と地域、260の放送機関で、FIFAでは各試合平均で2億人の視聴者(20分以上視聴)がいて、決勝戦は10億人の視聴者(20分以上視聴)がいると推定している。
 競技会場は、7つのスタジアムを新たに建設し、4つのスタジアムは改築して、11都市にある12のスタジアムを使用する。
 大会に参加するチームは、世界各地区の予選を勝ち抜いた31チームと開催国ロシア・チームの32チーム、ロシア国内にそれぞれチームキャンプ地が設けられ、30のトレーニング場も準備された。
 大会開催のハブとなる都市は、モスクワで、Luzhniki とSpartakの2つのスタジアムと5000人のメディアを収容するIBCが整備された。
 Luzhnikiスタジアムは72,385人、Spartakは41,262人を収容可能なスタジアムにリノベーションした。
 Luzhnikiスタジアムでは、開幕第1戦のロシア対サウジアラビア戦や決勝戦が行われる。
 その他のスタジアムは、Ekaterinburg、 Kaliningrad、 Kazan、 Nizhny Novgorod、 Rostov-on-Don、 St Petersburg、 Sochi、 Samara、Saransk、Volgogradで、合わせて11都市12か所の会場で開催される。



Luzhnikiスタジアム  出典 Goal.com

MOSCOW - 2018 FIFA World Cup™ Host City
Youtube

Russia 2018: Magic is in the air
Youtube

1億8900万ドルの巨額赤字を出したFIFA(2017年) ロシア大会開催で黒字転換に
 2018年7月、空前の汚職スキャンダルに見舞われていたFIFAは、財政報告を公表し、「信頼性喪失」で、2017年度の収支は、収入が7億3400万ドル(約800億円)に対し、支出9億2300万ドル(約1000億円)で、1億8900万ドル(約200億円)の赤字になったことを明らかにした。
 2016年度の3億9100万ドル赤字は約半分に縮小したもの、1億1700万ドルの赤字に転落した2015年から、3年連続の赤字を記録し、この結果、2015年から2017年の累積赤字額は6億9700万ドル(約770億円)となり、汚職スキャンダルの後遺症の深刻さを露呈した。
 この巨額の赤字によって、FIFA年の準備金は、2015年の14億1000万ドル(約1550億円)から2016年には10億4100万ドル(1152億円)に減少し、2017年には9億3000万ドル(約1000億円)に落ち込んだとした。
 しかし、FIFAは、2018年は、FIFAワールドカップ・ロシア大会の開催などで、38億7600万ドル(約4260億円)の巨額の収入を上げることができると強気の見通しを明らかにしている。
 その収入の“大黒柱”は、放送権収入で、2018年は24億1700万ドル(約2660億円)を見込んでいて、収入の約62%を占める。なんと60%を超えるFIFAの収入は放送権収入支えられるいるのである。
 これによって、2018年の収支は7億2300万ドル(約800億円)以上の黒字になるとし、2015年からの累積赤字は一掃して、4年間の収支計算で1000万ドル(約11億円)以上の黒字に転換になるとしている。
 その結果、FIFAの準備金は2015年末の14億1000万ドルから、2018年末には16億5300万ドル(約1820億円)に回復すると予想し、空前の汚職スキャンダルがもたらした「信頼性喪失」の後遺症から完全に回復できたとしている。



Crocus Expoに設営された国際放送センター(IBC)
 モスクワの北西、MKADリングの外側に位置し、競技会場になるSpartak Stadiumの近くにあるCrocus Expo International Exhibition Centerに国際放送センター(IBC)が設営された。2018年6月9日、関係者が出席しオープニング・セレモニーが行われた。


Crocus Expo International Exhibition Center


Crocus Expo International Exhibition Center Pavilion


出典 The International Broadcasting Center at the 2018 FIFA World Cup Russia FIFA TV Service

 国際放送センター(IBC)は、2018 FIFA World Cup Russiaの全世界のテレビやラジオなどの放送機関の拠点となる施設である。
 IBCでは、今回の大会で開催される64試合のライブ中継を始め、毎日のハイライト映像や各チームの最新情報、関連特集などが配信される。
 
 IBCには、全世界、219の国と地域から、78のライツホルダー((MRLs:media rights licensees)、約5000人が参加して、スタジオや編集・送出設備、ワーキング・スペースなどを設置して各国に向けてオペレーションを行う。
 IBCの設営・運営はFIFA傘下のHBS(Host Broadcast Service)が担当し、大会開催中の32日間、24時間サービスを実施する。

 IBCの総面積は5万4000平方メートル、HBS/FIFAエリアと各放送機関の専用エリア、サービスエリアなどに分かれていて、その内HBS/FIFAなどのスペース(multilateral areas)が8613平方メートル、各放送機関の専用スペース(unilateral production areas)が9054平方メートル、各放送機関の専用スペースで最大は1680平方メートル、最小は22平方メートルとなっている。またテレビスタジオが7つ設けられ、Fox U.S.、Fox Brazil、Telemundo、Televisa、Caracol TV、TYC Sports Argentina、CCTVがオペレーションを行う。テレビスタジオの中で、最大のスタジオは400平方メートルである。
 FOXやBBC、CCTVを始め、SBS Australia、 Globo and GloboSat(Brazil)、 TV Azteca(Mexico)、 DirecTV Latin America,、ITV(UK)、 Telemundo(U.S.)、 beIN(中東)の13の放送機関は、ビジュアルでアトラクティブなスタジオ建設を目指し、「赤の広場」にサテライトスタジオを設営してオペレーションを行う。


「赤の広場」に設置されたFOXのスタジオはロシアの雰囲気を重視したデザイン

 2017年12月1日に、IBCはCrocus ExpoからHBSに引き渡され、2018年5月14日にIBCとしてオープン、6月5日からIBCサービスが開始、7月15日の決勝戦の翌日、7月16日にIBCサービスは終了し、機材を撤収して8月15日にCrocus Expoに戻される。
 IBCの設営には133日間、撤去には30日間かけるとしている。

IBCの設備と機能

■ テクニカル・コンパウンド(Technical Compound)
 テクニカル・コンパウンドは、パビリオン1と2の間に設置され、電力や空調の仮設施設やバックアップ設備が整備される。

■ サテライト・ファーム(Satellite Farm)
 サテライト・ファームはIBCの駐車場に隣接して設置され、衛星が見通し可能な場所が確保されている。

■ 共通エリア(Multilateral Areas)
 共通エリアは、Master Control Room(MCR)/Central Equipment Room(CER)、コンテンツ制作センター、オフイスの3つのエリアに大きく分かれている。
 これらの施設は、パビリオン1と2に分散されているいるが、お互いに密接に連携してオペレーションを行うようにする。
  2018 FIFA World Cup Russiaで、IBCで初めてLive Infotaiment Content(情報・娯楽情報)が制作される。

■ マスターコントロール・ルーム(MCR)
 マスターコントロール・ルーム(Master Control Room MCR)は、映像・音声信号をコントロールするIBCの中枢の機能を担う。
 各都市の12のスタジアムや関連施設からIBCに送信されてくる映像・音声信号やIBCから光回線や衛星にアップリンクされるすべての映像・音声信号を監視して制御する。
 IBCに送信されてくる信号は、試合中継などの国際映像(Multilateral Feed/World Feed)と各ライツホルダー(MRLs:media rights licensees)が独自に制作したユニー映像・音声信号(Unilateral Feed)の二種類がある。
 ホストブロードキャスターのHBSは、こうした信号をすべてMCRで一括管理をし、ライツホルダー(MRLs:media rights licensees)に配信したり、HBSの制作センターへ配信したりして、さまざまな映像コンテンツを制作する。
 今回の大会では、UHD/HDR、UHD/SDR、3G-SDI(1080P)、HD/SDI(1080i)などの多様な信号が処理されることになったが、HBSは、こうした信号をすべてMCRで集中的に制御し、国際映像(Multilateral Feed)についてはラツホルダー(MRLs:media rights licensees)にニーズに応じて、多様な信号フォーマットのコンテンツで配信する。
 またMCRでは、ライツホルダー(MRLs:media rights licensees)のユニー映像・音声信号(Unilateral Feed)の入力・出力もコントロールし、各ライツホルダーに配信する。
 MCRは、送信コントロールも担い、国際映像(Multilateral Feed)やユニー映像・音声信号は、サテライトファームのSNGに送り衛星にアップリンクしたり、光回線にアップリンクして、世界各国の放送機関等に伝送する。

■ MCR Multivewer System
 これまでのMCR Multivewer Systemは、今回の大会で一新された。
 UHD/HDR、UHD/SDRの配信が始まったからである。
 すべてのフォーマットの信号は、ルーター・コントロール・システム(VSM)で制御され、MCRに設置されたモニターで表示可能なシステムを構築した。

■ Satelitte Distribution System
 MCRにはワールド・フィード・コントロール機能が整備され、サテライトファームにある衛星アップリンク車からオペレーションの制御可能にした。IBCから世界各国のライツホルダー(MRLs:media rights licensees)に送信される映像・音声信号はこの機能によって制御される。
 衛星アップリンク・オペレーションは24時間可能で、ライツホルダー(MRLs:media rights licensees)はMCRのサポートを得ることができる。
 ワールド・フィード・コントロール機能は、ルーター制御パネルと連結していて、IBCのすべての入力・出力の二つのオペレーションはMCRが管理する。



Master Control Room(MCR)



Pavilion1/2



Pavilion1
出典 The International Broadcasting Center at the 2018 FIFA World Cup Russia FIFA TV Service

■ スタジアムからIBCへの伝送(Stadium Feed)
 ロシア国内の各都市に分散した12のスタジアムからIBCへのライブ伝送は、ホスト・ブロードキャスターの重要なオペレーションである。
 各スタジアムからIBCへのフィードは、ベースバンドで10回線が準備され、Clean Stadium Feed(CSF)/UHD、Extended Stadium Feed(ESF)/3G-SDI、Clean Stadium Feed(CSF)/3G-SDI、Tactical Camera Feed、Player Camera Feed(A/B)、Team Camera Feed(A/B)、Clip Channel Action、Clip Channel Emotionの伝送が行われる。さらにIOS回線11回線でデジタル情報が伝送される。
 フィードされた映像・音声信号は、ラツホルダー(MRLs:media rights licensees)に配信される。

■ 制作センター(Production Center)
 ホスト・ブロードキャスターのHBSは、スタジアムから伝送された映像素材やHBSが40クルーのENGで取材する映像素材を元に、Extemded Basic International Stadium Feed Show(EBIF)やハイライト、5.1サラウンド音声、ストリーミングやVOD、Data Feed、VRなどのデジタル・コンテンツの制作センターで編集・制作を行い、ライツホルダー(MRLs:media rights licensees)に配信する。




VARが“勝敗の分かれ目”を決める その威力と功罪


Video Assistant Refree(VAR)




2018 FIFA World Cup Russiaで初めて導入されたVideo Assistant Refree(VAR)
出典 FIFA TV

 2018 FIFA World Cup Russiaでは、最先端の映像技術を駆使したVideo Assistant Refree(VAR)システムが初めて導入された。
 VARシステムは、モスクワのIBC内に設置されたVideo Operation Room(VOR)で、VARスタッフが、各都市にある12のスタジアムから光回線で伝送されてくるライブ中継映像をモニターして、試合の結果を左右するような重大な主審の判定ミスを監視するシステムである。
 VARの対象となるのは、「得点」、「PK」、「一発退場」、「退場・警告の人定」の4項目である。
 試合の進行を極力妨げないように、3回以上リプレーをして確認しなければならない微妙な判定は対象としない。
 FIFAは2018 FIFA World Cup Russiaのプレ大会として昨年ロシアで行われたコンフェデレーションズカップなどで試験的にVARを導入し、検討を進めていた。


出典 FIFA TV


出典 FIFA TV


出典 VAR at the 2018 FIFA World Cup Russia

 このシステムでは、VARチームを統括して判定を行い主審と連絡をとるVideo Assistant Refree(VAR)と試合を常時監視しているアシスタントVAR(AVAR)、映像を管理するリプレーオペレーター(Replay Operator)が一チームとなってオペレーションを担う。
 アシスタントVARは、メインカメラで試合の状況を常時、モニターしているAVAR1、テレビ中継映像を監視しているAVAR2、オフサイド・カメラを常時監視しているAVAR3の3人がいて、それぞれのAVARがインシデントを認識した場合にVARに伝える。
 リプレーオペレーターは、2人が該当するインシデントのベスト・カメラアングル映像をプレセレクトし、2人が最終的にVARに見せるベスト・カメラアングル映像を決める。
 VARは、リプレーオペレーターの選んだ該当の映像を見て判定を行う。
 VARはスタジアムの主審と直接、対話が可能で、判定の内容は主審に伝えられる。
 VARの判定の結果は、スタジアムの大型ディスプレーでもビデオ映像付きで観衆に伝えられる。
 判定を巡って紛糾するケースが多いオフサイドについては、“Vertial Offside Line”を複数の異なるアングルのカメラを映像を合成して画面に表示して、VARが判定を行う。“Vertial Offside Line”も大型クリーンで観衆に見せて判定の公平性を示す。
 また人間の「眼」の判定では限界があるゴールの判定は、FIFAは“Goal Line Technology”を導入した。フィールドに設置された7台の異なったアングルのカメラの映像を解析し、ゴールを判定して、Vertual Realityで表示する。そのシステムとして“Hawk-Eye”を採用し、音声技術は“Crescent Comms”を使用することになった。
 “Hawk-Eye”はイギリスの会社が開発した技術だが、2011年に日本企業のソニーが買収した。

 映像で判定を補助するビデオ判定システムは、選手やコーチが要求できる「チャレンジ制」と、VARと同じようにジャッジ・アシスタントが判定を要求できる二つに分けられる。
 「チャレンジ制」はNFL(アメリカンフットボール)、野球(MLB、韓国プロ野球)、テニス、バレーボール、レスリングなどで導入されている。
これに対して「チャレンジ制」は、「チャレンジ」可能な回数制限が設けられ、試合進行の妨げにならないように配慮されている。
テニスでは、各選手に1ゲームあたり3回の「チャレンジ」権が与えられるが、「チャレンジ」が成功した場合は、回数制限の枠の外になり、何回でも「チャンレンジ」が可能である。
 また「チャレンジ」で「明確な誤審」がなかった場合は、ペナルティが課される競技もある。レスリングではチャレンジが失敗した場合、1ポイント失うルールだ。
 一方、VARは試合の映像をモニターして、「インシデント」を察知した場合、さまざまなアングルのカメラ映像を検証して判定を下し、主審に伝える。しかし、VARは、あくまで主審の判定の“補助”で、判定の最終判断は主審が行うのである。
 しかし、VARがさまざまなアングルからの映像を検証しても判定ができない極めて微妙なプレーも残る。ハンドの反則は、「故意」かどうか決めてである。「故意」か「不可避」か、選手同士の接触プレーでは、激しいぶつかり合いなのかファールなのか、判定に苦しむケースが多い。ハンドの反則では「故意」かどうかがファウルの決め手になる。結局、主審の判定に頼らざるを得ないケースも現実には多発する可能性もあり、判定を巡る混乱は収まらない懸念は依然として残る。


VARチームの構成
出典 FIFA TV

VAR適用「第一号」 フランス対オーストラリア戦 フランスにPK


スタジアムの大型ディスプレーで表示されたVARの判定 フランス対オーストラリア戦 6月17日
出典 TASS 2018 FIFA World Cup Russia

 6月16日、サッカーW杯ロシア大会一次リーグBのポルトガル対スペイン戦で、 大会ポルトガル3―3スペイン サッカーW杯ロシア大会で、今大会から導入された映像で審判の判定を補助するVARが初めて使用された。
 判定されたのは前半24分にスペインが同点ゴールを決める直前のプレー。ペナルティーエリア近くの競り合いで倒れたポルトガルのペペがファウルを主張し、主審が耳元に手を当てるしぐさを見せた。通信機器で交信し、反則の有無を確認する合図だった。
 判定は変わらなかったが、VAR判定中もプレーが続行されていたため、見た目には分かりづらい「適用第1号」となった。(2018年6月16日 時事通信)
 続いて、スタジアムの観衆にも見える形での事実上の「第1号」となったのは6月17日に行われたフランス対オーストラリア戦である。審判は反則をとらなかったがVARによりファールが判定された。
 後半戦から開始から10分頃、フランスのグリーズマンがペナルティーエリア内に進入した場面で、オーストラリアのリスドンが滑り込んでタックルし、グリーズマンは倒された。主審はその場では即座に反則を取らず、プレーが続いたが、VAR判定が発動され、VARとのやりとりをした主審がピッチ脇にあるモニターで映像を確認するなどし、オーストラリアのファールを認め、フランスにPKを与えた。
 このPKでフランスは1ゴールを獲得し、さらにもう1ゴールを奪い、試合はフランスが2対1で勝利を収めた。
 FIFAは、VARの判定の結果について、「満足している」と語った。


オーストラリアのリスドンのタックルを受けるフランスのグリーズマン  出典 FIFA TV


VARシステムの映像を見る主審  出典 FIFA TV


VARシステム映像  出典 FIFA TV

“Goal Line Technology” 日本対コロンビア戦
6月19日に行われた日本対コロンビア戦で、開始直後、日本が香川選手のペナルティキックのゴールで1点を先行した後、前半の39分に、今度はコロンビアが吉田選手のファイルでフリーキンックを得て、キンテロ選手が右のゴールポスト隅にグランドを這うように転がるシュートを放ち、ゴールを決めた。ゴールキーパーの川島はゴールポスト上隅の弾丸シュートを予想していたと思われるが、その裏を取られ、懸命にセーブするもわずかに及ばず、シュートはゴール・ラインを割った。
 スロー再生で見ても、ゴール・ラインを割ったのは明らかだったが、初めてVARの“Goal Line Technology”を使用して、Vertial Realityの画面でキンテロ選手のシュートgゴール・ラインを割っていたことを明示し、コロンビアの得点を認めた。
 ゴールの判定は、スタジアムの巨大スクリーンでも表示され、スタンドにいる観衆やテレビの視聴率は大いに納得したようである。


コロンビアのフリーキックによるゴールはGoal Line Technologyの判定に    出典 FIFA TV/NHK


Goal Line Technologyの判定結果 ゴールラインを割っていたシュート  出典 FIFA TV/NHK 

ノー・ファール ネーマールは"シュミレーション"?
 6月22日にサンクトペテルブルグ・スタジアムで行われたブラジル対コスタリカ戦では、主審のファールの判定が、VARによって覆されNOペナルティの判定になった。
 試合の終盤近く、ペナルティエリア内の絶好の位置でパスを受けたブラジルのエース、ネイマール選手は、コスタリカのゴンザレス選手のディフェンスを受け、シュートをできずに倒れる、主審は、ゴンザレス選手のファールをとって笛を吹いたが、VARは主審にビデオ判定を要求した。
 スロー再生の中継映像を見ればはっきり分かるが、ゴンザレス選手の腕がわずかにネイマール選手の触れたが、ネイマール選手が倒れたのは、腕が触れてからしばらくして、接触プレーとは関係なく、見るからに“オーバー”なジェスチャーで“倒された”かのように振る舞ったのである。主審の眼は欺くことができても、映像御術の眼は欺くことができなかった。ネイマールにはシュミレーションの反則が与えれてもふさわしいプレーだろう。NOペナルティの判定が下された直後の中継映像には苦笑するネイマールの顔が映されていた。世界一のストライカーの看板が泣いている。


ペナルティエリア内のネイマール選手とディフェンスをするゴンザレス選手 出典 FIFA TV


VARのモニターを見る主審  出典 FIFA TV


VARの画面  出典 FIFA TV


NO ファールの判定後、苦笑するネイマール選手  出典 FIFA TV

“Vertial Offside Line” スペイン対モロッコ戦
 6月26日、カリーリングラードで開催されたB組の予選リーグ、スペイン対モロッコ戦の後半46分、コーナーキックを得たスペインはショートコーナーで挑み、DFのカルバハル選手中央に鋭いパスを入れ、これを合わせたFWのアスパス選手が鮮やかなヒールキックでゴール決めた。しかし、主審はオフサイドの判定をして得点は認めなかったが、VARが発動し、“Vertial Offside Line”で、オフサイドではないことを明らかにした。結果、主審は判定を覆し、スペインのゴールが認められた。
 これに対しモロッコの控えの選手がピッチになだれ込み抗議をし、スタンドではブーイングが響き渡り、スタンドからはペットボトルが投げ入れられるなど騒然とした。
 ところが、VARの“Vertial Offside Line”の画面を見れば、オフサイドではないことが明らかでである。
 シュートをしたアスパス選手の前にいたモロッコのDF、ハキミ選手(2)やすぐ背後にいたディラル選手(17)やダコスタ選手(4)に対しては明らかにオフサイドの位置にいたが、もう一人、最後方にもう一人、モロッコのDF、ブスファ選手(14)がいて、このDFの選手の足はは、アスパス選手よりゴール側にあったことがはっきりと分かった。
 肉眼でプレイを見ていると、背後のモロッコの選手の位置は、手前のモロッコの選手に気がとられて気が付かないし、一瞬の動きなので、選手の体の位置に気をとられて足の位置まで分からない。しかし、VARの“眼”はこれを見逃さなかった。
 オフサイドの判定が覆された結果、スペインのゴールが認められ、2対2の同点引き分けとなり、スペインは首位で決勝トーナメントに進出し、モロッコは予選リーグで敗退した。






モロッコDF、ブスファ選手(14)の位置は線審からは見えなかった可能性


画面に表示されたVertual Offsideline
出典 FIFA TV

“VARで覆った判定14件、正確性99.3% 一次リーグ48試合 FIFA発表
 2018年6月29日、FIFAは記者会見を開き、FIFA審判委員会委員長とPierluigi Collina元審判が、一次リーグを終了して、これまで試合でのVARシステムがどう使われたのか総括した。
 VARシステムは、一次リーグの48試合で、335件のインシデント(122のゴールを含む)を分析した。これは1試合あたり6.9回に相当する。
VARが映像をレビューしたのは17件で、そのうち14件は主審がフィールド・サイドでレビューを行い、当初の主審の判定が覆った。3件はオフサイドのような疑問の生じない明らかなファイルだった。
 その結果、審判の判定精度は、“VARなし”では95%、“VAR使用”で99.3%に上昇したとFIFAは総括した。

■ incidents analysed by VAR during the World Cup stage    335

■ reviews made by VAR                        17

■ decisions changed by VAR                     14


 Collina氏は「VARは完璧を意味するわけではない 。 間違った解釈や間違いがあるかもしれないが、99.3%の精度が確保されたので完璧に近いと思う」と述べ、VARの導入は成功だったとした。
 FIFAはVARの成果に満足している根拠に、VARコントロールルームからの映像とVARと審判の間のコミュニケーションの音声を、一次リーグ戦の4つのケースの激しいやりとりの瞬間を記者にクリップを示した。
 記者から、「FIFAは、このVARと審判のやりとりの音声を中継放送で使用することを検討するか」と尋ねられると、「実行には、様々な角度から慎重に検討することが必要だ」とし、「それは興味深いだろう。それを受け入れるかどうかは、サッカー界が意思決定をするだろう」と述べた。

「スイス戦でVAR適用拒まれた」ブラジル・サッカー連盟が主張
 ブラジル・サッカー連盟は6月20日、スイスとの1次リーグE組初戦で微妙な判定に対するビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の適用を要求したものの、拒否されたと明らかにした。
 同連盟はスイスが同点ゴールを挙げる直前と、FWガブリエルジェズスに対するペナルティーエリア内でのプレーについて、いずれもファウルがあり、VARを用いていればブラジルに不利な誤審が避けられたはずだと主張している。(共同 2018年6月20日)
 ブラジル代表のチッチ監督も、試合後の会見で、「言い訳をしたくはないが、(スイスのゴールの場面で)ミランダが押されていたのはとても明らかだった。VARシステムは評価できるが、公平にこのシステムが使えるように働きかけなくてはならない」とビデオ判定を採用する基準を疑問に感じていると述べたという。
 現状のVARの発動は、VAR側が一方的に判断して行うシステムであり、審判の判定に不満を抱いたベンチやプレーヤーが要求する権利は認められていない。
 しかし、公平な試合を担保するために、テニスの「チャレンジ制度」のようにプレーヤー側からの疑義に、何らかの形で答える必要があると思われる。VARシステムを根付かせるためにには運用上の問題を検討する必要がありそうだ。 

イランのクロイズ監督はVARの判定に激怒
 6月26日、イラン代表のカルロス・クイロズ監督は、引き分けに終わった対ポルトガル戦でのVARの対応に20分間以上激怒した。
ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド選手が、イランのモテエザ・プアリガンジ選手を“肘打ち”をしたにもかかわらず、審判がレッドカードを出さなかったことに怒ったのである。  ロナウド選手は、背後からプアリガンジ選手に迫りラフプレーを行うという悪質なファールだとした。
 ロナウド選手はイランのセアド・エザトラーヒと接触プレーで、ペナルティキックを得た後に、この怒りが爆発したのである。ロナウド選手のペナルティキックは失敗した。
ク イロズ監督は、「私は、特定の一人の審判について話をしているのではなく、VARというシステムについて話している。何千ドルももらっている5人がVARロームに座っていて、ロナウドの“肘打ち”を見逃している」と語った。

ま たクイロズ監督は、6月21日に行われた1-0で敗れたスペイン戦でのVARオフサイド判定も批判している。この試合でイランのゴールがVARのオフサイド判定で、ノー・ゴールになった。 クイロズ監督は、VARの導入は明確な判定が可能だとして支持を表明していたが、このオフサイド判定を受けて、議論の余地のあるプレーに対して、行き過ぎた判定をしていることに反対する明言した。
クイロズ監督は、「コーチもリアルタイムで情報を提供されなければならないし、プレーのレビューを見ることができなければならない。観客も何が起きたかを知りたがっている」と語った。
 更に「人間に間違いがあるのは疑問の余地はない。人間の間違いはVAR以前からあった。我々はそれを受け入れていた。それはゲームの一部だった。プレイヤーは間違いを犯す。コーチはミスを犯し、レフリーはミスをする。しかし今、膨大な経費をかけてハイテクという一つのシステムを手にしたが、このシステムに誰も責任を取らない」とVARシステムを批判した。

VARの解決しなければならない課題は
 シミュレーション(ファールを装うプレー)や審判の目線の外で行われるラフプレー、人間の「眼」で見ても分からない微妙なゴール判定などで、審判の「誤審」がなくなり、観客の疑念が一掃されるとVARの導入に期待が集まる。
 FIFAのインファンティノ会長は「主審の判定を手助けできる。より公平で透明なスポーツになる。とても重要で歴史的な決定だ」と意義を強調している。
 マラドーナの「神の手」は人間の「眼」は欺くことができても、最先端技術の「眼」はこれを見逃さないだろう。

 しかし、課題はまだ残る。
 ゴールの判定やオフサイドの判定は、“物理的”なもので、先端画像技術で判定は明らかになり、疑念は残らない。
 ところが、プレーヤー同士の接触プレーに伴うファールの判定は、極めて難しく、映像を何度もリプレーして見ても、ファールかどうか明らかに判定できない微妙なケースが多い。ボールを奪いにいってタックルをして相手プレイヤーの足をかけて倒した場合も、ボールにタックルにいって相手の足にからんだのか、相手を倒す目的で足をかけにいったのか、映像を解析してどちらともいえる場合がある。また腕で相手をブロックしたり、押し倒したりするケースもあるが、お互いに競り合っていていてファールといえるかどうか、判定が難しいケースもある。ハンドの反則も、故意なのかアクシデントなのかで一発退場かイエローカードなのか、“天と地”ほどペナルティの内容に差が出る。
 結局、最終的な判定は、主審の判断、主観に委ねられことになる。
 リプレーを視聴しても最終的に判断ができない部妙なケースがあるからだ。VARはあくまで主審の判断を補佐する“Video Assistant Refree”で、

 一方で、主審が見逃したファールや、肉眼では判別不能の一瞬のプレーなどは、超スローモーションやマルチアングル映像を見れば明らかに分かる場合も多い。こうした場合の判定には明らかに有効な機能だ。
 いずれにして、判定伴う疑念が巻き起こらないように、映像で情報をスタジアムの観衆やテレビの視聴者に映像情報を開示する姿勢は、公平性を保つ必要があるスポーツ・イベントには不可欠で歓迎したい。


VAR - The System Explained
FIFA TV/Youtube

Video Assistant Referee (VAR): Match-changing Incidents explained
FIFA TV/Youtube

Video Assistant Referee (VAR): The Virtual Offside Line
FIFA TV  Youtube




UHD 4K/HDRに乗り出したHBS
 2018 FIFA World Cup Russiaでは、FIAFは初めて、全64試合をUHD 4K/HDRで国際映像(World Feed)としてサービスすることに乗り出した。
 しかし、FIFAが映像サービスをどんな形で行うか決めたのは2年前、当時は4K/HDRの規格が策定されていなかったので、本格的なUHD 4K/HDRサービスの立ち上げは準備が間に合わず、「暫定的」なUHD 4K/HDRサービスとなった。
 結局今回の大会では、UHD 4K/HDRは、カメラ1セット、編集システム1セットのみの対応と極めて限定的な制作体制に留まり、3G-SDI(2160p/50[解像度](BT.2020[色域]、HDR[輝度]、4×2970Mbps[ビットレート])の映像制作をベースにして、4K/HDRへのアップコンバートで基本的に国際映像の配信を実施する。
 それでも3G-SDI(2160p/50)ベースの中継の解像度は、従来のHD-SDI(1080i)の解像度の約倍に増すだろう。
 FIFAの目指す本格的なUltra HDサービスに一歩近づいたと言える。
 ハイライト映像(EBIF、Highlights)の制作や、40クルーを投入した取材するENGベースの映像素材(FIFAチームクルー、ストーリークルー)も3G-SDI(1080P)で実施する。
 すべての3G-SDI(1080P)信号は、2160p/50[解像度]、BT.2020[色域]、HDR[輝度]、4×2970Mbps[ビットレート]、Slog 3の4K・HDRにアップコンバートされ、国際映像(World Feed)としてライツホルダー(MRLs:media rights licensees)に、ホスト映像・音声信号、Extended Stadium Feed(ESF)として配信される。
 こうした映像・音声信号はFIFA MAX Serverを中軸にしてコントロールされる。
 IBCでは、4K/HDRの他に、4K/SDR、3G-SDI(1080P/50[解像度]  Rec.709[色域」 SDR[輝度] 2970Mbps[ビットレート])やHD-SDI(1080i/50 Rec.709 SDR 14785Mbps)の映像信号もライツホルダー(MRLs:media rights licensees)に配信される。
 FIFA World Cupでこうした複数のフォーマットの映像信号が同時に配信されるのは初めてである。
 またすべてのコンテンツは、1080iにダウン・コンバートして配信するので、放送機関は従来通りのシステムに対応が可能である。

 試合の中継で使用する中継カメラは基本的に3G-SDI(1080P BT.2020 HDR)で信号制作が行われるのに対し、特殊カメラ(スローモーションカメラ、RF Steadycam、Spidercam)はすべてのカメラは1080P、Rec.709[色域]、SDR[輝度]で撮影が行われる。これらのカメラも高性能のCMOSセンサーを搭載しているので、従来より高画質の映像が得られるという。
 ホストブロードキャスターのHBSは、同時にHD-SDI(1080i REC709 SDR)のフルHD規格の信号を配信するので、各局が備えている現在の標準HD制作フローを変更する必要はないとしている。

 UHD/HDR中継については、UHDテレビの大画面サイズの利点を考慮して通常のHDカメラよりも広いフレーミングを持つUHD専用中継カメラ1台とUHD/ HDRとUHD/HDRと1080pのサイマル出力が可能な7台のカメラを使用し4K/HDR信号を制作する。
 また1080P/HDRと1080P/SDRのサイマル出力が可能な8台の中継カメラを使用し、色域はBT.2020、輝度はHDRで信号制作を行う。
 残りのすべての中継カメラや、スローモーションカメラ、steadycam、Spidercamは1080pで信号を制作し、色域はREC 709、輝度はSDRでキャプチャーされるが、最新鋭のコンバータを使用し、解像度だけでなく、色域はREC 709からBT 2020に、輝度についても、SDRをHDR(Slog 3)に変換され、すべての試合がUHD/HDRフォーマットの信号に統一される。
 2018 FIFA World Cup Russiaの組織員会のMiodownik氏は、「私たちは15放送機関のUHD/HDRユーザーを抱えている。実際には期待していたものの2倍だ」と語った。

スタジアムのカメラ配置

▼ Super Slowmotion Camera     8台(中継カメラ)
▼ Ultra Slowmotion Camera     2台(中継カメラ)   4台(小型カメラ)
▼ UHD(4K) Camera         1台(中継カメラ)     1台(小型カメラ)
▼ HD Camera(1080P)        11台((中継カメラ)   1台(小型カメラ)
▼ Goal Camera                          2台(小型カメラ)
▼ Crane Camera                          2台(小型カメラ)
▼ Steadycam                           2台(小型カメラ)
▼ Spidercam(空中懸架ワイヤーカメラ)            1台(小型カメラ)
▼ Offiseide Camara(VAR専用)                 2台(小型カメラ)
▼ Beaty Vamera(汎用)                     1台(小型カメラ)
▼ Cineflex heli-cam(空撮)                  1台(小型カメラ)

合計37台(1スタジアム)  放送中継カメラ  33台


スタジアムのカメラ配置
出典 VAR at the 2018 FIFA World Cup Russia  

NHKはBS1で全64試合、総合TVで32試合放送 日本戦・決勝戦は8Kで中継
 NHKは、2018 FIFA World Cup Russiaで、BS1で64試合の全てを放送し、総合テレビは32試合を放送する。 6月19日に行われる日本の初戦、コロンビア戦は、午後8時45分から総合テレビで放送する。また7月15日の決勝戦も総合テレビで放送する。
 BS1は全64試合を放送。日本の第2戦、6月25日午前0時からのセネガル戦はライブで中継放送、その他の63試合は中継録画放送となる。
 8K放送は、NHKが8K中継車や22.2.サラウンド音声中継車をロシアに送り込み8K中継をを行い、日本戦の初戦、日本対コロンビア戦では8Kライブ中継に挑む。その他は8K中継録画放送で、ロシア対サウジアラビア戦(6月15日)、ベルギー対チェニジア戦(6月23日)、セルビア対ブラジル戦(6月28日)、決勝トーナメント1回戦(7月2日)、準々決勝(7月7日)、準決勝(7月12日)、決勝(7月16日)の8試合は8K/22.2サラウンド音声で放送する。放送波は4K8K試験放送のBS17チャンネルだが、8Kチューナーがまだ市販されていないので、家庭では視聴できない。
 また、ワールドカップとしては初めて、FIFAは国際信号(World Feed)として4K/HDRで、全64試合を制作/配信を行う。
 NHKでは、4K8K試験放送で、日本対セネガル戦(6月25日)、日本対ポーランド戦(6月28日)、準決勝(7月11日)、3位決定戦の4試合を、4K/HDR、5.1サラウンド音声で放送する。
 インターネット配信は、パソコンやスマートフォンのワールドカップサイトや専用アプリで実施。
 総合テレビで中継する32試合は、FIFAが提供するマルチアングルの動画や試合の経過やシュート、ファウルなどの情報サービスがついた映像をライブ配信する。
 マルチアングル・サービスは、試合中継、戦術カメラ、ワーヤーカメラ、4分割A(Aチームの選手やコーチ・カメラ)、4分割B(Bチームの選手やコーチ・カメラ)などを視聴者が選択して見ることができる。
 全64試合の見逃し配信や、ハイライト動画の配信も実施する。
 また、大会期間中は総合テレビで放送する中継番組をのネット同時配信実験を行う「試験的提供A」も行う。
 放送同時配信サービスは、NHKの“悲願”だが、民放等の反対でなかなか実現はできない中でのネット同時配信実験である。
 平昌冬季五輪でも実施し、NHKは放送同時配信サービスの実績を着々と積み重ねていて、2020東京オリンピックまでにどのような形にするのか注目される。

日本初戦や決勝など東京と大阪で8K/4Kパブリックビューイング
 NHKは、東京・大阪の6会場において、4K/8K映像でパブリックビューイングを行なう。
8Kパブリックビューイングが行わるのは全64試合のうち、NHKが8K/22.2サラウンド音声中継を行う開幕戦のロシア対サウジアラビア戦(6月15日)、コロンビア対日本戦(6月19日)、ベルギー対チェニジア戦(6月23日)、セルビア対ブラジル戦(6月28日)、決勝トーナメント1回戦、準々決勝(7月7日)、準決勝(7月12日)、決勝(7月16日)などの8試合。
さらに国際映像として配信される4K映像/5.1ch音声でサービスされる4試合と合わせてサービスされる。
 4K/8Kパブリックビューイングを実施する会場は、東京・渋谷のNHKみんなの広場 ふれあいホールや、東京ミッドタウン日比谷 アトリウム、世田谷区のiTSCOMスタジオ&ホール二子玉川ライズ、千駄ヶ谷(JR新宿駅直結)のLUMINE O、グランフロント大阪 ナレッジシアター、渋谷のヒカリエホールBの6会場。
 全国のNHKの放送局のロビーでも4K/8Kパブリックビューイング・サービスが行われる。

日本戦、日テレ、フジテレビが放送 決勝トーナメントはTBS、テレビ朝日が放送
 6月25日の第2戦、セネガル戦は、日本テレビが放送、6月28日の第3戦、ポーランド戦はフジテレビが放送する。
グループリーグは、日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビで放送する。
決勝トーナメントはTBSとテレビ朝日でそれぞれ4試合放送する。

2018FIFAワールドカップ ロシア大会 NHK・民放 放送予定






Ultra HDとVRサービスに挑むBBC 2018 FIFA World Cup Russia

平昌五輪のメディア拠点 国際放送センター(IBC)
平昌冬季五輪 NBCは2400時間以上の五輪番組を放送
平昌冬季五輪 4Kに乗り出したNBC
視聴率低下に歯止めがかからなかったNBCの平昌冬季五輪中継
平昌冬季五輪は“5Gオリンピック” 韓国の戦略~2020東京五輪は平昌五輪に先を越されたか?~

“迷走” 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメディア施設整備~IBC(国際放送センター)・MPC(メインプレスセンター)~
ロンドン五輪 リオ五輪 北京五輪 オリンピックのメディア拠点 IBC(国際放送センター) MPC(メイン・プレス・センター)/ MPC(メイン・プレス・センター)

暗雲 4K8K放送 2020年までに“普及”は可能か

8Kスーパーハイビジョン 試験放送開始 準備着々 NHK技術研究所公開

5G・第5世代移動体通信 “世界に先駆け”2020年東京オリンピックに向けて実現へ
5G NR標準仕様の初版策定が完了 3GPP





国際放送センター(IBC) 設営・運営業務実績
国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)







2018年6月15日
Copyright (C) 2018 IMSSR





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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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