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東京オリンピック 輸送対策 交通渋滞マップ 交通規制 交通量削減 「30%削減」はできるか?

2020年01月16日 08時41分14秒 | 政治
最大の難問 交通渋滞は克服できるのか 2020東京五輪大会



首都高値上げ、都内全域 日中は1千円上乗せ
 8月26日、2020東京五輪大会の渋滞対策で、政府と大会組織委員会、東京都は、都内の首都高速道路の料金(ETC利用の普通車で300~1300円)に日中は1千円を上乗せをして値上げし、深夜から未明は料金を半額にする「ロードプライシング」を導入する方針を決めた。
 値上げ期間は五輪開会式の4日前の20年7月20日から閉会式翌日の8月10日までと、パラ期間中の8月25日から9月6日までの午前6時~午後10時の間、都内全域で、1千円値上げする。自家用車が対象で物流トラックやタクシーなどは除外される。一方、午前0~4時は首都高全線でETC搭載車をすべて半額とする。
 また過去大会で実績のあるナンバープレート規制や、複数人が相乗りした車両(HOV)の専用レーンを設ける対策は、本線料金所等で誤進入した車両の転回スペースがないことや、首都高本線が片側2車線で渋滞を発生させることなく、専用レーンを確保することが困難なことから、導入は困難であるとした。
 しかし、あくまで任意での協力を求めることは検討したいとした。
 今年の7月に、大会開催に備えて交通規制など大規模な交通渋滞対策の試行を行ったが、その効果は、首都高速道路で交通量が約7%減、一般道で約4%減にとどまったことが明らかになった。ときわけ首都高速道路では大会関係者料の円滑な輸送を実現するために「30%削減」を目指しているが、遠く及ばす、さらに強力な交通量削減追加策が求められていた。 
 しかし、7月の試行でも、首都高速道路は、渋滞解消に向かったものの、その影響で一般道の渋滞が激しくなることが分かっている。料金1000円上乗せで、首都高速道路の通行量抑制に効果が上がっても、そのしわ寄せで一般道の渋滞が激しくなる懸念が大きい。一般道の渋滞激化は、市民生活への影響が極めて多い。宅配便やコンビニへの配送にも大きな影響は必至である。
 結局、交通量の十分な削減が実現しない限り、「1000円値上げ」も「ランプ閉鎖」も、むしろ都内の一般道路の渋滞を悪化させることにつながりかねない。
 首都高速道路の渋滞が解消されて約5500千台とされている大会関係車両のスムーズな通行は確保されるが、一般市民は渋滞に苦しむという構図も見えてきた。
 東京都は、8月27日から1カ月間、都民や企業に対しパブリックコメント(意見公募)を行った上で、関係機関や関連自治体と調整を進めて年内に方針を固めるとしている。


試行の検証について 交通輸送技術検討委資料





閉鎖された首都高速渋谷線三軒茶屋料金所 7月26日午前10時 筆者撮影


三軒茶屋料金所閉鎖のしわ寄せで国道246号線は大渋滞

「首都高の通行量はわずか7%減 一般道の渋滞は悪化
 2020年東京五輪の開幕まで1年となった7月24日と26日の二日間に渡って、本番での都心部の混雑緩和に向けた大がかりな交通規制実験が行われた。競技会場への主要ルートとなる首都高速道路では、通勤時間帯を中心に最大で33カ所の入口を閉鎖し、環状7号線では都心方向への流入を抑制した。交通規制の試行としては過去に例のない規模である。大会組織委員会ではこの結果を検証し、大会開催時の交通対策を詰めることにしている。
 首都高では終日、新国立競技場(東京・新宿)最寄りの「外苑」(上り・下り)と選手村(同・中央)近くの「晴海」など4カ所の入り口を閉鎖。さらに高速道への流入量が多く、渋滞発生に影響を与えやすい三軒茶屋などの料金所入口が最大で約33カ所が閉鎖された。
 また、東名高速や中央高速、東北自動車道などから首都高へ入る計11カ所の料金所ではレーン数を減らし、流入台数を抑制した。
 一般道では幹線の環状7号の交差点118カ所で、早朝5時から正午まで、都心に向かう「青信号」の時間を、最大10秒程度、短縮して流入を抑えた。警視庁幹部は「交通規制のテストとしては過去最大」と話している。
 その結果、首都高各線では通行台数が激減し、警視庁によると、24日では、昨年同時期比で、臨海部の湾岸線は、午前8時から午後3時までの間は、東行きは94%、西行きで84%の混雑度が大幅に減少、新国立競技場付近を通る新宿線では上りで78%、下りで89%減り、スムーズな通行が実現した。
 しかし、交通規制のしわ寄せも大きかった。レーン規制が行われた料金所手前では渋滞が発生し、東名高速では一時15キロ、東北自動車道で6キロの渋滞が発生した。
 また首都高に入れなかった車両が一般道に迂回し、国道246号では191%、国道1号線では200%、混雑度が増えた。特に信号規制が行われた環状7号線周辺などでは渋滞が激しくなる個所が目立ったという。
 国交省は、24日に首都高を通った車は、昨年同時期と比べて7.3%少ない101万4000台で、26日は6.8%減の107万5000台、一般道の都内15地点を通った車はいずれも約4%減で、24日は63万8000台、26日は66万5000台だったことを明らかにした。 
 首都高速の交通量は、朝や日中の時間帯はかなり減少したように見えたが、ピーク時の交通量が分散しただけで1日平均するとさほど全体の交通量は減っていなかったのである。
 また、大会組織委員会は、選手村と国立競技場間の所要時間については、晴海から外苑までが約24分となり、目標としていた20分の達成はできなかったとした。
 二回目の7月26日の実験では、警視庁によると、朝方、都心に向かう一般道の上りが渋滞し、去年の同じ時期の金曜日に比べ、国道1号線は約3倍、国道20号線と246号線は約1.5倍の混雑となった。
 交通量全体を十分に減らさないで首都高の交通規制を行うと、一般道へ迂回する車が押し寄せて渋滞がむしろ悪化して、経済活動や市民生活に大きな影響を及ぼす。
 大会開催時の交通量は、選手や大会関係者、1000万人が見込まれている観客や観光客、激増する物流などで、通常時より10%以上は、交通量が増えるとされている。
 大会開催時に増加する交通量を見込んだ上に、通常時の「30%」減の目標を達成するのは、極めて厳しい状況になってきた。 

「スムーズビズ」始まる  2020東京五輪大会の交通混雑緩和対策
 2019年7月22日、2020東京五輪大会開催1年前にあわせて、東京都は企業や官公庁、団体に協力を求め、混雑時間を避ける時差出勤やテレワークなどに取り組む「スムーズビズ推進期間」を開始した。2020東京五輪大会の交通対策に活かそうとする取り組みである。
 大会開催期間中は、参加選手や大会関係者や観光客など首都圏には1000万人以上が訪れ、首都圏の鉄道は、乗客が通常時より1割程度増えると予想され、とりわけ朝夕の通勤時間帯の混雑悪化が懸念される。東京都では、山手線、京王線、臨海部の路線では、乗車率が最大で約180%に達すると予想している。
 東京都の取り組みに合わせて、通勤時間帯の混雑緩和のために、JR東日本は7月22日~26日、山手線と中央・総武線で午前5、6時台の列車を増発し、東急電鉄も7月22日~31日のうちの平日の6時台に臨時列車を運行する。
 東京都は、こうした取り組みを「スムーズビズ」と名付け、企業や官公庁、団体には「テレワーク」や「時差Biz」、物流企業には配送時間やルート変更などで交通量を削減する「2020TDM」への取り組みを呼びかけ、約3000社の企業が協力する予定だ。しかし、東京商工会議所が都内の企業475社にアンケート調査を実施したところ、物流面の対策について社内や取引先との間で何らかの検討を始めたと答えたのは約11%にとどまり、「企業単独での対応は難しい」としているという。(NHKニュース 7月23日)。物流企業の対応の難しさが浮き彫りとなった。
 「スムーズビズ推進期間」は7月22日から9月6日まで行われる。



五輪専用・優先レーン、競技会場周辺一般道に 交通規制
 2019年6月19日、東京都と大会組織委員会は輸送連絡調整会議を開き、大会開催期間中に競技会場周辺の一般道に専用・優先レーンを設けるなどの輸送運営計画案をまとめた。今夏、様々な渋滞対策を試行し、年末までに計画を完成させる。
 これによると、新国立競技場周辺や有明地区の2カ所に関係車両以外の通行を禁止する専用レーン(計約3・5キロ)を設置し、7カ所に優先レーン(計約19・8キロ)を設ける。競技会場周辺には一般車両に迂回を要請する区域を設置するとともに、進入禁止や通行制限などの規制も行う。
 首都高速道路は、車線が少ないこともあり、専用・優先レーンを設けるとむしろ渋滞が加速して、大会関係車両の通行に影響がでることが予想され、専用・優先レーンは見送られる方向だ、また一般高速道路への専用・優先レーンの設置は、当面は検討していないとしている。

東京五輪大会の交通渋滞対策 本番さながらの規模で今年の夏に試行
2019年夏の交通マネジメントの試行計画
▼ 大会本番並みの目標を掲げ、交通混雑緩和に向けた取組を総合的にテストする期間を設定
・一般交通
 東京圏に広域における一般交通は、大会前の交通量の一律10%減を目指す。特に重点取組地区は、出入りする交通量の30%減を目指す。
・首都高速道路の交通量の更なる減
 首都高速道路は、交通量を最大30%減とすることで、休日並みの交通環境を目指す。

▼ オリンピック・パラリンピックの期間に相当する期間を集中取組期間とし、一回目を7月22日~8月2日に、二回目を8月19日~8月30日に設定し、企業や団体に重点的な取組を依頼する。一回目の 7月22日~8月2日の内、前半の7月22日~26日は「チャレンジウィーク」とし、その中で集中取組期間の「コア日」とした7月24日や、週末で交通量が多い7月26日(金)に、大会開催時と同規模で交通規制や信号調整などを行う。

▼各社取組のピークを合わせる「チャレンジウィーク」(7月22日~26日)、及びコア日(7月24日)には、効果測定を実施 する。

▼交通規制や信号調整(TSM)は、7月24日と26日の二日間に渡って実施し、課題や確認事項があれば8月23日(金)にも実施する計画である、また開会式・閉会式を想定して、8月25日には選手村~競技会場間でバス20台~30台の隊列走行を試みる。

▼交通規制や信号調整(TSM)の内容
・高速道路において終日実施する対策(7月24日と26日)
  都心方向への高速道路における11箇所(圏央道内側の32か所の内)の本線料金所でレーン数を終日制限
  選手村周辺等の4つの入口(新国立競技場近くの「外苑」の上下、選手村付近の「晴海」とさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)最寄りの「新都心」の上りの計4カ所)については終日閉鎖
・環状七号線上の信号機を、午前5時から正午にかけて都心方向の青信号時間を短縮


・交通状況によって段階的に行う交通規制
 交通状況をモニタリングし、交通量が基準を超えた場合は、渋滞を未然に防ぐために入口閉鎖を行う。それでも交通量が増加する場合は、入口閉鎖の箇所を追加していく。渋滞等が発生する恐れがなくなった際は閉鎖解除。
 閉鎖対象の入口は50カ所(首都高速49カ所、中央高速1カ所 [圏央道内側の302か所の内])


出典 警視庁


出典 警視庁


出典 2020東京オリンピック・パラリンピック輸送連絡会議 2019年6月19日

 交通規制や信号調整(TSM)を有効に機能させる前提として、全体の交通量を削減(TDM)須である。全体の交通量が十分に削減されないままで、交通規制や信号調整(TSM)を実施すると、むしろ深刻な大渋滞が発生し、都心の交通はマヒ状態になる可能性がある。
 輸送連絡調整会議では、交通量を、重点取組地区や首都高速道路では、約30%の削減を目指す。
 約30%の削減を実現するために、企業や物流関係者、団体、官公庁に時差出勤やテレワーク(在宅勤務)、休暇の取得、会議・打ち合わせ・商談時期の変更、商品納品時期をずらす、まとめ発注といった交通量削減へ取組を求めている。
 東京都では、「2020TDM推進プロジェクト」を立ち上げ、企業や団体に対し交通量削減への取り組みを呼び掛けているが、現在(2019年6月)、1636社が参加を表明している。
 しかし、こうした交通量削減の取り組み(TDM)は、「協力ベース」なので強制力はなく、結果としてどの程度の削減に結び付くのか読めないのが課題として残る。



 そこで併用しなければならない交通対策は、強制力を持つ交通規制や信号調整などの「交通システムマジメント」(TSM)導入である。
 「交通システムマジメント」(TSM)は、自主的な協力を前提にした「交通需要マネジメント(TDM)」と異なって、強制力のある交通規制が基本となるだけに企業や団体、とりわけ市民生活への影響が大きい。
 これまでの検討で、都心部の高速道路では、車線数が少なくて合分流が多いことから、大会専用・優先レーンの設置は、むしろ渋滞を深刻化させて、逆に大会関係車両にも影響を与えることが明らかになっていた。
 一方、競技会場周辺の一般道路については、専用・優先レーンの設置は可能とし、今回のその案が公表された。
 大会専用・優先レーンの設置に代わる手法として、料金所の閉鎖やレーン規制よる流入規制、首都高速道路の料金上乗せ課金をする「ロードプライシング」、ナンバープレート末尾の数字で通行を規制する「ナンバープレート規制」、複数人が相乗りした車両を優先する「相乗り専用レーン」(HOVレーン)などが検討されている。
 いずれにしても、一般車両の通行が制限されることになり、都市の経済活動や市民生活へ大きな影響がでると思われる。

 東京都と組織委は、新たに大会開催期間中の鉄道の混雑予測も明らかにした。
 首都圏の鉄道は、朝のピーク時間帯には、「ラッシュアワー地獄」が連日、常態化しているが、通常時の混雑区間(朝7時~10時で混雑率150%以上を超える区間)に比べて大会開催時は観客増が加わり、混雑区間約13%増加して、混雑は更に拍車がかかるとしている。乗客数を「10%」削減できれば、通常時に比べて混雑区間は約38%削減可能とした。

 それでも局所的にはピーク時の混雑は解消不可能で、ゆりかもめ(新橋―日の出)で7日間で15回(30分単位で計上)、JR京葉線(西船橋-南船橋)は6日間で6回、京王線(調布―飛田給)で5日間で9回が、混雑率150%以上となるなど一部で深刻な混雑が発生するとしている。

 鉄道の混雑解消策は、輸送力の増強は限界があり、不慣れな乗客に対する案内・誘導などを改善することも必要だが、あくまで、乗客の任意の協力ベースに頼らざるを得ないため、情報発信に力を入れ理解を求めることが重要となる。


首都高料金 1000円上乗せへ
 2020東京五輪大会の交通渋滞対策として、国、東京都、大会組織委員会は、大会開催期間中の首都高速道路の交通量を抑制する対策案をまとめた。
 首都高速道は、大会開催期間中の選手や大会間関係者の輸送の幹線ルートで、こうした車両が交通渋滞に巻き込まれれると大会運営に支障が起きる懸念が大きい。
 対策案よると、首都高速道路の大会期間中の通行料金を、深夜午前0時から早朝午前4時までは、全車両を対象に半額程度に引き下げる一方で、午前6時から午後10時までは、バスやタクシーなど公共交通や物流を担うトラックなどを除き、マイカーなどは東京都内で1000円程度上乗せするとしている。
 さらに、開会式や閉会式が行われる日は、大会関係者や選手を輸送する車両を除き、ほぼ全車両を対象に、午後4時から深夜までの長時間の通行禁止を実施する。
 渋滞に関する試算では、選手村から新国立競技場まで(約10キロ)、何も手を打たない場合で午後5~6時ごろに最大で80分かかる。時差出勤など企業への呼びかけで40分に減り、さらに首都高の1千円の上乗せと料金所の一部閉鎖などで約20分に短縮できるなどの結果が出た。
 通行料金引き上げの他に、過去の五輪大会で導入されたナンバープレートの奇数、偶数で通行を規制したり、複数人が相乗りした車両の専用レーンを設けたりする対策も検討したが、それぞれ課題が多く実施は難しいとされている。唯一現実的な対策は通行料金値上げだろう。
 今年の夏、7月22日~8月2日と8月19日~30日(土日を除く)に渋滞対策の総合テストを実施し、首都高速道路の料金所閉鎖やレーン規制などの交通規制を大会開催時と同じ規模を想定して、その効果や影響を検証するとしている。
 国、東京都、大会組織委員会では、この対策案を元に議論を進め、8月にも大会開催期間中の交通渋滞策を決めるとしている。
 企業や物流関係者、市民が交通量削減に自主的に協力してもらい交通渋滞を解消しようとする「交通需要マネジメント(TDM)」では十分な効果が得らず、市民生活に影響が大きい直接的な交通渋滞規制が現実となってきた。
 (参考 NHKニュース 5月29日、報道ステーション 5月31日 朝日新聞 6月8日)



G20大阪サミット開催 史上空前の警備体制 大規模な交通規制で交通量50%削減 経済活動や観光、市民生活を直撃
 G20大阪サミットでは、全国から3万2千の警察官を動員し、大阪は厳戒態勢に置かれた。メイン会場となったインテック大阪のある大阪湾の人工島・咲洲は、「封鎖」状態、阪神高速道などは通行止め、大阪市内の9エリアでは、一般道でも大規模な規制を実施した。
 阪神高速環状線を中心に、6月27日から6月30日まで早朝から深夜まで通行止め規制が行われた。
 またVIPが往来する関西空港と大阪市内を結ぶ高速道路は、6月27日(木)と6月28日(金)は関西空港から大阪市内に向かう車線がVIPの通行時は通行止めになり、6月28日(金)と6月29日(土)は、大阪市内から関西空港に向かう車線が通行止めとなった。
 一般道路では、首脳が宿泊するホテル周辺の9エリアに、迂回エリアや煩雑に交通規制を行うエリアが設けられた。
 37の国や国際機関の首脳、政府代表団、海外メディアなど関係者は約3万人に上り、各国首脳や関係者は大阪市内のホテル13カ所に分散して宿泊したため、大規模な交通規制が必要となった。ホテル周辺などで規制が行われた一般道では、想定よりも通行止めが長期化した。当初は短時間で規制と解除が繰り返される見込みだったが、ホテルが集中するJR大阪駅周辺は連日、早朝や夕方に2時間半~3時間半ほど連続して通行止めになった。28日に晩餐会の会場となった大阪城公園周辺は、午後5時ごろから約7時間半、通行止めが続いた。
 大規模な交通規制が行われると激しい渋滞が発生する可能性があるが、地元の13機関と団体で構成する「G20大阪サミット交通総量抑制連絡会」では、サミット開催金の総交通量を50%削減を掲げ、企業や物流関係者、市民に協力を呼び掛けた。
 連絡会では渋滞を回避するためには50%削減が必要だとした。
 府警は昨年10月から企業や業界団体をまわり、開催中の休業や営業車の利用自粛を呼びかけた。
 府警によると、4日間の平均で前週と比べ大阪市中心部の交通量は4日間平均で51・2%減で、府警は目標を達成できたとしている。G20開催中の大阪市内の一般道路は、閑散として交通規制による渋滞は発生しなかったいう。
 しかし、大阪市周辺の経済活動や観光、市民生活への影響も大きかった。
 好調な観光業が直撃を受けた。
 大阪城の天守閣では開催前日の27日と、28日の2日間、臨時休館を決めた。サミット期間中には各国の首脳らが出席し、大阪城にある迎賓館で晩さん会が行われる予定で、厳重な警備態勢に加え大阪市内を中心に大規模な交通規制が行われるからだ。
 大阪市内でも営業を見合わせる観光施設が相次いでいる。1日4000人近くが訪れる梅田スカイビル屋上の空中庭園展望台は、外国人観光客に人気のスポットだが、サミット開催前後の27日から30日までの4日間休館する。
 大阪中心街を川面から見る水上バス「アクアライナー」も同じく4日間、運航を中止する。
 百貨店の客足にも影響が出た。阪急梅田本店では、4日間の客数が前年同期に比べ約2割減った。大丸梅田店でも、雨の影響もあり、同期間の客数が前年より10~15%ほど減った。「交通規制の影響で、車で来るお客様が少なかった」という。
 府警交通部の幹部は「結果的に市民の移動や経済活動に影響が生じ課題が残った」と述べているという。

 G20大阪サミットは、わずか3~4日間程度だが、2020東京五輪大会は17日間に渡って開催される。警備体制や交通規制はさらに大規模で長期間に渡る。大会開催期間の経済活動や市民生活は一体どうなるのだろうか、懸念は深まるばかりだ。


大阪府警


出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


「50%交通量削減」の効果? 一般道はガラガラ 出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日


「50%交通量削減」の効果? 一般道はガラガラ 出典 ANNニュース 「“超厳戒”大阪から人・車が消えた!」 2019年6月27日

“超厳戒”大阪から人・車が消えた!首脳が続々到着(19/06/27)



2020東京大会開催時に首都高通行料金上乗せや通行制限、専用レーン設置へ
 2019年2月6日、大会組織委員会と東京都は、国や有識者らを交えた交通輸送技術検討会を都庁で開き、大会時の渋滞緩和策として、首都高速道路の通行料金を五輪大会の競技時間帯には500円から3000円を上乗せして交通量を調整する「ロードプライシング」や、ナンバーによる通行制限、「相乗り」専用レーンの導入に向け、検討を本格化することを確認した。「ロードプライシング」は、中央環状線の内側を中心に行われ、物流への影響を考慮して中型以上のトラックなど物流関係の車両は対象から除外する方向で検討するとしている。
 首都高速道路の平日の交通量は、現在、1日約110万台で、通行料金は距離や時間帯に応じて300円から1300円(ECT普通車)で設定されている。仮に3000円上乗せが実施される区間の通行料金は最大で4300円という破格の高額となり、利用者からの反発は必至で、都市活動にも大きな影響を及ぼす。

 五輪大会開催中は、選手や大会役員の輸送で専用バスや乗用車など約6千台が選手村や競技場、成田・羽田空港などを往来する。さらに、観光客の輸送や食料品や飲料、日用品など貨物を輸送する車両が都心に溢れるだろう。
 交通量抑制など何も対策を取らなければ、1日約110万台が通る首都高では交通渋滞が現状の2倍近くになるという試算が明らかになった。大会運営はもとより、経済活動や都市活動、市民生活に大きな影響が出るのは必至で、交通渋滞対策が五輪大会成功の最大の難問になっている。

破綻した「交通需要マネジメント(TDM)」 交通渋滞緩和は達成できず
 交通渋滞を緩和させる方策として、これまで大会組織委や都は、大会開催期間中、都心部の首都高速道路や一般道の平日の交通量を「15%減」(休日並み)とするという目標を掲げ、企業や物流関係者、市民に呼びかけ、時差出勤や物流ルートの変更などで交通量を抑制する「交通需要マネジメント(TDM)」による交通渋滞緩和を目指していた。
 従来から「交通需要マネジメント(TDM)」の効果が一体どの位のあるのか懸念されていたが、今回、都心部などで一律に10%の交通量の削減が達成されても、23区内の一般道では利用台数が11%減るのに対し、首都高では6%減にとどまるとの試算結果を明らかになった。
 とりわけ問題なのは、大会開催期間中に選手や大会関係者の基幹輸送ルートとなる首都高の渋滞緩和効果が極めて薄いことが明らかになったことである。
 さらに問題なのは、こうした「交通需要マネジメント(TDM)」の取り組みは、あくまで企業や物流業界、市民の協力ベースよる交通量の削減策で、実際、どれくらいの交通量削減が達成できるのか、まったく未知数だという弱点がある。ようするに、大会を開催期間中にならないとその効果はよく分からないのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、「交通需要マネジメント(TDM)」による交通量削減策について、「定量的」に効果を把握できないとして疑問視する指摘を繰り返していた。 昨年、11月下旬に開催された大会の準備状況を検証する「調整委員会」でも、「交通需要マネジメント(TDM)」では不十分だという指摘を大会組織委員会は受けたと思われる。
 今回、開催された「交通輸送技術検討会」では、国際オリンピック委員会(IOC)の指摘も踏まえて、大会期間中の首都高渋滞解消の検討を行ったが、自主的な協力を前提にした「交通需要マネジメント(TDM)」では交通渋滞抑制の効果が不十分と判断し、追加対策の必要性を確認したのである。
 これまで組織員会と都が進めてきた自主的な取り組みによる「交通需要マネジメント(TDM)」は破綻し、結局、強制力を伴う交通量削減策が導入されることになった。
 その結果、登場した追加対策が、首都高速道路の料金上乗せ課金をする「ロードプライシング」や、ナンバープレート末尾の数字で通行を規制する「ナンバープレート規制」、複数人が相乗りした車両を優先する「相乗り専用レーン」(HOVレーン)などである。
 いずれも海外でも実績があり、この日の会合でも「ロードプライシング」については海外でも実績があり、「ETCなどのインフラもあり、導入したらいいのではないか」との意見が出て、反対はなかったという。
 これまで協力ベースで懸命に交通量削減に努力してきた経緯をどう考えているのだろうか。
 さらにこうした追加対策に加えて、首都高速道路などに「オリンピック優先レーン」の設置も検討されている。首都高速の一般車両の通行が1車線に制限されたら、たとえ交通量の削減を図ったにしても、激しい渋滞が発生して、都心の交通は麻痺する可能性が強く、大混乱するのは必至だろう。 

 組織委や都などで今後協議を進め、3月中にも方向性を取りまとめ、首都高の料金変更に必要となる沿線自治体の同意などについては19年末頃までには得たいとしている。
 2018年4月、大会組織委員会と東京都は、交通マネージメント推進するにあたって、その理念の最初に、「大会運営と都市活動の安定との両立」を上げた。「ラッシュアワーを中心に激しい渋滞や混雑が発生している状況の下、東京 2020 大会に当たっては、安全・円滑かつ効率的で信頼性の高い輸送と都市活動の安定と の両立を目指します」と宣言し、五輪開催にあたっては、大会輸送と都市活動の両立を最重要課題として掲げている、
 しかし、高速道路料金上乗せ課金やナンバープレート規制、相乗り規制などが実施されれば、明らかに都市活動や市民生活に大きな影響を及ぼすのは間違いない。
 これでは「大会輸送と都市活動の両立」ではなく、「都市活動」や「市民生活」へのしわ寄せの上に「大会輸送」が成り立っていると言っても良い。
 一体、誰のための五輪大会開催なのか、また、一つ「負のレガシー」が生まれそうだ。



出典 第4回交通輸送技術検討会資料

五輪渋滞マップ公開 重点取組地区指定 都内16地区
 2018年10月31日、大会組織委員会と東京都は、交通輸送技術検討会(第3回)を開き、東京2020大会期間中の交通渋滞や鉄道の混雑状況について、「大会輸送影響度マップ」をまとめて公表した。
 期間中で最も渋滞・混雑が激しいとされている7月31日のシミュレーションでは、何も対策を講じないと、高速道路、一般道では広範囲に渋滞や混雑が発生し、鉄道では、朝夕の都心のターミナル駅や日中の競技会場を中心に、激しい混雑が出ることが明らかになった。
 交通輸送技術検討会では、「大会輸送影響度マップ」は、今後、競技日程がより具体的になっていくのに合わせて更新していくとしている。


東京2020大会における交通マネジメントの検討状況について 交通輸送技術検討会(第3回)

 また交通渋滞解消に向けての交通量抑制に重点的に取り組む必要がある16地区を指定し、物流の抑制や配送ルート、配送時間の調整、時差出勤、夏季休暇などを企業や個人に協力を要請し、物流業界や企業には、交通量抑制の「アクションプラン」を作成してもらうとしている。
 16地区は、競技会場が多い臨海部や新国立競技場周辺の新宿、渋谷や、道路・鉄道の混雑箇所を通過する交通が多いエリアである。都心の繁華街のほぼ全域が指定された。

■重点的に対策に取り組む16地区
▼ ヘリテッジゾーン
 (1)新宿(2)渋谷(3)品川(4)浜松町・田町(5)新橋・汐留(6)大手町・丸の内・有楽町(7)八重洲・日本橋(8)神田・秋葉原・お茶の水(9)九段下・飯田橋(10)番町・麹町(11)青山・表参道(12)赤坂・六本木(13)霞が関・虎ノ門
▼ 東京ベイゾーン
(14)晴海・有明・台場・豊洲・大井ふ頭
▼ その他
(15)池袋(16)大崎


東京2020大会における交通マネジメントの検討状況について 交通輸送技術検討会(第3回)

“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心



首都高速道路の渋滞 「1.8倍」に
 2018年1月19日、2020年東京五輪・パラリンピックの交通・輸送を検討している「輸送連絡調整会議」で、大会組織委員会と東京都は、大会開催時の交通の見通しについて、「交通対策を行わない場合、 一般交通に大会関係車両が加わること で交通状況は厳しくなる見通しであり、 首都高の渋滞は現況の約2倍近くまで 悪化する」とし、「首都高の渋滞で無駄になる時間が約1.8倍に悪化する」との想定を明らかにした。そして「都市活動、 大会輸送ともに影響が大きいことから、 交通マネジメントの導入が不可欠」とした。
 首都高速道路は大会関係者の円滑な輸送を担う基幹道路として位置づけられている。都心環状線、11号台場線、3号渋谷線、4号新宿線、9号深川線、10号晴海線、湾岸線がオリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)に指定されている。首都高速道路の広範囲に渡る渋滞対策が最重要となっている。 

 交通マネジメントの導入にあたっては、大会輸送と都市活動の両立を最重要課題として掲げて、輸送を安全・円滑に行うために3つの柱を明らかにした。

① 交通需要抑制・分散・平準化を行う「交通需要マネジメント」(TDM)
② 道路状況に応じて交通の需給関係を高度に運用管理する「交通システムマジメント」(TSM)
③ 鉄道等の安全で円滑な輸送を実現する「公共交通輸送マネジメント」



「15%程度交通量減」
 大会期間中は、大会関係者や夏休みの旅行客が加わり、通行量は大きく増える見込みだ。
 市民の日常生活や都市活動を妨げることなく、円滑かつ安全で確実な大会輸送を確保するためには、全体の交通量を削減する必要があるとし、交通量を、全体で「休日並み」の「15%減」にするという目標に掲げた。
 「15%減」の目標を達成するために、全体として、「交通需要マネジメント」(TDM)で「10%減」を行った上で、それでも混雑が残る「重点取組地区」などは、TDMでの削減目標を「15%減」に引き上げ、さらに「交通システムマジメント」(TSM)を導入して、交通規制を行い、「20~30%削減」を図るとしている。
 
 TDMで全体の平均で「10%減」を実現しても、その効果は一般道路では「12%減」となるが、高速道路ではわずか「6%減」、さらに最も重要な首都高速道路ではわずか「1%減」にとどまることが明らかになっている。一般道路では混雑・渋滞はかなりの程度、解消するが、首都高速道路など局所的にしてもかなりの混雑・渋滞が残る。そこでこうした地域では、TDMの目標値を「15%減」に引き上げ、混雑・渋滞の解消を図る。しかし、「15%減」を達成しても、首都高速道路では、局所的に時速20キロメートル以下の渋滞や時速20~40キロメートルの混雑が解消できない。何も対策を行わない場合には、首都高速道路の渋滞は現況の2倍になると想定されている。渋滞を通り越して「麻痺」である。
 首都高速道路の大会開催時の通行台数は最大で117万7000台が予想されるが、同時期の休日の通行台数は88万7000台(2018年)、「休日並み」の通行台数に削減するためには、平日の通行量の3割程度、大幅に削減する必要があるとしている。
 一般車両に対して、首都高速道路のランプ閉鎖などの流入規制や車線規制などを行う「交通システムマネジメント」(TSM)」の導入が必須の状況だ。首都高速道路は大会関係者の輸送ルートの根幹となる輸送路である。
 企業や市民が協力ベースで行う「交通需要マネジメント」(TDM)での交通量抑制では十分でないことが明らかになってきた。
 「交通システムマネジメント」(TSM)」は、一部の地域や区間で規制を実施して交通量の更なる分散・抑制を図り、局所的な渋滞や混雑を解消させ、大会開催時にも円滑な交通環境を実現させるという手法である。TSMはTDMとは基本的にコンセプトが異なり、「任意」の協力ベースではなく、「強制的」に交通規制を行うのである。
 公共交通(鉄道)では、大勢の観客が集まる競技会場周辺駅や関連路線を中心に、大混雑が発生する可能性を指摘している。
 こうした混雑エリアではさまざまな対策を実施して現状と同程度の混雑状況を維持して、安全で円滑な運行状況を目指すとした。



交通需要マネジメント(TDM)とは
 交通需要マネジメント(TDM)については、高速道路と一般道の両方について交通量の抑制・分散を図る必要があるとしている。
 首都高の渋滞・混雑は、都心部と隣接県との接点で発生する。一般道の渋滞・混雑エリアは、都心部に集中している。
 渋滞・混雑発生の大きな原因となっている物流については、臨海部の港湾物流や競技会場周辺の都心部の物流の焦点が当てられている。とりわけ、都心部と埼玉県、千葉県との往来が多い。
 大会 期間中は、物流(大会関連物流や観 光客増に伴う物流等)は増加するのが必至とされる中で、物流の業種や品目などを具体的に分析して、物流業界や企業、市民に具体的に協力を求め、効果的な交通量削減を実現していく。


東京2020大会の交通マネージメントに関する提言の概要 交通輸送技術検討会 2018年2月19日

 その際に、利用者の特性に応じた働きかけを行うのが重要で、利用者分析(発着地、移動目的等)を行い、特性に応じた呼びかけを行う。
 集荷・ 配送を担う運送企業だけでなく、荷主や配送先の企業や商店などに、集荷・配送の変更の協力を得ることが重要になる。
 具体的には集荷・配達は、混雑時間を避ける時間帯に変更したり、回数も減らしたり、在庫として置くことが可能な物資は、大会前に配送するといった協力を呼びかけることが柱に据えられている。





 交通需要マネジメント(TDM)は2017年度末までにTDM全体行動プランを策定し、試行・展開の準備を進める。
 初期は、協力企業を限定して(リーディングカンパ ニー)試行を実施し、順次対象を拡大し、勤務時間や配達方法、個人の消費行動(eコマース) の変更など、働きかけを都内から全国に向けて展開するとしている。

難題 「15%」削減
 交通需要マネジメント(TDM)の手法は、物流業界や企業、個人に対して、あくまで「お願い」ベースで、交通量削減の協力を要請する。従って交通規制のように「強制力」を伴うものではない。
 しかも、協力を要請する内容は、物流業界に対しては、輸送ルートの変更や時間変更、共同配達はまとめ調達、路上荷捌きの抑制、集荷配送の回数減などで、一般企業に対しては夏季休暇の促進やテレワークの推進、勤務時間変更、まとめ発注、出張の前倒しや延期、電話・テレビ会議の奨励、個人に対しては、休暇取得、時差出勤、買い物・レジャーの行先・時期の変更、宅配便の利用や再配達の抑制など、実に多岐多様に渡る細かな項目を積み上げている。
 ひとつひとつの項目では有効な交通量削減が期待できないが、「ちりも積もれば山となる」という作戦である。まさに「小さな努力」の積み重ねだ。
 大会組織委員会では「ちりつも作戦」(大会組織委員会輸送部長 大澤雅章氏)としている。
 問題は、「ちりつも作戦」では、一体どのくらいの交通量が削減できるのか定量的に算定することが不可能なことだ。「15%」が果たして達成できるかどうか事前にはほとんど分からない。
 大会組織委員会では、2020TDM推進プロジェクトを発足させ、30の業界団体参加に呼びかけて、約200社超の企業がこのプロジェクトに参加している。目標は1000社以上としているが、後2年果たして達成できるのだろうか。
 交通量削減の最大の課題は、物流の抑制で、そのためにはサプライチェーン全体の協力体制を得なければならない。配送・集荷を抑制するためには、発送側と受け取り側の双方の荷主が一体で取り組みを進めなければ実効性は確保できない。
 配送時間変更、まとめ配送、ルート変更など簡単には実現できない難問だ。
 そもそも、選手や五輪関係者、大量の観客であふれる都心には、飲料や食料、日常品など大量の物資を配送しなければならいのは明らかである。配送量は削減どころか大幅増は必至だろう。
 また物流の網は全国、世界とつながっており、東京圏の枠を超えて個人・企業の協力を取り付けなければならないという難問が残る。
 「15%減」は果たして達成できるのだろうか? 結局、十分な交通量削減が達成できず、渋滞・混雑が深刻化して、都市活動や市民生活を妨げる強制力を伴う交通規制に頼ることになるという懸念が極めて大きい。

交通システムマネジメント(TSM)  導入の条件
 交通システムマネジメントとは、高速道路などの流入規制や信号調整、レーン規制や通行禁止などの交通規制である。TDMのように任意の交通対策ではなく、強制的な交通規制なので効果は確実である。
 しかしTSMを効果的に実施するためには、その前提として、なにより TDMによる交通量抑制が不可欠であり、その上で渋滞・混雑の発生状況に応じ て段階的なTSMをする必要がある。 十分な交通量抑制ができないままで、TSMを実施すると、迂回する車両などでむしろ交通渋滞が深刻化してむしろ輸送環境は悪化してしまう。
オリンピック・ルートネットワーク及びパラリンピック・ルート・ネットワークについて
 大会組織委員会では、選手や大会関係者の輸送を確実にするために、 「オリンピック・ルート・ネットワーク(ORN:Olympic Route Network)」と「パラリンピック・ルート・ネットワーク(PRN)」の関係者輸送ルートを設定した。
 関係者輸送ルートは、3つのルートから構成されている。
▼ 大会ルート:選手村、宿泊施設と空港、競技会場などを結び、大会期間を通じて設定されるルート
▼ 練習会場ルート:選手を選手村から練習会場まで輸送する際に使用するルート
▼ 代替ルート:事故や渋滞等の発生により、大会ルートが使用できない時に緊急の対応として使用するルート
 そして、それぞれのルートでオリンピックレーン(専用レーン)やプライオリティレーン(優先レーン)の設置など交通規制が検討されている。
 その中で最も重要なのはオリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)主軸となる首都高速道路のレーン規制や流入規制だが、一般道の渋滞を加速する懸念が大きい。
 一般道は道路環境が多様であることから、交通規制を実施するには難題が多く不可能に近い。













頼みの綱、オリンピック専用レーンの設置は期待できない
 オリンピック・ルート・ネットワーク(ORN)で、大会関係車両のスムーズな通行を確保するためには、オリンピック専用レーンの設置に実効性がある。ロンドン五輪やリオデジャネイロ五輪でもオリンピック専用レーンが設定された。
 しかし、首都高速道路などの都心部の高速道路でオリンピック専用レーンを全面的に導入しても、JCT では1車線のために専用レーンが設置できず、一般車両と混ざって通行せざるを得ないので大渋滞が発生する。
 その影響が全線に渡って拡大し深刻な混乱が発生し、結果、大会関係車両は渋滞に巻き込まれて、専用レーンを設置してもむしろ遅滞をもたらすことが明らかになった。
 大会関係者の輸送ルートの中核となる首都高速道路に広範囲にオリンピック専用レーンを設置することはほとんど不可能になった。
 オリンピック専用レーンの設置は、基本的に片側三車線の道路でないと極めて難しいとされている。専用レーンの設置で渋滞が悪化する可能性があり、大会関係者の輸送にむしろ遅延を招くことになるからだ。
 オリンピックレーン(専用レーン)やプライオリティレーン(優先レーン)の設置は、日本の道路事情では、極めて限定的にならざるを得ない。
 成田から都心に向かう湾岸道路や臨海部の一部の道路は片側三車線のため専用レーンの設置は部分的には可能だろう。
 また競技会場周辺部の一般道路については、局所的に専用レーンの設置が検討されている。

 全体の交通量の削減が達成できない状態で、首都高速道路や主要高速道路で流入規制などの交通規制を行うと、一般道路に迂回する大量の車両で、大渋滞が発生するのは避けられない。都市活動や市民生活に大きな影響を及ぼす流入規制は安易に行うべきではない。何のための五輪大会開催なのか、厳しい批判を浴びるだろう。 







都心部への流入車両を「強制的」に規制 都市活動や市民生活に影響
 平日の朝は、大量の車両が東名高速や中央高速、関越自動車道、東北自動車道、常磐自動車道などの路線から首都高速道路に殺到し都心へ向かう。 夕方は、逆に都心部から抜け出す大量の車両で渋滞する。
 平日の朝など料金所の閉鎖や入口で流入規制を行えば、 都心部における車両の時間的集中を緩和できるだろう。
 TDMによる交通量の総量抑制を実施しても、なおかつ交通量が交通容量を超えている場合には、朝晩のピーク 時など中心に、TSMで「強制的」な交通規制を行わざるを得ない。
 しかし、流入規制を行えば、一般道路は大渋滞になり通行に支障が出て、都市活動や市民生活に大きな影響を与えることは明らかだろう。
 TSMによる交通規制は「諸刃の刃」であることを忘れてはならない。








公共交通輸送マネジメント
 公共交通輸送マネジメントでは、3本柱を掲げる。
① 輸送力の確保
 特に混雑の激しいと予想される路線では、可能な限り輸送力 を増強させる。 また、競技会場や各駅の状況などを考慮し、各駅の対応を検討することが重要である。
② 観客の需要分散・平準化
 観客が一度に入退場に殺到するのを避けるため、入退場時間の分散を検討していくことが必要である。 観客に早め入場を呼び掛けたり、ブロック別退場を誘導したりする。周辺でのイベントへの誘導 も有効としている。
③ 一般利用者の需要分散・抑制(TDM)
観客に対して「混雑が予想されるエリア・時間帯」などについて、情報提供を行い、混雑回避の協力を得ることが必要となる。
 以上の3つの施策の組合せにより安全で円滑な観客輸送の実現を目指す。




オリンピック・パークがない東京2020大会 交通対策は難しい
 ロンドン2012大会やリオ2016大会では、オリンピック・パークが整備されて、オリンピック・パークの中やその周辺に集中的に五輪施設を建設した。
 ロンドン2012大会では、オリンピック・パークの中に、オリンピック・スタジアム、アクアティック・センター、ウオーターポロ・アリーナ、ハンドボール・アリーナ、ベロドローム、ホッケーセンター、バスケットボール・アリーナ、選手村、IBC/MPCを建設した。
 リオ2016大会では、オリンピックの中に、アクアティック・スタジアム、マリレアン・アクアティック・センター、カリオカ・アリーナ、フューチャー・アリーナ、ベロドローム、テニス・センター、IBC/MPCを建設し、近接エリアの選手村を整備した。
 選手や大会関係者は、宿舎から競技場まで移動するのにほとんど時間がかからないのである。


リオ2016 ロンドン2012における競技場配置 輸送連絡調整会議

 これに対して、東京2020大会では、招致段階から、オリンピック・パークを建設せず、都心部の“ヘリテッジゾーン”と臨海部の“東京ベイゾーン”のテーマ・ゾーンを設け、五輪施設を立地させる計画で準備が進められてきた。
 そして、晴海の選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置し、ほとんどの競技場に20分以内で移動できる「世界一コンパクトな大会」を目指すとしていた。
 2013年1月、2020東京大会招致員会はIOCに立候補ファイルを提出したが、この輸送計画によると、2020年東京大会では、競技会場の約85%を選手村から半径8kmのエリア内に配置することで、選手にとって最高の移動環境を提供すると宣言した。

 輸送計画の決め手となるのは、オリンピック・専用レーンや優先レーンの設置である。
 2000年のシドニー大会以降、 競技会場、練習会場、選手村、メディアセンター、 空港などオリンピック関連施設を結ぶ道路には、大会関係車両が専用に利用できる車線などを設置し、輸送の円滑化を図ってきた。2016年リオデジャネイロ五輪、2012ロンドン五輪でも交通対策の決め手となった。
 東京2020大会の立候補ファイルの輸送対策では、首都高速道路を中心にオリンピック・レーン及び オリンピック・プライオリティ・ルートを設置し、全ての競技会場や練習会場、関連施設を、約6000台の大会関係車両を往来させて快適な輸送サービスを確保する計画だった。指定するオリンピック・レーンは合計約317km、オリンピック・プライオリティ・ルートは約290kmにも及ぶ。
 そして最も重要とされている選手村-オリンピックスタジアムパーク間の移動には、主に環状2号線を使用し、移動距離は7kmで、所要時間は10分を達成すると公約した。
 また選手村-皇居地区の競技場への移動には、 主に首都高速道路を使用し、移動距離は19kmで、その所要時間 は25分とした。
 その結果、選手の72%が10分以内に選手村から競技場にアクセス可能で、選手の87%が20分以内にアクセス可能、すべての競技場に30分以内で移動が可能とした。
 立候補都市 がオリンピック関係者の円滑な移動を保障できるインフラと輸送計画を持つかどうかは、IOC(国際オリンピック委員会)が開催都市を決定する際の重要な判断材料とされている。立候補ファイルで宣言した輸送計画は、「国際公約」であることを忘れていはならない。
 競技会場の約85%を選手村から半径8kmのエリアに設置する計画は破綻、首都高速道路などにオリンピック・レーンを設置してすべての競技場を結ぶという計画は頓挫寸前、肝心の環状二号線は暫定開通で完全開開通は先延ばし、立候補ファイルで「公約」をした「選手にとって最高の移動環境」を実現できるかどうか、瀬戸際に追い込まれている。
「国際公約違反」という批判を浴びる懸念も生まれてきた。

 
オリンピック・レーンなどを都心に広範囲に設置を計画 立候補ファイル 2013年1月 招致委

挫折した「世界一コンパクトな大会」 各県に拡散した競技場
 「世界一コンパクトな大会」を目指して開催準備を進める中で、膨れ上がった競技場建設経費が世論の厳しい批判を浴びて、見直しをする必要に迫られ、競技場の新設を中止し、極力既存の競技場を利用する計画に変更した。そして競技場は次々に首都圏近県に拡散していった。
 セーリング会場として建設を計画した若洲オリンピックマリーナは、招致計画では建設費を92億円としたが、見直しの結果、417億円に膨れ上がり建設は取りやめられ、江の島ヨットバーバーに競技会場を変更した。
 夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」は、招致計画では建設費を364億円としたが、見直しの結果、683億に膨張し建設中止に追い込まれ、バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に変更された。
 自転車(トラック)会場の有明ベロドロームも中止、伊豆ベロドローム(伊豆サイクルスポーツセンター 静岡県伊豆市)に変更、自転車(MTB)は海の森マウンテンバイクコースを中止して、伊豆MTBコース(伊豆サイクルスポーツセンター 静岡県伊豆市)に変更した。
 また、当初は東京ビックサイトで開催予定のレスリングやフェンシング、テコンドーの競技場は幕張メッセ(千葉市)に変更となった。

 これに加えて、ゴルフ会場は、霞ケ浦カンツリークラブ(埼玉県川越市)、射撃会場は陸上自衛隊朝霞訓練場(埼玉県朝霞市)、サーフィン会場は釣ケ崎海岸(千葉県一宮町)、野球・ソフトボール会場は横浜スタジアム(横浜市)や福島あづま球場(福島市)、バドミントン、近代五種(フェンシング)は武蔵の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)、サッカー、ラグビー、近代五種(水泳、スイミングなど)会場は東京スタジアム(東京都調布市)、自転車(ロードレース ゴール)は富士スピードウイとなる。

 またサッカー会場として、首都圏では、埼玉スタジアム(さいたま市)、茨城カシマスタジアム(茨城県鹿嶋市)、横浜国際競技場(横浜市)が使用される。首都圏以外では、札幌ドーム(札幌市)、宮城スタジアム(宮城県利府町)、茨城カシマスタジアム(茨城県鹿嶋市)も会場となる。

東京2020競技会場マップ

 この結果、競技場は都心部や臨海部だけでなく、千葉県、埼玉県、神奈川県、静岡県、福島県に拡散し、東京2020大会のキャッチフレーズ、晴海の選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置し、ほとんどの競技場に20分以内で移動できる「世界一コンパクトな大会」という「公約」は挫折した。
 こうした競技場の立地条件では、きわめて広範囲に渡る高速道路や一般道路の交通対策が必須となる。選手や大会関係者、メディア関係者の円滑な輸送を確保するために、これまでの大会では前例のない大規模でかつ困難な取り組みが迫られることになった。
 羽田空港や成田空港への円滑なアクセス確保も肝要である。
 都心部をターゲットにした「交通量15%」削減だけでは、拡散した競技場への円滑な輸送が確保できないのは明らかだ。
 東京2020大会で、大会輸送と都市活動の両立をはかる交通対策は果たして実現可能なのだろうか。大会開催によって、市民生活や都市活動が大きく妨がれるようになるなら、市民から厳しい批判を浴びるのは間違いない。
 残された時間は、2年足らず、2020東京大会の最大の難題、輸送対策は正念場を迎えた。




“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」

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2018年11月20日 初稿
2019年8月20日  改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute (IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net 
imssr@a09.itscom.net
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