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新国立競技場 デザインビルド方式 設計施工一括発注方式 公共事業

2015年08月30日 21時38分49秒 | 新国立競技場

デザインビルド方式
設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?

(Design to construction system)





 デザインビルド方式(設計施工一括発注方式)は、公共事業の発注方式で、「設計」と「施工」を一括して発注する方式。
 受注者業者が保有している施工経験や建設技術を生かした設計が可能になり、工期の短縮や建設コストの削減が可能になり、「公正さ」を確保しながら、良質な成果物が得られるとしている。
 これまで、公共事業では、昭和34年の事務次官通達で、「設計コンサルティング業務の外注にあたっての設計・施工分離の原則」が示され、設計(建築設計会社等)と施工(ゼネコンなど建設会社)を別々の企業で実施させることで、設計のチェック・品質確保・建設コスト管理などを履行させることを基本としてきた。発注者は、まず設計者に設計業務を発注し、設計図を作成し、それをもとに、価格競争で行われる競争入札を行い、最低価格を提示した施工者に工事を発注する方式である。
 しかし、画一的な設計・施工分離方式では、ダンピング、入札の不調、発注者のマンパワー・ノウハウの不足、受注者の確保・育成、社会資本の維持管理などのさまざまな課題に対応しきれなくなってきた。そこで、これまで民間工事で行われたデザインビルド方式を、公共工事でも多様な入札契約方式の一つとして導入が進められていた。イギリス、アメリカ等の海外諸国では、ここ数年、デザインビルド方式の採用率が増加しているという。
 国土交通省では、平成13 年3 月に「設計・施工一括発注方式導入検討委員会」の報告書において手続き等の考え方を示し、設計・施工一括発注方式の試行が拡大された。2005年4月、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」を施行され、企業の技術提案を踏まえた予定価格の作成が可能となったことで、「デザインビルド方式」の実施環境が整備され、2009年に「設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式」として基準を示し、本格的に導入を開始した。
 国土交通省では、「デザインビルド方式」のメリットとデメリットを次のように説明している。

【デザインビルド方式の主なメリット】
▼ 効率的・合理的な設計・施工の実施
・設計と製作・施工(以下「施工」という)を一元化することにより、施工者のノウハウを反映した現場条件に適した設計、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となる。
・設計と施工を分離して発注した場合に比べて発注業務が軽減されるとともに、設計段階から施工の準備が可能となる。
▼ 工事品質の一層の向上
・設計時より施工を見据えた品質管理が可能となるとともに施工者の得意とする技術の活用により、よりよい品質が確保される技術の導入が促進される。
・技術と価格の総合的な入札競争により、設計と施工を分離して発注した場合に比べて、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となる。

【デザインビルド方式の主なデメリット】
▼ 客観性の欠如
・設計と施工を分離して発注した場合と比べて、施工者側に偏った設計となりやすく、設計者や発注者のチェック機能が働きにくい。
▼ 受発注者間におけるあいまいな責任の所在
・契約時に受発注者間で明確な責任分担がない場合、工事途中段階で調整しなければならなくなったり、(発注者のコストに対する負担意識がなくなり)受注者側に過度な負担が生じることがある。
▼ 発注者責任意識の低下
・発注者側が、設計施工を“丸投げ”してしまうと、本来発注者が負うべきコストや工事完成物の品質に関する国民に対する責任が果たせなくなる。
(出典 設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式 実施マニュアル 2009年3月 国土交通省

東京都 競技会場整備にデザインビルド方式を導入 事業迅速化の切り札に
 東京都は、2020 年東京五輪の競技会場整備に、設計・施工一括発注(デザインビルド、DB)方式を導入した。都財務局は2014年6月、「設計・施工一括発注方式の取扱いについて」と題する文書を公表し、デザインビルド方式の基本的な考え方を提示した。
 DB方式を適用する案件では、基本設計をプロポーザル方式で建築設計事務所や建設コンサルタント会社などに委託。実施(詳細)設計と施工を一括して、建設会社などからなる建設共同企業体(JV)に発注する。基本設計では、施設に求める性能などの要求水準や受発注者間のリスク分担などを盛り込んだ発注資料を作成。案件ごとに実施要領を定めて、発注手続きに入る。
 デザインビルド方式は総合評価方式を採用する考えだ。実施(詳細)設計は、建設会社の設計部門などJVの構成員、あるいはJVと委託契約する設計協力会社が担うこととした。基本設計を担当した会社は、実施設計段階以降は発注者支援などを手掛ける「DBアドバイザリー業務」を担い、設計協力会社になることはできない。


DB方式の実施フロー。基本設計の受注者は実施設計を受注できない(資料:東京都)
(出典 日経アーキテクチャー 2014年7月14日)

 デザインビルド方式は震災復興事業や東京オリンピック施設建設で、「工期短縮」という理由で特例的に採用されている。しかし、公共事業という公正性・透明性を求められる事業において制度的に満足できる仕組みになっているとはいえないだろう。
 公共事業の調達において、透明性の確保、説明責任には設計・施工の分離方式が原則だろう。 あくまで「例外」的な手法であり、導入は「限定的」することが必要であろう。
予定価格制度との整合性、分離・分割発注との整合性、地元企業活用手法の整備、設計変更時の工事費増減ルールの整備等、解決すべき課題はまだまだ多いという。
 なによりも懸念されるのは、強力な設計部門を自社で抱え、豊富な建設実績、新しい工法などの技術力など“圧倒的”なパワーを保持する大手ゼネコンの“寡占”体制が更に増すということである。発注者、設計会社、施工者(ゼネコン)のトライアングルのチェック&バランス体制が崩れるということだろう。
 東京オリンピック施設建設で、問われているのは、「工期短縮」と「建設コスト削減」である。とりわけ労務費や資材費が暴騰している中で、「建設コスト削減」が最大の課題だ。「デザインビルド方式」を採用するにしても、「建設コスト削減」を達成するために、発注者の姿勢が厳しく問われるだろう。




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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2015年8月30日
Copyright (C) 2015 IMSSR




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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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新国立競技場 入札 ゼネコン 公募型プロポーザル方式 デザインビルド方式 随意契約 価格競争

2015年08月29日 10時44分39秒 | 新国立競技場

ゼネコン主導の新国立競技場建設計画への疑問


★ 公募型プロポーザル方式は“随意契約” “価格競争なし”で“高止まり”
★ 「1625億円」から「2520億円」、そして「1550億円」 「1000億」乱高下の“怪”
★ ゼネコン主導の総工費試算
★ 問われる日本スポーツ振興センター(JSC)の発注管理能力
★ 入札には“価格競争”導入を!





新国立競技場の総工費「1550億円」決定
  政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。

▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
 ▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。

 政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、ロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、1000億円超ではまだ破格に高額で、国民の批判が収まるかどうか不透明である。
 また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”工事が発生したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか?不安材料は、依然として残る。


総工費圧縮「約1000億円」の“明細”を明らかに!
 「2520億円」から「約1000億円」削減して、「1550億円」に圧縮した“努力”は評価したいと思う。
 しかし、具体的にどんな経費を圧縮したのか、明らかにしないと納得できないのではないか。
 2015年7月、発注者の日本スポーツ振興センター(JSC)と設計会社JV、施工予定者の大手ゼネコンが積算した「2520億円」とどこが違うのだろうか?
 可動式の屋根は、設置しないので「キールアーチ」は不要になるだろう。
 観客席は、前の計画では、「6万5千席」が恒久設備で、「1万5千席」を仮設としてたが、今回の計画では「6万8千席」(恒久設備)として、余り大差はない。あとは観客席の上部の屋根は「幕」製にしたり、冷暖房設備は削減したりすることが分かる。その他の機能の何が削減ないし削減されてたのか公表すべきであろう。「公募」前なので、積算価格を公表するのは適正ではない。
 筆者の疑問は、一体、「2520億円」の概算見積もりをどこまで信用できるのかという点である。この疑問が解消されない限り、「1550億円」にも疑念が残るだろう。


ザハ氏事務所がJSC批判 「建設費高騰はデザインが原因でない」
  2015年7月28日、ザハ・ハディド氏の事務所は、ホームページ上で、「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を発表した。また、費用がかかりすぎるとされたアーチは230億円で工事が可能で、総工費の10%未満だったとしている。
 建設費が膨らんだ要因について「完成日が動かせないプロジェクト、建設コストの急上昇、さらに国際的な競争がない環境の中で、少数の候補から建設会社を選定すれば競争原理が働かなくなるとJSCに警告したが聞き入れられなかった。十分な競争原理が働かないなかで、あまりにも早期に建設会社を選定したことが見積もりの過剰な高騰を招くことになった」と建設会社の選定方法に問題があったとの見方を示し、安倍晋三首相に対し、有効な提案をする準備があると書簡を送ったことも明かした。
 2015年8月24日、ホームページ上で、“ビデオプレゼンテーション”を公開し、“白紙撤回”の取り下げを求めた。


ビデオプレゼンテーションとレポート―新国立競技場 東京 日本 Zaha Hdid Architecs

新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」
 2015年7月17日、安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
 2015年7月21日、新国立競技場について新たな計画を策定する関係閣僚会議(議長・遠藤利明五輪担当相)を設置し、首相官邸で初会合を開いた。世論の批判で当初案の白紙撤回に追い込まれた事態を受け、内閣全体で取り組む姿勢を打ち出し、官邸主導で立て直しを図るとしている。
初会合では、工期や上限コストなどを盛り込んだ整備計画を「秋口の早い時期」(遠藤氏)までに策定することを確認した。整備計画は、デザインから設計、施工を一括で発注する国際公募の条件となる。


新国立競技場工事 “見切り発車” 大成建設に資材発注「33億円」
 2015年7月9日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、スタンド工区の施工予定者に決まっている大成建設と最初の契約を結んだ。スタンド部分の一部資材を発注し、契約額は「32億9400万円」、“随意契約”である。
発注された資材は、「地盤の掘り起こし作業に向けて、掘り出した土が崩れないための壁を設置するための鉄骨材」といわれているが、その経費として「32億9400万円」が妥当なのか、高すぎるのか、どんな鉄骨材を何トン、発注したのか、情報が公開されていなのでまったく解らない。
さらにスタンド工区全体の「設計」、「仕様」、「経費見積もり」が示されてない中で、“前代未聞”の“見切り発車”である。
2015年7月17日の安倍首相が表明した“白紙撤回”で、“見切り発車”が挫折した。資材発注費「32億9400万円」は一体どうなるのだろうか?
「スポーツの“聖地”」を目指す新国立競技場の建設が、こうした杜撰”体制で進められていいのだろうか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)への道をまた一歩進んでしまった。


新国立競技場の調達方式は「公募型プロポーザル方式」
 新国立競技場の「フレームアップ設計」、「基本設計」、「工事」の調達方式は、すべて、価格競争が行われる「競争入札」ではなく、業務遂行の適正、能力を重視する「公募型プロポーザル方式」を採用している。
「フレームアップ設計」と「基本設計」はセットにして建築設計会社、「工事」はゼネコンを対象に応募者を求めた。
新国立競技場の「工事」については、特別な調達方式を採用し、建設設計会社が行う「実施設計」段階から、建設会社(ゼネコン)が「施工」担当予定者として、「技術協力」を行い、「実施設計」作業に加わる方式だ。「実施設計」で仕様や工法、工期などを確定した上で、総工費の「見積もり」を作成する。「実施設計」段階の「技術協力」と「施工」をあらかじめセットにして応募者を求める方式である。設計・施工を一括して発注する「デザインビルド」方式の“精神”と取り入れた異例の調達方式である。8月28日に決定された“仕切り直し”整備計画では、設計・施工を一括して発注する「デザインビルド」方式を採用することになった。
 実は「工事」だけの調達では、「競争入札」が原則で、「公募型プロポーザル方式」にはできないのである。「設計」業務が伴わなければならないのである。今回の場合は、「工事」に「実施設計」の「技術協力」を付け加えて、クリヤーしているのである。
 大手ゼネコン側から見ると、実質的に「工事」を価格競争が行われる「競争入札」ではなく、価格競争のない“随意契約”で、巨大プロジェクトを請け負うことができる「公募型プロポーザル方式」を、内心、歓迎しているのではなかろうか?
 この「実施設計」の「技術協力」と「見積もり」作成までが第一段階の業務で、発注者(JSC)は、「実施設計」の妥当性を審査しながら、「見積もり」合わせを相対交渉で行う。発注者(JSC)は、公募を行う際に、あらかじめ工期や総工費の上限を設定している。総工費の「上限」の範囲に収まれば第二段階の「施工」の契約に進む。双方合意に至らなければ「不調」となり、調達はやり直しとなる。
 新国立競技場の工事は、開閉式の屋根や耐震性と伸縮可動機能のあるスタンドなどの難度の高い施工技術が必要とされる。高度な技術力と経験を持つ建設業者を技術協力者として「実施設計」段階から加えることで、工期内に確実に工事を完成させることが、こうした調達方式を採用した狙いだとしている。


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新国立競技場 デザインビルド方式

公募型プロポーザル方式とは
 「公募型プロポーザル方式」は、業務の委託先や建築物の設計者を選定する際に、調達案件についての技術提案を“公募”で募り、技術提案の内容を審査して、最も優れた提案を行った応募者を選定する調達方式。
 “公募”を行う際には、応募者に業務実績など資格要件を課して、その条件を満たした者でないと応募できない。
 “公募”とはいっても、決して誰にでも門戸が開かれているわけではない。

 公共機関の調達方式は、価格の安い方を提示した応札者が受注する「競争入札方式」が原則である。しかし、専門性を要する調査業務や高度な技術力が必要な業務、デザイン性や創造性、企画力が要求される業務などの場合は、価格で競争する「競争入札」では、期待した結果が得られない場合が生じる懸念が大きい。
また、発注者側の立場から見ると、「発注者が最適の仕様を設定できない」や「仕様の前提となる条件の確定が困難な場合」が、巨大な建設工事の場合は発生する場合が多い。
発注者側の都合で、工期がタイトで、しかも完工時期を厳しく守る必要がある建築物の工事も対象となるだろう。

 これに対し、発注者が、過去の業務実績などで“随意”で業務委託先を決める「随意契約」は、発注者としては“安心感”があるが、公平性の観点や、競争原理が働かないことで価格が“高止まり”になるなど問題も多い。建築設計の場合は、「コンペ方式」で、業務委託先を選定する場合もあるが、受注できるかどうか不確実な中で、詳細な設計まで行う必要があり、応募者の負担が大きいという課題もある。また「コンペ方式」を採用すると“時間”がかかるという欠点があり、他の調達方式に比べて長期間が必要となる。設計業務の場合、コンペ方式が「設計書」を選定するのに対し、プロポーザル方式は「設計者」を選定するという違いもある。

 発注者は調達案件のために、どのような条件等を備えた者に業務を依頼したいかを定めた“公募条件”を公示する。公示する内容は、委託業務内容、応募者の資格、参加表明書・技術提案書の書式と作成要領、審査委員会のメンバーと審査基準などである。
 そして応募者に対し、書類審査を行い概ね5者程度に絞り込む。
評価するポイントは、応募者の業務実績・技術者数等により組織全体の技術力や技術者の技術力を資格・経験年数・設計実績などである。
 次に書類審査をパスした者に“技術提案書”の提出を求める。
調達案件に最も適した事業者を選ぶのが目的なので、類似の業務実績や実施チームの体制、そして業務に対する熱意や発想の豊かさを持っているかなどを記載した提案書を求める。
 業務実施者の経歴・実績、実施チームの構成、工程計画や業務に取組む基本方針・課題に対する考え方等である。
 “技術提案書”を提出したものに、第2次審査として、審査委員会は、業務請負者としての取組意欲・技術力・創造性などをヒアリングし、技術提案書の補足説明や質疑応答を通じて、“技術提案書”の的確性・実現性を評価する。
各種の項目で採点して、総合点の最も高い応募者が選定され、「優先交渉権事業者」となる。
選定後は、提案書選定の時点ですでに“競争”が終了しているとの考え方から、「随意契約」に移行する。焦点の発注価格については、相対で“見積合わせ”を行い、発注者の予定価格の範囲に収まり合意に至れば、契約を締結し“業務発注”となる。予定価格に収まらない場合は、「不調」となり、2番目の評価を得た応募者を交渉相手とする。
 「公募型プロポーザル方式」は、価格については“随意契約”による調達方式なのである。



新国立競技場新営工事(スタンド工区) 評価点集計表 日本スポーツ振興センター(JSC)

新国立競技場新営工事(屋根工区) 評価点集計表 日本スポーツ振興センター(JSC)

公募型プロポーザル方式にする理由
 国土交通省では、競争入札の調達方式にしない理由を下記の様に説明している。

★ 質の高い建築設計の実現を目指して-プロポーザル方式-
国土交通省大臣官房官庁営繕部

質の高い建築設計を実現するために
 設計者の選定にあたっては、物品購入などと同じような設計料の多寡だけでは判断できません。物品購入のように、購入するものの内容や質が、あらかじめ具体的に特定され、誰が行っても結果の同一性が保証されている場合には、競争入札によって調達することが適切であることは言うまでもありません。
 しかし、建築の設計は、設計の内容や設計の結果があらかじめ目に見える形になっているわけではなく、設計者によってその結果に差が生じるものです。したがって、設計料が安いからといっても、設計成果物が悪ければ、発注者の要求する性能・品質の建築物を得られないといった結果になりかねません。
 そこで、「官公庁施設は国民共有の資産として質の高さが求められることから、その設計業務を委託しようとする場合には、設計料の多寡による選定方式によってのみ設計者を選定するのではなく、設計者の創造性、技術力、経験等を適正に審査の上、その設計業務の内容に最も適した設計者を選定することが極めて重要」になります。


「フレームワーク設計」の実施 「基本設計」へ
 「ザハ・ハディド氏のデザイン案を基にコストや規模などの「基本設計」の条件を整理するための「フレームワーク設計」を行うこととして、“公募型プロポーザル方式”で選定手続きを開始し、2013年5月15日に、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体に決定した。
新国立競技場の整備に係る、▽スタジアム本体▽屋外環境▽造成計画・人工地盤▽既存施設(現国立競技場、JSC本部、日本青年館本館など)の取り壊し―などについて、設計条件の整理やコスト縮減の検討するものである。
 JSCはフレームワーク設計実施の目的について、ザハ作品のデザインを保ちながら「規模、コスト、都市計画条件の面から施設計画を最適化するものだ」としている。フレームワーク設計実施は、ザハ・ハディド氏の監修の下に行われるもので、JSCは別途、Zaha Hdid Architecsと「デザイン監修契約」を結んでいる。
2013年5月31日、JSCは、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体と、2億9925万円で契約をした。その後、「とりこわし工事完了時の地盤面状態や下作物解体範囲等が基本設計に影響することから、とりこわし実施設計」業務を追加したとして、9月30日、約1億円増額し、3億9175万5千円に契約を変更した。業務完了は12月31日である。
 この作業で、「基本設計」の要件が決めた上で、次の「基本設計」作業に移行する。
新国立競技場の建設工事は、「フレームワーク設計」の開始で新たな段階を迎えた。国際デザイン・コンクールでは、総工費の大枠を「1300億円」とした上で実施した「デザイン」のコンクールであり、主として「デザイン」の優劣を競うもので、詳細な設計は求めていない。だから応募されたデザインは「作品」と呼ばれているのである。
 ザハ・ハディド氏の「作品」は、基本的に建築物の「デザイン」、この「デザイン」を建築物として“具体化・実現化”するのが「フレームワーク設計」や「基本設計」である。「基本設計」で、具体的な仕様や工法、工期などが確定され、経費を具体的に積算し焦点の総工費が確定されるのである。

「新国立競技場設計条件」JSC策定 
 2013年11月26日、JSCは「フレームワーク設計」のまとめとして「新国立競技場設計条件」を公表した。
 「フレームワーク設計」では、ザハ・ハディド氏の監修を下に、ラグビーワールドカップに加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックオリンピック・パラリンピックも想定して、各分野の代表で構成されたワーキング・グループから出された要望をすべて取り入れた試算を行った。
その結果した工事費が予算を大幅に超えていたため、ザハ・ハディド氏のデザイン案を生かしつつ、規模やコストを縮小して基本設計条件をとりまとめた。
 スタジアムの延べ床面積は原案の約29万平方メートルから約7万平方メートル縮小し約22万平方メートルとするが、観客席はピッチサイドにせり出す可動席も含め8万人収容の規模は維持する。またイベントでの利用も可能にする遮音装置のついた開閉式の屋根、観客席の快適性を高める空調設備、照明設備、映像音響設備などを設置する。さらに 「世界水準のホスピタリティ施設」とするVIP専用席、プレアム席やラウンジやレストラン、スポーツジムやイベントエリアなどの商業施設が整備される。
 総工費については、「1413億円」(本体工事)と周辺工事「372億円」、現競技場の解体費67億円とした。合計すると「1852億円」である。
 周辺工事「372億円」の内訳は、「サブトラック連絡通路」が「30億円」、「人工地盤等」が「266億円」、「都営大江戸線との接続」が「11億円」、「立体都市公園」が「39億円」、「上下水道幹線移設」が「26億円」としている。
 これに対し東京都の猪瀬直樹知事は記者会見で、総工費のうち本体工事費は「国で負担すべき」とした上で、本体以外の工事費は「都民の利便性につながるものについては都の負担を検討する必要がある」として、第三者機関によるチェックや国との実務者協議を進める方針を示した。
 この「新国立競技場設計条件」を元に、次の段階の「基本設計」の作業に入る。 
「基本設計」は引き続き、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が担当することになっている。2014年1月10日、JSCは、4社の共同体と約6億円の「基本設計料」で契約した。業務終了は5月30日である。

縮小「基本設計案」 景観配慮、5メートル低く 1625億円を維持


(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

 2014年5月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)の将来構想有識者会議(委員長=佐藤禎一元文部事務次官)が開かれ、最大8万人収容の新競技場の「基本設計案」が承認された。
「基本設計」は、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が行っていたもので、JSCは約6億円の「基本設計料」で契約していた。
周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小するとした。19年9月開幕のラグビー・ワールドカップ日本大会に向け、2019年3月の完成を目指すとしている。
 基本設計案によると、敷地面積は当初計画通り約11万3千平方メートル、延べ床面積は約21万1千平方メートルで、外観は、ザハ・ハディド氏の流線形の案を元にデザインされ、地上6階地下2階。総工費は1625億円(2013年7月の単価、消費税5%で試算)とした。
1万5千席の観客席は可動式にしてピッチサイドまでせり出す方式を採用。芝生の状態を保つため、地中に温度を制御する装置を入れるなど、最新技術を駆使する。
屋根は、客席の上部は常設とし、グラウンド上部には可動式とし、周辺に配慮して吸音性を重視した膜を使用し、遮音性を高める。建築基準法上は「遮音装置」だとされている。
また空調設備、照明設備なども設置される。
年間維持費については、現在の競技場では5億~7億円程度の経費が、46億円に膨れるが、JSCは、コンサートなどの多目的利用で「年間50億円を超す収入が見込める」と試算する。
「1625億円」とした総工費は、「2013年7月の単価、消費税5%」での試算であり、「消費税の増税分で工事費はまだ上がるだろう」としている。また高騰する資材費や人件費で、さらに総工費は膨らむのは必至である。
 また「1625億円」は、競技場本体に約「1388億円」、公園や連絡通路などに約「237億円」と記されている。「1625億円」には、「237億円」の周辺整備も含まれていることを忘れてはならない。競技場本体だけでは約「1388億円」なのだ。
 さらに焦点の「1625億円」の誰が負担をするのか、一切、明らかにされなかった。
 新国立競技場の「基本設計」終了し、着工するための詳細設計、「実施設計」に移行する。「実施設計」も、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が担当する。2014年8月20日、約26億4700万円で契約した。
 業務完了は、2015年9月30日、10月1日は着工である。


新国立競技場 施工予定者は大成建設と竹中工務店
 12月、日本スポーツ振興センター(JSC)は、施工予定者の大成建設、竹中工務店と「技術協力」業務に関する契約をそれぞれ結んだ。「スタンド工区」を受注予定の大成建設とは12月5日に1億2400万円で、「屋根工区」を受注予定の竹中工務店とは12月8日に1億2500万円で契約を締結し、設計会社が進めている「実施設計」への「技術協力」が始まった。履行期限は3月31日までとし、それ以降の業務は15年度に新たに契約を結び直す予定だ。
 「技術協力」業務では、施工者の立場から、
▽設計全般に対する技術検証・技術提案
▽施工計画の検討・提案
▽スケジュール管理支援・工事工程の検討・提案
▽概算工事費の算出
▽コスト管理支援▽予定専門工事会社の選定▽専門工事会社のパッケージング-
などを行うことになった。
今後、日本スポーツ振興センター(JSC)は、ゼネコン2社と、契約締結に向け、工法、工期、仕様などの協議を行い、2015年6月頃までに、それぞれ「積算見積書」を作成し、総工費の「見積もり合わせ」する。「見積もり合わせ」は建築と設備工事を一括とし、ゼネコン2社の「見積もり額」が「予定価格」以下であれば7月までには契約し、10月には着工したいとしている。

 こうして新国立競技場の建設工事は、ザハ・ハディド・アーキテクツがデザイン監修し、日建設計・梓設計・日本設計・アラップジャパンの4社の共同体(JV)で「実施設計」を担当。また発注者支援業務として山下設計・山下ピー・エム・コンサルタンツ・建設技術研究所の共同体(JV)、「実施設計」への「技術支援」を大成建設と竹中工務店が担当する体制となった。

 ザハ・ハディド氏の“斬新”なデザインの構築物を建設するには、極めて高度な技術力が必要なため、日本スポーツ振興センター(JSC)は、設計会社が行う「実施設計」の段階から、「技術協力」という形で、施工業者を参加させる「公募型プロポーザル方式」を採用した。豊富な施工実績と技術力のある大手ゼネコンと“協力”することで「入札不調」などの不測の事態を避け、確実に工事を進めることを目指したとしている。
しかし難点は、一般競争入札と違って価格での競争がなく、総工費については“随意契約”方式の相対交渉となる。 基本的にゼネコン2社の「見積もり額」が日本スポーツ振興センター(JSC)の「予定価格」以下であれば正式契約して、着工に進む。しかし問題は、この「見積もり合わせ」は双方の相対の協議で行われるので、総工費は高めになることだ。価格が2倍から3倍になる懸念もあると言われている。
これからは、建築事務所が行う「基本設計」から、建設工事会社(ゼネコン)の「技術協力」が加わる「実施設計」の段階に移行する。
 以後、新国立競技場建設を巡る、“主導権”は、設計会社から、大成建設と竹中工務店のゼネコン2社に握られることになる。とりわけ、工法や工期、総工費などは“豊富”な“業務経験”と“技術力”を備える2社の主張通りに策定されていったと思える。 
建設設計会社も口をはさむ余地がなかったのであろう。残念ながら、日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省にゼネコン2社に反論しチェックする“能力”があったとは、到底思えない。


ゼネコンの見積もりは3088億円 工期50か月
 新国立競技場のスタンド工区は大成建設、屋根工区は竹中工務店が担当することが決まっているが、2社は施工業者として、「実施設計」に加わり、建設費の積算を施工業者としての立場で行い、焦点の「キール・アーチ」の工費負担増や建設資材の値上がりや労務費の上昇や、消費税率の引き上げで、「3000億円超」とする見積もりをJSCに提出していたことが、2015年6月始めに明らかになった。また工期も「50か月程度」と、2019年3月の完成予定も8か月程度延びるとして、ラグビー・ワールドカップに間に合わない恐れも浮上し、関係者に衝撃が走った。

 2015年8月19日、第三者委員会に提出された資料によると、ゼネコン2社は今年1~2月に、「3088億円」の報告していたという。日本スポーツ振興センター(JSCと設計会社は、独自に、資材高騰分や消費税率の引き上げ分を上乗せし「2112億円」の試算まとめていた。 その差は、なんと約「900億円」、スタジアムがもう一つ建設可能な巨額なものである。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、2015年2月13日に、文科省に2つの見積もりを提出し、「(金額の)乖離を収めることは困難と想定される」と報告していたことが明らかになった。

 JSCは、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体に、「フレームワーク設計」、「基本設計」、「実施設計」業務を発注している。
 「基本設計」時の見積もり額「1625億円」は、日建設計など4社の共同体が積算した額である。日建設計は、設計会社としては、“超一流”で、文科省やJSCとは違って、建築設計の専門家を抱えているいわばプロの集団である。 4社の共同体が、主として建築資材費の高騰、消費税率の上昇分は織り込んで積算した「2100億円程度」は、根拠の無い数字ではなく、建築の専門家が積算した数字である。これに対し、施工を担当するゼネコン2社は「3000億超」の見積もりを出してきた。「900億円」という巨額の差は、一体、何が原因なのであろうか。 焦点の「キールアーチ」の工費を巡って、設計会社とゼネコンと見解に違いが生じたとのだろうか? スタジアム本体工事はどうなっていたのだろうか? 一体、どこの部分の積算に違いが出たのだろうかまったく明らかになっていない。

 こうした中で、2015年5月、「基本設計」の概算工事費は、日建設計など4社の共同体が「約3000億円」と提示したのに対し、「1625億円」は、過少に見積もって公表していたという疑惑が伝えられている。、日本スポーツ振興センター(JSC)は資材の調達法や実際には調達できないような資材単価を用いるなど単価を操作するなどして1625億円と概算していたという。日本スポーツ振興センター(JSC)は「国家プロジェクトだから予算は後で何とかなる」と取り合わなかったという。
 文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)では、総工費「1625億円」とすることですでに合意しており、JSCはこの「上限」に合わせた可能性がある。ある文科省幹部は「文科省の担当者が上限内で収まるよう指示したのではないか」と指摘しているという。(出典 毎日新聞 2015年8月7日)

 繰り返すが、施工業者のゼネコン2社は、「公募型プロポーザル」方式で選定され、総工費は、発注側との協議で決まるのである。価格競争のない「随意契約」なのである。競争原理は一切働かない。協議がまとまらなければ“不調”として、“入札やり直し”とするのが適切である。
 ゼネコン2社の「3000億超」という見積もりが、本当に適正な額なのかどうか、誰がチェックしたのであろうか? ゼネコン2社の“言い値”を“鵜のみ”にしていなかっただろうか? 設計会社から、施工業者へ移行していく中で、 「1625億円」から倍近くの額に膨れ上がっていくプロセスに深い疑念を持つ。
 仮に、ゼネコン2社の「3000億円」が妥当だとすれば、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「フレームワーク設計」、「基本設計」、「実施設計」はなんだったのだろうか? 日本スポーツ振興センター(JSC)は4社の共同体に、約36億4600万円すでに支払っている。杜撰な設計作業の責任は問われて当然だろう。
 一方、2015年5月、「基本設計」の概算工事費、「1625億円」は、過少に見積もって公表していたという疑惑が伝えられている。設計会社JVが「約3000億円」と提示したのに対し、日本スポーツ振興センター(JSC)は資材の調達法や実際には調達できないような資材単価を用いるなど単価を操作するなどして1625億円と概算していたという。日本スポーツ振興センター(JSC)は「国家プロジェクトだから予算は後で何とかなる」と取り合わなかったという。
 文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)では、総工費「1625億円」とすることですでに合意しており、JSCはこの「上限」に合わせた可能性がある。ある文科省幹部は「文科省の担当者が上限内で収まるよう指示したのではないか」と指摘しているという。(出典 毎日新聞 2015年8月7日)

 第三者の専門家が、当事者だけの言い分を“鵜呑み”にせず、しっかり検証して真相を解明する必要があるのではないか。

 文科省などは、「3000億超」をようやく深刻に受け止め始め、コスト削減に大慌てで乗り出し、JSCに建設計画の再検討を指示した。JSCは、密かに、具体策の検討に着手し、3月下旬にはゼネコン側からラグビーW杯に間に合うよう開閉式屋根や可動席などを五輪終了後に後回しにする提案を受け、検討作業を経た上で、その案を文科省に報告した。4月には、日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長が正式に下村博文文科相に報告し、建設計画を見直し、総工費は「3000億超」を更に圧縮することした。


新国立競技場建設費 2520億円承認
  2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」を開き、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが承認された。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
 有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日、大阪で所用があったとして欠席した。
 JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。差引で約「900億円」増額としたのである。
 しかし2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
 ザハ・ハディド案は基本的に「建築デザイン」が中心で、総工費について詳細に積算した上での算出はしていない。
 しかし、その後、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が「フレームワーク設計」を行い、その上で「基本設計」も終えている。「基本設計」の段階では、工法、工期など仕様がほぼ固まっており、各費目の積算をした上で、総工費の想定額が算出される。4社の共同体には、こうした設計業務で、約10億円も支払っている。その上で、「1625億円」の総工費の想定額が算出されているのである。
 「基本設計」終了後の総工費想定額は、精度の高い数字で、通常、最終的な契約額とのズレは、10%程度といわれている。
 但し、「1625億円」は、「2013年7月の単価」で「消費税5%」で試算しており、その後の資材費や人件費の値上がりや「消費税8%」分は、上乗せになるのは理解できる。しかし、総工費が総額で約1000億円も膨れ上がるのは理解できない。
 「10億円」費やした日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「基本設計」が杜撰だったのか?
 それとも大成建設と竹中工務店がさまざまな条件を考慮して、極力“高め”の総工費を設定したのか? 
 今回の新国立競技場の工事発注が、競争入札ではなく、「公募型プロポーザル方式」と呼ばれる事実上の“随意契約”で行われていることが、「1000億」の原因なのでなかろうか? 
 価格競争が行われないと、発注価格は“高止まり”になるのは常識である。
 新国立競技場の建設計画を“白紙撤回”して“仕切り直す”なら、基本設計から「1000億」も、なぜ膨れ上がったのか、本当に妥当な額なのか、しっかり検証しなければならない。

 また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
 このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。



(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

「2520億円」の内訳と疑問
 猪瀬前東京都知事は、日本テレビのうえいくアッププラス(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区とスタンド工区に分けてそれぞれ詳細を明らかにしている。
▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事                  44.3億円
          鉄骨工事                427.8億円
          防水工事                 5.7億円
          電気設備                 30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事                   86.1億円
          鉄筋工事                  42.3億円
          鉄骨工事                 208.7億円
          木工事                   22.1億円
          金属工事                 104.7億円
          電気設備                 135.3億円
          空調工事                 100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

 総工費「2520億円」は、当初案を大幅に縮小・削減した建設計画で算出した額である。それでも当初の目論見の「1300億円」のほぼ倍に膨れ上げっている。その原因について、長さ約370メートル、重さ約3万トンとされる2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」だと強調されてきた。しかし「キールアーチ」の工事費は、約「428億円」である。さらに問題はスタンド工区の工事価格である。スタンド工区は特に技術的に難しい工事だとは言われていない。スタンド工区だけで「1570億円」を計上している。建築資材費や人件費の値上がりや、旧国立競技場の取り壊し工事が5か月遅れたことによる「突貫工事」になったことや、消費税8%は承知している。しかし、「基本計画」策定時の総工費概算「1625億円」の際の積算と具体的にどこが変わったのだろうか? 果たしてゼネコン2社は適正に積算がなされたのであろうか? 発注者である日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省はしっかりチェックしたのだろうか?疑問は晴れない。


問われる発注者・日本スポーツ振興センター(JSC)の管理能力
 猪瀬前東京都知事は、MXTVのインタビューに答えて、「スタンドはキールアーチとは関係ない。そこで何で北京やロンドンの3倍もかかっているのかどう考えてもおかしい。随意契約で第3者の検証がなく高い価格になっている。高い価格の構造を、デザインがちょっと変わっていると問題をすり替えているのはおかしい。」と述べた。
 またデザインについてはIOCに屋根が評価されたとしている。
「屋根はこれまではオリンピックの施設についていなかった。スタジアムに。それが新しかった。屋根を付けなければ意味がない」と語った。
(出典 新国立競技場問題 猪瀬前知事「どう考えてもおかしい」 2015年7月9日 MXTV)
 “随意契約”の価格が“高止まり”になることに懸念を表明し、第三者委員会よる精査の必要性を述べている。

 大規模なプロジェクトやデザイン性等が重視される建築物、さらに高度な技術が求められる建築物などは、公募型プロポーザル方式で進めないと、“確実性”や“安定性”が担保できないという点は理解できる。
 しかし、問題は、公募型プロポーザル方式で調達をすると、「設計」、「仕様」、「施工」がすべて“随意契約”ベースで進められる点である。
 問題は「価格」を競う「価格競争入札」、あるいは「企画」と「価格」を競う「総合評価落札方式」と比較すると、経費が“高止まり”になることである。
 巨大プロジェクトの場合、経費見積もりは膨大になる。それを精査する側には高度な知識を備えた“熟練者”が必要だ。建設経費に見積もりは、鉄骨、コンクリート、部材など、どんな材質の素材を仕様するのか、総量は何トンなのか、その単価はいくらなのか、建設機械は何を使用して、何日仕様するのか、工事担当者の延べ日数は何日で単価はいくらなのか、総工費を積算するには膨大な項目の経費を積み上げなければならない。

 発注者側に、経費見積もりを精査できる“プロフェッショナル”の人材や「企画」・「設計」を吟味できる人材、さらに工事の施工・管理をチェックできる人材が必須となる。
 新国立競技場の建設の発注者は、日本スポーツ振興センター(JSC)である。
そしてJSCを“指導”・“監督”するのは文部科学省。
これまでの経緯を見ると、JSCと文科省に、新国立競技場建設という巨大プロジェクトを管理する“能力”に疑念が生じている。


新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」 “迷走”第二幕へ
 安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの“シンボル”である新国立競技場の迷走は収まらない。





巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?



新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに




「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか





国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2015年7月10日
Copyright (C) 2015 IMSSR



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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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新国立競技場 建設費削減 1550億円 見直し 迷走

2015年08月29日 10時40分12秒 | 新国立競技場

“疑問”が残る新国立競技場建設計画 建設費「1550億円」 “混迷”はまだ続く?




新国立競技場の総工費「1550億円」決定
  政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。

▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。

 政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、ロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、1000億円超ではまだ破格に高額で、国民の批判が収まるかどうか不透明である。
 また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”工事が発生したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか?不安材料は、依然として残る。


新国立競技場新建設計画 再出発への“疑問”

▽ 総工費圧縮「約1000億円」の“明細”を明らかに!
 「2520億円」から「約1000億円」削減して、「1550億円」に圧縮した“努力”は評価したいと思う。
 しかし、具体的にどんな経費を圧縮したのか、明らかにならないと納得できないのではないか。
2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議で決定した「2520億円」と一体、どこが違うのだろうか? 「2520億円」の試算は、日本スポーツ振興センター(JSC)と設計会社JV、施工予定者の大手ゼネコンが積算している。
 施設の総面積を旧計画の22万4500平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小したので総工費は削減可能だろう。
 可動式の屋根は、設置しないので「キールアーチ」は不要になるだろう。
屋根の経費は「950億円」から75%削減し「238億円」と算出している。観客席の上部の屋根は「幕」製にするとしている。
 観客席は、前の計画では、「6万5千席」が恒久設備で、「1万5千席」を仮設としていたが、今回の計画では「6万8千席」(恒久設備)として、余り大差はない。
 冷暖房設備は削減したり、スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小することは明らかにされている。
 その他の機能や設備で、何が“残った”のか、何が削減ないし縮小されたのか、詳細に公表すべきであろう。但し、 今は「公募」前なので、積算価格は公表するのは適切ではないだろう。
 筆者の疑問は、7月に公表された「2520億円」の概算見積もりをどこまで信用できるのかという点である。工事費の積算が適正にされていたのだろうか?
また、「2520億円」は“粉飾”された総工費で、実は“未公表”の経費が「131億円」あり、実は「2651億円」だったということを今回、突然明らかにした。「131億円」の内訳は芝生の育成施設(16億円)、最寄り駅との間を結ぶ連絡通路(37億円)など計81億円。さらに大会組織委員会の新規要望である電源の複線化などに費やす50億円などとしている。唖然である。
 更に、「1550億円」には、設計・管理費、「40億円以下」は別枠として、入っていない。“五輪便乗”と批判が出ている日本スポーツ振興センター(JSC)本部、日本青年館の移転経費、「152億円」も入っていないし、すでに工事が進んでいる旧国立競技場の解体費も別枠で予算措置を講じている。
新国立競技場の建設経費を巡っては、余りに“杜撰”な“予算管理”である。
 一体、本当のところ、総額はいくらになっているのだろうか?
 この疑問が解消されない限り、「1550億円」にも疑念が残るだろう。


▽ 完成時期「2020年春」では無理?
 完成時期を、IOCは「2020年1月」に早めるように強く要請しているが、どうするのか? 新国立競技場は、メインスタジアムとして、開会式と閉会式を開催するのが最大の“使命”である。「3ヶ月」で、開会式の準備をするのは「無理」とされている。ロンドン五輪、北京五輪、ソチ冬季五輪、開会式は、開催国が威信をかけて華麗な演出を競う。
 それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底、不可能だと思う。 ロンドンオリンピックでは開会式のリハーサルに200日に及んだという。「2020年春完成」で本当に開会式の準備に間に合うタイムスケジュールが組めるのか? 大会運営者はどのように考えているのだろうか?
「テストマッチ」の開催も必須である。招致ファイルでは、陸上競技は「2020年2月、4月」、サッカーは「2019年11月、12月」としている。仮に新国立競技場完成後の「3ヶ月」に詰め込むことは可能なのか。さらに競技場のさまざま機能のチェックやセキュリティ対策やVIP対応、観客の動線、選手や大会役員の管理、さらに競技場の運営スタッフのトレーニングなども含めると、「3ヶ月」の準備期間では、極めて厳しいと思われる。 
最近のオリンピックでは、開会式や競技の中継放送を成功させることが大会成功のカギを握っているとされている。世界各国の視聴者にオリンピックのプレゼンスをアピールするとともに“放送権料”の確保は、IOCにとって極めて重要な難題なテーマである。映像・音声の生中継のシステム構築を行い、本番に向けて周到な準備作業やリハーサルを行うために、長期の準備期間が必要である。「3ヶ月」では不可能だろう。
「開会式」のリハーサル期間の十分な確保はほぼ絶望的だ。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの“看板”は“おもてなし”だったのではないか? “おもてなし”には十分な“準備”が必要だ。
 日本スポーツ振興センター(JSC)が設けた技術提案等審査委員会は、設計・施工業者選定にあたっての審査基準などを決めたが、国際オリンピック委員会(IOC)が20年1月までの完成を求めていることを踏まえ、「工期を短縮した場合に評価が高くなる項目を基準に盛り込んだ」と見られている。(毎日新聞 8月27日)
 完成時期も含めて競争に委ねるという“曖昧”な建設計画に大きな懸念が残された。依然として、新国立競技場の建設を巡っては“混迷”が続く。

▽ 「周辺整備費237億円」はどこへいった? 「周辺整備費237億円」の内訳は、「明治公園整備」33億円、「周辺人工地盤」143億円、「歩行者ブリッジ外苑西」22億円、「歩行者ブリッジ新宿道」19億円、「水道等インフラ移設」15億円、「サブトラック連絡通路」4億円、「明治公園撤去」1億円とされている。 総工費「2520億円」が決められた際には、明らかにされてなかったが、含まれていなかった可能性が強い。
 「周辺人工地盤」については、新国立競技場の建設用地が、高低差7~8メートルの斜面になっており、この敷地をフラットにして競技場や公園を建設するために必要な基盤整備である。また最寄りの駅からのアクセスを確保する「歩行者ブリッジ」、立体公園化する「明治公園整備」など、“バリアフリー”を確保するために基盤整備として必須の工事である。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのキーワードの一つは“バリアフリー”、パラリンピック開催をきっかけに、車いすなどでも容易に移動可能な障害者や高齢者に“やさしい”街づくりに大都会東京が大きく踏み出すとしていたのではないか。
 今回の「1550億円」には、「周辺整備237億円」は、どのように処理しているのだろうか? “曖昧”にする問題でない


▽ 観客席の“冷房システム”は必須!
 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”をどうするのか? 経費節約の対象となる設備ではなく、優先順位の高い設備だろう。“酷暑”対策の“ホスピタリティ”は、“冷房システム”だ。
 「開会式」やサッカーなどは、夜間に開催するから不要というのは余りにも“ホスピタリティ”重視の姿勢を欠いて言わざるを得ない。
 安倍首相は「冷却効果が少ないなら、別な形にしてもいい。『かち割り氷』もある」と発言したとされているが、「世界で最高のホスピタリティ」を目指すという理念はどこへ行ったのか?
 新国立競技場は50年後、100年後を見据えた「レガシー」(未来への遺産)を目指したのでないか?


▽ 天然芝は維持管理システムが重要!
 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
 天然芝の大敵、夏場の高温多湿から芝生を保護するためや、ピッチ上部の可動式“屋根”は設置しなくても観客席の屋根は設置するので日照時間は制約されるので、“芝生育成補助システム”は、必須である。荒れた芝生のピッチは、“スポーツの聖地”に相応しくない。
 「1550億円」の建設計画では、十分な“芝生育成補助システム”が含まれているのだろうか?


▽ “ホスピタリティ施設”の削減はどうなっているのか?
 建設経費増の原因となっている広大なエリアを占める「世界水準のホスピタリティ施設」を謳っているVIP専用席、プレアム席やラウンジやレストランはどうなっているか。観客席の“冷房システム”の方がはるかに重要だろう。

▽ 五輪開催後、新国立競技場を何に使用するのか?
 五輪開催後、新国立競技場は主としてどんな競技を開催する目論見なのか?
ポイントは、陸上競技場として残すかである。五輪開催後も陸上競技場として機能させて成算があるとのだろうか? 横浜市の「日産スタジアム」、調布市の「味の素スタジアム」、また駒沢オリンピック総合運動場で陸上競技の開催は十分可能だろう。
集客力のあるサッカーを中心にラグビーなどの球技場専用を目指すのが現実的だろう。球技専用にするなら、観客サービスを充実させるために、陸上競技用の9レーンのトラックは取り払い、“ピッチサイド席”の設置するのが適当だろう。 サッカーやラグビーには、9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。


▽ 陸上競技場に必須のサブトラック!
五輪開催時は、「仮設」で対応するとしているが、五輪開催後はどうするのか? 新国立競技場を陸上競技場として、国際競技会や公式競技会の開催を目指すなら、サブトラック問題は避けて通れない。
 五輪開催後のサブトラックの設置のメドが立たなければ、9レーンの国際標準のトラックなど陸上競技場としての設備は“無用の長物”となる。

▽ 新国立競技場は五輪終了後の“改築”を前提にして整備計画策定を!
 「8万人」規模のスタジアムの維持は、五輪開催後は“絶望的”だろう。観客席の縮小や競技場の設備の再整理など“改築”を前提にして、整備計画を策定する必要がある。そのためには、五輪開催後、数十年に渡って、新国立競技場をどう維持していくのか、デッサンを描かなればならない。
「1550億円」の建設計画で、新国立競技場の“五輪後”の姿は明確に視野に入れているのだろうか?

▽ 五輪終了後の収支計画はどうなっているのか?
「2520億円」の建設計画を決めた際に、日本スポーツ振興センター(JSC)では、可動式屋根設置後という“条件付き”で、年間で、収入40億8100万円、支出40億4300万円、3800万円の黒字という収支見込みを公表している。
「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、収支見込みはどうなっているのか、まだ不明である。この建設計画を評価するにあたっては、五輪後の収支見通しを示すのが必須であろう。
それとも新国立競技場の運営は「民間に委託」としているので、政府としては、収支のメドはコメントしないのか? 日本スポーツ振興センター(JSC)はどうするのか?

▽ 無駄”になった約60億円をどう処理する?
“白紙撤回”されたことで、日本スポーツ振興センター(JSC)が契約し、発注しているZaha Hdid Architecsや設計会社、工事を請け負うゼネコンへの支払い約62億円の大半が戻らないとされている。
“無駄”になった約62億円は、だれが負担するのか? その責任は誰がとるのか?



(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

★ 最新記事 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか


新国立競技場“迷走” 第三者検証員会設置へ
2015年7月24日、下村文部科学大臣は、新しい国立競技場の整備計画の見直しに至った経緯を検証するため、建築関係者やアスリートなどを委員とする第三者委員会を設置し、9月中旬にも中間報告を取りまとめたいとした。
 「もともとのデザインを選んだ時期から今日に至るまでをきちんと検証し、どこに問題があったのか、どのようなスキームの中で、どういう責任が問われるのかということについて、お手盛りではなく、第三者による検証を委員会にお願いしたい」と述べた。
 2015年8月7日、第三者による検証委員会の初会合が開かれ、提出された資料からは、2013年7月、総工費は「3535億円」に上るとの試算が日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体から日本スポーツ振興センター(JSC)に示されていたことが明らかになった。4社の共同体は、5月に新国立競技場の設計業務を行う事業者に入札によって選定され、「基本設計」のフレームを決める「フレームワーク設計」を開始していた。
2020年五輪・パラリンピックの東京開催を決めた2013年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会の2ヵ月前である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、当時は、「国際デザイン・コンクール」を行う際に定めた「1300億円」としていた。日本スポーツ振興センター(JSC)では、この報告を受けた文科省から、大幅なコスト削減の指示を受け、同8月に延べ床面積を減らすなど複数のコンパクト案を報告していた。
 この情報は、安倍首相や下村文科相、森喜朗組織委員会会長(現)に伝えられていたのだろうか? それとも文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)の担当者だけに留められたのだろうか? 疑念が生まれる。
 いずれにしても、IOC総会ではザハ・ハディド氏の当初デザインのままで、招致に向けたプレゼンテーションが行われた。
 新国立競技場を巡る“迷走”は、誰がこのプロジェクトを責任を担って進めるのか、まったく曖昧のままにしてきた「無責任体制」が最大の原因である。国際デザイン・コンクールの審査委員会、有識者会議、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、文部科学省、官邸、何が問題だったのか、しっかりと検証して欲しい。前途多難、先行きに“不安”を感じているのは筆者だけだろうか?


新国立競技場建設費 2520億円承認
 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」開き、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが承認さてた。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
会議にはメンバー12人が出席したが、デザイン案を決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏は欠席した。

JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。
 差引で約「900億円」増額としたのである。しかし2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
ザハ・ハディド案は基本的に「建築デザイン」が中心で、総工費について詳細に積算した上での算出はしていない。
しかし、その後、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が「フレームワーク設計」を行い、その上で「基本設計」も終えている。「基本設計」の段階では、工法、工期など仕様がほぼ固まっており、各費目の積算をした上で、総工費の想定額が算出される。4社の共同体には、こうした設計業務で、約10億円も支払っている。その上で、「1625億円」の総工費の想定額が算出されているのである。
「基本設計」終了後の総工費想定額は、精度の高い数字で、通常、最終的な契約額とのズレは、10%程度といわれている。
但し、「1625億円」は、「2013年7月の単価」で「消費税5%」で試算しており、その後の資材費や人件費の値上がりや「消費税8%」分は、上乗せになるのは理解できる。しかし、総工費が総額で約1000億円も膨れ上がるのは理解できない。
「10億円」費やした日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「基本設計」が杜撰だったのか?
それとも大成建設と竹中工務店がさまざまな条件を考慮して、極力“高め”の総工費を設定したのか? 
今回の新国立競技場の工事発注が、競争入札ではなく、「公募型プロポーザル方式」と呼ばれる事実上の“随意契約”で行われていることが、「1000億」の原因なのでなかろうか? 価格競争が行われないと、発注価格は“高止まり”になるのは常識である。
新国立競技場の建設計画を“白紙撤回”して“仕切り直す”なら、基本設計から「1000億」も、なぜ膨れ上がったのか、本当に妥当な額なのか、しっかり検証しなければならない。

 また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
 このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
計画は全会一致で承認され、新国立競技場の工事は、10月に着工し、2019年5月の完成を目指す。



(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

「2520億円」の内訳と疑問
 猪瀬前東京都知事は、日本テレビのうえいくアッププラス(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区とスタンド工区に分けてそれぞれ詳細を明らかにしている。
▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事                  44.3億円
          鉄骨工事                427.8億円
          防水工事                 5.7億円
          電気設備                 30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事                   86.1億円
          鉄筋工事                  42.3億円
          鉄骨工事                 208.7億円
          木工事                   22.1億円
          金属工事                 104.7億円
          電気設備                 135.3億円
          空調工事                 100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

 総工費「2520億円」は、当初案を大幅に縮小・削減した建設計画で算出した額である。それでも当初の目論見の「1300億円」のほぼ倍に膨れ上げっている。その原因について、長さ約370メートル、重さ約3万トンとされる2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」だと強調されてきた。しかし「キールアーチ」の工事費は、約「428億円」である。さらに問題はスタンド工区の工事価格である。スタンド工区は特に技術的に難しい工事だとは言われていない。スタンド工区だけで「1570億円」を計上している。建築資材費や人件費の値上がりや、旧国立競技場の取り壊し工事が5か月遅れたことによる「突貫工事」になったことや、消費税8%は承知している。しかし、「基本計画」策定時の総工費概算「1625億円」の際の積算と具体的にどこが変わったのだろうか? 果たしてゼネコン2社は適正に積算がなされたのであろうか? 発注者である日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省はしっかりチェックしたのだろうか?疑問は晴れない。


有識者会議の委員は?
 安西祐一郎(日本学術振興会理事長)▽安藤忠雄(建築家)▽小倉純二(日本サッカー協会名誉会長)▽佐藤禎一(元文部事務次官)▽鈴木秀典(日本アンチ・ドーピング機構会長)▽竹田恒和(日本オリンピック委員会会長)▽張富士夫(日本体育協会会長)▽都倉俊一(日本音楽著作権協会会長)▽鳥原光憲(日本障がい者スポーツ協会会長)▽馳浩(スポーツ議連事務局長)▽舛添要一(東京都知事)▽森喜朗(東京五輪・パラリンピック組織委員会会長)▽横川浩(日本陸上競技連盟会長)▽笠浩史(東京五輪・パラリンピック推進議連幹事長代理)=敬称略、五十音順

日本のスポーツ界を代表する“そうそう”たるメンバーで構成されている。


最後の議論の場
 2015年7月7日、激しい批判にさらされた新国立競技場の建設計画を巡って、「最後の議論の場」となる“有識者会議”が開催された。
「2520億円」という当初計画の「1300億」の約倍に膨れ上がった建設経費やデザイン案維持への納得のいく説明がされないまま、責任の所在もあいまいなままで進めらてきたこことに世論の批判が殺到していた。JSCが施工業者と契約する7月上旬までに公で行われる「最後の議論の場」にもなるだけに、多くのキーマンが顔をそろえ、JSCの諮問機関の役割を果たす有識者会議がどう意見を集約するかが注目されていた。
JSCはこの会議で、「10月着工」、「2019年」完成で、工事着工に向けた「大きなステップ」(JSC)として、建設計画について了承を得たい考えだった。
“有識者会議”は、文科省の管轄下にある日本スポーツ振興センター(JSC)の理事長の私的諮問機関であり、あくまで“意見を集約”する場で、議決する場ではない。会議の出席者が順番に各人の意見を述べる場だとされている。
しかし、建設計画の了承には、出席委員の過半数の支持が必要になるとされ、仮に支持が過半数に達せず、“承認されず”となれば、建設計画を前に進めるのは事実上不可能だろう。
 なお有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日、大阪で所用があったとして欠席した。


全員一致”の“了承” 
 会議では、日本オリンピック委員会の竹田恒和会長が、五輪招致で安倍晋三首相が「このスタジアムを造る」と発言したことに触れて「国際公約を守るのは重要」と指摘するなど、スポーツ界の重鎮からは計画推進を求める声が相次いだ。
 「膨れる不安にも説明が必要だ」と膨らむ総工費に疑問を投げかけたのは、「東京五輪・パラリンピック推進議員連盟」幹事長代理の笠浩史衆院議員(民主)だけだったという。委員からは逆に、「(ピッチサイドの移動席が)仮設ではサッカーW杯を招致できない」(日本サッカー協会の小倉純二名誉会長)、「屋根がないことで外国人アーティストと長期契約が結べない」(日本音楽著作権協会の都倉俊一会長)との注文が相次いだ。
出席者によれば、「『2520億円』の金額の根拠について、JSCから十分な説明はなかった」とか、「どの時点で計算が違ってきたのか、説明がないのでみんな驚いていた」(週刊文春 7月23日号)としている。
会議を締めくくったのは森喜朗東京五輪組織委員会会長で、「(総工費は)極めて妥当なところ」とし、これを受けて、河野日本スポーツ振興センター理事長が「異議なしで宜しいでしょうか」と述べて(週刊文春 7月23日号)、「2520億円」の「基本計画」は“全員一致”で“承認”され、会議は1時間あまりで終わった。


有識者”の責任
 これだけ批判を浴びている新国立競技場の建設計画が、12人の「有識者」によって前回一致で承認されたのは“唖然”という他ない。「有識者」とは一体何だろうか? 数名は異論を示してもしかるべきだと思うが如何? 更にこのデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長、安藤忠雄氏は今日の会議を欠席している。ザハ・ハディド氏のデザインを選定に自信があり、新国立競技場を建設する意義を評価するなら、胸を張って会議に出席して、自ら主張して欲しかった。それが“一流”の建築家だと筆者は思うが……。

すでに“破たん”している「2520億円」
 「2520億円」の見込み額は“破たん必至”と懸念されている。
 “過少”に見込み額を設定するために、“操作”されていることは明らかである。
  グランド上部の可動式の“屋根”はオリンピック終了後、建設するとしているが、工費は「168億円」かかるとしている。単に先送りしただけで、一体誰が負担するのか、まったく明らかにしていない。
 イベントの収入見込みが年間たった6億円しかないのに、「168億円」をかけて“屋根を建設することに国民は納得するだろうか?
 2020年東京オリンピック・パラリンピックが終わり、“祝祭”の熱気も消えた後に、多額の費用をかけて、“屋根”は建設するのは絶望的かもしれない。
 仮に“屋根”の建設ができなければ、約1000億円かけて建設する巨大な「キール・アーチ」は、まったく“無用の長物”となる。文科省とJSCはどう考えているだろうか?
 サッカーやラグビーなど開催時にピッチにせり出す可動式の観客席、1万5千席は着脱式に変更するとしているが、この経費は含まれていない。一体、いくらかかるのか? 誰が追加で負担するのか?
 陸上競技の大規模な大会開催には、サブトラックの整備も欠かせない。2020年東京オリンピック・パラリンピックは仮設で対応するとしてとしているが、その後、どうするのか。スポーツの“聖地”を目指した新国立競技場は、陸上競技のスタジアムとしては“不完全”なものになるだろう。

 「基本計画」では総工費に含まれていた新国立競技場の「周辺整備費」「237億円」が消えている。
 JSCでは周辺整備について以下の整備を行うとしている
▽人口地盤等(バリアフリー)
▽都営大江戸線との接続 (バリアフリー)
▽サブトラック連絡通路
▽立体公園(バリアフリー)
▽上下水道幹線移設費
 新国立競技場ではパラリンピックも開催されることを忘れてはならない。周辺施設やアクセスをバリアフリーにするのは必須であろう。2014年5月に策定された「基本計画」では、本体工事だけでなく「周辺整備費」あったのではないか?  今回の「2520億円」では、どのように処理されているのか明らかにされていない。
 総工費「2520億円」が承認されてから、約1週間後、早くも、歩行者用デッキ(立体歩道)やインフラ設備の移設費、合わせて約72億円を入れていないことが分かった。(スポーツ報知 2015年7月14日)2014年5月に示した「基本設計」では、駅からのアクセスが多いと想定する歩行者用デッキ(立体歩道)1号、2号の整備費を37億円と水道などのインフラ設備の移設費の35億円と合わせ、計72億円と試算し、当時の総工費「1625億円」には、この72億円が含まれていたという。JSCは「今回示した総工費に72億円は含まれていない」と認め、未記載の理由について「歩行者デッキなどは見直しを図っていくので含めなかった」と回答したという。
 意図的に総工費を削減する“見せかけ”が行われているのではという疑念が生まれる。

 さらに巨大な「キール・アーチ」の建設には、膨大になる鉄骨の重量を支えるために前例のない大規模な基礎工事が極めて重要になる。建設工事を進めていく過程で、工事費の追加が懸念される。
 また、世界で最先端のスタジアムを目指すなら、高精細映像システムや最新の4KLED巨大スクリーンなどの映像設備や光ファイバーなどの通信ネットワークや高速WiFi設備、デジタルサイネージ、音響設備等のインフラが必須だろう。話題のウエアブル端末サービスも必要だ。総務省は2020年には“世界で最高水準”のICT社会を実現すると宣言している。”“箱”だけ作っても、“中身”がなければ世界に誇れるスタジアムにはならいない。「2520億円」にどこまで含まれているのか不透明である。本当は、“箱もの”の議論は終えて、“世界で最高水準”のICTを実現するスタジアムにするために知恵を絞る時期だろう。当然、経費もかかる。
 現状の建設費の目論見から計算しても、「2520億円」に加えて、可動式の屋根の建設費「168億円」や芝育成システム、ガラスカーテンウオール、可動席、それに周辺整備費は必要で、「3000億円」は上回ると見込むのが妥当と思う。“数字合わせ”を無理やり行ったのではないかという懸念を持つ。
 すべてが、「キール・アーチ」のデザインにこだわったために“犠牲”になっているのではないか……?

「五輪便乗」? 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビル 
 2015年8月10日、参議院予算員会で、新国立競技場の建設問題が取り上げられ、民主党の蓮舫元行政刷新相は、“白紙撤回”されたにもかかわらず、現在も進めらている関連工事の総額が約320億円あるとして、政府を追及した。
 この中で、問題視したのが、「JSC本部棟・日本青年館新営設計・工事・管理等」業務である。
 政府内で、密かに“白紙撤回”に向けて検討が進められている最中、6月30日に、この建設工事で「165億円」契約が、文科省とJSCで交わされた。「165億円」の内、「47億円」はJSCが負担するが、その財源は、税金とtotoでまかなうとしている。

 実は、新国立競技場関連経費は、「2520億円」とは別枠で、JSC本部・日本青年館の移転費用等(174億円)や新国立競技場設計監理費用(91億円)、埋蔵文化財調査費(14億円)など「279億円」の経費が必要だとして、2014年1月、文科省と財務省は合意している。
 平成26年度の政府予算で、「2020オリンピック・パラリンピックの東京招致・開催支援等」という項目で、「現在の国立霞ヶ丘競技場(陸上競技場)は、建築後50年以上が経過し、競技場そのものの老朽化が進むとともに、今日開催される大規模な国際競技大会の主会場としての仕様を満たさない状況となっていることから、2019年ラグビーワールドカップ日本開催、2020年オリンピック・パラリンピック東京招致等を視野に入れ、同競技場の改築を目指す。平成26年度においては、新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事等を行う」として、約230億円を計上している。一見すると、「新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事」と誰もが思うのは間違いない。


(平成26年度予算概算要求 財務省)

 実はこの中に、新国立競技場の建設用地内にあるJSC本部と日本青年館の移転費も、「支援等」として“こっそり”入れ込み、「五輪便乗」と問題視されている。
 計画では、現在の日本青年館の南側にある西テニス場の敷地約6800㎡に、地上16階地下2階、延べ床面積約3万2000平方メートルのビル、「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を新築し、JSC本部の事務機能や日本青年館の宿泊施設・ホールなどの機能を集約した施設を整備する。JSCは、この内、4フロア、6000平方メートル、これまでの1・4倍の面積を使用して、本部機能を移転する計画である。
 2015年6月14日、競争入札で、安藤ハザマが落札、落札額は152億5000万円(予定価格は164億9626万円)だった。
 「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」建設は、文科省の新国立競技場整備に関する「予算の上限」をJSCに示した時にすでに「174億円」(内JSC本部関連は28億円)を入れ込んでいる。 膨れ上がる新国立競技場の建設費を“抑制”するために「232億円」は別枠にしたのであろう。
それにしても「152億5000万円」使って。「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を建設する必要があるかどうか、しっかり検証したのだろうか。 神宮外苑に、新たに1240席の大ホール、客室数約220室のホテルを税金を投入して建設する必要があるのだろうか? 
 日本青年館は、全国の青年団活動の拠点にするため、「1人1円」の建設資金募金活動を繰り広げ、 大正14年9月に総工費162万円をかけて地上4階地下1階建ての旧日本青年館が完成した。
昭和54年2月には、青年団募金5億円が集められ、政府、経済界、各界の支援を受けて総工費54億円をかけて地上9階地下3階建ての現在の日本青年館が完成した。そして約30年、首都圏には、ホテルやホールの施設は十分に整っている。“時代”は変わっているのである。「五輪便乗」と批判されてもやむ得ないのではないか?
「東京五輪」を名目にした“便乗・膨張体質”が早くも露呈している。


(新日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟完成予想図 出典 日本青年館ホームページ)



誰が負担するのか 財源不足は「1000億円」超は必至
 「2520億円」の巨額の経費は、一体、誰が負担するのだろうか? 最大の問題である。
 すでに決まっているのは、国が「392億円」、スポーツ振興基金の取り崩し「125億円」、toto(売り上げの5%:2013年と2014年分)で「109億円」、合わせて「626億円」だ。
 これに期待されているのが、東京都「500億円」?、命名権など「200億円」?、toto(売上の10%に引き上げ:5年間)「660億円」で、最大「1388億円」だ。
 すべてこの目論見通り進んでもまだ「530億円」が不足している。
 周辺整備費「237億円」も入れると、現状でも「767億円」の財源が足らない。
 可動式の観客席に代わって着脱式にする1万5千席の設置費や大会終了後、整備するとしている“可動式の屋根”、最新鋭の芝生育成補助システム、東西面ガラスカーテンウォールの設置を加えると現状でも、財源不足は「1000億円」は軽く超えると思われる。一体、財源はいくら必要なのか、まったく不透明のままである。
 誰が負担するのだろうか? 結局、国民や都民の税金が投入されるのだろうか?


大会終了後の新国立競技場の収支は大幅赤字“必死”
 焦点の年間の収支見込みについては、昨年夏の試算では「収入38億円」、「支出35億円」、「3億3000万円」の黒字としていた。今回の収支目論見では、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、「収入40億8100万円」、「支出が40億4300万円」、「3800万円」の黒字と試算した。支出が増えたのは完成後にかかる修繕費も6割増の年10億円となったためだとしている。合わせて収入見込みを約2億円増やし、無理やり、黒字にしたという印象があるが、とになく“不明瞭”である。
 
巨額の後年度負担が次世代に
建設後50年間に必要な大規模改修費を前回より「400億円」増やして、約「1046」億円と見積もった。高層ビルや公共施設など大規模な構築物は、修復・改修を常に積み重ねていかないと快適な環境は保てないのは常識だろう。通常はこうした経費も収支計画に組み込むのも常識だ。
 官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
 「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
 新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
 「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が、今後50年の長期修繕費として見込まれているのである。
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
 JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして、国に財源確保を要請している。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に着実に残すことになる。


新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)第一号か?
 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
 新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。Totoは“スポーツ振興くじ”なのである。仮にtotoを財源に1000億円を新国立競技場の建設に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
 オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催地は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかが重要な課題として問われている。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
 東京大会コンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は実現できるのか?
  新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。





東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
新国立競技場建設費 2520億円破綻
二転三転「維持費と収入」 新国立競技場収支への“疑念
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト




2015年7月8日
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廣谷  徹
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新国立競技場 NHKニュース 疑問 メディア批評

2015年08月28日 21時49分54秒 | 新国立競技場
新国立競技場 NHKニュースへの疑問 ~メディア批評・ウオッチドッグ~

■ 「設計から施工を一貫して発注」と「公募型プロポーザル方式」の意味を理解していない

新国立競技場 きょう整備計画決定へ

今後のスケジュールは

新国立競技場について今後、予定されているスケジュールです。
28日、政府は関係閣僚会議を開いて、新しい国立競技場の性能や工期、総工費の上限などを盛り込んだ整備計画を決定することにしています。
来月上旬には設計から施工を一貫して発注する「公募型プロポーザル方式」で業者の募集が始まり、11月に締め切られる予定です。

(8月28日 5時15分 NHKニュース)

 「設計から施工を一貫して発注する」は「デザインビルト方式」(design to construction system)と呼ばれる「発注方式」である。公共工事においては、設計・施工分離の原則」が明確化され、設計と施工を別々の主体(企業等)で実施することにより、設計のチェック・品質確保・コスト管理を図ることを基本としている。 しかし、近年、公共事業でのコスト削減策として、設計の一部と工事を一体の業務として発注する方式が登場した。受注業者がもつ新技術を生かした設計が可能になり、コストの削減や工期短縮が可能になり、成果物の高精度・高品質が期待できるとしている。
 これに対し、「公募型プロポーザル方式」というのは、調達方式で、一定の資格要件は課した上で幅広く応募者を「公募」して、設計の取組方針等の提案を求め、総合的に評価して設計者を特定する方式だ。設計料の競争入札ではなく、設計者としての適正・能力等を重視して応募者の選定を行う方式である。
 「施工を一貫して発注する『公募型プロポーザル方式』」という表現は適切でない。
 筆者は、新国立競技場の建設費が高騰した要因の一つには、日本スポーツ振興センター(JSC)が採用した「デザインビルド方式」と「公募型プロポーザル方式」にあるという疑念を持っている。新国立競技場の建設工事の調達問題はジャーナリズムはしっかり監視する必要がある



■ 「未公表分」の“怪”
新国立競技場「上限1550億円」など決定

 「焦点となっていた総工費の上限は1550億円として、政府は、計画の見直しを決定する前に公表していた2520億円に未公表分を加えた2651億円と比べて、1100億円余り削減したとしています」

(8月28日 9時05分 NHKニュース)

 「未公表分を加えた2651億円」とは何かを伝えていない。新国立競技場の総工費「2520億円」と日本スポーツ振興センター(JSC)は発表していたのではないか。 今回、突然「未公表分」があったとしているが、説明もされていないし、余りにも不明瞭で、問題である。「1550億円」への不信感がますます生まれる。
 こうした疑問点きちんと取材をして明らかにするのがメディアとしての責務だろう。 メディアは政府から「未公表分」と説明されて、簡単に納得するのは“お粗末”だと思うが……。


 「周辺整備費237億円」はどこへいった? 「1550億円」の内訳が不明

「周辺整備費237億円」の内訳は、「明治公園整備」33億円、「周辺人工地盤」143億円、「歩行者ブリッジ外苑西」22億円、「歩行者ブリッジ新宿道」19億円、「水道等インフラ移設」15億円、「サブトラック連絡通路」4億円、「明治公園撤去」1億円とされている。 総工費「2520億円」が決められた際には、明らかにされてなかったが、含まれていなかった可能性が強い。
 「周辺人工地盤」については、新国立競技場の建設用地が、高低差7~8メートルの斜面になっており、この敷地をフラットにして競技場や公園を建設するために必要な基盤整備である。また最寄りの駅からのアクセスを確保する「歩行者ブリッジ」、立体公園化する「明治公園整備」など、“バリアフリー”を確保するために基盤整備として必須の工事である。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのキーワードの一つは“バリアフリー”、パラリンピック開催をきっかけに、車いすなどでも容易に移動可能な障害者や高齢者に“やさしい”街づくりに大都会東京が大きく踏み出すとしていたのではないか。
今回の「1550億円」には、「周辺整備237億円」は、どのように処理しているのだろうか? “曖昧”にする問題でない。メディアはきちんと取材して明らかにすべきだ。





東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
新国立競技場建設費 2520億円破綻
ゼネコン主導の新国立競技場建設計画への疑問
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新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
有識者会議の責任~国立競技場将来構想有識者会議~
審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏会見
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
破綻した“多機能スタジアム” 新国立競技場 機能を絞って“コンパクト”に
「五輪便乗」 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビル
東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン


2015年8月28日
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新国立競技場総工費1700億円が妥当!

2015年08月24日 19時56分24秒 | 新国立競技場
「総工費」の上限は「1700億円」が妥当な水準




新国立競技場の総工費「1550億円」の方針
政府は、新しい国立競技場の整備計画で焦点となっている、総工費の上限について、「1550億円」とする方針を固め、28日関係閣僚会議を開いて、競技場の性能や工期も含めて整備計画を決定する方針としている。(出典 NHKニュース 2015年8月27日)

 2015年8月14日、政府は、新国立競技場の整備計画を再検討する関係閣僚会議を開き、施設の機能は「原則」としてスポーツ競技用のものに限定し、屋根は観客席の上部にだけ設けることなどを盛り込んだ、整備計画の基本的考え方を決定した。
 しかし最も重要な課題、「総工費」を先送りにしている。一体どのくらいの額で示すのか、
2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(フレームワーク設計)を受けて、新国立競技場関連の予算を、新競技場建設費「1388億円」、解体費「67億円」、周辺整備費「237億円」、合わせて1692億円(2013年7月時点の単価、消費税5%)を“上限”とする方針を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
 この“上限”を基本にして、可動式屋根や、電動式可動席など設置しない機能の経費を差し引いた上で、資材費と労務の値上がりで25%増、消費税の増分を加えて算定するとほぼ上記の水準となると思う。必ず「周辺整備費」も含めた額で提示すべきである。本体建設費だけなら「1400億円」程度である。
 今月中をめどに決めるとしている新国立競技場の機能の詳細は、総工費を決める際にも重要だけでなく、東京五輪開催後の維持管理や収支にも極めて重要なポイントである。
新国立競技場の“白紙撤回”の再出発はまさに正念場を迎えている。





東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
新国立競技場建設費 2520億円破綻
ゼネコン主導の新国立競技場建設計画への疑問
二転三転「維持費と収入」 新国立競技場収支への“疑念
新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
有識者会議の責任~国立競技場将来構想有識者会議~
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東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン




2015年8月24日
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新国立競技場 国際公約 東京オリンピック招致 安倍首相

2015年08月21日 09時09分14秒 | 新国立競技場
新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない




ザハ氏事務所がJSC批判 「建設費高騰はデザインが原因でない」
2015年7月28日、ザハ・ハディド氏の事務所は、ホームページ上で、「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を発表した。また、費用がかかりすぎるとされたアーチは230億円ででき、総工費の10%未満だったとしている。
建設費が膨らんだ要因について「完成日が動かせないプロジェクト、建設コストの急上昇、さらに国際的な競争がない環境のなか、少数の候補から建設会社を選定すれば競争原理が働かなくなるとJSC=日本スポーツ振興センターに警告したが聞き入れられなかった。十分な競争原理が働かないなかで、あまりにも早期に建設会社を選定したことが見積もりの過剰な高騰を招くことになった」と建設会社の選定方法に問題があったとの見方を示した。
そして、計画見直しで新しいデザインを選べば、質が悪くなるうえ、建設費も高くなるリスクがあるとし、安倍晋三首相に対し、有効な提案をする準備があると書簡を送ったことも明かした。
ザハ・ハディド氏は、8月にも来日して、自らの言葉で説明する準備を進め、日本で定着している「総工費高騰はデザインのせい」というレッテルをぬぐい去り、総工費を抑えた新案を準備していると伝えられている。

(出典 朝日新聞 NHKニュース 日刊スポーツ 2015年7月28日)


(New National Stadium, Tokyo, Japan Satement by Zaha Hdid Architecs 2015年7月28日 抜粋)
Zaha Hdid Architecs

新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」
 安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
安倍総理大臣は「オリンピックは国民皆さんの祭典だ。主役は国民一人一人、そしてアスリートの皆さんだ。だから皆さんに祝福される大会でなければならない。国民の皆さん、またアスリートたちの声に耳を傾け、1か月ほど前から計画を見直すことが出来ないか検討を進めてきた」と述べ、そして、「手続きの問題、国際社会との関係、東京オリンピック・パラリンピック開催までに工事を終えることができるかどうか、またラグビーワールドカップの開催までには間に合わなくなる可能性が高いという課題もあった。本日、オリンピック・パラリンピックの開催までに間違いなく完成することができると確信したので決断した。オリンピック組織委員会の森会長の了解もいただいた」と述べた。
(要約 NHKニュース 2015年7月17日)


新国立、2千億円未満に減額検討 デザイン見直しも
 2020年の東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設問題で、安倍政権は2520億円に膨らんだ総工費を2千億円未満に減額する方向で検討に入った。巨額工費に対する世論の強い批判を受け、計画の大幅な見直しを迫られた。
 政府関係者によると、今のデザインを決めた12年の国際コンペで選考に残った別のデザインを生かした案への変更や、工期を延長し一度に雇うより人件費を抑えることを検討している。
 工期を延長すると、競技場を使うはずだった19年のラグビーワールドカップには完成が間に合わないため、今後、安倍晋三首相が東京五輪・パラリンピック組織委員会会長でラグビー界に影響力のある森喜朗元首相と協議し、見直しを最終決断する見通しだ。
 新国立競技場は2本の巨大アーチで建物を支える特殊な構造で、総工費が当初の約1300億円から2倍近くまで増大していた。

(出典 朝日新聞 2015年7月16日)

高すぎ“新国立”に総理、総工費削減、計画変更検討
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる「新国立競技場」について、安倍総理大臣が総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことが明らかになった。
 新国立競技場を巡っては、2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」などが総工費を押し上げ、当初の予算を900億円以上、上回り、2520億円に上った。関係者によると、今月末にマレーシアでIOC(国際オリンピック委員会)総会が開かれ、この場でメイン会場の建設計画を報告することにしている。政府はこれまで計画の変更はないとしてきましたが、与党などからは巨大な予算に対する批判が上がっていた。このため、安倍総理は総工費を削減するために建設計画を変更する方向で検討に入ったという。今後、オリンピック・パラリンピック組織委員会と調整に入るものとみられる。

(出典 ANNニュース 2015年7月15日)


新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏会見 「大幅なコストアップの詳細は承知していない」
 総工費が「2520億円」に高騰して、世論から厳しい批判を受けている新国立競技場建設問題について、新競技場のデザインを決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた安藤忠雄氏(73)が経緯について初めて記者会見を行い、「デザインの選定までが仕事でコストの決定議論はしなかった」と述べた。
冒頭に、7月7日に開かれた新国立競技場の計画を公に議論する最後の機会となった「有識者会議」に欠席した理由について「大阪で別の会合があったので欠席した」と釈明した。
 「私たちが頼まれたのはデザイン案の選定まで、実際にはアイデアのコンペなんですね。こんな形でいいなというコンペですから、徹底的なコストの議論にはなっていないと思う。私自身こんなに大きなものは造ったことがない。流線形で斬新なデザインでした。なによりもシンボリックでした。この難しい建築工事を日本ならできると私は思いました」
 また、政府内で総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことについて、「建築家、ザハ・ハディド氏のデザインは外すわけにはいかないと思うが、2520億円は高すぎる。もっと下がらないかと私も聞きたい。徹底的議論して調整して欲しい」と述べた。
 新競技場の総工費が問題になってから、安藤氏が公の場で発言するのは初めてで、JSCによると、安藤氏からJSCに会見の要望があったという。
 安藤氏は、総工費が正式に示された7日の有識者会議を欠席したことから、下村文部科学相から「選んだ理由を堂々と発言してほしい」と指摘されていた。

(2015年7月16日)

新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
 新国立競技場の建設を巡って、「2520億円」の建設計画を支持する根拠として、“国際公約”という声が関係者から聞こえる。
 2015年7月8日、菅義偉官房長官は記者会見で、新国立競技場の総工費が「2520億円」となったことに関し、現行のデザインについて「変更は我が国の国際的信用を失墜しかねない」と述べ、維持すべきだとの考えを示した。
さらに建設高騰の主な要因となっている「キールアーチ」について「このデザインを国際オリンピック委員会(IOC)総会で世界に発信して、東京が開催を勝ち取った経緯もある」と強調した。こうした意見は、新国立競技場の建設を現行のデザインで建設すべきだと主張する関係者の根拠となっている。
一方、IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長は2015年6月末、準備状況を監督するために来日したが、毎日新聞は、単独取材を行い、現行の奇抜なデザインでなければ国際公約違反かを聞いたところ、「(ジョン・コーツ委員長は)けげんそうな表情を浮かべて答えた。『(日本)政府が決めること。変更したいと思えば、すればいい。総工費が増大して負担となることは心配している。IOCが象徴的な施設を求めたものではない』」と伝えている。(毎日新聞特集ワイド:なぜ見直せない「新国立」 2015年7月6日 毎日新聞社説 2015年7月9日)

IOC関係者は、一貫して、新国立競技場の建設計画見直しについて、「否定的」なコメントを出した経緯は一切ない。
 しかし、日本では、安倍首相、下村文科相、森組織委員会会長、日本スポーツ振興センター(JSC)、すべて口を合わせて、“国際公約”を盾に、変更はしないで当初計画通り建設することを主張していた。
  新国立競技場の建設計画変更は、ザハ・ハディド氏デザインを高らかに歌い上げた日本の東京五輪関係者の“顔がつぶれる”ということで、“国際公約”を持ち出したという疑念が拭えない。
 ようするに招致演説で新国立競技場の建設を“約束”した安倍首相の“顔をつぶさない”ということではないかという印象を持つ。

 日本は「2020年東京五輪」を招致するにあたって、新国立競技場について何を“公約”したのか、本当に誘致に成功した「大きな原動力のひとつ」だったのか、検証する。


招致演説で何を訴えたのか?
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会総会、7日は、2020年夏季五輪開催地決定の投票だった。立候補していたのは、スペインのマドリード、トルコのイスタンブール、そして2回目の開催を狙う東京。どこの都市が選ばれてもおかしくない紙一重の激しい“競争”だった。投票の直前まで招致活動が繰り広げられていた。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、冒頭に、高円宮妃久子さまが東日本大震災の復興支援にフランス語も交えて感謝の言葉述べられた上で、佐藤真海氏(パラリンピック 走り幅跳び)、太田雄貴氏(フェンシング)など現役アスリート、滝川クリステル氏(フリーアナウンサー)、安倍晋三首相、猪瀬 直樹東京都知事、竹田 恆和氏(招致委員会理事長)、水野 正人(招致委員会副理事長)がスピーチを行った。
 第一回目の投票では、東京が46票、イスタンブールが26票、マドリードが26票、決選投票に進む2位を決める投票で、イスタンブールが勝ち、東京とイスタンブールの間で決選投票が行われた。結果、東京が60票、イスタンブールが36票、2020年夏季五輪開催地は「大差」で東京に決まった。
 事前の予想では、東京は決して優位ではなかった中で、“劇的”な勝利だった。
 
 安倍首相は招致演説で、「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります。」と述べている。
 新国立競技場の建設は、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致の“切り札”になっていたと関係者は言うが、招致演説の内容で見る限り、新国立競技場に触れたのは、安倍首相のこの部分だけである。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、登壇者の選択やスピーチの内容が素晴らしく、大成功で、各国のIOC委員に“東京”をアピールするのに大いに効果的だったと言われている。
 しかし、この招致演説で、印象的だったのは、新国立競技場ではなかったのではないかと思う。招致演説で印象的だったのは、スポーツを愛する“日本人”だったり、「おもてなし」だったり、パラリンピックの出場者の情熱だったり、東日本大震災からの復興なのではないか。新国立競技場の建設が印象的だったと報道は何もない。想像ではあるが、各国のIOC委員の印象も同様だったのではないか? つまり新国立競技場は、「2020年東京大会」招致の“切り札”でもなんでもなかったのではないか?


安倍首相は知らなかった ザハ・ハディド当初案は“実現不可能”
 2015年8月19日、第三者委員会の第二回会合に提出された資料によると、設計会社JVは、ザハ・ハディド氏のデザインを“忠実に” 再現し、かつ各競技団体の要望を全て盛り込むと、総工費「3535億円」に膨らむという試算結果を、2013年7月30日に、日本スポーツ振興センター(JSC)に報告をしていたことが明らかになった。「本体工事」は「3092億円」、「周辺整備」は「370億円」、「解体費」は「73億円」、試算条件は2013年7月単価、消費税5%である。
ザハ・ハディド案のデザインが採用された時の概算経費、「1300億円」の2倍以上に膨れ上がった額である。

 日本スポーツ振興センター(JSC)からこの報告を受けた文科省は、大幅なコスト削減の指示、日本スポーツ振興センター(JSC)は、8月20日、延べ床面積を29万平方メートルから22万平方メートルに減らすなど「1358~3535億円」の複数の縮小案を報告していた。
 この時点で、文科省や日本スポーツ振興センター(JSC)など関係者は、ザハ・ハディド氏の当初デザイン案は、ほぼ“実現”不可能と認識していたと思われる。しかし、すでに招致ファイルにはザハ・ハディド氏の当初デザイン案が掲載され、新国立競技場の建設をアピールして、東京五輪の招致運動がラストスパートしていた中で、“起動修正”をためらい、本腰で乗り出すことはなかった。
 しかし、事実上“実現不可能”、“粉飾”された建設計画だった。

 一方、文科省は、この事態を把握しながら、安倍首相や下村文科相には報告せず、2013年9月7日、安倍晋三首相は、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ザハ・ハディド氏のデザインによる当初案で招致演説をしていたことが明らかになった。
(朝日新聞 2015年8月21日)
 ザハ・ハディド氏の当初案の“実現可能性”がほとんどないという認識にありながら、当初案で、“国際公約”をしていたとすれば、なんとも“お粗末”で“無責任”な対応と批判されても当然である。

いずれにしても、2015年9月7日には、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会IOC総会では、ザハ・ハディド氏のデザイン案の新国立競技場建設計画のままで、安倍総理の招致演説が行われることになる。そして、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に成功した。


「2020年東京大会」の招致ファイルから見る“公約”は“レガシー”(未来への遺産)と“コンパクト”
 一方、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が行ってきた招致活動ではどうなっていたのだろうか?
2013年1月7日、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、14項目から成る「TOKYO2020立候補ファイル」を国際オリンピック委員会(IOC)本部(ローザンヌ)へ提出した。
「立候補ファイル」は、“東京”が2020年夏季五輪開催都市に立候補する際の「公約」である。
最初に、「2020年東京大会」開催趣旨について以下のように記述している。
「1964年大会が日本国内及び世界中に力強い感銘を与えてから約50年が経過した。世界の最先端をいくこの都市は、オリンピックに更なる価値をもたらし強化する新たな基盤を世界規模で作り出すことになる。2020年東京大会は、急速に変化する新しい世界に生きる若い世代をスポーツやオリンピックに結び付け、次世代への長期にわたる資産を創造することになる。」
「2020年東京大会」をIOCが推進している“レガシー”(未来への遺産)にするという宣言である。
“レガシー”(未来への遺産)というキーワードは招致ファイルの中に頻繁に登場する。
そして、「都市の中心で開催するコンパクトな大会」も強調している。
「私たちの大会コンセプトは、大都市の中心でかつてないほどコンパクトな大会を開催し、スポーツと感動の中心にアスリートを据えることである。
 2020年東京大会は、成熟し今なお進化を続ける大都市の中心で開催される。東京が掲げるコンパクトな大会により、私たちは過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていく。
コンパクトをコンセプトとして掲げる2020年東京大会では、アスリートと観客の双方にとっての利便性を考慮し、下記により競技会場やインフラ設備を配置する。」
 「コンパクト」も「2020年東京大会」開催に係る“キーワード”で招致ファイルの中で登場する。「コンパクト」な大会を目指す、「2020年東京大会」を立候補するにあたって“公約”だ。
「2020年東京大会」のキーワードは、「コンパクト」と「レガシー」、このキーワードは、世界に対する“公約”であると共に、国民に対する“公約”である。

 続いて、競技会場やインフラなどの整備についての考え方を次のように記述している。


「物理的レガシー: 東京の新しい中心の再活性化」

(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京の新しい長期計画と完全に一致して、2020年東京大会は東京に有益な物理的レガシーを残す。
 2020年東京大会は、新設または改修された競技やエンターテイメントのための会場や施設、新たな緑地を地域にとって重要なポジティブなレガシーとして提供する。それらのレガシーには次のものが含まれる。

・ 2020年東京大会に向けて国立霞ヶ丘競技場、海の森水上競技場、夢の島ユース・プラザ・アリーナA及びB、オリンピックアクアティクスセンターなど、11の恒久会場が整備される。
・ 国立代々木競技場、東京体育館、日本武道館など、1964年オリンピック大会時の施設を含む15の主要コミュニティ・スポーツ施設が改修される。」
(中略)
・ 東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会を開催する。
・ 過去の遺産を守りながら未来へのビジョンを示すため、競技会場を、運営・テーマにより2つのゾーンに分ける。一つは1964年東京大会のレガシーが集積するヘリテッジゾーン、もう一つは未来に向けて発展する東京の姿を象徴する東京ベイゾーンである。

 2020年東京大会のオリンピックスタジアムが位置するヘリテッジゾーンは、1964年大会のオリンピック・レガシーを今に語り継ぐ場所である。1964年東京大会のために建設された主要会場を、2020年東京大会で使用することは、次の世代へのオリンピックの新たなレガシーを創造し、継承していく精神を示すこととなる。
オリンピックスタジアムとなるのは、国立霞ヶ丘競技場である。国立霞ヶ丘競技場は、1964年大会のオリンピックスタジアムであり、テストイベントが行われる2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。
ヘリテッジゾーンには、同じく1964年大会の会場となった国立代々木競技場、東京体育館及び日本武道館を含め、計7つの競技会場が位置する。」

 東京ベイゾーンは、東京湾の臨海部に位置している。水と緑、生物多様性の拠点として開発される予定の場所であり、東京の未来への発展を力強く感じさせるゾーンである。東京ベイゾーンには、計30の競技が行われる21の競技会場があるほか、IBC/MPCが設置される。そのIBC/MPCは、日本最大の国際会議・展示施設である東京ビッグサイトに置かれる。なお、主要なメディアホテルおよび7つの競技会場がIBC/MPCから徒歩可能な範囲内にあり、東京圏にある全33会場中残りの21会場は半径10km圏内に位置する。」

 ここでも、「コンパクト」、「レガシー」(未来への遺産)のキーワードがしっかり記述されている。
新国立競技場については、「2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。」という記述しかない。
 「2020年東京大会」で、IOCや各国に強調したポイントは、「東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会」であり、新国立競技場ではない。
 もっともこの“公約”、「半径8km以内」は、“経費節減”で競技場の新建設を相次いで中止し、既存の施設に振り替えるという計画の見直しで、事実上破たんしているのは承知の通りだ。 明確な“公約違反”であろう。
 建設中止の競技場は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)の4か所である。
バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、水球は東京辰巳国際水泳場に会場変更することが決まった。
東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は幕張メッセ(千葉市)となり、幕張メッセでは、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技の会場となった。
 また馬術は、障害馬術、馬場馬術、総合馬術は馬事公苑に変更した。
 自転車については、トラックの競技を伊豆に変更する方向検討中である。
 しかし、IOCはこの“見直し”について、「コンパクトな大会を目指す」という趣旨を理解し、基本的に了承しているのである。

 続いて、「会場の概要」では、ザハ・ハディド氏のデザイン(国際デザイン・コンクールで採用された案)の新国立競技場の完成予想図を掲載すると共に、次のように記述している。



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

「会場の概要」
(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京は大会のコンセプトである「コンパクト」に沿ってその過去と未来が独特な形で融合され、過去の遺産を守りながら、未来に向かって「未来をつかむ(Discover Tomorrow)」ことができる都市であることを世界に示している。会場は1964年東京大会のレガシーが残るヘリテッジゾーンと、未来の都市開発モデルである東京ベイゾーンという2つのテーマ及び運営ゾーンに位置する。東京圏にある33の競技会場のうち28会場は選手村から半径8km圏内にあり、選手のことを最優先に考えた、極めてコンパクトな配置となっている。
 計画されている37の競技会場のうち15会場(41%)は既存のものであり、その中の2会場は2020年大会のために恒久的な改修が必要となる。既存会場のうち3会場は1964年大会の時に整備されたものであり、当時水泳とバスケットボールの会場だった国立代々木競技場は2020年ではハンドボールの会場に、体操や水球が行われた東京体育館は卓球の会場、日本武道館は1964年と同様2020年も柔道の会場として利用される。
 2020年大会に向けて建設が予定されている競技会場は、総競技会場数のうち22会場(59%)であり、そのうちの11会場は東京のレガシーとして残す計画である。こうした恒久施設のうち、1964年のオリンピックスタジアムであった国立霞ヶ丘競技場は、テストイベントが行われる2019年までの完成を予定しており、2020年大会では開・閉会式、陸上競技、サッカー及びラグビーの会場となる。武蔵野の森総合スポーツ施設は、東京西部の多摩地域に2016年の完成を目指しており、2020年大会では近代五種が行われる予定である。
会場の選定、建設状況及び立地は、東京の中長期計画「2020年の東京」を中心に、社会、開発、持続可能性に関わる東京都の計画に合わせるとともに、2020年東京大会を選手重視のコンパクトな大会にすることを目指す。」



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 新国立競技場については、テストイベントが開催される2019年までに完成させることや、収容人数を「8万人」し、「開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場」とする以外に記述はない。完成予想図を見れば、“屋根付き”であることは分かるが、“屋根付き”のスタジアムであることをアピールしている形跡は一切ない。屋根付き”かどうかにこだわるのは、専ら“日本”の“事情”なのである。“公約”も何もしていないのである。IOCも、“斬新なデザインで、”“屋根付き”の現行案は“前向きに”評価しながらも、変更するかどうかは、デザインの問題であるとして、主催国が決める案件で、特に問題ではないとしているのである。
 「2020年東京大会」を支持した各国IOC委員にヒアリングをしてみたらどうか? 筆者の予想だが、「新国立競技場を“屋根付き”にするかどうか、開催国で決めれば良い。“屋根なし”にしたところで、“公約違反”でもなんでもない」と全員が答えるだろう。
 
 “国際公約”を理由に、「2520億円」の新国立競技場にこだわる根拠はなにもない。


IOCバッハ会長 “見直し”に理解 「デザインは問題ではない」
 7月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は英国セントアンドルーズで「IOCの関心は競技場のデザインではなく、機能的な競技場が準備されるかだ。見直しで最新鋭の競技場が妥当な金額で造られることになると思う」と述べ、見直しに理解を示した。
 バッハ会長が主導して昨年末にまとめた中長期の五輪改革プラン「アジェンダ2020」では、五輪のコスト削減や既存施設の利用を掲げる。
バッハ会長は、横浜国際総合競技場など別施設の利用を否定した上で「新国立競技場を造ることは日本政府が決めたこと。この見直しによるコストカットは、アジェンダ2020に合致する」と話した。

(要約 朝日新聞 2015年7月18日)




新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに





「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパククトな大会”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
主導権争い激化 2020年東京五輪大会 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市





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2015年7月12日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
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代表
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新国立競技場 開会式 リハーサル 「3ヶ月」では間に合わない?

2015年08月20日 16時25分39秒 | 新国立競技場
新国立競技場 開会式 リハーサル 「3ヶ月」では間に合わない?





(北京オリンピック 2008年 「人民網日本語版」 2008年08月12日)

オリンピックのハイライトは、「開会式」である。毎回、開催国が“威信”をかけて力を入れて演出の豪華さを競う。
北京五輪では、映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏、ロンドン五輪ではアカデミー監督賞を受賞したダニー・ボイル氏が総監督を務めた。
 当初のオリンピックの開会式は、入場行進、聖火点灯が中心だったたが、回を重ねるごとに演出に工夫を凝らし、3時間以上かけて催される巨大な“ショー”となっている。
 開会式の競技場は、まさに“ステージ”となり、コンサート、舞台芸術、映像上映、マスゲーム・ショー、アクロバット・ショー、空中を舞う仕掛け、そして花火が繰り広げられる。出演者は1万人を超える。
 開会式の経費も巨額で、北京オリンピックでは約110億円、ロンドンオリンピックでは約33億円とされている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開会式の演出は、これからプラニングされていくことになるが、これだけの開会式を行おうとすると、その準備やリハーサルは長期間に渡って実施しなければならないだろう。
 無数のLEDで構成される映像スクリーンや高繊細のビデオプロジェクターなどの映像システム、そして最新の音響システムと競技場内で繰り広げられるイベントと連動させるのが開会式の“感動”を生みだすポイントである。
 舞台は、「8万人収容」の巨大スタンド。
 気の遠くなりそうな詳細な演出の進行が求められことになる。
 それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底無理だと思う。それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底無理だと思う。ロンドンオリンピックの開会式のリハーサルは200日に及んだという。(出典 Wikipedia)
大会運営関係者はこの準備期間をどのように考えているのだろうか?
 もっとも、北京五輪やロンドン五輪の開会式と、演出の“豪華さ”を競うことはあきらめて、極力簡素にして、「3ヶ月」の準備期間で間に合うように設計するという方法もある。“シンプル”な大会運営を掲げる東京五輪にとっては、その方がふさわしいかもしれない。東京五輪の世界のアピール度が多少、犠牲になってもしかたがない。
 新国立競技場の完成時期が前倒しできなければこの方法しかない。
 判断は早くすべきだと思う。






(北京オリンピック 2008年 「人民網日本語版」 2008年08月12日)




東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
新国立競技場建設費 2520億円破綻
ゼネコン主導の新国立競技場建設計画への疑問
二転三転「維持費と収入」 新国立競技場収支への“疑念
新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
有識者会議の責任~国立競技場将来構想有識者会議~
審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏会見
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
破綻した“多機能スタジアム” 新国立競技場 機能を絞って“コンパクト”に
「五輪便乗」 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビル
東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン




2015年8月20日
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新国立競技場 日本青年館 五輪便乗 JSC本部 新高層ビル

2015年08月11日 08時03分53秒 | 新国立競技場
「五輪便乗」 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設
16階建の高層ビル





 2015年8月10日、参議院予算員会で、新国立競技場の建設問題が取り上げられ、民主党の蓮舫元行政刷新相は、“白紙撤回”されたにもかかわらず、現在も進められている関連工事の総額が約320億円あるとして、政府を追及した。
 この中で、問題視したのが、「JSC本部棟・日本青年館新営設計・工事・管理等」業務である。
 政府内で、密かに“白紙撤回”に向けて検討が進めれれている最中、6月30日に、この建設工事で「165億円」契約が、文科省とJSCで交わされた。「165億円」の内、「47億円」はJSCが負担するが、その財源は、税金とtotoでまかなうとしている。

 実は、新国立競技場関連経費は、「2520億円」とは別枠で、JSC本部・日本青年館の移転費用等(174億円)や新国立競技場設計監理費用(91億円)、埋蔵文化財調査費(14億円)など「279億円」の経費が必要だとして、2014年1月、文科省と財務省は合意している。
 平成26年度の政府予算で、「2020オリンピック・パラリンピックの東京招致・開催支援等」という項目で、「現在の国立霞ヶ丘競技場(陸上競技場)は、建築後50年以上が経過し、競技場そのものの老朽化が進むとともに、今日開催される大規模な国際競技大会の主会場としての仕様を満たさない状況となっていることから、2019年ラグビーワールドカップ日本開催、2020年オリンピック・パラリンピック東京招致等を視野に入れ、同競技場の改築を目指す。平成26年度においては、新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事等を行う」として、約230億円を計上している。一見すると、「新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事」と誰もが思うのは間違いない。


(平成26年度予算概算要求 財務省)

 実はこの中に、新国立競技場の建設用地内にあるJSC本部と日本青年館の移転費も、「支援等」として“こっそり”入れ込み、「五輪便乗」と問題視されている。
 計画では、現在の日本青年館の南側にある西テニス場の敷地約6800㎡に、地上16階地下2階、延べ床面積約3万2000平方メートルのビル、「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を新築し、JSC本部の事務機能や日本青年館の宿泊施設・ホールなどの機能を集約した施設を整備する。JSCは、この内、4フロア、6000平方メートル、これまでの1・4倍の面積を使用して、本部機能を移転する計画である。
 2015年6月14日、競争入札で、安藤ハザマが落札、落札額は152億5000万円(予定価格は164億9626万円)だった。
 「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」建設は、文科省の新国立競技場整備に関する「予算の上限」をJSCに示した時にすでに「174億円」(内JSC本部関連は28億円)を入れ込んでいる。 膨れ上がる新国立競技場の建設費を“抑制”するために「232億円」は別枠にしたのであろう。
それにしても「152億5000万円」使って。「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を建設する必要があるかどうか、しっかり検証したのだろうか。 神宮外苑に、新たに1240席の大ホール、客室数約220室のホテルを税金を投入して建設する必要があるのだろうか? 
 日本青年館は、全国の青年団活動の拠点にするため、「1人1円」の建設資金募金活動を繰り広げ、 大正14年9月に総工費162万円をかけて地上4階地下1階建ての旧日本青年館が完成した。
昭和54年2月には、青年団募金5億円が集められ、政府、経済界、各界の支援を受けて総工費54億円をかけて地上9階地下3階建ての現在の日本青年館が完成した。そして約30年、首都圏には、ホテルやホールの施設は十分に整っている。“時代”は変わっているのである。「五輪便乗」と批判されてもやむ得ないのではないか?
「東京五輪」を名目にした“便乗・膨張体質”が早くも露呈している。


(新日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟完成予想図 出典 日本青年館ホームページ)

再三にわたって迷走を続ける新国立競技場の建設問題については、その責任体制のお粗末さが批判されてしかるべきであろう。
 文科省やJSCはこうした巨大プロジェクトのマネージメント能力に欠けているというだろうか? 先が思いやられる。
 新国立競技場を巡る“迷走”は更に深刻さを増していく。





新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに




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