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大坂なおみ 全仏オープン棄権 「60億円」の女王 「驕り」

2021年06月28日 17時35分44秒 | 大坂なおみ


大坂なおみ 全仏オープン棄権 「60億円」の女王の「驕り」


全仏オープン 試合に臨む坂なおみ 出典 #大坂なおみTwitter

大坂なおみ、全仏OP棄権表明「邪魔になることだけは」うつ病も告白
 テニスの全仏オープン(パリ)に出場している世界2位の大坂なおみ(23=日清食品)が、5月31日(日本時間6月1日未明)に大会を棄権することを表明した。(*ウインブルドン大会も欠場を表明 五輪大会出場には意欲)
 自身のツイッターに英文で「トーナメントにとって最善の方法は、他の選手、そして私自身の健康のためにも、みんながテニスに集中することができるように、私がこの大会を棄権することだと思う。決して、みんなの邪魔になることだけはしたくなかった」と投稿。
 さらに、「The truth is that I have suffered long bouts of depression」とも記し、2018年の全米オープン以降、長い間、うつ病(depression)に悩まされていた事実も告白した。
 大坂は大会前の5月27日に、選手の精神状態が軽視されていると訴え、自身のSNSで記者会見には出席しないことを宣言。30日の1回戦後に、宣言通り、試合後の会見を拒否した。
 この行動に反発した、全仏オープンの主催者は1万5000ドル(約165万円)の罰金を科した上で、4大大会の主催者合同で「違反を続けると大会からの追放、4大大会出場停止もあり得る」と警告し、状況は一気に緊迫した。
 これに対して、大坂なおみは31日にツイッターに「怒りは無理解から来る。変化することは、人を不愉快にする」と批判とも取れるコメントを投稿、強気の反撃に出た。さらにインスタグラムのストーリーには、19年に亡くなった伝説的なラッパー、ジュース・ワールドの音楽アルバム「good bye & Good RIDDANCE」のジャケット写真を掲載し、その楽曲を流した。タイトルの意味は「さよなら。これでせいせいするわ」だった。主催者をまさに「挑発」する内容である。
 そして、現地時間の同日中に2ページに渡る文書(英文)をツイッターに投稿し、全仏オープンを棄権することを表明した。
 第2シードの大坂は、6月2日のシングルス2回戦で世界ランク102位のアナ・ボグダン(ルーマニア)と対戦する予定だった。


全仏オープン棄権を表明する大坂なおみのツイッター 5月31日

「黒人差別抗議」で称賛された大坂なおみの「成功体験」
 2020年8月、ニューヨークで開催された全米オープンのプレ大会、「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」に出場し、準決勝に勝ち進んだ大坂なおみは、人種差別に抗議して棄権すると表明した。
 ウィスコンシン州で黒人の男性が白人警官に背後から銃撃される事件が発生し、黒人差別に対する抗議活動が全米で巻き起こった。
 これを受けて、大会を主催するWTA(女子テニス協会)とUSTA(全米テニス協会)、ATP(男子プロテニス協会)は連名で、「テニスはスポーツとしてアメリカで再び起きた人種差別と社会的不公平に対し、結束して反対するスタンスとっている」と声明を出し、27日に予定されていたすべての試合を1日延期して28日から再開するとした。
 大坂選手は、女子ツアーを統括するWTAと協議した結果、「彼らがすべの試合の延期を申し出てくれた。棄権を撤回して出場することでより強い抗議の意思を伝えられる」とし、WTAと大会主催者に対し「感謝したい」としたという。
 準決勝に出場した大坂なおみ選手は、ベルギーのエリーゼ・メルテンス選手を破り決勝に進んだ。決勝戦の対戦相手は、ベラルーシのビクトリア・アザレンカ、2012年と2013年の全豪オープン女子シングルスの優勝者で世界ランキング1位になったこともある強豪で白熱したゲームが期待された。しかし、大坂なおみは、突如、左太ももの裏のけがのために決勝戦を棄権した。
 この時の「棄権表明」は、「黒人男性銃撃事件」という黒人差別の象徴的な事件の直後で、大坂選手の姿勢は理解できる。また決勝戦の棄権はけがが理由なのでいたしかたないだろう。
 しかし、準決勝までに大坂選手と対戦して敗れた選手に対してのリスペクトは置き去りにされた。大坂選手は対戦した選手に対して謝罪するべきである。それがスポーツマンシップの礼節であろう。

 そして昨年の全米オープンでは、黒人差別に抗議して、差別の犠牲者の名前の入った7枚の黒のマスクを着用してコートに現れた。大坂選手は試合後のインタビューの中で、大会を通して人種差別に抗議してきた自身の行動について触れ、「みんなの考えるきっかけにしたかった。SNSを通じてしか反響はわからなかったけど、情報が拡散されていって、皆が話をしてくれているのがわかってうれしかった」と述べた。
 この“Black Lives is Matter”を掲げる姿勢は世界中から支持を集めた。


全米オープン(2020年)で黒人差別に抗議して大坂選手は7枚のマスクを着用して出場

 今回の全仏オープンの「記者会見拒否」、そして「棄権」は、「黒人差別抗議」のいわば「成功体験」が、大坂なおみの頭にあったと思われる。
 しかし、全仏オープン主催者はまったく違っていた。全仏テニス協会会長は「とんでもない間違い」であり、「受け入れられない」行為であると厳しく非難し、「4大大会出場停止」も示唆された。 さらに同じプロテニス選手からも批判を浴びる。
 今回の「会見拒否」も大坂なおみは同じように支持を集めるだろうと思いこんでいたと思われる。
 「なぜ私の主張は受け入れてくれいないの」と大坂なおみの戸惑いとフラストレーションは頂点に達したのであろう。
 そして最後は、「うつ病」を告白して、自らの主張を正当化させた。


全米オープン(2020年)で優勝した大坂なおみ選手 出典US Open Twitter

苦手のクレーコート プレッシャーのフラストレーション
 大坂なおみは、爆発的なパワーで世界の頂点に上りつめ、全米オープン、全豪オープンを連覇、スポーツ経済専門の米メディアのスポーティコは、2021年版のスポーツ選手長者番付を発表し、テニスの大坂なおみ(日清食品)は女子最高額の年収5520万ドル(約60億円)と算定した。女子テニスプレーヤーとして圧倒的な人気を獲得し、「女王」に上り詰めた。
 しかし、その一方で、試合中にプレーがうまくいかないとラケットをコートにたたきつけるたりして、感情の起伏が激しく、自滅するケースが頻繁に見受けられ、メンタル面の強化が大坂の最大の課題とされてきた。
 「会見拒否」を表明した要因は、グランドスラムの2連覇がかかった全仏オープンは、大坂なおみが最も苦手とするクレーコート、そのプレッシャーのフラストレーションだと思う。
 大坂なおみは、5月中旬に開催された全仏オープンの前哨戦、イタリアオープンに出場して、初戦でライインキング31位のペグラ(米国)と対戦して、ストレートであっさり敗戦する。ローランギャルズと同じ、苦手のクレートの試合だった。
 第1セットの後半では、思うようにプレーができず、フラストレーションがたまって怒りでラケットをコートに3回たたきつけ破壊。何とか気持ちを切り替えようと努めたが、第2セットは、第1セットを失ったショックから、集中力が低下。合計37本の凡ミスを連発し、簡単に失った。
 これで、全仏前の前哨戦に2大会出場して1勝2敗。大坂なおみの全仏オープンに対する不安感は極度に高まり、自信は喪失していたと思われる。
 今回の行動で、大坂の弱点、メンタル面での弱点が浮き彫りになった。不安感にさいなまれて一人で思い悩んで、急に気持ちが「煮詰まって」この行動に出たのだろう。

* 大坂なおみは、「芝」のコートのウインブルドンも欠場を表明、一方、「ハードコート」の2020東京五輪大会には出場に意欲を示しているという。
 得意の「ハードコート」の大会を選んでいるとしたら、「女王」の称号は剥奪したい。
 
記者会見は出場選手の「義務」
 記者会見は、勝因や敗因だけでなく選手の人間味も伝えることができる貴重な場である。ファン・サービスにとって重要なツールである。時には痛烈な質問を浴びせられることもあるが、それに答えるのもプロ選手として当然の責務、勝った時だけ会見に臨み、負けた時は出席しないのでは説得力がない。

 大坂なおみは、世界中のテニスファンやスポンサーに支えられて約40億円の収入を得ているプロ選手なのである。大会に出場して多額の賞金やスポンサー料を手にする一方で、ファン・サービスや大会主催者に協力しないというのは身勝手としかいいようがない。「権利」だけを主張して、「義務」は放棄する、世界のトップ選手に上り詰めた「思い上がり」の姿勢に筆者は納得できない。

 「記者会見」制度の改革を主張するなら、大会前に申し入れるべきである。申し入れに対する回答が不満なら、全仏オープンへの参加を取りやめればよい。そもそも大会への参加は選手の自由意志である。選手はケガやコンディション不良で、出場を取りやめることは頻繁にある。
 すでに予選が始まって本選が始める直前になって、突然、「会見拒否」を持ち出すのは余りに身勝手なふるまいだろう。
 筆者はグランドスラム会見システムが100%良いとは思っていない。改革の必要性はあるかもしれない。それはそれで冷静に議論すべきだ。
 それでも、記者会見は筆者はきわめて重要な選手とメディアが接する重要な場であると考える。サーブやストロークが好調で勝利した時や優勝した時だけ、記者会見を開くのではまったく意味がない。筆者はむしろ敗戦の弁の方を聞きたい。勝利をした者の言葉より、敗者の言葉の方がはるかに美しい。
 また不祥事や問題が起きた時に、選手は説明責任を負うのは当然だろう。選手にとって都合の悪いことを聞かれるから会見は拒否するというのでは、一流のプロ選手としての資格を欠く。審判にテニスボールをぶつけたジョコビッチ、審判に暴言を重ねたセリーナ、いずれも痛烈な批判にさらされるのはいたしかたない。
 しかし、選手の人間性を否定するような質問やプライバシーを傷つけるような質問が飛び交う記者会見は聞くに堪えない。
 メディアの側の自制も必須である。選手のメンタル面での配慮も必要だということは理解できる。
 だからといって、記者会見は必要ないということではない。ツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディアの発達で、選手はソーシャルメディアで発信すれば十分だとするメディアもあるが、ツイッターやインスタグラムでは、選手側の都合の良い情報しか発信されない。
 スポーツ選手とトランプ元大統領をいっしょにするのも如何かと思うが、トランプ元大統領も記者会見を嫌がり、ツイッターでの発信を多用した。まさに一方通行の発信である。
 グランドスラム4大大会の主催者は、大坂なおみに問題提起を受けて、「意味のある改善」を目指す意向を表明した。今後の成り行きを中止したい。
 
大坂なおみはスポーツマンシップの「礼節」と「リスぺクト」を取り戻せ
 グランドスラムに出場するテニスプレーヤーは、なによりスポーツマンシップの「礼節」と対戦相手を「リスペクト」する姿勢を堅持しなければならない。
 全米オープンでセリーナを破り初優勝した時の表彰式で流した涙は、何だったのだろうか。
 1回戦で対戦したルーマニアのパトリシア・ティグ選手に対するリスぺクトと礼節は一切ない。大坂なおみと優勝を争う前回優勝のシフォンテクやランキング第一位のバーディ、そしてセリーナ・ウイリアムスに対しても同様にリスぺクトと礼節を欠く。
 大会を支えるスタッフやスポンサー企業に対する謙虚さも失った。
 やはり、大阪なおみは、「60億円」を手にした女王の「驕り」に陥ったとしか思えない。一人のプロテニスプレーヤーとして「謙虚」になることを望む。
 
 筆者は、毎回グランドスラムは、テレビ中継を熱心に視聴し、全仏オープンや全米オープンは、現地に赴きスタジアムで観戦したこともある自他共に許す熱烈なテニスファンである。全米オープンで大坂なおみがセリーナを破り優勝した時は、感動して思わず涙を流した。
 大坂なおみが強烈なサーブとストロークで、コートで躍動する大阪なおみの姿をまた是非見たい。
 「うつ病」に長い間、悩んでいたとする大坂なおみ選手の一日も早い回復を心から祈る。

*敬称略



全仏オープン棄権を表明する大坂なおみのツイッター全文 5月31日



*和訳

 みんな、こんにちは。この状況は数日前に私が(ツイートを)投稿したときにイメージしたものでも、意図したものでもない。大会や他の選手、私自身の健康を考えると、私が大会を棄権することがベストだと思う。そうすることで、みんながパリで開かれているテニスの大会に集中できる。
 私は邪魔になりたくなかったし、(記者会見拒否の公表が)理想的なタイミングでなかったことや、メッセージももっと明確にすべきだったことは受け止めている。それ以上に大事なのは、私はメンタルヘルスを軽視したり、この言葉を軽い意味で使ったりはしない。
 本当のことを言うと、私は2018年の全米オープン以降、長い間うつ病に苦しんでいて、このことと付き合っていくのに本当に苦労してきた。私のことを知っている人なら誰でも、私が内向的であることは分かっていると思うし、大会で私を見たことがある人なら誰でも、私がよくヘッドホンをつけて社交不安症をやわらげようとしている姿に気がついていると思う。
 テニスを取材する報道陣は、いつも優しくしてくれたけど(傷つけたかもしれないクールなジャーナリストには特に謝りたいです)、私は社交的に話せるタイプではなく、世界のメディア相手に話す前はとても大きな不安の波にさらされている。本当に緊張するし、あなた方にできる限り最善の答えを出そうとすることにストレスを感じてしまう。
 だから、パリに来てからすでに不安になり傷つきやすくもなっていたので、自身のケアにあてるために記者会見をスキップした方がいいと考えた。
 (大会が始まるより)先に公表したのは、大会の規則が時代遅れに感じていたし、それを強調したかったから。大会ではものすごく気が張り詰めるので、主催者側には大会が終わったら喜んで話し合いたいというおわびの文書を内密に送っていた。
 これからは少しの間、コートから離れようと思っている。でも正しい時期が来たら、選手や報道陣、ファンにとってより良い方向性をツアーと話し合っていきたい。
 とにかく、みんなが元気で安全に過ごされていることを願っています。みんな大好き。いつかまた会いましょう。
(出典 朝日新聞 2021年6月1日)




大坂なおみ  全米オープン2連覇 人種差別抗議のマスクで登場

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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2020年6月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR


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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
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東京オリンピック 選手村

2021年06月23日 17時41分51秒 | 東京オリンピック
2020東京五輪大会 選手村の概要

選手村(空撮) 提供 TOKYO2020

中央区晴海の東京ドーム3個分に及ぶ広大な都有地、約13万4000ヘクタールの敷地に、14~17階建ての21棟のマンション型の選手村と商業施設が建設される。工事費は約954億円。選手村の居住ゾーンは3街区に分けて、約1万7000人の五輪関係者が宿泊可能な施設となる。各住戸は、東京湾の風景が望めるつくり。周辺環境、海からのスカイラインを考慮し、様々な高さの建物を配置するとしている。
 大会終了後は分譲マンションとして販売する計画で、超高層住宅棟2棟を建設し、住宅棟21棟、商業棟1棟に整備して、5650戸のニュータウンに衣替えする。2016年7月、三井レジデンスなど11社で構成する民間事業者グループが開発事業を受注し、2017年1月には着工する。基本的に国や都の財政負担なしに整備する方針だ。日本の気候に応じた伝統的な建築技術と最先端の環境設備と融合した環境負荷の少ない街づくりを体現する1つのモデルとなることを目指す。
 選手村の建設は、全額民間資金を活用するとして、建設経費は東京都の五輪開催経費に算入してない。しかし、東京都は選手村用地の盛り土や防潮堤の建設を始め、上下水道や周辺道路の整備に410億円を投入する計画である。大会後は臨海ニュータウンになるので、社会資本整備投資経費とするのは理解できるが、選手村の整備に400億円超の税金が投入される。さらに都有地約13万4000ヘクタールを、周辺価格の約10分の1という「破格の優遇措置」で事業者グループに売却したという疑念が生まれて批判が集まった。


提供 TOKYO2020

 選手村は、三井レジデンスなど11社で構成する民間事業者グループが開発した居住エリアの他に、晴海埠頭や晴海客船ターミナル、さらに臨港消防署や民間の倉庫用地も使用して付属施設を整備し、その面積は合計44ヘクタールに達する。
 選手村のゾーンは、「居住ゾーン」、「運営ゾーン」、「ビレッジプラザ」の3つのゾーンに分かれている。
 「居住ゾーン」には、居住棟はメインダイニングなどがあり、選手が居住するエリア。
 「運営ゾーン」には、選手村の運営機能集約したエリア。
 「ビレッジプラザ」は、選手の生活を支える施設で、店舗、カフェ、郵便局や宅配便、銀行、メディアセンターなどが設置されるエリア。

居住棟
 居住棟は、14~18階建ての21棟、約3800戸で、ベット数はオリンピックで約1万8000、パラリンピックで8000。広さはシングルルームで9平方メートル以上、ツインルームで12平方メートル以上、設置される寝具のベットフレームは段ボール製、100%のリサイクルが可能。
 すべてのベッドルームには窓があるので二方向換気が可能になる。
 外廊下は、車いす2台がすれ違うことができる幅員がある。


居住棟 提供 TOKYO2020


ツインルーム シンプルな内装 提供 TOKYO2020


車いす2台がすれ違うことができる外廊下 提供 TOKYO2020

メインダイニングホール
 メインダイニングホールは、2階建ての仮設施設で、オリンピック時には1階に約900席、2階に約2100席、パラリンピック時には1階に約700席、2階に約1700席。24時間サービスで、1日最大4万5000食を提供する。
 料理はビュッフェ方式だが、調理スタッフが1人づつ盛り付けてサービスする。サラダなどもあらかじめ小分けにしたものを選手がピックアップ。
 全体に席数を削減して、1席ごとに飛沫防止板で区切ったり、フィジカルディスタンスのためのフットプリントを設置する。
 メニューは世界各国の選手団のさまざまな食習慣や文化・宗教に対応した幅広い選択肢の食事を用意、約700種類のメニューを提供する。
 それぞれの料理は素材そのものを活かしたプレーンな調理法を基本として、選手が自ら味付けできる多種類の調味料を用意する。
 サービスされる料理は、日本料理、ワールド、アジア、ハラール、ベジタリアン、グルテンフリー、ピザ/パスタなど。


メインダイニングルーム


飛沫防止板で区切られた座席 提供 TOKYO2020


メニューのサンプル 提供 TOKYO2020

複合施設
 選手村の中心部に位置し、各居住棟からのアクセスが容易。
 3階建ての恒久施設で、1回には総合診療所やドーピングコントロールステーション、2階にはカジュアルダイニングやレクリエーションエリア、3階にはフットネスセンターが設置される。
 ドーピングコントロールステーションでは、クリーンな競技運営を行うために効率的で精度の高いアンチ・ドーピングプログラムを実施する。アスリートのプライバシーにも配慮して、9部屋のプロセスルームを設置して、尿検体や血液検体を採取する。
 24時間対応。
 カジュアルダイニングは、オリンピック時には280席、パラリンピック時には250席が設けられ、1日最大3000食が提供される。
 複合施設は、大会後、商業施設に改装される。


複合施設 提供 TOKYO2020

仮設医療施設 発熱外来
 発熱の症状が出た選手等のための診療・検査施設で、感染症の疑いのある患者に対する診療やPCR検査を実施する。
 検体の分析は施設内に設置するブランチラボで行うので、スピーディな検査体制が確保される。検査結果が判明するまでの間の待機場所として隔離スペースを設置する。
 一方、濃厚接触者の検査エリアも設け、濃厚接触者の検査を実施する。
 陽性者が発生した場合は、感染症対策センターや保健衛生拠点と連携して対応する。


発熱外来エリア 住居棟から離れた場所にプレハブで設置 提供 TOKYO2020


発熱外来診察室 提供 TOKYO2020

選手村ビレッジプラザ
 選手村ビレッジプラザは、選手の生活を支える施設として、店舗、カフェ、郵便局、宅配便サービス、銀行などが設置される。
 ビレッジプラザは、全国の自治体から無償で提供してもらった木材約4万本を使用して建設した。木のぬくもりを大切にしたデザインで、延床面積5300平方メートル(5棟)の仮設建築物である。大会後は解体されて各自治体に返却して、公共施設などでレガシーとして再利用される。
 ビレッジプラザには、NTTドコモが協賛して、「docomo 5G LOUNGE」をオープンし、ソフトドリンクや軽食をサービスするとともに次世代通信、5Gを選手やコーチなどに体験してもらうサービスを展開する。また、Galaxyは、「Galaxyアスリートラウンジ」を設置して5GスマホなどをPRする。Canonはフォトスタジオ、アシックスがドライクリーニング・サービス、ヤマトはクーリエカウンター、日本郵政は郵便局、三井住友銀行が両替や入出金窓口を設置する。




2021年6月21日
Copyright (C) 2021 IMSSR

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ワクチンの種類 遺伝子ワクチン mRNAワクチン DNAワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 組み換えタンパク質ワクチン 不活性化ワクチン 生ワクチン 不活性化ワクチン

2021年06月21日 16時45分59秒 | 新型コロナウイルス
ワクチンの種類
遺伝子ワクチン mRNAワクチン DNAワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 組み換えタンパク質ワクチン 不活性化ワクチン 生ワクチン


新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 出典 NIAID

ワクチンとは?
 ワクチン(vaccine)とは、感染症の予防に用いる医薬品である。病原体を無毒化あるいは弱毒化して作られた抗原を投与することで、ヒトの体内で病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。
 「ワクチン」の語源はラテン語のVariolae vaccinae(牛痘)である。1798年にエドワード・ジェンナーが、牛痘を人間に接種することによって天然痘を予防できると実証し、その後にルイ・パスツールがこれを弱毒化して天然痘ワクチンの開発に成功したことに由来している。
 ワクチンは液体で、注射や経口、経鼻から投与される。


ワクチンの仕組み 出典 米国研究製薬工業協会

生ワクチン
 生ワクチンは、生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を、症状が出ないように極力抑えて、免疫が作れるぎりぎりまで弱めた製剤にしたもの。弱毒性ワクチン。
 自然感染と同じ流れで免疫ができるので、1回の接種でも充分な免疫を作ることができる。ただ、自然感染より免疫力が弱いので、5~10年後に追加接種したほうがよいものもある。ワクチンの種類によっては、2~3回の接種が必要なものもありある。副作用としては、もともとの病気のごく軽い症状がでることがある。
 近年は、遺伝子組換え技術を用いて、生きている病原体を弱毒化して生産するワクチンも数多く登場している。

 結核(BCG 牛型結核菌[M. Bovis] を弱毒化)、麻しん(はしか)、風しん、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、黄熱病、、ロタウイルス感染症など

不活化ワクチン
 不活化ワクチンは、ウイルスや細菌を増殖不能にするなど病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたもの。接種しても、その病気になることはないが、1回の接種 では免疫が充分にはできない。ワクチンによって決められた回数の接種が必要。
 不活性化ワクチンには、ホルマリンなどの薬品や熱を加えて不活性化した病原体から生産するワクチンやサブユニット・ワクチン、トキソイド・ワクチン、多糖体・タンパク結合型ワクチンなどの種類がある。
 実用化している不活性化ワクチンとして、インフルエンザ、A型肝炎、百日咳、日本脳炎、ポリオ、狂犬病などで、これまでに多くのワクチンの開発で実績がある。

■ サブユニット・ワクチン(組み換えワクチン)
 不活化ワクチンには様々な抗原が含まれている。これらの抗原のうちヒトが免疫獲得に必要な抗原(感染防御抗原)だけを抽出して製剤する。
 感染防御抗原を精製してもサブユニット・ワクチンは作れるが,技術開発が進み、感染防御抗原の遺伝子を特定して、遺伝子組換え技術を用いて、大腸菌や酵母に遺伝子を転写して、抗原タンパク質を大量につくらせることでワクチンを製造することも可能になった。
 この技術の登場で、大量生産が容易で安価なワクチンが実用化されるようになった。
 サブユニット・ワクチンには、免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)を確保するために、アジュバント(補助剤)を加えて製剤する場合が多い。
 サブユニット(subunit)とは、多量体タンパク質などを形成する単一のタンパク質分子のこと。
 実用化しているサブユニットワクチンとして、B型肝炎、帯状疱疹。

■ トキソイド・ワクチン
 トキソイド・ワクチンは、細菌の産生する毒素(トキシン)を取り出し、免疫を作る能力は持っているが毒性は無いようにしたもの。
 実用化しているトキソイド・ワクチンは、破傷風、ジフテリアなど。

■ 多糖体・タンパク結合型ワクチン
 多糖体をタンパクに結合(接合)させたものから生産するワクチン。これにより多糖
体ワクチンの幼児における有効性が高まる。
 実用化している多糖体・タンパク結合型ワクチンとして、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザB型などがある。


出典 米国研究製薬工業協会

従来のワクチンの製造法
 ワクチンの製造方法としては、鶏卵でウイルスを増やして作る方法(例:新型インフルエンザワクチン)やネズミにウイルスを接種し増やして作る方法、細胞にウイルスを感染させて増やして作る方法(例:水疱瘡ワクチン)、そして遺伝子組換えによって作る方法(例:B型肝炎ワクチン)の4つがある。
 これまでの新型インフルエンザ・ワクチンに関しては鶏卵を使う方法が採用されていた。
 しかし、この方法は大量の鶏卵を準備しなければならないことや製造に6ヶ月~12ヶ月の期間を要することから、より短時間で大量のワクチンを製造できる方法の開発が課題だった。
 新たに登場した遺伝子組換え技術によって作る方法では、時間がかかる鶏卵でウイルスを増やすプロセスや不活性化のプロセスが必要なく、人工的にウイルスの遺伝情報を含むDNAやRNAの遺伝子を合成するので、短期間に大量のワクチンが製造できるという利点がある。


作成 IMSSR


新型コロナウイルスワクチン
世界の主なワクチンの開発状況

出典 ニューヨークタイムズ 6月8日

 New York Times(6月8日)によると、現在、開発中の新型コロナウイルスのワクチンは、試験管試験や動物実験中のワクチン候補が77で、ヒトを対象にした臨床試験を開始したワクチン候補は93に上り、第3相の最終段階の臨床試験まで到達したのは30、認可(限定使用を含む)されたものが115となっている。
 認可(緊急使用を含む)されたワクチンは、Phizer/BioNTech(米独)、Moderna(米)、Oxford/Astrazeneca(英)、Johson&Johson(米)、Cansino(中国)、Sinofarm(北京、武漢)、Sinovac(中国)、Gamaleya(ロシア)、Vector Institute(ロシア)、Bharat Biotech(インド)である。
 世界初の認可となったワクチンはCansino BiologicsのAd5-nCoVで、2020年6月、中国人民軍限定の利用認可を得た。さらにSinovac、Sinofarm、武漢生物制品研究所の3ワクチン候補が緊急使用で認可された。ロシアはGamaleya Research Instituteが開発しているSputnik-Ⅴを、2020年8月に第2/3相臨床試験の結果を待たず認可し、さらにシベリアの国立ウイルス学・生物工学研究センターが開発したワクチン候補も認可した。
 一方、University of Queensland&CSL(オーストラリア)、Merck & Co(米)(2種類)、Imperial Collage London(英)のワクチン候補は開発中止となった。



 最近の遺伝子組み換え技術の急速な進歩で、従来のワクチン開発の手法が一変し、遺伝子ワクチンが登場した。
 DANワクチンやmRNAワクチン、ウイルス・ベクター・ワクチン、組み換えたんぱく質ワクチンなどである。遺伝子ワクチンは、培養や不活性化処理などの時間がかかる従来の製造手法とは違い、人工的にワクチンを製造できるため、短期間で大量のワクチンを製造可能というメリットがある。
 一方で、まだ実用化の実績がほとんどなく、有効性や安全性(副反応)、持続性などに懸念が残されている。








作成 IMSSR


出典 厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部

新型コロナウイルス ワクチン開発
■ mRNAワクチン

 抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAを利用したワクチン。 
 新型コロナウイルスの遺伝子情報を基に人工的に作った設計図(DNA)、「メッセンジャーRNA(mRNA)」を使用して、ヒトの細胞内でウイルスが持つ抗原タンパク質を作りヒトの免疫を誘導する。DNAワクチンに比較して、ゲノム(DNAのすべての遺伝情報)への挿入変異リスクが少ないが、ヒトの体内に入ると分解されるなど不安定で壊れやすいために、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid nanoparticle)などに封入して投与する。血液に含まれるマクロファージや好中球などによりウイルスを排除する「自然免疫」が過剰に誘導されるのを抑える効果も期待できる。
 投与後、細胞質内でmRNAが抗原たんぱく質に翻訳されて免疫が誘導されるため、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。これまで世界で承認されたmRNAワクチンはないが、ここ数年で研究開発が活発化している。

Moderna(米国) 「mRNA-1273」脂質ナノ粒子組み込み
 米国のバイオベンチャー、モデルナ社は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と協力して、新型コロナウイルスのワクチン、mRNA-1273を開発している。mRNA-1273はメッセンジャーRNA(mRNA)を使用して、体内にタンパク質を作り、新型コロナウイルスの免疫を生成するワクチンである。 メッセンジャーRNA(mRNA)の開発には最新の遺伝子工学が導入されている。

MedernaRNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使 mRNAワクチン

 3月16日、米国立衛生研究所(NIH)は、NIHの一部門である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とのモデルナ(Moderna)が協力して開発したmRNAワクチン「mRNA-1273」の第1相前期臨床試験を始めたと発表した。臨床試験は18~55歳の健康な男女45人を対象に実施、ワクチンを4週間隔で2回投与して安全性と免疫原性を評価する。

Moderna社 Norwoodの拠点(米 マサチューセッツ州ケンブリッジ) 面積18万4000平方メートル 従業員約200人 117億円をかけて建設 
出典   Pharmaceutical Technology

 前期相臨床試験で中和抗体生成を確認、これを受けて米生物医学先端研究開発局(BARDA)は4億8600万ドル(約520億円)の資金提供を行うことを決めた。
 Moderna社は米政府が進めているワープスピード作戦の一環として、米国立衛生研究所(NIH)が主導する全米10万人規模の治験者を対象にした大規模後期臨床試験の候補にOxford/ Astra Zeneca 、Johnson & Johnson 、Phizer社と共に選ばれ、7月27日、臨床試験が開始された
 7月26日、臨床試験開始の前日に米生物医学先端研究開発局(BARDA)はModerna社に対して4億7200万ドル(約500億円)の追加資金を拠出した。
 Moderna社は2021年には最大で10億回分、2022年には30億回分の製造を目指す。

米モデルナ 緊急使用認可(EUA)
 2020年11月30日、モデルナ社は、新たな分析で重大な安全性の問題は浮上せず、コロナに対する高い予防効果が示されたとして、緊急使用許可申請(EUA:Emergency Use Authorization)を申請した。 
 申請に伴って公表された一次解析では、約3万人を対象に「mRNA-1273」かプラセボ(偽薬:placebo 生理的食塩水)を接種した後期臨床試験の結果を分析した。約3万人の内196人が新型コロナウイルスに感染、196人の内、11人が「mRNA-1273」を投与したグループ、185人が偽薬を投与したグループで、有効性を94.1%とした。これは以前に公表した暫定結果(94.5%)とほぼ同水準である。重症化が確認された30人はいずれもプラセボを接種した治験者で、重症化の予防には100%の有効性が示されたとした。
 モデルナ社のワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで、遺伝子を人工的に合成して製造するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点がある。
 同社のホーグ社長は「『ワープ・スピード作戦』を通じて数時間以内に出荷する用意があり、すぐに供給を開始できる」と自信を示した。
 12月18日、米食品医薬品局(FDA:U.S. Food and Drug Administration)は、モデルナ社が開発した新型コロナウイルスワクチン、mRNA-1273の緊急使用を許可した。米国でコロナワクチンの緊急使用が認められるのは米ファイザー社に次いで2例目となる。

 mRNAワクチンは壊れやすいために輸送方法が難問だが、モデルナ製のワクチンは通常の冷蔵庫の庫内の温度である2~8度で30日間の保存が可能、マイナス20度では最大6カ月の保存が可能である。一方、ファイザー社のワクチンはマイナス70度の超低温での保存が必要となる。
 「ワープ・スピード作戦」のワクチン担当責任者は、通常の冷蔵保存が可能なことから、遠隔地域などへの配布が容易にできると指摘。「長期試験が完了すればさらなる安定化も期待できる」と述べた。 また米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は「ワクチンはトンネルの先にある光だ」と歓迎した。
 米政府は2020年8月、1本15ドルで1億本のワクチンを購入する契約をモデルナと締結。政府は開発資金として10億ドルをモデルナにすでに提供しており、政府が支払う1本分のワクチン価格は合計で25ドル、総額で25億ドルとなる。その後の追加の交渉で2021年7月までに3億回に増やした。
 12月中に米国ではファイザー製とモデルナ製の2種類のワクチンの緊急使用が始まり、年内に最大6000万回分、2021年には10億回分を超えるワクチンが米国内で供給される見通しとなった。
 週明け12月16日のニューヨーク株式市場ダウ平均株価は、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待から3万ドルの大台に迫る水準まで値上がりし、ことし2月につけた終値としての最高値を9か月ぶりに更新した。17日の日経平均も、29年5カ月ぶりに2万6000円台を回復した。まさに「ワクチン相場」である。
 日本はModerna社と5000万人分(1億回分)の供給契約を結び、5月21日に緊急使用承認、「大規模接種」や「職域接種」で接種が開始されている。


出典 Moderna HP

Pfizer(米国)/BioNTech(独) 脂質ナノ粒子組み込み 「BNT162b2」(Cominaty)
 2020年3月、ドイツのバイオベンチャー、BioNTECH社(ビオンテック)はmRNAコロナワクチンを開発し、米国の製薬大手、Phizer社(ファイザー)と提携して、5月に第1相臨床試験を開始した。7月27日、第2/3相臨床試験を3万人規模(その後4万4000人規模に拡大)のボランティアを対象に大規模試験を開始した。
 2020年7月、米政府は、19億5000万ドルを拠出してBioNTECH/Phizer社のワクチン、1億回分を確保する契約を結んだ。また年内にさらに19億5000万ドルを投じて追加の1億回分の供給を受けることになった。さらに最大で計4億回分の追加オプションの権利も手に入れた。
 12月2日、英国が世界の先頭を切って緊急使用認可に踏み切り、12月11日は米FDAも緊急使用認可を行った。12月31日にはWHOも緊急使用認可を行い、各国も相次いで認可した。
 一方、2020年12月、EUは1回目の供給契約(2億回分)を結び、接種1回当たり平均15.5ユーロ(18.6ドル)を支払うことで合意して、7億ユーロの前払い金を支払った。さらにこの契約に含まれていたオプションで1億回分の追加供給確保し、2021年1月には2回目の供給契約(3億回分)に調印し、確保したワクチンは6億回分に達した。EUの人口は約4億5000万人、全員に接種が可能な量である。
 4月23日、欧州連合(EU)欧州委員会は、今後数年間で新型コロナウイルスワクチンを最大18億回分購入する方向で、最終合意するという見通しを示した。ワクチン契約としては世界最大規模となる。EUのすべての住民が約4回の接種が可能な量である。ワクチン価格は、1回当たり19.5ユーロになるとされている。
 日本は、2021年2月14日、緊急使用承認がされ、政府はこれまで確保した1億4400万回(7200万人分)に5000回分(2500万人)上積みして、合計1億9400万回分(9700万人分)を確保した。

全米3万人規模の大規模試験実施
 7月27日、BioNTech(ビオッテク)社とPfizer(ファイザー)社は開発中のワクチン候補、BNT162b2について、3万人の治験者を対象とした第2/.3相大規模臨床試験を、米国やアルゼンチン、ブラジル、ドイツなど世界の約120の医療機関で開始した。18〜85歳のボランティアに2回投与し、安全性や感染や発症の予防に有効かどうかを評価する。半数は比較のためプラセボを接種する。10月12日、米国内での第2/.3相大規模臨床試験を4万4000人に拡大すると発表した。

PfizerとBioNTechのワクチン、BNT162 米政府が1億回分を確保
 2020年7月、米政府は米Pfizer社と独BioNTech社が開発中の新型コロナウイルスワクチンBNT162b2で、1億回分を購入すること合意した。米政府は19億5000万ドル(約2090億円)を支払う。
 Pfizer社の発表文によると、購入契約を結んだのは、米厚生省と国防総省で、年内に1億本分の供給を受けて米国民に無料で投与する。さらに年内に1億回分の追加を19億5000万ドルを投じて供給を受ける契約も結んだ。また最大で4億回分の追加オプションの権利も手にした。。
 この契約では、米国政府は、対象者一人当たり、ワクチンを2用量接種する場合には39ドル、1用量の接種では19.50ドルの価格で購入する。新型コロナウイルスのワクチン価格を取り決めた最初の契約となった。
 米投資銀行のアナリストは、この契約について「COVIDワクチンの価格設定に重要なベンチマーク(指標)を提供するだろう」と述べた。
 これに対して、WHOと国際枠組みを推進している国際組織GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の広報担当者は、現時点で具体的な価格を予測することは不可能だとし、暗に高すぎると批判した。
 トランプ政権は、100億ドル(約1兆700億円)を投じて、「史上最大の作戦」とする「ワープスピード作戦」を強力に展開し、全国民が1回接種するのに相当する3億本のワクチンを2021年初めまでに確保して、コロナ禍を克服する重要施策として位置づけている。
 ファイザー社は20年末までに1億本、21年末までに13億本の製造を目指すとしている。

米FDA、Pfizerのワクチン緊急使用承認 接種開始  
 12月11日、米FDAは、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可(EUA)を行った。これを受けて米国の保健当局、地方自治体、病院、物流業者は、ただちに接種に向けて動き出している。
 12月13日、ファイザー社のミシガン州の工場からアメリカ各地の145カ所の医療機関に向けて次々に発送が始まった。16日までに約300万回分が636カ所に運ばれる予定だ。
 最大都市のニューヨーク市は、14日にワクチン配布などの統括センターを開設する計画を発表。デブラシオ市長は会見で「これは物流だけの問題でなく、いかに公平を期し市民の信頼を確保するかという点で前例がない」と語った。
 12月14日、 ニューヨーク州でワクチンの接種が始まった。一番手はロングアイランド・ジューイッシュ・メディカル・センターの集中治療室(ICU)で働く看護師だった。 
 米国ではこの日、新型コロナ感染症による死者が累計で30万人を超えた。ワクチン接種の開始で、米国のコロナ対策の転換点となる可能性に期待が集まった。
 12月18日、米食品医薬品局(FDA)は、米モデルナ社のワクチンの緊急使用を許可した。これで2例目となる。
 一方、世界保健機関(WHO)は12月31日、米ファイザー/独ビオンテックのワクチンの緊急使用を承認し、世界各国で承認が相次ぐ。

CureVac(独 キュアバク)
 CureVac社は、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質を生成させるmRNAを利用することで、免疫システムを強くかつバランスよく活性化するように設計しているとしている。ベクターとして脂質ナノ粒子を使用し、ドイツのテュービンゲンにある同社の大規模製造施設で製造する。
 第1相臨床試験では、ドイツとベルギーの18歳から60歳の健常者168人が参加し、その内24人はプラセボ(偽薬)を投与する。投与量は2~8マイクログラム(マイクロは100万分の1)の範囲で、安全性を評価しつつ最適な用量を決定してヒトにおける免疫応答の特性を解析する。最初の臨床試験の結果は9月か10月に発表される見通しで、来年半ばまでにワクチンの承認が得られる可能性があるとの見解を示した。
 このワクチンは、トランプ政権が資金提供の見返りに独占しようとする動きがあったとして、ドイツが政府が反発して問題になった。
 ドイツ政府は、CureVac社に3億ユーロ(約400億円)出資して株式23%を取得する計画を発表した。

脂質ナノ粒子(LPN lipid-polymer hybrid nanoparticle)
 直径10nmから1000nmの脂質を主成分とする粒子で、DNAやRNA、薬物などを内側に内包させて運搬するベクターとして利用されている。
 脂質ナノ粒子の主な原料は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、ステロイドなどの生体適合性がある脂質と界面活性剤である。
 ベクターとして使用するためには、(1)非毒性であること、(2) 適切な場所および時間で内包した物質を放出可能なこと、(3) サイズ制御が可能であることがあげられる。

■ DNAワクチン

 抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったプラスミド(環状)DNAのワクチン。 
 大腸菌などのプラスミド(染色体とは独立して複製される小型の環状DNA)の中に、ウイルスの一部を作る設計図(DNA)を組み込んで、ヒトに投与することで、ウイルスの抗原タンパク質を生成させ、免疫を誘発する。核内でmRNAに転写され細胞質内で抗原たんぱく質を作ることで、免疫を引き起こすと考えられている。
 mRNAワクチンに比べ、抗原たんぱく質の発現には、転写と翻訳の2段階が必要となる。
 DNAが細胞のゲノムに組み込まれてしまう危険性や、抗DNA抗体が産出される危険性は残されている。
 これまで各国で数多くのDNAワクチンの臨床試験が行われたが、承認されたものはなく、その背景に免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)の低さが指摘されてきた。これを克服するために免疫効果を強化するアジュバンド(増強剤)を添加して免疫効力上げる手法が取り入れられている。

Inovio Pharmaceuticals(米)「INO-4800」
 Inovio社はMERS(中東呼吸器症候群)のワクチン開発を第2相臨床試験まで進めていたことから、その技術をCOVID-19に応用。
 Beijing Advaccine Biotechnologyと提携し、4月に臨床試験開始。秋には第三相臨床試験を開始して、ワクチン提供を目指す。

アンジェス/大阪大学 「AG0301-COVID19」
 2020年6月30日、大阪大学発バイオベンチャーのアンジェスと大阪大学は開発中の新型コロナウイルスのDNAワクチン、「AG0301-COVID19」の第1相臨床試験を、大阪市立大学の医療従事者、30人程度を対象に、安全性と有効性を確かめる第1相臨床試験を開始した。。
 アンジェス株式会社は、遺伝子医薬の開発を行う日本のバイオ製薬企業。大阪大学医学部森下竜一教授の研究成果を基に、1999年12月発足。2002年9月に大学発創薬型バイオベンチャーとして初めて東証マザーズに上場した。
 このDNAワクチンは、大腸菌のDNA分子であるプラスミドをベクターとして利用するプラスミドDNA・ワクチンである。
 アンジェスと大阪大学(臨床遺伝子治療学・健康発達医学)はプラスミドDNAを利用した慢性動脈閉塞症の開発実績があり、この技術を新型コロナウイルスのワクチン開発に応用する。
 ワクチンの製造は、プラスミドDNAの製造技術と設備を持つタカラバイオが受け持ち、ワクチンの中間素材はAGC Biologics(米)に委託、ヒトへの新規投与デバイス提供はダイセルが実施する。

■ ウイルス・ベクター・ワクチン(組み換えたんぱく質ワクチン)

 無害なウイルスをベクター(運び屋)として利用して、抗原タンパク質の遺伝子情報を忍び込ませてヒトの体内に入れる。ウイルス自体が細胞に侵入し、細胞質で抗原たんぱく質をつくり出すことで、抗体によりウイルスを排除する「液性免疫」と、免疫細胞の1つであるキラーT細胞などにより排除する「細胞性免疫」を引き起こすと考えられている。これまで、世界で承認されたウイルス・ベクター・ワクチンは、欧州で承認された米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のエボラウイルスワクチンと、中国で承認された中国の康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)のエボラウイルスワクチンの二つのワクチンがある。
 新型コロナウイルス感染症には、コロナウイルスの「スパイクたんぱく質」の遺伝子を組み込んだウイルス・ベクター・・ワクチンが主に開発されている。英オックスフォード大学と英大手製薬アストラゼネカはチンパンジー由来のアデノウイルス、中国のCansino BIO(康希諾生物)はアデノウイルス(5型)を、米国のJohnson & Johnsonはアデノウイルス(26型)、ロシアのスプートニクV(SputnikⅤ)は、アデノウイルスの5型と26型の混合型をベクターとして使用するワクチンを開発している。
 ウイルス・ベクター・ワクチンは、1回接種すると、ヒトの体内にウイルス・ベクターに対する抗体ができるため、2回目の接種では効果が出ない可能性がある。オックスフォード大とアストラゼネカは最終相臨床試験で、同じベクターを利用したワクチン候補を2回投与して治験を実施している。

Oxford University(英国)/Astra Zeneca(英国)「ChAdOx1 nCov-19」
 ラッサ熱や中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザのワクチンにも使われるアデノウイルウイルス・ベクター(ChAdOx1)を利用。アデノウイルウイルスはチンパンジーの風邪のウイルス。
 CanSino BiologicsやJohnson & Johnsonは、ヒトのアデノウイルウイルスをベクターとして利用するが、ヒトのアデノウイルウイルス・ベクターを使用してワクチン開発を進めているが、ヒトのアデノウイルウイルスの抗体を持っている人に対してはワクチン接種の効果が下がる可能性が指摘されている。こうした欠点を除くために、「ChAdOx1 nCov-19」ではチンパンジー由来のアデノウイルウイルスを無害化してベクターととして使用している。
 製造・販売はAstra Zenec社(英国・スエーデン)。MERSワクチンやインフルエンザ・ワクチンの開発で実績。
 イギリスでは、1万人の治験者を対象にフェーズII / III試験、ブラジルでは2000人の治験者を対象にフェーズIII試験を開始している。
 英政府は6550万ポンド(約86億5000万円)の開発資金を提供し、1億本のワクチンを確保した。その内、9月までに、3000万本のワクチンの供給を受け、緊急使用として医療従事者への接種を開始する計画である。また英政府は、Imperial College London(その後開発中止)が取り組んでいるワクチン開発にも支援して、両大学に対して合計1億3100万ポンド(約173億円)を拠出することを決めている。
 一方、米政府機関のBARDAは、Oxford University/Astra Zenecaに対して、最大12億ドル(約1284億円)の開発資金を提供、見返りに3億本のワクチンの供給を受ける。 トランプ政権の推し進めるワープスピード作戦の対象候補ワクチンとしている。
 欧州各国に対しては、6月13日、ドイツ、フランス、イタリア、オランダが設立した「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」と、「ChAdOx1 nCov-19」を最大4億回分を供給することに合意した。
 この合意で、IVAの4国はワクチンの供給を確保し、さらにワクチン同盟に参加を希望する他のEU諸国も負担金を支払えば加入を認め、ワクチン供給が受けられるようにするとしている。EU各国は、「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」を通じて、「ChAdOx1 nCov-19」へのアクセスが可能になった。
 AstraZenecaの最高経営責任者、パスカルソリオ氏は、「この合意により、開発が成功すれば、数億人のヨーロッパ人がこのワクチンを利用できるようになる。欧州向けの生産を加速してサプライチェーンを整備し、このワクチンが幅広く迅速に入手できるようにしたい。ドイツ、フランス、イタリア、オランダ政府の関与と迅速な対応に感謝する」と述べた。さらにOxford University/Astra Zenecaは、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)やGaviワクチンアライアンスと提携し、3億本を年末までに供給を開始するとしている。Gaviは世界の低・中所得国に供給する。
 ワクチン製造はアストラゼネカ社が担当、同社では今年末までには10億本の製造設備を整える計画である。
 さらにアストラゼネカ社はインドのワクチン大手Serum Institute of India (SII) とライセンス契約を締結、インドで10億本を製造し、うち4億回分は年内に製造するとしている。10億本のうち一定量(発表なし)はインド向けで、残りはGAVI によって他の発展途上国に配られる。アストラゼネカ社では、パンデミックが進行中の間は、「利益はゼロ」で供給を実施するとしている。自社での生産量と合わせるとワクチンの生産能力は年間20億本に上る。
 日本は、1億2000万回(6000万人分)を契約し、5月21日にModerna社と共に緊急使用承認を行った。

ワクチンの決め手は、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」
 オックスフォード大学には、1796年に世界で初めてワクチンを開発したエドワード・ジェンナーにちなんだジェンナー研究所があり、世界有数の専門家が集まっている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、可能な限り短時間で、ワクチン開発を行うためにはどうするかが焦点だった。
 ジェンナー研究所の計画の中心には、「プラグ・アンド・プレイ(起動後すぐに作動すること、元はコンピュータ用語)」と呼ばれる、画期的なワクチン開発の仕組みを整えていた。素早く柔軟で、未知の病気に対応するには格好の手法である。
 幼少期に受ける予防接種で使われる従来のワクチンは、弱体化や不活化したウイルスの一部をヒトの体内に投与する。しかし、こうしたワクチンの開発に時間がかかる。
 オックスフォード大の研究者はこれに代わるものとして、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」を作り出した。
 チンパンジーが感染する普通の風邪のウイルスを操作し、あらゆる感染症に対応できるワクチンの建材となるようにした。
 COVID-19以前には、インフルエンザやジカ熱、前立腺がん、チクングニア熱などの治療に、「チャドックス1」をもとにしたワクチンが開発され、計330人が投与されたという実績がる。
 チンパンジーから採取した風邪ウイルスは遺伝子操作が行われているため、人間が感染することはない。この「チャドックス1」に、治療したい病気の遺伝子コードを組み込むことでワクチンを作り上げある。対象の病原体が体内に入れば、免疫系が反応してヒトに感染させようとるウイルスを攻撃する仕組みである。免疫反応を引き起こす物質は「抗原」と呼ばれる
 「チャドックス1」は言わば、ミクロの世界の、優秀な郵便配達人のようなものだ。科学者は治療したい病気によって、「チャドックス1」に託す荷物、つまり抗原を変えるだけ済む。
 ジェンナー研究所のギルバート教授は、「(抗原を)入れたら、あとはおまかせ」と述べている。
(出典 BBC NEWS 「英オックスフォード大 どうやってこんなに速くできたのか」 2020年11月28日)


ChAdOx1 nCov-19 オックスフォード大学の開発した新型コロナウイルスワクチン  出典  BBCNEWS 4月21日

ChAdOx1 nCov-19(ワクチン)の働く仕組み 出典 BBCNEWS
・新型コロナウイルスの表面にある「突起」(Spike)のたんぱく質から遺伝子を採取する.
・この遺伝子をチンパンジーから採取した一般的な風邪のウイルス(アデノウイルス)の遺伝子に組み込む。アデノウイルスはヒトの体内では増殖しないように無害化。これがワクチンとなる。
・このワクチンをヒトに注入すると、抗体やT細胞などの免疫抗体が生成される。
・新型コロナウイルスに遭遇すると、抗体やキラーT細胞が招集されウイルスに取り付いて撃退する。




Johnson & Johnson(米国) Ad26.COV2.S(Ad26)
 アデノウイルウイルス・ベクター(Ad26)を利用。英オックスフォード大と英アストラゼネカ社が開発しているワクチン候補、ChAdOx1 nCov-19がチンパンジー由来の アデノウイルウイルスをベクターとして利用しているが、米Johnson & Johnsonは、ヒトのアデノウイルウイルスをベクターとして利用する。  H.I.V.ワクチンとエボラ出血熱ワクチンを開発した技術を応用。このワクチン候補は、他のほとんどのワクチンが二回の接種が必要だが、1回の接種で済むのが大きな特徴である。これによりワクチンの輸送や接種の負担を半減させることが可能になる。
 またアデノウイルス・ベクター・ワクチンは、冷蔵保存する必要があるが、凍結保存する必要はない。これに対して、開発が先行しているModernaとPfizerのmRNAワクチンは凍結保存が必要となる。アフリカなど高度な医療施設がない場所にmRNAワクチンを配布するには障壁となる。
 ワクチン候補は同社の子会社ヤンセンファーマが開発した。
 米ワープスピード作戦(Operation Warp Speed :OWS)の対象候補ワクチン。米政府機関のBARDAは、4億5600億円(約490億円)の開発資金を提供、その他の機関からの資金提供を加えると、同社のワクチンが承認された場合は、連邦政府は約10億ドル(約1100億円)を拠出し、Johnson & Johnsonは、1億本のワクチンを提供する。同社は2021年には、10億本のワクチンを製造する設備を整えるとしている。
 ワープスピード作戦は、これまでに民間企業のコロナウイルスワクチンに100億ドル以上の巨額の資金を投資している。
 9月23日、Johnson & Johnsonは米国内で、第3相臨床試験を開始した。この臨床試験は、米国のほか、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、南アフリカの約215カ所で、最大で大人6万人を対象に実施する。大人で安全が確認されれば、子どもを対象とした試験も実施する意向としている。
 
CanSino Biologics (Cansino BIO 康希諾生物)(中国) 「Ad5-nCoV」
 ヒトのアデノウイルウイルス(Ad5)をベクターとして利用したワクチン。エボラ出血熱のワクチン開発技術を応用。
 中国・軍事医学科学院の生物学研究所と共同開発。
 CanSino Biologics アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得した実績がある。このワクチンは国連の管理下で、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。
 武漢で108人に第1相臨床試験を開始し、第2相臨床試験を実施中。年内に実用化を目指す。

Ad5-nCoV 出典 CanSino Biologics (康希諾生物)

Gamaleya Research Institute(ロシア) 「スプートニクV(SputnikⅤ)」
 2020年8月11日、プーチン大統領は、「世界ではじめてけさ、ロシアで新型コロナウイルス・ワクチンとして登録された」と述べ、モスクワの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所(Gamaleya Research Institute)が開発を進めてきたワクチン候補を正式に承認したことを明らかにした。
 ガマレヤ(ガマレーヤ)疫学・微生物学研究所(Gamaleya Research Institute of Epidemiology and Microbiology )はガマレーヤ疫学および微生物学研究所は、モスクワに本社を置くロシアの研究ワクチン研究所。現在はロシア連邦保健省の管轄下にある。
 プーチン大統領の娘も臨床試験に参加し、「接種後は体温が38度に上がったが、翌日には37度を少し上回るぐらいになっただけだ。その後は順調だ」と述べ、大きな問題は生じなかったと強調した。安全性と効果は確認されているとして、早ければ8月末にも医療関係者や教員らへの集団接種を始めるとした。
 同研究所が開発したワクチンは、遺伝子組み換えDNAワクチンで、アデノウイルスをベクターとして使用して体内に新型コロナウイルスの構成要素を送り込む。オックスフォード大学とアストラゼネカが共同開発を進めているワクチンとほぼ同様のアプローチでだが、ベクターをAD5とAd26を使用する二種混合にするのが特徴である。

 開発を支援する政府系ファンド「ロシア直接投資基金」(Russian Direct Investment Fund [RDIF])のドミトリエフ総裁は、今回承認されたワクチンは、エボラウイルスのワクチン研究を応用したもので、1957年に旧ソビエトによって世界で最初に打ち上げられた人工衛星の名前にちなんで「スプートニクV」(SputnikⅤ)と名付けたと述べた。
「スプートニクが発信する信号を観測して米国人は驚愕した。このワクチンも同じだ。ロシアが一番乗りするだろう」、ロシア直接投資基金(RDIF:Russian Direct Investment Fund)のキリル・ドミトリエフ総裁は語った。
 同基金は、「20カ国から10億回分以上の注文を受けている」として、年産5億回分を超える量産体制を整える考えを示した。
 しかし、承認に必要とされる第3相臨床臨床試験は後回しにしており、米CNNは「治験の科学的データが公開されておらず、安全性や効果が検証できない」と批判した。
 ロシア保健省(Ministry of Health of the Russian Federation)によると、完了したのは第1/2相試験は約80人を対象にした治験で、同省は今後、接種と並行して1600人以上を対象にした第3段階の治験を行うとしている。同研究所のデニス・ログノフ副所長も、「子供や高齢者への接種は、完全な安全性の確認後だ」と開発途上にあることを認めたという。
 ロシアでは現在も1日5千人以上の新規感染者が確認され、累計死者は約1万5千人に上る。プーチン政権は、世界に先駆けたワクチン開発をアピールすることで、政権への批判をそらす狙いもあるとみられる。また、米国や欧州、中国との「コロナワクチン覇権争い」で、遅れをとりたくないと思惑も込められている。
 これを受けて、フィリピンのドゥテルテ大統領は、ロシアから新型コロナウイルスのワクチンの供与を受ける意向を示した。フィリピンは中国からもワクチンの提供を受ける方針。
 ロシア製のワクチンが認可されたことを受けて、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、「ワクチンを作り上げることと、それが安全かつ有効であることを証明することは別」と述べ、ロシア製ワクチンに「重大な懸念」を示した。
 ワクチンの一刻も早い実用化を目指す競争が過熱する中で、果たして接種しても安全なのかを巡る不安が世界中で高まっている。各国政府や製薬会社は、ワクチン開発が人々の不信感で台無しにならないよう重大な責任を負っているだろう。

Sputnik-Ⅴ 出典 MINZDRAV

■ プロテイン・ベース・ワクチン(組み換えタンパク・ワクチン)

 遺伝子組み換え技術を用いて抗原タンパク質を大腸菌や酵母、昆虫や植物、哺乳類の細胞などで増殖して、単離・精製して製造し、ヒトに投与する。投与後、抗原たんぱく質が細胞外から取り込まれ、ペプチド(たんぱく質の断片)に分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。多様な抗原タンパク質に対応可能だが、一般的に免疫効果が弱いという弱点があり、免疫効果を強化するアジュバンド(増強剤)を添加して免疫効力を上げなければならない。
 米国では2013年、昆虫細胞を使ったたんぱく質発現システムを用いた仏サノフィの季節性インフルエンザワクチン「フルブロック」が承認され販売されており、相当数の投与実績がある。
 新型コロナウイルス感染症に対しては、主にスパイクたんぱく質を抗原とする組み換えたんぱく質ワクチンを各社が開発中である。

田辺三菱製薬/Medicago 植物由来ウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)利用ワクチン
 VLPは、ウイルスのタンパク質を利用して、外見上ウイルスに似せて作られた粒子で、ワクチンのベクターにする。ウイルスのDNAなRNAは含まれず、無毒化されている。
 3月12日、田辺三菱製薬は、カナダの子会社メディカゴが新型コロナウイルスの遺伝子情報を基に植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功したと発表した。ウイルスと似た構造のVLPを接種すれば体内で抗体が作られ感染を防御できる。
 現在、COVID-19向けワクチンの非臨床試験を行っており、2020年8月までにカナダ国内で臨床試験を開始し、21年に試験を終えて認可申請を目指す。各国の規制当局とも相談し、カナダ以外でも実用化の機会を探るとしている。
 ワクチン開発を手掛けるメディカゴ社は田辺三菱が2013年に買収したカナダのベンチャー、メディカゴ(ケベック市)社である。メディカゴ社は植物(たばこの葉)に遺伝子を導入してVLPを作製する技術を持ち、開発中のインフルエンザワクチンは商業化目前にある。今回、新型コロナの遺伝子情報を取得してからわずか20日間でVLPの作製に成功した。
 VLPは副反応のリスクが低く、感染防御に優れる。VLPはウイルスと同じ構造をしているが、ウイルスのように増殖するための遺伝子情報を持たず増殖しない。ヒトに投与するとVLPをウイルスと認識して抗体が作られ、感染を防げる。VLPは1カ月程度で量産できる利点もある。
 メディカゴ社はワクチン以外にも新型コロナウイルスに対する抗体をケベック市内にあるラヴァル大学感染症研究センターと協力して研究中で、治療薬の実用化も目指すという。

Novavax 「NVX-CoV2373」(脂質ナノ粒子組み込み)
 COVID-19のスパイクたんぱく質の侵入阻止抗体の生成を促すmRNAを脂質ナノ粒子組み込むプロテイン・ベース・ワクチンを開発している。この技術を利用して開発したインフルエンザワクチンは、2020年3月に第3相試験を終了している。
 高レベルの中和抗体産生を促すために、Novavax社が特許を有する免疫増強アジュバント(Adjuvant)であるサポニン・ベースの「Matrix-M」を含有させる。
 5月に開始した約130人の患者を対象とした第1/2相臨床試験の第1相試験データは、8月に結果を公表したが、NVX-CoV2373は概して良好な忍容性を示し、ヒト回復期血清にみられる反応よりも優れた抗体反応を示したとした。8月に南アフリカで第2相臨床試験を開始した。 2,900人を対象とした盲検プラセボ対照試験では、ワクチンの安全性や有効性も検証する。
 そして9月、Novavaxは英国で最大10,000人のボランティアを登録する第3相臨床試験を開始した。参加者の半数にコロナワクチン「NVX-CoV2373」をその効果を高めるアジュバント「マトリックスーM」と共に2回接種するプラセボ対照試験となる。18-84歳が対象だが、少なくとも被験者の25%は高齢者となり、新型コロナで最大の影響が見られている人種・民族のマイノリティーの登録が優先される。登録完了までに4-6週間かかる見通し。10月には米国でさらに大規模な3万人規模の第3相臨床試験の開始を予定している。
 臨床試験の結果は、2021年の初めまでに得られる見通しとしている。
 Novavaxは、AGCの事業子会社であるAGC Biologics(本社:米国)に、AGC Biologicsに「Matrix-M™」の製造を委託した。Novavaxは、「Matrix-M™」の大量生産を可能にする製造プロセスを開発段階から支援する。
 また英Glaxo Smith Klineと提携、薬効を高めるアジュバンド(Adjuvant:補強剤)の提供を受ける。

「アジュバント」(Adjuvant:増強剤)
 アジュバントは、免疫応答を高めるためにワクチンの効果を高める添加する増強剤で、感染症に対し、ワクチン単体よりも、強力かつ長期的に持続する免疫を作り出すことが可能になる。たんぱく質ベースのワクチンは、mRNAワクチンなどに比べて免疫応答が弱く、アジュバントの補強が必要となる。
 アジュバントを使用することにより、ワクチンの効果が高まり、1回の接種に必要なワクチン用タンパク質の容量が抑えられて、より多くの人への接種可能になる。
 タンパク質ベースの抗原をアジュバントと組み合わせる方法は、現在提供されている多くのワクチンで使用されている確立された方法である。 

「ワープスピード作戦」のワクチンに 16億ドル(約1712億円)の資金提供
 Novavaxは、トランプ政権がCOVID-19の安全で効果的なワクチンの早期開発を目指して立ち上げた「ワープスピード作戦」(Operation Warp Speed:OWS)へ参加するワクチン候補に選ばれ、7月7日、米BARDAはNovavaxに対して16億ドル(約1712億円)の資金を提供すると発表した。
 同社が開発しているCOVID-19ワクチン、NVX-CoV2373の臨床試験(治験)や実用化、製造を支援するもので、2021年の第一四半期までに1億回分(1人当たり2回の接種が必要 計5000万人分)のワクチン供給を目指す。
 今回の支援は、3月のJohnson & John(4億5600万ドル)、4月の米Moderna(4億8600万ドル)、5月の英AstraZeneca/Oxford University(最大12億ドル)などに続くもので、コロナワクチン開発に向けた「ワープ・スピード作戦」の下で最大規模となる。
 BARDAとは別に、6月には米国防総省から6000万ドルの開発資金提供を受け、アメリカ軍の予防接種ワクチンとして1000万回を提供する契約を行っている。
 大規模な製造設備の整備を行いたいとしている。
 アザー米厚生長官は声明で、ワープ・スピード作戦にNovavaxのワクチン候補が加わったことにより「早ければ年末にも安全で効果的なワクチンを確保できる可能性が高まった」と述べた。
 また9月には、Novavaxは大手ワクチンメーカーのインドの血清研究所(Serum Institute of India)と年間20億本のワクチンを製造することで合意に達した

新型コロナのワクチン開発で米社と提携 年2.5億回分生産―武田薬品
 8月7日、武田薬品工業は、新型コロナウイルスのワクチン開発や製造で、米バイオ企業ノババックスと提携したと発表した。武田薬品工業は米ノババックス社が海外治験を実施しているワクチン、NVX-CoV2373の日本国内での開発や製造、流通を担う。
 これを受けて、厚生労働省は7日、新型コロナウイルスワクチンの生産体制整備事業の助成先として武田薬品工業を採択し、300億円を助成しすることを決めた。武田薬品工業は光工場(山口県)で2億5000万接種分以上の生産体制を整える。
 武田薬品が新型コロナのワクチンで提携するのは初めて。金額は非公表。来年後半には最初の製品を製造できる見通しとしている。

Sanofi(仏)/GlaxoSmithKline(独) 
 2020年9月、仏製薬大手のSanofiと英GlaxoSmithKlineフランスの製薬大手サノフィは開発したワクチン候補の第1/2相臨床試験を開始、2021年5月に第2相臨床試験(治験)で強力な免疫反応が示されたと発表した。。
 このワクチン候補には、すでにSanofiが開発に成功したインフルエンザワクチンと同じタンパク質ベースの遺伝子組換え技術を応用して、COVID-19のスパイク・タンパク質と正確に一致するDNA遺伝子配列を遺伝子組換え技術でタンパク質に組み込む。このタンパク質をバキュロウイルス・ベクターに入れてワクチンを製造する。バキュロウイルス(Baculovirus)は、昆虫を主な宿主とする核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus:NPV)。
 ワクチンには、GSKが製造する「アジュバント」(Adjuvant:増強剤)組み合わせる。
 今後、3万5000人以上の成人が参加する世界規模の第3相治験を開始する予定で2021年第4・四半期までの承認を目指し、最大10億回分のワクチン製造を計画している
 両社に対して、米国生物医学先端研究開発局(BARDA)は21億ドルの資金提供を行い、1億本のワクチンの提供を受ける。またEUに3億本を提供することで協議を進めている。

■ 不活性化ワクチン

 ウイルス自体を不活性化(感染性や病原性を喪失させる)して製造したワクチン。ワクチン開発の伝統的な手法で、これまでに数多くの実績がある。しかし、ウイルスの培養や不活性化のプロセスで時間を要し、短時間に大量生産することが困難という弱点がある。

Sinopharm(国営中国医薬集団 シノファーム)

中国 Sinopharm(北京・武漢)とSinovacの不活性化ワクチン 医療従事者に接種開始
 2020年7月22日、中国政府は医療従事者らを対象に限定して、国営製薬企業、Sinopharm(国営中国医薬集団 シノファーム)の子会社である北京生物製品研究所(Beijing Institute of Biological Prodeucts)と武漢生物製品研究所(Wuhan Institute of Biological Prodeucts)の2社と、科興控股生物技術(Sinovac Biotech)が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を正式に開始した。国家衛生健康委員会科技発展センターの鄭忠偉主任がCCTVの番組で明らかにした。臨床試験段階にあるワクチンの有効性や安全性を感染リスクの高い現場でも確認し、年内には一般市民へ接種を可能にする方針としている。
 緊急使用は「ワクチン管理法」の規定に基づき同委が申請し、薬品監督当局が専門家の検証を経て認可。目的は「医療従事者や出入国検査員らにまず免疫を持たせ、都市運営の安定を確保するため」と説明している。
 Sinopharmは、傘下の中国生物技術(CNBG)の北京市と武漢市の研究所でそれぞれ別個にワクチンを開発中である。このうち武漢生物製品研究所は、6月16日、中国国内で行った治験対象者1120人の第1/2相試験(プラセボ盲検試験)の結果を明らかにし、2回の接種で、被験者全員の中和抗体の陽性化率が100%で、深刻な副作用はなかったとした。
 北京研究所は4月にワクチンの製造設備を建設して年間生産能力1億2千万個の生産が可能になった。また武漢の研究所も年産能力1億個をめざして工場建設を進めて2021年には発売したいとしている。
 6月23日、Sinopharmは第3相臨床試験をアラブ首長国連邦(UAE)で実施すると発表した。北京と武漢のワクチン候補をそれぞれ5000人を対象に治験を行う。UAE側は現地で生産することも視野に入れ、9月14日には医療従事者に対する緊急使用を認可した。さらに月からはペルーとモロッコで第3相臨床試験を開始した。
 中国は新規感染者が減っていいて治験対象者を確保するのが難しくなり、感染者が増えている国外で治験を進めている。世界的にワクチン開発競争が激化している中で、中国はいち早い実用化をめざし、ワクチンの覇権争いに優位に立つ戦略だ。

Sinopharm 2020年末にもワクチン発売…2回分を1万5000円以下で
 中国紙・光明日報(電子版)などによると、国有製薬大手「中国医薬集団」(Sinopharm)は8月18日、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、2回分を1000元(約1万5000円)以下で販売する方針を明らかにした。年末にも発売の見込みだという。
 Sinopharmは、年間2億回分超を生産できる製造体制を確立している。(読売新聞 8月20日)

一般市民のコロナワクチン接種、11月にも準備完了予定 中国
 AFPによると、中国で開発されている新型コロナウイルスワクチンの一般市民への投与は、早ければ2020年11月にも準備が整うことが、関係者の話で分かった。各社がワクチン臨床試験の最終段階に入っており、開発競争は世界で過熱している。
 ワクチン開発を進めるSinovac Biotech (科興控股生物技術)とSinopharm(国営中国医薬集団)は、第3相臨床試験の終了後、年末にも自社ワクチンが承認される予定だとしている。
 9月14日夜、中国疾病対策予防センター(CCDC)のバイオセーフティー首席専門家は国営中国中央テレビ(CCTV)の取材に対し、「11月か12月ごろ」には一般市民のワクチン接種が可能になる予定だと述べ、「第3相臨床試験の結果を踏まえると、現在の進展状況は非常に順調」だとして、自身も4月にワクチンを接種したがこれまでのところ体調は良好だと話した。

Sinovac Biotech (科興控股生物技術)(中国) 「CoronaVac 克爾来福」
 Sinovacは、北京に本拠を置くナスダック上場企業。
 2020年4月から5月にかけて、江蘇省と河北省で第1/2相臨床試験を実施、90%の治験者に中和抗体を生成と安全性を確認した。
 6月12日、Sinovac Biotech は、ブラジルの製薬メーカー、ブタンタン研究所と提携し、ワクチン候補の第3相臨床試験をブラジルで実施することで、ブラジル・サンパウロ州と合意した。
 Sinovac Biotech社は、7月から9000人の治験者を対象に臨床試験を開始した。続いて8月にはインドネシアで第3相臨床試験を開始した。
 ブタンタン研究所はSinovacが開発したワクチンのライセンスを受けて2021年6月までワクチン生産を開始し、ブラジル国内に提供する計画である。
 ブタンタン研究所は、世界的に有名な毒蛇研究施設。
 また、9月22日、トルコでも第3相臨床試験を開始、第一段階では医療従事者、1300人を対象、第二段階では一般の治験者12000人を対象に、2週間の間隔を空けて2回接種する。
 第3相試験には数千人の患者の参加が必要だが、感染者が減少している中国国内では大規模な治験実施は不可能なため、中国のワクチン開発企業は外国との協力を模索していた。



新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~

新型コロナウイルス 治療薬の種類 アビガン レムデシベル デキサメタゾン イベルメクチン モノクローナル抗体



2021年6月1日 改訂
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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五輪観客提言 尾身会長

2021年06月19日 10時52分34秒 | 東京オリンピック

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクに関する提言(2021年6月18日)


東京オリンピック 尾身会長批判 五輪リスク 「ワクチン」「検査体制」「医療体制」一体何を提言したのか

















五輪提言をまとめた専門家有志メンバー
 五輪提言をまとめた専門家有志メンバー(計26人)は以下の通り(敬称略)。阿南英明(神奈川県医療危機対策統括官、藤沢市民病院副院長)▽今村顕史(東京都立駒込病院感染症科部長)▽太田圭洋(日本医療法人協会副会長)▽大曲貴夫(国立国際医療研究センター病院国際感染症センター長)▽小坂健(東北大学大学院歯学研究科副研究科長)▽岡部信彦(川崎市健康安全研究所長)▽押谷仁(東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授)▽尾身茂(政府の新型コロナ感染症対策分科会長)▽釜萢敏(公益社団法人日本医師会常任理事)▽河岡義裕(東京大学医科学研究所特任教授)▽川名明彦(防衛医科大学内科学講座=感染症・呼吸器=教授)▽鈴木基(国立感染症研究所感染症疫学センター長)▽清古愛弓(全国保健所長会副会長)▽高山義浩(沖縄県立中部病院感染症内科医師)▽舘田一博(東邦大学微生物・感染症学講座教授)▽谷口清州(国立病院機構三重病院長)▽朝野和典(大阪健康安全基盤研究所理事長)▽中澤よう子(全国衛生部長会会長)▽中島一敏(大東文化大学スポーツ・健康科学部健康科学科教授)▽西浦博(京都大学大学院医学研究科教授)▽長谷川秀樹(国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長)▽古瀬祐気(京都大学ウイルス・再生医科学研究所特定准教授)▽前田秀雄(東京都北区保健所長)▽吉田正樹(東京慈恵会医科大学感染症科教授)▽脇田隆字(国立感染症研究所長)▽和田耕治(国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)


「五輪開催」すべき 盲目的に「中止」唱えるメディアのお粗末 根拠なし パンデミック・リスク 
開催実現で「Withコロナの時代のニューノルマル」をレガシーに


朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき

朝日新聞は東京五輪の「オフイシャルパートナー」を返上せよ

「ぼったくり」は米国五輪委員会 バッハ会長は「ぼったくり男爵」ではない メディアはファクトを凝視せよ

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2021年6月18日


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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック 「ぼったく男爵」批判 「ぼったくり」は米国五輪委員会 バッハ会長は「ぼったくり男爵ではない」 メディア批判 

2021年06月16日 17時11分12秒 | 東京オリンピック
「ぼったくり男爵」批判 「ぼったくり」は米国五輪委員会
バッハ会長は「ぼったくり男爵」ではない メディアはファクトを凝視せよ





バッハ会長は「ぼったくり男爵」 日本政府は「五輪中止」で「損切り」を 米ワシントンポスト紙
 新型コロナ禍での五輪開催に否定的な報道が相次ぐ米国で、5月5日、米ワシントン・ポスト紙(電子版)は、バッハ会長を「ぼったくり男爵」(原文:Von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach)と呼び開催を強要していると主張するコラムを掲載した。貴族出身者が多いIOC委員を「地方行脚で食料を食い尽くす王族」と皮肉り、「開催国を食い物にする悪癖がある」と主張した。
(原文:Von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach, and his attendants have a bad habit of ruining their hosts, like royals on tour who consume all the wheat sheaves in the province and leave stubble behind.)
 コラムでは大会開催を前進させている主な要因を「金だ」とした。IOCは収益を得るための施設建設やイベント開催を義務付け、「収益のほとんどを自分たちのものにし、費用は全て開催国に押し付けている」と強調。コロナ禍で開催に向けて腐心する日本政府に対して、五輪を中止する「損切り」を訴えかけた。
(原文:Japan’s leaders should cut their losses and cut them now.)
 同紙では日本の世論調査で7割以上が中止・再延期を求めている現状や、多くの医療従事者に負担を強いることなども指摘。「コロナの世界的大流行の中で国際的なメガイベントを主催することは不合理な決定」と断言し、「五輪のキャンセルは苦痛だが、スッキリする」と結んだ。
(原文:A cancellation would be painful — but cleansing.)

 日本の新聞・雑誌・テレビなどのメディアでは『バッハ会長は「ぼったくり男爵」』という見出しが躍った。誰が訳したのか分からないが、なかなか「うまい」和訳で、メディアは飛びついた。
 しかし、一体、何をもって「ぼったくり男爵」と主張しているのだろうか。これだけ激しい言葉を使用して、バッハ会長を非難しているのだから、「ぼったくり男爵」と主張するファクトが書かれているのではと、記事を読んでみると、根拠が何も書かれていない。日本のメディアは、「ぼったくり男爵」という言葉に踊らされて盲目的にワシントン・ポスト紙に追随してバッハ会長を非難した。あまりにもジャーナリズムとしてお粗末、唖然とする。
 筆者がバッハ氏だったとしたら「名誉棄損」で告訴する。


トーマス・バッハIOC会長 出典 IOC Media

ワシントン・ポスト紙の原文を点検する
■ 原文:Baron von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach Baron Von
*Baronは「男爵」、Vonは貴族に使われるドイツ語。バッハ会長がドイツ出身なので揶揄するために使用。

*rip offは「騙し取る」、「略奪する」、「法外な料金を要求する」の意。

*a.k.a=also known asの略 「〜として知られる」「別名」
*von ドイツ語の前置詞。英語の前置詞 from/of
 vonは、ドイツ語圏で、諸侯・貴族の爵位(Fürst)や準貴族[地主貴族](Junker)の姓の初めに冠する称号として使用

*「ぼったくり」
 「ぼったくる」とは「ぼりたくる」が音的に変化したもので。「ぼり」は「暴利」を動詞化した「ぼる」の連用形。つまり、「ぼったくる」とは暴利を貪りまくること=法外な値段をとることをいう。(日本俗語辞書)
 
■ 原文:Japan’s leaders should cut their losses and cut them now.
*cut loss  「損切り」 
 含み損が生じている有価証券や株式などの投資商品を見切り売りして損失額を確定すること。(金融・証券用語)



出典 IOC Media

IOCは「ぼったくり」ではない


IOCの収入構造 放送権料とスポンサー収入で90%以上
 国際オリンピック委員会(IOC)の収入は、ソチ冬季大会とリオデジャネイロ夏季大会が開催された2013年~2016年の4年間で、約57億ドル(約6270億円)、内訳は放送権料が約41億6000万ドル(約4577億円)で73%、TOP Programmeスポンサー料が約10億2600万ドルで18%、その他の権利収入が4%、その他の収入が5%となっている。
 放送権料とスポンサー収入で90%以上が占められている。

収入の90%は、大会組織委や五輪関連団体に配布 IOCに残るのは10%
 約57億ドル(約6270億円)のIOCの収入の10%、約5億7000万ドル(約627億円)が、IOCの運営費用に充当され、残りの約50億ドル(約5500億円)が、開催都市の組織委員会や国際競技団体(IF)、各国オリンピック国内委員会、アスリートへの支援、ユース・オリンピックの開催経費などに分配される。

▼ 大会開催経費として、約25億ドル(約2750億円)、50%が組織委員会に配分される、リオデジャネイロ夏季五輪には15億3100万ドル(1684億円)、平昌冬季五輪には8億8700万ドル(約975億円)を配分。
 東京2020大会には、放送権料からのIOC負担金が850億円、TOPスポンサー料から560億円、合計1420億円を拠出することになっている。(組織委員会V4予算)

▼ 国際競技団体(IF:International Federation)や206の国と地域の国内オリンピック委員会(NOC)、五輪連帯プログラム(オリンピック・ソリダリティ・プログラム)には約19億ドル(約2090億円)、38%が配分される。

▼ ユース五輪(Youth Olympic)や追加のアスリート支援プログラム、五輪ソサイエティ推進プログラム(オリンピック・ソリダリティ・プログラム)などには約9億ドル(990億円)、12%が配分される。

 IOCのこうした巨額の分配金が、IFやNOCの組織運営を財政的に支援し、アスリートの競技活動を支えている。国際オリンピック委員会(IOC)のマネーフローのメカニズムが世界のスポーツ振興を支えているといっても良い。
 IOCの「巨大な権力」が、豊富な財政資金で構築されているのは間違いない。
 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)の運営経費は、収入の10%、「管理費」程度である。
 4年間で約5億7000万ドル(約627億円)は、決して少額とは言えないが、10%は妥当な水準であろう。日本国内の国や地方自治体が発注する委託業務の管理費は、10%が常識、社会的に認知されている数字である。
 国際オリンピック委員会(IOC)の運営経費、「10%」を「ぼったくり」と批判するのは的外れだ。


出典 IOC Anual Report 2018
 
バッハ会長の収入は年収22万5000ユーロ(約2900万円)
 2015年4月、国際オリンピック委員会(IOC)は役員報酬の詳細を初めて公表し、トーマス・バッハ(Thomas Bach)会長は年間22万5000ユーロ(約2900万円)の経費を受け取ることが明らかになった。
 潤沢な資金を持つIOCの倫理委員会は声明で、「全面的な透明性を確保するために」、計102人の委員と計35人の名誉委員に対する報酬について詳細に公表すると述べている。
 4人のIOC副会長を含む計14人の理事には、会議や公務で出張する際に日当900ドル(約11万円)が支払われる一方で、他の委員は同様の場合に日当450ドル(約5万5000円)を受け取ることになっている。
 また、全IOC委員の報酬は年間7000ドル(約84万円)となっており、交通費や宿泊費については、別途IOCから支払われるという。
 IOC委員はボランティアで名誉職であり、基本的に無報酬だが、IOCの委員会として活動する場合は別途報酬が払われる。
 バッハ氏の年収22万5000ユーロ(約2900万円)は、低額とは言えないが、グローバルな巨大な組織の長としての報酬としては、他の国際機関の長と比較して、不当に高額とはいえない。
IOCの無駄遣いは改善を
 IOCの本部があるスイス・ローザンヌ、レマン湖を望める高い台に1915年創業の五つ星ホテル、「ローザンヌ・パレス・アンド・スパ」がそびえ立つ。最上階のスイートルームは、バッハ会長の住まいとして無償で提供されている。
 「ホテルのエントランスの上には五輪旗が翻る。IOCによると「会長がホテルに滞在しているときは旗を掲げるのが慣例」という。
 2019年6月、IOC本部の落成式直前に開かれた理事会は、このホテルが会場となった。地下1階の会議室はレストラン脇の広間。入ると、きらびやかなシャンデリアが下がる荘厳な雰囲気で、若人のスポーツの祭典を担う組織というより、「貴族のサロン」と揶揄されてきた伝統が薫る」(朝日新聞 2019年9月27日 五輪をめぐるローザンヌ:パレスホテルは「会長公邸」)
 国際オリンピック委員会(IOC)のこうした体質は批判されてもしかるべきで、是正する必要が急務だ。
 
 しかし全体として、バッハ会長を「ぼったくり男爵」として糾弾するのは無理がある。ワシントンポスト紙はどんなファクトをもとに「ぼったくり男爵」と批判したのか、メディアとしての正義が問われる。 


IOC本部 スイス・ローザンヌ 出典 IOC Media

高騰する放送権料の主役は米国メディアの熾烈な競争
 2014年5月、国際オリンピック委員会(IOC)は米NBCと2022年から2032年までの11年間に渡って6大会の米国内の放送権の独占契約を結んだ。
 契約料は空前の76億5000万ドル(約8415億円)、それに1億ドルの「オリンピック運動推進」を目的とした「ボーナス」も支払いうということで決着した。
 この契約は、2024年(パリ大会)、2028年(ロサンゼルス大会)、2032年(ブリスベン大会[予定])の夏季五輪大会と2022年(北京大会)、2026年(ミラノ/コルティナ・ダンペッツォ大会)、2030年(未定)の冬季五輪大会の6大会が対象となる。無料テレビ放送(地上波、衛星)、有料TV放送(衛星放送、CATV)、インターネット、モバイルの権利などすべてのプラットフォームの権利が含まれている。

 米国内では、NBCを始め、各ネットワークは、視聴者を獲得する「キラー・コンテンツ」としてスポーツのライブコンテンツに獲得に凌ぎを削っている。スポーツのライブコンテンツは、ほとんどの視聴者がリアルタイムで視聴するので、テレビコマーシャルをスキップしないため、広告主に人気がある。
 オリンピックのコマーシャル需要は依然としてスポーツイベントの中で最高ランクに位置付けられている。
 2013年、NBC Universalの経営権を手中にしたComcastは2014ソチ冬季大会に戦略的に取り組み、プライムタイムのライブ中継や関連番組を強化して、傘下のケーブルネットワークの視聴率の上昇に成功した。 また大会関連のライブストリーミング・サービスを拡充して数千万ドルの広告料を集めた。
 メディアアナリストは、Comcastが支払う放送権料は、前回の契約と比較して、1大会当たり「約20%増程度」としている。一般的には「20%増」は破格だが、これは他のビック・スポーツの放送権料の増加率とほぼ一致しているとして、平均の増加率だとしている。
 今回の契約でNBC Universalは6大会で、1大会当たり平均12億7500万ドル(ボーナス込み12億9200万ドル)を支払っています。これは、2012年の前回の契約の1大会当たり10億9500万ドルよりも約16%(同約18%)増加した。
 IOCのトーマスバッハ会長は、「NBCとの長期的なパートナーシップを築くことで財政的な安定性を確かなものにできた」 と述べた。

 2014年の放送権獲得を巡って、NBC Universal はDisney's ESPN/ABC や News Corp.'s Fox Sportsと激烈な競争を繰り広げてきた。
 しかし、IOCは前回のように公開入札プロセスを実施せず、IOCとNBCの2者間の秘密の交渉で取り決めが行われた。
 IOCはNBCとの契約交渉を行うにあたって、NBC Universalの競争相手のDisney's ESPN/ABCやNews Corp.'s Fox Sports、CBSにはアプローチしなかったとされている。NBC以外のネットワークとも交渉することで、「リスクを取る理由を見つけられなかった」と述べている。
 空前の76億5000万ドル(約8415億円)に高騰した放送権料の背景には、米国内の放送機関の熾烈な放送権獲得競争がある。

米国メディアの熾烈な競争は前回から始まっていた
 2012年6月、米メディア企業、NBC Universal (NBCU)は、2014年ソチ冬季五輪と16年リオデジャネイロ夏季五輪のほか、まだ開催地が決まっていない18年冬季五輪(平昌)と20年夏季五輪(東京)の計4大会の米国内向け独占放送権を獲得したと発表した。4大会の放送権料は合計43億8000万ドル(約3500億円)に達した。
 IOCは、2014年ソチ冬季五輪以降の米国内の放送権については、米国内のメディアを対象に入札を行った。応札したのはNBC Universal の他、Disney's ESPN/ABCやNews Corp.'s Fox Sportsである。
 News Corp.'s Fox Sports は、NBC Universalと同じく4大会放送権一括取得を提案し、提示額は34億ドル。Disney's ESPN/ABCは14年、16年の2大会のみ対象の14億ドルを提示したとされている。
 結果、4大会一括で43億8000万ドルを提示したNBC Universal が落札した。破格に高額の落札額に対して、NBC Universalは「法外な高値で落札した」と非難を浴びた。
 ライバルの1つであるESPNは、「規律ある入札」を行ったとの声明を発表し、「これ以上先に進むことは、私たちにとってビジネス上意味がない」と述べた。
 ウォールストリート・ジャーナル紙などによれば、NBC Universalは2014ソチ冬季大会に、7億7500万ドル(ソルトレーク冬季大会[自国開催]に支払った8億2000万㌦を下回る)、2016年リオデジャネイロ夏季大会に12億2600万㌦。開催地が決まっていない2018年冬季大会(平昌大会)に9億6300万㌦、2020年夏季大会(東京大会)に14億1800万㌦を支払うことで合意したという。

NBCが決める放送権料の相場
 世界各国・地域の放送権料は、基本的には視聴者数に応じて決められるのが原則である。
 しかし、実態は、NBC UniversalとIOCで決められる放送権料が、世界各国・地域の放送権料の「相場」になる。
 IOCは、常に最初に米国内の放送権の交渉を開始する。
 米国内の放送権料が決まると、概ね欧州はその半分程度、日本は欧州の半分程度が目安になる。
 米国内の放送権を握るのはNBC Universal、欧州地域はDiscovey/Euro Spots。日本ではNHKと民放キー局5社で構成するJapan Consortium、この3者でIOCの放送権料収入の大半を占める。
 五輪の放送権料の暴騰は、米国内のメディアの放送権獲得競争が主因であることは間違いないだろう。


NBCのオープンスタジオ Rio2016 コパカバーナ・ビーチ 出典 NBC

「ぼったくり」は米国五輪委員会
 放送権料に次いでIOCの収入の約18%を支えるのはTOP Programmeスポンサーシップである。
 TOP Programmeに参加している企業は、現在、世界各国の大企業、14社で、Airbnb, Alibaba, Atos, Bridgestone, Dow, GE, Intel, 蒙牛/Coca-Cola, Omega, Panasonic, P&G, Samsung, TOYOTA, Visaが名を連ねている。
 日本の企業は、トヨタ自動車、パナソニック、ブリジストンの3社である。
 IOCが手に入れるTOP Programme収入は、2014ソチ大会と2016リオデジャネイロ大会で10億3000万ドル(約1100億円)、2018平昌大会と2020東京大会で11億ドル(約1210億円)、2022北京大会と2024パリ大会で20億ドル(予想)とされている。
 TOP Programme収入は、33%が夏季五輪組織委員会に、17%が冬季五輪組織委員会に、20%が米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)、10%はIOC、残りの20%は各委員会にそれぞれ分配されることになっている。
 ここで問題なのは、20%が米国USOPCに特例で配分されることだ。TOPに占める米国企業の割合が突出しているためにこの優遇措置が設けられている。
 余りにも唖然とする米国優遇措置である。
 また、IOCの放送権料収入は、開催都市の組織委員会が49%、米国USOCが12.5%、残りの38.5%は国際スポーツ連盟連合(GAISF)、各国NOC、IOCに配分される。
 ここでも米国USOCは、12.5%という優遇措置が設けられている。その理由は、米国の放送機関が放送権料の半分近く負担していることである。
 
 TOP Programmeの「20%」、放送権収入の「12.5%」、米国に対する優遇措置は眼に余る。
 「ぼったくり男爵」はバッハIOC会長ではなくて、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOC)だろう。

 ワシントンポスト紙を始め、メディアはこうしたファクトを知っているのだろうか、仮に「知らずに」批判をしたとしたら、余りにもお粗末な報道である。



深層情報 Media Close-up Report ~東京オリンピック・新型コロナウイルス・4K/8K 5G~

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

東京オリンピック 尾身会長批判 五輪リスク 「ワクチン」「検査体制」「医療体制」一体何を提言したのか


朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき

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嘉納治五郎財団 活動終了

2021年06月09日 04時55分58秒 | 東京オリンピック


嘉納治五郎記念センターが昨年末で活動終了、五輪招致に関与
 2021年1月26日、Reuters通信は、 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が代表理事を務め、東京大会の招致活動にも関わっていた一般財団法人「嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」が、2020年12月末に活動を終了していたことが分かったと伝えた。同財団を巡っては、東京大会の当時の招致委員会から、使途不明の資金が支払われていたことが明らかになっている。
 同財団のウエブサイトは現在、「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターは、2020年12月末をもちまして活動を終えました」との案内を表示。電話には応答がなく、職員に対するメールの問い合わせにも返答がなかった。
 昨年11月、バッハIOC会長が来日した際の記者会見で森会長はこの疑惑についてReutersの記者から追及されて、「私がその組織の会長であることは事実だが、財政運営には直接関与していないので分からない」とし、財団の財政には直接関与しておらず、協会が入札で受け取った金額については知らなかったと述べた。
 また同財団には東京都の多羅尾光睦・副知事が評議員を務めているが、東京都の担当者は「(同財団の)活動が終了することについては説明を受けていないし、知らなかった」と話した。
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、東京オリンピック招致委員会による東京組織委員会の現在の理事会メンバーへの支払いに関してIOCの規則に違反していないと述べ、森氏を擁護している。
 ロイターは五輪の東京招致を巡り、当時の招致委員会から電通の元幹部の会社や嘉納治五郎センターなどに、使途が明確でない多額の資金が支払われていたことを数度にわたって報じた。東京招致をめぐっては、今なお仏司法当局が国際的な贈収賄疑惑の捜査を続けている。
 この内、同財団には、招致委員会から約1億4500万円が支払われていることが、Reutersが閲覧した同委の銀行口座記録から明らかになっている。この銀行口座の記録は日本の検察がフランス側に提供したものだという。
 「嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」は2009年5月に設立。日本オリンピック委員会の創設者である嘉納治五郎の理念を継承し、スポーツ国際交流・協力等の活動を通して国内外のスポーツの発展を図ることなどを目的にしている。
 同財団の事務局職員は、招致活動のために米国のコンサルティング会社1社と個人コンサルタント2人と契約を交わしたことを認めている。この職員はロイターに対し、招致委から支払われた資金については、招致に関わる国際情報を分析することが主な目的だったと答えている。



竹田JOC会長退任 五輪招致で贈賄疑惑 窮地に追い込まれた東京2020大会


深層情報 Media Close-up Report ~東京オリンピック・新型コロナウイルス・4K/8K 5G~

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

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ボランティア1万人辞退 新型コロナウイルスへの不安

2021年06月03日 09時23分36秒 | 東京オリンピック


ボランティア1万人辞退 コロナ感染不安
 6月2日、東京2020大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は、競技場などで運営を支える約8万人の「大会ボランティア」のうち、約1万人が辞退したと明らかにした。新型コロナウイルスの感染に対する主な理由と思われるがボランティアの1割離反する異常事態になった
 武藤氏は辞退の理由について異動や進学などの影響にを上げる人もいたが、「コロナ感染への不安があるのは間違いない」と認めた。2月には森喜朗前会長の女性蔑視発言で辞退者が約1000人に上った。そして、変異株の広がりなどで感染拡大が収まらず、ボランティアに対するワクチン接種や検査体制など感染防止対策示されない中で不安が増して、辞退者が続出した。  
 大会組織委員会の武藤事務総長は、大会運営への影響について、海外からの観客の受け入れ断念を決めたこともあり、「当初の計画が簡素化されたので問題ない」としている。
 東京大会は延期前の当初計画では、過去最大規模となる約11万人が運営を支える計画だった。競技会場などで運営に関わる大会ボランティアが8万人、駅や空港で観光案内を務める、自治体が募集する都市ボランティアが3万人としていた。
 大会ボランティアに対しては、5月にユニフォームなどを配布し、6月には各競技場で「会場別研修」が始まる。地方に住むボランティアは、交通費、宿泊費を自己負担して東京などに来なければならない。
 ボランティアに皆さんは「会場別研修」のタイミングで、改めてボランティアとしての活動を継続するのか、熟慮して判断して欲しいと考える。



出典 東京2020大会組織員会


東京オリンピック ボランティア 新型コロナウイルス・暑さ対策に不安 タダ働き やりがい搾取 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長




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2021年6月3日
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大坂なおみ 全米オープン 人種差別抗議 マスク セリーナ 暴言 警告 セリーナは謝罪せよ セレナ・ウイリアムズ

2021年06月02日 08時50分49秒 | 全米オープン


大坂なおみ 全仏オープン棄権  「60億円」の女王の「驕り」


全豪オープン 大坂なおみ優勝 ブレイディーをストレートで破る




出典 Australian Open 2021

▽ 第一セット 大坂おなみ 6-4 ブレイディ
▽ 第二セット 大阪なおみ 6-3 ブレーディ

全豪オープン 大坂なおみ セリーナをストレートで破り決勝進出




出典 Australian Open 2021

 大坂なおみはセリーナ・ウイリアムスを、6-3、6-4のストレートで完勝、決勝進出。
 大坂は立ち上がりの第1セット、第1ゲームにいきなりブレークを許し苦しい立ち上がり。憧れの元女王との対決に「緊張していて怖かった」と漏らした大坂だが、第3ゲームから2度のブレークを含めて5ゲームを連取し、第一セットを制する。
 第2セットも大坂ペースが続き、第1ゲームをいきなりブレーク。第2ゲームでは最速193キロの弾丸サービスで攻め続け、主導権を握った。第8ゲームにダブルフォールト3つでブレークされたが、第9ゲームではラブゲームでブレークバック。第10ゲームをあっさりキープし、勝利を手にした。
 セリーナは先にブレークを奪う好スタートを切ったが、ストローク戦で大坂に押されると4度のブレークを許し、1時間15分で力尽きた。
 決勝戦の相手はムチョバ(Karolina Muchova チェコ)を破ったジェニファー・ブレイディ(Jemmifer Brady 米国)で、決勝には初進出、2月20日(土)のナイトセッションで決勝戦が行われる。これまでの戦績は、大坂の2勝1敗、2020全米オープンでは激戦を繰り広げ、2-1で大坂が勝利している。

 セリーナは敗戦後の会見で、「緊張していたとは思わない。今回の違いはエラーの数だと思う。今日は、これまで乗り越えてきた重要な場面でミスをたくさんしてしまった。特にフォアハンドのエラーが多かった」と述べ、「彼女(大坂)は何でもうまくやれる。いいサービスがあり、素晴らしいリターンがあり、フォアハンドもバックハンドも強い。でも、準決勝で誰と対戦するかは問題ではない。誰もが次のラウンドへ勝ち進むために努力するはず。面白い試合になると思う。彼女は最高のライバルだし、とてもクール」と語った。そして「引退は考えているか?」と質問を浴びると、目に涙を浮かべたセリーナは「会見は、もう終わり」と伝えて立ち上がり、途中退席した。
 2年前、全米オープンで、大坂と決勝で対戦したセリーナは、女子テニス界の「女王」としてのプライドと驕りがあった。今回の全豪オープンでは、セリーナは「女王」としての地位は最早失われたことを受け入れ「挑戦者」としての謙虚さすらあった。ラケットをコートに叩きつけ、審判に罵詈雑言を浴びせる傲慢さは消えていた。しかし、同時に対戦者を圧倒する爆発的なパワーも失われていた。
 伊達公子氏は、WOWOWの中継番組で、大坂なおみについて、「とにかく強かったということしか残らない。ここまで好調だったセリーナに余裕を持って完勝した」と語った。
 今回の対戦で女子テニス界の「世代交代」がはっきり示されたといっても良い。1998年全豪オープンでグランドスラム・デビューを果たして以来、女子テニス界をパワーで圧倒しグランドスラム23勝を達成したセリーナを、大坂がパワーで完全に上回った。これまでセリーナにパワーで打ち勝った選手はいない。まさに大坂が新たな時代のトップに上り詰めた瞬間が到来した。


会見するセリーナ 記者の質問に涙ぐみ、途中で退席


出典 Australian Open 2021






大坂なおみ 米「タイム」誌の「世界で最も影響力のある100人」に
 2020年9月22日、全米オープンで優勝した大坂なおみ(日清食品)は、米「タイム」誌の「世界で最も影響力のある100人」に2年連続で選ばれた。推薦文では「彼女の支配的なコート内でのパフォーマンスを他の物語に織り込んだ美しさに、私は刺激を受けた」とし、「集中し、勇気を持ち、自分の行動を信じて成し遂げるのは容易ではない」(米国女子バスケットボールのマヤ・ムーア選手)と、アスリートとしての高い能力のほか、問題提起を続けた行動力や勇気を称賛した。
 9月18日、大坂なおみはツイッターに投稿し、9月27日に開幕する全仏オープンについて、「残念ながら今年のフレンチオープンの出場を断念することにしました」と表明し、「(全米と全仏の)2つの大会の日程が近いため、体をクレイコート(に)向けて整える時間が足りないと判断しました」とした。
 英語の声明では、ハムストリング(太もも裏の筋肉)に痛みが残っていると説明した。
 WTAのランキングは、バイディ(米)、ハレプ(ルーマニア)についで、第三位に浮上した。
 一方、セリーナ・ウィリアムスは、全仏オープン2回戦をアキレス腱のけがで棄権した。
 歴代最多タイとなるグランドスラム通算24勝目を目指しているセレーナも今年39才、選手としての今後に暗雲が立ち込めている。


出典 以下US Open Twitter

大坂なおみ全米オープンテニス優勝 人種差別に抗議したマスク7枚はすべて着用
 9月12日、全米オープン女子シングルス決勝で、大坂なおみ(22)がヴィクトリア・アザレンカ(ベラルーシ、31)に逆転勝ちで優勝した。大坂は成熟したプレーを見せ、3つ目となるグランドスラム・タイトルを獲得した。
 大坂選手は試合後のインタビューの中で、大会を通して人種差別に抗議してきた自身の行動について触れ、「みんなの考えるきっかけにしたかった。SNSを通じてしか反響はわからなかったけど、情報が拡散されていって、皆が話をしてくれているのがわかってうれしかった」と述べた。
 海外のメディアからは大坂なおみを讃える報道が相次いでいる。
 英BBCは、「大坂が2年前に全米のタイトルを取ったとき、アーサー・アッシュ・スタジアムにはブーイングが響いていた。セリーナ・ウィリアムズがペナルティで1ゲームを失ったことなどを受けたものだった。しかし今大会は、ほぼ完全な静寂が大坂の優勝をたたえた。ただ、苦労して優勝を手に入れた点では同じだった。
 大坂は再び自信たっぷりにプレーしているだけでなく、確信に満ちながらも淡々と、自らの影響力を社会正義の推進に生かしている」と伝えた。
 ニューヨーク・タイムズは、「2年前に優勝した際、観衆からブーイングを浴び涙を流した時とは全く異なる勝利だ。彼女は今大会、社会正義を結集し、間違いなくコートの内外で王者だった」と讃えた。
 ロイターは「大坂なおみはコート内外での新たなスターとしての地位を確立させた。女子アスリートの長者番付でもセリーナを抜いてトップとなった大坂。今後は新たなリーダーとしてスポーツ界をけん引していくことが期待される」とした。
 2018年にセリーナ・ウィリアムズを破って初優勝した時は、観客からブーイングを浴びる中での「涙の表彰式」、そして今回は、新型コロナウイルスの感染拡大で「無観客の表彰式」、もう一回優勝して、こんどこそ満員の観客から祝福される大坂なおみの姿を是非見たいものだ。


“チーム大坂”

大坂なおみ  全米オープン 人種差別に抗議のマスクで登場
 新型コロナウイルスの影響で、無観客で行われる今年の全米オープンは、選手や大会関係者にPCR検査を行うなどの感染予防対策が講じられたうえで8月31日、ニューヨークで開幕した。
 けがで出場が危ぶまれていた大坂選手は、初日の第一回戦は、日本人選手同士の対戦となり、土井土居美咲選手に、6-2、5-7、6-2のセットカウント2-1で勝利した。
 この試合で、大坂選手は、ことし3月、ケンタッキー州で警官に射殺された黒人女性、ブレオナ・テイラーさんの名前が入った黒いマスク姿で入場し、抗議の姿勢を示した。
 大坂選手は「私が知る限り、テニスは世界中の人が見ている。テイラーさんの話を知らない人がいるかもしれない。そういう人がグーグル検索したりするかもしれない」「この話を知っている人が増えれば増えるほど、関心も高まると思う」と述べたという。
 米スポーツ専門局ESPNとのインタビューで語ったところによると、マスクは計7枚持っている。「名前の数に対して7枚では足りないのが悲しい。決勝まで進んで全部見てもらいたい」と語った。(CNN 9月1日)
 これに対して、女子テニス界の偉大なリジェンド、ビリー・ジーン・キング氏は、称賛のエールを送った。Reutersは、「大坂なおみみ“新世代のリーダー”と伝えた。


大坂選手が着用した7枚のマスク

大坂なおみ選手がマスクでアピールする米黒人犠牲者たち BBC NEWS(9月20日)

 全米オープンのメインコート、アーサー・アッシュ・スタジアムの無人の観客席にはさまざまなメッセージ・ディスプレイが掲げられている。その中に、人種差別に抗議する“Black Lives Matter”を掲げるボードが並んでいる。
 セリーナ・ウィリアムズは、“Black Lives Matter”のディスプレイをどんな思いで見ているのだろうか。セリーナは、今回の白人警官の黒人迫害行為に一切発言をしていない。2018年の全米オープンで審判暴言を浴びせペナルティを受けた際には、“性差別”を声高に主張した。セリーナの意識には、“性差別”は存在しても“人種差別”は存在しないのだろうか。
 同じ米国の女子テニス選手、ココ・ガウフは、今年16歳、次世代の女子テニス界の「星」と言われて、一躍、脚光を浴びている。ココも“Black Lives Matter”と書かれたマスクを着用して人種差別に抗議する姿勢を示した。


メインスタジアムのアーサー・アッシュ・スタジアムの観客席に設置されたディスプレイ

大坂なおみ 黒人差別に抗議 「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」の準決勝棄権を表明





全米オープン決勝戦 出典 USTA HP Darren Carroll/USTA

セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみに謝罪


 2019年7月9日、全米オープンテニス2018決勝戦で大坂なおみ選手に敗れたセリーナ・ウィリアムズ選手(37)は、米ファッション誌ハーパーズバザーに寄せたエッセーの中で、当時を振り返って大坂選手に謝罪した。
 昨年の決勝戦では大坂選手が、6-2, 6-4でセリーナに勝利し、初の4大大会シングルス優勝を果たした。
 第2セットの途中、大坂選手に圧倒されことにフラストレーションをつのらせ、セリーナのコーチが身ぶりでアドバイスを送ったことで主審から警告を受けたのを発端に、審判に「泥棒」と呼ぶなど、執拗に暴言を浴びせたり、ラケットを折るなどの醜態をさらした。
 表彰式は、暴言に対しペナルティを課した審判の判定に抗議する観衆のブーイングの嵐に包まれ、大坂は「誰もがセリーナを応援していたのは知っています。こんな終わり方になってしまい、すみません」などと涙ながらにスピーチした。前代未聞の表彰式だったのは記憶に新しい。

 雑誌に掲載された一人称で書かれたエッセーによると、セリーナ選手は大会が終わっても不快感から解放されなかったとし、精神不安定でセラピストにも通ったという。
 それでも心が落ち着かず、前に進むには大坂への謝罪が必要と実感したという。
「本当にごめんなさい。(抗議は)自分を擁護するためにも、正しいと思って動いていた。私はいついかなる時も絶対に、他の女性選手の輝く瞬間を奪いたくない。これからもファンとして見守っていく」などと気持ちを伝えたという。
 セリーナ選手は、エッセイの中で、「(決勝戦で起こったことで)私はゲームを奪われただけでなく、決定的な勝利の瞬間がもう1人の選手から奪われてしまった。彼女が勝利した瞬間は、彼女の長い成功に満ちたキャリアの中で、最高に幸せな思い出の1つとして記憶されるべきだった」と回想した。
 続いて大坂選手に語りかけて、「コートでも言った通り、私はあなたのことを誇りに思い、本当に申し訳なかったと思っています」「私は過去も現在も未来もずっとあなたのために喜び、あなたを支えます。私は決して、もう1人の女性から輝きを奪いたいとは思いません。それが黒人女性選手であればなおさらです。あなたの未来が待ち遠しい。信じてください、私はずっと、大ファンとして見守っています。今日もこれからもあなたの成功のみを祈ります。もう1度言います、あなたのことを心から誇りに思うと。愛を込めて、あなたのファン、セリーナより」と綴った。
 ウィリアムズ選手はさらに、大坂選手から返ってきた言葉に涙を流したとも打ち明けた。
 大坂選手はウィリアムズ選手に、「人は怒りを強さと誤解することがあります。その2つの区別がつかないから」「あなたのように自分自身のために立ち上がった人は誰もいません。あなたはずっと、先駆者でいてください」と声をかけたという。「なおみからの寛大な返信に涙を流した」とセリーナ選手は記している。
(出典 CNN News 2019年7月9日)

国際テニス連盟、セリーナに罰金189万円

大坂なおみ 全豪オープン制覇 グランドスラム2連勝
 2019年1月26日、全豪オープン2019の女子シングルス決勝で大坂なおみ(日清食品)は、チェコのペトラ・クリトバを、7-6、5-7、6-4で激戦を制し、初優勝した。今年21歳の大坂なおみは昨年の全米オープンでセリーナ・ウイリアムズに勝ち初優勝したのに続いて4大大会連勝を達成、女子ではセリーナ・ウイリアムズ以来の快挙である。
 表彰式では、優勝した大坂なおみに歓声と拍手がアリーナ全体に渦巻いた。大坂なおみは勝利した瞬間はコートで目を潤ませていたが、なぜか、表彰式では冷静で、勝者のあふれんばかりの笑顔は余り見せなかった。
 表彰式での大坂なおみ姿を見て、全米オープン協会会長のあまりにもひどい挨拶とアリーナに渦巻いた観客のブーイング、そして大坂なおみの涙を鮮明に思い出す。
 世界ランキングも1位に躍り出て、「大阪時代」の幕開けとなった。「真の王者」の称号を与えられるのは大坂なおみだ。


出典 WTA ホームページ


クリトバに競り勝ち、喜ぶ大坂なおみ 出典 Australian Open TV On Line


一夜明けて記者会見に臨んだ大坂なおみ   ANN ニュース オンライン 2019年1月27日

Final game: Naomi Osaka powers through to final (SF) | Australian Open 2019
Australian Open TV On Line

Naomi Osaka on setbacks, role models and inspiring others
CNN News 2019年7月9日




大坂なおみの初優勝を台無しにしたセリーナ・ウィリアムズ
全米オープンテニス決勝戦



出典 ITF

ラケットを踏みつけて激怒するするセリーナの風刺画掲載 議論沸騰
 9月10日、全米オープンの決勝戦で、ラケットを踏みつけて激怒するするセリーナの風刺画がオーストラリアの大衆紙「ヘラルド・サン(Herald Sun)」に掲載されて世界各国で議論が白熱している。
 コート上で激高する様子を描いた表現に「黒人や女性への差別だ」という批判が寄せられが、風刺画の作者は「彼女の行為を批判した」と反論している。
 風刺画は、豪メルボルンの大衆紙「ヘラルドサン」風刺画作家マーク・ナイト氏(Mark Knight)の作品で、たくましい体格と分厚い唇を誇張して描かれたセレーナが、コートに叩きつけて壊したラケットをセリーナ選手が「地団太を踏み」悔しがっている様子を描いている。ラケットの横には赤ちゃんのおしゃぶりが転がっている。
 その後方では審判が大坂なおみに「彼女に勝たせてやってくれないか」と囁いている様子が描かれている。大坂なおみはなぜか金髪だ。
 この風刺画に対して、人気児童小説「ハリー・ポッター(Harry Potter)」シリーズの原作者J・K・ローリング(JK Rowling)氏は、「人種差別と性差別で冷やかすもの」と不快感をあらわにし、「よくもスポーツ界で最も偉大な女子選手を人種差別と性差別で冷やかして笑い者にし、もう一人の偉大な女性選手を顔なしのでくの坊にしてくれたものだ」とツイッターで厳しく非難した。 
 これに対して作者のナイト氏は、風刺画は人種差別や性差別ではないと否定し、「スポーツのスーパースターのみっともない悪態」を表現しようとしただけだとコメントした。(出典 AFPBB 9月11日)
 問題の風刺画が投稿されたマーク氏のツイッター(Twitter)には、世界各国から罵倒するコメントが殺到し、見の危険を感じたマーク氏は、ツイッターの閉鎖に追い込まれた。
 その一方でセリーナ選手の行為への批判から、差別とは思わないとの書き込みも見られる。また、大坂なおみ選手とみられる対戦相手が金髪の女性として描かれていることに違和感を示す声も出ている。
 ヘラルド・サン紙(電子版)は9月11日、社説で「スポーツ選手らしくない行為を正しくあざけった。その行為で大坂なおみ選手が勝利を祝う機会を奪いもした」と反論、ナイト氏の「描いたのは、セリーナ選手の哀れな振る舞いについてで、人種(差別)についてではない」と主張した。(出典 AP 朝日新聞)
 またヘラルド・サン紙のデーモン・ジョンストン編集長はナイト氏を擁護し、ホームページで「ナイト氏は差別主義者だとのレッテルを貼られたが、まったくの嘘だ」と反論し、「セリーナの風刺画は、彼女のあの日の悪態についての描いたのもで、人種は関係ない」とのコメントを掲載し、さらに、漫画は性差別でも人種差別でもなく、「テニス界の伝説のみっともない真似を、正しくあざ笑った……全員がマークを全面的にサポートする」とツイートした。



 翌日、ヘラルド・サン紙はさらに反論に出て、一面トップで問題の風刺画を含む色々な風刺画を並べて再掲載した。
 「PCワールドへようこそ」という見出しの下には、「マーク・ナイトのセリーナ・ウィリアムズ風刺画について、勝手に検閲担当を自認する連中の言うとおりにしたら、ポリティカリー・コレクト(PC)な新しい社会はとても退屈なものになる」と同紙は書いた。(出典 BBC NEWS 9月12日)
 ポリティカル・コレクト(ネス)とは、日本語で政治的に正しい言葉遣いとも呼ばれる、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語のことで、容姿・身分・職業・性別・文化・人種・民族・信仰・思想・性癖・健康・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指す。(出典 Wikipedia)

 アスリートの容姿を、とりわけ女子選手のついては、揶揄するのは極めて不適切である。しかし、暴言と悪態を行ったアスリートは非難されてもしかるべきだろう。
 「スポーツ選手らしくない行為を正しくあざけった」のか、「人種差別・性差別」なのか、この風刺画を巡っては、世界各国でさらに激しい論争が続くと思われる。



ヘラルド・サン紙(9月12日)


「平等ではない」アダムス会長の主張は崩壊 ラモス氏に謝罪
 9月14日、決勝戦の主審を務めたラモス氏は、デビスカップの準決勝で、クロアチアとアメリカ戦の主審を務めた。アダムス会長は、全米オープンの決勝戦後、初めてラモス氏と顔を合わせた。
 その場で取材していた記者によると、アダムス会長はラモス氏に謝罪したという。
(The Telegraph 9月14日)
 全米テニス協会のアダムス会長は、決勝戦の翌日に、ESPNのインタビューに答えて、セリーナの「性差別」という主張を擁護し、「私たちは男子選手がこのような暴言を浴びせているのを見ている。彼らはコートチェンジの間に主審に食い下がっている。しかし主審は何もしない。これは不公平だ」と語っていた。 
 しかし、アダムス会長の主張は、全米オープンで言い渡されたコード違反は、男子選手に対して86件、女性に対して22件だったことが明らかになり、アダムス会長の「平等ではない」という主張はあっさり崩れ去った。過去20年間のグランド・スラム・イベントの統計でも、男子1534件、女子526になることも判明している。
 コード違反は、全体で男子選手が約3倍から4倍の件数を受けているのである。
 またラケットの破壊行為違反(Racket Abuse)は、男子選手が86%以上を占めているいるだけでなく、言葉の濫用違反(Verval Abuse)も80%弱を占めている。
 しかしコーチング違反は、女子選手が男子選手の約2倍が言い渡されているという。
 女子選手とコーチの人間関係が、男子選手と場合と比較して、濃淡に差があることが影響しているかもしれない。
 そしてコーチング違反の発生率は、女子選手の間では過去10年間で増加しているとされている。
 コーチングは昨年のウインブルドンでも横行していたという。何人かの女子選手のコーチは、カロリーナ・ガルシアの父親のように、選手にシグナルを送っているのが目撃されいる。
 女子テニス協会主催のトーナメントのルールは、グランドスラムのルールと異なり、「オンサイト・コーチング」という制度があり、選手が希望すれば、コーチはコートチェンジの休憩時間にコートに入って選手にアドバイスをすることが認められている。しかしスタンドのコーチ席からのコーチングは禁じられている。
 こうしたことが女子選手やコーチの間では、コーチング違反に対して「甘い」認識が生まれる遠因なのかもしれない。



出典 BBC SPORT




大坂なおみ 全米オープン初優勝(2018) セリーナ・ウィリアムズをストレートで破る
 テニスの4大大会最終戦、全米オープン第13日は9月8日、ニューヨークのビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンターで、女子シングルスの決勝が行われ、初優勝に挑む第20シードの大坂なおみ(日清食品、日本)が、元世界ランク1位で第17シードのセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)(米)を6―2、6―4のストレートで破り、初優勝。男女を通じて日本勢初の快挙を達成した。
 とにかく異例の決勝戦だった。



パワーの強烈さを印象づけた大坂なおみ 第1セット(6-2)で先行
 第一セットの最初のポイントで大坂はパワーの強烈さを印象付けた。12回続いたラリーにセリーナは根負けしたのか大坂の鋭いストロークに撃ち抜かれた。セリーナは、いつもは、序盤は慎重に滑り出すのに、このゲームでは早めに仕掛けてきた。大坂の思っていた以上のパワーに受けて分が悪いと感じとったのに違いない。
 結果は明白、ラリーが「9回以上」続いた攻防戦は大坂の7勝1敗だった。
 それでも第1ゲームはセリーナがキープした。
 そして第2ゲームは大坂がキープした。
 波乱は第3ゲームで起きた。
 サーブ、ストロークで優勢に立った大坂はゲームの主導権をセリーナに渡さなかった。
 ゲームポイントを握った大坂に対し、セリーナはプレッシャーからか、トスを乱し、ダブルフォールトでゲームを失った。
 このブレークの先行で大坂は大いに自信を深めただろう。
 大坂は第4ゲームをキープすると、続く第5ゲームでも大坂は鋭いリターンを連発し、セリーナを圧倒して再びブレーク、このゲームで圧倒的に優位に立った。
 第6ゲームは大坂はブレークポイントを握られたが、時速200km近い高速サーブで巻き返し、キープした。
 第7ゲームはウィリアムズが0―30から踏ん張り、キープ。しかし、第8ゲームは大坂はサーブの鋭いサーブでセリーナを圧倒し、第1セットを6-2で奪った。
 結果は2ブレーク・アップの大坂の圧勝だった。事前の予想を覆した大坂の1セット先取だった。
 セリーナは、大坂のパワー溢れたサーブとストロークに圧倒されゲームの主導権を握れないことに苛立っただろう。

「Patience!」(我慢)のテニスを覚えて、タフなプレーヤーに成長した大坂なおみ
 事前の予想を覆して、サーブでもストロークでもセリーナの劣勢は明らかだった。
 誰もが、グランドスラム、23回の優勝を果たし、「女子テニスのリジェンド」と呼ばれていたセリーナが、初めて全米オープンの決勝戦に臨んだ若干20歳の大坂を軽く一蹴して久しぶりに優勝すると思っていた。
 「セリーナにパワー勝負で勝てる選手はいない」、「大坂に負けるはずがない」、そんな先入観が観客やセリーナ自身にもあったのだろう。

 しかし、まだ20歳、伸び盛りの大坂は、サーシャ・バイン(Sasha Bajin)コーチの指導でめきめきと実力をつけてきた。
 バイン氏は、1984年10月4日ドイツで生まれたセルビア系ドイツ人で、今年33歳、2005年から08年にかけて選手としてATPツアーに出場するが、世界ランキングは1165位と成績が残せず引退。コーチ転身後はセリーナのヒッティングパートナーを8年間務め、その後はビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、2017年にはキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)のヒッティングパートナーを務め、2018年1月にウォズニアッキの世界ランク1位復帰を後押しした。
 ヒッティングパートナーなので、選手にコーチングをすることはない。
 2017年12月、バイン氏は初めてコーチとして、大坂なおみを指導することになった。
 大坂は、バイン氏の元で、オフには約7キロ体重を絞り、体幹を鍛え、体力と敏捷性を身に付けた。
 プレー・スタイルも強打一辺倒ではなく、「辛抱する」プレーを身に付け、我慢をしながらラリーを続け、チャンスを狙うテニスも覚えて、安定感が飛躍的に高まった。
 メンタル面でも、これまでは大坂はうまくプレーができないとすぐにキレれて苛立っていたのを、「辛抱」(Patience)を覚えさせ、どんな状況でも冷静な気持ちを保ち続けるタフな精神を磨き上げた。
 パイン氏は、試合後、「なおみを本当に誇りに思う。動き続けることが大事で、フィジカル面でも相手より良かった。(相手の抗議や観衆のブーイングに対しても)集中力を保って戦ってくれたことがうれしい」と語った。
 フィジカル面でも、メンタル面でも、すでに大坂はセリーナを完璧に上回っていた。
 バイン氏が大坂なおみのコーチに就任してわずか9か月で全米オープンを制覇、選手にとってコーチの存在がいかに重要かを示した格好のケースである。同時に「名選手は名コーチ」だとも、必ずしも言えないことも頭に置きたい。

「苛立ち」で自滅 3度の警告を受けたセリーナ 第2セット(大坂6―4セリーナ)
 第2セットの第1ゲームはウィリアムズがキープした。
 第一回目の波乱は第2ゲームの途中に発生した。
 大坂のサーブのゲームで、40-15で大坂がセットポイントを握ったとき、主審のカルロス・ラモス氏(Carlos Ramos)はセリーナのコーチ、パトリック・ムラトグルー氏(Patrick Mouratoglou)が、スタンドのコーチ席で、手でサインを送り、アドバイスをしたという「コーチングバイオレーション」が言い渡したのである。
 グランドスラムでは、スタンドにいるコーチは選手に対して、声を出したり、しぐさで、アドバイスをしてはならないというルールがある。テニスファンなら知っているルールだ。ましてセリーナが知らないはずがない。「コーチングバイオレーション」は、実際に選手が気が付いていたかどうかは、関係がない。コーチがサインを送ったことだけで、反則なのである。
 セリーナはこれに対して、「コーチは親指を立てて『カモン』と言っただけ。それはコーチングにならない。ルールは分かっているわよね?」と主審に詰め寄った。そして“We don't have any code.”(私たちはそんなルールは知らない)とし、“ I don’t cheat win. I’d rather lose.”(私はズルをしない! そうするなら負けたほうがましよ!)と主審に激しく抗議した。
 しかし、中継映像では、スタンドのコーチ席でムラトグルー氏が両手を広げて前後に動かしているコーチの姿が映し出されていた。ムラトグルー氏はジェスチャーの最後に、「わかったね!」という表情でうなずいている姿が確認できる。セリーナがムラトグルー氏の方を見ていたかは、中継映像からは確認できないが、ムラトグルー氏のうなずきをを見ると明らかにセリーナと目線があってとするのが自然だ。
 このジェスチャーが「コーチングバイオレーション」と判定されたのである。WOWOWの中継番組の解説者の伊達公子氏は、ボデーを狙えとか、前後に揺さぶれという指示のように考えられるとしている。さらに、この後のゲームでセリーナが絶妙のドロップショットを繰り出しポイントを奪ったが、このドロップショットはムラトグルー氏のコーチングで生まれた可能性があるとを伊達公子氏は指摘した。
 試合終了後、ムラトグルー氏は試合後、スタンドで全米中継していたESPNの取材を受け、「正直に言うけど、私はコーチングをしていた。彼女は私を見ていなかったと思うけど、私は100%コーチングをしていた。試合中、100%だ」とあっさりと非を認めた。
 しかし、ムラトグルー氏の「わかったね!」とうなずきは、セリーナと視線があったいた証拠だろう。テニスの中継では多数のカメラが常に決められた対象を撮影し録画したいる。コーチ席だけを狙うカメラ、セリーナだけを狙うカメラ、その映像はすべて録画されている。映像を検証するば、ムラトグルー氏とセリーナが嘘を付いているかは容易に明らかになるはずだ。
 問題は、コーチによる試合中の指導はルール違反と規定されているが、実際には常態化しているとムラトグルー氏が主張したことだ。
 「だが、偽善者のようなことはやめよう。サーシャだって全てのポイントでコーチングしている。この試合のチェアアンパイアはラファ(ナダル)の決勝でトニ(元コーチ)がほとんど全てのポイントで指導していたのに、警告を与えなかった。私には全く理解できない。みんなやっているさ」
 もし、ムラトグルー氏の指摘の通り、「コーチングバイオレーション」横行し、審判がこれを見過ごしていたのが実態なら、問題は深刻であろう。
 セリーナへの警告は、明らかに公正を欠き、セリーナを標的にした「差別」と批判されても致し方ない。
 これに対して全米オープンのコミッショナーは、主審のラモス氏の判定を支持し、審判として公正な判定をしたとしている。
 しかし、「コーチングバイオレーション」が横行しているという告発に対しては、これから議論が巻き起こるかもしれないとして、曖昧な姿勢をとった。
 主催者はこの件について、明確な見解を明らかにすべきで、きわめて不明朗である。
 一刻も早く、きちんとして検証をテニス連盟はすべきである。

 第2ゲームは大坂が簡単にキープしてイーブンとなった。

 セリーナは、大坂に対して劣勢が続いて思うようにプレーできない苛立ちが高まる中で、一回目の警告を受けたことで冷静さを少しずつ失い始めていた。
 その後直後の第3ゲームにその影響が表れた。セリーナは、ダブルフォールトを連発し、大坂のブレークを許す。先手を取ったのは王者、セリーナではなく大坂だった。セリーナの焦りはさらに高まったのは間違いない。
 コートチェンジの間の休憩時間に、セリーナは主審に、「私はズルをしていない」と再び抗議した。試合の流れを見ると、思うように試合の主導権を握れない苛立ちが主審の判定に向けられたのは明らかだ。
 しかし、最後に“Thank you so much”と付け加えるなど、この時点ではセリーナ冷静さを失ってはいない。テニスの試合は、選手が休憩時間に主審に抗議するのは随所で見られる普通の光景だ。



 第3ゲームはジュースとなったが、セリーナがキープした。
 第4ゲームでセリーナが王者の意地を見せた。このゲームは大坂のサービスゲームで激しいストローク戦を繰り広げた。大坂は再三に渡ってセリーナに握られたブレークポイントを得意の弾丸サーブで切り抜け粘ったが、4回に渡るデュースの末、セリーナがブレークに成功する。今度は王者、セリーナが先行し、3-1とした。
 これでセリーナの猛反撃が始まり、誰しもが試合の流れはセリーナに傾いたと思った。
 グランドスラム23回の優勝を誇るセリーナである。

審判に暴言と罵声を浴びせたセリーナ
 しかし、悪夢は第5ゲームに訪れた。
 セリーナはダブルフォールトなどのミスを連発し、大坂があっさりブレークバックしたのである。
 セリーナはラケットを激しくコートにたたきつけ、ラケットをへし折った。
 このゲームでセリーナはキープすれば、第2セットは圧倒的に優位に立てる。さらにゲームの流れを支配して、決勝戦の行方にも優位に立つ。まさにこの試合でどちらが勝つかのターニングポイントであった。
 ブレークバックされたことで、セリーナのフラストレーションは頂点に達し、激高して平常心を完全に失った。
 ぐにゃぐにゃに曲がったラケットが、セリーナのベンチの背後に放り投げられてている様子が、テレビ中継の画面に映し出されていた。
 ラケットを破壊したことで、セリーナは審判から2度目の警告(Racquet Abuse)を受け、ルールに基づき、第6ゲームは大坂に1ポイント入った15-0からスタートした。結果、大坂が簡単に第6ゲームをキープした。
 これでセリーナに傾いた決勝戦の流れは断ち切られた。
 第7ゲームも大坂の鋭いリターンがセリーナを圧倒し、大坂がブレークに成功、これで第2セットも大坂が優位に立ち、今度は、流れは一気に大坂に傾いた
 ここで「事件」が起きる。
 セリーナは、主審のラモス氏に詰め寄り、“I didn't get coaching. You need to make an announcement that I don't cheat. You owe me an apology,”(私はコーチングは受けていない。あなたは私がズルをしていないことをアナウンスする必要がある。あなたは私に謝るべきだ)と叫び、"I have never cheated in my life. I have a daughter and I stand for what's right for her. I have never cheated."(私はこれまでズルをしたことはない。私には娘がいるし、常に娘に対し何が正しいかを示している。私はズルをしていない)と暴言を浴びさせた。
 セリーナのはすごい剣幕で審判に詰め寄り、恫喝したのである。
 試合の展開を見れば、明らかに大坂のブレーク許したことに苛立って、前のセットに言い渡された「コーチングバイオレーション」を持ち出して主審にフラストレーションをぶつけたのであろう。パワーでセリーナを圧倒し、何の非もない大坂に対してはどんなに悔しくても何も言えないのである。





前代未聞の醜態、セリーナの罵詈雑言
 前代未聞の醜態が演じられたのが第8ゲームである。
 セリーナは再び審判に詰め寄り、審判に対して決定的な暴言を放ち、怒りを爆発させた。
 "You stole a point from me. You are a thief,……"(あなたは私のポイントを奪った。盗人!)
 さらに、"You will never, ever, ever be on another court of mine as long as you live. You are the liar. When are you going to give me my apology? You owe me an apology."
 (あなたを二度と私の試合のコートに入れないだろう。あなたは嘘つきだ。いつ私に謝罪してくれるのか、あなたは謝罪すべきだ)と「嘘つき」、「謝れ」と執拗に暴言を繰り返した。まさに罵詈雑言だろう。「テニスのリジェンド」としての威厳も、「アスリート」としても品位も微塵も感じられない。
 さらに怒りが収まらないセリーナは、コートレフリーを呼び出し抗議を続けた。
 2万人観客のブーイングがコートに溢れ、観客の踏み鳴らす足音が雷のように鳴り響いた。屋根の閉まったスタジオではもの凄い音が渦巻いた。観客は親指を立ててポルトガル人の主審のラモス氏を糾弾した。
 大坂は無言で下を向いてその場から遠ざかり、コートの壁に向いて、一人、冷静さを保ったという。
 試合後、大坂は、"I didn't really hear anything because I had my back turned," (私には何も聞こえてこなかった。なぜなら私は背を向けていたから)と話している。
 初の決勝戦という大舞台で、騒然とした雰囲気の中で20歳の大坂は平常心を維持することができた。
 見事というほかない。大坂のメンタル面での強さに感動を覚えた。


出典 ITF





セリーナにテニスプレーヤーとしての資格はない
 筆者は、生中継の画面で見ていたが、セリーナの余りにも迫力のある罵声と口汚い言葉に、驚愕し、怒りさえ覚えた。これがグランドスラムを23回の優勝した「女子テニス界のリジェンド」のとるべき態度なのか。愕然である。まるで格闘技の「バトル」を見ている思いで余りにも見苦しい。
 筆者も近隣のテニスクラブで、20年以上テニスを楽しんでいる「テニス愛好家」で、グランドスラムは毎回、テレビで視聴している。
 テニスは、スポーツマン・シッップと礼節を重んじるスポーツだと思っていた。
 対戦相手のナイスショットには、「ナイスショット!」と称え、相手へのリスペクトを常に忘れない。コードボール(ネットインのボール)で得点しても手を挙げて「申し訳ない」と態度で示す。それがテニスプレーヤーではないか。
 劣勢で、思うようにプレーができない、そんないら立ちを審判にぶつけるセリーナには、スポーツマン・シップの礼節が微塵にも感じられない。
 NBA、フットボール、サッカーやラグビーなどでは、セリーナと同じような暴挙を行ったら、「一発退場」は間違いない。
 興奮して罵声を浴びせるセリーナ、冷静にやりすごす大坂、二人はあまりにも対照的だった。この光景を見れば、女子テニス界の「真の王者」は誰なのか明らかであろう。
 セリーナは「テニスのリジェンド」の栄光と誇りをすべて失った。スポーツマン・シップを持てないプレーヤーはコートから去るべきだ。 
 執拗に審判に抗議するウィリアムズに、三度目の警告(Verval Abuse)が与えられ、このゲームは大坂に与えるというペナルティが与えられ、大坂の5-3となった。

セリーナとスタジアムの観客は大坂なおみに謝るべきだ
 スタジアムでは、「地鳴り」のようなブーイングが巻き起こり異様な雰囲気に包まれた。
 それでも第9ゲームはセリーナが執念でキープした。セリーナがポイントを取るたびに観客は大歓声を上げ、大坂のミスショットに対しても観客は拍手と大歓声を上げてこれに答えた。セリーナを応援する観客に、ミスショット(アンフォース・エラー)には、拍手と歓声ではなく、「惜しい!」と応じるのが観客のモラルだ。アメリカの市民にモラルはないのか。「アメリカン・ファースト」を声高に唱えるトランプ政権の姿勢がスタジアムを支配しているように思えた。
 ゲームポイントを握った第10ゲーム、大坂が強烈なサーブを連発し、ついに初優勝を果たした。

 勝利を手にした大坂は、コートで喜びを発散せず、サンバーザーに顔を隠して涙を流した。なんという光景なのだろうか。グランドスラム初優勝の輝かしい勝者がこんなパーフォーマンスしかできなかったことをセリーナやアメリカの観客はどう思っているのだろうか。
 これまで、筆者はグランドスラムの優勝者の何度も見てきた。コートに倒れ込んだり、飛び上がって、全身で喜びを表現する。それが勝者に与えられた栄光である。
 勝者の喜びを爆発できなかった大坂にセリーナもアメリカの観衆も詫びるべきだ。
 セリーナに、アメリカの観客に絶望した。ニューヨークはグランドスラムを開催する資格はない。


母親と抱き合って勝利の涙を流す大坂なおみ これ以後大坂が流した涙は喜びの涙ではない

大坂なおみの初優勝を台無しにした2万人の観客
 表彰式は、かつてない悲惨なセレモニーになった。
 司会者がセレモニーの開始を宣言すると2万人の観衆は「地鳴り」のようなブーイングの嵐で答えた。
 悲願のグランドスラム初優勝を果した大坂なおみはサンバーザーで顔を隠して泣いていた。何度も涙を拭う。なんという残酷な光景だろう。全米オープンを制した勝者が、はちきれんばかりの笑顔と全身で喜びを表す舞台が表彰式だ。どんなに悔しくても敗者と観客は、勝者を賞賛するのがモラルだ。
 
 最初に挨拶をした全米テニス協会(USTA)のカトリーナ・アダムズ会長(Katrina Adams)のコメントが余りにもひどい。
 勝者の大坂なおみへの賞賛は後回しにして、最初に醜態を演じて決勝戦を台無しにしたセリーナを高らかに称えた。
 「セリーナ、あなたは王者の中の王者で、すべての人にとって理想の母親であり尊敬される。お帰りなさい。あなたには王者にふさわしいパワーと気品がある。決勝戦の敗戦は私たちが望んだ結末ではなかった。でもあなたは真のチャンピョン、すべての人からリスペクトされる」と述べ、最大限の賛辞を贈った。
 セリーナの隣で、この挨拶を聞きながら涙を拭っていた。大坂の涙は、全米オープンを制した喜びの涙では明らかになかっただろう。一体、大坂はどんな心境でこの挨拶を聞いていたのだろうか。
 それにしても、この挨拶にはあきれ果てる。中継番組を見ていて怒りさえ覚えた。主催者が「私たちが求めた結末ではなかった」とか「セリーナは王者の中の王者」と表彰式で述べる無神経さが到底信じられない。アダムズ会長にお粗末さは愕然である。暴言を繰り返して醜態を曝け出したセリーナのどこに「王者にふさわしいパワーと気品がある」のか。娘が成長して、興奮してラモス氏を罵倒している母親の姿を見てどう思うのか。「すべての人にとって理想の母親であり尊敬される」とどうして言えるのか。
 アダムズ会長が、まず最大限の賞賛を与えなければならないのは初優勝した大坂なおみに間違いない。 
 この件については、地元メディアからも批判が出され、「勝者を侮辱するような対応をした」と伝えている。
 主催者の全米テニス協会、2万人の観客、モラルも礼節も、勝者をリスペクトする心を微塵も持ち合わせていない。そのお粗末さに失望するだけでなく、怒りさえ覚えたのは筆者だけだろうか。





[FULL] 2018 US Open trophy ceremony with Serena Williams and Naomi Osaka ESPN/Youtube

 さすがにこれはまずいとセリーナもふと我に返ったのだろう。
 "Let's not boo any more," (ブーイングは止めて!)、セリーナは観客に語りかけて、
「ナオミは初のグランドスラムで良いプレーをした。今をベストな瞬間にしましょう。認めるべき功績を認めましょう。ポジティブになりましょう」と話した。
 そして、"Congratulations Naomi. No more booing."(なおみ、おめでとう。ブーイングは止めて!)と観客に叫んだ。
 観客はこれに答えてブーイングを止め、大坂なおみへの賞賛の声に変った。
 そして、大坂の耳元に「あなたのことは誇りに思う。この観客のブーイングはあなたに向けているのではない」と囁いたいう。

 表彰式の司会者は、優勝者へのインタビューを始めた。
 「いつかグランドスラム決勝でセリーナと戦うのが夢だと言っていました。今はどんなお気持ちですか?」と問いかけた。
 大坂は、涙を拭って、マイクロフォンを手にして、「質問への答え出ないことを話そうと思います。ごめんなさい」と涙を浮かべて話し始めた。
 そして、"I know everyone was cheering for her and I am sorry it has to end like this," (私はみんながセリーナを応援していたこと知っています。こんな終わり方になっってごめんなさい)と語り、「決勝でセレーナとプレイするのが夢でした。プレイしてくれてありがとう。そして試合を見てくれてみなさんありがとう」と話した。
 なんという勝者のスピーチだろう。筆者はこれまであらゆるスポーツ大会で、こんな言葉のスピーチをした優勝者は知らない。
 アメリカ市民の中には、セリーナがブーイングを止めてと観客を制止し、大坂におめでとうと言ったことを誉め称える声が寄せられたと伝えられている。
 まったくお門違いも甚だしい。何が問題なのかまったく理解していないアメリカ市民の鈍感なメンタリティに唖然とするばかりだ。
 NYポスト紙は、「USオープンは恥を知るべき、これ以上にスポーツマンらしくない出来事があったか思い出すのに苦労する」とセリーナとテニス協会と観客を痛烈に批判した。そして「ナオミは勝つべくして勝った、この試合から何か盗まれたものがあったとしたら、それはナオミの歓喜の姿だ」とした。
 「王者としても優雅さと気品」を保った20歳の大坂に対し、36歳のセリーナは「子供じみた泣き言」を叫び醜態を晒したと酷評されている。

セリーナ ペナルティーは「性差別」を主張
 これに対してセレーナ・ウィリアムス(Serena Williams)は、9月8日、不正行為はなかったと主張し、ペナルティーは性差別だとして批判した。
 審判への暴言についても、男子選手が同様行為をしても罰則は与えられないはずだと主張した。
 セレーナは試合中にコーチのパトリック・ムラトグルー(Patrick Mouratoglou)氏からコーチングを受けたことはこれまでに一度もないと主張しているが、ムラトグルー氏は米スポーツ専門チャンネルESPNに対しその事実を認め、コーチ全員がしている行為だとした。
 セレーナは「パトリックには『一体何を言っているの?』とメールした。私たちにはサインなどない。サインについて話したことも一度もない」と話している。
 また、性差別と戦う女性のアイコンとして地位を築いているセレーナは、テニス界は男子選手と女子選手の扱いが違うと指摘する。
 「男子選手が審判に注文を付けるシーンをこれまでに見てきた。私は女性の権利と平等のために戦うためにここにいる」
 「私は『盗人』と言い、彼はペナルティーを科す。性差別的だと感じた」「彼は『盗人』と言った男子選手を罰したことは一度もない。それで私の心は折れてしまった。だけど、私は女性のためにこれからも戦う」(AFPBB News)
 これに対して国際テニス連盟は「この件が議論を起こすことは理解できるが、ラモス氏が誠実に、プロとしてルールを適用する義務を果たしたことも覚えておきたい」とした。(AP通信)
 またラモス氏は、9月12日、母国ポルトガルの地元紙に、騒動後に初めてコメントを出した。
 ラモス氏は「私は大丈夫」とし、「アンハッピーな状況だが、好みによる判定は存在しない。どうかわたしのことは心配しないで」と語っている。
 一方、女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン(Steve Simon)最高経営責任者(CEO)は9月9日、セリーナに3度のコードバイオレーションが科されたのは「性差別的だ」とするセレーナの主張を擁護した。
 サイモンCEOは審判について、前日の一戦では男女によって異なる基準が適用されているのではないかとする疑問に大きな注目が集まったとした上で、「WTAは、選手によって感情が表現された際、それに対する許容の基準に男女で違いがあってはならないと信じている。そして、すべての選手が平等な扱いを確実に受けられるよう、競技と一丸となって全力を尽くしている。これについては、昨日で終わりではないと考えている」と語った。(AFP時事)
 女子テニス協会(WTA)は、女子テニスの世界ツアー戦を運営する組織で、女子テニス協会(WTA)としても同じ内容の声明を出した。
 これに対して、国際テニス連盟(ITF)も声明を発表し、「ラモス氏は、テニス界で最も経験豊かで尊敬される主審の一人である。彼の決定は関連するルールに従っており、3度の警告を受けたセリーナ・ウィリアムズ選手に対し、全米オープンが罰金を課したことで、ラモス氏の決定は改めて支持されている。」とし、「この残念な出来事が、注目を浴びて議論を呼び起こすことは理解している。同時に重要なことは、ラモス氏はプロフェッショナル意識と威厳を保ち、ルールを遵守して、主審として義務を果たしたことを記憶することだ」とラモス氏の判定を支持した。




「王者」の威厳と風格を捨て去ったセリーナ
 「コーチングバイオレーション」については、明らかにムラトグルー氏はコーチ席でセリーナにサインを送っていた。それをセリーナが気が付いていたかはわからない。しかし、ムラトグルー氏がサインを送っていいた姿や「わかった?」とうなずく様子は中継映像に記録されていて言い逃れはできない。そもそもムラトグルー氏は「コーチングバイオレーション」を認めている。
 セリーナは、まずこの件について、「コーチングバイオレーション」があったことは潔く認めて、主審のラモスに浴びさせた暴言について謝罪すべきだ。「真の王者」だったらそうすべきだ。「嘘つき」はセリーナ、この批判にセリーナは答える義務がある。
 性差別を持ち出す前に、まず必要なのは謝罪であろう。
 「嘘つき」、「盗人」といった暴言を興奮して怒鳴りちらす醜態には「真の王者」の威厳と品格がまったく感じられない。あんなに執拗に暴言を浴びせる選手は、筆者はみたことがない。主審のラモス氏は恐怖すらお覚えたに違いない。
 仮にコート上ではなくて、一般社会の場で、同様の暴言を浴びせたら、パワハラ、セクハラどころではなく、名誉棄損の対象となる。
 セリーナは、暴言と醜態の責任を完全に「性差別」の問題にすり替えている。
 セリーナは真摯に反省して、ラモス氏や対戦相手の大坂ナオミに謝罪すべきだ。それが「真の王者」のとるべき態度だろう。性差別を議論する以前のアスリートとしての義務を果たすべきだ。
 「女性の権利と平等のために戦う」のはその後だ。なぜセリーナは非を認めて謝罪しないか。
 同様に、全米テニス協会会長も真摯に反省して大坂なおみに謝罪する必要があるだろう。

残された問題 性差別
 ムラトグルー氏は、「コーチングバイオレーション」をあっさり認めた一方で、コーチによる試合中の指導はルール違反と規定されているが、実際には常態化していると主張している。
 「だが、偽善者のようなことはやめよう。サーシャだって全てのポイントでコーチングしている。この試合のチェアアンパイアはラファ(ナダル)の決勝でトニ(元コーチ)がほとんど全てのポイントで指導していたのに、警告を与えなかった。私には全く理解できない。みんなやっているさ」
 国際テニス連盟は、この告発に対して、答えていない。
 もし、「コーチングバイオレーション」横行し、審判がこれを見過ごしていたのが実態なら、問題は深刻で、国際テニス連盟は真摯に取り組まなければならない。FIFAワールドカップで採用したVARのようなシステムを導入にすれば容易に監視可能だ。
 また「コーチングバイオレーション」がルールとして不適格で「コーチング」を認めるべきだというテニス関係者の意見もある。
 しかし、またしても問題のすり替えが行われている。ルールの改正が必要なら、コート上で暴言と醜態を主審に浴びせるのは言語道断、別の場で議論するべきだ。
 スポーツには公正な判定が不可欠であるのは当然だ。

 セリーナは「男子選手が審判に注文を付けるシーンをこれまでに見てきた。私は『盗人』と言い、彼はペナルティーを科す。彼は『盗人』と言った男子選手を罰したことは一度もない。それで私の心は折れてしまった」と語っている。(AFPBB News)
 このセリーナの発言についても、国際テニス連盟は、正面から答えず、曖昧にしている。ジョコビッチ、マレー、ナダルなどの男子のビックプレーヤーは、かつて何度も主審に近寄り抗議をしている。その時に、どんな言葉を浴びせて抗議をしたか、そして主審はどんな対応をしたか、国際テニス連盟は調査をして明らかにすべきだ。
 しかし、あの醜態を演じたセリーナの責任は依然として免れることはない。

 セリーナは決勝戦に敗退後、「私は『盗人』と言い、彼はペナルティーを科す。性差別的だと感じた。「彼は『盗人』と言った男子選手を罰したことは一度もない。それで私の心は折れてしまった。だけど、私は女性のためにこれからも戦う」と女性の権利と平等のために戦うと宣言した。
 筆者は、これまでテニス界に隠然と存在していた人種差別や性差別と戦いながら、グランドスラム23回の優勝を果たし、「テニスのリジェンド」の地位を手にした姿は敬意を表する。とりわけトランプ政権になって「差別」意識に変化が生まれている中で、セリーナの存在は重要さを増すだろう。
 アメリカの社会の中で、「性差別」は極めて重要な意味を持つ。
 そのことが、「性差別」というワードが出されると企業も団体も、メディアも冷静な検証を避ける傾向がある。
 今回の一件で、セリーナの「性差別」という主張に同調する主張を掲げる関係者やメディアも多い。
 しかし、「性差別」の一言で、スポーツでは何よりも大切なスポーツマンシップや対戦相手へのリスぺクト、威厳と品格、そして寛容の精神が吹き飛ばされているのは見逃すことができない。メディアの論調も「性差別」の一言が出てきた瞬間、身を引いてしまう。
 「性差別」があったのかどうか、これまでの「コーチングバイオレーション」や暴言の事実関係を冷静に検証し明らかにした上で、議論すべきだと考える。今のままでは余りにも不明瞭で感情論に流されすぎる。

 とにかく、決勝戦と表彰式を台無しにしたセリーナ、全米テニス協会アダムズ会長、2万人観客は、大坂なおみに謝ってほしい。それがスポーツマンシップの正義だ。






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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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コメント (2)
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