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ワクチンの種類 遺伝子ワクチン mRNAワクチン DNAワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 組み換えタンパク質ワクチン 不活性化ワクチン 生ワクチン 不活性化ワクチン

2021年06月21日 16時45分59秒 | 新型コロナウイルス
ワクチンの種類
遺伝子ワクチン mRNAワクチン DNAワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 組み換えタンパク質ワクチン 不活性化ワクチン 生ワクチン


新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 出典 NIAID

ワクチンとは?
 ワクチン(vaccine)とは、感染症の予防に用いる医薬品である。病原体を無毒化あるいは弱毒化して作られた抗原を投与することで、ヒトの体内で病原体に対する抗体産生を促し、感染症に対する免疫を獲得する。
 「ワクチン」の語源はラテン語のVariolae vaccinae(牛痘)である。1798年にエドワード・ジェンナーが、牛痘を人間に接種することによって天然痘を予防できると実証し、その後にルイ・パスツールがこれを弱毒化して天然痘ワクチンの開発に成功したことに由来している。
 ワクチンは液体で、注射や経口、経鼻から投与される。


ワクチンの仕組み 出典 米国研究製薬工業協会

生ワクチン
 生ワクチンは、生きたウイルスや細菌の病原性(毒性)を、症状が出ないように極力抑えて、免疫が作れるぎりぎりまで弱めた製剤にしたもの。弱毒性ワクチン。
 自然感染と同じ流れで免疫ができるので、1回の接種でも充分な免疫を作ることができる。ただ、自然感染より免疫力が弱いので、5~10年後に追加接種したほうがよいものもある。ワクチンの種類によっては、2~3回の接種が必要なものもありある。副作用としては、もともとの病気のごく軽い症状がでることがある。
 近年は、遺伝子組換え技術を用いて、生きている病原体を弱毒化して生産するワクチンも数多く登場している。

 結核(BCG 牛型結核菌[M. Bovis] を弱毒化)、麻しん(はしか)、風しん、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、黄熱病、、ロタウイルス感染症など

不活化ワクチン
 不活化ワクチンは、ウイルスや細菌を増殖不能にするなど病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたもの。接種しても、その病気になることはないが、1回の接種 では免疫が充分にはできない。ワクチンによって決められた回数の接種が必要。
 不活性化ワクチンには、ホルマリンなどの薬品や熱を加えて不活性化した病原体から生産するワクチンやサブユニット・ワクチン、トキソイド・ワクチン、多糖体・タンパク結合型ワクチンなどの種類がある。
 実用化している不活性化ワクチンとして、インフルエンザ、A型肝炎、百日咳、日本脳炎、ポリオ、狂犬病などで、これまでに多くのワクチンの開発で実績がある。

■ サブユニット・ワクチン(組み換えワクチン)
 不活化ワクチンには様々な抗原が含まれている。これらの抗原のうちヒトが免疫獲得に必要な抗原(感染防御抗原)だけを抽出して製剤する。
 感染防御抗原を精製してもサブユニット・ワクチンは作れるが,技術開発が進み、感染防御抗原の遺伝子を特定して、遺伝子組換え技術を用いて、大腸菌や酵母に遺伝子を転写して、抗原タンパク質を大量につくらせることでワクチンを製造することも可能になった。
 この技術の登場で、大量生産が容易で安価なワクチンが実用化されるようになった。
 サブユニット・ワクチンには、免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)を確保するために、アジュバント(補助剤)を加えて製剤する場合が多い。
 サブユニット(subunit)とは、多量体タンパク質などを形成する単一のタンパク質分子のこと。
 実用化しているサブユニットワクチンとして、B型肝炎、帯状疱疹。

■ トキソイド・ワクチン
 トキソイド・ワクチンは、細菌の産生する毒素(トキシン)を取り出し、免疫を作る能力は持っているが毒性は無いようにしたもの。
 実用化しているトキソイド・ワクチンは、破傷風、ジフテリアなど。

■ 多糖体・タンパク結合型ワクチン
 多糖体をタンパクに結合(接合)させたものから生産するワクチン。これにより多糖
体ワクチンの幼児における有効性が高まる。
 実用化している多糖体・タンパク結合型ワクチンとして、肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザB型などがある。


出典 米国研究製薬工業協会

従来のワクチンの製造法
 ワクチンの製造方法としては、鶏卵でウイルスを増やして作る方法(例:新型インフルエンザワクチン)やネズミにウイルスを接種し増やして作る方法、細胞にウイルスを感染させて増やして作る方法(例:水疱瘡ワクチン)、そして遺伝子組換えによって作る方法(例:B型肝炎ワクチン)の4つがある。
 これまでの新型インフルエンザ・ワクチンに関しては鶏卵を使う方法が採用されていた。
 しかし、この方法は大量の鶏卵を準備しなければならないことや製造に6ヶ月~12ヶ月の期間を要することから、より短時間で大量のワクチンを製造できる方法の開発が課題だった。
 新たに登場した遺伝子組換え技術によって作る方法では、時間がかかる鶏卵でウイルスを増やすプロセスや不活性化のプロセスが必要なく、人工的にウイルスの遺伝情報を含むDNAやRNAの遺伝子を合成するので、短期間に大量のワクチンが製造できるという利点がある。


作成 IMSSR


新型コロナウイルスワクチン
世界の主なワクチンの開発状況

出典 ニューヨークタイムズ 6月8日

 New York Times(6月8日)によると、現在、開発中の新型コロナウイルスのワクチンは、試験管試験や動物実験中のワクチン候補が77で、ヒトを対象にした臨床試験を開始したワクチン候補は93に上り、第3相の最終段階の臨床試験まで到達したのは30、認可(限定使用を含む)されたものが115となっている。
 認可(緊急使用を含む)されたワクチンは、Phizer/BioNTech(米独)、Moderna(米)、Oxford/Astrazeneca(英)、Johson&Johson(米)、Cansino(中国)、Sinofarm(北京、武漢)、Sinovac(中国)、Gamaleya(ロシア)、Vector Institute(ロシア)、Bharat Biotech(インド)である。
 世界初の認可となったワクチンはCansino BiologicsのAd5-nCoVで、2020年6月、中国人民軍限定の利用認可を得た。さらにSinovac、Sinofarm、武漢生物制品研究所の3ワクチン候補が緊急使用で認可された。ロシアはGamaleya Research Instituteが開発しているSputnik-Ⅴを、2020年8月に第2/3相臨床試験の結果を待たず認可し、さらにシベリアの国立ウイルス学・生物工学研究センターが開発したワクチン候補も認可した。
 一方、University of Queensland&CSL(オーストラリア)、Merck & Co(米)(2種類)、Imperial Collage London(英)のワクチン候補は開発中止となった。



 最近の遺伝子組み換え技術の急速な進歩で、従来のワクチン開発の手法が一変し、遺伝子ワクチンが登場した。
 DANワクチンやmRNAワクチン、ウイルス・ベクター・ワクチン、組み換えたんぱく質ワクチンなどである。遺伝子ワクチンは、培養や不活性化処理などの時間がかかる従来の製造手法とは違い、人工的にワクチンを製造できるため、短期間で大量のワクチンを製造可能というメリットがある。
 一方で、まだ実用化の実績がほとんどなく、有効性や安全性(副反応)、持続性などに懸念が残されている。








作成 IMSSR


出典 厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部

新型コロナウイルス ワクチン開発
■ mRNAワクチン

 抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAを利用したワクチン。 
 新型コロナウイルスの遺伝子情報を基に人工的に作った設計図(DNA)、「メッセンジャーRNA(mRNA)」を使用して、ヒトの細胞内でウイルスが持つ抗原タンパク質を作りヒトの免疫を誘導する。DNAワクチンに比較して、ゲノム(DNAのすべての遺伝情報)への挿入変異リスクが少ないが、ヒトの体内に入ると分解されるなど不安定で壊れやすいために、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid nanoparticle)などに封入して投与する。血液に含まれるマクロファージや好中球などによりウイルスを排除する「自然免疫」が過剰に誘導されるのを抑える効果も期待できる。
 投与後、細胞質内でmRNAが抗原たんぱく質に翻訳されて免疫が誘導されるため、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。これまで世界で承認されたmRNAワクチンはないが、ここ数年で研究開発が活発化している。

Moderna(米国) 「mRNA-1273」脂質ナノ粒子組み込み
 米国のバイオベンチャー、モデルナ社は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と協力して、新型コロナウイルスのワクチン、mRNA-1273を開発している。mRNA-1273はメッセンジャーRNA(mRNA)を使用して、体内にタンパク質を作り、新型コロナウイルスの免疫を生成するワクチンである。 メッセンジャーRNA(mRNA)の開発には最新の遺伝子工学が導入されている。

MedernaRNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使 mRNAワクチン

 3月16日、米国立衛生研究所(NIH)は、NIHの一部門である国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)とのモデルナ(Moderna)が協力して開発したmRNAワクチン「mRNA-1273」の第1相前期臨床試験を始めたと発表した。臨床試験は18~55歳の健康な男女45人を対象に実施、ワクチンを4週間隔で2回投与して安全性と免疫原性を評価する。

Moderna社 Norwoodの拠点(米 マサチューセッツ州ケンブリッジ) 面積18万4000平方メートル 従業員約200人 117億円をかけて建設 
出典   Pharmaceutical Technology

 前期相臨床試験で中和抗体生成を確認、これを受けて米生物医学先端研究開発局(BARDA)は4億8600万ドル(約520億円)の資金提供を行うことを決めた。
 Moderna社は米政府が進めているワープスピード作戦の一環として、米国立衛生研究所(NIH)が主導する全米10万人規模の治験者を対象にした大規模後期臨床試験の候補にOxford/ Astra Zeneca 、Johnson & Johnson 、Phizer社と共に選ばれ、7月27日、臨床試験が開始された
 7月26日、臨床試験開始の前日に米生物医学先端研究開発局(BARDA)はModerna社に対して4億7200万ドル(約500億円)の追加資金を拠出した。
 Moderna社は2021年には最大で10億回分、2022年には30億回分の製造を目指す。

米モデルナ 緊急使用認可(EUA)
 2020年11月30日、モデルナ社は、新たな分析で重大な安全性の問題は浮上せず、コロナに対する高い予防効果が示されたとして、緊急使用許可申請(EUA:Emergency Use Authorization)を申請した。 
 申請に伴って公表された一次解析では、約3万人を対象に「mRNA-1273」かプラセボ(偽薬:placebo 生理的食塩水)を接種した後期臨床試験の結果を分析した。約3万人の内196人が新型コロナウイルスに感染、196人の内、11人が「mRNA-1273」を投与したグループ、185人が偽薬を投与したグループで、有効性を94.1%とした。これは以前に公表した暫定結果(94.5%)とほぼ同水準である。重症化が確認された30人はいずれもプラセボを接種した治験者で、重症化の予防には100%の有効性が示されたとした。
 モデルナ社のワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで、遺伝子を人工的に合成して製造するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点がある。
 同社のホーグ社長は「『ワープ・スピード作戦』を通じて数時間以内に出荷する用意があり、すぐに供給を開始できる」と自信を示した。
 12月18日、米食品医薬品局(FDA:U.S. Food and Drug Administration)は、モデルナ社が開発した新型コロナウイルスワクチン、mRNA-1273の緊急使用を許可した。米国でコロナワクチンの緊急使用が認められるのは米ファイザー社に次いで2例目となる。

 mRNAワクチンは壊れやすいために輸送方法が難問だが、モデルナ製のワクチンは通常の冷蔵庫の庫内の温度である2~8度で30日間の保存が可能、マイナス20度では最大6カ月の保存が可能である。一方、ファイザー社のワクチンはマイナス70度の超低温での保存が必要となる。
 「ワープ・スピード作戦」のワクチン担当責任者は、通常の冷蔵保存が可能なことから、遠隔地域などへの配布が容易にできると指摘。「長期試験が完了すればさらなる安定化も期待できる」と述べた。 また米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長は「ワクチンはトンネルの先にある光だ」と歓迎した。
 米政府は2020年8月、1本15ドルで1億本のワクチンを購入する契約をモデルナと締結。政府は開発資金として10億ドルをモデルナにすでに提供しており、政府が支払う1本分のワクチン価格は合計で25ドル、総額で25億ドルとなる。その後の追加の交渉で2021年7月までに3億回に増やした。
 12月中に米国ではファイザー製とモデルナ製の2種類のワクチンの緊急使用が始まり、年内に最大6000万回分、2021年には10億回分を超えるワクチンが米国内で供給される見通しとなった。
 週明け12月16日のニューヨーク株式市場ダウ平均株価は、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待から3万ドルの大台に迫る水準まで値上がりし、ことし2月につけた終値としての最高値を9か月ぶりに更新した。17日の日経平均も、29年5カ月ぶりに2万6000円台を回復した。まさに「ワクチン相場」である。
 日本はModerna社と5000万人分(1億回分)の供給契約を結び、5月21日に緊急使用承認、「大規模接種」や「職域接種」で接種が開始されている。


出典 Moderna HP

Pfizer(米国)/BioNTech(独) 脂質ナノ粒子組み込み 「BNT162b2」(Cominaty)
 2020年3月、ドイツのバイオベンチャー、BioNTECH社(ビオンテック)はmRNAコロナワクチンを開発し、米国の製薬大手、Phizer社(ファイザー)と提携して、5月に第1相臨床試験を開始した。7月27日、第2/3相臨床試験を3万人規模(その後4万4000人規模に拡大)のボランティアを対象に大規模試験を開始した。
 2020年7月、米政府は、19億5000万ドルを拠出してBioNTECH/Phizer社のワクチン、1億回分を確保する契約を結んだ。また年内にさらに19億5000万ドルを投じて追加の1億回分の供給を受けることになった。さらに最大で計4億回分の追加オプションの権利も手に入れた。
 12月2日、英国が世界の先頭を切って緊急使用認可に踏み切り、12月11日は米FDAも緊急使用認可を行った。12月31日にはWHOも緊急使用認可を行い、各国も相次いで認可した。
 一方、2020年12月、EUは1回目の供給契約(2億回分)を結び、接種1回当たり平均15.5ユーロ(18.6ドル)を支払うことで合意して、7億ユーロの前払い金を支払った。さらにこの契約に含まれていたオプションで1億回分の追加供給確保し、2021年1月には2回目の供給契約(3億回分)に調印し、確保したワクチンは6億回分に達した。EUの人口は約4億5000万人、全員に接種が可能な量である。
 4月23日、欧州連合(EU)欧州委員会は、今後数年間で新型コロナウイルスワクチンを最大18億回分購入する方向で、最終合意するという見通しを示した。ワクチン契約としては世界最大規模となる。EUのすべての住民が約4回の接種が可能な量である。ワクチン価格は、1回当たり19.5ユーロになるとされている。
 日本は、2021年2月14日、緊急使用承認がされ、政府はこれまで確保した1億4400万回(7200万人分)に5000回分(2500万人)上積みして、合計1億9400万回分(9700万人分)を確保した。

全米3万人規模の大規模試験実施
 7月27日、BioNTech(ビオッテク)社とPfizer(ファイザー)社は開発中のワクチン候補、BNT162b2について、3万人の治験者を対象とした第2/.3相大規模臨床試験を、米国やアルゼンチン、ブラジル、ドイツなど世界の約120の医療機関で開始した。18〜85歳のボランティアに2回投与し、安全性や感染や発症の予防に有効かどうかを評価する。半数は比較のためプラセボを接種する。10月12日、米国内での第2/.3相大規模臨床試験を4万4000人に拡大すると発表した。

PfizerとBioNTechのワクチン、BNT162 米政府が1億回分を確保
 2020年7月、米政府は米Pfizer社と独BioNTech社が開発中の新型コロナウイルスワクチンBNT162b2で、1億回分を購入すること合意した。米政府は19億5000万ドル(約2090億円)を支払う。
 Pfizer社の発表文によると、購入契約を結んだのは、米厚生省と国防総省で、年内に1億本分の供給を受けて米国民に無料で投与する。さらに年内に1億回分の追加を19億5000万ドルを投じて供給を受ける契約も結んだ。また最大で4億回分の追加オプションの権利も手にした。。
 この契約では、米国政府は、対象者一人当たり、ワクチンを2用量接種する場合には39ドル、1用量の接種では19.50ドルの価格で購入する。新型コロナウイルスのワクチン価格を取り決めた最初の契約となった。
 米投資銀行のアナリストは、この契約について「COVIDワクチンの価格設定に重要なベンチマーク(指標)を提供するだろう」と述べた。
 これに対して、WHOと国際枠組みを推進している国際組織GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の広報担当者は、現時点で具体的な価格を予測することは不可能だとし、暗に高すぎると批判した。
 トランプ政権は、100億ドル(約1兆700億円)を投じて、「史上最大の作戦」とする「ワープスピード作戦」を強力に展開し、全国民が1回接種するのに相当する3億本のワクチンを2021年初めまでに確保して、コロナ禍を克服する重要施策として位置づけている。
 ファイザー社は20年末までに1億本、21年末までに13億本の製造を目指すとしている。

米FDA、Pfizerのワクチン緊急使用承認 接種開始  
 12月11日、米FDAは、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用許可(EUA)を行った。これを受けて米国の保健当局、地方自治体、病院、物流業者は、ただちに接種に向けて動き出している。
 12月13日、ファイザー社のミシガン州の工場からアメリカ各地の145カ所の医療機関に向けて次々に発送が始まった。16日までに約300万回分が636カ所に運ばれる予定だ。
 最大都市のニューヨーク市は、14日にワクチン配布などの統括センターを開設する計画を発表。デブラシオ市長は会見で「これは物流だけの問題でなく、いかに公平を期し市民の信頼を確保するかという点で前例がない」と語った。
 12月14日、 ニューヨーク州でワクチンの接種が始まった。一番手はロングアイランド・ジューイッシュ・メディカル・センターの集中治療室(ICU)で働く看護師だった。 
 米国ではこの日、新型コロナ感染症による死者が累計で30万人を超えた。ワクチン接種の開始で、米国のコロナ対策の転換点となる可能性に期待が集まった。
 12月18日、米食品医薬品局(FDA)は、米モデルナ社のワクチンの緊急使用を許可した。これで2例目となる。
 一方、世界保健機関(WHO)は12月31日、米ファイザー/独ビオンテックのワクチンの緊急使用を承認し、世界各国で承認が相次ぐ。

CureVac(独 キュアバク)
 CureVac社は、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質を生成させるmRNAを利用することで、免疫システムを強くかつバランスよく活性化するように設計しているとしている。ベクターとして脂質ナノ粒子を使用し、ドイツのテュービンゲンにある同社の大規模製造施設で製造する。
 第1相臨床試験では、ドイツとベルギーの18歳から60歳の健常者168人が参加し、その内24人はプラセボ(偽薬)を投与する。投与量は2~8マイクログラム(マイクロは100万分の1)の範囲で、安全性を評価しつつ最適な用量を決定してヒトにおける免疫応答の特性を解析する。最初の臨床試験の結果は9月か10月に発表される見通しで、来年半ばまでにワクチンの承認が得られる可能性があるとの見解を示した。
 このワクチンは、トランプ政権が資金提供の見返りに独占しようとする動きがあったとして、ドイツが政府が反発して問題になった。
 ドイツ政府は、CureVac社に3億ユーロ(約400億円)出資して株式23%を取得する計画を発表した。

脂質ナノ粒子(LPN lipid-polymer hybrid nanoparticle)
 直径10nmから1000nmの脂質を主成分とする粒子で、DNAやRNA、薬物などを内側に内包させて運搬するベクターとして利用されている。
 脂質ナノ粒子の主な原料は、トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、脂肪酸、ステロイドなどの生体適合性がある脂質と界面活性剤である。
 ベクターとして使用するためには、(1)非毒性であること、(2) 適切な場所および時間で内包した物質を放出可能なこと、(3) サイズ制御が可能であることがあげられる。

■ DNAワクチン

 抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったプラスミド(環状)DNAのワクチン。 
 大腸菌などのプラスミド(染色体とは独立して複製される小型の環状DNA)の中に、ウイルスの一部を作る設計図(DNA)を組み込んで、ヒトに投与することで、ウイルスの抗原タンパク質を生成させ、免疫を誘発する。核内でmRNAに転写され細胞質内で抗原たんぱく質を作ることで、免疫を引き起こすと考えられている。
 mRNAワクチンに比べ、抗原たんぱく質の発現には、転写と翻訳の2段階が必要となる。
 DNAが細胞のゲノムに組み込まれてしまう危険性や、抗DNA抗体が産出される危険性は残されている。
 これまで各国で数多くのDNAワクチンの臨床試験が行われたが、承認されたものはなく、その背景に免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)の低さが指摘されてきた。これを克服するために免疫効果を強化するアジュバンド(増強剤)を添加して免疫効力上げる手法が取り入れられている。

Inovio Pharmaceuticals(米)「INO-4800」
 Inovio社はMERS(中東呼吸器症候群)のワクチン開発を第2相臨床試験まで進めていたことから、その技術をCOVID-19に応用。
 Beijing Advaccine Biotechnologyと提携し、4月に臨床試験開始。秋には第三相臨床試験を開始して、ワクチン提供を目指す。

アンジェス/大阪大学 「AG0301-COVID19」
 2020年6月30日、大阪大学発バイオベンチャーのアンジェスと大阪大学は開発中の新型コロナウイルスのDNAワクチン、「AG0301-COVID19」の第1相臨床試験を、大阪市立大学の医療従事者、30人程度を対象に、安全性と有効性を確かめる第1相臨床試験を開始した。。
 アンジェス株式会社は、遺伝子医薬の開発を行う日本のバイオ製薬企業。大阪大学医学部森下竜一教授の研究成果を基に、1999年12月発足。2002年9月に大学発創薬型バイオベンチャーとして初めて東証マザーズに上場した。
 このDNAワクチンは、大腸菌のDNA分子であるプラスミドをベクターとして利用するプラスミドDNA・ワクチンである。
 アンジェスと大阪大学(臨床遺伝子治療学・健康発達医学)はプラスミドDNAを利用した慢性動脈閉塞症の開発実績があり、この技術を新型コロナウイルスのワクチン開発に応用する。
 ワクチンの製造は、プラスミドDNAの製造技術と設備を持つタカラバイオが受け持ち、ワクチンの中間素材はAGC Biologics(米)に委託、ヒトへの新規投与デバイス提供はダイセルが実施する。

■ ウイルス・ベクター・ワクチン(組み換えたんぱく質ワクチン)

 無害なウイルスをベクター(運び屋)として利用して、抗原タンパク質の遺伝子情報を忍び込ませてヒトの体内に入れる。ウイルス自体が細胞に侵入し、細胞質で抗原たんぱく質をつくり出すことで、抗体によりウイルスを排除する「液性免疫」と、免疫細胞の1つであるキラーT細胞などにより排除する「細胞性免疫」を引き起こすと考えられている。これまで、世界で承認されたウイルス・ベクター・ワクチンは、欧州で承認された米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のエボラウイルスワクチンと、中国で承認された中国の康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)のエボラウイルスワクチンの二つのワクチンがある。
 新型コロナウイルス感染症には、コロナウイルスの「スパイクたんぱく質」の遺伝子を組み込んだウイルス・ベクター・・ワクチンが主に開発されている。英オックスフォード大学と英大手製薬アストラゼネカはチンパンジー由来のアデノウイルス、中国のCansino BIO(康希諾生物)はアデノウイルス(5型)を、米国のJohnson & Johnsonはアデノウイルス(26型)、ロシアのスプートニクV(SputnikⅤ)は、アデノウイルスの5型と26型の混合型をベクターとして使用するワクチンを開発している。
 ウイルス・ベクター・ワクチンは、1回接種すると、ヒトの体内にウイルス・ベクターに対する抗体ができるため、2回目の接種では効果が出ない可能性がある。オックスフォード大とアストラゼネカは最終相臨床試験で、同じベクターを利用したワクチン候補を2回投与して治験を実施している。

Oxford University(英国)/Astra Zeneca(英国)「ChAdOx1 nCov-19」
 ラッサ熱や中東呼吸器症候群(MERS)、インフルエンザのワクチンにも使われるアデノウイルウイルス・ベクター(ChAdOx1)を利用。アデノウイルウイルスはチンパンジーの風邪のウイルス。
 CanSino BiologicsやJohnson & Johnsonは、ヒトのアデノウイルウイルスをベクターとして利用するが、ヒトのアデノウイルウイルス・ベクターを使用してワクチン開発を進めているが、ヒトのアデノウイルウイルスの抗体を持っている人に対してはワクチン接種の効果が下がる可能性が指摘されている。こうした欠点を除くために、「ChAdOx1 nCov-19」ではチンパンジー由来のアデノウイルウイルスを無害化してベクターととして使用している。
 製造・販売はAstra Zenec社(英国・スエーデン)。MERSワクチンやインフルエンザ・ワクチンの開発で実績。
 イギリスでは、1万人の治験者を対象にフェーズII / III試験、ブラジルでは2000人の治験者を対象にフェーズIII試験を開始している。
 英政府は6550万ポンド(約86億5000万円)の開発資金を提供し、1億本のワクチンを確保した。その内、9月までに、3000万本のワクチンの供給を受け、緊急使用として医療従事者への接種を開始する計画である。また英政府は、Imperial College London(その後開発中止)が取り組んでいるワクチン開発にも支援して、両大学に対して合計1億3100万ポンド(約173億円)を拠出することを決めている。
 一方、米政府機関のBARDAは、Oxford University/Astra Zenecaに対して、最大12億ドル(約1284億円)の開発資金を提供、見返りに3億本のワクチンの供給を受ける。 トランプ政権の推し進めるワープスピード作戦の対象候補ワクチンとしている。
 欧州各国に対しては、6月13日、ドイツ、フランス、イタリア、オランダが設立した「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」と、「ChAdOx1 nCov-19」を最大4億回分を供給することに合意した。
 この合意で、IVAの4国はワクチンの供給を確保し、さらにワクチン同盟に参加を希望する他のEU諸国も負担金を支払えば加入を認め、ワクチン供給が受けられるようにするとしている。EU各国は、「欧州包括ワクチン同盟(IVA)」を通じて、「ChAdOx1 nCov-19」へのアクセスが可能になった。
 AstraZenecaの最高経営責任者、パスカルソリオ氏は、「この合意により、開発が成功すれば、数億人のヨーロッパ人がこのワクチンを利用できるようになる。欧州向けの生産を加速してサプライチェーンを整備し、このワクチンが幅広く迅速に入手できるようにしたい。ドイツ、フランス、イタリア、オランダ政府の関与と迅速な対応に感謝する」と述べた。さらにOxford University/Astra Zenecaは、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)やGaviワクチンアライアンスと提携し、3億本を年末までに供給を開始するとしている。Gaviは世界の低・中所得国に供給する。
 ワクチン製造はアストラゼネカ社が担当、同社では今年末までには10億本の製造設備を整える計画である。
 さらにアストラゼネカ社はインドのワクチン大手Serum Institute of India (SII) とライセンス契約を締結、インドで10億本を製造し、うち4億回分は年内に製造するとしている。10億本のうち一定量(発表なし)はインド向けで、残りはGAVI によって他の発展途上国に配られる。アストラゼネカ社では、パンデミックが進行中の間は、「利益はゼロ」で供給を実施するとしている。自社での生産量と合わせるとワクチンの生産能力は年間20億本に上る。
 日本は、1億2000万回(6000万人分)を契約し、5月21日にModerna社と共に緊急使用承認を行った。

ワクチンの決め手は、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」
 オックスフォード大学には、1796年に世界で初めてワクチンを開発したエドワード・ジェンナーにちなんだジェンナー研究所があり、世界有数の専門家が集まっている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、可能な限り短時間で、ワクチン開発を行うためにはどうするかが焦点だった。
 ジェンナー研究所の計画の中心には、「プラグ・アンド・プレイ(起動後すぐに作動すること、元はコンピュータ用語)」と呼ばれる、画期的なワクチン開発の仕組みを整えていた。素早く柔軟で、未知の病気に対応するには格好の手法である。
 幼少期に受ける予防接種で使われる従来のワクチンは、弱体化や不活化したウイルスの一部をヒトの体内に投与する。しかし、こうしたワクチンの開発に時間がかかる。
 オックスフォード大の研究者はこれに代わるものとして、「チンパンジー・アデノウイルス・オックスフォード1(ChAdOx1、チャドックス1)」を作り出した。
 チンパンジーが感染する普通の風邪のウイルスを操作し、あらゆる感染症に対応できるワクチンの建材となるようにした。
 COVID-19以前には、インフルエンザやジカ熱、前立腺がん、チクングニア熱などの治療に、「チャドックス1」をもとにしたワクチンが開発され、計330人が投与されたという実績がる。
 チンパンジーから採取した風邪ウイルスは遺伝子操作が行われているため、人間が感染することはない。この「チャドックス1」に、治療したい病気の遺伝子コードを組み込むことでワクチンを作り上げある。対象の病原体が体内に入れば、免疫系が反応してヒトに感染させようとるウイルスを攻撃する仕組みである。免疫反応を引き起こす物質は「抗原」と呼ばれる
 「チャドックス1」は言わば、ミクロの世界の、優秀な郵便配達人のようなものだ。科学者は治療したい病気によって、「チャドックス1」に託す荷物、つまり抗原を変えるだけ済む。
 ジェンナー研究所のギルバート教授は、「(抗原を)入れたら、あとはおまかせ」と述べている。
(出典 BBC NEWS 「英オックスフォード大 どうやってこんなに速くできたのか」 2020年11月28日)


ChAdOx1 nCov-19 オックスフォード大学の開発した新型コロナウイルスワクチン  出典  BBCNEWS 4月21日

ChAdOx1 nCov-19(ワクチン)の働く仕組み 出典 BBCNEWS
・新型コロナウイルスの表面にある「突起」(Spike)のたんぱく質から遺伝子を採取する.
・この遺伝子をチンパンジーから採取した一般的な風邪のウイルス(アデノウイルス)の遺伝子に組み込む。アデノウイルスはヒトの体内では増殖しないように無害化。これがワクチンとなる。
・このワクチンをヒトに注入すると、抗体やT細胞などの免疫抗体が生成される。
・新型コロナウイルスに遭遇すると、抗体やキラーT細胞が招集されウイルスに取り付いて撃退する。




Johnson & Johnson(米国) Ad26.COV2.S(Ad26)
 アデノウイルウイルス・ベクター(Ad26)を利用。英オックスフォード大と英アストラゼネカ社が開発しているワクチン候補、ChAdOx1 nCov-19がチンパンジー由来の アデノウイルウイルスをベクターとして利用しているが、米Johnson & Johnsonは、ヒトのアデノウイルウイルスをベクターとして利用する。  H.I.V.ワクチンとエボラ出血熱ワクチンを開発した技術を応用。このワクチン候補は、他のほとんどのワクチンが二回の接種が必要だが、1回の接種で済むのが大きな特徴である。これによりワクチンの輸送や接種の負担を半減させることが可能になる。
 またアデノウイルス・ベクター・ワクチンは、冷蔵保存する必要があるが、凍結保存する必要はない。これに対して、開発が先行しているModernaとPfizerのmRNAワクチンは凍結保存が必要となる。アフリカなど高度な医療施設がない場所にmRNAワクチンを配布するには障壁となる。
 ワクチン候補は同社の子会社ヤンセンファーマが開発した。
 米ワープスピード作戦(Operation Warp Speed :OWS)の対象候補ワクチン。米政府機関のBARDAは、4億5600億円(約490億円)の開発資金を提供、その他の機関からの資金提供を加えると、同社のワクチンが承認された場合は、連邦政府は約10億ドル(約1100億円)を拠出し、Johnson & Johnsonは、1億本のワクチンを提供する。同社は2021年には、10億本のワクチンを製造する設備を整えるとしている。
 ワープスピード作戦は、これまでに民間企業のコロナウイルスワクチンに100億ドル以上の巨額の資金を投資している。
 9月23日、Johnson & Johnsonは米国内で、第3相臨床試験を開始した。この臨床試験は、米国のほか、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、南アフリカの約215カ所で、最大で大人6万人を対象に実施する。大人で安全が確認されれば、子どもを対象とした試験も実施する意向としている。
 
CanSino Biologics (Cansino BIO 康希諾生物)(中国) 「Ad5-nCoV」
 ヒトのアデノウイルウイルス(Ad5)をベクターとして利用したワクチン。エボラ出血熱のワクチン開発技術を応用。
 中国・軍事医学科学院の生物学研究所と共同開発。
 CanSino Biologics アフリカで問題になっていたエボラ出血熱に対して、欧米企業に並んで、独自技術を活用したワクチンを開発し、中国政府から緊急時と国家備蓄向けの承認を獲得した実績がある。このワクチンは国連の管理下で、アフリカに派遣された中国の平和維持軍や中国の医療専門家などに投与されている他、アフリカでの臨床試験が計画されていた。
 武漢で108人に第1相臨床試験を開始し、第2相臨床試験を実施中。年内に実用化を目指す。

Ad5-nCoV 出典 CanSino Biologics (康希諾生物)

Gamaleya Research Institute(ロシア) 「スプートニクV(SputnikⅤ)」
 2020年8月11日、プーチン大統領は、「世界ではじめてけさ、ロシアで新型コロナウイルス・ワクチンとして登録された」と述べ、モスクワの国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所(Gamaleya Research Institute)が開発を進めてきたワクチン候補を正式に承認したことを明らかにした。
 ガマレヤ(ガマレーヤ)疫学・微生物学研究所(Gamaleya Research Institute of Epidemiology and Microbiology )はガマレーヤ疫学および微生物学研究所は、モスクワに本社を置くロシアの研究ワクチン研究所。現在はロシア連邦保健省の管轄下にある。
 プーチン大統領の娘も臨床試験に参加し、「接種後は体温が38度に上がったが、翌日には37度を少し上回るぐらいになっただけだ。その後は順調だ」と述べ、大きな問題は生じなかったと強調した。安全性と効果は確認されているとして、早ければ8月末にも医療関係者や教員らへの集団接種を始めるとした。
 同研究所が開発したワクチンは、遺伝子組み換えDNAワクチンで、アデノウイルスをベクターとして使用して体内に新型コロナウイルスの構成要素を送り込む。オックスフォード大学とアストラゼネカが共同開発を進めているワクチンとほぼ同様のアプローチでだが、ベクターをAD5とAd26を使用する二種混合にするのが特徴である。

 開発を支援する政府系ファンド「ロシア直接投資基金」(Russian Direct Investment Fund [RDIF])のドミトリエフ総裁は、今回承認されたワクチンは、エボラウイルスのワクチン研究を応用したもので、1957年に旧ソビエトによって世界で最初に打ち上げられた人工衛星の名前にちなんで「スプートニクV」(SputnikⅤ)と名付けたと述べた。
「スプートニクが発信する信号を観測して米国人は驚愕した。このワクチンも同じだ。ロシアが一番乗りするだろう」、ロシア直接投資基金(RDIF:Russian Direct Investment Fund)のキリル・ドミトリエフ総裁は語った。
 同基金は、「20カ国から10億回分以上の注文を受けている」として、年産5億回分を超える量産体制を整える考えを示した。
 しかし、承認に必要とされる第3相臨床臨床試験は後回しにしており、米CNNは「治験の科学的データが公開されておらず、安全性や効果が検証できない」と批判した。
 ロシア保健省(Ministry of Health of the Russian Federation)によると、完了したのは第1/2相試験は約80人を対象にした治験で、同省は今後、接種と並行して1600人以上を対象にした第3段階の治験を行うとしている。同研究所のデニス・ログノフ副所長も、「子供や高齢者への接種は、完全な安全性の確認後だ」と開発途上にあることを認めたという。
 ロシアでは現在も1日5千人以上の新規感染者が確認され、累計死者は約1万5千人に上る。プーチン政権は、世界に先駆けたワクチン開発をアピールすることで、政権への批判をそらす狙いもあるとみられる。また、米国や欧州、中国との「コロナワクチン覇権争い」で、遅れをとりたくないと思惑も込められている。
 これを受けて、フィリピンのドゥテルテ大統領は、ロシアから新型コロナウイルスのワクチンの供与を受ける意向を示した。フィリピンは中国からもワクチンの提供を受ける方針。
 ロシア製のワクチンが認可されたことを受けて、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、「ワクチンを作り上げることと、それが安全かつ有効であることを証明することは別」と述べ、ロシア製ワクチンに「重大な懸念」を示した。
 ワクチンの一刻も早い実用化を目指す競争が過熱する中で、果たして接種しても安全なのかを巡る不安が世界中で高まっている。各国政府や製薬会社は、ワクチン開発が人々の不信感で台無しにならないよう重大な責任を負っているだろう。

Sputnik-Ⅴ 出典 MINZDRAV

■ プロテイン・ベース・ワクチン(組み換えタンパク・ワクチン)

 遺伝子組み換え技術を用いて抗原タンパク質を大腸菌や酵母、昆虫や植物、哺乳類の細胞などで増殖して、単離・精製して製造し、ヒトに投与する。投与後、抗原たんぱく質が細胞外から取り込まれ、ペプチド(たんぱく質の断片)に分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。多様な抗原タンパク質に対応可能だが、一般的に免疫効果が弱いという弱点があり、免疫効果を強化するアジュバンド(増強剤)を添加して免疫効力を上げなければならない。
 米国では2013年、昆虫細胞を使ったたんぱく質発現システムを用いた仏サノフィの季節性インフルエンザワクチン「フルブロック」が承認され販売されており、相当数の投与実績がある。
 新型コロナウイルス感染症に対しては、主にスパイクたんぱく質を抗原とする組み換えたんぱく質ワクチンを各社が開発中である。

田辺三菱製薬/Medicago 植物由来ウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)利用ワクチン
 VLPは、ウイルスのタンパク質を利用して、外見上ウイルスに似せて作られた粒子で、ワクチンのベクターにする。ウイルスのDNAなRNAは含まれず、無毒化されている。
 3月12日、田辺三菱製薬は、カナダの子会社メディカゴが新型コロナウイルスの遺伝子情報を基に植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功したと発表した。ウイルスと似た構造のVLPを接種すれば体内で抗体が作られ感染を防御できる。
 現在、COVID-19向けワクチンの非臨床試験を行っており、2020年8月までにカナダ国内で臨床試験を開始し、21年に試験を終えて認可申請を目指す。各国の規制当局とも相談し、カナダ以外でも実用化の機会を探るとしている。
 ワクチン開発を手掛けるメディカゴ社は田辺三菱が2013年に買収したカナダのベンチャー、メディカゴ(ケベック市)社である。メディカゴ社は植物(たばこの葉)に遺伝子を導入してVLPを作製する技術を持ち、開発中のインフルエンザワクチンは商業化目前にある。今回、新型コロナの遺伝子情報を取得してからわずか20日間でVLPの作製に成功した。
 VLPは副反応のリスクが低く、感染防御に優れる。VLPはウイルスと同じ構造をしているが、ウイルスのように増殖するための遺伝子情報を持たず増殖しない。ヒトに投与するとVLPをウイルスと認識して抗体が作られ、感染を防げる。VLPは1カ月程度で量産できる利点もある。
 メディカゴ社はワクチン以外にも新型コロナウイルスに対する抗体をケベック市内にあるラヴァル大学感染症研究センターと協力して研究中で、治療薬の実用化も目指すという。

Novavax 「NVX-CoV2373」(脂質ナノ粒子組み込み)
 COVID-19のスパイクたんぱく質の侵入阻止抗体の生成を促すmRNAを脂質ナノ粒子組み込むプロテイン・ベース・ワクチンを開発している。この技術を利用して開発したインフルエンザワクチンは、2020年3月に第3相試験を終了している。
 高レベルの中和抗体産生を促すために、Novavax社が特許を有する免疫増強アジュバント(Adjuvant)であるサポニン・ベースの「Matrix-M」を含有させる。
 5月に開始した約130人の患者を対象とした第1/2相臨床試験の第1相試験データは、8月に結果を公表したが、NVX-CoV2373は概して良好な忍容性を示し、ヒト回復期血清にみられる反応よりも優れた抗体反応を示したとした。8月に南アフリカで第2相臨床試験を開始した。 2,900人を対象とした盲検プラセボ対照試験では、ワクチンの安全性や有効性も検証する。
 そして9月、Novavaxは英国で最大10,000人のボランティアを登録する第3相臨床試験を開始した。参加者の半数にコロナワクチン「NVX-CoV2373」をその効果を高めるアジュバント「マトリックスーM」と共に2回接種するプラセボ対照試験となる。18-84歳が対象だが、少なくとも被験者の25%は高齢者となり、新型コロナで最大の影響が見られている人種・民族のマイノリティーの登録が優先される。登録完了までに4-6週間かかる見通し。10月には米国でさらに大規模な3万人規模の第3相臨床試験の開始を予定している。
 臨床試験の結果は、2021年の初めまでに得られる見通しとしている。
 Novavaxは、AGCの事業子会社であるAGC Biologics(本社:米国)に、AGC Biologicsに「Matrix-M™」の製造を委託した。Novavaxは、「Matrix-M™」の大量生産を可能にする製造プロセスを開発段階から支援する。
 また英Glaxo Smith Klineと提携、薬効を高めるアジュバンド(Adjuvant:補強剤)の提供を受ける。

「アジュバント」(Adjuvant:増強剤)
 アジュバントは、免疫応答を高めるためにワクチンの効果を高める添加する増強剤で、感染症に対し、ワクチン単体よりも、強力かつ長期的に持続する免疫を作り出すことが可能になる。たんぱく質ベースのワクチンは、mRNAワクチンなどに比べて免疫応答が弱く、アジュバントの補強が必要となる。
 アジュバントを使用することにより、ワクチンの効果が高まり、1回の接種に必要なワクチン用タンパク質の容量が抑えられて、より多くの人への接種可能になる。
 タンパク質ベースの抗原をアジュバントと組み合わせる方法は、現在提供されている多くのワクチンで使用されている確立された方法である。 

「ワープスピード作戦」のワクチンに 16億ドル(約1712億円)の資金提供
 Novavaxは、トランプ政権がCOVID-19の安全で効果的なワクチンの早期開発を目指して立ち上げた「ワープスピード作戦」(Operation Warp Speed:OWS)へ参加するワクチン候補に選ばれ、7月7日、米BARDAはNovavaxに対して16億ドル(約1712億円)の資金を提供すると発表した。
 同社が開発しているCOVID-19ワクチン、NVX-CoV2373の臨床試験(治験)や実用化、製造を支援するもので、2021年の第一四半期までに1億回分(1人当たり2回の接種が必要 計5000万人分)のワクチン供給を目指す。
 今回の支援は、3月のJohnson & John(4億5600万ドル)、4月の米Moderna(4億8600万ドル)、5月の英AstraZeneca/Oxford University(最大12億ドル)などに続くもので、コロナワクチン開発に向けた「ワープ・スピード作戦」の下で最大規模となる。
 BARDAとは別に、6月には米国防総省から6000万ドルの開発資金提供を受け、アメリカ軍の予防接種ワクチンとして1000万回を提供する契約を行っている。
 大規模な製造設備の整備を行いたいとしている。
 アザー米厚生長官は声明で、ワープ・スピード作戦にNovavaxのワクチン候補が加わったことにより「早ければ年末にも安全で効果的なワクチンを確保できる可能性が高まった」と述べた。
 また9月には、Novavaxは大手ワクチンメーカーのインドの血清研究所(Serum Institute of India)と年間20億本のワクチンを製造することで合意に達した

新型コロナのワクチン開発で米社と提携 年2.5億回分生産―武田薬品
 8月7日、武田薬品工業は、新型コロナウイルスのワクチン開発や製造で、米バイオ企業ノババックスと提携したと発表した。武田薬品工業は米ノババックス社が海外治験を実施しているワクチン、NVX-CoV2373の日本国内での開発や製造、流通を担う。
 これを受けて、厚生労働省は7日、新型コロナウイルスワクチンの生産体制整備事業の助成先として武田薬品工業を採択し、300億円を助成しすることを決めた。武田薬品工業は光工場(山口県)で2億5000万接種分以上の生産体制を整える。
 武田薬品が新型コロナのワクチンで提携するのは初めて。金額は非公表。来年後半には最初の製品を製造できる見通しとしている。

Sanofi(仏)/GlaxoSmithKline(独) 
 2020年9月、仏製薬大手のSanofiと英GlaxoSmithKlineフランスの製薬大手サノフィは開発したワクチン候補の第1/2相臨床試験を開始、2021年5月に第2相臨床試験(治験)で強力な免疫反応が示されたと発表した。。
 このワクチン候補には、すでにSanofiが開発に成功したインフルエンザワクチンと同じタンパク質ベースの遺伝子組換え技術を応用して、COVID-19のスパイク・タンパク質と正確に一致するDNA遺伝子配列を遺伝子組換え技術でタンパク質に組み込む。このタンパク質をバキュロウイルス・ベクターに入れてワクチンを製造する。バキュロウイルス(Baculovirus)は、昆虫を主な宿主とする核多角体病ウイルス(Nucleopolyhedrovirus:NPV)。
 ワクチンには、GSKが製造する「アジュバント」(Adjuvant:増強剤)組み合わせる。
 今後、3万5000人以上の成人が参加する世界規模の第3相治験を開始する予定で2021年第4・四半期までの承認を目指し、最大10億回分のワクチン製造を計画している
 両社に対して、米国生物医学先端研究開発局(BARDA)は21億ドルの資金提供を行い、1億本のワクチンの提供を受ける。またEUに3億本を提供することで協議を進めている。

■ 不活性化ワクチン

 ウイルス自体を不活性化(感染性や病原性を喪失させる)して製造したワクチン。ワクチン開発の伝統的な手法で、これまでに数多くの実績がある。しかし、ウイルスの培養や不活性化のプロセスで時間を要し、短時間に大量生産することが困難という弱点がある。

Sinopharm(国営中国医薬集団 シノファーム)

中国 Sinopharm(北京・武漢)とSinovacの不活性化ワクチン 医療従事者に接種開始
 2020年7月22日、中国政府は医療従事者らを対象に限定して、国営製薬企業、Sinopharm(国営中国医薬集団 シノファーム)の子会社である北京生物製品研究所(Beijing Institute of Biological Prodeucts)と武漢生物製品研究所(Wuhan Institute of Biological Prodeucts)の2社と、科興控股生物技術(Sinovac Biotech)が開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を正式に開始した。国家衛生健康委員会科技発展センターの鄭忠偉主任がCCTVの番組で明らかにした。臨床試験段階にあるワクチンの有効性や安全性を感染リスクの高い現場でも確認し、年内には一般市民へ接種を可能にする方針としている。
 緊急使用は「ワクチン管理法」の規定に基づき同委が申請し、薬品監督当局が専門家の検証を経て認可。目的は「医療従事者や出入国検査員らにまず免疫を持たせ、都市運営の安定を確保するため」と説明している。
 Sinopharmは、傘下の中国生物技術(CNBG)の北京市と武漢市の研究所でそれぞれ別個にワクチンを開発中である。このうち武漢生物製品研究所は、6月16日、中国国内で行った治験対象者1120人の第1/2相試験(プラセボ盲検試験)の結果を明らかにし、2回の接種で、被験者全員の中和抗体の陽性化率が100%で、深刻な副作用はなかったとした。
 北京研究所は4月にワクチンの製造設備を建設して年間生産能力1億2千万個の生産が可能になった。また武漢の研究所も年産能力1億個をめざして工場建設を進めて2021年には発売したいとしている。
 6月23日、Sinopharmは第3相臨床試験をアラブ首長国連邦(UAE)で実施すると発表した。北京と武漢のワクチン候補をそれぞれ5000人を対象に治験を行う。UAE側は現地で生産することも視野に入れ、9月14日には医療従事者に対する緊急使用を認可した。さらに月からはペルーとモロッコで第3相臨床試験を開始した。
 中国は新規感染者が減っていいて治験対象者を確保するのが難しくなり、感染者が増えている国外で治験を進めている。世界的にワクチン開発競争が激化している中で、中国はいち早い実用化をめざし、ワクチンの覇権争いに優位に立つ戦略だ。

Sinopharm 2020年末にもワクチン発売…2回分を1万5000円以下で
 中国紙・光明日報(電子版)などによると、国有製薬大手「中国医薬集団」(Sinopharm)は8月18日、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、2回分を1000元(約1万5000円)以下で販売する方針を明らかにした。年末にも発売の見込みだという。
 Sinopharmは、年間2億回分超を生産できる製造体制を確立している。(読売新聞 8月20日)

一般市民のコロナワクチン接種、11月にも準備完了予定 中国
 AFPによると、中国で開発されている新型コロナウイルスワクチンの一般市民への投与は、早ければ2020年11月にも準備が整うことが、関係者の話で分かった。各社がワクチン臨床試験の最終段階に入っており、開発競争は世界で過熱している。
 ワクチン開発を進めるSinovac Biotech (科興控股生物技術)とSinopharm(国営中国医薬集団)は、第3相臨床試験の終了後、年末にも自社ワクチンが承認される予定だとしている。
 9月14日夜、中国疾病対策予防センター(CCDC)のバイオセーフティー首席専門家は国営中国中央テレビ(CCTV)の取材に対し、「11月か12月ごろ」には一般市民のワクチン接種が可能になる予定だと述べ、「第3相臨床試験の結果を踏まえると、現在の進展状況は非常に順調」だとして、自身も4月にワクチンを接種したがこれまでのところ体調は良好だと話した。

Sinovac Biotech (科興控股生物技術)(中国) 「CoronaVac 克爾来福」
 Sinovacは、北京に本拠を置くナスダック上場企業。
 2020年4月から5月にかけて、江蘇省と河北省で第1/2相臨床試験を実施、90%の治験者に中和抗体を生成と安全性を確認した。
 6月12日、Sinovac Biotech は、ブラジルの製薬メーカー、ブタンタン研究所と提携し、ワクチン候補の第3相臨床試験をブラジルで実施することで、ブラジル・サンパウロ州と合意した。
 Sinovac Biotech社は、7月から9000人の治験者を対象に臨床試験を開始した。続いて8月にはインドネシアで第3相臨床試験を開始した。
 ブタンタン研究所はSinovacが開発したワクチンのライセンスを受けて2021年6月までワクチン生産を開始し、ブラジル国内に提供する計画である。
 ブタンタン研究所は、世界的に有名な毒蛇研究施設。
 また、9月22日、トルコでも第3相臨床試験を開始、第一段階では医療従事者、1300人を対象、第二段階では一般の治験者12000人を対象に、2週間の間隔を空けて2回接種する。
 第3相試験には数千人の患者の参加が必要だが、感染者が減少している中国国内では大規模な治験実施は不可能なため、中国のワクチン開発企業は外国との協力を模索していた。



新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~

新型コロナウイルス 治療薬の種類 アビガン レムデシベル デキサメタゾン イベルメクチン モノクローナル抗体



2021年6月1日 改訂
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック 1年延期 安倍首相 新型コロナウイルス感染拡大 東京五輪危機

2021年05月26日 15時08分34秒 | 新型コロナウイルス
検証 「1年延期」 東京五輪大会 新型コロナウイルス感染拡大


深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催明言 コーツIOC副会長

「五輪開催」すべき 盲目的に「中止」唱えるメディアのお粗末 根拠なし パンデミック・リスク 
開催実現で「Withコロナの時代のニューノルマル」をレガシーに


国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




「概ね1年程度延期」で合意 安倍首相・バッハ会長
 2020年3月24日、安部首相は、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とテレビ電話会議を行い、7月24日に開幕予定だった東京五輪を、「概ね1年程度延期」して「遅くとも2021年夏までに開催」することでバッハ会長と合意した。大会名については「Tokyo 2020」のままになるとした。電話協議後に行われるIOC緊急理事会での承認を得て正式延期決定となる。
 また、NBC Univesalは、秋のNFL(アメリカンフットボール National Football League)と重なないこと条件に、「1年延期」を受け入れたとしているという。(ワシントンンポスト紙 3月25日)
 一方、小池都知事は、開催に伴う費用負担は今後、国、組織委員会と協議していくと述べた。
 安部首相は、明日、トランプ大統領と電話で会談し、明後日にG7の電話会議を開催し、「1年延期」の了承を求めるとしている。
 この合意を受けて、大会組織委員会は、26日に福島Jビレッジをスタートする聖火リレーは中止する発表した。
 理事会後に、バッハ会長は電話による記者会見に臨み、 「オリンピック開催を延期し、延期したオリンピックを運営するという前例のない事態に直面している。まだ対応策の構想はできていないが、この極めて困難な問題に懸命に取り組んでいく」とし、東京でオリンピックを開催する意義について「東京オリンピックがウイルスに打ち勝った祝典になることを願う」と述べた。また、日本に到着した成果は「希望の象徴」としてそのまま残しておくとした。


五輪マークと東京ベイブリッジ  出典 IOC

聖火リレー出発中止 東京五輪の延期合意を受け
 3月24日、安倍首相とバッハ会長が「1年程度の延期」で合意したことを受けて、26日に福島・Jビレーッジをスタートする予定の聖火リレーの出発は中止した。わずか2日前の決定である。
 聖火は20日にギリシャから日本に届き、「復興の火」として東日本大震災の被災3県を巡回展示中。26日に福島県のJヴィレッジで出発式を行い、東日本大震災が起きた2011年、サッカー女子ワールドカップ(W杯)で優勝した日本代表「なでしこジャパン」のメンバーが第1走者を務める予定だった。
 組織委は、新型コロナウイルスの感染を防ぐため、トーチを持った走者による通常のリレーを断念し、聖火をランタンに入れて車両で運ぶ形での実施を検討したが、土壇場でこの方式も断念した。
 森組織委会長は、記者会見で「聖火リレーはスタートせず、今後の対応を検討する。大会の延期日程にあわせた新たな聖火リレーの日程を定めて、盛大なグランドスタートができるように準備する」と述べた。


グランドスタートの式典のステージを取り壊す作業員 3月26日 福島・Jビレッジ 筆者撮影

「1年延期」を提案したのは安倍首相
 電話会談で、安倍首相は「1年程度延期」を軸に検討をいただきたい」と切り出したという。
 バッハ会長が「4週間をめど」に結論を出すと表明してから2日後、急転直下、「1年程度延期」が決まった。安倍首相は『聖火リレーが始まる26日より前の延期決着』にこだわった。
 3月11日、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスについて、「パンデミック」と認定した。開催中止をなんとか避けたいとする選択肢として浮上したのが「聖火リレーの始まる前」の「1年程度延期」で決着することだった。
 安倍首相は来秋に総裁任期を迎える。総理大臣の任期中に五輪開催を果たしその成果を掲げて、4選を狙うのが安倍氏の思惑だったとされる。そのためには、延期は1年程度に収める必要があった。また小池都知事は、この7月に改選を迎えるが、中止は何が何でも避けて、延期で収拾させたいという思惑があった。
 一方、森組織委会長は1年程度では感染拡大が収まらないと見て、2年程度の延期を視野に入れていたという。
 バッハIOC会長も窮地に立たされていた。「4週間をめど」の方針が、世界のアスリートには決断力の欠如の印象を与え、直後にカナダ五輪委員会が今夏の開催なら派遣拒否を発表した。IOCへの批判が高まれば、再選が有力視されていた来年のIOC会長選にも影を落とすことになる。
 しかし、バッハ氏が延期を切り出せば、数千億円規模とも見込まれる追加負担をIOCが背負うことになる懸念が生じる。それだけに、安倍首相の「1年程度延期」は、格好の提案だった。
 安倍首相の「直談判」を、バッハ氏が「100%、同意する」と応じるというシナリオは当然バッハ会長の頭の中にあったはずである。追加負担は組織委員会や東京都、さらには提案をした安倍首相、つまり日本政府が責任を持つという流れになる。
 バッハ会長の老練な駆け引きが見え隠れする一幕だった。
 一方、安倍首相や小池都知事は、「1年程度延期」でまとまり、「開催中止」の危機を回避できたことで胸をなでおろした。

五輪、来年7月23日開幕決定 IOCと組織委合意 パラは8月24日
 3月30日、国や東京都、大会組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)は、五輪は来年7月23日、パラは8月24日にそれぞれ開幕することで合意した。IOCは臨時理事会を開き、この日程を正式決定した。
 東京五輪は来年7月23日から8月8日(17日間)、パラリンピックは8月24日から9月5日(13日間)に開かれる。東京五輪は「7月第4週の金曜日から17日間」という当初の競技日程がそのまま維持されることになった。
 大会組織委の森喜朗会長や小池百合子知事、橋本聖子五輪相らとバッハIOC会長が電話会談を行い合意した。
 森会長は30日夜の記者会見で、選手選考に一定の期間がかかることや、夏休みの方が輸送やボランティア、チケット保有者にとって望ましいこと、新型コロナウイルスの状況も考慮したと説明した。日程は森会長から提案したという。
 バッハ会長は、開催時期については「夏に限定していない。(21年ならば)全ての選択肢が交渉のテーブルの上にある。幅広い視点で検討できる」と春開幕も選択肢にあるとしていた。
 一方、組織委内には、準備期間が確保できることなどから夏開催を望む声が多くこれまで通り夏の開催で決着した。


 アテネで採火された東京オリンピックの聖火が到着し、歓迎セレモニーで青空にブルーインパルスが五輪の輪を描いたが、強風で吹き飛ばされて難航 危機に瀕した五輪大会を象徴する一幕も(3月20日) 出典 IOC NEWS ROOM

コロナ禍 史上命題は「開催中止」回避

安部首相、「延期容認」 「中止は選択肢にない」
 安倍晋三首相は3月23日午前の参院予算委員会で、「完全な形での実施が困難な場合、延期の判断も行わざるを得ない」と述べた。一方、首相は「中止は選択肢にはない。この点はIOCも同様だと考えている」と述べ、IOCが中止を判断することはないとの認識を示した。首相の考えは22日夜、大会組織委員会の森喜朗会長を通じてIOCのバッハ会長に伝わっているという。
 安倍首相は「IOCの判断も私が申し上げた完全な形での実施という方針に沿うものであり、仮にそれが困難な場合、アスリートのみなさんのことを第一に考え、延期の判断も行わざるを得ない」と述べた。
 「開催延期」はこれでほぼ確定的になった。焦点は、いつに延期するかになった。

組織委 森会長 「開催延期」の検討合意
 3月23日午後、大会組織委員会の森会長は、会見を行い、「(通常開催に向けて)私どもは歩んで参りましたが、今日の状況を見ると、国際情勢は変化して、まだ予断を許さない。欧州や米国など異常な事態になっている地域もある。いろんな(延期や注意を求める)声があるのに『最初の通り、やるんだ』というほど我々は愚かではない」と延期の検討を認めた。
 そして昨晩に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とテレビ電話会議を行なって、開催中止はあり得ないことを確認した上で、大会組織委員会とIOCとの双方でメンバーを出してこれから何をなすべきか議論をして今後4週間以内でシナリオをまとめていくことで合意したことを明らかにした。
 森会長は、会議の内容を小池東京都知事や安倍首相、橋本五輪相、山下JOC会長に電話で連絡したという。
 26日に福島Jビレッジで始まる聖火リレーについて、バッハ会長は大会組織委員会に一任するとし、森会長は26日のスタートまで時間があるので関係者と対応を協議したいとした。
 また安倍首相は、聖火リレーの出発式の参列について、「政府が集会やビックイベントの自粛を要請しているのに、自分が率先して出席するのは如何か」と述べ、欠席することも示唆したのに対し、森会長は「総理の判判断にお任せする」と応じたという。

安倍首相「完全な形で実現」 G7一致
 3月16日、先進7カ国(G7)首脳は、緊急のテレビ会議を行い、世界中に感染が拡大する新型コロナウイルスへの対応を協議した。
 流行を抑え込むため、G7が連携して治療薬の開発を加速させる方針で一致。世界経済への影響を最小限に抑えるため、必要かつ十分な経済財政政策を実行していくことも確認した。
 安倍晋三首相は会議後、夏の東京五輪大会について「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証しとして、完全な形で実現することについてG7の支持を得た」と述べ、「新型コロナウイルスは手ごわい相手だが、G7で一致結束し、戦っていけば必ず打ち勝つことができる。そういう認識で一致できた」と強調した。
 「完全な形で実現」とは、どのような意味なのか詳細は明らかにしていないが、「無観客試合」や「規模縮小」、「開催地の変更」などは行わないことだと思われる。
 しかし、「完全な形で実現」の時期はいつなのか言及していない。テレビ会議後に記者から開催時期を聞かれたの対して、「完全な形で実現」と繰り返すだけで、「いつ」については曖昧にした。 「開催延期」の可能性も視野に入れたコメントとして受け取ることも可能だ。

 これに先立って、3月14日、安倍晋三首相は首相官邸で開いた記者会見で、7月下旬に開幕する予定の東京五輪について、「我々としては、(新型コロナウイルスの)感染拡大を乗り越えてオリンピックを無事予定通り開催したい」と述べた。安倍首相は、3月26日に福島県で始まる国内の聖火リレーの出発式典に出席するとした。
 政府や大会関係者は、今年の夏に予定通り開催にこだわっているが、大会開催ができたにしても、新型コロナウイルスの感染を懸念して、有力アスリートの参加辞退が続出して、有名無実な空虚な大会になることは明らかである。それなら、「1年後」、「2年後」に延期するほうが理にかなうだろう。
 国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は、「予定通り開催」を唱えるだけでなく、そろそろ新型コロナウイルスの感染が収束しない場合を前提にして「プランB(次善策)」の検討開始する必要に迫られていると考える。
 筆者も東京五輪大会が予定通り開催できること期待したいが、新型コロナウイルス感染拡大でそれを許さない状況に追い決まれている。最悪のシナリオを想定して 「プランB(次善策)」を準備するのが危機管理の鉄則だろう。「開催中止」、「開催延期」、「規模縮小」、「無観客試合」、あらゆる選択肢のシナリオの検討を進めることである。白紙のままで時間を浪費するのは避けるべきだ。拙速は混乱を深刻化させるだけである。


「開催延期 」に動き始めたIOC

IOC 「開催延期 」を検討 4週間以内で結論
 3月22日、COVID-19の感染拡大が世界各国に劇的に広がっていることを受けて、各国五輪委員会や国際競技団体から「開催延期」の声が相次いでいる中で、国際オリンピック委員会(IOC)の理事会(EB)は声明を発表し、2020東京五輪大会について「開催延期」を含むシナリオ計画(SCENARIO-PLANNING)の検討を開始し、次のステップを踏み込むとした
 このシナリオは、2020年7月24日に開催される大会の既存の運用計画の変更、および大会の開始日の変更に関するものだとし、東京2020組織委員会、日本政府、東京都と開催延期も含めて詳細な議論を開始して、今後4週間以内にこれらの議論を完了するとした。
 一方で、開催中止は、問題の解決に何も役立たず、誰のためにもならないことを強調し、開催中止は議題ではないとした。
 IOCの声明によると、開催を延期すれば、「大会開催に必要な多くの会場はもはや利用できない可能性がある。 またすでにホテルの予約が何百万室も予約されている状況は、処理が非常に難しい。さらに少なくとも33の五輪競技の国際スポーツカレンダーを調整する必要がある。 これらは、山積する課題のほんの一部である」として、「開催延期」に伴って解決しなければならない問題が膨大にあることを示唆した。
 IOCはこれまで、一貫して「予定通り開催」を主張してきたが、「開催延期」について公式にコメントしたのは初めてである。

 また3月21日、トランプ米大統領は、記者会見で、東京五輪に言及し、「明らかに延期という選択肢があり、来年まで延期されるかもしれない」と語った。「すべては日本次第だ」とも述べ、開催をめぐる判断は日本側にゆだねられているとの考えを強調した。
 当面問題になるのは3月26日に福島のJビレッジでスタートする聖火リレーだが、大会組織委員会では、現時点では予定通りに開始するという。
 しかし、「開催延期」が現実化した時には、聖火リレーを継続するのかどうか、対応を迫られることになるだろう。


3月22日 IOC NEWS

バッハIOC会長「さまざまなシナリオを検討」 開催延期の可能性について初めて言及
 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、New York Times紙のインタビューに応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で、ますます困難な状況に直面していることを認めたが、ウイルスの感染率は大会開催までに十分に落ち着くかもしれないという楽観的な姿勢を示し、現時点での開催判断は「時期尚早」との考えを改めて示した。
 その一方で、「もちろん、さまざまなシナリオを検討している」として開催延期などなどの通常開催以外の可能性に初めて言及し、「Bプラン(代替策)」の検討を始めていることを明らかにした。また「開催中止」は議題にないとして明確に否定した。
 世界中のビックスポーツイベントが相次いで中止や延期に追い込まれている現状について、バッハ会長は「危機の影響は受けている」と認めたが、「五輪大会開催は4ヶ月半後なので、他の多くのスポーツ大会やプロリーグとは異なる。 これらのスポーツイベントは4月または5月末まで延期して開催する。彼らは私たちよりもさらに楽観的だ。 IOCは『7月末』の話をしている」とした。
 また「安倍首相は、開催延期はG7で言及されていなかったと述べている。IOCとしては、今の時点で、開催延期にコメントするのは無責任で、タスクフォースからの勧告がないのにを憶測をしたり判断を行うのは時期尚早である」と述べた。
 IOCはタスクフォースにいつまでに勧告を出して欲しいと要請したかという問いに対しては、「時期は要請していない。タスクフォースのメンバー専門家が、 新型コロナウイルスの現状を科学的知見に基づいて分析して適切な時期に勧告をするだろう」と答え、将来の展開についての推測に基づいて、判断の時期を設定したり、今すぐ判断するることはいかなる形でも無責任だとした。
 さらに延期となった場合の財政的なダメージについては、「IOCはリスク管理ポリシーと保険制度を堅持しているので、困難な状況の中でも業務を継続してミッションを継続するが可能で、財政上の支障は皆無である。IOCは経済的利害によって判断をすることはない」として延期となった場合でも、財政上の損失には対応できる自信を示した。
 バッハ会長は、これまで「予定通り開催」だけを表明していたが、初めて、「Bプラン」の検討を始めていることを明らかにし、これまでの姿勢を転換した。焦点はいつ「Bプラン」を公表するかに絞られたようである。
 

 New York Times 2020年3月19日

 一方、米ワシントン・ポスト紙(電子版)は社説(3月20日)で、東京五輪大会は「中止するか延期しなければならない」と主張した。
 社説では「新型コロナウイルスが歴史的なパンデミック(historic pandemic)となっている中で、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会が、あたかも大会は予定通り可能と振舞っているのは、まったく滑稽で無責任である」とし、「世界の約200か国からアスリートが集まり、数百万人の観客が参加する夏季五輪大会は、新型コロナウイルスのインキュベーターとなり、更なる致命的な感染拡大をもたらすだろう」と警告した。


 Washington Post 2020年3月20日

「開催延期」のカギを握るNBC
 NBC Universal(NBCの親会社)は、米国内の独占放送権を2021年から2032年までの夏季・冬季6大会(東京五輪を含む)一括で76億5000万ドル(約8360億円)で取得した。日本のジャパンコンソーシアム(NHKと民放5社で構成)は、2018年から2024までの4大会(東京五輪を含む)一括で1060億円を支払う。
 IOCの収入、57億ドル(約6270億円 2013-2016)の内、73%は放送権料で占めれている。五輪大会を支えているのは放送機関といっても過言ではない。
 放送機関の中でも、米国のNBC Universalは放映権料の約半分以上、突出した金額を負担している。この結果NBCは五輪大会の運営に大きな発言権を持つ。
 NBCは、五輪の放送で、高視聴率を達成して高額のスポンサー料を確保しなければ経営基盤を揺るがすことになり、死活問題だ。
 NBC Universalは、NFL(アメフ フト)やNHL(アイスホッケー)、英国プレミアリーグ(サッカー)、全仏オープンなどの人気スポーツの放映権を高額の放送権料を支払って取得している。五輪大会の開催時期はこうしたスポーツ・イベントと競合時期の夏以外に設定することは、NBCの経営戦略上ありえない。
 NBCはすでに12億5000万ドル(約1340億円)スポンサーを確保し、大口のスポンサー枠の90%は売れたとしている。夏季開催で「1年延期」、「2年延期」案もNBCの経営判断次第である。NBCは五輪開催ができない場合に備えて保険をかけているとしているが、どの程度、補償されるのか明らかでなく、かなりの損害は免れないと思われる。
 開催延期が実現するかどうか、そのカギは、IOCではなく米国のNBC Universalが握っている。

「開催中止」ができない理由 スポンサー料
 国際オリンピック委員会(IOC)の収入は、2018年 Annual Reportによれば、総額約57億ドル(約6270億円)で、その約73%は放送権料収入、次に多いのが約18%を占めるスポンサー収入で約10億ドル(約1100億円)に上る。IOCの収入基盤は、放送権収入とスポンサー収入なのである。
 IOCは財政基盤と安定化するために、スポンサー企業の中で最高位に位置付ける「Top」(top-tier sponsorship program) と呼ばれるスポンサーシップを設けている。1業種(カテゴリー)1社だけと契約し、世界各国で五輪マークを使用したプロモーション活動などを権利を与える。また「Top」となった企業は五輪開催に関連する機材や物品、サービスの提供について最優先の交渉権を持ち、独占的に納入できる特権が得られる。現在、14社が契約している。
 契約期間は4年(夏季大会2回、冬季大会2回)が原則で、契約金額は契約内容やカテゴリーなどで異なるが、ロンドン大会までは1企業当たり約100億円程度とされてきた。
 しかし、ここ数年、より長期の高額の契約が行われるようになり、トヨタ自動車は2015年から24年まで10年間で総額1000億円を大幅に上回る金額で契約したとされている。
 2017年にマクドナルドの撤退を受けて、米国の半導体企業、Intelが、2018年から2024年の6年間で約2億ドル(約200億円)で締結した。
 IOCは約50億ドルの収入の内、10%をIOCの運営費とし、残りの90%を各大会の組織委員会や各国オリンピック委員会(NOC)、国際競技連盟などに分配する。
 スポンサー収入に影響が出れば、IOCの収支が悪化し、五輪大会の開催や各国のスポーツ振興に絶大な影響が出ることになる。
 さらに各大会の組織委員会は、IOCの「Top」(top-tier program)とは別に、ローカルスポンサーを募り、スポンサー収入を確保する。
 ローカルスポンサーは、対象の大会に限り、開催国だけで、世界中で五輪マークを使ったプロモーション活動を展開できる。
 2020東京五輪大会の場合、2020東京五輪大会組織委員会はこうしたローカルスポンサー料収入が約3480億円にも上り、組織委員会の収入総額6300億円の55%を占める。これに対してチケット収入は900億円、約14%にすぎない。
 仮に東京大会開催が中止になれば、ローカルスポンサー料収入、約3480億円に大きな影響がでる可能性がある。大会組織委員会の収支は赤字転落が必至である。
 「開催中止」となると、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会の収入で大きなウエイトを占めるスポンサー収入を失うことになり、五輪存続の危機に直面することなる。


東京・お台場の青海アーバン・スポーツセンターで開催されたスポーツクライミングの五輪テストイベント(3月6日) 新型コロナウイルスの影響で選手も参加せず、大会関係者とメディアだけで開かれた。 筆者撮影


開催延期 世界各国から続出

世界陸連会長「秋への延期可能」
 3月19日、英紙「The Guardian」は、世界陸連の会長で2012年のロンドンオリンピックで組織委員会の会長を務めたSebastian Coe(セバスチャン・コー)氏は、東京五輪大会について、9月や10月への延期も含めて「現時点では何でも可能である」と述べた。また、状況は刻刻と変化する可能性があり 「現時点で決定する必要はない」とし、国際オリンピック委員会(IOC)に歩調を合わせた。
 一方、BBC Radio 4に出演して、「もし必要があるのならば日程を変えなければならない」とすると語り開催延期を示唆したが、2021年に1年延期させる可能性についは、「表面上は簡単な提案のように見えるが、来年は世界陸連がある。スポーツカレンダーは複雑なマトリックスであり、ある年から次の年に移動するのは簡単ではない」と難色を示したが、開催中止については「時期尚早だ」と断言した。
 国際陸連は、IOCの中でも、最も発言力のあるメンバーで、Sebastian Coe会長が、9月や10月への延期の可能性に言及したことで、東京五輪開催の「プランB」に、「2年延期」、「1年延期」と並んで「9月や10月延期」のシナリオも有力な案として検討されていることが明らかになったと言える。


The Guardian 2020年3月19日

 一方、CNNは、3月21日、米国水泳連盟のティム・ヒンチー3世最高経営責任者(CEO)は、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)に書簡を送り、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ東京五輪を1年延期すべきだとの考えを示したと報じた。
 ヒンチー氏はUSOPCに対し、五輪の延期を提唱するよう要請。理由として「適正かつ責任ある行動とは、全員の健康と安全を最優先し、今回のパンデミック(世界的大流行)が競技の準備に及ぼす負荷を適切に認識することだ」と述べた。
 これに対し、USOPCのサラ・ハーシュランドCEOは声明で、大会を統括する国際オリンピック委員会(IOC)と連絡を取っていると説明。引き続きIOCに判断を委ねる方針を示した。国際水泳連盟やUSOPCはIOCで大きな発言力を持つ組織である。
 また、ノルウェー五輪委員会は、新型コロナウイルスの状況が世界規模で終息するまで東京オリンピックを延期するよう要請したと発表した。
 「開催延期」案が急速にIOCを包囲し始めた。

「東京五輪延期すべき」 スペイン五輪委会長
 3月17日、国際オリンピック委員会(IOC)の声明を受けて、スペイン・オリンピック委員会のブランコ会長は、感染拡大で自国選手が練習できず「不平等な状況が生じる」とし、東京五輪を延期すべきだとの見解を示した。(Reuters 3月17日)
 IOCは同日の臨時理事会と各国際競技連盟(IF)との合同会議で、予定通り開催する方針を再確認したが、ブランコ氏は「世界中で日々、心地よくないニュースが流れている。開幕まで残り四カ月で公平な条件の下、選手が五輪まで到達できない」と述べた。
 また、「(選手の)健康が最重要」と建前は崩さずに、7月末開催の既定路線を推進するバッハ会長にアスリートから反発の声が相次いでいる。
 アイスホッケー選手で6回も五輪に出場したカナダのヘイリー・ウィッケンハイザー選手は、新型コロナウイルスの大流行による脅威の増大に直面しながら、国際オリンピック委員会(IOC)が2020東京五輪大会を推進しているには、「鈍感で無責任」であると非難した
 また東京五輪で陸上女子棒高跳びの二連覇が懸かるギリシャのエカテリニ・ステファニディ選手は、「IOCは私たちの健康を脅かしたいのか」とツイッターに怒りをぶつけた。

トランプ米大統領「東京五輪は1年間延期」
 3月12日、トランプ大統領は、東京五輪について「無観客など想像できない。あくまで私の意見だが、1年間延期したほうがよいかもしれない。立派な施設を建設したので残念だが」と述べた。
 また延期したほうが良いと安倍総理大臣に伝えるのかという質問に対して、「それはしない。彼らは自分たちで判断するだろう。ただ、観客なしで開催するよりは延期するほうがよいと思う」と述べ、開催の延期もやむを得ないという認識を明らかにした。
 国際オリンピック委員会(IOC)の収入の73%を支える放送権料の内、半分以上を負担してるNBC Univerasalを抱える米国からの開催延期発言は重大な意味を持つ。
 翌13日、安倍首相はトランプ大統領と緊急に会談し、東京五輪開催へ一致して協力することで一致したとして、「1年間延期」発言の火消に乗り出した。会談は約50分間ににも及び、世界保健機構(WHO)の「パンデミック宣言」を受けて、新型コロナウイルスへの対応や世界経済の落ち込みも議題になり日米で足並みをそろえて対策を実施することを確認したという。
 一方、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、ドイツの公共放送ARDに出演して、WHOが開催中止を助言したらどうすかという質問に答えて、「IOCはWHOの助言に従う」と述べ、WHOから開催中止を求められた場合には、その判断に従い開催中止とするとした。
 東京五輪大会の開催の中止や延期を判断する基準がIOCのトップによって初めて示された。東京大会が予定通り実施できるかどうかは、WHOが新型コロナウイルスの流行を疫学的にどう判断するかにかかってきた。
 IOCは3月3日と4日に開催した理事会の際は、東京五輪を予定通り開催するとした根拠として、WHOが新型コロナウイルスについてパンデミックを表明していないことを上げていたが、3月11日にWHOはパンデミックを宣言したことで、IOCの根拠が崩れた。
 またトランプ大統領は、国家非常事態を宣言し、感染拡大の防止に向けて500億ドル(約5兆4000億円)の連邦資金を投入すると表明した。
 ホワイトハウス(White House)で発表を行ったトランプ氏は、「連邦政府の力をすべて解放するため、国家非常事態を正式に宣言する」と表明。国内の全州に対し、緊急対策本部を設置するよう要請するとともに、政府は検査の増加に取り組んでいると述べた。
 トランプ氏はまた、コロナウイルス流行の経済的影響を軽減する措置として、戦略石油備蓄(SPR)のための原油を大量購入する意向を表明。さらに、連邦政府機関が貸し付ける学生ローンの利息を免除する措置も発表した。
 トランプ氏は前日に、感染が拡大しているヨーロッパの26か国からの入国を30日間停止しする措置を明らかにしている。
 米国内で感染拡大が急速に進行していることに危機感を抱き、これまでの姿勢を転換して本格的に新型コロナウイルス対策に乗り出した。

「五輪開催1、2年延期」 大会組織委員会理事
 大会組織委員会理事の高橋治之氏は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今夏の五輪開催が難しくなれば、最も現実的な選択肢は開催を1、2年延期することだとの見解を示した。3月11日のWall Street Journal(日本語版)が伝えた。
 同紙によれば、高橋氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューに応じ、理事会ではまだ五輪に対するウイルスの影響は議論していないとしながらも、スケジュール変更が他のスポーツイベントにどのような影響があるかを3月下旬の次回理事会までに検討する見込みだとした。
 電通元専務の高橋氏は、五輪中止、あるいは観客無しでの開催による経済的損失はあまりに大きいと述べた。一方、1年未満の延期については、米国の野球やアメフト、欧州のサッカーなど、主要プロスポーツの日程と重なる可能性が高いとの見方を示した。
 高橋氏は「中止はできない。延期ということだと思う」と指摘。中止すれば「IOC自身が(経営的に)おかしくなる」とし、米放送権料だけでも「大変な金額」だと語った。来年のスポーツイベントの予定はおおむね固まっているため、延期の場合は2年後のほうが調整しやすいとの考えも示した。
(出典 Wall Street Journal日本語版)
 さらにJNNのインタビューに答えて、「アスリートのことを考えると“5月判断”では遅いのではないか。IOCよりも先手を打つ必要がある」と述べ、3月末に開かれる大会組織委員会の理事会では、夏に大会ができなかった場合の開催延期が議題に上がるという見通しを示した。
 一方、3月11日、世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は、「パンデミックの脅威が、いままさに現実となった」とついに「パンデミック宣言」を行った。
 
 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各国に広がり、その勢いはとどまることを知らない。
 NYタイムズ(3月5日)の報道によれば、新型コロナウイルスの感染者は、世界92ヵ国、10万5700人に達し、死者は3300に及んだとしている。最大の感染者が発生したのは、中国で約8万人、続いて韓国が7000人、イランとイタリアが約5800人、日本が1100人となっている。
 米国内でも感染拡大が始まり、感染者数は約200人、死者は14人が発生したとしている。
 新型コロナウイルスは、春になって気温が上昇すれば収束するという楽観的な見通しが支配していたが、最近の発生状況を見ると、夏の南半球諸国や熱帯地域でも感染者が増えていることから、数カ月で収束するという見通しは根拠がないというのが常識になっている。
 WHOの危機管理統括官も、「インフルエンザのように夏になれば消えるというのは誤った見方だ」と述べている。また、政府の専門家会議メンバーの舘田一博日本感染症学会理事長も「インフルエンザのように暖かくなると消えるウイルスではないため、戦いは数カ月から半年、年を越えて続くかもしれない」と述べ、長期化する恐れがあるとの認識を示した。
 東京五輪大会は、感染拡大が収束しない中で、7月末に開催を迎えることが明らかになった。
 開催中止や延期、規模縮小、無観客試合などの開催方式の見直しなどのシナリオが現実化している。安全、安心な大会運営を確保して予定通り開催できるかどうか、五輪大会は最大の危機を迎えた。

「2年後」なら延期開催の可能性 「1年後」は不可能か
 2020東京五輪大会を延期するとすれば、半年程度では、新型コロナウイルスが収束していない可能性が高く、「1年後」は他のビックイベントとバッティングして調整は難しく、「2年後」が現実的に可能性が大きい。
 「1年後」の2021年には福岡市のマリメッセ福岡で世界水泳選手権(7月16日~8月1日)、米国オレゴン州ユージーンのヘイワールド・フィールドでは世界陸上選手権(8月6日~8月15日)が開催される。また今年開催予定のサッカー欧州選手権(6月11日~7月11日)も加わる。
 いずれも国際ビック・スポーツイベントで、チケット収入や放映権収入で主催する組織の大きな収入源にもなっている。すでに開催準備も進んでいて中止や変更は主催者が承諾しないだろう。夏に五輪大会を開催するのは不可能に近い。
 一方、夏は避けて、春や秋、冬の期間に開催したらという案もあるが、これも極めてハードルが高い。
 米国では「4大スポーツ」、MLB(プロ野球 National League Baseball)、NFL(アメリカンフットボール National Football League)、NBA(バスケットボール National Basket League)、NHL(アイスホッケー National Hockey League)が開催され、全米が熱狂してテレビに釘付けになる。また欧州で人気があるサッカーリーグでは、各国リーグのレギラーシーズンは8月から9月頃から翌年の6月までである。
 こうした人気スポーツと競合する時期に五輪大会を開催することは、視聴率低下を懸念するテレビ放送局の賛同が得られない。五輪だけでなく、「4大スポーツ」などのビックスポーツイベントにも高額の放映権料を支払っているテレビ放送局は、高視聴率を達成して、スポンサー料を確保するしなければならい。開催時期のバッティングはお互いに避けるというのが暗黙の鉄則なのである。
 こうした事情を踏まえると「1年後」の可能性は極めて少ない。
 「2年後」の2022年開催の問題点は、北京冬季五輪大会(2月4日~2月20日)とFIFAワールドカップ・カタール大会(11月21日~12月18日)が開催されることである。しかし、夏の7月、8月ならかろうじて開催は可能とする見方が多い。
 そもそも五輪大会は、1992年のアルベール冬季五輪大会(フランス)とバルセロナ夏季大会(スペイン)までは、同じ年に同時開催をしていた。
 ところが、東京五輪開催を延期するにはIOCとの契約上のハードルもある。
 国際オリンピック委員会(IOC)と東京都が結んでいる開催都市契約では、第11章に「契約の解除」の規定があり、「2020年中に開催されない場合、IOCは契約を解除して本大会を中止する権利を有する」と定められ、開催都市は補償や損害賠償の請求はできないとしている。延期に関する記述はないが、規定を読むと、2020年中なら延期は可能だと解釈できる。
 東京五輪を「1年後」、「2年後」に延期するには、この規定を改訂することが必要で、IOC理事会の判断が必要となる。
 また大会組織委員会にとっても、仕切り直しで「1年後」開催では準備期間が余りにも短い。会場の手配、機材のキャンセルと再発注、要員の確保、開催規模が大きいだけに調整しなければならない案件は山積している。

 しかし最大の問題は、2年延期に伴う開催経費の負担増である。既存の施設の賃貸料、仮設施設の維持費、大会組織委員会が抱えている要員、調達した機材・車両など経費増、それに調達した車両や機材、ホテルなどのキャンセル料が発生すると思われ、その総額は3000億円にも上ると伝えられている。大会組織委員会の270億円の予備費(V4予算)は使い果たし赤字転落の懸念が浮上する。
 東京五輪大会に整備した競技場の維持・管理費も膨らむ。迷走している国立競技場の後利用計画はさらに混迷を深め赤字が増えるだろう。東京都が整備した海の森水上競技場やオリンピックアクアティクスセンター、有明アリーナなどはすでに指定管理者を選定して「大会後」の運営管理は民営化して収支改善を行うとしていたが、この目論見も挫折して赤字が膨らむ可能性がある。各競技場は2年後の開催に備えなければならないので施設を後利用モードに切り替えることもできない。
 東京臨海部・晴海に建設した選手村は、大会後、大規模マンションに改装される。戸数約5600戸、販売価格は5000万円から1億円、2023年3月末に入居を開始する予定だが、五輪大会が延期さればこの計画は大幅に変更しなければならない。多額の損害額が発生する懸念が大きい。
 さらにチケットの払い戻しや再販売、ボランティアの再募集、膨大な作業が待ち構えている。
 アスリートの立場で考えると、「2年後」は、「開催延期」の大会でなく、完全に別の五輪大会になるだろう。
 「2年後」に開催を延期するにしても大きな重荷を背負うことになるのは明らかだ。


新型コロナウイルス感染拡大 五輪への影響深刻化

新型肺炎「パンデミックの可能性」、WHOが各国に警戒を要請
 2020年2月27日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長(Dr. Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:2019-nCoV)の世界的な感染拡大について「パンデミック(Pandemic:世界的流行)の可能性がある」とし、自国には感染しないという考えは「致命的な誤り」と各国に一段の警戒を促した。
 そして「いかなる国も、自国での感染はないとの思い込みは文字通り致命的な誤りだ」と警告し、主要7カ国(G7)のメンバーであるイタリアでの流行は実に驚きで、他の多くの先進国でもこうしたサプライズを想定すべきだと述べた。
 イタリアに加え、集団的な感染が発生しているイランや韓国については、なお局地的な流行で、持続的な地域感染にはなっていないとし、感染封じ込めに向けた「決定的な時期」にあるとし、「恐怖におびえる時ではない。感染を防ぎ、命を救うために行動する時だ」とも強調した。

 引き続き、2020年3月2日には、テドロス事務局長は感染拡大について、韓国、イタリア、イラン、日本の情勢を最も懸念していると述べた。
 テドロス事務局長は、過去24時間の感染件数の増加は中国国外が国内の約9倍だったと指摘。呼吸器官を侵す病原菌が市中感染するという「これまでに経験したことのない事態」に直面していると指摘。同時に「正しく対応すれば封じ込めは可能」とし、「全ての国の最優先事項とすべき」と強調した。

東京大会開催の可否を判断するにはWHO 新型コロナウイルスの大流行の可能性を考えないのは無責任
 国際オリンピック委員会(IOC)委員のディック・パウンド氏は、2月27日、TBSのインタビューに答えて、東京大会の可能性について、「まだ分からない。理にかなった判断をするには十分な情報がない」とし、判断をするにあたって重要なのは、「公衆衛生の専門家の判断を最も重要視すべきで、日本の大会関係者やIOCが判断するものではない」とした。
 また「東京大会は数カ月から1年後に延期する選択肢は残されているが、その時期でも危険するぎると見なされた場合は、延期の選択しもなくなり、中止以外の選択肢しかない」と中止の可能性を強く示唆した。
 さらに、「私のことをたった一人のメンバーにすぎないと軽視するのは正しいとは思わない。新型コロナウイルスが大流行になる可能性を考えないことは無責任だろう」と警告した。
 AP通信のインタビューでは「これは新しい戦争であり、我々はそれに直面しなければならない。大会が開催される7月末の時点で、世界各国の人々が東京に行くことは安全と確信できる状況まで新型肺炎の流行をコントロールできるのだろうか」とパウンド氏は懸念を示した。
 一方、バッハIOC会長は、東京大会を予定通り開催できるように全力を尽くすという意向を表明した。「仮説や憶測の火に油を注ぐことはしない」として大会成功に向けて全力を上げて準備を進めることを強調した。
 「予定通り開催できるように全力を尽くす」ということは、7月末の開催に向けて、新型コロナウイルス対策に「全力を上げて取り組む」という意味だと受け止めなければならない。大会組織委員会や都、国は、パウンド氏発言を否定して大会開催の懸念を払拭することだけに力を入れて、対策を何も進めないのは無責任と批判されても止む得ない。

新型肺炎の感染拡大で五輪予選の変更相次ぐ
 新型コロナウイルスの感染拡大は、半年後に迫った2020東京五輪大会にも大きな影響が出始めている。
 中国で開催を予定した五輪予選や五輪出場資格獲得につながる国際大会の中止や開催地の変更などが相次いでいる。
 2月3日から14日まで、中国・武漢で開催を予定していたボクシングの東京五輪アジア・オセアニア予選は、3月にヨルダンで行うことに急遽、変更された。2月3日から2月9日まで武漢で開催を予定していたサッカー女子の東京五輪最終予選B組は、南京に開催地を変更したが、その後、感染拡大が止まらず、中国サッカー協会は開催権を返上、オーストラリア・シドニーで開催することになった
。また2月6日から9日に中国・仏山で予定していたバスケットボール女子の東京五輪最終予選はセルビアに会場変更され、2月12日と13日、杭州で開催予定のアジア室内選手権(陸上競技)は中止、3月6日から8日、北京で開催予定の世界室内選手権(飛び込み)も中止となった。
 さらに2月中にカザフスタンで開催予定の水球アジア選手権(五輪アジア予選を兼ねる)も中止が決まった。新型コロナウイルスの感染拡大を懸念するカザフスタン政府の方針で、代替地はまだ未定である。
 大会開催まで、残り半年に迫った中で、日本国内を始め、世界各地で五輪予選やテストイベントの開催が目白押しの中で、大混乱が始まっている。
 感染拡大を受けて、アスリートや競技団体の不安感も増している。

 また東京大会に向けて行われる予定の各国五輪代表チームの事前強化合宿キャンプが相次いで、中止や延期となった。
 愛知・岡崎市のアーチェリー・モンゴル代表、福岡・北九州での卓球・体操・コロンビア代表、埼玉・加須市での柔道・コロンビア代表、神奈川・平塚氏の陸上・リトアニア代表、岡山・美作市の7人制ラグビー・アメリカ代表は合宿を中止、静岡・伊豆の国での柔道・モンゴル代表は延期となった。
 一方、静岡でキャンプを行っていたテコンドー・中国代表は、2月5日に帰国予定だったが、約1カ月以上も足止めにされて、今も帰国の目途が立っていない。
 現在47都道府県の自治体が378件、計100以上の国・地域を受け入れることが決まっているが、「ホストタウン」に名乗りをあげた自治体は、新型肺炎の感染拡大で深刻な悩みを背負った。


新型コロナウイルス(2019-nCoV)の電子顕微鏡写真  提供 国立感染症研究所

 一方、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、3月5日、記者会見に応じ、「今日のIOC理事会で改めて2020東京五輪大会の成功への決意を強いものした」として、東京大会の開催に強い自信を示し、開催中止や延期説の払拭に努めた。しかし、各国のIOC委員から新型コロナウイルスの懸念の声が続出し、2日間の理事会の主要な議題になったことも明らかにした。世界中の新型コロナウイルスの専門家が今後どこまで感染が拡大するか予測が難しいと懸念を表明している中で、バッハ会長は強気に姿勢に納得した人は少ない。
 記者団から「新型コロナウイルスがどこまで感染拡大するのか不透明な中でIOCはどのような対応をとっているのか」という質問が飛んだ。
 これに対して、バッハ会長は「今日の理事会で中止又は延期という言葉は出てこなかった。勿論、IOCは大会開催に責任を負わなければならない立場にあるので、問題点があれば五輪する。しかし、将来的な展開の憶測はしないようしている。IOCは2020東京五輪大会開催に全力を尽くす。将来のことはわからないと私は何度も言っている」と応じた。
 さらに、大会組織委員会の森会長も、記者から「もし新型コロナウイルスの感染が拡大した場合、いつまでに大会開催を判断するのか」と聞かれ、「神様はないんでそんな事は分かりません」と答えた。
 国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は大会開催にあたって、あらゆるリスク管理を行わなければならいのは当然の責務だろう。台風や豪雨、地震、猛暑、サイバー攻撃、テロなど、さまざまなリスクを想定して事前準備や対策を行わなければならない。感染症対策も同様である。新型コロナウイルスのリスクは「憶測はしない」とか「神さまでないので分からない」とするのは、余りにも無責任で、唖然として開いた口がふさがらない。
 「2020東京五輪大会開催に全力を尽くす」というなら、一刻も早く、大会運営者として、新型コロナウイルス対策で何ができるのか一刻も早く検討を進めるべきだ。最悪のシナリオとして、開催規模の縮小や無観客試合の可能性も視野に入れる必要がある。それがリスク管理である。
 とにかく、7月末の時点で、新型コロナウイルスの感染拡大が世界中でどうなっているかが、開催の是非のポイントである。まさに世界各国で、「対ウイルス戦争」始まっているのである。感染拡大阻止に成功するのかどうかまだ予断を許さない。新型コロナウイルスは未知のウイルスだのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会の「決意」と「自信」だけでは、何も意味がない。


アスリート向けの専用サイト、“Athelete 365”で、アスリートに向けて署名りのレターを公開 新型コロナウイルス関連の情報をアスリートに直接提供することを表明

「予定通りの開催」にこだわる国際オリンピック委員会(IOC)

東京大会 予定通り開催 IOC理事会
 3月17日、国際オリンピック委員会(IOC)は、電話会議形式による臨時理事会を開き、東京五輪を予定通り開催する方針を再確認した。引き続き行われた各国際競技団体(IF)との協議でも7月24日の開幕に向けて準備を進める方向性で一致した。
 IOCは「東京五輪に向けて変わらず全力を尽くす。大会開催まで4カ月もあり、現時点で劇的(dramatic)な意思決定を下す必要はない」との声明を出した。
 また、現時点で、2020東京五輪大会の出場選手約1万1000人の内、43%が決まっていないことを明らかして、今後、代表選手選考会の開催ができない場合は、世界ランキングや過去の実績をもとに代表を選出する方針を各国際競技連盟に明らかにした。
 2月24日、政府の専門回会議は「この1~2週間が(感染の)急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」との見方を示し、これを受けて政府は大勢の人が集まるイベント開催自粛や規模縮小などを要請していたが、3月19日に自粛要請の効果などを判断して公表するとした。自粛要請を継続するかどうかが焦点となった。

IOC、新型肺炎対応で緊急声明 不安払拭 大会開催は6月に最終決定
 新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪の開催を危ぶむ声が広がる中、2020年3月3日、国際オリンピック委員会(IOC)は緊急声明を発表して、「全ての選手に東京五輪に向けた準備を続けるよう促す。IOC理事会は五輪の成功のために全面的に協力する」として、予定通り大会を実施する方針を改めて強調した。
 声明では、2月中旬にIOCと大会組織委員会や東京都、日本政府、世界保健機関(WHO)とで合同作業部会(タスクフォース)を立ち上げて連携して対応にあたっているとし、アスリートに対しては「すべてのアスリートが自信を持って全力で競技会への準備をすることをお願いしたい」とした。
 また、バッハIOC会長は、「6月には多くの最終決定をするために準備をしなければならない」と述べ、6月に東京で開催されるIOC総会で、大会の成功に向けて議論を尽くす考えを示した。
 この結果、パウンド氏発言の「5月下旬に判断」が裏付けられ、新型肺炎への対応を巡って、2020東京五輪大会は5月下旬から6月にかけて最大の山場を迎えることになった。
 一方、3月3日の参院予算委員会で、橋本聖子五輪相が東京五輪の開催都市契約に20年中に開催されない場合、IOCが大会を中止できると明記されていることに触れ「2020年中であれば延期できると解釈できる」と述べた。
 これについて、海外主要メディアは、「五輪の年内延期の可能性」と一斉に報じた。
 英BBCやロイター通信は「日本の五輪大臣 東京2020大会は年内に延期される可能性があると述べた」と報じ、AP通信は「日本の五輪大臣 2020年内ならいつでも大会を開催できる」と伝えた。
 2020東京五輪大会が予定通り、7月末に開催されるかどうか懸念が国際的に広まっていることがこの報道で明らかになった。


出典 Reuters 2020年3月3日

東京五輪大会 開催中止の可能性 判断は「5月下旬」
 2020年2月25日、国際的に新型コロナウイルス感染拡大で開催を危ぶむ声が出始めている東京五輪大会について、国際オリンピック委員会(IOC)委員のディック・パウンド氏は、AP通信とのインタビューに応じ、開催是非の判断の期限は引き延ばせて5月下旬との見方を示した。
 カナダの弁護士でもあるパウンド氏は、今年77歳、1978年から国際オリンピック委員会(IOC)で委員を務め、トーマス・バッハ会長より13年も長く、最古参でIOC委員の「重鎮」とされている。
 世界反ドーピング機関(WADA)の元委員長で、ロシア陸上界の組織的なドーピング問題を調査したWADA第三者委員会の責任者を務めたこともあるIOC委員の「重鎮」である。
 パウンド氏は、「開催の是非の判断の期限は引き延ばせても3か月間」とし、判断の期限は「5月下旬」と警告した。そして、「5月までに事態が収束しなければ中止を検討することになるだろう」と述べた。
 また準備期間の短さや開催規模の大きさ、関係する国の多さから、他都市での代替開催や分散開催は難しいと指摘した。
 東京開催を数カ月延期する「10月開催」案については、米プロフットボールNFLや米プロバスケットボールNBAのシーズンと重なるため、巨額の放送権料を支払う北米のテレビ局の了解が得られないとして否定的な見解を述べ、事態が収束しなければ「中止を検討することになるだろう」とした。
 1940年の開催都市に夏季大会は東京、冬季大会は札幌が選ばれていたが、日中戦争が拡大した影響で返上に追い込まれ、代替地を検討したIOCも最終的に開催を断念した。
 これに対して、橋本五輪相は「『IOCとしての公式の見解ではない』とIOCから組織委員会側に報告があったことを明らかにした。また「ディック・パウンド氏は『予定通り東京大会の開催に向けて、IOCが準備を進めていることを説明しているものである』という回答があったとした。
 一方、小池百合子都知事は、「委員の1人が個人的な見解を述べたと聞いている。東京大会の担当者からは『しっかりやれ』とのメールが来た」と述べた。
 またパウンド氏はIOCの中でどれだけ影響力のあるメンバーなのか疑問視する批判も出され、IOCは「5月下旬」判断の衝撃を打ち消すことに躍起である。
 
 しかし、パウンド氏発言で、東京五輪開催に疑念が出され、その判断について「5月末」という期限が浮上したことで、五輪大会は混迷を深めることは必至である。
 日本国内を始め各国での感染拡大は、まだ始まったばかり、今後、どれだけ感染が拡大するかはまったく未知数である。パウンド氏発言があろうがなかろうが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が深刻化する中で、五輪大会がどうなるか懸念を持つのは当然の成り行きだろう。
 大会組織委員会や東京都、国は、大会開催に向けて新型コロナウイルス感染防止対策に全力を挙げて取り組まなければならない。 『しっかりやれ』ということは、新型コロナウイルス感染防止対策を『しっかりやれ』としてしっかり受け止める必要がある。「5月下旬」判断の衝撃を打ち消すだけではなく、対策が後手後手に回らないように、先手を打って取り組むことが肝要である。
 感染症の専門家の間では、新型コロナウイルスの流行が「5月末」までに完全に収束するのは不可能とする見方が主流である。 感染が続いている中での五輪大会開催は必至である。
 五輪大会を予定通り開催するのか、大会組織委員会や東京都は最終的になんらかの結論を出す必要に迫られている。「5月末」が判断を明らかにする期限とするのは極めて合理的だ。
 よほどの事態が発生していない限り、開催中止の判断の現実味はないと見られるが、開催方式の再検討や感染防止対策は必須となるだろう。パブリックビューイングや関連イベントの中止、アスリートの外出禁止、「無観客試合」の可能性も生まれる。
 訪日するアスリートや大会関係者、観光客の検疫体制の強化や、各競技場や選手村での新たな感染防止対策なども必須となる。 各競技場などにはサーモグラフィーの設置やPCR検査機の導入、医療スタッフの配置、感染防止グッズの配布などを早急に進める必要が生まれた。
 また、新型コロナウイルスの感染を懸念するアスリートの出場辞退や、状況によっては選手団の派遣を中止する国や地域が出てくる懸念は消えない。たとえ日本国内で、新型コロナウイルス感染拡大が収まっても、海外各国で感染拡大が猛威をふるっていたら、大会開催そのものが危ぶまれる可能性がある。
 「安全、安心な大会」の確保について、日本の国民を始め、世界各国に対して説得力を持った対応策を説明できるかどうか、大会組織委員会と東京都、国は重い課題を背負った。


出典 AP NEWS IOC senior member: 3 months to decide fate of Tokyo Olympics  2020年2月25日

「東京五輪は安全な形で行われる」 コーツIOC調整委員長


コーツ調整委員長と森大会組織委会長 IOCプロジェクトレビュー記者会見 2020年2月14日 筆者撮影

 2020年2月13日と14日の2日間、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会が大会開催の準備の進捗状況を確認する会議、IOCプロジェクトレビューが開催された。
 会議を終えて、コーツ調整委員長と森大会組織委会長は、14日夕方、記者会見に臨んだ。
 記者会見は新型コロナウイルスに関連した内容一色に終始した。
 コーツ調整委員長は「(新型コロナウイルスの対応は)日本の政府が責任を持って対応しており、日本の公衆衛生当局を信頼している。IOCは、世界保健機関(WHO)と話し合いを続けているが、WHOからも東京五輪の延期や中止の必要はないと言われている。大会は選手や観客にとって安全な形で行われるだろう」と述べ、東京オリンピックは予定どおり開催する考えを強調した。
 コーツ調整委員長は、4年前のリオデジャネイロオリンピックの前にジカ熱が問題になったことに触れ、「WHOは夏にジカ熱が広まる可能性は非常に低いと指摘したが、ゴルフの選手などが大会への参加を取りやめたこともあった。当時、情報を十分に伝えきれなかったようだ」とも述べ、こうした事態において組織委員会や政府による情報発信の必要性を指摘した。
 また中国選手や競技関係者の大半は、現在、国外を拠点にトレーニングをしたり、予選や大会に出場したりしているので、「中国外から直接(日本に)テストイベントや大会本番に参加するなら問題ない」と語った。
 さらにこうした中で来月からは聖火リレーや各競技のテストイベントが行われることについて、大会組織委員会の武藤事務総長は「IOCや国際競技団体と情報共有を密にしていくことを確認した。具体的にどう対応するかは協議を続けていく」と述べた。

 しかし、2月18日、世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するライアン氏は、新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、東京五輪が中止の危機にあるかどうかを判断するのは時期尚早との考えを示した。AP通信が報じた。大会に影響するような助言を検討するには「まだ遠すぎる」と述べた。 国際オリンピック委員会(IOC)とは連絡を取っているとした上でライアン氏は「われわれが(開催可否の)決断を下すのではない。リスク評価を手伝う」と述べた。(共同通信 2月19日)
 WHOのお墨付きで2020東京五輪大会は安全な形で予定通り行うというコーツ発言は、早くもWHOから東京五輪可否判断は尚早として否定されてしまった。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、大会開催が予定通りできるかどうかまだ予断を許さないのである。

「WHOとIOC協議 東京五輪の新型肺炎対策
 2019年1月29日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪での新型コロナウイルスによる肺炎対策をめぐり、世界保健機関(WHO)と連絡を取って協議している。DPA通信が29日、報じた。
 IOCはDPA通信の問い合わせに対し「安全に大会を開催するための感染症対策だ。東京五輪の計画の重要な要素となる」と回答した。 (時事通信 1月29日) この報道が混乱を巻き起こすことになる。


「五輪中止」 フェイク情報拡散


深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2020年3月12日
Copyright (C) 2020 IMSSR


****************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
****************************************
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新型コロナウイルス 治療薬 ワクチン ファイザー モデルナ アストラゼネカ 副反応 接種体制 最新情報

2021年05月22日 11時51分58秒 | 新型コロナウイルス
新型コロナウイルス
治療薬・ワクチン
開発最前線



新型コロナウイルス SARS-CoV-2 出典 NIAID

深堀情報 Media Close-up Report  「呪われた東京五輪」 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長



アストラゼネカ製ワクチン EU「安全で有効」宣言、独仏伊など接種再開
 3月18日、欧州連合(EU)の医薬品規制当局である欧州医薬品庁(EMA)は、英アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンについて、接種後に血栓ができるなどの報告事例に関する調査を行った結果、引き続き利点がリスクを上回るという「明確な」結論に至ったと表明した。
 これを受けて、ドイツ、フランス、イタリアなどが同ワクチンの接種再開を決定した。
 英アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発した新型コロナウイルスワクチンの接種後に血栓ができた症例への懸念から、欧州ではスペイン、ドイツ、フランス、イタリア、ポルトガル、スウェーデンなどワクチンの接種中断をした国は13か国に上った。
 これに対してオーストラリア政府の最高医療責任者(CMO)、ポール・ケリー博士は、今のところアストラゼネカ製のワクチンが血栓の原因になることを示す証拠はないと強調。欧州で使用を停止する国が増えてきたことは認識しているとしたうえで、EMAは使用継続を勧めていると指摘した。
 EMAは接種済みの人々に血栓のできる確率が一般人口より高いわけではないとの見解を示したが、今後何らかの対応が必要かどうかについて、18日に緊急会合を開開き検討するとしていた。

ワクチン接種スケジュールに遅れ顕在化 高齢者の接種は4月12日開始
 2月26日、河野太郎行革担当相は、医療従事者470万分と高齢者3600万人のワクチン(2回接種)を、EUの承認が得られることが前提として、6月中末までに確保して、全国に発送を完了すると明らかにした。一般住民への接種開始は7月以降となり、五輪開催には間に合わない。
 接種スケジュールの遅れている要因は、EUの輸出規制の影響に加えて、医療従事者が当初見込みの370万人から100万人程度増えたためである。
 また高齢者向けの接種開始は、4月12日に開始し、当初は5万人を対象に行い、その後4月中には50万人、合計55万人を対象に接種を実施すると明言したが、高齢者3600万人のわずか2%にも満たない。
 Pfizer/BioNTech製のワクチン(2月14日、緊急使用認可)は接種が開始されたのは2月17日。初日は8病院で125人に接種。引き続き医療従者者、高齢者、高齢者施設従事者、基礎疾患を有する人、一般市民に接種が順次、始まる。基礎疾患を有する人は自己申告とし、医師の診断書は不要。
 2月12日にベルギーからの第一便で到着したワクチンは64350瓶(バイヤル)で約32万回(約16万人)分、第二便で22万6000回分、3月1日には52万回分が到着した。
 
▽ 2月17日 最初に優先接種を開始するグループ 国立病院等(100病院)の医療従事者4万人を最優先に対象。当初は1~2万人を想定したが希望者が多く4万人を想定。3週間の間隔を空けて2回接種。
 来週中には約100カ所で開始。内2万人には、接種後7週間健康状態を記録してもらいワクチンの安全性の分析に。超低温冷凍庫配備を完了
 ファイザー社のワクチンは、1バイヤル(Vial)には、余分量を含めて1.8ccの原液(一人分0.3cc)が入っているが、日本に普及している注射器では、シリンダー隙間に原液が残り、5回分しか接種できない。4万人に対しては、6回分が接種可能な注射器を使用する。
▽ 3月中旬 その他の医療従事者(約370万人→470万人に増加) 接種は都道府県担当 冷凍庫配備(1800台)
▽ 3月下旬 65歳以上の高齢者(約3600万人)を対象に接種クーポン券の郵送開始
▽ 4月12日 65歳以上の高齢者対象に接種開始 接種は市町村担当 冷凍庫配備(1800台) 6月末までに全国へのワクチン配送を終了
 ファイザー社のワクチンは3週間の間隔を空けて2回の接種が必要だが、厚生労働省は接種を開始して9週間以内にすべての高齢者が1回目の接種を受けられる体制を整備。
▽ 4月23日 その他の人を対象に、接種クーポン券の準備、郵送開始 順次接種開始 接種券を郵送
  基礎疾患のある人(約820万人)、高齢者施設などの従事者(約200万人)、60~65歳の市民など合計約5000万人
▽ 一般市民 16歳以上を対象にして5月末には開始したいとしているが、ワクチンの供給量次第で、7月にずれこむ可能性が大きくなっている。

  厚生労働省は、「接種の努力義務」の対象から妊娠をしている女性を外すことを決めた。また接種に関する相談などに応じるため、15日、無料のコールセンターを開設した。

 ファイザー社のワクチンは、マイナス75度前後で冷凍保存が可能な「超低温冷凍庫」で輸送・保管する必要があり、厚労省では、1万台(1台で3000人分が保管可能)の「超低温冷凍庫」を、各自治体ごとに1台、さらに人口2万人ごとに1台割り当てる。6月までに順次、自治体に配備する方針である。
 また、ファイザー社のワクチンは、解凍後の保存期限が5日以内、希釈後は6時間以内で接種を行う必要があり、接種作業を担う自治体にとっては、医師や看護師などの人手の確保や、施設をどう確保するかが大きな課題となっている。
 また、接種クーポン券の準備や配布、会場での本人確認など、5000万人にも及ぶ優先接種作業の負担は、コロナ対策に追われている各自治体の大きな重荷になると思われる。
 すでに接種が始まっているアメリカやフランスなどの一部の地域では、ワクチンがあっても人手や会場を確保できず、計画通り接種が進まないという問題が発生している。
 JNNの世林調査によると、1月9/10日の調査では、ワクチンを「接種したい」という回答が48%だったの対し、「接種したくない」が41%に上ったが、2月6/7日の調査では、「したい」とする回答が60%、「したくない」が30%に減少した。
 集団免疫獲得には、接種率が7~8割以上必要されているが、接種は「無償」だがあくまで任意の「努力義務」、接種率をどう確保するかが「史上最大」のワクチン作戦の成否のカギを握る。

難題 マイナス70度以下の超低温管理
 米Pfizer社と独BioNTech社が共同開発したワクチン、BNT162b2は、mRNAを使用したワクチンである。mRNAは、極めて壊れやすく、温度変化に弱く劣化する性質がある。BNT162b2は特に温度変化に弱く、マイナス70度以下の超低温での温度管理が必須となる。先進国でもマイナス70度以下の超低温保管設備を保有している医療施設は少なく(インフルエンザワクチンは、マイナス10度以下で冷凍保存)、発展途上国では、輸送・保存体制の確保する上で超低温保管設備の整備が最大の課題となる。
 ファイザー社の示しているワクチン取り扱いの指針によると、
▽マイナス75度±15度cの超低温冷凍凍結(ディープフリーザー)で約半年保管が可能。 1箱には、1.8ccのワクチンが入ったバイヤル(注射用薬剤用の小瓶)が195本、計1170回分(6回分で換算)が詰め込まれている。
▽ワクチンは1箱単位で解凍して2~8度の冷蔵保存で5日以内に使用
▽1バイヤル(Vial)には、余分量を含めて1.8ccのワクチンが入っていて、生理的食塩水で希釈して一人当たり0.3ccを接種、カタログ上は1バイアルで5人分、1箱で975人分としている。希釈後は6時間以内に使用しなければならない。FDAは余分量1回分を使用することも可能とした。
 このワクチンは2回の接種が必要なため、輸送・供給体制の確立が難題だ。
 ファイザー社のワクチンは、同社最大規模の米ミシガン州カラマズー(Kalamazoo)工場や欧州の製造拠点、ベルギーのプールス(Puurs)工場などからから出荷される。
 輸送用の保冷コンテナ1個につき、ワクチンが入ったバイヤル975本がドライアイスとともに収納され、推奨温度、マイナス70度以下で冷凍凍結を保つ。1本のバイヤルのワクチンは5回分で、コンテナ1個当たり計4875回分となる。
 ファイザーによると、カラマズー工場では、毎日トラック6台分のワクチンが、米フェデックス(FedEx)、同ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、独DHLなどの航空貨物企業に出荷され、米国内は1~2日以内、世界各地には3日以内、最長でも10日間以内に配送される。世界各地へは1日平均20機の貨物機が輸送を担う見通しだという。
 各地に輸送されたワクチンは超低温の冷凍庫で最長6カ月間保存可能である。
 これに対して、米Mderna社のmRNAワクチン、AZD1222は、
▽保管はマイナ20度以下の冷凍凍結保存
▽解凍後は2~8度の冷蔵保存で7日以内に使用
▽生理的食塩水で希釈後は、12時間以内に使用
 Pfizer/BioNTechのワクチンよりは、基準が緩やかである。
 一方、Oxford大学と英Asturazenka社が共同開発したワクチン、ChAdOx1 nCov-19(製品名AZD1273)は、Pfizer/BioNTechやMdernaのmRNAワクチンとは異なり、アデノウイルスを使用したウイルス・ベクター・ワクチンなので、輸送・保存は通常の冷蔵保管で可能である。発展途上国などでは、ChAdOx1 nCov-19は利点が多いとされている。

「2021年前半までに国民全員のワクチン確保」は挫折寸前 五輪開催に間に合わない
 1月22日、政府は、新型コロナワクチンについて、全国民分を6月末までに確保するとしてきた従来の方針を事実上撤回した。海外製ワクチンの受け入れが想定よりも遅れているため。総合調整担当の河野太郎氏が「まだ供給スケジュールは決まっていない」と明らかにした。政府内で供給時期をめぐる混乱が露呈した。
 2月16日に明らかにした、接種計画でも基礎疾患のある人や高齢者施設従事者や一般市民への接種開始は、ワクチンの供給量次第に左右されるとした。
 また、厚生労働省は、近く接種が始まる米製薬大手ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンについて、1瓶からの接種回数を6回から5回に変更する方針を明らかにした。用意した注射器では充填したワクチンの一部が使い切れずに残ってしまうためで、「余剰分」を1回分として使用できないためで、接種計画が大きな誤算が生じている。
 ファイザー製のワクチンの日本への供給量は、「1億4400万回分」でなくて、「1億2000万回分」程度に減少する可能性が出てきた。
 ワクチンは2月12日午前、ベルギーからの航空便で国内に到着、3月中に約266万回分を確保できるとしているが、その後の見通しはまったくたっていない。
 早くも「2021年前半までに国民全員のワクチン確保」の公約は挫折寸前である。



米ファイザーと契約を正式締結 「年内」に「1億4400万回分」
 1月20日、田村厚生労働大臣は米ファイザー社と、年内に1億4400万回分(7200人分)の供給を受ける契約を正式に結んだと発表した。
 昨年7月にファイザー社と基本合意した際は、「2021年6月末までに1億2000万回分」の供給を受けるとの内容だったが、最終合意では、時期は「6月末」から「年内」に変更され、供給量については2400万回分上積みされ「1億4400万回分」に修正された。「上積み」といっても、1バイヤル当たり5回分としていたものを6回分(余剰分も組み入れ)に換算し直しただけで、供給量は変わらないとされている。
 昨年12月18日、ファイザー社は、このワクチンについて、審査を大幅に簡略化する「特例承認」の適用を求める申請を行い、2月15日には承認される見通しである。
 菅政権は、「年内」への変更で、「2021年前半までに、すべての国民に提供できるワクチンの確保」を目指すとしていたが、ワクチン調達計画の当初想定から大幅な狂いが生じるのは不可避となった。
 政府は、米ファイザー社から1億4400万回(基本合意では1億2000万回)、英アストラゼネカ社から1億2000万回、米モデルナ社から5000万回分、合計3億1400万回分のワクチンを確保しているが、この内、米モデルナ社の国内でのワクチンの治験は当初予定よりずれ込み、1月27日にようやく開始、最速でも承認は5月頃なるとされている。英アストラゼネカ社のワクチンは、2020年9月に英国で行われた治験で副反応が確認され、一時、治験が中断された影響で、国内での治験が遅れ、2月5日ようやく申請を行った。同社のワクチンは、3月までに3000万回が供給するとしているが、製造の遅れも発生していて、成り行きは不透明だ。そこでこれを補うために、政府は1月20日に締結した米ファイザー社との契約では、調達量を2400万回分増やしたという。
 政府はワクチンは「ギリギリ確保できる」として接種計画に遅れはないとするが、「2021年前半までに国民全員のワクチン確保」という目論見には暗雲が立ち込めている。

米FDA、J&Jワクチン承認 アストラゼネカ、日本で申請
 2月27日、米食品医薬品局(FDA)は、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製ワクチンの緊急使用許可を承認した。既に承認されている米ファイザー社、米モデルナ社のワクチンはいずれも2回の接種が必要だが、J&J製は1回で済む上、保管もしやすく、普及が進むと期待されている。今年前半に米国で1億回分を供給する見通し。3月11日には、EUも承認した。
 一方、2月5日、英アストラゼネカ社は、厚生労働省に承認を求める申請を行った。国内での承認申請はファイザーに続いて2例目。
 今回添付したのは海外の臨床試験(治験)のデータで、国内で実施した臨床試験(治験)のデータは3月中に提出する予定で、承認は5月以降になるとされている。アストラゼネカ社のワクチンは、2度から8度で少なくとも6か月間保管可能で、医療機関での保管や接種会場までの輸送も冷蔵庫が使用できる。

ワクチン有効性「92%」 国民の45%が接種 世界最先端イスラエル
 1月28日、イスラエルのメディア「タイムズ・オブ・イスラエル」は、保健維持機構(HMO)マカビ(Maccabi)関係者の話として、国内で接種が進む米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンについて「92%の有効性を示した」と報じた。
 2度目のワクチン接種を受けた16万3000人のうち、10日以内にウイルスに感染したのは31人にとどまったとした。
 また60歳以上の感染率や重症化率が低下している兆候が確認されている。こうした低下は接種事業が早く始まった地域で顕著に見られるという。
 イスラエルの保健省は、100万人近くの医療記録を調査、そのうち74万3845人が60歳以上で、2回目のワクチンを接種してから最短でも7日間は記録を取っている。
 それによると、60代以上で2回のワクチン接種を終えた約75万人のうち、感染して陽性となったのはわずか0.07%に当たる531人だった。この中で入院措置が必要となった患者は、軽症から重症まで合わせて38人にとどまった。死亡した人は3人、しかしワクチンで免疫ができる前に新型ウイルスに感染した可能性があるという。
 保健省のデータからは、1回目のワクチンを接種してから14日後から、感染や重症化の割合が減り始めることがうかがえる。
 ワクチン接種前の調査では、感染者は7000人以上、軽・重症患者は700人近く記録されていた。死者は307人に上っていた。
 全国的に行っているロックダウンの効果の可能性も考えるが、今回の報告でワクチンも感染抑制に効果をあげていることが分かった。
 またワクチン接種に伴う副反応は、イスラエル保健省によると0.3%以下で、通常「軽度」で「すぐに過ぎ去る」とした。
 副反応は、ワクチン接種を終えた人の中で、重い体調不良を医師に訴えた人で、1回目の接種を終えた276万8200人の内、6575人で0.24%、2回目の接種を終えた137万7827人の内、3592人で0.26%だったという。
 イスラエルでは、人口約900万人のうち、約44%の約400万人が1回目、約260万人が2回目の接種を済ませている。3月末までには、16歳以上の国民全員に接種を完了するとしている。世界各国の中で群を抜いてワクチン接種が進んでいる国だ。
 接種に必要なワクチンの確保は、ネタニヤフ首相が、米ファイザー社のCEOに直接、交渉をして成し遂げたという。購入価格はEUの倍の1回分当たり約3000円、さらに接種者の医療データを提供することに同意した。しかし、政権の実行力は如実に示された。
 イスラエルの感染者数は、累計で730293人(2月16日)、2808人増(前日比)、死者は20人増(前日比)と約60%に減少している。これからの数カ月間はイスラエルの感染状況に目が離せない。

ノヴァヴァックス、89%の予防効果 J&J有効性66% 認可申請へ
 1月28日、米製薬大手ノヴァヴァックス(Novavax)社は28日、開発中のワクチン候補、NVX-CoV2373について、イギリスで実施した大規模な臨床試験(治験)で89.3%の予防効果があることが示されたと発表した。変異株にも高い有効性があるとされている。BBCによると、イギリスで見つかった新型ウイルス変異株への有効性を示したのは、NVX-CoV2373が初めてたという。
 ボリス・ジョンソン英首相はこの治験結果を「良い知らせ」だと歓迎、同国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA)がNVX-CoV2373について評価を始めると述べた。
 イギリスは同社のワクチンを6000万回分確保している。イングランド北東部ストックトン・オン・ティーズで製造される予定。(BBC 1月29日)

 一方 1月29日、米医薬品・日用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J:Johnson & Johnson)社は、開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、中程度から重度の症状を防止しする「有効性」が66%だったと発表した。来週にも米食品医薬品局(FDA)に緊急使用を申請するほか、その他の国や欧州連合(EU)でも近く申請する。
 J&Jは、世界8カ国で大規模最終臨床試験(治験)を実施、約4万4000人が参加した。参加者の44%は米国、41%は中南米、15%が南アだった。
 「有効性」は地域でばらつきがあり、米国で72%、中南米で66%、南アフリカでは57%で、平均で66%となった。変異種の感染拡大により、有効性に違いが生じた可能性がある。
 J&Jの掲げる「有効性」とは、新型コロナウイルスに対する感染防止の「有効性」ではなく、感染して発症しても「中程度から重度の症状」に陥るのを防止する「有効性」で、ファイザー/ビオンテック社やモデルナ社、アストラゼネカ社の掲げる感染しても発症しないという「有効性」とは異なる。
 ただ感染症と公衆衛生の専門家は、J&Jのワクチンは感染拡大を抑制し死亡率を低下させる効果は十分にあるとの見方を示している。
 J&Jのストフェルス氏はロイターに対し、南アで6000人を対象に実施した関連の治験では、89%の確率で重症化が防げたという。この治験で扱った感染件数のうち、95%が南ア変異種によるものだったとしている。
 J&J製ワクチンは、たとえ感染しても中程度から重度に症状を悪化させないことを主な目標としているが、こうした結果から「多くのコロナ患者の重症化と死亡を防げる」と述べた。
 J&Jは2021年に10億回分の供給を目指し、米国、欧州、南アフリカ、インドで生産すると表明。緊急使用が承認され次第、直ちに出荷する用意を整えているとした。ただストフェルス氏は具体的な量について明らかにしなかった。
 2回の接種が必要なファイザー製やモデルナ製とは異なり、J&Jのワクチンは1回の接種で済み、冷凍保存の必要がないため、輸送や冷凍保存が問題となる一部地域にとっては有力なワクチンとなる。(Reuters)

アストラゼネカのワクチン、9000万回分以上を日本国内生産
 1月28日、加藤勝信官房長官は記者会見で、アストラゼネカ社のワクチンの供給について、「厚生労働省における生産設備の強化のための補助金を活用しながら国内生産の準備をしていると承知している」と述べ、「昨日、厚労省に国内で9000万回以上の生産を目指すとの報告があった」と明らかにし、「ワクチンを国内で生産できる態勢を整えることは極めて重要だ」との認識を示した。
 日本政府は、アストラゼネカ社と1億2000万回分の供給を受けることで契約している。このうち3000万回分は3月までに輸入される予定で、残りの9000.万回分を日本国内での製造を目指し、ワクチン原液の生産はJCRファーマ、充填・包装・流通は第一三共、明治ホールディングスグループのKMバイオロジクスとMeiji Seikaファルマが受託している。
 このワクチンはアストラゼネカ社とオックスフォード大が共同開発したもので、イギリスやEU、米国ではすでに緊急使用許可を得ている。日本では2020年9月、18歳以上の約250人に接種する第1相/2相臨床試験が開始され、現在は治験結果を解析中で、2月中にも厚労省に承認申請を行う方針だ。
 一方、米製薬企業ファイザーは2020年12月、すでに厚労省に承認申請を行っている。

新型コロナウイルス ワクチンの種類 遺伝子ワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 不活性化ワクチン

新型コロナウイルス 治療薬の種類 アビガン レムデシベル デキサメタゾン イベルメクチン モノクローナル抗体

Pfizer/BioNTechワクチン 製造・供給の遅れ深刻 EU・英で摩擦激化
 1月16日、米ファイザー(Pfizer)社と独ビオンテック(BioNTech)社は、欧州諸国とカナダ向けの供給を、向こう3~4週間にわたり出荷ペースを一時的に削減すると発表した。ベルギーにある主要工場での製造能力向上に向けた改修工事がその理由としている。EUの関係者は、一部EU諸国へのファイザー製ワクチン供給が今週、半分程度に減少したと明らかにしていた。1月25日には、当初の供給計画に戻り、2月下旬から3月にかけての出荷は「大幅に増える」としているが、同社に対する製造能力に対する疑念が噴出している。世界各国が進めるワクチン接種計画にとって大きな影響がでる可能性が出てきた。
 一方、1月22日、英Astrazeneca社は、欧州連合(EU)に対して第1・四半期に予定していたワクチン供給量を60%削減し、3100万回分にすると通知した。生産面で問題が生じていることが理由としている。
 Astrazenecaは、2月15日に供給開始をして、第1・四半期中におよそ8000万回分のワクチンを供給する予定だった。同社では「当初の供給量は予定より少なくなる。欧州におけるわれわれのサプライチェーン内の生産現場で、歩留まり率が下がっているためだ」と述べた。ベルギーの提携先企業の工場でワクチン生産に問題が発生したため供給量をカットしたと説明した。Astrazenecaは、欧州連合(EU)に対して合計4億回分(2億人分)のワクチンを供給することで合意している。
 しかし、1月4日から接種が開始されている英国に対する1億回分(5000万人分)の供給削減は行わない。
 Pfizer/BioNTechの供給削減と合わせて、EUのワクチン接種計画がさらなる打撃に見舞われた形だ。
 これに対し、1月24日、ミシェルEU大統領は、仏ラジオで製造元に契約順守を求め、「法的措置も辞さない」構えを示した。
 またイタリアの新型コロナ問題に対応する特別長官は、同国へのワクチン供給が29%削減されたとして、ファイザーを提訴することを検討していると明らかにし、 ドイツのシュパーン保健相は、ファイザーのワクチン供給削減に不満を表明し、同国のワクチン接種計画が変更を余儀なくされる見通しになったとした。
 EUは、昨年12月21日、Pfizer/BioNTechのワクチンを承認し、域内各国で接種が始まり、1月6日には、Moderna、1月29日にAstrazenecaのワクチンも承認し、各国で接種キャンペーンが展開されている。EUは「夏までに成人人口の7割」を目標に掲げ、各社と計23億回分のワクチン購入に合意している。このうち、Pfizer/BioNTechは6億回分、Modernaは1億5千万回分、Astrazenecaは4億回分を占める。ワクチンはEUが一括購入し、加盟国に配分する。

 1月29日、EUは強硬手段に乗り出した、欧州委員会(EUの執行機関)は、英国のEU離脱後の関係を定義する協定の緊急条項を利用して、新型コロナウイルスのワクチンの域外への輸出を許可制にする新たな規制措置を導入したと発表したのである。期間は今年3月末までとした。
 ワクチン製造や製造業者が予定する輸出先に関する正確な情報を把握するため狙いを厳密に絞った対策と指摘して、期限付きの措置であり、対象のワクチンは事前に調達契約が結ばれた製品だけに限られるとした。
 しかし、同日深夜、EUは、英国やアイルランドなどからEU離脱協定に違反するとして、猛反発を浴びたて、同日深夜に撤回に追い込まれた。
 EUは域内からのワクチン輸出の監視体制は実施して、ワクチンが域外に出て第三国に流れるようなら「使用できるあらゆる手段を講じる」とけん制をしている。
 1月31日、EUは英アストラゼネカ社が第1・四半期の新型コロナウイルスワクチン供給量を900万回分増やし、4000万回分にする見通しだと明らかにした。
 同社は欧州での生産能力も今後拡張するという。

 菅政権は、6月末までにPfizerやModerna、Astrazenecaの3社から、合計3億1400万回分(1億5000万人分)のワクチンを確保し、2月下旬に医療従事者に対しての優先接種を開始し、3月下旬には高齢者に対しての優先接種を始めるとしているが、ワクチン確保に懸念が生じ、スケジュール通りに実施できるのかどうか懸念が生じている。

新型コロナワクチン、変異種にも有効
 1月28日、米ファイザー社と独ビオンテック社は、両社が共同開発した新型コロナウイルスワクチンが英国と南アフリカの同ウイルス変異株に対しても有効だと発表した。
 両社はこの発表で、従来株と変異株の比較試験で「わずかな相違」がみられたが、これによって「ワクチンの有効性が大幅に下がる可能性は低い」としている。
 1月25日、米モデルナ社は、英国と南アフリカの変異株に対しても有効であることが実験で示されたと発表した。
 ただ南アフリカの変異株B.1.351に対して生成された中和活性の高い抗体は、従来株に比べ6分の1に減少。モデルナは今後、ワクチンのブースター(追加接種)を1回追加し投与回数を全3回とする方法の臨床試験(治験)を行うとし、南アフリカの変異株に対するブースターについてはすでに前期臨床研究を開始したことを明らかにした。
 1月21日のCNNニュースは、二つのワクチンについて、変異種に対しても予防効果があることを裏付けたとする研究結果が発表されたと伝えた。
 米ロックフェラー大学の研究チームは臨床試験の一環として、モデルナまたはファイザーのワクチンを2回接種した20人の血漿に対し、英国と南アフリカで確認された変異種2種の効果をテストした。その結果、ワクチンによって強力な抗体反応が生成され、数カ月から数年にわたって新しい抗体をつくり続ける細胞も生成されていることも判明。変異したウイルスは一部の抗体を免れることができていたが、被検者の身体はそのウイルスに対して違う種類の抗体を送り込んでいたことが判明した。
 研究チームは「たとえ効力が減退したとしても、全体的な反応は圧倒的で、問題にはならないはずだ」と説明している。
 一方、ファイザーが製造・販売するワクチン開発にかかわった独ビオンテックのウール・シャヒン最高経営責任者(CEO)のチームは、英国の変異種に対するワクチンの効果をテストした結果、「中和活動に生物学的に有意な差はなかった」と報告した。それでも念のため、ワクチンの改良に着手することが賢明だろうと述べている。

新型コロナウイルスは変異する 米英の研究者が確認 ワクチンが無力化する懸念




世界の主なワクチンの開発状況

出典 ニューヨークタイムズ 3月16日

 New York Times(1月14日)によると、現在、開発中の新型コロナウイルスのワクチンは、世界各国で約180以上、その内、ヒトを対象にした臨床試験を開始したワクチン候補は113に上り、第1相臨床試験が44、第2相臨床試験が32、第3相の最終段階の臨床試験が22、認可(限定使用を含む)されたものが13となっている。
 認可されたのはPhizer/BioNTech(米独)、Moderna(米)、Oxford/Astrazeneca(英)、Sinofarm(中国)、Cansino(中国)、Sinovac(中国)、Sinovac(武漢生物制品研究所)の7種類、限定使用認可されたのは、、Gamaleya(ロシア)、Vector Institute(ロシア)、Bharat Biotech(インド)、J&J(米)など6種類である。
 世界初の認可となったワクチンは、Cansino BiologicsのAd5-nCoVで、2020年6月、中国人民軍限定の利用認可を得た。中国では、その後、Sinovac、Sinofarm、武漢生物制品研究所製の4つのワクチンが認可されている。ロシアはGamaleya Research Instituteが開発しているSputnik-Ⅴを、2020年8月、第2/3相臨床試験の結果を待たず認可し、さらにシベリアのノボシビルスク州にある国立ウイルス学・生物工学研究センターが開発したワクチン候補も認可した。
 一方、University of Queensland(オーストラリア)やMerck(米)のワクチン候補など4つは開発中止となった。



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イギリスでオックスフォード・アストラゼネカのワクチン接種開始
 1月4日、イギリスで、オックスフォード大学と製薬大手アストラゼネカが共同開発したワクチンの接種が、オックスフォードとロンドン、サセックス、ランカシャー、ウォリックシャーの6つの病院で始まった。
 マット・ハンコック保健相はこれについて、イギリスのコロナウイルスとの戦いの「転換点」になると話した。この日だけで53万回分のワクチンが用意された。
 ワクチンは2回接種する必要があるが、イギリスでは最近の急激な感染者数増加を受けて、国民保健サービス(NHS)はワクチンの2度目の接種時期を21日後から12週間後に先延ばにした。
 2度目の接種時期を遅らせる策はイギリスの保健当局高官も支持しており、1回目のワクチンを打った人数を増やすことが「より好ましい」としている。
 イギリスでは昨年12月に米ファイザーと独ビオンテックのワクチンの接種が始まり、これまでに100万人以上が1回目の接種を終えている。
 オックスフォードとアストラゼネカのワクチンは一般的な冷蔵庫での保管が可能で、ファイザー製に比べて流通と保管が簡単なことが特徴で、価格も安価だという。
 イギリス政府はこのワクチンを人口全体に十分に行き渡る1億回分を確保している。すでに接種施設がイギリス各地に約730カ所整備されており、今週後半には計1000カ所を超える見込みだという。
 一方、イギリスのボリス・ジョンソン首相は同日、国内で新型コロナウイルスの変異株が拡大する中、イングランドで5日から2月中旬まで新たなロックダウンを実施すると発表した。住民は特定の理由を除き、外出ができなくなる。今後数週間は「これまでで最も困難な状況」になるだろうと警告、イギリスが新型ウイルスとの「闘いの最終段階」に突入していると述べた。
 1月6日、欧州医薬品庁(EMA)は、米モデルナ社のワクチンを承認した。昨年12月27日に承認されて接種が開始されている米ファイザー社と独ビオンテック社のワクチンに次いで2例目となる。
 日本政府このワクチンについて、1億2千万回分(6千万人分)の供給を受ける契約を結んでいる。

ファイザー製ワクチン接種の医療従事者にアレルギー反応
 12月19日、米CDC(疾病対策センター)は、米ファイザー社などが開発したワクチンを接種した人のうち6人が、接種後に激しいアレルギー反応である「アナフィラキシー」の症状を示したことを明らかにした。その内1人は過去に狂犬病のワクチンを受けた際にアレルギー反応が出たという。米国ではこの1週間で55万6208人がファイザー社のワクチンの接種を終えている。
 米FDAは、ワクチンに含まれる「ポリエチレングリコール」が関係している可能性もあるとして調査する考えを示した。mRANという物質は極めて壊れやすいために、「脂質ナノ粒子」というベクター(遺伝子の運び屋)で覆って保護するが、その膜が「ポリエチレングリコール」で生成されている。
 最初に米国で同ワクチンに対するアレルギー反応が報告されたのは12月15日、米アラスカ州の衛生当局は、州都ジュノーの病院で米ファイザー社と独ビオンテック社が開発した新型コロナウイルスワクチン接種を受けた女性医療従事者にアレルギー反応が出たことを明らかにした。
 担当医によると、この女性は接種から10分以内に体のほてりを感じ、その後息切れや心拍数増加などの症状が表れた。米衛生当局は、アレルギー反応が起きた場合でも治療できる態勢は整っていると強調した。
 アラスカ州の最高医療責任者アン・ジンク氏は、「英イングランドでファイザーとビオンテックの新型コロナウイルスワクチン接種を受けた人たちにアナフィラキシー(全身のアレルギー反応)が報告されたことを受け、我々もこのような副作用が起こり得ることは想定していた」と述べ、州内で承認されたワクチン接種施設は全て、アレルギー反応に対応するための医薬品を常備する必要があると語った。
 担当医のリンディ・ジョーンズ医師によると、アレルギー反応が出た女性医療従事者は、15日に接種を受けた直後は経過観察区域にとどまっており、抗アレルギー薬のベナドリルを服用したが、息切れの症状を訴えたため集中治療室(ICU)に移された。 女性には息切れや心拍数増加の症状があり、顔から胴体にかけて発疹が出ていた。「アナフィラキシー反応が懸念されたので、エピネフリン筋肉注射の標準治療を行ったところ、すぐに反応した」とジョーンズ医師は話し、抗ヒスタミン剤も投与し、それでもまだ心拍数が高く呼吸が速いといったアレルギー反応の兆候があったため、もう1回エピネフリン注射を行ってステロイドを投与したという。
 女性はそれまでワクチンに対してアレルギー反応が出たことはなかった。ジョーンズ医師はICUに1晩入院した後はほぼ回復したと説明している。(CNN 12月16日)
 
米FDA、ファイザーのワクチン緊急使用承認 接種開始  
 12月14日、 米国で、米ファイザーが独ビオンテックと共同開発した新型コロナウイルスワクチンの接種がニューヨーク州で始まった。
 一番手はロングアイランド・ジューイッシュ・メディカル・センターの集中治療室(ICU)で働く看護師だった。 
 米国ではこの日、新型コロナ感染症による死者が累計で30万人を超えた。ワクチン接種の開始で、米国のコロナ対策の転換点となる可能性に期待が集まっている。
 米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長はMSNBCに対し、米国では一般国民へのワクチン接種が「3月末から4月初旬まで」、もしくは「2021年第2・四半期末、春の終わりまで」に始まる可能性があるとし、「秋にかけて一定の安心感を得らえるようになるだろう」と述べた。

 12月11日、FDAは、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を許可した。緊急使用許可(EUA)が下りたことを受け、米国の保健当局、地方自治体、病院、物流業者は、ただちに接種に向けて動き出している。
 12月13日、ファイザー社のミシガン州の工場からアメリカ各地の145カ所の医療機関に向けて次々に発送が始まった。16日までに約300万回分が636カ所に運ばれる予定だ。
 最大都市のニューヨーク市は、14日にワクチン配布などの統括センターを開設する計画を発表。デブラシオ市長は会見で「これは物流だけの問題でなく、いかに公平を期し市民の信頼を確保するかという点で前例がない」と語った。 FDA諮問委員会は今週、米モデルナのワクチンの緊急使用許可を認めるかどうかも検討する。
 さらに12月18日、米食品医薬品局(FDA)は、米バイオ医薬品企業モデルナが開発した新型コロナウイルスワクチン、mRNA-1273の緊急使用を許可した。米国でコロナワクチンの緊急使用が認められるのは2例目となる。
 数日中に18歳以上の成人への接種が始まる見通し。年内に約2000万回分を米政府に納入する。
 一方、世界保健機関(WHO)は12月31日、米ファイザー/独ビオンテックのワクチンの緊急使用を承認した。

英国、コロナワクチン接種開始 接種の2人に強いアレルギー反応、英が注意喚起 
 12月8日、新型コロナウイルス危機が発生してからほぼ1年、米ファイザー社と独ビオンテック社が開発したワクチンの大規模な接種が英国で始まった。ハンコック保健相はこの日をワクチン(Vaccine)の頭文字から「Vデー」と呼び、戦勝記念日になぞらえた。世界で150万人以上の死者を出したウイルスとの闘いの転換点になるのか、英国がその最初のテストケースとなる。
 ワクチンはベルギーで製造され陸路と空路で英国に運ばれた。
 英国民保健サービス(NHS)の発表によれば、80歳を超える高齢者と介護施設の職員、医療従事者が最初に接種を受ける。当初は約50の病院が取り組みに参加し、最終的には最大1000カ所のワクチン接種センターが開設されるとしている。
 国営医療制度「国民保健サービス(NHS)」のスティーブン・パウィス教授は「英国におけるコロナ禍の終わりの始まり」と宣言。その上で「史上最大の予防接種運動」を進めていくと強調した。
 人類と新型コロナウイルスとの闘いは、新たなステージを迎える。
 一方、12月8日、ワクチン接種に伴って重篤なアレルギー反応が2例、報告されたことが明らかになった。
 これを受けて、英医薬品当局は、深刻なアレルギー反応がある人はワクチンを接種しないように警告した。
 英国民保健サービス(NHS)の医療ディレクター、スティーブン パウイス氏は、ワクチン接種でアナフィラキシー反応が報告されたとした上で「過去に深刻なアレルギー反応があった人はワクチン接種を受けないよう、英国医薬品庁(MHRA)から予防的忠告があった」と述べた。アレルギー反応を起こした2人は無事に回復しているという。
 MHRAは、アレルギー反応に関する追加情報を求めると表明、2社は調査に協力するとした。(Reuters 12月10日)

 アメリカのジョー・バイデン次期大統領は8日、新型コロナウイルス対策として、来年1月20日の就任から100日間でワクチン1億回分の提供を目指すと表明した。

ワクチン接種を無料化 改正予防接種法が成立 接種で健康被害 政府が補償へ 
 新型コロナウイルスワクチンの接種無料化を柱とする改正予防接種法が12月2日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。費用は国が全額負担し、実施主体は市町村となる。国は、接種によって健康被害が生じた場合の損害賠償を肩代わりする契約を製薬会社側と結べるようになる。
 改正法により、国民には原則として接種の「努力義務」が生じるが、あくまで「任意」とし、ワクチンの有効性や安全性が十分に確認することが条件としている。接種費用は全額を国費でまかない、新型コロナ対策として計上した予備費を活用する方向である。
 今年の8月、政府は新型コロナウイルス対策本部で、来年前半までに、すべての国民に提供できる数の確保を目指し、安全性や有効性が認められるものは国内産、国外産を問わず、供給のための契約を順次、進める方針を示した。9月にはワクチン確保に6714億円の予備費支出を閣議決定している。

 また、早期にワクチンを供給する環境を整えるため、政府は副作用や副反応で健康被害が起きた場合、民事訴訟などによる製薬会社の損失を国が補償する方針も固めた。
 各国でワクチンの獲得競争が激化している中で、製薬会社側が日本へ供給しやすくするための法整備に乗り出す方向だ。接種で健康被害が出た場合、責任を負う可能性のある製薬会社に代わり、政府が補償する仕組みを作る。次の国会で関連法案を提出する見通しという。
 政府はこれまでに、米製薬大手ファイザーや英アストラゼネカから供給を受けることで基本合意し、来年前半からの接種を目指している。
 8月21日、政府は、ワクチンが実用化された場合の接種の在り方に関する提言をまとめ、重症化リスクがある高齢者や基礎疾患を持つ人、新型コロナの診療に当たる医療従事者に優先的に接種する方針で合意した。救急隊員や保健所職員を含めることも「議論が必要」とした一方で、高齢者施設で働く人や妊婦については「検討課題」とした。
 これを受けて、政府はワクチンの接種順位を含めた方針を策定する。
 新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は「一般的に呼吸器ウイルスに対するワクチンは効果が非常に限定的だ」と述べて過剰な期待をしないよう求め、副反応など安全性の監視を強化するよう促した。

AstraZeneca社 ほとんどの国で製造物責任免責


英アストラゼネカのワクチン、有効性平均70%、最大90%にも 深刻な副作用なし 米FDA 12月10日認可へ
 11月23日、英製薬大手アストラゼネカ社は、英オックスフォード大学と共同開発している新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)の中間結果を発表し、深刻な副作用を起こさず感染を予防できる有効率が最大で約90%だと明らかにした。
 米FDAのワクチン委員会は12月10日に認可の是非を決める予定で、早ければ翌11日から新型コロナウイルスのワクチンが提供される見通しだ。米政府のワクチン開発計画の科学主任、モンセフ・スラウイ博士が、22日、CNNに出演して明らかにしたもので、認可から「24時間以内にワクチンを接種拠点へ運ぶ」計画だと述べた。
 同社は年内に最大2億回分のワクチンを製造すると表明。競合の米ファイザーは年内に5000万回分の製造を目指すとしており、アストラゼネカの目標はその4倍に相当する。来年3月末までには世界で7億回分のワクチン供給を目指す。
 この中間結果は、英国とブラジルで実施している後期治験データに基づいたもので、初回は半分の量を投与し、少なくとも1カ月の間隔を置いて、2度目は全量投与した場合の有効率が90%だったという。
 有効率は、すなくとも1カ月の間隔を置いて計画通りに全量を2回投与した場合は62%。2種類の投与方式を合わせた分析では平均70%だった。いずれの結果も統計的に有意だとしている。初回は半分の量にする投与方式が有効率が高かったが、その理由は明らかでない。
 アストラゼネカのワクチン開発関係者は、1回目に半分の量を投与したのは偶然の「セレンディピティー(偶然の幸運)」だったと指摘。4月末ごろに英国内の治験参加者に投与した際、疲労感や頭痛、腕の痛みなどの副作用が予想よりも軽度だったことに気付き、調べたところ投与量が計画の半分だったことが分かったが、そのまま治験を継続し、予定された間隔をおいた後に全量を投与したという。
 ワクチンの安全性について深刻な事象は確認されなかったとしている。
 アストラゼネカは今後、各国の医薬品当局に治験データを提出する準備に入る。また世界保健機関(WHO)の緊急使用医薬品指定も目指す。これと並行して中間データの完全な分析を、査読を行う医学誌に送る。
 アストラゼネカのワクチンは、従来型のウイルスベクターワクチンで、ヒトに対して病原性のない、または弱毒性のウイルスベクター(運び手)に抗原たんぱく質の遺伝子を組み込んだ組み換えウイルスを投与するもの。これに対し、ファイザーやモデルナのワクチンにはメッセンジャーRNA(mRNA)という新技術が用いられている。
 ワクチン1本分の価格はわずか4ドル程度と、ファイザーやモデルナのワクチンと比べて格安。さらに2─8度での管理2─8度で30日間保存でき、保存や輸送が容易だという。これに対してファイザーのワクチンはマイナス70度以下の超低温で保存する必要がある。
 英国のハンコック保健相は「ワクチンの配布プログラムの大部分が1月、2月、3月に行われる予定で、イースター(復活祭)以降、状況が正常に戻り始めるよう願っている」と述べた。
 インペリアル・カレッジ・ロンドンのダニー・アルトマン教授(免疫学)は、「後期治験の断片的なデータを比較すると、アストラゼネカ、ファイザー、モデルナのワクチン効果に大した差はなく、1年後には3つのワクチンを全て使用し、約90%の予防効果が得られるようになるのではないか」と話した。



オックスフォード大/アストラゼネカ ワクチン 抗体とT細胞の「二重防御」の可能性 飛躍的進歩か

英AstraZeneca 米で治験再開 「説明のできない」有害事象発生 最終段階の治験一時中断

厚労省 英AstraZenecaと1億2000万回分のワクチン供給で合意 武田薬品 5000万回接種分を国内供給

英AstraZeneca 日本での治験8月にも開始 「特例承認」目指す

英AstraZeneca 4億本のワクチンを欧州に提供

オックスフォード大学 臨床試験を開始 5000人にボランティアが対象

米ファイザー、緊急使用許可申請 治験でワクチン95%有効 クリスマス前の配布も
 11月20日、米ファイザー社は、独ビオンテック社と共同開発している新型コロナウイルスワクチン、「BNT162b2」の緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)を米食品医薬品局(FDA)に申請した。コロナワクチンの緊急使用許可申請は米国内で初めて。 
 これに先立って、11月18日、同社は「BNT162b2」の臨床試験(治験)で95%の予防効果が確認され、重篤な副作用も見られなかったとする最終結果を発表し、2カ月分の安全データもそろっているとして数日以内にFDAに緊急使用許可(EUA)を申請すると表明。 FDAの諮問委員会が12月中にも治験データを検討する見込みとした。米欧で12月中にも緊急使用許可が承認される可能性が大きくなった。
 これに対して、アザー厚生長官は「2つの安全で効果のあるワクチン(Moderna/Pfizer)をFDAが数週間で認可して配布するだろう」と述べ、FDAによって緊急承認されるという見通しを示した。承認後、24時間以内にワクチンを供給する準備が整えられ、早ければ年末までに約2000万人分が供給されるだろうとした。
 ファイザーが公表したデータによると、臨床試験には4万3000人を超える治験者が参加し、「BNT162b2」を接種するグループとプラセボ(偽薬)に分けて、約3週間の間を空けて2回接種した。
 この内、170人が新型ウイルス感染症(COVID-19)に感染。感染者のうちワクチンの接種を受けていたのは8人にとどまり、残りの162人はプラセボ(偽薬)の接種を受けていた。このことから、有効率が95%だったと確認されたとした。
 また、感染して重症となった被験者10人のうち、プラセボではなくワクチンの接種を受けていたのは1人のみだった。リスクが高いとされる65歳以上の年齢層でも有効率は94%を超え、ファイザーはワクチンの効果は人種や年齢を問わず一様だったとしている。副作用については、おおむね軽度ですぐに解消したと報告。ワクチン接種を受けた被験者の2%超が疲労感を訴えたとした。
 ファイザーとビオンテックは世界各国に薬事当局にデータを提出するとともに、査読(ピアレビュー)を受けた論文を科学誌に提出するとしている。
 ビオンテックのウグル・サヒン最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、FDAから12月前半、もしくは同月後半の早い時期に緊急使用許可の承認を得られる可能性があり、欧州連合(EU)の条件付き使用許可も12月後半に得られるだろうとして、「全てがうまく行けば、クリスマス前の配布開始が可能になる」と述べた。(出典 Reuters 11月18日)
 両社が開発している「BNT162b2」はメッセンジャーRNA(mRNA)技術に基づくもの。遺伝子を人工的に合成するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点がある。一方で、同社のワクチンはマイナス70度以下の超低温で保存する必要があるが、通常の冷蔵庫でも最大5日間は保存可能という。
 年内に2500万人分に当たる5000万回分のワクチンを製造し、2021年には最大で13億回分を製造する予定だと改めて表明した。
 また、日本でも、第1相/2相臨床試験が行われており、日本政府と1億2000万回分を供給することで合意している。実用化すれば国内で接種される主力ワクチンの一つになる。さらに欧州連合(EU)、英国、カナダとも供給契約を結んでいる。
 11月9日、ファイザーは中間発表で「有効率が90%を超えた」としたが、これを受けて、週明け11月9日のニューヨーク株式市場ダウ平均株価は急反発して、ことし2月につけた取り引き時間中の最高値を更新し、3万ドルに迫った。
 終値は、先週末に比べて834ドル57セント高い、2万9157ドル97セント。アメリカの大統領選挙で民主党のバイデン前副大統領が勝利を宣言したことに加え、新型コロナウイルスのワクチン開発の期待から、幅広い銘柄に買い注文が集まった。
 これを受けて、日経平均株価は2万5000円を上回りバブル後の最高値を更新した。
 まさに株式市場は「ワクチン相場」になっている。

Pfizer/BioNTechのワクチン、BNT162b2 米政府が1億回分を確保 2回接種で1人分39ドル

米モデルナ 緊急使用許可申請 有効率94.1% 
 11月30日、米モデルナ社は、新たな分析で重大な安全性の問題は浮上せず、コロナに対する高い予防効果が示されたとして、緊急使用許可申請(EUA)を申請した。 
 申請に伴って公表された一次解析では、約3万人と対象にワクチン候補あるいはプラセボ(偽薬:生理的食塩水)を接種するという後期臨床試験(治験)を実施、この内196人が新型コロナウイルスに感染した。196人の内、11人がワクチン候補を投与したグループ、185人が偽薬を投与したグループで、有効性は94.1%と、16日に公表された暫定結果(94.5%)とほぼ同水準だった。重症化が確認された30人はいずれもプラセボを接種した被験者で、重症化の予防には100%の有効性が示唆されたとした。
 このワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンで、遺伝子を人工的に合成して製造するため、短期間で大量のワクチンを製造できる利点がある。
 同社のホーグ社長は「『ワープ・スピード作戦』を通じて数時間以内に出荷する用意があり、すぐに供給を開始できる」として、2021年には需要に応じて国内外の製造拠点に分けて5億~10億回分のワクチンを製造する方針を示した。
 新型ウイルスのワクチンを巡っては輸送方法が懸念されているが、モデルナのワクチンは通常の冷蔵庫の庫内の温度である2~8度で30日間の保存が可能。マイナス20度では最大6カ月の保存が可能になる。一方、ファイザー社のワクチンはマイナス70度の超低温での保存が必要となる。
 「ワープ・スピード作戦」のワクチン担当責任者、マシュ―・ヘップバーン氏は、モデルナのワクチンについて、通常の冷蔵保存が可能なことから、遠隔地域などへ容易に配布できると指摘。「長期試験が完了すればさらなる安定化も期待でき、慎重ながら楽観的に考えている」と述べた。  
 また米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は「ワクチンはトンネルの先にある光だ」とした。
 米政府は8月、1本15ドルで1億本のワクチンを購入する契約をモデルナと締結。政府は開発資金として10億ドルをモデルナにすでに提供しており、政府が支払う1本分のワクチン価格は総額で25ドルとなる。(出典 Reuters 11月16日)
 米ファイザー社も認可申請を終えていて、12月中にも米国では2種類のワクチンの緊急使用が始まり、年内に最大6000万回分、来年には10億回分を超えるワクチンが米国内で供給される可能性が濃厚となった。
 週明け16日のニューヨーク株式市場ダウ平均株価は、新型コロナウイルスのワクチン開発への期待から3万ドルの大台に迫る水準まで値上がりし、ことし2月につけた終値としての最高値を9か月ぶりに更新した。17日の日経平均は、29年5カ月ぶりに2万6000円台を回復した。

Mederna RNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使して開発するmRNAワクチン

モデルナModerna  BioNTech /Pfizer 最終段階の第三相臨床試験開始 「年内の実用化可能」
Moderna ワクチン価格32-37ドル


モデルナのコロナワクチンで患者全員が抗体を獲得-初期臨床試験 27日ごろから後期大規模治験へ


ABC NEWS 7月27日

米モデルナ、臨床試験延期の報道 株価一時7%安

Mederna RNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使して開発するmRNAワクチン


出典 BBC NEWS

米、規制当局の承認後すぐに配布開始 コロナワクチン計画

「ワープ・スピード作戦」 トランプ政権の賭け ワクチン開発でコロナ禍克服

BARDA( 米生物医学先端研究開発局)  NIH(米国立衛生研究所) NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所) CDC(米疾病予防管理センター)


COVID-19の構造








作成 IMSSR


新型コロナウイルス SARS-CoV-2 出典 NIAID-RML




2021年2月20日
Copyright (C) 2021 IMSSR



******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
******************************************************

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新型コロナウイルス 治療薬の種類 アビガン レムデシビル デキサメタゾン 抗体治療薬 イーライリリー アクテムラ イベルメクチン モノクローナル抗体

2021年04月21日 11時41分06秒 | 新型コロナウイルス


深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



米イーライリリーの抗体治療薬、米FDAが緊急使用許可
 2020年11月9日、米食品医薬品局(FDA)は、米イーライリリー社(Eli Lilly)のモノクローナル抗体治療薬(Monoclonal antibodies )、「バムラニビマブ(Bamlanivimab)」について、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症の成人および小児患者向けに緊急使用許可(EUA)を付与したと発表した。
 今回の決定で、医師は高リスクの患者について重症化する前に対処する選択肢が得られる。血漿療法やギリアド・サイエンシズ社のレムデシビルなど使用が認可された治療薬は重症患者向けである。抗体治療薬は、コロナウイルスのスパイクたんぱく質を直接攻撃して、細胞内へのウイルスの侵入を防ぐ。
 同社は発表文で、「バムラニビマブ」は「コロナ検査で陽性となった場合、できるだけ早く、症状が出始めてから10日以内に」投与すべきだと説明。患者は静脈注射の費用の支払いがある可能性はあるが、薬剤自体の自己負担はないという。(Bloomberg 11月9日)
 米政府は、「バムラニビマブ」の州保健当局への配布を週内に開始するとしている。

モノクローナル抗体治療薬とは?
 抗体医薬品では、モノクローナル抗体が注目されている。
 ヒトの体内のウイルスに感染した細胞やがん細胞などの「異物」(抗原)に対して、免疫細胞のB細胞がこれらの異物(抗原)を攻撃するために、特定の「目印」を持つ「異物」(抗原)に結合する抗体をつくる。
 たとえば、ほとんどのがん細胞は他の正常な細胞にはない特定の目印を持っている。 「もし、その特定の「目印」だけに結合して攻撃する抗体を大量に作成することができれば、治療薬として期待できる」という発想から生まれたのがモノクローナル抗体治療薬である。
 モノクローナル抗体は、ただ1種類のB細胞が作る抗体のコピー、つまりクローンです。モノは「単一」、クローナルは「混じりっけのない集合」を意味する。




出典 中外製薬 HP

 モノクローナル抗体は、新型コロナウイルスに対する素早い反応を免疫系に促すと期待されている。考え方としては新型コロナ回復者の血漿を用いる治療法と似ているが、モノクローナル抗体は単なる血液からの抽出物ではなく、バイオ技術によって人工的にに作られる点が異なる。
 抗体は、免疫系が病原体に反応して作り出すY字型のたんぱく質で、重要な役割は2つある。
 1つは、ウイルスに取り付き、ウイルスが細胞に侵入して複製するのを防ぐこと。もう1つは、病原体に目印を付け、免疫を担う他の細胞やたんぱく質が退治できるようにすることだ。
 ワクチンは体に抗体を作らせる。一方、モノクローナル抗体や回復者の血漿を用いた治療は、患者の体内に直接、抗体を送り込む。どちらもウイルスと闘う免疫系にアドバンテージを与えるのが目的だ。
 新型コロナ回復者の血液から抽出する血漿には、様々な種類の抗体が含まれる可能性があるのに対して、モノクローナル抗体は特定の抗原(ウイルス)を攻撃する。新型コロナウイルスを対象としたモノクローナル抗体は、鼻や口でウイルスが生存できないようにし、肺に到達して深刻な症状を引き起こすのを防ぐ。
「理論的には、『そもそも肺に行けるようなウイルスがいない』という状態を作りたい」。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の感染症専門医であり、COVID-19予防試験ネットワーク(CoVPN)を率いるマイロン・コーエン氏はそう説明する。「心配すべきは鼻への感染ではなく、下気道への感染です」
 米製薬大手イーライリリーをはじめとする多くの企業は、新型コロナ回復者の血液を調べて抗体の開発に役立てようとしている。リジェネロン社の場合は、ヒトの免疫系を持たせたいわゆるヒト化マウスに新型コロナウイルスを感染させ、抗体を作り出すヒトの免疫細胞を抽出した。
 その中から、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質に最もよく結合する抗体を作れる細胞がどれかを調べる。スパイクたんぱく質は、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に鍵の役割を果たす。
 こうした選別過程を経て、特定の1種類(モノ)の抗体のみを作るクローン細胞の株が生み出される。それを使って作られるのが「モノクローナル」抗体だ。
 リジェネロン社ではハムスターの卵巣由来の細胞を用いて抗体を大量に生産している。巨大なタンクの中で細胞を培養し、そこから抗体を抽出する。(米紙ワシントン・ポスト)
 最終的にでき上がるREGN-COV2には、新型コロナウイルスへの結合のしかたが少しずつ異なる2種類のモノクローナル抗体が含まれる。エイズウイルス(HIV)に対して複数の抗ウイルス薬を併用する「カクテル」療法と同じように、この抗体の「デュオ」もウイルスに対してより効果的だと考えられている。

効果と安全性は?
 REGN-COV2は効果と安全性の確認がまだ取れていないため、試験段階にある治療薬ということになる。米食品医薬品局(FDA)は、回復者の血漿や抗ウイルス薬「レムデシビル」と違い、REGN-COV2に対しては緊急使用許可を出していない。
 あらゆる治療法は、臨床試験において検証が行われるのが原則だ。患者を、その薬を投与するグループと、効果がないとされるプラセボ薬を与えるグループにランダムに振り分け、結果を比較する。リジェネロン社のREGN-COV2は、こうした試験の初期段階にある。完全な結果がまだ公表されていないこともあり、この治療薬の使用を懸念した医療関係者もいた。まして大国のリーダーに使うとなるとなおさらだ。
 リジェネロン社は9月29日に投資家およびメディア向けの会見を開き、最初の275人の患者に実施した臨床試験の暫定的な結果を発表した。それによると、自分自身の抗体が十分に作られていなかった患者に対し、REGN-COV2を8グラム投与(血管に注入)したところ、鼻の中のウイルス量が減少した。また、症状が軽減する傾向も見られたが、統計的に有意な差が出るには至っていないという。同社はなるべく早い時期に正式な結果を発表したいとしている。
 リジェネロン社と提携してREGN-COV2の予防的治療薬としての効果を検証しているCoVPNのコーエン氏は、今のところモノクローナル抗体の安全性に問題はなく、「安全でないと考えるべき理由もありません」と話す。ウイルスのスパイクたんぱく質を攻撃するものですので、どう考えてもヒトの組織には干渉しないとする。
 しかし、抗体治療には懸念材料がつきまとう。その1つが、特定の状況下ではかえってウイルスがヒトの細胞と結合する能力を高めてしまい、病状を深刻化させる可能性だ。
 抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれるこの現象は、少なくともREGN-COV2を用いた動物実験では見られていない。ただし、この結果を記した論文はまだ査読を終えていない。
 リジェネロン社のボウイ氏によれば、これまでに2000人以上が臨床試験に参加し、データを追跡している独立した委員会で安全性への懸念が示されたこともないという。「安全性は私たちの最大の関心事であり、常に注意深く見守っていますが、今のところ問題は起きていない」としている。
(要約 「解説:トランプ米大統領に投与、モノクローナル抗体とは」 National Geographic 2020年10月6日)

一躍脚光抗体治療薬 トランプ大統領にも投与 米イーライリリー社抗体治療薬の臨床試験で被験者の登録を停止 

新型コロナの回復期血漿療法、米FDAが緊急使用許可

抗炎症ステロイド剤 デキサメタゾン(Dexamethasone) コロナ治療薬に 厚生労働省
 7月17日、厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の診療の手引を改定し、抗炎症作用のあるステロイド剤「デキサメタゾン」を二つ目の治療薬と位置づけ、追加掲載した。新型コロナの治療薬では、抗ウイルス薬のRemdesivir(レムデシビル 商品名ベクルリー Gilead Sciences)がすでに承認されている。
 「デキサメタゾン」はすでに喘息やリュウマチ、肺炎などの重症感染症向けの抗炎症ステロイド薬として承認されている。新型コロナウイルス感染症も含まれるため、新たな承認手続きなどは不要として、厚労省の診療の手引に掲載された。
 新型コロナの治療に薬が使われる場合、治療費は公費でまかなわれ、患者の負担は発生しない。

 「デキサメタゾン」については、 6月25日、米感染症学会は、デキサメタゾンを条件付きで推奨するよう治療ガイドラインを更新し、米国立衛生研究所も独自のガイドラインについて同様の変更を行った。厳密には米食品医薬品局(FDA)が承認する治療薬ではないものの、デキサメタゾンは、COVID-19の生存率を高めることが示された最初の治療薬となった。
 一方、欧州では、9月18日、欧州医薬品庁(EMA)が新型コロナウイルスに感染して呼吸補助が必要な重症患者に対するステロイド系抗炎症薬「デキサメタゾン」使用を推奨する方針を示した。
 これに対して、世界保健機関(WHO)は、「新型コロナの重症・重篤」患者にのみデキサメタゾンを使用するよう推奨している。

 一方、7月4日、世界保健機関(WHO)は、COVID-19の治療薬を見つけるために世界各国が協力して実施する「連帯治験」(Solidarity Trial)で、抗HIV薬の「ロピナビル」と「リトナビル」併用の治験と抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの治験の2部門を打ち切ると発表した。
 この2部門については、治験担当者の研究会合で暫定結果が説明されたが、2部門とも通常の治療と比較して入院患者の致死率を減らす効果がほとんど見られないと判断が下された。
 WHOは「連帯治験」運営委員会の勧告に従い、2部門の治験中止を決めた。このうちヒドロキシクロロキンは、米FDAや英仏が相次いで治験を中止、WHOも6月中旬から新たな患者での治験に入っておらず、治療薬としての研究を事実上止めていた。
 「連帯治験」はWHOが設けた国際協力の枠組みで行われるもので、世界39カ国が参加し、5500人近い治験者が協力している。

 「デキサメタゾン」は、トランプ大統領が、新型コロナウイルスに感染して入した際に、治療に使用されたとして注目を浴びた。
 大統領の医師団は10月4日、トランプ氏がデキサメタゾンの投与を受けていると表明。ホワイトハウスは大統領が順調に回復しているとし、トランプ氏本人は5日午後、この日の夕方に退院するとツイッターに投稿した。
 ただ、デキサメタゾンは通常は重症患者に投与される医薬品。米国感染症学会(IDSA)は、デキサメタゾンは酸素吸入が必要になっている重症の新型ウイルス感染症患者に効果がある一方、自己免疫反応が抑制されるため、軽症者に投与された場合はむしろ害になる恐れがあるとしている。
 また国際骨髄腫財団によると、副作用として視界不良や不整脈などの身体症状のほか、人格変化や思考困難、攻撃性、錯乱などの精神症状が出る恐れがある。
 南カリフォルニア大学(ロサンゼルス)の感染症専門家、エドワード・ジョーンズロペス氏は「ステロイドは非常に危険な医薬品だ」とし、「このため、デキサメタゾンは重症患者に投与されている。神経精神の面で副作用が出る恐れがあるため、極めて慎重に利用されている」と述べた。
 一方、ジョンズ・ホプキンズ・センターのシニアスカラー、アメエシュ・アダルジャ氏は、デキサメタゾンは新型ウイルスに感染して血中酸素濃度が低下した多くの患者に投与されており、基本的に害はないとの見解を示している。(出典 Reuters 10月5日)

ステロイド薬でコロナ重篤患者の生存率向上、英国で使用開始へ  
 新型コロナウイルス感染症の重篤患者の3分の1が、ステロイド薬「デキサメタゾン」の投与により一命を取り留めたとの治験結果が6月16日、発表された。同感染症との闘いにおいて「大きな突破口」となる可能性があると、期待が高まっている。これを受けて英政府はきょうから投与を開始することを明らかにした。
 英オックスフォード大学のチームが率いる研究者らは、デキサメタゾンを重篤患者2000人超に投与。
 暫定結果によると、人工呼吸器がなければ呼吸できなかった患者らの致死率は、同薬の投与により35%低下。また酸素吸入を受けていた患者では、致死率は20%低下したという。
 研究チームによると、同薬を毎日服用することで、人工呼吸器使用患者の8人に1人、酸素吸入のみの患者の25人に1人が命を取り留める可能性があるという。(AFP 6月16日)
 英保健当局者によると、デキサメタゾンは1960年代から使用されている抗炎症薬で、ジェネリック(後発薬)として数十年の実績があり、1回の治療にかかる価格は5ポンド(約670円)程度だという。
 テドロス事務局長は「酸素吸入や人工呼吸器を必要とする新型コロナ感染症患者の死亡率を下げることが示された最初の治療法だ」と称賛して、研究チームから報告を受けており、数日内に完全なデータ分析が得られるとの見通しを示した。WHOは今後、複数の研究を統合した上で統合的に分析するメタアナリシス(医療 において、最も質の高い根拠)をまとめるとした。
 一方、韓国疾病予防管理局(KCDC)の鄭銀敬(チョン・ウンギョン)局長は、新型コロナウイルス感染症患者に使用することに注意を呼び掛け、 同薬は患者の炎症反応を減らすだけでなく、免疫システムも損ない、副作用をもたらす可能性があると警告した。
 米国の医療従事者も、デキサメタゾンについて、期待を抱きながらも懐疑的な見方を表明。新型コロナの有力な研究結果が最近撤回されたことに言及し、データを見て確認したいとしている。 (Reuters 6月17日)



アビガン(ファビピラビル) 出典 富士フィルム ホームページ

「アビガン」承認見送り 継続審議
 12月21日、厚生労働省の専門部会は、「アビガン」(ファビピラビル)について、現時点では「有効性を明確に判断することは困難」として、継続審議とした。海外で実施中の臨床試験などの結果の提出を待ち、年明け以降に審議するとしている。
 富士フイルムホールディングスは、10月16日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として「アビガン」の製造販売の承認を厚生労働省に申請した。承認されれば「レムデシビル」と「デキサメタゾン」に続き、新型コロナ薬として国内3例目。2020年5月、当時の安倍晋三首相が「今月中の承認をめざしたい」と発言。厚労省も早期承認を後押して、治験データがなくても承認できるという異例の通知を出し、政権を上げて早期承認に「前のめり」だった。
 アビガンは富士フイルム富山化学(富士フイルム子会社)が開発した新型インフルエンザ治療薬で、すでに承認されている。 ただしアビガンは、妊娠中妊婦に投与すると副作用で胎児に影響が出る恐れがあるため、妊婦などは服用できない。
 2020年4月、藤田医科大学の土井洋平教授が日本感染症学会のシンポジウムで迅速観察研究の結果を報告し、アビガン投与開始14日後に重症患者の6割が改善、軽症や中等症では9割の患者で改善が認められたとした。その後、俳優の石田純一氏や脚本家の宮藤官九郎氏(50)、フリーアナウンサーの赤江珠緒氏など著名人が投与後の効果を証言して注目を浴びた。
 同社では、新型コロナウイルスの治療に効果がある可能性があるとして、早期承認を目指して3月末から第三相臨床試験(治験)を開始した。
 治験は20~74歳の重症でない新型コロナウイルス肺炎の患者156人に実施、有効性や安全性をランダム化プラセボ対照試験で検討した。「アビガン」投与群では、解熱や肺機能の改善が進み、PCR検査の結果が陰性になるまでにかかる日数の中央値が11.9日、プラセボ投与群では14.7日となり、症状の早期改善が確認できて、安全性上の新たな懸念は認められなかったとした。しかし、症状回復までの日数はわずか2.8日の短縮にとどまる。富士フイルム幹部は「結果は100点満点ではない。特効薬とまでは言えない」と述べたというが、有効性のエビデンスとしては脆弱である。
 さらに治験の実施方法にも問題があった。
 一般的な治験は、客観的に評価するため、患者に投与されるのはワクチン候補なのか偽薬か、医師も患者も知らない「二重盲検」という手法で実施される。しかし今回は、医師側はどの患者がワクチン候補を投与されたが知っている「単盲検」という手法だった。
 「単盲検」は、重篤な副作用が予測されるなど、医師側が知らないと対処できない場合などに限られる。「二重盲検」に比べ科学的な根拠が薄く、「偽薬は効かない」といった先入観が症状の判断に影響を与える可能性あるとされる。
 医薬品医療機器総合機構(PMDA)が部会に提出した報告書は、「単盲検」の手法をとったことなどにより「有効性の結果に影響を及ぼしたと考えられる」と指摘。薬の有効性について「明確に判断することは困難と考える」とした。
 

出典 富士フイルム富山化学 報道発表資料

富士フイルム、アビガン承認申請 新型コロナ治療薬
 10月16日、富士フイルムホールディングス傘下の富士フイルム富山化学(東京)は、新型インフルエンザ治療薬「アビガン」(一般名ファビピラビル)について、新型コロナウイルス感染症の治療薬としても承認するよう厚生労働省に申請したと発表した。軽症者の症状の早期改善に効果が確認されたとしている。
 承認されれば「レムデシビル」や「デキサメタゾン」に続き国内3例目の新型コロナ治療薬となる。
 アビガンは富山化学が開発し、新型インフルの治療薬として2014年に承認を受けている錠剤(経口投与)で、ウイルスが複製する際に必要な酵素RNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を防ぐことができる。
 「レムデシビル」と「デキサメタゾン」は重症者が対象とする治療薬に対して、アビガンは比較的症状が軽い新型コロナウイルスの患者に対して効果が確認されていた。
 同社は、新型コロナに対しても有効性を持つか確かめる治験を重症でない肺炎患者を対象に今年3月に開始。 症状の改善を早める一定の効果を9月までに確認し、安全上の新たな懸念は認められなかった。
 「アビガン」はアビガン」は経口投与であり、患者が簡単に服用可能になるため、医療機関の負担が大幅に軽減できる。これに「レムデシビル」は点滴、「デキサメタゾン」は経口か注射になるため医療機関の負担が大きい。
 しかし、アビガンは、妊娠中に服用すると胎児の奇形や流産・死産を起こす恐れがあることが動物実験で分かっており、妊婦らは使用できない。

アビガンの承認に前のめり
 アビガンをめぐっては、当初から政府の前のめりな姿勢が目立った。感染拡大防止を前提としつつ社会経済活動を回復させようと急ぐ中で、ワクチンと並び重要視するのが治療薬の開発だ。5月の記者会見で当時の安倍晋三首相が「今月中の承認をめざしたい」と発言。
 政府関係者は、タミフルなどの治療薬の開発で新型インフルエンザに対する脅威が下がったとして、治療薬の重要性を指摘。早期承認に慎重な厚生労働省の対応を批判し、日本発のコロナ治療薬への期待を寄せてきた。
 経済の活性化や来年夏の五輪開催に向けても、治療薬の存在は大きい。
 安倍前首相が5月に承認の意欲を示した後、厚労省は早期承認のための特例を認める異例の通知を出した。治験を経ずに特定臨床研究や観察研究のデータをもとに承認申請をするのでは、と懸念の声が上がっていたが、結局、最も信頼性の高い治験データによる申請となった。
 だが国内の感染者数の減少で臨床試験(治験)の参加者が想定どおり集まらず、申請は首相発言から5カ月後だった。
 治験には156人が参加した。アビガンを投与した場合、解熱や肺機能の改善が進み、PCR検査の結果が陰性になるまでにかかる日数の中央値が11・9日で、偽薬をのんだ患者より2・8日短くなった。富士フイルム幹部は「結果は100点満点ではない。特効薬とまでは言えない」と話す。
 アビガンは新型インフルエンザ治療薬として承認を受けており、一部の病院で患者の希望と医師らの判断で使える「観察研究」という枠組みで新型コロナ患者にも投与することが可能だ。

有効性には疑問の声が相次ぐ
 「レムデシビル」と「デキサメタゾン」に続く第三の治療薬の登場を待ち望む声は大きいが、専門家からはアビガンの有効性について疑問の声も出ている。
 アビガンは、細胞に入ったウイルスの増殖を抑える。使う対象者は軽症者らが想定され、早期に使うことでウイルスが増えず、重症化予防につながると期待する声が上がる。一方で数日早く熱が下がる程度にどれほどの意味があるのか、疑問視する声もある。
 一般的な治験は、思い込みを防ぎ客観的に評価するため、服用するのが薬なのか偽薬か医師も患者も誰も知らない「二重盲検」と呼ばれる方法で行われる。先に承認されたレムデシビルの臨床試験は、千人超を対象に「二重盲検」で行った。
 しかし、今回の治験は、患者以外の医師などはアビガンをどの患者が服用しているかを知っている「単盲検」と呼ばれる試験法で行われた。
 「単盲検」は、重い副作用が予測され、医師がどの人に薬を使っているか知らないと対処ができない場合などに限定されている。今回は「二重盲検」という手法をとらなかった。
 これに対して、富士フイルムは「肺炎が急速に悪化することがあり、偽薬をのんだ患者の治療が遅れることを懸念し、厚労省などと協議して決めた」と説明する。
 アビガンは2014年3月、従来の薬が効かない新型インフルエンザの薬として承認された。ただし季節性インフルの患者を対象にした当時の治験で十分な有効性は示せず、国に追加の治験結果を提出することなどが承認の条件とされ、厚労相の要請がなければ製造できないという条件を課せられた。
 当時の厚労省の薬事・食品衛生審議会の部会の議事録によると、「新型に効くという根拠がわからない」「今ここで承認しなくてはいけないのか疑問がある」と承認を疑問視する声が出た。だが「一般に流通するわけではないので」と部会長がまとめた。
 その後、米国で実施した二重盲検の治験で有効性が一部示され、17年3月に厚労相の要請がなくても製造できるようになり、200万人を目標とした備蓄方針も決まった。
 アビガンは今後、PMDAと厚労省の薬事・食品衛生審議会で、その安全性と有効性を審査するが、11月に承認されるという見通しは必ずしも明るくない。

 10月6日、田村憲久厚生労働相は、治療薬候補のアビガンについて、政府が審査を3週間で終えて11月に承認する方向で計画しているとの一部報道について、「申請前から承認時期が決まっていることはあり得ない」と否定した。厚労相は「有効性や安全性を確認した上で承認するか決める。時期が決まっていたら審査する意味がない」と述べた。

アビガン、有効性示されず 臨床研究で、藤田医大が発表 国産治療薬誕生に「前のめり」の安倍政権に誤算

抗インフルエンザ薬 アビガン COVID-19の国産初の治療薬として有望視 症状改善に効果 多くの事例相次ぐ

アビガン(AVIGAN)富士フイルム富山化学 ファビピラビル(Faviparavir) 承認済の抗インフルエンザ薬



出典 Europeanpharmaceuticalreview.com

FDA、ギリアドのレムデシビルを承認 米で初のコロナ治療薬に WHO効果に疑問 死亡率・入院期間に影響なし
 10月22日、米食品医薬品局(FDA)は、米ギリアド・サイエンシズ社の抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナウイルス感染症で入院を必要とする患者の治療薬として承認した。
 米国立衛生研究所(NIH)が主導した大規模な臨床試験(治験)で入院期間を短縮させる効果が確認され、FDAが5月に緊急使用を許可していた。
 同社株は引け後の時間外取引で4.3%上昇した。

 10月15日、Reutersは、WHOが実施した臨床試験で、米バイオ医薬品メーカー、ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」が、新型コロナウイルス感染症の治療で入院期間や死亡率にほとんど影響を与えなかったと伝えた。
 レムデシビルは、トランプ米大統領にも投与されていた。
 WHOは、世界30カ国以上で計1万1266人の患者を対象に、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル/リトナビル、およびインターフェロンの効果を調べたが、これらの治療薬は、28日間の死亡率や入院期間に全く影響しないか、もしくはほとんど影響しなかったという。 ギリアド社は今月、新型コロナ患者1062人を対象としたレムデシビルの治験で、プラセボ(偽薬)群と比べて治療期間を5日短縮する効果が確認されたと発表している。
 ギリアド社は、この治験結果は、複数の無作為化対照試験の結果が査読を経て専門誌に出版され、レムデシビルの臨床的利点が裏付けられているのに対し、WHOの治験は建設的な科学的議論を行うために必要な厳しい審査を受けていないとの見方を示した。

 さらに11月20日、世界保健機関(WHO)は、日米などで新型コロナウイルスの治療薬として承認されているレムデシビル( Remdesivir)について、症状の軽重にかかわらず新型コロナ患者には使用しないよう勧告した。  致死率などの改善効果は実証されていない一方、副作用の可能性や医療現場の負担の問題があるためという。  WHOは10月に、WHOが主導する国際的な治験で、入院患者への効果が「ほとんどないか、全くなかった」との暫定結果を発表していたが、不使用の勧告は出していなかった。  勧告を盛り込んだガイドラインを策定した専門家委員会は、メリットがないことが証明されたわけではないが、副作用の可能性やコスト、静脈注射が必要で医療リソースへの負担があることを考慮し、勧告が必要と結論付けたという。ただ、今後も検証を続けることは支持するとした。
 これに対して、加藤勝信官房長官は、「厚生労働省において特段、承認について見直す必要はないというのが現時点での認識と承知している」と述べ、承認を見直す考えがないことを明らかにした。


出典 Gilead Sciences HP

レムデシビル1人25万円 ギリアド社が価格公表

レムデシビル 投与期間 5日間と10日間で大差なし 効果は限定的か

レムデシビル、米国では当初患者に十分行き渡らない見通し 患者への投与開始

レムデシビル 薬事承認 厚労省

米FDA、レムデシビルの新型コロナ向け緊急使用を承認 コロナ治療に「明確」な効果

レムデシビル ギリアド・サイエンシズ社[米国]


アクテムラ、コロナ治療に有効…英政府が発表
 12月7日、英政府は、関節リウマチの治療薬「トシリズマブ」(製品名アクテムラ:中外製薬)とモノクローナル抗体製剤「サリルマブ」(ケブザラ :リジェネロン)が新型コロナウイルスの治療に有効であると発表した。トシリズマブは岸本忠三・元大阪大学長と中外製薬が開発し、「アクテムラ」の商品名で知られる。
 英政府が支援した臨床研究で明らかになったもので、集中治療室の患者に対して抗炎症薬「デキサメタゾン」の投与など通常の治療をした場合の死亡率は35・8%だったのに対し、搬送から24時間以内にトシリズマブなども追加で使った場合は27・3%まで低下したとした。 
 この結果、二つの薬を追加で投与した場合に死亡リスクが24%下がると結論づけられ、患者が集中治療室に入る期間も7~10日間短縮できたという。英国では今後、集中治療室に運ばれた患者に対して使用する。
 今回の「REMAP-CAP」試験では新型コロナの治療薬となりそうなさまざまな医薬品が無作為に患者に投与された。英国を中心に3900人余りが参加したが、アクテムラは350人、ケブザラは45人とごく一部にとどまり、有効性のエビデンスとしては脆弱である。
 また投与によって、死亡率が下がったとしているが、その効果はわずか8.5%に過ぎない。


トシリズマブ(中外製薬の「アクテムラ」)
 4月8日、スイスの製薬大手ロシェグループの中外製薬は、新型コロナウイルス肺炎治療薬としての承認取得に向け、抗ヒトIL-6(インターロキシン6)モノクローナル抗体製剤、「アクテムラ」(ACTEMRA)(一般名:トシリズマブ)の国内治験(第III相臨床試験)を実施すると発表した。
 治験の対象は、国内の重症COVID-19肺炎の入院患者。中外製薬は「今後試験の詳細を確定の上、速やかな患者登録の開始を目指す」としている。
 アクテムラは、中外製薬が開発した国産初の抗体医薬品。国内では関節リウマチ、キャッスルマン病などの治療薬としてすでに承認され、海外では米国、欧州で承認されている。
 「アクテムラ」は他の生物学的製剤とは異なり、インターロイキン6(IL-6)という物質が引き起こす「免疫暴走(サイトカインストーム)」の働きを抑えるモノクローナル抗体製剤で、体内で過剰に作られたIL-6は免疫暴走を誘発して、炎症を引き起こす作用がある。関節リウマチの患者では、炎症に由来する様々な症状を発生させる。「アクテムラ」はIL-6が入り込もうとする受容体に結合して、IL-6が受容体に結合するのをブロックすることで炎症に由来する様々な症状を抑えて関節破壊の進行を抑制して症状を改善する。
 海外では、3月19日に、中外製薬の親会社のロシュ社(スイス)が、重症COVID-19肺炎の入院患者約330例を対象に、アクテムラの安全性・有効性を評価する第III相臨床試験の開始を発表している。
 重症の患者に対するアクテムラの効果については、国内の研究者・臨床医から期待する声が上がっており、ノーベル医学生理学賞受賞者の本庶佑京大特別教授も4月6日付で公表したCOVID-19対策の緊急提言で、①急性期には抗ウイルス剤「アビガン」、②重症肺炎時の炎症反応の暴走時にはトシリズマブ(アクテムラ)などを実地導入すべきとだとしている。

免疫暴走(サイトカインストーム)の抑制

 トシリズマブ(アクテムラ)は、フランスでは、129人の新型コロナウイルスの患者に投与したところ、アクテムラを投与しなかった患者に比べて、著しく死者が減少したという報告がされている。また中国では、2020年3月から重症の患者に投与したところ、20人中19人が症状が改善し、約2週間で退院したという症例が報告されている。
 国内では、大阪はびきの病院では重症患者にアクテムラを投与したところ、全員が症状改善に向かったとしている。
 インターパーク倉持呼吸内科院長の倉持仁氏は、「関節リュウマチの患者にはアクテムラをすでに使用しているが、通常、重症の感染症がないことやリューマチ内科の専門医と一緒になって治療にあたっていくことが重要だ」と述べ、「アクテムラを使用すると、どしても感染症がおこったり足が壊疽したりすることが発生する。普通は血液検査でCRPという数字が上昇したり、発熱したりしたりして気が付くことが多いが、アクテムラを服用しているとこうした症状がカバーされてしまい気が付かないケースが発生する。アクテムラ使用の臨床体験がある医師の十分な診療体制が不可欠である」とした。(出典 テレビ朝日 羽鳥慎一モーニングショー 5月6日)

混迷 抗マラリア薬 ヒドロキシクロロキン

トランプ氏 抗マラリア薬を毎日服用
 5月18日、トランプ米大統領は、新型コロナウイルス向けに推奨する抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」について、自身も服用していると明らかにした。ヒドロキシクロロキンをめぐっては、新型コロナへの効果を疑問視する見方が出ているほか、心臓への副作用をもたらす恐れがあると専門家が警告している。
 トランプ氏は、ホワイトハウスで記者団に「この1週間半ほど、私も錠剤を毎日飲んでいる」と語った。自身は新型コロナ感染検査で陰性と診断されているが、それでも服用する理由について「いい話を多く聞いている」と説明した。
 また、副作用の副作用の危険性を否定するとともに、ホワイトハウスの医師も反対しなかったと主張。「最前線で新型コロナ対応に当たる人も、多くの医師も服用している」と強弁し、新型コロナの予防や治療用にヒドロキシクロロキンを推奨した。
 トランプ氏の主治医は同日、大統領報道官を通じて声明を出し「大統領と十分に議論した末、ヒドロキシクロロキン服用の潜在的効能が、リスクを上回るという結論に達した」と説明した。治療法に関する研究成果を引き続き注視していくとも強調した。
 米食品医薬品局(FDA)は4月、ヒドロキシクロロキンを新型コロナの治療や予防に用いた場合「命に関わりかねない心拍異常など深刻な副作用が報告されている」と警告を出していた。

 6月3日、トランプ米大統領(73)の主治医はランプ氏が新型コロナウイルス感染予防のため2週間の抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」服用を終え、副作用がなかったことを確認した。ヒドロキシクロロキンをめぐっては、新型コロナへの効果を疑問視する声が出ているほか、心臓への副作用のリスクも指摘されている。
 ホワイトハウスがこの日公表した健康診断結果によれば、トランプ氏は体重が前年からやや増加し約111キロになったが、健康状態に大きな変化はなく、マケナニー大統領報道官は3日の記者会見で「大統領は引き続き健康だ」と強調した。トランプ氏は昨年の健診で、肥満度を示す体格指数(BMI)が医学的に「肥満」とされる30を上回っているとしている。

英医学誌 患者の死亡リスクを高めるとする研究結果
 5月22日、英医学誌ランセットは、ドナルド・トランプ米大統領が新型コロナウイルスの感染症「COVID-19」予防のために服用していると発言した抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」について、患者の死亡リスクを高めるとする研究結果を掲載した。
 アメリカやスイスの研究者たちの報告によると、ヒドロキシクロロキンを患者に投与しても治療効果はみられなかったという。
 ヒドロキシクロロキンはマラリアやループス腎炎、関節炎などの治療には安全に使用できるが、COVID-19への効果は実証されておらず、複数の公衆衛生当局が心臓に悪影響を及ぼす恐れがあると警告している。
 この研究では、新型ウイルス患者9万6000人のデータが用いられた。このうち約1万5000人が、ヒドロキシクロロキンあるいはそれに類するクロロキンを、単独もしくは抗生物質との併用で投与されていた。
その結果、抗マラリア薬を使わなかった患者に比べ、使った患者は入院中に死亡する確率が高く、心拍異常がみられたという。
 致死率は、ヒドロキシクロロキンを投与された患者では18%、クロロキンでは16.4%、これらを投与されていない場合は9%だった。ヒドロキシクロロキンあるいはクロロキンを抗生物質と併用で投与された場合の致死率はさらに高かった。
研究者たちはヒドロキシクロロキンを臨床試験以外で使用すべきではないと警告している。
 しかし、6月5日、この医学誌の論文は、データの信用性に対する懸念を理由に、執筆者によって取り下げられた。
 論文の内容について、執筆者のうち3人が正確さを保証できないとした。データを出した医療関連企業サージスフィアが、独立した検証に協力しないためだと説明した。
 サージスフィアの最高経営責任者(CEO)で論文の執筆者として名を連ねたサパン・デサイ氏は、英紙ガーディアンに、独立した検証に協力する意向を示したが、データの公表は「顧客との契約と守秘義務に違反」すると述べ拒否をする姿勢だという。

相次ぐ治験中止 ヒドロキシクロロキン
 5月25日、世界保健機関(WHO)は関節リウマチの治療などに使われる薬剤の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する効果を確かめるため各国で進められている臨床試験について、予防措置として「一時的に」中断したと発表した。
 5月27日、フランス政府は使用禁止とする新たな規制を導入した。またイタリアでは臨床試験が差し止めとなり、英規制当局はオックスフォード大学主導で実施されていた試験を停止したと発表した。 同薬剤は、トランプ米大統領がコロナ予防とし服用を公表した薬剤だが、有害となる恐れもあるとして論争が起きていた。
 しかし、6月3日、テドロス事務局長は、急遽一転して「ヒドロキシクロロキン」について、安全性を再検証し、治験再開を認めると表明した。担当委員会が服用者の致死率などデータを検証した結果、「ヒドロキシクロロキン」の使用を含めて治験内容を「修正する理由はない」と結論付けた。
 一方、6月3日、米ミネソタ大学は、新型コロナウイルス感染症治療への抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」が最近ウイルスの感染リスクに遭遇した821人を対象に初めて臨床試験を実施してその結果を公表し、投与しても効果が認められないとした。但し深刻な副作用や心臓への副作用は確認されなかったという。

米FDA、抗マラリア薬の許可撤回 コロナ治療効果認められず  
 6月15日、米食品医薬品局(FDA)は「ヒドロキシクロロキン」と「クロロキン」を新型コロナウイルス感染症治療に用いることを認めた緊急使用許可を撤回した。両薬剤はトランプ米大統領が推奨してきたが、FDAの決定により政治色の強い治療法が利用不可能となった。
 両薬剤は当初、研究室での実験で新型ウイルスを不活性化させる効果が確認され、初期の小規模な試験では人間の体内での有効性も示唆されていたことから、FDAが今年3月に新型ウイルス感染症の治療目的での緊急使用を承認した。
 しかしその後、より大規模で管理の行き届いた実験により、両薬剤が新型コロナウイルス感染症の治療にも、ウイルスにさらされた人の感染防止にも効果がないことが判明。同時に、特定の患者に不整脈を起こす恐れなどの安全性の懸念が浮上していた。(AFP 6月15日)


深堀情報 Media Close-up Report ~東京オリンピック・新型コロナウイルス・4K/8K 5G~



新型コロナウイルスの治療薬








作成 IMSSR



新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~

ワクチンの種類 遺伝子ワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 不活性化ワクチン

モデルナModerna  BioNTech /Pfizer 最終段階の第三相臨床試験開始 「年内の実用化可能」
Moderna ワクチン価格32-37ドル


モデルナのコロナワクチンで患者全員が抗体を獲得-初期臨床試験 27日ごろから後期大規模治験へ

米モデルナ、臨床試験延期の報道 株価一時7%安

米モデルナ社の新型コロナワクチン、mRNA-1273 前期治験で有望な結果 米政府 約5億ドルの開発費支援

Mederna RNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使して開発するmRNAワクチン

モデルナ ワクチン、mRNA-1273の第2相(フェ―ズⅡ)臨床試験を開始

米FDA PfizerとBioNTechのワクチン、BNT162b1とBNT162b2 ファストトラックに指定 治験で良好な結果

米、規制当局の承認後すぐに配布開始 コロナワクチン計画

BARDA   NIH(米国立衛生研究所) NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所) CDC(アメリカ疾病予防管理センター)

「ワープ・スピード作戦」 トランプ政権の賭け ワクチン開発でコロナ禍克服

AstraZeneca社 ほとんどの国で製造物責任免責


オックスフォード大/アストラゼネカ ワクチン 抗体とT細胞の「二重防御」の可能性 飛躍的進歩か

英AstraZeneca 米で治験再開 「説明のできない」有害事象発生 最終段階の治験一時中断

厚労省 AstraZenecaと1億2000万回分のワクチン供給で合意 武田薬品 5000万回接種分を国内供給

AstraZeneca 日本での治験8月にも開始 「特例承認」目指す

英アストラ・ゼネカ社 4億本のワクチンを欧州に提供

オックスフォード大学 臨床試験を開始 5000人にボランティアが対象

米Pfizerと独BioNTechのワクチン、治験で良好な結果 9月に最終段階の臨床試験





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ファイザー Pfizer/BioNTech BNT162b2 米政府1億回分確保 1人分39ドル

2021年02月10日 06時33分18秒 | 新型コロナウイルス



Pfizer/BioNTechのワクチン、BNT162b2 米政府が1億回分を確保 2回接種で1人分39ドル
 7月22日、米政府は、米Pfizer社と独BioNTech社が開発中の新型コロナウイルスワクチン、1億回分を購入することを合意した。米政府は受取時に19億5000万ドル(約2090億円)を支払う。
 Pfizer社の発表文によると、米政府が購入するのは、mRNA遺伝子組み換えワクチンのBNT162b2で、米厚生省と国防総省が購入契約を結んだ。年内に1億本分の供給を受けて、米国民に無料で投与する。さらに来年以降最大5億本分を追加取得することも可能になっている。
 米食品医薬品局(FDA)が安全性と有効性を確認して承認するか、緊急使用許可(EUA)を受けることが条件となっている。
 この契約では、米国政府は、対象者一人当たり、ワクチンを2用量接種する場合には39ドル、1用量の接種では19.50ドルの価格で購入することになっている。新型コロナウイルスのワクチンの価格を取り決めた最初の契約となった。
 米投資銀行のアナリストは、この契約について「COVIDワクチンの価格設定に重要なベンチマーク(指標)を提供するだろう」と述べた。
 これに対して、WHOと国際枠組みを推進している国際組織GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の広報担当者は、39ドルという価格についてコメントを控えながらも、現時点で具体的な価格を予測することは不可能だとした。(Reuters 7月25日)
 ファイザー社は10月にも当局の審査を受けた上で20年末までに1億本、21年末までに13億本の供給を目指すとしている。 ファイザー社は、年内に1億回分、来年には13億回分のワクチンの製造を目指している。
 トランプ政権は、100億ドル(約1兆700億円)を投じて、「ワープスピード作戦」を強力に推進し、全国民が1回接種するのに相当する3億本のワクチン提供を2021年初めまでに実施することを目指し、コロナ禍を克服する最大の対策として位置づけている。
 一方、5日発表の資料によると、J&Jはヤンセン部門が開発するワクチン候補について米国内での大規模生産と1億回分の供給で合意した。 BARDA(米生物医学先端研究開発局)は今回の合意内容に対して10億ドル(約1050億円)を超える拠出を約束しているという。



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ワープ・スピード作戦 コロナワクチン計画 米規制当局の承認後すぐに配布開始

2020年12月02日 09時59分34秒 | 新型コロナウイルス


米、規制当局の承認後すぐに配布開始 コロナワクチン計画
 9月16日、米政府は、年内の実用化が期待される新型コロナウイルスワクチンについて、規制当局の承認から1日以内に配布を開始する方針を明らかにした。 米CDCは各州に対し、配布計画を10月16日まで策定するように通達に出した。11月3日の米大統領選前に接種を開始する体制を整えた。
 トランプ大統領が前日、3~4週間以内にワクチンは完成する可能性があると表明している。ワクチン開発は大統領選挙のトランプ氏の「切り札」になっている。
 米厚生省と国防総省の当局者らは記者説明を行った後、州・地方の公衆衛生当局に送付する配布計画に関する文書を公開した。
 それによると、政府は疾病対策センター(CDC)が最初にワクチン接種を推奨している重要集団に基づき、各州にワクチンを配分する見通し。この重要集団には必要不可欠な医療従事者らが含まれる予定だ。
 さらに「コロナワクチンが食品医薬品局(FDA)によって承認された場合、今年11月初旬までに限定的な数量のワクチンが利用可能となり得るほか、2021年にはワクチン供給量が大幅に増加する可能性がある」とした。
 ある当局者は「(コロナワクチン開発に関する)『ワープ・スピード作戦』では、(規制当局の承認発表後)24時間後にワクチンを投与場所に移動させることを目指している」と述べた。(Reuters 9月17日)
 一方、ファイザーのブーラCEOは、早ければ10月中にも安全性と効果を判断するのに十分なデータが集まるという見通しを示し、効果があると判断すれば、直ちにアメリカFDA=食品医薬品局など各国の規制当局に、使用の許可や承認を申請するとしている。44000人を対象に実施している臨床試験では、これまでに治験者にはわずか32人の感染者しかでていないが、感染者が164人に到達した時点で治験結果をまとめるとしている。ファイザーのワクチン候補が、認可申請第一号となる可能性が大きくなった。
 またモデルナのバンセル最高経営責任者(CEO)は、開発中のコロナワクチンについて、70%を超える有効性が確認されれば、食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を求める考えを示した。



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トランプ大統領 新型コロナに感染

「ワープ・スピード作戦」 トランプ政権の賭け ワクチン開発でコロナ禍克服

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コロナワクチン 製造物責任 アストラゼネカ ほとんどの国で製造物責任免責

2020年11月30日 15時01分06秒 | 新型コロナウイルス



AstraZeneca社 ほとんどの国で製造物責任免責
 英AstraZenecaは社、COVID-19ワクチンに関連する将来の製造物責任の申し立てから、供給協定を結んだほとんどの国で保護されているとロイター通信に語った。
 同社の首脳は、「ワクチン接種から4年以内に副作用が派生した場合は、企業としてリスクを負うことができない特殊な状況にある」とし、「契約では、免責を求めているが、ほとんどの国では、国の利益になるとして、そのリスクを国が負うことになると受け止めている」と彼は述べた。
 AstraZenecaは、米国、英国、ヨーロッパの国々や他の国々や組織と契約を行い、合計20億回分を無利益で供給することで製造物責任のリスクを回避している。その見返りとしてアストラゼネカは生産と開発資金に対して各国政府からの支援を確保している。(出典 Reuters 7月30日 AstraZeneca to be exempt from coronavirus vaccine liability claims in most countries)

 現在、世界で37のワクチン候補を臨床試験行っていて、認可されたら何億人もの人々に予防接種を行う準備を進めている。しかし、ワクチンの接種で副作用が発生した場合に損害賠償金を誰が支払うのかという問題は、ワクチンの供給体制を整備する上で難題である。

 EU当局はロイター通信に対して、今週、重篤な副作用が発生した場合などの製造責任はファイザー、サノフィ、ジョンソン&ジョンソンのCOVID-19ワクチン候補の供給契約を行う際の重大な論点の1つであると述べた。
 米国にはすでに、公衆衛生上の緊急事態対応で、治療薬やワクチンなどの公共の健康危機をコントロールする製品は、故意の不正行為を除いて、損害賠償責任から免責する法律(Public Readiness and Emergency Preparedness Act[PREP Act])がある。
 この法律で、治療薬やワクチンの開発企業は、副作用が発生した場合の損害賠償からから逃れることができる。
 数種類のワクチンは、秋には医療関係者などを対象に接種が開始される見通しである。ワクチンの安全性は、大規模臨床試験で確認するとしているが、何億人を対象に重篤な副作用が発生する可能性はゼロではないと思われる。こうしたリスクにどう対応するのか、リスクマネージメントの検討も必要だろう。




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ワクチンの種類 遺伝子ワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 不活性化ワクチン

トランプ大統領 新型コロナに感染

オックスフォード大/アストラゼネカ ワクチン 抗体とT細胞の「二重防御」の可能性 飛躍的進歩か

英AstraZeneca 米で治験再開 「説明のできない」有害事象発生 最終段階の治験一時中断

AstraZeneca 日本での治験8月にも開始 「特例承認」目指す

英アストラ・ゼネカ社 4億本のワクチンを欧州に提供

オックスフォード大学 臨床試験を開始 5000人にボランティアが対象



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イーライリリー 抗体治療薬 モノクローナル抗体 トランプ大統領

2020年11月30日 08時10分32秒 | 新型コロナウイルス


一躍脚光を浴びたモノクローナル抗体治療薬 トランプ大統領の治療に使用
 2020年10月2日、トランプ米大統領が新型コロナウイルス感染して、重篤化して、首都ワシントン郊外のウォルター・リード軍医療センターに入院した。入院前にはホワイトハウスで酸素吸入を受けていたと報じられた。その後、症状が改善し、米東部時間10月5日午後6時40分頃に退院した。主治医による経過観察と治療はしばらく継続されるというが、わずか中3日の超スピード退院である。
 トランプ氏の医師団は様々な薬剤を使用して治療に当たったが、その1つが「モノクローナル抗体(中和抗体)カクテル」と呼ばれる臨床試験段階の未承認薬である。まだ臨床試験データが揃っていないため、安全性や効果がまだ十分に立証されていなが、人道的見地からの特例措置として使用が認められている。医師団の中には不安の声も上がっていたという。一方で、医療専門家は、トランプ氏の症状は、それでも投与したほうが良いと考えるほど深刻だったのではないかと指摘する。
 トランプ大統領に使用されたのは、米製薬大手リジェネロンが開発している「モノクローナル抗体(中和抗体)カクテル」の「REGN-COV2」で、効果があったとする見方が出され、抗体治療薬に対する関心が一気に高まった。
 リジェネロン社によると、人道的見地からの特例措置としてREGN-COV2の投与を受けた人はトランプ大統領だけではなく、これまでに「まれで特例的な状況」にあった10人未満がこの治療薬を投与されたという。
 医療上のプライバシーのため、同じく新型コロナ陽性と判定されたメラニア・トランプ大統領夫人や政府高官らがREGN-COV2を投与されたかどうかは明かせないとした。

トランプ大統領 新型コロナに感染 ペンス副大統領側近も

モノクローナル抗体とは?
 抗体医薬品では、モノクローナル抗体が注目されている。
 ヒトの体内のウイルスに感染した細胞やがん細胞などの「異物」(抗原)に対して、免疫細胞のB細胞がこれらの異物(抗原)を攻撃するために、特定の「目印」を持つ「異物」(抗原)に結合する抗体をつくる。
 たとえば、ほとんどのがん細胞は他の正常な細胞にはない特定の目印を持っている。 「もし、その特定の「目印」だけに結合して攻撃する抗体を大量に作成することができれば、治療薬として期待できる」という発想から生まれたのがモノクローナル抗体治療薬である。
 モノクローナル抗体は、ただ1種類のB細胞が作る抗体のコピー、つまりクローンです。モノは「単一」、クローナルは「混じりっけのない集合」を意味する。





出典 中外製薬 HP

 モノクローナル抗体は、新型コロナウイルスに対する素早い反応を免疫系に促すと期待されている。考え方としては新型コロナ回復者の血漿を用いる治療法と似ているが、モノクローナル抗体は単なる血液からの抽出物ではなく、バイオ技術によって人工的にに作られる点が異なる。
 抗体は、免疫系が病原体に反応して作り出すY字型のたんぱく質で、重要な役割は2つある。
 1つは、ウイルスに取り付き、ウイルスが細胞に侵入して複製するのを防ぐこと。もう1つは、病原体に目印を付け、免疫を担う他の細胞やたんぱく質が退治できるようにすることだ。
 ワクチンは体に抗体を作らせる。一方、モノクローナル抗体や回復者の血漿を用いた治療は、患者の体内に直接、抗体を送り込む。どちらもウイルスと闘う免疫系にアドバンテージを与えるのが目的だ。
 新型コロナ回復者の血液から抽出する血漿には、様々な種類の抗体が含まれる可能性があるのに対して、モノクローナル抗体は特定の抗原(ウイルス)を攻撃する。新型コロナウイルスを対象としたモノクローナル抗体は、鼻や口でウイルスが生存できないようにし、肺に到達して深刻な症状を引き起こすのを防ぐ。
「理論的には、『そもそも肺に行けるようなウイルスがいない』という状態を作りたい」。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の感染症専門医であり、COVID-19予防試験ネットワーク(CoVPN)を率いるマイロン・コーエン氏はそう説明する。「心配すべきは鼻への感染ではなく、下気道への感染です」
 米製薬大手イーライリリーをはじめとする多くの企業は、新型コロナ回復者の血液を調べて抗体の開発に役立てようとしている。リジェネロン社の場合は、ヒトの免疫系を持たせたいわゆるヒト化マウスに新型コロナウイルスを感染させ、抗体を作り出すヒトの免疫細胞を抽出した。
 その中から、新型コロナウイルスのスパイクたんぱく質に最もよく結合する抗体を作れる細胞がどれかを調べる。スパイクたんぱく質は、ウイルスがヒトの細胞に侵入する際に鍵の役割を果たす。
 こうした選別過程を経て、特定の1種類(モノ)の抗体のみを作るクローン細胞の株が生み出される。それを使って作られるのが「モノクローナル」抗体だ。
 リジェネロン社ではハムスターの卵巣由来の細胞を用いて抗体を大量に生産している。巨大なタンクの中で細胞を培養し、そこから抗体を抽出する。(米紙ワシントン・ポスト)
 最終的にでき上がるREGN-COV2には、新型コロナウイルスへの結合のしかたが少しずつ異なる2種類のモノクローナル抗体が含まれる。エイズウイルス(HIV)に対して複数の抗ウイルス薬を併用する「カクテル」療法と同じように、この抗体の「デュオ」もウイルスに対してより効果的だと考えられている。

効果と安全性は?
 REGN-COV2は効果と安全性の確認がまだ取れていないため、試験段階にある治療薬ということになる。米食品医薬品局(FDA)は、回復者の血漿や抗ウイルス薬「レムデシビル」と違い、REGN-COV2に対しては緊急使用許可を出していない。
 あらゆる治療法は、臨床試験において検証が行われるのが原則だ。患者を、その薬を投与するグループと、効果がないとされるプラセボ薬を与えるグループにランダムに振り分け、結果を比較する。リジェネロン社のREGN-COV2は、こうした試験の初期段階にある。完全な結果がまだ公表されていないこともあり、この治療薬の使用を懸念した医療関係者もいた。まして大国のリーダーに使うとなるとなおさらだ。
 リジェネロン社は9月29日に投資家およびメディア向けの会見を開き、最初の275人の患者に実施した臨床試験の暫定的な結果を発表した。それによると、自分自身の抗体が十分に作られていなかった患者に対し、REGN-COV2を8グラム投与(血管に注入)したところ、鼻の中のウイルス量が減少した。また、症状が軽減する傾向も見られたが、統計的に有意な差が出るには至っていないという。同社はなるべく早い時期に正式な結果を発表したいとしている。
 リジェネロン社と提携してREGN-COV2の予防的治療薬としての効果を検証しているCoVPNのコーエン氏は、今のところモノクローナル抗体の安全性に問題はなく、「安全でないと考えるべき理由もありません」と話す。ウイルスのスパイクたんぱく質を攻撃するものですので、どう考えてもヒトの組織には干渉しないとする。
 しかし、抗体治療には懸念材料がつきまとう。その1つが、特定の状況下ではかえってウイルスがヒトの細胞と結合する能力を高めてしまい、病状を深刻化させる可能性だ。
 抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれるこの現象は、少なくともREGN-COV2を用いた動物実験では見られていない。ただし、この結果を記した論文はまだ査読を終えていない。
 リジェネロン社のボウイ氏によれば、これまでに2000人以上が臨床試験に参加し、データを追跡している独立した委員会で安全性への懸念が示されたこともないという。「安全性は私たちの最大の関心事であり、常に注意深く見守っていますが、今のところ問題は起きていない」としている。
(要約 「解説:トランプ米大統領に投与、モノクローナル抗体とは」 National Geographic 2020年10月6日)


米イーライリリー社 抗体治療薬の臨床試験で被験者の登録を停止
 米製薬大手イーライリリー社は13日、新型コロナウイルス感染症(COVID19)抗体治療薬の臨床試験で被験者の登録を停止したことを明らかにした。安全性への懸念が理由。広報担当は電子メールによる発表文で、米政府の支援を受けて進めている臨床試験は、独立したデータ安全性監視委員会(DSMB)から停止の勧告を受けたと述べた。データ委員会が停止を勧告した理由について詳しい情報は明らかにしていない。
 広報担当キャスリン・べイザー氏は「当社は今回の臨床試験に参加する被験者の安全性を慎重に確保するという独立DSMBの決定を支持する」と述べた。
 今回中断されたのは、カナダのアブセレラ・バイオロジクスと共同開発するモノクローナル抗体薬「LY-CoV555」の治験。ウイルスを中和する2種類の抗体を組み合わせ、重症者に注射する。米国立衛生研究所(NIH)が主導する、新型コロナの入院患者を対象とした治験を実施中だった。
 同社株は13日午後の米株市場で一時3.8%下落した。(Bloomberg 10月13日)

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アストラゼネカ 治験再開 治験中断 副作用

2020年11月24日 06時43分39秒 | 新型コロナウイルス


英アストラゼネカ、米でコロナワクチン治験再開
 
 10月23日、英製薬大手アストラゼネカ社は、米国内で中断している新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)について、米食品医薬品局(FDA)から承認が得られたとして再開したことを明らかにした。
 アストラゼネカは9月、オックスフォード大学と共同開発しているワクチン候補、「ChAdOx1 nCov-19」の最終臨床試験で、被験者1人に説明できない疾患が生じたことから治験を世界的に中断した。その後、9月12日、英国、ブラジル、南アフリカで再開、10月2日、日本でも治験を再開した。しかし同社は守秘義務を理由に、参加者にどのような有害事象が出たのか情報を開示していない。
 アストラゼネカ社とオックスフォード大学と共同開発しているワクチン候補、「ChAdOx1 nCov-19」の最終段階に入っていた臨床試験(治験)の一時中断を明らかにしたのは、9月8日、これまで順調に開発が進んでいた中での中断で衝撃を与えた。 
 アストラゼネカ社の発表によると、最終臨床試験で、被験者に説明できない疾患が発生したため、臨床試験を中断するとした。規制当局が独立した調査により安全性データを検討して、再開可能かどうかを決定するまでの間、世界中で行われているすべての臨床試験は一時停止した。
 New York Times紙によると、英国の治験で脊髄に炎症が起きる横断性脊髄炎が被験者の女性、一人に確認されたという。横断性脊髄炎はウイルスの感染によってき引き起こされる場合が多いとされる。この疾患がワクチンと関係がわるかどうかは不明という。
 アストラゼネカ社は「原因不明の病気」の場合の「日常的な」休止と説明し、オックスフォード大学の広報担当者は、「大規模な治験では、偶然に病気が発生することが日常的に起きるが、これを個別に検討して慎重にチェックする必要がある」と語った。
 BBCによれば、オックスフォード大のコロナウイルスワクチンの治験が保留されるのは2回目。 大規模な臨床試験は日常的に行われ、接種者の病気の原因がすぐに明らかにならない場合には、接種者が病院に入院することが発生した場合に治験は停止される。
 関係者によると、臨床試験は数日で再開できるとしている。
 このニュースを最初に伝えた医療情報ウェブサイトのSTATによると、症状が出たのは英国で治験に参加していた女性で、「横断性脊髄炎」という神経疾患が見られたが改善傾向にあり、早ければ9日に退院する見込みだという。7月にも治験参加者に神経症状が出たために一度中断したが、検査した結果、多発性硬化症が原因でワクチンとは無関係だったという。
 英FT誌は、治験は来週前半にも再開される見通しだと報じた。

 9月10日、世界保健機関(WHO)の主任科学者ソミヤ・スワミナサン氏は「治験の過程では浮き沈みがあるもので、備えをしなければならないということに気付かせる警鐘だ」と述べ、「落胆する必要はない。こうしたことは起こるものだ」との見方を示した。

 一方、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、10月12日に中断したコロナワクチンの治験について、データ安全性モニタリング委員会(DSMB)からの勧告を受け、早ければ来週にも再開する方向で準備を進めていると明らかにした。(Reuters 10月23日)
 また米Pfizer と独BioNTechは、10月中旬から11月上旬までに、ワクチン候補のBNT162の承認を得ることが可能だと確信しているとCNNの独占インタビューで語り、「BNT162は優れたプロファイルを備えており、ほぼ完全なワクチンと考えている」と自信を示した。
 両社は、年末までにBNT162を1億回、2021年には最大13億回の投与を計画していると述べている。

 こうした中で、9月8日、米ファイザーや英アストラゼネカなど欧米の製薬会社9社は、それぞれ開発を進める新型コロナウイルスのワクチンに関し、「高い倫理的、科学的基準に基づく開発や治験を継続する」との共同声明を発表した。トランプ米政権が、大統領選前に、臨床試験(治験)終了前に例外的にワクチン投与を認める「緊急使用許可」に踏み切る可能性が取り沙汰される中、拙速な使用に懸念を示した格好で、ライバル企業同士が結束するのは異例。「当局が求める大規模な最終治験を通じ、安全性と有効性が示された後に、承認や緊急使用を申請する」と明言し、治験終了前の申請を否定した。



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オックスフォード大/アストラゼネカ ワクチン 抗体とT細胞の「二重防御」の可能性 飛躍的進歩か

AstraZeneca 日本での治験8月にも開始 「特例承認」目指す

英アストラ・ゼネカ社 4億本のワクチンを欧州に提供

オックスフォード大学 臨床試験を開始 5000人にボランティアが対象




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Moderna ワクチン価格32-37ドル 最終段階の第三相臨床試験開始 「年内の実用化可能」 SanofiとGlaxoSmithKline(GSK) 米BARDAから21億ドル

2020年11月17日 07時52分22秒 | 新型コロナウイルス


SanofiとGlaxoSmithKline(GSK) 米BARDAから21億ドル Moderna ワクチン価格32-37ドル
 7月31日、仏製薬大手サノフィ(Sanofi)と英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)は、ワクチン開発費として米BARDAから最大21億ドル(約2250億円)の支援を受け、1億回分を提供すると発表した。欧州連合(EU)も3億回分の供給を受けることで合意したとしている。
 米国はこのワクチン候補を、「ワープスピード作戦(OWS)」の対象に選定したが、このワクチン候補は、まだ第1相臨床試験も行っておらず、9月に開始して、年末までに最終段階もの第3相試験を行う予定だ。
 両社は「良好なデータが得られれば、2021年上半期に米国の承認申請を得て、世界で年間最大10億回分の接種量のワクチンを生産する予定」としている。
 一方、8月5日、J&Jは、1億回分の供給で米政府と合意したと発表した。ワクチン供給に対し、J&Jは米政府から10億ドル(約1050億円)超を受け取る。日本や欧州連合(EU)とも協議中とされている。
 また、Moderna社は、mRNA-1273の提供価格について、小規模契約向けでは32─37ドル(2回接種で64-74ドル)に設定したと明かした。これはPhizer社が米国向けに設定した価格(2回接種で40ドル)を上回る水準。同社では、大規模契約には価格を引き下げるとも述べた。

Moderna  BioNTech /Pfizer 最終段階の第三相臨床試験開始 「年内の実用化可能」
 7月27日、Moderna社は、開発中のCOVID-19ワクチン候補、mRNA-1273について、米国立衛生研究所(NIH)の支援を受けて全米3万人の治験者を対象とした大規模臨床試験を開始したと発表した。トランプ政権が進めるワクチン開発促進策「ワープ・スピード作戦」の第一弾となる。
 この臨床試験は全米87カ所の医療施設で行われる。mRNA-1273を始め、Oxford/ Astra Zeneca 、Johnson & Johnson、Novavaxなどのコロナワクチン候補を対象にした臨床試験は、30州と首都ワシントンで実施され、うち半数程度は感染者が多いテキサス、カリフォルニア、フロリダなどで行われる。
 mRNA-1273の接種は、呼吸器疾患がない健康は3万人の成人に対して、2回接種して、安全性や抗体反応を誘発するなどの効果を確認する。1回だけの接種による効果についても調べる。
 治験者に接種するワクチンは100マイクログラムの容量した。用量を100マイクログラムとしたことについて、免疫効果の最大化と副作用の最小化にする最適な水準と説明している。治験者は1年間追跡する。
 一方、BioNTech SE社とPfizer社は、共同開発しているCOVID-19ワクチン候補、BNT162について、全米3万人の治験者を対象とした大規模臨床試験を開始したと発表した。米国で開始後、アルゼンチン、ブラジル、ドイツなど世界の約120の医療機関でも治験を実施する方針。18〜85歳のボランティアに2回投与し、安全性と、感染や発症の予防に有効かどうかを評価する。半数は比較のためプラセボを接種する。
 こうした中、米当局者は、コロナワクチンについて、年内の実用化は可能との認識を示した。
 米国立衛生研究所(NIH)のコリンズ所長は「年内に安全で有効なワクチンを提供するのはハードルの高い目標だが、米国民にとって望ましいことだ」とした。(Reuters 7月27日)
 Moderna社は、年内に5億回分のワクチン供給を目指し、2021年以降、供給数を年最大10億回分に引き上げる方針。
 27日、Modernaの株価は8%超、Pfizerは1.6% 、BioNTechは4.2%.値上がりした。
 大規模臨床試験開始の前日、Moderna社は、BARDA(米生物医学先端研究開発局)から追加のワクチン開発資金、4億7200万ドル(約500億円)の支援を受けた。 
 この結果、Moderna社は合計9億9500万ドル(約1065億円)の巨額の開発資金を手にしている。



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2020年11月17日
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モデルナ mRNA-1273 患者全員が抗体を獲得 後期大規模治験へ

2020年10月30日 18時05分58秒 | 新型コロナウイルス


モデルナのコロナワクチンで患者全員が抗体を獲得-初期臨床試験 27日ごろから後期大規模治験へ
 7月14日、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験に関わった連邦機関の研究者は、米Moderna社とNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が開発を進めているワクチン候補、mRNA-1273の前期臨床試験で、治験参加者45人全員が抗体を獲得したとことを明らかにした。
 生成された中和抗体の水準は、コロナに感染し、その後に回復した患者に見られた水準のレンジ上半分に相当した。中和抗体はウイルスに結合し、ウイルスがヒトの細胞を攻撃するのを阻止する。結果は14日に米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に掲載された。
 今回の第1相臨床試験は、ワクチン候補のmRNA-1237を、18歳から55歳の45人の健康な成人に28日間隔で2回、接種をした。治験対象者は、 シアトルのカイザーパーマネンテでのに参加したボランティアとアトランタのエモリー大学でのボランティアで、ボランティアは3つのグループに分けられ、25、100、または250マイクログラムの用量のワクチンの接種を受けた。最初のワクチン接種は3月16日から4月14日の間に行われた。
 一方、副作用については、2回の接種で重大な副作用は見られず、安全性を確認したが、注射部位の痛みなど、軽度から中程度の副作用があり、高用量ワクチンを接種したグループにより多く発生した。
 この結果を受けて、7月27日ごろから、第3相臨床試験を開始するとしている。
 この大規模臨床試験は、NIH(米国立衛生研究所)が、トランプ政権が進めてい「ワープ・スピード作戦」の一環として実施するもので、承認に向けての最終段階の治験で、約3万人規模の治験者を1グループにして数グループを対象に、米国内の87カ所で行われる。この内、モデルナのmRNA-1273を始め、Oxford/ Astra Zeneca 、Johnson & Johnson、Novavaxなどのコロナワクチン候補の試験は30州と首都ワシントンで実施され、うち半数程度は感染者が多いテキサス、カリフォルニア、フロリダなどで行われる。
 15日、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)のファウチ所長は、国は年末までに新型コロナウイルスワクチンを開発する目標を達成できるとし、中国に先を越される可能性があるとの観測には動じない姿勢を示した。
 14日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は続伸し、前日比556.79ドル高の2万6642.59ドルで取引を終えた。新型コロナウイルスのワクチン開発への期待が継続し、買いが優勢となった。
 金融大手JPモルガン・チェースの2020年4〜6月期決算は純利益が半減したものの、市場予想より良かったため、米景気の先行きが楽観視された中で、新型コロナのワクチン開発を巡り、米モデルナが最終段階の臨床試験を始めると発表し、買いに弾みが付いた。(Bloomberg/Reuters/CNN 7月14日)
 ニューヨーク株式市場は、「ワクチン相場」になっている。

Moderna 第三相臨床試験の準備完了  
 6月11日、モデルナ(Moderna)社は、7月に開始する最終段階の第3相臨床試験に向けて、治験者に接種するmRNA-1273の準備を終えたと発表した。
 治験者に接種するのは100マイクログラムの容量のワクチンとした。用量を100マイクログラムとしたことについて、免疫効果の最大化と副作用の最小化にする最適な水準と説明。治験者は1年間追跡する。
 同社では2021年からは最大10億回接種できるワクチンの生産が可能になるとし、製造についてはスイスの製薬会社ロンザ・グループと提携した。
 この臨床試験は、米アレルギー感染症研究所(NIAID)と共同で実施、30,000人の治験者を対象として行い、ワクチン候補がCOVID-19の発症を防ぐ効果があるかどうかを最終的に確かめる第3相試験である。
 ニューヨーク株式市場では、取引開始直後、モデナ株は3.2%上昇して61.98米ドルになり、年初から約3倍に値上がりした。


米モデルナ、臨床試験延期の報道 株価一時7%安

米モデルナ社の新型コロナワクチン、mRNA-1273 前期治験で有望な結果 米政府 約5億ドルの開発費支援

モデルナ ワクチン、mRNA-1273の第2相(フェ―ズⅡ)臨床試験を開始

Mederna RNA-1273 最先端の遺伝子技術を駆使して開発するmRNAワクチン


新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson Phizer 勝者は誰が?~

ワクチンの種類 遺伝子ワクチン ウイルス・ベクター・ワクチン プロテイン・ベース・ワクチン 不活性化ワクチン




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2020年7月14日
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トランプ米大統領 コロナ感染 抗体カクテル レムデシビル デキサメタゾン

2020年10月27日 09時40分30秒 | 新型コロナウイルス


ペンス副大統領、側近感染でも遊説を継続
 10月24日、米ホワイトハウスは、マイク・ペンス副大統領の側近が新型コロナウイルスに感染したと発表した。ペンス氏は濃厚接触者に該当するものの隔離はせず、米大統領選にむけた活動を継続し、25日夜は予定通りノースカロライナ州キンストンで選挙集会を行った。 ペンス氏の周辺では、マーク・ショート副大統領首席補佐官の感染が24日に明らかになったほか、複数の米メディアによると、ペンス氏周辺の4人も感染した。副大統領夫妻は25日、ウイルス検査で陰性と判定されたという。 アメリカで多数の新型ウイルス感染者が出ている中、COVID-19(新型ウイルスの感染症)問題が選挙戦で焦点となっている。
 一方、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)アンソニー・ファウチ所長はワクチンについて、BBCの取材に対して、「安全で効果的」であることが証明されれば、年末までに米国内で提供できる可能性があるとしつつ、医療従事者らが優先的に接種することになると述べた。  また、ワクチンをより幅広く提供できるようになるには、来年に入ってから数カ月はかかるだろうとした。

米イーライ・リリーのコロナ抗体薬、治験を一時中断
 米製薬大手イーライ・リリー社が開発中の新型コロナウイルス抗体薬について、臨床試験(治験)が一時中断されたことがわかった。複数の米メディアが報じ、イーライ・リリーが事実を認めた。治験の一時中断は「潜在的な安全上の懸念」が理由だったという。
 今回中断されたのは、カナダのアブセレラ・バイオロジクスと共同開発するモノクローナル抗体薬「LY-CoV555」の治験。米国立衛生研究所(NIH)が主導する、新型コロナの入院患者を対象とした治験だ。イーライ・リリーは声明で「我々にとって安全が最も重要。患者の安全を確保する決定を支持する」と述べた。
同社は7日、新型コロナ患者に投与するため、米食品医薬品局(FDA)に「LY-CoV555」の緊急使用許可を申請したと発表している。
治験の中断をめぐっては、12日にジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)が新型コロナワクチンの最終段階の治験を一時中断したと発表したばかり。9月上旬にも、英製薬大手アストラゼネカが新型コロナワクチンの治験を中断。英国や日本では治験が再開されたが、米国ではまだ再開されていない。(Reuters 10月14日)

コロナに感染したトランプ米大統領 退院
 トランプ米大統領は米東部時間10月5日午後6時40分過ぎ(日本時間6日午前7時40分)に軍医療施設を退院し、ヘリコプターで移動し、ホワイトハウスに入った。トランプ氏の医師団は「完全に困難を乗り越えてはいないかもしれない」と説明し、今後も容体を注視する考えを示し、完治していないことを示唆した。
 トランプ氏は「20年前よりも元気だ」とし、「コロナを恐れるな」「コロナに生活を支配させてはならない」とツイッターに書き込んだ。
 一方、トランプ氏の治療では、医師団は入院前に、9月末に初期臨床試験の結果が公表されたばかりの米製薬大手レジェネロンが開発中の未承認の抗体カクテル、8グラムを投与。入院後は、抗ウイルス薬レムデシビル(Remdesivir)も投与を続けている。さらに2度目に血中酸素濃度が低下した3日には、抗炎症作用のあるステロイド剤デキサメタゾン(Dexamethasone)も追加された。酸素補給が必要な中等症と重症患者に勧められる薬だが、軽症者の場合は逆に危険な可能性も指摘されている。
 このうち抗体治療薬はまだ実験段階にあるため、大統領がこの治療を受けたというニュースは関係者にインパクトを与えた。臨床試験も終えてなく、トランプ大統領に使用するのは極めてリスクが高い。米国では未承認治療薬の使用を限定的に認める制度、「コンパッショネート・ユース(人道的使用)」がある。

 10月2日、トランプ大統領夫妻が新型コロナ陽性になったことが明らかになり トランプ大統領は、同日、米軍医療施設に入院し、 Remdesivir/Dexamethasoneの投与を受けた。 入院中のトランプ米大統領は3日夜、ツイッターに「気分が良くなってきた」とするビデオを投稿した。
 3日、米軍医療施設の医師団は、症状は改善していて、順調にいけば現地時間の5日にも退院する可能性があるという見方を示したが、2日に酸素吸入をしたことやステロイド剤Dexamethasoneも投与したことも新たを明らかにした。感染後、一晩で高熱が出て症状は重篤化していた可能性がある。同氏の容体をめぐっては公式発表の透明性を疑問視する声もあり、混乱が広がっている。
 メドウズ大統領首席補佐官は入院直後、ホワイトハウスの記者団に「過去24時間のバイタルサインは心配な数値で、今後48時間が峠になる。はっきりとした完治の見通しは立っていない」と語った。(CNN 10月4日)

米大統領、リジェネロンとイーライリリーのコロナ治療薬の緊急使用認める意向
 10月8日、トランプ米大統領は7日、ツイッターに投稿したビデオで、自身の新型コロナウイルス感染症からの回復を助けたとして、米リジェネロン・ファーマシューティカルズと米イーライリリーの新型コロナ治療薬の効果を絶賛し、これらの薬の緊急使用を認める考えを示した。
 トランプ氏は「(薬の投与後)すぐに気分が良くなった」とし、「リジェネロンとイーライリリーから薬が開発されており、われわれはこれらの緊急使用を認可しようと努めている。私がそれを認めた」と語った。
 新型コロナウイルスに感染したトランプ米大統領が米リジェネロン・ファーマシューティカルが開発中の「抗体カクテル」を使った治療を先週受けたとのニュースが広まる中、病院関係者によると、同治療薬の治験参加への問い合わせが増えている。
 医療専門家は、同治療薬の広範な使用を認める前に、さらなるデータを入手し、有効性を検証する必要があると指摘している。
 トランプ氏は5日遅くに、ワシントン郊外の米軍医療施設を退院。コロナ感染が判明してからわずか数日後だった。一時は肺が炎症を起こし、血中酸素濃度が低下していた。
 ホワイトハウス専属医によると、5日の血液検査で、トランプ大統領が新型コロナの抗体を持っていることが分かった。リジェネロンの広報担当者は、治療によるものである可能性が高いと述べた。
 トランプ氏はホワイトハウスの外で撮影した動画で、リジェネロンの治療薬のおかげで体調がかなり良くなったと強調。他のコロナ治療薬を含め、緊急使用を認可するよう働き掛ける考えを示した。

 リジェネロンは、2つの単クローン抗体を合わせた抗体カクテルの緊急使用認可について米食品医薬局(FDA)と協議していると明らかにした。同社はこれまでのところ治療薬の有効性を示す初期データの一部のみを公表しており、医療関係者は、トランプ氏への使用や同氏の働き掛けによって規制当局に圧力がかかる可能性があると懸念している。

 リジェネロンとイーライリリーの抗体治療薬の治験が行われているヒューストン・メソジスト病院のダーク・ソストマン博士は、治験参加を求める患者が増えていると述べた上で、さらなるデータが公表されるまでは使用対象を拡大することに慎重な立場を示し、トランプ氏が推進する国産技術で治癒したという政治的状況を踏まえると「規制当局に圧力がかかるだろう」と懸念を示した。

 米国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長は5日、CNNに対し、トランプ氏の回復にレジェネロンの治療薬が寄与したという見方に「非常に懐疑的」だと述べた。「治療薬の有効性を示す多くの治験が行われるまで、それは証明できないのは明らかだ」とした。
 リジェネロンの広報担当アレクサンドラ・ボウイ氏は電子メールで「この治療薬の効果を最も得られるのは、トランプ氏と同様に、検知不能な抗体が基礎にあり、感染の初期段階にある患者だとみられる」とした。
 同社は2つの抗体を合わせた抗体カクテルの最大30万回投与分について政府から4億5000万ドルの助成金を受けており、この量は無料で供給する計画をこれまでに明らかにしている。
(Reuters 10月7日)

密多発、マスクなしも横行… コロナ危険地帯のホワイトハウス
 10月3日、AFPは「コロナ危険地帯のホワイトハウス」と題して、新型コロナウイルスに無防備なホワイトハウスの現状を伝えた。

 室内には人々が密集し、人の出入りが激しく、“ボス”はマスクをする人を好まない──。新型コロナウイルスに感染したドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が住むホワイトハウス(White House)は、そんな場所だ。
 トランプ氏がメラニア(Melania Trump)夫人とともに新型ウイルス陽性となったことが2日未明に明らかになると、職員らは接触者の特定と検査に追われた。だがそれは容易な作業ではない。

■選挙集会
 トランプ氏は、再選をかけた11月の大統領選に向け、選挙集会の開催を増やしていた。会場には数千人が密集し、参加者らは多くの場合、マスクを着用していなかった。
 最後の集会は9月30日、ミネソタ州で開催。トランプ氏はその際、翌日に新型ウイルス陽性が判明した側近のホープ・ヒックス(Hope Hicks)氏を伴っていた。
 選挙集会の多くは屋外で開催されているものの、トランプ氏は先週、フロリダ・ジョージアの両州で数百人の支持者との室内イベントを開いていた。

■ホワイトハウス
 ホワイトハウス内には小さな執務室や廊下が入り組んで配置されており、典型的な政府庁舎ではなく、政府利用のため改築された大邸宅のような建物となっている。
 大統領執務室(Oval Office)でさえもある程度の人数が入ればすぐ密集状態となる上、職員用「オフィス」の多くもアルコーブ(壁面に作られたくぼみ)に机1台を押し込んだような小部屋にすぎない。
 ホワイトハウスに勤務する職員は400人近く。これに加え、ジャーナリストらが手狭な記者室に詰めている。記者らはマスク着用を厳守する一方、職員の大半はマスクを着用していない。
 トランプ氏はしばしば、マスク着用をやゆし、自身は検査を頻繁に行っているから安全だと述べていた。ただ、トランプ氏の検査頻度もはっきりしていない。
 ケイリー・マケナニー(Kayleigh McEnany)大統領報道官は7月、トランプ氏は「1日に複数回」検査を受けていると説明。一方でトランプ氏はこれとは食い違う説明をし、「平均で2~3日に1回」とした。

■飛行機、ヘリ、自動車
 ホワイトハウス以上に密なのが、大統領専用機の「エアフォース・ワン(Air Force One)」や専用ヘリコプター「マリーンワン(Marine One)」、そして専用車「ザ・ビースト(The Beast)」だ。いずれも、同乗者は腕を伸ばせば大統領に届く距離にまで近づく。
 トランプ氏は先月29日、民主党の大統領候補ジョー・バイデン(Joe Biden)前副大統領との初の討論会に出席するため、オハイオ州クリーブランド(Cleveland)に空路で移動。この時ヒックス氏も同じ機内にいた。翌日、ミネソタ州に再び空路で移動した際も、両者は同じ機内にいた。この際ヒックス氏は、機内が非常に狭いマリーンワンにも短時間ながらトランプ氏と同乗している。
 米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)によると、ヒックス氏が体調を崩したのはミネソタ州から戻るエアフォース・ワン内で、同機上で自主隔離に入った。

■討論会
 トランプ氏はこれまで頻繁にマスク着用の重要性を軽視したり、着用する人を冷やかしたりして、物議を醸してきた。その姿勢は、先月29日の大統領候補討論会でも浮き彫りとなった。
 トランプ氏の家族と側近らはマスクを着けて会場入りしたが、到着後はマスクを外した。トランプ氏側の参加者らは、医師が配ろうとしたマスクの受け取りを拒否したとも伝えられている。
 また、トランプ氏が数日前に行った討論会準備に参加したクリス・クリスティー(Chris Christie)前ニュージャージー州知事は、「準備中は部屋の誰もマスクを着けていなかった」と説明。部屋には5~6人がいたと述べている。
(出典 AFP 10月3日)


BBC NEWS 10月7日

トランプ氏、新型コロナウイルス感染 「軽い症状」
 10月2日未明(日本時間2日午後)、トランプ米大統領(74)は、自身と妻のメラニア氏が新型コロナウイルスの検査で陽性になったと、ツイッターで明らかにした。ホワイトハウスで療養する予定で執務も続けるという。ただ、11月の米大統領選を控え、選挙活動に影響が出るのは必至で、容体が悪化すれば政権運営への影響が懸念される。
 トランプ氏は1日夜、側近のヒックス大統領顧問が陽性となり、自身も検査を受けていたとツイート。その約2時間後、自らも陽性になったことを公表し、「我々は隔離と回復をすぐに始める。一緒に乗り越える!」とツイートした。AP通信はホワイトハウス関係者の話として、「軽い症状」が出ていると伝えた。ホワイトハウスが公開したトランプ氏の主治医の書簡によると、トランプ夫妻の容体は「現段階で良好」という。ペンス副大統領の報道官は2日朝、副大統領夫妻が検査の結果陰性だった、とツイートした。
 ヒックス氏は9月29日にオハイオ州で開かれた大統領候補の討論会で同行し、30日も選挙集会のため、ミネソタ州まで一緒に移動した。米メディアによると、ヒックス氏はミネソタ州で体調不良を訴えた。討論会では民主党のバイデン前副大統領(77)もトランプ氏と壇上で並んでおり、検査の必要性が指摘されている。
 トランプ氏はこれまで、新型コロナについて「(ウイルスは)奇跡のように消える」「99%無害」などと過小評価する発言を繰り返してきた。一方、マスク着用には難色を示し、数千人規模の選挙集会を繰り返し開催してきた。29日の討論会では、バイデン氏を「彼のようにマスクは着けない。見ると、いつもマスクを着けている」と揶揄(やゆ)していた。
 各国トップではこれまで、英国のジョンソン首相やブラジルのボルソナーロ大統領らが感染している。


式典の前方に座っていた人たちの感染が相次ぎ発覚している BBC NEWS 10月10日
「スーパースプレッダー・イベントだった」 ファウチ博士が批判



新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~

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オックスフォード大 アストラゼネカ AstraZeneca 抗体とT細胞の「二重防御」 ChAdOx1 nCov-19 AZD1222

2020年10月24日 07時58分07秒 | 新型コロナウイルス




Oxford COVID-19 vaccine to begin phase II/III human trials  出典 Oxford University

オックスフォード大/アストラゼネカ ワクチン 抗体とT細胞の「二重防御」の可能性 飛躍的進歩か
 7月15日、英オックスフォード大学とAstraZenecaが開発中の新型コロナウイルスワクチン、ChAdOx1 nCov-19の第1相臨床試験で、前向きな暫定結果が近く報告されるもようだ。英ITVの政治エディター、ロバート・ペストン氏が情報源を示さずに報じた。 第1相臨床試験は今年4月、英国国内で500人の治験者を対象に行われた。
 それよると、ワクチンは期待通りある種の抗体を生成させると共に、T細胞の応答も見られたとした。
 ただ、有効性が適切に実証されるには、ブラジルで進行中の大規模な第3相試験の結果を待つ必要があるという。
 新型コロナワクチンでオックスフォード大と提携するアストラゼネカは、この報道を受けて一時5%高と急伸。このワクチンはすでに臨床試験の最終段階に入っており、同社はこれまで、9月にも提供を開始できる可能性があるとの見方を示していた。
 同社の担当者はコメントを控えた。
 一方、7月15日、英紙テレグラフは、関係者筋の情報として、ChAdOx1 nCov-19の第1相臨床試験で、抗体と「キラーT細胞」の生成が認められ、ウイルスに対して「二重防御」をもたらして、ワクチン開発はブレークスルー(飛躍的進歩)を成し遂げた可能性があるとしていると報じた。
 オックスフォード大は、治験ボランティアから採取した血液サンプルから、抗体だけでなく「キラーT細胞」がヒトの体内に生成したこと確認としている。 「キラーT細胞」は、Covid-19を攻撃してヒトへの感染を阻止する働きをする。
 今週初め、英キングスカレッジ大(King’s College University)が公表した調査によると、Covid-19から回復した人の抗体は感染後3週間でピークに達し、2~3か月以内に消滅するとした。一方、16日にネイチャー誌に発表された研究では、2003年にSARSに感染した患者から検出されたT細胞が、17年間経った今も、依然として強力な量で循環していることが報告されている。
 ヒトの体内で何年も循環し続けることが可能性があるT細胞の生成が認められたことで、ワクチンの長期間の有効性に期待感が生まれている。
 しかし、関係筋は、結果は「非常に有望である」が、ChAdOx1 nCov-19がCovid-19に対する長期にわたる免疫を提供することをまだ証明していないことを警告した。



ChAdOx1 nCov-19 


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トランプ大統領 新型コロナに感染




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新型コロナウイルス 血漿療法 回復者の血漿療法

2020年10月09日 12時01分43秒 | 新型コロナウイルス



新型コロナの回復期血漿療法、米FDAが緊急使用許可
 8月23日、米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナウイルス感染症患者の回復期血漿を使った治療法に関する緊急使用許可を発表した。同治療法について判明している潜在的メリットの方が、潜在的リスクを上回るとしている。
 FDAによると、これまでに7万人以上の患者が、新型コロナウイルス感染症から回復した人の血液を利用した血漿治療を受けてきた。
 ホワイトハウスで記者会見したトランプ大統領は、「チャイナウイルスとの闘いにおいて真に歴史的な発表を行う。これで無数の命が救われる」「致死率が35%も低下することが証明されている。驚異的な数字だ。これで多くの命が救われる」と強調した。
 FDAは3月末の時点で、研究者が回復期の患者の血漿を使った試験的な治療をできるようにしており、既に新型コロナウイルス患者7万人以上に対してこの治療法が使われている。

◆ 血漿療法とは
 血漿療法は、新型コロナウイルスから回復した人の血液を採取して、血液の55%を占めているのが血漿成分を機械で分離。血漿には、ウイルスを攻撃する「抗体」が含まれ、血漿を直接、患者に投与することで、患者の体内に抗体を生成させるという治療法である。
 中国では、血漿療法はすでに公式に認められている治療法の一つで、臨床研究では酸素投与が必要だが、人工呼吸器までは必要ではない中等症の患者に有効性があるとしている。発症してからなるべく早く投与することで、重症化の阻止に繋げられる可能性があるとされている。
 また日本をはじめ、各国でも研究が進められている。
 日本では、国立国際医療研究センターなどのグループが、回復した人の血液約40人分を採取して、冷凍保存をし、臨床研究の開始の備えて準備を進めている。
 ウイルスや細菌に感染すると、血液中の白血球の一種である免疫細胞が抗体を生み出す。抗体は「免疫グロブリン」というたんぱく質で、ウイルスに対しては結合して無力化したり、感染した細胞の破壊を促したりする。血液の上澄みの血清や血漿にはこの抗体が含まれ、別の感染者に投与すると治療効果がある。日本の近代医学を築いた北里柴三郎とドイツの医学者エミール・ベーリングが1890年に破傷風とジフテリアで初めて開発し、ベーリングは第1回ノーベル医学生理学賞を受賞した。

◆ 血漿療法の問題点 
(1) 血漿中の抗体量が不明
 血漿療法の問題点の一つは、新型コロナウイルスから回復した人から採取した血漿中に、中和抗体がどの程度あるのか測定できないままにで、臨床試験が行われていることだ。中和抗体の力価不明のまま、その時入手できた血漿を1単位(200mL)以上投与するというやり方で行われている。
 最新の研究では、血漿を提供した回復期患者の血漿中の抗体(特に中和抗体)のレベルは患者ごとに大きく異なり、血漿中にほとんど抗体が検出されていないにもかかわらず、回復する患者がいることが明らかになっている。多様な重症患者に、中和抗体の力価不明のまま(中にはほとんど抗体が含まれないまま)に投与しても血漿療法の効果は分からない。

 (2)血漿を使用するというリスク
 最大の問題は、新型コロナウイルスから回復した人の血漿を使用するというリスクである。
 血漿療法は、輸血と基本的には同じなので血液型の適合が必須となる。
 また人の血漿には未知の病原菌が潜み、別の感染症が発症する懸念やアレルギー反応や肺障害などの副作用が起きる可能性があるとされている。また、患者の症状回復に本当に効果があるのか、逆に症状を悪化させる可能性はないのか、安全性の確認検査は慎重に行うことが必須である。 次に新型コロナウイルス感染症から回復した人の血漿を大量に確保するのは不可能である。重篤な患者など極めて限定的な治療法に留まる。

(3)  血漿の供給量
 問題はドナーを必要とする血漿の供給量は限られているである。
 国立国際医療研究センターでは、十分に抗体があると確認された回復者から、献血と同じ量の400ccの血液を提供してもらい、血漿を分離して冷凍保存して、後に点滴して投与することを想定している。

◆ 血漿療法のデータは脆弱
 血漿療法については、一部では有望な兆候が見られるが、多数の患者を対象とした二重盲検でのデータは存在せず、まだ臨床試験が進行中だ。
 米紙ニューヨーク・タイムズが複数の政府高官の話として19日に伝えたところによると、FDAの緊急使用許可に対しては、米国立衛生研究所(NIH)の当局者が介入して待ったをかけていた。NIHのコリンズ所長や、米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長などは、この治療法に関して浮上したデータはあまりにも弱すぎると指摘していた。

◆ WHO 血漿療法の緊急使用に慎重な見方
 一方、8月24日、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症から回復した人の血漿療法の効力を裏付ける確証は依然不十分として、同療法の緊急使用に慎重な見方を示した。
 WHOの主席科学者は、血漿治療が有効であることを示す臨床試験データは限られており、決定的でないと指摘。「現時点で示されている証拠の質は依然低い」とし、「血漿治療は実験的治療で、引き続きしっかりと計画された無作為化の臨床試験で評価される必要がある」と述べた。
 WHOのシニアアドバイザーも、血漿治療は軽度の発熱から重度の肺損傷や循環過負荷まで「多くの副作用を伴う」と警鐘を鳴らし、「臨床試験の結果が極めて重要だ」と強調した。

検証 回復期血漿療法
 血漿とは、血液から赤血球などの血球成分を取り除いたもので、さまざまな抗体が含まれる。そこで、感染症から回復した者の回復期血漿を患者に投与して、病原体の撃退に役立てようとする治療法である。
 1918年のスペインかぜ以来、医療関係者は血漿療法で感染症と闘ってきた。
 しかし、新型コロナの回復期血漿療法に関しては、もう何カ月も前から世界で70以上の臨床研究が行われているにも関わらず、重症患者への有効性はいまだに確認されていない。

◆ 承認を急いだFDA
 FDAの決定は、主に米ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックが8月に発表した臨床試験の暫定的な結果に基づいている。それによると、入院から3日以内に血漿療法を受けた患者の死亡率が、3.2%低下したという。ただし、この論文はまだ専門家による査読を受けていない。
 7月30日、メイヨー・クリニックのマイケル・ジョイナー氏の研究チームは、査読前の論文を公開するサイト「MedRxiv」に複数の小規模治験の結果をまとめた総説論文を投稿し、新型コロナ患者への回復期血漿療法の有効性が示唆されると結論付けた。FDAも、同じ治験と研究、そしてより広範囲なメイヨー・クリニックの「コンパッショネートユース(人道的使用)」の結果を引用して、緊急承認を決定したとしている。
 メイヨー・クリニックのプロジェクトは、回復期血漿療法の開発の道筋を、通常の十分に臨床試験と合わせて、命に関わる重症患者へ例外的に未承認薬を投与する「コンパッショネートユース」のスキームを使用した。

 血漿療法の治験には数百万ドルの連邦予算が投じられ、何万という患者を対象に実施されているが、大きな欠陥がある。メイヨー・クリニックが実施した治験には、治療の効果を比較するプラセボ(偽薬)対照群が存在していないことだ。回復期血漿療法の効果は依然としてエビデンスが認められていない。

◆ 「コンパッショネートユース」とは
 欧米では、「Expanded Access Program」あるいは「Compassionate use」 制度として、代替治療薬の存在しない致死的な疾患等の治療のために人道的見地から未承認薬の提供を行う制度を整備している。
 米国では、①利益がリスクを上回る、②有効性及び安全性が確認されているという根拠(過去の治験実績等)を条件して、さらに治験患者数に応じて厳しくなる実施条件を課している。患者個人ベースではベネフィットがリスクを上回ること、少数のCohort(グループ)では最低限の治験成績、大人数のCohortでは全ての治験が終了し、申請が計画されることが条件になっている。
 日本では、「日本版コンパッショネートユース」を掲げて、「拡大治験」スキームを創設した。この制度では、欧米の制度と同様に、生命に重大な影響がある重篤な疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない未承認又は適応外の治療薬の使用を条件付きで認めた。
 対象は国内開発の最終段階である治験実施中か、終了後の未承認新薬である。
 日本では「人道的見地から実施される治験」を「拡大治験」として定義してルール化したが、あくまで「治験」の枠組みの中のスキームとしている。

◆ 肥大化した「コンパッショネートユース」
 ところが今、米国ではこの「コンパッショネートユース」が当初の予想以上に大きくなりすぎて問題が発生している。本来の臨床試験が二の次になり、予算やインフラの不足で、臨床試験の遅れが発生してことである。
 「WIRED」の2020年8月21日付けの記事によると、米国でのコンパッショネートユースは急速に拡大し、2700以上の病院で実施されているが、そのうちの一部は臨床試験の十分な仕組みもノウハウも持ち合わせていないという。メイヨー・クリニックだけでも、入院患者への回復期血漿の使用に保健福祉省から4800万ドル(約50億円)の予算を受けていた。
 「あまりの人気ぶりに、魔法の治療薬という印象を与えてしまっているが、それは正確ではない。全ての非無作為化試験で期待できる兆候がみられるものの、まだ自信をもって効果があるとは言えない、というのが現状だ」と、米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターの感染症の専門家ミラ・オルティゴーザ氏は話す。
 本来であれば、大規模な治験を行い、無作為に分けられた被験者が本物の治療薬かプラセボ(偽薬)のどちらかを投与されてその結果を比較する。だが今のところ、世界では治験の規模が小さいか、あるいはメイヨー・クリニックのように対照群のない観察研究しか行われていない。対照群なしには、患者が自力で回復したのか、血漿なしでも結果は同じだったのかを知ることはできない。
 「率直に言って、回復期血漿療法を受けた数万人の患者が、それによって回復したのか、悪くなったのか、それとも全く変わらなかったのか、最終的に判断のしようがない」と、英国の治験を率いる1人である英オックスフォード大学心臓学教授のマーティン・ランドレー氏は言う。
 回復期血漿療法が、新型コロナウイルスの治療法に、本当に効果があるのか、まだ確認ができていない。
(出典 ナショナルジオグラフックス On-Line 2020年8月26日 「人道的見地から実施される治験」厚生労働省 医薬・生活衛生局 審査管理課)





新型コロナウイルス 治療薬・ワクチン 開発最前線 ~レムデシベル アビガン モデルナ オックスフォード大学/アストラ・ゼネカ Johnson & Johnson臨床試験 勝者は誰が?~

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レムデシビル1人25万円 ギリアド社が価格公表

レムデシビル 投与期間 5日間と10日間で大差なし 効果は限定的か

米FDA、「レムデシビル」のコロナ向け緊急使用を承認

レムデシビル 薬事承認 厚労省

レムデシビル、米国では当初患者に十分行き渡らない見通し 患者への投与開始

レムデシビル、コロナ治療に「明確」な効果 米発表

レムデシビル ギリアド・サイエンシズ社[米国]


デキサメタゾン 抗炎症ステロイド剤 Dexamethasone コロナ治療薬に

ステロイド薬 デキサメタゾンでコロナ重篤患者の生存率向上、英国で使用開始へ

米FDA、抗マラリア薬の許可撤回 コロナ治療効果認められず



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アビガン 抗インフルエンザ薬 COVID-19の国産初の治療薬として有望視

2020年09月23日 11時15分15秒 | 新型コロナウイルス


抗インフルエンザ薬 アビガン COVID-19の国産初の治療薬として有望視
 アビガン(Avigan)(ファビピラビル Faviparavir)は、2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬である。しかし新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していないが、新型インフルエンザの流行に備えて国が200万人分を備蓄している。
 アビガン(ファビピラビル)は、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤である。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルス(COVID-19)もインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されている。
 2020年3月31日、アビガンの製造元の日本では富士フイルム富山化学は、CIVID-19を対象に第3相臨床試験を開始したと発表した。臨床試験登録サイトに掲載されている情報によると、対象は重篤でない肺炎を発症したCOVID-19患者約100人で、肺炎の標準治療にアビガン(ファビピラビル)を投与した場合の効果を検証する。

 4月18日、藤田医科大学の土井洋平教授は、日本感染症学会の緊急特別シンポジウムで新型コロナウイルス感染症にアビガンを投与したところ、投与開始14日後に重症患者の6割が改善、軽~中等症では9割の患者で改善が認められたと発表した。この発表は、全国約200医療機関が参加し、中等症から重症患者を中心に登録が進められている迅速観察研究を基にしたものだ。

◎観察研究の対象は、346例
 解析対象は、346例(男性:262例、女性:84例)。ファビピラビルに催奇形性の副作用が知られているほか、新型コロナウイルス感染症は男性の比率が高いことから、男性の登録が多いものとみられる。
 年齢は、50代が25%で最多。60代(22%)、70代(20%)、40代(13%)と、比較的高齢者を中心に投与されている。合併症は心血管疾患が30%、糖尿病が26%、慢性肺疾患(COPD)が14%、免疫疾患が6%で、いずれかを合併する患者は53%と半数超だった。体温は37.5度以上が55%、37.5度未満が32%だった。肺炎は両側性が83%、片側性が5%。「酸素飽和度(SpO2)≦90%または酸素投与」は60%、高齢者は30%、脱水は28%、意識障害は11%、収縮期血圧値≦90が1%で、重症患者が多く含まれた。

◎中等症は7日後に66%、14日後に85%改善
 ファビピラビル投与後の転帰を、主治医の主観で「改善」、「不変」、「増悪」にわけて評価した。軽症では投与開始7日後に70%、14日後には90%に改善が認められた。中等症では投与開始7日後では66%、14日後では85%だった。重症でも投与開始7日後に41%、14日後には61%が改善した。ただし、重症例では「悪化」が投与開始7日後で34%、14日後では33%だったとしている。なお、軽症は酸素投与がない患者、中等症は酸素は投与しているが機械換気がない症例、重症は機械換気がある症例と定義している。

◎有害事象 17%に発生 高尿酸血症が15人、肝機能値異常が12人
有害事象は解析した188人のうち、32人(17%)に発生。高尿酸血症が15人、肝機能値異常が12人だった。このほか、高ビリルビン血症、急性腎障害、吐き気、皮疹、薬剤熱が1人だった。

 なお、研究は日本医療開発研究機構(AMED)の研究開発課題で、中等症・重症患者における臨床経過の検討を目的に実施された。オンラインサーベイ形式で基礎疾患や肺炎の重症度、転帰を収集した。データクリーニングは行っていないという。

 土井教授は、症状改善の判断が医師の主観によるものであるほか、吸入ステロイドのシクレソニドなどとの併用療法も多く、またプラセボ群も置かれていないなど、観察研究の限界もあると指摘。治験や特定臨床研究が進行中であることを紹介し、さらなる検証が必要との考えを示した。
 また先行して医療機関主導の臨床試験が行われた中国では、アビガンの有効性が示されたとの結果が公表されている。
 アビガンは、新型コロナウイルスで発症した初期の患者に対して投与する症状の改善効果が大きいが、体内にウイルスが蔓延した重篤な患者に対しては効果が期待できないとされている。一方でアビガンは点滴薬ではなく錠剤なので、患者が容易に服用可能な薬だというメリットは、医療機関の負担軽減が可能になるなど極めて大きい。
 アビガンは国産の初のCOVID-19の治療薬として大きな期待が寄せられている。
 富士フイルム富山化学は国内外の10社以上の企業と連携して、アビガンの増産に着手しており、7月には月間約10万人分(3月上旬との比較で約2.5倍)、9月には月間30万人分(同約7倍)、10月以降には40万人分を生産する計画で、年度内には200万人分の納品を完了したいとしている。
 国内で唯一、アビガンの原料であるマロン酸ジメチルを生産しているデンカは、日本政府からの要請を受けて5月から生産を再開する予定で、カネカもアビガンの原薬供給を7月から開始させる。
 「アビガン」は、海外各国から治療薬として期待が集まり、外務省では、日本からの無償供与を希望する国が80か国にのぼり、このうちオランダやフィリピンなど43か国に、ゴールデンウイーク明けにも国際機関を通じて供与が行われる見通としている。
 茂木大臣は「海外で行われた臨床のデータは、日本にも提供してもらう。感染症の沈静化に向けて治療薬の開発は極めて重要であり、開発における官民の取り組みの強化と国際協力を一層進めていきたい」と述べた。
 一方、白鷗教授(感染症学)の岡田晴恵氏は、TBSサンデーモーニング(5月3日放送)で、「アビガンは感染初期で、ウイルスが増殖しない内に使用すると効果がある。 またアビガンは錠剤なので、患者に渡して自分で服用してもらうことで、患者の重症化を早期に防ぐと共に医療関係機関の負担を軽減させることが可能になる。病院のベットやICUなどの医療機器の数を確保して医療崩壊を防ぐためにもアビガンの早期承認が求められる」と述べた。
 アビガンは、現在、最終段階の第三相臨床試験を実施中で、その結果が待たれる。






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