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東京オリンピック 開催費用 小池都知事 開催経費 負の遺産 負のレガシー

2023年03月25日 16時05分54秒 | 東京オリンピック
“もったいない”
五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告


大会経費総額1兆6440億円  V5公表
 2020年12月22日、東京2020大会組織委員会と東京都は、新型コロナウイルスの影響で来夏に延期された大会の開催経費を総額1兆6440億円とする予算計画第5版、「V5」を公表した。昨年末公表した1兆3500億円に、延期に伴って新たに必要となった2940億円を加えたものである。
 支出については、会場整備費では、会場使用料や仮設設備の一時撤去・再設置など「仮設等」に関する費用の増加額が最も多く、730億円増、計3890億円となった。
 大会運営面では選手村の維持管理や競技用備品の保管など「オペレーション」費用が540億円増で計1930億円、事務局の人件費など管理・広報費が190億円増、輸送費が130億円増となっている。
 今回新たに計上されたコロナ対策費は960億円で、東京都が400億円、国が560億円を負担することになった。
 一方、収入増は910億円を見込み、その内訳は増収見込みの760億円と収支調整額の150億円。増収見込みの760億円のうち、500億円は不測の事態に備えて加入していた損害保険で、大会スポンサーの追加協賛金や寄付金などが260億円である。収支調整額の150億円は、組織委員会が賄いきれない費用について東京都が負担するもので、すでに組織委員会と東京都で合意されている。
 大会経費における実際の負担額は組織委が7060億円、都が7170億円、国が2210億円に膨らんだ。
 チケット収入については、コロナ感染対策を踏まえて決定される観客数の上限が来春まで決まらないことから、前回と同じ900億円で据え置いた。
 組織委によると、国際オリンピック委員会(IOC)の負担金は850億円で変わらないが、IOCがスポンサーの追加協賛金に対するロイヤリティーを放棄した分は組織委員会収入の760億円の増収見込みの中に計算されている。また国際オリンピック委員会(IOC)はマラソン・競歩の札幌移転に伴う経費として20億円弱を負担するが、これもV5には織り込み済としている。
 また焦点の開閉式については、大会延期に伴い、電通と締結している開閉会式の制作など業務委託契約の期間延長も承認。式典は簡素化を図りながらもコロナ禍を踏まえたメッセージを演出内容に反映するする内容に変わるが、延期に伴う人件費や調達済資材の保管料などの経費増や演出内容の見直しに伴う経費増で、予算の上限額を35億円増の165億円に引き上げた。開閉会式の予算増額は今回で2度目、招致時では91億円を見込んだが、演出内容の具体化に伴い昨年2月に130億円まで引き上げた。2012年ロンドン大会の開閉会式の経費は160億円といわれ、東京2020大会はこれを上回る史上最高額となる。
 1年延期に伴う開催経費増は約3000億円、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収まる気配がない中で、さらに巨額の資金を投入することに対して、都民や国民の納得が得られるかどうか疑念が大きい。「人類がウイルスに打ち勝った証し」を掲げるだけでは最早、前には進めない。開催を可能にする条件として競技数や参加選手数の削減、開閉会式な大胆な簡素化など大会規模の縮小が必須だろう。まだ時間はある。










出典 TOKYO2020

五輪追加経費2940億円で合意 都が1200億円、国は710億円、組織委は1030億円を負担
 2020年12月4日、1年延期された東京五輪・パラリンピックの追加経費について、大会組織委員会の森喜朗会長、東京都の小池百合子知事、橋本五輪相が4日、都内で会談し、総額2940億円とすることで合意した。都が1200億円、組織委が1030億円、国が710億円を負担する。これにより、東京大会の開催経費は、昨年末の試算から22%増の1兆6440億円となった。
 追加経費は、延期に伴う会場費や組織委職員の人件費など大会開催経費、1710億円と新型コロナウイルス対策費の960億円のあわせて2940億円。
 大会開催経費の追加経費1710億円の分担をめぐっては、延期前に3者が合意していた費用分担の考え方を基本としたうえで、組織委員会が収入を増やしてもなお足らない約150億円については東京都が肩代わりをして補填するとし、東京都は800億円を負担することになった。国はパラリンピックの経費など150億円を拠出する。
 一方、組織委は、大会中止に備えて掛けていた損害保険の保険金やスポンサーからの追加の協賛金を原資とした760億円に、不慮の事態に備えてすでに計上していた予備費270億円を加えた1030億円を負担する。

 コロナ対策費については、国と都が負担することし、国は選手の検査体制の整備にかかる費用を全額負担し、残り対策費については国と都が折半することで一致した。負担額は国が560億円、都が400億円、合計960億円を支出する。
 選手の検査体制の整備や組織委員会に設置する「感染症対策センター」などの経費は、大会の感染症対策の中心的な機能を果たすことから国が全額負担することになった。
 さらに、国は空港の検査などの水際対策やホストタウンへの支援を、560億円とは別に、各省庁で予算化するとしている。
 結局、国は延期費用の2割超の計710億円を負担することになり、関係者は「期待以上に国が出してくれる。納得できる額だ」とした。
 国が負担増に踏み切った背景には、大会開催後、外国からの観光客の受け入れを再開し、経済再生につなげたいという思惑があるという。
 政府関係者は「延期経費を巡って都と争えば、開催の機運そのものがしぼみかねない。迅速に合意する必要があった」と語り、大会開催への意気込みを示した。

 1030億円を負担する組織委は、すでに予算化されている予備費、270億円や、延期に伴う保険金、追加協賛金などで賄う。
 保険金については、大会が中止になった場合に備え加入していた限度額500億円が、保険会社と協議した結果、延期に要する費用として支払われることになった。
 スポンサー収入については、大会の延期が決まったあとから、追加協賛金の要請を行い、一定の追加収入は見込めることになったという。
 また、組織委員会が契約上、IOC=国際オリンピック委員会に支払うことになっているスポンサーからの協賛金の7.5%のロイヤリティが、3日、バッハ会長と協議した結果、追加協賛金については免除となったことも貢献している。
 しかし、組織委員会の収入の柱である追加協賛金について、スポンサーの協力が得られて十分に集められるかを懸念が大きく、また900億円を見込んでいるチケット収入がコロナ対応で先行きが不透明で、コロナ禍で財政状況が悪化にした東京都のこれ以上の支援も難しく、組織委員会の苦境は続く。
 今回の合意を受けて、組織委員会では12月末に全体の開催費予算、V5を公表するとしている。


出典 TOKYO2020

五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)



検証 「1年延期」 東京五輪大会 新型コロナウイルス感染拡大 破綻「3兆円のレガシー」


竣工した国立競技場 筆者撮影




1兆3500億円を維持 組織委予算 V4
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。

 一方、2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費=約8100億円や組織委員会経費=1兆3500億円を加えると、「五輪開催経費」は優に「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。


出典 2020東京五輪大会組織委員会


五輪関連支出、1兆600億円 会計検査院指摘 五輪開催経費3兆円超へ

 2019年12月4日、会計検査院は2020年東京五輪・パラリンピックの関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめ、国会に提出した。この中には政府が関連性が低いなどとして、五輪関連予算に計上していない事業も多数含まれている。検査院は、国民の理解を得るためには、「業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表に努めるべき」とし、「大会終了後のレガシーの創出に努めること」と指摘した。

 今回は二回目の報告で、2018年10月に、会計検査院は政府の2020東京五輪大会についての「取組状況報告」に記載された286事業を調査して初めて「五輪関連経費」の調査結果を明らかにして、2017年度までの5年間に国は約8011億円を支出したと指摘している。しかし、大会組織委員会が公表したV3予算では国の負担額は約1500億円、その乖離が問題になった。

 今回、会計検査院が指摘した大会関連支出額は、前回指摘した8011億円から2018年度の1年間で約2580億円増え、約1兆600億円になったとした。
 大会組織員会では、2018年12月、総額1兆3500億円のV3予算を明らかにしている。それによると、大会組織委員会6000億円、東京都6000億円、国1500億円とし、1兆3500億円とは別枠で予備費を最大3000億円とした。予備費も含めると最大で1兆6500億円に達する。
 これに対して、東京都は、V3予算の「大会開催費」とは別に「五輪開催関連経費」として約8100億円を支出することを明らかにしている。
 これらを合計すると、すでに「五輪関連経費」の総額は3兆5200億円となり、「約3兆円」を優に上回ることが明らかになった。

 これに対して、五輪大会の運営を所管する内閣官房大会推進本部は会計検査院から指摘された8011億円について、大会への関連度を3段階で分類し、Aは「大会に特に資する」(約1725億円)、Bは「大会に直接資する金額を算出することが困難」(約5461億円)、Cは「大会との関連性が低い」(約826億円)と仕分けし、「五輪関連経費」はAの約1725億円だけだと反論し、残りの「B・C分類」は本来の行政目的の事業だとして、五輪関連経費とは関係ないとした。
 その後2019年1月、内閣官房大会推進本部は、新たに約1380億円を「五輪関連経費」と認め、新国立競技場の整備費など約1500億円を加えた約2880億円が国の「五輪関連経費」の範疇だとした。
 しかしそれにしても会計検査院が指摘した1兆600億円との隔たりは大きい。

 1兆600億円の内訳は、約7900億円が「大会の準備や運営経費」として、セキュリティー対策やアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れ、暑さ対策・環境対策、メダル獲得にむけた競技力強化などの経費で占められている。この内、暑さ対策・環境対策が最も多く、2779億円、続いてアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れが2081億円となっている。
 2018年度はサイバーセキュリティー対策やテロ対策、大会運営のセキュリティ対策費の支出が大幅に増え、2017年度の倍の約148億円に上った。
 また今回も公表されていない経費が明らかになった。警察庁が全国から動員する警察官の待機施設費用として約132億円が関連予算として公表していなかったと指摘した。
 さらに会計検査院は大会後のレガシー(遺産)を見据えた「大会を通じた新しい日本の創造」の支出、159事業、約2695億円を「五輪関連経費」とした。
 被災地の復興・地域の活性化、日本の技術力の発信、ICT化や水素エネルギー、観光振興や和食・和の文化発信強化、クールジャパン推進経費などが含まれている。
 こうした支出はいずれも政府は「五輪関連経費」として認めていないが、政府予算の中の位置づけとしては「五輪関連予算」として予算化されているのである。
 問題は、「五輪便乗」予算になっていないかの検証だろう。東日本大震災復興予算の使い方でも「便乗」支出が問題になった。
 本当に次世代のレガシーになる支出なのか、「五輪便乗」の無駄遣いなのかしっかり見極める必要がある。

 その他に国会に報告する五輪関連施策に記載されていないなどの理由で非公表とされた支出も計207億円あったという。検査院はオリパラ事務局を設置している内閣官房に対し、各府省から情報を集約、業務内容や経費を把握して公表するよう求めた。
 内閣官房は「指摘は五輪との関連性が低いものまで一律に集計したものと受け止めている。大会に特に資する事業についてはしっかりと整理した上で分類を公表していきたい」としている。






出典 会計検査院



「レガシー経費」は「五輪開催経費」
 国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市に対して、単に競技大会を開催し成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求め、開催都市に対して、レガシー(Legacy)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けている。
 五輪大会は、一過性のイベントではなく、持続可能なレガシー(Legacy)を残さなければならないことが開催地に義務付けられていることを忘れてはならない。
 レガシーを実現する経費、「レガシー経費」は、開催都市に課せられた「五輪開催経費」とするのが当然の帰結だ
 政府は「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(Bカテゴリー)は「五輪開催経費」から除外したが、事業内容を見るとほとんどが「レガシー経費」に入ることが明らかだ。
 気象衛星の打ち上げ関連費用も首都高速などの道路整備費も水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費も、ICT化促進や先端ロボット、自動走行技術開発、外国人旅行者の訪日促進事業、日本文化の魅力発信、アスリート強化費、暑さ対策、バリアフリー対策、被災地の復興・地域活性化事業、すべて2020東京大会のレガシーとして次世代に残すための施策で、明らかに「レガシー予算」、「五輪開催予算」の範疇だろう。被災地関連予算も当然だ。2020東京五輪大会は「復興五輪」を掲げているのである。
 一方で新国立競技場は「大会の準備、運営に特に資する事業」に分類し、「五輪開催経費」だとしている。しかし、国立競技場は大会開催時は、開会式、閉会式、陸上競技などの会場として使用されるが、その期間はわずか2週間ほどである。ところが新国立競技場は大会開催後、50年、100年、都心中心部の「スポーツの聖地」にする「レガシー」として整備するのではないか。 
 国の「五輪開催経費」仕分けはまったく整合性に欠け、開催経費を抑えるためにのご都合主義で分類をしたとしか思えない。五輪大会への関与の濃淡で恣意的に判断をしている。「レガシー経費」をまったく理解していない姿勢には唖然とする。
 通常の予算では通りにくい事業を、五輪を「錦の御旗」にして「五輪開催経費」として予算を通し、膨れ上がる開催経費に批判が出ると、その事業は五輪関連ではなく一般の行政経費だとする国の省庁の姿勢には強い不信感を抱く。これでは五輪開催経費「隠し」と言われても反論できないだろう。
 2020東京大会のレガシーにする自信がある事業は、正々堂々と「五輪開催経費」として国民に明らかにすべきだ。その事業が妥当かどうかは国民が判断すれば良い。
 東京都は、「五輪開催経費」6000億円のほかに、「大会に関連する経費」として、バリアフリー化や多言語化、ボランティアの育成、「大会の成功を支える経費」として無電柱化などの都市インフラ整備や観光振興などの経費、「8100億円」を支出することをすでに明らかにしている。国の姿勢に比べてはるかに明快である。過剰な無駄遣いなのか、次世代に残るレガシー経費なのか、判断は都民に任せれば良い。

 「3兆円」、かつて都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用の総額だ。今回の会計検査院の指摘で、やっぱり「3兆円」か、というのが筆者の実感だ。いまだに「五輪開催経費」の“青天井体質”に歯止めがかからない。

肥大化批判に窮地に立つIOC
 巨額に膨らんだ「東京五輪開催経費」は、オリンピックの肥大化を懸念する国際オリンピック委員会(IOC)からも再三に渡って削減を求められている。
膨張する五輪開催経費は、国際世論から肥大化批判を浴び、五輪大会の存続を揺るがす危機感が生まれている。
巨大な負担に耐え切れず、五輪大会の開催都市に手を上げる都市が激減しているのである。2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。
2014年、IOCはアジェンダ2000を策定し、五輪改革の柱に五輪大会のスリム化を掲げた。そして、2020東京五輪大会をアジェンダ2000の下で開催する最初の大会として位置付けた。
 「東京五輪開催経費」問題でも、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。「開催経費3兆円超」とされては、IOCは面目丸潰れ、国際世論から批判を浴びるのは必須だろう。
 こうした状況の中で、「五輪開催経費」を極力少なく見せようとするIOCや大会組織委員会の思惑が見え隠れする。
 その結果、「五輪経費隠し」と思われるような予算作成が行われているという深い疑念が湧く。
 V3「1兆3500億円」は、IOCも大会組織委員会も死守しなければならい数字で、会計検査院の国の支出「1兆600億円」の指摘は到底受け入れることはできない。
 「五輪開催経費」とは、一体なになのか真摯に議論する姿勢が、IOCや大会組織委員会、国にまったく見られないのは極めて残念である。

どこへ行った「コンパクト五輪」
 筆者は、五輪を開催するためのインフラ整備も、本当に必要で、大会後のレガシー(遺産)に繋がるなら、正々堂々と「五輪開催経費」として計上して、投資すべきだと考える。
 1964東京五輪大会の際の東海道新幹線や首都高速道路にように次の世代のレガシー(遺産)になる自信があるなら胸を張って巨額な資金を投資して整備をすれば良い。問題は、次世代の負担になる負のレガシー(負の遺産)になる懸念がないかである。また「五輪便乗」支出や過剰支出などの無駄遣いの監視も必須だろう。そのためにも「五輪開催経費」は、大会への関連度合いの濃淡にかかわらず、国民に明らかにしなければならい。
 2020東京五輪大会は招致の段階から、「世界一コンパクトな大会」の理念を掲げていた。大会の開催運準備が進む中で、開催経費はあっという間に、大会組織員会が公表する額だけでも1兆3500億円、関連経費も加えると3兆円を超えることが明らかになった。
 新国立競技場の建設費が3000億円を超えて、白紙撤回に追い込まれるという汚点を残したことは記憶に新しい。「錦の御旗」、東京五輪大会を掲げたプロジェクトの予算管理は往々にして甘くなる懸念が大きく、それだけに経費の透明性が求められる。
 2020年度の予算編成が本格化するが、まだまだ明るみに出ていない「五輪開催経費」が次々に浮上するに違いない。全国の警察官などを動員する史上最高規模の警備費やサイバーセキュリティー経費などは千億円台になると思われる。さらに30億円から最大100億円に膨れ上がるとされている暑さ対策費や交通対策費も加わる。一方、7道県、14の都外競技場の仮設費500億円は計上されているが350億円の警備費や輸送費(五輪宝くじ収益充当)、地方自治体が負担する経費は計上されていない。マラソン札幌開催経費もこれからだ。最早、「3兆円」どころか最大「4兆円」も視野に入っている。
 「コンパクト五輪」の理念は一体どこへ行ったのか。



東京都 五輪関連経費 8100億円計上
 2018年1月、東京都は新たに約8100億円を、「大会関連経費」として計上すると発表した。これまで公表していた「大会経費」の1兆3500億円、これで五輪開催経費は総額で約2兆1600億円に達することが明らかになった。
 「大会関連経費」の内訳は、バリアフリー化、や多言語化、各種ボランティアの育成・活⽤、教育・⽂化プログラムなどや都市インフラの整備(無電柱化等)、観光振興、東京・日本の魅力発信などである。
 問題は、膨張した五輪開催経費を削減するためのこれまでの東京都、国、組織委員会の取り組みが一瞬にして消え去ったことである。「コンパクト五輪」の約束は一体、どこにいったのだろうか。
 未だに明らかにされていない国の五輪開催経費も含めると3兆円は優に超えることは必至だろう。
 依然として五輪開催経費の「青天井体質」に歯止めがかからない。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

五輪開催経費(V3) 1兆3500億円維持 圧縮はできず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 2017年5月、IOCの調整委員会のコーツ委員長は10億ドル(約1100億円)の圧縮し、総額を1兆3000億円以下にすることを求めたが、これに対し大会組織委の武藤敏郎事務総長はV3ではさらに削減に努める考えを示していた。
 しかし開催計画が具体化する中で、金額が明らかになっていないためV2では計上していなかった支出や新たに生まれた項目への支出が増えたとして、「圧縮は限界」として、V2予算と同額にした。
 
 支出項目別で最も増えたのは組織委負担分の輸送費(350億円)で、選手ら大会関係者を競技会場や練習会場へ輸送するルートなどが決まったことで計画を見直した結果、100億円増となった。一方で、一度に多くの人が乗車できるよう大型車に変更するなど輸送の効率化も図ったとしている。
 また、交通費相当で1日1000円の支給が決まったボランティア経費増で管理・広報費は50億円が増え、さらに猛暑の中で食品を冷やし、安全に運ぶためのオペレーション費も50億円が増えて支出の増加は合わせて200億円となった。
 これに対して収入は、国内スポンサー収入が好調で、V2と比較して100億円増の3200億円となった。しかし、V2予算では、今後の増収見込みとして200億円を計上していたため、100億円の縮減となり、収支上では大会組織員会の収入は6000億円でV2と同額となっている。
 支出増の200億円については、新たな支出に備える調整費などを200億円削減して大会組織委員会の均衡予算は維持した。
 1兆3500億円の負担は、大会組織委員会と東京都が6000億円ずつ、国が1500億円とする枠組みは変えていない。
 しかし、酷暑対策費や聖火台の設置費、聖火リレーの追加経費、さらに今後新たに具体化する経費は盛り込まれておらず、今後、開催経費はさらに膨らむ可能性が大きい。組織委は今後も経費削減に努めるとしているが、「数百億円単位、1千億円単位の予算を削減するのは現実的に困難」としている。
 
 さらに問題なのは、11月に会計検査院が国の五輪関連経費の支出はこの5年間で「8011億円」と指摘したことについて、「支出と予算と枠組みが違うし、費目の仕分けが違う」と苦しまぐれの言い訳をしてV3の予算編成では無視をしたことである。膨れ上がる開催経費への批判には耳をかさない姿勢は大いに問題で、開催経費の透明性と説明性がまったく確保されていない。
 会計検査院のこの指摘に対し、桜田五輪担当相は、この5年間で53事業、「1725億円」は五輪関連経費とすることができるとしたが、「1725億円」をV3予算ではまったく反映していない。V2予算では国の負担は「1500億円」としていたが、増加分の「225億円」をV3予算で計上しなかった。また、会計検査院が指摘には含まれていないが、大会に直接関連する事業として国立代々木競技場など5施設の整備や改修のための国庫補助金を直近5年間で約34億円支出したと明らかにしたがこれも参入していない。
 国は「8011億円」の内、5461億円は、道路工事や燃料電池自動車補助費など「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」とした。いわばグレーゾーンの支出で、「算出が困難」だから五輪関連経費としないというきわめて乱暴な仕分けだ。
 5461億円の中には、選手・観客の酷暑対策(厚生省)、競技場周辺の道路輸送インフラの整備やアスリート、観客らの円滑な輸送および外国人受け入れのための対策(国土交通省)、サイバーセキュリティー対策(警察庁)、メダル獲得に向けた競技力向上(文科省)など五輪関連予算として参入するのが適切な事業も多いと思われるが、それを照査する姿勢が大会組織員会や国にまったくない。「五輪開催経費」が一挙に、数百億円、千億円単位で膨らむのを恐れたのだろう。
 大会組織員会にとって、膨れ上がる開催経費への世論の批判をかわすために、「1兆3000億円」を大幅に上回る予算を組むことはあり得なかった。会計検査院の指摘で「五輪開催経費」隠しが明るみになった。

 実は、五輪関連経費の中で、計上されていない膨大な経費がある。警備費である。
 会場内や会場周辺の警備費は大会組織委が計上しているが、空港や主要交通機関、繁華街、主要官庁、重要インフラなどの警備費は未公表である。 2016年6月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、開催費の総額は約600億円、その内半分以上の約340億円は警備費、サミット開催は2日間だが、オリンピック・パラリンピックは合わせて30日間、大会開催期間中の警備費は数千億に及ぶだろう。こうした警備は通常の警備体制ではなく大会開催のための特別臨時警備である。東京2020大会の警備費も五輪関連経費として明らかにするのが筋である。
 国や東京都の2020年度の予算編成ではこうした経費が顕在化することになるだろう。しっかり監視しないと「五輪経費隠し」が横行する懸念が残る。
 五輪開催経費について重要なのは「透明性」と「妥当性」の確保だろう。一体総額でいくらになるのか国民に明らかにしないのが問題なのである。
 
 「1兆3500億円」について、大会組織委の武藤事務総長は、「今後も大会が近づくにつれて新たな歳出が生じることがあると想定されるが、全体として6000億円を超えないように経費削減に向けて最大限の努力を行う」というコメントを出した。
 大会開催まであと600日を切り、開催準備の正念場、さらに支出が増えるのは必至だろう。今後、V3予算では計上することを先送りにした支出項目も明らかになると思われる。また「暑さ対策」や「輸送対策」などの重要課題が登場し、「1兆3500億円」を守るのも絶望的だ。







組織委員会予算V3   東京2020大会組織委員会

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国の支出「8011億円」組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘

政府 国の支出は「2197億円」と反論 止まない経費隠蔽体質!


五輪開催経費 1兆3500億円 350億円削減 組織委V2予算
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、今年5月に国や東京都などと合意した経費総額から更に350億円削減し、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 2016年末のV1予算では総額を1兆5000億円(予備費を含めると最大で1兆8000億円)としていたが、2017年5月には1兆3850億円に縮減することを明らかにした。これに対してIOC調整委員会のコーツ委員長は、さらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めていた。組織委の武藤敏郎事務総長は、来年末発表するV3ではさらに削減に努める考えを示した。


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)




東京都の五輪施設整備費 1828億円 413億円削減
 2017年11月6日、東京都は新たに建設する8つ競技会場の整備費は合計1828億円で、これまでの2241億円から413億円削減すると公表した。
 五輪施設整備費は、五輪招致後の策定された当初計画では4584億円だったが、2014年11月、舛添元都知事が経費削減乗り出し、夢の島ユース・プラザ゙・アリーナA/Bや若洲オリンピックマリーナの建設を中止するなど2241億円に大幅に削減した。
 2016年夏、都知事に就任した小池百合子氏は、五輪施設整備費の「見直し」に再び乗り出し、「オリンピック アクアティクスセンター」(水泳)、「海の森競技場」(ボート/カヌー)、「有明アリーナ」(バレーボール)の3競技場は、合計2125億円の巨費が投じられるとして再検討に取り組んだ。とりわけ「海の森競技場」は、巨額の建設費に世論から厳しい批判を浴び、「見直し」対象の象徴となった。
 小池都知事は都政改革本部に調査チーム(座長上山信一慶応大学教授)を設置し、開催計画の“徹底”検証を進め、開催費総額は「3兆円を超える可能性」とし、歯止めがなく膨張する開催費に警鐘を鳴らした。そして3競技場の「見直し」を巡って、五輪組織員会の森会長と激しい“つばぜり合い”が始まる。
 一方、2020年東京大会の開催経費膨張と東京都と組織委員会の対立に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年末に、東京都、国、組織委員会、IOCで構成する「4者協議」を開催し、調停に乗り出した。
 「4者協議」の狙いは、肥大化する開催経費に歯止めをかけることで、組織委員会が開催経費の総額を「2兆円程度」としたが、IOCはこれを認めず削減を求め、「1兆8000億円」とすることで合意した。しかし、IOCは“更なる削減”を組織委員会に強く求めた。
 小池都知事は、結局、焦点の海の森競技場は建設計画は大幅に見直して建設することし、水泳、バレーボール競技場も見直しを行った上で整備することを明らかにし、「アクアティクスセンター」(水泳)は、514~529億円、「海の森水上競技場」(ボート/カヌー)は 298億円、「有明アリーナ」(バレーボール)は339億円、計1160億円程度で整備するとした。

 今回、公表された整備計画では、小池都知事が見直しを主導した水泳、バレーボール、ボート・カヌーの3競技会場の整備費は計1232億円となり、「4者協議」で公表した案より約70億円増えた。
 「アクアティクスセンター」では、着工後に見つかった敷地地下の汚染土の処理費38億円、「有明アリーナ」では、障害者らの利便性を高めるためエレベーターなどを増設、3競技場では太陽光発電などの環境対策の設備費25億円が追加されたのが増加した要因である。
 一方、経費削減の努力も見られた。
 「有明テニスの森」では、一部の客席を仮設にして34億円を減らしたり、代々木公園付近の歩道橋新設を中止したりして23億円を削減した。
 この結果、計413億円の削減を行い、8つ競技会場の整備費は合計1828億円となった。
 五輪大会の競技場整備費は、当初計画では4584億円、舛添元都知事の「見直し」で2241億円、そして今回公表された計画では1828億円と大幅に削減された。

 新たな競技場の整備費が相当程度削減されたことについては評価したい。
 しかし最大の問題は、“五輪開催後”の利用計画にまだ疑念が残されていることである。
 海の森競技場では、ボート/カヌー競技大会の開催は果たしてどの位あるのだろうか。イベント開催を目指すとしているが成果を上げられるのだろうか。
 「アクアティクスセンター」は、すぐ隣に「辰巳国際水泳場」に同種の施設があり過剰な施設をどう有効に利用していくのか疑念が残る。
 さらに8つの競技場の保守・運営費や修繕費などの維持費の負担も、今後、40年、50年、重荷となってのしかかるのは明らかである。
 小池都知事は、膨張する五輪開催経費を「もったいない」とコメントした。
 8つの競技会場を“負のレガシー”(負の遺産)にしないという重い課題が東京都に課せられている。


青天井? 五輪開催経費 どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる操作が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、「大会成功」いう大義名分が先行して、青天井になることが往々にして起きる。
 新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
 東京2020大会のキャッチフレーズ、「世界一コンパクな大会」の開催理念はどこへ行ったのか。


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 V1予算公表 四者協議トップ級会合


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大で1兆8000億円(予備費、最大で3000億円を含む)になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。


 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのはドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。







開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。














海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンターを観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さす、12月のクリスマス前まで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場はボート・カヌー競技の事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事もこれを歓迎するとした。
 海の森水上競技場は当初の491億円から298億円前に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで、東京都では683億円から514~529億円に削減されると試算している。

 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円を切る」との見通しを示し、「これを上限としてこれ以下に抑える」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。削減の余地が残っている。2兆円よりはるかに下でできる」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。さらにコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と強調した上で、「IOCが2兆円という額に同意したと誤解してほしくない」と了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


小池都知事と上山特別顧問 4者協議トップ級会合 筆者撮影

東京2020大会 四者協議トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長

海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)



都政改革本部調査チーム アクアティクスセンターの整備計画大幅な見直しを提言
 調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


世界に「恥」をかいた東京五輪ガバナンスの欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の「見直し」に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費298億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、「仮設レベル」最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には“唖然”とする。「69億円」は“杜撰”を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも“唖然”だ。やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外にも同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それははっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%弱程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円5000億円は、国、都、関係地方自治体が負担するという計算になる。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 12月2日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


オリンピック アクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
 


月刊ニューメディア(2016年10月号)掲載 加筆



Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
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コメント (11)
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WBC2023 侍ジャパン 全試合結果 大谷翔平 佐々木朗希 山本由伸 吉田由伸 村上宗隆 ヌートバー

2023年03月24日 18時10分02秒 | WBC
World Baseball Classic WBC2023



出典 FS1
速報 決勝 侍ジャパン3-2で米国に勝利 最後は大谷翔平がトラウトを三振に打ち取る 劇的な幕切れ 日米決戦を制す

出典 FS1

出典 WBC

2回裏 村上宗隆 同点ホームラン 初球を一振り 今大会で最速185k/h 出典 FOX

9回裏登板して、MLB最強の4番バッター、トラウトをスライダーで三振で打ち取った大谷翔平 日米の王位対決を制し劇的勝利



大谷翔平MVP 以上出典 WBC
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侍ジャパンがアメリカを下し3大会ぶり3回目のWBC制覇!大谷翔平が胴上げ投手に
 3月21日(日本時間3月22日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の決勝戦が行われ、侍ジャパンがMLBを代表する選手たちを揃えたアメリカを3対2で下し、7戦全勝で3大会ぶり3回目の優勝を果たした。
 あまりにもドラマチックな展開で、日本の野球に関わるすべての人にとっての悲願の瞬間が訪れた。
 1点差で迎えた最終回、大谷翔平(エンゼルス)は2死走者なしから同僚でアメリカの主将を務めるマイク・トラウトと対峙。フルカウントからキレ味鋭いスライダーでトラウトのバットが空を切ると、大谷はグラブと帽子を放り投げ感情を爆発させると、選手たちが勢いよく飛び出し中心に歓喜の輪ができた。
 WBC史上初めて決勝での対戦となった日米頂上決戦は初回から熱を帯びた。2番トラウトがライト前のポテンヒットを打つと、そのまま全力疾走で二塁へヘッドスライディング。初回から凄まじい執念で二塁打をもぎ取って見せた。
 それでも先発の今永昇太(DeNA)は後続を冷静に抑えて無失点で切り抜けた。しかし2回、今大会絶好調の6番トレイ・ターナーにソロ本塁打を浴びて先制を許した。
 一気にアメリカペースになってもおかしくなかったが、それを振り払ったのが前日に逆転サヨナラ打を放ったNPB史上最年少三冠王・村上宗隆(ヤクルト)だ。初球の甘く入ったストレートを振り抜くと、打球は右中間スタンドに飛び込む同点のソロ本塁打になった。
 この回はこれで終わらず岡本和真(巨人)、源田壮亮(西武)の安打、四球で満塁のチャンスを作ると、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)のファーストゴロの間に岡本が勝ち越しのホームを踏んだ。さらに4回には岡本がレフトスタンドへのソロ本塁打を放ち、リードを2点に広げた。
 3回から7回はNPBを代表する若い投手陣が踏ん張る。戸郷翔征(巨人)、髙橋宏斗(中日)、伊藤大海(日本ハム)、大勢(巨人)が走者を出す場面は何度かあったものの、捕手の中村悠平(ヤクルト)の好リードやワンバウンドストップ、内外野陣の固い守りもあって無失点で凌いだ。
 8回はダルビッシュ有(パドレス)が登板。昨年のナショナル・リーグ本塁打王カイル・シュワーバーにソロ本塁打を浴びて1点差に詰め寄られたものの、攻守でMLBを代表する捕手であるJ.T.リアルミュートらを抑えて同点は許さず。最終回は大谷にマウンドを託した。
 大谷は先頭打者を四球で歩かせてしまったものの、1番ムーキー・ベッツをセカンドゴロに打ち取る。この打球を山田哲人(ヤクルト)と源田壮亮(西武)が落ち着いて処理して併殺打が完成。最後は大谷がトラウトを空振り三振に抑えて試合を締めた。
 これで侍ジャパンは2009年の第2回大会以来3大会ぶり(14年ぶり)の世界一奪還。2013年のドミニカ共和国以来の全勝優勝で、大会最多となる3回目の頂点に立った。
出典 WBC


WBC 準決勝 日本vsメキシコ

速報 準決勝 侍ジャパン vsメキシコ 9回裏 村上宗隆サヨナラタイムリー 逆転サヨナラ勝 決勝進出 アメリカと決戦 侍ジャパンの先発は今永昇太
3月21日(水)19:00 決勝戦 日本vsアメリカ (日本時間22日 朝8:00) テレビ朝日生中継

■ 日本vsメキシコ 準決勝試合経過
▽佐々木朗希先発、1回2三振の力投 ショート源田、二塁山田、捕手佐々木
▽サンドバル先発 1回3三振を奪う 大谷翔平も三振
▽2回表 メキシコ ワンアウト1-2塁に しか佐々木朗希、ショートゴロに打ち取りダブルプレーで打ち取る
▽2回裏 吉田正尚、センター前ヒット 村上三振 岡本内野ゴロでダブルプレーでチェンジ
▽3回表 佐々木朗希、3者凡退で打ち取る
▽4回表 佐々木朗希 3ランホームランを浴びる 0-3でメキシコリード
▽4回裏 村上宗隆 ツーアウト1、3塁のチャンスに見逃し三振
▽5回表 山本由伸登板 ゼロ点に抑える
▽5回裏 1,2塁でサンドバル降板 ウルキデイ登板 ツーアウト満塁になるも近藤健介レフトフライに倒れ無得点
▽6回裏 源田レフトフライで、2アウト満塁で得点できす
▽7回表 吉田正尚、3ランホームランで3-3同点に
▽8回表 メキシコ アルザレーナの二塁打 タイムリーを打たれ2失点 5-3に
▽8回裏 満塁で代打山川犠打で1点 5-4 一点差 近藤健介見逃し三振で追加点ならず
▽8回裏 メキシコ無得点
▽9回裏 侍ジャパン最後の攻撃 大谷翔平先頭バッターで二塁打 ノーアウト二塁 吉田正尚フォアボールで1,2塁
村上宗隆 センターオーバーのタイムリー 逆転サヨナラ勝ち 決勝進出




9回裏 村上宗隆 センターオーバーの逆転サヨナラ打 6-5で勝利 ようやく待望の一発
 
逆転サヨナラランナーを向かい入れて喜ぶ侍ジャパン

村上宗隆の劇的逆転サヨナラ打で侍ジャパンがメキシコを下し3大会ぶりの決勝進出
 3月20日(日本時間21日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の準決勝が行われ、苦しい試合展開ながら終盤に粘りを見せた侍ジャパンが6対5の逆転サヨナラ勝ちでメキシコを下し決勝進出を果たした。
 すべては最後の劇的な結末のためだったのかと思うほど苦しい試合展開が続いた。
 佐々木朗希(ロッテ)とMLBで活躍するパトリック・サンドバルの先発で始まった試合は、ともに好調な立ち上がりを見せる。佐々木は2三振で三者凡退に抑えると、サンドバルは三者連続三振と投手戦の様相となった。
 均衡が崩れたのは4回。佐々木が2死から不運な当たりで連打を打たれると、6番ルイス・ウリアスに甘く入ったフォークをレフトスタンドに運ばれ3ラン。3点のビハインドを負った。
 すぐさま同点に追いつきたい侍ジャパンだが5回の二死満塁のチャンスで2番近藤健介(ソフトバンク)がレフトフライに倒れるなど、なかなか糸口を掴めなかった。
 それでも7回、近藤のライト前安打と大谷翔平(エンゼルス)の四球でチャンスを作ると、4番吉田正尚(レッドソックス)が追い込まれた後の低めに落ちるチェンジアップを上手く掬い上げ打球はライトスタンドへ。起死回生の同点3ランとなった。
 しかし、メジャーリーガーで揃えたメキシコ打線に直後の8回表に追撃される。5回から登板し好投していた山本由伸(オリックス)だったが、1死から1番ランディ・アロサレナに二塁打を打たれると、続くアレックス・ベルドゥーゴにも二塁打を打たれ勝ち越しを許す。さらにホエイ・メネセスにも安打を許して山本は降板。ここで栗山英樹監督は湯浅京己(阪神)をマウンドに送る。
 湯浅は得意のフォークで4番ロウディ・テレスを空振り三振に抑えるも、続くアイザック・パレデスにフォークを打たれ、さらに1点を失った。だが盗塁で二塁に進んでいたメネセスの本塁突入を吉田が好送球で刺して、2点差にとどめた。これが後々、大きな意味を持つことになった。
以上出典 WBC


ピッチング練習を始めた佐々木朗希 山本由伸も登板の可能性

チーム練習を開始した侍ジャパン

メキシコ戦のキーマン 佐々木宗隆 イタリア戦では打順を5番に下げたが、2塁打2本を放ち復調の兆し。

大谷翔平はバッティングに集中
以上 出典 野球日本代表侍ジャパン/WBC

出典 WBC



WBC 準決勝 米国vsキューバ




WBC速報 準決勝 米国14-2の大差でキューバに圧勝 決勝進出
米国打線が爆発、キューバの投手を打ち崩す ターナーは前夜の満塁ホームランに続き、今日も2本のホームラン、ゴールドシュミット2ランホームランなど4本のホームランでキューバを圧倒


出典 WBC
アメリカが決勝進出 ゴールドシュミットとターナーの4打点などでキューバを圧倒
 3月19日(日本時間20日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の準決勝がアメリカのローンデポ・パークで行われ、アメリカがキューバに14対2で圧勝。連覇を狙うアメリカが2大会連続の決勝進出を決めた。
 試合は序盤から激しく動く。キューバがロエル・サントス、ジョアン・モンカダ、ルイス・ロバートの三者連続内野安打という珍しい形で無死満塁の形を作ると、アルフレド・デスパイネが押し出し四球を選んで先制に成功した。
 しかしアメリカ先発のアダム・ウェーンライトは、その後の3人を打たせて取って最少の1失点に抑えると、その裏にアメリカ打線がすぐさま反撃に出る。キューバ先発のロエニス・エリアスから先頭のムーキー・ベッツがレフト線への二塁打で出塁すると、3番のポール・ゴールドシュミットがインコースいっぱいのストレートを上手く振り抜き、打球はレフトスタンドに飛び込む2ラン本塁打。すぐさまアメリカが逆転に成功した。
 さらに2回、前日の準々決勝ベネズエラ戦で逆転満塁本塁打を放ったトレイ・ターナーがソロ本塁打を放つと、3回にはピート・アロンソのタイムリーとティム・アンダーソンの犠牲フライで2点を追加。5対1とアメリカが主導権を握る。
 以降もアメリカ打線はキューバ投手陣に対して容赦ない攻撃を仕掛ける。4回にノーラン・アレナードの三塁打と相手投手の暴投、5回にゴールドシュミットの2点タイムリー、6回にターナーのこの日2本目の本塁打となる3ランとトラウトの二塁打と得点を重ねていき、無得点は7回のみ。8回には代走から出場していたセドリック・マリンズが右中間にソロ本塁打を放ちダメ押し。
 投げては、元巨人のマイルズ・マイコラスが2番手としてマウンドに上がった5回に、キューバのアンディ・イバニェスにタイムリーを打たれ1点こそ失うものの、その後は落ち着いて8回までその失点のみに抑えた。
 最後はアーロン・ループが1死からロバートに安打こそ許したものの、次打者のデスパイネを併殺打に抑えて試合終了。
 連覇に王手をかけたアメリカは、3月21日8時から行われる日本対メキシコの勝者と22日8時から決勝戦を戦う(試合開始日時はいずれも日本時間)。
出典 WBC

2本のホームランを放ったターナー



WBC速報 準々決勝 米国vsベネズエラ 9-7で激戦を制す。準決勝進出、キューバと対戦



出典 WBC

準決勝の組み合わせ 出典 WBC



トレイ・ターナーの逆転満塁本塁打でアメリカがベネズエラを下し準決勝進出
 3月18日(日本時間19日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の準々決勝がアメリカのローンデポ・パークで行われ、アメリカが終盤で劇的に逆転しベネズエラを9対7で下し、優勝した前回大会に続く2大会連続の準決勝進出を決めた。
 調子を上げてきたスター軍団・アメリカと、今大会無敗と勢いに乗るベネズエラの一戦は期待に違わぬ見せ場が何度もある好ゲームとなった。
 まずアメリカが怒涛の先制攻撃を仕掛ける。先頭のムーキー・ベッツからマイク・トラウト、ポール・ゴールドシュミット、ノーラン・アレナード、カイル・タッカーの5連打で一挙3得点。ベネズエラの先発マーティン・ペレスはタッカーの走塁死による1アウトしか取れずにノックアウトされてしまった。それでも、その裏ベネズエラはルイス・アラエスの2ランですぐさま1点差に詰めた。
 2回、3回と両者無得点で試合は落ち着きかけたが、4回以降に再び動く。アメリカが4回にベッツの犠牲フライ、5回にタッカーの本塁打で1点ずつを加え、リードを3点に広げた。
 アメリカにとっては、ここから逃げ切る試合展開に持ち込みたかったところだが思わぬ誤算が生じる。5回裏からマウンドに上がったダニエル・バードの制球がまったく定まらない。四球、内野安打、死球で満塁とすると、暴投で1点を失い、さらにストレートの四球と荒れに荒れ、降板。チャンスが転がり込んだベネズエラ打線は、この走者たちをルイス・アラエスの内野ゴロ、サルバドール・ペレスの二塁打、ロナルド・アクーニャ・ジュニアの犠牲フライで返し、6対5と一気に逆転に成功した。さらに7回にはホセ・キハダがピンチを見逃し三振で脱すると、その裏にアラエスがソロ本塁打を放ち、これがダメ押しになるかと思われた。
 しかし、劇的な展開はこの後に待っていた。8回表、アメリカがイニングまたぎの続投となったベネズエラのキハダから代打ピート・アロンソの安打や2四死球で無死満塁のチャンスを作る。ここで打席にはMLB通算1000本以上の安打を放ちながらも、この豪華打線では9番に座るトレイ・ターナー。代わったばかりのシルビノ・ブラチョに2ストライクと追い込まれたものの、ど真ん中に来たチェンジアップを振り抜くと打球は高い放物線を描いてレフトスタンドへ。起死回生の逆転満塁本塁打でスタンド、ベンチは熱狂し、ターナーは仲間たちに祝福されベンチに戻ると、ユニフォーム胸のUSAの文字を握り締めながら叫び喜びを爆発させた。
 これで2点のリードを奪うと、デビン・ウィリアムズ、ライアン・プレスリーというMLB屈指の救援投手たちが8回と9回を無失点に抑えて試合終了。アメリカが大会連覇に向けて準決勝に進出を決めた。準決勝は3月20日8時(日本時間)からキューバと戦う。
出典 WBC

メキシコ、プエリトルコに5対4で競り勝ち、準決勝進出 侍ジャパンと対戦

 メキシコの攻撃のキーマンは、一次ラウンドC組のMVPを獲得したアロザレーナ、不動の一番バッターで、5割の打率、1ホームラン、9打点を記録、絶好調。2ホームランを打っている元オリックスでプレーしていたメネセスも日本の野球を知っているだけに要注意。投手陣は、昨年のMLB最優秀防御率のタイトルを獲得しているウリアスが、準々決勝プエリトリコ戦で連打を浴びてまさかの4失点、不安も抱える。その中で期待を集めているのはサンドル、日本戦での先発が濃厚。大谷翔平のチームメートで、今シーズンは大谷に次ぐエンゼルスのエース格とされている。i
 一次ラウンドC組の初戦で15安打の猛攻で米国に11-5で大勝し、勢いの乗ってC組1位通過、初のベスト4進出を果たした。

以上出典 WBC

初回4失点の誤算もメキシコが逆転 プエルトリコを下し初の準決勝進出を決める
 3月17日(日本時間18日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の準々決勝がアメリカのローンデポ・パークで行われ、メキシコが4点のビハインドをひっくり返して5対4とプエルトリコに勝利。初めての準決勝進出を決めた。
 試合はいきなり動いた。メキシコの先発で昨年のMLB最優秀防御率のタイトルを獲得しているフリオ・ウリアスにプエルトリコ打線が襲い掛かる。
 四球とサンディ・ベルムデスの安打で1死一、三塁のチャンスを作ると、エマヌエル・リベラがライトへの犠牲フライを打って先制。さらにハビエル・バエスが逆方向のライトへ2ラン本塁打を放つと、続くエディ・ロサリオもセンターへ2打席連続本塁打を放って、初回から一挙4得点。準々決勝進出を喜んだ際に負傷し離脱となった守護神エドウィン・ディアスの思いも背負って戦う選手たちの闘志が乗り移ったかのようだった。
 それは守備にも感じられ、4回には左中間に抜けそうな打球を中堅手エンリケ・エルナンデスがダイビングキャッチ。プエルトリコファンが多く集まったスタンドを大いに沸かせた。  こうした援護もあり、プエルトリコの先発マーカス・ストロマンは5回途中まで、アイザック・パレデスのソロ本塁打とアレックス・ベルドゥーゴのタイムリーの2点に抑え、後続に託した。
 そして7回からはエドウィン・ディアスの入場曲に乗り、弟のアレクシス・ディアスが登板。スタンドのボルテージは上がったが、これが裏目に出る。
 メキシコのこの回先頭オースティン・バーンズに二塁打を打たれると連続四球で無死満塁。気負いすぎたのかアレクシス・ディアスは1つのアウトも取れずに降板となった。このピンチに登板したホルヘ・ロペスは2死までこぎつけるが、パレデスに同点の2点タイムリーを打たれると、ルイス・ウリアスにもタイムリーを打たれ、ついに逆転を許す。どちらも詰まった当たりだっただけに不運だったが、一度傾いた流れは止められなかった。
 逆転に成功したメキシコは、救援陣が奮闘。ウリアスの後を継いだハビエル・アサド、ジョジョ・ロメロ、ジェーク・サンチェスと繋いでいくと最終回はジョバニー・ガジェゴスが登板。クリスティアン・バスケスとフランシスコ・リンドーに安打を打たれ、2死一、二塁のピンチを招くが、最後はエルナンデスを見逃し三振に抑え試合終了。
 1次ラウンドのプールCでアメリカを破り1位通過した実力と勢いをメキシコが見せつけて逆転勝ちを果たした。一方、プエルトリコは2回以降に打線が沈黙。大きなミスこそ無かったものの悔しい敗戦となった。
 初めての準決勝進出を果たしたメキシコは、3月21日8時(日本時間)から3大会ぶり3回目の優勝を目指す侍ジャパンと戦う。

出典 FOX

侍ジャパン 9対3でイタリアに完勝 準決勝進出 
3月20日(月)19:00 準決勝メキシコ戦 (マイアミ ローンデボ・パーク) 
日本時間 3月21日(火)8:00am 生中継 TBS Amazonプライム
準決勝では佐々木朗希先発




先発投打二刀流大谷翔平 5回途中まで熱投

■侍ジャパンvsイタリア 試合経過
▽大谷翔平、二刀流で先発 吉田正尚4番に 村上宗隆は5番 源田テーピングをして出場
▽3回裏、大谷翔平の意表を突くバンドでチャンスを作り、吉田の内野ゴロで先制点
 続いて岡本の3ランホームランで4対0でリード 試合の主導権を握る
▽大谷、5回表、制球を乱し2死球を出し、2アウト満塁で打たれて2失点 4対2でイタリアが追い上げ
▽5回裏、すぐさま反撃 村上に待望のタイムリー2塁打、岡本も続いて、7対2としてイタリアを突き放す
▽6回表、第二先発で今永登板 無失点で抑える
▽7回表、ダルビッシュ有登板 3者凡退でイタリア打線を封じる
▽7回裏、吉田ソロホームラン 8対2 村上 前の打席に続いて再び二塁打 打撃は復調の兆しか 源田 右の小指を負傷しながらタイムリーヒット 9対2に
▽8回裏、ダルビッシュ、イタリアにソロホームランを浴び9対3
▽9回表 抑えの切り札、大勢 登板 ゼロ点に抑えて9対3で勝利 準決勝進出!
▽一次ラウンドのMVPは大谷翔平


2回を力投したダルビッシュ有登板

3ランホームランを含む5打点で大活躍の岡本和真

侍ジャパンの4番に座った吉田正尚

打順を5番に下げたが、2塁打2本を放ち復調の兆し 準決勝に進出した侍ジャパンに朗報

大谷翔平の流れを変えるバントや岡本和真の5打点の活躍などでイタリアを下し準決勝進出
 3月16日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 準々決勝ラウンド 東京プール』で侍ジャパンがイタリアと対戦。「負ければ即敗退」というトーナメントに入ったが、侍ジャパンが底力を発揮しイタリアを9対3で退け、5大会連続の準決勝進出を決めた。
 MLB殿堂入りを果たしているマイク・ピアザ監督のもと、イタリア人だけでなくイタリアにルーツのある優秀な選手たちを集めたチームの特徴のひとつは大胆な守備シフトだ。これが激戦のプールAを2位で通過する要因のひとつにもなったが、この日も果敢にシフトを敷いてきた。
 左打者に対しては一、二塁間に内野手3人を敷くことが多く、初回の大谷翔平(エンゼルス)のセンター前に抜けたかと思われた打球は遊撃手ニッキー・ロペスが二塁ベース後ろで横っ飛びして好捕。先制の芽を摘まれた。
 だが、このシフトを逆手に取ったのも大谷だった。3回、近藤健介(ソフトバンク)が四球で出塁すると、打席には大谷。第1打席と同じく内野手は右寄りに守り、三遊間にはエンゼルスの同僚でもある三塁手デービッド・フレッチャーのみが就いた。ここで大谷はガラ空きの三塁線目がけてバント。やや投手寄りのゴロになり左腕ジョセフ・ラソーサはなんとかグラブに収めるも、大谷の俊足に慌てたのか一塁へ悪送球(記録は安打と失策)。1死一、三塁とチャンスを広げた。
 すると、この日4番に入った吉田正尚(レッドソックス)がセンター前に抜けようかとする打球を放つと、これも二塁ベース近くにいたロペスが好捕して処理するが、その間に近藤が先制のホームを踏んだ。
 さらに5番・村上宗隆(ヤクルト)が四球を選んでチャンスが続くと、打席には岡本和真(巨人)。ここで6球目のスライダーに泳ぎながらもバットの芯でとらえると、打球は大歓声に包まれレフトスタンドへ。3ランとなり、この回4点を奪って試合の主導権を握った。
 投げても大谷は4回までイタリア打線を2安打に抑え反撃を許さない。しかし5回、デービッド・フレッチャーの安打や2死球で満塁のピンチを招く。するとフレッチャー兄弟の弟であるドミニク・フレッチャーに対して161キロのストレートで詰まらせながらも、ライト前に落とされ、これが2点タイムリーに。リードを2点に縮められ大谷は降板となった。
 このピンチを救ったのが伊藤大海(日本ハム)だ。ピアザ監督が「(もうすぐ)MLBレベル」と称した4番ブレット・サリバンに粘られながらも、最後は153キロのストレートでショートフライに抑えてピンチを脱した。
 すると5回裏、村上と岡本の連続長打で2点を追加し、7回には吉田の打った瞬間分かるライトへのソロ本塁打と右手負傷からスタメン復帰した源田壮亮(西武)のタイムリーでダメ押し。
 投手陣は3番手以降も今永昇太(DeNA)、ダルビッシュ有(パドレス)、大勢(巨人)と繋いでいき、失点はダルビッシュがドミニク・フレッチャーに打たれたソロ本塁打のみ。投打が噛み合った侍ジャパンが準決勝・決勝が行われるアメリカ・マイアミ行きへのチケットを手にした。
 この後、侍ジャパンは決戦の地へ向かい現地で数日の調整をし、日本時間3月21日8時から行われる準決勝に臨む予定だ。連覇した第2回大会以来の王座奪還まで、あと2勝。侍ジャパンが野球の母国・アメリカでどんな躍動を見せるのか楽しみだ。(出典 WBC)


キューバ、オーストラリアを4対3の接戦を制し、準決勝進出の一番乗り

 東京ドームに集まった35,061人の大観衆の前でデスパイネなど日本球界にゆかりのある選手らが躍動し、キューバが野球王国復活に向けた一歩を踏み出した。
 キューバの準決勝の対戦相手は、アメリアvsべネズエラ戦(3月18日[土] 19:00 日本時間19日[日]8:00am)の勝者。
 当初の組み合わせでは、侍ジャパンは準決勝でアメリカと対戦するとしていたが、WBAコミッショナーは急遽、変更し、準決勝では日米を別枠とした。両チーム勝ち残れば決勝で優勝をかけての「日米決戦」となる。

デスパイネら日本にゆかりのある選手たちが東京ドームで躍動 キューバがオーストラリアを下し4強入り
 3月15日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 準々決勝ラウンド 東京プール』の1日目が行われ、キューバがオーストラリアを4対3で下し、準優勝した第1回大会以来の準決勝進出を決めた。
 先制したのはオーストラリア。2回、キューバの先発で中日に所属するジャリエル・ロドリゲスから先頭の4番ダリル・ジョージがあわや本塁打の二塁打を放ち、アーロン・ホワイトフィールドが犠打できっちり送り1死三塁とすると、リクソン・ウィングローブのライト前安打でジョージが先制のホームを踏んだ。
 一方キューバは3回裏、この回からマウンドに上がったミッチ・ニューンボーンに対し、元ロッテのロエル・サントスが四球を選ぶと、続くジョアン・モンカダがレフトフェンス直撃の二塁打を放ち無死二、三塁のチャンスを作る。ここでルイス・ロバートがショートゴロを打ってその間にサントスが生還し同点。ここから一気呵成に逆転したかったが、元ソフトバンクのアルフレド・デスパイネの当たりがオーストラリア二塁手のロビー・グレンディニングに好捕されるなど、勝ち越しまではできなかった。
 中盤以降も息の抜けない戦いが続く。5回表にサントスがレフト頭上を超えようとする打球を好捕すると、5回裏にキューバはそのサントスがセンター前安打で出塁。さらにモンカダとロバートが四死球で続いて無死満塁。ここでデスパイネがライナー性の打球をライトに飛ばし、これが犠飛となり勝ち越しに成功した。さらにエリスベル・アルエバルエナとヨエルキス・ギベルトの連打で、さらに2点を追加した。
 しかしオーストラリアも6回表にウィングローブが2ラン本塁打を放って1点差に追いすがる。
 それでもキューバは、8回にソフトバンクに所属するリバン・モイネロが1死から連続四球で走者を背負うも後続を抑え、最終回は中日に所属するライデル・マルティネスが1人の走者も出すことなく、最後は空振り三振を奪って試合終了。キューバの選手たちは喜びを爆発させライデル・マルティネスを中心に歓喜の輪ができた。
 東京ドームに集まった35,061人の大観衆の前で日本球界にゆかりのある選手らが躍動し、キューバが野球王国復活に向けた一歩を踏み出した。

以上出典 WBC

一次ラウンド B組 侍ジャパンvsオーストラリア



山本由伸 4回8奪三振の圧巻のピッチング 以下出典 WBC

大谷翔平 自身の看板直撃の特大ホームラン
侍ジャパン オーストラリア戦を制す 4戦全勝で準々決勝進出 大谷翔平の先制3ランや山本由伸の好投
 3月12日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 東京プール』(プールB)の4日目が東京ドームで行われた。日中の試合で韓国がチェコを下して、試合前に準々決勝進出が決まっていた侍ジャパンだったが、気を緩めることなくオーストラリアに7対1と快勝。プールBを4戦全勝の首位で通過し16日の準々決勝に駒を進めた。
 試合は終始、侍ジャパンのペースで進んだ。オーストラリアの先発を任された20歳左腕ウィル・シェリフから四球と近藤健介(ソフトバンク)の安打でチャンスを作る。ここで打席に立った大谷翔平(エンゼルス)はシェリフが投じた2球目のカーブを振り抜いた。打った瞬間に本塁打と分かる打球は、右中間スタンド上部にある自身が映し出された広告の看板に直撃。衝撃の一発による3ランで先制し場内は大きな興奮に包まれた。
 続く2回には先頭の中野拓夢(阪神)の安打と盗塁、中村悠平(ヤクルト)の犠打、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)のタイムリーで追加点。さらにヌートバーが盗塁を決めると、近藤の二塁打でヌートバーが5点目のホームを踏んだ。4回にも大谷が押し出しを選んで1点を追加した。
 6点のリードは2年連続沢村賞右腕の山本由伸(オリックス)には十分すぎるものだった。「大谷選手がホームランを打ってくれて力みなく試合に入っていくことができました」と振り返るように、初回からキレのあるストレートと変化球で安定した投球を続け、4回60球を投げて1安打8奪三振無四球という圧巻の投球でオーストラリア打線を封じ込めた。
 その後も5回に中村のタイムリーで7点目を挙げると、5回から今大会初登板となった高橋奎二(ヤクルト)が2イニングを1安打無失点、7回は同じく初登板の大勢(巨人)が1イニングを3人で抑えた。8回は湯浅京己(阪神)が無失点、9回は髙橋宏斗(中日)がアレックス・ホールにソロ本塁打こそ浴びるが、後続を抑えて試合終了。
 これで侍ジャパンのプールB1位が確定。16日の準々決勝(東京ドームで19時開始予定)は、プールA2位のイタリアと準決勝・決勝が行われるアメリカ行きをかけて戦う。(出典 WBC)




一次ラウンド B組 侍ジャパンvsチェコ

侍ジャパン チェコ戦に完勝 佐々木朗希の8奪三振や集中打3連勝で準々決勝進出に大きく近づく
 3月11日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 東京プール』(プールB)の3日目が東京ドームで行われ、侍ジャパンはチェコと戦い10対2と快勝。3連勝とし、各プール上位2チームが出場できる準々決勝進出に大きく近づいた。
 栗山英樹監督が「3試合ともそうですが、今日も国際大会の難しさをジリジリと感じるような試合展開でした」と振り返ったように、試合の入りは決して良いものではなかった。
 1回表、先発のマウンドに上がった佐々木朗希(ロッテ)は最速164キロを計測するなど快調に飛ばしていくが、3番マレク・フルプに163キロのストレートをジャストミートされる二塁打でピンチを招くと、4番マルティン・チェルベンカのショートゴロを中野拓夢(阪神)が悪送球し先制を許した。
 打線もチェコの先発オンジェイ・サトリアの球速130キロに満たないながらも巧みな投球術に戸惑わされ2回まで無得点に終わった。
 それでも佐々木が2回と3回は力強いストレートとフォークやスライダーといった変化球のコンビネーションで抑え込んでいくと、3回裏に2巡目となった打線がサトリアをとらえた。
 近藤健介(ソフトバンク)が二塁打で出塁すると、大谷翔平(エンゼルス)は空振り三振に倒れるも村上宗隆(ヤクルト)が四球を選んでチャンスが拡大。ここで前日の韓国戦で3打数3安打5打点と大暴れした吉田正尚(レッドソックス)が逆方向のレフトへ二塁打を放って逆転に成功。さらに今大会初スタメンの山田哲人(ヤクルト)がレフト前にタイムリーを放って、この回に3点を挙げた。
 サトリアの後を継いだチェコの投手陣からも侍ジャパン打線は得点を重ねていく。4回にはラーズ・ヌートバー(カージナルス)、近藤、大谷と三者連続でタイムリーを放つと、村上が四球を選んだ後に吉田が犠牲フライを放って、この回は4点を挙げた。
 さらに5回には牧原大成(ソフトバンク)のタイムリー、8回には牧秀悟(DeNA)のソロ本塁打と山川穂高(西武)の犠牲フライで得点をふた桁に乗せた。
 投手陣は佐々木が4回2死の投球制限(1次ラウンドは65球まで)まで1失点8奪三振(自責点0)に抑えると、打者1人を連投の宇田川優希(オリックス)がきっちり抑えた。5回からは宮城大弥(オリックス)が登板し、立ち上がりこそ1点を失ったが、以降は危なげない投球を見せて最後までチェコの反撃を最小限に留めて試合を締めた。
 3連勝とした侍ジャパンの次戦は3月12日19時から同じく現在無敗のオーストラリアと対戦。昨年11月の『侍ジャパンシリーズ2022』では連勝を飾った相手ではあるが、南半球にあるため当時はまだ国内リーグが開幕前かつコロナ禍で久々の代表活動だった。今大会はコンディションが格段に向上しており、韓国を8対7、中国を12対2の7回コールド勝ちで倒し連勝中だ。そんな勢いに乗る相手に対し侍ジャパンは、過去2シーズンで33勝を挙げて2年連続で沢村賞に輝いている山本由伸(オリックス)の先発で臨む。(出典 WBC) 


一次ラウンド B組 侍ジャパンvs韓国

侍ジャパン 宿敵韓国に完勝

韓国戦 大谷翔平 自身の看板直撃特大ホームラン 以上出典 WBC

韓国戦 山本由伸 4回無失点の好投  出典 野球日本代表侍ジャパン

韓国戦で2塁盗塁を決めたヌートバー 一次ラウンド4試合ですべて1番バッターで攻守に大活躍 一躍侍ジャパンのムードメーカーに 出典 WBC

韓国戦ではMVPに選出されたヌートバー 出典 野球日本代表侍ジャパン
侍ジャパン打線爆発で13点を奪い韓国に大勝 ヌートバーの情熱が球場全体を揺らす
 3月10日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 東京プール』(プールB)の2日目が東京ドームで行われ、侍ジャパンは韓国と戦い13対4 の大勝を収めた。
 幾度も好勝負を展開してきた韓国との対戦だったが、試合は思わぬ展開になった。
 3回表、先発のダルビッシュ有(パドレス)は先頭のカン・ベクホに二塁打を打たれると、続くヤン・ウィジに追い込みながらも甘く入ったスライダーをレフトスタンドに運ばれ2点の先制を許す。さらにその後も村上宗隆(ヤクルト)の悪送球で出した走者をイ・ジョンフのライト前安打で返され、3点のビハインドを負った。
 この嫌な流れを払拭させたのがラーズ・ヌートバー(カージナルス)の気迫だ。2回まで無安打に抑えられていた韓国先発左腕のキム・グァンヒョンに対して連続四球からチャンスを作ると、1番に返り打席にはヌートバー。ここでヌートバーは痛烈な当たりで二塁手の左を抜くタイムリーを放ち、塁上で吠えながらガッツポーズ。これにはベンチ、スタンドのボルテージが一段と上がった。
 この後、ヌートバーの気迫が乗り移ったかのように近藤健介(ソフトバンク)と吉田正尚(レッドソックス)にタイムリーが飛び出し4対3と逆転に成功した。
 さらにヌートバーは守備でも沸かせる。5回1死一塁から遊撃手後方に落ちそうな打球に全力で駆けていくと、前日に続きダイビングキャッチ。次の打者がMLBも注目するイ・ジョンフであり、その後に二塁打を打たれたことからも試合の勝敗を左右するビッグプレーだった。
 そして5回からは侍ジャパンが一方的な展開に持ち込む。5回は近藤の本塁打や吉田の犠牲フライで2点、6回は中野拓夢(阪神)の三塁打を皮切りに、近藤の押し出し、大谷翔平(エンゼルス)のタイムリー、村上宗隆(ヤクルト)の犠牲フライ、吉田のタイムリー、岡本和真(巨人)のタイムリーで5点を挙げて試合を決めた。
 さらに7回には、中野の安打と、ヌートバーの安打と好走塁(外野から三塁への送球間に二塁へ進塁)などでチャンスを作ると、相手投手の暴投と押し出しで2点をダメ押した。
 投手陣も4回からマウンドに上がった2番手の今永昇太(DeNA)が3イニングを本塁打のみの1点に抑えて追撃を最小限に留めた。7回以降は宇田川優希(オリックス)、松井裕樹(楽天)、髙橋宏斗(中日)が1人の走者も出さずに抑え、コールド勝ち(7回以降10点差)一歩手前の9点差をつけて韓国を投打に圧倒した。
 試合後、お立ち台に上がったヌートバーは「最高の気分です。日本代表として戦えていることを誇りに思います」と喜びを表し、最後に「日本大好き!みんなありがとう!」と流暢な日本語で叫ぶと大歓声に包まれ、東京ドーム全体が興奮のるつぼと化した。
 ヌートバーの情熱あふれるプレーと姿勢が与える影響はとても大きい。試合後の記者会見でも「彼のがむしゃらさがチームに勢いをつけてくれている」(栗山監督)、「異国の地でプレーする難しさを感じさせることなく、チームに溶け込もうという気持ちをすごく感じるので勇気やパワーをもらっています」(ダルビッシュ)、「異国の地で大変だと思いますが、チームに本当に良い影響を与えるハッスルプレーやコミュニケーションでチームのプラスになっています」(近藤)と称賛の言葉が相次いだ。ヌートバーの情熱は世界一奪還を目指す侍ジャパンを確実に牽引している。
 侍ジャパンの次戦は3月11日19時から、この日の中国戦でWBC初出場初勝利を挙げたチェコと対戦。侍ジャパンは佐々木朗希(ロッテ)の先発で臨む。(出典 WBC)


一次ラウンド B組 侍ジャパンvs中国



大谷翔平 二刀流で先発 4回を1安打無失点

ヌートバー スーパーファインプレイ 攻守に渡る活躍で一躍、侍ジャパンのムードメーカーに
侍ジャパン 初戦中国戦で完勝 大谷翔平 二刀流で先発 ヌートバーの全力疾走 白星発進
 3月9日、『カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 東京プール』(プールB)が東京ドームで開幕。侍ジャパントップチームはチーム開幕戦で中国と戦い、中盤までは思うような試合運びとはいかなかったが、終盤に畳み掛けて8対1の大勝発進となった。
 栗山英樹監督が試合後「あのプレーが流れを呼び込んでくれた」と振り返ったのは4回裏1死走者無しの場面。先頭打者として初回に初球をセンター前に運んで、その後の連続四球で先制のホームを踏んでいたラーズ・ヌートバー(カージナルス)が打席に立った。その直前の3回にはセンター前に落ちそうな打球を好捕して、ファンとチームメイトから大きな喝采を受けていた。
 そんな状況の中で迎えた第3打席、中国2番手の右腕・王唯一のツーシームをとらえた当たりはボテボテのファーストゴロに。それでもヌートバーは全力疾走を怠らず相手一塁手がもたつくと一塁はセーフに(記録は内野安打)。この姿勢を栗山監督は称えたのだ。
 そして好調続く近藤健介(ソフトバンク)がライト前安打で続いてチャンスは拡大。ここで先発投手兼3番打者の投打二刀流で臨んだ大谷翔平(エンゼルス)がレフトオーバーの二塁打を放って、ヌートバーと近藤が生還し2点を加えた。
 1回は無死満塁を作りながらも1点止まり、2回は走者を出しながらも無得点に終わり相手に流れが傾きかけてもおかしくない場面だっただけに大きな2点となった。
 投手としての大谷は、力強いストレートにスライダーを多く織り交ぜた投球で中国打線を抑えていき、4回を1安打無失点に抑えた。自身が放った援護点もあり3対0のリードでマウンドを戸郷翔征(巨人)に譲り、最後まで指名打者として出場を続けた。
 戸郷は6回に梁培にソロ本塁打を浴び、7回も「一発出れば逆転」のピンチを招くが連続三振を奪ってピンチを切り抜けた。
 こうして6回までは2点差で進み、中国のディーン・トレーナー監督が「“もしかしたら”と希望を抱かせる展開を作れました」と振り返る展開だった。
 しかし、7回に牧秀悟(DeNA)が逆方向のライトスタンドへ見事なソロ本塁打を放つと、直後の8回表には湯浅京己(阪神)が150キロを超えるストレートと落差のあるフォークのコンビネーションで三者連続三振を奪って中国打線に反撃の機会を与えず。
 すると8回裏、大谷のライト前安打や四球でチャンスを作ると、山田哲人(ヤクルト)と甲斐拓也(ソフトバンク)のタイムリーなどで4点をダメ押し。最後は伊藤大海(日本ハム)が危なげなく3人で抑えて試合を締めた。
 相手投手の制球が不安定で多く出塁したにもかかわらず16残塁と課題は残したが、まずはきっちりと白星を収めた侍ジャパン。次戦は3月10日19時から、初戦のオーストラリア戦を落とした韓国と対戦。侍ジャパンはダルビッシュ有(パドレス)の先発で臨む。
 一方、韓国のイ・ガンチョル監督は国際大会の経験が豊富で日本と過去に何度も対戦のある左腕キム・グァンヒョンの先発を明言。幾度も好勝負を繰り広げてきた好敵手の捨て身の気迫に立ち向かう。(出典 WBC)


一次ラウンドC組 メキシコと米国が準々決勝へ

メキシコ、カナダを10対3で下して3勝一敗でC組1位通過 同じく3勝1敗の米国は得失点差で2位通過 出典 WBC

初回4失点の誤算もメキシコが逆転 プエルトリコを下し初の準決勝進出を決める
 3月17日(日本時間18日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』の準々決勝がアメリカのローンデポ・パークで行われ、メキシコが4点のビハインドをひっくり返して5対4とプエルトリコに勝利。初めての準決勝進出を決めた。
 試合はいきなり動いた。メキシコの先発で昨年のMLB最優秀防御率のタイトルを獲得しているフリオ・ウリアスにプエルトリコ打線が襲い掛かる。
 四球とサンディ・ベルムデスの安打で1死一、三塁のチャンスを作ると、エマヌエル・リベラがライトへの犠牲フライを打って先制。さらにハビエル・バエスが逆方向のライトへ2ラン本塁打を放つと、続くエディ・ロサリオもセンターへ2打席連続本塁打を放って、初回から一挙4得点。準々決勝進出を喜んだ際に負傷し離脱となった守護神エドウィン・ディアスの思いも背負って戦う選手たちの闘志が乗り移ったかのようだった。
 それは守備にも感じられ、4回には左中間に抜けそうな打球を中堅手エンリケ・エルナンデスがダイビングキャッチ。プエルトリコファンが多く集まったスタンドを大いに沸かせた。  こうした援護もあり、プエルトリコの先発マーカス・ストロマンは5回途中まで、アイザック・パレデスのソロ本塁打とアレックス・ベルドゥーゴのタイムリーの2点に抑え、後続に託した。
 そして7回からはエドウィン・ディアスの入場曲に乗り、弟のアレクシス・ディアスが登板。スタンドのボルテージは上がったが、これが裏目に出る。
 メキシコのこの回先頭オースティン・バーンズに二塁打を打たれると連続四球で無死満塁。気負いすぎたのかアレクシス・ディアスは1つのアウトも取れずに降板となった。このピンチに登板したホルヘ・ロペスは2死までこぎつけるが、パレデスに同点の2点タイムリーを打たれると、ルイス・ウリアスにもタイムリーを打たれ、ついに逆転を許す。どちらも詰まった当たりだっただけに不運だったが、一度傾いた流れは止められなかった。
 逆転に成功したメキシコは、救援陣が奮闘。ウリアスの後を継いだハビエル・アサド、ジョジョ・ロメロ、ジェーク・サンチェスと繋いでいくと最終回はジョバニー・ガジェゴスが登板。クリスティアン・バスケスとフランシスコ・リンドーに安打を打たれ、2死一、二塁のピンチを招くが、最後はエルナンデスを見逃し三振に抑え試合終了。
 1次ラウンドのプールCでアメリカを破り1位通過した実力と勢いをメキシコが見せつけて逆転勝ちを果たした。一方、プエルトリコは2回以降に打線が沈黙。大きなミスこそ無かったものの悔しい敗戦となった。
 初めての準決勝進出を果たしたメキシコは、3月21日8時(日本時間)から3大会ぶり3回目の優勝を目指す侍ジャパンと戦う。

出典 WBC

米国、コロンビアを3対2で接戦を制し、3勝1敗。一次ラウンド二位突破

出典 WBC
アメリカのキャプテン・トラウトが3安打3打点の大活躍 コロンビアを1点差で下して準々決勝進出を決める
 3月15日(日本時間3月16日)、『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』プールCの5日目が行われ、アメリカが3対2でコロンビアに逆転勝ち。2位で準々決勝進出を決めた。
 アメリカを勝利に導いたのは4打数3安打3打点とチームの全打点を叩き出したキャプテンのマイク・トラウトだった。まずは1回表の第1打席、2番センターで出場したトラウトは1死から右中間に三塁打を放って先制点のチャンスを演出する。その後、ポール・ゴールドシュミットが四球を選んで一、三塁とするが、ノーラン・アレナードがサードへの併殺に倒れて先制点を奪うことはできなかった。
 それでもアメリカは3回に2死からムーキー・ベッツが安打で出塁すると、暴投で二塁に進む。ここでトラウトがセンター前に弾き返すタイムリーを放ち、待望の先制点を挙げた。
 一方、初の1次ラウンド突破の可能性を残すコロンビアも意地を見せる。3回に先頭のオスカー・メルカドの二塁打でチャンスを作ると、1死三塁からジオ・ウルシェラの犠牲フライで同点。さらに2死一塁からレイナルド・ロドリゲスがセンターオーバーのタイムリー二塁打を放ち、勝ち越しに成功した。
 逆転を許したアメリカは5回に1死二、三塁と逆転のチャンスを作る。この場面で打席に立つのはトラウト。西武育成のジャシエル・ヘレラが投じた変化球を捉えると、レフト前への逆転2点タイムリーとなり、アメリカが再びリードを奪った。
 アメリカは先発のメリル・ケリーが3回に2点を奪われたが、4回からは豪華リリーフ陣による継投でコロンビアの反撃を封じる。ケンドル・グレーブマン、ダニエル・バード、デービッド・ベッドナー、ジェーソン・アダム、デビン・ウィリアムズ、ライアン・プレスリーが1回ずつを投げ、4回以降は2安打しか許さなかった。
 接戦を制したアメリカは3勝1敗でプールCの2位となり、日本時間3月19日8時から行われる準々決勝でプールD1位のベネズエラと対戦する。
 惜しくも敗れたコロンビアは1勝3敗でイギリスと並んだが、直接対決で敗れているため5位となり、次回は予選に回ることになった。
出典 WBC

マイク・トラウトの3ランホームラン 出典 WBC

豪華リリーフによる継投でコロンビアの反撃を封じた米国投手陣 出典 WBC


米国、カナダ戦では12対1で大勝、コールド勝ち、前回優勝の貫録を見せる マイク・トラウト本塁打 現在1次リーグC組の1位はカナダ(2勝1敗)、2位が米国(2勝1敗) 3月16日米国は、1次ラウンド通過をかけてコロンビアと対戦 カナダは米国を破ったメキシコと対戦   出典 WBC

C組順位表  出典 WBC

米国、メキシコにまさかの敗戦 11対5の大差 1勝1敗に 一次ラウンド突破に暗雲 出典 WBC
 




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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)

2023年03月02日 16時15分21秒 | 東京オリンピック
海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示ガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)




海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者の第一回「四者行儀」トップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、整備を683億円から514~529億円程度に削減して建設することで決着した。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減した。テレビ撮影で利用する桟橋の設置を見送ったことでお約60億円を圧縮し、追加工事が生じた場合の費用として予備費約90億円の削減した。また屋根付きの観客席「グランドスタンド棟」や艇庫棟の規模を縮小し、一部を仮設で整備。施設内の通路の舗装も簡素化する。
アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。しかし、バレーボール会場については、「有明アリーナ」を建設するか、横浜アリーナなど既設の競技場を使用して開催するかは、先送りにした。
 このため、V1予算の公表も先送りとなった。


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 四者協議の開催を控えて、高騰が懸念されている焦点の開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」と述べた。「2兆円」をベースに議論を始めたいとする組織委員会の思惑が込められた。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」とあっさり「2兆円」を否定し、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、「2兆円」を了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。
 コーツ副会長がこうした発言を行った背景には、五輪大会の肥大化批判がある。膨張する開催経費に耐え切れず開催地に立候補する都市がなくなる懸念が生まれていた。IOCは「アジェンダ2000」で五輪大会のスリム化を掲げ、2020東京五輪大会をその最初の大会と位置付けていた。その東京大会が、開催経費「2兆円」という破格の高額予算になっては、IOCの面目は丸つぶれである。海外のメディアに「東京大会2兆円」と報道されるとそのインパクトは大きく、また肥大化批判が巻き起こるのは必至である。コーツ副会長は「2兆円」を認めるわけにはいかなかったのである。
 以後、大会組織委員会は、開催経費縮減に取り組むことが最大の課題になった。

「競技場は一つもつくらない」 ロサンゼルスのしたたかな挑戦
 2020東京五輪大会の次の2024大会の開催都市招致レースは佳境を迎えていた。本命はパリとロサンゼルス。
 五輪招致を辞退したボストンに代わって、米国の五輪大会招致都市として名乗りを上げたロサンゼルスは、次の時代の五輪のコンセプトを先取りした“コンパクト”五輪を掲げて、招致をアピールしていた。
 2016年11月29日(日本時間)に東京で開かれた第一回「4者協議」で、コーツIOC副会長が、東京大会の開催費用「2兆円」は受け入れられないと発言したわずか数時間後に、2024年夏季五輪招致を目指すロサンゼルス招致委員会は、大会開催経費は「53億ドル」(約6000億円)に収めると発表した。しかもこの中に、4億9100万ドル(約540億円)の予備費も計上済だ。破格の低予算である。「約53億ドル」は、リオデジャネイロ大会の約半分、東京大会の約3分の1である。
 開催費用削減をターゲットにするIOCの意向を巧みに取り入れ、世界各国にアピールする作戦だ。
 開催費用の削減は、ロサンゼルスにとって、最有力の強敵、パリとの競争に勝ち抜く“切り札”になっている。
 「53億ドル」は、大会運営費と競技場(恒久施設)などのインフラ投資経費(レガシー経費)の合算、ロサンゼルス周辺に30以上の既存施設があり、競技場は新設する必要がなく、低予算に抑えられたとしている。選手村はカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の学生寮を利用する計画だ。
 1984年に開催されたロサンゼルス五輪では、徹底した経費の削減と収入確保戦略で2億1500万ドル(約400億円)の黒字を出し、世界を驚かせた。
 ロサンゼルス五輪招致委員会のケーシー・ワッサーマン会長は「もしロサンゼルスが五輪開催地に選ばれたら、IOCは開催予算や競技会場変更問題から解放されるだろう」と胸を張る。
 「コンパクト五輪」を掲げた東京五輪2020、開催経費「2兆円」では面目丸つぶれである。

世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は青天井のままで膨れ上がり、闇に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 杜撰な競技場整備計画の象徴とされた海の森水上競技場について、小池東京都知事は、新たに建設する競技場を「スマート施設」と名付け、20年程度使用可能な仮設レベルで、グランドスタンド棟、フィニッシュ棟、艇庫などを整備することで、298億円(スマート案)で建設することを明らかにした。これで491億円から約200億円が縮減された。
 また観客席の規模も見直し、グランドスタンド棟(2000席 恒久席)の屋根の設置を半分の1000席分にするとともに、仮設席を1万席から4000席に半分以下に削減して、立見席の1万席を加えると1万6000席(当初計画2万2000席)に縮小した。
 小池氏は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、「仮設」というと粗雑な施設という印象を与えるが、「スマート施設」というと耳障りが良いと述べた。

 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の杜撰さを象徴している。「お粗末」としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその杜撰さは明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、そして最終案「298億円」(スマート施設)、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」を積み上げた数字を検証もせずにそのまま計画に上げた担当部局の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場移転」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。300億円台が可能ならなぜもっと早く検討しなかったのだあろうか。予算管理の甘さが如実に現れている。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は「2兆円を切る」と言明したが、コーツIOC副会長に「『2兆円』の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCはそれをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、「2兆円」の内訳は、新国立競技場の整備費約1500億円や東京都が建設する競技場施設の整備費2000億円など施設整備は20%程度で、大半は、東京都や組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、「2兆円」を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出することを要請された。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 開催経費を「2兆円」とすれば、組織委員の収入は約5千億程度、残りの1兆円5000億円を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのだろうか。未だに実は何もできていないことが明らかになっった。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整は果たして可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)も危機感を持ち始めている。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。

コーツIOC副会長と森喜朗組織委会長 会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 V1予算 第二回「四者協議」トップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 1か月後の2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の第二回「四者協議」のトップ級会合が開かれ、組織委員会は大会全体の経費について、最大1兆8000億円(開催経費1兆5000億円 予備費1000~3000億円)になるという予算(V1)を明らかにした。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 前月11月の「四者協議」で、コーツIOC副会長から「2兆円」が否定されて、なんとか「2兆円」を下回る額を提示することに成功し、大会組織委員会はなんとか面目を保った。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と賛辞を送った。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

 V1予算「1兆8000億円」(予備費を除くと1兆5000億円)について、小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な『通過点』に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。しかし、その一方で総額についてはさらなる大幅な削減を求めた。
 V1「1兆8000億円」では、国、東京都、組織委員会の負担分が明らかにされなかった。
 小池都知事は、経費分担について、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者(IOCを除いて)でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。









開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。

地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 一方、2016年12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
 2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。舛添要一前都知事の新設競技場の見直しで、レスリング、フェンシング、テコンドー会場は幕張、自転車競技[トラック・マウンテンバイク]会場は伊豆、ヨット・セーリング会場は江の島、自転車[ロード]会場[終着]は富士など東京都外の会場が増え、開催自治体の経費負担が問題になっていた。
 その後、関係する自治体は、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。

開催経費「1兆3850億円」(予備費を含めると最大1兆6850億円)  都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料
東京都6000億円、国1500億円は記されているが残りの350億円の負担は記されていない

 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費


 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回ので連絡協議会明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」を目指すということだ。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円だった。今回の「1兆3850億円」でも同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、経費圧縮のの詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。
 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。

都外開催経費分担決まる 大会組織委員会・東京都・地方自治体
 2017年9月、紛糾していた1道6県に立地する14競技場の開催経費負担について、大会後撤去する観客席やプレハブ、テント、警備用フェンスなどの仮設施設の整備は、東京都が約250億円、国や民間所有の施設については、大会組織委員会が約250億円を負担し、警備費や輸送費などの350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てることが決まった。これにより、地方自治体の負担は大幅に軽減された。
 小池百合子都知事は、都外14競技場の仮設費、500億円については、原則、都が全額負担すること表明していたが、その内、約250億円が新国立競技場や自衛隊朝霞訓練場など国の施設やや武道館や霞ヶ関カンツリー倶楽部などの民間施設の仮設施設が対象だったために東京都が支出するのは困難なことが分かり、大会組織委員会に負担を求めていた。
 大会組織委員会は、さらに運営費の一部(大型ビジョン、通信設備など)300億円や福島あづま球場とサッカーの追加1会場の仮設費、100億円についても負担することを決め、大会組織委員会の負担額の増分は合わせて700億円程度となった。
 これらの負担増は大会組織委がこれまで示してきた5000億円の枠外のため、収支均衡予算を保つには、収入増が必要となる。
 大会組織委員会では、スポンサーのさらなる獲得や、グッズ、チケット販売を増やすことで増収を図るとしている。
 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)や日本オリンピック委員会(JOC)にロイヤルティー(権利費)を約3割支払う必要があり、700億円を確保するためには約1000億円の増収が必要となる。
 大会組織委員会では、「1業種1社」の枠を外す新カテゴリーでのスポンサー獲得などで約500億円の増収を見込んでおり、さらなる営業努力で1000億円の増収を目指すとした。

都の五輪5施設が赤字見通し 黒字は有明アリーナのみ
 都政改革本部の調査チームは、開催経費の縮減を掲げて、オリンピック・アクアティクスセンター、海の森水上競技場、有明アリーナ3会場の見直し求めた。結局、3会場とも整備計画は大幅に縮小されたが、建設することが決まった。
 焦点は、巨額を投じ整備した競技施設の後利用をどうするのかに移った。後利用が順調に進まなければ、利用料収入が伸び悩み、巨額の維持管理費がまかないきれず、赤字となり都財政の重荷となる。
 2017年3月、東京都は、東京都が整備する6の競技施設の後利用計画や年間収支の見通しを明らかにした。これによると新設の6施設のうち、バレーボール会場の有明アリーナ(江東区)を除く5施設が赤字運営となる見込みとなっている。
東京都は、「これは最小限の数字で、今後の工夫で収支は改善できる」としておりネーミングライツ(命名権)の導入などで収益アップを目指したいとした。
 五輪会場が負の遺産(レガシー)になるのを防ぐという難題を小池都知事は背負った。今後は各競技場の収益性向上や維持管理の効率化が課題となった。
 5施設の赤字額は、水泳競技会場のオリンピック・アクアティクスセンター(江東区)が6億3800万円▽ボートとカヌー(スプリント)会場の海の森水上競技場(臨海部)が1億5800万円▽カヌー・スラロームセンター(江戸川区)は1億8600万円▽大井ホッケー競技場(品川、大田区)は9200万円▽夢の島公園アーチェリー場(江東区)は1160万円とした。



唯一黒字を確保する有明アリーナ
 五輪大会でバレーボルの会場として建設された有明アリーナは、大会後は、コンサートや文化イベントの開催施設として高く評価され、6つの競技場の中で唯一の黒字を確保する見通しの施設となる。
 メインアリーナは、バレーボールのワールドカップなど年間10大会を開催し、コンサートなどのイベント開催で102万人の来場者の見込み、サブアリーナは市民利用を中心に17万人、トレーニングジムやレストラン・カフェなどでは21万人、計140万人の来場者を想定する。年間収入は、イベント開催の施設利用料が大幅に見込まれ、12億4500万円、支出は8億8900万円で、年間収支は約3億6千万円の黒字となる見通しを立てている。
 有明アリーナは、開催経費削減で、横浜アリーナ(横浜市)への変更も一時検討されたが、整備費は約404億円を約339億円に圧縮して建設することが決まった。
 五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やホテルやスポーツ施設も整備し、地区内に新たに建設される「有明体操競技場」や改装される「有明テニスの森」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーするとした。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間の資金やノーハウを活用する。
 指定管理者の総合評価方式で入札が行われ、電通を代表とするグループや東京建物グループ、東京ドームグループなどが応札したが、2019年3月、審査の結果、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的なネットワークを活用して大規模なスポーツ大会やイベントを誘致する計画や、エントランスの大型ビジョンや高密度WiFiなどを整備し、スマートアリーナを目指すことなどが評価された。
 小池知事がこの計画を明らかにした四者協議で、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 有明アリーナは、小池都知事が推し進めるレガシー実現の可能性にあふれた競技場の象徴となった。


ARIAKE LEGACY AREA 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ  提供 TOKYO2020

「陸の孤島」 海の森水上競技場
 東京臨海部で建設中の海の森水上競技場はボート、カヌー会場で、2000メートル8レーンのコースを備えた国内最高峰の水上競技施設。491億円もの建設コストが批判を浴びて、見直し検討の対象となったが、仮設レベルの仕様で建設する「スマート施設」にしたり、観客席の屋根を縮小したりして、整備経費をを298億円に圧縮することで決着した。
 大会後は年間30大会の開催を目指し、来場者目標を年間約35万人に設定した。競技会利用(大会、練習、合宿等)で約31万人、一般利用で4万人とした。最大のネックは競技人口の少なさで、国内のボート競技人口はわずか9000人、国内の大きな大会や国際大会を誘致するとしているが、国内大会は、「ボートの聖地」戸田漕艇場を始め、すでに全国各地にボート場があるので大会開催は限界がある。また国際大会を誘致する計画だが、せいぜい年に1回程度、開催できれば上々だろう。
 東京都では、市民利用にも期待を寄せて、水上スポーツ体験や水上レジャーやイベントの開催、さらに企業研修での利用を計画したいとしている。また周辺の海の森公園を整備して、公園との一体利用を進めることで、年間35万人の来場者の確保は「決して無理な数字ではない」と説明する。
 海の森水上競技場が建設されたのは東京港突端の中央防波堤、交通アクセスの不便さから、「陸の孤島」と言われてきた場所である。イベントを開催するといっても交通アクセスが整備されていなく、来場者の確保が可能かどうか疑問視されている。東京都では、都営バス路線の拡充を検討するとしているが果たしてどの程度の効果があるのか疑問視されている。
 年間35万人の来場者を達成しても海の森水上競技場の年間収支は約1億6千万円の赤字を見込む。
 東京都の有識者会議では一部の委員から「過大な期待は難しい。身の丈に合った計画でやるべきだ」と指摘を受けた。レガシー(遺産)として存続させるのにふさわしいのかどうか今後も常に検証が必要になるだろう。東京都は来場者数が目標を大幅に下回るようなら20年後に廃止することも視野に入れているといが、298億円は余りにも「もったいない」。


海の森水上競技場 (左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター  筆者撮影

赤字額最大 オリンピックアクアティクスセンター
 赤字額が最も大きいのが水泳会場のオリンピックアクアティクスセンター(江東区)である。「世界水準のプール」をアピールして、ワールドカップやアジア水泳選手権などの国際大会や日本選手権などの国内主要大会をあわせて年間100大会誘致し、競技利用で約85万人の来場者を見込み、次世代のアスリートの育成の場としたいとしている。一方、サブプールやスタジオなどの市民の個人利用は約15万人で、合わせて年間100万人の利用者を想定している。
 年間収支は、収入が3億5000万円だが、プールの水質維持などに維持管理経費が9億8800万円に膨らみ、6億3800万円の赤字に陥ると試算した。
 この試算に対しては、甘すぎるとして関係者から厳しい批判を浴びている。試算をまとめた外部委員からも「黒字の必要はないが、健全な運営が必要」「一定の目標に達しなければ、施設を更新しないと決めるべきだ」などの指摘が相次いだ。
 オリンピックアクアティクスセンターのすぐ隣には大会会時には水球の会場となる東京辰巳国際水泳場がある。そもそも水泳競技場は過剰なのである。大会開催後、この二つの水泳競技場を維持していくのは至難の業であろう。


オリンピックアクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

競技大会開催に悩むカヌー・スラロームセンター
 葛西臨海公園の隣接地に建設されたカヌー・スラロームセンターは、「国内初の人工スラロームコース」を備えた施設を掲げ、国際大会や国内大会、年間7大会を誘致する目標を立てている。しかし、カヌー・スラロームの競技人口は日本国内でわずか約400人と極めて少なく、大会開催の実現が極めて厳しい環境にある。
 期待をかけるのは市民利用の拡大で、ラフティングなどの水上レジャーや水上スポーツで市民が楽しめる場にしたいとしているが、賑わうのは夏季期間だけで、年間通しての来場者の確保は絶望的である。誰も来ない寂しい光景が連日続くことになるだろう。
 年間来場者の目標は、競技利用で約3万人、一般利用で約7万人、計10万人としている。
 年間収支は、収入が1億6400万円、支出が収入の倍以上の3億4900万円、1億8600万円の赤字を見込んでいる。
 「人工スラロームコース」は、流れの速い特別なコースを人工的に整備する施設で、一般的な水上レジャー施設にならない。しかも夏季だけの限定された期間を除き、市民の利用者はほとんどいないと思われる。年間田来場者10万人の達成はかなり難しく、施設の維持には難問を抱えている。


カヌー・スラロームセンター 2019年7月8日から7月31日まで、この競技コースを使用してラフティング体験イベントが開催され、あわせて約530が参加した。 筆者撮影

「スポーツの森」の施設として一体運用 大井ホッケー競技場
 大井ふ頭中央海浜公園の「スポーツの森」に建設された大井ホッケー競技場は、全国でも数少ない公共のホッケー場として建設された。メインピッチとサブピッチの2つの施設が整備されている。
 大会後の後利用では、国際大会や国内大会で年間23大会の開催を目標としている、市民利用では、ラクロス、サッカーなどの大会や練習施設としての活用を図る。
 年間来場者は、大会開催で約13万人、練習・合宿などの利用で約7万人、計20万人を見込む。
 年間収支は、収入が5400万円、支出が1億4500万円で、年間9200万円の赤字。
 「スポーツの森」は、野球場、陸上競技場、テニスコートが整備されている総合運動公園で、干潟保全地区の「なぎさの森」が隣接し、バーベキューや釣り体験を楽しめるアウトドアアクティビティエリアも整備され、統合スポーツ・レジャー施設としとしてレガシー創出を狙う。


大井ホッケー競技場  READY STEADY TOKYO Test Events 筆者撮影

市民の来場者確保が鍵 夢の島公園アーチェリー場
 夢の島公園アーチェリー場は、アーチェリーを中心に、夢の島公園内に整備されている陸上競技場や野球場、スポーツ文化館、そして芝生の広がる共生広場と連携した市民の憩いの場を提供するとしている。
 アーチェリー競技大会は、年間20回の開催を目標にし、年間来場者は、競技利用で3000人、音楽イベントやヨガ、グルメのイベントなどの開催で3万人を見込む。
 年間収支は、収入が330万円、支出が1500万円、年間赤字額は1170万円を想定する。
 競技利用での来場者は、年間わずか3000人、月平均250人にとどまり、アーチェリー場は閑散となるのは必至である。
 芝生の広がる共生広場を中核に据えた市民の憩いの場にするほうが次世代のレガシーになると思われる。 


夢の島公園アーチェリー場 予選会場は完成  出典 READY STEADY TOKYO Test Events

「コンセッション方式」の導入 
 東京都は、民間に競技場の運営権を売却する「コンセッション方式」を採用して、民間企業の資金とノウハウを活用して競技施設の有効活用を図る。
 有明アリーナの指定管理者は、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的ネットワークをフル活用して、ビックスポーツ大会や音楽イベントを誘致する「電通パワー」が評価された。
 またオリンピック アクアティクスセンターは東京都スポーツ文化事業団を代表にして水泳場の運営で実績のあるオーエンス・セントラル・スポーツ、東京都水泳協会のグループ、海の森水上競技場は一般財団法人公園財団を代表に日建総業、野村不動産ライフ&スポーツのグループ、カヌー・スラロームセンターは株式会社協栄、大井ホッケー競技場は、日比谷アメニス、日建総業、太陽スポーツ施設、エコルシステムが選定された。
 東京都によればいずれも公共のスポーツ施設等の運営・管理に多くの実績と知見を有する会社・団体だとしている。
 これから、各競技場ごとに、指定管理者と都の関係各局で構成する検討会を設置し、大会後の運営も含めた具体的な施設運営計画を策定し、ネーミングライツ(命名権)の売却や広告獲得に力を入れて収支の改善を図る計画である。
 果たして、想定した利用計画や収支が確保できるのかどうか、指定管理者の作成する施設運営計が注目される。 
 しかし、海の森水上競技場やオリンピック アクアティクスセンター、カヌー・スラロームセンターは東京都の試算では赤字が想定されていて、大会後の運営管理は容易ではない。

競技場をレガシーにするのは難題
 東京都では、競技施設を中核にして、周辺の商業施設や公園などと一体となった「点ではなく面での活性化」を推進したいとしている。地域全体を魅力的なエリアに再開発して、人を呼び込む仕掛けづくりを実現して地域の活性化を狙う。そのためには実効性のある基盤整備が必要となるが、中でも交通インフラの整備が最大の課題となる。
 1998年長野冬季五輪の競技会場は、大会後の維持管理や改修に巨額の費用の負担が残り、開催地の自治体の財政を圧迫し続けて、「負の遺産」の象徴となった。2020東京五輪大会の競技会場も、大会後の運営で出る赤字分は都の負担となる。各施設の収益性の向上は至上命題である。
 自治体所有のスポーツ施設は、ただでさえ運営は厳しい。

 日本国内のスタジアム経営は極めて難しい。プロ野球のスタジアムやごく一部のサッカースタジアムを除き、国内の大半のスタジアムは、基本的に赤字である。とりわけ自治体が主有するスタジアムやアリーナは、大学や高校、社会人などのアマチュアスポーツの利用や一般市民のスポーツ振興を図らなければならので商業的なイベント利用は制限が多い。
利用料収入では維持管理費をまかないきれず税金を投入して運営を維持している。つまり競技施設はつくれればつくるほど後年度負担が増えるのである。
 市民民スポーツ振興のために整備されている各地の体育館やグランドなどは、基本的に市民にたいする行政サービスの一環なので、税金を投入して維持管理をするのは当然だろう。しかし、大規模な競技大会を開催する「スポーツイベント施設」の整備は、採算をしっかり視野に入れて慎重に行わなければならない。
 東京都は、五輪大会開催に向けて、オリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場、カヌー・スラローム会場、大井ホッケー場、夢の島アーチェリー場の6つの恒久施設を、約2000億円を投じて建設する。こうした競技施設は、50年以上に渡って利用され、毎年、巨額の維持運営費を負担しなければならない。利用料収入が維持運営費を上回らない限り、赤字が次の世代の負担となってのしかかる。「負のレガシー」になる懸念は更に深まった。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
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“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)



東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)



国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

*****************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)

2023年03月01日 18時47分46秒 | 東京オリンピック
小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)





小池都知事VS森会長の対立激化に危機感 バッハIOC会長 小池都知事との会談に
 小池百合子東京都知事と森喜朗大会組織委会長との対立激化で混迷が深刻化している中で、2020東京五輪大会の準備態勢に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、急遽、来日して両者の仲介の乗り出すことになった。
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は東京都庁を訪れ、小池百合子都知事との会談に臨んだ。。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 東京都庁で行われた会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられたまさに“小池劇場”の最大の見せ場となった。


バッハIOC会長と小池都知事 2016年10月18日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 四者会合開催で合意
 バッハ会長との会談の冒頭に、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は、小池都知事が五輪開催に際して掲げているコンセプト、「もったいない」を受けて、「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語った。これに対して小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と「四者協議」の開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じ、東京都、大会組織委員会、国、IOCによる四者協議の開催が事実上決まった。森喜朗組織委会長も国もいない場で五輪見直しの競技の枠組みが決まったのである

 また抜本的な見直しの検討が進められている焦点の海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
 バッハ会長は、「東京が勝ったのは非常に説得力のある持続可能で実行可能な案を提示したからです。東京が開催都市として選ばれた後に競争のルールを変えないことこそ日本にとっても東京にとってもIOCにとっても利益にかなっていると思う」と暗に海の森水上競技場の見直しを牽制した。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

主導権争いの前哨戦 「IOC、ボート・カヌー競技など韓国開催も検討」報道
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)は、海の森水上競技場が建設されない場合には、代替開催地として韓国を検討していると、国内の大会関係者が明らかにした。関係者によると、IOCは海の森水上競技場の整備費が高額であることを憂慮して、2年前にも韓国案を選択肢として組織委員会に示しており、再度持ち出す可能性があるという。
 関係者によると、IOC側が想定するのは、2013年世界選手権や2014年仁川アジア大会で使われた韓国中部、忠州(チュウンジ)の弾琴湖国際ボート競技場で、ソウルから約100km離れた場所にある湖のボート場で、国際規格の2千メートルコース8レーンを備える。
 IOCは14年12月に承認した中長期改革「五輪アジェンダ2020」で、コスト削減などの観点から例外的に五輪の一部競技を国外で実施することを容認している。交通アクセスなどに課題があるものの、ボート関係者によると「数カ月あれば、五輪を開催できるような能力をもったコース」という。これに対してバッハ会長は、「憶測はうわさにはコメントしない」と述べた。
 「韓国開催」の報道は、小池都知事とバッハIOC会長が会談する直前というタイミングで各メディア一斉に行われた。
IOC関係者が小池都知事とバッハ会長の会談の直前を狙ってリークしたとされている。このリークは、小池都知事の海の森水上競技場対応の“独走”に不満を持ち、牽制したと考えるのが自然だろう。小池都知事と組織委員会とのぎくしゃくした関係に不快感を示した国際オリンピック委員会(IOC)が仕掛けたしたという観測もされているが真偽のほどは分からない。ボート・カヌー競技場を検討する経緯の中で、国際オリンピック委員会(IOC)内部で議論の一つになっていたことがあると思える。しかし、今のタイミングでこの議論が再浮上としたとは考えにくい。やはり、国内の五輪関係者がバッハIOC会長来日のタイミングを狙ってリークしたと考えるのが自然だろう。
いずれにしてもバッハIOC会長訪日にからんだ一連の主導権争いの序章だったことには間違いない。

「復興五輪」を仕掛けて“主導権”を取り戻した森組織委会長
 10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。
 会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。
 またバッハ会長は 「復興に貢献したい。世界の人たちに、復興はこれだけ進捗していることを示すことができる」とし、大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールについては、選択肢の1つとした上で、 「日本のチームが試合をすれば、非常にパワフルなメッセージの発信につながる」と述べた。
 野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致している。
 前日の小池百合子との会談では、バッハIOC会長は、この話を一切出さなかった。
 関係者の話を総合すると、バッハIOC会長は、小池都知事と会談したあと、組織委員会を訪れ、森喜朗組織委会長と会談をしている。この会談の中で、森喜朗組織委会長から、野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。バッハIOC会長は、小池都知事を通り越して、安倍首相との会談で、「復興五輪」の推進を高らかに宣言した。

“おやじさん”、“兄弟” 森組織委会長 バッハIOC会長との親密さを演出
 2016年10月月26日、都内で開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラム(World Forum on Sports and Culture) 基調講演で、バッハIOC会長は、「IOCは被災地でいくつかの競技を行うことを検討している。野球とソフトボールを開催するのも一つの選択肢だ」と異例の演説をした。
IOC会長の発言力は極めて影響力があり、通常はここまで踏み込んだ発言はしない。
 「復興五輪」にふさわしいのは、日本で人気のある野球・ソフトボールを被災地でおこなうことだろう。バッハIOC会長発言は、この点をしっかり踏まえたものであった。あまり日本では馴染みのないボート・カヌー競技よりはるかにインパクトがある。小池都知事が力を入れていると思われる長沼ボート場でのボート・カヌー競技開催を“牽制”したと思える。
 バッハIOC会長は野球・ソフトボールと具体名を出したが、その一方で、ボート・カヌー競技については何もコメントせず、質問されても何も言及しなかった。
そして、「これは被災地の人々を応援する重要なメッセージになる。この点について昨日森組織委会長の計らいで安倍首相と話をする機会を得た」と述べ、森組織委会長の根回しがあったことを明らかにした。
 バッハIOC会長と安倍首相との会談は、もともとの予定にはなく、急遽セッティングされたものだとされている。森組織委会長の“根回し”で実現したのであろう。安倍首相もこの問題に登場させた森組織委会長の政治家として手腕は健在だ。
 この会談で、小池都知事が強調した「復興五輪」を、逆手にとって、野球・ソフトボールの開催をバッハIOC会長に発言させることで、小池都知事の動きを封じ込め、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主導権を奪い返そうとする森組織委会長のしたたかな戦略だと思う。海の森水上競技場での開催を守ろうとする反撃といえるだろう。
 カヌー・ボート競技会場を長沼ボート場にした場合、選手村からの距離が遠いので、分村を設置しなければならないという問題が生まれる。
 この点についても、森組織委会長は、「選手村は非常に大事だ。世界中の人がそこに集まって一緒に話し合って語り合って未来を考えることができる。そういう意味では、原則的に分村はできるだけ避けてひとつの選手村に選手たちは行動をともにしていただければということだ」と述べた。
 これに対しバッハIOC会長は、「もっとも重要なことは選手村がオリンピックの魂であり中心であることだ」と森組織委会長に同調した。
こうした一連の発言で、小池都知事が経費削減と「復興五輪」のシンボルとしていた海の森水上競技場の長沼ボート場移転は、勢いを失ったようである。
 また森組織委会長はバッハIOC会長との“親密”な関係をアピールする戦略にも乗り出した。 

 森組織委会長は「バッハIOC会長は私どもの『おやじさん』、本当に心から崇拝している。2020年東京大会を主導してくれる「船長』さん。2020年東京大会とバッハIOC会長とは『兄弟』であるわけだ」と述べ、これに対しバッハIOC会長は「森さんとは先ほど『兄弟』という暖かい言葉を頂いたので、私は『弟』と呼ぶべきかな」と語った。
 「経費削減」、「復興五輪」、小池都知事に東京五輪の主導権を奪われかけた森組織委会長は、バッハIOC会長来日を機会に、一気に攻勢に出て巻き返しを図ったといえる。バッハIOC会長もこれに呼応して、野球・ソフトボールの被災地開催に言及した。
 海の森水上競技場を維持しようとする国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会の連携作戦も強烈だ。バッハIOC会長に同行したコーツIOC副会長は、元オリンピックのボート選手、「(コーツ氏の地元)シドニーの私のボートコースは海で、海水がダメというのはおかしい」とした上で、「選手村は一つ」、「レガシーとして残す」と強調した。明らかに海の森水上競技場擁護の姿勢である。
森組織委会長との親密さをアピールし、組織委員会との連携を強め、小池都知事の“封じ込め”を図ろうとしている。
 それにしても総理大臣経験者の老練な政治家、森組織委会長のしたたかな手腕がいかんなく発揮され始めている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを巡る小池都知事、森組織委会長、コーツIOC会長、三つ巴の主導権争いは更に激化した、2020東京オリンピック・パラリンピックはどこへ向かうのだろうか?

小池都知事VSバッハIOC会長 “軍配”は? 
 10月18日に開催された会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。まさに“小池劇場”の上演で、主人公は小池百合子都知事、この舞台には森喜朗大会組織委会長はいない。
 11月に開催される四者協議も、小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。
 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、その後、組織委員会やIOCと協議を行うという作戦だったと思える。ところがコーツIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案し、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。「四者協議」の設置は合意され、来月に開催されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席する。

 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。
小池都知事と組織委員会の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして仲介に乗り出し、小池都知事にクギを刺して、組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたバッハIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設を合わせて最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。

 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、2020東京五輪大会の開催計画について直接、議論をする場を確保した。
 2020東京五輪大会の誘致が決まってからは、開催準備体制は、事実上、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会との間で進められていて、開催都市の東京都の主導権はほとんどなくなっていた。小池都知事の登場で、東京都は一気に存在感を増すことに成功したのである。
 「四者協議」で具体的な見直し案を提出するのは東京都で、組織委員会ではない。また組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり小池都知事や都政改革本部が見直しの主導権を握っていると思われる。
 しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?、まったく見通せない状況になった。

問われる国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢
四者協議は“オープンな形”で“リーダーはいない” バッハ会長の約束はどうなる?

 小池都知事との会談の翌日、10月19日に組織委員会を訪れたバッハIOC会長は、記者会見で、経費削減に向けて提案した国・東京都・組織委員会・IOCとの四者協議について、緊密に連携していきたいという考えを示した。
 バッハIOC会長は、「四者協議については組織委員会とも合意した。四者協議は技術的な作業部会であり、さまざまな数字や異なる予算を提示して協議していく」と述べた上で、記者団から四者協議の進め方について問われたのに対し、「作業グループは誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない。政治的なグループではない」と四者協議にリーダーはいなく、四者は対等だと強調した。
 同じ10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍首相と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。「復興五輪」については、小池都知事を抜きにしてバ森喜朗組織委会長がバッハ会長と画策を進めていたと思われる。安倍首相との会談を調整したとされている。小池百合子都知事との顔は立てながら、森喜朗組織委会長との密接な関係は維持する、バッハIOC会長のしたたかな対応が引き立った。

 また、2016年11月1日から3日まで開かれた第一回「四者協議」の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、一転して完全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、完全非公開を決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。その理由について、協議は事務レベルによるもので、11月末まで継続される見込みで、「最終的な結論となる予定はないため」としている。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。四者協議はオープンにするとバッハIOC会長の了解を取り付けた小池都知事の立場は丸つぶれである。
 丸川五輪担当者相は「今回は中身が最終結論に直結しないので公開しないと聞いており、IOCと組織委員会で決めたことで、私どもは尊重したい」と述べた。四者協議における国の存在感の薄さを象徴する発言だろう。

 「四者協議」は10月18日、バッハ会長が小池都知事と会談した際に申し入れた。小池知事はその際、「ご提案があった四者の会議は、ぜひ国民や都民に見える形で情報公開を徹底できるのであれば、よろしい提案なのではないかと思う」と、議論の透明性を要請した。
 これに対し、バッハIOC会長は、「この会談のようなオープンな形で進めていきたい。われわれとしては、どこでとか、何をとかいうことを決めているのではなく、あくまで先ほど申し上げたフェアの精神でないといけないと考えている」と答えた。
 四者協議は、基本的に公開するという条件で、バッハIOC会長と小池都知事は開催に合意をしたのではないか。バッハIOC会長も了解をしたはずである。
 その2週間後に開かれた作業部会は、早くも非公開、会議の内容も公表しないという方針に変換した。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会の「密室体質」は、従来からも強く批判をされてきた。政策決定の議論は、結論もさることながら議論の経緯が重要なのはいうまでもない。やっぱりと、国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会への信頼感を失った。
 また会議を非公開にすることは、「IOCと組織委員会で決めたこと」(丸川五輪担当相)としていることも問題だろう。バッハIOC会長は、四者協議は、「誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない」とリーダーのいない四者が平等な会議としていたが、実態は早くも違う。非公開を決めるなら、せめて四者で協議して決めるべきだろう。はやくも会議の進めかたで国際オリンピック委員会(IOC)の“力ずく”の姿勢が見え隠れしている。
 11月下旬に予定されている四者協議トップ級会合は、当然、公開すべきだろう。四者協議は公開するという約束で始まったのである。
 オリンピックの肥大化批判が高まる中で、 「アジェンダ2020」で、五輪改革を実現する最初の大会に2020年東京オリンピック・パラリンピックにするという国際オリンピック委員会(IOC)の意気込みはどうなるのか、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。

“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
 2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
 結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
 ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
 リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
 開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。

「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 

 2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
 その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
 今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
 国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。

都政改革本部調査チーム オリンピック・アクアティクスセンターの大幅な見直しを提言
 2016年11月、都政改革本部調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するにしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

「3兆円」は「モッタイナイ」!
 「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
 東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
 日本は確実に少子高齢化社会が急速に進展する。その備えを、今、最優先で考えなければならい。
 小池東知事は、リオデジャネイロ五輪に参加して帰国後、日本記者クラブで会見して、2020東京五輪大会の開催にあたって、「もったいない Mottainai」というコンセプトを国際的に発信していきたいと宣言した。
 絶対に「3兆円」は「モッタイナイ」! 
 ともかく五輪改革の舞台は、「四者協議」に場に移った。


オリンピックアクアティクスセンターの内部(完成予想図)  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


杜撰な整備計画に大なたをふるった舛添前都知事 招致段階の3倍、「4584億円」に膨張した整備経費
 競技場の整備計画の問題は、小池都知事の見直しが最初ではない。公費流用問題の責任をとって辞職した舛添要一前知事の時代に大規模な見直しが行われ、整備計画に大なたがふるわれ、整備経費は2000億円も削減され、半減した。
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国、恒久施設は東京都、仮設施設は大会組織委員会が責任を持つことが決められていた。
 東京都が担当する恒久施設は、招致計画では整備経費は約1538億円としたが、招致決定後に改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明した。
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、招致計画では約69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。若洲オリンピックマリーナ(ヨット・セーリング)は92億円から約4倍弱の322億円、葛西臨海公園(カヌー・スラローム)は約24億円から約3倍の73億円、有明アリーナは176億円から倍以上の404億円、東京アクアティクスセンターは321億円から倍以上の683億円に膨張した。招致計画時の余りにも杜撰な予算の作成にあきれる他はない。
 問題は新国立競技場にとどまっていなかったのである。

 舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とテレビ番組に出演して話している。
 招致計画を策定した担当者は、ほとんど誰も五輪大会の東京招致が実現するとは思わず、作業を進めていた光景が浮かび上がる。

東京五輪大会の招致に名乗りを上げた石原慎太郎元知事
 2020東京五輪大会の招致に名乗りを上げたのは、石原慎太郎元知事である。
 2007年、東京都知事として三期目を迎えた石原氏は、2016夏季五輪大会の開催都市として名乗りを上げ、招致活動を開始した。
 石原元知事は五輪開催で臨海副都心の再開発の起爆剤にしようと目論んだ。
 臨海副都心の開発が本格的に始まったのは、1980年代後半、当初は鈴木俊一都知事(当時)による東京テレポート構想によって始まり、1996年に国際博覧会である「世界都市博覧会」の開催が予定されていた。
 1993年にはレインボーブリッジが開通、1995年にゆりかもめが新橋-有明間に開通、着々とインフラは整備されていった。
 しかし、都市博中止を掲げた青島幸男都知事が当選し、公約どおり1995年、「世界都市博覧会」中止され、臨海副都心は挫折寸前に陥った。それ以後も、1996年臨海高速鉄道が開通したり、臨海部は徐々に「街」として様子を整えていったが、依然として広大な草ぼうぼうの埋め立て地が広がっていた。
こうした中で、メインの会場となる五輪スタジアムを、常設8万人、仮設2万人、10万人収容する巨大スタジアムとして、晴海埠頭に東京都が新設するという計画を立案した。
 その後、五輪スタジアムは国立霞ヶ丘競技場を改修することになり、晴海埠頭の五輪スタジアム新設計画は消え、代わりに晴海埠頭には18,500人収容の選手村が建設されることになる。
 その他、代々木アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート/カヌー)、 葛西臨海公園(カヌー[スラローム])、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)などが新設される。水泳会場は、東京辰巳国際水泳場を改修して使用する計画である
 開催経費は、大会組織委員会予算が3093億円、設備投資予算(非大会経費予算 競技場施設の整備費)が3317億円、計6410億円、五輪スタジアムは898億円とした。
 しかし、2009年のIOC総会で南米初の大会開催を掲げたリオデジャネイロに敗れた。
 2011年4月、東京都知事選で4選を果たした石原氏は、再び、2020夏季五輪開催都市への立候補を宣言して招致員会を立ち上げ招致活動を開始する。招致委員会の理事長は竹田恆和JOC会長である。2012年2月には、招致申請ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出した。

五輪開催に冷ややかだった東京都民
 石原氏の五輪開催にかける執念はともかく、都民に五輪大会招致に対する思いは冷めていた。1964東京五輪の感動は忘れてはいなかったが、なぜ再び東京が開催地に名乗りをあげなけれならいのか納得していなかのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)が2012年5月に調査した東京五輪大会開催への東京都民支持率調査によれば、賛成が半分を下回る47%、反対が23%、どちらでもないが30%と支持率は低迷していた。同年10月に招致委員会が独自に調査した結果によれは、賛成は67%、反対21%、どちらでもない13%と賛成が大幅に増えたが、競争相手のマドリードの80%、イスタンブールの73%に比べて、大差をつけられていた。
 東京がライバルのマドリードやイスタンブールに勝つには、都民の支持率を上げ、国際世論の支持を得ることが必須の条件だった。
 東京五輪開催に対する拒否反応の主な理由は、巨額の開催経費負担への懸念である。招致計画を立案する東京都は、五輪開催経費を極力縮減し、都民に負担ならない大会開催を掲げた。東京都が整備する競技場の建設予算額は低く抑える必要があった。そして掲げたスローガンが「世界一コンパクトな大会」で、招致申請ファイルの経費総額は7,340億円(大会組織委員会3,013億円、非大会組織委員会4,327億円)とした。
 実現可能性を真剣に検証して算出された経費ではなく、明らかに経費総額を抑える「見せかけ」の数字であった。とにかく開催経費を低く見せればよいという発想だったと思われる。
 こうした意識が蔓延した背景には、「まさか本当に東京に五輪がくるわけはない」といった無責任とも言える意識があったことが窺われる。「旗振れども踊らず」は、国民だけでなく関係者にも浸透していたのである。
 2020東京五輪大会の開催計画は、2016大会の臨海部を中心に競技場を整備して開催するという計画をほぼそのまま踏襲していた。変更したのは、新国立競技場の建設地を臨海部から旧国立競技場の跡地に変えたことや、IBCの設置を晴海地区に新設する計画を東京ビックサイトに変更し、晴海地区に選手村を整備することだけで、大半の競技施設の整備は、新たに検証することなく、2016大会の計画をそのまま引き継いだ。
 ところが「晴天の霹靂」、東京大会招致が決まって、2020開催計画を策定した担当者は大慌てで整備予算を「真面目」に見直しのである。その結果が、「1538億円」の約3倍となる「4584億円」という数字になって現れたのである。
 まさに無責任体制の象徴だった。
 
経費削減に動いた舛添都知事 「削減効果」は2000億円


出典 TOKYO MX NEWS 2014年6月10日 所信表演説

 2013年12月、猪瀬直樹東京都知事は、医療法人「徳洲会」グループから5000万円の資金提供を受けていた問題で、「都政を停滞させ、国の栄誉がかかったオリンピック・パラリンピックを滞らせることはできない」として辞職を表明した。猪瀬氏は、国政転出のため任期半ばで辞任した石原氏から後継指名を受け2012年12月に行われた都知事選に立候補、過去最高の433万票を獲得して初当選した。2020東京五輪大会の招致活動に力を入れ、2013年9月には東京五輪大会の招致を実現する。
 2014年2月、猪瀬氏の辞任を受けて、都知事選が行われ、自民党・公明党の推薦を受けた舛添要一が、共産党・社民党など推薦の宇都宮健児氏や民社党など推薦の細川護熙氏を大差で破って初当選した。
 2014年6月、舛添要一都知事は所信表明演説で、競技場整備計画の大幅な見直しを表明した。
 そして11月には、新設する5競技場の建設中止を含む大幅な見直し案を明らかにした。見直しに伴う整備費の削減効果は2千億円規模に及ぶ。
 舛添氏は「施設が大会後の東京にどのようなレガシー(遺産)を残せるのか、現実妥当性を持って見定めていく必要がある」と述べた。
 舛添氏は、記者会見で、都内で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)との調整員委員会でおおむねの合意を得たとし、会議でコーツ調整委員長はコスト削減のため、サッカーやバスケットボールの予選を地方都市の既存施設で開くことを推奨し、候補として大阪を提案したことを明らかにした。

5つの競技場を建設中止
 建設が中止される競技場(恒久施設)は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、有明ベロドローム(自転車・トラック)の5施設である。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、 水球は東京アクアティクスセンターに隣接する東京辰巳国際水泳場、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、自転車(トラック)は日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)内の伊豆ベロドロームで開催することになった。
 東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は、幕張メッセ(千葉市)となり、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技会場となった。
 自転車競技のマウンテンバイク(MTB)ては、有明地区にマウンテンバイク(MTB)コースを仮設で整備する計画だったが、日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)のMTBコースに変更することが決まった。しかし、自転車(BMX)は、若者に人気のある競技で都心部に隣接するエリアで開催したいという競技団体の強い意向で、当初予定通り、有明地区に仮設施設を建設して開催するとした。
 また、夢の島地区に仮設施設を建設する予定だった馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)の会場は整備を取りやめ、馬事公苑(世田谷)に変更した。
 馬術(クロスカントリー)は海の森クロスカントリーコースを海の森公園内に仮設施設として整備して予定通り行われる。


夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット) 完成予想図 出典 以下2020招致ファイル


若洲オリンピックマリーナ(セーリング) 完成予想図


有明ベロドローム(自転車・トラック) 完成予想図

2000億円削減して2241億円に
 カヌー・スラローム・コースは、葛西臨海公園内に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園の貴重な自然環境を後世に残すという設置目的などに配慮して、公園内でなく隣接地に移し、大会後は、公園と一体となったレジャー・レクリエーション施設とするとする整備計画に練り直した。
 一方、トライアスロンに予定されているお台場海浜公園は、羽田空港の管制空域で取材用ヘリコプターの飛行に支障が生じることや水質汚染に懸念があることなどで横浜などへの会場変更が検討されたが、結局、変更せず、お台場海浜公園で計画通り行うこととなった。
 また7人制ラグビーは新国立競技場から味の素スタジアム(東京都調布市)に変更となった
 こうした計画見直しで、競技場整備経費を約2000億円削減し、約4584億円まで膨らんだ経費を約2469億円までに圧縮するとした。

 その後、IBC/MPCが設営される東京ビックサイトに建設する「拡張棟」は当初はIBC/MCPとして使用する計画だったが、レスリング・フェンシング・テコンドーが幕張メッセに会場変更となり、その建設費約228億円を五輪施設整備費枠から除外するなどさらに削減し、約2241億円となった。もっとも「拡張棟」は五輪大会準備を目的で建設されたものであり、計画が変更したとしても経費を負担することには変わりはないのだから、「見せかけ」の操作と思われてもしかたがない。
 2241億円のうち、新規施設の整備費が約1846億円、既存施設の改修費などが約395億円とした。

杜撰な開催経過の象徴 海の森水上競技場 若狭若洲オリンピックマリーナ
 海の森水上競技場は、カヌー・ボート競技の会場として東京湾の埋め立て地の突端にある中央防波堤内側と外側の埋立地間の水路に整備する計画である。
 全長2300mで、2000m×8レーンのコースが設置され、コース内の波を抑えるために、コースの両端に水門と揚水機を配置し水位のコントロールする。
 カヌー・ボートのコースとしては珍しい海水コースである。
 海の森水上競技場の整備経費は、招致段階では69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。
 海とコース水面との締め切り堤や水門、護岸工事を始め、コースの途中にかかる中潮橋の撤去、ごみの揚陸施設の移設などの工事が必要となったのがその理由である。
 若狭若洲オリンピックマリーナは、江東区若洲の埋め立て地の南端部分に恒久マリーナとして整備して五輪大会のヨット会場とし、大会後は東京都が所有して、首都圏だけでなく国際的なセーリング競技やマリンスポーツの拠点として活用していく計画だった。総観客席数は5000(うち立ち見3000)も整備して本格的なセーリング会場を目指した。
 若洲地区は東京ゲートブリッジで海の森水上競技場とも結ばれる予定で、大会後は水辺の森、水と緑に囲まれたエリアとして市民に親しまれる空間となるとした。
 しかし、埋立地のために地盤が悪く、護岸の大規模な改良工事が必要となり、整備経費は、当初の92億円から約4倍弱の322億円に膨れ上がった。
 ふたつの競技場の見直しの理由を見ても、当初から建設予定地の調査を適切にしていれば簡単に分かった懸案だろう。東京湾の海に面していて波の影響が心配しない建設計画がどうしてまかり通ったのか唖然とするほかない。
 こうした杜撰な整備計画の積み重ねで、「1538億円」から約3倍の「4584億円」に膨れ上がったののである。

 東京都は、開催都市として、2006から2009年度に「開催準備基金」を毎年約1000億円、合計約3870億円をすでに積み立てている。この「基金」で、競技施設の整備だけでなく、周辺整備やインフラの整備経費などをまかなわなければならない。東京都が負担する五輪施設整備費は、4000億円の枠内で収まらないのではという懸念が生まれている。競技場の建設だけで2241億円を使って大丈夫なのだろうか?

「コンパクト五輪」の破産
 東京オリンピック・パラリンピックの開催計画では、33競技を43会場で開催し、その内、新設施設18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設24か所を整備するとしている。既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では最大限既存施設を利用したと胸を張る。
 しかし競技場の変更は9か所にも及び、予定通り建設される競技場についても上記のように“迷走”と“混乱”を繰り返した。
  2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、選手村を中心に半径8キロメートルの圏内に85%の競技場を配置すると「公約」した。1964年大会のレガシーが現存する“ヘリテッジゾーン”と東京を象徴する“東京ベイゾーン”、そして2つのゾーンの交差点に選手村を整備するという開催計画である。しかし、相次ぐ変更で「世界一コンパクトな大会」の「公約」は完全に吹き飛んだ。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR


******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)

2023年03月01日 18時21分07秒 | 政治
東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)





東京都の五輪施設整備費 1828億円 413億円削減
 2017年11月6日、東京都は新たに建設する8つ競技会場の整備費は合計1828億円で、これまでの2241億円から413億円削減すると公表した。
 五輪施設整備費は、五輪招致後の策定された当初計画では4584億円だったが、2014年11月、舛添元都知事が経費削減乗り出し、夢の島ユース・プラザ゙・アリーナA/Bや若洲オリンピックマリーナの建設を中止するなど2241億円に大幅に削減した。
 2016年夏、舛添氏の辞任を受けて都知事に就任した小池百合子知事は、五輪施設整備費の「見直し」に再び乗り出し、合計2125億円の巨費が投じられる「オリンピック アクアティクスセンター」(水泳)、「海の森競技場」(ボート/カヌー)、「有明アリーナ」(バレーボール)の3競技場の整備計画の再検討に取り組んだ。とりわけ「海の森競技場」は、巨額の建設費に世論から厳しい批判を浴び、「見直し」対象の象徴となった。
 小池都知事は都政改革本部に調査チーム(座長上山信一慶応大学教授)を設置し、開催計画の“徹底”検証を進め、開催費総額は「3兆円を超える可能性」とし、歯止めがなく膨張する開催費に警鐘を鳴らした。そして3競技場の「見直し」を巡って、五輪組織員会の森会長と激しい“つばぜり合い”が始まる。
 一方、2020年東京大会の開催経費膨張と東京都と組織委員会の対立に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年末に、東京都、国、組織委員会、IOCで構成する「4者協議」を立ち上げることで、森氏と小池氏の対立を解消する「調停」に乗り出した。
 「4者協議」の狙いは、肥大化する開催経費に歯止めをかけることで、組織委員会が開催経費の総額を「2兆円程度」としたが、IOCはこれを認めず削減を求め、「1兆8000億円」とすることで合意した。しかし、IOCは“更なる削減”を組織委員会に強く求めた。
 小池都知事は、結局、焦点の海の森競技場は建設計画は大幅に見直して建設することし、水泳、バレーボール競技場も見直しを行った上で整備することで「妥協」する。「アクアティクスセンター」(水泳)は、514~529億円、「海の森水上競技場」(ボート/カヌー)は 298億円、「有明アリーナ」(バレーボール)は339億円、計1160億円程度で整備するして、「4者協議」で明らかにした。

 小池知事は、その後さらに見直しを行い、水泳、バレーボール、ボート・カヌーの3競技会場の整備費は計1232億円として、「4者協議」で公表した案より約70億円増えた。
 「アクアティクスセンター」では、着工後に見つかった敷地地下の汚染土の処理費38億円、「有明アリーナ」では、障害者らの利便性を高めるためエレベーターなどを増設、3競技場では太陽光発電などの環境対策の設備費25億円が追加されたのが増加した要因である。
 一方、経費削減の努力も見られた。
 「有明テニスの森」では、一部の客席を仮設にして34億円を減らしたり、代々木公園付近の歩道橋新設を中止したりして23億円を削減した。
 この結果、計413億円の削減を行い、8つ競技会場の整備費は合計1828億円となった。
 五輪大会の競技場整備費は、当初計画では4584億円、舛添元都知事の「見直し」で2241億円、そして今回公表された計画では1828億円と大幅に削減された。

 新たな競技場の整備費が相当程度削減されたことについては評価したい。
 しかし最大の問題は、“五輪開催後”の利用計画にまだ疑念が残されていることである。
 海の森競技場では、ボート/カヌー競技大会の開催は果たしてどの位あるのだろうか。イベント開催を目指すとしているが成果を上げられるのだろうか。
 「アクアティクスセンター」は、すぐ隣に「辰巳国際水泳場」に同種の施設があり過剰な施設をどう有効に利用していくのか疑念が残る。
 さらに8つの競技場の保守・運営費や修繕費などの維持費の負担も、今後、40年、50年、重荷となってのしかかるのは明らかである。
 2016年9月、小池東京都知事は、リオデジャネイロ五輪に出席して帰国後に日本記者クラブで記者会見に臨み、リオデジャネイロ五輪・パラリンピックの仮設競技会場が解体されて公立学校の建設資材に使われることに触れて、2020年東京大会では「リデュース(削減)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)の3Rをベースにして、『もったいない』という言葉を世界語にしていきたい」と述べた。そして、2020東京五輪大会を開催するにあたって、「もったいない Mottainai」のコンセプトを掲げて国際的に発信していくと宣言した。
 8つの競技会場を“負のレガシー”(負の遺産)にしないという重い課題が東京都は背負った。


舛添元都知事の競技場整備見直し
出典 都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日


小池都知事の見直し計画 1828億円に削減 2017年11月
IMSSR作成

負のレガシー(負の遺産)の懸念 五輪新設競技場
 五輪開催後は、整備された壮大な競技施設の大会後“赤字”にならないのだろうか? 利用料収入などで賄える展望が果たしてあるのだろうか? 
 巨額の“赤字”が毎年生まれるのであれば、今後約50年間以上に渡って、東京都民は負担し続けなければならない。 五輪開催期間はオリンピックが17日、パラリンピックが13日、合わせてわずか30日間である。施設の新設は極力抑制しなければならないのは明らかである。
 海の森水上競技場と東京アクアティクスセンター、有明アリーナの3会場について、東京都が大会開催後の維持管理費を現時点で計約958億円と試算していたことが明らかになった。整備費の約8割にのぼる。(朝日新聞 2016年12月4日)
 大規模修繕費の内訳は、東京アクアティクスセンターが562億円、海の森水上競技場が102億円、有明アリーナが294億円で、耐用年数を50~65年として試算した。東京都は東京体育館など既存施設の維持管理費を参考にして、毎年の補修費や大規模修繕費などの経費を参考にして算出した。
 都が5月にまとめた運営計画の中間案では、3施設の来場者は年35万~140万人。小池氏が選んだ調査チームの報告によると、「アクア」と「海の森」は赤字が見込まれ、黒字見込みはコンサート会場の需要がある「有明」のみだった。
 日本は確実に少子高齢化社会を迎える。五輪大会で整備される壮大な施設は確実に次世代の負担となる。五輪大会開催は、“レガシー”(未来への遺産)どころか“負のレガシー(負の遺産)”になる懸念が強まった。

「350億円」縮減 「1兆3500億円」(V2予算)
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。2017年5月に東京都、組織委、国で総額1兆3850億円とした大枠合意から更に350億円削減した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 国際オリンピック委員会(IOC)は10億(約1100億円)ドルの経費節減を求めていたが、V2では「350億円」縮減に留まった。組織委の武藤敏郎事務総長は来年末発表するV3では削減にさらに努める考えを示した。



東京都 五輪関連経費 8100億円計上
 2018年1月、東京都は新たに約8100億円を、「大会関連経費」として計上すると発表した。これまで公表していた大会開催の直接経費の東京都負担分の6000億円以外の大会開催に関連する経費である。
 この結果、2020東京五輪大会の開催経費の総額は、大会組織委員会が公表している1兆3500億円に約8100億円を加えると約2兆1600億円に達することが明らかになった。
 東京都は、五輪開催経費を、「大会開催に伴い、専ら大会のために行われる大会に直接必要となる業務」(大会経費)と「大会にも資するが大会後もレガシーとして残るものか引き続き展開され業務」(大会に直接関わる事業)、「大会にも資するが大会の有無にかかわらず、そもそも行政目的のために行われる業務」(大会に直接関わらないが開催に資する事業)の3つのカテゴリーに分類した。
 「大会経費」には、仮設施設の整備、競技場等の賃貸料、電力や水道、通信などのユーティリティ、警備や輸送、オペレーション、開閉式や聖火リレーなどの大会直接経費が入る。「大会に直接関わる事業」は、バリアフリー対策、関連文化事業、都市ボランティア3万人の育成、英語道路標識などで、「大会に直接関わらないが開催に資する事業」は、都内の無電柱化などの都市インフラ整備、観光振興、東京・日本の魅力発信などである。
 今回公表した約8100億円の経費は、「大会に直接関わる事業」が約4400億円、「大会に直接関わらないが開催に資する事業」が約3700億円としている。
 五輪大会は、「狭義」の直接経費の「大会経費」だけでは開催できないのは常識であろう。「大会にも資するが大会後のレガシーとして残る業務」や「大会にも資するが行政目的で行われる業務」も含めて総合的に基盤整備をどう行うかが、大会成功のキーポイントとなる。
 東京都は、五輪開催経費を幅広く捉え、その総額の情報を開示することで、都民に誤解を招かないようにしたいとしている。都政改革本部の調査チームが指摘した「とどめなく費用が増える懸念」を頭に置いた対応だと言えよう。五輪経費隠しや五輪便乗支出が横行する歯止めにもなる。
 東京都のこうした姿勢は、大いに評価したい。情報を幅広く開示して、無駄な経費かどうかは都民に判断に委ねるべきである。
 これに対して国の姿勢は、極めて問題が多い。各省庁の行政経費に五輪開催経費を極力潜り込ませる「五輪経費隠し」が常套化している。国の五輪開催経費は、新国立競技場の建設費、1200億円とパラリンピック開催経費300億円の合計1500は闇に包まれている。
 これでは、国民が五輪開催経費の肥大化を監視することができない。
 2020東京五輪大会の開催にあたって世界に宣言したスローガンは「世界一コンパクトな大会」である。その約束はどこに行ったのだろうか。
 未だに明らかにされていない国の五輪開催経費も含めると3兆円は優に超えることは必至だろう。それは都政改革本部の調査チームが指摘した「3兆円」と合致する。
 依然として五輪開催経費の「青天井体質」に歯止めがかからない。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

2020東京大会 33競技339種目決まる
 2017年6月9日、国際オリンピック委員会(IOC)は、ローザンヌ(スイス)で理事会を開催し、2020東京オリンピック競技大会の種目プログラム(すべての実施種目)と選手数の上限を発表した。
 IOCは、当初、競技数は28競技とし、新たにバスケットボール3×3や自転車BMXフリースタイルなどの種目を加えて、種目数は321種目、選手数の上限は10,616人としていた。
 今回、東京大会組織委員会が提案した追加種目、5競技18種目を含め、競技数は33競技、種目数は339種目とし、選手数の上限を11,900人とすると正式に決定した。

水泳/アーチェリー/陸上競技/バドミントン/バスケットボール/ボクシング/カヌー/自転車競技/馬術/フェンシング/サッカー/ゴルフ/体操/ハンドボール/ホッケー/柔道/近代五種/ボート/ラグビー/セーリング/射撃/卓球/テコンドー/テニス/トライアスロン/バレーボール/ウエイトリフティング/レスリング
(追加種目)
野球・ソフトボール/空手/スケートボード/スポーツクライミング/サーフィン

自転車(ロードレース)は富士スピードウェイ、野球・ソフトボール(予選)は福島あづま球場
 2018年2月3日、平昌(韓国)で行われた国際オリンピック委員会(IOC)理事会において、東京大会の競技会場について、競歩は皇居外苑とし、自転車競技(ロードレース)のスタート地点を武蔵野の森公園、ゴール地点を富士スピードウェイとすることを決めた。
 自転車ロードレースは、当初、スタート地点が皇居、ゴール地点が武蔵野の森公園としていたが、スタートとゴール共に都心で大勢の観客が訪れやすい皇居外苑に変更していた。その後、競技団体の要望で、富士山を背景にしてテレビ映りが良く、選手の実力差が出る勾配のある難しいコースが設定できるとして富士山麓が選ばれた。 また個人タイムトライアルも富士スピードウェイで開催する。
 これでサッカー会場を除く37(パラリンピックを含めると38)か所の競技会場が決まった。
 サッカー会場については、国際サッカー連盟(FIFA)が競技スケジュールと会場を一体的に承認する方針で、競技スケジュールの調整に時間を要するとし、決定が先送りなっている。
 追加5競技の会場については、ソフトボールの主会場は横浜スタジアム、空手が本武道館(東京都千代田区)、スポーツクライミングとスケートボードは仮設の青海アーバンスポーツ会場(東京都江東区)、サーフィンは釣ケ崎海岸サーフィン会場(千葉県一宮町)することで、2017年12月に承認されている。
 野球・ソフトの福島開催については、WBSCと大会方式や球場選びで調整がついていないことから結論は先送りにされたが、2017年3月、福島あずま球場で野球とソフトボールの予選を開催することが決まった。最終的にソフトボール6試合、野球を1試合、合計で7試合開催になった。

「準備は1年遅れている」「誠実に疑問に答えない」 警告を受けた2020東京大会組織委
 
「誠実に疑問に答えを」 コーツIOC副会長
 2018年4月24日、2020東京五輪大会の準備状況をチェックするIOC調査チームの(委員長 コーツIOC副会長)は、2020年東京大会組織員会に対し、開催準備の進捗状況と計画について、より誠実に質問に答えるように要請した。
 4月15日から20日、タイのバンコクで開かれた国際スポーツ連盟機(GAISF)のスポーツ・アコード(Sport Accord)会議などで、複数の国際競技連盟(International Sports Federations IFs)が、2020東京大会の準備状況に不満を抱き、公然と批判した。
 これを受けて、IOC調査チームが来日し、4月23日24日の2日間に渡って2020東京大会の準備状況のチェックを行った。
 コーツ副会長は、準備作業は、大部分は順調に進んでいるが、2020東京大会組織員会は進行状況を完全に説明することを躊躇していると懸念を示した。
 その理由について、 コーツ副会長は、直接的で明快な表現をするオーストラリア人と、多くのポイントを留保する曖昧な表現をする日本人の文化的相違があるのではと述べたが、婉曲表現で日本の姿勢を批判した。
 2018年2月に開催された平昌冬季五輪が成功を収め、スポットライトが東京に移る中、大会準備に関して答えを得られない五輪関係者のいら立ちはさらに増すだろうという警告である。

柔道、セーリング、トライアスロンに批判
 国際オリンピック委員会(IOC)や国際競技連盟は、柔道とセーリング、トライアスロンの種目について、開催準備の遅れに懸念を表明している。国際柔道連盟は、2019年に開催される柔道競技のプレ大会の準備状況の遅れを指摘し、国際セーリング連盟は、江の島で開催されるセーリング競技について、地元漁業者との調整が進まず、コース決定が遅れていることに不満を示した。またトライアスロン競技連盟は東京湾の水質汚染問題について強い懸念が示された。


お台場海浜公園  出典 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会

マラソン水泳・トライアスロン 深刻な東京湾の水質汚染
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソン水泳とトライアスロンが行われるお台場周辺の海域で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。
 この調査は、東京都と大会組織委員会が行ったもので、オリンピック開催時期の21日間、パラリンピック開催時期のうち5日間、トライアスロンとマラソンスイミングの競技会場になっているお台場海浜公園周辺の水質・水温を調査したものだ。
 調査を行った2017年8月は、21日間連続で雨が降り、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水を記録した。
 調査結果によると、降雨の後は、水質が顕著に悪化すること分かった。今回の調査期間では、国際競技団体の定める水質・水温基準達成日数は、マラソンスイミング基準では10日で約半分、トライアスロン基準はで6日で約3分の1に留まった。
 お台場海浜公園周辺の競技予定水域は、競技を開催する水質基準をはるかに上回る汚水が満ち溢れていることが示されたのである。
参加選手の健康問題を引き起こす懸念が深まった。


お台場海浜公園における水質・水温調査地点  出典 東京都オリンピック・パラリンピック事務局

 組織委では、雨期に東京湾から流れ込む細菌の量を抑制するために、競技予定水域を水中スクリーンを設置して東京湾から遮断するなど様々の実験を行い、水質改善に努めているとした。
 コーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。今年と来年に行われる水のスクリーニング、カーテンの入れ方などの実験についてプレゼンテーションを受けた。この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。




お台場海浜公園における水質・水温調査  出典 東京都オリンピック・パラリンピック事務局

 東京湾の水質改善は、着々と進んではいるが、とても海水浴ができるような“きれいな海”とはいえない。東京湾に流れ込む川からは大量の汚染水が流れ込む。海底にはヘドロが蓄積している。オリンピック開催期間は真夏、ゲリラ豪雨は避けられない。東京湾は、“汚水の海”になることは必至だ。
そもそも東京湾に、選手を泳がせて、マラソンスイミングやトライアスロンを開催しようとすること自体、無謀なのではないか。

「水面に顔をつけない」が条件の海水浴場
 2017年夏、葛西臨海公園に海水浴場がオープンした。水質改善が進んだ東京湾のシンボルとして話題になった。
かつては東京湾には葛西のほか大森海岸、芝浦など各所に海水浴場があったが、高度経済成長期に臨界工業地帯の工場排水や埋め立て工事で1960年代に水質悪化が進み、海水浴場は姿を消した。
東京湾では、約50年間海水浴が禁止され、房総半島や三浦半島までいかないと海水浴ができなかった。
 港区では、「泳げる海、お台場!」をスローガンに掲げ、お台場海浜公園に海水浴場を開設しようとする取り組みに挑んでいる。
 現在は、お台場海浜公園は、水質基準を満たさないため通常は遊泳禁止である。2017年7月29日(土曜)・30日(日曜)の2日間、範囲を限定し、安全面等に配慮しながら行う“海水浴体験”を開催し、訪れた親子連れは、“海水浴”ではなく、ボート遊びや水遊びを楽しんだという。
 しかし、なんと「水面に顔をつけない」ことが条件の“海水浴体験”だった。
 これでは海水浴場と到底、言えないだろう。
 お台場の海は、「水面に顔をつけない」程度の水質しか保証されていないのである。この海で、マラソンスイミング(水泳)やトライアスロンの競技を開催すれば、参加選手は“汚染”された海水に顔をつけ、海水を口に含まざると得なない。選手の健康問題を組織委員会はどう考えているのだろうか。
 なぜ、素晴らしい自然環境に囲まれたきれいな海で開催しないのか。それまでしてお台場の開催にこだわる姿勢には“良識”を疑う。

東京オリンピック・パラリンピックの全競技会場決まる IOC承認
 2018年5月2日、国際オリンピック委員会(IOC)は、スイス・ローザンヌで開いた理事会で2020年東京五輪大会のサッカー7会場を一括承認した。これで東京オリンピック・パラリンピックの43競技会場がすべて決まった。(オリンピッの競技会場としては42会場)。
開催される競技数は、東京大会組織委員会が提案した追加種目、5競技18種目を加え、合計競技数は33競技、種目数は339種目で、選手数の上限を11,900人とすることが決定されている。
 今回、承認されたのは「札幌ドーム」、「宮城スタジアム」、「茨城カシマスタジアム」、「埼玉スタジアム」、「横浜国際総合競技場」、「新国立競技場」、「東京スタジアム」の7会場で、決勝は男子が「横浜国際総合競技場」、女子は「新国立競技場」で行う案が有力とされている。
 今回承認された43の競技会場の内、新設施設18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設25か所を整備するとしている。既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では最大限既存施設を利用したと胸を張る。
 しかし、競技会場の決定に至る経過は、相次いだ“迷走”と“混迷”繰り返した結果である。国際オリンピック委員会(IOC)や世界各国からも厳しい視線が注がれた。
 当初計画の約3倍の「3088億円」の建設に膨張し世論から激しい批判を浴び、ザハ・ハディド案を撤回して“仕切り直し”に追い込まれた「新国立競技場」、東京都の整備費が「4584億円」にも達することが判明して、「建設中止」や「会場変更」、「規模縮小」が相次いだ競技会場建設、「無駄遣い」の象徴となった「海の森水上競技場」の建設問題、唖然とする混乱が繰り返された。
 2020東京大会の開催にあたって掲げられたキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、そのキャッチフレーズはどこかに吹き飛んでしまった。
 競技場やインフラを建設すると、建設費だけでなく、維持管理、修繕費などの膨大な後年度負担が生れることは常識である。施設の利用料収入で収支を合わせることができれば問題は生まれないが、「赤字」になると、今後40年、50年、大きな負担を都民や国民が背負わされることになる。
 日本は、今後、超高齢化社会に突入することが明らかな中で、コンパクトでスリムな社会の求められている中で、競技場やインフラ整備は必要最小限にとどめるべきであろう。

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国が8011億円支出 会計検査院指摘
 2018年10月4日、会計検査院は2020東京オリンピック・パラリンピックの開催経費ついて、平成25年度から29年度までの5年間に国が支出した開催経費が約8011億円に上ったと指摘した。
 これまで大会組織委員会が明らかにしていた開催経費は、総額約1兆3500億円で、このうち大会組織員会は約6000億円を、東京都が約6000億円、国が新国立競技場の建設費の一部、1200億円やパラリンピック経費の一部、300億円の合わせて約1500億円を負担するとしていた。
 これに対し会計検査院は、各省庁の関連施策費を集計した結果、国は1500億円を含めて平成25~29年度に8011億9000万円を支出していると指摘した。
 今回の指摘で、組織委が公表した国の負担分1500億円から除外した競技場周辺の道路輸送インフラの整備(国土交通省)やセキュリティー対策(警察庁)、熱中症に関する普及啓発(環境省)などの約280事業に対し、約6500億円が使われていたことが明らかにした。
 五輪開催費用については、今年1月、東京都は組織委公表分の都の予算約6000億円とは別に約8100億円を関連予算として支出する計画を明らかにしている。検査院によると、組織委が公表した予算、1兆3500億円には「大会に直接必要なもの」に限られ、国の省庁や都庁が、五輪開催経費とせず、一般の行政経費として組んだ予算は含まれていないという。
 組織員会、東京都、国の五輪関連経費を改めて合計すると、約2兆8100億円となり、今後に支出が予定される経費も含めると、「3兆円」超は必至である。




出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院

五輪大会開催経費 「1725億円」 国、会計検査院に反論
 2018年11月30日、桜田義孝五輪担当相は、2020東京五輪大会に、国が2013~2017年の5年間に支出した経費は53事業で「1725億円」とする調査結果を公表した。会計検査院の「8011億円」という指摘に対し、内閣官房が精査した。
 桜田氏は、五輪関係の経費とそれ以外の経費の線引きを明確に示したと説明し、「透明性を確保し、国民の理解を得るために今後も支出段階で集計、公表していく」と述べた。
 2020東京五輪大会に開催経費については、2017年12月22日、大会会組織委員会は、総額「1兆3500億円で、東京都が「6000億円」、大会組織委員会が「6000億円」、国が「1500億円」を負担するとした。
 これに対し、11月4日、会計検査院は「1500億円」を大幅に上回る「8011億円」が、すでにこの5年間で支出されたとの指摘を国会に報告し、政府に経費の全体像を分かりやすく示すよう求めた。
 
 内閣官房では、大会に関連すると指摘された計8011億円の286事業について、(1)選手への支援など「大会の準備、運営に特に資する事業」(1725億円)(2)気象衛星の打ち上げなど「本来の行政目的のために実施する事業」(826億円)(3)道路整備など「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(5461億円)の三つに分類し、五輪大会開催のための国の支出は(1)の「1725億円」だとした。

 (1)には、新国立競技場の整備費の国の負担分(744億円)やパラリンピックの準備費(300億円)が、(2)は気象衛星の打ち上げ関連費用(371億円)など29事業、826億円が含まれている。
 (3)は首都高速などの道路整備費(1390億円)、水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費(569億円)など208事業で合わせて5461億円と大半を占めている。
 このほか、会計検査院が指摘した8011億円に含まれていないが、大会に直接関連する事業として国立代々木競技場など5施設の整備や改修のための国庫補助金を直近5年間で約34億円支出したと明らかにした。
 しかし、五輪大会開催経費を「1725億円」する国の主張は、明らかに「五輪経費隠し」、膨れ上がった五輪開催経費をなるべく低く見せかけて、世論の批判をかわそうとする姿勢が見え隠れする。





 会計検査院の指摘に関して大会関係者は、「関連するにしてすべて五輪経費として積み上げるのはおかしい」とか「数字が一人歩きしているだけで、これで無駄遣いしていると思われたらミスリードになる」など、反発する声が上がっているとされている。
 しかし、五輪開催経費は、五輪開催との関連性の「濃淡」に関わらず、組織委や東京都や国はすべてを明らかにすべきだ。そして国民に対しその施策の必要性を説明する責任を負うだろう。その上で、その支出項目が無駄遣いなのか、妥当なのかどうかは国民が判断していくべきだ。全体像の実態が見えなければ経費膨張のコントロールも不可能で、五輪開催経費の「青天井体質」は止められない。

五輪開催経費(V3予算)「1兆3500億円」維持 削減できず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、東京2020大会の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月22日に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 武藤敏郎事務総長は、国際オリンピック委員会(IOC)の要請に答えて、V3ではさらに経費削減に努める考えを示していたが、開催計画が具体化する中でV2では計上していなかった支出や金額が明らかになったほか、新たに発生した項目への支出が増えて「圧縮は限界」として、V2予算と同額となった。
 さらに問題なのは、2018年10月に会計検査院が指摘した開催経費、「8011億円」について、V3予算を策定する中で、一切、無視して反映しなかったことである。国際オリンピック委員会(IOC)からV2予算、「1兆3500億円」からの更なる削減を求められていいた中で、「1兆3500億円」は何が何でも死守しなければならない額であった。会計検査院の「8011億円」の指摘に耳を貸す余裕はなかった。国は、「8011億円」の内、選手への支援など「大会の準備、運営に特に資する事業」として「1725」億円は認めているのである。V3予算では、国の支出は新国立競技場と整備費とパラリンピックの開催経費の一部しか計上していない。 一方。東京都は、大会組織委員会が計上している「6000億円」の他に、五輪関連経費「8100億円」を予算化していることを明らかにしている。
 こうして、V3予算は、「1兆3500億円」となり、五輪開催経費の実態からは遠くかけ離れた予算となった。
 「五輪経費隠し」の体質はまったく改まらない。2020東京五輪大会の開催経費は一体いくらになるのか国民に明らかにすべきだ。
 果てしなく膨張する五輪開催経費、これでは五輪大会開催のレガシーを語る資格はない。

大会組織委員会 約1200億円の仮設オーバーレイ工事を発注
 2019年9月24日、大会組織委員会は全43競技会場の内、41会場の仮設オーバーレイ工事の契約を締結したと発表した。残りの1件は契約手続き中で、もう1件は価格交渉中としている。
 41会場の中で、最高額は馬事公苑で約114.2億円(大成建設)、次は国立競技場で62.8億円(内部・周辺の神宮外苑地区 大成建設)、三番目は陸上自衛隊朝霞訓練場の約57.8億円である。
 その他、有明テニスの森が約49.4億円(大和ハウス)、伊豆ベロドロームが47.7億円(整備工事 清水建設/仮設建物 大和ハウス)、海の森水上競技場が42.9億円(大和ハウス)、潮風公園が40.4億円(大和リース)、東京国際フォーラムが37.3億円(戸田建設)、有明アーバンスポーツパークが37億円(大和リース)、夢の島公園アーチェリー場が36.4億円(ピコ・日本建設)となっている。
 仮設オーバーレイ工事の工事費は、昨年の四者協議でコーツ調整委員長から高額過ぎるとして、仕様や発注方式の見直しを図り、経費削減に努めるように要請をされていた。
 それでも工事費の総額は、1200億円という巨額の経費が支出される。
 仮設工事なので、大会終了後は取り壊される。オリンピックの開催期間は7月24日から8月9日までの17日間、パラリンピックが8月25日から9月6日までの13日間、合わせて30日間である。わずか30日間のために1200億円、思わず考え込まされる巨額の経費である。
 やはり五輪大会の肥大化の歯止めは史上命題だろう。

五輪関連支出、1兆600億円 会計検査院指摘 五輪開催経費3兆円超へ
 2019年12月4日、会計検査院は2020年東京五輪・パラリンピックの関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめ、国会に提出した。この中には政府が関連性が低いなどとして、五輪関連予算に計上していない事業も多数含まれている。検査院は、国民の理解を得るためには、「業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表に努めるべき」とし、「大会終了後のレガシーの創出に努めること」と指摘した。

 2018年10月、会計検査院は政府の2020東京五輪大会についての「取組状況報告」に記載された286事業を調査して初めて「五輪関連経費」の調査結果を明らかにして、2017年度までの5年間に国は約8011億円を支出したと指摘した。しかし、大会組織委員会が公表したV3予算では国の負担額は約1500億円、その乖離が問題になった。
 今回、会計検査院が指摘した関連支出額は、前回指摘した8011億円から2018年度の1年間で約2580億円増え、約1兆600億円になったとした。
 大会組織員会では、2018年12月、総額1兆3500億円のV3予算を明らかにしている。それによると、大会組織委員会6000億円、東京都6000億円、国1500億円とし、1兆3500億円とは別枠で予備費を最大3000億円とした。
 東京都は、V3予算とは別に「五輪開催関連経費」として約8100億円を支出することを明らかにしているため、約1兆600億円も合わせると、すでに「五輪関連経費」の総額は約3兆円を優に上回ることが明らかになった。

 これに対して、内閣官房の大会推進本部は指摘された8011億円について、大会への関連度を3段階で分類し、Aは「大会に特に資する」(約1725億円)、Bは「大会に直接資する金額を算出することが困難」(約5461億円)、Cは「大会との関連性が低い」(約826億円)と仕分けし、「五輪関連経費」はAの約1725億円だけだと反論し、残りの「B・C分類」は本来の行政目的の事業だとして、関連経費には計上しないとした。
 その後2019年1月、内閣官房の大会推進本部は、約1380億円を「五輪関連経費」と認め、V3予算で計上している新国立競技場の整備費など約1500億円を加えた約2880億円が国の「五輪関連経費」の範疇だとした。それにしても会計検査院が指摘した1兆600億円との隔たりは大きい。

 1兆600億円の内訳は、約7900億円が「大会の準備や運営経費」として、セキュリティー対策やアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れ、暑さ対策・環境対策、メダル獲得にむけた競技力強化などの経費で占められている。この内、暑さ対策・環境対策が最も多く、2779億円、続いてアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れが2081億円となっている。
 2018年度はサイバーセキュリティー対策やテロ対策、大会運営のセキュリティ対策費の支出が大幅に増え、2017年度の倍の約148億円に上った。
 また今回も公表されていない経費が明らかになった。警察庁が全国から動員する警察官の待機施設費用として約132億円が関連予算として公表していなかったと指摘した。
 さらに会計検査院は大会後のレガシー(遺産)を見据えた「大会を通じた新しい日本の創造」の支出、159事業、約2695億円を「五輪関連経費」とした。
 被災地の復興・地域の活性化、日本の技術力の発信、ICT化や水素エネルギー、観光振興や和食・和の文化発信強化、クールジャパン推進経費などが含まれている。
 こうした支出はいずれも政府は「五輪関連経費」として認めていないが、政府予算の中の位置づけとしては「五輪関連予算」として予算化されているのである。
 問題は、「五輪便乗」予算になっていないかの検証だろう。東日本大震災復興予算の使い方でも「便乗」支出が問題になった。次世代のレガシーになる支出なのか、無駄遣いなのかしっかり見極める必要がある。

 その他に国会に報告する五輪関連施策に記載されていないなどの理由で非公表とされた支出も計207億円あったという。検査院はオリパラ事務局を設置している内閣官房に対し、各府省から情報を集約、業務内容や経費を把握して公表するよう求めた。
 内閣官房は「指摘は五輪との関連性が低いものまで一律に集計したものと受け止めている。大会に特に資する事業についてはしっかりと整理した上で分類を公表していきたい」としている。






出典 会計検査院

「レガシー経費」は「五輪開催経費」
 国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市に対して、単に競技大会を開催し成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求め、開催都市に対して、レガシー(Legacy)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けている。
 レガシーを実現する経費、「レガシー経費」は、開催都市に課せられた「五輪開催経費」とするのが当然の帰結だ。
 五輪大会は、一過性のイベントではなく、持続可能なレガシー(Legacy)を残さなければならないことが開催地に義務付けられていることを忘れてはならない。
 政府は「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(Bカテゴリー)は「五輪開催経費」から除外したが、事業内容を見るとほとんどが「レガシー経費」に入ることが明らかだ。
 気象衛星の打ち上げ関連費用も首都高速などの道路整備費も水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費も、ICT化促進や先端ロボット、自動走行技術開発、外国人旅行者の訪日促進事業、日本文化の魅力発信、アスリート強化費、暑さ対策、バリアフリー対策、被災地の復興・地域活性化事業、すべて2020東京大会のレガシーとして次世代に残すための施策で、明らかに「レガシー予算」、「五輪開催予算」だろう。被災地関連予算も当然だ。2020東京五輪大会は「復興五輪」を掲げているのである。

 一方、新国立競技場は「大会の準備、運営に特に資する事業」に分類し、「五輪開催経費」だとしている。しかし、国立競技場は大会開催時は、開会式、閉会式、陸上競技などの会場として使用されるが、その期間はわずか2週間ほどである。ところが新国立競技場は大会開催後、50年、100年、都心中心部の「スポーツの聖地」にする「レガシー」として整備するのではないか。 
 国の「五輪開催経費」仕分けはまったく整合性に欠け、ご都合主義で分類をしたとしか思えない。五輪大会への関与の濃淡で、恣意的に判断をしている。「レガシー経費」をまったく理解していない姿勢には唖然とする。
 東京都が建設するオリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場なども同様で、「レガシー経費」だろう。

 通常の予算では通りにくい事業を、五輪を「錦の御旗」にして「五輪開催経費」として予算を通し、膨れ上がる開催経費に批判が出ると、その事業は五輪関連ではなく一般の行政経費だとする国の省庁の姿勢には強い不信感を抱く。これでは五輪開催経費「隠し」と言われても反論できないだろう。
 2020東京大会のレガシーにする自信がある事業は、正々堂々と「五輪開催経費」として国民に明らかにすべきだ。その事業が妥当かどうかは国民が判断すれば良い。
 東京都は、「6000億円」のほかに、「大会に関連する経費」として、バリアフリー化や多言語化、ボランティアの育成、「大会の成功を支える経費」として無電柱化などの都市インフラ整備や観光振興などの経費、「8100億円」を支出することをすでに明らかにしている。国の姿勢に比べてはるかに明快である。過剰な無駄遣いなのか、次世代に残るレガシー経費なのか、判断は都民に任せれば良い。

 「3兆円」、かつて都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用の総額だ。今回の会計検査院の指摘で、やっぱり「3兆円」か、というのが筆者の実感だ。いまだに「五輪開催経費」の“青天井体質”に歯止めがかからない。

肥大化批判に窮地に立つIOC
 巨額に膨らんだ「東京五輪開催経費」は、オリンピックの肥大化を懸念する国際オリンピック委員会(IOC)からも再三に渡って削減を求められている。
膨張する五輪開催経費は、国際世論から肥大化批判を浴び、五輪大会の存続を揺るがす危機感が生まれている。
巨大な負担に耐え切れず、五輪大会の開催都市に手を上げる都市が激減しているのである。2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。
 2014年、IOCはアジェンダ2000を策定し、五輪改革の柱に五輪大会のスリム化を掲げた。そして、2020東京五輪大会をアジェンダ2000の下で開催する最初の大会として位置付けた。
 「東京五輪開催経費」問題でも、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。「開催経費3兆円超」とされては、IOCは面目丸潰れ、国際世論から批判を浴びるのは必須だろう。
 こうした状況の中で、「五輪開催経費」を極力少なく見せようとするIOCや大会組織委員会の思惑が見え隠れする。
 その結果、「五輪経費隠し」と思われるような予算作成が行われているという深い疑念が湧く。
 V3「1兆3500億円」は、IOCも大会組織委員会も死守しなければならい数字で、会計検査院の国の支出「1兆600億円」の指摘は到底受け入れることはできない。
 「五輪開催経費」とは、一体なになのか真摯に議論する姿勢が、IOCや大会組織委員会、国にまったく見られないのは極めて残念である。

どこへ行った「コンパクト五輪」
 筆者は、五輪を開催するためのインフラ整備も、本当に必要で、大会後のレガシー(遺産)に繋がるなら、正々堂々と「五輪開催経費」として計上して、投資すべきだと考える。
 1964東京五輪大会の際の東海道新幹線や首都高速道路にように次の世代のレガシー(遺産)になる自信があるなら胸を張って巨額な資金を投資して整備をすれば良い。問題は、次世代の負担になる負のレガシー(負の遺産)になる懸念がないかである。また「五輪便乗」支出や過剰支出などの無駄遣いの監視も必須だろう。そのためにも「五輪開催経費」は、大会への関連度合いの濃淡にかかわらず、国民に明らかにしなければならい。
 2020東京五輪大会は招致の段階から、「世界一コンパクトな大会」の理念を掲げていた。大会の開催運準備が進む中で、開催経費はあっという間に、大会組織員会が公表する額だけでも1兆3500億円、関連経費も加えると3兆円を超えることが明らかになった。
 新国立競技場の建設費が3000億円を超えて、白紙撤回に追い込まれるという汚点を残したことは記憶に新しい。「錦の御旗」、東京五輪大会を掲げたプロジェクトの予算管理は往々にして甘くなる懸念が大きく、それだけに経費の透明性が求められる。
 2020年度の予算編成が本格化するが、まだまだ明るみに出ていない「五輪開催経費」が次々に浮上するに違いない。全国の警察官などを動員する史上最高規模の警備費やサイバーセキュリティー経費などは千億円台になると思われる。さらに30億円から最大100億円に膨れ上がるとされている暑さ対策費や交通対策費も加わる。一方、7道県、14の都外競技場の仮設費500億円は計上されているが350億円の警備費や輸送費(五輪宝くじ収益充当)、地方自治体が負担する経費は計上されていない。マラソン札幌開催経費もこれからだ。最早、「3兆円」どころか最大「4兆円」も視野に入っている。
 「コンパクト五輪」の理念は一体どこへ行ったのか。


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

*************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
*************************************


コメント
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)

2023年03月01日 18時20分20秒 | 東京オリンピック
五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)






IOC マラソンと競歩の札幌開催 猛暑への危機感 
 2019年10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌開催に変更する代替案の検討に入ったと発表した。猛暑による選手らへの影響を考慮した措置としており、札幌は東京都内より五輪期間中の気温が5~6度低いことなどを理由としている。
 IOCは大会組織委員会や東京都、国際陸上競技連盟と協議を進める方針を示し、東京五輪の準備状況を監督する調整委員会を10月30日から都内で開催し協議するとした。「持久系の種目をより涼しい条件下で実施することは、選手と役員、観客にとって包括的な対応」と札幌開催の理由を述べた。
 五輪開幕まで1年を切り、IOCが会場変更を提案するのは異例の事態で、実現には難航も予想される。
 東京五輪大会のマラソン・競歩競技は、暑さ対策として、招致段階の計画からスタート時間を前倒しして、マラソンは午前6時、競歩の男子50キロは5時半、男女20キロは6時に変更した。しかし、10月6日に中東のドーハで閉幕した世界選手権では、高温多湿の猛暑を考慮して深夜スタートにしたのにもかかわらず、マラソンや競歩で棄権者が続出し、選手やコーチから強い批判を浴びていた。
 東京五輪のマラソンは、女子が来年8月2日、男子は同9日開催で、コースは新国立競技場を発着し、浅草寺、銀座、皇居などを巡る予定で、競歩は皇居周辺を周回するコースを予定していた。
 IOCのバッハ会長は「選手の健康は常に配慮すべき課題の中心で、マラソンと競歩の変更案は、IOCが懸念を深刻に受け止めている証だ。選手にベストを尽くせる条件を保証する方策である」と述べた。国際陸連のコー会長は「選手に最高の舞台を用意することは重要で、マラソンと競歩で最高のコースを用意するためにIOCや組織委などと緊密に連携していく」とした。
強く反発した小池都知事
 小池都知事は18日の記者会見で、強い不満を表明した。「アスリート・ファースト」に理解を示しながら、「開催都市と協議もなく、突如提案されたことに疑問を感じざるを得ない」として、「これまで準備を重ねてきた。東京で、という気持ちに変わりはない」と強調。30日から始まるIOC調整委員会で東京開催を主張する可能性を示唆した。 
 また小池氏は、15日に大会組織委員会の武藤敏郎事務総長から会場変更案の説明を受けた際、移転に伴う経費を「国が持つとおっしゃっていた」と明かした。これに対し、武藤氏は18日、都内で記者団に「そんなことは言っていない。国に頼んでみようかという話はした」と説明。菅義偉官房長官は同日の会見で「大会の準備、運営は都と大会運営委が責任を持ってするものだ」と述べた。
 マラソン・競歩の札幌開催経費の負担をどうするのかも焦点となった。
 9月15日に開催した五輪代表選手選考会を兼ねたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は、大会本番の検証を兼ねて、本番とほぼ同じコースで行われた。
 男子マラソンでは、1位になった中村匠吾(富士通)と2位になった服部勇馬(トヨタ自動車、女子マラソンでは1位になった前田穂南(天満屋)と2位になった鈴木亜由子(日本郵政グループ)がマラソン日本代表に内定した。
 東京都はこれまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策として約300億円を投入して、コースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を行い整備予定の約136キロのうち約129キロが完了している
 また東京都では、この大会で、沿道の50万人以上の観客向けに、暑さ対策として日よけテント設営や冷却グッズ配布などを行って本番に備えた。
 札幌移転計画が発表されたのは、東京都がこの検証結果を基に休憩所の増設など大会本番への方針を決めた直後で、関係者は「移転が決まれば従うしかないが、やりきれない思いもある」と落胆した。

「地獄」のドーハ世界選手権
 国際オリンピック委員会(IOC)が札幌開催の検討を始めた背景には、同じ高温多湿のドーハで9~10月に行われた世界選手権で棄権者が続出し、強い批判を浴びたことがある。スタート時間はマラソンが深夜11時59分、競歩は同11時30分。選手は急遽、錠剤型の体温計を飲み、深部体温を計測されながらレーズに臨む事態になった。
 女子マラソンはスタート時、気温32度、湿度74%。68人中、途中棄権は28人で完走率が60%を割ったのは大会初。天満屋の武冨監督は「2度とこういうレースは走らせたくない。昼やっていたら死人が出たのでは」と非難した。
 スタート時気温31度、湿度74%の男子50キロ競歩も完歩率は約61%。前回大会覇者、リオ五輪王者も含め、46人中18人が棄権。金メダルの鈴木も「50キロ持つか不安だった」と話し、東京五輪のコース変更を訴えた。「地獄だった」と表現した選手もおり、五輪への懸念が深まっていた。
 
IOCバッハ会長、札幌に「決めた」 五輪マラソン移転
 翌10月17日、バッハIOC会長は、カタール・ドーハで行われた各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会で、2020東京五輪大会のマラソン・競歩競技の開催会場について、「札幌に移すことを決めた」と発言した。
 札幌開催に向けて協議を行うということではなく、「決定」としたのである。
 バッハIOC会長は各国・地域の関係者を前に「IOC理事会は、東京の組織委員会と密に相談しながら、五輪でのマラソンと競歩種目を、東京から800キロ北にあり、気温が5~6度低い札幌に移すことを決めた」と明言した。そして「全てはアスリートの健康と体調を守るため。重要なステップだ」と胸を張って述べた。
 札幌開催に関して国際オリンピック委員会(IOC)の強気の姿勢がうかがわれる。
 これに対し、森喜朗組織委会長は「東京都は同意していないことをバッハ会長に申し上げた」としながら、「正直言って、相談してどうこう、ではない」と語り、札幌開催を容認する姿勢を示した。
 バッハ会長は、小池百知事に連絡する前に森喜朗組織委会長に相談し、了解をとっていたことが明らかになった。
 このことが小池都知事の強い反発を招くことになる。

 札幌開催を実現するには多くの難題を抱えている。
 コース設定からやり直す必要があるが、日本陸連幹部も「全く知らなかった」と驚きを隠せない。コース設定から仕切り直しとなると、陸上関係者からは「非現実的。1年を切った段階では厳しい」との声が上がる。札幌市では夏に北海道マラソンを開催しているが、運営面での準備期間は少なすぎるという深刻な懸念が生まれている。
 なにより開催都市、東京都と都民の国際オリンピック委員会(IOC)に対する反発が懸念される。これまで盛り上がってきた2020東京五輪大会の熱気を一気に冷やすことにつながりかねない。マラソン・競歩の札幌移転を契機に、都民のオリンピック批判が再び湧き上がる可能性も生まれてきた。

五輪マラソン札幌変更「決定だ」 コーツ調整委員長 知事に明言
 2019年10月25日、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は、東京都庁で小池百合子知事と会談し、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌に変更する案について「決定だ」と断言した。
 さらにコーツ委員長は、男女マラソンのメダリストの表彰式を閉会式で行うとともに、東京以外の都市で実施された競技の選手たちが閉会式参加を前に東京でパレードをする案も示して、札幌への変更に理解を求めた。
 これに対し、小池知事は「一生懸命準備してきて、都民もがっかりしている。納得できる説明がない。いきなり最後通牒となっているのは、まったく解せない」」とし、「東京でマラソンと競歩を行うと気持ちに変わりはない。(30日から始まる)IOC調整委でしっかり議論していきたい」と反論した。
 しかし、コーツ委員長は、「(札幌開催は)は決定事項だ。東京が主張したらどうするという問題ではない」と断言した。
 小池都知事は、仮に札幌開催になった場合は、追加経費(都民ファースの試算では約340億円)は「都が負担する考えはない」と明言した。一方、コーツ委員長は、V3予算案に計上している予備費の存在を指摘した。
 ドーハの大会では、酷暑をさけて男子マラソンも女子マラソンも異例の深夜11時59分スタート、それでも女子マラソンがスタートした9月28日の深夜は気温32.7度、湿度73.3%という過酷な気象条件だった。女子マラソンの68人の出場選手の内、約40%の28人が棄権、ゴール後に39人が救護所に担ぎ込まれたというまさに「命がけ」のレースとなった。コーツ委員長は、ドーハと東京は気温や湿度という気象条件で極めて似ているとした。
 東京都は、午前6時のスタートをさらに1時間早めて午前5時にスタートするという案を検討しているとしたが、コーツ委員長は、午前5時ではまだ暗闇でマラソンコースの景色が伝わらないし、放送用のヘリコプターが飛べないとして「午前5時案」を一蹴し、酷暑対策から見ても「スタート時間を早めても意味がない」と述べた。
 また小池都知事は、「とにかくプロセスが納得できない。東京都はこれまで調整・準備を行ってきて、警備・交通規制、沿道、宿泊などあらゆる観点から検討してきた。(今年の7月に来日した)IOCのバッハ会長は東京都の準備状況を高く評価していた」と憤り示した。
 東京都は、これまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策としてコースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を、都道約136キロを対象に進めてきた。すでに約129キロ、大半が完成している。 さらに、コースの給水所にポリ袋に砕いた氷を詰めた「かち割り氷」、ゴールには氷入り水風呂を用意する。かち割り氷は選手が走りながら体を冷やせるほか、水風呂はゴール後に熱射病の症状が見られる選手に対処するためである。観客の暑さ対策でも、日よけテント設営や冷却グッズ、手回し扇風機を配るなど検証を重ねている。
 こうした暑さ対策で、東京都はすでに約300億円を投じたとしている。札幌開催が実現すればこうした経費は水泡に帰すことなる。

五輪マラソン・競歩 札幌開催めぐり協議開始
 10月30日、東京・晴海で、国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会が、ジョン・コーツ委員長や森喜朗大会組織委員会委員長、小池百合子東京都知事、橋本聖子五輪担当相が出席して3日間の予定で始まった。
 会議の冒頭で、コーツ委員長は、「10月16日にIOC理事会はマラソンと競歩の札幌での開催を決定した。この決定は迅速に決まった。IOC理事会がなぜこの決定をしたか東京都民からの理解を得なければならない。コンセンサスが得られず、良好な関係が築けないままで、日本を離れる気持ちはない。IOCがなぜこの決定をしたのか理解してもらいたい」とした。これに対し、小池都知事は、「10月16日にIOCから東京五輪のマラソンと競歩に関して突然会場変更計画の発表がバッハ会長から発せられた。東京都や都民にとっては大変な衝撃で、都や都議会になんら詳しい説明のないままの提案で、開催都市とは何なのかとのとの怒りの声寄せられている。開催都市の長として都民の代表としてマラソンと競歩の東京での開催を望みたい」と述べ、「開幕まで9カ月と切って準備が総仕上げの段階で開催地の東京に最後まで相談のないままこのような提案が行われたことは極めて異例の事態」と強く反発した。IOCからの札幌開催についての連絡が、東京都が一番遅くなって「蚊帳の外に置かれ、しかもなんの事前の協議もなくいきなり「決定」とされたことに猛烈に反発した。
 これに対して、橋本五輪担当相は、「競技会場は、開催都市契約を締結した当事者のIOC、東京都、大会組織委員会の間で協議するものと考えている」として協議を見守る立場を表明した。また森組織委会長は、「大会まであと9か月という中で、納得できる結論を出すことが重要」とし、「ラグビーW杯で『ワンチームの精神』は日本国民に感銘を与えた。この動きを五輪につなげることが大事だ」として小池都知事を牽制した。
 コーツ委員長は、「すでにIOCの決定は進んでいる。国、東京都、大会組織委員会、IOCの四者で実務者会議を立ち上げて実務者協議を行うことを提案したい。実務者会議には選手が選手村から競技会場に移動する輸送部会とオリンピックの遺産をどう残すのかをテクニカルな議論する部会の二つの部会も設置したい」と述べ、11月1日に再びトップレベルで四者協議を行いたいとした。
 東京都は、実務者協議で、▼経緯の説明、▼マラソン東京開催の可能性、▼競歩東京開催の可能性、▼暑さ対策、▼東京開催を望む都民の声、▼会場変更、▼財政負担の7つの項目について議論をしたいとしている。
 一方、大会組織委員会は、札幌開催で新たに生じる経費をすべてIOCに負担を求めることとし、東京都には一切、負担を求めない方針と伝えられている。札幌開催のコースは札幌マラソンをベースにしながら、スタート地点を大通り公園にするという案をIOCに提案する方向とされている。また、パラリンピックのマラソンについては、国際パラリンピック委員会(IPC)は東京開催(9月6日)を確認している。
橋本聖子五輪担当相は、10月19日に札幌で、「ドーハの世界陸上で棄権したアスリートが考えていた以上に多かったことに関して、相当な危機感を持って決断した」とし、札幌開催に理解を示し、IOCへの信頼感を示した。スピード・スケートや自転車競技で世界を舞台に活躍したアスリートとして、酷暑での過酷なレースの開催に反発していたのであろう。また森組織委会長も「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」として、IOCの決定を容認する姿勢だ。
 また札幌市は、2026年の冬季五輪大会の招致を目指していて、マラソンと競歩の札幌開催に前向きである。
 あくまで東京開催を主張する小池都知事は孤立し、札幌開催の包囲網はすでに出来上がっている。また五輪憲章では、競技会場の選定についてはIOC理事会の権限を幅広く認められていてのでIOCの決定を覆すのは難しい。札幌開催は既定方針として、経費負担や開催日、コース選定などの条件に絞られていると思われる。小池都知事の「苦渋」の決断が求められた。東京都にとっても、札幌開催を巡っての混乱が長引くことで、2020東京五輪大会全体に悪影響が及ぶことが最大の懸念材料となった。

マラソン・競歩札幌開催費は誰が負担する? 破たん寸前V3予算「1兆3500億円」
 東京五輪大会の開催経費は、東京都、国、大会組織委員会の3者で協議を重ね、2018年12月21日、総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表している。 
 V3予算では、1兆3500億円とは別枠で、「予期せず発生し得る、緊急に対応すべきき事態等に対処する」として1千億円から最大で3千億円の「予備費」を設けている。予測できない天変地異やテロ発生、大規模災害などに対処する経費とした。
 しかし、この「予備費」は、財源の裏付けがなく、東京都、国、大会組織委員会の誰がどれだけ負担するのかが決まっていない。曖昧な性格のままに放置されている。
 実は、この予備費とは別に、大会組織委員会は「調整費」として、350億円をV3で計上している。今後、新たな支出が発生してきた場合に対応する大会組織委員会の予備費である。
 しかし、酷暑対策費が膨らむことが確実になっていることや交通対策費や警備費も増えることなどで、大会組織委員会の財政状況は極めて苦しい。300億円以上といわれている札幌開催経費を負担することは不可能なのは明らかである。
 小池都知事は、10月15日に武藤事務総長から説明を受けた際、「国が持つ」と伝えられたという。一方、大会組織委員会の森会長は17日、「『IOCが持ってください』と、そういうことを言わないといけない」と述べた。一方、菅官房長官は18日、「東京大会は東京都が招致して開催するもの。その準備・運営は東京都と大会運営委員会が責任を持ってするものであると理解している」と述べ、コーツIOC調整委員長は、「大会予算の予備費で充当して欲しい」として、真っ向から食い違っている。
 小池都知事は、経費は「原因者が負担すべき」と主張する。2020東京オリンピック・パラリンピックの経費は東京都が開催地を含めて提案したらこそ負担するのであって、札幌開催の経費は積極的であれ、消極的であれ、それをやりたい人が負担すべきであると主張する。
 IOCの主張通り、仮に予備費から支出する場合は、按分はどうするかは別にして、国、大会組織委員会で負担することになる。
 2016年末に、海の森水上競技場、オリンピックアクアティクスセンター、有明アリーナの会場建設を巡って、小池都知事と森大会組織委員会会長、コーツIOC副会長との間で激しい対立が繰り広げられたのは記憶に新しい。
 マラソンと競歩の札幌開催を巡って、三つ巴の攻防戦の第二幕が切って落とされた。

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承
 11月1日昼、東京・晴海でマラソンと競歩の札幌開催を巡って国際オリンピック委員会(IOC)、国、東京都、大会組織委員会で調整委員会(四者協議トップ級会合)が開かれ、札幌開催が合意された。
 会合の冒頭で、コーツ調整員会委員長から、4つの号事項が示され、▼会場変更の権限はIOCにある、▼札幌開催で発生する新たな経費は東京都に負担させない、▼既に東京都が大会組織委員会が支出したマラソン・競歩に関する経費については、精査・検証の上、東京都が別の目的で活用できないものは、東京都に負担させない、▼マラソン・競歩以外の競技は、今後、会場変更をしないとした。
 これに対して、小池都知事は「東京開催がベストだが、大会を成功させるこが重要なことに鑑みて、IOCの最終決定を妨げることはしない。『合意なき決定』だ」と札幌開催に同意することを表明した。
 この日朝、四者協議に先立って、バッハ会長は、小池都知事に直接メールを送り、マラソン開催地の札幌移転にともない、使用されなかった都内のマラソンコースを活用して、大会閉幕後、「オリンピックセレブレーションマラソン」を開催したらどうかという提案していたことが明らかになっている。
 小池知事はIOCからの突然のコース変更提案に、準備に心血を注いできた都民は失望しているとして、IOC側に「ぜひとも、誠意ある対応を示す必要があると繰り返してきた」と指摘。その上で「(バッハ会長から)真摯なメッセージを頂戴した」と評価して、今後、この新イベントについてIOCとともに具現化していくことに意欲を示している。
 バッハ会長の対応の巧みさが際立つ新提案で、これで札幌開催の合意に向けての流れが決まった。
四者会合で小池都知事は「地球温暖化の影響でこれから夏はさらに暑くなり、7月~8月の大会開催は、北半球のどこの都市で開催しても、暑さの問題が生じて無理がある。アスリートファーストの観点でIOCは五輪大会の開催時期をよく考える必要がある」と今後の五輪大会に向けてクギを刺した。
 これに対して、コーツ委員長は「『アジェンダ2020』ですでにオリンピック憲章を改正し、協議の開催地は開催都市以外や、場合によっては開国以外の開催も認められることになっている」と応じた。
 一方、10月30日、国際陸連などが札幌開催に向けて、マラソンと競歩の計5種目を3日間で開催する2案をまとめたことが明らかになった。いずれの案も男女のマラソンを同じ日に実施する計画である。
 変更案の一案は8月7日に男女20キロ競歩、8月8日に男子50キロ競歩を実施。マラソンは女子と男子を同じ日の8月9日に行う。
 二案は5種目を7月27~29日か7月28~30日に3日間で行う。男女マラソンは同日開催するが日にちは明示していない。二案の場合は新国立競技場で陸上競技のトラックが始まる7月31日以前の開催になり、同じ時期に東京と札幌の2カ所に分かれて陸上競技を行うことが避けられる。
 国際陸連は参加の各国・地域の連盟に対し、2案のどちらを望むかを10月31日までに回答するよう求めている。


四者協議トップ級会合 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長と小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影



際立った森組織委会長と武藤事務総長の手腕」
 IOCの札幌開催案を受けて、森組織委会長は東京都内で記者団に「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」と述べ、いち早くこれを容認する姿勢を示した。
 IOCより札幌開催の一報を聞いて、森組織委会長は、武藤事務総長と二人だけで善後策を協議したという。最大の問題は小池都知事をどう納得するかが焦点だった。小池都知事が経費負担にこだわっているのを察知して、当初は予備費で札幌開催経費をまかなうという意向を示したIOCを説得して、全額IOC負担とし、東京都には一切負担させないことで小池都知事を納得させる戦略をとった。
 その一方で、IOCが負担するという札幌開催の経費増加分は、選手や大会関係者の旅費や宿泊費など一部で、大会運営費はもともと予算化されている上、札幌開催の方が東京開催よりコンパクトになる可能性大きいため、きわめて限定した額にとどまる見通しを持ったと思われる。コース整備も札幌マラソンのコースをフル活用したり周回コースにすることで最小限に抑えられる。また、東京都がすでにマラソン開催の準備に支出した経費の補填についても、道路の遮熱舗装などは、マラソン開催だけの目的ではなく、東京の街全体の暑さ対策を進めるインフラ整備費、「レガシー経費」とされた場合は、五輪開催経費の対象にはならないため、すでの東京都が支出した300億円のほとんどは対象にならないと可能性がある。元財務次官の切れ者の武藤氏であれば、簡単に見抜くことができたであろう。残されたのは、都民の反発や不満、落胆といった感情をどう抑えるかである。こうした感情が反オリンピックにつながるがIOCにとっては大きな痛手だろう。バッハ会長は、2020五輪大会終了後、東京都が準備したマラソンコースを利用して「オリンピック・セレブレーション・マラソン」を開催することを提案して、都民の感情に配慮する「切り札」を切った。
 札幌開催を巡る騒動では、森会長と武藤事務総長の沈着冷静な老練な手腕が際立った。IOCに札幌開催経費を負担させることでで東京都を納得させる根回しを行ったと思われる。大会組織委員会とIOC、タッグを組んで、周到に小池都知事の包囲網を張ったのである。今回の一件で、大会組織委員会はIOCの一層の信頼感を得てポイントを挙げた。

マラソンと競歩は真夏の東京開催を断念せよ 「アスリートファースト」の理念は何処へ行った?
 マラソンと競歩の札幌開催に強く反発する小池都知事は、これまで開催準備を進めていく際のコンセプトとして、「アスリートファースト」を何度も強調してきた。
 地球温暖化の異常気象が原因なのか、ここ数年の東京の真夏の酷暑は異常である。
 そもそも東京の8月に五輪大会を開催しようとするのが無謀な計画だろう。
 マラソンは、本来はスピード、走力、持久力を競う競技で、「暑さ」の「我慢比べ」を競う競技ではない。東京の真夏でレースはまさに「命がけ」のレースを選手にしいることになる。こうした競技運営は「アスリートファースト」の理念とはまったくかけ離れている。IOCの意思決定のプロセスや経緯は大いに批判されてしかるべきだ。しかし、五輪大会は「アスリートファースト」でなければならいだろう。小池都知事は酷暑の東京でのマラソンや競歩開催に固執して「アスリートファースト」の理念は放棄するのか。
 今回の札幌移転について、IOCの強引な進め方については、強く批判されてしかるべきだろう。今後の五輪の運営について禍根を残した。
 しかし、そのことは別にして、筆者は、マラソン・競歩の札幌開催は大賛成である。東京開催を支持する専門家もいるが、選手に「命がけ」のレースを強いて、なにがスポーツなのかまったく考えていないことに唖然である。
 経費が問題なら、札幌大会は本来の東京大会のコンセプトである「コンパクト」な競技会にすればよい。マラソン・競歩だけでなく水質汚染や水温が問題化しているトライアスロンやマラソンスイミングもきれいな海で泳ぐことができるように会場変更すればよい。東京以外で開催することになぜ抵抗するのだろうか。
 どうしても東京でマラソン・競歩を開催したければ、開催時期を秋や冬の期間にずらして行えばよい。競技を集中させなければならいない理由はなにもない。あるのは、一極集中にこだわり巨大な利益を守ろうとする商業主義だろう。
 オリンピックの肥大化や行き過ぎた商業主義が批判されてから久しい。競技の開催地や開催時期も分離することで、「アスリートファースト」の理念の下で「世界一コンパクト」な大会を目指すべきである。

難航 札幌移転 経費分担
 のマラソン・競歩の札幌開催は、東京都が費用負担しないことを条件に受け入れる形で合意した。IOCは「アスリートファースト(選手第一)」を理由に押し切ったが、肝心の費用分担の議論は先送りされるなど課題は山積している。開幕まで9カ月を切ったが、難問は抱えたままである。
 急遽決まった札幌移転に伴う追加費用の試算はIOCも組織委は行っていない。都議会最大会派の都民ファーストの会が先月25日に示した「340億円超」との見積もりも「根拠があいまい」(組織委関係者)との見方が多い。
 都外開催の経費負担については2017年5月、国、都、組織委の協議で枠組みを決めている。①大会後に撤去する観客席などの仮設施設の整備費(約250億円)は都が負担②国や民間が保有する施設の改修費(約250億円)を組織委が支出③警備や輸送などの運営費など約350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てる。今回は国際オリンピック委員会(IOC)の一方的な措置として、都は費用負担を拒んだ。
 コーツ調整委員長は、四者協議で、東京都には札幌移転経費を負担させないとしたが、誰が負担するのかは明らかにしていない。国際オリンピック委員会(IOC)が負担するとは一切、言及していないのである。
 IOCは、一貫して大会組織委員会予算の「予備費」をあてにする姿勢を崩していない。
 「予備費」は、「1兆3500億円」とは別枠で、災害など予期せぬ事態に対応する費用として1000億~3000億円がV3予算で計上されている。しかし財源は決まってなく、組織委にチケット販売などによる増収分があれば充当するが、なければ都か国に負担が回る仕組みである
 コーツ氏は今後の費用分担の協議相手として札幌市と北海道も対象もげる。ただ鈴木直道・北海道知事、秋元克広・札幌市長とも「大会運営経費は組織委負担が原則」として都外の他の自治体同様、雑踏警備など通常の行政の範囲内の支出にとどめる姿勢だ。組織委内では今回はIOCの判断による移転のため、IOCがチケット販売に伴う取り分(総収益の7・5%)を充てることを望む声が上がっており、既に水面下での綱引きが始まっている。
 大会組織委員会としては、「1兆3500億円」の枠組みを死守しなければならいない中で、大会経費を押し上げる可能性のある札幌移転という難題を抱えた。
 国際陸上競技連盟はマラソン・競歩競技の5種目の開催予定を、これまでの5日間開催から3日間に短縮し、経費を抑制する方向で協議を始めたが意見の集約には時間がかかりそうだ。まだまだ迷走は終わらない。

マラソン札幌開催で費用合意 運営費は組織委とIOC、道路整備は道と市
 11月8日、大会組織委員会と北海道、札幌市の協議が開かれ、移転経費について、競技運営に必要な費用は組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、道路整備など行政に関わる経費は道と市が持つことで合意した。
 東京大会は都外にある会場でも仮設施設の整備費は都が負担が、マラソンと競歩の経費は東京都は負担せず、組織委とIOCが受け持つことが決まっている。組織委の武藤敏郎事務総長は鈴木直道・道知事や秋元克広・札幌市長に方針を伝え、記者団に「都が負担するはずだったものを道や市が支払うことはない」と述べた。組織委はIOCに、応分の負担を求めるとした。



大会開催経費 1兆3500億円を維持 組織委員会予算 V4発表
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。
 2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費、約8100億円を加えると、「五輪開催経費」は「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。



V4予算


V4予算(大会組織委員会)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)



2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
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東京オリンピック 都政改革本部 調査チーム 小池都知事 東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)

2023年03月01日 18時07分26秒 | 政治
2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)




小池百合子氏 都知事選に圧勝 五輪開催経費の検証へ
 「最近では1兆、2兆、3兆と。お豆腐屋さんじゃない。五輪にかかるお金でございます」。東京都知事選に立候補した元防衛相の小池百合子氏は選挙期間中の街頭演説で聴衆にこう呼びかけた。
 2016年7月31日、東京都知事選が投開票されて無所属の小池百合子氏が初当選を果たした。小池氏は政党の枠を超えた幅広い支持を集め、自民党や公明党などが推薦する元総務相の増田寛也氏や、民進、共産、社民、生活の党と山本太郎となかまたちなど推薦が推薦したジャーナリストの鳥越俊太郎氏を大差で破りった。
 女性知事は全国で7人目、東京都では初めて。既成政党の支援を受けない都知事の誕生は、1999年に石原慎太郎氏が鳩山邦夫氏(民主推薦)、明石康氏(自民推薦)らを破って初当選して以来となる。
 投票率は59・73%で、都心に大雪が降った2014年の前回(46・14%)を大きく上回り、得票は2,912,628票、圧勝だった。

 東京都知事選の初当選から一夜明けた1日午前、小池百合子氏は豊島区の事務所で記者会見を開き、公約に掲げた「都政の透明化」に向けた新組織を立ち上げる考えを明らかにした。東京五輪・パラリンピックなど都の事業に関する情報公開を進めるという。
 小池氏が選挙期間中に掲げたスローガンは「東京大改革」、2020年東京五輪・パラリンピックの費用問題や、都政や都議会の透明化に向き合うとしている。
 新組織の核となる「利権追及チーム」については、東京五輪・パラリンピックなどの都の事業を対象に、「内部告発を含め情報をいただく受け皿づくりを進めたい」と述べた。都政にからむ公私混同や利益誘導の有無をチェックする方針で、具体的な体制は今後検討するという。   
 とりわけ東京五輪の費用問題については、予算額が不明朗に膨らんでいるとして徹底検証に乗り出す考えを明らかにした。
 2020東京五輪大会の開催費用は立候補ファイルでは7350億円としたが、見積もりの甘さや工事費の高騰で経費は膨張し続けている中で、森喜朗組織委会長は「施設の建設や交通インフラの整備などで総額は最終的に2兆円を超える」と発言、舛添要一前都知事は「このままでは3兆円になる」と警告、「2兆円」、「3兆円」という言葉が飛び交っていた。
 小池氏は、「積算根拠を出していただき、都民の負担を明らかにしたい。都民のための都政を取り戻すため、五輪の予算負担は試金石になる」と宣言した。

都政改革本部を設置
 2016年8月2日、小池新東京都知事は、記者会見で、公約に掲げた「東京大改革」の実現に向け「最も重要なことは徹底した情報公開。知事主導であらゆる情報を『見える化』していきたい」と強調し、都庁などの組織、予算を見直す「都政改革本部」を設ける方針を示した。
 都政改革本部は都知事の私的懇談として設置して、知事を本部長に、都職員や外部の有識者で「調査チーム」を構成し、「情報公開調査チーム」と「東京オリンピック・パラリンピック調査チーム」の2つを設置する。
 「東京オリンピック・パラリンピック調査チーム」では、「オリパラ予算や工程表・準備態勢の妥当性」や東京都、大会組織委員会、国の役割分担を検討するとし、「情報公開調査チーム」では都の情報公開を実態調査し、情報公開のルールの見直しに取り組むとした。
 小池知事は「都政を都民ファーストで改善していく」と述べ、都や関連団体の業務や予算を点検し、事業見直しや廃止を含めた抜本策を検討し、9月下旬に開会する次の都議会までに中間報告をまとめる予定を明らかにした。


小池百合子東京都知事 出典 東京都 知事の部屋


都政改革本部第一回 2016年9月1日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事、都政改革本部に5人任命 庁内の公的組織に
 8月12日、東京都の小池百合子知事は定例記者会見で、「都政改革本部」のメンバーに、大阪府・大阪市特別顧問の上山信一慶応大教授ら5人を任命すると発表した。当初は私的懇談会に位置付けていたが、「公的な意味合いを持たせて強力なものにしたい」と述べ、庁内の組織として立ち上げる考えを示した。
 メンバーに任命されるのは上山教授のほか、加毛修弁護士、小島敏郎青山学院大教授、坂根義範弁護士、須田徹公認会計士。上山教授は橋下徹・前大阪市長を支えた「維新ブレーン」の一人である。
 小池知事は5人の選定理由について「情報公開や自治体改革などに知見がある方。いろんな経験を積んでいる」と説明した。9月初旬の始動を予定しているという。
 本部の下には「情報公開調査チーム」と「東京五輪・パラリンピック調査チーム」を設置。五輪調査チームは大会組織委員会の予算も調査対象にするとした。


上山信一慶応大教授 出典 Youtube/JCC
 慶應義塾大学総合政策学部教授 企業、政府、NPOの経営改革や地域開発、行政改革を手掛ける。
 2008年4月、大阪府特別顧問、2011年6月 - 12月、大阪維新の会政策特別顧問、2011年12月 、大阪市特別顧問となり、橋本徹氏や大阪維新の会の政策運営を支えた。
 上山氏の著書「大阪維新」は、地域政党・大阪維新の会の「基本的な考え方と指針」となり、大阪都構想の理論的支柱。

東京五輪費用「3兆円超」 調査チーム報告書 3施設見直し案 ボート・カヌー会場は長沼(宮城県)を提言
 「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」
 2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チーム座長の上山信一慶応大学教授はこう切り出し、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池都知事に提出した。
 大会経費は、新国立競技場整備費(1645億円)、都の施設整備費(2241億円)、仮設整備費(約2800億円)、選手村整備費(954億円)に加えて、ロンドン五輪の実績から輸送費やセキュリティー費、大会運営費などが最大計1兆6000億円になると推計。予算管理の甘さなどによる増加分(6360億円程度)も加味し、トータルで3兆円を超えると推計した。 招致段階(13年1月)で7340億円とされた大会経費は、その後、2兆円とも3兆円とも言われたが、これまで明確な積算根拠は組織委員会や国や東京都など誰も示さず、今回初めて明らかにされた。
 調査チームは「招致段階では本体工事のみ計上していた。どの大会でも実数は数倍に増加する」と分析。その上で、物価上昇に加えて、国、都、組織委の中で、全体の予算を管理する体制が不十分だったことが経費を増加させたと結論付けた。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日







「司令塔」不在
 上村座長は、「お金の管理ですが、そもそも一体いくらかかるのか誰も計算していない。内訳なども全く情報開示されず積み上げもどれだけされているのかよく分からない。都民の負担を考えるとこれでは際限なく各組織が良い仕事をすればするほど請求書が全部東京都に回ってくる」とし、「今回の準備体制は驚いたことに社長がいない、財務部長がいないという構造になっている。全体を『こう変えていこう』、『こうしよう』と先取りしてビジョンを出す役割
 これまでは国、都、日本オリンピック委員会(JOC)、日本パラリンピック委員会(JOC)、大会組織委員会で構成する調整会議で準備体制が議論されてきたが、その調整会議がまったく機能を果たしていないと批判した。
 そして、「問題は国と都と組織委員会が別々に予算を管理する『持ち寄り方式』にある。総額に上限を定めた上で、国か都が予算を一元管理すべき」と提言した。
 また、東京2020大会のレガシーについて、「広義」のレガシーについては、2020年を契機に東京、日本、社会の在り方を見直す戦略の検討がなく、スマートシティ、ダイバーシティ、セーフシティなどの具体的なビジョンが見当たらないとした。
 そして、立候補ファイルで宣言した「復興五輪」の理念が希薄化していると批判した。
 小池都知事も「ガバナンスの問題が、結局、ここ一番、難しいところだと思っている。この辺も加速度的に進めていくためにガバナンスの問題は極めて大きな問題だ」と語り、東京都が主導権をとっていく姿勢を明確にした。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

組織委、「3兆円」に異例の反論
 2016年11月、大会組織委員会は都政改革本部の「3兆円」の指摘に対して異例の反論を公表した。
▼東京都の都政改革本部の調査報告書では大会経費が「3兆円」としたが、この数字には具体的な積み上げがないため、現在、四者協議においては現段階の各分野ごとの積算を基に全体経費を積み上げながら、コスト縮減に向けた議論を行っている。
▼「約8000億円」をまとめたのは4年前で、運営の詳細はまだ決まっていない段階での経費の積み上げで、国際オリンピック委員会(IOC)の定めた規準に従って、一定の仮定で積算を行ったものである。また(当時)必要と想定されるものを積み上げた額である。
▼立候補ファイルは組織委員会ではなく、招致委員会が作成したもので、約8,000億円」という数字は、開催都市や国が行うインフラ投資や警備・輸送・技術経費等が基本的に含まれておらず、現在作業している全体経費との直接の比較は適当ではない。
 そして組織委員会は、全体経費(V1)は年内にも取りまとめを行う予定だとし、焦点はV1で説得力のある開催経費の総額を示すことができるかどうかになった。

ロンドン大会では、招致段階では「8000億円」としてが、開催都市や国が行うインフラ投資や、輸送・警備等の経費が含まれておらず、最終的に「2.1兆円」となった。Tokyo2020の開催経費も、招致段階の「8000億円」と「3兆円」とは「異次元の数字」で比較すべきものでないと主張。
出典 Tokyo2020
 
3施設の整備見直しを提言
 ボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」については、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」だとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。「復興五輪」の理念にも合致するとしている。
 観客席2万席で設計した水泳会場「オリンピックアクアティクスセンター」は、大会後に74億円という巨額の経費をかけて5000席に減築する計画を疑問視し、規模縮小や近くにある「東京辰巳国際水泳場」の活用の検討を提言した。
 バレーボール会場の「有明アリーナ」は、規模縮小のほか、展示場やアリーナの既存施設の活用を提案した。
 仮設施設整備については、約2800億円に膨れ上がった整備について、国や組織委、東京都の費用負担の見直しにも言及し、都内に整備する仮設施設の内、最大1500億円は都が負担し、都外については「開催自治体か国」が負担するよう提言した。
 さらに東京都は、組織委に58億5000万円の拠出金を出し、245名もの東京都職員を出向させていることから、組織委を「報告団体」から「管理団体」にすることを求め、都の指導監督を強化する必要性も指摘した。
 これに対し、9月29日、森組織委会長は、文部科学省で開かれた東京五輪・パラリンピックの調整会議で、東京都の調査チームの報告書に言及した小池百合子知事に対し、大会組織委員会の森喜朗会長は強い不快感を示した。「IOCの理事会で決まり総会でも決まっていることを日本側からひっくり返すということは極めて難しい問題」と述べた。
 また海の森水上競技場については、「宮城県のあそこ(長沼ボート場 登米市)がいいと報道にも出ているが我々も当時考えた。しかし選手村から三百何十キロ離れて選手村の分村をつくることはダメなことになっているし経費もかかる。また新しい地域にお願いしてみんな喜ぶに決まっているが、金をどこから出すのか。東京都が代わりに整備するのか。それはできないでしょう法律上」と語った。
 組織委の武藤敏郎事務総長も、都の影響力の背景となっている都の出資金58億5千万円のうち、57億円を返還する意向を表明した。
 森氏は閉会後、別室で待機していた報道陣のもとに自ら歩み寄り、予定にはなかった取材に応じた。「独断専行したら困る」「われわれの立場は東京都の下部組織ではない。都と民間、みんなで作り、内閣府に認可された組織だ。都知事の命令でああせいこうせいということができる団体ではない」。静かな口調ながら約20分間、怒りをぶちまけた。
 また「三兆円超」とする開催費用の推計については、「『一兆だ二兆だ三兆だと豆腐屋ではあるまいし…』といった選挙の時に使うような言葉を、公式な議論で出すべきではない」と憮然として述べた。
 2カ月近く前の8月9日、知事に就任したばかりの小池氏と森氏は笑顔で握手を交わし、開催費用を削減していく方向で協力していくことで一致した。だが、小池氏は組織委への監督・指導を強め、会計監査に踏み込む手段を選び、次々と先手を打つ。
 「出資法人である組織委員会を調査対象といたしました」。8月29日に小池氏は森氏に対して文書で通知し、その後に発足した調査チームが組織委幹部にヒアリングを実施。さらに都の組織委への出資比率が97・5%に及んでいることや、組織委の職員の3割超を都の派遣組が占めることに着目し、水面下でより強い監督権限を持つ「監理団体」になるよう要請した。小池氏の狙いは「組織委から権限を取り戻す」ことである。
  この日の都政改革本部に提出された調査チームの報告書には「組織委は司令塔になりにくい」と明記した。座長の上山信一慶応大教授は組織委が最終的に赤字になれば都と国が損失を補填することを踏まえ、「各組織が良い仕事をすればするほど、請求書が全部都庁に回ってくる」と皮肉った。
 小池氏は報告書の内容について「組織委がIOCなどとの調整に汗をかいてこられたので総合的に考えていきたい」と述べ、「負の遺産を都民に押しつけるわけにはいかない」締めくくった。
 もともと小池東京都知事と森喜朗大会組織委会長は「犬猿の仲」、以降、小池東京都知事と森喜朗大会組織委会長との間で激しいバトルが繰り広げられる。


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


オリンピック アクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
 
ボート・カヌー会場見直し 3案に絞り込み検討 彩湖は除外
 ボート・カヌーの会場について「海の森水上競技場」を現在の計画どおり整備するだけでなく、大会後に撤去する仮設施設として整備することを新たな提案として加え、宮城県のボート場に変更する提案とともに、3つの案に絞り込んで検討を進めることを明らかにした。
 1案は、海の森水上競技場をコストを削減したうえで現在の計画どおり恒久的な施設として整備するという案、2案は、海の森水上競技場を大会後に撤去する仮設施設として整備する案、3案は、宮城県登米市にある「長沼ボート場」に変更する案でこの3つの案に絞り込んで検討を進めているとした。
 また調査チームは、これまで候補地として提案していた埼玉県の彩湖については、洪水や渇水対策のための調整池であり、国土交通省の管轄のため難しいという見解を示し、検討をすすめる候補地から除外するとした。
 都政改革本部の上山信一特別顧問は「海の森水上競技場は工事が始まっているので明らかに本命であるが、今回はそれ以外も考えようとしている。アスリートの声は大前提として重要だが、実現可能性の確率が高く、時間がかからないことが絶対的な条件だ」と述べた。
 さらに都の調査チームは、3つの案について、公表されている資料を基に、整備費用などを示した。
 「海の森水上競技場」を現在の計画どおり、恒久的な施設として整備する場合は、都がコストを見直した結果として300億円前後とする試算に加え、観客席など仮設の設備のための整備費用が加わるとしている。
 経費削減のために「海の森水上競技場」を大会後に撤去する仮設施設として整備する案も検討し始め、どのような施設にするかなどについて、チームで精査している状況とした。
 宮城県の「長沼ボート場」に変更する場合は、県の試算として150億円から200億円としている。
 調査チームでは、今後の課題と必要なアクションとして以下の項目を上げた。
▼海の森競技会場のコスト削減、レガシー収支改善の再検討
例:水位維持のための恒久的な締切堤、遮水工は必要か? 例:仮設化によるコストダウンは可能か?
▼ボート協会(NF)と都オリンピックパラリンピック準備局による具体的なレガシーとしての需要予測の精査
例:ボート施設利用競技団体、利用者予測は? 例:恒久施設としてのランニングコストと収入予測は?
▼代替候補地の再検討
例:候補会場の整備費用、大会後のランニングコストと収入予測は? 例:仮設シナリオの場合コスト試算の再検討 (高額な仮桟橋設備は本当に必要か?等)
 調査チームでは建設費や、大会後にレガシー・遺産として残るか、大会後に必要な維持費も検討したうえで、さらに詳細な報告書を小池知事に提出して判断材料にしてもらうとしている。


アイエス総合ボートランド(宮城県長沼ボート場)  宮城県登米市
延長2000m、幅13.5m、8コース  (日本ボート協会A級コース認定)


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日







猛反発した大会組織委員会、国際ボート連盟
 都政改革本部の調査チームは調査報告書のこうした提言に対し、激しい反発が起きた。
 森組織委会長は、「IOCの理事会で決まり総会でも決まっていることを日本側からひっくり返すということは極めて難しい問題」と述べ、海の森水上競技場については、「宮城県のあそこ(長沼ボート場 登米市)がいいと報道にも出ているが我々も当時考えた。しかし選手村から三百何十キロ離れて選手村の分村をつくることはダメなことになっているし経費もかかる。また新しい地域にお願いしてみんな喜ぶに決まっているが、金をどこから出すのか。東京都が代わりに整備するのか。それはできないでしょう法律上」と否定的な考えを示した。
 10月3日、海の森水上競技場の視察に来日していた国際ボート競技連盟のロラン会長は、視察後、「(海の森水上競技場は)ボート会場には適切だ。非常に満足しているし、このプロジェクトにも満足だ。今のところ、1つのプロジェクトしか存在しない」と述べた。さらにロラン会長は、「立地もよく、検討すべき点もあるが、最良ということで決定され、現在の準備状況に満足している」と強調した。
 その後、ロラン会長は小池都知事と会談し、小池都知事は「都政改革を訴えて今回の知事選に当選をした私として、もう一度オリンピック・パラリンピックにかかる経費、そしてまた、さまざまな環境整備を見直すべきではないか、実はこのことを訴えて知事になったようなものだ。費用の見直しについての世論調査は、80%以上の方が見直しということに賛成をしている。東京オリンピック・パラリンピックを成功させる最善の方法を見出すことを短期間で努めたい」と述べた。
 これに対し、ロラン会長は「直前に海の森から変わるかもしれないと報道で知って驚いた。承認済みのことに関して、我々に事前に相談がなかったことが残念。なぜこうなったのか深く知りたい」と不快感を示した。
 そして「決定ではなくこれから検証段階であると聞いたが、これは非常に重要なことだ。この報告書は第1ステップであり、報告書を改善するための手伝いをしたい。一部分だけでなく、すべての要素を全面的に検討して結論を出してもらいたい」とけん制した。長沼ボート場に変更する案については、「競技会場は、いろいろな基準を満たさないといけないが、東京から遠く、アスリートにとってベストの経験にならないのではないか。2年前にIOCや東京都などが調査をして専門家がまとめた分析では、宮城開催が将来にわたって地元によい効果をもたらすのかという点で、ほかの候補地に比べて評価が低かった」とした。
 また日本ボート協会の大久保尚彦会長は、「長沼(ボート場)、あまりにも田舎だからどんなコースを作ったって、後を使うかという可能が非常に小さい。単に東北復興支援ということでは本当にワンポイントになってしまう。将来のレガシーにまったくならない。私はまだまったく理解できない」と強く反発している
 一方、IOCのバッハ会長は、東京五輪の開催費用の増加について、「東京における建設費の高騰はオリンピック計画だけでなく、東日本大震災からの復興など、そのほかの理由もあるだろう」とし「建設的な議論をしたい」として柔軟に対応する姿勢で、今後東京都や組織委員会と協議を始める意向を示した。
 報告書の提案を実行していくためには、国際競技団体や国際オリンピック委員会(IOC)の承認を受け直す必要がある上に、海の森水上競技場にこだわっている国内の競技団体や大会組織委員会、そして国などとの調整も必要で、実現には難関は多いと思われる。
 小池都知事は難しい決断を迫られた。

小池都知事 村井宮城県知事と会談 海の森水上競技場見直し
 海の森水上競技場の建設を中止して、長沼ボート場開催に小池都知事は強くこだわった。五輪改革のシンボルにしようしたむきがある。
 2016年10月12日、小池都知事は海の森水上競技場の見直しを巡り村井宮城県知事と会談した。村井宮城県知事は、都政改革本部が宮城県登米市の長沼ボート場を代替候補地として提案したことを歓迎するとしたうえで、長沼ボート場での開催へ協力を求めた。
 会談では、村井氏は用意していた資料を差し示して説明しながら、東日本大震災の仮設住宅をボート・カヌー競技選手の選手村として再利用することや、整備中の自動車道による交通アクセスの確保、大会関係者の宿舎に近隣のホテルを活用するなどの計画を示した。 また高校総体のボート会場として毎年活用したいという構想も明らかにした。
 会談後、村井宮城県知事は、「被災者の皆さまと話をすると忘れ去られてしまう記憶の風化が非常に怖いとおっしゃる。2020年はちょうど震災から丸10年、多くの皆さまに来ていただいて改めて被災地の復興した姿を見ていただき、改めて被災者を激励してもらいたい」と語った。
 会談終了後、小池知事は、「選択肢としての一つだが、思い入れは十分に受け止めた」と述べた。
 
 これに先立ち、村井宮城県知事は前オリンピック・パラリンピック担当大臣で組織委員会理事の遠藤利明氏や武藤敏郎事務総長と会談した。
 会談では、組織委が長沼ボート場について9つに課題を指摘した。
▼選手村の分村の設置
長沼ボート場は東京・有明地区の選手村から遠距離にあるため、選手村の分村の設置が必要で、オリンピックで1300人以上、パラリンピックで250人以上の宿泊施設を用意しなければならない。仮設住宅の転用で対応すると、パラリンピックの選手に使ってもらうためには利便性に課題が残る。
▼パラリンピックへのバリアフリー対応
 競技会場には車いすの選手が利用できる間口の広いトイレや、すぐ横にシャワースペースも必要になるとし、会場についても高低差10メートルほどの斜面もあり、パラリンピックの開催に適さない。
▼輸送に難あり
仙台から85キロあり、パラリンピックの選手に負担が大きく、最寄り駅の1つにはエレベーターやエスカレーターがない。
▼会場に斜面が多く、整備が困難
 会場周辺は斜面が多く、放送設備を置くためのスペースの確保などが難しく、周辺道路も狭い。
▼電力通信インフラが未整備
国際映像を配信するための電力や通信関係のインフラが整備されていない。
▼観客や大会関係者の宿泊施設不足
▼選手の移動などに負担大
 空港から距離があり、選手の移動に負担がかかることや、カヌーはスラロームとスプリントが別の会場で実施されることになるためコーチなどスタッフの対応が難しくなる。
▼整備経費増大の可能性
都政改革本部の調査チームの試算ではおよそ350億円とされているが、バリアフリー化や電力・通信、宿泊関係などにかかる費用が含まれていないので整備経費は更に膨れ上がる可能性がある。一方、海の森水上競技場はコスト削減の余地があり結果的に低コストになるのではないか。
▼レガシー(遺産)が残らない
 会談後、遠藤理事は、「東京都を含めてそれぞれの組織や団体が時間をかけて丁寧に精査し、現在の計画が最良の場所だと決めた。その中でIOC=国際オリンピック委員会などの理解を得られるのかどうか、難しい課題がいっぱいある。問題点のうち、いくつかはすでにクリアしているということだが、いちばん大きい問題は、現地で負担する費用の問題だと思う」と述べた。

 これに対して村井宮城県知事は「組織委員会は消極的で『しょせん無理だ』という感じだった。長沼のボート場でできない9つの理由を挙げていたが、すべてクリアできると考えている」として、▼選手や大会関係者、1300人の宿泊施設は空いている仮設住宅を改修して整備、▼会場内にバリアフリー対応の道路を整備、▼長沼では毎年2万人が来場するマラソン大会を開催しており、輸送には実績、▼観客の宿泊施設は隣接する仙台市や南三陸町のホテルで対応、▼選手の移動の負担は、成田空港からの乗継便や新幹線を利用することで軽減可能、▼高校総体の会場とするなどレガシーにすると反論した。
 そして「1000年に一度と言われる震災から立ち直ったのだから、やる気を出せば4年あればできる。できない理由よりもやれる方法を考えるべきで、森会長のリーダーシップに期待したい」と述べた。
 
小池都知事 長沼ボート場視察
 2016年10月15日、小池都知事は宮城県登米市の南方仮設住宅と長沼ボート場を視察した。
 小池知事は、村井宮城県知事と共にボート選手の宿舎を想定してリフォームした南方仮設住宅を訪れ、その後、長沼ボート場に到着した知事は、ボートに乗船し水上からボート場の視察した。
 視察を終えた知事は、「被災地で使われた仮設が、今度はオリンピック・パラリンピック用によみがえるというのは、一つの大きなメッセージになりうる。調査チームの分析も進んでおり、今日の現地視察をベースに、東京都としての選択をしっかりと定めていきたい」と述べて長沼開催に意欲を示した。
 「無駄遣い」のシンボルとなってきた海の森水上競技場の建設を中止して、五輪改革の成果としようとする小池都知事の姿勢をアピールして国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会に揺さぶりをかけた。
 しかし、海の森水上競技場の建設を中止すると、工事担当企業への補償や原状復帰工事費などで約100億円が必要となることが明らかになり、長沼ボート場に移転しても経費削減には余りつながらないとして、海の森水上競技場の経費を削減して現状通り整備する方向が有力となっていた。


ボートに乗船して長沼ボート場を視察する小池都知事と村井宮城県知事 出典 東京都 知事の部屋

雲消霧散「復興五輪」
 2013年9月7日、2020夏季五輪の開催都市を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会がブエノスアイレスで開かれ、各都市の最終プレゼンが行われた。 
 最終プレゼンの冒頭では、高円宮妃久子さまが「震災復興支援へのお礼」を述べ、続いて被災地の宮城県気仙沼市出身のパラリンピアン、佐藤真海選手も「復興におけるスポーツの力」を訴えた。
 招致委員会は、東京大会の開催意義について、復興に向かう姿を世界に発信する「復興五輪」を前面に押し出して、大会招致を進めていた。
 しかし、総会の直前、7月に福島第一原発から大量の高濃度放射線汚染水がタンクから漏れるという汚染水事故が発生していたことが明らかになり、各国から東京開催を危ぶむ声が激しく沸き上がっていた。
 安倍首相は、最終プレゼンで、汚染水問題は「アンダーコントロール(管理下にある)」と懸念払拭に懸命になるという一幕もあった。
 結果、競争相手のマドリードとイスタンブールに圧勝して、東京大会開催を勝ち取った。

 政府は、東京大会を「復興五輪」と位置付け、2015年11月に、「大会の準備・運営に関する基本方針」で「復興五輪」を明文化して閣議決定をし、国や組織委員会は「復興五輪」繰り返し強調した。2020年度は、政府が復興の総仕上げと位置づける「復興・創生期間」の終了年度でもある。
 しかし、開催準備が進む中で、「復興五輪」は雲消霧散してしまっている。
 カヌー・ボート競技会場の見直し問題で、小池都知事は「復興五輪」のコンセプト重視を訴えた。「スポーツの力で被災地を元気にする」という「復興五輪」の理念が問われた。

 2015年1月23日、大会組織委員会(森喜朗会長)は、大会開催基本計画を決めた。
 基本計画では、開催開催のスローガンとして““DISCOVER TOMORROW”を掲げ、大会ビジョンの3つのコンセプト、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を示し、アクション&レガシープランの基本理念を示した。そして「2020年は市場最もイノベーティブで、世界にポジティブな変革をもたらす大会」を目指すと宣言した。
 この基本理念に基づいて、(1)スポーツ・健康(2)街づくり・持続可能性(3)文化・教育(4)経済・テクノロジー(5)復興・オールジャパン・世界への発信-を「5本の柱」とし、地域スポーツの活性化やスマートエネルギーの導入、東日本大震災の復興状況の世界への発信などに取り組むとし、アクションプランのロードマップも明らかにした。
 「5本の柱」の内、(1)から(4)は、ありふれた内容でまったくインパクトもないし、なぜ2020年に大会を開催するのかその意義を理解するのはまったく困難である。
 唯一、具体的で内容が明確なのは、(5)復興・オールジャパン・世界への発信だろう。「復興五輪」は大会開催意義の重要な柱であることを忘れてはならない。
 カヌー・ボート競技会場の見直し問題をきっかに「復興五輪」というスローガンにどう取り組むのか、もう一度、考え直す契機にすべきであると考える。「復興五輪」への取り組みを牽引するのは、組織委員会や都ではなくて国であろう。丸川五輪相は、組織委員会や都の取り組みに委ねるのではなく、主体的に「復興五輪」に向けて手腕を発揮する責任がある。


アクション&レガシープラン 2020東京五輪大会組織委員会

「杜撰」の象徴 海の森水上競技場
  海の森水上競技場(スマート施設)や海の森クロスカントリーコース(仮設)が建設される「海の森公園」は、東京湾の埋め立て地の突端、中央防波堤内側の埋立地に東京都が整備している。この埋め立て地は、昭和48年(1973年)から昭和62年(1987年)にかけて1230万トンのごみで埋め立てられ、建設残土などで表面を覆って高さ約30メートルの「ごみ山」を造成した。
 この「ごみの山」に苗木を植えて、緑あふれる森林公園にして東京湾の玄関口にふさわしい臨海部のランドマークにしようとするのが「海の森プロジェクト」である。「東京らしいみどりをつくる新戦略」を掲げて「水と緑のネットワーク」「海辺の回廊」の新たな拠点として位置付けた。工事は東京都港湾局が2007年に始めた。広さ約88ヘクタール、日比谷公園の約5.5倍の広大な面積に約48万本の木々が植えられる計画である。
 苗木は、市民や民間企業からの募金で購入するほか、小学生や苗木づくりボランティアがドングリから育てたシイの木やスダジイ、タブノキ等の苗木、24万本をこれまでに植樹した。
 「海の森プロジェクト」の賛同者には建築家の安藤忠雄氏、石原慎太郎元都知事、高島直樹都議、江東区の山崎孝明区長、大田区の松原忠義区長、アルピニストの野口健さんらが名を連ねた。
 「海の森公園」のある中央防波堤埋立地(約500ヘクタール)は、江東区と大田区が帰属を主張して互いに譲らず、訴訟になっていたが、2019年10月、江東区に帰属するということでようやく決着した。
 しかし「海の森公園」エリアは、東京湾の埋め立て地の再突端、1年中、海からの強風が吹き、砂ぼこりが舞い上がる。また羽田空港への離発着コースの真下にあるため航空機の轟音が4、5分間隔で響き渡る。周辺の道路は、港湾施設に向かう大型トラックで溢れている。周辺には建設発生土再処理センターや粗大ごみ処理施設などのほかに建物がなく、荒涼とした光景が広がっている。「公園」が整備される環境としては決して良好とは言えない。
 また交通アクセスの悪さも指摘され、「陸の孤島」とされている。最寄りの駅のりんかい線「東京テレポート駅」まで約4.5キロ、自家用車やバスでの移動になるが、今の所、路線バスは運行されていない。平日は誰も訪れる人はなく、休日でも490台の駐車場は閑散としている。
 東京都では、2020東京五輪大会を開催するにあたって、海の森水上競技場や海の森カントリーコース、海の森マウンテンバイクコースをこのエリアに整備して「海の森プロジェクト」に弾みをつけることを狙った。 その中核として位置づけたのが海の森水上競技場である。
 当時の開発関係者の間では「あの場所の開発ありきで進んだ話。政治的に決着している場所」と囁かれていたという。

 「海の森プロジェクト」が掲げた高度成長期の「負の遺産」を「レガシー」(未来への遺産)に変えようというコンセプトは、筆者は大いに評価したい。
 ところが、海の森水上競技場は迷走に迷走を重ねて2020東京五輪大会の競技場整備計画の「杜撰さ」の象徴となり、海の森マウンテンバイクコースは経費削減で建設が中止された。海の森カントリーコースは仮設施設なので大会終了後は取り壊される。
 東京都では、大会後の「海の森公園」エリアは、海の森水上競技場を中核にして水上スポーツや水上レジャー・イベントが楽しめる市民の憩いの場としたいとしているが、都心部からの交通アクセスが悪い上に、エリアにはレストランや商業施設もなく、殺伐とした風景が広がっている。市民の憩いの場というには余りにも寂しい光景だ。
 海の森水上競技場は、もともと水路だった場所に、水門を設置して護岸工事を行い、波を防止する消波装置を備えた大規模な工事で建設される。海水で建物の腐食が進むことから維持管理費はかさむ。大規模な国際大会を開催するとしているが、誘致できる保証もない。イベント開催も参加者が余り見込めないためほとんど可能性がない。
 海の森水上競技場は、「臨海部のランドマーク」どころか、「負の遺産」になる懸念が強まった。


海の森公園 海の森カントリーコースが仮設で整備される 後方は東京ゲートブリッジ 出典  東京都


中央防波堤外側の埋立地では現在も埋め立てが続いいる 出典 東京都環境公社

バレーボールの横浜アリーナ開催を本格検討
 都政改革本部の調査チームが、バレーボール会場を「有明アリーナ」から既存施設の「横浜アリーナ」(横浜市)に変更する案について本格検討に入ったことが明らかになった。有明アリーナの整備費は400億円を超すと試算されており、変更で大幅なコスト削減が実現すれば、小池百合子知事の五輪改革の象徴例になりそうだ。
 有明アリーナはメインアリーナに客席1万5千、サブアリーナにコート2面を確保する計画で、整備費は招致時の176億円から2.3倍の404億円に膨れ上がっている。
 都政改革本部の調査チームの報告書では、バレーボールについて北京、ロンドン、リオデジャネイロの3大会で既存施設が活用されたことを挙げた上で、東京大会でも既存の展示場・アリーナの改修などでの対応も検討すべきだと提案、既存施設の具体例として横浜アリーナやパシフィコ横浜(横浜市)などを挙げた。
 この内、横浜アリーナが移転先として最有力視され、都政改革本部の試算では7億円程度の改修費で開催が可能という試算を出している。
 横浜アリーナは、新横浜市に隣接している観客席1万3000席の多目的アリーナで、音楽コンサート、アイススケートショー、スポーツ・文化イベント開催などで高い評価を得ている。過去にバレーボールの国際大会の開催実績もある。
 しかし、繁華街にあるため、五輪大会などの大規模な競技大会を開催をするためにはスペースが少ないのが欠点である。
 バレーボールの五輪大会を開催するためには、国際オリンピック委員会(IOC)や国際バレーボール(FIBV)の基準では、観客席1万5000席以上、ウオーミングアップ・コート2面以上が必要としている。横浜アリーナは、観客席が1万3000席、ウオーミングアップ・コートは1面なので、拡充・改修工事が必要となる。またメディア施設などの仮設施設や駐車場を整備するスペースを新たに確保する必要があり、周辺の民有地の使用が必須となる。警備上の問題も難問である。アリーナ周辺地域を封鎖する必要があり施設や住民の理解を得なければならない。
 これに対し、日本バレーボール協会の木村憲治会長は、国際大会開催には客席1万5千以上の施設が必要と強調し、「当初案通り、五輪基準の体育館を用意願いたい」とし、国際バレーボール連盟は「有明会場は最も費用効果が高い。変更案が大会成功に悪影響を与えることについて懸念している」と声明を出した。またバレーボールを含めて9競技団体が加盟している日本トップリーグの川淵三郎会長は「夢と希望を与えるアリーナが子供たちと選手にどれだけレガシーになるかを理解してほしい」として見直し手撤回を求めた。
 横浜市の林文子市長は、9月30日の記者会見で「(都側から)実際に正式な申し出があれば、私どもはもちろんしっかり検討してご協力していきたい」述べたが、競技団体が足波を揃えて移転反対を唱えている中で、「時間も短く、競技団体の理解を得るのはかなり難しいというのが私の考えだ」として、誘致に否定的な姿勢を示した。
 小池都知事は、報告書を受けて、都が整備を進めるボート会場など3施設の抜本的見直しや国の負担増、予算の一元管理などを推し進めるとしているが、各提案を実行するには、国際競技団体や国際オリンピック委員会(IOC)の承認を受け直す必要がある上、国や大会組織委員会などと調整が必要で、実現には難関は多い。
 「五輪改革」を高らかに宣言して五輪準備体制の主導権を握ろうとした小池都知事、果たして実績として何を上げられるか、その手腕が問われることになった。

都政改革本部報告書の要旨
(読売新聞 2018年 9月29日)

 【基礎事実の確認】
 ▽組織委員会が負担しきれない分の財政責任は、開催都市の東京都が負う。最終的な財政保証は国が負う
 ▽競技施設には、都、国、他自治体、民間団体が所有するものを活用する。不足分は各機関が恒久施設を新設するほか、組織委が「仮設施設」を建設する
 ▽都が負担する費用は、組織委への寄付(58・5億円)、恒久施設の建設、警備や輸送インフラなどの経費、組織委が資金不足に陥った際の補填(ほてん)
 【調査でわかったこと】
 ▽今のままでは開催総費用が3兆円を超える可能性
 ▽費用の大半は警備、輸送、広報などソフトの経費で、残りの約4割は施設投資などのハードの経費
 ▽ハードの経費のうち見直しの余地があるのは、〈1〉都が新規につくる七つの恒久施設(計2241億円)と〈2〉組織委の仮設施設(計約2800億円)の計約5000億円
 〈1〉について、多くは既に着工済みだが、他県への立地や既存施設の改修の可能性を探るべき。特に以下の3施設は対応を急ぐべき。
(1)海の森水上競技場=宮城県への移転の可能性を探り、できない場合は仮設に(2)アクアティクスセンター=辰巳水泳場の改修を検討。無理な場合は規模を縮小(3)有明アリーナ=既存の展示場・アリーナの改修で対応できる可能性。無理な場合は規模を縮小し、不足分は仮設で対応
 〈2〉について、立候補ファイルでは組織委の分担だが、非現実的。組織委、都、国や他自治体も参加し、分担ルールを検討すべき
 ▽都は地方自治法や都民への説明責任の立場から、組織委の出費、投融資のあり方や経営全般のあり方を指導、監督すべき
 【都の施設建設】
 ▽(2012年に五輪が開催された)ロンドンと比較し、臨海部に各施設が散在し、輸送と警備のコストがかさむ。ほとんどが駅から遠く、都民の後利用には不便
 ▽競技団体の要請や時間的制約などの理由で、他の場所への立地や既存施設の改修などの代替案に関する調査が不十分であった可能性が高い
 ▽恒久施設は軒並み座席数が過剰
 【課題】
 ▽施設のあり方の見直しには、組織委のほか、国際オリンピック委員会(IOC)や国際競技連盟(IF)などでの協議が必要

大会組織委員会の「管理団体」化を求める小池都知事 猛反発する森喜朗会長
 9月29日、小池都知事は、2020東京五輪大会の調整会議で、組織委員会を「報告団体」から「管理団体」にすることを求めた。「組織委員会は都の外郭団体で都政改革本部の調査対象となる」と述べ、組織委員会対し指導監督を強化して、事業・収支を必要に応じて調査に入るとした。 東京五輪の運営体の主導権を東京都が掌握しようとするものである。
 これに対し、森組織委会長は、猛反発した。
「我々の立場は東京都の下部組織ではない。これは何度も前にこう仕上げたと思うが内閣府で認可されている。東京都知事の命令でああしろ、こうしろということができる団体ではない」と述べ、東京都が拠出している57億円を返却する(武藤事務総長)とした。
「管理団体になるのがいやというわけではない。営業努力でお金がたまったから返す」と事実上の“開戦”宣言をした。
関係者によると、森氏の意向を受けた武藤氏が数日前、小池氏と秘密裏に会談して57億円の返還を打診した際、小池氏は「だったら人も返してくれるの?」と突き放したとされる。(2016年9月29 日 産経新聞)
 森組織委会長は、リオデジャネイロ五輪に出席した際に、記者団に対して、「(小池都知事の)ご意向を僕は聞く必要はないだろう。知事の下請けでやっているわけはない。私はボランティアでやっている。奉仕のつもりでやっているのだから。それをお汲み取り頂けなければ考えなければならない」と述べている。
 その後、知事に就任したばかりの小池氏と森氏は笑顔で握手を交わし、開催費用を削減していく方向で協力していくことで一致し、表面上は協調姿勢を装った。しかし、小池氏は組織委への監督・指導を強め、会計監査に踏み込む方向で、次々と先手を打っていたのである。
 森喜朗会長として、小池都知事の“配下”に入るのは到底、耐えられないということだろう。それなら東京都の拠出金57億円を返還すると抵抗した。森喜朗会長の小池都知事に対する激しい反発が窺われる。
 しかし、小池都知事は「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」として、一歩も引く気配はない。
 「都民ファースト」を掲げ五輪開催計画の見直しを求める小池都知事、主導権をあくまで確保したい森組織委会長、激しいつばぜり合いが激化した。


小池百合子都知事と森喜朗組織委会長

組織委員会は東京都とJOCが出資している公益財団法人
 開催都市(東京都)と国内オリンピック委員会(日本オリンピック委員会 JOC)は、国際オリンピック委員会(IOC)とオリンピック憲章に基づき「開催都市契約」を結び、大会の準備及び運営を委ねられて、組織委員会を設立することが求められことになっている。
2014年1月24日、東京都と日本オリンピック委員会は、それぞれ1億5千万 円を「出えん」し、一般財団法人として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を設立した。
 組織委員会は設立後当初、数年間は収入が見込めないため、財団法人をしても存続条件の「2事業年度連続で 純資産が300万円未満の場合解散となる」をクリヤーして、安定的な運営基盤を確立するために、2014年6月、東京都が57億円を追加で「出えん」して、組織委員会の基本財産を積み増した。
その後、行政改革の一環として、財団法人と公益法人を分離して、整理を行う「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律)」が施行され、組織委員会は、公益認定の手続きを行い、2015年1月1日、公益財団法人に認定された。

 東京都が拠出している58億5000万円については、1億5000万円が「出資」、57億円が「寄付」のカテゴリーの「出えん」である。(下記 表を参照)
 「出えん」とは、「財団法人の設立行為となる基本財産に財産を拠出すること」で、「通常の出資の場合に認められている株式、持ち分等の地位を取得することはなく、寄付の性格を有する」とされている。
 「出えん」を受け入れる財団法人は、基本財産に組み入れるので、“出資”の性格を持つ拠出金で、「株式、持ち分等の地位を取得」しないが、“出えん”は緩やかな事実上の“出資”の意味合いを持つと考えるのが妥当だろう。
 東京都は組織委員会に対し、事実上97.5%を“出資”しているのである。


都政改革本部 東京都総務局

組織委員会は東京都の関与が弱い「報告団体」
 東京都は、「都が基本財産に出資等を行っている」または「都からの財政的支援又は人的支援が大きい」団体のうち、東京都が指導監督を行う必要がある団体を「監理団体」としている。
 しかし、国や他の団体による関与が強く、都が指導監督する範囲が狭いなどの団体に対しては、監理団体として指定しない適用除外規定を設け、より指導監督権限の緩やかな「報告団体」とする規定を設けている。
東京都は、都が基本財産に「出えん」し、東京都の職員の派遣など都からの人的支援が継続的に行われることなどから、「監理団体」の要件に該当するものと当初はしていた。
 しかし、組織委員会の設置がIOCに義務付けられていることやオリンピッ区検証やIOC・NOC・開催都市の間で取り交わす合意書の存在や、IOC理事会の指示に従い全ての活動を進めるとされているため、組織委員会の事業活動に対してIOC等から非常に強い関与があることなどから「監理団体の適用除外規定」にあたると判断し、最終的に「報告団体」として整理した。

東京都は「報告団体」や「管理団体」に何をするのか
 東京都では、自律的経営の促進を目的に指導監督を行う「監理団体」と、自らの経営責任のもと自主的な経営を行う「報告団体」に対して、それぞれ指導監督スキームを整理している。

◆「監理団体」と「報告団体」は、団体運営の状況を把握するため、年1回、役員・管理職名簿、事業計画・予算書、事業報告・決算書等を提出求められる。

◆組織委員会については、「報告団体」とされ、毎年度、役員・管理職名簿、事業計画・予算書、事業報告・決算書等を提出させることで東京都は団体運営の把握に努めることにとどまっている。
 年1回程度とされているため、さまざまな団体で行われている事業報告・会計報告といった極めて“緩やかな”指導監督スキームである。

◆「監理団体」に対しては、組織・職員等の調整など組織に関する関与のほか、情報公開やセキュリティ対策の実施、また、必要に応じて団体運営に係る事業及び収支等に係る調査等の指導監督を行うことが定められている。
 「必要に応じて」という規定なので、東京都は随時、必要が生じれば、組織委員会に対してヒアリング、調査、指導監督などを頻繁に行うことが可能だ。
 組織委員会は、都政改革本部の調査チームの調査に対し、きちんとした対応が義務付けれ、指導監督が随時可能なので、東京都は組織委員会の施設整備計画や運営計画に変更や修正を要求することが保証されことになる。
 東京都が上部団体、組織委員会が下部団体、上下関係が明確となる。
 
 組織委員会の事務局本部は、新築の52階の高層ビルの「虎の門ヒルズ・森タワー」にある。組織委員会のメンバーは森喜朗組織委会長、武藤敏郎事務総長を始め、733名が業務に従事している。内訳は東京都の派遣が245名(33.4%)、国が32名(4.4%)、地方自治体が113名(15.4%)、団体(JOC/JPC、民間事業者)が260名(35.5%)、契約職員等が83名(11.3%)である。民間事業者は、電通やJTBが大挙して要員を派遣している。
 東京都の派遣の245名は、五輪開催準備作業の中核部隊となっているのは明白だろう。東京都からの出向なので、給与などは基本的に東京都が全額負担する。年間約20億円を超える巨額な経費だ。
 これだけ組織委員会にコミットしている東京都は、組織委員会に対して監督指導権限を発揮するのは当然で、むしろその権限を行使しないと、東京都民に対しての説明性が欠落して、「怠慢」と批判されても止む得ないだろう。
 組織委員会の「58億5000万円」は返還するとしているが、返せは済むという問題なのは明らかである。問われるのは組織委員会に違いない。


都政改革本部 東京都総務局 

 競技場整備のかかわる仮設施設を誰が負担するかも大きな問題となっている。
 組織委員会は、仮設施設の整備費が招致段階の計画の約723億円から4倍相当の約2800億円に膨らむ見通しとなっていることを明らかにした。
 招致段階では、新国立競技場は国、大会後も使う恒久施設は東京都、仮設施設は、組織委が担うことになっていたが、仮設施設の整備費が組織委員会では負担しきれないほどの額になっていたのである。
 仮設として整備する施設は、有明体操競技場、皇居外苑コース(自転車〔ロードレース〕)、お台場海浜公園(トライアスロン・水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、海の森クロスカントリーコース(馬術・クロスカントリー)、有明BMXコース(自転車[BMX])、陸上自衛隊朝霞訓練場(射撃)の7施設だ。それに既設施設などの「オーバーレイ」整備が加わる。
 森喜朗大会組織委員会長は、「東京都が招致をしたオリンピックなので、東京都がまず会場を用意するということが第一義でなければならない」と述べ、東京都も仮設施設の整備費の負担をすべきだとした。
 これに対して、舛添前都知事は協議に応じる姿勢を示し、東京都と組織委員会で協議が開始されていたが、小池都知事に代わって協議は頓挫している。
 都政改革本部の調査チームの報告書では、仮設施設を「大規模暫定施設」と「オーバーレイ」の2種類に分類した。
「大規模暫定施設」(仮設インフラ:組織委員会の表現)は、「大会期間中使用し、大会後は撤去するものでオリンピックに施設として必要な水準まで整備する建物設備」とし、競技場、観客席、照明、空調、電源、フェンスなどである。これに対し「オーバーレイ」は「オリンピック施設に追加されるもので、大会運営上、大会期間中だけ一時的に付加されるもの」とし、テント、プレハブなどが該当する。
 その上で、約2800億円の負担の内訳を、組織委員会が約400~800億円、国が約500億円以上、東京都以外の自治体が約150億円以上、民間が150億円以上、そして東京都は約1000~1500億円とした。
 東京都は、恒久施設に2241億円負担した上で、仮設施設に最大1500億円を負担するべきだとした。組織委員会の窮状を東京都が救済した格好である。
 組織委員会は、仮設施設の経費問題でも、東京都に「頭が上がらない」のは明白だろう。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局




都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

すでに破たんしている組織委員会
 致命的な問題は、組織委員会の収支の破たんが明白なことであろう。
 2015年12月、組織委員会の準備や運営に必要な費用を試算したところ、およそ1兆8000億円と当初の見込みの6倍に上ることが明らかになった。
 招致の段階での見通しは約3000億円だった。
1兆8000億円費用の内訳は、
・仮設の競技会場の整備費などが3000億円
・会場に利用する施設の賃借料などが2700億円
・警備会社への委託費などセキュリティー関連の費用が2000億円
・首都高速道路に専用レーンを設けるための営業補償費など選手や大会関係者の輸送に関する経費が1800億円
 首都高の営業補償など当初、想定していなかった経費が加わったことや、資材や人件費の高騰などが要因だとしている。
こうした経費は、準備作業が進むに従って更に膨らんでいくことが容易に想定される。
 
 これに対して組織委員会の収入はスポンサー収入が好調に推移して、当初の見込みは上回るものの、で約4500~5000億円としている。
 組織委員会は1兆円を超える大幅な財源不足が必至の状況である。
 組織委員会が赤字になった場合に、財源の補てんは一義的には東京都が行い、それでも負担できない場合は国が負担することになっている。
 組織委員会は、東京都に「1兆円なんとかして欲しい」と頭を下げる立場なのである。
 組織委員会の森会長や武藤事務総長は、このことを理解して発言をしているのだろうか?

五輪開催経費はまだまだ“青天井”
 調査チームの「3兆円」の試算では明らかにされていない東京都の五輪関連経費はまだまだありそうだ。五輪開催とは直接関係はなくもともと都市の基盤整備として必要と見なし、五輪開催経費から除外しているインフラ整備経費だ。
 選手村の周辺整備費関連では、道路等の基盤整備費、防潮堤建設費として約186億円、巨額の工費に批判が集まった海の森水上競技場は、コースをまたぐ中潮橋の撤去費で約38億円、新しい橋「海の森大橋」の建設費や周辺道路との立体交差工事で300億円以上、さらに有明アリーナの用地取得費約183億円、IBC/MPCが設営される東京ビックサイトに建設する増設棟の建設費で約228億円などである。これは氷山の一角だろう。
 一方、国はいまだに新国立競技場の建設費の一部約1300億円とパラリンピックの開催負担金200億円以外の開催経費は一切、明らかにしていない。
 すでに国が全額負担するハンドボールなどの会場となる代々木競技場の第一体育館と第二体育館の改修費を、スポーツ庁は総額180億円を予算化している。
 五輪の会場基準を踏まえたバリアフリー化のほか、耐震工事や老朽化した設備を更新工事である。
 こうした国の五輪開催経費が次々に表面化していくのは間違いない。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックまで、後4年余り、いまだに開催費用が総額で一体いくらになるのか、示されていない。
 誰が巨額の開催経費を負担するのか、次世代に巨額の負担を残すのか、2020東京オリンピック・パラリンピックは“負のレガシー(負の遺産)”になる可能性はさらに強まった。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの“混迷”と“迷走”がさらに深刻化した。新国立競技場問題、五輪エンブレム問題は、その終わりではなく始まりだった。


国立競技場と五輪マーク 筆者撮影

2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック 4者協議 トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長 実務者会合

2023年03月01日 12時07分21秒 | 東京オリンピック
混迷を繰り返した四者協議~組織委・東京都・国・IOC~
ガバナンスの欠如を露呈した2020東京五輪大会運営




深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承(2019年11月1日)


コーツIOC調整委員長と小池東京都知事 2019年11月1日 筆者撮影





五輪開催経費(V3予算) 「1兆3500億円」維持 削減できず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、東京2020大会の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月22日に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 武藤敏郎事務総長は、国際オリンピック委員会(IOC)の要請に答えて、V3ではさらに経費削減に努める考えを示していたが、開催計画が具体化する中でV2では計上していなかった支出や金額が明らかになったほか、新たに発生した項目への支出が増えて「圧縮は限界」として、V2予算と同額となった。
 
「350億円」縮減 「1兆3500億円」(V2)
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。2017年5月に東京都、組織委、国で総額1兆3850億円とした大枠合意から更に350億円削減した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 国際オリンピック委員会(IOC)は10億(約1100億円)ドルの経費節減を求めていたが、V2では「350億円」縮減に留まった。組織委の武藤敏郎事務総長は来年末発表するV3では削減にさらに努める考えを示した。

開催経費「1兆3850億円」 都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円
 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費

 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」である。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円、今回の「1兆3850億円」も同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、圧縮経費の詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。

 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。



第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料

“青天井”? 五輪開催経費
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる“操作”が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、“大会成功”という大義名分が先行して、“青天井”になることが往々にして起きる。
新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
2020東京大会のキャッチフレーズ、“世界一コンパクな大会”はどこへ行ったのか。


東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念“世界一コンパクト” 競技会場の全貌

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」




東京五輪の経費 最大1兆8000億円 四者協議のトップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。









開催経費「1兆8千億円」は納得できるか?
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須である。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。


「開催費用1兆8千億円」だったら東京五輪招致を世論は支持したか?
 組織委員会は「開催経費は決して膨れ上がっていない」と胸を張っているが、当時想定できなかった経費がその後加わったのか、想定はしていたが大会開催経費をなるべく少なく見せるために意識的に加えなかったのかはよく分からない。しかし、森喜朗会長自らTBSのニュース番組(2016年5月16日)に出演し、当初の大会予算について「最初から計画に無理があったんです。「3000億でできるはずないんですよ」と述べていた。
 舛添前都知事も「舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とした上で、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とテレビ番組に出演して話している。
 あっさり「1兆8000億円」と言ってもらいたくない。
開催費用を巡ってはまさに“無責任体制”のまま進められていたのである。
 2020東京五輪大会に立候補する際に、「開催費用 1兆8千億円」としたら、都民や国民は招致を支持しただろうか。招致の責任者の説明責任が問われてもやむを得ないだろう。


「組織委員会5000億円」 収支支均は帳尻合わせ
 12月21日に開催された4者協議で、森組織委会長は「決して組織委員会のお金が5000億で、それより大きくなったので、その負担をなにか東京都と国に押し付けているのではないかいという報道がよくあるが、これはまったく違う」と述べた。
 組織委員会の提示した予算は、「組織委員会」が「5000億円」で「収支均衡予算」、東京都や国、開催自治体が「1兆3000億円」とした。
しかし、実態は、組織委員会の収入は「約5000億円」、収入から逆算して組織委員会の負担を「5000億円」に“調整”して、残りの「1兆3000億円」を、組織委員会以外の東京都、国、開催地方自治体の負担としたのであろう。なりふり構わず苦し紛れの“帳尻合わせ”予算と見るのが合理的である。
組織委員会が負担すべき経費は、精査して積み上げたとしているが、どの経費を、いくらを合理的に積算したかは明らかでされていない。
その象徴が、仮設関連経費だ。予算書では、「組織委員会」が「800億円」、「その他」が「2000億円」としたが、どんな根拠で、どのように仕分けしたのか明らかにしていない。その他、「ソフト[大会関係]」の輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーションもどうようだ。「予備費」を全額「その他」に計上するのも、組織委員会の予算管理の責任を曖昧にすることにつながりかねない。
新国立競技場や海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンター、有明アリーナなどの東京都が整備する恒久施設の経費は、すでに整備費が見直され、誰がどれだけ負担するか明らかになっている。同様のプロセスが必須だ。
 組織委員会の予算を、なにがなんでもなりふり構わず“均衡予算”にしないと、IOCの了解が得られなかったからであるからであろう。“みせかけ”の“均衡予算”になった。その“矛盾”は直ちに露呈するだろう。
 組織委員会が本来負担すべき経費を適正に積算して、総額がいくらなのかをまず明らかにするべきだろう。その上で、立候補ファイルの「3013億円」と比較して、経費が膨れ上った原因を明らかにすべきだ。
その上で、“帳尻”合わせの“操作”をしないで、“組織委員会の“赤字”は一体、どのくらいになるのかを明らかにし、責任の所在を明確にすることが必要だ。東京都や国、開催自治体に負担を要請するのはその後である。
 このままでは、組織委員会の開催予算管理の“杜撰”な体質が一向に改まらない懸念が大きい。


五輪開催経費 大会組織委、東京都、国の負担割合は不明瞭
 そもそも「1兆8千億円」には、大会組織委員会が負担する経費だけではなく、東京都や国が負担する経費も含まれている。立候補ファイル(2012年)でも、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算 東京都や国、地方自治体が負担する予算)に分けて開催予算を提示している。

 「警備費」は、「組織委員会」が「200億円」、「その他」が「1400億円」とした。 競技会場や選村、IBC/MPCなどの施設内や施設周辺の警備費は、組織委員会が負担するのは当然で、「200億円」の負担は少なすぎる。大会組織委員会の負担をなるべく少なく見せかけ、帳尻合わせをしたと思える。
 一方VIP関連の輸送、交通機関や主要道路、成田空港や羽田空港、さらに霞が関の政府機関、東京都庁や主要公共機関、電力・通信などの主要インフラ施設など警備まで組織委員会の経費で負担させるのは合理性を欠く。国の責任が重要となる。伊勢志摩サミットでは国が約340億円の警備費を負担した。東京五輪大会の規模ともなるとこの数倍は楽に超えるだろう。国は五輪に関わる警備費は一体いくらになるのか明らかにする必要がある。

 また「輸送費」ついては、「組織委員会」が「100億円」、「その他」が「1300億円」としたが、選手や大会関係者のシャトルバス運行に伴う経費などは組織委員会が負担するのは当然だろう。地方開催の場合の選手や大会関係者の輸送も大会の責任だろう。これも「100億円」とするの過少計上である。
 しかし、VIPの選手や大会関係者の輸送に伴うオリンピック専用レーンの設置は、首都高速道路、湾岸道路などに広範囲に必須とされているが、その約200億弱とされている通行制限に伴う高速道路会社への補てん費等は、東京都や国なども応分の負担するのは当然だろう。組織委員会と案分するのが筋である。

 「テクノロジー」や「オペレーション」については、それぞれ総額「1000億円」としたが、 内訳が示されていないため、経費総額の根拠が極めて曖昧になっている。
 「組織委員会」と「その他」の仕分けは、ほぼ折半とされているがこれも不明瞭だ。
しかし今回は、「1000億円」は総額だけが記入されているまったく白紙同様の請求書を組織委員会が国、東京都に出したのである。これでは到底、納得することはできないだろう。
 「その他」の経費、「1150億円」は巨額だが、内訳が明らかでない。精査する必要が必須である。
 また「3000億円」としている予備費を国や東京都などの「その他」に計上していることは納得できない。組織委員会の予算管理責任を曖昧にするからである。
 森組織委会長は「そして運営だとか場所の設定だとかその他もろもろのことがこれからある。改装の問題、エネルギーの問題、セキュリティの問題、いろいろある。セキュリティひとつにしてもどこが持つのか、やってみなければわからない。何が起きるのか不確定要素は多い。この東京大会は、特に夏だし、あるいは台風の多い時だ。何があるかこれからわからない。まだ3年、4年先の話だ」と述べている。
自然災害や不測の事態が発生して、開催経費が膨れ上がり、予備費で補填するのはやむを得ないだろう。一方、組織委員会の予算管理を厳重に監視する必要がある。東京五輪大会の開催経費を巡る“混迷”を振り返ると、新国立競技場や海の森水上競技場など、その“青天井”体質への歯止めが必須だ。













地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、 「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。
その後、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。



海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費297億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円3000億円以上を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事 四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル


小池都知事が主導権 四者協議トップ級会合
 四者協議トップ級会合は当初、一部非公開で議論される予定だったが、小池百合子都知事の意向で完全公開となった。会合後に記者団に対して、小池知事は、「フルオープンでない部分があると聞いて、だったら最初から結論を言ったほうがいいと思って、そのようにした」と述べ、変更した理由を明らかにした。まずは異例の“全面公開”の会合にすることで小池都知事のペースで始まった。
 小池都知事は、議論を後回しにして、冒頭で「ボート・カヌー会場は海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンターは予定通り建設、バレーボール会場は先送り」の東京都案を明らかにした。これに対して組織委員会は不満の意を唱えたが、進行役のコーツIOC副会長が引き取って、IOCとして東京都案を支持すると表明し、東京都案はあっさり承認された。
 小池都知事は会合開始直前に、コーツ副会長に“直談判”をして、“全面公開”と“バレーボール会場の先送り”を承諾してもらったことを、報道ステーション(11月30日)に出演して、明らかにしている。小池都知事は、ボート・カヌー会場を海の森水上競技場することの“見返りに”、バレーボール会場の先送りをIOCに認めさせたのであろう。IOCは、渋々認めたというニュアンスが、「(横浜アリーナの検証作業は)大変な作業になる。野心のレベルが高い作業だ」(コーツ氏)という発言から伺える。
 また小池都知事は、「日常的にメールでコーツ副会長とは連絡を取り合っている」(報道ステーション)と、コーツ副会長とのホットラインが築かれていることを明らかにした。どうやらIOCとのパイプは、森氏だけではなくなったようである。会合が終わって、真っ先に小池都知事がコーツ副会長に近づいて笑顔で握手をしていた。 
 森組織委会長は、東京都のバレーボル会場の横浜アリーナ案について強く反発し、「クリスマスまで何を検証するのか」とか「僕の知りうる情報では横浜の方が迷惑していると聞いている」としたが、これに対して小池都知事は「横浜市にも賛同してもらったところで、お決め頂いたら是非やりたいという言葉を(横浜市から)もらっていた」と反論した。
 双方、言い分がまった違うので、一体どうなっているのかと思ったら、会合終了後、組織委員会から記者団に対して、「先ほどの森組織委会長の発言は、“迷惑”としているのは事前に何の相談もなかった競技団体で、『横浜』ではありません」と訂正要請がされた。森組織委会長は小池都知事にボート・カヌー会場の見直しや横浜アリーナ案に対して、たびたび強い口調で批判をし、両者の間に“火花”が散っていた。
 ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。積極的に是非やってほしいという言い方はとてもできない」と微妙な立場を述べている。
 また横浜市は東京都と組織委員会に対して、書面(11月25日付)で「国際、国内の競技団体、さらにIOCの意向が一致していることが重要」とか「(民有地を利用する際の住民理解や周辺の道路封鎖などは)一義的に東京都や組織委員会が対応すべき」と事実上難色を示しているこが明らかになった。横浜市は、四者協議の資料として提出したもので、具体的な内容は「配慮のお願い」で新たな意思決定ではないとした。
 さらに開催費用の議論については、東京五輪大会をめぐる“迷走”ぶりを象徴している。
 森組織委会長は、「“3兆円”を国民に言われるとはなはだ迷惑だ」と都政改革本部を批判した。これに対して小池都知事は「“3兆円”は予算ではなく、大会終了後、結果として総額でいくらかかったかを試算するものだ。予算段階では公にできないものもある」と反論した。また森組織委会長は、「警備費や輸送費などは国が持つことを検討してほしい」と述べたのに対し、丸川五輪相は「平成23年の閣議了解で大会運営費は入場料収入や放送権収入でまかなうとしている」と述べ、否定的な姿勢を示した。IOCのメンバーを前に、開催費用や費用負担を巡って、組織委員会、国、都がバトルを繰り広げたのである。コーツIOC副会長は、「関心を持って聞いた」としたが、本音、何ともお粗末な東京五輪の運営体制と唖然としたに間違いないだろう。東京大会の招致で高らかに世界各国に訴えた“マネージメント力の卓越さ”は一体、どこへいったのか? 
 組織委員会は、開催費用の総額を“2兆円”とトップ級会合で明らかにして四者協議でコンセンサスを得たいという思惑があったと思える。しかし、IOCから“2兆円”は高額過ぎると批判を浴び、結局、“2兆円を切る”というおおまかなことしか明らかにできなかった。組織委員会は東京五輪の開催経費の総額と詳細を今回も示せなかった。その“2兆円”もIOCから否定され、さらに大幅に削減するように求められた。組織委員会の面目はまるつぶれ、お粗末さを露呈した。IOCにとって、“経費削減”、“肥大化の歯止め”は、五輪大会の持続性を確保するために至上命題なのである。“2兆円”を1兆円以上切り込む必要が迫られている。その対象は競技場の建設費ではなく、組織委員会が管理する大会運営費である。瀬戸際に立たされたのは組織委員会だ。
 一体の東京五輪の開催経費の総額は、いつ明らかにされるのだろうか? 個々の競技場の建設費問題よりはるかに重要だ。
 東京五輪の“迷走”と“混乱”はまだまだ続きそうだ。


主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長


実務者作業部会再開 隔たりは埋まらず難航 結論はトップ級会合に先送り
 2016年11月27日、東京都、政府、組織委員会、IOC=国際オリンピック委員会の4者協議作業部会が再び開かれ、競技会場の見直しや開催経費削減などについて議論が行われた。
 作業部会はIOCのデュビ五輪統括部長、都の調査チームの上山信一慶応大教授、組織委の武藤敏郎事務総長などが出席し出席非公開で行われ、焦点のボートとカヌー、バレーボール、水泳の3つの競技会場を中心に、6時間に渡って議論が行われた。競技会場の見直しについては、東京都の提案を元に、11月初めの第一回会議で課題の洗い出しが行われ、その後、候補となっている会場の視察や費用の分析が進められてきた。
 会議終了後、IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長は「各競技会場について詳細に検討した結果をトップ級会合に提示する。その場で最終的な決断するのか、さらに検討を求めるかは彼ら次第だ」と述べ、トップ級会合で最終的な“結論”を出すとしたが、先送りされる可能性も示唆した。一方、小池都知事も「決まるものは決まるかもしれないし、決まらないものは先に送ることになるかもしれない。明日の協議次第だと思っている」と先送りの可能性について述べている。仮に海の森水上競技場や有明アリーナが、計画は変更されるにしても予定通り建設されることになれば、それと“引き換え”に、小池都知事はIOCや組織委員会に経費削減策の具体策を求めることになるのは必至だろう。
 最終的な“結論”に至るかどうかの主導権は小池都知事に握られているのである。
 29日のトップ級会合は公開予定で、民放の午後の情報番組やNHKでは生中継も行われる。
 3会場のうち、バレーボールは当初計画の有明アリーナ(江東区)新設、横浜アリーナ(横浜市)活用の2案を中心に最終調整している。最も時間を費やして議論をしたとされている。東京都案としてバレーボール会場に急浮上した国立代々木競技場は、結局、議題には上がらなかったとされ、事実上、代々木案は消滅したと見るむきもあるが、トップ級会合で浮上する可能性もあり、。議論は難航しそうだ。ボート・カヌー会場は湾岸部に新設する海の森水上競技場を仮設施設として整備する方向が有力、大会開催後の利用の見通しについても議論された。オリンピック アクアティクスセンターは、観客席を計画の2万席から1万5千席に削減する案が検討されたが、特に異論はなかった模様だ。
 また、大会経費を抑える新たな仕組みについて具体策の検討が行われた。資材を安く調達したり、第三者による専門家チームが費用の妥当性を検証したりするなど、民間の手法を取り入れる方針だ。
 東京大会の開催費用については、東京都の調査チームは総予算が“3兆円”を超える可能性があるとしたが、四者協議作業部会は、“2兆円”との試算のをまとめ、トップ級会合に報告する予定だ。IOCは組織委の資材調達費用が高すぎる点などを見直し、経費削減を指示していたと伝えられている。
 これでようやく東京大会の開催経費の総額が初めて公式に明らかにされることになった。しかし、これが開催経費問題の“終着点”ではなく、これから開催経費の具体的な項目を個別に厳しくチェックし、経費削減をさらに図る努力が必須だ。これまでの予算管理のの“青天井”体質とは決別しなければならない。
(参考 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 NHK 時事通信 2016年11月28日)

「四者協議」の実務者作業部会 見直しの結論の方向性は出さず
前面に出た東京都 影に追われた大会組織委員会 存在感が無い国

 東京オリンピック競技会場の見直し案などを議論する「四者協議」の実務者会合が、11月1日から3日までの3日間に渡って行われた。
 会合には、クリストフデュビIOC五輪統括部長や東京都調査チーム統括の上山信一特別顧問、武藤敏郎組織委員会事務総長、IOCのアスリート委員のコベントリー氏や組織委員会のスポーツディレクターの室伏広治氏らオリンピックのメダリストも参加した。
 2日目の会合では、上山信一特別顧問が、東京都のボート・カヌー、水泳、バレーボールの3つの競技場の見直し案を説明した。
国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会は会場変更については慎重な姿勢を示しているとされている中で、会合では、ボート・カヌーとバレーボール競技場の見直し案について議論が行われた。
 この内、海の森水上競技場については、海の森水上競技場の選定に深くかかわった国際ボート連盟の担当者も出席し、大会運営の専門的な立場から意見を述べたが、見直し案の結論の方向性は議論されなかったとされている。
またIOCの出席者からは、施設、輸送、警備費など経費が高額な組織委側の見積もりに対し、IOCから甘さを指摘する意見や、レガシー(遺産)となる部分については、地方自治体の費用負担も必要との意見も出たとされている。
 実務者会合に出席したクリストフデュビIOC五輪統括部長は、会合終了後、記者団に、「とても良い会合だった。3日間の協力について満足している。特定の方向性を打ち出すというよりも事実をつかむための情報交換を行った。東京都民や東京都にとってレガシーを残すための努力はどんなものでも歓迎する。(長沼ボート場や横浜アリーナの)選択肢は残っている。作業部会の目的は決定することではない。決定は4者協議の代表が今月末に行う」と述べ、今回の作業部会では競技会場の見直しの方向性は決めず、作業部会で出た議論を文書にまとめた上で、結論は11月30日に行う予定の四者協議のトップ級会合で出すとした。
 これに対して、小池都知事は、「東京都として複数の案を示した。東京都とIOCが同じ舞台で直接会話し、同じ考えを共有できた。大変に敬意を表したい」の述べ、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)と直接、話し合いができる場ができたことを評価した。これまで、国際オリンピック委員会(IOC)は大会組織委員会を窓口に大会開催計画を話し合って、事実上、決めてきた。 「四者協議」が始まったことで、東京都がIOCの「交渉相手」として加わったことで、大会組織委員会の影が薄くなった。 大会組織委員会は“主導権”を失い、東京都が表舞台に躍り出た。


* 11月29日開催される四者協議トップ級会合は、「テクニカルグループミーティング関する報告とまとめ」と「今後についてについては公開され、「議事整理」は非公開としたが、小池都知事の直前の提案ですべて公開に変更

小池都知事VSバッハIOC会長会談 主導権争い熾烈  
 2016年10月18日、トーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長と東京都の小池百合子知との会談が行われた。
 競技会場整備の見直しと開催経費削減を巡って小池東京都知事と森大会組織委会長の対立が激化し、混迷が深刻化している中で、バッハIOC会長は訪日し、両者の調整に乗り出したのである。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 会談の冒頭、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語り、小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と四者協議開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じた。
 会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
 11月に開催される4者協議も小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設の合わせて、最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。
 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、直接、議論をする場を確保した。また「四者協議」で具体的な見直し案を提出できるのは東京都しかと思われる。組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり都政改革本部が見直しの主導権を握っているのだろう。しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?まったく見通せない状況になった。


東京五輪費用「3兆円超」 都チーム推計 3施設見直し案 ボート・カヌー会場は長沼(宮城県)を提言
 「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」
 2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チーム座長の上山信一慶応大学教授はこう切り出し、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池都知事に提出した。
 大会経費は、新国立競技場整備費(1645億円)、都の施設整備費(2241億円)、仮設整備費(約2800億円)、選手村整備費(954億円)に加えて、ロンドン五輪の実績から輸送費やセキュリティー費、大会運営費などが最大計1兆6000億円になると推計。予算管理の甘さなどによる増加分(6360億円程度)も加味し、トータルで3兆円を超えると推計した。 招致段階(13年1月)で7340億円とされた大会経費は、その後、2兆円とも3兆円とも言われたが、これまで明確な積算根拠は組織委員会や国や東京都など誰も示さず、今回初めて明らかにされた。
調査チームは「招致段階では本体工事のみ計上していた。どの大会でも実数は数倍に増加する」と分析。その上で、物価上昇に加えて、国、都、組織委の中で、全体の予算を管理する体制が不十分だったことが経費を増加させたと結論付けた。 
 そしてボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」は、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」だとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。「復興五輪」の理念にも合致するとしている。また「オリンピックアクアティクスセンター」の観客席の規模縮小やバレーボール会場の「有明アリーナ」の規模縮小や展示場やアリーナの既存施設の活用を提案した。


都政改革本部 調査チーム調査報告書


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書


五輪開催経費は誰が責任をもって管理するのか
 2016年9月下旬、東京オリンピック・パラリンピックの予算などを検証している東京都の調査チームは、開催費用を独自に推計した結果、3兆円を超えるとしたうえで、コスト削減に向け、都内に整備する予定の3つの競技会場を都外の施設へ変更するなど計画の大幅な見直しを提案し、五輪開催経費を巡って“迷走”が始まった。
 これまで開催費用については、「2兆円を超える」(森大会組織委委員会長)、「3兆円は必要だろう」(舛添要一前都知事)など曖昧な発言が繰り返されただけで、誰も開催費用の総額を明らかにしてこなかった。招致計画では約7340億円(資材費・人件費の暴騰で約8000億と試算)、関係者からは「足りるはずがないと皆で話していた」「招致のために低く見積もっていた」との声が聞こえてきたという。一体、大会開催費用は誰が責任を持つべきなのだろうか。
 2007年3月、イギリスのジョーウエル文化・メディア・スポーツ相はロンドン五輪の開催経費は約93億3500億ポンド(1兆2975億円)になる見込みだと発表した。招致計画の予算24億ポンド(約3029億円)の約4倍に膨れ上がるとした。
 経費が膨れ上がった原因は、再開発経費やインフラ投資経費も見込んでいな
かったことだと説明した。この内、約53億ポンド(約7367億円)をオリンピックパークの建設費(競技場建設を含む)、約27億ポンド(約3753億円)を予備費としている。その後、下院や監査局が予算のチェックを実施、使途の内訳や推移は定期的に公表された。そして2012年10月、英政府はロンドン五輪の総費用は予算(最終予算額92億9800万ポンド)を約3億7700万ポンド(約524億円)下回り、89億2000万ポンド(1兆1240億円)と発表した。この他に大会組織委員会の運営費が約20億ポンドかかったので、ロンドン五輪の開催経費の総額は約109億ポンド(約1兆5151「億円)としている。ヒュー・ロバートソン(Hugh Robertson)スポーツ閣外大臣は、予算内に収めた運営当局を賞賛し、「2012年ロンドン五輪が、将来の五輪およびパラリンピックの運営の新たな基準となるのは間違いない。90億ポンド以内での大会運営はほぼ達成された」と語った。
 重要なポイントは五輪開催の約5年前には、英政府は政府の責任で五輪開催費用の総額の見通しを公表し、定期的にチェックしていたことだ。ふりかえって東京大会の開催費用は総額で一体いくらになるのか、これまでは“青天井”のままで開催準備が進められ、都政改革本部が初めて、“推計”で“3兆円”を明らかにしたという経緯がある。
 競技施設整備やインフラ整備、大会運営費など開催費用は、国や都、組織委員会などがバラバラに管理し、開催費用の総額は、“青天井”で、まったくの無責任体制と批判されても致し方ない。ロンドン五輪では国が責任を持って行った。東京大会の開催費用管理の責任体制はどうするのだとうか、これからが正念場だろう。このままでは無責任体制のツケを東京都民や国民が払わされることに追い込まれる。新国立競技場の“失態”が再び繰り返されるのだろうか?

* 使用為替レート(ポンド=円)
 為替レート 1ポンド=139.0円(2016年11月28日) 本稿で使用レート
* 参考
 都政改革本部調査チームの報告書は、ポンド=円の為替レートを「過去10年の最小値である2012年平均1£=126円と、最大値である2007年平均1£=236円の中間値:1£=181円で換算」し、組織委員会の経費も含めて総額を「2兆1137億円」としている。



2016年12月22日  初稿
2017年7月1日   改訂
Copyright (C) 2016 IMSSR


***************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
****************************************
コメント (1)
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東京オリンピック レガシー 負のレガシー 負の遺産 White Elephant ホワイト・エレファント

2023年03月01日 11時13分48秒 | 東京オリンピック
破綻した東京オリンピック「3兆円」のレガシー 次世代に何を残したのか



東京五輪2020 もはやレガシーを語る資格はない 贈収賄に談合事件で泥沼に 
 スポンサー選定を巡る贈収賄事件、組織委員会や電通も巻き込んだ組織的、計画的談合事件、東京五輪大会は泥沼に陥った。逮捕者は、大会組織員会の元理事や大会運営局元次長から大会運営を実質的に「支配」した電通の幹部やスポーツイベント運営企業、スポンサー契約を結んだ企業の幹部など十数人に及んだ。まさに五輪を巡る「腐敗の構造」が明るみに出された。
 この一件で、日本が失った国際的信用は大きい。
 2030冬季五輪大会を巡っては、米国のソルトレーク・シティ、カナダのバンクーバー、そして札幌市が招致活動を行っていたが、これまでは国際オリンピック委員会(IOC)は札幌を高く評価して、優位に招致合戦を進めていた。しかし、泥沼化した東京五輪の腐敗を受けて、札幌は一気に窮地に立たされた。組織委員会や電通などの責任は極めて重大である。
 昨年12月、北海道新聞は18歳以上の札幌市民を対象に電話による世論調査を行った。招致への賛否は「反対」と答えた人が67%で、「賛成」が33%、「反対」と答えた人が2倍となった。前回の調査より「反対」が10ポイント以上増えたという衝撃の結果となった。
 IOCは、2030大会開催地決定の時期を無期限で延期すると声明を出した。札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は「積極的な機運醸成活動を当面休止」に追い込まれ、秋元克広札幌市長は招致の是非を問う意向調査を対象範囲を全国に拡大して再実施すると表明した。
 秋元市長は再意向調査で反対が多ければ「(招致活動を)そのまま進めるのは難しい」と述べ、招致断念の可能性も示唆した。
 2月中にはスポーツ庁とJOCが汚職・談合の再発防止策を公表し、夏には札幌市も独自の不正防止策をまとめるとしているが、果たして、国民が納得できる内容になるのか、正念場である。
 長らく五輪大会の運営を実質的に独占「支配」して絶大な力を持っていた電通を排除できるかが最大の課題だろう。 スポーツ界の「闇」体質は根深い。この体質を一掃できるかどうかが今、問われている。

腐敗塗れの東京五輪2020
 
 ついに「五輪開催経費」は「3兆円」を優に上回り、「3兆6800億円」なることが会計検査委の試算から明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期の経費やコロナ対策費で経費はこの一年でさらに膨張した。隠れた五輪関連経費もあると思われ「4兆円」も視野に入った。五輪肥大化の「青天井体質」に歯止めがかからない。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「アジェンダ2020~2013 OLYMPIC LRGACY~」を採択した。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催都市がなくなるのではという深刻な問題が浮上していた。
 そのポイントは、「開催費用を削減して運営の柔軟性を高める」、「既存 の 施設を最大限活用する」、「一時的(仮設)会場活用を促進する」、「開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める」などである。そして2020東京五輪大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けている。
 東京2020大会は「世界一コンパクト」な大会を宣言して開催に臨んだ。しかしその意気込みは完全に雲散霧消してしまった。
 さらに問題なのは、五輪の準備段階から相次ぐ失態や腐敗が露呈して、「3兆円」は「レガシー」どころか、巨大な「負のレガシー」に転落するという深刻な事態に陥った。
 東京2020大会を開催するにあたって、国や東京都、組織委員会は開催意義を高らかに唱えたレガシープランを作成し、大会開催のレガシー(未来への遺産)を次世代に残すと宣言した。しかし、最早、東京2020大会のレガシーを唱える資格はない。

五輪開閉会式責任者が辞任 渡辺直美さん侮辱
 2021年3月18日、東京五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)が辞任した。開会式に出演予定だったタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するようなメッセージを演出チームのLINEに送った責任をとった。
 問題は17日に「文春オンライン」が報じて表面化した。佐々木氏はこの日に大会組織委員会の橋本聖子会長に辞意を伝え、18日未明に謝罪文を公表した。
 謝罪文によると、佐々木氏は昨年3月5日、開閉会式の演出を担うチーム内のLINEに、渡辺さんの容姿を侮辱するような内容の演出を提案した。メンバーから反発があり、提案は撤回したという。謝罪文では「大変な侮辱となる私の発案、発言で、取り返しのつかないこと。心から反省して、ご本人、そして、このような内容でご不快になられた方々に、心からお詫び申し上げます」とした。
 組織委の橋本会長は、記者会見で「不適切であり、大変遺憾。組織委がジェンダー平等の推進を重要施策として掲げている以上、辞意を受け入れることとした」と述べた。
 開閉会式をめぐっては、組織委は2020年12月、大会延期に伴う演出簡素化などを理由に狂言師の野村萬斎さんを統括とする制作チームの解散と、総合企画を佐々木氏が責任者となる新体制への変更を発表した。組織委では今年2月、森喜朗前会長が女性蔑視発言の責任を取り辞任したばかりである。
 五輪開幕まで約4カ月。大会関係者によると、演出内容はほぼ固まり、本番に向けたリハーサルの準備が進んでいる段階という。橋本会長は「継承すべきところは継承し、すばらしい開閉会式になるよう、早急に新たな体制を整える」と述べた。
 女性蔑視発言で辞任した森喜朗前会長から引き継いで1カ月。ジェンダー平等など改革を進め、聖火リレーで大会機運を盛り上げようとしてきた橋本新体制に新たな不祥事が水を差した。
 2020東京大会の「負のレガシー」にまた新たな項目が追加された。

相次ぐ不祥事 電通の欠陥体質露呈  開会式楽曲担当 小山田氏辞任 過去にいじめ 続いて小林賢太郎氏解任 五輪開会式演出担当、ホロコーストを揶揄

森喜朗会長が辞意 女性蔑視発言で引責

辞任を表明する森喜朗氏 提供 TOKYO2020

 2021年1月12日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、評議員、理事を集めた合同懇談会で、女性を蔑視する発言をした責任を取り、会長を辞任することを表明した。後任については、森氏が次期会長就任を要請していた川淵三郎氏が一転して会長就任を辞退すると明言し白紙撤回となった。組織委員会は、後任の選出方法について、御手洗名誉会長を座長にして、国、都、JOC、アスリートなどの理事をメンバーにして選定委員会を設立して選定作業をすすめるとした。後任の有力候補には、橋本聖子五輪相の名前が上がっている。
 森は発言問題の深刻化を受けて、組織委は、当初は、経緯を説明して陳謝し、続投への理解を求める方針だったが、国内外のメディアから「女性差別」と厳しい批判を浴び、アスリートやSNSなどで辞任を求める声が相次いで、今夏の大会準備への影響も出始めた。
 9日には、当初は森会長が発言を撤回して謝罪したので「解決済」としていた国際オリンピック委員会(IOC)が、一転して、「森会長の発言は完全に不適切で、IOCがアジェンダ2020で取り組む改革や決意と矛盾する」と強く批判した。IOCに膨大なスポンサー料を払っているTOPスポンサー企業や収入の大黒柱である放送権料を負担する米NBCが批判の姿勢を強めたことが決め手となった。10日には東京都の小池百合子知事が2月中旬で調整されていた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのトップ級4者協議を「今ここで開いても、あまりポジティブな発信にはならないい」と述べ、欠席する意向を表明し、事実上、辞任の引導を渡した。
 IOC、五輪大会を支えるスポンサー企業や米NBC、四面楚歌となった森会長には辞任の道しかない。
 森会長は、日本サッカー協会や日本バスケットボール協会の会長を歴任し、東京五輪では選手村村長を務める川淵三郎氏に次期会長就任を要請し、川淵氏もこれを受託した。森会長は12日の会議で辞意を表明して、その場で川淵氏を会長に推薦するものとみられていた。一方、川淵氏は森会長に相談役就任を依頼していた。しかし、菅政権には森会長自ら後任を推薦する手法や川口氏に異論が出ていたとされ、川淵三郎氏は一転して会長就任を辞退すると明言して白紙撤回となった。

森会長、女性蔑視発言 海外からも批判殺到 ボランティアの辞退相次ぐ
 2021年2月3日、JOC臨時評議員会に出席した森会長は、「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」などと発言した。この発言に対して出席者で異論を唱える人はいなく、笑い声が出たとされている。  森氏の発言は、女性を蔑視したと受け取られ、国内内外から激しい批判を浴びた。  翌2月4日、森会長は記者会見を開き、女性を蔑視したと受け取れる発言をしたことについて、「深く反省している。発言は撤回したい」と謝罪した。会長職については「辞任する考えはない」と述べた。
 質疑応答では「女性が多いと時間が長くなるという発言を誤解と表現していたが、誤った認識ではないのか」との質問に、「そういう風に(競技団体から)聞いておるんです」などと答え、競技団体全体にこうした認識が広がっていることを示唆した。
 森会長は、老練な政治家のスピーチによく登場する半ば冗談の軽い気持ちで、この発言をしたのであろう。とりわけ女性差別主義者だったというわけではないだろう。しかし、ジェンダーの平等を高らかに掲げるオリンピック精神とは相いれない発言で、国際オリンピック委員会(IOC)として見過ごすことはできなかった。組織委員会の会長としての発言としては余りにも軽率だった。  組織委員会は8日、4日以降に大会ボランティア(約8万人)辞退申し出が、約390人に上り、2人が聖火リレーランナーへの辞退を申し出たと発表した。組織委は辞退理由を公表していないが、3日に森喜朗会長が女性蔑視の発言をした影響とみられる。
 また、東京都は都市ボランティア(約3万人)の辞退申し出が93人になったと発表している。  こうしたボランティア辞退の動きについて、自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「瞬間的」なもので、「落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と語った。今後の対応については「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と述べ、さらに「参画しよう、協力しようと思っておられる人はそんな生やさしいことではなく、根っからこのことに対してずっと思いを込めてここまで来た」とし、「そのようなことですぐやめちゃいましょうとか、何しようか、ということは一時、瞬間には言っても、協力して立派に仕上げましょうということになるんじゃないか」と発言した。二階氏の発言の認識の甘さにも唖然とする。
 新型コロナの感染拡大の中で活動を余儀なくされた大会ボランティアや都市ボランティア、組織委員会では「五輪大会開催の成否は『大会の顔』となるボランティアの皆さんにかかっている」と唱えている。開催を半年に控えている中で、約11万人のボランティアの人たちの思いを踏みにじった女性蔑視発言、森会長の責任は重い。
 まさにコロナ禍で崖っぷちに立たされた東京2020に「女性蔑視発言」が追い打ちをかけた。東京2020大会のレガシー論は完全に「雲散霧消」してしまった。
 2020東京五輪大会開幕まで半年を切っているなかでの大会組織委員会の森会長の辞任、日本は組織のガバナンスのお粗末さを世界に露呈した。世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。

迷走五輪エンブレム 「盗用疑惑」で白紙撤回 杜撰な選定作業 各国から批判集中

消えた「復興五輪」
 「復興五輪」を唱えたのは、2020東京五輪大会の誘致を表明した石原慎太郎東京都知事である。
 2012年2月、招致委員会は、国際オリンピック委員会(IOC)に出した申請ファイル(開催計画)でテーマの一つに「震災復興」を掲げた。
 2013年夏の都議会でも、石原氏の後を継いだ猪瀬直樹都知事は「被災地の復興に弾みをつけ、東京と日本を飛躍させる起爆剤にしたい」と強調した。
 「復興に向かう姿を世界に発信する」、「スポーツの力で被災地を元気にする」がそのスローガンである。
 ところが、この年の1月、招致委がIOCに提出した立候補ファイルでは「コンパクト五輪」が強調され、理念から「復興」が消えた。関係者は「原発事故に対する懸念が海外では強く、触れない方がいいと考えられた時期があった」と説明する。
 2016年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で東京がイスタンブールとマドリードを破り2020五輪大会の開催地を勝ち取った。投票が行われる直前の招致演説で、東京大会の開催意義で掲げたのは「復興五輪」であった。東日本大震災から復興した姿を発信して、復興を支援してくれた世界各国に感謝する大会にすると宣言した。
 しかし、「復興五輪」は、完全に消え去り、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、「コロナに打ち勝った証の大会」がメインテーマになってしまった。
 それでも、組織委員会は「『復興五輪』は招致の源流。一日たりとも忘れたことはありません」と繰り返す。
 「復興五輪」のスローガンは、いまも取り下げてはいない。

 2018年11月、大会の準備状況を確認するため来日した、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と安倍晋三首相は、福島市の野球・ソフトボール会場を視察した。
 訪れたのは福島県営あづま球場、安倍首相は「復興五輪と銘打って、復興した姿を世界に発信したい」とあいさつし、バッハ氏が「心の復興という中ではスポーツが大きな役割を果たす」と笑顔で応じた。東日本大震災からの「復興五輪」を改めてアピールする目論見が込められていた。
 あづま球場では、日本で人気のある野球・ソフトボールの会場で、全競技に先駆けてソフトボールの開幕戦、日本対オーストラリア戦を始め6試合と野球の予選1試合が行われる。
 また聖火リレーのグランドスタートは、サッカーのナショナルトレーニングセンター、Jビレッジ(楢葉町・広野町)で行われた。
 Jビレッジは、東京電力が福島原子力発電所を受けて入れくれた地元の地域振興事業として総工費130億円を投じて建設し、福島県に寄付した施設である。
 東日本大震災の津波で被害を受け、メルトダウンに陥った福島第一原発の事故対応拠点となり2年余り全面閉鎖された。グランドには仮設の宿舎が立ち並び、事故対応車両で埋め尽くされた。建物には高濃度の放射能で汚染された原発敷地内に立ち入る作業員の除染機器や検査設備が並んでいた。
 Jビレッジは、福島原発事故の象徴的な施設だった。
 しかし、原発事故は、周辺地域に深刻な影響を残したままである。
 10年を迎えた今年、避難生活を送る人は未だに4万人近くいて、福島県では放射線量が高い7市町村にまたがる「帰還困難区域」の大半で解除の見通しが立たない。双葉町では96%の地域が「帰還困難区域」のままで、住民の暮らしの再建はまったくできない。
「復興に向かう姿」とは程遠いのが現実である。

偽りの「安全宣言」 深刻化する放射能汚染水問題
 2013年9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会の最終招致演説で、安倍首相は、「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、完全にコントロールされています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」と高らかに宣言し、英語で「Under Contorl!」と両手を広げてIOC委員にアピールした。

 2013年4月、東京電力福島第一原発内の地下貯水槽から放射能汚染水が漏れたことが明るみに出た。東電は、漏れた量の推定を約120トン、漏れた放射能は約7100億ベクレルと発表した。事故前の年間排出上限の約3倍の量で、2011年12月に政府が事故収束宣言して以来最大となった。
 「東日本大震災からの復興」を掲げた東京大会で、放射能汚染水問題が決して解決していないということが世界各国に印象付けられた。各国メディアから東京大会開催への安全性について強い懸念が出され、総会前の会見では、汚染水漏れ事故に関する記者からの質問が集中して、答えに窮する状況が頻発した。汚染水漏れ事故は東京大会招致のアキレス腱に浮上した。
 そして安倍首相は、科学的な数字を持ち出して説明を加え、「福島の近海で、私たちはモニタリングをおこなっている。その結果、数値は最大でも世界保健機関(WHO)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。これが事実です。そして、我が国の食品や水の安全基準は、世界で最も厳しい。食品や水からの被曝(ひばく)量は、日本のどの地域でも、この基準の100分の1だ」 と述べた。
 同行した橋本聖子参院議員は、「首相が自ら話す予定はなかったが、国のトップが説明し、IOC委員の不安を振り払う必要に迫られた」 と話している。
 日本が五輪招致に成功した要因について、仏フィガロ紙は「秀逸な計画と完璧なプレゼンテーション(招致演説)、予算、競技場の立地条件、世界最高の治安水準」で東京が他の2都市を上回ったと分析。東京電力福島第1原発事故による放射能汚染について「まだ完全に安全とは言えない」と指摘した上で、安倍首相のスピーチなどで「投票者を安心させるのに成功した」と評した。
 しかし、福島第二原発の放射能汚染水漏れは、決し収束してはいない。
 福島第1原発の汚染水問題をめぐり、安倍晋三首相が五輪招致のプレゼンテーションで「完全にブロックされている」「コントロール下にある」と発言したことについて、東京電力は、総会開催直後の9月9日の記者会見で、「一日も早く安定させたい」と述べ、安倍首相発言を事実上否定した。
 これに対して、安倍政権は火消しに追われ、菅義偉官房長官が東電との食い違いを否定し、結局、東電はホームページに「当社としても(首相発言と)同じ認識です」とコメントを載せた。しかし、この対応で、汚染水は、本当はコントロールされていないのではという懸念を逆にクローズアップさせる結果になった。
 汚染水の海洋流出も発生していたことも明らかになり、東電では防波堤に囲まれた港湾内(0.3平方キロ)には、汚染水が海側に流出するのを防ぐための海側遮水壁が建設したり、湾内に広がるのを防ぐために「シルトフェンス」という水中カーテンを設置したり対策に乗り出した。
 東京電力福島第一原発では、今も汚染水が海に漏れ続けている。放射性物質を封じ込めるという意味では、汚染水のコントロールはできていないのは明らかであろう。
 その後8月にはタンクから300トンの汚染水が漏れていたことが発覚。一部は排水溝を伝い外洋に流れ出たとみられる。残りは地中に染み込み、タンク周辺の土壌や地下水から放射性物質の検出が相次いでいる。タンク北側の観測井戸で12日に採取した水からは、トリチウムが1リットルあたり13万ベクレル検出された。土壌への汚染が地下水によって広がっている恐れが指摘された
 経済産業省によると、1~4号機の海側では、今も1日300トンが海に流れ出ているという。東電は港湾の外ではほとんど放射性物質は検出されていないとし、「海洋への影響はなくコントロールされている」としている。しかし、港湾の出入り口は開いたままで海水が出入りしている。放射性物質が検出限界値未満なのは海水で薄められているためとみられる。
 2020東京五輪大会招致に成功したのは、安倍首相の「アンダーコントロール」発言を繰り返し、IOCを委員の不安を払拭させたことだけでないだろう。しかし、「嘘」と批判されるに値する発言で、招致を獲得したとするならば、東京五輪開催の大義は消え去る。

汚染処理水の海洋放出へ
 東京電力福島第1原発の汚染処理水について、政府は4月13日、放射性物質、トリチウムの濃度を国の放出基準より下げたうえで、海に流すことを決めた。放出は2年後に始まりそうだ。風評被害を防ぐため、政府・東電に課された責任は重い。
 福島第1原発では事故直後から、溶け落ちた核燃料を冷やす水と、建屋に入り込む地下水などが混じって放射性物質が高濃度の汚染水が生じ続けている。現在の発生量は、1日約140立方メートル。このため、東電は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで放射性物質の濃度を下げてきた。しかし、トリチウムを含む水は普通の水と化学的な性質が同じなので取り除くことができず、処理後の水を敷地内のタンクで保管してきた。
 トリチウムを含む汚染処理水をどう処分すべきかは、廃炉作業をするうえで事故当初からの課題だった。
 このため、経済産業省は有識者らをメンバーに加えた会議を設置。複数の処分方法案に関して費用対効果などを評価し、2年半の議論の末、2016年6月に処分方法を一本化するものではないと断りつつ「海洋放出は費用が安く処分期間も短い」と結論づけた。
 敷地内のタンクの数は現在約1000基。そこに、約125万立方メートル(東京ドームの容積に相当)たまっており、2023年3月ごろには満水になる見通しだ。東電は、海洋放出をする場合、装置の設置や原子力規制委員会の許可を得るのに約2年かかるとみている。これ以上決断を先送りにすれば装置の設置などが間に合わず、処分方法の決定は緊急の課題になっていた。
 今回の決定に対し、JF全漁連(全国漁業協同組合連合会)の岸宏会長は「極めて遺憾。到底容認できるものではない」と強く抗議する声明を出した。
 10年経ってようやく福島沖の漁業の再開に目途が付き始めた段階で、漁業関係者は、再び「風評被害」で大きな打撃を受けるという懸念を拭い去ることができない。
 一方、中国外務省は13日に談話を発表し、日本政府の決定を「極めて無責任だ」と批判した。「国際社会や近隣諸国と十分な協議をしないまま、汚染処理水の放出を一方的に決めた」と非難。韓国政府も13日「絶対に受け入れられない措置だ」と反発し、強い遺憾の意を表明。外務省は相星孝一駐韓大使を呼んで抗議した。  

新国立競技場 「陸上の聖地」復活か? 迷走再開 「負の遺産」への懸念
 迷走に迷走を重ねた上で、2019年11月30日にようやく竣工した新国立競技場は、大会後に改修して、陸上トラックを撤去して球技専用とする方針を決めていた。陸上競技スタジアムとして残すのは、多大な赤字が生まれて、スタジアムとしての維持管理が不可能としたのがその理由である。集客が見込まれるサッカースタジアムを目指すとした。この方針については、陸上関係者から、「陸上の聖地」として東京2020大会のレガシーとして残すべきだと激しい反発を招いた。
 しかし、この方針が迷走を始めた。
 陸上トラックを残して陸上と球技の兼用にする方向で調整が進んでいることが明らかになったのである。「陸上の聖地」の復活である。  国立競技場の後利用については、2017年11月、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」で「基本的な考え方」を取りまとめて、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承されている。
 それによると大会後に陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修し、サッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保するとした。改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、その後の検討で、陸上トラックなどを撤去して客席を増設する改修工事には、多額の経費がかかる上に、球技専用スタジアムにしても、肝心のサッカーの試合の開催は、天皇杯や日本代表戦などに限られ、頼みにしていたJリーグの公式試合の開催は困難となって、利用効率の改善が期待できないことが明らかになった。またFIFA ワールドカップの開催を目指すとしても、まだまったく招致実現の目途はたっていない。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、民間事業化に向けて行った民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を行ったが、球技専用に改修してもあまり収益が見込めないことが明らかになったという。  また収益性を高める柱となるコンサートやイベントの開催については、屋根がないため天候に左右される上に騒音問題もあり、さらに天然芝のダメージが大きく、開催回数は極めて限定される。
 陸上関係者からは、2020東京五輪大会のレガシーとして新国立競技場は陸上競技場として存続して欲しいという声は根強い。
 陸上トラックを残しておけば、陸上競技大会開催だけでなく、イベントのない日などに市民にトラックを開放したり、市民スポーツ大会を開催したりして市民が利用できる機会を提供可能なり、2020東京五輪大会のレガシーにもなる可能性がある。
 国際的に最高水準の9レーンの陸上トラックを2020東京五輪大会だけのため整備するのでは余りにももったいない。
 しかし、国立霞ヶ丘競技場の陸上トラックを存続させ、陸上競技の開催を目指しても、収益はほとんど期待できない。陸上競技大会では、新国立競技場は大きすぎて、観客席はガラガラだろう。全国規模の大会でも数万に規模のスタジアムで十分である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の長期修繕費を含む維持管理を年間約24億円としている。これには人件費や固定資産税や都市計画税などは含まれていないので、年間の経費は、約30億円~40億円かかると思われる。大会開催後の新国立競技場の収支を黒字にするのは至難の業である。
 新国立競技場は球技専用スタジアムになるのか、陸上競技場として存続するのか、東京2020大会のシンボル、新国立競技場の迷走は、まだまだ終わらない。


完成した国立競技場 提供 JSC

最新鋭の9レーンの陸上競技トラックも完成 筆者撮影

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる? 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに

「招致疑惑」竹田JOC会長退任 桜田五輪相辞任 

竹田恒和氏 出典 日本オリンピック員会(JOC)

 2019年3月19日、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、理事会で、6月の任期満了での退任を表明した。国際オリンピック委員会(IOC)委員も辞任することも明らかにした。開幕まで500日を切った中で、五輪を開催する国内オリンピック委員会のトップが退く異例の事態となった。
 竹田会長は、理事会終了後、記者団に対して、「来年の東京大会を控えて世間を騒がしていることを大変心苦しく思っている。次代を担う若いリーダーに託し、東京オリンピック、日本の新しい時代を切り開いてもらうことが最もふさわしい。定年を迎える6月27日をもって任期を終了し、退任することにした」とし、「バッハIOC会長とは何回も連絡をとっているし、昨日も今日も電話で話をした」と述べた。
 2018年12月、仏司法当局は、2020東京大会を巡る買収疑惑について、「東京招致が決まった13年に180万ユーロ(約2億3千万円)の贈賄に関わった疑いがある」として竹田氏をパリで事情聴取し、本格捜査に乗り出した。竹田氏は「潔白」を主張しているが、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑がかけられている
 6月の任期満了退任には、事実上の引責辞任であろう。
 疑惑報道を受けて開いた2018年1月の記者会見で、竹田氏は疑惑を否定する自らの主張を述べる一方で記者側の質問を受けず、7分間で席を立った。この姿勢が世論の反発を招いた。大会組織委関係者らからは「東京大会のイメージを損なう」などと続投を疑問視する声が強まった。
 そして2019年4月10日、桜田義孝五輪相は、東日本大震災で被災した岩手県出身の自民党衆院議員のパーティーであいさつし、議員の名前を挙げて「復興以上に大事」と発言した。いったんは記者団に発言を否定したが、被災地を軽視すると言える発言に批判が強まり、過去の失言をかばってきた安倍晋三首相が事実上、更迭した。
 後任には、桜田氏の前任の五輪相だった鈴木俊一氏(衆院岩手2区、当選9回、麻生派)を起用した。
 2020東京五輪大会は「東日本大震災からの復興」を掲げて開催されるオリンピック大会である。政府の中で大会開催を中核になって担う五輪担当相としては余りにもお粗末だろう。唖然というほかない。
 相次ぐ五輪関係者の辞任に、2020東京五輪大会の運営体制のお粗末さを世界に露呈し、世界各国の関係者から失笑を買っていることは間違いない。

竹田JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑 窮地に追い込まれた東京2020大会

新型コロナウイルス感染拡大 東京五輪大会五輪1年延期 2021年7月23日開幕 パラは8月24日 聖火リレー中止に


新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大 世界192の国と地域 感染者1069万人 死者2343万人 2021年7月末までに収束可能性はない
出典 NYT/NIAID

 徳洲会グループから受け取った選挙資金を巡って辞任した猪瀬直樹元東京都知事、公用車利用や政治資金家族旅行など公私混同問題で辞任した舛添要一前東京都知事、迷走した新国立競技場の建設問題の責任をとって辞任した下村博文文部科学相、大会招致に関わる贈収賄疑惑で仏司法当局の捜査を受けて退任する竹田JOC会長、そして女性蔑視発言で引責辞任した森組織委会長、渡辺直美さん侮辱して辞任した五輪開閉会責任者、2020東京五輪大会の主要な関係者は次々と不祥事で舞台から退場していった。 日本は大会運営体制のお粗末さを世界に露呈し、世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。
 そして建設費が「3000億円超」に膨れ上がって世論から激しい批判を浴びて、迷走に迷走を繰り返した新国立競技場、デザイン盗用疑惑で白紙撤回に追い込まれた五輪エンブレム、海の森水上競技場や東京アクアティクスセンター、有明アリーナの建設問題を巡って対立した東京都と大会組織委員会、2020東京五輪大会を巡って繰り広げられた混乱は記憶に新しい。
 2020東京五輪大会のビジョンは、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」の3つの基本コンセプトを掲げ、「2020年は市場最もイノベーティブで世界にポジティブな変革をもたらす大会とする」と宣言している。
 混迷と混乱が相次いでいる中で「3兆円」を投入して開催する2020東京五輪大会、最早、高邁な理想を掲げたレガシー論を語る資格はまったくない。

東京オリンピック 競技会場最新情報 競技会場の全貌 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル


海の森水上競技場完成予想図  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


(左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター 筆者撮影

クローズアップされた「負のレガシー」(負の遺産)
 「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」
 小池都知事は、こう宣言した。
 2016年9月29日、東京五輪・パラリンピックの開催経費の妥当性を検証している東京都の「都政改革本部」の調査チームは、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池百合子知事に提出した。都が整備を進めるボート会場など3施設の抜本的見直しや国の負担増、予算の一元管理なども求めた。
 これに先立って、 東京五輪・パラリンピックの関係組織、大会組織委員会や東京都、国、JOCなどのトップで構成する調整会議が午前中に、文部科学省で開かれ、小池都知事は、調査チームのまとめた調査報告書を報告した。
 会議で小池都知事は、「改革本部の報告書については、大変に中味が重いものなので、それぞれ重く受け止めていると思う。これまでどんどん積みあがってきた費用をどうやってコストカットし、同時に、いかにレガシーを残すか、そういう判断をしていきたい」と述べた。
 これに対し、森組織委会長は「IOCの理事会で決まり、総会でも全部決まっていることを、日本側からひっくり返してしまうということは極めて難しい問題だろうと申し上げておいた」苦言を呈した。
 小池都知事は、「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」と応じた。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催経費は、「3兆円」を上回り「4兆円」に達する勢いである。これだけ巨額の経費を使い開催する東京五輪は、レガシー(未来への遺産)を残さなければならのには疑問の余地はない。負のレガシー(負の遺産)として次世代の負担にしてはならないのは明白だ。
五輪大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会になる。また人口も、2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年には8674万人になると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に本当に必要なのだろうか? また新たに整備される施設の巨額の維持管理費の負担は、確実に次世代に残される。毎年、赤字補てんで公費投入は必至だろう。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「2013 OLYMPIC LRGACY」を採択して、開催都市に対して、大会開催にあたってレガシー(未来への遺産)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けた。
 2020東京五輪大会組織委員会では、リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月に、「東京2020 アクション&レガシープラン2016」を策定している。
「スポーツ・健康」、「文化・教育」、「復興・オールジャパン・世界への発信」、「街づくり・持続可能性」、「経済・テクノロジー」の5つの柱を掲げた。
 しかし、最も肝要な施設整備を巡るレガシー(未来への遺産)については、ほとんど記述がない。新国立競技場を始め、競技施設の相次ぐ建設中止、整備計画の見直しなど“迷走”と“混乱”が深刻化している中で、レガシーを語るどころではない。膨れ上がった開催経費の徹底した見直しを行うべきという都民や国民の声に、どう答えるかが、“レガシー”を語る前提なのは明らかだ。
“美辞麗句”の並んだ「アクション&レガシープラン」には“虚しさ”を感じる。
 「世界一コンパクト」な五輪大会を宣言した意気込みはどこにいったのか?
 「都政改革本部」の調査チームの大胆な“見直し”提言で、再び、クローズアップされたレガシー(未来への遺産)、真剣に向き合う姿勢が必須となった。




レガシー(Legacy)とヘリテージ(Heritage)
 レガシー(Legacy)の単語の意味は、「遺産」、「受け継いだもの」とされ、語源はラテン語の“LEGATUS” (ローマ教皇の特使)という。「キリスト教布教時にローマの技術・文化・知識を伝授して、特使が去ってもキリスト教と共に文化的な生活が残る」という意味が込められているという。どこか宗教的なニュアンスのある言葉である。また、legacy は,財産や資産などや、業績など成果物的なものも言う。遺言によって受け取る「遺産」という意味にも使われる。
 一方、“Heritage” は,先祖から受け継いでいくものというような意味の遺産で,「(先祖代々に受け継がれた)遺産」などと訳されていて、お金に換算したりしない「遺産」をいう。「世界文化遺産」とか「世界自然遺産」は“Heritage”を使用している。
 また、“Legacy”は、「負の遺産」(Legacy of Tragedy)という意味でも使われ、“Legacy of past colonial rule”=「植民地支配の『後遺症』」とか、“Legacy of the bubble economy”=「バブル経済の名残」とかマイナスの意味が込められた表現にも使用され幅が広い。
 レガシー(未来への遺産)は、正確には“Positive Legacy”と“Positve”を付けて使用している。

レガシーの登場 “肥大化批判”IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)が「レガシー」という概念を掲げた背景には、五輪の存続を揺るがす深刻な危機感があった。オリンピックの「肥大化批判」である。
2022年冬季五輪の開催都市選考は、有力候補のオスロやストックホルムが撤退し、最終的に立候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけになり実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも、ボストンやハンブルグは住民の支持が得られず立候補を断念、最後まで誘致に熱心だったローマは、選挙で当選した新市長が「立候補に賛成するのはいかにも無責任だ。さらに借金を背負うことを、我々は良しとしない」として立候補を辞退し、最終的に、立候補都市はパリとロサンゼルスしか残らなかった。
膨大な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催に立候補する都市がなくなるのではという懸念が深まった。
問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢である。

Legacy(レガシー)をIOC憲章で位置付け
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、五輪改革に乗り出した。
 この年に、国際オリンピック委員会(IOC)は、「Legacy(レガシー)」と概念を掲げ、「Olympic Legacy」という冊子を公表した。
 そして、オリンピック100年にあたる2002年に定められた「オリンピック憲章」の中に、この“Legacy”(レガシー)という文言が明記された。
“To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries.”
(オリンピック競技大会の“遺産”を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進すること)(<第1章第2項「IOCの使命と役割」>の14.)
国際オリンピック員会(IOC)は、毎回、オリンピック競技大会を開催するにあっって、“Legacy”という理念を強調する。 ここでは「未来への遺産」と訳したい。
 「レガシー」とは、オリンピック競技大会を開催することによって、単にスポーツの分野だけでなく、社会の様々な分野に、“有形”あるいは“無形”の“未来への遺産”を積極的に残し、それを発展させて、社会全体の活性化に貢献しようとするものである。開催都市や開催国にとって、開催が意義あるものにすることがオリンピックの使命だとしている。
 その背景にあるのは、毎回、肥大化する開催規模や商業主義への批判、開催都市の巨額の経費負担、さらにたびたび起きる不祥事などへの批判などで、オリンピックの存在意味が問い直され始めたという深刻な危機感である。
 IOCは、その反省から、開催都市に対して、単に競技大会を開催し、成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求めるとした。


IOC “Olympic Legacy Booklet”

■ A lasting legacy
 The Olympic Games have the power to deliver lasting benefits which can considerably change a community, its image and its infrastructure.
As one of the world’s largest sporting events, the Games can be a tremendous catalyst for change in a host city with the potential to create far more than just good memories once the final medals have been awarded.
■ 持続的なレガシー(未来への遺産)
 オリンピックは、社会のコミュニティを変え、イメージを変え、生活基盤を変えていく持続的な“恩恵”を与える力がある。オリンピックは世界で最も大規模なスポーツイベントとして、力強いパワーを秘めており、メダル獲得の素晴らしい記憶よりはるかに大きな意味を持つ社会の変革を生み出す“刺激剤”なのである。
 さらに、Legacyの具体的な指標として5つのタイプを挙げている。

▼Sporting Legacy (スポーツ・レガシー) 
 Sporrting venues(競技施設)/A boost to sport(スポーツの振興)
▼Social  Legacy(社会レガシー)
 A place in the world(世界の地域)/Excellence, friendship and respect (友好と尊崇)/Incrusion and Cooperation(包括と協力)
▼Environmental Legacy (環境レガシー)
 Urban revitalisation(都市の再活性化)/New energy sources(新エネルギー)
▼Urban Legacy(都市レガシー)
 A new look(新たな景観)/On the move(交通基盤)
▼Economic Legacy(経済レガシー)
 Increased Economic Activity(経済成長)

「アジェンダ2000」の策定
さらに、バッハ会長はオリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年2014年には、「アジェンダ2020」を策定し、五輪改革に踏み出した。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む瀬戸際に追い込まれていた。
 そして2020東京大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けた。
しかし、2020東京大会の開催経費は、1年延期や新型コロナウイルス対策費を含めてと、すでに史上最高の「3兆5000億円」にも達し、五輪大会の肥大化に歯止めをかけたという目論見は挫折した。

大会開催基本計画で示されたアクション&レガシープランの基本理念
 2020東京五輪大会のレガシープランを見てみよう。
 2015年1月23日、大会組織委員会(森喜朗会長)は、東京都内で理事会を開き、大会開催基本計画案を承認した。
 基本計画では、開催開催のスローガンとして““DISCOVER TOMORROW”を掲げて、大会ビジョンの3つのコンセプト、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を示し、アクション&レガシープランの基本理念を示した。そして「2020年は市場最もイノベーティブで、世界にポジティブな変革をもたらす大会」を目指すと宣言した。

■ 全員が自己ベスト
・万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。
・世界最高水準のテクノロジーを競技会場の整備や大会運営に活用。
ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の「おもてなし」で歓迎。

■ 多様性と調和
・人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。
・東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。

■ 未来への継承
・東京1964大会は、日本を大きく変え、世界を強く意識する契機になるとともに、高度経済成長期に入るきっかけとなった大会。
・東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく


アクション&レガシープランの基本理念 2020年東京大会組織委員会

 この基本理念に基づいて、(1)スポーツ・健康(2)街づくり・持続可能性(3)文化・教育(4)経済・テクノロジー(5)復興・オールジャパン・世界への発信-を「5本の柱」とし、地域スポーツの活性化やスマートエネルギーの導入、東日本大震災の復興状況の世界への発信などに取り組むとし、アクションプランのロードマップも明らかにした。
 16年リオデジャネイロ五輪開幕前に具体的な行動計画をとりまとめ、東京五輪後にもレポートを策定する方針だ。またパラリンピックを2度開催する初の都市となることから、武藤敏郎事務総長は「共生社会、多様性と調和を大会ビジョンに入れているので、重視したい」と話した。




2020年東京大会組織委員会

アクション&レガシープランの5本の柱
▼ スポーツ・健康
(1) 国内外へのオリンピック・パラリンピックの精神の浸透
(2) 健康志向の高まりや地域スポーツの活性化が及ぼす好影響
(3) トップアスリートの国際競技力の向上
(4) アスリートの社会的・国際的地位やスポーツ界全体の透明性・公平性の向上
(5) パラリンピックを契機とする人々の意識改革・共生社会の実現

▼ 街づくり・持続可能性
(1)大会関連施設の有効活用
(2) 誰もが安全で快適に生活できる街づくりの推進
(3) 大会を契機とした取組を通じた持続可能性の重要性の発信

▼ 文化・教育
(1) 文化プログラム等を通じた日本や世界の文化の発信と継承
(2) 教育プログラム等を通じたオリンピック・パラリンピックの精神の普及と継承
(3) 国際社会や地域の活動に積極的に参加する人材の育成
(4) 多様性を尊重する心の醸成

▼ 経済・テクノロジー
(1) 大会開催を通じた日本経済の再生と本格的成長軌道への回復への寄与
(2) 大会をショーケースとすることによる日本発の科学技術イノベーションの発信

▼ 復興・オールジャパン・世界への発信
(1) 東日本大震災の被災地への支援や復興状況の世界への発信
(2) 「オールジャパン」体制によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの推進
(3) 大会を契機とする日本各地の地域活性化や観光振興
(4) オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信


アクション&レガシープラン2016を公表
 リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月、組織委員会では、「5本の柱」に基づいて、2016 年から2020 年までの具体的なアクションプランを記述して、「アクション&レガシープラン2016」として策定し公表した。IOC総会で採択された「アジェンダ2020」の趣旨も具体的に大会運営に反映し、東京2020大会を「アジェンダ2020」によるオリンピック改革のスタートの年にするとしている。
 このプランは、2020年まで毎年夏を目処に更新しながら「アクション」を実施し、2020東京大会終了後、「アクション&レガシーレポート」をまとめる。













アクション&レガシープラン2016 東京2020大会組織委員会

 アクション&レガシープランの策定する重要な視点として、「参画」、「パラリンピック」、「2018~2022年の間の大規模大会との連携」を挙げている。
 「参画」では、各ステークホルダーのアクション(イベント・事業等)に対して「認証」する仕組みをリオ大会前までに構築し、多くのアクションが全国で実施され、できるだけ多くの方々、自治体や団体に主体的に参画してもらい大会の盛り上げを図りたいとしている。
 「パラリンピック」では、障がい者の社会参加の促進や多様性への理解の推進などを推進する。
 「大規模大会との連携」では、大会を単なる一過性のイベントとするのではなく、東京、オールジャパン、そしてアジア・世界にポジティブな影響を与え、レガシーとして創出されることを企図し、2018年平昌五輪、2019年ラグビーワールドカップ、2022年北京(中国)などの大規模スポーツ大会との連携を図る計画だ。

 まさにオリンピック精神を実現するにふさわしい高邁な理念が満載されたレガシープランである。

アクション&レガシープラン推進体制 

アクション&レガシープラン2016 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

アクション&レガシープラン2016全文
アクション&レガシープラン2017全文

出典  東京2020組織委員会

五輪開催の負担に苦しみ続けた長野
 長野五輪の開催都市、長野市はもともと堅実な財政の自治体とされ、1992年度には約602億円もの基金を蓄えていた。長野市は、五輪開催に向けてこの基金を取り崩し、それでも足りない分を、市債を発行して開催経費をまかなった。
長野市の市債発行額は1992 年度に127億円だったが、1993 年度には 406億円と 3 倍強に膨れ上がった。1997年度末、市債の発行残高は1921億円に膨張した。この借金は市民1人あたり約53万円、1世帯あたり154万円にも上った。長野市の借金の償還ピークは2002年前後で、償還額は年間約230億円にも達した。以後、約20年間、長野市は財政難に苦しみながら、借金を払い続け、ようやく2017年度に完済するとしている。
 さらに長野市には整備した競技場施設の維持管理の重荷がのしかかっている。長野市は、エムウエーブ、ビックハットなど6つの競技場施設を、約1180億円を拠出して整備した。しかし、競技場施設からの収入は約1億円程度でとても施設の維持管理費をまかなうことはできない。毎年、長野市は約10億円の経費を負担し続けている。競技場施設を取り壊さない限りこの負担は永遠に続くだろう。そして、2025年頃にやってくる大規模修繕工事では、さらに巨額の経費負担が発生する。
 そのシンボルになっているのが長野オリンピックのボブスレー・リュージュ会場として使用された“スパイラル”、長野市ボブスレー・リュージュパークである。
 “スパイラル”はボブスレー・リュージュ・スケルトン競技施設として長野県長野市中曽根に建設された。コースの全長は1700m、観客収容人数は約1万人、101億円かけて整備された。“アジアで唯一のボブスレー・リュージュ競技の開催が可能な会場”がそのキャッチフレーズだ。
 しかし大会開催後は維持管理費の重荷に悩まされている。コースは人工凍結方式のため、電気代や作業費など施設の維持管理に年間2億2000万円もの費用がかかる。ボブスレー・リュージュ・スケルトン、3つの競技の国内での競技人口は合わせて130人から150人、施設が使用される機会は少なく、利用料収入はわずか700万円程度にとどまる。毎年約2億円の赤字は長野市や国が補填している。
 そして建設から20年経って、老朽化も進み、補修費用も増加した。長野市の試算では、今後20年間で、施設の維持管理で約56億円が必要としている。
 長野市では、平昌冬季五輪までは存続させるが、大会終了後は、存続か廃止かの瀬戸際に立たされている。
 一方、長野県も道路などのインフラ整備や施設整備に巨額の経費を拠出した。それをまかなうために県債を発行したが、県債の発行残高は1997年度末で約1兆4439億円、県民一人当り約65万円の借金、1世帯あたり約200万円の借金とされている。借金額は長野県の一般会計予算の規模より大きくなってしまった。
 長野県が借金を完済するのは平成36年度(2025年)、 長野五輪開催から約30年間、払い続けることになる。
 長野冬季五輪の教訓は、一体、どう活かされているのだろうか?



どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンと名付けた選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約を掲げて東京に招致に成功したのである。
 「ヘリテッジソーン」には、現在の東京の首都機能があり、1964年東京オリンピックの際に主要な競技場として利用され、2020年東京オリンピックでも主要な競技場となる国立競技場や武道館、東京体育館、代々木競技場もあるから名付けた。国立競技場は、約1590億円という巨額の経費をかけて建替えられる。この巨大スタジアムを大会開催後、どのように維持していくか、また迷走が始まっている。はたして、“レガシー”(未来への遺産)になるのか、それとも“負のレガシー”(負の遺産)になるのだろうか?
 一方、「東京ベイゾーン」、湾岸地区は、2020年東京オリンピック開催をきっかけに、新たに競技場や選手村を建設したり、既存の施設を改修したりするなどなど、開発・整備を進め、“レガシー”(未来への遺産)にしたいとしているが、膨れ上がった施設整備費で、相次ぐ建設中止や整備計画見直しで、迷走と混迷を繰り返した。
 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一東京都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とかつて述べている。
 結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは国民である。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック、あと1年、混迷はまだ収まりそうもない。

TOKYO2020のレガシーとして何を残すか?
 1964年の東京オリンピックの「レガシー」は、「東海道新幹線」、「首都高速道路」、「地下鉄日比谷線」、そして「カラーTV」だったと言われている。東京オリンピックをきっかけに、日本は「戦後復興」から、「高度成長期」に入り、そして「経済大国」を登りつめていく瞬間だった。「東海道新幹線」や「首都高速道路」などの交通インフラはその後の日本の経済成長の基盤となり、まさにレガシーとなった。「カラーTV」は、HD液晶テレビなどで世界を席巻する牽引車となった。
 そして「公害と環境破壊」、「バブル崩壊」、「少子高齢化社会」へ。
 時代の変遷とともに、「レガシー」(未来への遺産)の理念も根本から変える必要がある。有形の「レガシー」だけでなく無形の「レガシー」が」求めらる時代に入った。
 日本では、「高度成長」の名残りで、ビック・プロジェクトに取り組むとなるといまだに箱モノ至上主義の神話から脱却できないでいる。競技場や選手村の建設や交通基盤の整備などの必要性については、勿論、理解できが、膨れ上がった開催経費への危機感から、施設整備やインフラ整備は徹底した見直しが必須の状況に直面している。壮大な競技場を建設して、国威発揚を図る発想は、時代錯誤なのは明白だろう。大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会、2048年には1億人を割って9913万人となると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に必要なのだろうか? 巨大な競技場は負のレガシー(負の遺産)になる懸念が大きい。
 2020東京五輪大会のレガシー(未来への遺産)は、無形のレガシーや草の根のレガシーをどう構築するかに重点を置いたらと考える。
 今年2月策定された基本計画では、「オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信」の項目には、「アクションの例」として、「『和をもって尊しとなす』や『おもてなしの心』など日本的価値観の大会への反映」をあげている。
 こうした価値観を、どのように大会に反映させるのだろうか? 言葉だけのスローガンにして欲しくないポイントだ。
 超高齢化社会を前提にするなら、巨大な競技施設を建設より、一般市民が利用するプールやグランドなどのスポーツ施設を充実させる方が次世代にはよほど有益で、レガシーになるだろう。
 2020東京五輪大会では、“レガシー”(未来への遺産)として、我々は次の世代に何が残せるのだろうか?



2016年10月7日 初稿
2019年12月1日 改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR


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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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コメント (1)
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