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新国立競技場 検証報告 迷走 下村博文 文部科学省 JSC 

2018年05月15日 09時45分07秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5)
“迷走”新国立競技場 責任は文科省とJSC 検証報告



技術提案書A案のイメージ図  新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供






“迷走”新国立競技場 検証委設置
 2015年7月24日、下村博文文部科学相は2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設をめぐり、これまでの計画が迷走した経緯を検証するため、外部の有識者らによる第三者委員会を設置することを明らかにした。関係者の責任問題も取り上げるとしている
 第三者委は、法律家や建築関係者、アスリートら5~10人でつくる予定で、下村氏は「どこに問題があり、どういう責任が問われるのか、『お手盛り』でなく第三者の検証をお願いしたい」と述べた。
 競技場をめぐっては、民主党政権時代の12年に行った国際コンペで、イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏のデザイン案が選ばれ、当時の総工費は「1300億円」だった。ところが、設計の過程で「3千億円超」まで膨らんだため、政府は計画を縮小し、2015年6月、総費「2520億円」とする計画を決定。それでも世論の激しい批判が収まらず、白紙撤回に追い込まれた。
第三者委では、デザイン案を選ぶ過程や、総工費が二転三転した理由などについて検証する。
 文科省の責任も当然、問われることになる。舛添要一東京都知事は20日付のブログで「文科省は無能力・無責任で、これが失敗の最大の原因」と批判。24日の記者会見でも「もう少し早くしないと、気の抜けたビールを飲むような形になる」などと検証を急ぐよう求めた。
同じ日に、東京五輪の開幕までちょうど5年を迎え、政府は五輪・パラリンピック推進本部の初会合を開催した。安倍首相は「開催までに新しい競技場を間違いなく完成させ、世界の人々に感動を与える場としたい」と語った。
振り出しに戻った競技場の整備計画は、内閣官房に設置した再検討推進室で策定することになった。文科省任せの失敗を反省し、官邸主導で進めるためで、9月上旬をめどに計画を策定。その後、デザインや施工業者を一括で入札して決め、来年1、2月には整備事業に着手。20年春に完成させたいとしている。

文科省とJSCの責任重大 検証委報告書
 2015年9月24日、白紙撤回された新国立競技場の旧整備計画の問題点について、文部科学省の検証委員会(委員長=柏木昇・東京大名誉教授)は報告書をまとめて公表した。
報告書では、「国家プロジェクトに求められる組織体制を整備できなかった」として、事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長や、監督する文科省の下村博文文科相と事務方トップの事務次官に責任があったと言及した。
 また2013年9月の東京五輪・パラリンピック開催決定から4カ月間が、計画をゼロベースで見直すタイミングだったとも指摘した。
報告書を受け、下村文科相は、「責任の取り方は25日の閣議後記者会見で発表する。報告書が進退問題に言及しているとは承知していない」と述べ、責任の取り方は曖昧にした。一方、河野理事長は任期満了の今月末で退任する意向を正式表明した。
報告書は計画撤回に至った理由として、(1)関係団体トップらでつくるJSC有識者会議など集団的意思決定システムによる硬直性(2)複雑な事業を既存の縦割り組織で対応(3)消極的な情報発信−−の3点を挙げた。
 事業推進態勢についてはJSCを「当事者としての能力や権限が無いのに大変難しいプロジェクトを引き受けた」、文科省を「JSCへの管理監督が不十分だった」と批判した。その上で「関係者間の役割分担、責任体制が不明確。JSCの有識者会議に実質的な主導権を許した」と意思決定のゆがみを指摘した。
 旧計画は、12年7月の国際デザインコンクール募集開始時に工事費を1300億円と想定し、ザハ・ハディド氏の案を採用した。設計会社が大会開催決定前の13年7〜8月に工事費を3462億円と試算し、直後に工事費1358億円など七つのコンパクト化案が出された。これを踏まえ検証委は、開催決定から13年末が見直しのタイミングだったと判断した。

新国立競技場整備計画経緯検証委員会 検証報告書
平成27年9月24日 新国立競技場整備計画経緯検証委員会


検証報告書の概要 文部科学省の第三者委員会(委員長=柏木昇・東大名誉教授)

 《総論》
 【検証に当たっての前提】
 ・高い要求仕様に応えつつ、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)に間に合わせるという窮屈な工期で最高水準の技術が求められるデザインを実現すること自体、難度が高いプロジェクトだった。加えて予想を超える物価や賃金の高騰を招く特殊な建設市況や、調整プロセスの追加などにより、一層複雑さを包含するものと化していた。
 ・様々な工事費の数値は、それぞれの計算基礎と算出主体と精度が異なるものであり、このような性質の異なる数字を横並びで比較することについては慎重でなければならない。
 【見直しに至った主な要因】
 ・意思決定がトップヘビー(上層部に偏りすぎ)で機動性がなかったことにより、意思決定の硬直性を招いた。集団的意思決定システムの弊害があった。
 ・大規模かつ複雑なプロジェクトだったにもかかわらず、既存の組織・既存のスタッフで対応してしまった。
 ・情報発信による透明性の向上や、国家的プロジェクトに対する国民理解の醸成が図られなかった。
 【見直しをすべきだったタイミング】
 ・13年8月に設計JV(共同企業体)から、ザハ・ハディド氏のデザインを基礎として関係団体の要望をすべて満たした場合、工事費が3千億円を超えそうだという報告がなされ、その際に工事費の削減案が関係者間で検討されている。
 ・同年9月に20年の東京五輪・パラリンピックの招致が決定した後、この削減案に基づき、一度ゼロベースでザハ・ハディド案を見直すチャンスがあったのではないかと考えられる。
 ・従ってプロジェクトを本当に動かす必要が生じた13年9月から年末にかけてが、ゼロベースで見直す一つのタイミングだったと考えられる。
 【責任の所在について】
 ・結果として、本プロジェクトの難度に求められる適切な組織体制を整備することができなかった独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)、ひいてはその組織の長たる理事長にあると言わざるを得ない。
 ・文部科学省についても同様に解するべきであり、組織の長たる文部科学大臣及び事務方の最上位の事務次官は、関係部局の責任を明確にし、本プロジェクトに対応できる組織体制を整備すべきだった。
 《各論》
 【コストに関する問題点】
 ・デザイン競技公募で示される工事費の意味合いが、関係者の間で共有出来ていなかった。
 ・デザイン審査の過程において、今後工事費が変動する可能性について、専門家から警鐘が鳴らされる仕組みとなっていなかった。
 ・算出主体の違いによる工事費の差異や工事費高騰の可能性について、国民に対し、正確かつ丁寧な説明がなされなかった。
 ・工事費について、物価上昇分などを加えた額がどの程度を超えた場合に仕様を変更するかといった検討がなされず、上限額が無いに等しい状況だった。
 ・国費以外の財源が複数あったこともあり、工事費の上限額を明確にする意識の低下を招いた。
 【プランニングに関する問題点】
 ・招致決定後、仕様、工期、工事費という並び立たせるのが困難な要素について、いずれを優先させるのか首尾一貫していなかった。
 ・関係者らの要望事項を幅広く採り入れたことで、すべてを備える仕様となっていたが、抜本的な見直しは行われず、規模や機能の縮小を検討するにとどまっていた。
 ・国家的プロジェクトを行う政府全体としての意思の統一がなされておらず、関係者がそれぞれの立場で検討し、調整した。その結果、もともと19年のラグビーW杯に間に合わせるという窮屈なスケジュールだったにもかかわらず、時間的なロスが発生してしまった。
 【設計・工事に係る調達方法に関する問題点】
 ・プロジェクトの初期段階で、相互関係などを勘案したプロジェクト全体の調達計画が立てられていなかった。対症療法的な調達方法だった。
 ・デザイン監修者と設計者との間における役割分担が不明確だった。
 ・発注者(JSC)が、発注者支援者の専門性を十分に活用出来ていなかった。
 ・技術協力者・施工予定者の参画が遅れ、工事費の削減と工期の短縮につながらなかった。
 ・工区分割を採用したことで、工区間の調整が必要となり、工期延伸の原因の一つとなった。
 【情報の発信に関する問題点】
 ・国家的プロジェクトとして、税金を負担する国民の理解を得るための、工事費の推移などに関する情報発信が十分ではなかった。
 ・新国立競技場の用途や魅力について、広く、国民に対して積極的に発信していたとは言えなかった。
 ・プロジェクト全体を通じて、一貫して最後まで状況が説明できる専門知識を持ったスポークスマンが配置されておらず、情報発信の体制が不十分だった。
 【プロジェクト推進体制に関する問題点】
 ・JSCの理事長は組織の長として、文科省に人的支援の要請を行った事実はあるが、結果として国家的プロジェクトに求められる組織体制を整備することができなかった。
 ・文科相及び文科事務次官は、国家的プロジェクトを念頭においた進捗(しんちょく)管理体制を構築せず、報告・相談が密に行われる仕組み作りや組織風土の醸成が十分ではなかった。
 ・国家的プロジェクトにふさわしい権限と責任を伴ったプロジェクト・マネジャー(現場責任者)が組織の中に明確に位置づけられておらず、また、プロジェクト・マネジャーに相当すると思われる役職者を通常の人事ローテーションで異動させていた。
 ・多くの関係者間や関係組織間の役割分担、責任体制が不明確だったため、意思を決定する過程の透明性が確保されていなかった。
 ・大規模かつ複雑なプロジェクトに精通した専門家を発掘・配置しておらず、また、デザイン選定からプロジェクト推進までを一貫してチェックする専門性をもった組織を構築していなかった。
 《終わりに》
 検証の過程で行った聞き取りの結果で判明したことは、本プロジェクトに関わった多くの人が真摯(しんし)に仕事に取り組んできたことである。
 しかし、その一方で、プロジェクトを遂行するシステム全体が脆弱(ぜいじゃく)で適切な形でなかったために、プロジェクトが紆余(うよ)曲折し、コストが当初の想定よりも大きくなったことにより、国民の支持を得られなくなり、白紙撤回の決定をされるに至ってしまった。
 20年東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場は今後、厳しいスケジュールの下で整備が行われることになるが、国民の信頼を回復し、全ての国民から愛される競技場となることを期待する。

(出典 朝日新聞 2015年9月25日)

下村文部相 辞意
 下村博文文部科学相は25日、閣議後の会見で、新国立競技場問題の責任を取るため、24日夜に安倍晋三首相に辞意を伝えたことを明らかにした。首相からは10月上旬に予定する内閣改造まで続投を要請され、了承した。また下村文科相は、大臣俸給から議員歳費を除いた額の6カ月分など、計約90万円を返納すると発表した。
 新国立競技場の旧建設計画が白紙撤回に至った経緯を検証する文科省の第三者委員会が24日、「適切な組織体制を整備できなかった」として下村文科相の結果責任を明記した報告書を公表。これを受けて下村文科相は、首相に電話で「自ら責任を取りたい」と伝えた。首相からは「今までの経緯の中では辞任に値しないがそういうことなら受け止めたい。近々内閣改造をするので、それまでは続けて欲しい」と慰留されたという。
 下村文科相は、「非違行為があったわけではないが、国民全体のムーブメントの先頭にたって盛り上げる立場の中、それができなかったことについて政治的責任があると考えていた。(第三者委の)報告書が出てけじめをつけた」と述べた。
 山中伸一前事務次官も給与の10%を2カ月分、約24万円を自主返納する。今月末に退任する河野一郎日本スポーツ振興センター(JSC)理事長も、給与の10%を2カ月分返納する。政府は25日の閣議で、後任理事長に、サッカーJリーグ前チェアマンの大東和美氏を10月1日付で起用する人事を了承した。

責任の所在を曖昧にした下村氏の辞任
 下村博文文部科学相は25日、検証委員会から報告書を受け取った前夜に安倍晋三首相に辞意を伝えたが、結局、安倍首相は、内閣改造を目前に控えた時期の「辞任」は、政権のダメージになるとして、内閣改造での「交代」とした。
下村氏は給与の自主返納も発表し「けじめ」を強調したが、「検証委の報告書とは別の次元で私自身の判断として辞任を申し入れた」と述べた。25日の閣議後会見で、下村文科相は辞意が「自主判断」だと再三強調した。
  “迷走”を重ねた新国立競技場整備の責任の所在を曖昧したままの“辞任”表明になった。
 2012年12月に文科相で初入閣して以来、教育委員会制度改革や「道徳」の教科化など安倍首相がこだわる教育改革を実現させてきた下村氏だったが、今年に入って「失点」が相次いだ。2月に支援団体「博友会」を巡る資金問題が週刊誌報道で浮上し、国会で激しく追及された。6月には新国立競技場の総工費の高騰問題がわき上がり、窮地に追い込まれた。それでも首相は責任を問わなかった。政権運営のダメージを回避するためだ。改造で交代は「既定路線」としたのである。
 首相が旧整備計画の白紙撤回を表明したのは7月17日。最重要課題の安全保障関連法は前日に衆院を通過したばかりだった。下村氏を更迭すれば、野党に新たな攻撃材料を与える。関連法の参院審議は難航することが見込まれており、続投させざるを得なかった。
 白紙撤回後も自らは職にとどまりながら、担当局長を交代させた下村氏への風当たりは強くなるばかりだった。
既に内閣改造が9月下旬にも行われるとの見方が広がっており、下村氏の交代は説がささやかれていた。検証報告を9月末までにまとめるとしたのは、検証を行う十分な期間を考慮したのではなく、内閣改造に間に合わせて、下村氏の交代は「既定路線」として収拾させようとする政治的な配慮を優先させたと思われる。
 2020東京オリンピック・パラリンピックの準備を巡っては、まず新国立競技場の建設問題を巡って大きな“汚点”を残したには間違いない。






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2018年5月15日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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