Media Close-up Report 東京オリンピック ラグビーW杯 五輪レガシー 放送・通信・ICT 

4K8K 5G AR/VR AI 新国立競技場 FIFAW杯 メディア評論 国際メディアサービスシステム研究所

2024年五輪 パリ ロサンゼルス 招致レース 相次いだ撤退 リマIOC総会

2024年07月12日 20時04分15秒 | 東京オリンピック


史上最も華麗なのセーヌ川開会式 100隻以上のボートで206カ国の選手団がパレード 出典 Paris2024

👉パリオリンピック 競技会場 完全ガイド Paris2024 華麗な舞台 歴史遺産 Media Close-up Report

Eiffel Tower Stadium    出典  Paris2024

La Concorde       出典 Paris2024

Grand Paris  出典 Paris2024

👉パリオリンピック2024 選手村 史上最高のエコ選手村 東京オリンピック選手村比較 マンション販売苦戦 サン・ドニ地区の「産業荒廃地」再開発 Media-closeup Report

出典 Paris2024

出典 SOLIDEO

Paris2024 セーヌ川浄化作戦 「泳げるセーヌ川」を取り戻す Media-closeup Report

Pont Alexandre III  トライアスロン(スイミング)、オープンウォータースイミング競技の会場   出典  Paris2024

👉パリオリンピック2024 Paris2024 開催経費 高額チケット批判 テロの脅威 警備費膨張 Media Close-up Report

マクロン仏大統領とバッハIOC会長  出典 IOC Media

👉パリオリンピック 国際放送センター(IBC) OBS 4K AI ル・ブルジェ・コンベンションセンター Media Close-up Report

IBC(国際放送センター) CDU 東京2020 出典 OBS



CCTVのサテライト・スタジオ IBC   出典 OBS

ブルジェ・エギシビション・センター 2024パリ五輪立候補ファイル


相次いだ“撤退” 迷走 2024年夏季五輪開催都市

Paris2024 LA2028合意 出典 IOC

夏季五輪開催都市 2024年パリ・2028年ロスで合意
 2017年7月31日、米メディアは、夏季五輪招致を巡り、ロサンゼルスが2028年開催で国際オリンピック委員会(IOC)と合意したと伝えた。これにより、2024年大会の開催地はパリに決定する。
 IOC理事会は7月、2024年夏季五輪招致に立候補したパリとロサンゼルスを24年と28年の2大会の開催都市に振り分ける異例の同時決定案を承認した。
 ロサンゼルスの夏季五輪の開催は1932年と1984年に続き3回目。パリは1924年パリ五輪から100周年の節目に夏季五輪を開くことになる。
 開催都市は、9月13日に開催されるリマ総会でIOC委員の投票で正式に決定される。
 

2024年五輪開催都市 パリ・ロスの評価報告書 両都市共にIOC高評価
加速する2024年、2028年、2大会同時開催決定

 2017年7月5日、国際オリンピック委員会(IOC)は、2024年夏季五輪開催を目指すパリとロサンゼルスの評価報告書を公表した。既存施設を最大限に活用して財政負担を抑える両都市の開催計画をともに高く評価した。 開催都市の決定は9月13日に開催されるリマ総会でIOC委員の投票で決定される。IOCは、すでに6月の理事会で「2大会同時決定」の提案を承認しており、7月11日と12日に開かれる臨時総会に決められる。
 報告書は2017年5月の現地調査を踏まえたもので、IOC委員の判断材料となる。評価委員会のバウマン委員長は「2都市とも素晴らしい大会を開催できる十二分の能力がある。五輪は安泰だ」(共同通信 7月6日)と述べ、IOCの中長期改革「五輪アジェンダ2020」に沿った計画を歓迎した。
 報告書では、競技場施設に占める既存施設や仮設施設の割合は、ロサンゼルスは97%とし、パリも93%としている。また両都市とも国際大会の開催実績が豊富な点を評価した。課題としては、パリは市民の開催支持率が63%でロサンゼルスの78%に比べて低く、会場となるセーヌ川の水質改善指摘した。ロサンゼルスは四つの会場群を結ぶ観客の輸送態勢などに言及した。
 2024年五輪大会には、ブダペスト、ローマ、ロサンゼルス、パリの4都市が立候補したが、暴騰する開催経費の懸念や住民の反対運動などでブダペスト、ローマが相次いで撤退し、結局残ったのはロサンゼルス、パリの二都市となっている。
 両都市で、2024年と2028年の2大会を振り分けて開催するという異例の対応が現実化しそうである。
 2024年大会はパリ、2028年大会はロサンゼルスが有力との観測が広がっている。


2024 Los Angeles 97%の競技場施設は既存施設や仮設施設で対応


2024 Paris 93%の競技場施設は既存施設や仮設施設で対応
出典 Roport of IOC Evaluation Commission 2024




前代の未聞の展開 2024年夏季五輪開催都市招致
 2024年の夏季五輪開催都市選定は、前代の未聞の展開を見せている。
立候補に意欲を示したハンブルグやボストンなどの有力都市が相次いで招致活動の途中で撤退を表明、その理由はいずれも巨額に上る開催費用の負担である。
 国際オリンピック委員会(IOC)はこのままでは五輪大会に立候補する都市はなくなってしまうのではという危機感を抱き始めている。五輪大会の肥大化、巨額に膨れ上がる開催経費にどう歯止めをかけるか、五輪の持続性を確保するための至上命題になっているのである。
 2016年2月17日、国際オリンピック委員会(IOC)はブダペスト、ローマ、ロサンゼルス、パリの4都市が 2024年夏季五輪誘致のためのビジョン、コンセプト、戦略を記した第1段階の申請書類、「立候補ファイル」を提出したと発表した。
 ローマは1960年以来2回目の開催を狙う。パリは1924年の前回大会から“100年”記念の開催を狙う。ロサンゼルスは“競技場は一つも新設しない”と公言、徹底した開催費用削減に挑む。ブダペストは東ヨーロッパでの初開催をアピールしている。いずれも有力な都市が正式に手を挙げた。
 2024年の五輪大会招致レースはこうして幕を開けた。


各都市の五輪招致ロゴ 出典  graffica   http://graffica.info/logos-juegos-olimpicos-2024

住民投票に敗れたハンブルグ バッハかIOC会長の“お膝元”ドイツの反乱 2015年3月、ドイツオリンピック委員会(DOSB)は、ベルリンとハンブルグの2都市から国内選考を行い、立候補都市をハンブルグに決定した。
ドイツで最大、欧州第2位の規模を誇るハンブルク港、その港湾地区の再開発とセットで五輪開催を計画した。ハンブルグはサッカーなどスポーツが盛んで、受け入れ体制は十分、しかもドイツは1972年のミュンヘン大会から50年以上も夏季五輪から遠ざかっていた。条件はそろっていた。しかし………
 2015年11月、ハンブルク五輪招致委員会は、招致の是非を問う住民投票を行った。その結果、反対51.6%、賛成48.4%で反対が過半数を占めた。反対派は112億ユーロ(約1兆5000億円)の費用は無駄遣いだと批判していた。
 まさかの敗戦である。ショルツ市長は「望んだ決定ではないが、結果は明白だ」と述べ、招致を断念すると発表した。
ドイツでは、2022年冬季五輪招致で夏季冬季五輪開催を目論んだミュンヘンが、住民投票で反対派が多数を占め、立候補を断念した経緯がある。
バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長の“お膝元”であるドイツでは、住民の反対で五輪招致が相次いで頓挫している。ドイツでは五輪大会の開催はもう不可能なのでないかという懸念も生まれている。
こうした状況の中で、バッハ会長は五輪大会の継続に深刻な危機感を抱いているのに間違いない。

赤字負担を拒否 立候補を断念したボストン
 米国で立候補したのはロサンゼルスだが、その選定の経緯は極めて異例で、今の五輪をめぐる問題の“混迷”を象徴している。
 米国内での立候補都市は、米国オリンピック委員会(USOC)が国内選考を実施して一つの都市に絞る。
2015年1月、五輪立候補都市をボストンに決定した。競争相手はロサンゼルスやサンフランシスコ、ワシントンD.C.だった。
 しかし地元では、巨額の経費負担の懸念から、五輪開催反対の意見が根強く、地元のメディアが行った世論調査で支持率は36%にとどまっていたとされている。住民の納得が得られない五輪開催にボストン市は苦悶していた。
こうした状況を察して、米国オリンピック委員会(USOC)は大会運営で赤字が生じた場合、ボストン市が全額を補償するよう求めた。
 これに対して2015年7月、ウォルシュ・ボストン市長は、「市の将来を担保に入れることを拒否する」と述べ、現時点では市の予算で大会の赤字を補うことはできないとし、住民の理解の得られない五輪招致に難色を示した。
 米国オリンピック委員会(USOC)は立候補を取りやめることでボストン側と合意したと発表した。
2015年9月、米国オリンピック委員会(USOC)は、辞退したボストンに代わり、ロサンゼルスが立候補すると発表した。ロサンゼルスは1932年と84年に五輪を実施しており、ロンドンに並ぶ3度目の開催を目指す。
 ロサンゼルスのガーセッティ市長は「この街は世界最高のステージだ」と意欲を示した。

「さらに借金を背負うことを良しとしない」 招致から撤退したローマ
 ブダペスト、ロサンゼルス、パリと共に立候補ファイルを提出して五輪大会招致に意欲を燃やしたローマの撤退は、欧州諸国の五輪開催巡る政治状況や世論の厳しさを象徴するできごとだった。
ローマのマリーノ前市長は五輪開催に意欲的で、2014年12月、開催都市として立候補することを発表した。 招致委員会の責任者に元フェラーリ会長のルカ・ディ・モンテゼーモロ氏が就任し、招致活動を開始した。レンツィ前首相もこれを支持した。
 2016年6月、民主党の前市長が公費流用疑惑で辞任したのを受けて、ローマ市長選挙が行われ、ローマで史上初の女性市長、ビルジニア・ラッジ氏(37)が当選した。ラッジ氏は、新興政党「五つ星運動」の女性候補で、レンツィ前首相率いる中道左派の与党の民主党候補を破って当選したのである。
 2016年9月、ラッジ新市長は財政難を理由に2024年夏季五輪の招致を断念する考えを表明した。ラッジ氏は会見で、「立候補に賛成するのはいかにも無責任だ。さらに借金を背負うことを、我々は良しとしない」とし、「我々は未だに1960年ローマ五輪に対して借金を返済している。五輪とスポーツに対しては何の反感もないが、町に新たなセメントを注ぎ込むための口実としてスポーツが使われることは望まない」と述べた。ローマの撤退で、2024年夏季五輪の開催都市候補として残ったのは、パリとロサンゼルス、ブタペストの3都市になってしまったのである。

「競技場は一つもつくらない」 ロサンゼルスのしたたかな挑戦
 五輪招致を辞退したボストンに代わって、米国の五輪大会招致都市として名乗りを上げたロサンゼルスは、次の時代の五輪のコンセプトを先取りした“コンパクト”五輪を掲げて、招致をアピールしている。
 2016年11月29日(日本時間)に東京で開かれた4者協議で、コーツIOC副会長が、東京大会の開催費用、「2兆円」は受け入れられないと発言したわずか数時間後に、ロサンゼルス招致委員会は、大会開催経費は「53億ドル」(約6000億円)と発表した。しかもこの中に、4億9100万ドル(約540億円)の予備費も計上済だ。破格の低予算である。「約53億ドル」は、リオデジャネイロ大会の約半分、東京大会の約3分の1である。
 開催費用削減をターゲットにするIOCの意向を巧みに取り入れ、世界各国にアピールする作戦だ。
 開催費用の削減は、ロサンゼルスにとって、最有力の強敵、パリとの競争に勝ち抜く“切り札”になってきた。
 「53億ドル」は、大会運営費と競技場(恒久施設)などのインフラ投資経費(レガシー経費)の合算、ロサンゼルス周辺に30以上の既存施設があり、競技場は新設する必要がなく、低予算に抑えられたとしている。選手村はカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の学生寮を利用する計画だ。
 1984年に開催されたロサンゼルス五輪では、徹底した経費の削減と収入確保戦略で2億1500万ドル(約400億円)の黒字を出し、世界を驚かせた。
 ロサンゼルス五輪招致委員会のケーシー・ワッサーマン会長は「もしロサンゼルスが五輪開催地に選ばれたら、IOCは開催予算や競技会場変更問題から解放されるだろう」と胸を張る。
 2024年夏季五輪開催に立候補をしている都市は、ローマも脱落して最終的にパリ、ロサンゼルス、ハンブルグの3都市だけになった。パリは、1924年の前回大会から“100年”の開催を狙う。ロサンゼルスは“競技場は一つも新設しない”と公言、徹底した開催費用削減に挑む。ブダペストは東ヨーロッパでの初開催をアピールしている。

パリ2024のメディ施設 ターゲットは航空産業
 パリは、2012年大会招致では“大本命”といわれながら、ロンドンに敗退をしてしまった。今度こそという国民の期待は強い。パリの抱える懸念材料は、テロ対策だ。 イスラム過激派のテロ標的にされた事件は記憶に新しい。セキュリティの確保が最大の課題になっている。
 オランド仏大統領と会談を行ったIOCのバッハ会長は、「テロは世界中の共通した課題」とパリだけが直面する問題ではないとし、パリを「非常に強力な候補」で「スポーツ界と政府の結束が強く、絶大な支援を受けている」と高く評価した。
 IBC/MPCは、パリで、3番目に広い国際展示場、ブルジェ・エキシビション・センター(Paris Le Bourget exhibition centre)に設置される。
 ブルジェ展示場は、パリ郊外のシャルル・ドゴール国際空港の近くにある施設で、延べ床面積10万平方メートル、ほぼ東京ビックサイトと同規模の施設である。ちなみにパリには、24万2千平方メートルの展示場を備えるParis Nord Villepinte や22万8千平方メートルのParis expo Porte de Versaillesを始め数多くの国際展示場がある国際エキシビション都市だ。
 このブルジェ展示場は、世界で最も有名な航空産業見本市、“Paris Air Show”が開催されることで知られている。2年ごとに開催され、出展数は2300、展示される航空機150機、参加者は世界各国から15万人に及ぶ。
展示場に隣接して、欧州でNO1のビジネス空港Paris- Le Bourgetや、Air and Space museumが整備されている。ブルジェ(Bourget)地区は、まさに世界の航空産業エキシビションの象徴的な存在を誇っている。
IBCの延べ床面積は、7万2千平方メートル、MPCは3万平方メートル、共通エリアとして1万8千平方メートルの施設が整備される。
 オリンピック・スタジアムからは10分以内の距離としている。
五輪開催後のレガシーとしては、IBC/MPCとして強化されたインフラをフルに活用して航空産業などの見本市会場として世界中に更にアピールしていくとしている。
パリのIBC/MPC戦略のターゲットは航空産業、したたかなフランスの開催計画である。


ブルジェ・エギシビション・センター 2024パリ五輪立候補ファイル

Paris Air show-Le Bourget  Paris Air show ホームページ


ロサンゼルス五輪のメディア施設 ハリウッドの戦略と連動 
 ロサンゼルス組織委員会は、「五輪の歴史の中で、最も革新的なレガシーとして輝く理想的な場所を選んだ」と胸を張った。
 IBCをロサンゼルス郊外にある世界の映像メディアのシンボル、NBC Universalの中に設置するのである。五輪開催をハリウッドの映像戦略に見事に結び付けた。さすがロサンゼルスである。
IBC/MPCは合わせて延べ床面積8万5千平方メートルの施設を整備する。
 そのうちIBCは5万5千平方メートルの2階建の建物で、6つのメインスタジオが設置される。IBCオフイスの専用スペースはメインスタジオの建物の隣に独立した建物として建設される。IBCの南側には、広さ6000平方メートルの衛星中継スペースが準備される。メインスタジオに隣接したスペースにケータリングやサポートサービスのエリアが整備される。IBC/MPCは交通機関や駐車場と直結している。
 一方、MPCは南カリフォルニア大学(USC)のキャンパスに設置される。MPCはIBCに近接しているが、離れた所に立地する施設である。
 メイン・プレス・ワーキング・ルームや記者会見室は仮設施設として整備され、サポート・サービスやケータリングは大学のキャンパスに設置される。MPCの延べ床面積は3万平方メートル。
 IBC/MPCから各競技場へのアクセスは、オリンピック専用道路を設置し30分以内で移動可能だ。
 IBC/MPCは、Universal Studiosの開発計画と連動したスキームで整備が行われ、スタジオ建設などの新規投資も実施される。五輪大会後は、NBCUniversalの音響スタジオや制作フロア、オフイスとしてIBC/MPCを再生し、ハリウッドの映像・音響インフラの強化を図る戦略だ。「レガシーと密接にリンクさせた野心的な開催計画は未だかつてない」としている。
 しかし、ロサンゼルスの突然襲っている悩みのタネは、難民受け入れ停止やイスラム圏7カ国からの一時入国禁止令を出したトランプ大統領である。
 ロサンゼルスは立候補ファイルで「世界は前例のない変化と不確実な時代に突入している」とし、「ロサンゼルス、そして米国は並外れた文化の多様性を持つ。ロサンゼルスでの開催は、歴史上、最も必要とされるときに人々、国家をまとめられる。五輪とパラリンピックほど、世界、そして国家を一つにするものはない」と訴えている。
しかし、イスラム圏諸国からの反発は必至で、果たしてこの逆風を乗り越えることができるのだろうか。


IBCが設置されるユニバーサル・スタジオ 2024ロス五輪立候補ファイル

“荒れ地”の再開発の拠点に ブタペスト五輪
 世界の大都市以外からの立候補したブタペスト、その課題は、競技施設やインフラ整備の整備に費やされる巨額の開催経費に耐えられるかであろう。リオデジャネイロ五輪の開催を巡って起きた問題が思い起こされる。
 ブタペストの招致委員会は「ブダペストでの大会こそが、これまで五輪が開催されていない国や都市に門戸を開き、オリンピックのムーブメントを広げることにつながる」とし、「豊かな大都市しか開催できない」と批判される五輪を改革すべきだとアピールしている。
IBC/MPCは、オリンピック・パークに近接した20haの敷地に整備される。
 IBC/MPCの整備経費は政府が全額負担する。施設の設計や建設は、オリンピック施設庁(Budapest Olympic Dilivery Authority)が担当し、五輪開催後のレガシー利用のための改装工事も担当する。
 IBC/MPCが建設される用地は、個人所有の土地を政府が取得して再開発する。
 この用地はいわゆるブラウン・フィールド、土壌汚染などが原因で売却や再開発ができずに放置されている土地で、貴重な歴史的建造物も存在する。
 IBCは、延べ床面積5万5千平方メートル、4階建ての建物で、ホスト・ブロードキャスターとライツホルダーが使用する。MPCは、延べ床面積3万平方メートル、プレス・ワーキング・ルームや各社の専用ブースが設けられる。
 共通スペースにはケータリングやショッピング・エリアが設けられる。 五輪後のレガシーとしては、ブタペストの中心部における複合オフイスと商業施設に再生さする計画である。

ブダペスト 2024年五輪招致から撤退

 2017年2月22日、 2024の夏季五輪に候補していた、オルバン首相は、ハンガリー・ブダペストのタルローシュ市長と会談し、会談後、招致活動からの撤退を表明した。ブダペスト撤退の引き金になったのは、招致反対派の運動で、招致の是非を問う住民投票を求めて活動を展開していた。2月18日、招致反対派は、住民投票求める署名が市の人口の約15%に当たる26万を超えたと発表した。これを受けて、ハンガリー政府は、会談後声明を出し、「五輪開催に必要な一体性が失われた」とし、招致撤退を表明した。
 五輪招致を巡っては、巨額の開催経費がかかることから立候補する都市が極めて少なくなってきた。2022年緒冬季五輪では、最終的には、招致に成功した北京と落選したアルマトイ(カザフスタン)の2都市しか残らなかった。
 夏季で2都市しか候補が残らないのは、名古屋がソウルに敗れた1988年大会以来である
 これで2024年五輪招致に残ったのは、ロサンゼルス(米)とパリの二都市になってしまった。
 五輪大会を持続可能な大会に改革を目指す国際オリンピック委員会(IOC)の危機感は、更に増した。



2024年五輪、2028年五輪の同時“決定”を目論む国際オリンピック委員会(IOC)
 こうした危機感を乗り越えるために国際オリンピック委員会(IOC)は、“秘策”を明らかにしている。五輪大会の安定的な開催を目論む“苦肉の策”である。
 2016年6月、国際オリンピック委員会(IOC)の理事会は、2024五輪大会都市と2028の五輪大会都市を今年同時に決着することを総会に提案することを決めた。事実上ロサンゼルスとパリとで分け合って開催しようとするものである。バッハIOC会長はどちらの国が先に開催するのかは、9月13日にリマで行わるIOC総会で決められるとした。
 ロサンゼルスとパリの招致関係者は、IOCの理事会を歓迎し、今後両者との間で話し合いを進めるとした。
 パリは、前回大会開催からの「100年記念」の2024年の開催にこだわっているのに対し、ロサンゼルスは、より柔軟な姿勢を示し、2028年開催が可能かどうか協議を開始しているとしている。ロサンゼルスは代わりに2024年ユース五輪開催を国際オリンピック委員会(IOC)に要請することを視野に入れているようである。
 しかし、バッハIOC会長は、2024年と2028年の開催地設定はまったく対等であると述べている。
 2024五輪大会都市と2028の五輪大会都市を同時に選ぶことで、五輪招致にかかる招致費用や開催準備費用を削減することが可能になり、五輪開催の安定性を確保できるとしている。
また、理事会では2026年冬季五輪の招致プロセスとコスト削減を改善する方策も議論された。 2026年冬季五輪にはスイスのシオン、カナダのカルガリー、オーストリアのインスブルック、札幌などが意欲を示しているとされている。

2024年、2028年五輪大会は9月に決定
 最終的に立候補都市として残ったロサンゼルスとパリについては、IOC評価委員会が今年の春からそれぞれの都市を訪問して報告書を作成して公表し、両都市に高い評価を与えている。
 7月11と12日にはIOC委員や国際競技連盟に向けた二都市のプレゼンテーションが行われると共に、2024年と2028年五輪大会開催都市を同時に決める方式についても採決が行わる。
そして9月13日にリマで開かれるIOC総会で2024年、2028年五輪大会の開催都市が同時に決まる可能性が強い。
 2大会同時決着を行うIOC総会は、これまでの総会とはまったく違う雰囲気の中で行われると思われる。
 肥大化、開催経費膨張、商業主義批判、「曲がり角」に立ったオリンピックは、まさに正念場を迎えた。



2024 Los Angeles オリンピックスタジアム


2024 Paris オリンピックスタジアム


2024 Los Angeles 組織委員会(OCOG)予算


2024 Paris 組織委員会(OCOG)予算


2024 Los Angeles 競技場整備費


2024 Paris 競技場整備費

出典 Roport of IOC Evaluation Commission 2024



パリオリンピック 競技会場 会場一覧 Paris2024 華麗な舞台 歴史遺産 Media-closeup Report

パリオリンピック選手村 Paris2024 サン・ドニ地区 建設費20億ユーロ 70%民間資金Media-closeup Report

Paris2024 セーヌ川浄化作戦 「泳げるセーヌ川」を取り戻す Media-closeup Report

パリオリンピック 国際放送センター(IBC) OBS 4K AI ル・ブルジェ・コンベンションセンター Media Close-up Report

2024年五輪開催都市 ロサンゼルス パリ 2024年オリンピック 招致レース 相次いだ撤退 リマIOC総会 Media Close-up Report



東京オリンピック 競技場最新情報 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパククトな大会”
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如
開催経費1兆8000億円で合意

主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
“選手村は一つ”、“選手村はオリンピックの魂” の矛盾 どこへ行った五輪改革
唖然とする“五輪専門家”の無責任な発言 膨れ上がった施設整備費
アクアティクスセンターは規模縮小で建設を検討か? 国際水泳連盟・小池都知事会談
東京オリンピック 海の森水上競技場 Time Line Media Close-up Report






国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


2017年7月3日

Copyright (C) 2017 IMSSR


******************************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
******************************************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 開催経費 1兆4238億円 招致段階から倍増 組織委員会最終報告

2023年06月07日 09時56分19秒 | 東京オリンピック
東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)


東京五輪談合 腐敗の連鎖

東京五輪贈収賄 汚職まみれの東京五輪Ⅰ

東京五輪贈収賄 汚職まみれの東京五輪Ⅱ


開催経費 1兆4238億円 「無観客」でV5予算より1000億円減額
 2022年6月22日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、総額1兆4238億円に上る大会経費を最終報告明らかにした。招致活動段階の立候補ファイルで示した7340億円からほぼ倍増したことになる。
 このうち新型コロナウイルスの感染拡大による大会の1年延期に伴う経費は2940億円増を想定していたが、原則無観客開催に伴う警備費用などの減額により738億円増にとどまった。
 大会経費の費用分担は、組織委が6404億円、東京都が5965億円、国が1869億円となった。組織委は競技や開会式・閉会式などの式典の大会運営費や事務局経費全般、都は東京アクアティクスセンターなどの施設整備費、国は国立競技場建設とパラリンピック経費を主に負担した。
支出の詳細が初めて公表され、聖火リレーに98億円、開閉会式に153億円、人件費に327億円かけたことなどが明らかになった。
 「一年延期」関連では、コロナ対策費として計353億円を国と都が負担した。また当初900億円を見込んだチケット収入はわずか4億円にとどまったが、大会延期に伴う保険金500億円、東京都が使わなかった予算約400億円などを充当して不足分を埋め合わせたとする。
 この結果、組織委員会の収入、支出は同額となりとなり、「収支均衡」、「赤字」はないとした。
開催経費は2013年の招致段階のファイルでは7340億円と記載した。
組織委員会では、2016年以降、毎年12月に最新の予算を公表してきた。
組織委が初めて公表した2016年12月の第一弾予算(V1)では1兆5000億円、予備費最大3000億円を含めると1兆8000億円と見積もった。しかも、この金額には五輪開催に伴う会場周辺の整備や道路整備などのインフラ整備費は含まれていなかった。国や東京都が負担する「大会関連経費」と位置付けた金額を加えた総額は「3兆円」を超えるとの警告がされた。
 五輪開催経費の削減を掲げて当選した小池百合子都知事は「1兆、2兆、3兆と。お豆腐屋さんじゃない」と皮肉ったのもこの時期である。
組織委と都、国の費用分担が決まった翌年の2017年の第2弾予算(V2)では、1兆3500億円(予備費を含めると最大1兆6500億円)という見積り額をまとめた。組織委員会、東京都、国の負担額も初めて明示した。
 その後は、V4まで1兆3500億円の同額で推移した。
 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で五輪史上初めて1年の延期が決まると、1年延期費用やコロナ対策費などが増えて同年末に公表したV5では1兆6440億円に膨張した。その後、無観客開催が決まって警備費などの経費が抑えられて簡素化が可能になり、懸念された支出増加は押さえられ、最終的には1兆4238億円となった。

「収支均衡」は「帳尻合わせ」 事実上は赤字
 組織委員会は「収支均衡」で、「赤字」が出なかったとするが、予算上の「救済」が、事実上は行われれたいた。
 2020年末のV5では、1年延期、コロナ対策よる経費増と無観客による収入減で、組織委員会の収支が「赤字」に転落するのを防ぐために「共同実施事業負担金(安全対策)」と名付けた経費項目を設け、組織委員会の経費から減額し、628億円を東京都の経費に積み増した。内訳は仮設費等が301億300万円、エネルギー60億4700万円、テクノロジー47億5700万円である。この3つの経費項目はすでに組織委員会と都との負担が決まっていている項目である。特段の安全対策を講じた様子は見受けけられない。むしろ無観客で減額されているはずである
 「共同実施事業負担金(安全対策)」という名目は、見るからに曖昧で不明瞭な経費項目で、事実上の組織委員会の「救済」策で見なすことができる。
 最終報告では、この項目は628億円から219億円が減額され、計409億円が東京都の経費に積み増されている。さすがに「共同実施事業負担金(安全対策)」では不明瞭だとしたのか、工事が完了して支出内容が固まったとして仮設費やエネルギー・インフラ費、テクノロジー費の支出項目で振り分け東京都の支出とした。明らかに409億円は組織委員会「救済」の赤字補填だろう。
 東京都の負担金の総額は、新型コロナの感染拡大で「無観客開催」となって、V5予算7202億円から約1000億円も減額され5965億円となり、409億円は楽々吸収された。










出典 Tokyo2020

 約450ページにわたる公式報告書は、「コロナ禍という困難の中、責務を果たした」と総括し、「マーケッティングを活用したオリンピック・パラリンピック・ムーブメントの推進」として、「スポンサーシッププログラムの推進」と「ライセンシング・プログラム」の推進を成果として挙げた。
 さらに「大会を支える確実な財務運営」として、「大会費用を含めた総費用の低減及び適正な調達手続き実施」も強調している。また大会が残したレガシーとして、「大会幹部らの発言でジェンダー平等に関する議論を活性化させた」との認識も示した。
 しかし、スポンサー選定を巡る贈収賄事件や大会運営入札を巡る組織的な談合事件が明るみに出て、組織委員会の総括は雲散霧消してしまった。
 組織委は今月末に解散し、残務処理を進める清算法人に移行する。清算対応費用として144億円を計上しており、決算で残った財産があれば都に戻される。

会計検査院 五輪経費は約1兆7000億円 前回から約2800億円増 開催経費の「算定不十分」と指摘
 2022年12月21日、会計検査院は東京2020の開催経費ついて、約1兆7000億円に上ったと発表した。大会組織委員会は6月に最終報告として開催経費は約1兆4238億円(組織委員会=6404億円、東京都=5965億円、国=1869億円)だったとしたが、検査院は開催経費として「算定すべき項目が不十分」として2803億円を上積みした。
 検査院が国負担分を対象に調べたところ、大会に向けた強化合宿などの選手強化費や選手にドーピングの違反事例などを伝える対策費など1837億円、国が組織委に派遣した職員の人件費43億円など計約2226億円の国費が含まれていなかったとした。また日本スポーツ振興センター(JSC)が支出した国立競技場や代々木競技場の整備費の一部や組織委や地方公共団体などの助成金、1026億円の内、576億円が大会経費に入っておらず、この財源はスポーツ振興くじ(toto)の売り上げで、検査院は実質的な国負担分と見なした。算定漏れの開催経費は計2803億円とした。
 この結果、国が負担した大会開催経費は114事業、3641億円(JSC支援額を含む)になり、これに組織委員会の6404億円、東京都の5965億円を加えると、大会開催経費の総額は、「1兆6989億円」(重複額48億円は減額調整)に上っったと指摘した。
 「1兆6989億円」は開催経費の「直接経費」のみで、会計検査院はこの他に、国はインフラ・道路整備経費や気象衛星打ち上げ、水素自動車普及対策などの「大会開催県連経費」が329事業、1兆3002億円あったと指摘している。さらに東京都は、無電柱化やバリアフリー対策、多言語化対策で6854億円(当初は8100億円)の「大会関連経費」を公表している。こうした「大会開催関連経費」も加えると東京五輪2020の開催経費は、「3兆6845億円」になり、夏季五輪史上最高額となるのが確実となった。
 「コンパクト五輪」を掲げた東京五輪2020は、開催経費に関しては完全に破綻したといっても良い。

 組織委、東京都と共に3者で開催経費を負担した国は大会前後を通じて自ら総経費を公表せず、会計検査院は「国際的なイベントの場合、国が経費全体を明らかにする仕組みを検討すべきだ」と指摘した。


東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組み状況等 会計検査院 2022年12月

 2017年、国会は検査院に対して、東京五輪2020開催に伴う国の取り組みや施策の状況を検査するよう要請し、検査院はこれまでに2回報告している。今回は大会開催後初めての報告で、かつ最終検査結果となる。
 会計検査院の1回目の報告は、2018年12月に行われ、国の東京五輪2020の大会開催経費支出は、約8011億円(2013年~2017年の5年間)と算定した。
 主な項目は、▽予測精度向上のための気象衛星打ち上げ、▽水素社会実現のための燃料電池車購入補助金、▽首都高速道の整備費、▽暑さ対策事業、▽被災地の復興と地方の活性化などである。さらに、▽オリンピックムーブメントの普及、▽メダル確保のための競技力強化や、▽日本の技術力発進、▽外国人旅行者の訪日促進、▽日本文化の魅力発進など、ありあらゆる事業が東京五輪2020関連経費として予算化された。

 会計検査院の2回目は、2019年12月に報告され、一回目より、約2600億円増えて、約340の事業、1兆600億円(2013年~2018年の6年間)とした。

 これに対して、2020年1月23日、東京五輪2020を所管する内閣官房大会推進本部は会計検査院に反論し、1兆600億円の内、国立競技場の建設費や選手の強化費用など2669億円は「大会関連経費」として認めるが、残りの7931億円は、「本来の行政目的の事業」などとして五輪開催とは関係ないとした。たとえば選手村と各競技会場を結ぶ環状2号線などの国道の整備には1772億円が支出されているが、大会開催開催経費にはあたらないとした。
 
 2021年1月22日、政府は「1年延期」された東京五輪大会に対する国の支出について、2022年度当初予算案までの総額が3959億円になったと発表した。新型コロナウイルス感染症対策費として809億などが追加された。「3959億円」は2013~2021年度予算の9年間の総額。
 「3959億円」の主な項目
▽選手の育成など競技力の強化関連の費用 約1299億円、
▽警備のための費用      約536億円、
▽国立競技場の整備に伴う費用 517億円、
▽パラリンピック交付金    379億円

 2022年6月に組織委員会が公表した最終報告では、国は、国立競技場の整備費=1240億円、コロナ感染対策費の国負担分=251億円、パラリンピック助成金=379億円など、計1869億円を「開催経費」負担額とした。
 しかし、会計検査院の最終報告では、国の「開催経費」負担額は「3641億円」と算定し、日本スポーツ振興センター(JSC)の大会支援額=2026億円を含めると約「4668億円」だったとした。
 さらに会計査院は、「大会開催経費」とは別に、「大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出するのが困難な事業等」を「大会関連経費」と定義し、その金額を計1兆3002億円と算出した。会計検査院が各省庁の予算項目を丹念に調べ上げて、東京五輪2020関連として計上している費目を積み上げた金額である。
 国の「開催経費=4668億円」と「大会関連経費」=1兆3002億円を合計すると、国の開催経費負担額の総計は、1兆7670億円に達することが明らかになった。
 検査院は各省庁の大会関連経費を集計した金額も項目ごとに公表した。例えば、▽大会の確実な成功に寄与するための「国際テロ情報収集ユニット」新設▽都や組織委などの検討会でまとめられた暑熱対策舗装整備▽大会における新型コロナウイルス対策に資する感染症対策▽競技会場周辺のトイレなどのバリアフリー化――。いずれも大会「開催経費」からは切り離されているが、大会運営に必須の経費に違いない。
 これにより、国、都、組織委が負担した「広義の大会経費」は「3兆6845億円」に上った。ついに「3兆円」を優に上回ったのである。
 国は2021年1月、五輪大会を担当する内閣官房オリパラ事務局が開催経費「3959億円」を公表したが、大会開催後は公表していない。検査院は「予算が総経費の見込み額を示したものでない上、国は大会後も総経費を取りまとめていない」と指摘。今後も国としての公表予定がないとし「国際的な大規模イベントで相当程度国が関与することが見込まれる場合は、国民の理解に資するよう十分な情報提供を行うべきだ」との所見を示した。

「五輪便乗」 大判振る舞いの五輪開催予算
 五輪開催経費を「青天井」にする膨張主義体質は、国や東京都に根深く根ざしている。
東京五輪2020を「錦の御旗」にして、予算獲得に奔走した各省庁の姿勢が目に浮かぶ。「錦の御旗」の振りかざすことで、「便乗予算」がまかり通った様子が透けて見える。本当に大会開催に必要な予算なのか厳しくチェックする姿勢に欠けていたのではないか、検証が必要と思われる。五輪開催経費の「青天井」体質からの脱皮が必須だろう。



開催経費 V1~V5 詳細情報 2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム 小池都知事の五輪改革
 


“もったいない” 迷走「3兆円」のレガシー! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」 2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


“もったいない” 迷走「3兆円」のレガシー! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」 小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


“もったいない” 迷走「3兆円」のレガシー! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」 海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


“もったいない” 迷走「3兆円」のレガシー! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」 東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


“もったいない” 迷走「3兆円」のレガシー! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」 五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)



2022年1月1日
Copyright (C) 2021 IMSSR

******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
Media-closeup Report 深層情報 Think before you trust Trueth and Justice
******************************************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 江の島セーリング会場 シラス漁 セーリング ウインドサーフィン

2023年04月25日 23時03分57秒 | 東京オリンピック
東京オリンピック 江の島セーリング会場 シラス漁に影響
ヨットの移設や津波対策に懸念
「準備は1年遅れている」 警告を受けた2020東京大会組織委 



2020東京大会のテストイベント第1弾
セーリングのワールドカップ(W杯)開催 はやくも開催時間を巡ってトラブルに

 9月11日、2020東京五輪のテスト大会の第1弾となるセーリングのワールドカップ(W杯)江の島大会の競技が神奈川県の相模湾で始まった。江の島は2020東京五輪大会のセーリング会場となるため、このプレイベントの開催で問題点を洗い出していくのがその目的だ。
 今回のセーリングのW杯にあたって、大会組織委は延べ200人の職員を派遣。輸送や警備など36分野に分かれ、主催のワールドセーリング(WS)などから、運営のノウハウを直接学んでいる。
 今回の大会の開催にあたっては、相模湾名物のシラスの漁場に配慮して、地元漁業者への影響をどうやって最小限に抑えるかが最大の課題だ。
 その結果、レース当日もシラス漁ができるよう、通常午前10時に設定することが多い競技開始時間を午後1時から5時までに遅らせることで実行員会は地元漁業者と合意した。
 コースは定置網を避けた六つを設定。その上で、漁業者がアクセスしやすいよう、漁港から漁場への漁船の走行ルートも確保した。地元漁協の協力を得て、英語のナレーション付きでレース地点付近の漁場の様子を説明する動画もつくられた。
 大会組織委の内藤拓也・地方会場調整担当部長は「コース設定に関しては、(シラス漁などに)十分に配慮した形になっているのではないか」と話す。今大会がうまくいけば、今回のコースが五輪本番でも使われる可能性は高くなる。
 しかし、早くも競技時間開始を巡って、地元漁業者とトラブルが発生した。
 午後1時から同5時の間に行うという合意、9月11日の初日は、一部のレースが午前11時ごろ開始された。地元漁業者の抗議を受け、実行委は、翌12日からは正午以降の開始とした。
 実行委は、事前に漁業団体と合意した開始時間をレース開始時間を決める団体「ワールドセーリング」に十分に説明できていなかったという。実行委の末木創造委員長は「一部のスタッフに業務が集中してしまった。大変申し訳ない」と語った。
 また神奈川県しらす船曳網漁業連絡協議会の杉山武会長は「漁業補償もない中で、譲歩し合って定めたルールではなかったのか。こんなことでは先が思いやられる」と語った。
 五輪大会中は、一定期間、漁ができない期間が発生する可能性もある。漁業者への営業補償が発生した場合、東京都が負担することになっているが、補償額やどこまでを対象とするかは未だに決まっていない。(参考 朝日新聞 産経新聞 9月11日/14日)









出典 World Saling Japan 2018




「誠実に疑問に答えを」 コーツIOC副会長
 2018年4月24日、2020東京五輪大会の準備状況をチェックするIOC調査チームの(委員長 コーツ国際オリンピック委員会(IOC)副会長)は、2020年東京大会組織員会に対し、開催準備の進捗状況と計画について、より誠実に質問に答えるように要請した。
 4月15日から20日、タイのバンコクで開かれた国際スポーツ連盟機構(GAISF)のスポーツ・アコード(Sport Accord)会議などで、複数の国際競技連盟(International Sports Federations IFs)が、2020東京大会の準備状況に不満を抱き、公然と批判した。
 これを受けて、IOC調査チームが来日し、4月23日24日の2日間に渡って2020東京大会の準備状況のチェックを行った。

 コーツ副会長は、準備作業は、大部分は順調に進んでいるが、2020東京大会組織員会は進行状況を完全に説明することを躊躇していると懸念を示した。
 その理由について、 コーツ副会長は、直接的で明快な表現をするオーストラリア人と、多くのポイントを留保する曖昧な表現をする日本人の文化的相違があるのではと述べたが、婉曲表現で日本の姿勢を批判した。
 2018年2月に開催された平昌冬季五輪が成功を収め、スポットライトが東京に移る中、大会準備に関して答えを得られない五輪関係者のいら立ちはさらに増すだろうという警告である。

柔道、セーリング、トライアスロンに批判
 国際オリンピック委員会(IOC)や国際競技連盟は、柔道とセーリング、トライアスロンの種目について、開催準備の遅れに懸念を表明している。国際柔道連盟は、2019年に開催される柔道競技のプレ大会の準備状況の遅れを指摘し、国際セーリング連盟は、江の島で開催されるセーリング競技について、地元漁業者との調整が進まず、コース決定が遅れていることに不満を示した。またトライアスロン競技連盟は東京湾の水質汚染問題について強い懸念が示された。


江の島ヨットハーバー センリング競技会場  出典 神奈川県


江の島ヨットハーバー 出典 2020東京大会組織委員会

シラス漁に影響 江の島セーリング
 セーリング競技については、バンコクで開かれた夏季五輪国際競技連盟連合(ASOIF)の総会で、、国際セーリング連盟は、「準備が1年遅れている」と指摘し、地元の漁業者との交渉が進まず、レース海面決定が遅れていることや津波対策や警備対策に懸念を持っているとした。
 コーツ副会長も、記者会見で、2020東京大会組織委員会に対し、地元の漁業者へ与える影響について懸念を表明したと付け加えた。

 2020東京大会で江の島で開催されるセーリング競技では、ディンギー5艇種(1人ないし2人乗りの小型艇)によるヨットとウインドサーフィンが行われる。海上に設置された3つのブイ(三角形のコース)を周回して、指示された周回方法や周回回数で走る競技で、得点とレースの終了順位で勝者を決まる。
 競技種目には、1人乗りのレーザー級、2人乗りの49er(フォーティーナイナー)級などがあり、1984年のロサンゼルス大会からは、ウインドサーフィン種目も採用された。
 2016リオデジャネイロと同様の10種目が行われることが決まっている。 

▼ 競技種目
 ・RS:X(男子/女子)
 ・レーザー級(男子)
 ・レーザーラジアル級(女子)
 ・フィン級(男子)
 ・470級(男子/女子)
 ・49er級(男子/女子)
 ・フォイリングナクラ17(混合)

 競技を開催する海面は、鎌倉市沖から葉山町沖の相模湾に、直径1852メートルと1574メートルの円形の5つのエリアの設定が計画されている。
 国際セーリング連盟は、レースの実施に当たってはブイを設置するので、水深が深いところではブイを固定しづらいため、水深 40 ㍍以下が望ましいとし、沖合に海面を設定すると選手の移動負担が大きいく、なるべく沿岸に近い浅瀬に設定することを求めている。
 一方この海域は、古くから湘南名物のシラス漁の好漁場として知られている。
 セーリング競技団体はレース海面をなるべく沿岸に近い海域を求めいるのに対し、漁業者はシラス漁への影響を懸念してなるべく沖合にしたいとして調整が継続されていて、未だにレース海面が決まっていない。
 シラス漁の操業海域は、5市1町の8漁業組合に独占的に認めている「共同漁業権」エリアが設定され、さらにその沖合にはどの漁協も操業できる海域が広がっている。
 シラス漁は、元旦から3月10日までは禁漁だが、五輪セーリング競技の公式練習や大会開催期間はシラス漁の漁期と重なり、漁業者への影響は必至である。
 さらに現状で計画されている競技エリア内には、定置網が2箇所設置されていて、定置網を撤去すると巨額の撤去費用や漁業補償が発生する。
 神奈川県ではこうした巨額の費用負担を避けるために、定置網の設置場所を競技エリアから外すことで調整をしたいとしてるが、未だに決着はしていない。
 漁業補償については、五輪期間中の漁業補償を支払う方針だが、ほぼ同じ海面で実施する見通しのテスト大会については、現段階では検討していない」しているが、未解決のままである。
 セーリング競技大会は、2020東京大会の前に、テストイベント(プレプレ大会、プレ大会)が、2018年9月と2019年と大会直前に合計3回の開催が予定されいる。テストイベントは本大会と同様程度の規模で開催される。
 レース海面の決定は漁業補償がからんで難航が予想され、セーリング開催準備は大きな難問を抱えている。


セーリング競技開催予定海域   出典 神奈川県

緊急課題 津波対策
 江の島の東端の海に突き出したエリアに、約5000人収容の観客席が設けられる。約2000~3000人とされている大会関係者も含めると1万人近い大勢の人が集まるだろう。
 海辺のイベントで懸念される災害は、津波である。近くには津波避難施設も少なく、「避難しやすい対岸などに観客席を移すべきだ」との声も出ている。
 神奈川県藤沢市が作成したハザードマップによると、相模湾から房総半島に至る相模トラフで大地震が発生した場合、五輪セーリング会場の江の島ヨットハーバーには8分後に4・5メートルの津波が来ると想定している。さらに「想定外をなくす」方針のもと新たに追加された予測では最大クラスで高さ11・5メートルの津波が来る可能性も指摘している。
 2017年10月には台風21号の影響による激しい風雨に高潮が重なり、高さ約6メートルの堤防を高波が乗り越えた。セーリング会場となる一帯が冠水して、競技用の大型コンテナが流されて横倒しになるなどの被害が出ている
 江の島セーリング会場の緊急課題は、短時間避難可能な避難施設の確保など津波災害対策である。
 しかし現状では、津波や高波の際、すぐ逃げられる場所は江の島ヨットハウスの隣の屋外展望台(400人収容可能)だけといわれている。
 江の島には、標高約60メートルの小山や高台もあるが、避難ルートは、飲食店や土産物店が並ぶ狭い参道など住宅地を抜ける急な上り坂が指定されているが、1万人近い群衆が短時間で避難できるかどうか懸念が多い。
 観客席を対岸に移したり、セーリング会場内に新たな津波避難施設を建設したりする安全対策が求められるのは当然だろう。 
 国際セーリング連盟も津波対策について懸念を表明してる。

難題 江の島ヨットハーバー(湘南港)を利用している約1000艇の移動
 江の島ヨットハーバー(湘南港)を利用している約200艇のクルーザーや約800艇のディンギーは、 2020東京大会開催時だけでなく、テストイベント開催時には移動させなければならい。
 2012ロンドン大会では、参加国56カ国、競技艇273艇、参加選手380人だったが、2020東京大会では、参加国同数56カ国程度、競技艇300艇、参加選手400人を想定している。
 さらに、参加チームには、コーチやスタッフが2000人から3000人参加し、合わせて40フィートコンテナが約100個、運営艇が約300艇持ち込まれる。
 神奈川県では、競技艇300艇は現在のディンギー保管エリア、運営艇300艇は現在のクルーザー係留エリアを使用するとしている。またコンテナリアは駐車場エリアや民間事業者が保有する敷地を利用することで調整しているとしている。
 現在利用している約1000艇や機材置き場を、およそ2年間に渡って移動させることが必須となるが、これが難題だ。
 神奈川県ではクルーザー等は、県内のハーバーを移動候補地として検討し、ディンギーは、県が管理する港湾等の活用について、利便性やコストを精査しながら、検討するとしている。
 利用者にとっては、移動後の係留費用も重要だ。神奈川県では、艇を他の場所に保管する際にどの様な費用が発生するか調査して今後検討していくとしている。
 また、ヨットのメンテナンスなどヨットハーバー関連の仕事に従事している人たちへの影響も深刻だ。 2年近く船が無くなると関連企業は閉鎖しなけばないない事態も起きる懸念がある。
 観光地江の島全体に与える影響もある。大会準備の工事やヨットの移動の影響で江の島自体が“閑散”となる懸念も生まれる。ヨットハーバーを訪れる人は減少し、周辺の飲食店や土産物店への影響も懸念される。
 テストイベントが開催される期間は大会関係者で賑わうだろうが、それは2カ月あまり、残りの2年間余りはは“閑散”とすると思われる。こうした状態が続いたら、なんのために江の島でセーリング競技を開催するのか批判が生れる可能性もある。
 2018年9月6日から16日には、本大会さながらのテストイベント(プレプレ大会)が始まる。
 江の島ヨットハーバーでセーリング競技を開催する準備に残された時間はわずかである。


セーリング会場整備計画   出典 神奈川県


全体の想定スケジュール   出典 神奈川県

コーツ副会長から警告された組織員会 
 「あなたたには、率直に質問に答えなければならい」、記者会見でコーツ副会長は述べたが、隣に座った元首相の森喜朗委員長と武藤敏郎事務総長はまったく無表情だった。
「すべてがあなたたちに原因があるとは思わないが、疑念はますます増えるだろう」とコーツ副会長は付け加えた。
 森組織委会長は、コート副会長から個人的に受けたドバイスについて質問された。
 「沢山の案件があった」とし、「いくつかの具体的なアドバイスがあり、1つや2つのポイントだけ取り上げることはできない。 多くのポイントがあった」と内容を明らかにすることを避けた。
 これまでに開催されたいくつかの五輪大会とは異なり、東京大会は、はるかに効率的にスケジュール通りに開催準備を行われることが期待されていた。  
 しかし、東京大会の主催者は、いくつかのスポーツ連盟やオリンピック委員会が満足できる大会準備状況について、なぜか説明することを躊躇しているとIOC調査チームから警告されたのである。

 先週、世界のセーリング、柔道、トライアスロンの国際競技連盟から東京大会の準備状況に懸念を示す声が相次いだ。
 世界セーリング連盟のアンディ・ハント(Andy Hunt)会長からは、1年後に迫った大会を控え、セーリング会場となる海域での漁船の問題を指摘した。
 IOCのクリストファー・ダビ氏は「東京大会の開催準備は進んでいるとは思うが、最終決定するまでは公表しない。 それが問題だ」と述べた。

 コーツ副会長は、今年11月に、東京で開催される世界206のオリンピック国内委員会が集まる会合で、東京大会の主催者が質問攻めにあう可能性があると警告した。
 「どんな質問にも答える明快に準備ができていなければならない。彼らは答えが欲しいと思っている。それができなければ信頼を失う危険がある」と述べた。
 そして、「彼らは選手にとって最良の競技ができる環境を知りたがっている」と語った。 「今、私たちはすべての細かな競技環境がどうなるのかに関心がある。こうした細かな競技環境を高めることが重要なのである」
 東京大会まで2年余り、五輪関係者の関心は、競技場や宿泊施設、輸送、競技や選手に影響を及ぼすあらゆる分野で、極めて現実的で緊急に解決しなければならない段階に突入するのである。

混迷必至、北朝鮮五輪参加問題 
 北朝鮮の2020東京五輪参加問題も取り上げられた。
森組織委会長は、最終的に東京オリンピックで北朝鮮代表団を迎えることになることを懸念していると述べた。 日本は、北朝鮮による拉致問題を抱えていて、未だに解決されてと問題を提起した。
 日本は北朝鮮に「裏切られた」とし、「拉致事件は平和な時代に起こった。そして日本人が拉致された」と述べた。
さらに「日本は朝鮮半島に近く、北朝鮮は隣国である。 そして我々は核兵器の脅威にさらされている。我々はこうした厳しい状況の下で生きていかなければならない」と語った。
 コーツ副会長は、日本は東京オリンピックで北朝鮮の五輪選手団を受け入れることがオリンピック憲章の下で義務づけられていると基本的な姿勢を明らかにした。
 しかし、「五輪開催国の政府が、五輪選手団以外の政治指導者や関係者の受け入れを制限する権利がないと言っているわけではない」とも述べた。
 2020東京大会は、北朝鮮の五輪参加という極めて難解な問題を突き付けられている。





東京オリンピック ボランティア タダ働き やりがい搾取 動員 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園


北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌 
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
主導権争い激化 2020年東京五輪大会 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
“選手村は一つ”、“選手村はオリンピックの魂” の矛盾 どこへ行った五輪改革
唖然とする“五輪専門家”の無責任な発言 膨れ上がった施設整備費
アクアティクスセンターは規模縮小で建設を検討か? 国際水泳連盟・小池都知事会談
東京オリンピック 海の森水上競技場 Time Line Media Close-up Report
相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市

有働由美子 news zero批判 ニュースになっていないnews zero ニュースキャスター失格 あさイチの成功




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)





2018年2月11日
Copyright (C) 2018 IMSSR




******************************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
******************************************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック ライフサイクルコスト 維持管理費 老朽化対策 新国立競技場 海の森水上競技場 

2023年04月25日 21時21分21秒 | 東京オリンピック


東京オリンピック 巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか?


 2016年10月5日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の完成後50年間の維持管理費が年間約24億円、総額約1200億円との試算を明らかにした。新国立競技場の建設費は約1645億円、50年間の維持管理費はその額に並ぶほどの巨額に達するのである。
 新国立競技場の工事を請け負っている大成建設などの共同企業体(JV)が現時点で大まかな数字を算出した。警備、清掃、水道光熱費など日常的なかかる費用と、定期的に行う大規模改修費を加えて算出した。
 JSCによると、昨年白紙撤回されたザハ・ハディド氏デザインの旧計画では日常的な維持管理費は年間約40億円で、これ以外に50年間の大規模改修費が約1046億円との試算をしていた。取り壊された旧国立競技場の年間約7億~8億円だった。
 新国立競技場など競技場施設を建設すると、初期費用の建設費だけでなく、完成後50年~60以上に渡って維持管理費が発生する。さらに5年、10年ごとに施設のリニューアルや大規模修繕を行わないと施設の環境は維持できないのは常識である。
 最近は、国や地方自治体では、道路や橋、建物などの社会資本のインフラ投資を行う際は、初期投資経費、完成後の維持管理費、修繕費、更新費、大規模改修費、そして廃棄処理費なども加えたライフサイクルコストという概念を導入して、インフラ投資の妥当性を検証する材料にしている。
 小池都知事も海の森水上競技場競技場を見直すにあたって、「恒久施設」案では328億円の建設費まで削減可能としたが、建設後の修繕費が65年間で計約294億円が必要となると試算した。修繕費に年間の維持管理費3億2500万円とされる維持管理費の65年分、計約210億円を加えると、65年間のライフサイクルコストは約500億円と大幅に建設費を超えるだろう。その結果、小池都知事は「仮設レベル」で298億円で建設する案を選択した。 、「恒久施設」案の328億円と「仮設レベル」の298億円を比較すると、約40億円程度と差はわずかだが、ライフサイクルコストで比較すると巨額の差が生まれるのである。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に確実に残すことになることを忘れてはならない。
 キーワードは「持続可能な開発」(Sustainable Development)である。



小池都知事と上山特別顧問 4者協議トップ級会合 11月29日 




脚光を浴びているライフサイクルマネジメント(LCM)
 2012年12月2日、中央自動車道上り線笹子トンネルの山梨県大月市側出口から約2キロメートルの地点の天井板が突然崩落し、通行車が次々と下敷きになり、9名が犠牲になるという大惨事が起きた。
天井板は約110mに渡ってV字型に崩落し、重さ約1.2tの天井板が通行車に直撃した。
この事故で、老朽化した社会資本の維持管理に係る問題点が浮き彫りとなった。
道路、橋、港湾、上下水道、公営住宅、病院、学校などの社会資本は、建設後50年で“耐用年数”を迎えるとされている。 高度成長期以降に整備、建設された膨大な量の社会資本が2020年までに、一斉に「50年」を迎える。

[建設後50年以上経過する施設の割合の例]
道路橋:  H24年3月 約16%   10年後 約40%   20年後 約65%
河川施設: H24年3月 約18%   10年後 約30%   20年後 約45%
トンネル: H24年3月 約24%   10年後 約40%   20年後 約62%
港湾岸壁: H24年3月 約7%   10年後 約29%   20年後 約56%


(国土交通省 「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」)

 国土交通省では、所管する社会資本を対象に2020年までの維持管理・更新費の推計を行った。
 それによると、2011年度から2020年度までの50年間に必要な更新費は約「190兆円」で、社会資本への投資水準を横ばいと過程すると2037年の時点で維持管理・更新費すら賄えなくなる可能性があるとしている。
(国土交通省 平成23年国土交通省白書)

 一方、財務省では、財政の視点で、社会資本の維持管理問題に取り組んでいる。
 これからの社会資本整備のあり方について、「厳しさを増す財政事情の下、社会資本の整備水準の向上や今後の急速な人口減少を踏まえれば、今後の社会資本整備に際しては、一層の重点化を図るとともに、計画的かつ効率的に進める必要がある」とし、「費用の増加が見込まれる社会資本の維持管理・更新に当たっては、それぞれの管理主体が人口減少やコンパクトシティ化等を見据え、インフラ長寿命化計画(行動計画)等を策定し、これに基づき効率的に対応していかなければならない」とした。
さらに新規投資については、「我が国にとって必要とされる国際競争力強化や防災対策であっても、費用対効果を厳しく見極め、厳選する必要がある」としている。



(社会資本整備を巡る現状と課題 財務省主計局 平成26年10月20日)

 老朽化が加速する膨大な量の社会資本をどうやって維持管理するのか、更新工事の体制はどうするのか、厳しさを増す財政や加速する少子・高齢化社会を抱える中で、その悩みは深刻だ。社会資本の整備には、後年度負担も念頭に置いた戦略的なマネージメントが必須になっている。
 その中で生まれた概念がライフサイクルマネイジメント(LCM)である。


ライフサイクルマネジメント【LCM:Life Cycle Management】
 ファシリティの企画段階から、設計・建設・運営そして解体までのファシリティの生涯に着目して計画、管理を行なう考え方。ファシリティに依存する効用の最大化、ライフサイクルコスト(LCC)の最適化、資源やエネルギー消費・環境負荷の最小化、障害や災害のリスクの最小化を目標とする。例えば、施設を建替えずに改修しながら使用し続ければ、建替え時の解体費用と新設費用が節約できることに加え、それらに係る二酸化炭素排出量も大きく削減可能で、地球温暖化に大きく貢献することになる。
このような観点からも、施設の生涯にわたる効用・損失を最大化するためには、施設の長寿命化は不可欠であり、大幅な用途の変更が必要になる場合もある。

(参照 日本ファシリティマネジメント推進協会:FMガイドブック)

官公庁の施設の“ライフサイクルコスト”(LCC)試算
 官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
 「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
 新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
 この目論見で、新国立競技場の今後50年間の長期修繕費を試算してみると、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が見込まれているのである。


(参考 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修,財団法人建築保全センター編集・発行,財団法人経済調査会発行『建築物のライフサイクルコスト』[平成17年])

ライフサイクル・マネージメント
 建築保全センターは「建物のロングライフ化」のために、定期的に保全工事を的確に行う必要性を強調している。時間の経過と共に、建物の様々な性能・機能が劣化し、その維持のために保守工事や大規模修理が必要となるほか、時代と共に変わる要求水準を満たすために大規模更新工事が求められている。
 

(出典 一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント)

 また建築保全センターでは、標準的な建物の「ライフサイクルコスト」のシミュレーションも公表している。
 「鉄筋コンクリート造 地下1階地上5階建」のビルで、耐用年数を「60年」と想定した。
 「企画設計コスト」を0.6億円、「建設コスト」を14.2億円、合わせて14.8億円を初期費用とし、「点検・保守等のコスト」、「修繕・改善コスト」、「光熱水等のコスト」、「他運用管理コスト」、「廃棄処分コスト」を試算した。
 その結果、「ライフサイクルコスト」は、初期費用も含めて86.9億円になるとした。初期費用の5.87倍に上る経費である。

 

(出典 一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント)

鹿島建設の“ライフサイクルコスト”試算
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
 JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして国に財源確保を要請している。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担が次世代に着実に残ることになる。



(運営管理とLCC 鹿島建設)

<">新国立競技場の「ライフ・サイクル・コスト」(LCC) 「1兆円超」 建築家試算
 建築エコノミストの森山高至氏が新国立競技場について「ライフ・サイクル・コスト」(LCC)を試算したところ、1兆円を超えることして、「財政的に恐ろしい未来が待ち受けている」と警告している。
森山氏の試算によると、新国立の整備費を2520億円とすると、建設から解体まで1兆80億~1兆2600億円としている。五輪後に設置するとされる開閉式屋根の費用約300億円、資材施工費の高騰分を20%とすると、さらに増えて「天文学的な数字」となるという。解体までの50年間の物価上昇等を見込むと、「後世の国民を苦しめることになるだろう」と森山氏は指摘した。

(出典 2015年7月10日 スポーツ報知)

大規模改修費「1046億円」では維持できない?
  社会資本としえ整備される建築物は、条件によって差はあるが、概ね初期建設費用の最低でも同額から1.5倍の長期修繕費が必要とされ、更新費や修繕費に加えて、維持管理費も含めるた“ライフサイクルコスト”は、4倍以上とされている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックで整備する競技場施設は、新国立競技場の1645億円だけはなく、各競技場の施設の建設や整備で2241億円を拠出する計画だ。今後50年間の負担は、約3000億円以上、“ライフサイクルコスト”で見ると、約1兆5000億円程度という巨額の負担になる。
 一方で、道路、橋、港湾、上下水道、公営住宅、病院、学校などの高度成長期以降に整備、建設された膨大な量の社会資本が2020年までに、一斉に更新時期の「50年」を迎え、2020年までの維持管理・更新費は約「190兆円」とされている。すでに巨額の負担が国の財政にのしかかっている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催期間は、オリンピックで17日(サッカーの予選は除く)、パラリンピックで13日、その後、50年以上使い続ける“レガシー”(未来への遺産)にしなければ意味がない。
 一過性でなく、確実に後年度負担が生まれる社会資本の新規投資には、それなりの“覚悟”が必要である。
 「持続可能な開発」(Sustainable Development)を忘れてはならない。
 次世代の人たちに“胸を張って”「これが東京五輪の“レガシー”(未来への遺産)だ」と自信を持って言える計画にしたいと思うのは筆者だけであろうか?




「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
“選手村は一つ”、“選手村はオリンピックの魂” の矛盾 どこへ行った五輪改革
相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市



新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに






国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2015年7月29日
Copyright (C) 2015 IMSSR




******************************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
******************************************************


コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 開催費用 小池都知事 開催経費 負の遺産 負のレガシー

2023年03月25日 16時05分54秒 | 東京オリンピック
“もったいない”
五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告


大会経費総額1兆6440億円  V5公表
 2020年12月22日、東京2020大会組織委員会と東京都は、新型コロナウイルスの影響で来夏に延期された大会の開催経費を総額1兆6440億円とする予算計画第5版、「V5」を公表した。昨年末公表した1兆3500億円に、延期に伴って新たに必要となった2940億円を加えたものである。
 支出については、会場整備費では、会場使用料や仮設設備の一時撤去・再設置など「仮設等」に関する費用の増加額が最も多く、730億円増、計3890億円となった。
 大会運営面では選手村の維持管理や競技用備品の保管など「オペレーション」費用が540億円増で計1930億円、事務局の人件費など管理・広報費が190億円増、輸送費が130億円増となっている。
 今回新たに計上されたコロナ対策費は960億円で、東京都が400億円、国が560億円を負担することになった。
 一方、収入増は910億円を見込み、その内訳は増収見込みの760億円と収支調整額の150億円。増収見込みの760億円のうち、500億円は不測の事態に備えて加入していた損害保険で、大会スポンサーの追加協賛金や寄付金などが260億円である。収支調整額の150億円は、組織委員会が賄いきれない費用について東京都が負担するもので、すでに組織委員会と東京都で合意されている。
 大会経費における実際の負担額は組織委が7060億円、都が7170億円、国が2210億円に膨らんだ。
 チケット収入については、コロナ感染対策を踏まえて決定される観客数の上限が来春まで決まらないことから、前回と同じ900億円で据え置いた。
 組織委によると、国際オリンピック委員会(IOC)の負担金は850億円で変わらないが、IOCがスポンサーの追加協賛金に対するロイヤリティーを放棄した分は組織委員会収入の760億円の増収見込みの中に計算されている。また国際オリンピック委員会(IOC)はマラソン・競歩の札幌移転に伴う経費として20億円弱を負担するが、これもV5には織り込み済としている。
 また焦点の開閉式については、大会延期に伴い、電通と締結している開閉会式の制作など業務委託契約の期間延長も承認。式典は簡素化を図りながらもコロナ禍を踏まえたメッセージを演出内容に反映するする内容に変わるが、延期に伴う人件費や調達済資材の保管料などの経費増や演出内容の見直しに伴う経費増で、予算の上限額を35億円増の165億円に引き上げた。開閉会式の予算増額は今回で2度目、招致時では91億円を見込んだが、演出内容の具体化に伴い昨年2月に130億円まで引き上げた。2012年ロンドン大会の開閉会式の経費は160億円といわれ、東京2020大会はこれを上回る史上最高額となる。
 1年延期に伴う開催経費増は約3000億円、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収まる気配がない中で、さらに巨額の資金を投入することに対して、都民や国民の納得が得られるかどうか疑念が大きい。「人類がウイルスに打ち勝った証し」を掲げるだけでは最早、前には進めない。開催を可能にする条件として競技数や参加選手数の削減、開閉会式な大胆な簡素化など大会規模の縮小が必須だろう。まだ時間はある。










出典 TOKYO2020

五輪追加経費2940億円で合意 都が1200億円、国は710億円、組織委は1030億円を負担
 2020年12月4日、1年延期された東京五輪・パラリンピックの追加経費について、大会組織委員会の森喜朗会長、東京都の小池百合子知事、橋本五輪相が4日、都内で会談し、総額2940億円とすることで合意した。都が1200億円、組織委が1030億円、国が710億円を負担する。これにより、東京大会の開催経費は、昨年末の試算から22%増の1兆6440億円となった。
 追加経費は、延期に伴う会場費や組織委職員の人件費など大会開催経費、1710億円と新型コロナウイルス対策費の960億円のあわせて2940億円。
 大会開催経費の追加経費1710億円の分担をめぐっては、延期前に3者が合意していた費用分担の考え方を基本としたうえで、組織委員会が収入を増やしてもなお足らない約150億円については東京都が肩代わりをして補填するとし、東京都は800億円を負担することになった。国はパラリンピックの経費など150億円を拠出する。
 一方、組織委は、大会中止に備えて掛けていた損害保険の保険金やスポンサーからの追加の協賛金を原資とした760億円に、不慮の事態に備えてすでに計上していた予備費270億円を加えた1030億円を負担する。

 コロナ対策費については、国と都が負担することし、国は選手の検査体制の整備にかかる費用を全額負担し、残り対策費については国と都が折半することで一致した。負担額は国が560億円、都が400億円、合計960億円を支出する。
 選手の検査体制の整備や組織委員会に設置する「感染症対策センター」などの経費は、大会の感染症対策の中心的な機能を果たすことから国が全額負担することになった。
 さらに、国は空港の検査などの水際対策やホストタウンへの支援を、560億円とは別に、各省庁で予算化するとしている。
 結局、国は延期費用の2割超の計710億円を負担することになり、関係者は「期待以上に国が出してくれる。納得できる額だ」とした。
 国が負担増に踏み切った背景には、大会開催後、外国からの観光客の受け入れを再開し、経済再生につなげたいという思惑があるという。
 政府関係者は「延期経費を巡って都と争えば、開催の機運そのものがしぼみかねない。迅速に合意する必要があった」と語り、大会開催への意気込みを示した。

 1030億円を負担する組織委は、すでに予算化されている予備費、270億円や、延期に伴う保険金、追加協賛金などで賄う。
 保険金については、大会が中止になった場合に備え加入していた限度額500億円が、保険会社と協議した結果、延期に要する費用として支払われることになった。
 スポンサー収入については、大会の延期が決まったあとから、追加協賛金の要請を行い、一定の追加収入は見込めることになったという。
 また、組織委員会が契約上、IOC=国際オリンピック委員会に支払うことになっているスポンサーからの協賛金の7.5%のロイヤリティが、3日、バッハ会長と協議した結果、追加協賛金については免除となったことも貢献している。
 しかし、組織委員会の収入の柱である追加協賛金について、スポンサーの協力が得られて十分に集められるかを懸念が大きく、また900億円を見込んでいるチケット収入がコロナ対応で先行きが不透明で、コロナ禍で財政状況が悪化にした東京都のこれ以上の支援も難しく、組織委員会の苦境は続く。
 今回の合意を受けて、組織委員会では12月末に全体の開催費予算、V5を公表するとしている。


出典 TOKYO2020

五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)



検証 「1年延期」 東京五輪大会 新型コロナウイルス感染拡大 破綻「3兆円のレガシー」


竣工した国立競技場 筆者撮影




1兆3500億円を維持 組織委予算 V4
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。

 一方、2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費=約8100億円や組織委員会経費=1兆3500億円を加えると、「五輪開催経費」は優に「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。


出典 2020東京五輪大会組織委員会


五輪関連支出、1兆600億円 会計検査院指摘 五輪開催経費3兆円超へ

 2019年12月4日、会計検査院は2020年東京五輪・パラリンピックの関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめ、国会に提出した。この中には政府が関連性が低いなどとして、五輪関連予算に計上していない事業も多数含まれている。検査院は、国民の理解を得るためには、「業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表に努めるべき」とし、「大会終了後のレガシーの創出に努めること」と指摘した。

 今回は二回目の報告で、2018年10月に、会計検査院は政府の2020東京五輪大会についての「取組状況報告」に記載された286事業を調査して初めて「五輪関連経費」の調査結果を明らかにして、2017年度までの5年間に国は約8011億円を支出したと指摘している。しかし、大会組織委員会が公表したV3予算では国の負担額は約1500億円、その乖離が問題になった。

 今回、会計検査院が指摘した大会関連支出額は、前回指摘した8011億円から2018年度の1年間で約2580億円増え、約1兆600億円になったとした。
 大会組織員会では、2018年12月、総額1兆3500億円のV3予算を明らかにしている。それによると、大会組織委員会6000億円、東京都6000億円、国1500億円とし、1兆3500億円とは別枠で予備費を最大3000億円とした。予備費も含めると最大で1兆6500億円に達する。
 これに対して、東京都は、V3予算の「大会開催費」とは別に「五輪開催関連経費」として約8100億円を支出することを明らかにしている。
 これらを合計すると、すでに「五輪関連経費」の総額は3兆5200億円となり、「約3兆円」を優に上回ることが明らかになった。

 これに対して、五輪大会の運営を所管する内閣官房大会推進本部は会計検査院から指摘された8011億円について、大会への関連度を3段階で分類し、Aは「大会に特に資する」(約1725億円)、Bは「大会に直接資する金額を算出することが困難」(約5461億円)、Cは「大会との関連性が低い」(約826億円)と仕分けし、「五輪関連経費」はAの約1725億円だけだと反論し、残りの「B・C分類」は本来の行政目的の事業だとして、五輪関連経費とは関係ないとした。
 その後2019年1月、内閣官房大会推進本部は、新たに約1380億円を「五輪関連経費」と認め、新国立競技場の整備費など約1500億円を加えた約2880億円が国の「五輪関連経費」の範疇だとした。
 しかしそれにしても会計検査院が指摘した1兆600億円との隔たりは大きい。

 1兆600億円の内訳は、約7900億円が「大会の準備や運営経費」として、セキュリティー対策やアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れ、暑さ対策・環境対策、メダル獲得にむけた競技力強化などの経費で占められている。この内、暑さ対策・環境対策が最も多く、2779億円、続いてアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れが2081億円となっている。
 2018年度はサイバーセキュリティー対策やテロ対策、大会運営のセキュリティ対策費の支出が大幅に増え、2017年度の倍の約148億円に上った。
 また今回も公表されていない経費が明らかになった。警察庁が全国から動員する警察官の待機施設費用として約132億円が関連予算として公表していなかったと指摘した。
 さらに会計検査院は大会後のレガシー(遺産)を見据えた「大会を通じた新しい日本の創造」の支出、159事業、約2695億円を「五輪関連経費」とした。
 被災地の復興・地域の活性化、日本の技術力の発信、ICT化や水素エネルギー、観光振興や和食・和の文化発信強化、クールジャパン推進経費などが含まれている。
 こうした支出はいずれも政府は「五輪関連経費」として認めていないが、政府予算の中の位置づけとしては「五輪関連予算」として予算化されているのである。
 問題は、「五輪便乗」予算になっていないかの検証だろう。東日本大震災復興予算の使い方でも「便乗」支出が問題になった。
 本当に次世代のレガシーになる支出なのか、「五輪便乗」の無駄遣いなのかしっかり見極める必要がある。

 その他に国会に報告する五輪関連施策に記載されていないなどの理由で非公表とされた支出も計207億円あったという。検査院はオリパラ事務局を設置している内閣官房に対し、各府省から情報を集約、業務内容や経費を把握して公表するよう求めた。
 内閣官房は「指摘は五輪との関連性が低いものまで一律に集計したものと受け止めている。大会に特に資する事業についてはしっかりと整理した上で分類を公表していきたい」としている。






出典 会計検査院



「レガシー経費」は「五輪開催経費」
 国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市に対して、単に競技大会を開催し成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求め、開催都市に対して、レガシー(Legacy)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けている。
 五輪大会は、一過性のイベントではなく、持続可能なレガシー(Legacy)を残さなければならないことが開催地に義務付けられていることを忘れてはならない。
 レガシーを実現する経費、「レガシー経費」は、開催都市に課せられた「五輪開催経費」とするのが当然の帰結だ
 政府は「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(Bカテゴリー)は「五輪開催経費」から除外したが、事業内容を見るとほとんどが「レガシー経費」に入ることが明らかだ。
 気象衛星の打ち上げ関連費用も首都高速などの道路整備費も水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費も、ICT化促進や先端ロボット、自動走行技術開発、外国人旅行者の訪日促進事業、日本文化の魅力発信、アスリート強化費、暑さ対策、バリアフリー対策、被災地の復興・地域活性化事業、すべて2020東京大会のレガシーとして次世代に残すための施策で、明らかに「レガシー予算」、「五輪開催予算」の範疇だろう。被災地関連予算も当然だ。2020東京五輪大会は「復興五輪」を掲げているのである。
 一方で新国立競技場は「大会の準備、運営に特に資する事業」に分類し、「五輪開催経費」だとしている。しかし、国立競技場は大会開催時は、開会式、閉会式、陸上競技などの会場として使用されるが、その期間はわずか2週間ほどである。ところが新国立競技場は大会開催後、50年、100年、都心中心部の「スポーツの聖地」にする「レガシー」として整備するのではないか。 
 国の「五輪開催経費」仕分けはまったく整合性に欠け、開催経費を抑えるためにのご都合主義で分類をしたとしか思えない。五輪大会への関与の濃淡で恣意的に判断をしている。「レガシー経費」をまったく理解していない姿勢には唖然とする。
 通常の予算では通りにくい事業を、五輪を「錦の御旗」にして「五輪開催経費」として予算を通し、膨れ上がる開催経費に批判が出ると、その事業は五輪関連ではなく一般の行政経費だとする国の省庁の姿勢には強い不信感を抱く。これでは五輪開催経費「隠し」と言われても反論できないだろう。
 2020東京大会のレガシーにする自信がある事業は、正々堂々と「五輪開催経費」として国民に明らかにすべきだ。その事業が妥当かどうかは国民が判断すれば良い。
 東京都は、「五輪開催経費」6000億円のほかに、「大会に関連する経費」として、バリアフリー化や多言語化、ボランティアの育成、「大会の成功を支える経費」として無電柱化などの都市インフラ整備や観光振興などの経費、「8100億円」を支出することをすでに明らかにしている。国の姿勢に比べてはるかに明快である。過剰な無駄遣いなのか、次世代に残るレガシー経費なのか、判断は都民に任せれば良い。

 「3兆円」、かつて都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用の総額だ。今回の会計検査院の指摘で、やっぱり「3兆円」か、というのが筆者の実感だ。いまだに「五輪開催経費」の“青天井体質”に歯止めがかからない。

肥大化批判に窮地に立つIOC
 巨額に膨らんだ「東京五輪開催経費」は、オリンピックの肥大化を懸念する国際オリンピック委員会(IOC)からも再三に渡って削減を求められている。
膨張する五輪開催経費は、国際世論から肥大化批判を浴び、五輪大会の存続を揺るがす危機感が生まれている。
巨大な負担に耐え切れず、五輪大会の開催都市に手を上げる都市が激減しているのである。2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。
2014年、IOCはアジェンダ2000を策定し、五輪改革の柱に五輪大会のスリム化を掲げた。そして、2020東京五輪大会をアジェンダ2000の下で開催する最初の大会として位置付けた。
 「東京五輪開催経費」問題でも、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。「開催経費3兆円超」とされては、IOCは面目丸潰れ、国際世論から批判を浴びるのは必須だろう。
 こうした状況の中で、「五輪開催経費」を極力少なく見せようとするIOCや大会組織委員会の思惑が見え隠れする。
 その結果、「五輪経費隠し」と思われるような予算作成が行われているという深い疑念が湧く。
 V3「1兆3500億円」は、IOCも大会組織委員会も死守しなければならい数字で、会計検査院の国の支出「1兆600億円」の指摘は到底受け入れることはできない。
 「五輪開催経費」とは、一体なになのか真摯に議論する姿勢が、IOCや大会組織委員会、国にまったく見られないのは極めて残念である。

どこへ行った「コンパクト五輪」
 筆者は、五輪を開催するためのインフラ整備も、本当に必要で、大会後のレガシー(遺産)に繋がるなら、正々堂々と「五輪開催経費」として計上して、投資すべきだと考える。
 1964東京五輪大会の際の東海道新幹線や首都高速道路にように次の世代のレガシー(遺産)になる自信があるなら胸を張って巨額な資金を投資して整備をすれば良い。問題は、次世代の負担になる負のレガシー(負の遺産)になる懸念がないかである。また「五輪便乗」支出や過剰支出などの無駄遣いの監視も必須だろう。そのためにも「五輪開催経費」は、大会への関連度合いの濃淡にかかわらず、国民に明らかにしなければならい。
 2020東京五輪大会は招致の段階から、「世界一コンパクトな大会」の理念を掲げていた。大会の開催運準備が進む中で、開催経費はあっという間に、大会組織員会が公表する額だけでも1兆3500億円、関連経費も加えると3兆円を超えることが明らかになった。
 新国立競技場の建設費が3000億円を超えて、白紙撤回に追い込まれるという汚点を残したことは記憶に新しい。「錦の御旗」、東京五輪大会を掲げたプロジェクトの予算管理は往々にして甘くなる懸念が大きく、それだけに経費の透明性が求められる。
 2020年度の予算編成が本格化するが、まだまだ明るみに出ていない「五輪開催経費」が次々に浮上するに違いない。全国の警察官などを動員する史上最高規模の警備費やサイバーセキュリティー経費などは千億円台になると思われる。さらに30億円から最大100億円に膨れ上がるとされている暑さ対策費や交通対策費も加わる。一方、7道県、14の都外競技場の仮設費500億円は計上されているが350億円の警備費や輸送費(五輪宝くじ収益充当)、地方自治体が負担する経費は計上されていない。マラソン札幌開催経費もこれからだ。最早、「3兆円」どころか最大「4兆円」も視野に入っている。
 「コンパクト五輪」の理念は一体どこへ行ったのか。



東京都 五輪関連経費 8100億円計上
 2018年1月、東京都は新たに約8100億円を、「大会関連経費」として計上すると発表した。これまで公表していた「大会経費」の1兆3500億円、これで五輪開催経費は総額で約2兆1600億円に達することが明らかになった。
 「大会関連経費」の内訳は、バリアフリー化、や多言語化、各種ボランティアの育成・活⽤、教育・⽂化プログラムなどや都市インフラの整備(無電柱化等)、観光振興、東京・日本の魅力発信などである。
 問題は、膨張した五輪開催経費を削減するためのこれまでの東京都、国、組織委員会の取り組みが一瞬にして消え去ったことである。「コンパクト五輪」の約束は一体、どこにいったのだろうか。
 未だに明らかにされていない国の五輪開催経費も含めると3兆円は優に超えることは必至だろう。
 依然として五輪開催経費の「青天井体質」に歯止めがかからない。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

五輪開催経費(V3) 1兆3500億円維持 圧縮はできず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 2017年5月、IOCの調整委員会のコーツ委員長は10億ドル(約1100億円)の圧縮し、総額を1兆3000億円以下にすることを求めたが、これに対し大会組織委の武藤敏郎事務総長はV3ではさらに削減に努める考えを示していた。
 しかし開催計画が具体化する中で、金額が明らかになっていないためV2では計上していなかった支出や新たに生まれた項目への支出が増えたとして、「圧縮は限界」として、V2予算と同額にした。
 
 支出項目別で最も増えたのは組織委負担分の輸送費(350億円)で、選手ら大会関係者を競技会場や練習会場へ輸送するルートなどが決まったことで計画を見直した結果、100億円増となった。一方で、一度に多くの人が乗車できるよう大型車に変更するなど輸送の効率化も図ったとしている。
 また、交通費相当で1日1000円の支給が決まったボランティア経費増で管理・広報費は50億円が増え、さらに猛暑の中で食品を冷やし、安全に運ぶためのオペレーション費も50億円が増えて支出の増加は合わせて200億円となった。
 これに対して収入は、国内スポンサー収入が好調で、V2と比較して100億円増の3200億円となった。しかし、V2予算では、今後の増収見込みとして200億円を計上していたため、100億円の縮減となり、収支上では大会組織員会の収入は6000億円でV2と同額となっている。
 支出増の200億円については、新たな支出に備える調整費などを200億円削減して大会組織委員会の均衡予算は維持した。
 1兆3500億円の負担は、大会組織委員会と東京都が6000億円ずつ、国が1500億円とする枠組みは変えていない。
 しかし、酷暑対策費や聖火台の設置費、聖火リレーの追加経費、さらに今後新たに具体化する経費は盛り込まれておらず、今後、開催経費はさらに膨らむ可能性が大きい。組織委は今後も経費削減に努めるとしているが、「数百億円単位、1千億円単位の予算を削減するのは現実的に困難」としている。
 
 さらに問題なのは、11月に会計検査院が国の五輪関連経費の支出はこの5年間で「8011億円」と指摘したことについて、「支出と予算と枠組みが違うし、費目の仕分けが違う」と苦しまぐれの言い訳をしてV3の予算編成では無視をしたことである。膨れ上がる開催経費への批判には耳をかさない姿勢は大いに問題で、開催経費の透明性と説明性がまったく確保されていない。
 会計検査院のこの指摘に対し、桜田五輪担当相は、この5年間で53事業、「1725億円」は五輪関連経費とすることができるとしたが、「1725億円」をV3予算ではまったく反映していない。V2予算では国の負担は「1500億円」としていたが、増加分の「225億円」をV3予算で計上しなかった。また、会計検査院が指摘には含まれていないが、大会に直接関連する事業として国立代々木競技場など5施設の整備や改修のための国庫補助金を直近5年間で約34億円支出したと明らかにしたがこれも参入していない。
 国は「8011億円」の内、5461億円は、道路工事や燃料電池自動車補助費など「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」とした。いわばグレーゾーンの支出で、「算出が困難」だから五輪関連経費としないというきわめて乱暴な仕分けだ。
 5461億円の中には、選手・観客の酷暑対策(厚生省)、競技場周辺の道路輸送インフラの整備やアスリート、観客らの円滑な輸送および外国人受け入れのための対策(国土交通省)、サイバーセキュリティー対策(警察庁)、メダル獲得に向けた競技力向上(文科省)など五輪関連予算として参入するのが適切な事業も多いと思われるが、それを照査する姿勢が大会組織員会や国にまったくない。「五輪開催経費」が一挙に、数百億円、千億円単位で膨らむのを恐れたのだろう。
 大会組織員会にとって、膨れ上がる開催経費への世論の批判をかわすために、「1兆3000億円」を大幅に上回る予算を組むことはあり得なかった。会計検査院の指摘で「五輪開催経費」隠しが明るみになった。

 実は、五輪関連経費の中で、計上されていない膨大な経費がある。警備費である。
 会場内や会場周辺の警備費は大会組織委が計上しているが、空港や主要交通機関、繁華街、主要官庁、重要インフラなどの警備費は未公表である。 2016年6月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、開催費の総額は約600億円、その内半分以上の約340億円は警備費、サミット開催は2日間だが、オリンピック・パラリンピックは合わせて30日間、大会開催期間中の警備費は数千億に及ぶだろう。こうした警備は通常の警備体制ではなく大会開催のための特別臨時警備である。東京2020大会の警備費も五輪関連経費として明らかにするのが筋である。
 国や東京都の2020年度の予算編成ではこうした経費が顕在化することになるだろう。しっかり監視しないと「五輪経費隠し」が横行する懸念が残る。
 五輪開催経費について重要なのは「透明性」と「妥当性」の確保だろう。一体総額でいくらになるのか国民に明らかにしないのが問題なのである。
 
 「1兆3500億円」について、大会組織委の武藤事務総長は、「今後も大会が近づくにつれて新たな歳出が生じることがあると想定されるが、全体として6000億円を超えないように経費削減に向けて最大限の努力を行う」というコメントを出した。
 大会開催まであと600日を切り、開催準備の正念場、さらに支出が増えるのは必至だろう。今後、V3予算では計上することを先送りにした支出項目も明らかになると思われる。また「暑さ対策」や「輸送対策」などの重要課題が登場し、「1兆3500億円」を守るのも絶望的だ。







組織委員会予算V3   東京2020大会組織委員会

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国の支出「8011億円」組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘

政府 国の支出は「2197億円」と反論 止まない経費隠蔽体質!


五輪開催経費 1兆3500億円 350億円削減 組織委V2予算
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、今年5月に国や東京都などと合意した経費総額から更に350億円削減し、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 2016年末のV1予算では総額を1兆5000億円(予備費を含めると最大で1兆8000億円)としていたが、2017年5月には1兆3850億円に縮減することを明らかにした。これに対してIOC調整委員会のコーツ委員長は、さらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めていた。組織委の武藤敏郎事務総長は、来年末発表するV3ではさらに削減に努める考えを示した。


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)




東京都の五輪施設整備費 1828億円 413億円削減
 2017年11月6日、東京都は新たに建設する8つ競技会場の整備費は合計1828億円で、これまでの2241億円から413億円削減すると公表した。
 五輪施設整備費は、五輪招致後の策定された当初計画では4584億円だったが、2014年11月、舛添元都知事が経費削減乗り出し、夢の島ユース・プラザ゙・アリーナA/Bや若洲オリンピックマリーナの建設を中止するなど2241億円に大幅に削減した。
 2016年夏、都知事に就任した小池百合子氏は、五輪施設整備費の「見直し」に再び乗り出し、「オリンピック アクアティクスセンター」(水泳)、「海の森競技場」(ボート/カヌー)、「有明アリーナ」(バレーボール)の3競技場は、合計2125億円の巨費が投じられるとして再検討に取り組んだ。とりわけ「海の森競技場」は、巨額の建設費に世論から厳しい批判を浴び、「見直し」対象の象徴となった。
 小池都知事は都政改革本部に調査チーム(座長上山信一慶応大学教授)を設置し、開催計画の“徹底”検証を進め、開催費総額は「3兆円を超える可能性」とし、歯止めがなく膨張する開催費に警鐘を鳴らした。そして3競技場の「見直し」を巡って、五輪組織員会の森会長と激しい“つばぜり合い”が始まる。
 一方、2020年東京大会の開催経費膨張と東京都と組織委員会の対立に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年末に、東京都、国、組織委員会、IOCで構成する「4者協議」を開催し、調停に乗り出した。
 「4者協議」の狙いは、肥大化する開催経費に歯止めをかけることで、組織委員会が開催経費の総額を「2兆円程度」としたが、IOCはこれを認めず削減を求め、「1兆8000億円」とすることで合意した。しかし、IOCは“更なる削減”を組織委員会に強く求めた。
 小池都知事は、結局、焦点の海の森競技場は建設計画は大幅に見直して建設することし、水泳、バレーボール競技場も見直しを行った上で整備することを明らかにし、「アクアティクスセンター」(水泳)は、514~529億円、「海の森水上競技場」(ボート/カヌー)は 298億円、「有明アリーナ」(バレーボール)は339億円、計1160億円程度で整備するとした。

 今回、公表された整備計画では、小池都知事が見直しを主導した水泳、バレーボール、ボート・カヌーの3競技会場の整備費は計1232億円となり、「4者協議」で公表した案より約70億円増えた。
 「アクアティクスセンター」では、着工後に見つかった敷地地下の汚染土の処理費38億円、「有明アリーナ」では、障害者らの利便性を高めるためエレベーターなどを増設、3競技場では太陽光発電などの環境対策の設備費25億円が追加されたのが増加した要因である。
 一方、経費削減の努力も見られた。
 「有明テニスの森」では、一部の客席を仮設にして34億円を減らしたり、代々木公園付近の歩道橋新設を中止したりして23億円を削減した。
 この結果、計413億円の削減を行い、8つ競技会場の整備費は合計1828億円となった。
 五輪大会の競技場整備費は、当初計画では4584億円、舛添元都知事の「見直し」で2241億円、そして今回公表された計画では1828億円と大幅に削減された。

 新たな競技場の整備費が相当程度削減されたことについては評価したい。
 しかし最大の問題は、“五輪開催後”の利用計画にまだ疑念が残されていることである。
 海の森競技場では、ボート/カヌー競技大会の開催は果たしてどの位あるのだろうか。イベント開催を目指すとしているが成果を上げられるのだろうか。
 「アクアティクスセンター」は、すぐ隣に「辰巳国際水泳場」に同種の施設があり過剰な施設をどう有効に利用していくのか疑念が残る。
 さらに8つの競技場の保守・運営費や修繕費などの維持費の負担も、今後、40年、50年、重荷となってのしかかるのは明らかである。
 小池都知事は、膨張する五輪開催経費を「もったいない」とコメントした。
 8つの競技会場を“負のレガシー”(負の遺産)にしないという重い課題が東京都に課せられている。


青天井? 五輪開催経費 どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる操作が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、「大会成功」いう大義名分が先行して、青天井になることが往々にして起きる。
 新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
 東京2020大会のキャッチフレーズ、「世界一コンパクな大会」の開催理念はどこへ行ったのか。


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 V1予算公表 四者協議トップ級会合


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大で1兆8000億円(予備費、最大で3000億円を含む)になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。


 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのはドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。







開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。














海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンターを観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さす、12月のクリスマス前まで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場はボート・カヌー競技の事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事もこれを歓迎するとした。
 海の森水上競技場は当初の491億円から298億円前に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで、東京都では683億円から514~529億円に削減されると試算している。

 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円を切る」との見通しを示し、「これを上限としてこれ以下に抑える」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。削減の余地が残っている。2兆円よりはるかに下でできる」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。さらにコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と強調した上で、「IOCが2兆円という額に同意したと誤解してほしくない」と了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


小池都知事と上山特別顧問 4者協議トップ級会合 筆者撮影

東京2020大会 四者協議トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長

海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)



都政改革本部調査チーム アクアティクスセンターの整備計画大幅な見直しを提言
 調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


世界に「恥」をかいた東京五輪ガバナンスの欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の「見直し」に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費298億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、「仮設レベル」最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には“唖然”とする。「69億円」は“杜撰”を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも“唖然”だ。やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外にも同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それははっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%弱程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円5000億円は、国、都、関係地方自治体が負担するという計算になる。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 12月2日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


オリンピック アクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
 


月刊ニューメディア(2016年10月号)掲載 加筆



Copyright (C) 2020 IMSSR

********************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
********************************************



コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)

2023年03月02日 16時15分21秒 | 東京オリンピック
海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示ガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)




海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者の第一回「四者行儀」トップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、整備を683億円から514~529億円程度に削減して建設することで決着した。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減した。テレビ撮影で利用する桟橋の設置を見送ったことでお約60億円を圧縮し、追加工事が生じた場合の費用として予備費約90億円の削減した。また屋根付きの観客席「グランドスタンド棟」や艇庫棟の規模を縮小し、一部を仮設で整備。施設内の通路の舗装も簡素化する。
アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。しかし、バレーボール会場については、「有明アリーナ」を建設するか、横浜アリーナなど既設の競技場を使用して開催するかは、先送りにした。
 このため、V1予算の公表も先送りとなった。


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 四者協議の開催を控えて、高騰が懸念されている焦点の開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」と述べた。「2兆円」をベースに議論を始めたいとする組織委員会の思惑が込められた。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」とあっさり「2兆円」を否定し、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、「2兆円」を了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。
 コーツ副会長がこうした発言を行った背景には、五輪大会の肥大化批判がある。膨張する開催経費に耐え切れず開催地に立候補する都市がなくなる懸念が生まれていた。IOCは「アジェンダ2000」で五輪大会のスリム化を掲げ、2020東京五輪大会をその最初の大会と位置付けていた。その東京大会が、開催経費「2兆円」という破格の高額予算になっては、IOCの面目は丸つぶれである。海外のメディアに「東京大会2兆円」と報道されるとそのインパクトは大きく、また肥大化批判が巻き起こるのは必至である。コーツ副会長は「2兆円」を認めるわけにはいかなかったのである。
 以後、大会組織委員会は、開催経費縮減に取り組むことが最大の課題になった。

「競技場は一つもつくらない」 ロサンゼルスのしたたかな挑戦
 2020東京五輪大会の次の2024大会の開催都市招致レースは佳境を迎えていた。本命はパリとロサンゼルス。
 五輪招致を辞退したボストンに代わって、米国の五輪大会招致都市として名乗りを上げたロサンゼルスは、次の時代の五輪のコンセプトを先取りした“コンパクト”五輪を掲げて、招致をアピールしていた。
 2016年11月29日(日本時間)に東京で開かれた第一回「4者協議」で、コーツIOC副会長が、東京大会の開催費用「2兆円」は受け入れられないと発言したわずか数時間後に、2024年夏季五輪招致を目指すロサンゼルス招致委員会は、大会開催経費は「53億ドル」(約6000億円)に収めると発表した。しかもこの中に、4億9100万ドル(約540億円)の予備費も計上済だ。破格の低予算である。「約53億ドル」は、リオデジャネイロ大会の約半分、東京大会の約3分の1である。
 開催費用削減をターゲットにするIOCの意向を巧みに取り入れ、世界各国にアピールする作戦だ。
 開催費用の削減は、ロサンゼルスにとって、最有力の強敵、パリとの競争に勝ち抜く“切り札”になっている。
 「53億ドル」は、大会運営費と競技場(恒久施設)などのインフラ投資経費(レガシー経費)の合算、ロサンゼルス周辺に30以上の既存施設があり、競技場は新設する必要がなく、低予算に抑えられたとしている。選手村はカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の学生寮を利用する計画だ。
 1984年に開催されたロサンゼルス五輪では、徹底した経費の削減と収入確保戦略で2億1500万ドル(約400億円)の黒字を出し、世界を驚かせた。
 ロサンゼルス五輪招致委員会のケーシー・ワッサーマン会長は「もしロサンゼルスが五輪開催地に選ばれたら、IOCは開催予算や競技会場変更問題から解放されるだろう」と胸を張る。
 「コンパクト五輪」を掲げた東京五輪2020、開催経費「2兆円」では面目丸つぶれである。

世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は青天井のままで膨れ上がり、闇に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 杜撰な競技場整備計画の象徴とされた海の森水上競技場について、小池東京都知事は、新たに建設する競技場を「スマート施設」と名付け、20年程度使用可能な仮設レベルで、グランドスタンド棟、フィニッシュ棟、艇庫などを整備することで、298億円(スマート案)で建設することを明らかにした。これで491億円から約200億円が縮減された。
 また観客席の規模も見直し、グランドスタンド棟(2000席 恒久席)の屋根の設置を半分の1000席分にするとともに、仮設席を1万席から4000席に半分以下に削減して、立見席の1万席を加えると1万6000席(当初計画2万2000席)に縮小した。
 小池氏は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、「仮設」というと粗雑な施設という印象を与えるが、「スマート施設」というと耳障りが良いと述べた。

 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の杜撰さを象徴している。「お粗末」としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその杜撰さは明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、そして最終案「298億円」(スマート施設)、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」を積み上げた数字を検証もせずにそのまま計画に上げた担当部局の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場移転」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。300億円台が可能ならなぜもっと早く検討しなかったのだあろうか。予算管理の甘さが如実に現れている。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は「2兆円を切る」と言明したが、コーツIOC副会長に「『2兆円』の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCはそれをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、「2兆円」の内訳は、新国立競技場の整備費約1500億円や東京都が建設する競技場施設の整備費2000億円など施設整備は20%程度で、大半は、東京都や組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、「2兆円」を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出することを要請された。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 開催経費を「2兆円」とすれば、組織委員の収入は約5千億程度、残りの1兆円5000億円を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのだろうか。未だに実は何もできていないことが明らかになっった。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整は果たして可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)も危機感を持ち始めている。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。

コーツIOC副会長と森喜朗組織委会長 会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 V1予算 第二回「四者協議」トップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 1か月後の2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の第二回「四者協議」のトップ級会合が開かれ、組織委員会は大会全体の経費について、最大1兆8000億円(開催経費1兆5000億円 予備費1000~3000億円)になるという予算(V1)を明らかにした。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 前月11月の「四者協議」で、コーツIOC副会長から「2兆円」が否定されて、なんとか「2兆円」を下回る額を提示することに成功し、大会組織委員会はなんとか面目を保った。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と賛辞を送った。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

 V1予算「1兆8000億円」(予備費を除くと1兆5000億円)について、小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な『通過点』に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。しかし、その一方で総額についてはさらなる大幅な削減を求めた。
 V1「1兆8000億円」では、国、東京都、組織委員会の負担分が明らかにされなかった。
 小池都知事は、経費分担について、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者(IOCを除いて)でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。









開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。

地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 一方、2016年12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
 2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。舛添要一前都知事の新設競技場の見直しで、レスリング、フェンシング、テコンドー会場は幕張、自転車競技[トラック・マウンテンバイク]会場は伊豆、ヨット・セーリング会場は江の島、自転車[ロード]会場[終着]は富士など東京都外の会場が増え、開催自治体の経費負担が問題になっていた。
 その後、関係する自治体は、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。

開催経費「1兆3850億円」(予備費を含めると最大1兆6850億円)  都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料
東京都6000億円、国1500億円は記されているが残りの350億円の負担は記されていない

 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費


 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回ので連絡協議会明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」を目指すということだ。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円だった。今回の「1兆3850億円」でも同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、経費圧縮のの詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。
 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。

都外開催経費分担決まる 大会組織委員会・東京都・地方自治体
 2017年9月、紛糾していた1道6県に立地する14競技場の開催経費負担について、大会後撤去する観客席やプレハブ、テント、警備用フェンスなどの仮設施設の整備は、東京都が約250億円、国や民間所有の施設については、大会組織委員会が約250億円を負担し、警備費や輸送費などの350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てることが決まった。これにより、地方自治体の負担は大幅に軽減された。
 小池百合子都知事は、都外14競技場の仮設費、500億円については、原則、都が全額負担すること表明していたが、その内、約250億円が新国立競技場や自衛隊朝霞訓練場など国の施設やや武道館や霞ヶ関カンツリー倶楽部などの民間施設の仮設施設が対象だったために東京都が支出するのは困難なことが分かり、大会組織委員会に負担を求めていた。
 大会組織委員会は、さらに運営費の一部(大型ビジョン、通信設備など)300億円や福島あづま球場とサッカーの追加1会場の仮設費、100億円についても負担することを決め、大会組織委員会の負担額の増分は合わせて700億円程度となった。
 これらの負担増は大会組織委がこれまで示してきた5000億円の枠外のため、収支均衡予算を保つには、収入増が必要となる。
 大会組織委員会では、スポンサーのさらなる獲得や、グッズ、チケット販売を増やすことで増収を図るとしている。
 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)や日本オリンピック委員会(JOC)にロイヤルティー(権利費)を約3割支払う必要があり、700億円を確保するためには約1000億円の増収が必要となる。
 大会組織委員会では、「1業種1社」の枠を外す新カテゴリーでのスポンサー獲得などで約500億円の増収を見込んでおり、さらなる営業努力で1000億円の増収を目指すとした。

都の五輪5施設が赤字見通し 黒字は有明アリーナのみ
 都政改革本部の調査チームは、開催経費の縮減を掲げて、オリンピック・アクアティクスセンター、海の森水上競技場、有明アリーナ3会場の見直し求めた。結局、3会場とも整備計画は大幅に縮小されたが、建設することが決まった。
 焦点は、巨額を投じ整備した競技施設の後利用をどうするのかに移った。後利用が順調に進まなければ、利用料収入が伸び悩み、巨額の維持管理費がまかないきれず、赤字となり都財政の重荷となる。
 2017年3月、東京都は、東京都が整備する6の競技施設の後利用計画や年間収支の見通しを明らかにした。これによると新設の6施設のうち、バレーボール会場の有明アリーナ(江東区)を除く5施設が赤字運営となる見込みとなっている。
東京都は、「これは最小限の数字で、今後の工夫で収支は改善できる」としておりネーミングライツ(命名権)の導入などで収益アップを目指したいとした。
 五輪会場が負の遺産(レガシー)になるのを防ぐという難題を小池都知事は背負った。今後は各競技場の収益性向上や維持管理の効率化が課題となった。
 5施設の赤字額は、水泳競技会場のオリンピック・アクアティクスセンター(江東区)が6億3800万円▽ボートとカヌー(スプリント)会場の海の森水上競技場(臨海部)が1億5800万円▽カヌー・スラロームセンター(江戸川区)は1億8600万円▽大井ホッケー競技場(品川、大田区)は9200万円▽夢の島公園アーチェリー場(江東区)は1160万円とした。



唯一黒字を確保する有明アリーナ
 五輪大会でバレーボルの会場として建設された有明アリーナは、大会後は、コンサートや文化イベントの開催施設として高く評価され、6つの競技場の中で唯一の黒字を確保する見通しの施設となる。
 メインアリーナは、バレーボールのワールドカップなど年間10大会を開催し、コンサートなどのイベント開催で102万人の来場者の見込み、サブアリーナは市民利用を中心に17万人、トレーニングジムやレストラン・カフェなどでは21万人、計140万人の来場者を想定する。年間収入は、イベント開催の施設利用料が大幅に見込まれ、12億4500万円、支出は8億8900万円で、年間収支は約3億6千万円の黒字となる見通しを立てている。
 有明アリーナは、開催経費削減で、横浜アリーナ(横浜市)への変更も一時検討されたが、整備費は約404億円を約339億円に圧縮して建設することが決まった。
 五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やホテルやスポーツ施設も整備し、地区内に新たに建設される「有明体操競技場」や改装される「有明テニスの森」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーするとした。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間の資金やノーハウを活用する。
 指定管理者の総合評価方式で入札が行われ、電通を代表とするグループや東京建物グループ、東京ドームグループなどが応札したが、2019年3月、審査の結果、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的なネットワークを活用して大規模なスポーツ大会やイベントを誘致する計画や、エントランスの大型ビジョンや高密度WiFiなどを整備し、スマートアリーナを目指すことなどが評価された。
 小池知事がこの計画を明らかにした四者協議で、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 有明アリーナは、小池都知事が推し進めるレガシー実現の可能性にあふれた競技場の象徴となった。


ARIAKE LEGACY AREA 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ  提供 TOKYO2020

「陸の孤島」 海の森水上競技場
 東京臨海部で建設中の海の森水上競技場はボート、カヌー会場で、2000メートル8レーンのコースを備えた国内最高峰の水上競技施設。491億円もの建設コストが批判を浴びて、見直し検討の対象となったが、仮設レベルの仕様で建設する「スマート施設」にしたり、観客席の屋根を縮小したりして、整備経費をを298億円に圧縮することで決着した。
 大会後は年間30大会の開催を目指し、来場者目標を年間約35万人に設定した。競技会利用(大会、練習、合宿等)で約31万人、一般利用で4万人とした。最大のネックは競技人口の少なさで、国内のボート競技人口はわずか9000人、国内の大きな大会や国際大会を誘致するとしているが、国内大会は、「ボートの聖地」戸田漕艇場を始め、すでに全国各地にボート場があるので大会開催は限界がある。また国際大会を誘致する計画だが、せいぜい年に1回程度、開催できれば上々だろう。
 東京都では、市民利用にも期待を寄せて、水上スポーツ体験や水上レジャーやイベントの開催、さらに企業研修での利用を計画したいとしている。また周辺の海の森公園を整備して、公園との一体利用を進めることで、年間35万人の来場者の確保は「決して無理な数字ではない」と説明する。
 海の森水上競技場が建設されたのは東京港突端の中央防波堤、交通アクセスの不便さから、「陸の孤島」と言われてきた場所である。イベントを開催するといっても交通アクセスが整備されていなく、来場者の確保が可能かどうか疑問視されている。東京都では、都営バス路線の拡充を検討するとしているが果たしてどの程度の効果があるのか疑問視されている。
 年間35万人の来場者を達成しても海の森水上競技場の年間収支は約1億6千万円の赤字を見込む。
 東京都の有識者会議では一部の委員から「過大な期待は難しい。身の丈に合った計画でやるべきだ」と指摘を受けた。レガシー(遺産)として存続させるのにふさわしいのかどうか今後も常に検証が必要になるだろう。東京都は来場者数が目標を大幅に下回るようなら20年後に廃止することも視野に入れているといが、298億円は余りにも「もったいない」。


海の森水上競技場 (左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター  筆者撮影

赤字額最大 オリンピックアクアティクスセンター
 赤字額が最も大きいのが水泳会場のオリンピックアクアティクスセンター(江東区)である。「世界水準のプール」をアピールして、ワールドカップやアジア水泳選手権などの国際大会や日本選手権などの国内主要大会をあわせて年間100大会誘致し、競技利用で約85万人の来場者を見込み、次世代のアスリートの育成の場としたいとしている。一方、サブプールやスタジオなどの市民の個人利用は約15万人で、合わせて年間100万人の利用者を想定している。
 年間収支は、収入が3億5000万円だが、プールの水質維持などに維持管理経費が9億8800万円に膨らみ、6億3800万円の赤字に陥ると試算した。
 この試算に対しては、甘すぎるとして関係者から厳しい批判を浴びている。試算をまとめた外部委員からも「黒字の必要はないが、健全な運営が必要」「一定の目標に達しなければ、施設を更新しないと決めるべきだ」などの指摘が相次いだ。
 オリンピックアクアティクスセンターのすぐ隣には大会会時には水球の会場となる東京辰巳国際水泳場がある。そもそも水泳競技場は過剰なのである。大会開催後、この二つの水泳競技場を維持していくのは至難の業であろう。


オリンピックアクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

競技大会開催に悩むカヌー・スラロームセンター
 葛西臨海公園の隣接地に建設されたカヌー・スラロームセンターは、「国内初の人工スラロームコース」を備えた施設を掲げ、国際大会や国内大会、年間7大会を誘致する目標を立てている。しかし、カヌー・スラロームの競技人口は日本国内でわずか約400人と極めて少なく、大会開催の実現が極めて厳しい環境にある。
 期待をかけるのは市民利用の拡大で、ラフティングなどの水上レジャーや水上スポーツで市民が楽しめる場にしたいとしているが、賑わうのは夏季期間だけで、年間通しての来場者の確保は絶望的である。誰も来ない寂しい光景が連日続くことになるだろう。
 年間来場者の目標は、競技利用で約3万人、一般利用で約7万人、計10万人としている。
 年間収支は、収入が1億6400万円、支出が収入の倍以上の3億4900万円、1億8600万円の赤字を見込んでいる。
 「人工スラロームコース」は、流れの速い特別なコースを人工的に整備する施設で、一般的な水上レジャー施設にならない。しかも夏季だけの限定された期間を除き、市民の利用者はほとんどいないと思われる。年間田来場者10万人の達成はかなり難しく、施設の維持には難問を抱えている。


カヌー・スラロームセンター 2019年7月8日から7月31日まで、この競技コースを使用してラフティング体験イベントが開催され、あわせて約530が参加した。 筆者撮影

「スポーツの森」の施設として一体運用 大井ホッケー競技場
 大井ふ頭中央海浜公園の「スポーツの森」に建設された大井ホッケー競技場は、全国でも数少ない公共のホッケー場として建設された。メインピッチとサブピッチの2つの施設が整備されている。
 大会後の後利用では、国際大会や国内大会で年間23大会の開催を目標としている、市民利用では、ラクロス、サッカーなどの大会や練習施設としての活用を図る。
 年間来場者は、大会開催で約13万人、練習・合宿などの利用で約7万人、計20万人を見込む。
 年間収支は、収入が5400万円、支出が1億4500万円で、年間9200万円の赤字。
 「スポーツの森」は、野球場、陸上競技場、テニスコートが整備されている総合運動公園で、干潟保全地区の「なぎさの森」が隣接し、バーベキューや釣り体験を楽しめるアウトドアアクティビティエリアも整備され、統合スポーツ・レジャー施設としとしてレガシー創出を狙う。


大井ホッケー競技場  READY STEADY TOKYO Test Events 筆者撮影

市民の来場者確保が鍵 夢の島公園アーチェリー場
 夢の島公園アーチェリー場は、アーチェリーを中心に、夢の島公園内に整備されている陸上競技場や野球場、スポーツ文化館、そして芝生の広がる共生広場と連携した市民の憩いの場を提供するとしている。
 アーチェリー競技大会は、年間20回の開催を目標にし、年間来場者は、競技利用で3000人、音楽イベントやヨガ、グルメのイベントなどの開催で3万人を見込む。
 年間収支は、収入が330万円、支出が1500万円、年間赤字額は1170万円を想定する。
 競技利用での来場者は、年間わずか3000人、月平均250人にとどまり、アーチェリー場は閑散となるのは必至である。
 芝生の広がる共生広場を中核に据えた市民の憩いの場にするほうが次世代のレガシーになると思われる。 


夢の島公園アーチェリー場 予選会場は完成  出典 READY STEADY TOKYO Test Events

「コンセッション方式」の導入 
 東京都は、民間に競技場の運営権を売却する「コンセッション方式」を採用して、民間企業の資金とノウハウを活用して競技施設の有効活用を図る。
 有明アリーナの指定管理者は、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的ネットワークをフル活用して、ビックスポーツ大会や音楽イベントを誘致する「電通パワー」が評価された。
 またオリンピック アクアティクスセンターは東京都スポーツ文化事業団を代表にして水泳場の運営で実績のあるオーエンス・セントラル・スポーツ、東京都水泳協会のグループ、海の森水上競技場は一般財団法人公園財団を代表に日建総業、野村不動産ライフ&スポーツのグループ、カヌー・スラロームセンターは株式会社協栄、大井ホッケー競技場は、日比谷アメニス、日建総業、太陽スポーツ施設、エコルシステムが選定された。
 東京都によればいずれも公共のスポーツ施設等の運営・管理に多くの実績と知見を有する会社・団体だとしている。
 これから、各競技場ごとに、指定管理者と都の関係各局で構成する検討会を設置し、大会後の運営も含めた具体的な施設運営計画を策定し、ネーミングライツ(命名権)の売却や広告獲得に力を入れて収支の改善を図る計画である。
 果たして、想定した利用計画や収支が確保できるのかどうか、指定管理者の作成する施設運営計が注目される。 
 しかし、海の森水上競技場やオリンピック アクアティクスセンター、カヌー・スラロームセンターは東京都の試算では赤字が想定されていて、大会後の運営管理は容易ではない。

競技場をレガシーにするのは難題
 東京都では、競技施設を中核にして、周辺の商業施設や公園などと一体となった「点ではなく面での活性化」を推進したいとしている。地域全体を魅力的なエリアに再開発して、人を呼び込む仕掛けづくりを実現して地域の活性化を狙う。そのためには実効性のある基盤整備が必要となるが、中でも交通インフラの整備が最大の課題となる。
 1998年長野冬季五輪の競技会場は、大会後の維持管理や改修に巨額の費用の負担が残り、開催地の自治体の財政を圧迫し続けて、「負の遺産」の象徴となった。2020東京五輪大会の競技会場も、大会後の運営で出る赤字分は都の負担となる。各施設の収益性の向上は至上命題である。
 自治体所有のスポーツ施設は、ただでさえ運営は厳しい。

 日本国内のスタジアム経営は極めて難しい。プロ野球のスタジアムやごく一部のサッカースタジアムを除き、国内の大半のスタジアムは、基本的に赤字である。とりわけ自治体が主有するスタジアムやアリーナは、大学や高校、社会人などのアマチュアスポーツの利用や一般市民のスポーツ振興を図らなければならので商業的なイベント利用は制限が多い。
利用料収入では維持管理費をまかないきれず税金を投入して運営を維持している。つまり競技施設はつくれればつくるほど後年度負担が増えるのである。
 市民民スポーツ振興のために整備されている各地の体育館やグランドなどは、基本的に市民にたいする行政サービスの一環なので、税金を投入して維持管理をするのは当然だろう。しかし、大規模な競技大会を開催する「スポーツイベント施設」の整備は、採算をしっかり視野に入れて慎重に行わなければならない。
 東京都は、五輪大会開催に向けて、オリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場、カヌー・スラローム会場、大井ホッケー場、夢の島アーチェリー場の6つの恒久施設を、約2000億円を投じて建設する。こうした競技施設は、50年以上に渡って利用され、毎年、巨額の維持運営費を負担しなければならない。利用料収入が維持運営費を上回らない限り、赤字が次の世代の負担となってのしかかる。「負のレガシー」になる懸念は更に深まった。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)



東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)



国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

*****************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
*****************************************




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)

2023年03月01日 18時47分46秒 | 東京オリンピック
小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)





小池都知事VS森会長の対立激化に危機感 バッハIOC会長 小池都知事との会談に
 小池百合子東京都知事と森喜朗大会組織委会長との対立激化で混迷が深刻化している中で、2020東京五輪大会の準備態勢に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、急遽、来日して両者の仲介の乗り出すことになった。
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は東京都庁を訪れ、小池百合子都知事との会談に臨んだ。。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 東京都庁で行われた会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられたまさに“小池劇場”の最大の見せ場となった。


バッハIOC会長と小池都知事 2016年10月18日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 四者会合開催で合意
 バッハ会長との会談の冒頭に、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は、小池都知事が五輪開催に際して掲げているコンセプト、「もったいない」を受けて、「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語った。これに対して小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と「四者協議」の開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じ、東京都、大会組織委員会、国、IOCによる四者協議の開催が事実上決まった。森喜朗組織委会長も国もいない場で五輪見直しの競技の枠組みが決まったのである

 また抜本的な見直しの検討が進められている焦点の海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
 バッハ会長は、「東京が勝ったのは非常に説得力のある持続可能で実行可能な案を提示したからです。東京が開催都市として選ばれた後に競争のルールを変えないことこそ日本にとっても東京にとってもIOCにとっても利益にかなっていると思う」と暗に海の森水上競技場の見直しを牽制した。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

主導権争いの前哨戦 「IOC、ボート・カヌー競技など韓国開催も検討」報道
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)は、海の森水上競技場が建設されない場合には、代替開催地として韓国を検討していると、国内の大会関係者が明らかにした。関係者によると、IOCは海の森水上競技場の整備費が高額であることを憂慮して、2年前にも韓国案を選択肢として組織委員会に示しており、再度持ち出す可能性があるという。
 関係者によると、IOC側が想定するのは、2013年世界選手権や2014年仁川アジア大会で使われた韓国中部、忠州(チュウンジ)の弾琴湖国際ボート競技場で、ソウルから約100km離れた場所にある湖のボート場で、国際規格の2千メートルコース8レーンを備える。
 IOCは14年12月に承認した中長期改革「五輪アジェンダ2020」で、コスト削減などの観点から例外的に五輪の一部競技を国外で実施することを容認している。交通アクセスなどに課題があるものの、ボート関係者によると「数カ月あれば、五輪を開催できるような能力をもったコース」という。これに対してバッハ会長は、「憶測はうわさにはコメントしない」と述べた。
 「韓国開催」の報道は、小池都知事とバッハIOC会長が会談する直前というタイミングで各メディア一斉に行われた。
IOC関係者が小池都知事とバッハ会長の会談の直前を狙ってリークしたとされている。このリークは、小池都知事の海の森水上競技場対応の“独走”に不満を持ち、牽制したと考えるのが自然だろう。小池都知事と組織委員会とのぎくしゃくした関係に不快感を示した国際オリンピック委員会(IOC)が仕掛けたしたという観測もされているが真偽のほどは分からない。ボート・カヌー競技場を検討する経緯の中で、国際オリンピック委員会(IOC)内部で議論の一つになっていたことがあると思える。しかし、今のタイミングでこの議論が再浮上としたとは考えにくい。やはり、国内の五輪関係者がバッハIOC会長来日のタイミングを狙ってリークしたと考えるのが自然だろう。
いずれにしてもバッハIOC会長訪日にからんだ一連の主導権争いの序章だったことには間違いない。

「復興五輪」を仕掛けて“主導権”を取り戻した森組織委会長
 10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。
 会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。
 またバッハ会長は 「復興に貢献したい。世界の人たちに、復興はこれだけ進捗していることを示すことができる」とし、大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールについては、選択肢の1つとした上で、 「日本のチームが試合をすれば、非常にパワフルなメッセージの発信につながる」と述べた。
 野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致している。
 前日の小池百合子との会談では、バッハIOC会長は、この話を一切出さなかった。
 関係者の話を総合すると、バッハIOC会長は、小池都知事と会談したあと、組織委員会を訪れ、森喜朗組織委会長と会談をしている。この会談の中で、森喜朗組織委会長から、野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。バッハIOC会長は、小池都知事を通り越して、安倍首相との会談で、「復興五輪」の推進を高らかに宣言した。

“おやじさん”、“兄弟” 森組織委会長 バッハIOC会長との親密さを演出
 2016年10月月26日、都内で開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラム(World Forum on Sports and Culture) 基調講演で、バッハIOC会長は、「IOCは被災地でいくつかの競技を行うことを検討している。野球とソフトボールを開催するのも一つの選択肢だ」と異例の演説をした。
IOC会長の発言力は極めて影響力があり、通常はここまで踏み込んだ発言はしない。
 「復興五輪」にふさわしいのは、日本で人気のある野球・ソフトボールを被災地でおこなうことだろう。バッハIOC会長発言は、この点をしっかり踏まえたものであった。あまり日本では馴染みのないボート・カヌー競技よりはるかにインパクトがある。小池都知事が力を入れていると思われる長沼ボート場でのボート・カヌー競技開催を“牽制”したと思える。
 バッハIOC会長は野球・ソフトボールと具体名を出したが、その一方で、ボート・カヌー競技については何もコメントせず、質問されても何も言及しなかった。
そして、「これは被災地の人々を応援する重要なメッセージになる。この点について昨日森組織委会長の計らいで安倍首相と話をする機会を得た」と述べ、森組織委会長の根回しがあったことを明らかにした。
 バッハIOC会長と安倍首相との会談は、もともとの予定にはなく、急遽セッティングされたものだとされている。森組織委会長の“根回し”で実現したのであろう。安倍首相もこの問題に登場させた森組織委会長の政治家として手腕は健在だ。
 この会談で、小池都知事が強調した「復興五輪」を、逆手にとって、野球・ソフトボールの開催をバッハIOC会長に発言させることで、小池都知事の動きを封じ込め、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主導権を奪い返そうとする森組織委会長のしたたかな戦略だと思う。海の森水上競技場での開催を守ろうとする反撃といえるだろう。
 カヌー・ボート競技会場を長沼ボート場にした場合、選手村からの距離が遠いので、分村を設置しなければならないという問題が生まれる。
 この点についても、森組織委会長は、「選手村は非常に大事だ。世界中の人がそこに集まって一緒に話し合って語り合って未来を考えることができる。そういう意味では、原則的に分村はできるだけ避けてひとつの選手村に選手たちは行動をともにしていただければということだ」と述べた。
 これに対しバッハIOC会長は、「もっとも重要なことは選手村がオリンピックの魂であり中心であることだ」と森組織委会長に同調した。
こうした一連の発言で、小池都知事が経費削減と「復興五輪」のシンボルとしていた海の森水上競技場の長沼ボート場移転は、勢いを失ったようである。
 また森組織委会長はバッハIOC会長との“親密”な関係をアピールする戦略にも乗り出した。 

 森組織委会長は「バッハIOC会長は私どもの『おやじさん』、本当に心から崇拝している。2020年東京大会を主導してくれる「船長』さん。2020年東京大会とバッハIOC会長とは『兄弟』であるわけだ」と述べ、これに対しバッハIOC会長は「森さんとは先ほど『兄弟』という暖かい言葉を頂いたので、私は『弟』と呼ぶべきかな」と語った。
 「経費削減」、「復興五輪」、小池都知事に東京五輪の主導権を奪われかけた森組織委会長は、バッハIOC会長来日を機会に、一気に攻勢に出て巻き返しを図ったといえる。バッハIOC会長もこれに呼応して、野球・ソフトボールの被災地開催に言及した。
 海の森水上競技場を維持しようとする国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会の連携作戦も強烈だ。バッハIOC会長に同行したコーツIOC副会長は、元オリンピックのボート選手、「(コーツ氏の地元)シドニーの私のボートコースは海で、海水がダメというのはおかしい」とした上で、「選手村は一つ」、「レガシーとして残す」と強調した。明らかに海の森水上競技場擁護の姿勢である。
森組織委会長との親密さをアピールし、組織委員会との連携を強め、小池都知事の“封じ込め”を図ろうとしている。
 それにしても総理大臣経験者の老練な政治家、森組織委会長のしたたかな手腕がいかんなく発揮され始めている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを巡る小池都知事、森組織委会長、コーツIOC会長、三つ巴の主導権争いは更に激化した、2020東京オリンピック・パラリンピックはどこへ向かうのだろうか?

小池都知事VSバッハIOC会長 “軍配”は? 
 10月18日に開催された会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。まさに“小池劇場”の上演で、主人公は小池百合子都知事、この舞台には森喜朗大会組織委会長はいない。
 11月に開催される四者協議も、小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。
 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、その後、組織委員会やIOCと協議を行うという作戦だったと思える。ところがコーツIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案し、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。「四者協議」の設置は合意され、来月に開催されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席する。

 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。
小池都知事と組織委員会の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして仲介に乗り出し、小池都知事にクギを刺して、組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたバッハIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設を合わせて最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。

 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、2020東京五輪大会の開催計画について直接、議論をする場を確保した。
 2020東京五輪大会の誘致が決まってからは、開催準備体制は、事実上、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会との間で進められていて、開催都市の東京都の主導権はほとんどなくなっていた。小池都知事の登場で、東京都は一気に存在感を増すことに成功したのである。
 「四者協議」で具体的な見直し案を提出するのは東京都で、組織委員会ではない。また組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり小池都知事や都政改革本部が見直しの主導権を握っていると思われる。
 しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?、まったく見通せない状況になった。

問われる国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢
四者協議は“オープンな形”で“リーダーはいない” バッハ会長の約束はどうなる?

 小池都知事との会談の翌日、10月19日に組織委員会を訪れたバッハIOC会長は、記者会見で、経費削減に向けて提案した国・東京都・組織委員会・IOCとの四者協議について、緊密に連携していきたいという考えを示した。
 バッハIOC会長は、「四者協議については組織委員会とも合意した。四者協議は技術的な作業部会であり、さまざまな数字や異なる予算を提示して協議していく」と述べた上で、記者団から四者協議の進め方について問われたのに対し、「作業グループは誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない。政治的なグループではない」と四者協議にリーダーはいなく、四者は対等だと強調した。
 同じ10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍首相と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。「復興五輪」については、小池都知事を抜きにしてバ森喜朗組織委会長がバッハ会長と画策を進めていたと思われる。安倍首相との会談を調整したとされている。小池百合子都知事との顔は立てながら、森喜朗組織委会長との密接な関係は維持する、バッハIOC会長のしたたかな対応が引き立った。

 また、2016年11月1日から3日まで開かれた第一回「四者協議」の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、一転して完全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、完全非公開を決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。その理由について、協議は事務レベルによるもので、11月末まで継続される見込みで、「最終的な結論となる予定はないため」としている。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。四者協議はオープンにするとバッハIOC会長の了解を取り付けた小池都知事の立場は丸つぶれである。
 丸川五輪担当者相は「今回は中身が最終結論に直結しないので公開しないと聞いており、IOCと組織委員会で決めたことで、私どもは尊重したい」と述べた。四者協議における国の存在感の薄さを象徴する発言だろう。

 「四者協議」は10月18日、バッハ会長が小池都知事と会談した際に申し入れた。小池知事はその際、「ご提案があった四者の会議は、ぜひ国民や都民に見える形で情報公開を徹底できるのであれば、よろしい提案なのではないかと思う」と、議論の透明性を要請した。
 これに対し、バッハIOC会長は、「この会談のようなオープンな形で進めていきたい。われわれとしては、どこでとか、何をとかいうことを決めているのではなく、あくまで先ほど申し上げたフェアの精神でないといけないと考えている」と答えた。
 四者協議は、基本的に公開するという条件で、バッハIOC会長と小池都知事は開催に合意をしたのではないか。バッハIOC会長も了解をしたはずである。
 その2週間後に開かれた作業部会は、早くも非公開、会議の内容も公表しないという方針に変換した。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会の「密室体質」は、従来からも強く批判をされてきた。政策決定の議論は、結論もさることながら議論の経緯が重要なのはいうまでもない。やっぱりと、国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会への信頼感を失った。
 また会議を非公開にすることは、「IOCと組織委員会で決めたこと」(丸川五輪担当相)としていることも問題だろう。バッハIOC会長は、四者協議は、「誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない」とリーダーのいない四者が平等な会議としていたが、実態は早くも違う。非公開を決めるなら、せめて四者で協議して決めるべきだろう。はやくも会議の進めかたで国際オリンピック委員会(IOC)の“力ずく”の姿勢が見え隠れしている。
 11月下旬に予定されている四者協議トップ級会合は、当然、公開すべきだろう。四者協議は公開するという約束で始まったのである。
 オリンピックの肥大化批判が高まる中で、 「アジェンダ2020」で、五輪改革を実現する最初の大会に2020年東京オリンピック・パラリンピックにするという国際オリンピック委員会(IOC)の意気込みはどうなるのか、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。

“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
 2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
 結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
 ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
 リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
 開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。

「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 

 2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
 その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
 今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
 国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。

都政改革本部調査チーム オリンピック・アクアティクスセンターの大幅な見直しを提言
 2016年11月、都政改革本部調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するにしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

「3兆円」は「モッタイナイ」!
 「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
 東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
 日本は確実に少子高齢化社会が急速に進展する。その備えを、今、最優先で考えなければならい。
 小池東知事は、リオデジャネイロ五輪に参加して帰国後、日本記者クラブで会見して、2020東京五輪大会の開催にあたって、「もったいない Mottainai」というコンセプトを国際的に発信していきたいと宣言した。
 絶対に「3兆円」は「モッタイナイ」! 
 ともかく五輪改革の舞台は、「四者協議」に場に移った。


オリンピックアクアティクスセンターの内部(完成予想図)  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


杜撰な整備計画に大なたをふるった舛添前都知事 招致段階の3倍、「4584億円」に膨張した整備経費
 競技場の整備計画の問題は、小池都知事の見直しが最初ではない。公費流用問題の責任をとって辞職した舛添要一前知事の時代に大規模な見直しが行われ、整備計画に大なたがふるわれ、整備経費は2000億円も削減され、半減した。
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国、恒久施設は東京都、仮設施設は大会組織委員会が責任を持つことが決められていた。
 東京都が担当する恒久施設は、招致計画では整備経費は約1538億円としたが、招致決定後に改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明した。
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、招致計画では約69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。若洲オリンピックマリーナ(ヨット・セーリング)は92億円から約4倍弱の322億円、葛西臨海公園(カヌー・スラローム)は約24億円から約3倍の73億円、有明アリーナは176億円から倍以上の404億円、東京アクアティクスセンターは321億円から倍以上の683億円に膨張した。招致計画時の余りにも杜撰な予算の作成にあきれる他はない。
 問題は新国立競技場にとどまっていなかったのである。

 舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とテレビ番組に出演して話している。
 招致計画を策定した担当者は、ほとんど誰も五輪大会の東京招致が実現するとは思わず、作業を進めていた光景が浮かび上がる。

東京五輪大会の招致に名乗りを上げた石原慎太郎元知事
 2020東京五輪大会の招致に名乗りを上げたのは、石原慎太郎元知事である。
 2007年、東京都知事として三期目を迎えた石原氏は、2016夏季五輪大会の開催都市として名乗りを上げ、招致活動を開始した。
 石原元知事は五輪開催で臨海副都心の再開発の起爆剤にしようと目論んだ。
 臨海副都心の開発が本格的に始まったのは、1980年代後半、当初は鈴木俊一都知事(当時)による東京テレポート構想によって始まり、1996年に国際博覧会である「世界都市博覧会」の開催が予定されていた。
 1993年にはレインボーブリッジが開通、1995年にゆりかもめが新橋-有明間に開通、着々とインフラは整備されていった。
 しかし、都市博中止を掲げた青島幸男都知事が当選し、公約どおり1995年、「世界都市博覧会」中止され、臨海副都心は挫折寸前に陥った。それ以後も、1996年臨海高速鉄道が開通したり、臨海部は徐々に「街」として様子を整えていったが、依然として広大な草ぼうぼうの埋め立て地が広がっていた。
こうした中で、メインの会場となる五輪スタジアムを、常設8万人、仮設2万人、10万人収容する巨大スタジアムとして、晴海埠頭に東京都が新設するという計画を立案した。
 その後、五輪スタジアムは国立霞ヶ丘競技場を改修することになり、晴海埠頭の五輪スタジアム新設計画は消え、代わりに晴海埠頭には18,500人収容の選手村が建設されることになる。
 その他、代々木アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート/カヌー)、 葛西臨海公園(カヌー[スラローム])、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)などが新設される。水泳会場は、東京辰巳国際水泳場を改修して使用する計画である
 開催経費は、大会組織委員会予算が3093億円、設備投資予算(非大会経費予算 競技場施設の整備費)が3317億円、計6410億円、五輪スタジアムは898億円とした。
 しかし、2009年のIOC総会で南米初の大会開催を掲げたリオデジャネイロに敗れた。
 2011年4月、東京都知事選で4選を果たした石原氏は、再び、2020夏季五輪開催都市への立候補を宣言して招致員会を立ち上げ招致活動を開始する。招致委員会の理事長は竹田恆和JOC会長である。2012年2月には、招致申請ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出した。

五輪開催に冷ややかだった東京都民
 石原氏の五輪開催にかける執念はともかく、都民に五輪大会招致に対する思いは冷めていた。1964東京五輪の感動は忘れてはいなかったが、なぜ再び東京が開催地に名乗りをあげなけれならいのか納得していなかのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)が2012年5月に調査した東京五輪大会開催への東京都民支持率調査によれば、賛成が半分を下回る47%、反対が23%、どちらでもないが30%と支持率は低迷していた。同年10月に招致委員会が独自に調査した結果によれは、賛成は67%、反対21%、どちらでもない13%と賛成が大幅に増えたが、競争相手のマドリードの80%、イスタンブールの73%に比べて、大差をつけられていた。
 東京がライバルのマドリードやイスタンブールに勝つには、都民の支持率を上げ、国際世論の支持を得ることが必須の条件だった。
 東京五輪開催に対する拒否反応の主な理由は、巨額の開催経費負担への懸念である。招致計画を立案する東京都は、五輪開催経費を極力縮減し、都民に負担ならない大会開催を掲げた。東京都が整備する競技場の建設予算額は低く抑える必要があった。そして掲げたスローガンが「世界一コンパクトな大会」で、招致申請ファイルの経費総額は7,340億円(大会組織委員会3,013億円、非大会組織委員会4,327億円)とした。
 実現可能性を真剣に検証して算出された経費ではなく、明らかに経費総額を抑える「見せかけ」の数字であった。とにかく開催経費を低く見せればよいという発想だったと思われる。
 こうした意識が蔓延した背景には、「まさか本当に東京に五輪がくるわけはない」といった無責任とも言える意識があったことが窺われる。「旗振れども踊らず」は、国民だけでなく関係者にも浸透していたのである。
 2020東京五輪大会の開催計画は、2016大会の臨海部を中心に競技場を整備して開催するという計画をほぼそのまま踏襲していた。変更したのは、新国立競技場の建設地を臨海部から旧国立競技場の跡地に変えたことや、IBCの設置を晴海地区に新設する計画を東京ビックサイトに変更し、晴海地区に選手村を整備することだけで、大半の競技施設の整備は、新たに検証することなく、2016大会の計画をそのまま引き継いだ。
 ところが「晴天の霹靂」、東京大会招致が決まって、2020開催計画を策定した担当者は大慌てで整備予算を「真面目」に見直しのである。その結果が、「1538億円」の約3倍となる「4584億円」という数字になって現れたのである。
 まさに無責任体制の象徴だった。
 
経費削減に動いた舛添都知事 「削減効果」は2000億円


出典 TOKYO MX NEWS 2014年6月10日 所信表演説

 2013年12月、猪瀬直樹東京都知事は、医療法人「徳洲会」グループから5000万円の資金提供を受けていた問題で、「都政を停滞させ、国の栄誉がかかったオリンピック・パラリンピックを滞らせることはできない」として辞職を表明した。猪瀬氏は、国政転出のため任期半ばで辞任した石原氏から後継指名を受け2012年12月に行われた都知事選に立候補、過去最高の433万票を獲得して初当選した。2020東京五輪大会の招致活動に力を入れ、2013年9月には東京五輪大会の招致を実現する。
 2014年2月、猪瀬氏の辞任を受けて、都知事選が行われ、自民党・公明党の推薦を受けた舛添要一が、共産党・社民党など推薦の宇都宮健児氏や民社党など推薦の細川護熙氏を大差で破って初当選した。
 2014年6月、舛添要一都知事は所信表明演説で、競技場整備計画の大幅な見直しを表明した。
 そして11月には、新設する5競技場の建設中止を含む大幅な見直し案を明らかにした。見直しに伴う整備費の削減効果は2千億円規模に及ぶ。
 舛添氏は「施設が大会後の東京にどのようなレガシー(遺産)を残せるのか、現実妥当性を持って見定めていく必要がある」と述べた。
 舛添氏は、記者会見で、都内で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)との調整員委員会でおおむねの合意を得たとし、会議でコーツ調整委員長はコスト削減のため、サッカーやバスケットボールの予選を地方都市の既存施設で開くことを推奨し、候補として大阪を提案したことを明らかにした。

5つの競技場を建設中止
 建設が中止される競技場(恒久施設)は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、有明ベロドローム(自転車・トラック)の5施設である。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、 水球は東京アクアティクスセンターに隣接する東京辰巳国際水泳場、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、自転車(トラック)は日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)内の伊豆ベロドロームで開催することになった。
 東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は、幕張メッセ(千葉市)となり、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技会場となった。
 自転車競技のマウンテンバイク(MTB)ては、有明地区にマウンテンバイク(MTB)コースを仮設で整備する計画だったが、日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)のMTBコースに変更することが決まった。しかし、自転車(BMX)は、若者に人気のある競技で都心部に隣接するエリアで開催したいという競技団体の強い意向で、当初予定通り、有明地区に仮設施設を建設して開催するとした。
 また、夢の島地区に仮設施設を建設する予定だった馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)の会場は整備を取りやめ、馬事公苑(世田谷)に変更した。
 馬術(クロスカントリー)は海の森クロスカントリーコースを海の森公園内に仮設施設として整備して予定通り行われる。


夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット) 完成予想図 出典 以下2020招致ファイル


若洲オリンピックマリーナ(セーリング) 完成予想図


有明ベロドローム(自転車・トラック) 完成予想図

2000億円削減して2241億円に
 カヌー・スラローム・コースは、葛西臨海公園内に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園の貴重な自然環境を後世に残すという設置目的などに配慮して、公園内でなく隣接地に移し、大会後は、公園と一体となったレジャー・レクリエーション施設とするとする整備計画に練り直した。
 一方、トライアスロンに予定されているお台場海浜公園は、羽田空港の管制空域で取材用ヘリコプターの飛行に支障が生じることや水質汚染に懸念があることなどで横浜などへの会場変更が検討されたが、結局、変更せず、お台場海浜公園で計画通り行うこととなった。
 また7人制ラグビーは新国立競技場から味の素スタジアム(東京都調布市)に変更となった
 こうした計画見直しで、競技場整備経費を約2000億円削減し、約4584億円まで膨らんだ経費を約2469億円までに圧縮するとした。

 その後、IBC/MPCが設営される東京ビックサイトに建設する「拡張棟」は当初はIBC/MCPとして使用する計画だったが、レスリング・フェンシング・テコンドーが幕張メッセに会場変更となり、その建設費約228億円を五輪施設整備費枠から除外するなどさらに削減し、約2241億円となった。もっとも「拡張棟」は五輪大会準備を目的で建設されたものであり、計画が変更したとしても経費を負担することには変わりはないのだから、「見せかけ」の操作と思われてもしかたがない。
 2241億円のうち、新規施設の整備費が約1846億円、既存施設の改修費などが約395億円とした。

杜撰な開催経過の象徴 海の森水上競技場 若狭若洲オリンピックマリーナ
 海の森水上競技場は、カヌー・ボート競技の会場として東京湾の埋め立て地の突端にある中央防波堤内側と外側の埋立地間の水路に整備する計画である。
 全長2300mで、2000m×8レーンのコースが設置され、コース内の波を抑えるために、コースの両端に水門と揚水機を配置し水位のコントロールする。
 カヌー・ボートのコースとしては珍しい海水コースである。
 海の森水上競技場の整備経費は、招致段階では69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。
 海とコース水面との締め切り堤や水門、護岸工事を始め、コースの途中にかかる中潮橋の撤去、ごみの揚陸施設の移設などの工事が必要となったのがその理由である。
 若狭若洲オリンピックマリーナは、江東区若洲の埋め立て地の南端部分に恒久マリーナとして整備して五輪大会のヨット会場とし、大会後は東京都が所有して、首都圏だけでなく国際的なセーリング競技やマリンスポーツの拠点として活用していく計画だった。総観客席数は5000(うち立ち見3000)も整備して本格的なセーリング会場を目指した。
 若洲地区は東京ゲートブリッジで海の森水上競技場とも結ばれる予定で、大会後は水辺の森、水と緑に囲まれたエリアとして市民に親しまれる空間となるとした。
 しかし、埋立地のために地盤が悪く、護岸の大規模な改良工事が必要となり、整備経費は、当初の92億円から約4倍弱の322億円に膨れ上がった。
 ふたつの競技場の見直しの理由を見ても、当初から建設予定地の調査を適切にしていれば簡単に分かった懸案だろう。東京湾の海に面していて波の影響が心配しない建設計画がどうしてまかり通ったのか唖然とするほかない。
 こうした杜撰な整備計画の積み重ねで、「1538億円」から約3倍の「4584億円」に膨れ上がったののである。

 東京都は、開催都市として、2006から2009年度に「開催準備基金」を毎年約1000億円、合計約3870億円をすでに積み立てている。この「基金」で、競技施設の整備だけでなく、周辺整備やインフラの整備経費などをまかなわなければならない。東京都が負担する五輪施設整備費は、4000億円の枠内で収まらないのではという懸念が生まれている。競技場の建設だけで2241億円を使って大丈夫なのだろうか?

「コンパクト五輪」の破産
 東京オリンピック・パラリンピックの開催計画では、33競技を43会場で開催し、その内、新設施設18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設24か所を整備するとしている。既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では最大限既存施設を利用したと胸を張る。
 しかし競技場の変更は9か所にも及び、予定通り建設される競技場についても上記のように“迷走”と“混乱”を繰り返した。
  2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、選手村を中心に半径8キロメートルの圏内に85%の競技場を配置すると「公約」した。1964年大会のレガシーが現存する“ヘリテッジゾーン”と東京を象徴する“東京ベイゾーン”、そして2つのゾーンの交差点に選手村を整備するという開催計画である。しかし、相次ぐ変更で「世界一コンパクトな大会」の「公約」は完全に吹き飛んだ。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR


******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
******************************************************



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)

2023年03月01日 18時20分20秒 | 東京オリンピック
五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)






IOC マラソンと競歩の札幌開催 猛暑への危機感 
 2019年10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌開催に変更する代替案の検討に入ったと発表した。猛暑による選手らへの影響を考慮した措置としており、札幌は東京都内より五輪期間中の気温が5~6度低いことなどを理由としている。
 IOCは大会組織委員会や東京都、国際陸上競技連盟と協議を進める方針を示し、東京五輪の準備状況を監督する調整委員会を10月30日から都内で開催し協議するとした。「持久系の種目をより涼しい条件下で実施することは、選手と役員、観客にとって包括的な対応」と札幌開催の理由を述べた。
 五輪開幕まで1年を切り、IOCが会場変更を提案するのは異例の事態で、実現には難航も予想される。
 東京五輪大会のマラソン・競歩競技は、暑さ対策として、招致段階の計画からスタート時間を前倒しして、マラソンは午前6時、競歩の男子50キロは5時半、男女20キロは6時に変更した。しかし、10月6日に中東のドーハで閉幕した世界選手権では、高温多湿の猛暑を考慮して深夜スタートにしたのにもかかわらず、マラソンや競歩で棄権者が続出し、選手やコーチから強い批判を浴びていた。
 東京五輪のマラソンは、女子が来年8月2日、男子は同9日開催で、コースは新国立競技場を発着し、浅草寺、銀座、皇居などを巡る予定で、競歩は皇居周辺を周回するコースを予定していた。
 IOCのバッハ会長は「選手の健康は常に配慮すべき課題の中心で、マラソンと競歩の変更案は、IOCが懸念を深刻に受け止めている証だ。選手にベストを尽くせる条件を保証する方策である」と述べた。国際陸連のコー会長は「選手に最高の舞台を用意することは重要で、マラソンと競歩で最高のコースを用意するためにIOCや組織委などと緊密に連携していく」とした。
強く反発した小池都知事
 小池都知事は18日の記者会見で、強い不満を表明した。「アスリート・ファースト」に理解を示しながら、「開催都市と協議もなく、突如提案されたことに疑問を感じざるを得ない」として、「これまで準備を重ねてきた。東京で、という気持ちに変わりはない」と強調。30日から始まるIOC調整委員会で東京開催を主張する可能性を示唆した。 
 また小池氏は、15日に大会組織委員会の武藤敏郎事務総長から会場変更案の説明を受けた際、移転に伴う経費を「国が持つとおっしゃっていた」と明かした。これに対し、武藤氏は18日、都内で記者団に「そんなことは言っていない。国に頼んでみようかという話はした」と説明。菅義偉官房長官は同日の会見で「大会の準備、運営は都と大会運営委が責任を持ってするものだ」と述べた。
 マラソン・競歩の札幌開催経費の負担をどうするのかも焦点となった。
 9月15日に開催した五輪代表選手選考会を兼ねたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は、大会本番の検証を兼ねて、本番とほぼ同じコースで行われた。
 男子マラソンでは、1位になった中村匠吾(富士通)と2位になった服部勇馬(トヨタ自動車、女子マラソンでは1位になった前田穂南(天満屋)と2位になった鈴木亜由子(日本郵政グループ)がマラソン日本代表に内定した。
 東京都はこれまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策として約300億円を投入して、コースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を行い整備予定の約136キロのうち約129キロが完了している
 また東京都では、この大会で、沿道の50万人以上の観客向けに、暑さ対策として日よけテント設営や冷却グッズ配布などを行って本番に備えた。
 札幌移転計画が発表されたのは、東京都がこの検証結果を基に休憩所の増設など大会本番への方針を決めた直後で、関係者は「移転が決まれば従うしかないが、やりきれない思いもある」と落胆した。

「地獄」のドーハ世界選手権
 国際オリンピック委員会(IOC)が札幌開催の検討を始めた背景には、同じ高温多湿のドーハで9~10月に行われた世界選手権で棄権者が続出し、強い批判を浴びたことがある。スタート時間はマラソンが深夜11時59分、競歩は同11時30分。選手は急遽、錠剤型の体温計を飲み、深部体温を計測されながらレーズに臨む事態になった。
 女子マラソンはスタート時、気温32度、湿度74%。68人中、途中棄権は28人で完走率が60%を割ったのは大会初。天満屋の武冨監督は「2度とこういうレースは走らせたくない。昼やっていたら死人が出たのでは」と非難した。
 スタート時気温31度、湿度74%の男子50キロ競歩も完歩率は約61%。前回大会覇者、リオ五輪王者も含め、46人中18人が棄権。金メダルの鈴木も「50キロ持つか不安だった」と話し、東京五輪のコース変更を訴えた。「地獄だった」と表現した選手もおり、五輪への懸念が深まっていた。
 
IOCバッハ会長、札幌に「決めた」 五輪マラソン移転
 翌10月17日、バッハIOC会長は、カタール・ドーハで行われた各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会で、2020東京五輪大会のマラソン・競歩競技の開催会場について、「札幌に移すことを決めた」と発言した。
 札幌開催に向けて協議を行うということではなく、「決定」としたのである。
 バッハIOC会長は各国・地域の関係者を前に「IOC理事会は、東京の組織委員会と密に相談しながら、五輪でのマラソンと競歩種目を、東京から800キロ北にあり、気温が5~6度低い札幌に移すことを決めた」と明言した。そして「全てはアスリートの健康と体調を守るため。重要なステップだ」と胸を張って述べた。
 札幌開催に関して国際オリンピック委員会(IOC)の強気の姿勢がうかがわれる。
 これに対し、森喜朗組織委会長は「東京都は同意していないことをバッハ会長に申し上げた」としながら、「正直言って、相談してどうこう、ではない」と語り、札幌開催を容認する姿勢を示した。
 バッハ会長は、小池百知事に連絡する前に森喜朗組織委会長に相談し、了解をとっていたことが明らかになった。
 このことが小池都知事の強い反発を招くことになる。

 札幌開催を実現するには多くの難題を抱えている。
 コース設定からやり直す必要があるが、日本陸連幹部も「全く知らなかった」と驚きを隠せない。コース設定から仕切り直しとなると、陸上関係者からは「非現実的。1年を切った段階では厳しい」との声が上がる。札幌市では夏に北海道マラソンを開催しているが、運営面での準備期間は少なすぎるという深刻な懸念が生まれている。
 なにより開催都市、東京都と都民の国際オリンピック委員会(IOC)に対する反発が懸念される。これまで盛り上がってきた2020東京五輪大会の熱気を一気に冷やすことにつながりかねない。マラソン・競歩の札幌移転を契機に、都民のオリンピック批判が再び湧き上がる可能性も生まれてきた。

五輪マラソン札幌変更「決定だ」 コーツ調整委員長 知事に明言
 2019年10月25日、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は、東京都庁で小池百合子知事と会談し、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌に変更する案について「決定だ」と断言した。
 さらにコーツ委員長は、男女マラソンのメダリストの表彰式を閉会式で行うとともに、東京以外の都市で実施された競技の選手たちが閉会式参加を前に東京でパレードをする案も示して、札幌への変更に理解を求めた。
 これに対し、小池知事は「一生懸命準備してきて、都民もがっかりしている。納得できる説明がない。いきなり最後通牒となっているのは、まったく解せない」」とし、「東京でマラソンと競歩を行うと気持ちに変わりはない。(30日から始まる)IOC調整委でしっかり議論していきたい」と反論した。
 しかし、コーツ委員長は、「(札幌開催は)は決定事項だ。東京が主張したらどうするという問題ではない」と断言した。
 小池都知事は、仮に札幌開催になった場合は、追加経費(都民ファースの試算では約340億円)は「都が負担する考えはない」と明言した。一方、コーツ委員長は、V3予算案に計上している予備費の存在を指摘した。
 ドーハの大会では、酷暑をさけて男子マラソンも女子マラソンも異例の深夜11時59分スタート、それでも女子マラソンがスタートした9月28日の深夜は気温32.7度、湿度73.3%という過酷な気象条件だった。女子マラソンの68人の出場選手の内、約40%の28人が棄権、ゴール後に39人が救護所に担ぎ込まれたというまさに「命がけ」のレースとなった。コーツ委員長は、ドーハと東京は気温や湿度という気象条件で極めて似ているとした。
 東京都は、午前6時のスタートをさらに1時間早めて午前5時にスタートするという案を検討しているとしたが、コーツ委員長は、午前5時ではまだ暗闇でマラソンコースの景色が伝わらないし、放送用のヘリコプターが飛べないとして「午前5時案」を一蹴し、酷暑対策から見ても「スタート時間を早めても意味がない」と述べた。
 また小池都知事は、「とにかくプロセスが納得できない。東京都はこれまで調整・準備を行ってきて、警備・交通規制、沿道、宿泊などあらゆる観点から検討してきた。(今年の7月に来日した)IOCのバッハ会長は東京都の準備状況を高く評価していた」と憤り示した。
 東京都は、これまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策としてコースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を、都道約136キロを対象に進めてきた。すでに約129キロ、大半が完成している。 さらに、コースの給水所にポリ袋に砕いた氷を詰めた「かち割り氷」、ゴールには氷入り水風呂を用意する。かち割り氷は選手が走りながら体を冷やせるほか、水風呂はゴール後に熱射病の症状が見られる選手に対処するためである。観客の暑さ対策でも、日よけテント設営や冷却グッズ、手回し扇風機を配るなど検証を重ねている。
 こうした暑さ対策で、東京都はすでに約300億円を投じたとしている。札幌開催が実現すればこうした経費は水泡に帰すことなる。

五輪マラソン・競歩 札幌開催めぐり協議開始
 10月30日、東京・晴海で、国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会が、ジョン・コーツ委員長や森喜朗大会組織委員会委員長、小池百合子東京都知事、橋本聖子五輪担当相が出席して3日間の予定で始まった。
 会議の冒頭で、コーツ委員長は、「10月16日にIOC理事会はマラソンと競歩の札幌での開催を決定した。この決定は迅速に決まった。IOC理事会がなぜこの決定をしたか東京都民からの理解を得なければならない。コンセンサスが得られず、良好な関係が築けないままで、日本を離れる気持ちはない。IOCがなぜこの決定をしたのか理解してもらいたい」とした。これに対し、小池都知事は、「10月16日にIOCから東京五輪のマラソンと競歩に関して突然会場変更計画の発表がバッハ会長から発せられた。東京都や都民にとっては大変な衝撃で、都や都議会になんら詳しい説明のないままの提案で、開催都市とは何なのかとのとの怒りの声寄せられている。開催都市の長として都民の代表としてマラソンと競歩の東京での開催を望みたい」と述べ、「開幕まで9カ月と切って準備が総仕上げの段階で開催地の東京に最後まで相談のないままこのような提案が行われたことは極めて異例の事態」と強く反発した。IOCからの札幌開催についての連絡が、東京都が一番遅くなって「蚊帳の外に置かれ、しかもなんの事前の協議もなくいきなり「決定」とされたことに猛烈に反発した。
 これに対して、橋本五輪担当相は、「競技会場は、開催都市契約を締結した当事者のIOC、東京都、大会組織委員会の間で協議するものと考えている」として協議を見守る立場を表明した。また森組織委会長は、「大会まであと9か月という中で、納得できる結論を出すことが重要」とし、「ラグビーW杯で『ワンチームの精神』は日本国民に感銘を与えた。この動きを五輪につなげることが大事だ」として小池都知事を牽制した。
 コーツ委員長は、「すでにIOCの決定は進んでいる。国、東京都、大会組織委員会、IOCの四者で実務者会議を立ち上げて実務者協議を行うことを提案したい。実務者会議には選手が選手村から競技会場に移動する輸送部会とオリンピックの遺産をどう残すのかをテクニカルな議論する部会の二つの部会も設置したい」と述べ、11月1日に再びトップレベルで四者協議を行いたいとした。
 東京都は、実務者協議で、▼経緯の説明、▼マラソン東京開催の可能性、▼競歩東京開催の可能性、▼暑さ対策、▼東京開催を望む都民の声、▼会場変更、▼財政負担の7つの項目について議論をしたいとしている。
 一方、大会組織委員会は、札幌開催で新たに生じる経費をすべてIOCに負担を求めることとし、東京都には一切、負担を求めない方針と伝えられている。札幌開催のコースは札幌マラソンをベースにしながら、スタート地点を大通り公園にするという案をIOCに提案する方向とされている。また、パラリンピックのマラソンについては、国際パラリンピック委員会(IPC)は東京開催(9月6日)を確認している。
橋本聖子五輪担当相は、10月19日に札幌で、「ドーハの世界陸上で棄権したアスリートが考えていた以上に多かったことに関して、相当な危機感を持って決断した」とし、札幌開催に理解を示し、IOCへの信頼感を示した。スピード・スケートや自転車競技で世界を舞台に活躍したアスリートとして、酷暑での過酷なレースの開催に反発していたのであろう。また森組織委会長も「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」として、IOCの決定を容認する姿勢だ。
 また札幌市は、2026年の冬季五輪大会の招致を目指していて、マラソンと競歩の札幌開催に前向きである。
 あくまで東京開催を主張する小池都知事は孤立し、札幌開催の包囲網はすでに出来上がっている。また五輪憲章では、競技会場の選定についてはIOC理事会の権限を幅広く認められていてのでIOCの決定を覆すのは難しい。札幌開催は既定方針として、経費負担や開催日、コース選定などの条件に絞られていると思われる。小池都知事の「苦渋」の決断が求められた。東京都にとっても、札幌開催を巡っての混乱が長引くことで、2020東京五輪大会全体に悪影響が及ぶことが最大の懸念材料となった。

マラソン・競歩札幌開催費は誰が負担する? 破たん寸前V3予算「1兆3500億円」
 東京五輪大会の開催経費は、東京都、国、大会組織委員会の3者で協議を重ね、2018年12月21日、総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表している。 
 V3予算では、1兆3500億円とは別枠で、「予期せず発生し得る、緊急に対応すべきき事態等に対処する」として1千億円から最大で3千億円の「予備費」を設けている。予測できない天変地異やテロ発生、大規模災害などに対処する経費とした。
 しかし、この「予備費」は、財源の裏付けがなく、東京都、国、大会組織委員会の誰がどれだけ負担するのかが決まっていない。曖昧な性格のままに放置されている。
 実は、この予備費とは別に、大会組織委員会は「調整費」として、350億円をV3で計上している。今後、新たな支出が発生してきた場合に対応する大会組織委員会の予備費である。
 しかし、酷暑対策費が膨らむことが確実になっていることや交通対策費や警備費も増えることなどで、大会組織委員会の財政状況は極めて苦しい。300億円以上といわれている札幌開催経費を負担することは不可能なのは明らかである。
 小池都知事は、10月15日に武藤事務総長から説明を受けた際、「国が持つ」と伝えられたという。一方、大会組織委員会の森会長は17日、「『IOCが持ってください』と、そういうことを言わないといけない」と述べた。一方、菅官房長官は18日、「東京大会は東京都が招致して開催するもの。その準備・運営は東京都と大会運営委員会が責任を持ってするものであると理解している」と述べ、コーツIOC調整委員長は、「大会予算の予備費で充当して欲しい」として、真っ向から食い違っている。
 小池都知事は、経費は「原因者が負担すべき」と主張する。2020東京オリンピック・パラリンピックの経費は東京都が開催地を含めて提案したらこそ負担するのであって、札幌開催の経費は積極的であれ、消極的であれ、それをやりたい人が負担すべきであると主張する。
 IOCの主張通り、仮に予備費から支出する場合は、按分はどうするかは別にして、国、大会組織委員会で負担することになる。
 2016年末に、海の森水上競技場、オリンピックアクアティクスセンター、有明アリーナの会場建設を巡って、小池都知事と森大会組織委員会会長、コーツIOC副会長との間で激しい対立が繰り広げられたのは記憶に新しい。
 マラソンと競歩の札幌開催を巡って、三つ巴の攻防戦の第二幕が切って落とされた。

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承
 11月1日昼、東京・晴海でマラソンと競歩の札幌開催を巡って国際オリンピック委員会(IOC)、国、東京都、大会組織委員会で調整委員会(四者協議トップ級会合)が開かれ、札幌開催が合意された。
 会合の冒頭で、コーツ調整員会委員長から、4つの号事項が示され、▼会場変更の権限はIOCにある、▼札幌開催で発生する新たな経費は東京都に負担させない、▼既に東京都が大会組織委員会が支出したマラソン・競歩に関する経費については、精査・検証の上、東京都が別の目的で活用できないものは、東京都に負担させない、▼マラソン・競歩以外の競技は、今後、会場変更をしないとした。
 これに対して、小池都知事は「東京開催がベストだが、大会を成功させるこが重要なことに鑑みて、IOCの最終決定を妨げることはしない。『合意なき決定』だ」と札幌開催に同意することを表明した。
 この日朝、四者協議に先立って、バッハ会長は、小池都知事に直接メールを送り、マラソン開催地の札幌移転にともない、使用されなかった都内のマラソンコースを活用して、大会閉幕後、「オリンピックセレブレーションマラソン」を開催したらどうかという提案していたことが明らかになっている。
 小池知事はIOCからの突然のコース変更提案に、準備に心血を注いできた都民は失望しているとして、IOC側に「ぜひとも、誠意ある対応を示す必要があると繰り返してきた」と指摘。その上で「(バッハ会長から)真摯なメッセージを頂戴した」と評価して、今後、この新イベントについてIOCとともに具現化していくことに意欲を示している。
 バッハ会長の対応の巧みさが際立つ新提案で、これで札幌開催の合意に向けての流れが決まった。
四者会合で小池都知事は「地球温暖化の影響でこれから夏はさらに暑くなり、7月~8月の大会開催は、北半球のどこの都市で開催しても、暑さの問題が生じて無理がある。アスリートファーストの観点でIOCは五輪大会の開催時期をよく考える必要がある」と今後の五輪大会に向けてクギを刺した。
 これに対して、コーツ委員長は「『アジェンダ2020』ですでにオリンピック憲章を改正し、協議の開催地は開催都市以外や、場合によっては開国以外の開催も認められることになっている」と応じた。
 一方、10月30日、国際陸連などが札幌開催に向けて、マラソンと競歩の計5種目を3日間で開催する2案をまとめたことが明らかになった。いずれの案も男女のマラソンを同じ日に実施する計画である。
 変更案の一案は8月7日に男女20キロ競歩、8月8日に男子50キロ競歩を実施。マラソンは女子と男子を同じ日の8月9日に行う。
 二案は5種目を7月27~29日か7月28~30日に3日間で行う。男女マラソンは同日開催するが日にちは明示していない。二案の場合は新国立競技場で陸上競技のトラックが始まる7月31日以前の開催になり、同じ時期に東京と札幌の2カ所に分かれて陸上競技を行うことが避けられる。
 国際陸連は参加の各国・地域の連盟に対し、2案のどちらを望むかを10月31日までに回答するよう求めている。


四者協議トップ級会合 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長と小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影



際立った森組織委会長と武藤事務総長の手腕」
 IOCの札幌開催案を受けて、森組織委会長は東京都内で記者団に「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」と述べ、いち早くこれを容認する姿勢を示した。
 IOCより札幌開催の一報を聞いて、森組織委会長は、武藤事務総長と二人だけで善後策を協議したという。最大の問題は小池都知事をどう納得するかが焦点だった。小池都知事が経費負担にこだわっているのを察知して、当初は予備費で札幌開催経費をまかなうという意向を示したIOCを説得して、全額IOC負担とし、東京都には一切負担させないことで小池都知事を納得させる戦略をとった。
 その一方で、IOCが負担するという札幌開催の経費増加分は、選手や大会関係者の旅費や宿泊費など一部で、大会運営費はもともと予算化されている上、札幌開催の方が東京開催よりコンパクトになる可能性大きいため、きわめて限定した額にとどまる見通しを持ったと思われる。コース整備も札幌マラソンのコースをフル活用したり周回コースにすることで最小限に抑えられる。また、東京都がすでにマラソン開催の準備に支出した経費の補填についても、道路の遮熱舗装などは、マラソン開催だけの目的ではなく、東京の街全体の暑さ対策を進めるインフラ整備費、「レガシー経費」とされた場合は、五輪開催経費の対象にはならないため、すでの東京都が支出した300億円のほとんどは対象にならないと可能性がある。元財務次官の切れ者の武藤氏であれば、簡単に見抜くことができたであろう。残されたのは、都民の反発や不満、落胆といった感情をどう抑えるかである。こうした感情が反オリンピックにつながるがIOCにとっては大きな痛手だろう。バッハ会長は、2020五輪大会終了後、東京都が準備したマラソンコースを利用して「オリンピック・セレブレーション・マラソン」を開催することを提案して、都民の感情に配慮する「切り札」を切った。
 札幌開催を巡る騒動では、森会長と武藤事務総長の沈着冷静な老練な手腕が際立った。IOCに札幌開催経費を負担させることでで東京都を納得させる根回しを行ったと思われる。大会組織委員会とIOC、タッグを組んで、周到に小池都知事の包囲網を張ったのである。今回の一件で、大会組織委員会はIOCの一層の信頼感を得てポイントを挙げた。

マラソンと競歩は真夏の東京開催を断念せよ 「アスリートファースト」の理念は何処へ行った?
 マラソンと競歩の札幌開催に強く反発する小池都知事は、これまで開催準備を進めていく際のコンセプトとして、「アスリートファースト」を何度も強調してきた。
 地球温暖化の異常気象が原因なのか、ここ数年の東京の真夏の酷暑は異常である。
 そもそも東京の8月に五輪大会を開催しようとするのが無謀な計画だろう。
 マラソンは、本来はスピード、走力、持久力を競う競技で、「暑さ」の「我慢比べ」を競う競技ではない。東京の真夏でレースはまさに「命がけ」のレースを選手にしいることになる。こうした競技運営は「アスリートファースト」の理念とはまったくかけ離れている。IOCの意思決定のプロセスや経緯は大いに批判されてしかるべきだ。しかし、五輪大会は「アスリートファースト」でなければならいだろう。小池都知事は酷暑の東京でのマラソンや競歩開催に固執して「アスリートファースト」の理念は放棄するのか。
 今回の札幌移転について、IOCの強引な進め方については、強く批判されてしかるべきだろう。今後の五輪の運営について禍根を残した。
 しかし、そのことは別にして、筆者は、マラソン・競歩の札幌開催は大賛成である。東京開催を支持する専門家もいるが、選手に「命がけ」のレースを強いて、なにがスポーツなのかまったく考えていないことに唖然である。
 経費が問題なら、札幌大会は本来の東京大会のコンセプトである「コンパクト」な競技会にすればよい。マラソン・競歩だけでなく水質汚染や水温が問題化しているトライアスロンやマラソンスイミングもきれいな海で泳ぐことができるように会場変更すればよい。東京以外で開催することになぜ抵抗するのだろうか。
 どうしても東京でマラソン・競歩を開催したければ、開催時期を秋や冬の期間にずらして行えばよい。競技を集中させなければならいない理由はなにもない。あるのは、一極集中にこだわり巨大な利益を守ろうとする商業主義だろう。
 オリンピックの肥大化や行き過ぎた商業主義が批判されてから久しい。競技の開催地や開催時期も分離することで、「アスリートファースト」の理念の下で「世界一コンパクト」な大会を目指すべきである。

難航 札幌移転 経費分担
 のマラソン・競歩の札幌開催は、東京都が費用負担しないことを条件に受け入れる形で合意した。IOCは「アスリートファースト(選手第一)」を理由に押し切ったが、肝心の費用分担の議論は先送りされるなど課題は山積している。開幕まで9カ月を切ったが、難問は抱えたままである。
 急遽決まった札幌移転に伴う追加費用の試算はIOCも組織委は行っていない。都議会最大会派の都民ファーストの会が先月25日に示した「340億円超」との見積もりも「根拠があいまい」(組織委関係者)との見方が多い。
 都外開催の経費負担については2017年5月、国、都、組織委の協議で枠組みを決めている。①大会後に撤去する観客席などの仮設施設の整備費(約250億円)は都が負担②国や民間が保有する施設の改修費(約250億円)を組織委が支出③警備や輸送などの運営費など約350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てる。今回は国際オリンピック委員会(IOC)の一方的な措置として、都は費用負担を拒んだ。
 コーツ調整委員長は、四者協議で、東京都には札幌移転経費を負担させないとしたが、誰が負担するのかは明らかにしていない。国際オリンピック委員会(IOC)が負担するとは一切、言及していないのである。
 IOCは、一貫して大会組織委員会予算の「予備費」をあてにする姿勢を崩していない。
 「予備費」は、「1兆3500億円」とは別枠で、災害など予期せぬ事態に対応する費用として1000億~3000億円がV3予算で計上されている。しかし財源は決まってなく、組織委にチケット販売などによる増収分があれば充当するが、なければ都か国に負担が回る仕組みである
 コーツ氏は今後の費用分担の協議相手として札幌市と北海道も対象もげる。ただ鈴木直道・北海道知事、秋元克広・札幌市長とも「大会運営経費は組織委負担が原則」として都外の他の自治体同様、雑踏警備など通常の行政の範囲内の支出にとどめる姿勢だ。組織委内では今回はIOCの判断による移転のため、IOCがチケット販売に伴う取り分(総収益の7・5%)を充てることを望む声が上がっており、既に水面下での綱引きが始まっている。
 大会組織委員会としては、「1兆3500億円」の枠組みを死守しなければならいない中で、大会経費を押し上げる可能性のある札幌移転という難題を抱えた。
 国際陸上競技連盟はマラソン・競歩競技の5種目の開催予定を、これまでの5日間開催から3日間に短縮し、経費を抑制する方向で協議を始めたが意見の集約には時間がかかりそうだ。まだまだ迷走は終わらない。

マラソン札幌開催で費用合意 運営費は組織委とIOC、道路整備は道と市
 11月8日、大会組織委員会と北海道、札幌市の協議が開かれ、移転経費について、競技運営に必要な費用は組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、道路整備など行政に関わる経費は道と市が持つことで合意した。
 東京大会は都外にある会場でも仮設施設の整備費は都が負担が、マラソンと競歩の経費は東京都は負担せず、組織委とIOCが受け持つことが決まっている。組織委の武藤敏郎事務総長は鈴木直道・道知事や秋元克広・札幌市長に方針を伝え、記者団に「都が負担するはずだったものを道や市が支払うことはない」と述べた。組織委はIOCに、応分の負担を求めるとした。



大会開催経費 1兆3500億円を維持 組織委員会予算 V4発表
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。
 2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費、約8100億円を加えると、「五輪開催経費」は「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。



V4予算


V4予算(大会組織委員会)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


小池都知事vs森会長 対立激化 小池氏「海の森」見直しに動く 舛添前知事 競技場整備に大ナタ 五輪巨大批判でバッハ会長窮地に
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


海の森、アクアスティックセンターは建設、バレー会場先送り 開催経費「2兆円」IOC拒否 組織委「1兆8000億円」再提示 組織のガバナンス欠如露呈
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


東京都 海の森水上競技場などの競技場整備見直しで413億円削減 V2予算1兆3500億円に 東京都「五輪関連経費」 8100億円を公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)


五輪マラソン札幌移転の攻防 V4予算1兆3500億円維持 会計検査院報告 開催経費1兆600億円
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)


“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
大会経費総額1兆6440億円  V5公表
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (6)


東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (7)



2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

*************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
*************************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 4者協議 トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長 実務者会合

2023年03月01日 12時07分21秒 | 東京オリンピック
混迷を繰り返した四者協議~組織委・東京都・国・IOC~
ガバナンスの欠如を露呈した2020東京五輪大会運営




深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承(2019年11月1日)


コーツIOC調整委員長と小池東京都知事 2019年11月1日 筆者撮影





五輪開催経費(V3予算) 「1兆3500億円」維持 削減できず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、東京2020大会の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月22日に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 武藤敏郎事務総長は、国際オリンピック委員会(IOC)の要請に答えて、V3ではさらに経費削減に努める考えを示していたが、開催計画が具体化する中でV2では計上していなかった支出や金額が明らかになったほか、新たに発生した項目への支出が増えて「圧縮は限界」として、V2予算と同額となった。
 
「350億円」縮減 「1兆3500億円」(V2)
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。2017年5月に東京都、組織委、国で総額1兆3850億円とした大枠合意から更に350億円削減した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 国際オリンピック委員会(IOC)は10億(約1100億円)ドルの経費節減を求めていたが、V2では「350億円」縮減に留まった。組織委の武藤敏郎事務総長は来年末発表するV3では削減にさらに努める考えを示した。

開催経費「1兆3850億円」 都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円
 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費

 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」である。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円、今回の「1兆3850億円」も同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、圧縮経費の詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。

 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。



第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料

“青天井”? 五輪開催経費
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる“操作”が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、“大会成功”という大義名分が先行して、“青天井”になることが往々にして起きる。
新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
2020東京大会のキャッチフレーズ、“世界一コンパクな大会”はどこへ行ったのか。


東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念“世界一コンパクト” 競技会場の全貌

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」




東京五輪の経費 最大1兆8000億円 四者協議のトップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。









開催経費「1兆8千億円」は納得できるか?
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須である。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。


「開催費用1兆8千億円」だったら東京五輪招致を世論は支持したか?
 組織委員会は「開催経費は決して膨れ上がっていない」と胸を張っているが、当時想定できなかった経費がその後加わったのか、想定はしていたが大会開催経費をなるべく少なく見せるために意識的に加えなかったのかはよく分からない。しかし、森喜朗会長自らTBSのニュース番組(2016年5月16日)に出演し、当初の大会予算について「最初から計画に無理があったんです。「3000億でできるはずないんですよ」と述べていた。
 舛添前都知事も「舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とした上で、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とテレビ番組に出演して話している。
 あっさり「1兆8000億円」と言ってもらいたくない。
開催費用を巡ってはまさに“無責任体制”のまま進められていたのである。
 2020東京五輪大会に立候補する際に、「開催費用 1兆8千億円」としたら、都民や国民は招致を支持しただろうか。招致の責任者の説明責任が問われてもやむを得ないだろう。


「組織委員会5000億円」 収支支均は帳尻合わせ
 12月21日に開催された4者協議で、森組織委会長は「決して組織委員会のお金が5000億で、それより大きくなったので、その負担をなにか東京都と国に押し付けているのではないかいという報道がよくあるが、これはまったく違う」と述べた。
 組織委員会の提示した予算は、「組織委員会」が「5000億円」で「収支均衡予算」、東京都や国、開催自治体が「1兆3000億円」とした。
しかし、実態は、組織委員会の収入は「約5000億円」、収入から逆算して組織委員会の負担を「5000億円」に“調整”して、残りの「1兆3000億円」を、組織委員会以外の東京都、国、開催地方自治体の負担としたのであろう。なりふり構わず苦し紛れの“帳尻合わせ”予算と見るのが合理的である。
組織委員会が負担すべき経費は、精査して積み上げたとしているが、どの経費を、いくらを合理的に積算したかは明らかでされていない。
その象徴が、仮設関連経費だ。予算書では、「組織委員会」が「800億円」、「その他」が「2000億円」としたが、どんな根拠で、どのように仕分けしたのか明らかにしていない。その他、「ソフト[大会関係]」の輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーションもどうようだ。「予備費」を全額「その他」に計上するのも、組織委員会の予算管理の責任を曖昧にすることにつながりかねない。
新国立競技場や海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンター、有明アリーナなどの東京都が整備する恒久施設の経費は、すでに整備費が見直され、誰がどれだけ負担するか明らかになっている。同様のプロセスが必須だ。
 組織委員会の予算を、なにがなんでもなりふり構わず“均衡予算”にしないと、IOCの了解が得られなかったからであるからであろう。“みせかけ”の“均衡予算”になった。その“矛盾”は直ちに露呈するだろう。
 組織委員会が本来負担すべき経費を適正に積算して、総額がいくらなのかをまず明らかにするべきだろう。その上で、立候補ファイルの「3013億円」と比較して、経費が膨れ上った原因を明らかにすべきだ。
その上で、“帳尻”合わせの“操作”をしないで、“組織委員会の“赤字”は一体、どのくらいになるのかを明らかにし、責任の所在を明確にすることが必要だ。東京都や国、開催自治体に負担を要請するのはその後である。
 このままでは、組織委員会の開催予算管理の“杜撰”な体質が一向に改まらない懸念が大きい。


五輪開催経費 大会組織委、東京都、国の負担割合は不明瞭
 そもそも「1兆8千億円」には、大会組織委員会が負担する経費だけではなく、東京都や国が負担する経費も含まれている。立候補ファイル(2012年)でも、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算 東京都や国、地方自治体が負担する予算)に分けて開催予算を提示している。

 「警備費」は、「組織委員会」が「200億円」、「その他」が「1400億円」とした。 競技会場や選村、IBC/MPCなどの施設内や施設周辺の警備費は、組織委員会が負担するのは当然で、「200億円」の負担は少なすぎる。大会組織委員会の負担をなるべく少なく見せかけ、帳尻合わせをしたと思える。
 一方VIP関連の輸送、交通機関や主要道路、成田空港や羽田空港、さらに霞が関の政府機関、東京都庁や主要公共機関、電力・通信などの主要インフラ施設など警備まで組織委員会の経費で負担させるのは合理性を欠く。国の責任が重要となる。伊勢志摩サミットでは国が約340億円の警備費を負担した。東京五輪大会の規模ともなるとこの数倍は楽に超えるだろう。国は五輪に関わる警備費は一体いくらになるのか明らかにする必要がある。

 また「輸送費」ついては、「組織委員会」が「100億円」、「その他」が「1300億円」としたが、選手や大会関係者のシャトルバス運行に伴う経費などは組織委員会が負担するのは当然だろう。地方開催の場合の選手や大会関係者の輸送も大会の責任だろう。これも「100億円」とするの過少計上である。
 しかし、VIPの選手や大会関係者の輸送に伴うオリンピック専用レーンの設置は、首都高速道路、湾岸道路などに広範囲に必須とされているが、その約200億弱とされている通行制限に伴う高速道路会社への補てん費等は、東京都や国なども応分の負担するのは当然だろう。組織委員会と案分するのが筋である。

 「テクノロジー」や「オペレーション」については、それぞれ総額「1000億円」としたが、 内訳が示されていないため、経費総額の根拠が極めて曖昧になっている。
 「組織委員会」と「その他」の仕分けは、ほぼ折半とされているがこれも不明瞭だ。
しかし今回は、「1000億円」は総額だけが記入されているまったく白紙同様の請求書を組織委員会が国、東京都に出したのである。これでは到底、納得することはできないだろう。
 「その他」の経費、「1150億円」は巨額だが、内訳が明らかでない。精査する必要が必須である。
 また「3000億円」としている予備費を国や東京都などの「その他」に計上していることは納得できない。組織委員会の予算管理責任を曖昧にするからである。
 森組織委会長は「そして運営だとか場所の設定だとかその他もろもろのことがこれからある。改装の問題、エネルギーの問題、セキュリティの問題、いろいろある。セキュリティひとつにしてもどこが持つのか、やってみなければわからない。何が起きるのか不確定要素は多い。この東京大会は、特に夏だし、あるいは台風の多い時だ。何があるかこれからわからない。まだ3年、4年先の話だ」と述べている。
自然災害や不測の事態が発生して、開催経費が膨れ上がり、予備費で補填するのはやむを得ないだろう。一方、組織委員会の予算管理を厳重に監視する必要がある。東京五輪大会の開催経費を巡る“混迷”を振り返ると、新国立競技場や海の森水上競技場など、その“青天井”体質への歯止めが必須だ。













地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、 「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。
その後、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。



海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費297億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円3000億円以上を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事 四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル


小池都知事が主導権 四者協議トップ級会合
 四者協議トップ級会合は当初、一部非公開で議論される予定だったが、小池百合子都知事の意向で完全公開となった。会合後に記者団に対して、小池知事は、「フルオープンでない部分があると聞いて、だったら最初から結論を言ったほうがいいと思って、そのようにした」と述べ、変更した理由を明らかにした。まずは異例の“全面公開”の会合にすることで小池都知事のペースで始まった。
 小池都知事は、議論を後回しにして、冒頭で「ボート・カヌー会場は海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンターは予定通り建設、バレーボール会場は先送り」の東京都案を明らかにした。これに対して組織委員会は不満の意を唱えたが、進行役のコーツIOC副会長が引き取って、IOCとして東京都案を支持すると表明し、東京都案はあっさり承認された。
 小池都知事は会合開始直前に、コーツ副会長に“直談判”をして、“全面公開”と“バレーボール会場の先送り”を承諾してもらったことを、報道ステーション(11月30日)に出演して、明らかにしている。小池都知事は、ボート・カヌー会場を海の森水上競技場することの“見返りに”、バレーボール会場の先送りをIOCに認めさせたのであろう。IOCは、渋々認めたというニュアンスが、「(横浜アリーナの検証作業は)大変な作業になる。野心のレベルが高い作業だ」(コーツ氏)という発言から伺える。
 また小池都知事は、「日常的にメールでコーツ副会長とは連絡を取り合っている」(報道ステーション)と、コーツ副会長とのホットラインが築かれていることを明らかにした。どうやらIOCとのパイプは、森氏だけではなくなったようである。会合が終わって、真っ先に小池都知事がコーツ副会長に近づいて笑顔で握手をしていた。 
 森組織委会長は、東京都のバレーボル会場の横浜アリーナ案について強く反発し、「クリスマスまで何を検証するのか」とか「僕の知りうる情報では横浜の方が迷惑していると聞いている」としたが、これに対して小池都知事は「横浜市にも賛同してもらったところで、お決め頂いたら是非やりたいという言葉を(横浜市から)もらっていた」と反論した。
 双方、言い分がまった違うので、一体どうなっているのかと思ったら、会合終了後、組織委員会から記者団に対して、「先ほどの森組織委会長の発言は、“迷惑”としているのは事前に何の相談もなかった競技団体で、『横浜』ではありません」と訂正要請がされた。森組織委会長は小池都知事にボート・カヌー会場の見直しや横浜アリーナ案に対して、たびたび強い口調で批判をし、両者の間に“火花”が散っていた。
 ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。積極的に是非やってほしいという言い方はとてもできない」と微妙な立場を述べている。
 また横浜市は東京都と組織委員会に対して、書面(11月25日付)で「国際、国内の競技団体、さらにIOCの意向が一致していることが重要」とか「(民有地を利用する際の住民理解や周辺の道路封鎖などは)一義的に東京都や組織委員会が対応すべき」と事実上難色を示しているこが明らかになった。横浜市は、四者協議の資料として提出したもので、具体的な内容は「配慮のお願い」で新たな意思決定ではないとした。
 さらに開催費用の議論については、東京五輪大会をめぐる“迷走”ぶりを象徴している。
 森組織委会長は、「“3兆円”を国民に言われるとはなはだ迷惑だ」と都政改革本部を批判した。これに対して小池都知事は「“3兆円”は予算ではなく、大会終了後、結果として総額でいくらかかったかを試算するものだ。予算段階では公にできないものもある」と反論した。また森組織委会長は、「警備費や輸送費などは国が持つことを検討してほしい」と述べたのに対し、丸川五輪相は「平成23年の閣議了解で大会運営費は入場料収入や放送権収入でまかなうとしている」と述べ、否定的な姿勢を示した。IOCのメンバーを前に、開催費用や費用負担を巡って、組織委員会、国、都がバトルを繰り広げたのである。コーツIOC副会長は、「関心を持って聞いた」としたが、本音、何ともお粗末な東京五輪の運営体制と唖然としたに間違いないだろう。東京大会の招致で高らかに世界各国に訴えた“マネージメント力の卓越さ”は一体、どこへいったのか? 
 組織委員会は、開催費用の総額を“2兆円”とトップ級会合で明らかにして四者協議でコンセンサスを得たいという思惑があったと思える。しかし、IOCから“2兆円”は高額過ぎると批判を浴び、結局、“2兆円を切る”というおおまかなことしか明らかにできなかった。組織委員会は東京五輪の開催経費の総額と詳細を今回も示せなかった。その“2兆円”もIOCから否定され、さらに大幅に削減するように求められた。組織委員会の面目はまるつぶれ、お粗末さを露呈した。IOCにとって、“経費削減”、“肥大化の歯止め”は、五輪大会の持続性を確保するために至上命題なのである。“2兆円”を1兆円以上切り込む必要が迫られている。その対象は競技場の建設費ではなく、組織委員会が管理する大会運営費である。瀬戸際に立たされたのは組織委員会だ。
 一体の東京五輪の開催経費の総額は、いつ明らかにされるのだろうか? 個々の競技場の建設費問題よりはるかに重要だ。
 東京五輪の“迷走”と“混乱”はまだまだ続きそうだ。


主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長


実務者作業部会再開 隔たりは埋まらず難航 結論はトップ級会合に先送り
 2016年11月27日、東京都、政府、組織委員会、IOC=国際オリンピック委員会の4者協議作業部会が再び開かれ、競技会場の見直しや開催経費削減などについて議論が行われた。
 作業部会はIOCのデュビ五輪統括部長、都の調査チームの上山信一慶応大教授、組織委の武藤敏郎事務総長などが出席し出席非公開で行われ、焦点のボートとカヌー、バレーボール、水泳の3つの競技会場を中心に、6時間に渡って議論が行われた。競技会場の見直しについては、東京都の提案を元に、11月初めの第一回会議で課題の洗い出しが行われ、その後、候補となっている会場の視察や費用の分析が進められてきた。
 会議終了後、IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長は「各競技会場について詳細に検討した結果をトップ級会合に提示する。その場で最終的な決断するのか、さらに検討を求めるかは彼ら次第だ」と述べ、トップ級会合で最終的な“結論”を出すとしたが、先送りされる可能性も示唆した。一方、小池都知事も「決まるものは決まるかもしれないし、決まらないものは先に送ることになるかもしれない。明日の協議次第だと思っている」と先送りの可能性について述べている。仮に海の森水上競技場や有明アリーナが、計画は変更されるにしても予定通り建設されることになれば、それと“引き換え”に、小池都知事はIOCや組織委員会に経費削減策の具体策を求めることになるのは必至だろう。
 最終的な“結論”に至るかどうかの主導権は小池都知事に握られているのである。
 29日のトップ級会合は公開予定で、民放の午後の情報番組やNHKでは生中継も行われる。
 3会場のうち、バレーボールは当初計画の有明アリーナ(江東区)新設、横浜アリーナ(横浜市)活用の2案を中心に最終調整している。最も時間を費やして議論をしたとされている。東京都案としてバレーボール会場に急浮上した国立代々木競技場は、結局、議題には上がらなかったとされ、事実上、代々木案は消滅したと見るむきもあるが、トップ級会合で浮上する可能性もあり、。議論は難航しそうだ。ボート・カヌー会場は湾岸部に新設する海の森水上競技場を仮設施設として整備する方向が有力、大会開催後の利用の見通しについても議論された。オリンピック アクアティクスセンターは、観客席を計画の2万席から1万5千席に削減する案が検討されたが、特に異論はなかった模様だ。
 また、大会経費を抑える新たな仕組みについて具体策の検討が行われた。資材を安く調達したり、第三者による専門家チームが費用の妥当性を検証したりするなど、民間の手法を取り入れる方針だ。
 東京大会の開催費用については、東京都の調査チームは総予算が“3兆円”を超える可能性があるとしたが、四者協議作業部会は、“2兆円”との試算のをまとめ、トップ級会合に報告する予定だ。IOCは組織委の資材調達費用が高すぎる点などを見直し、経費削減を指示していたと伝えられている。
 これでようやく東京大会の開催経費の総額が初めて公式に明らかにされることになった。しかし、これが開催経費問題の“終着点”ではなく、これから開催経費の具体的な項目を個別に厳しくチェックし、経費削減をさらに図る努力が必須だ。これまでの予算管理のの“青天井”体質とは決別しなければならない。
(参考 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 NHK 時事通信 2016年11月28日)

「四者協議」の実務者作業部会 見直しの結論の方向性は出さず
前面に出た東京都 影に追われた大会組織委員会 存在感が無い国

 東京オリンピック競技会場の見直し案などを議論する「四者協議」の実務者会合が、11月1日から3日までの3日間に渡って行われた。
 会合には、クリストフデュビIOC五輪統括部長や東京都調査チーム統括の上山信一特別顧問、武藤敏郎組織委員会事務総長、IOCのアスリート委員のコベントリー氏や組織委員会のスポーツディレクターの室伏広治氏らオリンピックのメダリストも参加した。
 2日目の会合では、上山信一特別顧問が、東京都のボート・カヌー、水泳、バレーボールの3つの競技場の見直し案を説明した。
国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会は会場変更については慎重な姿勢を示しているとされている中で、会合では、ボート・カヌーとバレーボール競技場の見直し案について議論が行われた。
 この内、海の森水上競技場については、海の森水上競技場の選定に深くかかわった国際ボート連盟の担当者も出席し、大会運営の専門的な立場から意見を述べたが、見直し案の結論の方向性は議論されなかったとされている。
またIOCの出席者からは、施設、輸送、警備費など経費が高額な組織委側の見積もりに対し、IOCから甘さを指摘する意見や、レガシー(遺産)となる部分については、地方自治体の費用負担も必要との意見も出たとされている。
 実務者会合に出席したクリストフデュビIOC五輪統括部長は、会合終了後、記者団に、「とても良い会合だった。3日間の協力について満足している。特定の方向性を打ち出すというよりも事実をつかむための情報交換を行った。東京都民や東京都にとってレガシーを残すための努力はどんなものでも歓迎する。(長沼ボート場や横浜アリーナの)選択肢は残っている。作業部会の目的は決定することではない。決定は4者協議の代表が今月末に行う」と述べ、今回の作業部会では競技会場の見直しの方向性は決めず、作業部会で出た議論を文書にまとめた上で、結論は11月30日に行う予定の四者協議のトップ級会合で出すとした。
 これに対して、小池都知事は、「東京都として複数の案を示した。東京都とIOCが同じ舞台で直接会話し、同じ考えを共有できた。大変に敬意を表したい」の述べ、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)と直接、話し合いができる場ができたことを評価した。これまで、国際オリンピック委員会(IOC)は大会組織委員会を窓口に大会開催計画を話し合って、事実上、決めてきた。 「四者協議」が始まったことで、東京都がIOCの「交渉相手」として加わったことで、大会組織委員会の影が薄くなった。 大会組織委員会は“主導権”を失い、東京都が表舞台に躍り出た。


* 11月29日開催される四者協議トップ級会合は、「テクニカルグループミーティング関する報告とまとめ」と「今後についてについては公開され、「議事整理」は非公開としたが、小池都知事の直前の提案ですべて公開に変更

小池都知事VSバッハIOC会長会談 主導権争い熾烈  
 2016年10月18日、トーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長と東京都の小池百合子知との会談が行われた。
 競技会場整備の見直しと開催経費削減を巡って小池東京都知事と森大会組織委会長の対立が激化し、混迷が深刻化している中で、バッハIOC会長は訪日し、両者の調整に乗り出したのである。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 会談の冒頭、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語り、小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と四者協議開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じた。
 会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
 11月に開催される4者協議も小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設の合わせて、最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。
 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、直接、議論をする場を確保した。また「四者協議」で具体的な見直し案を提出できるのは東京都しかと思われる。組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり都政改革本部が見直しの主導権を握っているのだろう。しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?まったく見通せない状況になった。


東京五輪費用「3兆円超」 都チーム推計 3施設見直し案 ボート・カヌー会場は長沼(宮城県)を提言
 「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」
 2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チーム座長の上山信一慶応大学教授はこう切り出し、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池都知事に提出した。
 大会経費は、新国立競技場整備費(1645億円)、都の施設整備費(2241億円)、仮設整備費(約2800億円)、選手村整備費(954億円)に加えて、ロンドン五輪の実績から輸送費やセキュリティー費、大会運営費などが最大計1兆6000億円になると推計。予算管理の甘さなどによる増加分(6360億円程度)も加味し、トータルで3兆円を超えると推計した。 招致段階(13年1月)で7340億円とされた大会経費は、その後、2兆円とも3兆円とも言われたが、これまで明確な積算根拠は組織委員会や国や東京都など誰も示さず、今回初めて明らかにされた。
調査チームは「招致段階では本体工事のみ計上していた。どの大会でも実数は数倍に増加する」と分析。その上で、物価上昇に加えて、国、都、組織委の中で、全体の予算を管理する体制が不十分だったことが経費を増加させたと結論付けた。 
 そしてボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」は、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」だとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。「復興五輪」の理念にも合致するとしている。また「オリンピックアクアティクスセンター」の観客席の規模縮小やバレーボール会場の「有明アリーナ」の規模縮小や展示場やアリーナの既存施設の活用を提案した。


都政改革本部 調査チーム調査報告書


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書


五輪開催経費は誰が責任をもって管理するのか
 2016年9月下旬、東京オリンピック・パラリンピックの予算などを検証している東京都の調査チームは、開催費用を独自に推計した結果、3兆円を超えるとしたうえで、コスト削減に向け、都内に整備する予定の3つの競技会場を都外の施設へ変更するなど計画の大幅な見直しを提案し、五輪開催経費を巡って“迷走”が始まった。
 これまで開催費用については、「2兆円を超える」(森大会組織委委員会長)、「3兆円は必要だろう」(舛添要一前都知事)など曖昧な発言が繰り返されただけで、誰も開催費用の総額を明らかにしてこなかった。招致計画では約7340億円(資材費・人件費の暴騰で約8000億と試算)、関係者からは「足りるはずがないと皆で話していた」「招致のために低く見積もっていた」との声が聞こえてきたという。一体、大会開催費用は誰が責任を持つべきなのだろうか。
 2007年3月、イギリスのジョーウエル文化・メディア・スポーツ相はロンドン五輪の開催経費は約93億3500億ポンド(1兆2975億円)になる見込みだと発表した。招致計画の予算24億ポンド(約3029億円)の約4倍に膨れ上がるとした。
 経費が膨れ上がった原因は、再開発経費やインフラ投資経費も見込んでいな
かったことだと説明した。この内、約53億ポンド(約7367億円)をオリンピックパークの建設費(競技場建設を含む)、約27億ポンド(約3753億円)を予備費としている。その後、下院や監査局が予算のチェックを実施、使途の内訳や推移は定期的に公表された。そして2012年10月、英政府はロンドン五輪の総費用は予算(最終予算額92億9800万ポンド)を約3億7700万ポンド(約524億円)下回り、89億2000万ポンド(1兆1240億円)と発表した。この他に大会組織委員会の運営費が約20億ポンドかかったので、ロンドン五輪の開催経費の総額は約109億ポンド(約1兆5151「億円)としている。ヒュー・ロバートソン(Hugh Robertson)スポーツ閣外大臣は、予算内に収めた運営当局を賞賛し、「2012年ロンドン五輪が、将来の五輪およびパラリンピックの運営の新たな基準となるのは間違いない。90億ポンド以内での大会運営はほぼ達成された」と語った。
 重要なポイントは五輪開催の約5年前には、英政府は政府の責任で五輪開催費用の総額の見通しを公表し、定期的にチェックしていたことだ。ふりかえって東京大会の開催費用は総額で一体いくらになるのか、これまでは“青天井”のままで開催準備が進められ、都政改革本部が初めて、“推計”で“3兆円”を明らかにしたという経緯がある。
 競技施設整備やインフラ整備、大会運営費など開催費用は、国や都、組織委員会などがバラバラに管理し、開催費用の総額は、“青天井”で、まったくの無責任体制と批判されても致し方ない。ロンドン五輪では国が責任を持って行った。東京大会の開催費用管理の責任体制はどうするのだとうか、これからが正念場だろう。このままでは無責任体制のツケを東京都民や国民が払わされることに追い込まれる。新国立競技場の“失態”が再び繰り返されるのだろうか?

* 使用為替レート(ポンド=円)
 為替レート 1ポンド=139.0円(2016年11月28日) 本稿で使用レート
* 参考
 都政改革本部調査チームの報告書は、ポンド=円の為替レートを「過去10年の最小値である2012年平均1£=126円と、最大値である2007年平均1£=236円の中間値:1£=181円で換算」し、組織委員会の経費も含めて総額を「2兆1137億円」としている。



2016年12月22日  初稿
2017年7月1日   改訂
Copyright (C) 2016 IMSSR


***************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
****************************************
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック レガシー 負のレガシー 負の遺産 White Elephant ホワイト・エレファント

2023年03月01日 11時13分48秒 | 東京オリンピック
破綻した東京オリンピック「3兆円」のレガシー 次世代に何を残したのか



東京五輪2020 もはやレガシーを語る資格はない 贈収賄に談合事件で泥沼に 
 スポンサー選定を巡る贈収賄事件、組織委員会や電通も巻き込んだ組織的、計画的談合事件、東京五輪大会は泥沼に陥った。逮捕者は、大会組織員会の元理事や大会運営局元次長から大会運営を実質的に「支配」した電通の幹部やスポーツイベント運営企業、スポンサー契約を結んだ企業の幹部など十数人に及んだ。まさに五輪を巡る「腐敗の構造」が明るみに出された。
 この一件で、日本が失った国際的信用は大きい。
 2030冬季五輪大会を巡っては、米国のソルトレーク・シティ、カナダのバンクーバー、そして札幌市が招致活動を行っていたが、これまでは国際オリンピック委員会(IOC)は札幌を高く評価して、優位に招致合戦を進めていた。しかし、泥沼化した東京五輪の腐敗を受けて、札幌は一気に窮地に立たされた。組織委員会や電通などの責任は極めて重大である。
 昨年12月、北海道新聞は18歳以上の札幌市民を対象に電話による世論調査を行った。招致への賛否は「反対」と答えた人が67%で、「賛成」が33%、「反対」と答えた人が2倍となった。前回の調査より「反対」が10ポイント以上増えたという衝撃の結果となった。
 IOCは、2030大会開催地決定の時期を無期限で延期すると声明を出した。札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は「積極的な機運醸成活動を当面休止」に追い込まれ、秋元克広札幌市長は招致の是非を問う意向調査を対象範囲を全国に拡大して再実施すると表明した。
 秋元市長は再意向調査で反対が多ければ「(招致活動を)そのまま進めるのは難しい」と述べ、招致断念の可能性も示唆した。
 2月中にはスポーツ庁とJOCが汚職・談合の再発防止策を公表し、夏には札幌市も独自の不正防止策をまとめるとしているが、果たして、国民が納得できる内容になるのか、正念場である。
 長らく五輪大会の運営を実質的に独占「支配」して絶大な力を持っていた電通を排除できるかが最大の課題だろう。 スポーツ界の「闇」体質は根深い。この体質を一掃できるかどうかが今、問われている。

腐敗塗れの東京五輪2020
 
 ついに「五輪開催経費」は「3兆円」を優に上回り、「3兆6800億円」なることが会計検査委の試算から明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期の経費やコロナ対策費で経費はこの一年でさらに膨張した。隠れた五輪関連経費もあると思われ「4兆円」も視野に入った。五輪肥大化の「青天井体質」に歯止めがかからない。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「アジェンダ2020~2013 OLYMPIC LRGACY~」を採択した。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催都市がなくなるのではという深刻な問題が浮上していた。
 そのポイントは、「開催費用を削減して運営の柔軟性を高める」、「既存 の 施設を最大限活用する」、「一時的(仮設)会場活用を促進する」、「開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める」などである。そして2020東京五輪大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けている。
 東京2020大会は「世界一コンパクト」な大会を宣言して開催に臨んだ。しかしその意気込みは完全に雲散霧消してしまった。
 さらに問題なのは、五輪の準備段階から相次ぐ失態や腐敗が露呈して、「3兆円」は「レガシー」どころか、巨大な「負のレガシー」に転落するという深刻な事態に陥った。
 東京2020大会を開催するにあたって、国や東京都、組織委員会は開催意義を高らかに唱えたレガシープランを作成し、大会開催のレガシー(未来への遺産)を次世代に残すと宣言した。しかし、最早、東京2020大会のレガシーを唱える資格はない。

五輪開閉会式責任者が辞任 渡辺直美さん侮辱
 2021年3月18日、東京五輪・パラリンピックの開閉会式の演出を統括するクリエーティブディレクターの佐々木宏氏(66)が辞任した。開会式に出演予定だったタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するようなメッセージを演出チームのLINEに送った責任をとった。
 問題は17日に「文春オンライン」が報じて表面化した。佐々木氏はこの日に大会組織委員会の橋本聖子会長に辞意を伝え、18日未明に謝罪文を公表した。
 謝罪文によると、佐々木氏は昨年3月5日、開閉会式の演出を担うチーム内のLINEに、渡辺さんの容姿を侮辱するような内容の演出を提案した。メンバーから反発があり、提案は撤回したという。謝罪文では「大変な侮辱となる私の発案、発言で、取り返しのつかないこと。心から反省して、ご本人、そして、このような内容でご不快になられた方々に、心からお詫び申し上げます」とした。
 組織委の橋本会長は、記者会見で「不適切であり、大変遺憾。組織委がジェンダー平等の推進を重要施策として掲げている以上、辞意を受け入れることとした」と述べた。
 開閉会式をめぐっては、組織委は2020年12月、大会延期に伴う演出簡素化などを理由に狂言師の野村萬斎さんを統括とする制作チームの解散と、総合企画を佐々木氏が責任者となる新体制への変更を発表した。組織委では今年2月、森喜朗前会長が女性蔑視発言の責任を取り辞任したばかりである。
 五輪開幕まで約4カ月。大会関係者によると、演出内容はほぼ固まり、本番に向けたリハーサルの準備が進んでいる段階という。橋本会長は「継承すべきところは継承し、すばらしい開閉会式になるよう、早急に新たな体制を整える」と述べた。
 女性蔑視発言で辞任した森喜朗前会長から引き継いで1カ月。ジェンダー平等など改革を進め、聖火リレーで大会機運を盛り上げようとしてきた橋本新体制に新たな不祥事が水を差した。
 2020東京大会の「負のレガシー」にまた新たな項目が追加された。

相次ぐ不祥事 電通の欠陥体質露呈  開会式楽曲担当 小山田氏辞任 過去にいじめ 続いて小林賢太郎氏解任 五輪開会式演出担当、ホロコーストを揶揄

森喜朗会長が辞意 女性蔑視発言で引責

辞任を表明する森喜朗氏 提供 TOKYO2020

 2021年1月12日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、評議員、理事を集めた合同懇談会で、女性を蔑視する発言をした責任を取り、会長を辞任することを表明した。後任については、森氏が次期会長就任を要請していた川淵三郎氏が一転して会長就任を辞退すると明言し白紙撤回となった。組織委員会は、後任の選出方法について、御手洗名誉会長を座長にして、国、都、JOC、アスリートなどの理事をメンバーにして選定委員会を設立して選定作業をすすめるとした。後任の有力候補には、橋本聖子五輪相の名前が上がっている。
 森は発言問題の深刻化を受けて、組織委は、当初は、経緯を説明して陳謝し、続投への理解を求める方針だったが、国内外のメディアから「女性差別」と厳しい批判を浴び、アスリートやSNSなどで辞任を求める声が相次いで、今夏の大会準備への影響も出始めた。
 9日には、当初は森会長が発言を撤回して謝罪したので「解決済」としていた国際オリンピック委員会(IOC)が、一転して、「森会長の発言は完全に不適切で、IOCがアジェンダ2020で取り組む改革や決意と矛盾する」と強く批判した。IOCに膨大なスポンサー料を払っているTOPスポンサー企業や収入の大黒柱である放送権料を負担する米NBCが批判の姿勢を強めたことが決め手となった。10日には東京都の小池百合子知事が2月中旬で調整されていた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのトップ級4者協議を「今ここで開いても、あまりポジティブな発信にはならないい」と述べ、欠席する意向を表明し、事実上、辞任の引導を渡した。
 IOC、五輪大会を支えるスポンサー企業や米NBC、四面楚歌となった森会長には辞任の道しかない。
 森会長は、日本サッカー協会や日本バスケットボール協会の会長を歴任し、東京五輪では選手村村長を務める川淵三郎氏に次期会長就任を要請し、川淵氏もこれを受託した。森会長は12日の会議で辞意を表明して、その場で川淵氏を会長に推薦するものとみられていた。一方、川淵氏は森会長に相談役就任を依頼していた。しかし、菅政権には森会長自ら後任を推薦する手法や川口氏に異論が出ていたとされ、川淵三郎氏は一転して会長就任を辞退すると明言して白紙撤回となった。

森会長、女性蔑視発言 海外からも批判殺到 ボランティアの辞退相次ぐ
 2021年2月3日、JOC臨時評議員会に出席した森会長は、「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」などと発言した。この発言に対して出席者で異論を唱える人はいなく、笑い声が出たとされている。  森氏の発言は、女性を蔑視したと受け取られ、国内内外から激しい批判を浴びた。  翌2月4日、森会長は記者会見を開き、女性を蔑視したと受け取れる発言をしたことについて、「深く反省している。発言は撤回したい」と謝罪した。会長職については「辞任する考えはない」と述べた。
 質疑応答では「女性が多いと時間が長くなるという発言を誤解と表現していたが、誤った認識ではないのか」との質問に、「そういう風に(競技団体から)聞いておるんです」などと答え、競技団体全体にこうした認識が広がっていることを示唆した。
 森会長は、老練な政治家のスピーチによく登場する半ば冗談の軽い気持ちで、この発言をしたのであろう。とりわけ女性差別主義者だったというわけではないだろう。しかし、ジェンダーの平等を高らかに掲げるオリンピック精神とは相いれない発言で、国際オリンピック委員会(IOC)として見過ごすことはできなかった。組織委員会の会長としての発言としては余りにも軽率だった。  組織委員会は8日、4日以降に大会ボランティア(約8万人)辞退申し出が、約390人に上り、2人が聖火リレーランナーへの辞退を申し出たと発表した。組織委は辞退理由を公表していないが、3日に森喜朗会長が女性蔑視の発言をした影響とみられる。
 また、東京都は都市ボランティア(約3万人)の辞退申し出が93人になったと発表している。  こうしたボランティア辞退の動きについて、自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「瞬間的」なもので、「落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と語った。今後の対応については「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と述べ、さらに「参画しよう、協力しようと思っておられる人はそんな生やさしいことではなく、根っからこのことに対してずっと思いを込めてここまで来た」とし、「そのようなことですぐやめちゃいましょうとか、何しようか、ということは一時、瞬間には言っても、協力して立派に仕上げましょうということになるんじゃないか」と発言した。二階氏の発言の認識の甘さにも唖然とする。
 新型コロナの感染拡大の中で活動を余儀なくされた大会ボランティアや都市ボランティア、組織委員会では「五輪大会開催の成否は『大会の顔』となるボランティアの皆さんにかかっている」と唱えている。開催を半年に控えている中で、約11万人のボランティアの人たちの思いを踏みにじった女性蔑視発言、森会長の責任は重い。
 まさにコロナ禍で崖っぷちに立たされた東京2020に「女性蔑視発言」が追い打ちをかけた。東京2020大会のレガシー論は完全に「雲散霧消」してしまった。
 2020東京五輪大会開幕まで半年を切っているなかでの大会組織委員会の森会長の辞任、日本は組織のガバナンスのお粗末さを世界に露呈した。世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。

迷走五輪エンブレム 「盗用疑惑」で白紙撤回 杜撰な選定作業 各国から批判集中

消えた「復興五輪」
 「復興五輪」を唱えたのは、2020東京五輪大会の誘致を表明した石原慎太郎東京都知事である。
 2012年2月、招致委員会は、国際オリンピック委員会(IOC)に出した申請ファイル(開催計画)でテーマの一つに「震災復興」を掲げた。
 2013年夏の都議会でも、石原氏の後を継いだ猪瀬直樹都知事は「被災地の復興に弾みをつけ、東京と日本を飛躍させる起爆剤にしたい」と強調した。
 「復興に向かう姿を世界に発信する」、「スポーツの力で被災地を元気にする」がそのスローガンである。
 ところが、この年の1月、招致委がIOCに提出した立候補ファイルでは「コンパクト五輪」が強調され、理念から「復興」が消えた。関係者は「原発事故に対する懸念が海外では強く、触れない方がいいと考えられた時期があった」と説明する。
 2016年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で東京がイスタンブールとマドリードを破り2020五輪大会の開催地を勝ち取った。投票が行われる直前の招致演説で、東京大会の開催意義で掲げたのは「復興五輪」であった。東日本大震災から復興した姿を発信して、復興を支援してくれた世界各国に感謝する大会にすると宣言した。
 しかし、「復興五輪」は、完全に消え去り、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、「コロナに打ち勝った証の大会」がメインテーマになってしまった。
 それでも、組織委員会は「『復興五輪』は招致の源流。一日たりとも忘れたことはありません」と繰り返す。
 「復興五輪」のスローガンは、いまも取り下げてはいない。

 2018年11月、大会の準備状況を確認するため来日した、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と安倍晋三首相は、福島市の野球・ソフトボール会場を視察した。
 訪れたのは福島県営あづま球場、安倍首相は「復興五輪と銘打って、復興した姿を世界に発信したい」とあいさつし、バッハ氏が「心の復興という中ではスポーツが大きな役割を果たす」と笑顔で応じた。東日本大震災からの「復興五輪」を改めてアピールする目論見が込められていた。
 あづま球場では、日本で人気のある野球・ソフトボールの会場で、全競技に先駆けてソフトボールの開幕戦、日本対オーストラリア戦を始め6試合と野球の予選1試合が行われる。
 また聖火リレーのグランドスタートは、サッカーのナショナルトレーニングセンター、Jビレッジ(楢葉町・広野町)で行われた。
 Jビレッジは、東京電力が福島原子力発電所を受けて入れくれた地元の地域振興事業として総工費130億円を投じて建設し、福島県に寄付した施設である。
 東日本大震災の津波で被害を受け、メルトダウンに陥った福島第一原発の事故対応拠点となり2年余り全面閉鎖された。グランドには仮設の宿舎が立ち並び、事故対応車両で埋め尽くされた。建物には高濃度の放射能で汚染された原発敷地内に立ち入る作業員の除染機器や検査設備が並んでいた。
 Jビレッジは、福島原発事故の象徴的な施設だった。
 しかし、原発事故は、周辺地域に深刻な影響を残したままである。
 10年を迎えた今年、避難生活を送る人は未だに4万人近くいて、福島県では放射線量が高い7市町村にまたがる「帰還困難区域」の大半で解除の見通しが立たない。双葉町では96%の地域が「帰還困難区域」のままで、住民の暮らしの再建はまったくできない。
「復興に向かう姿」とは程遠いのが現実である。

偽りの「安全宣言」 深刻化する放射能汚染水問題
 2013年9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会の最終招致演説で、安倍首相は、「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、完全にコントロールされています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません」と高らかに宣言し、英語で「Under Contorl!」と両手を広げてIOC委員にアピールした。

 2013年4月、東京電力福島第一原発内の地下貯水槽から放射能汚染水が漏れたことが明るみに出た。東電は、漏れた量の推定を約120トン、漏れた放射能は約7100億ベクレルと発表した。事故前の年間排出上限の約3倍の量で、2011年12月に政府が事故収束宣言して以来最大となった。
 「東日本大震災からの復興」を掲げた東京大会で、放射能汚染水問題が決して解決していないということが世界各国に印象付けられた。各国メディアから東京大会開催への安全性について強い懸念が出され、総会前の会見では、汚染水漏れ事故に関する記者からの質問が集中して、答えに窮する状況が頻発した。汚染水漏れ事故は東京大会招致のアキレス腱に浮上した。
 そして安倍首相は、科学的な数字を持ち出して説明を加え、「福島の近海で、私たちはモニタリングをおこなっている。その結果、数値は最大でも世界保健機関(WHO)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。これが事実です。そして、我が国の食品や水の安全基準は、世界で最も厳しい。食品や水からの被曝(ひばく)量は、日本のどの地域でも、この基準の100分の1だ」 と述べた。
 同行した橋本聖子参院議員は、「首相が自ら話す予定はなかったが、国のトップが説明し、IOC委員の不安を振り払う必要に迫られた」 と話している。
 日本が五輪招致に成功した要因について、仏フィガロ紙は「秀逸な計画と完璧なプレゼンテーション(招致演説)、予算、競技場の立地条件、世界最高の治安水準」で東京が他の2都市を上回ったと分析。東京電力福島第1原発事故による放射能汚染について「まだ完全に安全とは言えない」と指摘した上で、安倍首相のスピーチなどで「投票者を安心させるのに成功した」と評した。
 しかし、福島第二原発の放射能汚染水漏れは、決し収束してはいない。
 福島第1原発の汚染水問題をめぐり、安倍晋三首相が五輪招致のプレゼンテーションで「完全にブロックされている」「コントロール下にある」と発言したことについて、東京電力は、総会開催直後の9月9日の記者会見で、「一日も早く安定させたい」と述べ、安倍首相発言を事実上否定した。
 これに対して、安倍政権は火消しに追われ、菅義偉官房長官が東電との食い違いを否定し、結局、東電はホームページに「当社としても(首相発言と)同じ認識です」とコメントを載せた。しかし、この対応で、汚染水は、本当はコントロールされていないのではという懸念を逆にクローズアップさせる結果になった。
 汚染水の海洋流出も発生していたことも明らかになり、東電では防波堤に囲まれた港湾内(0.3平方キロ)には、汚染水が海側に流出するのを防ぐための海側遮水壁が建設したり、湾内に広がるのを防ぐために「シルトフェンス」という水中カーテンを設置したり対策に乗り出した。
 東京電力福島第一原発では、今も汚染水が海に漏れ続けている。放射性物質を封じ込めるという意味では、汚染水のコントロールはできていないのは明らかであろう。
 その後8月にはタンクから300トンの汚染水が漏れていたことが発覚。一部は排水溝を伝い外洋に流れ出たとみられる。残りは地中に染み込み、タンク周辺の土壌や地下水から放射性物質の検出が相次いでいる。タンク北側の観測井戸で12日に採取した水からは、トリチウムが1リットルあたり13万ベクレル検出された。土壌への汚染が地下水によって広がっている恐れが指摘された
 経済産業省によると、1~4号機の海側では、今も1日300トンが海に流れ出ているという。東電は港湾の外ではほとんど放射性物質は検出されていないとし、「海洋への影響はなくコントロールされている」としている。しかし、港湾の出入り口は開いたままで海水が出入りしている。放射性物質が検出限界値未満なのは海水で薄められているためとみられる。
 2020東京五輪大会招致に成功したのは、安倍首相の「アンダーコントロール」発言を繰り返し、IOCを委員の不安を払拭させたことだけでないだろう。しかし、「嘘」と批判されるに値する発言で、招致を獲得したとするならば、東京五輪開催の大義は消え去る。

汚染処理水の海洋放出へ
 東京電力福島第1原発の汚染処理水について、政府は4月13日、放射性物質、トリチウムの濃度を国の放出基準より下げたうえで、海に流すことを決めた。放出は2年後に始まりそうだ。風評被害を防ぐため、政府・東電に課された責任は重い。
 福島第1原発では事故直後から、溶け落ちた核燃料を冷やす水と、建屋に入り込む地下水などが混じって放射性物質が高濃度の汚染水が生じ続けている。現在の発生量は、1日約140立方メートル。このため、東電は多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで放射性物質の濃度を下げてきた。しかし、トリチウムを含む水は普通の水と化学的な性質が同じなので取り除くことができず、処理後の水を敷地内のタンクで保管してきた。
 トリチウムを含む汚染処理水をどう処分すべきかは、廃炉作業をするうえで事故当初からの課題だった。
 このため、経済産業省は有識者らをメンバーに加えた会議を設置。複数の処分方法案に関して費用対効果などを評価し、2年半の議論の末、2016年6月に処分方法を一本化するものではないと断りつつ「海洋放出は費用が安く処分期間も短い」と結論づけた。
 敷地内のタンクの数は現在約1000基。そこに、約125万立方メートル(東京ドームの容積に相当)たまっており、2023年3月ごろには満水になる見通しだ。東電は、海洋放出をする場合、装置の設置や原子力規制委員会の許可を得るのに約2年かかるとみている。これ以上決断を先送りにすれば装置の設置などが間に合わず、処分方法の決定は緊急の課題になっていた。
 今回の決定に対し、JF全漁連(全国漁業協同組合連合会)の岸宏会長は「極めて遺憾。到底容認できるものではない」と強く抗議する声明を出した。
 10年経ってようやく福島沖の漁業の再開に目途が付き始めた段階で、漁業関係者は、再び「風評被害」で大きな打撃を受けるという懸念を拭い去ることができない。
 一方、中国外務省は13日に談話を発表し、日本政府の決定を「極めて無責任だ」と批判した。「国際社会や近隣諸国と十分な協議をしないまま、汚染処理水の放出を一方的に決めた」と非難。韓国政府も13日「絶対に受け入れられない措置だ」と反発し、強い遺憾の意を表明。外務省は相星孝一駐韓大使を呼んで抗議した。  

新国立競技場 「陸上の聖地」復活か? 迷走再開 「負の遺産」への懸念
 迷走に迷走を重ねた上で、2019年11月30日にようやく竣工した新国立競技場は、大会後に改修して、陸上トラックを撤去して球技専用とする方針を決めていた。陸上競技スタジアムとして残すのは、多大な赤字が生まれて、スタジアムとしての維持管理が不可能としたのがその理由である。集客が見込まれるサッカースタジアムを目指すとした。この方針については、陸上関係者から、「陸上の聖地」として東京2020大会のレガシーとして残すべきだと激しい反発を招いた。
 しかし、この方針が迷走を始めた。
 陸上トラックを残して陸上と球技の兼用にする方向で調整が進んでいることが明らかになったのである。「陸上の聖地」の復活である。  国立競技場の後利用については、2017年11月、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」で「基本的な考え方」を取りまとめて、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承されている。
 それによると大会後に陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修し、サッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保するとした。改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、その後の検討で、陸上トラックなどを撤去して客席を増設する改修工事には、多額の経費がかかる上に、球技専用スタジアムにしても、肝心のサッカーの試合の開催は、天皇杯や日本代表戦などに限られ、頼みにしていたJリーグの公式試合の開催は困難となって、利用効率の改善が期待できないことが明らかになった。またFIFA ワールドカップの開催を目指すとしても、まだまったく招致実現の目途はたっていない。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、民間事業化に向けて行った民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を行ったが、球技専用に改修してもあまり収益が見込めないことが明らかになったという。  また収益性を高める柱となるコンサートやイベントの開催については、屋根がないため天候に左右される上に騒音問題もあり、さらに天然芝のダメージが大きく、開催回数は極めて限定される。
 陸上関係者からは、2020東京五輪大会のレガシーとして新国立競技場は陸上競技場として存続して欲しいという声は根強い。
 陸上トラックを残しておけば、陸上競技大会開催だけでなく、イベントのない日などに市民にトラックを開放したり、市民スポーツ大会を開催したりして市民が利用できる機会を提供可能なり、2020東京五輪大会のレガシーにもなる可能性がある。
 国際的に最高水準の9レーンの陸上トラックを2020東京五輪大会だけのため整備するのでは余りにももったいない。
 しかし、国立霞ヶ丘競技場の陸上トラックを存続させ、陸上競技の開催を目指しても、収益はほとんど期待できない。陸上競技大会では、新国立競技場は大きすぎて、観客席はガラガラだろう。全国規模の大会でも数万に規模のスタジアムで十分である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の長期修繕費を含む維持管理を年間約24億円としている。これには人件費や固定資産税や都市計画税などは含まれていないので、年間の経費は、約30億円~40億円かかると思われる。大会開催後の新国立競技場の収支を黒字にするのは至難の業である。
 新国立競技場は球技専用スタジアムになるのか、陸上競技場として存続するのか、東京2020大会のシンボル、新国立競技場の迷走は、まだまだ終わらない。


完成した国立競技場 提供 JSC

最新鋭の9レーンの陸上競技トラックも完成 筆者撮影

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる? 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに

「招致疑惑」竹田JOC会長退任 桜田五輪相辞任 

竹田恒和氏 出典 日本オリンピック員会(JOC)

 2019年3月19日、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、理事会で、6月の任期満了での退任を表明した。国際オリンピック委員会(IOC)委員も辞任することも明らかにした。開幕まで500日を切った中で、五輪を開催する国内オリンピック委員会のトップが退く異例の事態となった。
 竹田会長は、理事会終了後、記者団に対して、「来年の東京大会を控えて世間を騒がしていることを大変心苦しく思っている。次代を担う若いリーダーに託し、東京オリンピック、日本の新しい時代を切り開いてもらうことが最もふさわしい。定年を迎える6月27日をもって任期を終了し、退任することにした」とし、「バッハIOC会長とは何回も連絡をとっているし、昨日も今日も電話で話をした」と述べた。
 2018年12月、仏司法当局は、2020東京大会を巡る買収疑惑について、「東京招致が決まった13年に180万ユーロ(約2億3千万円)の贈賄に関わった疑いがある」として竹田氏をパリで事情聴取し、本格捜査に乗り出した。竹田氏は「潔白」を主張しているが、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑がかけられている
 6月の任期満了退任には、事実上の引責辞任であろう。
 疑惑報道を受けて開いた2018年1月の記者会見で、竹田氏は疑惑を否定する自らの主張を述べる一方で記者側の質問を受けず、7分間で席を立った。この姿勢が世論の反発を招いた。大会組織委関係者らからは「東京大会のイメージを損なう」などと続投を疑問視する声が強まった。
 そして2019年4月10日、桜田義孝五輪相は、東日本大震災で被災した岩手県出身の自民党衆院議員のパーティーであいさつし、議員の名前を挙げて「復興以上に大事」と発言した。いったんは記者団に発言を否定したが、被災地を軽視すると言える発言に批判が強まり、過去の失言をかばってきた安倍晋三首相が事実上、更迭した。
 後任には、桜田氏の前任の五輪相だった鈴木俊一氏(衆院岩手2区、当選9回、麻生派)を起用した。
 2020東京五輪大会は「東日本大震災からの復興」を掲げて開催されるオリンピック大会である。政府の中で大会開催を中核になって担う五輪担当相としては余りにもお粗末だろう。唖然というほかない。
 相次ぐ五輪関係者の辞任に、2020東京五輪大会の運営体制のお粗末さを世界に露呈し、世界各国の関係者から失笑を買っていることは間違いない。

竹田JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑 窮地に追い込まれた東京2020大会

新型コロナウイルス感染拡大 東京五輪大会五輪1年延期 2021年7月23日開幕 パラは8月24日 聖火リレー中止に


新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大 世界192の国と地域 感染者1069万人 死者2343万人 2021年7月末までに収束可能性はない
出典 NYT/NIAID

 徳洲会グループから受け取った選挙資金を巡って辞任した猪瀬直樹元東京都知事、公用車利用や政治資金家族旅行など公私混同問題で辞任した舛添要一前東京都知事、迷走した新国立競技場の建設問題の責任をとって辞任した下村博文文部科学相、大会招致に関わる贈収賄疑惑で仏司法当局の捜査を受けて退任する竹田JOC会長、そして女性蔑視発言で引責辞任した森組織委会長、渡辺直美さん侮辱して辞任した五輪開閉会責任者、2020東京五輪大会の主要な関係者は次々と不祥事で舞台から退場していった。 日本は大会運営体制のお粗末さを世界に露呈し、世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。
 そして建設費が「3000億円超」に膨れ上がって世論から激しい批判を浴びて、迷走に迷走を繰り返した新国立競技場、デザイン盗用疑惑で白紙撤回に追い込まれた五輪エンブレム、海の森水上競技場や東京アクアティクスセンター、有明アリーナの建設問題を巡って対立した東京都と大会組織委員会、2020東京五輪大会を巡って繰り広げられた混乱は記憶に新しい。
 2020東京五輪大会のビジョンは、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」の3つの基本コンセプトを掲げ、「2020年は市場最もイノベーティブで世界にポジティブな変革をもたらす大会とする」と宣言している。
 混迷と混乱が相次いでいる中で「3兆円」を投入して開催する2020東京五輪大会、最早、高邁な理想を掲げたレガシー論を語る資格はまったくない。

東京オリンピック 競技会場最新情報 競技会場の全貌 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル


海の森水上競技場完成予想図  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


(左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター 筆者撮影

クローズアップされた「負のレガシー」(負の遺産)
 「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」
 小池都知事は、こう宣言した。
 2016年9月29日、東京五輪・パラリンピックの開催経費の妥当性を検証している東京都の「都政改革本部」の調査チームは、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池百合子知事に提出した。都が整備を進めるボート会場など3施設の抜本的見直しや国の負担増、予算の一元管理なども求めた。
 これに先立って、 東京五輪・パラリンピックの関係組織、大会組織委員会や東京都、国、JOCなどのトップで構成する調整会議が午前中に、文部科学省で開かれ、小池都知事は、調査チームのまとめた調査報告書を報告した。
 会議で小池都知事は、「改革本部の報告書については、大変に中味が重いものなので、それぞれ重く受け止めていると思う。これまでどんどん積みあがってきた費用をどうやってコストカットし、同時に、いかにレガシーを残すか、そういう判断をしていきたい」と述べた。
 これに対し、森組織委会長は「IOCの理事会で決まり、総会でも全部決まっていることを、日本側からひっくり返してしまうということは極めて難しい問題だろうと申し上げておいた」苦言を呈した。
 小池都知事は、「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」と応じた。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催経費は、「3兆円」を上回り「4兆円」に達する勢いである。これだけ巨額の経費を使い開催する東京五輪は、レガシー(未来への遺産)を残さなければならのには疑問の余地はない。負のレガシー(負の遺産)として次世代の負担にしてはならないのは明白だ。
五輪大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会になる。また人口も、2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年には8674万人になると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に本当に必要なのだろうか? また新たに整備される施設の巨額の維持管理費の負担は、確実に次世代に残される。毎年、赤字補てんで公費投入は必至だろう。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「2013 OLYMPIC LRGACY」を採択して、開催都市に対して、大会開催にあたってレガシー(未来への遺産)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けた。
 2020東京五輪大会組織委員会では、リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月に、「東京2020 アクション&レガシープラン2016」を策定している。
「スポーツ・健康」、「文化・教育」、「復興・オールジャパン・世界への発信」、「街づくり・持続可能性」、「経済・テクノロジー」の5つの柱を掲げた。
 しかし、最も肝要な施設整備を巡るレガシー(未来への遺産)については、ほとんど記述がない。新国立競技場を始め、競技施設の相次ぐ建設中止、整備計画の見直しなど“迷走”と“混乱”が深刻化している中で、レガシーを語るどころではない。膨れ上がった開催経費の徹底した見直しを行うべきという都民や国民の声に、どう答えるかが、“レガシー”を語る前提なのは明らかだ。
“美辞麗句”の並んだ「アクション&レガシープラン」には“虚しさ”を感じる。
 「世界一コンパクト」な五輪大会を宣言した意気込みはどこにいったのか?
 「都政改革本部」の調査チームの大胆な“見直し”提言で、再び、クローズアップされたレガシー(未来への遺産)、真剣に向き合う姿勢が必須となった。




レガシー(Legacy)とヘリテージ(Heritage)
 レガシー(Legacy)の単語の意味は、「遺産」、「受け継いだもの」とされ、語源はラテン語の“LEGATUS” (ローマ教皇の特使)という。「キリスト教布教時にローマの技術・文化・知識を伝授して、特使が去ってもキリスト教と共に文化的な生活が残る」という意味が込められているという。どこか宗教的なニュアンスのある言葉である。また、legacy は,財産や資産などや、業績など成果物的なものも言う。遺言によって受け取る「遺産」という意味にも使われる。
 一方、“Heritage” は,先祖から受け継いでいくものというような意味の遺産で,「(先祖代々に受け継がれた)遺産」などと訳されていて、お金に換算したりしない「遺産」をいう。「世界文化遺産」とか「世界自然遺産」は“Heritage”を使用している。
 また、“Legacy”は、「負の遺産」(Legacy of Tragedy)という意味でも使われ、“Legacy of past colonial rule”=「植民地支配の『後遺症』」とか、“Legacy of the bubble economy”=「バブル経済の名残」とかマイナスの意味が込められた表現にも使用され幅が広い。
 レガシー(未来への遺産)は、正確には“Positive Legacy”と“Positve”を付けて使用している。

レガシーの登場 “肥大化批判”IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)が「レガシー」という概念を掲げた背景には、五輪の存続を揺るがす深刻な危機感があった。オリンピックの「肥大化批判」である。
2022年冬季五輪の開催都市選考は、有力候補のオスロやストックホルムが撤退し、最終的に立候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけになり実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも、ボストンやハンブルグは住民の支持が得られず立候補を断念、最後まで誘致に熱心だったローマは、選挙で当選した新市長が「立候補に賛成するのはいかにも無責任だ。さらに借金を背負うことを、我々は良しとしない」として立候補を辞退し、最終的に、立候補都市はパリとロサンゼルスしか残らなかった。
膨大な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催に立候補する都市がなくなるのではという懸念が深まった。
問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢である。

Legacy(レガシー)をIOC憲章で位置付け
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、五輪改革に乗り出した。
 この年に、国際オリンピック委員会(IOC)は、「Legacy(レガシー)」と概念を掲げ、「Olympic Legacy」という冊子を公表した。
 そして、オリンピック100年にあたる2002年に定められた「オリンピック憲章」の中に、この“Legacy”(レガシー)という文言が明記された。
“To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries.”
(オリンピック競技大会の“遺産”を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進すること)(<第1章第2項「IOCの使命と役割」>の14.)
国際オリンピック員会(IOC)は、毎回、オリンピック競技大会を開催するにあっって、“Legacy”という理念を強調する。 ここでは「未来への遺産」と訳したい。
 「レガシー」とは、オリンピック競技大会を開催することによって、単にスポーツの分野だけでなく、社会の様々な分野に、“有形”あるいは“無形”の“未来への遺産”を積極的に残し、それを発展させて、社会全体の活性化に貢献しようとするものである。開催都市や開催国にとって、開催が意義あるものにすることがオリンピックの使命だとしている。
 その背景にあるのは、毎回、肥大化する開催規模や商業主義への批判、開催都市の巨額の経費負担、さらにたびたび起きる不祥事などへの批判などで、オリンピックの存在意味が問い直され始めたという深刻な危機感である。
 IOCは、その反省から、開催都市に対して、単に競技大会を開催し、成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求めるとした。


IOC “Olympic Legacy Booklet”

■ A lasting legacy
 The Olympic Games have the power to deliver lasting benefits which can considerably change a community, its image and its infrastructure.
As one of the world’s largest sporting events, the Games can be a tremendous catalyst for change in a host city with the potential to create far more than just good memories once the final medals have been awarded.
■ 持続的なレガシー(未来への遺産)
 オリンピックは、社会のコミュニティを変え、イメージを変え、生活基盤を変えていく持続的な“恩恵”を与える力がある。オリンピックは世界で最も大規模なスポーツイベントとして、力強いパワーを秘めており、メダル獲得の素晴らしい記憶よりはるかに大きな意味を持つ社会の変革を生み出す“刺激剤”なのである。
 さらに、Legacyの具体的な指標として5つのタイプを挙げている。

▼Sporting Legacy (スポーツ・レガシー) 
 Sporrting venues(競技施設)/A boost to sport(スポーツの振興)
▼Social  Legacy(社会レガシー)
 A place in the world(世界の地域)/Excellence, friendship and respect (友好と尊崇)/Incrusion and Cooperation(包括と協力)
▼Environmental Legacy (環境レガシー)
 Urban revitalisation(都市の再活性化)/New energy sources(新エネルギー)
▼Urban Legacy(都市レガシー)
 A new look(新たな景観)/On the move(交通基盤)
▼Economic Legacy(経済レガシー)
 Increased Economic Activity(経済成長)

「アジェンダ2000」の策定
さらに、バッハ会長はオリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年2014年には、「アジェンダ2020」を策定し、五輪改革に踏み出した。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む瀬戸際に追い込まれていた。
 そして2020東京大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けた。
しかし、2020東京大会の開催経費は、1年延期や新型コロナウイルス対策費を含めてと、すでに史上最高の「3兆5000億円」にも達し、五輪大会の肥大化に歯止めをかけたという目論見は挫折した。

大会開催基本計画で示されたアクション&レガシープランの基本理念
 2020東京五輪大会のレガシープランを見てみよう。
 2015年1月23日、大会組織委員会(森喜朗会長)は、東京都内で理事会を開き、大会開催基本計画案を承認した。
 基本計画では、開催開催のスローガンとして““DISCOVER TOMORROW”を掲げて、大会ビジョンの3つのコンセプト、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を示し、アクション&レガシープランの基本理念を示した。そして「2020年は市場最もイノベーティブで、世界にポジティブな変革をもたらす大会」を目指すと宣言した。

■ 全員が自己ベスト
・万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。
・世界最高水準のテクノロジーを競技会場の整備や大会運営に活用。
ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の「おもてなし」で歓迎。

■ 多様性と調和
・人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。
・東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。

■ 未来への継承
・東京1964大会は、日本を大きく変え、世界を強く意識する契機になるとともに、高度経済成長期に入るきっかけとなった大会。
・東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく


アクション&レガシープランの基本理念 2020年東京大会組織委員会

 この基本理念に基づいて、(1)スポーツ・健康(2)街づくり・持続可能性(3)文化・教育(4)経済・テクノロジー(5)復興・オールジャパン・世界への発信-を「5本の柱」とし、地域スポーツの活性化やスマートエネルギーの導入、東日本大震災の復興状況の世界への発信などに取り組むとし、アクションプランのロードマップも明らかにした。
 16年リオデジャネイロ五輪開幕前に具体的な行動計画をとりまとめ、東京五輪後にもレポートを策定する方針だ。またパラリンピックを2度開催する初の都市となることから、武藤敏郎事務総長は「共生社会、多様性と調和を大会ビジョンに入れているので、重視したい」と話した。




2020年東京大会組織委員会

アクション&レガシープランの5本の柱
▼ スポーツ・健康
(1) 国内外へのオリンピック・パラリンピックの精神の浸透
(2) 健康志向の高まりや地域スポーツの活性化が及ぼす好影響
(3) トップアスリートの国際競技力の向上
(4) アスリートの社会的・国際的地位やスポーツ界全体の透明性・公平性の向上
(5) パラリンピックを契機とする人々の意識改革・共生社会の実現

▼ 街づくり・持続可能性
(1)大会関連施設の有効活用
(2) 誰もが安全で快適に生活できる街づくりの推進
(3) 大会を契機とした取組を通じた持続可能性の重要性の発信

▼ 文化・教育
(1) 文化プログラム等を通じた日本や世界の文化の発信と継承
(2) 教育プログラム等を通じたオリンピック・パラリンピックの精神の普及と継承
(3) 国際社会や地域の活動に積極的に参加する人材の育成
(4) 多様性を尊重する心の醸成

▼ 経済・テクノロジー
(1) 大会開催を通じた日本経済の再生と本格的成長軌道への回復への寄与
(2) 大会をショーケースとすることによる日本発の科学技術イノベーションの発信

▼ 復興・オールジャパン・世界への発信
(1) 東日本大震災の被災地への支援や復興状況の世界への発信
(2) 「オールジャパン」体制によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの推進
(3) 大会を契機とする日本各地の地域活性化や観光振興
(4) オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信


アクション&レガシープラン2016を公表
 リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月、組織委員会では、「5本の柱」に基づいて、2016 年から2020 年までの具体的なアクションプランを記述して、「アクション&レガシープラン2016」として策定し公表した。IOC総会で採択された「アジェンダ2020」の趣旨も具体的に大会運営に反映し、東京2020大会を「アジェンダ2020」によるオリンピック改革のスタートの年にするとしている。
 このプランは、2020年まで毎年夏を目処に更新しながら「アクション」を実施し、2020東京大会終了後、「アクション&レガシーレポート」をまとめる。













アクション&レガシープラン2016 東京2020大会組織委員会

 アクション&レガシープランの策定する重要な視点として、「参画」、「パラリンピック」、「2018~2022年の間の大規模大会との連携」を挙げている。
 「参画」では、各ステークホルダーのアクション(イベント・事業等)に対して「認証」する仕組みをリオ大会前までに構築し、多くのアクションが全国で実施され、できるだけ多くの方々、自治体や団体に主体的に参画してもらい大会の盛り上げを図りたいとしている。
 「パラリンピック」では、障がい者の社会参加の促進や多様性への理解の推進などを推進する。
 「大規模大会との連携」では、大会を単なる一過性のイベントとするのではなく、東京、オールジャパン、そしてアジア・世界にポジティブな影響を与え、レガシーとして創出されることを企図し、2018年平昌五輪、2019年ラグビーワールドカップ、2022年北京(中国)などの大規模スポーツ大会との連携を図る計画だ。

 まさにオリンピック精神を実現するにふさわしい高邁な理念が満載されたレガシープランである。

アクション&レガシープラン推進体制 

アクション&レガシープラン2016 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

アクション&レガシープラン2016全文
アクション&レガシープラン2017全文

出典  東京2020組織委員会

五輪開催の負担に苦しみ続けた長野
 長野五輪の開催都市、長野市はもともと堅実な財政の自治体とされ、1992年度には約602億円もの基金を蓄えていた。長野市は、五輪開催に向けてこの基金を取り崩し、それでも足りない分を、市債を発行して開催経費をまかなった。
長野市の市債発行額は1992 年度に127億円だったが、1993 年度には 406億円と 3 倍強に膨れ上がった。1997年度末、市債の発行残高は1921億円に膨張した。この借金は市民1人あたり約53万円、1世帯あたり154万円にも上った。長野市の借金の償還ピークは2002年前後で、償還額は年間約230億円にも達した。以後、約20年間、長野市は財政難に苦しみながら、借金を払い続け、ようやく2017年度に完済するとしている。
 さらに長野市には整備した競技場施設の維持管理の重荷がのしかかっている。長野市は、エムウエーブ、ビックハットなど6つの競技場施設を、約1180億円を拠出して整備した。しかし、競技場施設からの収入は約1億円程度でとても施設の維持管理費をまかなうことはできない。毎年、長野市は約10億円の経費を負担し続けている。競技場施設を取り壊さない限りこの負担は永遠に続くだろう。そして、2025年頃にやってくる大規模修繕工事では、さらに巨額の経費負担が発生する。
 そのシンボルになっているのが長野オリンピックのボブスレー・リュージュ会場として使用された“スパイラル”、長野市ボブスレー・リュージュパークである。
 “スパイラル”はボブスレー・リュージュ・スケルトン競技施設として長野県長野市中曽根に建設された。コースの全長は1700m、観客収容人数は約1万人、101億円かけて整備された。“アジアで唯一のボブスレー・リュージュ競技の開催が可能な会場”がそのキャッチフレーズだ。
 しかし大会開催後は維持管理費の重荷に悩まされている。コースは人工凍結方式のため、電気代や作業費など施設の維持管理に年間2億2000万円もの費用がかかる。ボブスレー・リュージュ・スケルトン、3つの競技の国内での競技人口は合わせて130人から150人、施設が使用される機会は少なく、利用料収入はわずか700万円程度にとどまる。毎年約2億円の赤字は長野市や国が補填している。
 そして建設から20年経って、老朽化も進み、補修費用も増加した。長野市の試算では、今後20年間で、施設の維持管理で約56億円が必要としている。
 長野市では、平昌冬季五輪までは存続させるが、大会終了後は、存続か廃止かの瀬戸際に立たされている。
 一方、長野県も道路などのインフラ整備や施設整備に巨額の経費を拠出した。それをまかなうために県債を発行したが、県債の発行残高は1997年度末で約1兆4439億円、県民一人当り約65万円の借金、1世帯あたり約200万円の借金とされている。借金額は長野県の一般会計予算の規模より大きくなってしまった。
 長野県が借金を完済するのは平成36年度(2025年)、 長野五輪開催から約30年間、払い続けることになる。
 長野冬季五輪の教訓は、一体、どう活かされているのだろうか?



どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンと名付けた選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約を掲げて東京に招致に成功したのである。
 「ヘリテッジソーン」には、現在の東京の首都機能があり、1964年東京オリンピックの際に主要な競技場として利用され、2020年東京オリンピックでも主要な競技場となる国立競技場や武道館、東京体育館、代々木競技場もあるから名付けた。国立競技場は、約1590億円という巨額の経費をかけて建替えられる。この巨大スタジアムを大会開催後、どのように維持していくか、また迷走が始まっている。はたして、“レガシー”(未来への遺産)になるのか、それとも“負のレガシー”(負の遺産)になるのだろうか?
 一方、「東京ベイゾーン」、湾岸地区は、2020年東京オリンピック開催をきっかけに、新たに競技場や選手村を建設したり、既存の施設を改修したりするなどなど、開発・整備を進め、“レガシー”(未来への遺産)にしたいとしているが、膨れ上がった施設整備費で、相次ぐ建設中止や整備計画見直しで、迷走と混迷を繰り返した。
 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一東京都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とかつて述べている。
 結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは国民である。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック、あと1年、混迷はまだ収まりそうもない。

TOKYO2020のレガシーとして何を残すか?
 1964年の東京オリンピックの「レガシー」は、「東海道新幹線」、「首都高速道路」、「地下鉄日比谷線」、そして「カラーTV」だったと言われている。東京オリンピックをきっかけに、日本は「戦後復興」から、「高度成長期」に入り、そして「経済大国」を登りつめていく瞬間だった。「東海道新幹線」や「首都高速道路」などの交通インフラはその後の日本の経済成長の基盤となり、まさにレガシーとなった。「カラーTV」は、HD液晶テレビなどで世界を席巻する牽引車となった。
 そして「公害と環境破壊」、「バブル崩壊」、「少子高齢化社会」へ。
 時代の変遷とともに、「レガシー」(未来への遺産)の理念も根本から変える必要がある。有形の「レガシー」だけでなく無形の「レガシー」が」求めらる時代に入った。
 日本では、「高度成長」の名残りで、ビック・プロジェクトに取り組むとなるといまだに箱モノ至上主義の神話から脱却できないでいる。競技場や選手村の建設や交通基盤の整備などの必要性については、勿論、理解できが、膨れ上がった開催経費への危機感から、施設整備やインフラ整備は徹底した見直しが必須の状況に直面している。壮大な競技場を建設して、国威発揚を図る発想は、時代錯誤なのは明白だろう。大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会、2048年には1億人を割って9913万人となると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に必要なのだろうか? 巨大な競技場は負のレガシー(負の遺産)になる懸念が大きい。
 2020東京五輪大会のレガシー(未来への遺産)は、無形のレガシーや草の根のレガシーをどう構築するかに重点を置いたらと考える。
 今年2月策定された基本計画では、「オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信」の項目には、「アクションの例」として、「『和をもって尊しとなす』や『おもてなしの心』など日本的価値観の大会への反映」をあげている。
 こうした価値観を、どのように大会に反映させるのだろうか? 言葉だけのスローガンにして欲しくないポイントだ。
 超高齢化社会を前提にするなら、巨大な競技施設を建設より、一般市民が利用するプールやグランドなどのスポーツ施設を充実させる方が次世代にはよほど有益で、レガシーになるだろう。
 2020東京五輪大会では、“レガシー”(未来への遺産)として、我々は次の世代に何が残せるのだろうか?



2016年10月7日 初稿
2019年12月1日 改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR


****************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
****************************************
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 開催経費 1兆4238億円 招致段階から倍増 組織委員会最終報告

2023年02月27日 17時16分31秒 | 東京オリンピック
東京五輪経費1兆4238億円 招致段階から倍増 最終報告
2022年6月22日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、総額1兆4238億円に上る大会経費を最終報告明らかにした。招致活動段階の立候補ファイルで示した7340億円からほぼ倍増したことになる。
このうち新型コロナウイルスの感染拡大による大会の1年延期に伴う経費は2940億円増を想定していたが、原則無観客開催に伴う警備費用などの減額により738億円増にとどまった。
 大会経費の費用分担は、組織委が6404億円、東京都が5965億円、国が1869億円となった。組織委は競技や開会式・閉会式などの式典の大会運営費や事務局経費全般、都は東京アクアティクスセンターなどの施設整備費、国は国立競技場建設とパラリンピック経費を主に負担した。
支出の詳細が初めて公表され、聖火リレーに98億円、開閉会式に153億円、人件費に327億円かけたことなどが明らかになった。
 「一年延期」関連では、コロナ対策費として計353億円を国と都が負担した。また当初900億円を見込んだチケット収入はわずか4億円にとどまったが、大会延期に伴う保険金500億円、東京都が使わなかった予算約400億円などを充当して不足分を埋め合わせたとする。
 この結果、組織委員会の収入、支出は同額となりとなり、「収支均衡」、「赤字」はないとした。
開催経費は2013年の招致段階のファイルでは7340億円と記載した。
組織委員会では、2016年以降、毎年12月に最新の予算を公表してきた。
組織委が初めて公表した2016年12月の第一弾予算(V1)では1兆5000億円、予備費最大3000億円を含めると1兆8000億円と見積もった。しかも、この金額には五輪開催に伴う会場周辺の整備や道路整備などのインフラ整備費は含まれていなかった。国や東京都が負担する「大会関連経費」と位置付けた金額を加えた総額は「3兆円」を超えるとの警告がされた。
 五輪開催経費の削減を掲げて当選した小池百合子都知事は「1兆、2兆、3兆と。お豆腐屋さんじゃない」と皮肉ったのもこの時期である。
組織委と都、国の費用分担が決まった翌年の2017年の第2弾予算(V2)では、ほぼ倍増の1兆3500億円という見積り額をまとめた。組織委員会、東京都、国の負担額も初めて明示した。
その後、V4まで1兆3500億円の同額で推移した。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で五輪史上初めて1年の延期が決まると、1年延期費用やコロナ対策費などが増えて同年末に公表したV5では1兆6440億円に膨張した。その後、無観客開催が決まって警備費などの経費が抑えられて簡素化が可能になり、懸念された支出増加は押さえられ、最終的には1兆4238億円となった。
組織委員会の「収支均衡」で、「赤字」が出なかったとするが、実は、経理上の「救済」が行われた疑念が残る。
2020年末のV5で、1年延期、コロナ対策よる経費増と無観客による収入減で組織委員会の収支が「赤字」に転落するのを防ぐために「共同実施事業負担金(安全対策)」と名付けた経費項目を設け、組織委員会の経費から減額し、東京都の経費に積み増した。見るからに曖昧で不明瞭な経費項目で、事実上の組織委員会の「救済」策で見なすことができる。
最終報告では、この項目は219億円が減額されたが、計409億円が東京都の経費に積み増されている。さすがに「共同実施事業負担金(安全対策)」という名目では不明瞭だとしたのか、工事が完了して支出内容が固まったとして仮設費やエネルギー・インフラ費、テクノロジー費に振り分け東京都の支出とした。409億円は組織委員会「救済」の赤字補填だろう。
東京都の負担金は、その他の経費項目が、無観客開催となって大幅に減額されたので、409億円は楽々吸収された。










出典 Tokyo2020

 約450ページにわたる公式報告書は、「コロナ禍という困難の中、責務を果たした」と総括し、「マーケッティングを活用したオリンピック・パラリンピック・ムーブメントの推進」として、「スポンサーシッププログラムの推進」と「ライセンシング・プログラム」の推進を成果として挙げた。
 さらに「大会を支える確実な財務運営」として、「大会費用を含めた総費用の低減及び適正な調達手続き実施」も強調している。
 しかし、スポンサー選定を巡る贈収賄事件や大会運営入札を巡る組織的な談合事件が明るみに出て、組織委員会の総括は雲散霧消してしまった。
さらに大会が残したレガシーとして、「大会幹部らの発言でジェンダー平等に関する議論を活性化させた」との認識も示した。
 組織委は今月末に解散し、残務処理を進める清算法人に移行する。清算対応費用として144億円を計上しており、決算で残った財産があれば都に戻される。

会計検査院 五輪経費は1兆7000億円超 全壊から3000億円増 開催経費の「算定不十分」と指摘
2022年12月21日、会計検査院は東京2020の開催経費ついて、約1兆7000億円に上ったと発表した。大会組織委員会は6月に最終報告として開催経費は約1兆4238億円だったとしたが、検査院は経費として「算定すべき項目が不十分」として約3000億円上積みした。
組織委、東京都と共に3者で開催経費を負担した国は大会前後を通じて自ら総経費を公表せず、会計検査院は「国際的なイベントの場合、国が経費全体を明らかにする仕組みを検討すべきだ」と指摘した。
 2017年、国会は検査院に対して、東京五輪2020開催に伴う国の取り組みや施策の状況を検査するよう要請し、検査院はこれまでに2回報告している。今回は大会開催後初めての報告で、かつ最終検査結果となる。
 会計検査院の1回目の報告は、2018年12月に行われ、国の東京五輪2020の大会開催経費支出は、約8011億円(2013年~2017年の5年間)とした。
主な項目は、▽予測精度向上のための気象衛星打ち上げ、▽水素社会実現のための燃料電池車購入補助金、▽首都高速道の整備費、▽暑さ対策事業、▽被災地の復興と地方の活性化などである。
さらに、▽オリンピックムーブメントの普及、▽メダル確保のための競技力強化や、▽日本の技術力発進、▽外国人旅行者の訪日促進、▽日本文化の魅力発進など、ありあらゆる事業が東京五輪2020関連経費として予算化された。
会計検査院の2回目は、2019年12月に報告された。
前回より、約2600億円増えて、1兆600億円(2013年~2018年の6年間)とした。
これに対して、東京五輪2020を所管する内閣官房大会推進本部は、会計検査院に反論し、1兆600億円の内、2669億円は「大会関連経費」として認めるが、残りの7931億円は、「本来の行政目的の事業」などとして五輪開催とは関係ないとした。以後、内閣官房は会計検査院に対して反応していない。
 そして2022年12月の三回目が会計検査院の最終報告となる。

6月に組織委員会が公表した最終報告では、国は、国立競技場の整備費=1240億円、コロナ感染対策費の国負担分=251億円など、計1869億円を「開催経費」額と算定した。
しかし、会計検査院の最終報告では、国の「開催経費」負担額は、実際は約4668億円だったと指摘。選手強化費やセキュリティー対策費など経費に含まれていない額が2799億円分あり、加算すべきだと指摘した。
さらに会計査院は、「大会開催経費」とは別に、「大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出するのが困難な事業等」を「大会関連経費」と定義し、その金額を計1兆3002億円と算出した。会計検査院が各省庁の予算項目を丹念に調べ上げて、東京五輪2020関連として計上している費目を積み上げた金額である。
国の「開催経費=4668億円と「大会関連経費」=1兆3002億円を合計すると、国の開催経費負担額の総計は、1兆7670億円に達することが明らかになった。
検査院は各省庁の大会関連経費を集計した金額も項目ごとに公表した。例えば、▽大会の確実な成功に寄与するための「国際テロ情報収集ユニット」新設▽都や組織委などの検討会でまとめられた暑熱対策舗装整備▽大会における新型コロナウイルス対策に資する感染症対策▽競技会場周辺のトイレなどのバリアフリー化――。いずれも大会「開催経費」からは切り離されているが、大会運営に必須の経費に違いない。
 これにより、国、都、組織委が負担した「広義の大会経費」は3兆6845億円に上った。ついに「3兆円」を優に上回ったのである。

 これに対して、国は2021年1月に、五輪大会を担当する内閣官房オリパラ事務は、五輪開催経費について、2013年度予算から9年間の総額が3959億円になったと発表した。前回の公表より新型コロナウイルス感染症対策費として809億円を追加した。しかし、大会開催後、最終的な結果を公表していない。検査院は「予算が総経費の見込み額を示したものでない上、国は大会後も総経費を取りまとめていない」と指摘。今後も国としての公表予定がないとし「国際的な大規模イベントで相当程度国が関与することが見込まれる場合は、国民の理解に資するよう十分な情報提供を行うべきだ」との所見を示した。

「五輪便乗」 大判振る舞いの五輪開催予算
 五輪開催経費を「青天井」にする膨張主義体質は、国や東京都に根深く根ざしている。
東京五輪2020を「錦の御旗」にして、予算獲得に奔走した各省庁の姿勢が目に浮かぶ。「錦の御旗」の振りかざすことで、「便乗予算」がまかり通った様子が透けて見える。本当に大会開催に必要な予算なのか厳しくチェックする姿勢に欠けていたのではないか、検証が必要と思われる。五輪開催経費の「青天井」体質からの脱皮が必須だろう。



2022年1月1日
Copyright (C) 2021 IMSSR

******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
Media-closeup Report 深層情報 Think before you trust Trueth and Justice
******************************************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 贈収賄疑惑 賄賂 竹田JOC会長退任 ディアク ブラック・タイディングズ コンサルタント料 陸上競技連盟 IAAF

2023年02月25日 16時05分49秒 | 東京オリンピック


東京五輪招致で組織委理事、高橋治之氏に約9億円、森氏の団体に約1億4500万円 ロイター通信報道
 2020年3月31日、ロイター通信は、2020東京五輪招致を巡り、大会組織委員会理事を務める広告代理店電通元専務の高橋治之氏が、東京五輪招致委員会から820万ドル(約8億9千万円)相当の資金を受け取り、国際オリンピック委員会(IOC)委員らにロビー活動を行っていたと伝えた。
 さらに招致委員会は、森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体、「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4500万円を支払っていることを明らかにした。
 ロイター通信は、日本側がフランス司法当局へ提出した招致委の銀行口座の取引明細証明書を入手したという。
 この文書には招致活動の推進やそのための協力依頼に費やした資金の取引が3000件以上記載されており、多くの人々や企業が資金を受け取り、東京招致の実現に奔走した経緯を窺い知ることができる。
 支払いの中で最も多額の資金を受け取っていたのは、電通の元専務で、現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)の理事を務める高橋治之氏で、口座記録によると、高橋氏にはおよそ8.9億円が支払われていた。
 高橋氏はロイター通信のインタビューに対して、招致委員会からの支払いは彼の会社であるコモンズを経由して受け取り、五輪招致を推進するための「飲み食い」、そして招致関連のマーケティングなどの経費に充てたと話した。そして、五輪招致疑惑でIOC委員だった際の収賄容疑が持たれているラミン・ディアク世界陸連前会長(セネガル)にセイコーの腕時計やデジタルカメラなどの贈り物を手土産として渡したことを明らかにした。
 当時の招致委の関係者によると、招致関係者を招くレセプションやパーティーで「良い時計」が配られていた。同委の口座記録を見ると、セイコーウオッチ社に500万円ほどが支払われている。
 高橋氏は、ロイターに対し、招致委から受けた支払いについても、その使い方についても何ら不正なことはなかったと語った。
 招致委の関係者によると、高橋氏は民間企業からスポンサー費用を集めた際に、そのコミッション料を受け取っていたと語っている。

森元首相の団体にも資金
 招致委員会は森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体、「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4500万円を支払っていることが明らかになった。
 招致委が高橋氏、および組織委会長でスポーツ界に強い影響力を持つ森氏の団体に行った資金の支払いは、ロイターが確認した同委のみずほ銀行の口座記録に記載されている。この銀行口座の記録は日本の検察がフランス側に提供した。仏検察の捜査関係者によると、高橋氏や森氏の団体に対する支払いについては、これまで聴取を行っていない。
 嘉納治五郎センターのウエブサイトによると、直接的な招致活動を行っていた記録はない。同センター事務局の唯一の職員である大橋民恵氏は、招致活動のために米国のコンサルティング会社1社と個人コンサルタント2人と契約を交わしたことは認めたが、なぜ招致委員会でなく、同センターがコンサルタントを雇ったのかについては聞いていないと述べた。
 大橋氏は、ロイターに対し、招致委から支払われた資金については、招致に関わる国際情報を分析することが主な目的だったと答えた。
 これに対し、組織委は高橋氏に招致委が支払った資金や森元首相の嘉納治五郎センターによる招致活動などについては関知していないとしている。森氏自身はロイターの質問に答えていない。
 またIOCは個別の団体間で支払われた資金やIOC委員への贈答品については認識していないとしている。
 JOCは外部の専門家による調査チームを発足させ、2016年8月に調査報告書を公表、招致委による契約内容や締結過程について国内の法律に違反することはないと結論づけた。 しかし同報告書は高橋氏や嘉納治五郎センターへの支払いについて触れていない。JOCは、招致委とは別組織であり、同センター及び高橋氏に対する支払いについては「当初から承知していない」と答えた。

嘉納治五郎記念センターが昨年末で活動終了、五輪招致に関与

電通、東京招致へ巨額の寄付とロビー活動 IOC規定に抵触も Reuters報道
 10月15日、Reutersは、2013年に決まったオリンピック・パラリンピックの東京招致をめぐり今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通が東京招致活動に6億円を超す寄付をするなど、「中立性」を求める国際オリンピック委員会(IOC)の規約に抵触しかねない関与を行っていたことがロイターの取材でわかったと伝えた。
 オリンピック・パラリンピックの東京招致をめぐり今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通が東京招致活動に6億円を超す寄付をするなど、「中立性」を求めるIOCの規約に抵触しかねない関与を行っていたことが明らかになったとしている。
 ロイターが閲覧した銀行記録によると、電通は2013年、東京五輪招致委員会の口座に約6億7000万円を寄付として入金した。さらに、日本陣営を代表する形で、開催都市決定への投票権を持つ一部のIOCメンバーに対するロビー活動を主導した、と招致委のロビー活動に関与した複数の関係者はロイターに話したという。
電通はIOCとの長年の取引を背景に、国際的なスポーツイベントに関わってきた。IOCは招致活動の公平性と中立性を確保するため、利益相反を防止する行動規約(第10条)を設け、グローバルなスポンサーやマーケティングパートナーに特定の都市に対する支援や宣伝を控えるよう求めているが、東京の招致活動に対する電通の積極的な後押しはIOCのガイドラインを逸脱していた可能性があるとした。
 ロイターの取材に対し、電通は自社の活動がIOCのガイドラインに抵触してはいないとの認識を示した。同社は「同委員会の求めに応じ、その都度、助言をしたり、情報提供をしていた」と回答、招致活動への関与は通常業務の範囲を超えていないとしている。(Reuters 10月15日)

捜査続く五輪汚職疑惑
 仏検察は、ディアク父子を東京五輪の招致をめぐる疑惑で収賄側として捜査し、贈賄側として捜査対象が、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長(招致委理事長)である。シンガポールのコンサルタントを通じディアク父子に約2.3億円を支払って東京への招致を勝ち取った疑いがかけられている。
 竹田氏はJOCとIOCの役職を昨年辞任、疑惑については明確に否定しており、支払った金額は正当な招致活動の費用であったと主張している。また、同氏の弁護士によると、竹田氏は高橋氏に、ディアク氏に対するロビー活動を指示したことはなく、ディアク氏に高橋氏から贈られた土産についても認識していなかったと語った。同弁護士は「竹田氏はそのようなことを一度も承認していない」と述べた。
 一方、ディアク氏の弁護士は「東京またはリオ五輪の関係者から(ディアク氏は)全くお金を受け取っていない」と話している。

五輪招致、海外送金11億円 疑惑BT社以外は非公表
 2020年東京五輪招致委員会が計2億円超を支払ったシンガポールのコンサルタント会社、ブラックタイディングス(BT)社を含めて海外に送金した総額が11億円超に上ることが22日、複数の関係者への取材で分かった。BT社を除いて具体的な送金先や内訳は不明。当時の招致委関係者は「守秘義務もあり個別の案件は非公表」としている。BT社の口座から不透明な資金の流れが明らかになったばかりで、説明が求められそうだ。
 BT社へは、招致が正念場を迎えた13年7月と東京開催が決まった後の10月に1回ずつ振り込まれた。他のケースも国際プロモーションが活発化した同時期に集中していた。(出典 共同通信 9月23日)

IOC委員息子側へ3700万円(約37万ドル) 東京五輪招致 委託のコンサル
(朝日新聞 9月21日)

前世界陸連会長に実刑判決 ロシアのドーピング隠蔽疑惑
 9月16日、ロシアの組織的ドーピング隠蔽に関与した疑惑で、収賄や背任などの罪に問われたセネガル人の前世界陸連(旧国際陸連)会長ラミン・ディアク被告(87)に対し、パリの裁判所は、禁錮4年(うち実刑2年、執行猶予2年)、罰金50万ユーロ(約6200万円)の判決を言い渡した。求刑は禁錮4年、罰金50万ユーロだった。
 元国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあるラミン被告は息子のパパマッサタ被告(55)と共に、東京五輪の招致に絡んで日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長が贈賄容疑で正式捜査の対象となった疑惑でも、収賄の疑いが持たれている。(共同通信 9月16日)

Exclusive Japan businessman paid $8.2 million by Tokyo Olypic bid lobbied figure at centre French corruption probe
3月31日 Reuters


竹田JOC会長 6月の任期満了で退任表明
 2019年3月19日、日本オリンピック委員会(JOC)竹田会長は、この日開かれた理事会で、6月の任期満了での退任を表明した。国際オリンピック委員会(IOC)委員も辞任することも明らかにした。開幕まで500日を切った中で、五輪を開催する国内オリンピック委員会のトップが退く異例の事態となった。
 竹田会長は、理事会終了後、記者団に対して、「来年の東京大会を控えて世間を騒がしていることを大変心苦しく思っている。次代を担う若いリーダーに託し、東京オリンピック、日本の新しい時代を切り開いてもらうことが最もふさわしい。定年を迎える6月27日をもって任期を終了し、退任することにした」とし、「バッハIOC会長とは何回も連絡をとっているし、昨日も今日も電話で話をした」と述べた。
 またIOC委員については、「IOCの憲章によると、JOCの理事であることが求められているため、私は理事を退任するのでIOC委員も辞めることになる。JOCの会長を辞めて理事で残ることは考えていない」と述べ、IOC委員を辞任することを明らかにした。
 仏司法当局の捜査については、「不正なことはしていない。潔白を証明すべく今後を努力していきたい」と述べた。
 しかし、6月の任期満了での退任については、大会関係者の間では、即座に辞任すべきだという声が多いとされている。
 2018年12月、仏司法当局は、2020東京大会を巡る買収疑惑について、「東京招致が決まった13年に180万ユーロ(約2億3千万円)の贈賄に関わった疑いがある」として竹田氏をパリで事情聴取し、本格捜査に乗り出した。竹田氏は「潔白」を主張しているが、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑がかけられている。
 疑惑報道を受けて開いた2018年1月の記者会見で、竹田氏は疑惑を否定する自らの主張を述べる一方で記者側の質問を受けず、7分間で席を立った。この姿勢が世論の反発を招いた。大会組織委関係者らからは「東京大会のイメージを損なう」などと続投を疑問視する声が強まった。
 竹田氏はこの6月改選期を迎えるが、JOCは竹田氏続投を前提に進め、「選任時70歳未満」の役員定年規定の変更を視野に入れていたが、スポーツ庁が策定を進める競技団体の運営指針に反するとして批判を浴びた。竹田氏を擁護してきたJOC内部でも3月12日の常務理事会では続投を疑問視する意見が出ていたと伝えられている。
 竹田氏は海外出張をたびたび取りやめるなど、職務にも支障が出始めていた。竹田氏は3月上旬、副会長を務めるアジア・オリンピック評議会がバンコクで開いた総会を欠席した。国内では仏当局の捜査権は及ばないが、国外では身柄拘束を請求される可能性があるためとみられる。ファーウェイ副会長の孟晩舟氏がアメリカ司法当局の要請を受けてカナダで拘束されたのは記憶に新しい。東京2020大会まで後1年、大会を推進するJOCのトップが海外出張して、会議の出席や打ち合わせができないのは致命的だろう。
 3月26日から28日にはスイスのローザンヌで、国際オリンピック委員会(IOC)の理事会が開かれ、コーツIOC副会長が1年余りに迫った東京2020大会の準備状況を報告する。その会場に、JOCのトップでIOCの委員の竹田氏が出席できないのでは、国際社会から激しい批判を浴びるのは必至だろう。 
 最早、贈収賄疑惑で無罪なのか有罪なのかの司法判断がどうなるかは関係ない。

 竹田氏退任を強く求めたのは国際オリンピック委員会(IOC)だったとされる。
 仏紙、ルモンドは、今年の7月24日に開催される東京五輪大会の1年前を祝う式典に、バッハIOC会長は参加することを拒否した。バッハIOC会長は竹田氏の隣に並んで立ちたくなかったと報じた。
 IOCは、最近はこうした疑惑に対して厳しい姿勢をとる。IOCは、表向きでは、竹田氏の疑惑に対して「推定無罪の原則を尊重」としながら、早期の退任を求める動きが出ていた。仏司法当局の捜査状況は着実に進んでいて、IOCはこうした状況も把握していたと思われる。
 オンピックのイメージを損ないかねない竹田氏の続投は、IOCにとっても避けたいのは明らかである。
 3月19日、竹田恒和会長がIOC委員を辞任すると表明したことを受けて、「決断を最大限に尊重しながら受け止めている。五輪運動を守るために取った一歩だ」との談話を発表した。
 また、フランス司法当局の捜査対象となっているこが明らかになったことで開催された記者会見で、竹田JOC会長が質疑応答なし7分間で終えた異例の会見に対して、JOC関係者の強い批判が巻き起こったのが退任の引き金になった。
 JOC理事の中には竹田会長の再任を求める声や、退任後は名誉会長に推す声もあったとされているが、2020東京五輪大会を巡る疑惑が国際オリンピック委員会(IOC)や国際社会からどう見られているのかをまったく理解していないのには唖然とするほかない。
 3月19日付のニューヨークタイムズ紙の見出しは、“Japan Chief Takeda to Quit as Corruption Probe Continues”である。

 竹田氏は、2001年に会長に就任し、現在10期目。2013年9月には東京2020大会招致委員会の理事長として招致成功に貢献し、今は東京2020年大会組織委の副会長を担う。JOC会長としては6月に改選期を迎えるが、当初は続投が既定路線だった。本人も東京五輪大会までの続投を強く望んでいたという。後任には同常務理事で全日本柔道連盟会長の山下泰裕氏(61)が挙がっている。

 竹田氏が退任しても、東京2020大会招致を巡る贈収賄疑惑問題は決して解決はしない。招致委員会がシンガポールのコンサルティング会社に支払ったコンサルティング料が、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑は残るからである。
 仮に招致員会が支払ったコンサルティング料に問題はなかったしても、結果として、コンサルティング料が、買収工作に使われたとすれば、竹田氏や招致員会の道義的な責任は問われるべきであろう。
 2016年9月に公表したJOCの調査チームは大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、IOCの倫理規定にも違反していない結論づけた調査報告書を公表したが、約2億3千万円のコンサルタント料が何に使われたかは何も調査していないのである。
 また、シンガポールのコンサルティング会社を招致委員会に紹介した電通の責任も問われてしかるべきだ。このコンサルティング会社は、黒い噂の絶えないブラック企業であることが明らかになっている。
 「金で買われた東京五輪」、仏司法当局の捜査で、コンサルタント料が賄賂に使われたことが明らかになれば、2020東京五輪大会は拭い去ることができない大きな汚点を残すことになる。


JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑 窮地に追い込まれた東京2020
  東京五輪は裏金で買われたかもしれない――2013年9月7日、ブエノスアイレスにて、東京がイスタンブールを60対36の票差で破り、2020年五輪開催都市の栄誉を勝ち取ったあの日に感動した多くの人たちに冷水を浴びせている。五輪開催国にとってあまりに不名誉な贈収賄疑惑である。
 フランス司法当局による竹田JOC会長に対する贈収賄容疑の捜査は、2020東京大会に深刻なダメージを与えている。
 竹田氏が起訴されると2020東京大会は大きな打撃を受けるのは間違いない。
 2020東京大会は最大の危機を迎えた。



竹田恒和JOC会長 出典 日本オリンピック員会(JOC)

竹田JOC会長、潔白主張 質疑応答なし異例の会見
 2019年1月15日、2020年東京五輪・パラリンピック招致に絡む贈賄容疑で、フランス司法当局の捜査対象となった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、、東京都内で記者会見に臨み、自らが理事長を務めていた2020東京五輪招致委員会とシンガポールのコンサルタント会社、ブラック.タイディング(Black Tidings)社と結んだ契約は、「ロビー活動及び情報収集」に関連する二つのコンサルタント業務で、その支払いについて「適正な承認手続きをしたもの」で「適切な対価」と述べ、従来通り潔白を主張した。
 また竹田会長は、「私自身は意思決定プロセスに関与していない」とし、当時、承認手続きを疑う理由はなかったと述べた。契約をしたコンサルティング会社の代表のタン・トン・ハン(Tan Tong Han)氏とフランス司法当局から収賄と資金洗浄で訴追されている国際陸上連盟前会長で前IOC委員のラミン・ディアク(Lamine Diack)氏とパパ・マッサタ・ディアク(Papa Maasata Diack)氏親子との関係は知らなかったとした。
 会見は冒頭に事務局から、「フランス当局が捜査中に案件のため、慎重に検討した結果、お伝えできること事を口頭でお伝えするのみが適切であると判断した。質疑応答は行わない」と伝えられ、異例の会見となった。
 会見の最後に、竹田会長は「この騒動により、東京オリンピック・パラリンピックに向け、確実で順調な準備に尽力されている皆様、組織委員会、オリンピック・ムーブメントに対し影響を与えかねない状況になったことを大変申し訳なく思う」と述べ、今後はフランス当局に全面的に協力することで自らの潔白を証明すべく全力と尽くしていくとした。 会見は約7分間で終了した。
 
 会見では竹田会長から、フランス司法当局から捜査を受けている贈収賄容疑に関する納得がいく説明は何もなかった。捜査中の案件という理由にしても、国民の納得はまったく得られない。疑惑はさらに深まるばかりだ。
 そもそも招致委員会が、「賄賂」として金銭を支払ってIOC委員に投票の働きかけをするのはあり得ないだろう。またコンサルと契約を結ぶ手続きに問題があったとは思えない。
 問題は、なぜブラックな疑惑のあるタン・トン・ハン氏のコンサルタント会社になぜコンサルタント契約を結んで「ロビー活動・情報収集」を委嘱したかである。タン・トン・ハン氏はどんな人物なのかJOCは調査したのだろうか。それとも票のとりまとめのぎりぎり段階を迎えて、ブラックな疑惑は知っていながら頼まざるを得ない状況に追い詰められていたのだろうか。疑念は深まるばかりだ。
 また「適正な承認手続きをしたもの」で違法性はないとしたが、タン・トン・ハン氏が行った「ロビー活動・情報集収集活動」の実態はどんなものだったのか、まったく闇に包まれたままであある。
 2016年9月に公表した日本オリンピック委員会(JOC)の調査チーム(座長・早川吉尚弁護士)は2020東京大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定にも違反していない結論づけた。
 しかし、調査チームは契約の内容や意思決定のプロセスを調査しただけで、フランス司法当局が問題視しているタン・トン・ハン氏の活動実態や資金の流れを何も調査していない。焦点のディアク氏親子の関係も一切調査していない。
 コンサルタント活動実態や資金の流れが何も明らかになっていないのに「違法性はない」と結論付けるのは余りにも乱暴だ。 いずれにしても当時から疑惑に包まれていたタン・トン・ハン氏とコンサルタント契約を結んだのは軽率な判断だったというそしりは免れない。
 竹田会長は、当時、意思決定プロセスに関与していないとし、タン・トン・ハン氏とディアク親子の親密な関係は知らなかったと自らの責任を回避する姿勢をとっている。大会招致員会にとって不都合な事実が明るみ出た場合には、担当者の一存と言い抜けることも可能だと思われる。
 しかし、組織の長として責任をとらなければならないことを忘れてはならない。
 崇高な精神を掲げるオリンピック・ムーブメントを推進する日本オリンピック委員会(JOC)、そのトップである竹田会長は責任ある説明性と対応が求められる。
 このままでは、東京大会招致に関する疑念はまった晴れない。東京2020大会まで後1年半に迫っている。

五輪招致不正疑惑の“中心人物”ディアク父子直撃「言いがかりだ」
 東京オリンピック招致をめぐる汚職の鍵を握るとされる人物が、疑惑発覚後、初めて日本のテレビカメラの前でインタビューに応じ、セネガル人のIOC=国際オリンピック委員会元委員で国際陸上連盟前会長のラミン・ディアク氏とその息子のパパ・マッサタ・ディアク氏は取材に対し、「言いがかりだ」などと賄賂の存在を否定した。
 この内、ミン・ディアク氏は「私がお金を受け取った?馬鹿げた話だ」とし、「「東京だったらどんな街にも勝てる、私が票を入れなくてもね。日本は陸上を支えてきた。東京がお金を出したから投票したのではない」と語った。
 一方、セネガルに在住しているパパ・マッサタ・ディアク氏は、「IOCのメンバーとは一度たりとも話をしていない」とし、「東京オリンピックとは関係が無い話だ。招致の成功が3つや4つの時計のおかげというのはいいがかりだ」と述べた。(2019年2月13日 TBS ニュース)

仏紙ルモンドに報じられた竹田恒和会長の贈賄容疑
 「東京2020五輪大会の実力者が贈賄(corruption active)で起訴(mis en examen)された。フランス司法当局は竹田恆和氏が大会招致を手にするために賄賂を支払うことを認めたという疑いを持っている」(L’homme fort des JO de Tokyo 2020 mis en examen pour « corruption active » La justice française soupçonne Tsunekazu Takeda d’avoir autorisé le paiement de pots-de-vin en vue de l’obtention des Jeux, révèle « Le Monde »)
 2019年1月11日、仏紙ルモンド(電子版)は、2020年東京五輪招致の不正疑惑をこのような見出しで伝え、フランス司法当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対し、贈賄容疑で起訴に向けて最終段階の捜査を開始したと報じた。


Le Monde 2019年1月11日

 ルモンド紙によると、竹田会長は、2018年12月10日にすでにフランス国内で予審判事の聴取を受けていた。
 フランスでは、重大な事件については、検察が行う予備的な捜査で疑惑に確かな根拠があると判断された場合は、検事は裁判所の予審判事(juge d'instruction)に犯罪捜査に相当する「予審」(mise en examen)を請求する事が出来るという司法制度がある。予審判事は、警察に証拠を収集させ、被疑者を尋問して、事件を解明して正式な裁判に持ち込むかどうかを決める。「予審」の期間は最大2年で、容疑者を刑事裁判の被告として起訴して公判請求するかどうかが決められる。
 正確には、日本の司法制度でいう「起訴」ではなく、「予審」である。
 「予審」を開始する前に 予審判事は、当事者に出頭を求めて聴取を行い、その上で予審判事は「予審」を正式に開始するかどうかを判断する。嫌疑の確証が得られなければ、その時点で捜査終了となる。竹田会長の場合は、出頭して聴取された上で「予審」開始となっていることから、司法当局は嫌疑についてかなりの確証を得ていると思われる。
  
 2016年、フランス司法当局は、竹田会長が理事長を務めていた招致委員会が2013年7月と10月、シンガポールに拠点があるコンサルティング企業、ブラック・タイディングズ(Black Tidings)社に、2020東京大会招致のコンサルタント料として約2億3千万円を支払った事実を2015年末に把握し、資金の一部が賄賂や資金洗浄に使われた可能性があるとして捜査を開始した。
 捜査の結果、約2億3千万円の支払いは、国際ロビー活動などのコンサルタント契約により、2013年9月の東京大会招致決定の前後に行われ、投票が行われたIOC総会直前の2013年7月に約9500万円、招致決定後の2013年10月に、成功報酬の意味合いを含む勝因分析の名目で約1億3500万円が支払われていた事実をつかんだ。
 この2回の送金を発見したのは、フランス司法当局のマネーロンダリング防止部隊の捜査チームで、ブラック・タイディングズ社から資金の一部が、ラミン・ディアク氏の息子、パパ・マッサタ・ディアク氏に流れていたこと確認している。
 竹田会長によると、ブラック・タイディングズ社へコンサルタント料として約2億3千万を支払ったことを認めた上で、ブラック・タイディングズ社との契約は、招致決定直前の13年8月にモスクワで予定されていた陸上の世界選手権とIOC理事会を前にして、陸上関係者との人脈が脆弱だという危機感を抱いたことがきっかけだったとしている。また招致決定前と決定後の2回に分けて支払っているのは、ブラック・タイディングズ社の要求する額を一度では払い切れなかったからだとした。
 竹田会長は「業務への対価で正当な支払い」を強調している。

 2018年12月にフランス捜査当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対して実施した事情聴取は、その日程が同年8月の時点で決まっていたことが関係者への取材で分かった。事情聴取後、フランス当局は贈賄容疑で起訴に向けて「予審」捜査を開始した。
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告による一連の捜査に対する「報復か」と指摘する見方も一部で取り沙汰されたが、ゴーン被告が逮捕される約3カ月前から「捜査における協力」として事情聴取が決定していたのである。竹田会長が国際オリンピック委員会(IOC)の会議などで渡欧するタイミングで日程が調整されていたという。(共同通信 2019年1月13日)
 竹田恒和会長への捜査開始は、日産ゴーン前会長逮捕の「報復」とする見方はまったく見当外れである。
 しかしフランス司法当局は、ル・モンド紙にリークしたタイミングを日産ゴーン前会長への捜査状況を視野に入れて日本の検察に揺さぶりをかけた可能性は否定できない。

契約相手はドーピング隠蔽疑惑でも名前が登場したいわくつきのブラック企業
 ブラック・タイディングズ社は、シンガポールを拠点に活動している国際スポーツ競技会に関わるコンサルティング企業で、登記日は2006年4月27日、登記抹消日は2014年7月4日といわれている。また会社組織ではなく、いわゆる「個人事業主」(Sole Proprietor)で「ブラック・タイディングズ」はタン・トン・ハン氏の「個人事業主の屋号」だったとされている。
 タン・トン・ハン氏は、セネガルのダカールに「スポーツ エイジ」(Sports Age)というブラック・タイディングズ社と同様のコンサルティング会社を設立している。またシンガポール市内にSports Age(Asia Pacific)とGoal Up!という企業も所有している。
 ブラック・タイディングズ社を巡っては、事業活動が行われていたという確証が見当たらず、実態はコンサルタント料として振り込まれる収入の「マネーロンダリング・資金洗浄」を行う「ペーパー・カンパニー」だったという疑惑が渦巻いている。
 シンガポールでの同社の所在地は簡素なアパートで看板もないアパートの一室と伝えられている。(The Straitstimes FEB 15 2018)


The Straitstimes Jan 16 2019


The Straitstimes FEB 15 2018

 ドーピング隠蔽をテーマしたドキュメンタリー番組の制作者が、シンガポールのブラック・タイディング社を訪れると、男が姿を現し、取材を拒否し、警察を呼ぶと脅されたという。制作者は、姿を現した男は、タン・トン・ハン(Tan Tong Han)氏であることが撮影された映像から判別できるため、放送ではシャドウをかけたという。

 ブラック・タイディングズ社の実態は、IOCの委員で国際陸上競技連盟(IAAF)前会長でもあったセネガル人のラミン・ディアク氏の息子、パパ・マッサタ・ディアク氏の「ダミー会社」とみられている。 捜査当局のサイバー捜査で、タン・トン・ハン氏は世界陸上連盟(IAAF)のマーケッティング業務に関与し、世界陸上連盟前会長のラミン・ディアク(Lamine Diack)の息子のパパ・マッサタ・ディアック(Papa Massata Diack)氏と極めて親密な関係を持っていたことが明らかになっている。
 息子の名前にタン・トン・ハン氏は「Massata」と名付けていた。
 二人の関係は、2008北京五輪大会で始まったという。
 タン・トン・ハン氏は世界陸上連盟(IAAF)の定例の会議やイベントに参加、世界陸上連盟(IAAF)の理事会にも出席し、前会長のラミン・ディアク氏やIAAFの上級スタッフによく知られていた人物で、「国際陸連の幹部レベルに溶け込み」、「国際陸連の非公式な統治系統の一員のようだった」(The Gaudian紙 2016年5月11日)とされている。

 さらに問題なのは、ロシア陸上界のドーピング隠蔽疑惑を調査した世界反ドーピング機関(WADA)の独立調査委員会報告書にも名前が登場するいわくつきの会社なのである。
 独立調査委員会第2回報告書によれば、「ブラック・タイディングス」とはヒンディー語で 「ブラック・マネー」を意味するとしている。『闇マーケティング』や『黒いカネの資金洗浄』を彷彿とさせる社名(屋号)を看板に掲げているブラック企業だ。
 ブラック・タイディングズ社の口座はロシア選手のドーピングの隠蔽工作に絡む金銭のやりとりに使用されていたことが報告書で明らかにされた。
 また2020夏季五輪大会の招致活動を巡っては、ラミン・ディアク氏の息子のハリル・ディアク氏とトルコ(イスタンブール)招致委委員との間で交わされた会話内容を押収し、
「トルコ(イスタンブール)はダイヤモンドリーグや国際陸連に400万ドルから500万ドルを支払わなかったため、ラミン・ディアック氏の支持を得られず落選した。日本は支払ったので、東京開催を獲得した」という会話があったことを明らかにしている。
 報告書にはタン・トン・ハン氏と電通との関係についても記述され、「電通の関連会社である電通スポーツがスイスのルセーヌにアスレチック・マネジメント・アンド・サービス(AMS)というサービス会社を設立した。AMSは国際陸連による商業権利の売買や移管を目的としている。AMSはタン・トン・ハン氏を2015年の北京大会を含む国際陸連の世界選手権やその他の競技大会で、でのコンサルタントとして契約し、業務を行ってもらっていた」としてる。
 電通は子会社のAMS社を通じて、ブラック・タイディングス社のイアン・タン・トン・ハン氏と密接な関係を持っていたことが窺える。
 2020東京大会招致員会にコンサルタント会社としてブラック・タイディングス社を推薦したのは、こうした関係があったからであることは間違いない。

タン・トン・ハン被告に禁錮刑 シンガポール地裁
 2019年1月16日、シンガポール地裁は、ロシアのドーピング隠蔽工作で捜査を受けた際に、シンガポール汚職捜査局(CPIB Corrupt Practice Investigation Bureu)に虚偽の説明をした罪で、ブラック・タイディングス社の元代表、タン・トン・ハン被告に、禁錮1週間の有罪判決を言い渡した。タン・トンハン被告は起訴内容を認めた。
 WADA独立調査員会の報告書で、2014年3月、当時の国際陸連会長と国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク氏の息子で、タン・トン・ハン被告と懇意だったパパ・マッサタ・ディアク氏が、約52万シンガポールドル(30万ユーロ 約4350万円)を、所有する会社からブラック・タイディングス社に送金したことが明らかになっている。
 タン・トン・ハン被告は、パパ・マッサタ・ディアク氏の指示を受けて、この資金をロシアのマラソン・長距離選手、リリア・ショブホワ(Lilija Shobukhova)の夫に送金してた。

 リリア・ショブホワ(Lilija Shobukhova)選手はドーピング違反を隠すために持久力コーチのアレクシー・ミルニコフ氏(Alexei Melnikov)ないし彼が指名した人物に対して45万ユーロ支払った。しかしミルニコフ氏は彼女のドーピング違反が明るみに出るのを遅らせることができただけで隠蔽工作は失敗した。ミルニコフ氏は賄賂の払い戻しについて、ロシア体育協会(ARAF:All Russia Athletics Federation)会長で世界陸上連盟財務担当のバラクニチェフ(Valentin Balakhnichev)氏と相談し、その結果、バラクニチェフ会長はミルニコフ氏に対し、30万ユーロを選手に返還を手配するよう指示した。
 ミルニコフ氏の指示で、ショブホワ選手は払い戻し金の電信送金を受け取るためにロシアの銀行に口座を開設した。 2014年3月末に、ブラック・タイディング社(Black Tidings)のシンガポールの銀行口座から、30万ユーロの返金がショブホワ選手の口座に振り込まれた。
 フランス司法当局は、電信送金記録やブラック・タイディング社に送金を指示したパパ・マッサタ・ディアク氏の電子メールを押収している。

 今回の判決で、2015年11月、シンガポール汚職捜査局の聴取を受けた際、タン・トン・ハン被告は約52万シンガポールドル(30万ユーロ)は「スポンサーおよびコンサルタント料で、スポンサーロゴ制作や記者会見のアレンジ、輸送サービス業務などを行った対価だ」と虚偽の説明をしたとした。タン・トン・ハン被告は、パパ・マッサタ・ディアク氏にコンサルタント料の請求書を出し、ディアク氏が所有するセネガルにあるPamodzi Cosulting社の口座からコンサルタント料が振り込まれたとする偽装工作を行っていた。汚職捜査局は実際にはコンサルタント業務はなかったと断定した。
 2013年、ブラック・タイディングス社は2020東京大会招致委員会と約2億3000万円のコンサルタント契約を締結した。タン・トン・ハン被告は当時の国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク氏の息子のパパ・マッサタ・ディアク氏と親密な関係にあったとされ、資金の一部が票の買収のための賄賂としてラミン・ディアク氏に渡されとしてフランス司法当局が捜査している。

国際陸上競技連盟前会長(IAAF)のディアク氏への賄賂 仏司法当局
 ブラック・タイディングズ社代表のタン・トン・ハン氏は、国際陸上競技連盟(IAAF)の元マーケティング顧問のパパ・マッサタ・ディアック氏と極めて親密だったことが明らかになっている。
 パパ・マッサタ・ディアック氏は、IOC委員(当時)で国際陸上競技連盟前会長(IAAF)のラミン・ディアク(ラミーヌ・ディアク)(Lamine Diack)氏(セネガル出身 フランス在住)の息子であり、資金の一部がディアク氏側に渡ったとされている。フランス司法当局はこの資金を賄賂とみて捜査を続けている。
 仏検察は、パパ・マッサタ・ディアック氏が2013年7月に腕時計などをパリで購入した際の約13万ユーロ(約1620万円)の一部をBT社が支払ったとしている。これが換金されて買収工作に使われたとみている。
 ディアック氏は、国際陸上競技連盟会長に1995年から2015年まで約10年間に渡って君臨して絶大な権力を握り、アフリカ諸国のIOC委員にも大きな影響力を握っていた。

 ルモンド紙によると、「予審」を指揮したルノー・ヴァン・ルイムベケ( Renaud Van Ruymbeke)氏は、2013年の開催地決定の投票でイスタンブールとマドリードへから東京への支持に振り替える極秘不正行為があったとにらんでいるという。
 WADA独立調査員会の第一回報告書(2015年11月)では、ディアク会長が2020年夏季五輪の開催地選びで自分の票を提供する引き換えにIAAFに協賛金を得ようとしていたとしたとしている。

 2013年9月、2020年夏季五輪の開催地を決める投票がアルゼンチンのブエノスアイレスで行われ、東京がスペインのマドリードとトルコのイスタンブールを抑えて招致を勝ち取った。


Few questions were asked about the sponsorship and TV deals delivered by Papa Massata Diack that went along with a run of world championships that took in Daegu in 2011, Moscow in 2013, Beijing in 2015. Photograph: Papon Bernard/L'Equipe/Offside
出典 The Guradian Wed 11 May 2016


Lamine Diack now been accused of ‘active corruption’ by French investigators. Photograph: Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images
出典 The Guradian Tue 22 Dec 2015

2020東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑を最初に伝えたThe Gaudian(2016年5月11日)
 2019年1月11日に仏紙ルモンド紙が伝えた2020東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑は、二回目の報道である。 
 最初に贈収賄疑惑を伝えたのはイギリスの大手新聞、The Gaudianである。
 2016年5月11日、The Gaudianは、日本が招致に成功した東京2020年五輪大会の招致活動期間中に、東京五輪招致委員会から億単位の金銭が国際陸上競技連盟(IAAF)のラミン・ディアク前会長の息子と関わりのある口座に振り込まれていたことが明らかになったと伝えた。
 フランスの司法当局がロシアの国家ぐるみのドーピング問題で、当時、国際陸上連盟会長で国際オリンピック委員会(IOC)の有力な委員であったラミン・ディアク氏のドーピング隠蔽工作を捜査している中で、東京2020年五輪大会招致を巡る贈収賄疑惑が浮かび上がった。


2020東京大会招致の贈収賄疑惑を報じた英紙ガーディアン紙の記事 出典 The Guardian Wed 11 May 2016


ガーディアン紙が報じた東京2020大会招致を巡る資金の流れ 出典 The Guardian Wed 11 May 2016

The Gaudian(2016年5月11日)の記事抄訳
Tokyo Olympics: €1.3m payment to secret account raises questions over 2020 Games



リオ五輪招致でIOC委員に買収工作 ブラジル・オリンピック委員会会長起訴
 2017年10月17日、ブラジル連邦検察は2016リオデジャネイロ五輪大会招致を巡る買収疑惑で、ブラジル・オリンピック委員会会長だったカルロス・ヌズマン氏らを贈賄や資金洗浄の罪で起訴した。起訴状では招致を決める投票前にパパ・マッサタ・ディアク氏に対し、ブラジル企業から200万ドルが渡り、IOC委員の買収に使われたとした。
 捜査当局の調べによるとリオデジャネイロへの招致が決まった2009年のIOC(国際オリンピック委員会)の総会の直前に、IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子のパパ・マッサタ・ディアク氏名義の2つの口座に、ブラジル人の有力な実業家の関連会社から合わせて200万ドルが振り込まれていた。
 捜査当局はヌズマン会長が、「贈賄側のブラジル人実業家と収賄側のディアク氏との仲介役を担っていた」と見て、自宅を捜索するなど捜査を進めていたが、2009年のIOC総会の直後、ディアク氏の息子からヌズマン会長に対して、銀行口座に金を振り込むよう催促する電子メールを押収し、ヌズマン会長が票の買収に関与した容疑が固まったとして逮捕していた。
 フランス司法当局は、買収工作にディアク親子が関係したという共通の構図が2020東京大会招致を巡る贈収賄疑惑にあるとして、立件に向けて捜査をしているとされている。

汚職や賄賂、資金洗浄、ドーピング隠蔽で告発されているディアック親子
 16年間に渡って世界のスポーツ界に君臨したラミン・ディアク(ラミーヌ・ディアク)氏に、国家ぐるみで行われたロシア陸上選手のドーピング問題を調査している過程で、隠蔽工作に関わったという疑惑が明るみになった。
 2015年8月、WADA独立委員会は、ロシアの国家ぐるみのドーピング隠蔽疑惑に関する調査報告書を公表した。報告書では薬物検査の結果を隠蔽し、サンプルを廃棄し、検査室職員を脅迫していたことが明らかにされ、ロシアの選手がドーピング検査の結果をもみ消すために賄賂を支払った疑いも指摘した。
 調査報告書公表の二日後、ラミン・ディアック氏は国際陸連会長ならびにIOC名誉委員(Honorary member of the International Olympic Committee)を辞職した。

 ドーピング検査結果もみ消しで金銭を支払った疑いが持たれているロシアの6人の選手は、女子マラソンのリリア・ショブホワ(Liliya Shobukhova)をはじめ、男子競歩のワレリー・ボルチン(Valeriy Borchin)やウラジーミル・カナイキン(Vladimir Kanaikin)、セルゲイ・キルジャプキン(Sergey Kirdyapkin)、女子競歩のオリガ・カニスキナ(Olga Kaniskina)、そして女子3000メートル障害のユリア・ザリポワ(Yuliya Zaripova)の名前が挙げられている。
 また、当時ロシア陸連(ARAF)の会長を務めていたワレンティン・バラフニチェフ(Valentin Balakhnichev)氏については、IAAFが約束した訴追免除を申し出ない場合は、ドーピングに関する取引を公表するとIAAF幹部を脅迫していた事実が伝えられている。
 2015年11月、フランス司法当局は、ロンドン五輪の前年の2011年に、少なくとも6人のロシア選手のドーピングをもみ消す代わりに100万ユーロの賄賂を受け取った容疑とマネーロンダリング(資金洗浄)で捜査をしていることを明らかにした。
 ラミン・ディアク氏は、辞職後に起訴され、フランス司法当局の監視状態に置かれてフランスからの出国を禁止されている。

 ドーピング問題隠蔽問題より前に、ラミン・ディアク氏はISL社からの収賄の容疑でIOCの倫理委員会から調査を受け、1993年から3回にわたって3万米ドル+3万スイスフランという欧米の通貨建てで巨額の資金を受け取っていたことが明らかにされた。ラミン・ラミン氏は自宅が全焼した後に支持者から金を受け取ったもので賄賂ではないと主張した。当時IOC委員ではなかったディアックは2011年にIOCから警告処分を受けただけだった。
一方、国際陸連の会長は辞職せず、2015年まで会長職にとどまった。

 一方、ラミン・ディアク氏の息子で、国際陸連のコンサルタントを務めていたパパ・マッサタ・ディアク氏は、父親と同様にドーピング隠蔽する見返りに、数百万ユーロもの金銭を受け取っていたことがフランス司法当局の捜査で明らかになっている。
 フランス司法当局は一連の不正行為を巡って、パパ・マッサタ・ディアク氏が中心的な役割を担っていたと見ている。
 また2014年3月、ロシア人マラソン選手、リリア・ショブホワ選手のドーピング違反隠蔽失敗後にパパ・マッサタ・ディアク氏が返金した30万ユーロ が「ブラック・タイディングス」社の口座を経由していたことが判明している。
 国際陸連の独立倫理委員会は2014年、この問題について調査を開始し、2016年1月に報告書を公表した。国際陸連はこの報告書を受けて、2016年2月、パパ・マッサタ・ディアク氏や反ドーピング部門の責任者のガブリエル・ドレ(Gabriel Dolle)氏ら上級職員4人を永久追放した。
 またロシア陸連前会長のワレンティン・バラフニチェフ氏やコーチのアレクス・ミルニコフ(Alexei Melnikov)氏も永久追放処分とした。
2015年1月、フランス司法当局はパパ・マッサタ・ディアク氏を国際刑事警察機構(Interpol)を通して収賄と資金洗浄の容疑で国際指名手配し、セネガルに在住しているパパ・ マッサタ・ディアク氏の引き渡しをセネガル政府に対して要求しているが拒否をされている。
 2018年9月、AP通信はブラジルとフランスの司法当局が、ラミン・ディアック氏とその息子が、2016リオデジャネイロ夏季五輪招致に巡る贈収賄疑惑に関与したかどうかを捜査していると伝えた。
 ディアック氏親子を巡る疑惑は絶えることがない。

 東京2020大会招致の贈収賄疑惑も、ロシアの組織的なドーピング疑惑の捜査を進めている中で浮かび上がった。フランス司法当局は2015年に、当時の国際陸連会長のラミン・ディアク氏がドーピングを黙認する代わりに現金を受け取っていた容疑で捜査を始めた。その過程で東京五輪の招致疑惑が浮上したとされている。ラミン・ディアク氏は2020東京大会の招致活動が行われている期間は国際陸連の会長でIOCの有力委員、アフリカ諸国や陸上競技関係者に絶大な力を持っていた。


FILE - Papa Massata Diack, center, son of former IAAF president Lamine Diack, arrives at the central police station in Dakar, Senegal, Feb. 17, 2016. VOA NEWS September 05, 2017

2億3000万円は正当なコンサルタント報酬 賄賂の疑惑を否定 JOC
 2016年9月1日、2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐる資金提供問題で、日本オリンピック委員会(JOC)の調査チーム(座長・早川吉尚弁護士)は大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定にも違反していない結論づけた調査報告書を公表した。
 調査チームは弁護士や公認会計士で構成する第三者機関で、30人以上の関係者にヒアリングしたという。
 報告書では大会招致委員会や日本側の関係者はBT社とパパマッサタ氏の間に親交があるなどという事実は承知しておらず、また、資金の使い道まで認識することはできなかったとして、五輪関係者らに対する贈与の認識はなかったと認定した。契約金額も相対的に高額だが不当に高いとは言えず、「ブラック・タイディングズ」社の報告書はIOC委員の具体的な投票行動に言及していることから、同社が相応のロビー活動をしていたと推認し、日本の法律やフランスの刑法、IOC倫理規定には違反していないとした。
 一方で報告書では、招致委理事長だったJOCの竹田恒和会長が最初の契約を決裁する際、成功報酬を別途支払う内容だとの説明を事務方から受けていなかったと指摘し「手続きの透明性の観点から一定の問題がある」とした。
 竹田会長は「担当判事のヒアリングをパリで受け、招致委は「ブラック・タイディングズ」社とのコンサルタント契約に基づき正当な対価を支払い、贈賄にあたるような不正なことは何も行っていないことを説明した。今後とも調査に協力するつもり」とし、パパマッサタ氏とBT社の経営者だったタン・トン・ハン氏の関係については一連の報道で初めて知り、「そもそもその2人の人物については知らなかったし、タン氏とは会ったこともない」とコメントした。
 問題は、資金の使い道まで認識していなかったので資金を支払った招致員会の責任は一切ないとしていることである。約2億3000万円の資金の一部が結果として賄賂に使われたとすれば、竹田氏や招致員会は「道義的」責任を負うのは免れない。資金の使い道は知らなかったとする言い逃れは通用しない。さらにコンサルタント契約を結んだ「ブラック・タイディングズ」社の代表のタン・トン・ハン氏やトン・ハン氏と親しい関係のあるパパ・マッサタ・ディアック氏は、贈収賄や資金洗浄、汚職などの容疑でフランス司法当局から国際刑事警察機構(INTERPOL)を通じて国際手配されており、ブラックな疑惑が絶えない人物である。東京大会招致に向けて、一票でも欲しかった大会招致員会が、ブラックな噂がある人物とは知りながらIOCの委員を動かす力があると見られていたタン・トンハン氏に頼ったという疑念が浮かび上がる。
 フランス司法当局が贈収賄容疑で「予審」捜査を開始したことが明るみになったことを受けて、JOCは、竹田会長が15日に東京都内で記者会見を開くと発表した。




招致合戦で暗躍するコンサルタント
 2002年ソルトレーク冬季五輪ではIOC委員の内部告発で大規模な買収疑惑が発覚、10人のIOC委員が追放・辞任に追い込まれた。
 世界各国から厳しい批判を浴びて、国際オリンピック委員会(IOC)は、IOC委員の立候補都市への訪問の禁止した。
 招致関係者とIOC委員との直接の接触は規制されたことで、招致活動を展開する都市は、各国IOC委員の家族構成や趣味になどに精通して、水面下で働きかけができるコンサルタントを雇うようになった。
 一方で、五輪の招致活動に伴う賄賂の授受の噂は絶えない。賄賂の相場は、1票10万ドル(約1100万円)と言われている。ある国のIOC委員は「10万ドルで投票してほしいと立候補都市から持ち掛けられ」と証言しているという。また「東京がコンサルタント会社に2回に渡って送金した総額は、2億3千万円でしょう。1票10万ドルとして、20票集めれば、ちょうどこの金額くらいになる。ラミン・ディアク氏の力ならアフリカ以外からも集票できるので、20票は現実的な数字。金額から、まさに集票の報酬、賄賂じゃないか、先々で問題になると多くの関係者は思っていた」(週刊朝日 2019年1月15日)
 招致合戦で暗躍するコンサルタントの実態は闇に包まれたままである。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、フランス捜査当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対する捜査を開始したことを受けて2019年1月11日、倫理委員会を開いてテレビ会議形式でJOCの竹田会長への聞き取りを実施した。協議内容の詳細は公表していないが、「推定無罪の原則を尊重しつつ、状況を注視していく」との姿勢を示した。

電通の責任も重大
 東京2020大会招致を巡る贈収賄疑惑は、国会でも審議された。
 2016年5月16日の衆議院予算委員会で、馳浩文科相は、2020東京大会招致員会が「ブラック・タイディングズ」社とコンサルタント契約を結んだ経緯について、
 「実は、私も当時、8月に招致の最終段階に入りまして、一番終わり的な票読み、そのための情報収集、どのような方に、どのように、やっぱり働きかけをしたほうが、最終的に票を獲得できるかということで、モスクワの世界陸上選手権、ここのほうに、私も参りました。と同時に、招致委員会においても、ここは大きな山場だと。この時の時点において、ご記憶にあると思いますが、たいへん日本は厳しい状況にありました。理由は、汚染水の問題であります。
 私も7月8月と、この問題について、官邸とも掛け合いながら、走り回ったことを記憶しておりますが、その時に、最終的にコンサル会社と調整をしたうえで、適切な情報を踏まえて、対処しなければいけないという判断をされたようですが、その際、自薦他薦あまたコンサル会社がどうですか?と言ってくる中で、十分に対応するためにも、招致委員会のメンバーは、コンサル業務に関してはプロではありませんので、電通に確認をしたそうであります。そうしたら電通のほうから、こうした実績のある会社としては、この会社(「ブラック・タイディングス社」)はいかがでしょうかということの勧めもあって、しかしながら、最終的には招致委員会において判断をされて、この会社と契約をされたということがまず一点目であります」と答弁した。
 馳浩文部科学相は、招致活動の終盤はぎりぎりの票集めに奔走していた状況だったとし、コンサルタント契約を結んだ「ブラック・タイディングズ」社については、「電通に勧められて招致委員会が契約を判断した」ことを明らかしたのだ。この件は、竹田氏も「電通に実績を確認した」とコメントしている。

 世界アンチ・ドーピング機構独立調査委員会の報告書は、イアン・タン・トン・ハン氏は電通スポーツの子会社で国際陸連から与えられた商標権販売のために設立されたアスリート・マネジメント・アンド・サービス(AMS)社(スイス・ルツェルン)のコンサルタントで、「ブラック・タイディングズ」社の口座を管理していたことを明らかにしている。
 電通は、AMS社のコンサルタントとしてタン・トン・ハン氏と契約したことは否定しているが、従来から「ブラック・タイディングス社」代表のイアン・タン・トン・ハン氏と関係を持っていたがことが窺わる。タン・トン・ハン氏と通して親しい関係のあるパパ・マッサタ・ディアック氏を介して、国際陸上競技連盟(IAAF)会長で有力なIOC委員のラミン・ディアク氏に働きかけをしたという構図が浮かび上がる。

 フランス司法当局が竹田恒和会長を起訴すれば、2020東京五輪招致委員会と「ブラック・タイディングス社」との関係や「ブラック・タイディングス社」とパパ・マッサタ・ディアック氏との関係、さらに国際陸上連盟前会長で元IOC委員のラミン・ディアク氏との関係が明らかになり、約2億3000万円の資金の流れも解明されると思われる。またこの中で電通がどのようや役割を果たしたがかなり解明されるに間違いない。
 竹田恒和会長と2020東京五輪招致委員会、そして電通の責任が改めて問われるのは必至だ。

竹田IOC委員への捜査は2020東京五輪大会に暗雲をもたらす NYT報道
 1月12日、New York Timesは、「竹田IOC委員への捜査は2020東京五輪大会に暗雲をもたらす」という見出しを掲げ、「1カ月前に、日本オリンピック委員会(JOC)会長の竹田恒和氏は、東京で開催された各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会でバッハIOC会長の脇で演説し、出席した1400人の各国代表から、暖かい賞賛を浴びた。
 その1か月後、竹田氏は、2013年に行われた2020五輪大会を決める投票を巡って、東京大会招致で賄賂を渡すことを承認したとする容疑でフランス司法当局から起訴に向けての捜査を受けている。
 JOCは、竹田氏は不正を行っていないと容疑を否定していると声明を出した。
 今上天皇の遠い親戚で、明治天皇のひ孫にあたる竹田氏は、不正調査の対象者リストに加えられ、IOC会員や名誉会員の資格が停止される可能性が生まれた。 竹田氏の訴訟は、18ヵ月後に開幕する東京五輪大会に深刻なダメージを与える懸念が出てきた。
 バッハIOC会長は、東京五輪の準備準状況は、これまでの大会の中で最も優れていると賞賛した。しかし、招致段階の三倍の約200億ドル(約2兆2000億円)に膨れ上がった開催経費に疑念が集まっている」と伝えた。

問題は賄賂として使われたかどうかだ 窮地に陥った2020東京大会
 今後の展開はフランス司法当局の「予審」捜査の進展がどうなるかにかかっているが、招致委員会から支払われた約2億3000万円の資金の流れを解明し、賄賂として渡され、買収工作があったかどうかの解明が焦点となる。
 竹田氏は以前から、約2億3000万円のコンサルタント料を支払ったことは認めているが「どう使われたかは確認していない」と話している。
 フランス司法当局の見立てのように、竹田氏は約2億3000万円いに賄賂として認識し支払を認めたのかが贈収賄を立件する際のポイントとなるが、さすがに賄賂性を認識して「ブラック・タイディングズ」に支払ったと立証するのは極めて困難だろう。フランス司法当局による竹田氏の贈収賄容疑の立件は不可能に近い。
 一方、日本の国内法では、贈収賄の適用は国会議員や市町村議会の議員、公務員などの公職に就いている人に限定されている。そもそもIOCや国際陸連などのスポーツ組織関係者は対象でない。この贈収賄疑惑で日本の検察が摘発に動くことはないし、コンサルタント契約の内容や送金手続きなどに不正がなければ問題にされない。
 ところが、フランスでは日本とは違って民間組織間でも贈収賄が成立する。しかもスポーツ関係の不正に特化した刑罰規則もあるという。
 問題は、仮に竹田氏は贈収賄で起訴は免れても、竹田氏や招致委員会の責任は明らかに残されることだ。
 約2億3000万円は渡された時点では、賄賂性の認識はなかったにしても、「ブラック・タイディングズ」に渡された約2億3000万円が、結果として賄賂として使用されたとすれば、竹田氏や招招致委員会の「道義的責任」は極めて重大である。
 フランス司法当局が招致委員会が支払った資金の一部が賄賂としてIOC委員に渡され事実を把握できれば竹田氏は窮地に陥るのは間違いない。
 問題は、招致委員会が支払ったコンサルタント料に賄賂性の認識があったかどうかではなく、結果として賄賂として使用されたどうかである。
 竹田会長がトップのJOCは、「JOC将来構想 ~人へ、オリンピックの力~」と掲げ、「私たちは2020年東京オリンピック以降も留まることなく、オリンピック・ムーブメント活動を通したオリンピズムの価値を伝え、己を厳しく評価して、たゆまない努力を続けていく」と高らかに宣言している。竹田氏はこの宣言の精神をどう考えているのだろうか。
 五輪招致での贈賄容疑を引きづったままで、東京2020大会を迎えるのは余りにも無責任で、国際社会からも国民からも背を向けられるのは間違いない。






2019年1月12日
Copyright (C) 2019 IMSSR




******************************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
******************************************************


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東京オリンピック 水質汚染 トライアスロン お台場海浜公園 マラソンスイミング

2023年01月04日 17時29分13秒 | 東京オリンピック
水質汚染深刻 お台場海浜公園 トライアスロン・マラソン水泳


深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 東京都に4回目目の「緊急事態宣言」 「無観客」1都3県・北海道・福島

東京オリンピック 開会式 異例の開会式に 小山田~賢吾氏(楽曲担当)辞任、小林賢太郎氏(演出チーフ)解任




台風8号、明日未明東北地方に上陸へ 強い雨のおそれ
 気象庁によると、 関東の東にある台風8号は、27日午前6時には千葉県銚子市の南東230キロの海上をゆっくりした速さで進み、このあと進路を北寄りに変えて27日夜遅くから28日未明に東北に接近し、上陸する見込みである。
 東北や関東甲信ではしだいに風や雨が強まっていて、28日にかけて台風の中心から離れた場所でも大雨になるおそれある。
 2020東京五輪大会のトラアスロン競技は、7月26日に男子が開催され、今日(7月27日)女子がお台場海浜公園で開催された。
 今日の女子トラアスロン競技は、台風8号の影響による風と雨の中で、開始時間を遅らせてスタートし、バミューダのF.ダフィー選手が優勝して競技は無事終了した。
 大会事務局は、7月26日の水温は「30度」、7月27日は「28度」と発表した。しかし、最も懸念されている水質については検査データの発表がない。 
 台風8号の影響で、断続的強い雨が降り、27日朝までの24時間に降る雨量は多い所で、関東甲信で80ミリが予想されていた。
 東京都が豪雨に襲われると、隅田川沿いの下水処理場は下水処理能力を超えると、未処理の下水を隅田川に放出する。その影響でお台場海浜公園の水質が急速に悪化する可能性が大きい。東京都は早急に、トライアスロン(スイム)とマラソンスミングの会場となるお台場海浜公園の水質検査を実施して公表すべきである。
 猛暑下では水温の上昇も問題で、競技実施海域の海域の水温は、「31度C」が安全基準とされている。7月26日の水温はギリギリの「30度」。お台場の競技海域は、「汚染水」の流入を抑えるために2重の「水中スクリーン」が張り巡らされているが、この影響で海域が「温水プール」状態になり、夜間でも水温が下がらない可能性が大きい。国際競技団体は、安全基準を超えた高水温下での競技実施を避けるために、2019年12月、異例の早朝6時30分競技開始を決めている。
 8月4日、同じお台場海浜公園でオープンウォータースイミング(女子)が開催された。台風8号の接近以後は、雨は降っていなので水質汚染は進んでいないが、これまでに流れ込んだ未処理の下水の影響は残っていると思われる。選手はこの中を10キロメートルも泳がなければならない。4日は海水温は29.3度と発表され、依然として高水温は続いて選手への悪影響が懸念される。8月5日は、オープンウォータースイミング(男子)が朝6時30分スタートで開催される。懸念は海水温である。



台風8号  出典 tanki.jp


女子トライアスロン(スイム) お台場海浜公園 トラアスロン競技(男女 7月26日/7月27日)は、水温と水質は問題ないとして「無事」開催された
出典 IOC MEDIA



ロケーション抜群 お台場海浜公園
 「お台場海浜公園」は、東京湾に数多くある海浜公園の中でNO1のロケーション。とにかく眺めは抜群。
 ここで五輪大会のトライアスロンやマラソンスイミング開催される。キャッチフレーズは「史上最も都会的コース」である。国際トラアスロン連盟は「お台場海浜公園」を会場にすることを熱望したという。 
 レインボーブリッジが目の前に広がり、対岸の都心の高層ビル街、東京タワー、晴れていると真っ青な空と海が広がる。海辺にはきれいな砂浜が続く。砂浜は人工的に造成されたものだ。向かいの島は、江戸時代末期、ペリー黒船襲来に備えて建設されたお台場の一つ、砲台が設置されていた。今は史跡になっている。とにかく最高のロケーション。
 夏には花火大会が開催されたり、今年の1月下旬には「お台場海浜公園」の会場に「五輪のシンボルマーク」を設置された。夜間はライトが点灯され、五輪大会のランドマークになっている。
 素晴らしいビーチだが、実は深刻な水質汚染問題を抱えている。
 レインボーブリッジ向こう側に隅田川の河口があり、大雨になると大量の未処理の下水道排水が東京湾に流れ込む。かつての東京湾の水質汚染の原因は工場排水だった。今は工場排水は規制が厳しく強化され、水質汚染の主役は、生活排水となった。
「お台場海浜公園」の海は下水道排水が原因の深刻な水質汚染に襲われている。


レインボーブリッジや都心の高層ビル街が見渡せる景観は素晴らしいが… 筆者 撮影 2018年11月

海水浴場として認められていない「お台場海浜公園」
 実は、「お台場海浜公園」は東京都の条例で、水質基準が満たされていないために、海水浴場として認められていないのである。
 海面に顔をつけて泳ぐのは禁止で、足だけを海水に入れるいわゆる「磯遊び」を楽しむ砂浜になっている。
 港区は、この「お台場海浜公園」を区民の憩いの海浜公園にしようと力を入れている。「泳げる海、お台場」の実現が悲願なのである。
 かつては貯木場だった入り江に、昭和40年代から海浜公園としての整備が行われ、1996年(平成8年)に現在の形でオープンした。
 2013年に東京が2020夏季五輪の開催地に選定され、お台場海浜公園でトラアスロンやマラソンスイミングの会場になることが決まると、港区ではお台場海浜公園の整備を更に加速した。
 2017年(平成29年)から毎年、夏の1週間程度、期間を区切って特別に海水浴場にするイベント、「お台場プラージュ」の開催を始めた。去年も8月10日から9日間開催し、砂浜は多くの市民でにぎわった。た。その他、トライアスロンなど特別なイベント開催時は、遊泳を認めている。
 しかし、港区の熱意は理解できるが、いかんせん、お台場の水質を改善しないことには、恒常的な海水浴場にはならない。
 そのためには、水質汚染の原因となっている隅田川から流れ込む未処理の水洗トイレなどの生活排水を止めないことには抜本的な解決にはならない。下水処理場の能力を改善して100%処理を達成することでしょう。
 「お台場海浜公園」は、水質問題という爆弾を抱えていたのである。


お台場海浜公園に掲示されている遊泳禁止の立て札 海水浴場として水質基準を満たしていない
「公園内で許可の無い」という追加の張り紙が張られていた  筆者 撮影 2018年11月

大腸菌が基準値を超えて中止になった五輪テストイベント 「トイレの臭い」がするという苦情も
 その懸念が、昨年の夏についに表面化した。 
 昨年の8月中旬、この「お台場海浜公園」を会場に、トライアスロンとパラトライアスロンのワールドカップ大会(W杯)、そしてマラソンスイミング(オープンウオータースイミング)が開催された。この大会は2020東京夏季五輪大会のテストイベントも兼ねていた。
 この内、パラトライアスロンは、競技海域の大腸菌の数が基準値を超えたとしてスイムは中止になってしまった。大会は自転車とラン(長距離走)のデュアスロンになった。
 前日に、温帯低気圧にかわった台風10号が首都圏を襲い大雨を降らした。
 隅田川沿いにある下水処理場の処理能力を上回り未処理の水洗トイレなどの生活排水が未処理で東京湾に流れ込んだ。東京都の下水道処理は、雨水(あまみず)と汚染水を分離しない合流式の処理システムなので、大雨が降って下水道処理場の処理能力が超えると、大量の汚染水を未処理で放出する。
 競技前日に主催者が行った水質調査では、国際トライアスロン連盟の基準値(100ミリリットル以下で250個)の約2倍の大腸菌が検出され、「レベル4」、競技中止と判定されたのである。
 さらにトライアスロンやマラソンスイミングに参加して、コースを泳いだ選手からは、「トイレの臭いがする」、「臭い」などの苦情が続出した。
 「臭い」の問題は、個人差があり、「臭いは気にならなかった」という選手もいたが、外国人選手を中心に「臭い」を指摘する声が複数でたことで、「悪臭」の問題も深刻だ。
 また海水の汚濁がひどく、海の中は濁っていて視界がほとんどない。泳いだ選手からは自分の手の先も見えなかったという声も出された。
 「お台場海浜公園」の周辺の海の海底には、これまで東京湾に流れ込んだ生活排水の膨大な量のヘドロが堆積していることが明らかになっている。
 こうした海底のヘドロが悪臭や汚濁の原因となっている可能性がある。
 きわめつけはトイレットペーパーの残滓のような浮遊物が海の中にウヨウヨ漂っているということだ。
 こうした海を、トライアスロンやマラソンスイミングの会場にしていいのだろうか、大きな疑問がわく。

大量の砂を投入 水質改善効果は?


伊豆諸島の神津島から砂の投入工事 2020年2月14日 お台場海浜公園 筆者撮影

 先週から、東京都は伊豆諸島の神津島から砂を運び込み、海底に投入する作業を開始した。海底のヘドロを砂で覆い、海水の汚濁や「臭い」を抑え水質改善をしようとするものだ。砂は汚物を吸着したり、濾過(ろか)する効果もあるという。貝などがすみつくことで、水質を浄化する効果も期待できるとしている。3月末までに、約2万立方メートル砂を約6000万円かけて投入する予定である。
 五輪大会開催まで半年を切っている中で、水質汚染への批判が出ている中で、急遽始めた工事である。半年で水質改善の効果が出るという到底思えない。なぜもっと早く手を打たなかったのか問題だろう。
 しかし、「臭い」や「汚濁」の問題には効果があるかもしれないが、大腸菌などの水質汚染の改善にはほとんど役立たない。
 一度、大雨に見舞われると、大量の下水道の汚染水が東京湾に流れ込み、せっかく投入した砂も汚染され、再びヘドロで覆われる可能性が大きい。
 大雨で未処理の下水道排水が東京湾に流れ込むのは、年間約100回に達するという。
 
「アスリートファースト」はどこへいった
 小池都知事は、たびたび「アスリートファースト」という言葉を繰り返す。
 一度、大雨が降ると大腸菌がうようよし、「トイレの臭い」が立ち込める。海底にはヘドロが堆積して、1メートル先も見えないほど濁り、浮遊物が舞っている。こうした海で世界各国から訪れる選手に泳がす大会運営は、何が「アスリートファースト」なのだろうか。
 マラソンと競歩は、国際オリンピック委員会(IOC)の英断により、暑さ対策で選手の健康に配慮して札幌開催に踏み切った。まさに「アスリートファースト」である。
 お台場海浜公園の汚染された海を、トライアスロンでは1.5kM、マラソンスイミングでは10km、選手は周回コースで泳ぐことなる。
 「アスリートファースト」という言葉をもう一度思い起こしてほしい。


お台場海浜公園の会場に設置された巨大な五輪マーク 夜間は点灯される 筆者撮影




トライアスロン、スイム(女子) 五輪テストイベント 2019年8月 お台場海浜公園 筆者撮影


トライアスロン、スイム(女子) 五輪テストイベント 2019年8月 お台場海浜公園  選手の後ろに見えるオレンジ色のラインは汚染水の流入を防ぐために設置された「水中スクリーン」 筆者撮影

パラトライアスロン、スイム競技中止 大腸菌が基準の2倍に
 2019年8月、2020東京夏季五輪大会とほぼ同じ時期に合わせて、トライアスロンとパラトライアスロンのワールドカップ(W杯)、マラソンスイミング(OWS マラソンスイミング)の国際大会が開催された。この大会は、五輪大会のテストイベントを兼ねていた。
 8月17日、パラトライアスロンのワールドカップ(W杯)は、お台場海浜公園のスイムコースの水質が悪化したとして、急遽、スイムを中止してランとバイクのデュアスロンに変更されるという事態が発生した。
 主催者の国際トライアスロン連盟(ITU world triathlon)は、競技前日の8月16日金曜日の午後1時に実施された最新の水質検査で、大腸菌のレベルが基準値を大幅に越え、ITU競技規則の水質基準で「レベル4」に上昇したことが明らかになり、当日のの8月17日、午前3時に危機管理会議を実施して協議の結果、パラトライアスロン競技をランとバイクのデュアスロンのフォーマットに変更することに決定した。
 ITUによると、お台場海浜公園のスイム会場内で、8月16日金曜日の午前5時と午後1時に二回海、海水を採取して水質検査を行った。午前5時のサンプルでは、数値は上昇したもののITUが定めた基準値内に収まったが、午後1時に採取されたサンプルでは、ITU基準の大腸菌が上限の2倍を越える数値(基準値:大腸菌 250個/100ml以下)が示された。両サンプルとも、腸球菌の数値(基準値:腸球菌数 100個/100ml以下)は基準値内に収まっていた。
 これらの結果や前日のデータを考慮し、ITUは水質リスクが「レベル4」という判定を行い、メディカル代表や3名の技術代表がスイムの中止を決定してパラトライアスロンはデュアスロン競技とすることが決まった。
 8月15日と16日に予定したトライアスロンの大会(健常者)は、それぞれ前日に行われた水質検査に問題はなく、予定通り実施された。
 一方、8月11日に同じ会場で開催したオープンウオータースイミング(マラソンスイミング)の大会では、参加した複数の選手が、「トイレの臭いがする」、「異臭がする」など悪臭を指摘する声が相次いだ。

 「お台場海浜公園」の水質が急激に悪化した原因はゲリラ豪雨である。前日の8月16日、大型の台風10号は温帯低気圧に変わったが、東京は断続的に強い雨が降った。大量の雨が降ると、雨水と生活排水を一緒に処理する下水道処理場の処理能力が
オーバーして、未処理の生活排水が隅田川から東京湾に流れ込み、お台場海浜公園の海域に達したものと思われる。懸念されていた豪雨による水質汚染悪化が現実のものとなった。
 問題は、お台場海浜公園が、「安全・安心」な海域ではなく、水洗トイレ排水などの生活排水源と直接つながっている水質の安全性が確保されていない「危険」な海であることが改めて明らかになったことである。大腸菌は、自然界に出ると1日程度で死滅する。その大腸菌が基準以上に検出された事実は重い。
 大会終了後の8月20日や21日にも東京は激しいゲリラ豪雨に襲われた。お台場海浜公園の大腸菌のレベルは、再び数倍に上昇したのは間違いないだろう。
 毎年、夏の東京は、何度となく台風や豪雨に見舞われる。2020東京大会の開催時期も例外ではない。お台場海浜公園の水質が基準を満たして大会が開催できるかどうか、まさに綱渡り、「神頼み」である。

水温、水質で懸念噴出 オープンウオーター(OWS マラソンスイミング)のテスト大会開催
 2019年8月11日、連日猛暑が続く中で、マラソンスイミングの2020東京五輪大会のテスト大会が、男女約40名の選手が参加して、お台場海浜公園で行われたが、参加した選手から水温や水質を懸念する声が相次いだ。
 テスト大会は5キロの周回コースで行われた。本番では男女ともに10キロを泳ぐ。
 前日の10日、大会の主催者の組織委員会は、急遽、午前10時スタートで予定していた男子5kmの競技開始時間を3時間早めて、午前7時に変更し、女子のスタートを7時2分とした。
 その理由は、猛暑での水温の上昇の懸念だった。マラソンスイミンを統括する国際水泳連盟(FINA)は、選手が健康的に泳げる水温の上限の基準は31度以下(水深40センチ)と定めている。この日は午前5時の時点で29・9度だったという。水温上昇は選手の体力を消耗させるのである。
 五輪本番は午前7時のスタートを予定してが、FINAのコーネル・マルクレスク事務総長は水温次第で午前5時~6時半に変更することも示唆している。
 レース終了後、2012年ロンドン五輪金メダルのウサマ・メルーリ(チュニジア)は「これまで経験した中で最も水温が高く感じた」とぐったりとした様子。女子の貴田裕美(コナミスポーツ)は「熱中症の不安が拭えなかった」と漏らしという。(共同通信 8月11日)
 さらに深刻なのは、水質問題である。競技会場のお台場海浜公園は、大腸菌汚染だけでなく、悪臭や海水汚濁の問題を抱えている。
 このコースを泳いだ複数の選手は、「正直臭いです。トイレのような臭さ」という感想を明らかにし、「検査で細菌がいないとなれば、信じてやるしかない」と述べたという。また海水の汚濁がひどく、泳いでる自分の手先も見えないほど汚れているという。
 組織委は今回のテスト大会で、約400メートルにわたってポリエステル製の膜を海中に張る「水中スクリーン」を設置し、大腸菌類などで汚染された海水が入り込むのを防いだ。五輪大会本番ではこの「水中スクリーン」を3重に張る計画である。しかし、「水中スクリーン」では悪臭や汚濁の水質改善にはならない。
 台風や豪雨に見舞われた場合には、隅田川から流れ込む大量の汚染水が、お台場海浜公園にも流れ込み、3重の「水中スクリーン」を設置しても、水質の維持は可能かどうか未知数である。
 さらに、「水中スクリーン」を3重に張ると、汚染水の流入は抑えられるかもしれないが、競技区域の海水温は、照り付ける太陽熱で「温水プール状態」になるのは必須だろう。連日の猛暑の中では夜間でも海水温が下がらず、国際水泳連盟(FINA)の上限、「31度」は早朝でも達成するのは困難になるという懸念が大きい。 2019年12月、国際トライアスロン連盟は、トライアスロン競技の開始時間を、男女個人は1時間前倒して午前6時30分開始とし、混合リレーは午前8時30分から7時30分に繰り上げることを決めた。


競技会場に設置された「水中スクリーン」 2019年8月8日 筆者撮影


競技会場に設置された「水中スクリーン」と外側を航行する水上バス 2019年8月8日 筆者撮影




「お台場海浜公園」の水質汚染問題はいまに始まったことではない

大腸菌基準越え 英タイムズ紙報道
 2020夏季五輪大会の開催都市を決めるIOC総会の直前の2013年8月、英国タイムズ紙は、お台場海浜公園周辺の海水に安全基準を超える大腸菌が含まれ、水質汚染が懸念されると報じた。
 タイムズ紙は競技が実施される8月に最も水質が悪化すると指摘。2012年と2013年8月に測定された大腸菌の数値は、国際トライアスロン連合が定める大会開催基準値の上限の数百倍に達していたと伝えた。
 調査で東京湾に潜った大学教授が体調を崩した事例を紹介し「一晩中、下痢や嘔吐(おうと)が続いたとし、大量の貝や魚の死骸があり、腐敗した物質が口から入ったのだと思う」とのコメントを掲載した。
 これに対して東京招致委員会は、これまでにトライアスロンや水泳オープンウオーターの大会がお台場で開催されたが、「問題が起きたことはない」と反論した。

水質問題に懸念を表明した舛添前知事
 五輪大会関係者が公式に「お台場海浜公園」の水質問題に言及したのは舛添要一前都知事である。
 2014年6月、都知事に当選した舛添要一氏は、東京都が担当する競技場整備計画を大幅に見直すことを表明した。招致計画では約1538億円だったが、改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明したのである。
 そして8月には、舛添前知事は記者会見で「お台場海浜公園」の移転を検討したいと表明した。
 その理由として、まず「大腸菌の基準値が超えている水質問題」を挙げ、さらに「羽田の管制空域の下にあって、取材用のヘリコプターが飛べない」ことを挙げた。
 「水質問題」への懸念は6年前に問題化していたのである。
 移転先として横浜の山下公園などを挙げたが、地元の港区などから猛反対にあい移転案はこれ以上動かなかった。


出典 TOKYO MX NEWS  2014年8月14日

組織委員会も横浜移転を検討
 2015年5月、今度は、森大会組織委員会が国際トライアスロン連合のカサド会長と東京都内で会談し、競技会場を「お台場海浜公園」から、横浜市の山下公園での実施を検討するよう要請した。カサド会長は「可能性を検討していく」と述べた。
 森会長は「横浜市の強い希望もあった」と述べ、武藤敏郎事務総長は「費用面は関係なく、大きな大会の開催経験がある所でやったらどうかということ」と説明した。山下公園は2009年から世界シリーズの開催実績がある。ただし、この時は表向きには水質汚染問題を特に理由に挙げていない。

国際競技団体やIOCも水質問題への懸念を表明
 2017年10月になると、今度は国際トライアスロン連合(ITU)が、お台場海浜公園周辺の水質に懸念を示して、東京都に下水対策の強化を求めていることが明らかになった。
 大会組織委員会の水質調査で、国際大会開催の基準値を20倍も超える大腸菌群などが検出されたいたことが明らかになったからである。
 この調査は、東京都と大会組織委員会が行ったもので、2020東京五輪大会と同じ時期の2017年8月に、お台場海浜公園周辺の海域の水質・水温を測定したものである。
 調査を行った期間は、21日間連続で雨が降り、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水を記録した。
 調査結果によると、降雨の後は、水質が顕著に悪化することはっきりと示された。(調査結果の詳細は下記参照) 
 2020五輪大会が開催されるのは時期は真夏、毎年、台風や集中豪雨の襲われるのは必至である。お台場海浜公園周辺の水域の水質レベルは、依然として極めて危険なレベルにあることが明らかになった。
 これに対して大会関係者は「会場変更の可能性はない」とし、今後、都が中心となって水質改善の取り組むとした。
 ところが翌年の2018年4月、タイのバンコクで開かれた国際スポーツ連盟機構(GAISF)の会議などで、複数の国際競技連盟が、東京大会の準備状況に不満を抱き、公然と批判し、国際トラアスロン連盟は「お台場海浜公園」の水質問題を指摘した。
 これを受けて、IOCのコーツ副会長を代表とする調査チームが来日し、2020東京大会の準備状況のチェックが行われた。
 「お台場海浜公園」については、コーツ副会長は「トライアスロンについては引き続き水質に問題があるが、今年と来年にもっと詳しい水質調査や、水中に幕を設置する実験を行うとの報告を受けている」と述べ。2020年東京五輪の一部会場の水質に懸念が残るとして改善するよう求めた。

 「お台場海浜公園」の水質汚染問題は、最近浮上した問題ではなく、2020東京五輪大会招致の段階から、関係者の間では懸念されていた問題だった。さらに開催準備が本格化した2014年当時、舛添前知事は、会場変更について言及しているのである。大会開催まで5年以上の期間がありながら、対策に乗り出さず、事実上、問題を放置していた責任は大きい。
 
本番は3重の『水中スクリーン』を検討 「大腸菌等の抑制」を目指す 大会組織委員会
 大会組織委員会は、大会終了後、記者団に対して、「五輪大会本番と同じコースと設備で、今回の大会を、国際競技団体(IF)や国内競技団体(NF)、大会組織委員会が一体となって運営した。今回、気象予報士1名を含む2名の気象専門家が常駐し、気象条件を常時把握する体制をとり、暑さ指数(WBGD)の予測をして、競技開始時間の変更を行った。また水質検査の結果を踏まえてパラトライアスロンのスイムを中止して、バイク、ランのデュアスロンに変更したが、変更の判断は、ワールドカップ(W杯)のテクニカルチームとメディカルチームが行い、大会組織委員会はオブザーバーの立場だった」と述べた。
 また、水質汚染防止対策の「水中スクリーン」の設置については、「昨年の実験で、1重の『水中スクリーン』で十分な効果があってので、今回の大会では、1重の『水中スクリーン』で対応した。来年の本番の大会では、3重の『水中スクリーン』の設置で準備を始める」とした。
 「水中スクリーン」を設置すると水温が上昇する懸念があるのではという質問に対しては、「昨年の実験では、そういうファクトはなかった。実験では狭いエリアで行ったのに対し、本番では広いエリアになるので、水温上昇への影響は少ないのでは思う」とし、『水中スクリーン』を開けたり、閉めたりすることが可能な開閉式にして、水温上昇の影響を抑えることを検討したいとした。

 昨年、オリンピック期間7月24日~8月9日、パラリンピック期間8月25日~8月31日の計22日間、東京都と大会組織委員会では、お台場海浜公園の競技エリアの水質検査を行うと共に、競技エリアの一部に、1重の「水中スクリーン」と3重の「水中スクリーン」を設置して、「大腸菌等の抑制効果」を検証する実験を行った。
 その結果、台風等の影響を直接受けたことなどより、お台場海浜公園の海域では、大腸菌類の数値が27日間のうち12日間で、2つの競技においての水質基準を超過したことが明らかになった。なにも対策を講じななければ、この海域での競技は開催できなかったと可能性が大きい。
 一方、「水中スクリーン」設置区域内では、「1重」の区域内では、水質基準を超過したのは2日間で、3重の「水中スクリーン」設置区域内では、すべての期間で水質基準をクリヤーし、「水中スクリーン」は「大腸菌等の抑制効果」があることが明らかになった。
 水温については、実験を行った17日間の平均で、「1重」では、1.1°C、「3重」では、1.4°C高く、最高では1重、3重ともに2.7°C高くなるという結果がでた。
 「水中スクリーン」の設置エリアは、実験とは違い、本番ではより広いエリアになるので、水温上昇にどの程度の影響かあるが分かっていないが、3重の「水中スクリーン」を設置すれば、水温上昇の懸念が高まるのは当然だろう。最後のチャンスになり今年のテストイベントで3重の「水中スクリーン」をテストしなかったことが悔やまれる。
 また3重の「水中スクリーン」は、構造が複雑で設置に時間がかかり、開閉式にすることが現実的に可能なのかどうか、疑念が残る。
 さらにマラソンスイミングの選手から出された、「トイレのような臭いがする」とか「異臭がする」といった「臭い」の問題についても、組織委員会は「トライアスロンの選手からは苦情が出ていない」として問題視する姿勢が見られない。
 「大腸菌」、「水温」、「臭い」、3つの課題を後1年で解決できるだろうか。
 2020東京五輪大会のスローガンは「アスリートファースト」、世界各国から訪れるトライアスロンやマラソンスイミング選手に、「安全・安心」な競技エリアを準備するのは大会組織委員会の責務である。
 

出典 水質調査結果 東京都


東京都の下水道処理場(水再生センター) 隅田川水系に集中している 出典 東京都




お台場周辺の海域 大腸菌が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌が上限の7倍も検出
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソン水泳とトライアスロンが行われるお台場周辺の海域で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。まさに衝撃的な数値である。
 この調査は、東京都と大会組織委員会が行ったもので、オリンピック開催時期の21日間、パラリンピック開催時期のうち5日間、マラソンスイミングとトライアスロンの競技会場になっているお台場海浜公園周辺の水質・水温を調査したものである。
 調査を行った2017年8月は、21日間連続で雨が降り、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水を記録した。
 調査結果によると、降雨の後は、水質が顕著に悪化すること分かった。今回の調査期間では、国際競技団体の定める水質・水温基準達成日数は、マラソンスイミング基準では10日で約半分、トライアスロン基準はで6日で約3分の1に留まった。
 お台場海浜公園周辺の競技予定水域は、競技を開催する水質基準をはるかに上回る汚水が満ち溢れていることが示されたのである。
 参加選手の健康問題を引き起こす懸念が深まり、国際競技団体などから批判が強まった。
 これに対して、組織委は、雨期に東京湾から流れ込む細菌の量を抑制するために、競技予定水域を水中スクリーンを設置して東京湾から遮断するなど様々の実験を行い、水質改善に努めるとした。
 国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。今年と来年に行われる水のスクリーニング、カーテンの入れ方などの実験についてプレゼンテーションを受けた。この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。
 東京湾の水質改善は、着々と進んではいるが、とても海水浴ができるような“きれいな海”とはいえない。東京湾に流れ込む川からは大量の汚染水が流れ込む。海底にはヘドロが蓄積している。オリンピック開催期間は真夏、ゲリラ豪雨は避けられない。東京湾は、“汚水の海”になることは必至だ。
 そもそも東京湾に、選手を泳がせて、マラソンスイミングやトライアスロンを開催しようとすること自体、無謀なのではないか。


お台場海浜公園における水質・水温調査地点  東京都オリンピック・パラリンピック事務局


水質調査結果(トライアスロン) 東京都オリンピック・パラリンピック事務局


水質調査結果(マラソンスイミング) 東京都オリンピック・パラリンピック事務局


お台場海浜公園における水質・水温調査地点  東京都オリンピック・パラリンピック事務局

「水面に顔をつけない」が条件の海水浴場
 2017年夏、葛西臨海公園に「海水浴場」がオープンした。水質改善が進んだ東京湾のシンボルとして話題になった。
 かつては東京湾には葛西のほか大森海岸、芝浦など各所に海水浴場があったが、高度経済成長期に臨界工業地帯の工場排水や埋め立て工事で1960年代に水質悪化が進み、海水浴場は姿を消した。東京湾では、約50年間海水浴が禁止され、房総半島や三浦半島までいかないと海水浴ができなかった。
 港区では、「泳げる海、お台場!」をスローガンに掲げ、お台場海浜公園に海水浴場を開設しようとする取り組みに挑んでいる。
 ところが、お台場海浜公園は、水質基準を満たさないため通常は遊泳禁止である。
 港区では、2017年7月29日(土曜)・30日(日曜)の2日間、範囲を限定し、安全面等に配慮しながら行う“海水浴体験”を開催、訪れた親子連れは、“海水浴”ではなく、ボート遊びや水遊びを楽しんだという。なんと「水面に顔をつけない」ことが条件の“海水浴体験”だった。
 お台場の海は、「水面に顔をつけない」で足を海に入れる「磯遊び」程度の水質しか保証されていないのである。この海で、マラソンスイミングやトライアスロン(スイム)の競技を開催すれば、参加選手は“汚染”された海水に顔をつけ、海水を口に含まざると得ない。選手の健康問題を組織委員会はどう考えているのだろうか。
 なぜ、素晴らしい自然環境に囲まれたきれいな海で開催しないのか。日本には素晴らしいビーチが豊富にある。これまでしてお台場の開催にこだわる姿勢には良識を疑う。

「水中スクリーン」設置で水質改善


お台場海浜公園  出典 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会

 お台場海浜公園は、2017年夏に行われた水質調査で競技団体が定める基準値を大幅に上回る大腸菌などが検出され、水質対策が迫られていた。
 東京都では、2018年夏、ポリエステル製の膜、「水中スクリーン」を海中に張って大腸菌などが流れ込むのを防ぐ実証実験を行った。3重の「水中スクリーン」で囲った水域ではすべての日で基準値を下回り、「水中スクリーン」で囲う水質対策は効果的だとした。


出典 東京都


出典 東京都

 今回の実証実験は、組織委員会と東京都が、2020東京五輪大会の開催期間にあたる7月から9月にかけての27日間で行い、お台場海浜公園の入り江内の2か所にポリエステル製の「水中スクリーン」を張って、大腸菌などが流れ込むのを防ぐ実験を実施した。
 「水中スクリーン」は1重に張ったエリアと3重に張ったエリアの2か所を設け、それぞれのエリアで水質改善効果を検証した。
 今年の夏は、首都圏は台風や豪雨に見舞われ、首都圏の下水が東京湾に流れ込み、「水中スクリーン」が張っていない水域では、半数近い13日間で大腸菌が基準値を上回った。7月29日には台風の影響で、国際トライアスロン連盟の基準値を142倍も上回る数値を示した。
 五輪大会が開催されるのは時期は真夏、毎年、台風や集中豪雨の襲われるのは必至である。依然としてお台場海浜公園周辺の水域の水質レベルは、極めて危険なレベルにあることが明らかになった。
 一方、「水中スクリーン」スクリーンを1重に張ったエリアでは大腸菌の基準値を上回ったのがわずか2日で、3重に張ったエリアではすべての日で基準値を下回った。
 組織委員会と東京都は「『水中スクリーン』の効果が確認できた」として、2年後の東京大会で「水中スクリーン」を設置する方向で進めるとした。


出典 東京都

 しかし、今回の実証実験では、泳げる範囲がわずか60メートル四方で設置経費は7500万円だったとされる。
 トライアスロンのスイム(水泳)のコースは1.5キロメートル、オープンウォータースイミング(OWS(マラソンスイミング)コースは10キロメートルの周回コースで、台場海浜公園の入り江のほぼ全域に設定される。水質改善効果を上げるためには3重の「水中スクリーン」が必須だが、広範囲に設置した場合、水質改善効果が維持できるかどうかは未知である。また設置経費も膨大なり、10億円近くにも達する懸念もある。
 トライアスロンの水質基準は、大腸菌数、250個/100ミリリットル以下、水温32度C(水深60センチ)以下マラソンスイミングの水質基準は、トライアスロンとは異なり、糞便性大腸菌群、1000個/100ミリリットル以下、水温31度C(水深40センチ)以下などが国際水泳連盟(FINA)によって定められている。
 例年、首都圏の夏は台風や集中豪雨にたびたび襲われる。2020年、8月も同様であろう。大雨が降ると、お台場海浜公園周辺の海域は大腸菌がウヨウヨする海となる。猛暑で海水温は高温となる。悪臭や汚濁対策も必要だ。まさに選手の健康を脅かす危険と隣合わせた競技会場である。
 こうした大会運営は、「アスリートファースト」とは到底言えない。
 東京湾には、雨が降ると、隅田川などの河川から、生活排水などの汚水が浄化処理されないまま流れ出ることが原因で、首都圏の下水浄化システムを改善しない限り、抜本的な水質改善は不可能である。

 そもそも、お台場海浜公園は、水質基準を満たさないため、「遊泳禁止」、海水浴場として認められていないのある。海に入って、いわゆる「磯遊び」は可能だが、「顔を海水につけて」遊ぶことはできないのである。
 しかし、港区はトライアスロンなどのイベント開催は特別に許可をしている。
 2016年にトライアスロンにお台場海浜公園を泳いだ井ノ上陽一氏によると、「トライアスロンのスイムは、レースによっては、それほどきれいな海で泳げず、それに耐えることも大事」としている。特に東京、関東近辺の大会では、きれいな海は望めず、川や湖だともっと視界が悪い場合もあるという。必ずしも、きれいな水域を選んでレースが開催されるのではないようだ。
 井ノ上陽一氏のウエッブには、お台場海浜公園の泳いだ様子の写真が掲載されている。


お台場海浜公園の水中  出典 井ノ上陽一氏 「お台場で泳いでみた!トライアスロンスイム(海)の現実」
 
 筆者は、ほとんど泥水の中を泳いでいる様子に唖然としたが、井ノ上陽一氏によると視界が悪いのは別に驚くには当たらないとしている。トライアスロンスイムは世界各地で行われているが、必ずしも自然環境に恵まれた会場で行われるとは限らないという。
 しかし、問題なのは、視界の良し悪しもさることながら、水質汚染が悪化しているかどうかで、海水浴場として環境基準を満たしていない「汚染水域」で、五輪大会の競技を開催して、選手を泳がせることである。
 これまでにたびたび、小池都知事や森組織委員会長から「アスリートファースト」という言葉を聞いた。「アスリートファースト」を掲げるなら、競技会場を水質基準をクリヤーしている鎌倉や房総半島のビーチに変更したら如何か? いまからでも遅くはない。マラソンと競歩は暑さ対策札幌開催を決断した。





水質汚染問題に直面したリオデジャネイロ五輪
 2016リオデジャネイロ五輪では、セーリングやトライアスロン、ボートなどの会場となるコパカバーナ地区の湾岸部、グアナバラ湾の水質汚染が深刻で選手の健康被害が懸念され、競技の開催が危ぶまれのは記憶に新しい。
 AP通信が行った独自調査によると、2015年3月以降に競技会場で採取された水から、高い数値のアデノウイルスのほか、複数のウイルスや細菌も検出されという。
 汚染の原因は下水処理整備の遅れだ。人口1000万人のリオデジャネイロの生活排水の7割近くがグアナバラ湾に最終的に流れ込むという。
さらに汚染に拍車をかけるのが、リオデジャネイロの貧民街。リオデジャネイロは世界でも有数の観光地だが、人口632万人の23%を占める143万人が貧民街に暮らしているという。ブラジルで最も貧富の差が大きい都市でもある。貧民街では下水処理施設の整備はほとんど手が付けられていない。
 グアナバラ湾は「巨大なトイレ」と揶揄されている。
 招致段階でリオデジャネイロ州政府は五輪開幕までにグアナバラ湾に流入する汚水の80%を下水処理できるようにすると公約した。この処理事業を支援しているのが日本の国際協力機構(JICA)で、現在四つの下水処理場が稼働している。 しかし、各家庭から処理場まで下水を集める配管の整備が遅々として進んでいない。リオ五輪組織委員会は、開催前年の2015年7月、公約としていた水質浄化が開幕まで不可能と認めている。
 大量のゴミが海面を覆い尽くしているのも汚染の原因とされているが、リオデジャネイロ市では、湾内のごみを回収する「エコポート隊」を投入するなど窮余の対策に追われた。大量のゴミを片付けても、下水処理を行わなければ水質改善はほとんど絶望的である。
 水質汚染問題の抜本的な解決はできなかったが、国際オリンピック委員会(IOC)は「環境基準は満たされた」して競技は予定通り行われた。


ゴミが散乱するグアナバラ湾 Antonio Scorza / Agência O Globo


リオデジャネイロ五輪のマラソンスイミング 出典 Rio2016/Youtube


リオデジャネイロ五輪のマラソンスイミング 出典 Rio2016/Youtube




東京湾をきれいな海に これこそ2020東京大会のレガシー!

 東京23区の下水道のほとんどが合流式で整備され、雨水と汚水を一緒に処理するシステムである。雨が大量に降ると下水道が処理できずに、そのまま河川に放流される可能性がる。東京都は下水処理能力の向上に取り組んでいるが、一瞬で大量の雨が降るようなゲリラ豪雨が発生すると処理能力の限界を超えてしまう。
 再オープンした葛西海浜公園も、大雨が降ればで、COD濃度が一気に跳ね上がり水質基準を超えて、海水浴場が再び閉鎖になる懸念と隣り合わせている。
 水質改善の抜本的な対策は、下水道を合流式から分流式に切り替えることで、分流式は雨水・汚水を区別して処理する方式のため、雨が降っても汚水が未処理のまま雨水に混ざることはない。
 東京23区は、下水道整備を急ぎ、昭和30年代に経費のかからない合流式で下水道を整備した。1970年に下水道法が改正されて、下水道はようやく分流式で建設されるようになったが、現在でも合流式で整備した下水道が広いエリアで稼働している。東京都内の下水道が分流式に切り替わるには、あと30年以上は必要とされている。
 さらに東京湾には、埼玉県や千葉県、茨城県からの生活排水も流れ込む。
 東京湾の海底には、過去の環境汚染の“負の遺産”である汚染物質が大量に含まれているヘドロが海底には堆積したまま、水質改善は滞り、未だに年間約40回程度の赤潮や4~5回程度の青潮が発生している。東京湾に本格的に海水浴場が蘇るのはまだまだ先になる。
 2020東京五輪大会の開催経費は、関連経費を含めると「3兆円」、膨大な額の資金が投入される。
 大会開催を契機に、この資金の一部を投入して下水道処理施設の改良を行い100%の下水処理を達成すれば、東京湾の水質改善は一気に進む。長年悲願の「東京湾に海水浴場」が実現するだろう。
 これこそ、2020東京五輪大会のレガシーになると考える。大会後、赤字が見込まれ負の遺産になる懸念が大きい競技場建設より、東京湾がきれいな海になるほうがはるかに都民の未来の遺産、レガシーになることは間違いない。
 2020年東京大会まであと半年、この間に東京湾の水質改善が飛躍的に進むことはありえないだろう。
 “汚染”された海、東京湾で選手を泳がす2020東京大会、何が「アスリートファースト」なのだろうか。




江の島セーリング会場 シラス漁に影響 ヨットの移設や津波対策に懸念


“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル

“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! 「世界一コンパクトな大会」はどこへいった?

東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 競技会場の全貌

東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念“世界一コンパクト

東京オリンピック ボランティア タダ働き やりがい搾取 動員 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!

東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2018年5月9日
Copyright (C) 2018 IMSSR


***************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
****************************************







コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝日新聞は高校野球関係者のコロナ感染者を公表せよ

2021年09月08日 09時31分10秒 | 東京オリンピック


朝日新聞は高校野球関係者のコロナ感染者を公表せよ 選手1人陽性 朝日新聞記者も濃厚接触者で待機
 コロナ禍の中で開催された甲子園大会は、停滞する前線による豪雨にも見舞われ、大会運営は大きな打撃を受けている。
 昨日は、試合開始時間が3時間も遅れ、最終試合の第四試合は、夜7時10開始、終了は9時30頃、前代未聞の競技運営となった。朝日新聞は、五輪大会の運営で夜間の競技開催について厳しく批判した。高校野球なら9時過ぎまでの開催は「目をつぶる」のか。「開催ありき」と五輪を批判した。「開催ありき高校野球」となぜ批判しない。
 さらに雨の離京であわせて4日間の延期を余儀なくされている。暑さなどから選手の健康を守るために「休息日」がほとんど消えた。朝日新聞は選手の健康問題の配慮はやめたのか。
 懸念されたコロナ感染者が発生していることも大きな問題だ。
 8月14日、1回戦で愛工大名電に勝利し、2回戦に進出した東北学院(宮城)の選手1人が新型コロナウイルスのPCR検査で陽性が判明したと発表された。
 陽性が発覚した選手は13日に発熱。13日夜と14日の朝の2回、PCR検査を行い、ともに陽性反応が出た。14日朝のPCR検査では、他に陽性者はいなかった。当該選手やチームのメンバーは濃厚接触者についての保健所の判断が出るまで、宿舎でそれぞれ個室で待機した。
 翌15日、大会本部は、選手2人と練習補助員1人に加え、チームと大会本部との調整などを担う主催者の朝日新聞記者の計4人が濃厚接触者として保健所に認定されたと発表した。4人はそれぞれの宿舎で待機中で、12日と14日に受けたPCR検査では陰性だった。陽性となった選手は15日に選手宿舎から宿泊療養施設へ移ったという。
 問題は、感染ルートである。選手2人と練習補助員1は、厳しく行動管理がなされていると思われるので、朝日新聞記者がなんらかの「感染源」となった懸念も残る。朝日新聞は、一刻も早く、調査を行い、結果を公表すべきだろう。勿論、プライバシーについては十分な配慮が必要だ。

 最大の問題は、選手やチーム関係者以外の大会関係者や学校関係者のコロナ感染情報が一切明らかにされていなことである。五輪関係者のコロナ感染者を連日報道して厳しく追及した朝日新聞は、高校野球については沈黙している。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、毎日、「選手」、「大会関係者」、「メディア」、「委託業者」などを「海外」と「国内」に分けてコロナ感染者数を公表した。朝日新聞は、同様に高校野球関係者のコロナ感染者を公表すべきだ。
 甲子園地域に開催期間中に滞在している代表校の関係者は、1校当たり約30人として計49校で約1500人、学校関係者が1日あたり最大4000人、それに大会関係者や関連業者などが加わり、1日当たり5000人近くが大会に関わっていると思われる。
 一方、開催地兵庫県のコロナ感染状況は、まさに感染爆発で「制御不能」状態に陥っている。8月12日は史上最高の728人の新規感染を出し、入院病床率は50%超である。兵庫県の陽性率は、20.4%と20%を超えている。5000人に全員にPCR検査を実施すると、20%という数字は過剰だが、数十人程度の陽性者が出るのは当然と思われる。甲子園大会の場合、PCR検査を毎日全員に対して実施していないが、それにしても大会関係者で、「感染者1人」というのは不自然である。
 なぜ朝日新聞は、関連業者やメディアを含めて大会関係者の陽性者の数と内訳を明らかにしないのか。五輪大会は厳しく批判する一方で、高校野球は「目をつぶる」のか、説明を求めたい。
 また、五輪報道については、「バブルに綻び」として、大会関係者が宿泊施設を抜け出して外出する姿を追いかけた。周辺のコンビニ等に「張り込み」取材を行い、大会関係者や外国人メディアが飲料などを買う姿を報道して批判を浴びさせた。
 高校野球関係者の「バブル体制」は実施していないが、外出自粛が求められている。甲子園エリアに滞在する大会関係者が市内に外出する様子の「張り込み」取材はしないのか。地元兵庫県は感染爆発の状況である。
 朝日新聞は、主催者としてメディアとしての責任を果たして欲しい。



朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき

朝日新聞は東京五輪の「オフイシャルパートナー」を返上せよ


5月26日朝刊 朝日新聞社説 「東京五輪 中止の決断を求める」




2021年9月1日
Copyright (C) 2021 IMSSR


******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
******************************************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パラリンピック FAN PARK/FAN ZONE お台場に設置

2021年08月25日 14時19分15秒 | 東京オリンピック




2020 FAN PARK/2020 FAN ARENA 東京在住者に限り公開

2020 FAN PARK

出典 TOKYO2020

 競技体験や東京2020オフィシャルショップの他、アギトスのスペクタキュラーが設置され、東京2020大会の様々なコンテンツが楽しめるエリア。

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみが入場可能。
 来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示が必要。。
 また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供する。

■開催日程:
2021年8月24日 - 2021年9月5日
■アクセス:
東京臨海高速鉄道「東京テレポート駅」徒歩5分
■開催時間:
10時00分~20時00分

※新型コロナウィルス感染症拡大等により、時間が変更となる場合がある。
 新型コロナウィルス感染症拡大防止の一環として、2020 FAN PARKの入場は事前の来場登録が必要。

2020 FAN AREA

出典 TOKYO2020

 オリンピック・パラリンピックを同じ時期・同じエリアで体験できるエリアで、大会パートナーによるブースの他、競技体験、ミライトワ・ソメイティのスペクタキュラーなど、東京2020大会の様々なコンテンツを楽しむことができる。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみの入場とさせていただきます。
来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示をお願いする場合がございます。
また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供します。
開催日程:

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみが入場可能。
 来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示が必要。
 また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供する。

■開催日程:
2021年8月24日 - 2021年9月5日
■アクセス:
東京臨海高速鉄道「東京テレポート駅」徒歩2分 青海展示場
■開催時間:
10時00分~20時00分

※新型コロナウィルス感染症拡大等により、時間が変更となる場合がある。
 新型コロナウィルス感染症拡大防止の一環として、2020 FAN PARKの入場は事前の来場登録が必要

来場登録サイト
https://fanpark-arena.tokyo2020.org/top.html


TOKYO WATERFRONT CITY 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


聖火台「夢の大橋」設置 新国立競技場内は開閉会式時のみ使用の仮設聖火台 お台場にFAN PARK/FAN ZONE設置



2021年8月24日
Copyright (C) 2021 IMSSR

******************************************************
廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
******************************************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする