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東京オリンピック ボランティア批判 タダ働き やりがい搾取 暑さ対策 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!

2021年02月18日 20時01分15秒 | 東京オリンピック



新型コロナウイルス(COVID-19) 出典 NYT/NIAID

森喜朗会長が辞意 表明 女性蔑視発言で引責 後任に橋本聖子五輪相
 1月12日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、評議員、理事を集めた合同懇談会で、女性を蔑視する発言をした責任を取り、会長を辞任することを表明した。後任には橋本聖子五輪相に決まった。
 組織委は、当初は、森は発言問題に対し、経緯を説明して陳謝し、続投への理解を求める方針だったが、国内外のメディアから「女性差別」と厳しい批判を浴び、アスリートやSNSなどで辞任を求める声が相次いで、今夏の大会準備への影響も出始めていた。
 森会長が発言を撤回して謝罪したので「解決済」としていた国際オリンピック委員会(IOC)が、一転して、「森会長の発言は完全に不適切で、IOCがアジェンダ2020で取り組む改革や決意と矛盾する」と強く批判した。IOCに膨大なスポンサー料を払っているTOPスポンサー企業や収入の大黒柱である放送権料を負担する米NBCが批判の姿勢を強めたことが決め手となった。10日には東京都の小池百合子知事が2月中旬で調整されていた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのトップ級4者協議を「あまりポジティブな発信にはならないい」と述べ、欠席する意向を表明し、事実上、辞任の引導を渡した。
 森会長は、後任は選手村村長を務める川淵三郎氏に次期会長就任を要請し、川淵氏も受託し、12日の会議で川淵氏を会長に推薦するものとみられていた。川淵氏は森会長に相談役就任も依頼していた。しかし、菅政権に森会長が自ら後任を推薦する手法に異論が出て白紙撤回された。

森会長、女性蔑視発言 大会ボランティア、都市ボランティア辞退相次ぐ
 2月3日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は、JOC臨時評議員会で、「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」などと発言した。この発言に対して出席者で異論を唱える人はいなく、笑い声が出たとされている。
 森氏の発言は、女性を蔑視したと受け取られ、国内内外から激しい批判を浴びた。
 翌2月4日、森会長は記者会見を開き、女性を蔑視したと受け取れる発言をしたことについて、「深く反省している。発言は撤回したい」と謝罪した。会長職については「辞任する考えはない」と述べた。
 質疑応答では「女性が多いと時間が長くなるという発言を誤解と表現していたが、誤った認識ではないのか」との質問に、「そういう風に(競技団体から)聞いておるんです」などと答え、競技団体全体にこうした認識が広がっていることを示唆した。
 これに対して、組織委員会は8日、4日以降に大会ボランティア(約8万人)辞退申し出が、約390人に上り、2人が聖火リレーランナーへの辞退を申し出たと発表した。組織委は辞退理由を公表していないが、3日に森喜朗会長が女性蔑視の発言をした影響とみられる。
 また、東京都は都市ボランティア(約3万人)の辞退申し出が93人になったと発表してている。
 こうしたボランティア辞退の動きについて、自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「瞬間的」なもので、「落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と語った。今後の対応については「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と述べ、さらに「参画しよう、協力しようと思っておられる人はそんな生やさしいことではなく、根っからこのことに対してずっと思いを込めてここまで来た」とし、「そのようなことですぐやめちゃいましょうとか、何しようか、ということは一時、瞬間には言っても、協力して立派に仕上げましょうということになるんじゃないか」と発言した。
 新型コロナの感染拡大の中で活動を余儀なくされた大会ボランティアや都市ボランティア、組織委員会では「五輪大会開催の成否は『大会の顔』となるボランティアの皆さんにかかっている」と高らかに唱えている。開催を半年に控えている中で、約11万人のボランティアの人たちの思いを踏みにじった女性蔑視発言、森会長の責任は重い。

大会ボランティア 約7割がコロナ感染拡大に不安
 7月30日、東京2020組織委員会は、来年の大会で活動予定の約8万人を対象に、アンケート調査を実施した。新型コロナウイルスの感染拡大で、回答者の約7割が感染防止対策を不安材料に上げた。
 この調査は、7月1日から21日に行われたもので、2万6042人の大会ボランティア活動予定者から回答を得た。
 この中で、延期に伴う心配や安全(複数回答)を問う設問では、「感染症の影響による大会の実施形態や活動中の感染防止対策に関すること」が66.8%と最も多く、「研修の延期で活動内容を知る機会がない」が34.0%、「卒業な転勤などの環境の変化で参加できないかもしれない」が21.5%だった。
 また自由記述では、大会開催中止の可能性を上げた人もいた。
 大会組織委員会では、改めて活動できるかの意思確認作業を行い、9割弱の回答者のうち8割以上が延期後の大会でも活動する意向を示したという。残る回答者も大半が「検討中」とし、辞退の意思を示したのは1%程度だったとしている。組織委は大会運営に支障はないと判断し、現時点で追加募集は行わない方針。
 新型コロナウイルスの感染拡大は一向に収まる気配はない中で、五輪大会の中止を求める声が日増しに強くなり、そもそも開催できるかどうは不透明さを増している。大会を開催する場合の最優先の課題は「コロナ対策」、選手などの対策の検討は進んでいるが、ボランティアなどの大会関係者のコロナ感染防止対策はいまだにほとんど示されていない。頼みの綱のワクチンは、一般の市民を対象とする接種開始は、7月にずれ込み、五輪開催に間に合うのは絶望的になった。これでは大会ボランティアの安全を守ることはできない。組織委員会は、一刻も早くボランティアに対するコロナ感染防止対策を明らかにして、安全・安心な大会運営を確保しなければならない。重症化リスクが高い高齢者のボランティアへの配慮も必須だ。大会組織委員会の対応は責任のある姿勢が問われている。
 東京2020大会のボランティアを巡っては、暑さ対策だけなく、コロナ対策をどうするのかという重大な問題に直面している。


オリンピックの延期を決めたバッハ会長は「東京五輪がウイルスに打ち勝った象徴的な祝典になることを願う」と述べたが…… 出典 IOC NEWS 3月30日

新型コロナウイルス感染拡大 東京五輪大会1年延期 来年7月23日開幕 パラは8月24日 聖火リレー中止 破綻寸前「3兆円のレガシー」




緊急課題 ボランティアの暑さ対策はどうなる?

 今年の夏は、梅雨明けは例年に比べて遅かったが、梅雨明け後は、一転して猛暑が続き、夜になっても気温が下がらず、連日熱帯夜となった。
 来年の東京五輪大会開催期間(7月24日~8月9日)も同様の猛暑が予想され、とりあけ都心は、ヒートアイランド現象による気温上昇に加えて湿度も高く、過去の大会で最も厳しい「酷暑五輪」になると思われる。
 来年の大会開催を見据えて、今年の7月から8月にかけて、本番の大会運営を検証するためにテストイベント、「READY STEADY TOKYO TEST EVENTS」が相次いで開催された。
 7月には、近代五種(武蔵野の森総合スポーツプラザ)やウエイトリフティング(東京国際フォーラム)、アーチェリー(夢の島公園アーチェリー場)、自転車競技
(ロード)(スタート:武蔵野の森公園、ゴール:富士スピードウェイ)、バドミントン(武蔵野の森総合スポーツプラザ)、ビーチバレー(潮風公園)、8月になって、ボート(海の森水上競技場)、馬術(海の森クロスカントリーコース、馬事公苑)、ゴルフ(霞ヶ関カンツリー倶楽部)、マラソンスイミング(お台場)、トライアスロン(お台場)、セーリング(江の島ヨットハーバー)の競技大会が開かれた。
 テストイベントを行う中で、明らかになった最大の問題は、「暑さ対策」、トライアスロン(水泳)やマラソンスイミングでは水質や水温の問題が浮かび上がった。

連日暑さ指数31°C超「危険」
 環境庁のデータによると、テストイベントが集中した8月11日の週の暑さ指数(WGBT 環境省発表)は、31.6°C(11日)、31.2°C(12日)、32.4°C(13日)、31.4°C(14日)、31.4°C(15日)といずれも31°Cを超え、16日は台風10号の影響で、30.4°C、17日は逆にフェーン現象で33.5°Cと今年最高を記録した。
 環境省の指針によると、31°C以上は、「危険」とし、「すべての生活活動でおこる危険性」があり、「高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」としている。
 8月11日からの1週間はほぼ連日「危険」の猛暑が続いたのである。
 
 記録的な猛暑は、五輪大会開催にとって大きな脅威となった。
 出場する選手は勿論、大会関係者、大会を支えるボランティア、そして競技場を訪れる大勢の観客、十分な暑さ対策を実施しないと熱中症で体調を崩す人が続出する懸念が大きい。
 
猛暑の直撃を受けるボランティア
 猛暑の直撃うけるのは、大会の運営を支えるボランティアである。大会組織委は競技会場や選手村などで競技や運転など各種運営をサポートする「大会ボランティア」8万人、東京都は空港や駅、観光地で、国内外から訪れる人たちへ観光や交通の案内を行う「都市ボランティア」3万人を確保する計画である。

 この内、特に猛暑のダメージが大きいのは、屋外で行われるビーチバレーやボート、カヌー、トライアスロン、馬術クロスカントリー、アーチェリー、セーリング、ウインドサーフィン、それにマラソンや競歩、自転車(ロード)などの大会ボランティアである。長時間、猛暑の炎天下で業務にあたらなければならない。
 屋内のアリーナで開催される競技についても、観客整理、交通整理などで大勢のボランティアが炎天下で業務になる。

 五輪大会テストイベントが行われた海の森公園から帰るバスに乗り合わせたボランティアの人が、「この暑さはもう体力の限界を超える。テストイベントは本番の半分の時間、これが二倍になるになると耐えられない。是非、シフト体制を考えてもらいたい」と話していた。
 まさにボランティアの「命を守る」ための施策が迫られているのである。

ボランティアの「命を守る」対策を
 来年の夏も猛暑は避けることができないだろう。
 ボランティアを猛暑から守るためには、炎天下で業務にあたる時間を短くするほかないだろう。それぞれの担当セクションで、配置ボランティアの数を倍に増やし、休憩時間を大幅に増やすシフト体制を組む必要があるだろう。1時間、炎天下で業務に従事したら、1時間は冷房完備のシェルターで休憩する。ボランティアの「命を守る」ためには必須の条件となってきた。
 また、大会ボランティアを志望した人には、高齢者や家庭の主婦、いつも冷房の効いたオフイスで仕事をしているサラリーマンなど、猛暑の中の業務に慣れていない人が大勢いると思われる。炎天下、体感温度は35度を楽に超え、強烈な日差しが照り付ける。その中でのボランティア業務である。

 さらに問題なのは、暑さ対策、競技の開始時間が次々と早められ、早朝に競技開始が変更されていることだ。マラソンは午前6時、男子50キロ競歩は午前5時30フィン、ゴルフも午前7時、さらに今回のテストイベントの結果を踏まえて、オープンスイミングでは午前5時開始、トライアスロンも7時30分開始を検討している。今年の猛暑を鑑みて、その他の競技の開始時間も早められる可能性は大きい。
 かりに7時競技開始の会場のボランティアになると、その2時間前程度、午前5時前には会場に集合し、配置につく準備をしなければならない。自宅を出発するのは3時過ぎになるだろう。連日、3時起きで半日から1日、炎天下にさらされたら、ほとんどの人が体力の限界に達する。そもそも交通機関が動いていないので早朝に会場に来ること自体が不可能になる可能性が大きい。前日の終電で会場に入り、徹夜で朝まで周辺で待機することになるだろう。それも1日だけでなく、競技によっては10日以上は続く。今は所待機場所を確保していると情報はない。熱帯夜が連日続く中で徹夜での待機、それこそ人権問題である。大会ボランティアは「一日8時間以上、10日間以上」、こうした中で業務を行わなければならないのである。
 ボランティアに応募した人たちは、猛暑の中での業務の過酷さを冷静に見つめて欲しい。猛暑は確実に来年もやってくる。

8万人採用 12万人不採用 
2019年9月12日、大会組織委員会は、書類選考と面談による「第一次選考」(マッチング)が終了し、大会ボランティア(フィールドキャスト)約8万人が決まったと発表した。応募した人は、約20万人、12万人が不採用となった。月内に、応募した約20万人全員に結果を通知するという。
 大会組織委員会によると、採用された人の約6割は女性で、40~50歳代が約4割に上った。応募段階では全体の36%だった20歳代は、面談への出席率が低く、採用は16%だった。
 また外国籍の人は12%で、中国、韓国、英国など約120の国と地域から採用された。
 採用された人は10月から共通研修に参加して、来年3月以降に具体的な役割と活動する会場が決まる。

 炎天下の仕事に自信のない人は、屋外での業務は断り、室内の涼しい場所への配置転換を希望しよう。また、集合時間を確認して、始発電車に乗っても間に合わない場合は変更を希望しよう。勿論、業務シフトや休憩時間を確認しよう。「命を守る」ための選択だ。
 大会ボランティアの場合は、「10日間以上」が条件となっている。ボランティアに応募した皆さん、連日暑さ指数、31°Cを超える中で、10日間以上、炎天下でボランティアを続ける自身がありますか? 
 奉仕精神に溢れた高い志を持ってボランティアに応募した人たちを猛暑から守る責任が課せられたのは大会組織委員会である。まさか、暑さ対策は「自己責任」とは、大会組織委員会は言わないと信じたい。同様の対応は都市ボランティアを募集した東京都にも求められる。
 あと1年、暑さ対策は早急に手を打たなければならない緊急課題となった。




暑さ対策ではついに「降雪機」も登場 海の森水上競技場 筆者撮影 9月13日


清涼感を味わえる程度で気温を下げる効果はない 報道陣に公開した実験では300kgの氷を使用してわずか5分間で終了


ビーチバレーの会場(潮風公園)の入り口に設置されたミスト 観客のラストワンマイル(駅から会場までの間)の暑さ対策で設置 ミストにあたっている間は涼しさを感じるが熱中症防止の体全体を冷やす効果はない  筆者撮影 2019年7月25日


ビーチバレーの会場内に設置された休憩所 テントの中は冷房されている こうした休憩所を各競技場に多数設置する必要がある 筆者撮影 2019年7月25日






五輪ボランティア説明会・面談会場 東京スポーツスクエア 東京都千代田区有楽町

五輪ボランティア説明会始まる 480名が参加

 2019年2月9日、2020東京五輪大会の応募者に対する説明会と面談が、東京都千代田区有楽町の東京スポーツスクエアで始まった。こうした説明会と面談は、北海道から九州まで全国11か所で7月末まで開かれる。
 この日は、首都圏は雪に見舞われたが、大会ボランティア(フィールドキャスト)が360人、都市ボランティア(シティキャスタト)が約120人、合わせて約480人の応募者が参加した。
 説明会は、活動内容やスケジュールについての説明をするオリエンテーションだけでなく、応募者同士の自己紹介やクイズ、ゲームなども交えて和やか雰囲気の中で進められ、ボランティア同士のコミュニケーションを図った。
 その後、大会組織委員会の担当者は応募者との面談を行い、第一回目のマッチングの審査を実施した。20万人を超える応募者から8万人に絞り込む「第一次選考」である。「第一次選考」でどの程度の絞り込みが行われるかは大会組織委員会では明らかにしていない。
 マッチングが成立した応募者には、9月頃までに研修のお知らせのメールが、順次、送付され、次の段階に進んで2019年10月から始まる共通研修に臨む。いわば「第二次選考」である。この段階で約8万超程度に絞り込みが行われると思われる。
 共通研修終了後、2020年3月以降に、大会ボランティアについては、「役割・会場のお知らせ」、都市ボランティアについては「採用通知」が送付されることで、最終的にボランティアとして採用されるかどうかが決められる。採用されたボランティアは、2020年6月から、大会ボランティアについては会場別研修、都市ボランティアについては配置場所別研修を受ける。
 なお海外在住の大会ボランティア応募者、約7万人については、2019年3月から7月にかけてテレビ電話等でオリエンテーションで行る。事実上の選考であるマッチングの審査は個別に連絡を取りながら実施すると思われるが、面談を行わないので作業は難航が予想される。マッチングが成立して採用された応募者は、来日して2020年6月以降に実施される会場別研修から参加する。渡航費用も必要となるので、果たして何人が実際に会場別研修に参加するのか懸念は残る。


大会ボランティアの受付 都市ボランティアの受付は背中合わせの隣に


大会ボランティアの説明会


都市ボランティアの面談 大会組織委員会担当者2名と応募者2名が一つのテーブルで面談


大会ボランティアの面談 事実上の「面接試験」 説明会とは違って応募者は緊張した表情


面談会場にはボランティアのユニフォームや帽子、靴が展示 試着可能


都外の説明会と面談開催スケジュール 東京スポーツスクエアでは、2月9日から5月下旬まで、90日程度開催予定


出典 東京2020大会組織員会



ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!

東京2020大会ボランティア 応募完了者20万4680人
 2019年1月25日、大会組織委員会は東京2020大会ボランティアについて、視覚に制約のある方等の募集を締め切り(2019年1月18日)、応募者完了者の合計は、204,680人となったとした。
 応募者の構成については、男性が 36%、女性が 64%、国籍は、日本国籍64%、日本国籍以外 36%、活動希望日数は、10日未満 2%、10日 37%、11~19日 33%、20~29日 12%、30日以上 16%としている。
 日本国籍以外の外国人が約4割近くも占め、応募完了者の総数を押し上げに大いに貢献した。活動希望日数が多かった理由も日本国籍以外の応募者が多かったことが上げられるだろう。
 昨年12月21日に募集は締め切られたが、応募登録手続きのプロセスにトラブルが発生し、約2万6000人が登録できなかった可能性があることが明らかになった。
 募集最終日にアクセスが集中し、応募者に最終認証用の電子メールが送れないなどの不具合が発生したのが原因とした。
 大会組織員会は、これまでに対象者には個別に連絡を取り、手続きの完了を依頼するなどの対応を完了した。

 応募完了者には、2019年1月からオリエンテーションの案内が送られ、2月以降、東京、大阪、名古屋など全国12カ所で面接や説明会などのオリエンテーションが始まる。そして応募者の希望活動分野とのマッチング(すり合わせ)が行われ、共通研修を受ける人の採用可否が決まる。採用された人は、10月以降に共通研修が行われ、2020年3月に正式に採用が決まり、活動場所や役割が通知される。

都市ボランティア、応募者は3万6649人 2万人の募集枠を大幅に上回る 
 2018年12月26日、東京都は2万人の募集枠に対し、3万6649人の応募者があったことを発表した。
 約1カ月前の11月21日では、応募者は1万5180人にとどまり、まだ約5000人足りなかったが、終盤になって一気に応募者が増え、1週間前の12月19日に発表した応募者数は2万8689人と募集枠の2万人を上回った。さらに最後の1週間で約1万人の駆け込み応募があった。
 応募者の性別は、男性が約40%で女性が60%で、幅広い世代に広がっているという。また外国籍の応募者は約10%とした(小池都知事 12月17日)。
 2019年1月には、応募者に対して案内状が送られ。2月から面接・説明会などのオリエンテーションが始まる。そして共通研修を受ける人の採用者が決まり、採用された人は9月から共通研修を受ける。2020年3月に、正式に採否が決まり、採用された人には活動場所や活動内容が通知される。
 
 12月21日、都教育委員会は、「都市ボランティア」の募集をめぐって、ある都立高校で担任の教諭がクラスの生徒に応募用紙を配り、「全員出して」と言っていたを明らかにした。担任の教諭に強制する意図はなかったとする一方、「強制と感じた生徒もいるようで、参加は任意だという説明が足りなかった」と指摘した。
 「都市ボランティア」は」、2020年4月時点で18歳以上の人が参加可能だ。募集締め切りの直前、12月19日にツイッター上で応募用紙の写真を添えて「とりあえず書いて全員出して!って言われたんだけど都立高の闇でしょ!」との投稿があり、「学徒出陣だ」といったコメントとともに拡散したという。(朝日新聞 12月22日)

 

東京2020大会ボランティア、目標の8万人達成 外国籍の応募者44% 新たな課題浮上
 2018年11月21日、大会組織委員会は、大会ボランティアの応募者が、20日午前9時時点で8万1035人に上り、目標の8万人を達成したと発表した。 注目されるのは応募者の44%が外国籍で半数近くに達したことである。希望活動分野は「競技」が最も多く、「式典」「運営サポート」も人気が高かった。これに対して「移動サポート」などは希望者が少なく12月21日まで募集を継続するとしている。
 大会ボランティアの募集は2018年9月26日に開始し、当初は「1日8時間程度、合計10日以上」といった応募条件が「厳しすぎる」との懸念が出ていたが、2カ月弱で目標に達した。
 応募完了者の8万1035人に対し、応募登録者は132,335人に達している。
 募集にあたっては、英語サイトも開設し応募を受け付けた。日本語を話せることは条件はない。結果、外国籍に応募者が半数近くの44%にも達した。 
 大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は「多くの方に応募していただき、感謝している」と述べた上で、外国籍の人が多かった理由については「確たることを言うのは難しい。海外でのボランティア活動への積極的な受け止め方もあるのだろう」との見方を示し、「(応募者と活動内容の)マッチングを適切にしたい」と語った。
 組織委によると過去の大会では、採用された外国籍の人の割合は10%以下が多かったという。
 応募者の全体で見ると、男女別では女性が60%、男性が40%。年齢層は20代が最多の32%で、10代から80歳以上まで幅広い年代にわたった。
 しかし、日本国籍の応募者に限ると50代(22%)が最も多く、20代(12%)、30代(11%)は少なかったという。
 応活動希望日数は、10日が33%、11日以上が65%で、30日以上が19%となっている。
 応募締切は、2018年12月21日(金)17時だが、視覚に制約がある応募者は、2019年1月18日(金)17時の締切(専用の応募フォーム提出期限)となっている。

 東京2020大会のボランティア募集がこれだけ海外から注目を浴びたのは喜ばしいことではあるが、日本語を話せることが条件ではないため、活動分野のカテゴリーによっては、大会関係者とのコミュニケーションがうまく行かない懸念も生じる。また、「土地勘」がない場所でのボランティア体験には、ボランティア自身がとまどう状況も十分想定しなければんらない。
 さらに、国内籍の応募者は、2019年1月~7月の間にオリエンテーション(説明会・面接)や2019年10月からは共通研修、2020年4月からは役割別・リーダー研修、そして6月からは会場別研修に参加しなければならないが、外国籍の応募者は2020年6月の会場別研修から参加すれば良いことになっている。明らかに日本籍と外国籍の応募者の間には研修内容に有意差があり、十分なトレーニングが行うことができるか疑念が残る。(下記 ボランティアジャーニー参照)
 大会運営上の観点だけで考えると、日本国籍の応募者を主体にする方が効率的かもしれない。
 また来日する外国籍のボランティアに対して、宿泊などは自己責任としながらも、大会組織委員会はきめ細かなサポート体制を整える必要も迫られてきた。
 外国籍のボランティア、長期に渡る滞在施設の確保や航空券の手配などハードルが高いため、ボランティアに採用されても来日を断念するケースも多発する懸念がある。
 大会組織委員会では、「マッチングを適切にしたい」とし、暗に外国籍ボランティアの採用を厳しく審査する方向性を示唆している。
 しかし、応募者の半分近くに達した外国籍のボランティアの採用数が、日本国籍と外国籍との間で大幅な格差が生じた生じると、国際社会からは「差別」だと見られて大きな批判を招く可能性がある。大会組織委員会が採用の審査を適切に実施した結果だと説明にしても、審査の結果、外国籍の採用数が何人になるかが問われることになるだろう。外国籍のボランティアの採用数を抑えることは、国境を越えた連帯を掲げるオリンッピク精神に明らかに背くことになる。
 「外国籍の応募者44%」、大会組織委員会は大きな難題を抱えた。 

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大会ボランティアの募集 2020東京大会組織員会


都市ボランティアの募集 東京都
東京都は広瀬すずが出演したボランティアの募集のCMの制作に約4000万円かけた。

「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 ボランティア募集」CM 広瀬すず 、10代学生とサプライズCM撮影

ORICON NEWS/Youtube

東京2020大会ボランティア募集開始
 2018年9月26日、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会と東京都は、大会を支えるボランティアの募集を開始した。インターネットなどで12月上旬まで応募を受け付け、計11万人の人員確保を目指す。
 大会組織委は競技会場や選手村などで競技や運転など各種運営をサポートする「大会ボランティア」8万人、東京都は空港や駅、観光地で、国内外から訪れる人たちへ観光や交通の案内を行う「都市ボランティア」3万人を募集する。
 「都市ボランティア」3万人の内、1万人は東京都観光ボランティアや2019年に開催されるワールドカップで活動したボランティア、都内大学からの希望による参加者、都内区市町村 からの推薦者(5,000 人程度)などが含まれるとしている。
 対象は20年4月1日時点で18歳以上の人。原則として大会ボランティアは休憩や待機時間を含めて1日8時間程度で計10日以上、都市ボランティアは1日5時間程度で計5日以上の活動が条件となる。
 食事やユニホーム、けがなどを補償する保険費用は支給され、交通費補助の名目で全員に1日1000円のプリペイドカードを提供するが、基本的に交通費や宿泊費は自己負担となる。また、大会ボランティアは希望する活動内容を三つまで選択できるが、希望順を伝えることはできない。
 ボランティアの応募者は、書類選考を得て、説明会や面接、研修などに参加した後、2020年3月頃に最終的に採用が決まる。4月からは役割や会場に応じて複数回の研修を受けて、7月からの本番に臨む。
 いずれもユニホームや食事が提供されるほか、交通費についても有識者会議で「近郊交通費ぐらいは出せないか」との意見が出たため、1日1千円のプリペイドカードを支給するこことが決まった。
 応募期間は12月上旬までとしているが、必要数に達しない場合は再募集も行う。
 大会ボランティアは組織委ホームページ(https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/)から、都市ボランティアはボランティア情報サイト「東京ボランティアナビ」(http://www.city-volunteer.metro.tokyo.jp/)などで申し込みができる。
 組織委と都は26日午後1時の募集開始に合わせ、新宿駅西口広場でPRチラシを配布し、応募を呼びかけた。
 募集担当者は「今後はボランティアに関する情報をきちんと伝えていきたい。大会を自分の手で成功させたいと思っている人にぜひ応募してほしい」と話している。
 しかし、東京2020大会ボランティア募集については、早くから「10日以上拘束されるのに報酬が出ない」とか「交通費や宿泊費が自己負担」などの待遇面や募集条件が厳しいことで、「タダ働き」、「やりがい搾取」、「動員強制」との批判が渦巻いている。
 東京オリンピックは、果たしてボランティアが支える対象としてふさわしい大会なのだろうか、疑念が湧いてくる。

大会ボランティアの活動内容は?
 大会ボランティアは、競技会場や選手村、その他の大会関連施設で、観客サービスや競技運営のサポート、メディアのサポート等、大会運営に直接携わる活動をする。
 大会ボランティアの活動分野は9つのカテゴリーに分かれている。








出典 2020東京大会組織員会 募集リーフレット 

大会ボランティアは「経験」と「スキル」を要求する業務 ボランティアの役割の域を超えている
 大会ボランティアの活動分野の内、「案内」(1万6000人~2万5000人)は、“日本のおもてなし”の思いやりあふれたホスピタリティを実現させるサービスとして、ボランティアの本来活動分野としてふさわしいだろう。また「式典」(1000人~2000人)も同様と思える。
 しかし、「競技」(1万5000人~1万7000人)、「移動サポート」(1万人~1万4000人)、「アテンド」(8000人~1万2000人)、「運営サポート」(8000人~1万人)、「ヘルスケア」(4000人~6000人)、「テクノロジー」(2000人~4000人)、「メディア」(2000人~4000人)ともなると、相応の経験をスキルが要求され、明らかにボランティアの活動領域を超えている。大会運営に関わるまさに根幹業務で基本的に大会スタッフが担当すべきだ。
 「運営サポート」では、IDの発行もサポートするとしているが、IDの発行は、セキュリティ関わるまさに重要な業務で、個人情報の管理も厳しく問われる。ボランティアが携わる業務として適切でない。組織委員会が責任を持って雇いあげた大会専任スタッフが行うべきだ。
 また「案内」のセキュリティーチェックに関わる業務もボランティアがやるべきではない。大会専任スタッフが担当すべきだ。
 「競技」では、競技の運営そのものに関わるとしているが、これは競技運営スタッフが行うものでボランティアが担う役割ではないだろう。競技運営スタッフは事前に十分なトレーニングと習熟を得なければならない。当然、経験とスキルが要求される。
 「移動サポート」は、運転免許証を要求するので、「補助」ではなく、「ドライバー」なのである。大会開催時には、組織委員会は輸送バス2200台、輸送用車両2500台を運行する予定で、ドライバーなどの輸送支援スタッフを3万人/日を有償で確保する。さすがに輸送用バスをボランティアのドライバーが運転することはないだろうが、8人乗り程度のVANの運転はボランティアに頼ることになりそうだ。大会車両の運転は安全性の確保の責任が大きく、運転はボランティアではなく、大会運営スタットとして雇われた「ドライバー」が担うべきだ。安易なボランティア頼みは問題である。
 海外からの選手が多い五輪大会の「アテンド」は語学のスキルが要求される。英語はもとより、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、韓国語、アラビア語、多様な言語のスキルを持ったスタッフを揃えなければならない。言語のスキルを持つ人に対しては、スキルに対して相応の報酬を払うが当然だ。
 例えば、大会スタッフとして雇用された通訳には1日数万円の報酬が支払わられ、その一方でボランティア通訳は「ただ働き」、これは差別としかいいようがない。スキルと経験に差があるというなら、スキルと経験や業務内容に応じて報酬は支払うべきだろう。仕事の内容は程度に差はあれほぼ同一なのに、「現場監督」は有償で、「部下」はボランティアという名目で「タダ働き」、あまりにも理不尽である。
 「ヘルスケア」、「テクノロジー」はまさに専門職のスキルが必要で、ボランティアの活動領域に当たらない。
 「メディア」対応も、運営スタッフの専門領域だ。もっともメディアの人混み整理程度の仕事ならボランティアで可能だろう。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、2013年から2016年の期間(ソチ五輪、リオデジャネイロ五輪)に、世界の放送機関から41億5700万ドル(約4697億円)という巨額の放送権料を手に入れている。国際オリンピック委員会(IOC)や組織員会は、責任を持ってメディア対応スタッフを有償で雇い上げて、メディアにサービスをしてしかるべきだ。

 大会の運営にあたって、組織委員会はさまざまな分野で大勢の大量の大会運営スタッフを雇い入れる。輸送、ガードマン、医師・看護婦、通訳、競技運営、その数は10万人近くになるだろう。大会運営スタッフは、業務経験やスキル、業務内容に応じてその待遇は千差万別だが、報酬が支払わられ、交通費や出張を伴う業務を行う場合には宿泊費、日当も支払われるだろう。
 業務内容に程度の差はあれ、ほとんど同じ分野の業務を担って、ボランティアは無報酬で「タダ働き」、交通費も宿泊費も自己負担というスキームは納得がいかない。有償の大会運営スタッフとボランティアの差は一体なにか、組織委員会は果たして明確に説明でるのだろうか?

ウエッブの応募サイトを開くと更に疑問が噴出 
 「東京2020大会ボランティア」の応募登録サイト(https://tokyo2020.org/jp/special/volunteer/method/)
を開くと、まず驚くのは「応募フォームの入力には約30分かかります」という注意書きが赤い文字で書かれていることだ。
 入力フォームは、STEP 6まであり、入力しなければならない情報はかなり多い。
▼ STEP1 氏名、性別、生年月日、写真、必要な配慮・サポート 等
▼ STEP2 住所・連絡先、緊急連絡先 等
▼ STEP3 ボランティア経験、就学・就労状況
▼ STEP4 語学、スポーツに関する経験、運転免許証の有無 等
▼ STEP5 希望する活動(期間、日数、場所、分野) 等
▼ STEP6 参加規約・プライバシーポリシーへの同意
 STEP 1とSTEP2は、常識的な入力項目だが、STEP3になると、これがボランティア応募の入力フォームかと疑念がわき始めた。
 STEP3では、「ボランティア経験がありますか?」とボランティア経験が聞かれる。
 「はい」と答えると、「ボランティア経験の種類」、「活動内容」が聞かれる。
 また「ボランティアリーダーの経験ありますか?」と聞かれ、同様に「活動内容」が訊ねられる。
 さらにスポーツに関わる活動を選択した人に対しては、「国際レベルの大会に選手として参加」、「全国レベルの大会に選手として参加」、「その他の大会に選手として参加」など選手として競技大会に参加経験があるが聞かれる。
 そして「審判としての経験」、「指導経験」、「競技運営スタッフとしての経験」などが問われる。
 語学のスキルや希望する活動分野(10項目から選択)についても聞かれる。
 これを元に書類選考し、まずふるいにかけるのである。

 この「応募フォーム」はまるで大会スタッフ応募のエントリーシートのようである。就職試験のエントリーシートとも見間違う。
 業務経験とスキルを重視する姿勢は、善意と奉仕を掲げるボランティア精神とはまったくかけ離れている。
 やはり、「大会ボランティア」の募集とは到底考えられず、「大会スタッフ」の募集フォームなのである。
 本来は、大会スタッフとして、報酬を払い、交通費、宿泊費を支払って雇用すべき業務分野なのである。
 それを「ただ働き」させるのは、筆者はまったく納得がいかない。
 「大会ボランティア」は善意と奉仕の精神を掲げボランティアの活動領域ではない。ボランティアに応募する善意と奉仕の精神に甘えきった「やりがい搾取」である。

事前の説明会、研修で大幅に拘束されるボランティア
 ボランティアとして採用されるには、事前に何回も説明会や研修に参加することが義務付けられている。
 大会ボランティアの場合、2019年1月から7月頃までに、オリエンテーション(説明会)や面談に呼び出される。
 10月からは共通研修が行われ、2020年4月からは役割別の研修やリーダーシップ研修が始まる。6月からは会場別の研修が行われ、ようやく本番に臨むことになる。
 実は、ボランティアとして活動するためには、オリンピック開催期間中に最低10日間(都市ボランティアは5日間)を確保すれば済むわけではないのである。頻繁に、説明会や面談、研修などに参加しなければならない。そのスケジュールは、現時点ではまったく不明で、組織委員会の都合で、一方的に決められるだろう。
 約1年半程度、あれこれ拘束されるのである。
 仮に地方からボランティアとして活動しようとしている人は、そのたびに交通費や宿泊費などの自己負担をしいられる。首都圏在住の人も交通費は負担しなければならないし、なによりスケジュールを空けなければならない。1日1000円のプリぺードカードが支給されるかどうかも不明だ。
 組織委員会が雇い上げる大会スタッフには、事前のオリエンテーション(説明会)や研修に対しても1日いくらの報酬が支払わられるだろう。
 要するに、大会開催経費を圧縮するために、ボランティアというツールを利用する構図なのである。
 「オリンピックの感動を共有したい」、「貴重な体験をしたい」、「人生の思い出に」、ボランティアに応募する人は、善意と奉仕の精神に満ち溢れている。
 こうしたボランティアの人たちへの「甘え」の構図が見えてくる。
 やはり、「やりがい搾取」という疑念が筆者には拭い去れない。
 ボランティアは「自発的」に「任意」で参加しているから問題ないとするのではなく、オリンピックが「やりがい搾取」という構図で成り立っていることが問題なのである。
 無償のボランティアが11万人も働く一方で、オリンピックというビック・ビジネスで膨大な利益を上げている企業や最高で年間2400万円とされる高額の報酬を得ている組織委員会関係者を始め、ボランティアとほぼ同様の業務を担う有償で雇う膨大な数の大会スタッフが存在することが問題なのである。
 ちなみに森組織委会長は、報酬を辞退して、「ボランティア」として大会組織委員会業務を担っている。
 
 
出典 2020東京大会組織員会 募集リーフレット 

都市ボランティアは、ボランティアにふさわしい活動領域
 経験とスキルが要求される大会ボランティアに比べて、東京都が募集している都市ボランティアの活動領域は、本来ボランティアが担うのにふさわしい領域だろう。世界最高の「おもてなし」、優しさあふれたホスピタリティ、まさに東京大会レガシーにしたい。世界各国や日本各地から東京を訪れる人たちに、東京のよさをアピールする恰好の機会だ。
 筆者も海外各国を出張や旅行でたびたび訪れたが、初めての都市では、地下鉄やバスの切符の買い方、目的地までの道順など戸惑うことがたびたびである。空港や駅、繁華街、観光地、競技場周辺など、ボランティアが活躍する場は多い。
 外国人に接する場合も、簡単な日常会話ができれば問題なく、高度な語学力の専門知識も不要で、年齢、職業、スキルを問わず活動ができる。
 「5日間以上」とか事前の説明会や研修等への出席などの要求条件は若干厳しいが、ボランティアの本来の概念に合致している。
 東京大会でボランティアの参加を目指す学生の皆さん、「ブラックボランティア」の疑念が多い大会ボランティアでなく、都市ボランティアを目指すのをお勧め!

「企業ボランティア」はボランティアではない
 9月7日、大会ボランティアとして参加予定の社員324人を集めてキックオフイベントを開いて気勢を上げて話題になった。
 富士通は東京大会に協賛するゴールドパートナーで、語学力などなどを生かしたボランティア活動を社員に呼びかけ、手を挙げた約2千人から選抜したという。
 今後、リーダー役を担うための同社独自の研修や、他イベントでの実地訓練などを行う予定という力の入れようだ。
 ボランティア活動には積み立て休暇や有休を利用して参加してもらう予定だという。
 富士通の広報担当者は「当社はこれまでにも、さまざまなボランティア活動に参加しており、今回もボランティア活動を通じて良い経験を積んで、仕事に生かして欲しい」と話している。
 大会組織委員会は、8万人のボランティアの公募に先だって、大会スポンサーになっている45社の国内パートナーに1社当たり300人のボランティアを参加してほしいと要請を出したという。公募だけで8万人を確保するのが難しいと考えたと思える。

 しかし、冷静によく考えてみると、富士通のボランティアは、「企業派遣ボランティア」で、本来のボランティアではなく、企業のイメージアップを狙う「社会貢献」の範疇だろう。富士通のボランティアは、休暇を利用するにしても、有給休暇で、給料は保証されているである。
 大会組織委員会には、電通、JTB、NTT、東京都などから派遣されたスタッフが大量に働いている。いずれも、組織委員会からは報酬を受け取っていない。しかし、給料は派遣元の組織からしっかり支払われているので「奉仕」でもなんでもない。
 電通、JTB、NTTからボランティアが参加したにしても、富士通のボランティアと同様に給料はしっかり保証されている。さらに、こうした企業は、大会開催の業務を組織員会から受注し、数千億円の収入を得る「業者」なのである。
 もはや、そこには善意も奉仕も感じ取ることはできない。
 巨大なオリンピック・ビジネスの一端を担っている企業のビジネス活動の一環と見なすのが妥当だろう。

「平成の学徒動員」? 文科省とスポーツ庁 ボランティア参加を促す通知
 7月26日、文部科学省とスポーツ庁は、東京オリンピックのボランティアの参加を促す通知を全国の大学や高等専門学校に出した。
 通知では、東京オリンピックのボランティアの参加は、「競技力の向上のみならず、責任感などの高い倫理性とともに、忍耐力、決断力、適応力、行動力、協調性などの涵養の観点からも意義がある」とし、「学生が、大学等での学修成果等を生かしたボランティア活動を行うことは、将来の社会の担い手となる学生の社会への円滑な移行促進の観点から意義がある」とした。そして「特例措置」として、東京オリンピック・パラリンピックの期間中(2020年7月24日~8月9日、8月25日~9月6日)は、「授業・試験を行わないようにするため、授業開始日の繰上げや祝日授業の実施の特例措置を講ずることなどが可能であり、学則の変更や文部科学大臣への届出を要しない」とした。
 学生がボランティアに参加しやすくするために、大会期間中は授業は休みにし、期末試験も行わなず、連休などの祝日に授業を行って欲しいという要請で、こうした対応は文科省への届け出なしに各大学や高等専門学校の判断で自由にできるとしたのである。
 また、これに先立って、4月下旬には、「各大学等の判断により、ボランティア活動が授業の目的と密接に関わる場合は、オリンピック・パラリンピック競技大会等の会場や、会場の周辺地域等におけるボランティア活動の実践を実習・演習等の授業の一環として位置付け、単位を付与することができる」とする通知を出し、学生のボランティア参加を促すために、単位認定を大学に求めるている。
 とにかく異例の通知である。
 東京オリンピックのボランティアは、大会ボランティアが8万人、都市ボランティアが3万人、合計11万人を確保する計画だが、これだけ大量の人数が確保できるかどうか疑問視する声が起きて、危機感が漂っていた。
 ボランティアの要求条件は、大会ボランティアで「10日間以上」、都市ボランティアで「5日間以上」、さらに事前の説明会や研修への参加義務があり、働いている人にとってはハードルが高い。一方で「2020年4月1日で18歳以上」という年齢制限がある。そこで大学生や高等専門学校、専門学校の学生が「頼みの綱」となる。
 この「特例措置」対して、明治大、立教大、国士舘大などが東京五輪期間中の授業、試験の取りやめを決定した
 明治大は「自国でのオリンピック開催というまたとない機会に、本学学生がボランティア活動など、様々な形で大会に参画できる機会を奪ってしまう可能性がある」(7月26日)として、五輪期間中の授業を取りやめ、穴埋めとして同年のゴールデンウィークの祝日をすべて授業に振り替えるという。
 立教大も「学生のボランティア活動をはじめとする『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』への多様な関わりを支援するため」(8月9日)休講に。国士舘大も「学生の皆さんがボランティアに参加しやすいよう2020年度の学年暦では以下の特別措置を準備しています。奮って応募してください」(18年8月9日)と呼びかけている。(WEBRONZA 小林哲夫 8月31日)
 しかし、一方で「平成の学徒動員」と反発する声も強い。
 大会組織委員会や東京都が、ボランティアへの参加を呼びかけるのは当然だが、文科省やスポーツ庁が乗り出し、「特例措置」まで設けてボランティアの参加を後押しするのは行き過ぎだろう。「平成の学徒動員」という批判だ巻き起きるのも理解できる。
 善意と奉仕の精神と自発性を重んじるボランティアの理念と相いれない。

オリンピックは巨大なスポーツ・ビジネス
 国際オリンピック委員会(IOC)は、2013年から2016年の4年間(ソチ冬季五輪とリオデジャネイロ夏季五輪)で51億6000万ドル(約5830億8000万円)の収入を得た。2017年から2020年の4年間(平昌冬季五輪、東京夏季五輪)では60億ドルを優に超えるだろう。また、IOCとは別に2020東京大会組織員会の収入は6000億円を見込んでいるので両者を合わせると1兆円を上回る巨額の収入が見込まれているのである。
 もはやオリンピックは巨大スポーツ・ビジネスで、非営利性とか公共性とは無縁のイベントといっても良い。スポーツの感動を商業化したビック・イベントなのである。
 オリンピックの過度な商業主義と膨張主義は、批判が始まってから久しい。
 そもそも、善意と奉仕を掲げるボランティアの精神とオリンピックは相いれない。
 東日本大震災や熊本地震、北海道胆振地震、西日本豪雨で活躍している災害ボランティアとは本質的に違う。
 
 2012年ロンドン五輪では、7万人の大会ボランティアと8000人に都市ボランティアが参加し、2016年リオデジャネイロ五輪では、5万人の大会ボランティアと1700人のシティ・ホストが参加した。
 リオデジャネイロ五輪では、5万人の大会ボランティアの内、1週間で1万5000人が消えてしまい、大会運営に支障が出て問題になったのは記憶に新しい。
 また平昌冬季五輪では、2万2000人のボランティアが参加したが、組織委員会から提供された宿泊施設(宿泊料は組織委員会が提供し無料)の温水の出る時間が制限されたり、氷点下の寒さの中で1時間以上、送迎バスを待たされたりして、2400人が辞めてしまった。
 勿論、ボランティアは無償(リオ五輪のシティ・ホストは有償 但しリオ市内の貧困層を対象とした福祉政策の一環)、報酬は一切支払われていない。国際オリンピック委員会(IOC)の方針なのである。
 無報酬のボランティアの存在がなければオリンピックの開催は不可能だとIOCは認識しているのである。
 東京大会組織委の担当者が日当を払うことの是非について、IOCに尋ねた際、「それだとボランティアではなくなる」などと言われたという。IOCのコーツ副会長は9月12日の記者会見で「今後もボランティアに日当を払うことはない。やりたくなければ応募しなければいい」と強い調子で話した。(朝日新聞 9月27日)
 一方、「ブラックボランティア」の著書がある元広告代理店社員の本間龍氏は「今のオリンピックはアマチュアリズムを装った労働詐欺だ」と多額の金が集まるオリンピックでボランティアは大きな役割を担うのだから必要な人員は給料を払って雇うべきだと主張する。(TBS ニュース23 9月26日 「五輪ボランティア募集開始 『ブラックだ』批判のワケ」)
 これに対し、小池東京都知事は、「ボランティアへの待遇は過去の大会と遜色のないものになっている。何をもってブラックだと言うのか分からない」と真っ向から反論した。

 
五輪開催経費、1兆3500億円の削減を迫られている大会組織委と東京都
五輪開催経費(V3) 1兆3500億円維持 圧縮はできず
  12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、東京2020大会の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月22日に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 2017年5月、IOCの調整委員会のコーツ委員長は10億ドル(約1100億円)の圧縮し、総額を1兆3000億円以下にすることを求めたが、これに対し大会組織委の武藤敏郎事務総長はV3ではさらに削減に努める考えを示した。
 しかし開催計画が具体化する中で、V2では計上していなかった支出や金額が明らかになったほか、新たに生まれた項目への支出が増えたとして、「圧縮は限界」としV2予算と同額となった。
 
 支出項目別で最も増えたのは組織委負担分の輸送費(350億円)で、選手ら大会関係者を競技会場や練習会場へ輸送するルートなどが決まったことで計画を見直した結果、100億円増となった。一方で、一度に多くの人が乗車できるよう大型車に変更するなど輸送の効率化も図ったとしている。
 また、交通費相当で1日1000円の支給が決まったボランティア経費増で管理・広報費は50億円が増え、1050億円となり、さらに猛暑の中で食品を冷やし、安全に運ぶためのオペレーション費も50億円が増え、650億円となり、支出の増加は合わせて200億円となった。
 これに対して収入は、国内スポンサー収入が好調で、V2と比較して100億円増の3200億円となった。しかし、V2予算では、今後の増収見込みとして200億円を計上していたため、100億円の縮減となり、収支上では大会組織員会の収入は6000億円でV2と同額となっている。
 支出増の200億円については、新たな支出に備える調整費などを200億円削減して大会組織委員会の均衡予算は維持した。
 1兆3500億円の負担は、大会組織委員会と東京都が6000億円ずつ、国が1500億円とする枠組みは変えていない。
 今回の予算には、酷暑対策費や聖火台の設置費、聖火リレーの追加経費、さらに今後新たに具体化する経費は盛り込まれておらず、今後、開催経費はさらに膨らむ可能性もある。
 組織委は今後も経費削減に努めるとしているが、「数百億円単位、1千億円単位の予算を削減するのは現実的に困難」としている。
 大会開催までまだ1年以上もあり来年が開催準備の正念場、さらに支出が増えるのは必至だろう。今後、V3予算では計上することを先送りにした支出項目も次々に明るみになると思われる。「1兆3500億円」を守るのも絶望的だ。
 とにかく「1兆3500億円」は「つじつま合わせ」の予算というほかない。
 
 東京2020大会の開催費用は、「3兆円」に達するとされ、とどまることを知らない経費膨張に強い批判が浴びせられている。国際オリンピック委員会(IOC)もオリンピックの膨張主義批判を意識して、2020東京大会の開催費用の膨張に危機感を抱いて、その削減を強く要請しているのである。
 大会ボランティアの8万人に、仮に1日8000円で10日間、一人当たり8万円を支払うと総額は64億円に達する。
 組織委員会が無償ボランティアにこだわる背景が見えてくる。
 有償の大会スタッフの雇い上げをなるべく少なくして、無償のボランティアで対応し、人件費を削減する、そんな思惑が垣間見える。

 一方、2020東京大会の組織委員会が手に入れるローカル・スポンサー料収入は極めて好調で、V3予算では昨年より100億円増の3200億円を確保したとしている。
 2020東京大会の大会組織員会の予算は6000億円、64億円はそのわずか1%なのである。東京都や国も含めた開催費総額はなんと1兆3500億円、なんとか捻出できる額と思えるが……。
 2020東京大会は、巨大スポーツビジネスイベント、オリンピックの「甘えの構造」を転換するチャンスだ。

 2012ロンドン大会、2016リオデジャネイロ大会にはともに20万人を超えるボランティアの応募があったとされている。
 2020東京大会のボランティアに果たして何人の応募があるのだろうか。




ボランティア募集 大会組織委員会/日本財団


小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1) 2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム


小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2) 2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム


小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3) 2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム





国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


2018年9月27日 初稿
2020年3月8日 改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック レガシー 負のレガシー 負の遺産 White Elephant ホワイト・エレファント

2021年02月12日 15時40分20秒 | 東京オリンピック
東京オリンピック 「3兆円」のレガシー(未来への遺産)
次世代に何を残すのか





森喜朗会長が辞意 表明 女性蔑視発言で引責 川淵三郎氏 一転して会長就任を辞退
 1月12日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、評議員、理事を集めた合同懇談会で、女性を蔑視する発言をした責任を取り、会長を辞任することを表明した。後任については、森氏が次期会長就任を要請していた川淵三郎氏が一転して会長就任を辞退すると明言し白紙撤回となった。組織委員会は、後任の選出方法について、御手洗名誉会長を座長にして、国、都、JOC、アスリートなどの理事をメンバーにして選定委員会を設立して選定作業をすすめるとした。後任の有力候補には、橋本聖子五輪相の名前が上がっている。
 森は発言問題の深刻化を受けて、組織委は、当初は、経緯を説明して陳謝し、続投への理解を求める方針だったが、国内外のメディアから「女性差別」と厳しい批判を浴び、アスリートやSNSなどで辞任を求める声が相次いで、今夏の大会準備への影響も出始めた。
 9日には、当初は森会長が発言を撤回して謝罪したので「解決済」としていた国際オリンピック委員会(IOC)が、一転して、「森会長の発言は完全に不適切で、IOCがアジェンダ2020で取り組む改革や決意と矛盾する」と強く批判した。IOCに膨大なスポンサー料を払っているTOPスポンサー企業や収入の大黒柱である放送権料を負担する米NBCが批判の姿勢を強めたことが決め手となった。10日には東京都の小池百合子知事が2月中旬で調整されていた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのトップ級4者協議を「今ここで開いても、あまりポジティブな発信にはならないい」と述べ、欠席する意向を表明し、事実上、辞任の引導を渡した。
 IOC、五輪大会を支えるスポンサー企業や米NBC、四面楚歌となった森会長には辞任の道しかない。
 森会長は、日本サッカー協会や日本バスケットボール協会の会長を歴任し、東京五輪では選手村村長を務める川淵三郎氏に次期会長就任を要請し、川淵氏もこれを受託し、12日の会議で辞意を表明して、その場で川淵氏を会長に推薦するものとみられていた。川淵氏は森会長に相談役就任も依頼していた。しかし、菅政権には森会長自ら後任を推薦する手法に異論が出ていた。
 2020東京五輪大会開幕まで半年を切っているなかでの大会組織委員会の森会長の辞任、日本は組織のガバナンスのお粗末さを世界に露呈した。世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。
 徳洲会グループから受け取った選挙資金を巡って辞任した猪瀬直樹元東京都知事、公用車利用や政治資金家族旅行など公私混同問題で辞任した舛添要一前東京都知事、そして迷走した新国立競技場の建設問題の責任をとって辞任した下下村博文文部科学相、大会招致に関わる贈収賄疑惑で仏司法当局の捜査を受けて退任する竹田JOC会長、2020東京五輪大会の主要な関係者は次々と不祥事で舞台から退場していった。
 最早、2020東京五輪大会にレガシーを語る資格はない。

森会長、女性蔑視発言 大会ボランティア、都市ボランティア辞退相次ぐ
 2月3日、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長は、JOC臨時評議員会で、「女性がたくさん入っている理事会の会議は、時間がかかります」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」などと発言した。この発言に対して出席者で異論を唱える人はいなく、笑い声が出たとされている。
 森氏の発言は、女性を蔑視したと受け取られ、国内内外から激しい批判を浴びた。
 翌2月4日、森会長は記者会見を開き、女性を蔑視したと受け取れる発言をしたことについて、「深く反省している。発言は撤回したい」と謝罪した。会長職については「辞任する考えはない」と述べた。
 質疑応答では「女性が多いと時間が長くなるという発言を誤解と表現していたが、誤った認識ではないのか」との質問に、「そういう風に(競技団体から)聞いておるんです」などと答え、競技団体全体にこうした認識が広がっていることを示唆した。
 これに対して、組織委員会は8日、4日以降に大会ボランティア(約8万人)辞退申し出が、約390人に上り、2人が聖火リレーランナーへの辞退を申し出たと発表した。組織委は辞退理由を公表していないが、3日に森喜朗会長が女性蔑視の発言をした影響とみられる。
 また、東京都は都市ボランティア(約3万人)の辞退申し出が93人になったと発表してている。
 こうしたボランティア辞退の動きについて、自民党の二階俊博幹事長は8日の会見で、「瞬間的」なもので、「落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と語った。今後の対応については「どうしてもおやめになりたいということだったら、また新たなボランティアを募集する、追加するということにならざるを得ない」と述べ、さらに「参画しよう、協力しようと思っておられる人はそんな生やさしいことではなく、根っからこのことに対してずっと思いを込めてここまで来た」とし、「そのようなことですぐやめちゃいましょうとか、何しようか、ということは一時、瞬間には言っても、協力して立派に仕上げましょうということになるんじゃないか」と発言した。
 新型コロナの感染拡大の中で活動を余儀なくされた大会ボランティアや都市ボランティア、組織委員会では「五輪大会開催の成否は『大会の顔』となるボランティアの皆さんにかかっている」と高らかに唱えている。開催を半年に控えている中で、約11万人のボランティアの人たちの思いを踏みにじった女性蔑視発言、森会長の責任は重い。
 まさにコロナ禍で崖っぷちに立たされた東京2020に「女性蔑視発言」が追い打ちをかけた。東京2020大会のレガシー論は完全に「雲散霧消」してしまった。

新型コロナウイルス感染拡大 東京五輪大会五輪、1年延期 来年7月23日開幕 パラは8月24日 聖火リレー中止 破綻寸前「3兆円のレガシー」


新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大 世界192の国と地域 感染者1069万人 死者2343万人 2021年7月末までに収束可能性はない
出典 NYT/NIAID


五輪開催経費(V4) 1兆3500億円維持
 2019年12月20日、大会組織委員会は、組織委員会と東京都、国の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費270億円 別枠)とするV4予算を公表した。
 1年前の2018年12月に明らかにしたV3予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 IOCは2020東京五輪大会の開催経費膨張に危機感を抱き、組織委員会に対して経費削減を求め、「1兆3500億円」が事実上の上限となっていた。今回公表されたV4予算では、「1兆3500億円」は維持するとしたが、すでに東京都は五輪関連経費として更に8100億円、国は会計検査院の指摘では五輪関連支出1兆6000億円、これを合計すると「五輪開催経費」は「3兆円超」となり、その乖離の大きさに愕然とする。実態を反映しないつじつま合わせの「1兆3500億円」と考えざるを得ない。
 1兆3500億円の負担は、大会組織委員会が6030億円(30億円増)、東京都が5970億円(30億円減)、国が1500億円(同額)となっている。
 しかし、来年度の国の予算では警備費やスポーツ関連費など五輪関連予算が数千億円単位で計上され、東京都も同様に五輪関連予算を計上すると思われる。またマラソン札幌予算や1道6県、14競技場の都外開催費用の一部も計上されてない。混迷はまだまだ続く。

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」青天井体質に歯止めがかからない!

会計検査院 国の五輪関連支出は1兆600億円 五輪開催経費は「3兆円超」
 2019年12月、会計検査院は、平成25年度から30年度までの6年間に国が支出した五輪開催経費が「1兆600億円」に上ったと指摘した。
 一方、東京都は、2018年1月に、大会組織委員会が公表した東京都が負担する約6000億円の他に、「大会関連経費」約8100億円を計上していると発表した。
 「大会関連経費」の内訳は、バリアフリー化、や多⾔語化、各種ボランティアの育成・活⽤、教育・⽂化プログラムなどや都市インフラの整備(無電柱化等)、観光振興、東京・⽇本の魅⼒発信などである。
 ついに「五輪開催経費」は「3兆円」超になることが明らかになった。依然として五輪開催経費の青天井体質に歯止めがかからない。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「アジェンダ2020~2013 OLYMPIC LRGACY~」を採択した。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催都市がなくなるのではという深刻な問題が浮上していた。
 そのポイントは、「開催費用を削減して運営の柔軟性を高める」、「既存の施設を最大限活用する」、「一時的(仮設)会場活用を促進する」、「開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める」などである。そして2020東京五輪大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けている。 
 東京2020大会は「世界一コンパクト」な大会を宣言している。その意気込みはどこにいったのか?

東京五輪開催経費「3兆円超」 国が1兆600億円支出 会計検査院指摘

マラソン・競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承
 2019年11月1日、東京・晴海でマラソンと競歩の札幌開催を巡って国際オリンピック委員会(IOC)、国、東京都、大会組織委員会で四者協議のトップ級会合が開かれ、札幌開催が合意された。
 会合の冒頭で、コーツ調整員会委員長から、4つの号事項が示され、▼会場変更の権限はIOCにある、▼札幌開催で発生する新たな経費は東京都に負担させない、▼既に東京都が大会組織委員会が支出したマラソン・競歩に関する経費については、精査・検証の上、東京都が別の目的で活用できないものは、東京都に負担させない、▼マラソン・競歩以外の競技は、今後、会場変更をしないとした。
 これに対して、小池都知事は「東京開催がベストだが、大会を成功させるこが重要なことに鑑みて、IOCの最終決定を妨げることはしない。『合意なき決定』だ」と札幌開催に同意することを表明した。
 バッハ会長は、小池都知事に対し、2020五輪大会終了後、東京都が準備したマラソンコースを利用して「オリンピック・セレブレーション・マラソン」を開催することを提案した。
また小池都知事は、「地球温暖化の影響でこれから夏はさらに暑くなり、7月~8月の大会開催は、北半球のどこの都市で開催しても、暑さの問題が生じて無理がある。アスリートファーストの観点でIOCは五輪大会の開催時期をよく考える必要がある」と今後の五輪大会に向けてクギを刺した。
 これに対して、コーツ委員長は「『アジェンダ2020』ですでにオリンピック憲章を改正し、協議の開催地は開催都市以外や、場合によっては開国以外の開催も認められることになっている」と応じた。
 その後の協議で、マラソンと競歩の日程とスタート時間については、マラソンの女子を8月8日、男子を五輪大会最終日の9日に実施し、スタート時間は午前7時(東京開催では午前6時)とすることで決着した。
 競歩は6日午後4時半から男子20キロを実施。7日は午前5時半に男子50キロ、午後4時半に女子20キロがスタートする。札幌では競歩2日、マラソン2日で計4日間の集中開催となる。
 マラソンのコースは、毎年夏に開催している札幌マラソンを活用し、札幌市中心部の「大通公園」を発着点として、前半の20キロは市の中心部を1周し、後半は10キロを2周する。
 発着地点の大通公園には観客席は設けずチケットも販売しない。

マラソン・競歩は真夏の東京開催を断念せよ 「アスリートファースト」の理念は何処へ行った
 マラソンと競歩の札幌開催に強く反発する小池都知事は、これまで開催準備を進めていく際のコンセプトとして、「アスリートファースト」を何度も強調してきた。
 地球温暖化の異常気象が原因なのか、ここ数年の東京の真夏の酷暑は異常である。
 そもそも東京の8月に五輪大会を開催しようとするのが無謀な計画だろう。
 マラソンは、本来はスピード、走力、持久力を競う競技で、「暑さ」の「我慢比べ」を競う競技ではない。東京の真夏でレースはまさに「命がけ」のレースを選手にしいることになる。こうした競技運営は「アスリートファースト」の理念とはまったくかけ離れている。IOCの意思決定のプロセスや経緯は大いに批判されてしかるべきだ。しかし、五輪大会は「アスリートファースト」でなければならいだろう。小池都知事は酷暑の東京でのマラソンや競歩開催に固執して「アスリートファースト」の理念は放棄するのか。
 今回の札幌移転について、IOCの強引な進め方については、強く批判されてしかるべきだろう。今後の五輪の運営について禍根を残した。
 しかし、それは別にして、筆者は、マラソン・競歩の札幌開催は大賛成である。東京開催を支持する専門家もいるが、選手に「命がけ」のレースを強いて、なにがスポーツなのかまったく考えていないことに唖然である。
 経費が問題なら、札幌大会は本来の東京大会のコンセプトである「コンパクト」な競技会にすればよい。マラソン・競歩だけでなく水質汚染や水温が問題化しているトライアスロンやマラソンスイミングもきれいな海で泳ぐことができるように会場変更すればよい。東京以外で開催することになぜ抵抗するのだろうか。
 どうしても東京でマラソン・競歩を開催したければ、開催時期を秋や冬の期間にずらして行えばよい。競技を集中させなければならいない理由はなにもない。あるのは、一極集中にこだわり巨大な利益を守ろうとする商業主義だろう。
 オリンピックの肥大化や行き過ぎた商業主義が批判されてから久しい。競技の開催地や開催時期も分離することで、「アスリートファースト」の理念の下で「世界一コンパクト」な大会を目指すべきである。
 2020東京五輪大会を巡る混乱は、開催9カ月前になってもまだ続いているのには唖然とするほかない。
 こうした状況では、とても冷静に大会開催のレガシーを議論する余裕がまったく生まれない。


完成した国立競技場 提供 JSC

新国立競技場 「陸上の聖地」復活か? 迷走再開 負の遺産への懸念増す
 2019年11月30日、竣工した新国立競技場について、大会後に改修して球技専用とする方針を変更し、陸上トラックを残して陸上と球技の兼用にする方向で調整が進んでいることが明らかになった。
 新国立の後利用については、2017年11月、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」で「基本的な考え方」を取りまとめて、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承されている。
 それによると大会後に陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修し、サッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保するとした。改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、その後の検討で、陸上トラックなどを撤去して客席を増設する改修工事には、多額の経費がかかる上に、球技専用スタジアムにしても、肝心のサッカーの試合の開催は、天皇杯や日本代表戦などに限られ、頼みにしていたJリーグの公式試合の開催は困難となって、利用効率の改善が期待できないことが明らかになった。またFIFA ワールドカップの開催を目指すとしても、まだまったく招致実現の目途はたっていない。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、民間事業化に向けて行った民間事業者へのヒアリング(マーケットサウンディング)を行ったが、球技専用に改修してもあまり収益が見込めないことが明らかになったという。
 また収益性を高める柱となるコンサートやイベントの開催については、屋根がないため天候に左右される上に騒音問題もあり、さらに天然芝のダメージが大きく、開催回数は極めて限定される。
 一方、陸上関係者からは、2020東京五輪大会のレガシーとして新国立競技場は陸上競技場として存続して欲しいという声は根強い。
 陸上トラックを残しておけば、陸上競技大会開催だけでなく、イベントのない日などに市民にトラックを開放したり、市民スポーツ大会を開催したりして市民が利用できる機会を提供可能なり、2020東京五輪大会のレガシーにもなる可能性がある。
 国際的に最高水準の9レーンの陸上トラックを2020東京五輪大会だけのため整備するのでは余りにももったいない。
 しかし、国立霞ヶ丘競技場の陸上トラックを存続させ、陸上競技の開催を目指しても、収益はほとんど期待できない。陸上競技大会では、新国立競技場は大きすぎて、観客席はガラガラだろう。全国規模の大会でも数万に規模のスタジアムで十分である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の長期修繕費を含む維持管理を年間約24億円としている。これには人件費や固定資産税や都市計画税などは含まれていないので、年間の経費は、約30億円~40億円かかると思われる。大会開催後の新国立競技場の収支を黒字にするのは至難の業である。
 新国立競技場は球技専用スタジアムになるのか、陸上競技場として存続するのか、東京2020大会のシンボル、新国立競技場の迷走は、まだまだ終わらない

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに


最新鋭の9レーンの陸上競技トラックも完成 筆者撮影

桜田五輪相辞任 竹田JOC会長退任
 2019年4月10日、桜田義孝五輪相は、東日本大震災で被災した岩手県出身の自民党衆院議員のパーティーであいさつし、議員の名前を挙げて「復興以上に大事」と発言した。いったんは記者団に発言を否定したが、被災地を軽視すると言える発言に批判が強まり、過去の失言をかばってきた安倍晋三首相が事実上、更迭した。
 後任には、桜田氏の前任の五輪相だった鈴木俊一氏(衆院岩手2区、当選9回、麻生派)を起用した。
 2020東京五輪大会は「東日本大震災からの復興」を掲げて開催されるオリンピック大会である。政府の中で大会開催を中核になって担う五輪担当相としては余りにもお粗末だろう。唖然というほかない。
 徳洲会グループから受け取った選挙資金を巡って辞任した猪瀬直樹元東京都知事、公用車利用や政治資金家族旅行など公私混同問題で辞任した舛添要一前東京都知事、そして迷走した新国立競技場の建設問題の責任をとって辞任した下下村博文文部科学相、大会招致に関わる贈収賄疑惑で仏司法当局の捜査を受けて退任する竹田JOC会長、2020東京五輪大会の主要な関係者は次々と不祥事で辞任している。
日本は大会運営体制のお粗末さを世界に露呈し、世界各国の五輪関係者から失笑を買っていることは間違いない。
 さらに、建設費が「3000億円超」に膨れ上がって世論から激しい批判を浴びて、迷走に迷走を繰り返した新国立競技場、デザイン盗用疑惑で白紙撤回に追い込まれた五輪エンブレム、海の森水上競技場や東京アクアティクスセンター、有明アリーナの建設問題を巡って対立した東京都と大会組織委員会、2020東京五輪大会を巡って繰り広げられた混乱は記憶に新しい。
 2020東京五輪大会のビジョンは、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」の3つの基本コンセプトを掲げ、「2020年は市場最もイノベーティブで世界にポジティブな変革をもたらす大会とする」と宣言している。
 混迷と混乱が相次いでいる中で「3兆円」を投入して開催する2020東京五輪大会、高邁な理想を掲げたレガシー論を語る資格はまったくない。


竹田JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑 窮地に追い込まれた東京2020大会

東京オリンピック 競技会場最新情報 競技会場の全貌 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル



海の森水上競技場完成予想図  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


(左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター 筆者撮影

2020年東京五輪大会 レガシー実現こそ最優先の課題だ

 国際オリンピック員会(IOC)は、オリンピック競技大会を開催するにあっって、「Legacy」(レガシー/遺産)という理念を強調する。
 レガシーとは、単にスポーツの分野だけでなく、社会の様々な分野に、有形あるいは無形の「未来への遺産」を積極的に残し、それを発展させて、社会全体の活性化に貢献しようとするものである。その背景には、毎回、肥大化する大会規模や商業主義への批判や開催都市の巨額の経費負担などで五輪大会の存続への危機感が生まれていた。
 オリンピックは、単に競技大会を開催し、成功することがだけが目的ではなく、開催によって、次世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略が求められる。
 2020東京五輪大会は、直接経費だけでも「1兆3500円」(予備費を入れると1兆6500億円)、東京都のインフラ整備などの五輪関連経費が「8100億円」、会計検査院が指摘した2019年度までの国の支出が「1兆600億円」、合計すると「3兆円」超の巨費が投入される大イベントである。
 「3兆円」のレガシーを一体どんな形で実現しようとしているのか? 
 大会開催で「負のレガシー」(負の遺産)を残すことは決して避けなければならない。残された時間はあと1年を切った。




リオデジャネイロ五輪開会式 Rio2016
破綻 リオデジャネイロ五輪のレガシー

 2016年8月に開催されたリオデジャネイロ五輪では、日本は過去最多の金12、銀8、銅21の計41個のメダルを獲得し、テレビ中継にくぎ付けになった。
 そのリオデジャネイロで、半年足らずで、オリンピック施設の崩壊が急速に始まっている。開催都市が掲げたレガシー・プランは一体どこへ行ったのだろうか。
 「宴の後」は、冷酷である。
 リオデジャネイロ五輪の競技場は、マラカナン地区(4競技場)とコパカバーナ地区(選手村、4競技場)、バーラ・ダ・チジュッカ地区(オリンピック・パーク 15競技場)、デオドロ総合会場(9競技場)の三つに地区に32の競技施設が整備された。
 市や大会組織委員会は、オリンピック開催後のレガシーについて、開催都市や国は、長期にわたってレガシーの恩恵が残されると宣言していた。
ニューヨーク・タイムズの報道によると、オリンピックパークにあるいくつかのスタジアムの入り口は板で封鎖され、ネジなどがグラウンドに散乱し、ハンドボールの競技場は鉄製の棒でふさがれている。IBC(国際放送センター)は半壊状態、練習用の水泳プールはゴミや泥にまみれていると伝えている。
 リオ五輪のシンボル、開会式と閉会式が開かれたマラカナン・スタジアムでは今では芝生が枯れて茶色になり、観客席は数千席も壊されてしまい、100万ドル近い電気代が滞納状態になっている。
 1900万ドル(約21億円)で建設したゴルフコースは、今ではプレーをする人はいなく、打球の音よりも鳥の声がけたたましく聞こえているという。 採算が合わず管理会社が即時撤退する可能性が浮上している。
 リオ市郊外のデオドロ地区は、主会場に次いで2番目に多くの五輪施設がつくられた。カヌーのスラロームコースは、スイミングプールとして一般に開放された。しかし、昨年暮れから一般の利用は止めている。
 選手村の計31棟の高層宿舎ビル(17階建て、計3604戸)は、五輪後、高級マンションとして売却されるはずだった。ところが、実際に売れたのは全体の10%に満たない。
 リオデジャネイロ市は「ホワイト・エレファント(white elephant=維持費がかかるだけの無用の長物)にはならない」と公約していた。 
 テコンドーやフェンシングの競技場は五輪後、学校の校舎に改装することになっていた。他の二つの競技場も別の場所に移築し、四つの学校として再利用する計画だった。しかし、どれもまだ実現していない。
 リオ市は五輪後、オリンピックパークの運営を民間に任せるためのオークションを開いた。だが、入札に加わった会社は一つもなかった。このため運営経費などの財政負担は、結局、中央政府のスポーツ省が担うことになった。
 競技場施設の荒廃が進む背景には、開催都市や国の深刻な財政的危機がある。
 レガシーを実現するための新たな支出がまったく不可能なのである。レガシーの実現にはさらに追加経費が必要ことを忘れてはならない。

冬季五輪の宿命 負のレガシー(負の遺産)を抱える平昌冬季五輪

ロンドン五輪 東京五輪への教訓 ~周到に準備されたレガシー戦略~


五輪開催の負担に苦しみ続けた長野
 長野五輪の開催都市、長野市はもともと堅実な財政の自治体とされ、1992年度には約602億円もの基金を蓄えていた。長野市は、五輪開催に向けてこの基金を取り崩し、それでも足りない分を、市債を発行して開催経費をまかなった。
長野市の市債発行額は1992 年度に127億円だったが、1993 年度には 406億円と 3 倍強に膨れ上がった。1997年度末、市債の発行残高は1921億円に膨張した。この借金は市民1人あたり約53万円、1世帯あたり154万円にも上った。長野市の借金の償還ピークは2002年前後で、償還額は年間約230億円にも達した。以後、約20年間、長野市は財政難に苦しみながら、借金を払い続け、ようやく2017年度に完済するとしている。
 さらに長野市には整備した競技場施設の維持管理の重荷がのしかかっている。長野市は、エムウエーブ、ビックハットなど6つの競技場施設を、約1180億円を拠出して整備した。しかし、競技場施設からの収入は約1億円程度でとても施設の維持管理費をまかなうことはできない。毎年、長野市は約10億円の経費を負担し続けている。競技場施設を取り壊さない限りこの負担は永遠に続くだろう。そして、2025年頃にやってくる大規模修繕工事では、さらに巨額の経費負担が発生する。
 そのシンボルになっているのが長野オリンピックのボブスレー・リュージュ会場として使用された“スパイラル”、長野市ボブスレー・リュージュパークである。
 “スパイラル”はボブスレー・リュージュ・スケルトン競技施設として長野県長野市中曽根に建設された。コースの全長は1700m、観客収容人数は約1万人、101億円かけて整備された。“アジアで唯一のボブスレー・リュージュ競技の開催が可能な会場”がそのキャッチフレーズだ。
 しかし大会開催後は維持管理費の重荷に悩まされている。コースは人工凍結方式のため、電気代や作業費など施設の維持管理に年間2億2000万円もの費用がかかる。ボブスレー・リュージュ・スケルトン、3つの競技の国内での競技人口は合わせて130人から150人、施設が使用される機会は少なく、利用料収入はわずか700万円程度にとどまる。毎年約2億円の赤字は長野市や国が補填している。
 そして建設から20年経って、老朽化も進み、補修費用も増加した。長野市の試算では、今後20年間で、施設の維持管理で約56億円が必要としている。
 長野市では、平昌冬季五輪までは存続させるが、大会終了後は、存続か廃止かの瀬戸際に立たされている。
 一方、長野県も道路などのインフラ整備や施設整備に巨額の経費を拠出した。それをまかなうために県債を発行したが、県債の発行残高は1997年度末で約1兆4439億円、県民一人当り約65万円の借金、1世帯あたり約200万円の借金とされている。借金額は長野県の一般会計予算の規模より大きくなってしまった。
 長野県が借金を完済するのは平成36年度(2025年)、 長野五輪開催から約30年間、払い続けることになる。
 長野冬季五輪の教訓は、一体、どう活かされているのだろうか?



クローズアップされた負のレガシー(負の遺産)
 「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」
 小池都知事は、こう宣言した。
 2016年9月29日、東京五輪・パラリンピックの開催経費の妥当性を検証している東京都の「都政改革本部」の調査チームは、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池百合子知事に提出した。都が整備を進めるボート会場など3施設の抜本的見直しや国の負担増、予算の一元管理なども求めた。
 これに先立ったって、 東京五輪・パラリンピックの関係組織、大会組織委員会や東京都、国、JOCなどのトップで構成する調整会議が午前中に、文部科学省で開かれ、小池都知事は、調査チームのまとめた調査報告書を報告した。
会議で小池都知事は、「改革本部の報告書については、大変に中味が重いものなので、それぞれ重く受け止めていると思う。これまでどんどん積みあがってきた費用をどうやってコストカットし、同時に、いかにレガシーを残すか、そういう判断をしていきたい」と述べた。
 これに対し、森組織委会長は「IOCの理事会で決まり、総会でも全部決まっていることを、日本側からひっくり返してしまうということは極めて難しい問題だろうと申し上げておいた」苦言を呈した。
 小池都知事は、「“負の遺産”を都民におしつけるわけにはいきませんので」と応じた。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催経費は、「3兆円超」とされている。これだけ巨額の経費を使い開催する東京五輪は、レガシー(未来への遺産)にしなければならないのは疑問の余地はない。決して、負のレガシー(負の遺産)として次世代に残してはならいのは明白だ。大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会になる。また人口も、2048年には1億人を割って9913万人となり、2060年には8674万人になると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に必要なのだろうか? また新たに整備される施設の巨額の維持管理費の負担は、確実に次世代に残される。毎年、赤字補てんで公費投入は必至だろう。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪の肥大化批判に答えるために「2013 OLYMPIC LRGACY」を採択して、開催都市に対して、大会開催にあたってレガシー(未来への遺産)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けた。
 リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月に、大会組織委員会では、「東京2020 アクション&レガシープラン2016」を策定した。
「スポーツ・健康」、「文化・教育」、「復興・オールジャパン・世界への発信」、「街づくり・持続可能性」、「経済・テクノロジー」の5つの柱をあげて、取り組みを進めている。
 しかし、最も肝要な施設整備を巡るレガシー(未来への遺産)については、ほとんど記述がない。新国立競技場を始め、競技施設の相次ぐ建設中止、整備計画の見直しなど“迷走”と“混乱”が深刻化している中で、「アクション&レガシープラン」どろこではないだろう。膨れ上がった開催経費の徹底した見直しを行うべきという都民や国民の声に、どう答えるかが、“レガシー”を語る前提なのは明らかだ。“美辞麗句”の並んだ「アクション&レガシープラン」には“虚しさ”を感じる。
 「世界一コンパクト」な五輪大会を宣言した意気込みはどこにいったのか?
 「都政改革本部」の調査チームの大胆な“見直し”提言で、再び、クローズアップされた“レガシー(未来への遺産)”を、もう一度、考える直すタイミングであろう。
 大会開催まで、後4年を切った。

“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。五輪大会の存続すら危ぶまれている。問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)だ。
 2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。

 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 
 そして2020東京大会を「アジェンダ2020」を最初に適用する大会と位置付けている。
 国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む瀬戸際に立たされているのである。



レガシー(Legacy)とヘリテージ(Heritage)
 レガシー(Legacy)の単語の意味は、「遺産」、「受け継いだもの」とされ、語源はラテン語の“LEGATUS” (ローマ教皇の特使)という。「キリスト教布教時にローマの技術・文化・知識を伝授して、特使が去ってもキリスト教と共に文化的な生活が残る」という意味が込められているという。どこか宗教的なニュアンスのある言葉である。また、legacy は,財産や資産などや、業績など成果物的なものも言う。遺言によって受け取る「遺産」という意味にも使われる。
 一方、heritage は,先祖から受け継いでいくものというような意味の遺産で,「(先祖代々に受け継がれた)遺産」などと訳されていて、お金に換算したりしない「遺産」をいう。「世界文化遺産」とか「世界自然遺産」は“Heritage”を使用している。
 また、“Legacy”は、「負の遺産」(Legacy of Tragedy)という意味でも使われ、“legacy of past colonial rule”=「植民地支配の『後遺症』」とか、“legacy of the bubble economy”=「バブル経済の名残」とかマイナスの意味が込められた表現にも使用され幅が広い。
 レガシー(未来への遺産)は、正確には“Positive Legacy”と“Positve”を付けて使用している。


登場した五輪レガシー
 国際オリンピック員会(IOC)は、毎回、オリンピック競技大会を開催するにあっって、“Legacy”という理念を強調する。
 ここでは「未来への遺産」と訳したい。
 この“Legacy”(レガシー)という言葉は、オリンピック100年にあたる2002年に定められた「オリンピック憲章」の中に、新たに掲げられた。

<第1章第2項「IOCの使命と役割」>の14.
・To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries.
・「オリンピック競技大会の“遺産”を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進すること」

 「レガシー」とは、オリンピック競技大会を開催することによって、単にスポーツの分野だけでなく、社会の様々な分野に、“有形”あるいは“無形”の“未来への遺産”を積極的に残し、それを発展させて、社会全体の活性化に貢献しようとするものである。開催都市や開催国にとって、開催が意義あるものにすることがオリンピックの使命だとしている。

 その背景には、毎回、肥大化する開催規模や商業主義への批判、開催都市の巨額の経費負担、さらにたびたび起きる不祥事などへの批判などで、オリンピックの存在意味が問い直され始めたという深刻な危機感がある。

 その反省から、IOCは、開催都市に対して、単に競技大会を開催し、成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求めるようになった。


レガシーの理念は
 IOCは2013年に、“Olympic Legacy”という冊子を公表した。
 その冒頭に、“What is Olympic Legacy?”というタイトルで、Legacyの理念が記されている。


IOC “Olympic Legacy Booklet”

■ A lasting legacy
 The Olympic Games have the power to deliver lasting benefits which can considerably change a community, its image and its infrastructure.
As one of the world’s largest sporting events, the Games can be a tremendous catalyst for change in a host city with the potential to create far more than just good memories once the final medals have been awarded.
■ 持続的なレガシー(未来への遺産)
 オリンピックは、社会のコミュニティを変え、イメージを変え、生活基盤を変えていく持続的な“恩恵”を与える力がある。オリンピックは世界で最も大規模なスポーツイベントとして、力強いパワーを秘めており、メダル獲得の素晴らしい記憶よりはるかに大きな意味を持つ社会の変革を生み出す“刺激剤”なのである。
 さらに、Legacyの具体的な指標として5つのタイプを挙げている。

▼Sporting Legacy (スポーツ・レガシー) 
 Sporrting venues(競技施設)/A boost to sport(スポーツの振興)
▼Social  Legacy(社会レガシー)
 A place in the world(世界の地域)/Excellence, friendship and respect (友好と尊崇)/Incrusion and Cooperation(包括と協力)
▼Environmental Legacy (環境レガシー)
 Urban revitalisation(都市の再活性化)/New energy sources(新エネルギー)
▼Urban Legacy(都市レガシー)
 A new look(新たな景観)/On the move(交通基盤)
▼Economic Legacy(経済レガシー)
 Increased Economic Activity(経済成長)



破綻したTOKYO 2020 招致ファイルのレガシー
 2013年1月7日、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、14項目から成る招致ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出した。
  “DISCOVER TOMORROW”というキャッチフレーズを掲げたこの招致ファイルの冒頭には「ビジョン、レガシー及びコミュニケーション」と章を設け、4ページに渡って大会開催についての基本姿勢を記述している。


東京2020オリンピック・パラリンピック招致ファイル

 その中で「物理的なレガシー」として、施設整備やインフラ整備で首都東京の再活性化を唱えている。
「11の恒久施設」を整備すると宣言しているが、「夢の島ユース・プラザ・アリーナA」は建設中止、「国立霞ヶ丘競技場」は“迷走”に“迷走”を繰り返し当初計画は白紙撤回、「海の森水上競技場」、「オリンピックアクアティクスセンター」は膨れ上がった整備費で、見直しを迫られた。「ポジティブなレガシー」として立候補ファイルに挙げられている競技会場のほとんどすべてが、“混迷”する東京五輪のシンボルになってしまった。
 以後のレガシーファイルでは競技会場関連の記述は消えた。

▼ 物理的レガシー: 東京の新しい中心の再活性化(招致ファイルの抜粋)
 東京の新しい長期計画と完全に一致して、2020年東京大会は東京に有益な物理的レガシーを残す。
2020年東京大会は、新設または改修された競技やエンターテイメントのための会場や施設、新たな緑地を地域にとって重要なポジティブなレガシーとして提供する。それらのレガシーには次のものが含まれる。
・ 2020年東京大会に向けて国立霞ヶ丘競技場、海の森水上競技場、夢の島ユース・プラザ・アリーナA及びB、オリンピックアクアティクスセンターなど、11の恒久会場が整備される。
・ 国立代々木競技場、東京体育館、日本武道館など、1964年オリンピック大会時の施設を含む15の主要コミュニティ・スポーツ施設が改修される。
2020年東京大会の競技会場のうち、21会場は東京の新しい中心となる再生された東京ベイエリアに設置され、主要スポーツエンターテイメント・イベント用の新しい施設とともにレジャーエリアを備える。
 新たに建設される2020年大会の選手村の一部は、大会後、国際交流研究、イベント、共同プロジェクトのためのハブの役割を果たす国際交流プラザとなり、ここには国内外の文化、スポーツ、教育関連の機関が拠点を置くことが検討されている。
 また、重要な国際的レガシーとして、東京にイベント及びスポーツ技術・科学機関を創設することが検討されている。この機関は国際交流プラザに拠点を構える可能性がある。同機関はスポーツやイベントのプレゼンテーション、会場、レガシーの国際的な研究ユニットとなり、オリンピック・ムーブメントやスポーツとイベント・セクターが常に変化を続ける技術や持続可能性の要請に遅れをとらないための一助となる。


大会開催基本計画で示されたアクション&レガシープランの基本理念
 2015年1月23日、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会(森喜朗会長)は、東京都内で理事会を開き、大会開催基本計画案を承認した。
 基本計画では、開催開催のスローガンとして““DISCOVER TOMORROW”を掲げて、大会ビジョンの3つのコンセプト、「全員が自己ベスト」、「多様性と調和」、「未来への継承」を示し、アクション&レガシープランの基本理念を示した。そして「2020年は市場最もイノベーティブで、世界にポジティブな変革をもたらす大会」を目指すと宣言した。

■ 全員が自己ベスト
・万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。
・世界最高水準のテクノロジーを競技会場の整備や大会運営に活用。
ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の「おもてなし」で歓迎。

■ 多様性と調和
・人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。
・東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。

■ 未来への継承
・東京1964大会は、日本を大きく変え、世界を強く意識する契機になるとともに、高度経済成長期に入るきっかけとなった大会。
・東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく


アクション&レガシープランの基本理念 2020年東京大会組織委員会

 この基本理念に基づいて、(1)スポーツ・健康(2)街づくり・持続可能性(3)文化・教育(4)経済・テクノロジー(5)復興・オールジャパン・世界への発信-を「5本の柱」とし、地域スポーツの活性化やスマートエネルギーの導入、東日本大震災の復興状況の世界への発信などに取り組むとし、アクションプランのロードマップも明らかにした。
 16年リオデジャネイロ五輪開幕前に具体的な行動計画をとりまとめ、東京五輪後にもレポートを策定する方針だ。またパラリンピックを2度開催する初の都市となることから、武藤敏郎事務総長は「共生社会、多様性と調和を大会ビジョンに入れているので、重視したい」と話した。




2020年東京大会組織委員会

アクション&レガシープランの5本の柱
▼ スポーツ・健康
(1) 国内外へのオリンピック・パラリンピックの精神の浸透
(2) 健康志向の高まりや地域スポーツの活性化が及ぼす好影響
(3) トップアスリートの国際競技力の向上
(4) アスリートの社会的・国際的地位やスポーツ界全体の透明性・公平性の向上
(5) パラリンピックを契機とする人々の意識改革・共生社会の実現

▼ 街づくり・持続可能性
(1)大会関連施設の有効活用
(2) 誰もが安全で快適に生活できる街づくりの推進
(3) 大会を契機とした取組を通じた持続可能性の重要性の発信

▼ 文化・教育
(1) 文化プログラム等を通じた日本や世界の文化の発信と継承
(2) 教育プログラム等を通じたオリンピック・パラリンピックの精神の普及と継承
(3) 国際社会や地域の活動に積極的に参加する人材の育成
(4) 多様性を尊重する心の醸成

▼ 経済・テクノロジー
(1) 大会開催を通じた日本経済の再生と本格的成長軌道への回復への寄与
(2) 大会をショーケースとすることによる日本発の科学技術イノベーションの発信

▼ 復興・オールジャパン・世界への発信
(1) 東日本大震災の被災地への支援や復興状況の世界への発信
(2) 「オールジャパン」体制によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの推進
(3) 大会を契機とする日本各地の地域活性化や観光振興
(4) オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信


アクション&レガシープラン2016を公表
 リオデジャネイロ五輪の直前の2016年7月、組織委員会では、「5本の柱」に基づいて、2016 年から2020 年までの具体的なアクションプランを記述して、「アクション&レガシープラン2016」として策定し公表した。IOC総会で採択された「アジェンダ2020」の趣旨も具体的に大会運営に反映し、東京2020大会を「アジェンダ2020」によるオリンピック改革のスタートの年にするとしている。
 このプランは、2020年まで毎年夏を目処に更新しながら「アクション」を実施し、2020東京大会終了後、「アクション&レガシーレポート」をまとめる。













アクション&レガシープラン2016 東京2020大会組織委員会

 アクション&レガシープランの策定する重要な視点として、「参画」、「パラリンピック」、「2018~2022年の間の大規模大会との連携」を挙げている。
 「参画」では、各ステークホルダーのアクション(イベント・事業等)に対して「認証」する仕組みをリオ大会前までに構築し、多くのアクションが全国で実施され、できるだけ多くの方々、自治体や団体に主体的に参画してもらい大会の盛り上げを図りたいとしている。
 「パラリンピック」では、障がい者の社会参加の促進や多様性への理解の推進などを推進する。
 「大規模大会との連携」では、大会を単なる一過性のイベントとするのではなく、東京、オールジャパン、そしてアジア・世界にポジティブな影響を与え、レガシーとして創出されることを企図し、2018年平昌五輪、2019年ラグビーワールドカップ、2022年北京(中国)などの大規模スポーツ大会との連携を図る計画だ。

アクション&レガシープラン推進体制 

アクション&レガシープラン2016 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会

アクション&レガシープラン2016全文
アクション&レガシープラン2017全文

出典  東京2020組織委員会

「史上最もイノベーティブな大会」 ICTイノベーション戦略でレガシー創出


どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンと名付けた選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約を掲げて東京に招致に成功したのである。
 「ヘリテッジソーン」には、現在の東京の首都機能があり、1964年東京オリンピックの際に主要な競技場として利用され、2020年東京オリンピックでも主要な競技場となる国立競技場や武道館、東京体育館、代々木競技場もあるから名付けた。国立競技場は、約1590億円という巨額の経費をかけて建替えられる。この巨大スタジアムを大会開催後、どのように維持していくか、また迷走が始まっている。はたして、“レガシー”(未来への遺産)になるのか、それとも“負のレガシー”(負の遺産)になるのだろうか?
 一方、「東京ベイゾーン」、湾岸地区は、2020年東京オリンピック開催をきっかけに、新たに競技場や選手村を建設したり、既存の施設を改修したりするなどなど、開発・整備を進め、“レガシー”(未来への遺産)にしたいとしているが、膨れ上がった施設整備費で、相次ぐ建設中止や整備計画見直しで、迷走と混迷を繰り返した。
 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一東京都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とかつて述べている。
 結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは国民である。
 2020年東京オリンピック・パラリンピック、あと1年、混迷はまだ収まりそうもない。

東京オリンピックの「レガシー」(未来への遺産)は?
 1964年の東京オリンピックの「レガシー」は、「東海道新幹線」、「首都高速道路」、「地下鉄日比谷線」、そして「カラーTV」だったと言われている。東京オリンピックをきっかけに、日本は「戦後復興」から、「高度成長期」に入り、そして「経済大国」を登りつめていく瞬間だった。「東海道新幹線」や「首都高速道路」などの交通インフラはその後の日本の経済成長の基盤となり、まさにレガシーとなった。「カラーTV」は、HD液晶テレビなどで世界を席巻する牽引車となった。
 そして「公害と環境破壊」、「バブル崩壊」、「少子高齢化社会」へ。
 時代の変遷とともに、「レガシー」(未来への遺産)の理念も根本から変える必要がある。有形の「レガシー」だけでなく無形の「レガシー」が」求めらる時代に入った。
 日本では、「高度成長」の名残りで、ビック・プロジェクトに取り組むとなるといまだに箱モノ至上主義の神話から脱却できないでいる。競技場や選手村の建設や交通基盤の整備などの必要性については、勿論、理解できが、膨れ上がった開催経費への危機感から、施設整備やインフラ整備は徹底した見直しが必須の状況に直面している。壮大な競技場を建設して、国威発揚を図る発想は、時代錯誤なのは明白だろう。大会が開催されるのは、オリンピックで17日間、パラリンピックで13日間、合わせてもわずか30日間に過ぎない。五輪開催後のことを念頭に置かない施設整備やインフラ整備計画はあまりにも無責任である。
 日本は、これから少子高齢化社会がさらに加速する。2040年には総人口の36・1%が65歳以上の超高齢者社会、2048年には1億人を割って9913万人となると予測されている。五輪開催で整備される膨大な競技施設は果たして次世代に必要なのだろうか? 巨大な競技場は負のレガシー(負の遺産)になる懸念が大きい。
 2020東京五輪大会のレガシー(未来への遺産)は、無形のレガシーや草の根のレガシーをどう構築するかに重点を置いたらと考える。
 今年2月策定された基本計画では、「オリンピック・パラリンピックの価値や日本的価値観の発信」の項目には、「アクションの例」として、「『和をもって尊しとなす』や『おもてなしの心』など日本的価値観の大会への反映」をあげている。
 こうした価値観を、どのように大会に反映させるのだろうか? 言葉だけのスローガンにして欲しくないポイントだ。
 超高齢化社会を前提にするなら、巨大な競技施設を建設より、一般市民が利用するプールやグランドなどのスポーツ施設を充実させる方が次世代にはよほど有益で、レガシーになるだろう。
 2020東京五輪大会では、“レガシー”(未来への遺産)として、我々は次の世代に何が残せるのだろうか?



国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


2016年10月7日 初稿
2019年12月1日 改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京オリンピック 贈収賄疑惑 賄賂 竹田JOC会長退任 ディアク ブラック・タイディングズ コンサルタント料 陸上競技連盟 IAAF

2021年02月11日 16時55分14秒 | 東京オリンピック


森喜朗会長が辞意 2月12日表明へ 女性蔑視発言で引責
 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、女性を蔑視する発言をした責任を取り、会長を辞任する意向を周囲に伝えた。11日、複数の関係者が明らかにした。組織委が12日に開く緊急会合で表明する見通し。
 問題の深刻化を受けて、組織委は12日午後、評議員、理事を集めた合同懇談会を開く。当初は経緯を説明、陳謝し、続投への理解を求める方針だった。だが国内外に反発が広がり、今夏の大会準備への影響も出始めていた。
 発言に対して、国内外のメディアから「女性差別」と厳しい批判を浴び、アスリートやSNSなどで辞任を求める声が相次いだ。9日には、当初は森会長が発言を撤回して謝罪したので「解決済」としていた国際オリンピック委員会(IOC)が、一転して、「森会長の発言は完全に不適切で、IOCがアジェンダ2020で取り組む改革や決意と矛盾する」と強く批判した。IOCに膨大なスポンサー料を払っているTOPスポンサー企業や収入の大黒柱である放送権料を負担する米NBCが批判の姿勢を強めたことが決め手となった。10日には東京都の小池百合子知事が2月中旬で調整されていた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長らとのトップ級4者協議を「今ここで開いても、あまりポジティブな発信にはならないい」と述べ、欠席する意向を表明し、事実上、辞任の引導を渡した。
 IOC、五輪大会を支えるスポンサー企業や米NBC、四面楚歌となった森会長には辞任の道しかない。
 森会長は選手村村長を務める川淵三郎氏に次期会長就任を要請し、川淵氏も受託し、12日午後に組織委員会が開催する評議員会・理事会の合同懇談会で辞意を表明する見通し、その場で川淵氏を会長に推薦するものとみられていた。川淵氏は森会長に相談役就任も依頼していた。しかし、菅政権に森会長自ら後任を推薦する手法に異論が出て白紙撤回する可能性も出てきた。組織委員会は後日、正式な手続きを踏んで後任を選出するとみられる。

電通、東京招致へ巨額の寄付とロビー活動 IOC規定に抵触も Reuters報道
 10月15日、Reutersは、2013年に決まったオリンピック・パラリンピックの東京招致をめぐり今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通4324.Tが東京招致活動に6億円を超す寄付をするなど、「中立性」を求める国際オリンピック委員会(IOC)の規約に抵触しかねない関与を行っていたことがロイターの取材でわかったと伝えた。
 オリンピック・パラリンピックの東京招致をめぐり今なお国際的な贈収賄疑惑の捜査が続く中、大手広告代理店の電通が東京招致活動に6億円を超す寄付をするなど、「中立性」を求めるIOCの規約に抵触しかねない関与を行っていたことが明らかになったとしている。
 ロイターが閲覧した銀行記録によると、電通は2013年、東京五輪招致委員会の口座に約6億7000万円を寄付として入金した。さらに、日本陣営を代表する形で、開催都市決定への投票権を持つ一部のIOCメンバーに対するロビー活動を主導した、と招致委のロビー活動に関与した複数の関係者はロイターに話したという。
電通はIOCとの長年の取引を背景に、国際的なスポーツイベントに関わってきた。IOCは招致活動の公平性と中立性を確保するため、利益相反を防止する行動規約(第10条)を設け、グローバルなスポンサーやマーケティングパートナーに特定の都市に対する支援や宣伝を控えるよう求めているが、東京の招致活動に対する電通の積極的な後押しはIOCのガイドラインを逸脱していた可能性があるとした。
 ロイターの取材に対し、電通は自社の活動がIOCのガイドラインに抵触してはいないとの認識を示した。同社は「同委員会の求めに応じ、その都度、助言をしたり、情報提供をしていた」と回答、招致活動への関与は通常業務の範囲を超えていないとしている。(Reuters 10月15日)

五輪招致、海外送金11億円 疑惑BT社以外は非公表
 2020年東京五輪招致委員会が計2億円超を支払ったシンガポールのコンサルタント会社、ブラックタイディングス(BT)社を含めて海外に送金した総額が11億円超に上ることが22日、複数の関係者への取材で分かった。BT社を除いて具体的な送金先や内訳は不明。当時の招致委関係者は「守秘義務もあり個別の案件は非公表」としている。BT社の口座から不透明な資金の流れが明らかになったばかりで、説明が求められそうだ。
 BT社へは、招致が正念場を迎えた13年7月と東京開催が決まった後の10月に1回ずつ振り込まれた。他のケースも国際プロモーションが活発化した同時期に集中していた。(出典 共同通信 9月23日)

IOC委員息子側へ3700万円(約37万ドル) 東京五輪招致 委託のコンサル
(朝日新聞 9月21日)

前世界陸連会長に実刑判決 ロシアのドーピング隠蔽疑惑
 9月16日、ロシアの組織的ドーピング隠蔽に関与した疑惑で、収賄や背任などの罪に問われたセネガル人の前世界陸連(旧国際陸連)会長ラミン・ディアク被告(87)に対し、パリの裁判所は、禁錮4年(うち実刑2年、執行猶予2年)、罰金50万ユーロ(約6200万円)の判決を言い渡した。求刑は禁錮4年、罰金50万ユーロだった。
 元国際オリンピック委員会(IOC)委員でもあるラミン被告は息子のパパマッサタ被告(55)と共に、東京五輪の招致に絡んで日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長が贈賄容疑で正式捜査の対象となった疑惑でも、収賄の疑いが持たれている。(共同通信 9月16日)

東京五輪招致で組織委理事に約9億円、森氏の団体に約1億4500万円 ロイター通信報道
 2020年3月31日、ロイター通信は、2020東京五輪招致を巡り、大会組織委員会理事を務める広告代理店電通元専務の高橋治之氏が、東京五輪招致委員会から820万ドル(約8億9千万円)相当の資金を受け取り、国際オリンピック委員会(IOC)委員らにロビー活動を行っていたと伝えた。
 さらに招致委員会は、森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体、「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4500万円を支払っていることを明らかにした。
 ロイター通信は、日本側がフランス司法当局へ提出した招致委の銀行口座の取引明細証明書を入手したという。
 この文書には招致活動の推進やそのための協力依頼に費やした資金の取引が3000件以上記載されており、多くの人々や企業が資金を受け取り、東京招致の実現に奔走した経緯を窺い知ることができる。
 支払いの中で最も多額の資金を受け取っていたのは、電通の元専務で、現在は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)の理事を務める高橋治之氏で、口座記録によると、高橋氏にはおよそ8.9億円が支払われていた。
 高橋氏はロイター通信のインタビューに対して、招致委員会からの支払いは彼の会社であるコモンズを経由して受け取り、五輪招致を推進するための「飲み食い」、そして招致関連のマーケティングなどの経費に充てたと話した。そして、五輪招致疑惑でIOC委員だった際の収賄容疑が持たれているラミン・ディアク世界陸連前会長(セネガル)にセイコーの腕時計やデジタルカメラなどの贈り物を手土産として渡したことを明らかにした。
 当時の招致委の関係者によると、招致関係者を招くレセプションやパーティーで「良い時計」が配られていた。同委の口座記録を見ると、セイコーウオッチ社に500万円ほどが支払われている。
 高橋氏は、ロイターに対し、招致委から受けた支払いについても、その使い方についても何ら不正なことはなかったと語った。
 招致委の関係者によると、高橋氏は民間企業からスポンサー費用を集めた際に、そのコミッション料を受け取っていたと語っている。

捜査続く五輪汚職疑惑
 仏検察は、ディアク父子を東京五輪の招致をめぐる疑惑で収賄側として捜査し、贈賄側として捜査対象が、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和前会長(招致委理事長)である。シンガポールのコンサルタントを通じディアク父子に約2.3億円を支払って東京への招致を勝ち取った疑いがかけられている。
 竹田氏はJOCとIOCの役職を昨年辞任、疑惑については明確に否定しており、支払った金額は正当な招致活動の費用であったと主張している。また、同氏の弁護士によると、竹田氏は高橋氏に、ディアク氏に対するロビー活動を指示したことはなく、ディアク氏に高橋氏から贈られた土産についても認識していなかったと語った。同弁護士は「竹田氏はそのようなことを一度も承認していない」と述べた。
 一方、ディアク氏の弁護士は「東京またはリオ五輪の関係者から(ディアク氏は)全くお金を受け取っていない」と話している。

森元首相の団体にも資金
 ロイターの取材により、招致委員会は森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体、「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4500万円を支払っていることが明らかになった。
 招致委が高橋氏、および組織委会長でスポーツ界に強い影響力を持つ森氏の団体に行った資金の支払いは、ロイターが確認した同委のみずほ銀行の口座記録に記載されている。この銀行口座の記録は日本の検察がフランス側に提供した。仏検察の捜査関係者によると、高橋氏や森氏の団体に対する支払いについては、これまで聴取を行っていない。
 嘉納治五郎センターのウエブサイトによると、直接的な招致活動を行っていた記録はない。同センター事務局の唯一の職員である大橋民恵氏は、招致活動のために米国のコンサルティング会社1社と個人コンサルタント2人と契約を交わしたことは認めたが、なぜ招致委員会でなく、同センターがコンサルタントを雇ったのかについては聞いていないと述べた。
 大橋氏は、ロイターに対し、招致委から支払われた資金については、招致に関わる国際情報を分析することが主な目的だったと答えた。
 
 これに対し、組織委は高橋氏に招致委が支払った資金や森元首相の嘉納治五郎センターによる招致活動などについては関知していないとしている。森氏自身はロイターの質問に答えていない。
 またIOCは個別の団体間で支払われた資金やIOC委員への贈答品については認識していないとしている。
 JOCは外部の専門家による調査チームを発足させ、2016年8月に調査報告書を公表、招致委による契約内容や締結過程について国内の法律に違反することはないと結論づけた。 しかし同報告書は高橋氏や嘉納治五郎センターへの支払いについて触れていない。JOCは、招致委とは別組織であり、同センター及び高橋氏に対する支払いについては「当初から承知していない」と答えた。
出典 3月31日 Reuters


Exclusive Japan businessman paid $8.2 million by Tokyo Olypic bid lobbied figure at centre French corruption probe
3月31日 Reuters



竹田JOC会長 6月の任期満了で退任表明
 2019年3月19日、日本オリンピック委員会(JOC)竹田会長は、この日開かれた理事会で、6月の任期満了での退任を表明した。国際オリンピック委員会(IOC)委員も辞任することも明らかにした。開幕まで500日を切った中で、五輪を開催する国内オリンピック委員会のトップが退く異例の事態となった。
 竹田会長は、理事会終了後、記者団に対して、「来年の東京大会を控えて世間を騒がしていることを大変心苦しく思っている。次代を担う若いリーダーに託し、東京オリンピック、日本の新しい時代を切り開いてもらうことが最もふさわしい。定年を迎える6月27日をもって任期を終了し、退任することにした」とし、「バッハIOC会長とは何回も連絡をとっているし、昨日も今日も電話で話をした」と述べた。
 またIOC委員については、「IOCの憲章によると、JOCの理事であることが求められているため、私は理事を退任するのでIOC委員も辞めることになる。JOCの会長を辞めて理事で残ることは考えていない」と述べ、IOC委員を辞任することを明らかにした。
 仏司法当局の捜査については、「不正なことはしていない。潔白を証明すべく今後を努力していきたい」と述べた。
 しかし、6月の任期満了での退任については、大会関係者の間では、即座に辞任すべきだという声が多いとされている。
 2018年12月、仏司法当局は、2020東京大会を巡る買収疑惑について、「東京招致が決まった13年に180万ユーロ(約2億3千万円)の贈賄に関わった疑いがある」として竹田氏をパリで事情聴取し、本格捜査に乗り出した。竹田氏は「潔白」を主張しているが、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑がかけられている。
 疑惑報道を受けて開いた2018年1月の記者会見で、竹田氏は疑惑を否定する自らの主張を述べる一方で記者側の質問を受けず、7分間で席を立った。この姿勢が世論の反発を招いた。大会組織委関係者らからは「東京大会のイメージを損なう」などと続投を疑問視する声が強まった。
 竹田氏はこの6月改選期を迎えるが、JOCは竹田氏続投を前提に進め、「選任時70歳未満」の役員定年規定の変更を視野に入れていたが、スポーツ庁が策定を進める競技団体の運営指針に反するとして批判を浴びた。竹田氏を擁護してきたJOC内部でも3月12日の常務理事会では続投を疑問視する意見が出ていたと伝えられている。
 竹田氏は海外出張をたびたび取りやめるなど、職務にも支障が出始めていた。竹田氏は3月上旬、副会長を務めるアジア・オリンピック評議会がバンコクで開いた総会を欠席した。国内では仏当局の捜査権は及ばないが、国外では身柄拘束を請求される可能性があるためとみられる。ファーウェイ副会長の孟晩舟氏がアメリカ司法当局の要請を受けてカナダで拘束されたのは記憶に新しい。東京2020大会まで後1年、大会を推進するJOCのトップが海外出張して、会議の出席や打ち合わせができないのは致命的だろう。
 3月26日から28日にはスイスのローザンヌで、国際オリンピック委員会(IOC)の理事会が開かれ、コーツIOC副会長が1年余りに迫った東京2020大会の準備状況を報告する。その会場に、JOCのトップでIOCの委員の竹田氏が出席できないのでは、国際社会から激しい批判を浴びるのは必至だろう。 
 最早、贈収賄疑惑で無罪なのか有罪なのかの司法判断がどうなるかは関係ない。

 竹田氏退任を強く求めたのは国際オリンピック委員会(IOC)だったとされる。
 仏紙、ルモンドは、今年の7月24日に開催される東京五輪大会の1年前を祝う式典に、バッハIOC会長は参加することを拒否した。バッハIOC会長は竹田氏の隣に並んで立ちたくなかったと報じた。
 IOCは、最近はこうした疑惑に対して厳しい姿勢をとる。IOCは、表向きでは、竹田氏の疑惑に対して「推定無罪の原則を尊重」としながら、早期の退任を求める動きが出ていた。仏司法当局の捜査状況は着実に進んでいて、IOCはこうした状況も把握していたと思われる。
 オンピックのイメージを損ないかねない竹田氏の続投は、IOCにとっても避けたいのは明らかである。
 3月19日、竹田恒和会長がIOC委員を辞任すると表明したことを受けて、「決断を最大限に尊重しながら受け止めている。五輪運動を守るために取った一歩だ」との談話を発表した。
 また、フランス司法当局の捜査対象となっているこが明らかになったことで開催された記者会見で、竹田JOC会長が質疑応答なし7分間で終えた異例の会見に対して、JOC関係者の強い批判が巻き起こったのが退任の引き金になった。
 JOC理事の中には竹田会長の再任を求める声や、退任後は名誉会長に推す声もあったとされているが、2020東京五輪大会を巡る疑惑が国際オリンピック委員会(IOC)や国際社会からどう見られているのかをまったく理解していないのには唖然とするほかない。
 3月19日付のニューヨークタイムズ紙の見出しは、“Japan Chief Takeda to Quit as Corruption Probe Continues”である。

 竹田氏は、2001年に会長に就任し、現在10期目。2013年9月には東京2020大会招致委員会の理事長として招致成功に貢献し、今は東京2020年大会組織委の副会長を担う。JOC会長としては6月に改選期を迎えるが、当初は続投が既定路線だった。本人も東京五輪大会までの続投を強く望んでいたという。後任には同常務理事で全日本柔道連盟会長の山下泰裕氏(61)が挙がっている。

 竹田氏が退任しても、東京2020大会招致を巡る贈収賄疑惑問題は決して解決はしない。招致委員会がシンガポールのコンサルティング会社に支払ったコンサルティング料が、開催都市決定に関わる買収工作に使われた嫌疑は残るからである。
 仮に招致員会が支払ったコンサルティング料に問題はなかったしても、結果として、コンサルティング料が、買収工作に使われたとすれば、竹田氏や招致員会の道義的な責任は問われるべきであろう。
 2016年9月に公表したJOCの調査チームは大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、IOCの倫理規定にも違反していない結論づけた調査報告書を公表したが、約2億3千万円のコンサルタント料が何に使われたかは何も調査していないのである。
 また、シンガポールのコンサルティング会社を招致委員会に紹介した電通の責任も問われてしかるべきだ。このコンサルティング会社は、黒い噂の絶えないブラック企業であることが明らかになっている。
 「金で買われた東京五輪」、仏司法当局の捜査で、コンサルタント料が賄賂に使われたことが明らかになれば、2020東京五輪大会は拭い去ることができない大きな汚点を残すことになる。




JOC会長を捜査開始 五輪招致で贈賄容疑
窮地に追い込まれた東京2020大会

  東京五輪は裏金で買われたかもしれない――2013年9月7日、ブエノスアイレスにて、東京がイスタンブールを60対36の票差で破り、2020年五輪開催都市の栄誉を勝ち取ったあの日に感動した多くの人たちに冷水を浴びせている。五輪開催国にとってあまりに不名誉な贈収賄疑惑である。
 フランス司法当局による竹田JOC会長に対する贈収賄容疑の捜査は、2020東京大会に深刻なダメージを与えている。
 竹田氏が起訴されると2020東京大会は大きな打撃を受けるのは間違いない。
 2020東京大会は最大の危機を迎えた。



竹田恒和JOC会長 出典 日本オリンピック員会(JOC)

竹田JOC会長、潔白主張 質疑応答なし異例の会見
 2019年1月15日、2020年東京五輪・パラリンピック招致に絡む贈賄容疑で、フランス司法当局の捜査対象となった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、、東京都内で記者会見に臨み、自らが理事長を務めていた2020東京五輪招致委員会とシンガポールのコンサルタント会社、ブラック.タイディング(Black Tidings)社と結んだ契約は、「ロビー活動及び情報収集」に関連する二つのコンサルタント業務で、その支払いについて「適正な承認手続きをしたもの」で「適切な対価」と述べ、従来通り潔白を主張した。
 また竹田会長は、「私自身は意思決定プロセスに関与していない」とし、当時、承認手続きを疑う理由はなかったと述べた。契約をしたコンサルティング会社の代表のタン・トン・ハン(Tan Tong Han)氏とフランス司法当局から収賄と資金洗浄で訴追されている国際陸上連盟前会長で前IOC委員のラミン・ディアク(Lamine Diack)氏とパパ・マッサタ・ディアク(Papa Maasata Diack)氏親子との関係は知らなかったとした。
 会見は冒頭に事務局から、「フランス当局が捜査中に案件のため、慎重に検討した結果、お伝えできること事を口頭でお伝えするのみが適切であると判断した。質疑応答は行わない」と伝えられ、異例の会見となった。
 会見の最後に、竹田会長は「この騒動により、東京オリンピック・パラリンピックに向け、確実で順調な準備に尽力されている皆様、組織委員会、オリンピック・ムーブメントに対し影響を与えかねない状況になったことを大変申し訳なく思う」と述べ、今後はフランス当局に全面的に協力することで自らの潔白を証明すべく全力と尽くしていくとした。 会見は約7分間で終了した。
 
 会見では竹田会長から、フランス司法当局から捜査を受けている贈収賄容疑に関する納得がいく説明は何もなかった。捜査中の案件という理由にしても、国民の納得はまったく得られない。疑惑はさらに深まるばかりだ。
 そもそも招致委員会が、「賄賂」として金銭を支払ってIOC委員に投票の働きかけをするのはあり得ないだろう。またコンサルと契約を結ぶ手続きに問題があったとは思えない。
 問題は、なぜブラックな疑惑のあるタン・トン・ハン氏のコンサルタント会社になぜコンサルタント契約を結んで「ロビー活動・情報収集」を委嘱したかである。タン・トン・ハン氏はどんな人物なのかJOCは調査したのだろうか。それとも票のとりまとめのぎりぎり段階を迎えて、ブラックな疑惑は知っていながら頼まざるを得ない状況に追い詰められていたのだろうか。疑念は深まるばかりだ。
 また「適正な承認手続きをしたもの」で違法性はないとしたが、タン・トン・ハン氏が行った「ロビー活動・情報集収集活動」の実態はどんなものだったのか、まったく闇に包まれたままであある。
 2016年9月に公表した日本オリンピック委員会(JOC)の調査チーム(座長・早川吉尚弁護士)は2020東京大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定にも違反していない結論づけた。
 しかし、調査チームは契約の内容や意思決定のプロセスを調査しただけで、フランス司法当局が問題視しているタン・トン・ハン氏の活動実態や資金の流れを何も調査していない。焦点のディアク氏親子の関係も一切調査していない。
 コンサルタント活動実態や資金の流れが何も明らかになっていないのに「違法性はない」と結論付けるのは余りにも乱暴だ。 いずれにしても当時から疑惑に包まれていたタン・トン・ハン氏とコンサルタント契約を結んだのは軽率な判断だったというそしりは免れない。
 竹田会長は、当時、意思決定プロセスに関与していないとし、タン・トン・ハン氏とディアク親子の親密な関係は知らなかったと自らの責任を回避する姿勢をとっている。大会招致員会にとって不都合な事実が明るみ出た場合には、担当者の一存と言い抜けることも可能だと思われる。
 しかし、組織の長として責任をとらなければならないことを忘れてはならない。
 崇高な精神を掲げるオリンピック・ムーブメントを推進する日本オリンピック委員会(JOC)、そのトップである竹田会長は責任ある説明性と対応が求められる。
 このままでは、東京大会招致に関する疑念はまった晴れない。東京2020大会まで後1年半に迫っている。

五輪招致不正疑惑の“中心人物”ディアク父子直撃「言いがかりだ」
 東京オリンピック招致をめぐる汚職の鍵を握るとされる人物が、疑惑発覚後、初めて日本のテレビカメラの前でインタビューに応じ、セネガル人のIOC=国際オリンピック委員会元委員で国際陸上連盟前会長のラミン・ディアク氏とその息子のパパ・マッサタ・ディアク氏は取材に対し、「言いがかりだ」などと賄賂の存在を否定した。
 この内、ミン・ディアク氏は「私がお金を受け取った?馬鹿げた話だ」とし、「「東京だったらどんな街にも勝てる、私が票を入れなくてもね。日本は陸上を支えてきた。東京がお金を出したから投票したのではない」と語った。
 一方、セネガルに在住しているパパ・マッサタ・ディアク氏は、「IOCのメンバーとは一度たりとも話をしていない」とし、「東京オリンピックとは関係が無い話だ。招致の成功が3つや4つの時計のおかげというのはいいがかりだ」と述べた。(2019年2月13日 TBS ニュース)

仏紙ルモンドに報じられた竹田恒和会長の贈賄容疑
 「東京2020五輪大会の実力者が贈賄(corruption active)で起訴(mis en examen)された。フランス司法当局は竹田恆和氏が大会招致を手にするために賄賂を支払うことを認めたという疑いを持っている」(L’homme fort des JO de Tokyo 2020 mis en examen pour « corruption active » La justice française soupçonne Tsunekazu Takeda d’avoir autorisé le paiement de pots-de-vin en vue de l’obtention des Jeux, révèle « Le Monde »)
 2019年1月11日、仏紙ルモンド(電子版)は、2020年東京五輪招致の不正疑惑をこのような見出しで伝え、フランス司法当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対し、贈賄容疑で起訴に向けて最終段階の捜査を開始したと報じた。


Le Monde 2019年1月11日

 ルモンド紙によると、竹田会長は、2018年12月10日にすでにフランス国内で予審判事の聴取を受けていた。
 フランスでは、重大な事件については、検察が行う予備的な捜査で疑惑に確かな根拠があると判断された場合は、検事は裁判所の予審判事(juge d'instruction)に犯罪捜査に相当する「予審」(mise en examen)を請求する事が出来るという司法制度がある。予審判事は、警察に証拠を収集させ、被疑者を尋問して、事件を解明して正式な裁判に持ち込むかどうかを決める。「予審」の期間は最大2年で、容疑者を刑事裁判の被告として起訴して公判請求するかどうかが決められる。
 正確には、日本の司法制度でいう「起訴」ではなく、「予審」である。
 「予審」を開始する前に 予審判事は、当事者に出頭を求めて聴取を行い、その上で予審判事は「予審」を正式に開始するかどうかを判断する。嫌疑の確証が得られなければ、その時点で捜査終了となる。竹田会長の場合は、出頭して聴取された上で「予審」開始となっていることから、司法当局は嫌疑についてかなりの確証を得ていると思われる。
  
 2016年、フランス司法当局は、竹田会長が理事長を務めていた招致委員会が2013年7月と10月、シンガポールに拠点があるコンサルティング企業、ブラック・タイディングズ(Black Tidings)社に、2020東京大会招致のコンサルタント料として約2億3千万円を支払った事実を2015年末に把握し、資金の一部が賄賂や資金洗浄に使われた可能性があるとして捜査を開始した。
 捜査の結果、約2億3千万円の支払いは、国際ロビー活動などのコンサルタント契約により、2013年9月の東京大会招致決定の前後に行われ、投票が行われたIOC総会直前の2013年7月に約9500万円、招致決定後の2013年10月に、成功報酬の意味合いを含む勝因分析の名目で約1億3500万円が支払われていた事実をつかんだ。
 この2回の送金を発見したのは、フランス司法当局のマネーロンダリング防止部隊の捜査チームで、ブラック・タイディングズ社から資金の一部が、ラミン・ディアク氏の息子、パパ・マッサタ・ディアク氏に流れていたこと確認している。
 竹田会長によると、ブラック・タイディングズ社へコンサルタント料として約2億3千万を支払ったことを認めた上で、ブラック・タイディングズ社との契約は、招致決定直前の13年8月にモスクワで予定されていた陸上の世界選手権とIOC理事会を前にして、陸上関係者との人脈が脆弱だという危機感を抱いたことがきっかけだったとしている。また招致決定前と決定後の2回に分けて支払っているのは、ブラック・タイディングズ社の要求する額を一度では払い切れなかったからだとした。
 竹田会長は「業務への対価で正当な支払い」を強調している。

 2018年12月にフランス捜査当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対して実施した事情聴取は、その日程が同年8月の時点で決まっていたことが関係者への取材で分かった。事情聴取後、フランス当局は贈賄容疑で起訴に向けて「予審」捜査を開始した。
 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告による一連の捜査に対する「報復か」と指摘する見方も一部で取り沙汰されたが、ゴーン被告が逮捕される約3カ月前から「捜査における協力」として事情聴取が決定していたのである。竹田会長が国際オリンピック委員会(IOC)の会議などで渡欧するタイミングで日程が調整されていたという。(共同通信 2019年1月13日)
 竹田恒和会長への捜査開始は、日産ゴーン前会長逮捕の「報復」とする見方はまったく見当外れである。
 しかしフランス司法当局は、ル・モンド紙にリークしたタイミングを日産ゴーン前会長への捜査状況を視野に入れて日本の検察に揺さぶりをかけた可能性は否定できない。

契約相手はドーピング隠蔽疑惑でも名前が登場したいわくつきのブラック企業
 ブラック・タイディングズ社は、シンガポールを拠点に活動している国際スポーツ競技会に関わるコンサルティング企業で、登記日は2006年4月27日、登記抹消日は2014年7月4日といわれている。また会社組織ではなく、いわゆる「個人事業主」(Sole Proprietor)で「ブラック・タイディングズ」はタン・トン・ハン氏の「個人事業主の屋号」だったとされている。
 タン・トン・ハン氏は、セネガルのダカールに「スポーツ エイジ」(Sports Age)というブラック・タイディングズ社と同様のコンサルティング会社を設立している。またシンガポール市内にSports Age(Asia Pacific)とGoal Up!という企業も所有している。
 ブラック・タイディングズ社を巡っては、事業活動が行われていたという確証が見当たらず、実態はコンサルタント料として振り込まれる収入の「マネーロンダリング・資金洗浄」を行う「ペーパー・カンパニー」だったという疑惑が渦巻いている。
 シンガポールでの同社の所在地は簡素なアパートで看板もないアパートの一室と伝えられている。(The Straitstimes FEB 15 2018)


The Straitstimes Jan 16 2019


The Straitstimes FEB 15 2018

 ドーピング隠蔽をテーマしたドキュメンタリー番組の制作者が、シンガポールのブラック・タイディング社を訪れると、男が姿を現し、取材を拒否し、警察を呼ぶと脅されたという。制作者は、姿を現した男は、タン・トン・ハン(Tan Tong Han)氏であることが撮影された映像から判別できるため、放送ではシャドウをかけたという。

 ブラック・タイディングズ社の実態は、IOCの委員で国際陸上競技連盟(IAAF)前会長でもあったセネガル人のラミン・ディアク氏の息子、パパ・マッサタ・ディアク氏の「ダミー会社」とみられている。 捜査当局のサイバー捜査で、タン・トン・ハン氏は世界陸上連盟(IAAF)のマーケッティング業務に関与し、世界陸上連盟前会長のラミン・ディアク(Lamine Diack)の息子のパパ・マッサタ・ディアック(Papa Massata Diack)氏と極めて親密な関係を持っていたことが明らかになっている。
 息子の名前にタン・トン・ハン氏は「Massata」と名付けていた。
 二人の関係は、2008北京五輪大会で始まったという。
 タン・トン・ハン氏は世界陸上連盟(IAAF)の定例の会議やイベントに参加、世界陸上連盟(IAAF)の理事会にも出席し、前会長のラミン・ディアク氏やIAAFの上級スタッフによく知られていた人物で、「国際陸連の幹部レベルに溶け込み」、「国際陸連の非公式な統治系統の一員のようだった」(The Gaudian紙 2016年5月11日)とされている。

 さらに問題なのは、ロシア陸上界のドーピング隠蔽疑惑を調査した世界反ドーピング機関(WADA)の独立調査委員会報告書にも名前が登場するいわくつきの会社なのである。
 独立調査委員会第2回報告書によれば、「ブラック・タイディングス」とはヒンディー語で 「ブラック・マネー」を意味するとしている。『闇マーケティング』や『黒いカネの資金洗浄』を彷彿とさせる社名(屋号)を看板に掲げているブラック企業だ。
 ブラック・タイディングズ社の口座はロシア選手のドーピングの隠蔽工作に絡む金銭のやりとりに使用されていたことが報告書で明らかにされた。
 また2020夏季五輪大会の招致活動を巡っては、ラミン・ディアク氏の息子のハリル・ディアク氏とトルコ(イスタンブール)招致委委員との間で交わされた会話内容を押収し、
「トルコ(イスタンブール)はダイヤモンドリーグや国際陸連に400万ドルから500万ドルを支払わなかったため、ラミン・ディアック氏の支持を得られず落選した。日本は支払ったので、東京開催を獲得した」という会話があったことを明らかにしている。
 報告書にはタン・トン・ハン氏と電通との関係についても記述され、「電通の関連会社である電通スポーツがスイスのルセーヌにアスレチック・マネジメント・アンド・サービス(AMS)というサービス会社を設立した。AMSは国際陸連による商業権利の売買や移管を目的としている。AMSはタン・トン・ハン氏を2015年の北京大会を含む国際陸連の世界選手権やその他の競技大会で、でのコンサルタントとして契約し、業務を行ってもらっていた」としてる。
 電通は子会社のAMS社を通じて、ブラック・タイディングス社のイアン・タン・トン・ハン氏と密接な関係を持っていたことが窺える。
 2020東京大会招致員会にコンサルタント会社としてブラック・タイディングス社を推薦したのは、こうした関係があったからであることは間違いない。

タン・トン・ハン被告に禁錮刑 シンガポール地裁
 2019年1月16日、シンガポール地裁は、ロシアのドーピング隠蔽工作で捜査を受けた際に、シンガポール汚職捜査局(CPIB Corrupt Practice Investigation Bureu)に虚偽の説明をした罪で、ブラック・タイディングス社の元代表、タン・トン・ハン被告に、禁錮1週間の有罪判決を言い渡した。タン・トンハン被告は起訴内容を認めた。
 WADA独立調査員会の報告書で、2014年3月、当時の国際陸連会長と国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク氏の息子で、タン・トン・ハン被告と懇意だったパパ・マッサタ・ディアク氏が、約52万シンガポールドル(30万ユーロ 約4350万円)を、所有する会社からブラック・タイディングス社に送金したことが明らかになっている。
 タン・トン・ハン被告は、パパ・マッサタ・ディアク氏の指示を受けて、この資金をロシアのマラソン・長距離選手、リリア・ショブホワ(Lilija Shobukhova)の夫に送金してた。

 リリア・ショブホワ(Lilija Shobukhova)選手はドーピング違反を隠すために持久力コーチのアレクシー・ミルニコフ氏(Alexei Melnikov)ないし彼が指名した人物に対して45万ユーロ支払った。しかしミルニコフ氏は彼女のドーピング違反が明るみに出るのを遅らせることができただけで隠蔽工作は失敗した。ミルニコフ氏は賄賂の払い戻しについて、ロシア体育協会(ARAF:All Russia Athletics Federation)会長で世界陸上連盟財務担当のバラクニチェフ(Valentin Balakhnichev)氏と相談し、その結果、バラクニチェフ会長はミルニコフ氏に対し、30万ユーロを選手に返還を手配するよう指示した。
 ミルニコフ氏の指示で、ショブホワ選手は払い戻し金の電信送金を受け取るためにロシアの銀行に口座を開設した。 2014年3月末に、ブラック・タイディング社(Black Tidings)のシンガポールの銀行口座から、30万ユーロの返金がショブホワ選手の口座に振り込まれた。
 フランス司法当局は、電信送金記録やブラック・タイディング社に送金を指示したパパ・マッサタ・ディアク氏の電子メールを押収している。

 今回の判決で、2015年11月、シンガポール汚職捜査局の聴取を受けた際、タン・トン・ハン被告は約52万シンガポールドル(30万ユーロ)は「スポンサーおよびコンサルタント料で、スポンサーロゴ制作や記者会見のアレンジ、輸送サービス業務などを行った対価だ」と虚偽の説明をしたとした。タン・トン・ハン被告は、パパ・マッサタ・ディアク氏にコンサルタント料の請求書を出し、ディアク氏が所有するセネガルにあるPamodzi Cosulting社の口座からコンサルタント料が振り込まれたとする偽装工作を行っていた。汚職捜査局は実際にはコンサルタント業務はなかったと断定した。
 2013年、ブラック・タイディングス社は2020東京大会招致委員会と約2億3000万円のコンサルタント契約を締結した。タン・トン・ハン被告は当時の国際オリンピック委員会(IOC)委員だったラミン・ディアク氏の息子のパパ・マッサタ・ディアク氏と親密な関係にあったとされ、資金の一部が票の買収のための賄賂としてラミン・ディアク氏に渡されとしてフランス司法当局が捜査している。

国際陸上競技連盟前会長(IAAF)のディアク氏への賄賂 仏司法当局
 ブラック・タイディングズ社代表のタン・トン・ハン氏は、国際陸上競技連盟(IAAF)の元マーケティング顧問のパパ・マッサタ・ディアック氏と極めて親密だったことが明らかになっている。
 パパ・マッサタ・ディアック氏は、IOC委員(当時)で国際陸上競技連盟前会長(IAAF)のラミン・ディアク(ラミーヌ・ディアク)(Lamine Diack)氏(セネガル出身 フランス在住)の息子であり、資金の一部がディアク氏側に渡ったとされている。フランス司法当局はこの資金を賄賂とみて捜査を続けている。
 仏検察は、パパ・マッサタ・ディアック氏が2013年7月に腕時計などをパリで購入した際の約13万ユーロ(約1620万円)の一部をBT社が支払ったとしている。これが換金されて買収工作に使われたとみている。
 ディアック氏は、国際陸上競技連盟会長に1995年から2015年まで約10年間に渡って君臨して絶大な権力を握り、アフリカ諸国のIOC委員にも大きな影響力を握っていた。

 ルモンド紙によると、「予審」を指揮したルノー・ヴァン・ルイムベケ( Renaud Van Ruymbeke)氏は、2013年の開催地決定の投票でイスタンブールとマドリードへから東京への支持に振り替える極秘不正行為があったとにらんでいるという。
 WADA独立調査員会の第一回報告書(2015年11月)では、ディアク会長が2020年夏季五輪の開催地選びで自分の票を提供する引き換えにIAAFに協賛金を得ようとしていたとしたとしている。

 2013年9月、2020年夏季五輪の開催地を決める投票がアルゼンチンのブエノスアイレスで行われ、東京がスペインのマドリードとトルコのイスタンブールを抑えて招致を勝ち取った。


Few questions were asked about the sponsorship and TV deals delivered by Papa Massata Diack that went along with a run of world championships that took in Daegu in 2011, Moscow in 2013, Beijing in 2015. Photograph: Papon Bernard/L'Equipe/Offside
出典 The Guradian Wed 11 May 2016


Lamine Diack now been accused of ‘active corruption’ by French investigators. Photograph: Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images
出典 The Guradian Tue 22 Dec 2015

2020東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑を最初に伝えたThe Gaudian(2016年5月11日)
 2019年1月11日に仏紙ルモンド紙が伝えた2020東京五輪招致を巡る贈収賄疑惑は、二回目の報道である。 
 最初に贈収賄疑惑を伝えたのはイギリスの大手新聞、The Gaudianである。
 2016年5月11日、The Gaudianは、日本が招致に成功した東京2020年五輪大会の招致活動期間中に、東京五輪招致委員会から億単位の金銭が国際陸上競技連盟(IAAF)のラミン・ディアク前会長の息子と関わりのある口座に振り込まれていたことが明らかになったと伝えた。
 フランスの司法当局がロシアの国家ぐるみのドーピング問題で、当時、国際陸上連盟会長で国際オリンピック委員会(IOC)の有力な委員であったラミン・ディアク氏のドーピング隠蔽工作を捜査している中で、東京2020年五輪大会招致を巡る贈収賄疑惑が浮かび上がった。


2020東京大会招致の贈収賄疑惑を報じた英紙ガーディアン紙の記事 出典 The Guardian Wed 11 May 2016


ガーディアン紙が報じた東京2020大会招致を巡る資金の流れ 出典 The Guardian Wed 11 May 2016

The Gaudian(2016年5月11日)の記事抄訳
Tokyo Olympics: €1.3m payment to secret account raises questions over 2020 Games



リオ五輪招致でIOC委員に買収工作 ブラジル・オリンピック委員会会長起訴
 2017年10月17日、ブラジル連邦検察は2016リオデジャネイロ五輪大会招致を巡る買収疑惑で、ブラジル・オリンピック委員会会長だったカルロス・ヌズマン氏らを贈賄や資金洗浄の罪で起訴した。起訴状では招致を決める投票前にパパ・マッサタ・ディアク氏に対し、ブラジル企業から200万ドルが渡り、IOC委員の買収に使われたとした。
 捜査当局の調べによるとリオデジャネイロへの招致が決まった2009年のIOC(国際オリンピック委員会)の総会の直前に、IOCの当時の委員で開催都市を決める投票権を持つセネガル出身のラミン・ディアク氏の息子のパパ・マッサタ・ディアク氏名義の2つの口座に、ブラジル人の有力な実業家の関連会社から合わせて200万ドルが振り込まれていた。
 捜査当局はヌズマン会長が、「贈賄側のブラジル人実業家と収賄側のディアク氏との仲介役を担っていた」と見て、自宅を捜索するなど捜査を進めていたが、2009年のIOC総会の直後、ディアク氏の息子からヌズマン会長に対して、銀行口座に金を振り込むよう催促する電子メールを押収し、ヌズマン会長が票の買収に関与した容疑が固まったとして逮捕していた。
 フランス司法当局は、買収工作にディアク親子が関係したという共通の構図が2020東京大会招致を巡る贈収賄疑惑にあるとして、立件に向けて捜査をしているとされている。

汚職や賄賂、資金洗浄、ドーピング隠蔽で告発されているディアック親子
 16年間に渡って世界のスポーツ界に君臨したラミン・ディアク(ラミーヌ・ディアク)氏に、国家ぐるみで行われたロシア陸上選手のドーピング問題を調査している過程で、隠蔽工作に関わったという疑惑が明るみになった。
 2015年8月、WADA独立委員会は、ロシアの国家ぐるみのドーピング隠蔽疑惑に関する調査報告書を公表した。報告書では薬物検査の結果を隠蔽し、サンプルを廃棄し、検査室職員を脅迫していたことが明らかにされ、ロシアの選手がドーピング検査の結果をもみ消すために賄賂を支払った疑いも指摘した。
 調査報告書公表の二日後、ラミン・ディアック氏は国際陸連会長ならびにIOC名誉委員(Honorary member of the International Olympic Committee)を辞職した。

 ドーピング検査結果もみ消しで金銭を支払った疑いが持たれているロシアの6人の選手は、女子マラソンのリリア・ショブホワ(Liliya Shobukhova)をはじめ、男子競歩のワレリー・ボルチン(Valeriy Borchin)やウラジーミル・カナイキン(Vladimir Kanaikin)、セルゲイ・キルジャプキン(Sergey Kirdyapkin)、女子競歩のオリガ・カニスキナ(Olga Kaniskina)、そして女子3000メートル障害のユリア・ザリポワ(Yuliya Zaripova)の名前が挙げられている。
 また、当時ロシア陸連(ARAF)の会長を務めていたワレンティン・バラフニチェフ(Valentin Balakhnichev)氏については、IAAFが約束した訴追免除を申し出ない場合は、ドーピングに関する取引を公表するとIAAF幹部を脅迫していた事実が伝えられている。
 2015年11月、フランス司法当局は、ロンドン五輪の前年の2011年に、少なくとも6人のロシア選手のドーピングをもみ消す代わりに100万ユーロの賄賂を受け取った容疑とマネーロンダリング(資金洗浄)で捜査をしていることを明らかにした。
 ラミン・ディアク氏は、辞職後に起訴され、フランス司法当局の監視状態に置かれてフランスからの出国を禁止されている。

 ドーピング問題隠蔽問題より前に、ラミン・ディアク氏はISL社からの収賄の容疑でIOCの倫理委員会から調査を受け、1993年から3回にわたって3万米ドル+3万スイスフランという欧米の通貨建てで巨額の資金を受け取っていたことが明らかにされた。ラミン・ラミン氏は自宅が全焼した後に支持者から金を受け取ったもので賄賂ではないと主張した。当時IOC委員ではなかったディアックは2011年にIOCから警告処分を受けただけだった。
一方、国際陸連の会長は辞職せず、2015年まで会長職にとどまった。

 一方、ラミン・ディアク氏の息子で、国際陸連のコンサルタントを務めていたパパ・マッサタ・ディアク氏は、父親と同様にドーピング隠蔽する見返りに、数百万ユーロもの金銭を受け取っていたことがフランス司法当局の捜査で明らかになっている。
 フランス司法当局は一連の不正行為を巡って、パパ・マッサタ・ディアク氏が中心的な役割を担っていたと見ている。
 また2014年3月、ロシア人マラソン選手、リリア・ショブホワ選手のドーピング違反隠蔽失敗後にパパ・マッサタ・ディアク氏が返金した30万ユーロ が「ブラック・タイディングス」社の口座を経由していたことが判明している。
 国際陸連の独立倫理委員会は2014年、この問題について調査を開始し、2016年1月に報告書を公表した。国際陸連はこの報告書を受けて、2016年2月、パパ・マッサタ・ディアク氏や反ドーピング部門の責任者のガブリエル・ドレ(Gabriel Dolle)氏ら上級職員4人を永久追放した。
 またロシア陸連前会長のワレンティン・バラフニチェフ氏やコーチのアレクス・ミルニコフ(Alexei Melnikov)氏も永久追放処分とした。
2015年1月、フランス司法当局はパパ・マッサタ・ディアク氏を国際刑事警察機構(Interpol)を通して収賄と資金洗浄の容疑で国際指名手配し、セネガルに在住しているパパ・ マッサタ・ディアク氏の引き渡しをセネガル政府に対して要求しているが拒否をされている。
 2018年9月、AP通信はブラジルとフランスの司法当局が、ラミン・ディアック氏とその息子が、2016リオデジャネイロ夏季五輪招致に巡る贈収賄疑惑に関与したかどうかを捜査していると伝えた。
 ディアック氏親子を巡る疑惑は絶えることがない。

 東京2020大会招致の贈収賄疑惑も、ロシアの組織的なドーピング疑惑の捜査を進めている中で浮かび上がった。フランス司法当局は2015年に、当時の国際陸連会長のラミン・ディアク氏がドーピングを黙認する代わりに現金を受け取っていた容疑で捜査を始めた。その過程で東京五輪の招致疑惑が浮上したとされている。ラミン・ディアク氏は2020東京大会の招致活動が行われている期間は国際陸連の会長でIOCの有力委員、アフリカ諸国や陸上競技関係者に絶大な力を持っていた。


FILE - Papa Massata Diack, center, son of former IAAF president Lamine Diack, arrives at the central police station in Dakar, Senegal, Feb. 17, 2016. VOA NEWS September 05, 2017

2億3000万円は正当なコンサルタント報酬 賄賂の疑惑を否定 JOC
 2016年9月1日、2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐる資金提供問題で、日本オリンピック委員会(JOC)の調査チーム(座長・早川吉尚弁護士)は大会招致委員会が支払った約2億3千万円のコンサルタント料に違法性はなく、国際オリンピック委員会(IOC)の倫理規定にも違反していない結論づけた調査報告書を公表した。
 調査チームは弁護士や公認会計士で構成する第三者機関で、30人以上の関係者にヒアリングしたという。
 報告書では大会招致委員会や日本側の関係者はBT社とパパマッサタ氏の間に親交があるなどという事実は承知しておらず、また、資金の使い道まで認識することはできなかったとして、五輪関係者らに対する贈与の認識はなかったと認定した。契約金額も相対的に高額だが不当に高いとは言えず、「ブラック・タイディングズ」社の報告書はIOC委員の具体的な投票行動に言及していることから、同社が相応のロビー活動をしていたと推認し、日本の法律やフランスの刑法、IOC倫理規定には違反していないとした。
 一方で報告書では、招致委理事長だったJOCの竹田恒和会長が最初の契約を決裁する際、成功報酬を別途支払う内容だとの説明を事務方から受けていなかったと指摘し「手続きの透明性の観点から一定の問題がある」とした。
 竹田会長は「担当判事のヒアリングをパリで受け、招致委は「ブラック・タイディングズ」社とのコンサルタント契約に基づき正当な対価を支払い、贈賄にあたるような不正なことは何も行っていないことを説明した。今後とも調査に協力するつもり」とし、パパマッサタ氏とBT社の経営者だったタン・トン・ハン氏の関係については一連の報道で初めて知り、「そもそもその2人の人物については知らなかったし、タン氏とは会ったこともない」とコメントした。
 問題は、資金の使い道まで認識していなかったので資金を支払った招致員会の責任は一切ないとしていることである。約2億3000万円の資金の一部が結果として賄賂に使われたとすれば、竹田氏や招致員会は「道義的」責任を負うのは免れない。資金の使い道は知らなかったとする言い逃れは通用しない。さらにコンサルタント契約を結んだ「ブラック・タイディングズ」社の代表のタン・トン・ハン氏やトン・ハン氏と親しい関係のあるパパ・マッサタ・ディアック氏は、贈収賄や資金洗浄、汚職などの容疑でフランス司法当局から国際刑事警察機構(INTERPOL)を通じて国際手配されており、ブラックな疑惑が絶えない人物である。東京大会招致に向けて、一票でも欲しかった大会招致員会が、ブラックな噂がある人物とは知りながらIOCの委員を動かす力があると見られていたタン・トンハン氏に頼ったという疑念が浮かび上がる。
 フランス司法当局が贈収賄容疑で「予審」捜査を開始したことが明るみになったことを受けて、JOCは、竹田会長が15日に東京都内で記者会見を開くと発表した。




招致合戦で暗躍するコンサルタント
 2002年ソルトレーク冬季五輪ではIOC委員の内部告発で大規模な買収疑惑が発覚、10人のIOC委員が追放・辞任に追い込まれた。
 世界各国から厳しい批判を浴びて、国際オリンピック委員会(IOC)は、IOC委員の立候補都市への訪問の禁止した。
 招致関係者とIOC委員との直接の接触は規制されたことで、招致活動を展開する都市は、各国IOC委員の家族構成や趣味になどに精通して、水面下で働きかけができるコンサルタントを雇うようになった。
 一方で、五輪の招致活動に伴う賄賂の授受の噂は絶えない。賄賂の相場は、1票10万ドル(約1100万円)と言われている。ある国のIOC委員は「10万ドルで投票してほしいと立候補都市から持ち掛けられ」と証言しているという。また「東京がコンサルタント会社に2回に渡って送金した総額は、2億3千万円でしょう。1票10万ドルとして、20票集めれば、ちょうどこの金額くらいになる。ラミン・ディアク氏の力ならアフリカ以外からも集票できるので、20票は現実的な数字。金額から、まさに集票の報酬、賄賂じゃないか、先々で問題になると多くの関係者は思っていた」(週刊朝日 2019年1月15日)
 招致合戦で暗躍するコンサルタントの実態は闇に包まれたままである。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、フランス捜査当局が日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対する捜査を開始したことを受けて2019年1月11日、倫理委員会を開いてテレビ会議形式でJOCの竹田会長への聞き取りを実施した。協議内容の詳細は公表していないが、「推定無罪の原則を尊重しつつ、状況を注視していく」との姿勢を示した。

電通の責任も重大
 東京2020大会招致を巡る贈収賄疑惑は、国会でも審議された。
 2016年5月16日の衆議院予算委員会で、馳浩文科相は、2020東京大会招致員会が「ブラック・タイディングズ」社とコンサルタント契約を結んだ経緯について、
 「実は、私も当時、8月に招致の最終段階に入りまして、一番終わり的な票読み、そのための情報収集、どのような方に、どのように、やっぱり働きかけをしたほうが、最終的に票を獲得できるかということで、モスクワの世界陸上選手権、ここのほうに、私も参りました。と同時に、招致委員会においても、ここは大きな山場だと。この時の時点において、ご記憶にあると思いますが、たいへん日本は厳しい状況にありました。理由は、汚染水の問題であります。
 私も7月8月と、この問題について、官邸とも掛け合いながら、走り回ったことを記憶しておりますが、その時に、最終的にコンサル会社と調整をしたうえで、適切な情報を踏まえて、対処しなければいけないという判断をされたようですが、その際、自薦他薦あまたコンサル会社がどうですか?と言ってくる中で、十分に対応するためにも、招致委員会のメンバーは、コンサル業務に関してはプロではありませんので、電通に確認をしたそうであります。そうしたら電通のほうから、こうした実績のある会社としては、この会社(「ブラック・タイディングス社」)はいかがでしょうかということの勧めもあって、しかしながら、最終的には招致委員会において判断をされて、この会社と契約をされたということがまず一点目であります」と答弁した。
 馳浩文部科学相は、招致活動の終盤はぎりぎりの票集めに奔走していた状況だったとし、コンサルタント契約を結んだ「ブラック・タイディングズ」社については、「電通に勧められて招致委員会が契約を判断した」ことを明らかしたのだ。この件は、竹田氏も「電通に実績を確認した」とコメントしている。

 世界アンチ・ドーピング機構独立調査委員会の報告書は、イアン・タン・トン・ハン氏は電通スポーツの子会社で国際陸連から与えられた商標権販売のために設立されたアスリート・マネジメント・アンド・サービス(AMS)社(スイス・ルツェルン)のコンサルタントで、「ブラック・タイディングズ」社の口座を管理していたことを明らかにしている。
 電通は、AMS社のコンサルタントとしてタン・トン・ハン氏と契約したことは否定しているが、従来から「ブラック・タイディングス社」代表のイアン・タン・トン・ハン氏と関係を持っていたがことが窺わる。タン・トン・ハン氏と通して親しい関係のあるパパ・マッサタ・ディアック氏を介して、国際陸上競技連盟(IAAF)会長で有力なIOC委員のラミン・ディアク氏に働きかけをしたという構図が浮かび上がる。

 フランス司法当局が竹田恒和会長を起訴すれば、2020東京五輪招致委員会と「ブラック・タイディングス社」との関係や「ブラック・タイディングス社」とパパ・マッサタ・ディアック氏との関係、さらに国際陸上連盟前会長で元IOC委員のラミン・ディアク氏との関係が明らかになり、約2億3000万円の資金の流れも解明されると思われる。またこの中で電通がどのようや役割を果たしたがかなり解明されるに間違いない。
 竹田恒和会長と2020東京五輪招致委員会、そして電通の責任が改めて問われるのは必至だ。

竹田IOC委員への捜査は2020東京五輪大会に暗雲をもたらす NYT報道
 1月12日、New York Timesは、「竹田IOC委員への捜査は2020東京五輪大会に暗雲をもたらす」という見出しを掲げ、「1カ月前に、日本オリンピック委員会(JOC)会長の竹田恒和氏は、東京で開催された各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会でバッハIOC会長の脇で演説し、出席した1400人の各国代表から、暖かい賞賛を浴びた。
 その1か月後、竹田氏は、2013年に行われた2020五輪大会を決める投票を巡って、東京大会招致で賄賂を渡すことを承認したとする容疑でフランス司法当局から起訴に向けての捜査を受けている。
 JOCは、竹田氏は不正を行っていないと容疑を否定していると声明を出した。
 今上天皇の遠い親戚で、明治天皇のひ孫にあたる竹田氏は、不正調査の対象者リストに加えられ、IOC会員や名誉会員の資格が停止される可能性が生まれた。 竹田氏の訴訟は、18ヵ月後に開幕する東京五輪大会に深刻なダメージを与える懸念が出てきた。
 バッハIOC会長は、東京五輪の準備準状況は、これまでの大会の中で最も優れていると賞賛した。しかし、招致段階の三倍の約200億ドル(約2兆2000億円)に膨れ上がった開催経費に疑念が集まっている」と伝えた。

問題は賄賂として使われたかどうかだ 窮地に陥った2020東京大会
 今後の展開はフランス司法当局の「予審」捜査の進展がどうなるかにかかっているが、招致委員会から支払われた約2億3000万円の資金の流れを解明し、賄賂として渡され、買収工作があったかどうかの解明が焦点となる。
 竹田氏は以前から、約2億3000万円のコンサルタント料を支払ったことは認めているが「どう使われたかは確認していない」と話している。
 フランス司法当局の見立てのように、竹田氏は約2億3000万円いに賄賂として認識し支払を認めたのかが贈収賄を立件する際のポイントとなるが、さすがに賄賂性を認識して「ブラック・タイディングズ」に支払ったと立証するのは極めて困難だろう。フランス司法当局による竹田氏の贈収賄容疑の立件は不可能に近い。
 一方、日本の国内法では、贈収賄の適用は国会議員や市町村議会の議員、公務員などの公職に就いている人に限定されている。そもそもIOCや国際陸連などのスポーツ組織関係者は対象でない。この贈収賄疑惑で日本の検察が摘発に動くことはないし、コンサルタント契約の内容や送金手続きなどに不正がなければ問題にされない。
 ところが、フランスでは日本とは違って民間組織間でも贈収賄が成立する。しかもスポーツ関係の不正に特化した刑罰規則もあるという。
 問題は、仮に竹田氏は贈収賄で起訴は免れても、竹田氏や招致委員会の責任は明らかに残されることだ。
 約2億3000万円は渡された時点では、賄賂性の認識はなかったにしても、「ブラック・タイディングズ」に渡された約2億3000万円が、結果として賄賂として使用されたとすれば、竹田氏や招招致委員会の「道義的責任」は極めて重大である。
 フランス司法当局が招致委員会が支払った資金の一部が賄賂としてIOC委員に渡され事実を把握できれば竹田氏は窮地に陥るのは間違いない。
 問題は、招致委員会が支払ったコンサルタント料に賄賂性の認識があったかどうかではなく、結果として賄賂として使用されたどうかである。
 竹田会長がトップのJOCは、「JOC将来構想 ~人へ、オリンピックの力~」と掲げ、「私たちは2020年東京オリンピック以降も留まることなく、オリンピック・ムーブメント活動を通したオリンピズムの価値を伝え、己を厳しく評価して、たゆまない努力を続けていく」と高らかに宣言している。竹田氏はこの宣言の精神をどう考えているのだろうか。
 五輪招致での贈賄容疑を引きづったままで、東京2020大会を迎えるのは余りにも無責任で、国際社会からも国民からも背を向けられるのは間違いない。






2019年1月12日
Copyright (C) 2019 IMSSR




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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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東京オリンピック 開催費用 小池都知事 開催経費 負の遺産 負のレガシー

2020年12月23日 17時24分17秒 | 東京オリンピック
“もったいない”
五輪開催費用「3兆円」!
どこへ行った「世界一コンパクトな大会」




大会経費総額1兆6440億円  V5公表
 12月22日、東京2020大会組織委員会と東京都は、新型コロナウイルスの影響で来夏に延期された大会の開催経費を総額1兆6440億円とする予算計画第5版、「V5」を公表した。昨年末公表した1兆3500億円に、延期に伴って新たに必要となった2940億円を加えたものである。
 支出については、会場整備費では、会場使用料や仮設設備の一時撤去・再設置など「仮設等」に関する費用の増加額が最も多く、730億円増、計3890億円となった。
 大会運営面では選手村の維持管理や競技用備品の保管など「オペレーション」費用が540億円増で計1930億円、事務局の人件費など管理・広報費が190億円増、輸送費が130億円増となっている。
 今回新たに計上されたコロナ対策費は960億円で、全額、国が負担する。
 一方、収入増は910億円を見込み、その内訳は増収見込みの760億円と収支調整額の150億円。増収見込みの760億円のうち、500億円は不測の事態に備えて加入していた損害保険で、大会スポンサーの追加協賛金や寄付金などが260億円である。収支調整額の150億円は、組織委員会が賄いきれない費用について東京都が負担するもので、すでに組織委員会と東京都で合意されている。
 大会経費における実際の負担額は組織委が7060億円、都が7170億円、国が2210億円に膨らんだ。
 チケット収入については、コロナ感染対策を踏まえて決定される観客数の上限が来春まで決まらないことから、前回と同じ900億円で据え置いた。
 組織委によると、国際オリンピック委員会(IOC)の負担金は850億円で変わらないが、IOCがスポンサーの追加協賛金に対するロイヤリティーを放棄した分は760億円の増収見込みの中に計算されている。また国際オリンピック委員会(IOC)はマラソン・競歩の札幌移転に伴う経費として20億円弱を負担するが、これもV5には織り込み済としている。
 また焦点の開閉式については、大会延期に伴い、電通と締結している開閉会式の制作など業務委託契約の期間延長も承認。式典は簡素化を図りながらもコロナ禍を踏まえたメッセージを演出内容に反映するする内容に変わるが、延期に伴う人件費や調達済資材の保管料などの経費増や演出内容の見直しに伴う経費増で、予算の上限額を35億円増の165億円に引き上げた。開閉会式の予算増額は今回で2度目、招致時では91億円を見込んだが、演出内容の具体化に伴い昨年2月に130億円まで引き上げた。2012年ロンドン大会の開閉会式の経費は160億円といわれ、東京2020大会はこれを上回る史上最高額となる。
 1年延期に伴う開催経費増は約3000億円、新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収まる気配がない中で、さらに巨額の資金を投入することに対して、都民や国民の納得が得られるかどうか疑念が大きい。「人類がウイルスに打ち勝った証し」を掲げるだけのは最早、前には進めない。開催を可能にする条件として競技数や参加選手数の削減、開閉会式な大胆な簡素化など大会規模の縮小が必須だろう。まだ時間はある。


出典 TOKYO2020

五輪追加経費2940億円で合意 都が1200億円、国は710億円、組織委は1030億円を負担
 12月4日、1年延期された東京五輪・パラリンピックの追加経費について、大会組織委員会の森喜朗会長、東京都の小池百合子知事、橋本五輪相が4日、都内で会談し、総額2940億円とすることで合意した。都が1200億円、組織委が1030億円、国が710億円を負担する。これにより、東京大会の開催経費は、昨年末の試算から22%増の1兆6440億円となった。
 追加経費は、延期に伴う会場費や組織委職員の人件費など大会開催経費、1710億円と新型コロナウイルス対策費の960億円のあわせて2940億円。
 大会開催経費の追加経費1710億円の分担をめぐっては、延期前に3者が合意していた費用分担の考え方を基本としたうえで、組織委員会が収入を増やしてもなお足らない約150億円については東京都が肩代わりをして補填するとし、東京都は800億円を負担することになった。国はパラリンピックの経費など150億円を拠出する。
 一方、組織委は、大会中止に備えて掛けていた損害保険の保険金やスポンサーからの追加の協賛金を原資とした760億円に、不慮の事態に備えてすでに計上していた予備費270億円を加えた1030億円を負担する。

 コロナ対策費については、国と都が負担することし、国は選手の検査体制の整備にかかる費用を全額負担し、残り対策費については国と都が折半することで一致した。負担額は国が560億円、都が400億円、合計960億円を支出する。
 選手の検査体制の整備や組織委員会に設置する「感染症対策センター」などの経費は、大会の感染症対策の中心的な機能を果たすことから国が全額負担することになった。
 さらに、国は空港の検査などの水際対策やホストタウンへの支援を、560億円とは別に、各省庁で予算化するとしている。
 結局、国は延期費用の2割超の計710億円を負担することになり、関係者は「期待以上に国が出してくれる。納得できる額だ」とした。
 国が負担増に踏み切った背景には、大会開催後、外国からの観光客の受け入れを再開し、経済再生につなげたいという思惑があるという。
 政府関係者は「延期経費を巡って都と争えば、開催の機運そのものがしぼみかねない。迅速に合意する必要があった」と語り、大会開催への意気込みを示した。

 1030億円を負担する組織委は、すでに予算化されている予備費、270億円や、延期に伴う保険金、追加協賛金などで賄う。
 保険金については、大会が中止になった場合に備え加入していた限度額500億円が、保険会社と協議した結果、延期に要する費用として支払われることになった。
 スポンサー収入については、大会の延期が決まったあとから、追加協賛金の要請を行い、一定の追加収入は見込めることになったという。
 また、組織委員会が契約上、IOC=国際オリンピック委員会に支払うことになっているスポンサーからの協賛金の7.5%のロイヤリティが、3日、バッハ会長と協議した結果、追加協賛金については免除となったことも貢献している。
 しかし、組織委員会の収入の柱である追加協賛金について、スポンサーの協力が得られて十分に集められるかを懸念が大きく、また900億円を見込んでいるチケット収入がコロナ対応で先行きが不透明で、コロナ禍で財政状況が悪化にした東京都のこれ以上の支援も難しく、組織委員会の苦境は続く。
 今回の合意を受けて、組織委員会では12月末に全体の開催費予算、V5を公表するとしている。


出典 TOKYO2020


東京五輪大会、1年延期 来年7月23日開幕 パラは8月24日 聖火リレー中止 破綻寸前「3兆円のレガシー」


竣工した国立競技場 筆者撮影





1兆3500億円を維持 組織委予算 V4
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。
 2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費、約8100億円を加えると、「五輪開催経費」は「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。


出典 2020東京五輪大会組織委員会



五輪関連支出、1兆600億円 会計検査院指摘 五輪開催経費3兆円超へ
 2019年12月4日、会計検査院は2020年東京五輪・パラリンピックの関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめ、国会に提出した。この中には政府が関連性が低いなどとして、五輪関連予算に計上していない事業も多数含まれている。検査院は、国民の理解を得るためには、「業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表に努めるべき」とし、「大会終了後のレガシーの創出に努めること」と指摘した。

 2018年10月、会計検査院は政府の2020東京五輪大会についての「取組状況報告」に記載された286事業を調査して初めて「五輪関連経費」の調査結果を明らかにして、2017年度までの5年間に国は約8011億円を支出したと指摘した。しかし、大会組織委員会が公表したV3予算では国の負担額は約1500億円、その乖離が問題になった。
 今回、会計検査院が指摘した関連支出額は、前回指摘した8011億円から2018年度の1年間で約2580億円増え、約1兆600億円になったとした。
 大会組織員会では、2018年12月、総額1兆3500億円のV3予算を明らかにしている。それによると、大会組織委員会6000億円、東京都6000億円、国1500億円とし、1兆3500億円とは別枠で予備費を最大3000億円とした。
 東京都は、V3予算とは別に「五輪開催関連経費」として約8100億円を支出することを明らかにしているため、約1兆600億円も合わせると、すでに「五輪関連経費」の総額は約3兆円を優に上回ることが明らかになった。

 これに対して、内閣官房の大会推進本部は指摘された8011億円について、大会への関連度を3段階で分類し、Aは「大会に特に資する」(約1725億円)、Bは「大会に直接資する金額を算出することが困難」(約5461億円)、Cは「大会との関連性が低い」(約826億円)と仕分けし、「五輪関連経費」はAの約1725億円だけだと反論し、残りの「B・C分類」は本来の行政目的の事業だとして、関連経費には計上しないとした。
 その後2019年1月、内閣官房の大会推進本部は、約1380億円を「五輪関連経費」と認め、V3予算で計上している新国立競技場の整備費など約1500億円を加えた約2880億円が国の「五輪関連経費」の範疇だとした。それにしても会計検査院が指摘した1兆600億円との隔たりは大きい。

 1兆600億円の内訳は、約7900億円が「大会の準備や運営経費」として、セキュリティー対策やアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れ、暑さ対策・環境対策、メダル獲得にむけた競技力強化などの経費で占められている。この内、暑さ対策・環境対策が最も多く、2779億円、続いてアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れが2081億円となっている。
 2018年度はサイバーセキュリティー対策やテロ対策、大会運営のセキュリティ対策費の支出が大幅に増え、2017年度の倍の約148億円に上った。
 また今回も公表されていない経費が明らかになった。警察庁が全国から動員する警察官の待機施設費用として約132億円が関連予算として公表していなかったと指摘した。
 さらに会計検査院は大会後のレガシー(遺産)を見据えた「大会を通じた新しい日本の創造」の支出、159事業、約2695億円を「五輪関連経費」とした。
 被災地の復興・地域の活性化、日本の技術力の発信、ICT化や水素エネルギー、観光振興や和食・和の文化発信強化、クールジャパン推進経費などが含まれている。
 こうした支出はいずれも政府は「五輪関連経費」として認めていないが、政府予算の中の位置づけとしては「五輪関連予算」として予算化されているのである。
 問題は、「五輪便乗」予算になっていないかの検証だろう。東日本大震災復興予算の使い方でも「便乗」支出が問題になった。次世代のレガシーになる支出なのか、無駄遣いなのかしっかり見極める必要がある。

 その他に国会に報告する五輪関連施策に記載されていないなどの理由で非公表とされた支出も計207億円あったという。検査院はオリパラ事務局を設置している内閣官房に対し、各府省から情報を集約、業務内容や経費を把握して公表するよう求めた。
 内閣官房は「指摘は五輪との関連性が低いものまで一律に集計したものと受け止めている。大会に特に資する事業についてはしっかりと整理した上で分類を公表していきたい」としている。






出典 会計検査院


「レガシー経費」は「五輪開催経費」
 国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市に対して、単に競技大会を開催し成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求め、開催都市に対して、レガシー(Legacy)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けている。
 レガシーを実現する経費、「レガシー経費」は、開催都市に課せられた「五輪開催経費」とするのが当然の帰結だ。
 五輪大会は、一過性のイベントではなく、持続可能なレガシー(Legacy)を残さなければならないことが開催地に義務付けられていることを忘れてはならない。
 政府は「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(Bカテゴリー)は「五輪開催経費」から除外したが、事業内容を見るとほとんどが「レガシー経費」に入ることが明らかだ。
 気象衛星の打ち上げ関連費用も首都高速などの道路整備費も水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費も、ICT化促進や先端ロボット、自動走行技術開発、外国人旅行者の訪日促進事業、日本文化の魅力発信、アスリート強化費、暑さ対策、バリアフリー対策、被災地の復興・地域活性化事業、すべて2020東京大会のレガシーとして次世代に残すための施策で、明らかに「レガシー予算」、「五輪開催予算」だろう。被災地関連予算も当然だ。2020東京五輪大会は「復興五輪」を掲げているのである。

 一方、新国立競技場は「大会の準備、運営に特に資する事業」に分類し、「五輪開催経費」だとしている。しかし、国立競技場は大会開催時は、開会式、閉会式、陸上競技などの会場として使用されるが、その期間はわずか2週間ほどである。ところが新国立競技場は大会開催後、50年、100年、都心中心部の「スポーツの聖地」にする「レガシー」として整備するのではないか。 
 国の「五輪開催経費」仕分けはまったく整合性に欠け、ご都合主義で分類をしたとしか思えない。五輪大会への関与の濃淡で、恣意的に判断をしている。「レガシー経費」をまったく理解していない姿勢には唖然とする。
 東京都が建設するオリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場なども同様で、「レガシー経費」だろう。

 通常の予算では通りにくい事業を、五輪を「錦の御旗」にして「五輪開催経費」として予算を通し、膨れ上がる開催経費に批判が出ると、その事業は五輪関連ではなく一般の行政経費だとする国の省庁の姿勢には強い不信感を抱く。これでは五輪開催経費「隠し」と言われても反論できないだろう。
 2020東京大会のレガシーにする自信がある事業は、正々堂々と「五輪開催経費」として国民に明らかにすべきだ。その事業が妥当かどうかは国民が判断すれば良い。
 東京都は、「6000億円」のほかに、「大会に関連する経費」として、バリアフリー化や多言語化、ボランティアの育成、「大会の成功を支える経費」として無電柱化などの都市インフラ整備や観光振興などの経費、「8100億円」を支出することをすでに明らかにしている。国の姿勢に比べてはるかに明快である。過剰な無駄遣いなのか、次世代に残るレガシー経費なのか、判断は都民に任せれば良い。

 「3兆円」、かつて都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用の総額だ。今回の会計検査院の指摘で、やっぱり「3兆円」か、というのが筆者の実感だ。いまだに「五輪開催経費」の“青天井体質”に歯止めがかからない。


肥大化批判に窮地に立つIOC
 巨額に膨らんだ「東京五輪開催経費」は、オリンピックの肥大化を懸念する国際オリンピック委員会(IOC)からも再三に渡って削減を求められている。
膨張する五輪開催経費は、国際世論から肥大化批判を浴び、五輪大会の存続を揺るがす危機感が生まれている。
巨大な負担に耐え切れず、五輪大会の開催都市に手を上げる都市が激減しているのである。2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。
2014年、IOCはアジェンダ2000を策定し、五輪改革の柱に五輪大会のスリム化を掲げた。そして、2020東京五輪大会をアジェンダ2000の下で開催する最初の大会として位置付けた。
 「東京五輪開催経費」問題でも、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。「開催経費3兆円超」とされては、IOCは面目丸潰れ、国際世論から批判を浴びるのは必須だろう。
 こうした状況の中で、「五輪開催経費」を極力少なく見せようとするIOCや大会組織委員会の思惑が見え隠れする。
 その結果、「五輪経費隠し」と思われるような予算作成が行われているという深い疑念が湧く。
 V3「1兆3500億円」は、IOCも大会組織委員会も死守しなければならい数字で、会計検査院の国の支出「1兆600億円」の指摘は到底受け入れることはできない。
 「五輪開催経費」とは、一体なになのか真摯に議論する姿勢が、IOCや大会組織委員会、国にまったく見られないのは極めて残念である。

どこへ行った「コンパクト五輪」
 筆者は、五輪を開催するためのインフラ整備も、本当に必要で、大会後のレガシー(遺産)に繋がるなら、正々堂々と「五輪開催経費」として計上して、投資すべきだと考える。
 1964東京五輪大会の際の東海道新幹線や首都高速道路にように次の世代のレガシー(遺産)になる自信があるなら胸を張って巨額な資金を投資して整備をすれば良い。問題は、次世代の負担になる負のレガシー(負の遺産)になる懸念がないかである。また「五輪便乗」支出や過剰支出などの無駄遣いの監視も必須だろう。そのためにも「五輪開催経費」は、大会への関連度合いの濃淡にかかわらず、国民に明らかにしなければならい。
 2020東京五輪大会は招致の段階から、「世界一コンパクトな大会」の理念を掲げていた。大会の開催運準備が進む中で、開催経費はあっという間に、大会組織員会が公表する額だけでも1兆3500億円、関連経費も加えると3兆円を超えることが明らかになった。
 新国立競技場の建設費が3000億円を超えて、白紙撤回に追い込まれるという汚点を残したことは記憶に新しい。「錦の御旗」、東京五輪大会を掲げたプロジェクトの予算管理は往々にして甘くなる懸念が大きく、それだけに経費の透明性が求められる。
 2020年度の予算編成が本格化するが、まだまだ明るみに出ていない「五輪開催経費」が次々に浮上するに違いない。全国の警察官などを動員する史上最高規模の警備費やサイバーセキュリティー経費などは千億円台になると思われる。さらに30億円から最大100億円に膨れ上がるとされている暑さ対策費や交通対策費も加わる。一方、7道県、14の都外競技場の仮設費500億円は計上されているが350億円の警備費や輸送費(五輪宝くじ収益充当)、地方自治体が負担する経費は計上されていない。マラソン札幌開催経費もこれからだ。最早、「3兆円」どころか最大「4兆円」も視野に入っている。
 「コンパクト五輪」の理念は一体どこへ行ったのか。


東京都 五輪関連経費 8100億円計上
 2018年1月、東京都は新たに約8100億円を、「大会関連経費」として計上すると発表した。これまで公表していた「大会経費」の1兆3500億円、これで五輪開催経費は総額で約2兆1600億円に達することが明らかになった。
 「大会関連経費」の内訳は、バリアフリー化、や多言語化、各種ボランティアの育成・活⽤、教育・⽂化プログラムなどや都市インフラの整備(無電柱化等)、観光振興、東京・日本の魅力発信などである。
 問題は、膨張した五輪開催経費を削減するためのこれまでの東京都、国、組織委員会の取り組みが一瞬にして消え去ったことである。「コンパクト五輪」の約束は一体、どこにいったのだろうか。
 未だに明らかにされていない国の五輪開催経費も含めると3兆円は優に超えることは必至だろう。
 依然として五輪開催経費の「青天井体質」に歯止めがかからない。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

五輪開催経費(V3) 1兆3500億円維持 圧縮はできず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 2017年5月、IOCの調整委員会のコーツ委員長は10億ドル(約1100億円)の圧縮し、総額を1兆3000億円以下にすることを求めたが、これに対し大会組織委の武藤敏郎事務総長はV3ではさらに削減に努める考えを示していた。
 しかし開催計画が具体化する中で、金額が明らかになっていないためV2では計上していなかった支出や新たに生まれた項目への支出が増えたとして、「圧縮は限界」として、V2予算と同額にした。
 
 支出項目別で最も増えたのは組織委負担分の輸送費(350億円)で、選手ら大会関係者を競技会場や練習会場へ輸送するルートなどが決まったことで計画を見直した結果、100億円増となった。一方で、一度に多くの人が乗車できるよう大型車に変更するなど輸送の効率化も図ったとしている。
 また、交通費相当で1日1000円の支給が決まったボランティア経費増で管理・広報費は50億円が増え、さらに猛暑の中で食品を冷やし、安全に運ぶためのオペレーション費も50億円が増えて支出の増加は合わせて200億円となった。
 これに対して収入は、国内スポンサー収入が好調で、V2と比較して100億円増の3200億円となった。しかし、V2予算では、今後の増収見込みとして200億円を計上していたため、100億円の縮減となり、収支上では大会組織員会の収入は6000億円でV2と同額となっている。
 支出増の200億円については、新たな支出に備える調整費などを200億円削減して大会組織委員会の均衡予算は維持した。
 1兆3500億円の負担は、大会組織委員会と東京都が6000億円ずつ、国が1500億円とする枠組みは変えていない。
 しかし、酷暑対策費や聖火台の設置費、聖火リレーの追加経費、さらに今後新たに具体化する経費は盛り込まれておらず、今後、開催経費はさらに膨らむ可能性が大きい。組織委は今後も経費削減に努めるとしているが、「数百億円単位、1千億円単位の予算を削減するのは現実的に困難」としている。
 
 さらに問題なのは、11月に会計検査院が国の五輪関連経費の支出はこの5年間で「8011億円」と指摘したことについて、「支出と予算と枠組みが違うし、費目の仕分けが違う」と苦しまぐれの言い訳をしてV3の予算編成では無視をしたことである。膨れ上がる開催経費への批判には耳をかさない姿勢は大いに問題で、開催経費の透明性と説明性がまったく確保されていない。
 会計検査院のこの指摘に対し、桜田五輪担当相は、この5年間で53事業、「1725億円」は五輪関連経費とすることができるとしたが、「1725億円」をV3予算ではまったく反映していない。V2予算では国の負担は「1500億円」としていたが、増加分の「225億円」をV3予算で計上しなかった。また、会計検査院が指摘には含まれていないが、大会に直接関連する事業として国立代々木競技場など5施設の整備や改修のための国庫補助金を直近5年間で約34億円支出したと明らかにしたがこれも参入していない。
 国は「8011億円」の内、5461億円は、道路工事や燃料電池自動車補助費など「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」とした。いわばグレーゾーンの支出で、「算出が困難」だから五輪関連経費としないというきわめて乱暴な仕分けだ。
 5461億円の中には、選手・観客の酷暑対策(厚生省)、競技場周辺の道路輸送インフラの整備やアスリート、観客らの円滑な輸送および外国人受け入れのための対策(国土交通省)、サイバーセキュリティー対策(警察庁)、メダル獲得に向けた競技力向上(文科省)など五輪関連予算として参入するのが適切な事業も多いと思われるが、それを照査する姿勢が大会組織員会や国にまったくない。「五輪開催経費」が一挙に、数百億円、千億円単位で膨らむのを恐れたのだろう。
 大会組織員会にとって、膨れ上がる開催経費への世論の批判をかわすために、「1兆3000億円」を大幅に上回る予算を組むことはあり得なかった。会計検査院の指摘で「五輪開催経費」隠しが明るみになった。

 実は、五輪関連経費の中で、計上されていない膨大な経費がある。警備費である。
 会場内や会場周辺の警備費は大会組織委が計上しているが、空港や主要交通機関、繁華街、主要官庁、重要インフラなどの警備費は未公表である。 2016年6月に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、開催費の総額は約600億円、その内半分以上の約340億円は警備費、サミット開催は2日間だが、オリンピック・パラリンピックは合わせて30日間、大会開催期間中の警備費は数千億に及ぶだろう。こうした警備は通常の警備体制ではなく大会開催のための特別臨時警備である。東京2020大会の警備費も五輪関連経費として明らかにするのが筋である。
 国や東京都の2020年度の予算編成ではこうした経費が顕在化することになるだろう。しっかり監視しないと「五輪経費隠し」が横行する懸念が残る。
 五輪開催経費について重要なのは「透明性」と「妥当性」の確保だろう。一体総額でいくらになるのか国民に明らかにしないのが問題なのである。
 
 「1兆3500億円」について、大会組織委の武藤事務総長は、「今後も大会が近づくにつれて新たな歳出が生じることがあると想定されるが、全体として6000億円を超えないように経費削減に向けて最大限の努力を行う」というコメントを出した。
 大会開催まであと600日を切り、開催準備の正念場、さらに支出が増えるのは必至だろう。今後、V3予算では計上することを先送りにした支出項目も明らかになると思われる。また「暑さ対策」や「輸送対策」などの重要課題が登場し、「1兆3500億円」を守るのも絶望的だ。







組織委員会予算V3   東京2020大会組織委員会

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国の支出「8011億円」組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘
政府 国の支出は「2197億円」と反論 止まない経費隠蔽体質!


五輪開催経費 1兆3500億円 350億円削減 組織委V2予算
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、今年5月に国や東京都などと合意した経費総額から更に350億円削減し、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 2016年末のV1予算では総額を1兆5000億円(予備費を含めると最大で1兆8000億円)としていたが、2017年5月には1兆3850億円に縮減することを明らかにした。これに対してIOC調整委員会のコーツ委員長は、さらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めていた。組織委の武藤敏郎事務総長は、来年末発表するV3ではさらに削減に努める考えを示した。




東京都の五輪施設整備費 1828億円 413億円削減
 2017年11月6日、東京都は新たに建設する8つ競技会場の整備費は合計1828億円で、これまでの2241億円から413億円削減すると公表した。
 五輪施設整備費は、五輪招致後の策定された当初計画では4584億円だったが、2014年11月、舛添元都知事が経費削減乗り出し、夢の島ユース・プラザ゙・アリーナA/Bや若洲オリンピックマリーナの建設を中止するなど2241億円に大幅に削減した。
 2016年夏、都知事に就任した小池百合子氏は、五輪施設整備費の「見直し」に再び乗り出し、「オリンピック アクアティクスセンター」(水泳)、「海の森競技場」(ボート/カヌー)、「有明アリーナ」(バレーボール)の3競技場は、合計2125億円の巨費が投じられるとして再検討に取り組んだ。とりわけ「海の森競技場」は、巨額の建設費に世論から厳しい批判を浴び、「見直し」対象の象徴となった。
 小池都知事は都政改革本部に調査チーム(座長上山信一慶応大学教授)を設置し、開催計画の“徹底”検証を進め、開催費総額は「3兆円を超える可能性」とし、歯止めがなく膨張する開催費に警鐘を鳴らした。そして3競技場の「見直し」を巡って、五輪組織員会の森会長と激しい“つばぜり合い”が始まる。
 一方、2020年東京大会の開催経費膨張と東京都と組織委員会の対立に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)は、2016年末に、東京都、国、組織委員会、IOCで構成する「4者協議」を開催し、調停に乗り出した。
 「4者協議」の狙いは、肥大化する開催経費に歯止めをかけることで、組織委員会が開催経費の総額を「2兆円程度」としたが、IOCはこれを認めず削減を求め、「1兆8000億円」とすることで合意した。しかし、IOCは“更なる削減”を組織委員会に強く求めた。
 小池都知事は、結局、焦点の海の森競技場は建設計画は大幅に見直して建設することし、水泳、バレーボール競技場も見直しを行った上で整備することを明らかにし、「アクアティクスセンター」(水泳)は、514~529億円、「海の森水上競技場」(ボート/カヌー)は 298億円、「有明アリーナ」(バレーボール)は339億円、計1160億円程度で整備するとした。

 今回、公表された整備計画では、小池都知事が見直しを主導した水泳、バレーボール、ボート・カヌーの3競技会場の整備費は計1232億円となり、「4者協議」で公表した案より約70億円増えた。
 「アクアティクスセンター」では、着工後に見つかった敷地地下の汚染土の処理費38億円、「有明アリーナ」では、障害者らの利便性を高めるためエレベーターなどを増設、3競技場では太陽光発電などの環境対策の設備費25億円が追加されたのが増加した要因である。
 一方、経費削減の努力も見られた。
 「有明テニスの森」では、一部の客席を仮設にして34億円を減らしたり、代々木公園付近の歩道橋新設を中止したりして23億円を削減した。
 この結果、計413億円の削減を行い、8つ競技会場の整備費は合計1828億円となった。
 五輪大会の競技場整備費は、当初計画では4584億円、舛添元都知事の「見直し」で2241億円、そして今回公表された計画では1828億円と大幅に削減された。

 新たな競技場の整備費が相当程度削減されたことについては評価したい。
 しかし最大の問題は、“五輪開催後”の利用計画にまだ疑念が残されていることである。
 海の森競技場では、ボート/カヌー競技大会の開催は果たしてどの位あるのだろうか。イベント開催を目指すとしているが成果を上げられるのだろうか。
 「アクアティクスセンター」は、すぐ隣に「辰巳国際水泳場」に同種の施設があり過剰な施設をどう有効に利用していくのか疑念が残る。
 さらに8つの競技場の保守・運営費や修繕費などの維持費の負担も、今後、40年、50年、重荷となってのしかかるのは明らかである。
 小池都知事は、膨張する五輪開催経費を「もったいない」とコメントした。
 8つの競技会場を“負のレガシー”(負の遺産)にしないという重い課題が東京都に課せられている。



青天井? 五輪開催経費 どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる操作が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、「大会成功」いう大義名分が先行して、青天井になることが往々にして起きる。
 新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
 東京2020大会のキャッチフレーズ、「世界一コンパクな大会」の開催理念はどこへ行ったのか。


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 V1予算公表 四者協議トップ級会合


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大で1兆8000億円(予備費、最大で3000億円を含む)になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。



 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのはドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。







開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。















海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンターを観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さす、12月のクリスマス前まで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場はボート・カヌー競技の事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事もこれを歓迎するとした。
 海の森水上競技場は当初の491億円から298億円前に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで、東京都では683億円から514~529億円に削減されると試算している。

 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円を切る」との見通しを示し、「これを上限としてこれ以下に抑える」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。削減の余地が残っている。2兆円よりはるかに下でできる」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。さらにコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と強調した上で、「IOCが2兆円という額に同意したと誤解してほしくない」と了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


小池都知事と上山特別顧問 4者協議トップ級会合 筆者撮影

東京2020大会 四者協議トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長



都政改革本部調査チーム アクアティクスセンターの整備計画大幅な見直しを提言
 調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

世界に「恥」をかいた東京五輪ガバナンスの欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の「見直し」に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費298億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、「仮設レベル」最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には“唖然”とする。「69億円」は“杜撰”を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも“唖然”だ。やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外にも同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それははっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%弱程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円5000億円は、国、都、関係地方自治体が負担するという計算になる。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 12月2日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


オリンピック アクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局
 


五輪開催費用「3兆円超」 都調査チーム推計
 「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」
 2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チーム座長の上山信一慶応大学教授はこう切り出し、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池都知事に提出した。
 大会経費は、新国立競技場整備費(1645億円)、都の施設整備費(2241億円)、仮設整備費(約2800億円)、選手村整備費(954億円)に加えて、ロンドン五輪の実績から輸送費やセキュリティー費、大会運営費などが最大計1兆6000億円になると推計。予算管理の甘さなどによる増加分(6360億円程度)も加味し、トータルで3兆円を超えると推計した。 招致段階(13年1月)で7340億円とされた大会経費は、その後、2兆円とも3兆円とも言われたが、これまで明確な積算根拠は組織委員会や国や東京都など誰も示さず、今回初めて明らかにされた。
 調査チームは「招致段階では本体工事のみ計上していた。どの大会でも実数は数倍に増加する」と分析。その上で、物価上昇に加えて、国、都、組織委の中で、全体の予算を管理する体制が不十分だったことが経費を増加させたと結論付けた。 


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書

都政改革本部 「海の森」「アクアティクスセンター」「有明アリーナ」の整備見直しを提言


オリンピックの“感動”は競技場からは生まれない
 2016年8月に行われたリオデジャネイロ五輪、日本選手の活躍に大いに沸き、感動を残した。
感動を残したのは、マツタカペアの金メダル、女子卓球団体で銅メダルを手にした“愛ちゃん”、伊調選手の5連覇、水泳陣の活躍、そして男子400目メートルリレーの銀メダル、アスリートたちの活躍だ。
 しかし、陸上競技場やオリンピックプール、バドミントンや卓球、レスリングの競技場の施設がどんな建物だったか記憶にある人はいるのだろうか。オリンピックで感動を与えるのは競技場ではない。
 北京五輪のオリンピックスタジアムとして「鳥の巣」が建設された。そのユニークなデザインと壮大な規模に世界は目を見張った。しかし、立派な施設を造ったなと感心はしたが、感動した人はだれもいないだろう。「鳥の巣」は、直後は観光の名所になったが、その後は競技会の開催も少なく、閑散としているという。北京市は施設の維持管理費の重荷に悩まされている。「世界で一番をめざそう!」というキャッチフレーズで始まった新国立競技場の建設計画は迷走に迷走を重ねたうえ、挫折したのは記憶に新しい。ザハ・ハディド氏の斬新な流線形のデザインは確かに目を見張るものがあった。しかし、当初予算の約1300億円を大幅に超える3000億円超に膨れ上がった建設費は国民から拒否された。
 東京オリンピック・パラリンピックが開催されるのは、わずか30日間、大会後に膨大な次世代への負担を残すのは無責任だろう。
 やはり東京オリンピック・パラリンピックは「負のレガシー」を残すことになるのだろうか。


月刊ニューメディア(2016年10月号)掲載 加筆



2016年10月1日  初稿
2020年12月5日  改訂
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廣谷  徹
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都政改革本部 3施設の見直し提言

2020年03月24日 16時16分42秒 | 東京オリンピック

都政改革本部 3施設の整備見直し提言
 ボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」は、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」だとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。「復興五輪」の理念にも合致するとしている。
 観客席2万席で設計した水泳会場「オリンピックアクアティクスセンター」は、大会後に74億円をかけて5000席に減らす計画を疑問視し、規模縮小や近くにある「東京辰巳国際水泳場」の活用の検討を提言した。バレーボール会場の「有明アリーナ」は、規模縮小のほか、展示場やアリーナの既存施設の活用を提案した。「有明アリーナ」については、既存施設の「横浜アリーナ」への変更を検討していることが報道されている。
仮設施設整備については、約2800億円に膨れ上がった整備について、国や組織委、東京都の費用負担の見直しにも言及し、都内に整備する仮設施設の内、最大1500億円は都が負担し、都外については「開催自治体か国」が負担するよう提言した。
 また東京都は、組織委に58億5000万円の拠出金を出し、245名もの東京都職員を出向させていることから、組織委を「管理団体」にするなど、都の指導監督を強化する必要性も指摘した。
これに対し、森組織委会長は、「IOCの理事会で決まり総会でも決まっていることを日本側からひっくり返すということは極めて難しい問題」と述べた。
 また海の森水上競技場については、「宮城県のあそこ(長沼ボート場 登米市)が良いと報道にも出ているが我々も当時考えた。しかし選手村から三百何十キロ離れて選手村の分村をつくることはダメなことになっているし経費もかかる。また新しい地域にお願いすればみんな喜ぶに決まっているが、金をどこから出すのか。東京都が代わりに整備するのか。それはできないでしょう法律上」と語った。
 一方、IOCのバッハ会長は、東京五輪の開催費用の増加について、「東京における建設費の高騰はオリンピック計画だけでなく、東日本大震災からの復興などそのほかの理由もあるだろう」とし「建設的な議論をしたい」として柔軟に対応する姿勢で、今後東京都や組織委員会と協議を始める意向を示した。



“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」


2020年1月1日
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新型肺炎 収束期間 五輪開催までに終息しない可能性

2020年03月20日 08時12分29秒 | 東京オリンピック



SARSの感染拡大から終息宣言まで約9か月 五輪開催までに新型肺炎は収束しない可能性
 SARSは2002年11月16日に、中国南部広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたの最初で、北半球のインド以東のアジアとカナダを中心に、世界32の地域や国々へ拡大し、感染者数は全世界で8000人を超えた。 
 初期初期には、中国国内で305人の患者(死亡例5人)が発生し、2003年3月 の始めには旅行者を介して、海外に感染が拡大してベトナムのハノイ市での院内感染や、香港での院内感染を引き起こした。
 2002年3月12日、WHOは、全世界に向けて異型肺炎の流行 に関する注意喚起(Global Alert)を発し、本格的調査を開始した。3月15日には、原因不明の重症呼吸器疾患としてsevere acute respiratory syndrome(SARS)と名づけ、「世界規模の健康上の脅威」と位置付けて、異例の旅行勧告も発表した。2003年4月16日、WHOは、起因病原体、新型SARSコロナウイルス(SARS-CoV)を特定した。
 WHOが終息宣言を出したのは2003年7月5日、最初に患者が発見されてから、約9カ月、「Global Alert」を出してから、約4カ月後だった。
 2003年12月31日時点のデータによれば、報告症例数は、2002年11 月〜2003年8月に中国を中心に8,096人で、うち774人が死亡している。1,707人(21%)の医療従事者の感染が示すように、医療施設、介護 施設などヒト−ヒトの接触が密な場合に、集団発生の可能性が高いことが確認されている。


新型コロナウイルス(2019-nCoV)  出典 世界保健機構(WHO) News

 これに対して、今回の新型コロナウイルスは中国・武漢市で感染が広まった。
 武漢市の当局によると、市内で原因不明の肺炎患者が最初に見つかったのは2019年12月8日。その後、発熱や呼吸困難を訴える市民が相次ぎ、専門家グループは2020年1月9日に新型コロナウイルスが検出されたことを発表した。
 市内の海鮮市場で働いている人や訪れた人から感染者が多く見つかったことから、市場で扱われていた動物から感染した可能性が指摘されている。同じくコロナウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)やSARSのようにコウモリが自然宿主で、ヘビやネコ、ネズミなどなんらかの動物を介してヒトに感染した可能性が排除できなとした。
 その後、感染拡大が進み進み、1月11日、武漢市の当局は新型コロナウイルスによる患者は41人に上り、61歳の男性が死亡(1月9日)したことを明らかにした。また夫妻で肺炎を発症した症例で、夫は海鮮市場で働いていたが、妻は市場には行っていないと証言していることから、ヒトからヒトへの感染拡大の可能性があるとした。1月15日、武漢市からの報告を受けてWHOも、患者から新型コロナウイルス(2019-nCoV)を検出したことを確認して、家族間など限定的だがヒトからヒトに感染する可能性を警告した。
 中国政府には、2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の苦い経験がある。初動の遅れもあり、WHOの報告によると、29の国・地域に感染が拡大し、 中国政府には、2002~03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の苦い経験がある。初動の遅れもあり、WHOの報告によると、29の国・地域に感染が拡大し、感染者は8,096人に上り、少なくとも774人が死亡した。
 しかし、WHOは、しばらく、感染拡大は限定的であるとして、国際的に懸念される緊急事態(PHEIC)の宣言は出さずに注意喚起に留まった。
 その間に感染拡大が世界的に急速に進み、中国以外22の国と地域で9825人上った。
 WHOがようやく「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)」を宣言したのは2020月1月30日である。
 緊急事態宣言が出るのは、昨年、コンゴ民主共和国で発生したエボラ出血熱で出されて以来6例目である。
 記者会見したWHOのテドロス・アダノム事務局長は「この数週間で前例のない感染拡大に直面している」と述べ、中国以外でも感染の拡大が止まらないことを判断理由に挙げた。
 しかし、WHOは人の移動や貿易の制限などの勧告には踏み込まず各国に冷静な対応を呼びかけた。偏見や差別を助長する過剰な対応には慎重であるべきだとの見解を示した。しかし、宣言を受け、各国は感染拡大に警戒を強める動きが広がり、中国との往来を禁じたり制約したりする動きが一気に広がった。


新型コロナウイルスの緊急事態宣言を発表するテドロス・アダノムWHO事務局長 (2020年1月30日)   出典 WHO Twitter

 今回の新型コロナウイルスとSARSでは、ウイルスの種類が違いうので必ずしも同列にはできないが、SARSを参考にすると、収束まで最長9カ月を要し、収束するのは「2020年8月」となる。
 2020東京五輪大会の開催期間は、7月24日から8月9日まで、新型コロナウイルスの感染の収束はまだ終わっていない懸念がある。
 世界各国から選手や大会関係者を始め、数百万人の観戦者が来日する。競技会場は数万人の人混みで大混雑、仮に新型コロナウイルスの収束が終わっていない場合には、果たして予定通り、五輪大会を開催できるのだろうか。



新型肺炎感染拡大 東京五輪大会に危機

ジカ熱感染拡大、WHO、緊急事態宣言 ゴルフ選手やテニス選手が不参加



2020年3月20日
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ジカ熱 リオデジャネイロ五輪 

2020年03月13日 15時59分38秒 | 東京オリンピック
ジカ熱、WHO、緊急事態宣言 新生児に小頭症の懸念
 2016年2月1日、ブラジルや中南米を中心に蚊が媒介する感染症「ジカ熱」の拡大を受けて、世界保健機関(WHO)が緊急事態を宣言した。新生児の小頭症との関連が疑われており、妊婦の感染に強く注意を促している。 
 そしてこれから夏を迎える北半球にも感染地域が広がるリスクがあると警告をした。
 ジカ熱は感染者に手足のまひや筋力低下をもたらす神経疾患「ギラン・バレー症候群」を発症させる可能性がある。さらに深刻なのは、ジカ熱に感染した妊婦が出産すると、生まれて生きた新生児が小頭症になる可能性が疑われていることだ。これらの病気とジカ熱の関わりを科学的に証明するのは未だにできないままでいる。WHOは今後1年で最大400万人の感染者が出ると警告している。ワクチンや治療法、簡易な診断法もまだない。
 ブラジルでは昨年からジカ熱の流行が拡大。同時に小頭症の新生児が相次いで生まれるようになった。小頭症と確認されたり疑いがあるとされたりしたのは、2015年10月以降だけで北東部ペルナンブコ州の州都レシフェではブラジル国内で最も多くの感染者が発生されているが、ペルナンブコ州では小頭症と確認されたり疑いがあるとされたりした症例が、2015年10月以降だけで国内最多の1312件に上り、ブラジル国内全体では4000件以上とされている。
 レシフェ市内のある病院では、昨年以降、小頭症の新生児約300人が運び込まれた。レシフェはブラジルでも有数の大都市で、この病院には各地から患者がやってくる。担当医師よると、小頭症の新生児が特に増えたのは昨年9月ごろから。それまで州全体でも小頭症の新生児は年に10人ほどだったが、一時は2週間で30人に達した。1日4人が運ばれたこともあったという。
 ジカ熱が原因とみられる小頭症には、これまでなかった特徴が明らかになり、「従来の小頭症は妊娠5カ月で診断できたが、8カ月になって初めてわかる場合もある。1度の検査だけで安全と言えなくなった」と担当医師は述べているという。

 広く感染が報告されている中南米では、リオデジャネイロ五輪開催を控えるブラジルやホンジュラスが非常事態を宣言するなど、世界各国が対策に動き出している。
 米疾病対策センター(CDC)は専門家チームを現地に派遣し、調査を開始したが。まだ断定はできないが、「ウイルス感染と小頭症の関連が強く示唆される」という。
 CDCによると、米国本土で確認されたジカ熱の発症者は今年1月時点で30人を超え、その後も増え続けている。ほとんどが中南米などで感染し、帰国後に感染が確認された。CDCは流行地域への渡航注意を発令し、特に妊婦は旅行を控えるよう呼びかけている。
 ジカ熱は、感染者との性交渉や輸血でも感染する可能性があることが指摘されている。CDCは、特に妊婦は、感染した可能性がある男性と性交渉する際には、コンドームの使用などを求めている。米赤十字社は、輸血の安全を確保するため、中南米などから帰国した人に対し、旅行後28日間は献血を控えるよう呼びかけている。

 一方、タイ保健省疾病対策局は2日、バンコクの病院でジカ熱に感染した22歳の男性が治療を受けていたことを明らかにした。またロイター通信によると、オーストラリアでも、ハイチから帰国した2人がジカ熱に感染していることが分かった。ニューサウスウェールズ州保健当局が2日、明らかにした。いずれも「感染の拡大はない」と冷静な対応を呼びかけている。

 2月5日に始まったリオデジャネイロのカーニバルでは、世界中から多くの人が集まることから感染拡大が危惧されている。8月には五輪開催も控え、ルセフ・ブラジル大統領は「蚊との戦争」を宣言。軍を動員して蚊の駆除にあたるなど、拡大阻止に全力を挙げている。

リオ五輪の延期を カナダの公衆衛生学の専門家
 こうした中で、カナダ・オタワ大のアミール・アタラン教授(公衆衛生学)は、ブラジルのリオデジャネイロ五輪は「延期するか、開催地を変更するべきだ」とする意見を、2016年5月、米学術誌「ハーバード・パブリックヘルス・レビュー」に寄稿した。
 ジカ熱は、妊婦が感染すると小頭症の赤ちゃんが生まれる原因になるとされ、大人にも手足のまひを起こすと考えられている。アタラン教授は「五輪で世界からさらに50万人の旅行者が訪れ、感染してウイルスを自国に持ち帰れば、世界的な大惨事になりかねない」と警告した。
 教授は過去に比べて2015年以降の流行では重症例が増え、「少し以前に考えられていたよりも危険な病気だ」と指摘。感染が深刻なのはブラジル北東部だとされているが、最新統計によれば、リオデジャネイロでの人口当たりの感染者数は全国で4番目に多く「中心的な流行地域だ」とした。


リオデジャネイロ五輪 ゴルフコース バラ地区 出典 Rio2016

ジカ熱感染拡大でゴルフ選手やテニス選手が不参加を表明
 ブラジルで流行するジカ熱への懸念から、ゴルフなどの競技でトップ選手が8月のリオデジャネイロ五輪への不参加を表明するケースが相次いだ。米国の競泳チームが7月の強化合宿を感染拡大地域のプエルトリコから変更するなど、各国選手団の直前の日程に影響を与えつつある。
 2016年6月、世界ランク4位のロリー・マキロイ選手(アイルランド)が、8月に開催されるリオ五輪に出場しない意向を表明した。マキロイは声明で「熟考を重ねた結果、リオデジャネイロで開催される夏のオリンピックから辞退することを決断した」とコメント。「近親者と話し、自分と家族の健康がなによりも優先されることを認識するにいたった。ジカ熱に感染するリスクは低いとされているが、それでもそれはリスクであり、そのリスクは取りたくない」と述べた。
 一方、松山英樹選手(日本)もブラジルなどで感染が拡大しているジカ熱などへの懸念を理由に、出場を辞退することを明らかにした。
 この中で松山選手は「ジカ熱もあるし、虫に刺されたときのアレルギー反応のしかたがまだよくなっていない。治安の問題もあるし、不安があるところではまだプレーは避けたほうがいいと思った」と、出場辞退の理由を説明した。
 この他 ジカ熱を理由にリオ五輪への不参加を表明したのは、アダム・スコット選手(オーストラリア)、ルイ・ウーストハイゼン選手(南アフリカ)、シャール・シュワルツェル選手(南アフリカ)、マーク・レイシュマン選手(オーストラリア)、ビジェイ・シン選手(フィジー)が、過密日程やジカ熱への懸念などを理由に五輪辞退を表明している。
 ジカ熱は新生児の小頭症や、感染者本人に手足のまひを伴う病気「ギラン・バレー症候群」を引き起こす可能性が指摘されている。ブラジル当局によれば、リオデジャネイロ州の感染者数は全国でも最上位クラス。WHOは妊婦のリオへの渡航を控えるよう警告しており、特に各国代表の女子選手の動向に影響を与えそうだ。
 陸上女子七種競技でロンドン五輪金メダルの英国のジェシカ・エニス・ヒル(30)も、ブラジルでの直前合宿の中止を計画。コーチは「今後も子供が欲しいと思っている」と報道陣に理由を説明した。
 ロイター通信によると、米当局は米国内で279人の妊婦がジカ熱に感染していると発表。うち122人は米自治領プエルトリコで、米競泳代表チームは予定していた直前合宿先をアトランタに変更した。
 テニスのトップ選手の出場辞退も相次いでいる。
 ウィンブルドンで自身初の決勝進出を果たしたラオニッチ(カナダ)や、女子で世界ランク5位のハレプ(ルーマニア)はジカ熱への懸念を理由に出場辞退を発表した。
 またウィンブルドンでベスト4進出したベルディヒは、3大会連続で五輪に出場していたが今回は出場を辞退した。
 その他ティエムやイズナー(アメリカ)、キリオス(オーストラリア)、ガスケ(フランス)も不参加を表明した。

ジカ熱、感染疑い12万人に 
 2016年5月、ブラジル保健省によると、今年1~4月下旬までにジカウイルス感染症(ジカ熱)に感染した疑いがある人が約12万人に達したことを明らかにした。人口10万人あたりで58・8人の感染者数となるという。
 ブラジル国内で感染者が最も多いのは北東部バイーア州で約3万4000人。8月に五輪が開催されるリオデジャネイロ州は、2番目に多い約3万2000となっている。保健省によると、2015年10月以降に小頭症と確認されたのは1434人、3257人が小頭症の疑いがあるとして検査されている。
 しかし、リオ州によると、今年のジカ熱による死者数は5月末時点でゼロ。冬に入って発生件数も激減した。リオ市の調べでは、今年1月に7747件あったジカ熱の感染件数は、6月には510件に減り、ジカ熱の流行は終息に向かっているとした。
 一方、世界保健機関(WHO)は6月14日、リオ五輪について「現時点での評価では、(五輪を)中止したり開催地を変更したりしても、ジカ熱の国際的な流行にはほとんど変化を与えない」との声明を発表し、開催を容認する姿勢を明らかにした。

 南半球は今が冬で、最も気温が下がる季節だ。ブラジルのウイルスの専門家によると、「冬のリオは気温が低く、乾燥するため、蚊は少ない。感染の可能性はほとんどない」と話す。統計によると、リオで今年1月のジカ熱に感染者は7733人。気温が下がるに従って減少し、6月は510人に減った。
 五輪期間中にリオを訪れると予想される外国選手団や観光客は約50万人とされている。感染の仕組みを数学的に分析してきた専門家は、同じく蚊が媒介するデング熱感染者の過去の統計をもとに、「ジカ熱に感染する可能性があるのは、50万人のうちの25人。実際に症状が出るのは5人ほどだ」という。
 「確率的には、リオの街ではジカ熱に感染するよりも、銃撃戦の流れ弾で死亡したり、性的暴行を受けたりする可能性の方が高い」と述べている。(出典 2016年7月31日 朝日新聞)



新型肺炎感染拡大 東京五輪大会に危機



2020年3月10日
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東京五輪中止 フェイク情報拡散

2020年03月08日 11時59分57秒 | 東京オリンピック



「五輪中止」 フェイク情報拡散


BUZZAP 2019年1月29日

 DPA通信の報道を受けて、情報サイト「BUZZAP」(https://buzzap.jp/news/)は、「東京オリンピック中止か 新型肺炎対策でIOCとWHOが協議」という投稿を1月29日夜に掲載した。
 投稿の内容は以下である。
「東京オリンピックにまたしても暗雲が立ちこめ始めました。詳細は以下から。
 ドイツメディアの報道によると、国際オリンピック委員会(IOC)が世界保健機関(WHO)と連絡を取り合っていることをDPA通信が報じたそうです。
 これは新型コロナウイルスによる新型肺炎対策の一環で、あと半年に迫った東京オリンピックについて『感染症対策は、安全に大会を開催するための重要な要素』としています。
 なお、新型肺炎の発生を受け、サッカーやバスケットボールのオリンピック予選トーナメントが中国から移転済み。
 2002年11月に発生したSARSの終息が2003年7月までかかったこと、新型肺炎がSARSを上回る勢いで感染拡大していることを踏まえると、東京オリンピックに重大な影響が及ぶ可能性はあります。
 その場合、急ピッチで設立した新国立競技場や3兆円にも及ぶ莫大な投資は、無駄になってしまうのでしょうか……。」

 DPA通信が報じた内容は上記の通りで、あくまで「国際オリンピック委員会(IOC)が、東京五輪での新型コロナウイルスによる肺炎対策をめぐり、世界保健機関(WHO)と連絡を取って協議した」ということだが、「BUZZAP」の記事に掲載された「東京オリンピック中止か」という見出しがインパクトあった。
 この情報はまたたく間に拡散し、ツイッターでは5万件以上の関連投稿があり、「東京オリンピック中止」のキーワードはツイッターのランキング上で一時、トップ10入りをするなど注目を集めた。
 これに対し、大会組織委員会は、1月30日、「東京オリンピック中止」の情報を完全に否定した。
 国際オリンピック委員会(IOC)のマーク・アダムス広報担当は、「東京大会は引き続き関係機関と協力し、必要なあらゆる対策を検討する」との談話を発表した。


2020年3月1日
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東京オリンピック 水質汚染 トライアスロン お台場海浜公園 マラソンスイミング

2020年02月12日 17時15分49秒 | 東京オリンピック
水質汚染深刻 お台場海浜公園 トライアスロン・マラソン水泳




東京五輪大会「開催延期」へ 4週間以内に判断 IOC



ロケーション抜群 お台場海浜公園
 「お台場海浜公園」は、東京湾に数多くある海浜公園の中でNO1のロケーション。とにかく眺めは抜群。
 ここで五輪大会のトライアスロンやマラソンスイミング開催される。キャッチフレーズは「史上最も都会的コース」である。国際トラアスロン連盟は「お台場海浜公園」を会場にすることを熱望したという。 
 レインボーブリッジが目の前に広がり、対岸の都心の高層ビル街、東京タワー、晴れていると真っ青な空と海が広がる。海辺にはきれいな砂浜が続く。砂浜は人工的に造成されたものだ。向かいの島は、江戸時代末期、ペリー黒船襲来に備えて建設されたお台場の一つ、砲台が設置されていた。今は史跡になっている。とにかく最高のロケーション。
 夏には花火大会が開催されたり、今年の1月下旬には「お台場海浜公園」の会場に「五輪のシンボルマーク」を設置された。夜間はライトが点灯され、五輪大会のランドマークになっている。
 素晴らしいビーチだが、実は深刻な水質汚染問題を抱えている。
 レインボーブリッジ向こう側に隅田川の河口があり、大雨になると大量の未処理の下水道排水が東京湾に流れ込む。かつての東京湾の水質汚染の原因は工場排水だった。今は工場排水は規制が厳しく強化され、水質汚染の主役は、生活排水となった。
「お台場海浜公園」の海は下水道排水が原因の深刻な水質汚染に襲われている。


レインボーブリッジや都心の高層ビル街が見渡せる景観は素晴らしいが… 筆者 撮影 2018年11月

海水浴場として認められていない「お台場海浜公園」
 実は、「お台場海浜公園」は東京都の条例で、水質基準が満たされていないために、海水浴場として認められていないのである。
 海面に顔をつけて泳ぐのは禁止で、足だけを海水に入れるいわゆる「磯遊び」を楽しむ砂浜になっている。
 港区は、この「お台場海浜公園」を区民の憩いの海浜公園にしようと力を入れている。「泳げる海、お台場」の実現が悲願なのである。
 かつては貯木場だった入り江に、昭和40年代から海浜公園としての整備が行われ、1996年(平成8年)に現在の形でオープンした。
 2013年に東京が2020夏季五輪の開催地に選定され、お台場海浜公園でトラアスロンやマラソンスイミングの会場になることが決まると、港区ではお台場海浜公園の整備を更に加速した。
 2017年(平成29年)から毎年、夏の1週間程度、期間を区切って特別に海水浴場にするイベント、「お台場プラージュ」の開催を始めた。去年も8月10日から9日間開催し、砂浜は多くの市民でにぎわった。た。その他、トライアスロンなど特別なイベント開催時は、遊泳を認めている。
 しかし、港区の熱意は理解できるが、いかんせん、お台場の水質を改善しないことには、恒常的な海水浴場にはならない。
 そのためには、水質汚染の原因となっている隅田川から流れ込む未処理の水洗トイレなどの生活排水を止めないことには抜本的な解決にはならない。下水処理場の能力を改善して100%処理を達成することでしょう。
 「お台場海浜公園」は、水質問題という爆弾を抱えていたのである。


お台場海浜公園に掲示されている遊泳禁止の立て札 海水浴場として水質基準を満たしていない
「公園内で許可の無い」という追加の張り紙が張られていた  筆者 撮影 2018年11月

大腸菌が基準値を超えて中止になった五輪テストイベント 「トイレの臭い」がするという苦情も
 その懸念が、昨年の夏についに表面化した。 
 昨年の8月中旬、この「お台場海浜公園」を会場に、トライアスロンとパラトライアスロンのワールドカップ大会(W杯)、そしてマラソンスイミング(オープンウオータースイミング)が開催された。この大会は2020東京夏季五輪大会のテストイベントも兼ねていた。
 この内、パラトライアスロンは、競技海域の大腸菌の数が基準値を超えたとしてスイムは中止になってしまった。大会は自転車とラン(長距離走)のデュアスロンになった。
 前日に、温帯低気圧にかわった台風10号が首都圏を襲い大雨を降らした。
 隅田川沿いにある下水処理場の処理能力を上回り未処理の水洗トイレなどの生活排水が未処理で東京湾に流れ込んだ。東京都の下水道処理は、雨水(あまみず)と汚染水を分離しない合流式の処理システムなので、大雨が降って下水道処理場の処理能力が超えると、大量の汚染水を未処理で放出する。
 競技前日に主催者が行った水質調査では、国際トライアスロン連盟の基準値(100ミリリットル以下で250個)の約2倍の大腸菌が検出され、「レベル4」、競技中止と判定されたのである。
 さらにトライアスロンやマラソンスイミングに参加して、コースを泳いだ選手からは、「トイレの臭いがする」、「臭い」などの苦情が続出した。
 「臭い」の問題は、個人差があり、「臭いは気にならなかった」という選手もいたが、外国人選手を中心に「臭い」を指摘する声が複数でたことで、「悪臭」の問題も深刻だ。
 また海水の汚濁がひどく、海の中は濁っていて視界がほとんどない。泳いだ選手からは自分の手の先も見えなかったという声も出された。
 「お台場海浜公園」の周辺の海の海底には、これまで東京湾に流れ込んだ生活排水の膨大な量のヘドロが堆積していることが明らかになっている。
 こうした海底のヘドロが悪臭や汚濁の原因となっている可能性がある。
 きわめつけはトイレットペーパーの残滓のような浮遊物が海の中にウヨウヨ漂っているということだ。
 こうした海を、トライアスロンやマラソンスイミングの会場にしていいのだろうか、大きな疑問がわく。

大量の砂を投入 水質改善効果は?


伊豆諸島の神津島から砂の投入工事 2020年2月14日 お台場海浜公園 筆者撮影

 先週から、東京都は伊豆諸島の神津島から砂を運び込み、海底に投入する作業を開始した。海底のヘドロを砂で覆い、海水の汚濁や「臭い」を抑え水質改善をしようとするものだ。砂は汚物を吸着したり、濾過(ろか)する効果もあるという。貝などがすみつくことで、水質を浄化する効果も期待できるとしている。3月末までに、約2万立方メートル砂を約6000万円かけて投入する予定である。
 五輪大会開催まで半年を切っている中で、水質汚染への批判が出ている中で、急遽始めた工事である。半年で水質改善の効果が出るという到底思えない。なぜもっと早く手を打たなかったのか問題だろう。
 しかし、「臭い」や「汚濁」の問題には効果があるかもしれないが、大腸菌などの水質汚染の改善にはほとんど役立たない。
 一度、大雨に見舞われると、大量の下水道の汚染水が東京湾に流れ込み、せっかく投入した砂も汚染され、再びヘドロで覆われる可能性が大きい。
 大雨で未処理の下水道排水が東京湾に流れ込むのは、年間約100回に達するという。
 
「アスリートファースト」はどこへいった
 小池都知事は、たびたび「アスリートファースト」という言葉を繰り返す。
 一度、大雨が降ると大腸菌がうようよし、「トイレの臭い」が立ち込める。海底にはヘドロが堆積して、1メートル先も見えないほど濁り、浮遊物が舞っている。こうした海で世界各国から訪れる選手に泳がす大会運営は、何が「アスリートファースト」なのだろうか。
 マラソンと競歩は、国際オリンピック委員会(IOC)の英断により、暑さ対策で選手の健康に配慮して札幌開催に踏み切った。まさに「アスリートファースト」である。
 お台場海浜公園の汚染された海を、トライアスロンでは1.5kM、マラソンスイミングでは10km、選手は周回コースで泳ぐことなる。
 「アスリートファースト」という言葉をもう一度思い起こしてほしい。


お台場海浜公園の会場に設置された巨大な五輪マーク 夜間は点灯される 筆者撮影




トライアスロン、スイム(女子) 五輪テストイベント 2019年8月 お台場海浜公園 筆者撮影


トライアスロン、スイム(女子) 五輪テストイベント 2019年8月 お台場海浜公園  選手の後ろに見えるオレンジ色のラインは汚染水の流入を防ぐために設置された「水中スクリーン」 筆者撮影

パラトライアスロン、スイム競技中止 大腸菌が基準の2倍に
 2019年8月、2020東京夏季五輪大会とほぼ同じ時期に合わせて、トライアスロンとパラトライアスロンのワールドカップ(W杯)、マラソンスイミング(OWS マラソンスイミング)の国際大会が開催された。この大会は、五輪大会のテストイベントを兼ねていた。
 8月17日、パラトライアスロンのワールドカップ(W杯)は、お台場海浜公園のスイムコースの水質が悪化したとして、急遽、スイムを中止してランとバイクのデュアスロンに変更されるという事態が発生した。
 主催者の国際トライアスロン連盟(ITU world triathlon)は、競技前日の8月16日金曜日の午後1時に実施された最新の水質検査で、大腸菌のレベルが基準値を大幅に越え、ITU競技規則の水質基準で「レベル4」に上昇したことが明らかになり、当日のの8月17日、午前3時に危機管理会議を実施して協議の結果、パラトライアスロン競技をランとバイクのデュアスロンのフォーマットに変更することに決定した。
 ITUによると、お台場海浜公園のスイム会場内で、8月16日金曜日の午前5時と午後1時に二回海、海水を採取して水質検査を行った。午前5時のサンプルでは、数値は上昇したもののITUが定めた基準値内に収まったが、午後1時に採取されたサンプルでは、ITU基準の大腸菌が上限の2倍を越える数値(基準値:大腸菌 250個/100ml以下)が示された。両サンプルとも、腸球菌の数値(基準値:腸球菌数 100個/100ml以下)は基準値内に収まっていた。
 これらの結果や前日のデータを考慮し、ITUは水質リスクが「レベル4」という判定を行い、メディカル代表や3名の技術代表がスイムの中止を決定してパラトライアスロンはデュアスロン競技とすることが決まった。
 8月15日と16日に予定したトライアスロンの大会(健常者)は、それぞれ前日に行われた水質検査に問題はなく、予定通り実施された。
 一方、8月11日に同じ会場で開催したオープンウオータースイミング(マラソンスイミング)の大会では、参加した複数の選手が、「トイレの臭いがする」、「異臭がする」など悪臭を指摘する声が相次いだ。

 「お台場海浜公園」の水質が急激に悪化した原因はゲリラ豪雨である。前日の8月16日、大型の台風10号は温帯低気圧に変わったが、東京は断続的に強い雨が降った。大量の雨が降ると、雨水と生活排水を一緒に処理する下水道処理場の処理能力が
オーバーして、未処理の生活排水が隅田川から東京湾に流れ込み、お台場海浜公園の海域に達したものと思われる。懸念されていた豪雨による水質汚染悪化が現実のものとなった。
 問題は、お台場海浜公園が、「安全・安心」な海域ではなく、水洗トイレ排水などの生活排水源と直接つながっている水質の安全性が確保されていない「危険」な海であることが改めて明らかになったことである。大腸菌は、自然界に出ると1日程度で死滅する。その大腸菌が基準以上に検出された事実は重い。
 大会終了後の8月20日や21日にも東京は激しいゲリラ豪雨に襲われた。お台場海浜公園の大腸菌のレベルは、再び数倍に上昇したのは間違いないだろう。
 毎年、夏の東京は、何度となく台風や豪雨に見舞われる。2020東京大会の開催時期も例外ではない。お台場海浜公園の水質が基準を満たして大会が開催できるかどうか、まさに綱渡り、「神頼み」である。

水温、水質で懸念噴出 オープンウオーター(OWS マラソンスイミング)のテスト大会開催
 2019年8月11日、連日猛暑が続く中で、マラソンスイミングの2020東京五輪大会のテスト大会が、男女約40名の選手が参加して、お台場海浜公園で行われたが、参加した選手から水温や水質を懸念する声が相次いだ。
 テスト大会は5キロの周回コースで行われた。本番では男女ともに10キロを泳ぐ。
 前日の10日、大会の主催者の組織委員会は、急遽、午前10時スタートで予定していた男子5kmの競技開始時間を3時間早めて、午前7時に変更し、女子のスタートを7時2分とした。
 その理由は、猛暑での水温の上昇の懸念だった。マラソンスイミンを統括する国際水泳連盟(FINA)は、選手が健康的に泳げる水温の上限の基準は31度以下(水深40センチ)と定めている。この日は午前5時の時点で29・9度だったという。水温上昇は選手の体力を消耗させるのである。
 五輪本番は午前7時のスタートを予定してが、FINAのコーネル・マルクレスク事務総長は水温次第で午前5時~6時半に変更することも示唆している。
 レース終了後、2012年ロンドン五輪金メダルのウサマ・メルーリ(チュニジア)は「これまで経験した中で最も水温が高く感じた」とぐったりとした様子。女子の貴田裕美(コナミスポーツ)は「熱中症の不安が拭えなかった」と漏らしという。(共同通信 8月11日)
 さらに深刻なのは、水質問題である。競技会場のお台場海浜公園は、大腸菌汚染だけでなく、悪臭や海水汚濁の問題を抱えている。
 このコースを泳いだ複数の選手は、「正直臭いです。トイレのような臭さ」という感想を明らかにし、「検査で細菌がいないとなれば、信じてやるしかない」と述べたという。また海水の汚濁がひどく、泳いでる自分の手先も見えないほど汚れているという。
 組織委は今回のテスト大会で、約400メートルにわたってポリエステル製の膜を海中に張る「水中スクリーン」を設置し、大腸菌類などで汚染された海水が入り込むのを防いだ。五輪大会本番ではこの「水中スクリーン」を3重に張る計画である。しかし、「水中スクリーン」では悪臭や汚濁の水質改善にはならない。
 台風や豪雨に見舞われた場合には、隅田川から流れ込む大量の汚染水が、お台場海浜公園にも流れ込み、3重の「水中スクリーン」を設置しても、水質の維持は可能かどうか未知数である。
 さらに、「水中スクリーン」を3重に張ると、汚染水の流入は抑えられるかもしれないが、競技区域の海水温は、照り付ける太陽熱で「温水プール状態」になるのは必須だろう。連日の猛暑の中では夜間でも海水温が下がらず、国際水泳連盟(FINA)の上限、「31度」は早朝でも達成するのは困難になるという懸念が大きい。


競技会場に設置された「水中スクリーン」 2019年8月8日 筆者撮影


競技会場に設置された「水中スクリーン」と外側を航行する水上バス 2019年8月8日 筆者撮影




「お台場海浜公園」の水質汚染問題はいまに始まったことではない

大腸菌基準越え 英タイムズ紙報道
 2020夏季五輪大会の開催都市を決めるIOC総会の直前の2013年8月、英国タイムズ紙は、お台場海浜公園周辺の海水に安全基準を超える大腸菌が含まれ、水質汚染が懸念されると報じた。
 タイムズ紙は競技が実施される8月に最も水質が悪化すると指摘。2012年と2013年8月に測定された大腸菌の数値は、国際トライアスロン連合が定める大会開催基準値の上限の数百倍に達していたと伝えた。
 調査で東京湾に潜った大学教授が体調を崩した事例を紹介し「一晩中、下痢や嘔吐(おうと)が続いたとし、大量の貝や魚の死骸があり、腐敗した物質が口から入ったのだと思う」とのコメントを掲載した。
 これに対して東京招致委員会は、これまでにトライアスロンや水泳オープンウオーターの大会がお台場で開催されたが、「問題が起きたことはない」と反論した。

水質問題に懸念を表明した舛添前知事
 五輪大会関係者が公式に「お台場海浜公園」の水質問題に言及したのは舛添要一前都知事である。
 2014年6月、都知事に当選した舛添要一氏は、東京都が担当する競技場整備計画を大幅に見直すことを表明した。招致計画では約1538億円だったが、改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明したのである。
 そして8月には、舛添前知事は記者会見で「お台場海浜公園」の移転を検討したいと表明した。
 その理由として、まず「大腸菌の基準値が超えている水質問題」を挙げ、さらに「羽田の管制空域の下にあって、取材用のヘリコプターが飛べない」ことを挙げた。
 「水質問題」への懸念は6年前に問題化していたのである。
 移転先として横浜の山下公園などを挙げたが、地元の港区などから猛反対にあい移転案はこれ以上動かなかった。


出典 TOKYO MX NEWS  2014年8月14日

組織委員会も横浜移転を検討
 2015年5月、今度は、森大会組織委員会が国際トライアスロン連合のカサド会長と東京都内で会談し、競技会場を「お台場海浜公園」から、横浜市の山下公園での実施を検討するよう要請した。カサド会長は「可能性を検討していく」と述べた。
 森会長は「横浜市の強い希望もあった」と述べ、武藤敏郎事務総長は「費用面は関係なく、大きな大会の開催経験がある所でやったらどうかということ」と説明した。山下公園は2009年から世界シリーズの開催実績がある。ただし、この時は表向きには水質汚染問題を特に理由に挙げていない。

国際競技団体やIOCも水質問題への懸念を表明
 2017年10月になると、今度は国際トライアスロン連合(ITU)が、お台場海浜公園周辺の水質に懸念を示して、東京都に下水対策の強化を求めていることが明らかになった。
 大会組織委員会の水質調査で、国際大会開催の基準値を20倍も超える大腸菌群などが検出されたいたことが明らかになったからである。
 この調査は、東京都と大会組織委員会が行ったもので、2020東京五輪大会と同じ時期の2017年8月に、お台場海浜公園周辺の海域の水質・水温を測定したものである。
 調査を行った期間は、21日間連続で雨が降り、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水を記録した。
 調査結果によると、降雨の後は、水質が顕著に悪化することはっきりと示された。(調査結果の詳細は下記参照) 
 2020五輪大会が開催されるのは時期は真夏、毎年、台風や集中豪雨の襲われるのは必至である。お台場海浜公園周辺の水域の水質レベルは、依然として極めて危険なレベルにあることが明らかになった。
 これに対して大会関係者は「会場変更の可能性はない」とし、今後、都が中心となって水質改善の取り組むとした。
 ところが翌年の2018年4月、タイのバンコクで開かれた国際スポーツ連盟機構(GAISF)の会議などで、複数の国際競技連盟が、東京大会の準備状況に不満を抱き、公然と批判し、国際トラアスロン連盟は「お台場海浜公園」の水質問題を指摘した。
 これを受けて、IOCのコーツ副会長を代表とする調査チームが来日し、2020東京大会の準備状況のチェックが行われた。
 「お台場海浜公園」については、コーツ副会長は「トライアスロンについては引き続き水質に問題があるが、今年と来年にもっと詳しい水質調査や、水中に幕を設置する実験を行うとの報告を受けている」と述べ。2020年東京五輪の一部会場の水質に懸念が残るとして改善するよう求めた。

 「お台場海浜公園」の水質汚染問題は、最近浮上した問題ではなく、2020東京五輪大会招致の段階から、関係者の間では懸念されていた問題だった。さらに開催準備が本格化した2014年当時、舛添前知事は、会場変更について言及しているのである。大会開催まで5年以上の期間がありながら、対策に乗り出さず、事実上、問題を放置していた責任は大きい。
 
本番は3重の『水中スクリーン』を検討 「大腸菌等の抑制」を目指す 大会組織委員会
 大会組織委員会は、大会終了後、記者団に対して、「五輪大会本番と同じコースと設備で、今回の大会を、国際競技団体(IF)や国内競技団体(NF)、大会組織委員会が一体となって運営した。今回、気象予報士1名を含む2名の気象専門家が常駐し、気象条件を常時把握する体制をとり、暑さ指数(WBGD)の予測をして、競技開始時間の変更を行った。また水質検査の結果を踏まえてパラトライアスロンのスイムを中止して、バイク、ランのデュアスロンに変更したが、変更の判断は、ワールドカップ(W杯)のテクニカルチームとメディカルチームが行い、大会組織委員会はオブザーバーの立場だった」と述べた。
 また、水質汚染防止対策の「水中スクリーン」の設置については、「昨年の実験で、1重の『水中スクリーン』で十分な効果があってので、今回の大会では、1重の『水中スクリーン』で対応した。来年の本番の大会では、3重の『水中スクリーン』の設置で準備を始める」とした。
 「水中スクリーン」を設置すると水温が上昇する懸念があるのではという質問に対しては、「昨年の実験では、そういうファクトはなかった。実験では狭いエリアで行ったのに対し、本番では広いエリアになるので、水温上昇への影響は少ないのでは思う」とし、『水中スクリーン』を開けたり、閉めたりすることが可能な開閉式にして、水温上昇の影響を抑えることを検討したいとした。

 昨年、オリンピック期間7月24日~8月9日、パラリンピック期間8月25日~8月31日の計22日間、東京都と大会組織委員会では、お台場海浜公園の競技エリアの水質検査を行うと共に、競技エリアの一部に、1重の「水中スクリーン」と3重の「水中スクリーン」を設置して、「大腸菌等の抑制効果」を検証する実験を行った。
 その結果、台風等の影響を直接受けたことなどより、お台場海浜公園の海域では、大腸菌類の数値が27日間のうち12日間で、2つの競技においての水質基準を超過したことが明らかになった。なにも対策を講じななければ、この海域での競技は開催できなかったと可能性が大きい。
 一方、「水中スクリーン」設置区域内では、「1重」の区域内では、水質基準を超過したのは2日間で、3重の「水中スクリーン」設置区域内では、すべての期間で水質基準をクリヤーし、「水中スクリーン」は「大腸菌等の抑制効果」があることが明らかになった。
 水温については、実験を行った17日間の平均で、「1重」では、1.1°C、「3重」では、1.4°C高く、最高では1重、3重ともに2.7°C高くなるという結果がでた。
 「水中スクリーン」の設置エリアは、実験とは違い、本番ではより広いエリアになるので、水温上昇にどの程度の影響かあるが分かっていないが、3重の「水中スクリーン」を設置すれば、水温上昇の懸念が高まるのは当然だろう。最後のチャンスになり今年のテストイベントで3重の「水中スクリーン」をテストしなかったことが悔やまれる。
 また3重の「水中スクリーン」は、構造が複雑で設置に時間がかかり、開閉式にすることが現実的に可能なのかどうか、疑念が残る。
 さらにマラソンスイミングの選手から出された、「トイレのような臭いがする」とか「異臭がする」といった「臭い」の問題についても、組織委員会は「トライアスロンの選手からは苦情が出ていない」として問題視する姿勢が見られない。
 「大腸菌」、「水温」、「臭い」、3つの課題を後1年で解決できるだろうか。
 2020東京五輪大会のスローガンは「アスリートファースト」、世界各国から訪れるトライアスロンやマラソンスイミング選手に、「安全・安心」な競技エリアを準備するのは大会組織委員会の責務である。
 

出典 水質調査結果 東京都


東京都の下水道処理場(水再生センター) 隅田川水系に集中している 出典 東京都




お台場周辺の海域 大腸菌が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌が上限の7倍も検出
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソン水泳とトライアスロンが行われるお台場周辺の海域で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。まさに衝撃的な数値である。
 この調査は、東京都と大会組織委員会が行ったもので、オリンピック開催時期の21日間、パラリンピック開催時期のうち5日間、マラソンスイミングとトライアスロンの競技会場になっているお台場海浜公園周辺の水質・水温を調査したものである。
 調査を行った2017年8月は、21日間連続で雨が降り、1977年に次いで、観測史上歴代2位の連続降水を記録した。
 調査結果によると、降雨の後は、水質が顕著に悪化すること分かった。今回の調査期間では、国際競技団体の定める水質・水温基準達成日数は、マラソンスイミング基準では10日で約半分、トライアスロン基準はで6日で約3分の1に留まった。
 お台場海浜公園周辺の競技予定水域は、競技を開催する水質基準をはるかに上回る汚水が満ち溢れていることが示されたのである。
 参加選手の健康問題を引き起こす懸念が深まり、国際競技団体などから批判が強まった。
 これに対して、組織委は、雨期に東京湾から流れ込む細菌の量を抑制するために、競技予定水域を水中スクリーンを設置して東京湾から遮断するなど様々の実験を行い、水質改善に努めるとした。
 国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。今年と来年に行われる水のスクリーニング、カーテンの入れ方などの実験についてプレゼンテーションを受けた。この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。
 東京湾の水質改善は、着々と進んではいるが、とても海水浴ができるような“きれいな海”とはいえない。東京湾に流れ込む川からは大量の汚染水が流れ込む。海底にはヘドロが蓄積している。オリンピック開催期間は真夏、ゲリラ豪雨は避けられない。東京湾は、“汚水の海”になることは必至だ。
 そもそも東京湾に、選手を泳がせて、マラソンスイミングやトライアスロンを開催しようとすること自体、無謀なのではないか。


お台場海浜公園における水質・水温調査地点  東京都オリンピック・パラリンピック事務局


水質調査結果(トライアスロン) 東京都オリンピック・パラリンピック事務局


水質調査結果(マラソンスイミング) 東京都オリンピック・パラリンピック事務局


お台場海浜公園における水質・水温調査地点  東京都オリンピック・パラリンピック事務局

「水面に顔をつけない」が条件の海水浴場
 2017年夏、葛西臨海公園に「海水浴場」がオープンした。水質改善が進んだ東京湾のシンボルとして話題になった。
 かつては東京湾には葛西のほか大森海岸、芝浦など各所に海水浴場があったが、高度経済成長期に臨界工業地帯の工場排水や埋め立て工事で1960年代に水質悪化が進み、海水浴場は姿を消した。東京湾では、約50年間海水浴が禁止され、房総半島や三浦半島までいかないと海水浴ができなかった。
 港区では、「泳げる海、お台場!」をスローガンに掲げ、お台場海浜公園に海水浴場を開設しようとする取り組みに挑んでいる。
 ところが、お台場海浜公園は、水質基準を満たさないため通常は遊泳禁止である。
 港区では、2017年7月29日(土曜)・30日(日曜)の2日間、範囲を限定し、安全面等に配慮しながら行う“海水浴体験”を開催、訪れた親子連れは、“海水浴”ではなく、ボート遊びや水遊びを楽しんだという。なんと「水面に顔をつけない」ことが条件の“海水浴体験”だった。
 お台場の海は、「水面に顔をつけない」で足を海に入れる「磯遊び」程度の水質しか保証されていないのである。この海で、マラソンスイミングやトライアスロン(スイム)の競技を開催すれば、参加選手は“汚染”された海水に顔をつけ、海水を口に含まざると得ない。選手の健康問題を組織委員会はどう考えているのだろうか。
 なぜ、素晴らしい自然環境に囲まれたきれいな海で開催しないのか。日本には素晴らしいビーチが豊富にある。これまでしてお台場の開催にこだわる姿勢には良識を疑う。


「水中スクリーン」設置で水質改善


お台場海浜公園  出典 東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会

 お台場海浜公園は、2017年夏に行われた水質調査で競技団体が定める基準値を大幅に上回る大腸菌などが検出され、水質対策が迫られていた。
 東京都では、2018年夏、ポリエステル製の膜、「水中スクリーン」を海中に張って大腸菌などが流れ込むのを防ぐ実証実験を行った。3重の「水中スクリーン」で囲った水域ではすべての日で基準値を下回り、「水中スクリーン」で囲う水質対策は効果的だとした。


出典 東京都


出典 東京都

 今回の実証実験は、組織委員会と東京都が、2020東京五輪大会の開催期間にあたる7月から9月にかけての27日間で行い、お台場海浜公園の入り江内の2か所にポリエステル製の「水中スクリーン」を張って、大腸菌などが流れ込むのを防ぐ実験を実施した。
 「水中スクリーン」は1重に張ったエリアと3重に張ったエリアの2か所を設け、それぞれのエリアで水質改善効果を検証した。
 今年の夏は、首都圏は台風や豪雨に見舞われ、首都圏の下水が東京湾に流れ込み、「水中スクリーン」が張っていない水域では、半数近い13日間で大腸菌が基準値を上回った。7月29日には台風の影響で、国際トライアスロン連盟の基準値を142倍も上回る数値を示した。
 五輪大会が開催されるのは時期は真夏、毎年、台風や集中豪雨の襲われるのは必至である。依然としてお台場海浜公園周辺の水域の水質レベルは、極めて危険なレベルにあることが明らかになった。
 一方、「水中スクリーン」スクリーンを1重に張ったエリアでは大腸菌の基準値を上回ったのがわずか2日で、3重に張ったエリアではすべての日で基準値を下回った。
 組織委員会と東京都は「『水中スクリーン』の効果が確認できた」として、2年後の東京大会で「水中スクリーン」を設置する方向で進めるとした。


出典 東京都

 しかし、今回の実証実験では、泳げる範囲がわずか60メートル四方で設置経費は7500万円だったとされる。
 トライアスロンのスイム(水泳)のコースは1.5キロメートル、オープンウォータースイミング(OWS(マラソンスイミング)コースは10キロメートルの周回コースで、台場海浜公園の入り江のほぼ全域に設定される。水質改善効果を上げるためには3重の「水中スクリーン」が必須だが、広範囲に設置した場合、水質改善効果が維持できるかどうかは未知である。また設置経費も膨大なり、10億円近くにも達する懸念もある。
 トライアスロンの水質基準は、大腸菌数、250個/100ミリリットル以下、水温32度C(水深60センチ)以下マラソンスイミングの水質基準は、トライアスロンとは異なり、糞便性大腸菌群、1000個/100ミリリットル以下、水温31度C(水深40センチ)以下などが国際水泳連盟(FINA)によって定められている。
 例年、首都圏の夏は台風や集中豪雨にたびたび襲われる。2020年、8月も同様であろう。大雨が降ると、お台場海浜公園周辺の海域は大腸菌がウヨウヨする海となる。猛暑で海水温は高温となる。悪臭や汚濁対策も必要だ。まさに選手の健康を脅かす危険と隣合わせた競技会場である。
 こうした大会運営は、「アスリートファースト」とは到底言えない。
 東京湾には、雨が降ると、隅田川などの河川から、生活排水などの汚水が浄化処理されないまま流れ出ることが原因で、首都圏の下水浄化システムを改善しない限り、抜本的な水質改善は不可能である。

 そもそも、お台場海浜公園は、水質基準を満たさないため、「遊泳禁止」、海水浴場として認められていないのある。海に入って、いわゆる「磯遊び」は可能だが、「顔を海水につけて」遊ぶことはできないのである。
 しかし、港区はトライアスロンなどのイベント開催は特別に許可をしている。
 2016年にトライアスロンにお台場海浜公園を泳いだ井ノ上陽一氏によると、「トライアスロンのスイムは、レースによっては、それほどきれいな海で泳げず、それに耐えることも大事」としている。特に東京、関東近辺の大会では、きれいな海は望めず、川や湖だともっと視界が悪い場合もあるという。必ずしも、きれいな水域を選んでレースが開催されるのではないようだ。
 井ノ上陽一氏のウエッブには、お台場海浜公園の泳いだ様子の写真が掲載されている。


お台場海浜公園の水中  出典 井ノ上陽一氏 「お台場で泳いでみた!トライアスロンスイム(海)の現実」
 
 筆者は、ほとんど泥水の中を泳いでいる様子に唖然としたが、井ノ上陽一氏によると視界が悪いのは別に驚くには当たらないとしている。トライアスロンスイムは世界各地で行われているが、必ずしも自然環境に恵まれた会場で行われるとは限らないという。
 しかし、問題なのは、視界の良し悪しもさることながら、水質汚染が悪化しているかどうかで、海水浴場として環境基準を満たしていない「汚染水域」で、五輪大会の競技を開催して、選手を泳がせることである。
 これまでにたびたび、小池都知事や森組織委員会長から「アスリートファースト」という言葉を聞いた。「アスリートファースト」を掲げるなら、競技会場を水質基準をクリヤーしている鎌倉や房総半島のビーチに変更したら如何か? いまからでも遅くはない。マラソンと競歩は暑さ対策札幌開催を決断した。





水質汚染問題に直面したリオデジャネイロ五輪
 2016リオデジャネイロ五輪では、セーリングやトライアスロン、ボートなどの会場となるコパカバーナ地区の湾岸部、グアナバラ湾の水質汚染が深刻で選手の健康被害が懸念され、競技の開催が危ぶまれのは記憶に新しい。
 AP通信が行った独自調査によると、2015年3月以降に競技会場で採取された水から、高い数値のアデノウイルスのほか、複数のウイルスや細菌も検出されという。
 汚染の原因は下水処理整備の遅れだ。人口1000万人のリオデジャネイロの生活排水の7割近くがグアナバラ湾に最終的に流れ込むという。
さらに汚染に拍車をかけるのが、リオデジャネイロの貧民街。リオデジャネイロは世界でも有数の観光地だが、人口632万人の23%を占める143万人が貧民街に暮らしているという。ブラジルで最も貧富の差が大きい都市でもある。貧民街では下水処理施設の整備はほとんど手が付けられていない。
 グアナバラ湾は「巨大なトイレ」と揶揄されている。
 招致段階でリオデジャネイロ州政府は五輪開幕までにグアナバラ湾に流入する汚水の80%を下水処理できるようにすると公約した。この処理事業を支援しているのが日本の国際協力機構(JICA)で、現在四つの下水処理場が稼働している。 しかし、各家庭から処理場まで下水を集める配管の整備が遅々として進んでいない。リオ五輪組織委員会は、開催前年の2015年7月、公約としていた水質浄化が開幕まで不可能と認めている。
 大量のゴミが海面を覆い尽くしているのも汚染の原因とされているが、リオデジャネイロ市では、湾内のごみを回収する「エコポート隊」を投入するなど窮余の対策に追われた。大量のゴミを片付けても、下水処理を行わなければ水質改善はほとんど絶望的である。
 水質汚染問題の抜本的な解決はできなかったが、国際オリンピック委員会(IOC)は「環境基準は満たされた」して競技は予定通り行われた。


ゴミが散乱するグアナバラ湾 Antonio Scorza / Agência O Globo


リオデジャネイロ五輪のマラソンスイミング 出典 Rio2016/Youtube


リオデジャネイロ五輪のマラソンスイミング 出典 Rio2016/Youtube




東京湾をきれいな海に これこそ2020東京大会のレガシー!

 東京23区の下水道のほとんどが合流式で整備され、雨水と汚水を一緒に処理するシステムである。雨が大量に降ると下水道が処理できずに、そのまま河川に放流される可能性がる。東京都は下水処理能力の向上に取り組んでいるが、一瞬で大量の雨が降るようなゲリラ豪雨が発生すると処理能力の限界を超えてしまう。
 再オープンした葛西海浜公園も、大雨が降ればで、COD濃度が一気に跳ね上がり水質基準を超えて、海水浴場が再び閉鎖になる懸念と隣り合わせている。
 水質改善の抜本的な対策は、下水道を合流式から分流式に切り替えることで、分流式は雨水・汚水を区別して処理する方式のため、雨が降っても汚水が未処理のまま雨水に混ざることはない。
 東京23区は、下水道整備を急ぎ、昭和30年代に経費のかからない合流式で下水道を整備した。1970年に下水道法が改正されて、下水道はようやく分流式で建設されるようになったが、現在でも合流式で整備した下水道が広いエリアで稼働している。東京都内の下水道が分流式に切り替わるには、あと30年以上は必要とされている。
 さらに東京湾には、埼玉県や千葉県、茨城県からの生活排水も流れ込む。
 東京湾の海底には、過去の環境汚染の“負の遺産”である汚染物質が大量に含まれているヘドロが海底には堆積したまま、水質改善は滞り、未だに年間約40回程度の赤潮や4~5回程度の青潮が発生している。東京湾に本格的に海水浴場が蘇るのはまだまだ先になる。
 2020東京五輪大会の開催経費は、関連経費を含めると「3兆円」、膨大な額の資金が投入される。
 大会開催を契機に、この資金の一部を投入して下水道処理施設の改良を行い100%の下水処理を達成すれば、東京湾の水質改善は一気に進む。長年悲願の「東京湾に海水浴場」が実現するだろう。
 これこそ、2020東京五輪大会のレガシーになると考える。大会後、赤字が見込まれ負の遺産になる懸念が大きい競技場建設より、東京湾がきれいな海になるほうがはるかに都民の未来の遺産、レガシーになることは間違いない。
 2020年東京大会まであと半年、この間に東京湾の水質改善が飛躍的に進むことはありえないだろう。
 “汚染”された海、東京湾で選手を泳がす2020東京大会、何が「アスリートファースト」なのだろうか。




江の島セーリング会場 シラス漁に影響 ヨットの移設や津波対策に懸念


“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル

“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! 「世界一コンパクトな大会」はどこへいった?

東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 競技会場の全貌

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東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2018年5月9日
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廣谷 徹
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五輪開催経費 3兆円! 会計検査院 1兆600億円 五輪予算隠し 青天井五輪予算

2020年02月03日 05時35分43秒 | 東京オリンピック


五輪関連支出、1兆600億円 会計検査院指摘 開催経費3兆円超
2019年12月4日、会計検査院は2020年東京五輪・パラリンピックの関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめ、国会に提出した。この中には政府が関連性が低いなどとして、五輪関連予算に計上していない事業も多数含まれている。検査院は、国民の理解を得るためには、「業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表に努めるべき」とし、「大会終了後のレガシーの創出に努めること」と指摘した。

 2018年10月、会計検査院は政府の2020東京五輪大会についての「取組状況報告」に記載された286事業を調査して初めて「五輪関連経費」の調査結果を明らかにして、2017年度までの5年間に国は約8011億円を支出したと指摘した。しかし、大会組織委員会が公表したV3予算では国の負担額は約1500億円、その乖離が問題になった。
 今回、会計検査院が指摘した関連支出額は、前回指摘した8011億円から2018年度の1年間で約2580億円増え、約1兆600億円になったとした。
 大会組織員会では、2018年12月、総額1兆3500億円のV3予算を明らかにしている。それによると、大会組織委員会6000億円、東京都6000億円、国1500億円とし、1兆3500億円とは別枠で予備費を最大3000億円とした。
 東京都は、V3予算とは別に「五輪開催関連経費」として約8100億円を支出することを明らかにしているため、約1兆600億円も合わせると、すでに「五輪関連経費」の総額は約3兆円を優に上回ることが明らかになった。

 これに対して、内閣官房の大会推進本部は指摘された約1兆600億円について、大会への関連度を3段階で分類し、Aは「大会に特に資する」(約2669.億円/65事業)、Bは「本来の行政目的のために実施する事業であり、大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出することが困難な事業大会に直接資する金額を算出することが困難」(約6835億円/239事業)、Cは「本来の行政目的のために実施する事業であり、大会との関連性が低い」(約1097億円/42事業)と仕分けし、「五輪関連経費」はAの約2669億円だけだと反論し、残りの「B・C分類」は本来の行政目的の事業などとして、五輪関連経費には当たらないとした。
 しかし、Bのカテゴリーは、「大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資する」として五輪開催関連支出でもあることを認めながらが、「直接資する金額を算出することが困難」として金額の算定は困難だからすべてを五輪関連支出としないとしているのは、余りにも乱暴な仕分けである。
 国は、せめて五輪関連支出を、AとBのカテゴリーを合計した約9504億円とするのが適切だと筆者は指摘したい。
 「2669億円」のままでは、会計検査院が指摘した1兆600億円との隔たりは余りにも大きく、国民の納得が得られないだろう。

 会計検査院が指摘した1兆600億円の内訳は、約7900億円が「大会の準備や運営経費」として、セキュリティー対策やアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れ、暑さ対策・環境対策、メダル獲得にむけた競技力強化などの経費で占められている。この内、暑さ対策・環境対策が最も多く、2779億円、続いてアスリートや観客の円滑な輸送や受け入れが2081億円となっている。
 2018年度はサイバーセキュリティー対策やテロ対策、大会運営のセキュリティ対策費の支出が大幅に増え、2017年度の倍の約148億円に上った。
 また今回も公表されていない経費が明らかになった。警察庁が全国から動員する警察官の待機施設費用として約132億円が関連予算として公表していなかったと指摘した。
 さらに会計検査院は大会後のレガシー(遺産)を見据えた「大会を通じた新しい日本の創造」の支出、159事業、約2695億円を「五輪関連経費」とした。
 被災地の復興・地域の活性化、日本の技術力の発信、ICT化や水素エネルギー、観光振興や和食・和の文化発信強化、クールジャパン推進経費などが含まれている。
 こうした支出はいずれも政府は「五輪関連経費」として認めていないが、政府予算の中の位置づけとしては「五輪関連予算」として予算化されているのである。
 問題は、「五輪便乗」予算になっていないかの検証だろう。東日本大震災復興予算の使い方でも「便乗」支出が問題になった。次世代のレガシーになる支出なのか、無駄遣いなのかしっかり見極める必要がある。
 その他に国会に報告する五輪関連施策に記載されていないなどの理由で非公表とされた支出も計207億円あり、五輪関連支出の不明朗な実態の一部が明らかになった。
 検査院はオリパラ事務局を設置している内閣官房に対し、「オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表することについて充実を図っていくこと」と指摘して、各府省から情報を集約、業務内容や経費を把握して公表するよう求めた。
 内閣官房は「指摘は五輪との関連性が低いものまで一律に集計したものと受け止めている。大会に特に資する事業についてはしっかりと整理した上で分類を公表していきたい」としている。






出典 会計検査院




「レガシー経費」は「五輪開催経費」
 国際オリンピック委員会(IOC)は、開催都市に対して、単に競技大会を開催し成功することだけが目的ではなく、オリンピックの開催によって、次の世代に何を残すか、何が残せるか、という理念と戦略を強く求め、開催都市に対して、レガシー(Legacy)を重視する開催準備計画を定めることを義務付けている。大会開催は、大会開催運用経費や仮設の施設だけでは不可能である。幅広い「レガシー経費」で支えなければなければならない。
 レガシーを実現する経費、「レガシー経費」は、開催都市に課せられた「五輪開催経費」とするのが当然の帰結だ。
 五輪大会は、一過性のイベントではなく、持続可能なレガシー(Legacy)を残さなければならないことが開催地に義務付けられていることを忘れてはならない。

 政府は「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(Bカテゴリー)は「五輪開催経費」から除外したが、事業内容を見るとほとんどが「レガシー経費」に入ることが明らかだ。
 気象衛星の打ち上げ関連費用も首都高速などの道路整備費も水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費も、ICT化促進や先端ロボット、自動走行技術開発、外国人旅行者の訪日促進事業、日本文化の魅力発信、アスリート強化費、暑さ対策、バリアフリー対策、被災地の復興・地域活性化事業、すべて2020東京大会のレガシーとして次世代に残すための施策で、明らかに「レガシー予算」、「五輪開催予算」だろう。被災地関連予算も当然だ。2020東京五輪大会は「復興五輪」を掲げているのである。

 一方、新国立競技場は「大会の準備、運営に特に資する事業」に分類し、「五輪開催経費」だとしている。しかし、国立競技場は大会開催時は、開会式、閉会式、陸上競技などの会場として使用されるが、その期間はオリンピックで17日間、パラリンピックで13日、合わせて30日間にすぎない。ところが新国立競技場は大会開催後、50年、100年、都心中心部の「スポーツの聖地」にする「レガシー」として整備するのではないか。 
 国の「五輪開催経費」仕分けはまったく整合性に欠け、ご都合主義で分類をしたとしか思えない。五輪大会への関与の濃淡で、恣意的に判断をしている。「レガシー経費」をまったく理解していない姿勢には唖然とする。
 東京都が建設するオリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場なども同様で、「レガシー経費」だろう。しかし、この経費は五輪開催経費に算入されている。

 通常の予算では通りにくい事業を、五輪を「錦の御旗」にして「五輪開催経費」として予算を通し、膨れ上がる開催経費に批判が出ると、その事業は五輪関連ではなく一般の行政経費だとする国の省庁の姿勢には強い不信感を抱く。これでは五輪開催経費「隠し」と言われても反論できないだろう。
 2020東京大会のレガシーにする自信がある事業は、正々堂々と「五輪開催経費」として国民に明らかにすべきだ。その事業が妥当かどうかは国民が判断すれば良い。
 東京都は、「6000億円」のほかに、「大会に関連する経費」として、バリアフリー化や多言語化、ボランティアの育成、「大会の成功を支える経費」として無電柱化などの都市インフラ整備や観光振興などの経費、「8100億円」を支出することをすでに明らかにしている。国の姿勢に比べてはるかに明快である。過剰な無駄遣いなのか、次世代に残るレガシー経費なのか、判断は都民に任せれば良い。

 「3兆円」、かつて都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用の総額だ。今回の会計検査院の指摘で、やっぱり「3兆円」か、というのが筆者の実感だ。いまだに「五輪開催経費」の“青天井体質”に歯止めがかからない。

肥大化批判に窮地に立つIOC
 巨額に膨らんだ「東京五輪開催経費」は、オリンピックの肥大化を懸念する国際オリンピック委員会(IOC)からも再三に渡って削減を求められている。
膨張する五輪開催経費は、国際世論から肥大化批判を浴び、五輪大会の存続を揺るがす危機感が生まれている。
巨大な負担に耐え切れず、五輪大会の開催都市に手を上げる都市が激減しているのである。2022年冬季五輪では最終的に利候補した都市は、北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで実質的に競争にならなかった。2024年夏季五輪でも立候補を断念する都市が相次ぎ、結局、パリとロサンゼルスしか残らなかった。
2014年、IOCはアジェンダ2000を策定し、五輪改革の柱に五輪大会のスリム化を掲げた。そして、2020東京五輪大会をアジェンダ2000の下で開催する最初の大会として位置付けた。
 「東京五輪開催経費」問題でも、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。「開催経費3兆円超」とされては、IOCは面目丸潰れ、国際世論から批判を浴びるのは必須だろう。
 こうした状況の中で、「五輪開催経費」を極力少なく見せようとするIOCや大会組織委員会の思惑が見え隠れする。
 その結果、「五輪経費隠し」と思われるような予算作成が行われているという深い疑念が湧く。
 V3「1兆3500億円」は、IOCも大会組織委員会も死守しなければならい数字で、会計検査院の国の支出「1兆600億円」の指摘は到底受け入れることはできない。
 「五輪開催経費」とは、一体なになのか真摯に議論する姿勢が、IOCや大会組織委員会、国にまったく見られないのは極めて残念である。

どこへ行った「コンパクト五輪」
 筆者は、五輪を開催するためのインフラ整備も、本当に必要で、大会後のレガシー(遺産)に繋がるなら、正々堂々と「五輪開催経費」として計上して、投資すべきだと考える。
 1964東京五輪大会の際の東海道新幹線や首都高速道路にように次の世代のレガシー(遺産)になる自信があるなら胸を張って巨額な資金を投資して整備をすれば良い。問題は、次世代の負担になる負のレガシー(負の遺産)になる懸念がないかである。また「五輪便乗」支出や過剰支出などの無駄遣いの監視も必須だろう。そのためにも「五輪開催経費」は、大会への関連度合いの濃淡にかかわらず、国民に明らかにしなければならい。
 2020東京五輪大会は招致の段階から、「世界一コンパクトな大会」の理念を掲げていた。大会の開催運準備が進む中で、開催経費はあっという間に、大会組織員会が公表する額だけでも1兆3500億円、関連経費も加えると3兆円を超えることが明らかになった。
 新国立競技場の建設費が3000億円を超えて、白紙撤回に追い込まれるという汚点を残したことは記憶に新しい。「錦の御旗」、東京五輪大会を掲げたプロジェクトの予算管理は往々にして甘くなる懸念が大きく、それだけに経費の透明性が求められる。
 2020年度の予算編成が本格化するが、まだまだ明るみに出ていない「五輪開催経費」が次々に浮上するに違いない。全国の警察官などを動員する史上最高規模の警備費やサイバーセキュリティー経費などは千億円台になると思われる。さらに30億円から最大100億円に膨れ上がるとされている暑さ対策費や交通対策費も加わる。一方、7道県、14の都外競技場の仮設費500億円は計上されているが350億円の警備費や輸送費(五輪宝くじ収益充当)、地方自治体が負担する経費は計上されていない。マラソン札幌開催経費もこれからだ。最早、「3兆円」どころか最大「4兆円」も視野に入っている。
 「コンパクト五輪」の理念は一体どこへ行ったのか。


竣工したした国立競技場  筆者撮影



東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国が8011億円支出 会計検査院指摘

 2018年10月4日、会計検査院は2020東京オリンピック・パラリンピックの開催経費ついて、平成25年度から29年度までの5年間に国が支出した開催経費が約8011億円に上ったと指摘した。
 これまで大会組織委員会が明らかにしていた開催経費は、総額約1兆3500億円で、このうち大会組織員会は約6000億円を、東京都が約6000億円、国が新国立競技場の建設費の一部、1200億円やパラリンピック経費の一部、300億円の合わせて約1500億円を負担するとしていた。
 これに対し会計検査院は、各省庁の関連施策費を集計した結果、国は1500億円を含めて平成25~29年度に8011億9000万円を支出していると指摘した。
 今回の指摘で、組織委が公表した国の負担分1500億円から除外した競技場周辺の道路輸送インフラの整備(国土交通省)やセキュリティー対策(警察庁)、熱中症に関する普及啓発(環境省)などの約280事業に対し、約6500億円が使われていたことが明らかにした。
 五輪開催費用については、今年1月、東京都は組織委公表分の都の予算約6000億円とは別に約8100億円を関連予算として支出する計画を明らかにしている。検査院によると、組織委が公表した予算、1兆3500億円には「大会に直接必要なもの」に限られ、国の省庁や都庁が、五輪開催経費とせず、一般の行政経費として組んだ予算は含まれていないという。
 組織員会、東京都、国の五輪関連経費を改めて合計すると、約2兆8100億円となり、今後に支出が予定される経費も含めると、「3兆円」超は必至である。




出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院

東京2020競技会場マップ 最新画像付き




五輪大会開催経費 「1725億円」 国、会計検査院に反論

 11月30日、桜田義孝五輪担当相は、2020東京五輪大会に、国が2013~2017年の5年間に支出した経費は53事業で「1725億円」とする調査結果を公表した。会計検査院の「8011億円」という指摘に対し、内閣官房が精査した。
 桜田氏は、五輪関係の経費とそれ以外の経費の線引きを明確に示したと説明し、「透明性を確保し、国民の理解を得るために今後も支出段階で集計、公表していく」と述べた。
 2020東京五輪大会に開催経費については、2017年12月22日、大会会組織委員会は、総額「1兆3500億円で、東京都が「6000億円」、大会組織委員会が「6000億円」、国が「1500億円」を負担するとした。
 これに対し、11月4日、会計検査院は「1500億円」を大幅に上回る「8011億円」が、すでにこの5年間で支出されたとの指摘を国会に報告し、政府に経費の全体像を分かりやすく示すよう求めた。

 東京都は、すでに「8000億円」の他に、五輪関連経費として「8100億円」を投入することを明らかにしていて、会計検査院の指摘の「8011億円」や、今後支出する経費も加えて試算すると、「3兆円」に膨れあがることが明らかになった。
 
 内閣官房では、大会に関連すると指摘された計8011億円の286事業について、(1)選手への支援など「大会の準備、運営に特に資する事業」(1725億円)(2)気象衛星の打ち上げなど「本来の行政目的のために実施する事業」(826億円)(3)道路整備など「本来は行政目的の事業で、大会にも資するが、大会に直接資する金額の算出が困難な事業」(5461億円)の三つに分類し、五輪大会開催のための国の支出は(1)の「1725億円」だとした。

 (1)には、新国立競技場の整備費の国の負担分(744億円)やパラリンピックの準備費(300億円)が、(2)は気象衛星の打ち上げ関連費用(371億円)など29事業、826億円が含まれている。
 (3)は首都高速などの道路整備費(1390億円)、水素社会実現のための燃料電池自動車などの購入補助費(569億円)など208事業で合わせて5461億円と大半を占めている。
 このほか、会計検査院が指摘した8011億円に含まれていないが、大会に直接関連する事業として国立代々木競技場など5施設の整備や改修のための国庫補助金を直近5年間で約34億円支出したと明らかにした。
 しかし、五輪大会開催経費を「1725億円」する国の主張は、明らかに「五輪経費隠し」、膨れ上がった五輪開催経費をなるべく低く見せかけて、世論の批判をかわそうとする姿勢が見え隠れする。

「1725億円」は五輪開催経費隠し 国、会計検査院に反論 青天井体質に歯止めがかからない

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」




「青天井体質」は止まらない!
 やはり懸念していた通り、一気に「1兆3500億円」の倍以上に膨らむことが明らかになった。五輪開催経費は、国民の批判を避けるために、本来は経費に含めるのが妥当な支出も、一般の行政経費に潜らせる国や都の姿勢を筆者は疑問視していた。五輪開催経費を不透明化しブラックボックスにして、「青天井体質」を許すのは絶対に避けなければならない。
 「3兆円」の経費の中には、五輪との関連性が薄い施策があり、開催経費とするよ、一般の行政投資とするのが適切だと指摘する声がある。しかし、五輪開催との関連性の「濃淡」の問題で、その施策がもっぱら五輪開催ためだけではなくて、大会後の日本にとって有益な施策であったにしても、大会開催時に利用される項目であれば五輪開催経費に組み入れるべきだと考える。これが五輪開催の“レガシー”で、“レガシー”創出経費も含めるべきだ。新国立競技場も、五輪開催だけのものではない。その後、50年、100年使用する“レガシー”そのものだろう。同様に暑さ対策に役立つとしている「気象衛星の予測精度向上の費用」(約371億円)や環境に配慮した五輪実現のためとする「電気自動車などの購入補助金」(約568億円)、「無電柱化の促進」、「天然痘ワクチン対策事業」、「エネファーム実用化推進技術開発」など、すべて五輪開催を契機として実現させる2020東京大会の“レガシー”である。なぜ新国立競技場は五輪開催経費に組み入れて、その他は除外するのかまったく理解に苦しむ。 真に次世代の“レガシー”にする施策であれば、各省庁は胸を張って堂々と支出の必要性を主張して、国民の納得を得れば良い。「隠し立て」する必要はまったくない。要は説明性の問題だ。
 一方で、五輪の便乗支出も大量に生まれていると思われる。五輪開催を「錦の御旗」にして、なりふり構わず予算獲得に奔走した省庁の姿が見え隠れする。東日本大震災の復興予算の際も、その予算項目が本当に被災地の復興に役立つのか、疑問視される項目が続出したのは記憶に新しい。
 
「五輪便乗」? すべての施策を精査する必要
 会計検査院では、「大会の円滑な準備・運営に資する」関連施策(8分野45施策)と「大会を通じた日本の創造」資する関連施策(7分野45施策)に分けて各省別にリストアップしている。
 「大会の円滑な準備・運営」に資する関連施策では、セキュリティーの万全と安全・安心の確保(10施策)、アスリート、顧客等の円滑な輸送及び外国人受け入れ対策(13)、暑さ対策、環境問題への配慮(3)、メダル獲得に向けた競技力の強化(4)、アンチ・ドーピング対策の体制整備(4)、新国立競技場の整備(1)、教育・国際貢献等によるオリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成(4)、その他(9)の合計148事業、5879億1300万円(平成25年~29年)とした。
 項目を見る限り、「濃淡」に差はあると思えるが、すべてが東京五輪開催経費そするのが当然だろう。この経費は、組織委員会は、「直接経費ではない」として、除外している。また、個別の施策は詳細に精査し、「五輪便乗」の不要な施策かどうかもチェックしなければならないだろう。 




出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院


 一方、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する関連施策では、「被災地の復興・地域の活性化」(4施策)、「日本の技術力の発信」(7)、「外国人旅行者の訪日促進」(2)、「日本文化の魅力発信」(4)、「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」(1)、「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」(5)の136事業、2330億180万円としている。
 「大会の円滑な準備・運営」の施策とは明らかに有意差があって、ほとんどが五輪開催をきっかけに事業がする必要があるかどうかの疑念がある。「日本の技術力の発信」、「外国人旅行者の訪日促進」、「日本文化の魅力発信」は、今の日本の成長戦略の骨格で、毎年、各省庁は最優先で取り組みを進め、しっかり予算化している。五輪開催に合わせてさらに何を事業化しようとしてるのだろうか。「スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現」や「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」も継続して取り組んでいる課題だろう。「五輪便乗」の「無駄遣い」になっていないだろうか。その成果は大会開催後、しっかり精査すべきだ。










会計検査院の検査結果に対する所見は?
▼ 大会組織員会
 国が担う必要がある業務について国民に周知し、理解を求めるために、大会組織委員会が公表している大会経費の試算内容において国が負担することとされている業務や、オリパラ事務局がオリパラ関係予算として取りまとめて公表している業務はもとより、その他の行政経費によるものを含めて、大会との関連性に係る区分及びその基準を整理した上で大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務については、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して、対外的に示すことを検討すること

▼ JSC
 JSCは、新国立競技場の整備等の業務に係る確実な財源の確保等のために、財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円について東京都と協議を進めて、速やかに特定業務勘定への入金時期等を明確にするなどしていくこと
 (JSCの財政状況については、会計検査院は懸念を示している)

▼ 新国立競技場 
 早期に新国立競技場の大会終了後の活用に係る国及びJSCの財政負担を明らかにするために、JSCは、大会終了後の改修について文部科学省、関係機関等と協議を行うなどして速やかにその内容を検討して、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行うこと、また、文部科学省は、その内容に基づき民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること
 (新国立競技場の大会開催後の維持管理には課題が多いと指摘している)

▼ 地方自治体
 大会の関連施策を実施する各府省等は、大会組織委員会、東京都等と緊密に連携するなどして、その実施内容が大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシーの創出に資するよう努めること。また、オリパラ事務局は、引き続き大会の関連施策の実施状況について政府の取組状況報告等の取りまとめにより把握するとともに、各府省等と情報共有を図るなどしてオリパラ基本方針の実施を推進すること

 会計検査院としては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることなどに鑑み、要請後、大会の準備段階のできるだけ早期に、大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について分析して報告することとした。そして、今後、大会の開催に向けた準備が加速化し、32年には大会の開催を迎えることになることから、引き続き大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について検査を実施して、その結果については、取りまとめが出来次第報告することとする。


 会計検査院の指摘に関して大会関係者は、「関連するにしてすべて五輪経費として積み上げるのはおかしい」とか「数字が一人歩きしているだけで、これで無駄遣いしていると思われたらミスリードになる」など、反発する声が上がっているとされている。
 しかし、五輪開催経費は、五輪開催との関連性の「濃淡」に関わらず、組織委や東京都や国はすべてを明らかにすべきだ。そして国民に対しその施策の必要性を説明する責任を負うだろう。その上で、その支出項目が無駄遣いなのか、妥当なのかどうかは国民が判断していくべきだ。全体像の実態が見えなければ経費膨張のコントロールも不可能で、五輪開催経費の「青天井体質」は止められない。



“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」
 

2018年10月23日
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廣谷  徹
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)

2020年01月30日 07時39分36秒 | 東京オリンピック
2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)




海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、整備を683億円から514~529億円程度に削減して建設することで決着した。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減した。テレビ撮影で利用する桟橋の設置を見送ったことでお約60億円を圧縮し、追加工事が生じた場合の費用として予備費約90億円の削減した。また屋根付きの観客席「グランドスタンド棟」や艇庫棟の規模を縮小し、一部を仮設で整備。施設内の通路の舗装も簡素化する。
アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。
 コーツ副会長がこうした発言を行った背景には、五輪大会の肥大化批判がある。膨張する開催経費に耐え切れず開催地に立候補する都市がなくなる懸念が生まれていた。IOCは「アジェンダ2000」で五輪大会のスリム化を掲げ、2020東京五輪大会をその最初の大会と位置付けていた。その東京大会が、開催経費「2兆円」という破格の高額予算になっては、IOCの面目は丸つぶれである。海外のメディアが「東京大会2兆円」と報道されるとそのインパクトは大きく、また肥大化批判が巻き起こる懸念が生まれる。コーツ副会長は「2兆円」を認めるわけにはいかなかったのである。
 以後、大会組織委員会は、開催経費縮減に取り組むことが最大の課題になった。

「競技場は一つもつくらない」 ロサンゼルスのしたたかな挑戦
 2020東京五輪大会の次の2024大会の開催都市招致レースは佳境を迎えていた。本命はパリとロサンゼルス。
 五輪招致を辞退したボストンに代わって、米国の五輪大会招致都市として名乗りを上げたロサンゼルスは、次の時代の五輪のコンセプトを先取りした“コンパクト”五輪を掲げて、招致をアピールしていた。
 11月29日(日本時間)に東京で開かれた4者協議で、コーツIOC副会長が、東京大会の開催費用、「2兆円」は受け入れられないと発言したわずか数時間後に、ロサンゼルス招致委員会は、大会開催経費は「53億ドル」(約6000億円)と発表した。しかもこの中に、4億9100万ドル(約540億円)の予備費も計上済だ。破格の低予算である。「約53億ドル」は、リオデジャネイロ大会の約半分、東京大会の約3分の1である。
 開催費用削減をターゲットにするIOCの意向を巧みに取り入れ、世界各国にアピールする作戦だ。
 開催費用の削減は、ロサンゼルスにとって、最有力の強敵、パリとの競争に勝ち抜く“切り札”になってきた。
 「53億ドル」は、大会運営費と競技場(恒久施設)などのインフラ投資経費(レガシー経費)の合算、ロサンゼルス周辺に30以上の既存施設があり、競技場は新設する必要がなく、低予算に抑えられたとしている。選手村はカリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の学生寮を利用する計画だ。
 1984年に開催されたロサンゼルス五輪では、徹底した経費の削減と収入確保戦略で2億1500万ドル(約400億円)の黒字を出し、世界を驚かせた。
 ロサンゼルス五輪招致委員会のケーシー・ワッサーマン会長は「もしロサンゼルスが五輪開催地に選ばれたら、IOCは開催予算や競技会場変更問題から解放されるだろう」と胸を張る。

世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は青天井のままで膨れ上がり、闇に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。

 杜撰な競技場整備計画の象徴とされた海の森水上競技場について、小池東京都知事は、新たに建設する競技場を「スマート施設」と名付け、20年程度使用可能な仮設レベルで、グランドスタンド棟、フィニッシュ棟、艇庫などを整備することで、298億円(スマート案)で建設することを明らかにした。これで491億円から約200億円が縮減された。
 また観客席の規模も見直し、グランドスタンド棟(2000席 恒久席)の屋根の設置を半分の1000席分にするとともに、仮設席を1万席から4000席に半分以下に削減して、立見席の1万席を加えると1万6000席(当初計画2万2000席)に縮小した。
 小池氏は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、「仮設」というと粗雑な施設という印象を与えるが、「スマート施設」というと耳障りが良いと述べた。

 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の杜撰さを象徴している。「お粗末」としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその杜撰さは明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、そして最終案「298億円」(スマート施設)、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」を積み上げた数字を検証もせずにそのまま計画に上げた担当部局の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場移転」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。300億円台が可能ならなぜもっと早く検討しなかったのだあろうか。予算管理の甘さが如実に現れている。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は「2兆円を切る」と言明したが、コーツIOC副会長に「『2兆円』の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCはそれをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、「2兆円」の内訳は、新国立競技場の整備費約1500億円や東京都が建設する競技場施設の整備費2000億円など施設整備は20%程度で、大半は、東京都や組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、「2兆円」を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出することを要請された。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 開催経費を「2兆円」とすれば、組織委員の収入は約5千億程度、残りの1兆円5000億円を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのだろうか。未だに実は何もできていないことが明らかになっった。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整は果たして可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)も危機感を持ち始めている。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


コーツIOC副会長と森喜朗組織委会長 会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


東京五輪の経費 最大1兆8000億円 四者協議のトップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI

 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 11月の四者協議で、コーツIOC副会長から「2兆円」が否定されて、なんとか「2兆円」を下回る額を提示して、大会組織委員会は面目を保った。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。


出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。







開催経費「1兆8千億円」は納得できるか? 
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
 やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。
 「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須でだ。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。

地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、 「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 2016年12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
 2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。舛添要一前都知事の新設競技場の見直しで、レスリング、フェンシング、テコンドー会場は幕張、自転車競技[トラック・マウンテンバイク]会場は伊豆、ヨット・セーリング会場は江の島、自転車[ロード]会場[終着]は富士など東京都外の会場が増え、開催自治体の経費負担が問題になっていた。
 その後、関係する自治体は、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。

開催経費「1兆3850億円」 都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円


第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料

 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費

 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」である。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円、今回の「1兆3850億円」も同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、圧縮経費の詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。

 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。

都外開催経費分担決まる 大会組織委員会・東京都・地方自治体
 2017年9月、紛糾していた1道6県に立地する14競技場の開催経費負担について、大会後撤去する観客席やプレハブ、テント、警備用フェンスなどの仮設施設の整備は、東京都が約250億円、国や民間所有の施設については、大会組織委員会が約250億円を負担し、警備費や輸送費などの350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てることが決まった。これにより、地方自治体の負担は大幅に軽減された。
 小池百合子都知事は、都外14競技場の仮設費、500億円については、原則、都が全額負担すること表明していたが、その内、約250億円が新国立競技場や自衛隊朝霞訓練場など国の施設やや武道館や霞ヶ関カンツリー倶楽部などの民間施設の仮設施設が対象だったために東京都が支出するのは困難なことが分かり、大会組織委員会に負担を求めていた。
 大会組織委員会は、さらに運営費の一部(大型ビジョン、通信設備など)300億円や福島あづま球場とサッカーの追加1会場の仮設費、100億円についても負担することを決め、大会組織委員会の負担額の増分は合わせて700億円程度となった。
 これらの負担増は大会組織委がこれまで示してきた5000億円の枠外のため、収支均衡予算を保つには、収入増が必要となる。
 大会組織委員会では、スポンサーのさらなる獲得や、グッズ、チケット販売を増やすことで増収を図るとしている。
 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)や日本オリンピック委員会(JOC)にロイヤルティー(権利費)を約3割支払う必要があり、700億円を確保するためには約1000億円の増収が必要となる。
 大会組織委員会では、新カテゴリーでのスポンサー獲得などで約500億円の増収を見込んでおり、さらなる営業努力で1000億円の増収を目指すとした。

都の五輪5施設が赤字見通し 黒字は有明アリーナのみ
 都政改革本部の調査チームは、開催経費の縮減を掲げて、オリンピック・アクアティクスセンター、海の森水上競技場、有明アリーナ3会場の見直し求めた。結局、3会場とも整備計画は大幅に縮小されたが、建設することが決まった。
 焦点は、巨額を投じ整備した競技施設の後利用をどうするのかに移った。後利用が順調に進まなければ、利用料収入が伸び悩み、巨額の維持管理費がまかないきれず、赤字となり都財政の重荷となる。
 2017年3月、東京都は、東京都が整備する6の競技施設の後利用計画や年間収支の見通しを明らかにした。これによると新設の6施設のうち、バレーボール会場の有明アリーナ(江東区)を除く5施設が赤字運営となる見込みとなっている。
東京都は、「これは最小限の数字で、今後の工夫で収支は改善できる」としておりネーミングライツ(命名権)の導入などで収益アップを目指したいとした。
 五輪会場が負の遺産(レガシー)になるのを防ぐという難題を小池都知事は背負った。今後は各競技場の収益性向上や維持管理の効率化が課題となった。
 5施設の赤字額は、水泳競技会場のオリンピック・アクアティクスセンター(江東区)が6億3800万円▽ボートとカヌー(スプリント)会場の海の森水上競技場(臨海部)が1億5800万円▽カヌー・スラロームセンター(江戸川区)は1億8600万円▽大井ホッケー競技場(品川、大田区)は9200万円▽夢の島公園アーチェリー場(江東区)は1160万円とした。



唯一黒字を確保する有明アリーナ
 五輪大会でバレーボルの会場として建設された有明アリーナは、大会後は、コンサートや文化イベントの開催施設として高く評価され、6つの競技場の中で唯一の黒字を確保する見通しの施設となる。
 メインアリーナは、バレーボールのワールドカップなど年間10大会を開催し、コンサートなどのイベント開催で102万人の来場者の見込み、サブアリーナは市民利用を中心に17万人、トレーニングジムやレストラン・カフェなどでは21万人、計140万人の来場者を想定する。年間収入は、イベント開催の施設利用料が大幅に見込まれ、12億4500万円、支出は8億8900万円で、年間収支は約3億6千万円の黒字となる見通しを立てている。
 有明アリーナは、開催経費削減で、横浜アリーナ(横浜市)への変更も一時検討されたが、整備費は約404億円を約339億円に圧縮して建設することが決まった。
 五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やホテルやスポーツ施設も整備し、地区内に新たに建設される「有明体操競技場」や改装される「有明テニスの森」も加えて、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーするとした。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間の資金やノーハウを活用する。
 指定管理者の総合評価方式で入札が行われ、電通を代表とするグループや東京建物グループ、東京ドームグループなどが応札したが、2019年3月、審査の結果、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的なネットワークを活用して大規模なスポーツ大会やイベントを誘致する計画や、エントランスの大型ビジョンや高密度WiFiなどを整備し、スマートアリーナを目指すことなどが評価された。
 小池知事がこの計画を明らかにした四者協議で、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 有明アリーナは、小池都知事が推し進めるレガシー実現の可能性にあふれた競技場の象徴となった。


ARIAKE LEGACY AREA 出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


有明アリーナ  提供 TOKYO2020

「陸の孤島」 海の森水上競技場
 東京臨海部で建設中の海の森水上競技場はボート、カヌー会場で、2000メートル8レーンのコースを備えた国内最高峰の水上競技施設。491億円もの建設コストが批判を浴びて、見直し検討の対象となったが、仮設レベルの仕様で建設する「スマート施設」にしたり、観客席の屋根を縮小したりして、整備経費をを298億円に圧縮することで決着した。
 大会後は年間30大会の開催を目指し、来場者目標を年間約35万人に設定した。競技会利用(大会、練習、合宿等)で約31万人、一般利用で4万人とした。最大のネックは競技人口の少なさで、国内のボート競技人口はわずか9000人、国内の大きな大会や国際大会を誘致するとしているが、国内大会は、「ボートの聖地」戸田漕艇場を始め、すでに全国各地にボート場があるので大会開催は限界がある。また国際大会を誘致する計画だが、せいぜい年に1回程度、開催できれば上々だろう。
 東京都では、市民利用にも期待を寄せて、水上スポーツ体験や水上レジャーやイベントの開催、さらに企業研修での利用を計画したいとしている。また周辺の海の森公園を整備して、公園との一体利用を進めることで、年間35万人の来場者の確保は「決して無理な数字ではない」と説明する。
 海の森水上競技場が建設されたのは東京港突端の中央防波堤、交通アクセスの不便さから、「陸の孤島」と言われてきた場所である。イベントを開催するといっても交通アクセスが整備されていなく、来場者の確保が可能かどうか疑問視されている。東京都では、都営バス路線の拡充を検討するとしているが果たしてどの程度の効果があるのか疑問視されている。
 年間35万人の来場者を達成しても海の森水上競技場の年間収支は約1億6千万円の赤字を見込む。
 東京都の有識者会議では一部の委員から「過大な期待は難しい。身の丈に合った計画でやるべきだ」と指摘を受けた。レガシー(遺産)として存続させるのにふさわしいのかどうか今後も常に検証が必要になるだろう。東京都は来場者数が目標を大幅に下回るようなら20年後に廃止することも視野に入れているといが、298億円は余りにも「もったいない」。


海の森水上競技場 (左) グランドスタンド棟 経費削減で屋根の設置が約半分に縮小 (右) フィニッシュワター  筆者撮影

赤字額最大 オリンピックアクアティクスセンター
 赤字額が最も大きいのが水泳会場のオリンピックアクアティクスセンター(江東区)である。「世界水準のプール」をアピールして、ワールドカップやアジア水泳選手権などの国際大会や日本選手権などの国内主要大会をあわせて年間100大会誘致し、競技利用で約85万人の来場者を見込み、次世代のアスリートの育成の場としたいとしている。一方、サブプールやスタジオなどの市民の個人利用は約15万人で、合わせて年間100万人の利用者を想定している。
 年間収支は、収入が3億5000万円だが、プールの水質維持などに維持管理経費が9億8800万円に膨らみ、6億3800万円の赤字に陥ると試算した。
 この試算に対しては、甘すぎるとして関係者から厳しい批判を浴びている。試算をまとめた外部委員からも「黒字の必要はないが、健全な運営が必要」「一定の目標に達しなければ、施設を更新しないと決めるべきだ」などの指摘が相次いだ。
 オリンピックアクアティクスセンターのすぐ隣には大会会時には水球の会場となる東京辰巳国際水泳場がある。そもそも水泳競技場は過剰なのである。大会開催後、この二つの水泳競技場を維持していくのは至難の業であろう。


オリンピックアクアティクスセンター 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

競技大会開催に悩むカヌー・スラロームセンター
 葛西臨海公園の隣接地に建設されたカヌー・スラロームセンターは、「国内初の人工スラロームコース」を備えた施設を掲げ、国際大会や国内大会、年間7大会を誘致する目標を立てている。しかし、カヌー・スラロームの競技人口は日本国内でわずか約400人と極めて少なく、大会開催の実現が極めて厳しい環境にある。
 期待をかけるのは市民利用の拡大で、ラフティングなどの水上レジャーや水上スポーツで市民が楽しめる場にしたいとしているが、賑わうのは夏季期間だけで、年間通しての来場者の確保は絶望的である。誰も来ない寂しい光景が連日続くことになるだろう。
 年間来場者の目標は、競技利用で約3万人、一般利用で約7万人、計10万人としている。
 年間収支は、収入が1億6400万円、支出が収入の倍以上の3億4900万円、1億8600万円の赤字を見込んでいる。
 「人工スラロームコース」は、流れの速い特別なコースを人工的に整備する施設で、一般的な水上レジャー施設にならない。しかも夏季だけの限定された期間を除き、市民の利用者はほとんどいないと思われる。年間田来場者10万人の達成はかなり難しく、施設の維持には難問を抱えている。


カヌー・スラロームセンター 2019年7月8日から7月31日まで、この競技コースを使用してラフティング体験イベントが開催され、あわせて約530が参加した。 筆者撮影

「スポーツの森」の施設として一体運用 大井ホッケー競技場
 大井ふ頭中央海浜公園の「スポーツの森」に建設された大井ホッケー競技場は、全国でも数少ない公共のホッケー場として建設された。メインピッチとサブピッチの2つの施設が整備されている。
 大会後の後利用では、国際大会や国内大会で年間23大会の開催を目標としている、市民利用では、ラクロス、サッカーなどの大会や練習施設としての活用を図る。
 年間来場者は、大会開催で約13万人、練習・合宿などの利用で約7万人、計20万人を見込む。
 年間収支は、収入が5400万円、支出が1億4500万円で、年間9200万円の赤字。
 「スポーツの森」は、野球場、陸上競技場、テニスコートが整備されている総合運動公園で、干潟保全地区の「なぎさの森」が隣接し、バーベキューや釣り体験を楽しめるアウトドアアクティビティエリアも整備され、統合スポーツ・レジャー施設としとしてレガシー創出を狙う。


大井ホッケー競技場  READY STEADY TOKYO Test Events 筆者撮影

市民の来場者確保が鍵 夢の島公園アーチェリー場
 夢の島公園アーチェリー場は、アーチェリーを中心に、夢の島公園内に整備されている陸上競技場や野球場、スポーツ文化館、そして芝生の広がる共生広場と連携した市民の憩いの場を提供するとしている。
 アーチェリー競技大会は、年間20回の開催を目標にし、年間来場者は、競技利用で3000人、音楽イベントやヨガ、グルメのイベントなどの開催で3万人を見込む。
 年間収支は、収入が330万円、支出が1500万円、年間赤字額は1170万円を想定する。
 競技利用での来場者は、年間わずか3000人、月平均250人にとどまり、アーチェリー場は閑散となるのは必至である。
 芝生の広がる共生広場を中核に据えた市民の憩いの場にするほうが次世代のレガシーになると思われる。 


夢の島公園アーチェリー場 予選会場は完成  出典 READY STEADY TOKYO Test Events

「コンセッション方式」の導入 
 東京都は、民間に競技場の運営権を売却する「コンセッション方式」を採用して、民間企業の資金とノウハウを活用して競技施設の有効活用を図る。
 有明アリーナの指定管理者は、電通を代表とするNTTドコモ、アミューズ、アシックスなどで構成するグループが選定された。世界的ネットワークをフル活用して、ビックスポーツ大会や音楽イベントを誘致する「電通パワー」が評価された。
 またオリンピック アクアティクスセンターは東京都スポーツ文化事業団を代表にして水泳場の運営で実績のあるオーエンス・セントラル・スポーツ、東京都水泳協会のグループ、海の森水上競技場は一般財団法人公園財団を代表に日建総業、野村不動産ライフ&スポーツのグループ、カヌー・スラロームセンターは株式会社協栄、大井ホッケー競技場は、日比谷アメニス、日建総業、太陽スポーツ施設、エコルシステムが選定された。
 東京都によればいずれも公共のスポーツ施設等の運営・管理に多くの実績と知見を有する会社・団体だとしている。
 これから、各競技場ごとに、指定管理者と都の関係各局で構成する検討会を設置し、大会後の運営も含めた具体的な施設運営計画を策定し、ネーミングライツ(命名権)の売却や広告獲得に力を入れて収支の改善を図る計画である。
 果たして、想定した利用計画や収支が確保できるのかどうか、指定管理者の作成する施設運営計が注目される。 
 しかし、海の森水上競技場やオリンピック アクアティクスセンター、カヌー・スラロームセンターは東京都の試算では赤字が想定されていて、大会後の運営管理は容易ではない。

競技場をレガシーにするのは難題
 東京都では、競技施設を中核にして、周辺の商業施設や公園などと一体となった「点ではなく面での活性化」を推進したいとしている。地域全体を魅力的なエリアに再開発して、人を呼び込む仕掛けづくりを実現して地域の活性化を狙う。そのためには実効性のある基盤整備が必要となるが、中でも交通インフラの整備が最大の課題となる。
 1998年長野冬季五輪の競技会場は、大会後の維持管理や改修に巨額の費用の負担が残り、開催地の自治体の財政を圧迫し続けて、「負の遺産」の象徴となった。2020東京五輪大会の競技会場も、大会後の運営で出る赤字分は都の負担となる。各施設の収益性の向上は至上命題である。
 自治体所有のスポーツ施設は、ただでさえ運営は厳しい。

 日本国内のスタジアム経営は極めて難しい。プロ野球のスタジアムやごく一部のサッカースタジアムを除き、国内の大半のスタジアムは、基本的に赤字である。とりわけ自治体が主有するスタジアムやアリーナは、大学や高校、社会人などのアマチュアスポーツの利用や一般市民のスポーツ振興を図らなければならので商業的なイベント利用は制限が多い。
利用料収入では維持管理費をまかないきれず税金を投入して運営を維持している。つまり競技施設はつくれればつくるほど後年度負担が増えるのである。
 市民民スポーツ振興のために整備されている各地の体育館やグランドなどは、基本的に市民にたいする行政サービスの一環なので、税金を投入して維持管理をするのは当然だろう。しかし、大規模な競技大会を開催する「スポーツイベント施設」の整備は、採算をしっかり視野に入れて慎重に行わなければならない。
 東京都は、五輪大会開催に向けて、オリンピックアクアティクスセンターや有明アリーナ、海の森水上競技場、カヌー・スラローム会場、大井ホッケー場、夢の島アーチェリー場の6つの恒久施設を、約2000億円を投じて建設する。こうした競技施設は、50年以上に渡って利用され、毎年、巨額の維持運営費を負担しなければならない。利用料収入が維持運営費を上回らない限り、赤字が次の世代の負担となってのしかかる。「負のレガシー」になる懸念は更に深まった。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)





国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)

2020年01月29日 16時47分57秒 | 東京オリンピック
2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)





小池都知事VS森会長の対立激化に危機感 バッハIOC会長 小池都知事との会談に
 小池百合子東京都知事と森喜朗大会組織委会長との対立激化で混迷が深刻化している中で、2020東京五輪大会の準備態勢に危機感を抱いた国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、急遽、来日して両者の仲介の乗り出すことになった。
 2016年10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は東京都庁を訪れ、小池百合子都知事との会談に臨んだ。。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 東京都庁で行われた会談は、当初は、冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
東京五輪開催の“舞台”で繰り広げられたまさに“小池劇場”の最大の見せ場となった。


バッハIOC会長と小池都知事 2016年10月18日 出典 東京都 知事の部屋

小池知事がコスト削減説明 バッハIOC会長は理解示す 四者会合開催で合意
 バッハ会長との会談の冒頭に、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は、小池都知事が五輪開催に際して掲げているコンセプト、「もったいない」を受けて、「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語った。これに対して小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と「四者協議」の開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じ、東京都、大会組織委員会、国、IOCによる四者協議の開催が事実上決まった。森喜朗組織委会長も国もいない場で五輪見直しの競技の枠組みが決まったのである

 また抜本的な見直しの検討が進められている焦点の海の森水上競技場については、会談に中では、長沼ボート場や彩湖の具体的な候補地は出されなかった。
 バッハ会長は、「東京が勝ったのは非常に説得力のある持続可能で実行可能な案を提示したからです。東京が開催都市として選ばれた後に競争のルールを変えないことこそ日本にとっても東京にとってもIOCにとっても利益にかなっていると思う」と暗に海の森水上競技場の見直しを牽制した。


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書 Ver.0.9 “1964 again”を越えて 2016年9月29日

主導権争いの前哨戦 「IOC、ボート・カヌー競技など韓国開催も検討」報道
 10月18日、国際オリンピック委員会(IOC)は、海の森水上競技場が建設されない場合には、代替開催地として韓国を検討していると、国内の大会関係者が明らかにした。関係者によると、IOCは海の森水上競技場の整備費が高額であることを憂慮して、2年前にも韓国案を選択肢として組織委員会に示しており、再度持ち出す可能性があるという。
 関係者によると、IOC側が想定するのは、2013年世界選手権や2014年仁川アジア大会で使われた韓国中部、忠州(チュウンジ)の弾琴湖国際ボート競技場で、ソウルから約100km離れた場所にある湖のボート場で、国際規格の2千メートルコース8レーンを備える。
 IOCは14年12月に承認した中長期改革「五輪アジェンダ2020」で、コスト削減などの観点から例外的に五輪の一部競技を国外で実施することを容認している。交通アクセスなどに課題があるものの、ボート関係者によると「数カ月あれば、五輪を開催できるような能力をもったコース」という。これに対してバッハ会長は、「憶測はうわさにはコメントしない」と述べた。
 「韓国開催」の報道は、小池都知事とバッハIOC会長が会談する直前というタイミングで各メディア一斉に行われた。
IOC関係者が小池都知事とバッハ会長の会談の直前を狙ってリークしたとされている。このリークは、小池都知事の海の森水上競技場対応の“独走”に不満を持ち、牽制したと考えるのが自然だろう。小池都知事と組織委員会とのぎくしゃくした関係に不快感を示した国際オリンピック委員会(IOC)が仕掛けたしたという観測もされているが真偽のほどは分からない。ボート・カヌー競技場を検討する経緯の中で、国際オリンピック委員会(IOC)内部で議論の一つになっていたことがあると思える。しかし、今のタイミングでこの議論が再浮上としたとは考えにくい。やはり、国内の五輪関係者がバッハIOC会長来日のタイミングを狙ってリークしたと考えるのが自然だろう。
いずれにしてもバッハIOC会長訪日にからんだ一連の主導権争いの序章だったことには間違いない。

「復興五輪」を仕掛けて“主導権”を取り戻した森組織委会長
10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍総理と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。
 会談後、バッハIOC会長は、記者団の質問に答え、「イベントの中のいくつかを被災地でやるアイデアを持っているという話をした」と語り、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を安倍総理に提案したことを明らかにした。これに対し安倍総理は、「そのアイデアを歓迎する」と応じたという。
 またバッハ会長は 「復興に貢献したい。世界の人たちに、復興はこれだけ進捗していることを示すことができる」とし、大会組織委員会が福島市での開催を検討している追加種目の野球・ソフトボールについては、選択肢の1つとした上で、 「日本のチームが試合をすれば、非常にパワフルなメッセージの発信につながる」と述べた。
 野球・ソフトボールの開催地を巡っては、福島県の福島、郡山、いわきの3市が招致している。
 前日の小池百合子との会談では、バッハIOC会長は、この話を一切出さなかった。
 関係者の話を総合すると、バッハIOC会長は、小池都知事と会談したあと、組織委員会を訪れ、森喜朗組織委会長と会談をしている。この会談の中で、森喜朗組織委会長から、野球・ソフトボールの被災地開催を安倍首相の提案するように進言したとされている。バッハIOC会長は、小池都知事を通り越して、安倍首相との会談で、「復興五輪」の推進を高らかに宣言した。

“おやじさん”、“兄弟” 森組織委会長 バッハIOC会長との親密さを演出
10月20日、都内で開催されたスポーツ・文化・ワールド・フォーラム(World Forum on Sports and Culture) 基調講演で、バッハIOC会長は、「IOCは被災地でいくつかの競技を行うことを検討している。野球とソフトボールを開催するのも一つの選択肢だ」と異例の演説をした。
IOC会長の発言力は極めて影響力があり、通常はここまで踏み込んだ発言はしない。
 「復興五輪」にふさわしいのは、日本で人気のある野球・ソフトボールを被災地でおこなうことだろう。バッハIOC会長発言は、この点をしっかり踏まえたものであった。あまり日本では馴染みのないボート・カヌー競技よりはるかにインパクトがある。小池都知事が力を入れていると思われる長沼ボート場でのボート・カヌー競技開催を“牽制”したと思える。
 バッハIOC会長は野球・ソフトボールと具体名を出したが、その一方で、ボート・カヌー競技については何もコメントせず、質問されても何も言及しなかった。
そして、「これは被災地の人々を応援する重要なメッセージになる。この点について昨日森組織委会長の計らいで安倍首相と話をする機会を得た」と述べ、森組織委会長の根回しがあったことを明らかにした。
 バッハIOC会長と安倍首相との会談は、もともとの予定にはなく、急遽セッティングされたものだとされている。森組織委会長の“根回し”で実現したのであろう。安倍首相もこの問題に登場させた森組織委会長の政治家として手腕は健在だ。
 この会談で、小池都知事が強調した「復興五輪」を、逆手にとって、野球・ソフトボールの開催をバッハIOC会長に発言させることで、小池都知事の動きを封じ込め、2020年東京オリンピック・パラリンピックの主導権を奪い返そうとする森組織委会長のしたたかな戦略だと思う。海の森水上競技場での開催を守ろうとする反撃といえるだろう。
 カヌー・ボート競技会場を長沼ボート場にした場合、選手村からの距離が遠いので、分村を設置しなければならないという問題が生まれる。
 この点についても、森組織委会長は、「選手村は非常に大事だ。世界中の人がそこに集まって一緒に話し合って語り合って未来を考えることができる。そういう意味では、原則的に分村はできるだけ避けてひとつの選手村に選手たちは行動をともにしていただければということだ」と述べた。
 これに対しバッハIOC会長は、「もっとも重要なことは選手村がオリンピックの魂であり中心であることだ」と森組織委会長に同調した。
こうした一連の発言で、小池都知事が経費削減と「復興五輪」のシンボルとしていた海の森水上競技場の長沼ボート場移転は、勢いを失ったようである。

 また森組織委会長はバッハIOC会長との“親密”な関係をアピールする戦略にも乗り出した。 
 森組織委会長は「バッハIOC会長は私どもの『おやじさん』、本当に心から崇拝している。2020年東京大会を主導してくれる「船長』さん。2020年東京大会とバッハIOC会長とは『兄弟』であるわけだ」と述べ、これに対しバッハIOC会長は「森さんとは先ほど『兄弟』という暖かい言葉を頂いたので、私は『弟』と呼ぶべきかな」と語った。

「経費削減」、「復興五輪」、小池都知事に東京五輪の主導権を奪われかけた森組織委会長は、バッハIOC会長来日を機会に、一気に攻勢に出て巻き返しを図ったといえる。 バッハIOC会長もこれに呼応して、野球・ソフトボールの被災地開催に言及した。
 海の森水上競技場を維持しようとする国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会の連携作戦も強烈だ。バッハIOC会長に同行したコーツIOC副会長は、元オリンピックのボート選手、「(コーツ氏の地元)シドニーの私のボートコースは海で、海水がダメというのはおかしい」とした上で、「選手村は一つ」、「レガシーとして残す」と強調した。明らかに海の森水上競技場擁護の姿勢である。
森組織委会長との親密さをアピールし、組織委員会との連携を強め、小池都知事の“封じ込め”を図ろうとしている。
 それにしても総理大臣経験者の老練な政治家、森組織委会長のしたたかな手腕がいかんなく発揮され始めている。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを巡る小池都知事、森組織委会長、コーツIOC会長、三つ巴の主導権争いは更に激化した、2020東京オリンピック・パラリンピックはどこへ向かうのだろうか?

小池都知事VSバッハIOC会長 “軍配”は? 
 会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。まさに“小池劇場”の上演で、主人公は小池百合子都知事、この舞台には森喜朗大会組織委会長はいない。
 11月に開催される四者協議も、小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。
 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、その後、組織委員会やIOCと協議を行うという作戦だったと思える。ところがコーツIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案し、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。「四者協議」の設置は合意され、来月に開催されることになった。国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席する。

 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。
小池都知事と組織委員会の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして仲介に乗り出し、小池都知事にクギを刺して、組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたバッハIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設を合わせて最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。

 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、2020東京五輪大会の開催計画について直接、議論をする場を確保した。
 2020東京五輪大会の誘致が決まってからは、開催準備体制は、事実上、国際オリンピック委員会(IOC)と大会組織委員会との間で進められていて、開催都市の東京都の主導権はほとんどなくなっていた。小池都知事の登場で、東京都は一気に存在感を増すことに成功したのである。
 「四者協議」で具体的な見直し案を提出するのは東京都で、組織委員会ではない。また組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり小池都知事や都政改革本部が見直しの主導権を握っていると思われる。
 しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?、まったく見通せない状況になった。

問われる国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢
四者協議は“オープンな形”で“リーダーはいない” バッハ会長の約束はどうなる?

 小池都知事との会談の翌日、10月19日に組織委員会を訪れたバッハIOC会長は、記者会見で、経費削減に向けて提案した国・東京都・組織委員会・IOCとの四者協議について、緊密に連携していきたいという考えを示した。
 バッハIOC会長は、「四者協議については組織委員会とも合意した。四者協議は技術的な作業部会であり、さまざまな数字や異なる予算を提示して協議していく」と述べた上で、記者団から四者協議の進め方について問われたのに対し、「作業グループは誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない。政治的なグループではない」と四者協議にリーダーはいなく、四者は対等だと強調した。
 同じ10月19日、バッハIOC会長は、総理官邸で安倍首相と会談し、東京オリンピック・パラリンピックの複数の種目を東日本大震災の被災地で行う構想を突然、提案した。「復興五輪」については、小池都知事を抜きにしてバ森喜朗組織委会長がバッハ会長と画策を進めていたと思われる。安倍首相との会談を調整したとされている。小池百合子都知事との顔は立てながら、森喜朗組織委会長との密接な関係は維持する、バッハIOC会長のしたたかな対応が引き立った。

 また、11月1日から3日まで開かれた四者協議の作業部会は、国際オリンピック委員会(IOC)の意向で、一転して完全非公開とし、「会合の内容については一切公にしない」という密室の場の会議となった。しかも、完全非公開を決めたのは、国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会と相談して決めたとしている。その理由について、協議は事務レベルによるもので、11月末まで継続される見込みで、「最終的な結論となる予定はないため」としている。
一方、小池都知事は、「基本的に公開すべきだ」と苦言を呈した。四者協議はオープンにするとバッハIOC会長の了解を取り付けた小池都知事の立場は丸つぶれである。
 丸川五輪担当者相は「今回は中身が最終結論に直結しないので公開しないと聞いており、IOCと組織委員会で決めたことで、私どもは尊重したい」と述べた。四者協議における国の存在感の薄さを象徴する発言だろう。

 「四者協議」は10月18日、バッハ会長が小池都知事と会談した際に申し入れた。小池知事はその際、「ご提案があった四者の会議は、ぜひ国民や都民に見える形で情報公開を徹底できるのであれば、よろしい提案なのではないかと思う」と、議論の透明性を要請した。
 これに対し、バッハIOC会長は、「この会談のようなオープンな形で進めていきたい。われわれとしては、どこでとか、何をとかいうことを決めているのではなく、あくまで先ほど申し上げたフェアの精神でないといけないと考えている」と答えた。
 四者協議は、基本的に公開するという条件で、バッハIOC会長と小池都知事は開催に合意をしたのではないか。バッハIOC会長も了解をしたはずである。
 その2週間後に開かれた作業部会は、早くも非公開、会議の内容も公表しないという方針に変換した。国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会の「密室体質」は、従来からも強く批判をされてきた。政策決定の議論は、結論もさることながら議論の経緯が重要なのはいうまでもない。やっぱりと、国際オリンピック委員会(IOC)や組織委員会への信頼感を失った。
 また会議を非公開にすることは、「IOCと組織委員会で決めたこと」(丸川五輪担当相)としていることも問題だろう。バッハIOC会長は、四者協議は、「誰が仕切るとか役割分担を考えるグループではない」とリーダーのいない四者が平等な会議としていたが、実態は早くも違う。非公開を決めるなら、せめて四者で協議して決めるべきだろう。はやくも会議の進めかたで国際オリンピック委員会(IOC)の“力ずく”の姿勢が見え隠れしている。
 11月下旬に予定されている四者協議トップ級会合は、当然、公開すべきだろう。四者協議は公開するという約束で始まったのである。
 オリンピックの肥大化批判が高まる中で、 「アジェンダ2020」で、五輪改革を実現する最初の大会に2020年東京オリンピック・パラリンピックにするという国際オリンピック委員会(IOC)の意気込みはどうなるのか、問われているのは国際オリンピック委員会(IOC)である。

“肥大化批判” IOC存続の危機
 国際オリンピック委員会(IOC)もその存在を揺るがす深刻な問題を抱えている。オリンピックの“肥大化”批判である。巨額な開催経費の負担に耐え切れず立候補する開催地がなくなるのではという懸念だ。
 2024年夏季五輪では、立候補地は、当初は、パリ、ボストン、ローマ、ブタペスト、ハンブルだった。この内、ボストンは、米国内での候補地競争を勝ち取ったが、市長が財政難を理由に大会運営で赤字が生じた場合、市が全額を補償することに難色を表明、立候補を辞退した。その後、ロサンジェルスが急遽、ピンチヒッターで立候補することになった。ローマは新しく当選した市長が、財政難を理由に立候補撤退を表明、「オリンピックを招致すればローマの債務はさらに増える。招致を進めるのは無責任だ」とした。しかし、組織委員会は活動継続を表明し混乱が続いている。ハンブルグでは招致の是非を問う住民投票が行われ、巨額の開催費用への懸念から反対多数で断念した。
 結局、立候補地は4つになった。2008年(北京五輪)の立候補地は10、2012年(ロンドン)は9、2016年(リオデジャネイロ五輪)は7、2020年(東京)は6で、2008年の半分以下に激減した。さらに悲惨なのは、冬季五輪で、2018年(平昌五輪)は3、2022年(北京)は、最終的には北京とアルマトイ(カザフスタン)だけで、実質的に競争にならなかった。しかし、このほかに、ストックホルム(スウェーデン)、クラクフ(ポーランド)、リヴィウ(ウクライナ)、オスロ(ノルウェー)の4か所が立候補を申請したが、いずれも辞退した。
 ストックホルムは、1912年夏季五輪を開催し、冬季五輪が開催されれば史上初の夏冬両大会開催地となるはずだった。2014年1月にスウェーデンの与党・穏健党は招致から撤退する方針を発表した。ボブスレーやリュージュの競技施設の建設に多大な費用がかかる上、大会後の用途が少ないことなどを理由に挙げている。
クラクフ は、ポーランド南部に位置する旧首都、開催地に選ばれれば同国初の五輪開催となる。2014年5月に行われた住民投票で、反対票が全体の7割近くを占めたため、招致から撤退した。
 リヴィウは、ウクライナ西部の歴史的な文化遺産が数多く残る都市である。開催地に選ばれれば、同国で初の五輪開催となる。しかし、2014年6月に緊迫化すウクライナ情勢で立候補を取りやめると発表した。
ノルウェーは、1952年にオスロオリンピック、1994年にリレハンメルオリンピック開催している。2013年9月に住民投票を行い、支持を得られたことで立候補を表明した。しかしIOCの第1次選考を通過していたにもかかわらず2014年10月、招致から撤退する方針を明らかにした。ノルウェー政府が巨額の開催費などを理由に財政保証を承認しなかったとされている。
 開催費用の巨額化で、相次ぐ立候補撤退、このままでは、やがてオリンピック開催を立候補する都市はなくなるとまで言われ始めている、国際オリンピック委員会(IOC)は、オリンピックの存在をかけて改革に取り組む必要に迫られているのである。

「アジェンダ2020」を策定したバッハIOC会長
 2013年、リオデジャネイロの国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ロゲ前会長と交代したバッハ会長は、オリンピックの肥大化の歯止めや開催費用の削減に取り組み、翌年の2014年の「アジェンダ2020」を策定する。
 「アジェンダ2020」は、合計40の提案を掲げた中長期改革である。
 そのポイントは以下の通りだ。
* 開催費用を削減して運営の柔軟性を高める
* 既存の施設を最大限活用する
* 一時的(仮設)会場活用を促進する
* 開催都市以外、さらに例外的な場合は開催国以外で競技を行うことを認める
* 開催都市に複数の追加種目を認める 

 2016年10月20日、都内でバッハIOC会長の来日記念式典が開かれ、東洋の文化、書道を体験してもらうイベントが行われ、バッハIOC会長は、一筆入れて下さいという要請に答え、「五輪精神」の「神」の字に筆を入れて、「五輪精神」の四文字の書を完成させ喝采を浴びた。
 その後にスピーチで「オリンピックの運営という観点での『アジェンダ2020』の目標は、経費削減と競技運営の柔軟性を再強化することだ。これは大きな転換点だ」と強調した。
 今回バッハIOC会長と共に来日したコーツ副会長も、2000年シドニー五輪で大会運営に加わり、経費削減に辣腕をふるって、大会を成功に結び付けた立役者とされている。
 国際オリンピック委員会(IOC)にとっても、肥大化の歯止めや開催費用の削減は、オリンピックの存亡を賭けた至上命題なのだ。持続可能なオリンピック改革ができるかどうか、瀬戸際に追い込まれているのである。

都政改革本部調査チーム オリンピック・アクアティクスセンターの大幅な見直しを提言
 2016年11月、都政改革本部調査チームは、国際水泳連盟や国際オリンピック委員会(IOC)の要求水準から見ると五輪開催時の観客席2万席という整備計画は過剰ではないかとし、大会開催後は減築するにしても、レガシーが十分に検討されているとは言えず、「国際大会ができる大規模な施設が必要」以上の意義が見出しづらいとした。
 「5000席」に減築するにしても、水泳競技の大規模な国際大会は、年に1回、開催されるかどうかで、国内大会では、観客数は2700人程度(平均)とされている。(都政改革本部調査チーム)
 また「2万席」から「5000席」に減築する工事費も問題視されている。現状の整備計画では総額683億円の内、74億円が減築費としている。
 施設の維持費の想定は、減築前は7億9100円、減築後は5億9700万円と、減築による削減額はわずか年間2億円程度としている。(都政改革本部調査チーム) 減築費を償却するためにはなんと37年も必要ということになる。批判が起きるのも当然だろう。
 施設維持費の後年度負担は、深刻な問題で、辰巳水泳場だけでも年5億円弱が必要で、新設されるオリンピックアクアティクスセンターの年6億円弱を加えると約11億円程度が毎年必要となる。国際水泳競技場は赤字経営が必至で、巨額の維持費が、毎年税金で補てんされることになるのだろう。
 大会開催後のレガシーについては、「辰巳国際水泳場を引き継ぐ施設」とするだけで検討が十分ではなく、何をレガシーにしたいのか示すことができていない。大会後の利用計画が示されず、まだ検討中であること点も問題した。
 辰巳国際水泳場の観客席を増築する選択肢は「北側に運河があるから」との理由だけで最初から排除されており、検討が十分とは言えないとし、オリンピックアクアティクスセンターは、恒久席で見ると一席あたりの建設費が1000万円近くも上りコストが高すぎると批判を浴びた。
 結論として、代替地も含めてすべての可能性を検証すべきで、オリンピックアクアティクスセンターの現行計画で整備する場合でも、さらなる大幅コスト削減のプランを再考することが必要だと指摘した。

「3兆円」は「モッタイナイ」!
 「3兆円」、都政改革本部が試算した2020東京オリンピック・パラリンピックの開催費用だ。オリンピックを取り巻く最大の問題、“肥大化批判”にまったく答えていない。
 東京でオリンピックを開催するなら、次の世代を視野にいれた持続可能な“コンパクト”なオリンピックを実現することではないか。「アジェンダ2020」はどこへいったのか。国際オリンピック委員会(IOC)は、2020東京大会を「アジェンダ2020」の下で開催する最初のオリンピックとするとしていたのではないか。「世界一コンパクな大会」はどこへいったのか。開催費用を徹底的削減して、次世代の遺産になるレガシーだけを整備する、今の日本に世界が目を見張る壮大な施設は不要だし、“見栄”もいらない。真の意味で“コンパクト”な大会を目指し、今後のオリンピックの“手本”を率先して示すべきだ。
 日本は確実に少子高齢化社会が急速に進展する。その備えを、今、最優先で考えなければならい。
 小池東知事は、リオデジャネイロ五輪に参加して帰国後、日本記者クラブで会見して、2020東京五輪大会の開催にあたって、「もったいない Mottainai」というコンセプトを国際的に発信していきたいと宣言した。
 絶対に「3兆円」は「モッタイナイ」! 
 ともかく五輪改革の舞台は、「四者協議」に場に移った。


オリンピックアクアティクスセンターの内部(完成予想図)  出典 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


杜撰な整備計画に大なたをふるった舛添前都知事 招致段階の3倍、「4584億円」に膨張した整備経費
 競技場の整備計画の問題は、小池都知事の見直しが最初ではない。公費流用問題の責任をとって辞職した舛添要一前知事の時代に大規模な見直しが行われ、整備計画に大なたがふるわれ、整備経費は2000億円も削減され、半減した。
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国、恒久施設は東京都、仮設施設は大会組織委員会が責任を持つことが決められていた。
 東京都が担当する恒久施設は、招致計画では整備経費は約1538億円としたが、招致決定後に改めて試算すると当初予定の約3倍となる約4584億円まで膨らむことが判明した。
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、招致計画では約69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。若洲オリンピックマリーナ(ヨット・セーリング)は92億円から約4倍弱の322億円、葛西臨海公園(カヌー・スラローム)は約24億円から約3倍の73億円、有明アリーナは176億円から倍以上の404億円、東京アクアティクスセンターは321億円から倍以上の683億円に膨張した。招致計画時の余りにも杜撰な予算の作成にあきれる他はない。
 問題は新国立競技場にとどまっていなかったのである。

 舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とテレビ番組に出演して話している。
 招致計画を策定した担当者は、ほとんど誰も五輪大会の東京招致が実現するとは思わず、作業を進めていた光景が浮かび上がる。

東京五輪大会の招致に名乗りを上げた石原慎太郎元知事
 2020東京五輪大会の招致に名乗りを上げたのは、石原慎太郎元知事である。
 2007年、東京都知事として三期目を迎えた石原氏は、2016夏季五輪大会の開催都市として名乗りを上げ、招致活動を開始した。
 石原元知事は五輪開催で臨海副都心の再開発の起爆剤にしようと目論んだ。
 臨海副都心の開発が本格的に始まったのは、1980年代後半、当初は鈴木俊一都知事(当時)による東京テレポート構想によって始まり、1996年に国際博覧会である「世界都市博覧会」の開催が予定されていた。
 1993年にはレインボーブリッジが開通、1995年にゆりかもめが新橋-有明間に開通、着々とインフラは整備されていった。
 しかし、都市博中止を掲げた青島幸男都知事が当選し、公約どおり1995年、「世界都市博覧会」中止され、臨海副都心は挫折寸前に陥った。それ以後も、1996年臨海高速鉄道が開通したり、臨海部は徐々に「街」として様子を整えていったが、依然として広大な草ぼうぼうの埋め立て地が広がっていた。
こうした中で、メインの会場となる五輪スタジアムを、常設8万人、仮設2万人、10万人収容する巨大スタジアムとして、晴海埠頭に東京都が新設するという計画を立案した。
 その後、五輪スタジアムは国立霞ヶ丘競技場を改修することになり、晴海埠頭の五輪スタジアム新設計画は消え、代わりに晴海埠頭には18,500人収容の選手村が建設されることになる。
 その他、代々木アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート/カヌー)、 葛西臨海公園(カヌー[スラローム])、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)などが新設される。水泳会場は、東京辰巳国際水泳場を改修して使用する計画である
 開催経費は、大会組織委員会予算が3093億円、設備投資予算(非大会経費予算 競技場施設の整備費)が3317億円、計6410億円、五輪スタジアムは898億円とした。
 しかし、2009年のIOC総会で南米初の大会開催を掲げたリオデジャネイロに敗れた。
 2011年4月、東京都知事選で4選を果たした石原氏は、再び、2020夏季五輪開催都市への立候補を宣言して招致員会を立ち上げ招致活動を開始する。招致委員会の理事長は竹田恆和JOC会長である。2012年2月には、招致申請ファイルを国際オリンピック委員会(IOC)に提出した。

五輪開催に冷ややかだった東京都民
 石原氏の五輪開催にかける執念はともかく、都民に五輪大会招致に対する思いは冷めていた。1964東京五輪の感動は忘れてはいなかったが、なぜ再び東京が開催地に名乗りをあげなけれならいのか納得していなかのである。
 国際オリンピック委員会(IOC)が2012年5月に調査した東京五輪大会開催への東京都民支持率調査によれば、賛成が半分を下回る47%、反対が23%、どちらでもないが30%と支持率は低迷していた。同年10月に招致委員会が独自に調査した結果によれは、賛成は67%、反対21%、どちらでもない13%と賛成が大幅に増えたが、競争相手のマドリードの80%、イスタンブールの73%に比べて、大差をつけられていた。
 東京がライバルのマドリードやイスタンブールに勝つには、都民の支持率を上げ、国際世論の支持を得ることが必須の条件だった。
 東京五輪開催に対する拒否反応の主な理由は、巨額の開催経費負担への懸念である。招致計画を立案する東京都は、五輪開催経費を極力縮減し、都民に負担ならない大会開催を掲げた。東京都が整備する競技場の建設予算額は低く抑える必要があった。そして掲げたスローガンが「世界一コンパクトな大会」で、招致申請ファイルの経費総額は7,340億円(大会組織委員会3,013億円、非大会組織委員会4,327億円)とした。
 実現可能性を真剣に検証して算出された経費ではなく、明らかに経費総額を抑える「見せかけ」の数字であった。とにかく開催経費を低く見せればよいという発想だったと思われる。
 こうした意識が蔓延した背景には、「まさか本当に東京に五輪がくるわけはない」といった無責任とも言える意識があったことが窺われる。「旗振れども踊らず」は、国民だけでなく関係者にも浸透していたのである。
 2020東京五輪大会の開催計画は、2016大会の臨海部を中心に競技場を整備して開催するという計画をほぼそのまま踏襲していた。変更したのは、新国立競技場の建設地を臨海部から旧国立競技場の跡地に変えたことや、IBCの設置を晴海地区に新設する計画を東京ビックサイトに変更し、晴海地区に選手村を整備することだけで、大半の競技施設の整備は、新たに検証することなく、2016大会の計画をそのまま引き継いだ。
 ところが「晴天の霹靂」、東京大会招致が決まって、2020開催計画を策定した担当者は大慌てで整備予算を「真面目」に見直しのである。その結果が、「1538億円」の約3倍となる「4584億円」という数字になって現れたのである。
 まさに無責任体制の象徴だった。
 
経費削減に動いた舛添都知事 「削減効果」は2000億円


出典 TOKYO MX NEWS 2014年6月10日 所信表演説

 2013年12月、猪瀬直樹東京都知事は、医療法人「徳洲会」グループから5000万円の資金提供を受けていた問題で、「都政を停滞させ、国の栄誉がかかったオリンピック・パラリンピックを滞らせることはできない」として辞職を表明した。猪瀬氏は、国政転出のため任期半ばで辞任した石原氏から後継指名を受け2012年12月に行われた都知事選に立候補、過去最高の433万票を獲得して初当選した。2020東京五輪大会の招致活動に力を入れ、2013年9月には東京五輪大会の招致を実現する。
 2014年2月、猪瀬氏の辞任を受けて、都知事選が行われ、自民党・公明党の推薦を受けた舛添要一が、共産党・社民党など推薦の宇都宮健児氏や民社党など推薦の細川護熙氏を大差で破って初当選した。
 2014年6月、舛添要一都知事は所信表明演説で、競技場整備計画の大幅な見直しを表明した。
 そして11月には、新設する5競技場の建設中止を含む大幅な見直し案を明らかにした。見直しに伴う整備費の削減効果は2千億円規模に及ぶ。
 舛添氏は「施設が大会後の東京にどのようなレガシー(遺産)を残せるのか、現実妥当性を持って見定めていく必要がある」と述べた。
 舛添氏は、記者会見で、都内で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)との調整員委員会でおおむねの合意を得たとし、会議でコーツ調整委員長はコスト削減のため、サッカーやバスケットボールの予選を地方都市の既存施設で開くことを推奨し、候補として大阪を提案したことを明らかにした。

5つの競技場を建設中止
 建設が中止される競技場(恒久施設)は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、有明ベロドローム(自転車・トラック)の5施設である。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、 水球は東京アクアティクスセンターに隣接する東京辰巳国際水泳場、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、自転車(トラック)は日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)内の伊豆ベロドロームで開催することになった。
 東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は、幕張メッセ(千葉市)となり、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技会場となった。
 自転車競技のマウンテンバイク(MTB)ては、有明地区にマウンテンバイク(MTB)コースを仮設で整備する計画だったが、日本サイクルスポーツセンター(伊豆市)のMTBコースに変更することが決まった。しかし、自転車(BMX)は、若者に人気のある競技で都心部に隣接するエリアで開催したいという競技団体の強い意向で、当初予定通り、有明地区に仮設施設を建設して開催するとした。
 また、夢の島地区に仮設施設を建設する予定だった馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)の会場は整備を取りやめ、馬事公苑(世田谷)に変更した。
 馬術(クロスカントリー)は海の森クロスカントリーコースを海の森公園内に仮設施設として整備して予定通り行われる。


夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット) 完成予想図 出典 以下2020招致ファイル


若洲オリンピックマリーナ(セーリング) 完成予想図


有明ベロドローム(自転車・トラック) 完成予想図

2000億円削減して2241億円に
 カヌー・スラローム・コースは、葛西臨海公園内に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園の貴重な自然環境を後世に残すという設置目的などに配慮して、公園内でなく隣接地に移し、大会後は、公園と一体となったレジャー・レクリエーション施設とするとする整備計画に練り直した。
 一方、トライアスロンに予定されているお台場海浜公園は、羽田空港の管制空域で取材用ヘリコプターの飛行に支障が生じることや水質汚染に懸念があることなどで横浜などへの会場変更が検討されたが、結局、変更せず、お台場海浜公園で計画通り行うこととなった。
 また7人制ラグビーは新国立競技場から味の素スタジアム(東京都調布市)に変更となった
 こうした計画見直しで、競技場整備経費を約2000億円削減し、約4584億円まで膨らんだ経費を約2469億円までに圧縮するとした。

 その後、IBC/MPCが設営される東京ビックサイトに建設する「拡張棟」は当初はIBC/MCPとして使用する計画だったが、レスリング・フェンシング・テコンドーが幕張メッセに会場変更となり、その建設費約228億円を五輪施設整備費枠から除外するなどさらに削減し、約2241億円となった。もっとも「拡張棟」は五輪大会準備を目的で建設されたものであり、計画が変更したとしても経費を負担することには変わりはないのだから、「見せかけ」の操作と思われてもしかたがない。
 2241億円のうち、新規施設の整備費が約1846億円、既存施設の改修費などが約395億円とした。

杜撰な開催経過の象徴 海の森水上競技場 若狭若洲オリンピックマリーナ
 海の森水上競技場は、カヌー・ボート競技の会場として東京湾の埋め立て地の突端にある中央防波堤内側と外側の埋立地間の水路に整備する計画である。
 全長2300mで、2000m×8レーンのコースが設置され、コース内の波を抑えるために、コースの両端に水門と揚水機を配置し水位のコントロールする。
 カヌー・ボートのコースとしては珍しい海水コースである。
 海の森水上競技場の整備経費は、招致段階では69億円としていたが、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円と10倍以上に膨れ上がった。
 海とコース水面との締め切り堤や水門、護岸工事を始め、コースの途中にかかる中潮橋の撤去、ごみの揚陸施設の移設などの工事が必要となったのがその理由である。
 若狭若洲オリンピックマリーナは、江東区若洲の埋め立て地の南端部分に恒久マリーナとして整備して五輪大会のヨット会場とし、大会後は東京都が所有して、首都圏だけでなく国際的なセーリング競技やマリンスポーツの拠点として活用していく計画だった。総観客席数は5000(うち立ち見3000)も整備して本格的なセーリング会場を目指した。
 若洲地区は東京ゲートブリッジで海の森水上競技場とも結ばれる予定で、大会後は水辺の森、水と緑に囲まれたエリアとして市民に親しまれる空間となるとした。
 しかし、埋立地のために地盤が悪く、護岸の大規模な改良工事が必要となり、整備経費は、当初の92億円から約4倍弱の322億円に膨れ上がった。
 ふたつの競技場の見直しの理由を見ても、当初から建設予定地の調査を適切にしていれば簡単に分かった懸案だろう。東京湾の海に面していて波の影響が心配しない建設計画がどうしてまかり通ったのか唖然とするほかない。
 こうした杜撰な整備計画の積み重ねで、「1538億円」から約3倍の「4584億円」に膨れ上がったののである。

 東京都は、開催都市として、2006から2009年度に「開催準備基金」を毎年約1000億円、合計約3870億円をすでに積み立てている。この「基金」で、競技施設の整備だけでなく、周辺整備やインフラの整備経費などをまかなわなければならない。東京都が負担する五輪施設整備費は、4000億円の枠内で収まらないのではという懸念が生まれている。競技場の建設だけで2241億円を使って大丈夫なのだろうか?

「コンパクト五輪」の破産
 東京オリンピック・パラリンピックの開催計画では、33競技を43会場で開催し、その内、新設施設18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設24か所を整備するとしている。既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では最大限既存施設を利用したと胸を張る。
 しかし競技場の変更は9か所にも及び、予定通り建設される競技場についても上記のように“迷走”と“混乱”を繰り返した。
  2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、選手村を中心に半径8キロメートルの圏内に85%の競技場を配置すると「公約」した。1964年大会のレガシーが現存する“ヘリテッジゾーン”と東京を象徴する“東京ベイゾーン”、そして2つのゾーンの交差点に選手村を整備するという開催計画である。しかし、相次ぐ変更で「世界一コンパクトな大会」の「公約」は完全に吹き飛んだ。



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)





国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR


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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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コメント

東京オリンピック 競技会場 競技場 最新情報 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン 世界一コンパクトな大会 (上)

2020年01月24日 16時59分58秒 | 東京オリンピック
膨張する開催経費 
どこへいった五輪開催理念 “世界一コンパクトな大会”(上)
最新情報 東京2020 競技会場の全貌





新国立競技場 工事順調90%完成 芝生張り、陸上トラック工事に着手 12月21日にオープニングイベント 元旦の天皇杯サッカー開催



新国立競技場迷走 「陸上の聖地」復活か? 球技専用撤回へ

海の森水上競技場、完成披露式典開催
 2019年6月16日、2020東京五輪大会でボート・カヌー会場となる海の森水上競技場の完成披露式典が行われた。小池百合子都知事が「(五輪では)世界最高峰の試合が繰り広げられ、連日、世界中の多くの方々に感動を与えると確信している。大会後も、様々なイベントで活用していきたい」とあいさつした。
 ボート・カヌー会場はもともと新設予定だったが、小池知事が見直しを表明し、大会コスト削減のため、宮城県の長沼ボート場への変更が検討したが、施設の一部を仮設にするなどして、試算段階で約490億円だった整備費を約310億円に削減して新設された。
 大会後は、国際大会や国内大会など年間30大会や水上スポーツ体験や水上レジャーのイベントを開き、来場者数を年間約35万人と見込むが、収支は約1億6千万円の赤字としている。




出典 日本ボート協会



 2020東京オリンピック・パラリンピックの競技は、1964年の東京オリンピックでも使用された代々木競技場や日本武道館など過去の遺産を活かした「ヘリテッジゾーン」と、有明・お台場・夢の島・海の森など東京湾に面した「東京ベイゾーン」を中心開催する計画である。
 選手村から半径8キロメートルの圏内に85%の競技会場を配置するという「世界一コンパクトな大会」がキャッチフレーズだったが、相次ぐ「建設中止」や「会場変更」で、「世界一コンパクトな大会」は完全に消え去った。
 競技会場は、「既存施設」と「新設」があり、「既存施設」については改修や増設工事が伴う場合があり、「新規建設」は「恒久施設」と「仮設施設」に分けられている。
 2018年5月2日、国際オリンピック委員会(IOC)は、スイス・ローザンヌで開いた理事会で最後に残ったサッカー7会場を一括承認し、43競技会場がすべて決まった。
 この内、オリンピッックは42会場、パラリンピックは21会場(ボッチャ競技のみ幕張メッセCをパラリンピック単独会場として使用 その他はオリンピックと共通競技会場を使用)である。
 オリンピックで開催される競技数は、東京大会組織委員会が提案した追加種目、5競技18種目を加え、合計競技数は33競技、種目数は339種目で、選手数の上限を11,900人とすることが決定されている。一方、パラリンピックは22の競技が開催される。
 今回承認されたサッカー会場は、札幌ドーム、宮城スタジアム、茨城カシマスタジアム、埼玉スタジアム、横浜国際総合競技場、新国立競技場、東京スタジアムの7会場で、決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場で開催する。。
 また復興五輪のシンボルとなる野球・ソフトボールの福島あづま球場での開催も承認され、野球とソフトボールそれぞれ1試合(日本戦)を行う。
 43の競技会場の内、新設施設は18か所(恒久施設8/仮設施設10)、既設施設は25か所(内改修17)、既設施設の利用率は約58%となり、大会組織委員会では既存施設を最大限利用したと胸を張る。
 しかし、競技会場の決定に至る経過は、相次いだ迷走と混迷繰り返した結果であった。
* 2019年11月、四者協議で、暑さ対策でIOCの要請によりマラソンと競歩の札幌開催が決まった。

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2020恒久施設(新設)の競技場

 2020東京大会競技場の「新設」(恒久施設)は、6万8000人収容可能なスタジアムへ建て替えられる「新国立競技場」(オリンピックスタジアム)を始め、東京アクアティックセンター(水泳・飛び込み・アーティスティクスイミング)、有明アリーナ(バレーボール)、海の森水上競技場(ボート、カヌー)、大井ホッケー競技場、夢の島公園アーチェリー場、カヌー・スラロームセンター、武蔵野の森総合スポーツプラザ(バドミントン 近代五種[フェンシング])の8施設である。
 国が建設するのは新国立競技場だけで、7か所の施設整備は東京都が担当し約1828億円で整備を行う。但し、新国立競技場については東京都も整備費総計約1849億円(本体工事と関連経費を含む)の内、約448億円を負担することが決まっている。

迷走を重ねた新国立競技場
 競技場の整備経費については、新国立競技場は国(主管は日本スポーツ振興センター[JSC])、その他の恒久施設は東京都、仮設施設は東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会が責任を持つことが決められていた。
 「新国立競技場」は、2012年にデザイン競技公募を開始した際は、総工費は「1300億円を目途」としていたが、斬新な流線型のデザインのザハ・ハディド案が採用され、施工予定者のゼネコンが総工費を見積もると「3088億円」に膨張することが判明し、世論から激しい批判を浴びた。
 2015年7月、開閉式の屋根の設置の先送りなど設計見直しを行い「2520」億円に圧縮したが、それでも当初予定の倍近い額となり批判は一向に収まらず、ザハ・ハディド案の白紙撤回に追い込まれた。最終的に、安倍首相が収拾に乗り出し、2015年8月、屋根の設置を止めたり観客席の規模を見直すなどして総工費を「1550億円」(上限)とすることで決着した。迷走に迷走を繰り返して醜態を演じたのは記憶に新しい。
 2015年9月、新たな整備計画に基づき、総工費と工期を重視した入札事業者向けの募集要項を公開し、公募を開始した。
 新整備計画では、開閉式の屋根は止めてコンサートやイベントなども開催する「多目的利用」は放棄され、陸上競技やサッカー、ラグビーなどの競技スタジアムへ転換することを打ち出した。
 観客席は五輪開催時には約6万8000席(旧国立競技場 約54000席)とし、五輪後にはFIFA ワールドカップの開催も可能にするために観客席を陸上トラック上部に増設して8万席以上確保する。屋根は観客席全体(8万席拡張時を想定)を覆う固定式とした。建物の最高高さは70メートル以下、フィールドを含む面積は約19万4500平方メートル(同7万2000平方メートル)で、旧整備計画の約22万4500平方メートルから約3万平方メートル削減するとした。
 公募には、大成建設を中心に梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループと、竹中工務店、清水建設、大林組の3社の共同企業体と日本設計、建築家の伊東豊雄氏で構成するグループが応募した。
 2015年12月22日、審査の結果が公表され、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにした大成建設、梓設計、建築家の隈研吾氏で構成するグループが選ばれた。
 木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴のデザインで、地上5階、地下2階建て、スタンドはすり鉢状の3層にして観客の見やすさに配慮する。高さは49・2メートルと、これまでの案の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総工費は約1490億円、完成は2019年11月末としている。当初目指したラグビーワールドカップ2019の開催は断念した。


出典 Olympic Channel

「新国立競技場」はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに 「陸上競技の聖地」の夢は無残にも消えた
 2017年11月14日、「新国立競技場」の整備計画を検討する政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)は14日、五輪大会後はサッカーやラグビーなどの球技専用スタジアムに改修する計画案を了承した。22年後半の供用開始をめざす。
 計画案では、大会後に陸上競技のトラックをなくし、収益性を確保するため、観客席を6万8千席から国内最大規模の8万席に増設する。
 運営方針として、(1)サッカーのワールドカップ(W杯)の招致にも対応できる規模の球技専用スタジアムに改修し、サッカーやラグビーなどの日本代表戦や全国大会の主会場とするともに、国際大会を誘致する。(2)イベントやコンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等を積極的に開催する(3)運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入し、契約期間は10~30年間を想定して、20年秋頃に優先交渉権者を選定する。(4)収益を確保するためにJSCが管理する秩父宮ラグビー場と代々木競技場と合わせて運営することや命名権の導入も今後検討するなど掲げた。
 新国立競技場の維持管理費は長期修繕費を含めて年間約24億円とされている。収入が確保できなければ、50年、100年、延々と赤字を背負うことになる。
 結局、「新国立競技場」が“負のレガシー”(負の遺産)になるのは避けられそうもない。



東京アクアティクスセンター
 オリンピックアクアティクスセンターは、「競泳」、「シンクロナイズド・スイミング」、「飛び込み」の競技会場として、大規模な国際大会が開催可能な国際水準の水泳場として整備計画が立てられた。整備費は招致計画では総工費321億円としていたが、その後の見直しで683億円と約倍以上経費が膨れ上がった。
 整備計画では、建設時には延床面積5万7850平方㍍、約2万席の観客席とするが、大会後は屋根を低くして3階席を撤去するなどして観客席を5000席まで減らし、延床面積を3万2920平方㍍まで縮小する減築を行うとした。減築後も国際大会開催時には観客席を1万席から最大1万5000席(仮設席を含む)に拡張可能とした。メインプール(50m×25m)、サブプール(50m×25m)、飛込プール(25m×25m)が整備される。
 その後、2016年の「四者協議」トップ級会合で、座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の「減築」は取りやめて建設することで、683億円から567億円に削減する方針を明らかにした。
 五輪開催後は都民のための水泳場としても活用するとしている。メーンプールとサブプールの床や壁を可動式にすることで多様な目的に使えるようにした。
 2016年1月、本体工事については、大林・東光・エルゴ・東熱異業種特定建設共同企業体が、469億8000万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。予定価格は538億円(本体工事)で落札率は87%だった。
 しかし、約300メートルほどの近接した場所に東京辰巳国際水泳場があるのに、なぜ巨額の税金を投じて「二つ」も整備するのか、当初から過剰施設の象徴だとして批判にさらされていた。
 東京辰巳国際水泳場は1993年に開館し、世界水泳や五輪選考会など国内外の主要大会が開かれてきた水泳競技の「聖地」。50メートルのメインとサブのプール、飛び込みのプールがあり、一般にも開放している。整備費は181億円、維持費は年間4億7000万円である。2008年には五輪競泳の金メダリスト北島康介選手が、200メートル平泳ぎで世界新記録を出したことで有名な水泳競技場である。
 ところが、辰巳水泳場は、観客席は固定席が約3600席、仮設席が約1400席、合わせて約5000席が限界である。国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準は観客席1万2000席、この基準を満たすためには、大幅な拡張工事が必要だが、建物の北側が運河に面していて工事は不可能とされていた。またこの水泳場は、水深が両サイドの約半分は2メートルしかなく、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準「水深2メートル」は満たしているが、推奨基準「水深3メートル」は満たしていない。「水深2メートル」の部分があるとシンクロナイズドスイミングの競技開催では支障が生じるとされている。さらに辰巳水泳場は、国際オリンピック委員会(IOC)の要求基準、コース幅2.5メートルも満たしていない。
 このため東京都は、一回り大きい国際水準の水泳場として辰巳の森海浜公園内にオリンピックアクアティクスセンターを新設することとし、東京辰巳国際水泳場は水球競技場として使うことにした。当初は水球競技場をオリンピックアクアティクスセンターに併設してウォーターポロアリーナを建設する計画だったが建設は中止された。


東京アクアティクスセンター  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

都政改革本部調査チーム オリンピックアクアティクスセンターの大幅な見直しを提言

四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意


有明アリーナ
 有明アリーナは、地上5階建てで、延べ面積約4万5600平方メートル。座席数は仮設席を含めて大会開催時には仮設を含めて約1万5000席を確保するが、五輪開催後は、約1万2700席に縮小する。メインアリーナはバレーボールコート4面又はハンドボールコート3面で競技可能な規模に、サブアリーナ はバスケットボールコート2面が配置可能な規模とする。整備費は、招致計画では、総工費約176億円としていたが、見直し後は約404億円に膨れ上がった。
 五輪開催後は、ワールドカップや日本選手権といった国内外の主要な大会の会場として利用するほか、コンサートなどの各種イベント会場としても活用するとした。そのためメーンアリーナの床はコンクリート製とし、機材搬入用の大型車が通れるようになっている。 またショップやレストランを充実させたりすることで、五輪開催後は、首都圏での新たな多目的施設を目指す。
 2016年1月、本体工事は、竹中・東光・朝日・高砂異業種特定建設共同企業体が360億2880万円(税込価格)で設計・施工工事を落札した。

都政改革本部調査チーム 有明アリーナ建設中止も
 都政改革本部調査チームでは、バレーボール会場は既存のアリーナや大規模展示場を改修するなどして開催は可能とし、まず競技開催計画の変更を検討すべきと提言した。
 既存の会場変更する場合の候補として、「横浜アリーナ」を改修して使用する案を有力視した。
 また新設する場合でも、五輪開催後は他の既存施設でバレーボール競技大会の開催は十分運用可能なことから、有明アリーナの利用があまり見込めないとし、イベントやコンサートなど多目的展示会場の施設を目指すべきだとした。関東圏ではコンサートなどの利用に関しては、数万人を収容するアリーナクラスへの需要は高い水準が続くと見込まれているとしている。
 しかしイベント会場を目指すにしても、建設費については類似施設に比べ高く、404億円からさらにコストダウンの努力が必要とし、大会後の適切な座席数を見積もる必要や、コンサート会場として施設整備など民間事業者を巻き込んだ事業計画の詰めが必要と指摘した。
 既存施設を利用する開催計画の変更や、新設の場合にもイベント利用に向けた計画の詰めやコストの見直しが求めた。
 これに対し、日本バレーボール協会の木村憲治会長は、都政改革本部の調査チームのヒアリングに出席し、「国際基準である1万5000人を収容できる体育館が欲しい」と述べ、計画通り有明アリーナの建設を求めた。
 有明アリーナ建設用地については、約183億円の用地取得費を有明アリーナの整備費とは別枠で処理していることから、「五輪経費隠し」として批判されている。
 2016年12月21日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、前回結論を先送りしたバレーボール会場は小池都知事が「有明アリーナ」を計画通り建設する方針を表明した。
 “ARIAKE LEGACY AREA”と名付けて、その拠点に「有明アリーナ」に据えて、有明地区を再開発して“五輪のレガシー”にする計画を示した。
 計画では、「有明アリーナ」はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用し、周辺には商業施設や「有明体操競技場」も整備するとした。
 焦点の整備費は404億円を339億円に圧縮し、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用し経費圧縮に努める計画だ。


有明アリーナ  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

海の森水上競技場
 海の森水上競技場(ボート、カヌー)は、防波堤内の埋立地の間を締め切る形で競技施設を建設するが、会場レイアウトの変更や護岸延長の縮小などにより整備費を大幅に圧縮し、延床面積3万2170平方メートル規模とする。建設費については、招致ファイルでは、約69億円としたが、地盤強化や潮流を遮る堤防の追加工事が必要とわかり、五輪開催決定後、改めて試算すると、約1038億円の膨れ上がることが明らかになり、世論から激しい批判を浴び、“無駄遣い”の象徴となった。舛添元都知事は防波堤工事などを見直して約491億円に縮減した。
 五輪開催後は、国際大会開催可能なボート、カヌー場として活用するとともに、海の森公園と連携した緑のネットワークを構成し、サイクリングコースや整備都民のレクリエーションの場、憩いの場とする計画だ。水辺を生かした水上イベントなどのイベントも開催して、多目的に活用するとしている。
 海の森水上競技場の本体工事については、大成・東洋・水ing・日立造船異業種特定建設共同企業体が248億9832万円(税込価格)で設計・施工を落札し着工した。
 しかし、その後も、整備費が巨額に上る上に、埋め立て地の先端に立地するた強風や波の影響を受けやすく、海水によるボートへの塩害の懸念や航空機の騒音問題などでも批判が止まず、小池都知事が設立した都改革本部の五輪調査チームは宮城県の長沼ボート場に会場変更をして建設中止をする提案をした。
 2016年11月29日、国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が東京都内で開かれ、小池都知事海の森水上競技場を20年程度存続の「スマート施設」(仮設レベル)として、整備費は当初の491億円から298億円に縮減して建設することを明らかにした。都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は事前合宿地とすることをコーツIOC副会長が確約し、小池都知事も歓迎した。


海の森水上競技場  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心

カヌー・スラロームセンター(葛西臨海公園隣接地)
 カヌー(スラローム)の競技場は、水路に人工的に流れを作り出し、競技を実施することができる国内で初めてのカヌー・スラロームコースである。葛西臨海公園に建設する計画だったが、隣接地の都有地(下水道処理施設用地)に建設地を変更した。葛西臨海公園は貴重な自然環境を後世に残すという目的で整備された施設であることを配慮した。 大会後は、葛西臨海公園と一体となったラフティングも楽しめるレジャー・レクリエーション施設となるように計画を練り直した。整備経費、約73億円は東京都が負担する。




カヌー・スラロームセンター  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

大井ホッケー競技場
 大井ホッケー競技場は、大井ふ頭中央海浜公園内のサッカー用の第一球技場敷地にメーンピッチ(決勝など)を新設、サッカーやアメフト用の第二球技場敷地にサブピッチ(予選)を改修整備する計画である。
 座席数は、メーンピッチが大会時には仮設を含めて約1万席、大会後は約2600席、サブピッチは仮設を含めて大会時5000席、大会後は536席とする。
 立候補ファイルでは、公園内の球技場と野球場、6面をつぶしてメーンピッチ、サブピッチを整備する計画でいたが、地元の軟式野球連盟などから3万8千人分の反対署名が出され、東京都は見直し作業を進めた。野球場は残し、五輪開催時は大会運営に使うが、大会後はこれまでどおり4面の野球場が利用が可能となった。
 総事業費は約48億円を見込んでいる。


大井ホッケー競技場  提供 TOKYO2020

夢の島公園アーチェリー場
 夢の島公園内(新木場)に建設するアーチェリー場は、当初計画では緑地エリアを潰して建設する計画だったが、批判を浴びて、緑地を極力減らさない方向で会場計画を見直して整備することになった。
 予選会場は円形広場(多目的コロシアム)に、決勝会場は公園内にある陸上競技場にスタンドを仮設するなどして整備をする計画に変更し、緑地を極力残すことになった。また取り壊す予定だった「東京スポーツ文化館」も選手控室などで活用する。整備費は約24億円。
 夢の島公園は、運河と水路に囲まれた43ヘクタールの総合公園、ごみの最終処分場であった東京港埋立地夢の島を整備して作られた。熱帯植物館や競技場や野球場などのスポーツ施設やバーベキュー広場などが整備され、四季折々の花が咲き乱れる緑のオアシスに生まれ変わっている。せっかく整備した緑地を潰して五輪施設を建設することに対しては都民から強い批判を受けていた。


手前が決勝会場 奥が予選会場(竣工済) 提供 TOKYO2020

武蔵野の森総合スポーツプラザ
 武蔵野の森総合スポーツ施設(仮称)は、東京都調布市の東京スタジアムの隣接地の約3万3500平方メートルの敷地にメインアリーナとサブアリーナを建設する。
 メインアリーナは、バレーボール4面、バスケットボール4面が可能な競技フロアを備え、観客席は固定席で6662席、仮設席対応も含めると約11000席が収容可能である。大規模なスポーツ大会やイベントの開催も可能である。
 サブアリーナは、バレーボール2面、バスケットボール2面が設営可能なフロアが整備され、可動畳で武道競技の開催も可能である。屋内プールも設置し、50m、8コースの国際公認プールとなる。さらにトレーニングルームやフィットネススタジオ、カフェ等も設ける。 隣接地には東京スタジアムや「西競技場[陸上トラック]」がある。
 整備費は351億円。 バドミントンと近代五種[フェンシング(ランキングラウンド)]の競技場となる。


武蔵野の森総合スポーツプラザ  出典:東京都

有明テニスの森公園
 有明テニスの森公園は、当初計画では既存の屋内外のコート計49面を、35面のコートや観客席などに再整備し、ショーコートを2面(観客席5000席と3000席付きコート)やインドアコートを建設するとしていた。しかし、日本プロテニス協会などから「コートの減少を最小限にとどめてほしい」といった要望や、ショーコートを整備予定のイベント広場についても、近隣住民らから存続を希望する声が寄せられていた。こうした要望を受けてコートの配置を変更することで、大会開催時には37面を整備し、大会終了後には元の49面に復元。また、2面整備予定のショーコートは1面を大会後撤去し、イベント広場に戻すとした。また観客席を仮設とすることで34億円縮減し、改修費は約110億円となった。


有明テニスの森公園  提供TOKYO2020

建設中止や会場変更をする競技施設
 恒久施設では、「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」、「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」、「若洲オリンピックマリーナ(セーリング)」、仮設施設では、「ウォーターポロアリーナ(水球)」、「有明ベロドローム(自転車・トラック)」、「有明MTBコース(マウンテンバイク)」、「夢の島競技場(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)」は建設中止となり、他の既存施設に振り替える。
 「夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)」と「夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)」は、招致計画では、建設費を364億円としたが、見直しの結果、683億に膨張し建設中止に追い込まれた。
 バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)に会場変更された。
 「若洲オリンピックマリーナ(セーリング [ヨット・ウンドサーフィン])」は、招致計画では建設費を92億円としたが、見直しの結果、土手の造成費が新たに必要となることが明らかになり、417億円に膨れ上がり建設は取りやめられた。会場は江の島ヨットハーバー[藤沢市]に変更となった。
 水球は「東京辰巳国際水泳場」で開催する。
 自転車(トラック)は、日本サイクルスポーツセンター内の「伊豆ベロドローム」に会場変更し、マウンテンバイク(MTB)は同じ日本サイクルスポーツセンター内のMTBコースを改修して開催することが決まった。
 また馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は馬事公苑(世田谷区)に会場を変更し、カヌー・スラローム会場は、葛西臨海公園から公園に隣接する都有地に建設地が変更された。

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仮設施設の競技場

 「仮設施設」では、皇居外苑コース(自転車・ロードレース)、お台場海浜公園(トライアスロン・マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、海の森クロスカントリーコース(馬術・クロスカントリー)、有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX]、スケートボード)、青海アーバンスポーツパーク(バスケットボール[3×3]、スケートボード)、陸上自衛隊朝霞訓練場(射撃)が整備される。当初計画では整備にかかる経費は原則として五輪組織員会が負担するとしていたが、結局、大会組織員会が約950億円を負担し、東京都が2100億円を負担することになった。 これとは別に東京都は周辺整備費や道路などの交通基盤整備費の負担も背負うことになる。
 馬術(障害馬術、馬場馬術、総合馬術)は夢の島競技場内に仮設施設を建設する予定だったが、建設を中止し馬事公苑に会場を変更した。
 一方、馬術(クロスカントリー)については、計画通り、「海の森クロスカントリーコース」が仮設施設として整備される。
 マラソンは、スタート、ゴール共に新国立競技場で、競歩は、皇居外苑の周回コースで行う計画だったが、2019年12月、暑さ対策で札幌に会場が変更された。
 そのほかの「仮設施設」では、お台場海浜公園(トライアスロン[水泳]、マラソン水泳)、潮風公園(ビーチバレー)、青海アーバンスポーツ会場(バスケットボール3×3、スポーツクライミング)が整備される。
 自転車(ロードレース)は、当初計画ではスタート地点が皇居、ゴール地点が武蔵野の森公園としていたが、テレビ映りや景観を重視した国際自転車連合(UCI)から富士山を背景に走るコースを強く要請され、スタート地点を武蔵野の森公園、ゴール地点を富士スピードウェイ(静岡県小山町)とすることが決まった。



有明体操競技場
 有明体操競技場は鉄骨造・一部木造の地上3階建てで、敷地面積は約9万6400平方メートル(都有地)、延べ面積約3万9300平方メートル、観客席1万2000席の計画で整備される。3万2000平方メートルの体操競技場と約5000平方メートルのウオームアップ施設などが建設される。
 大会後は、敷地面積を3万6500平方メートル、延べ面積を約2万7600平方メートルに縮小し、面積は約1万平方メートルの展示場とする。ウオームアップ施設は撤去され、バックスペースは駐車場となる。
 有明体操競技場は当初計画では、「仮設施設」として、組織委員会が総工費約89億円で整備し、大会後は取り壊す方針だったが、「大会後に有効活用せずに取り壊すのはもったいない」との意見が出ていた。その後、資材の高騰などでさらに総工費が膨れ上がり、「恒久施設」として建設する場合と比較してもあまり経費に大きな差がなくなったが判明し、大会終了後、10年間をメドに存続させ、再活用する「半恒久」施設として整備することになった。 展示場やイベント会場などで10年程度利用され、都の関連企業の「東京ビッグサイト」が管理運営を行う。
 東京都では、組織委員会が管理する「仮設施設」として仕分けしているので、「五輪開催費用」に計上していない。
 整備費の総額は「約253億円」とし、「後利用に相当する部分」を「193億円」、「大会時のみ使用する部分」を「60億円」に仕分けすることで東京都と組織委員会で合意している。「193億円」は東京都が負担することが決まったが、「60億円」の負担の割合は調整がついていない。
 2016年11月、清水建設が本体工事を205億2000万円で落札した。


有明体操競技場  提供 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

海の森クロスカントリーコース
 海の森クロスカントリーコースは、東京湾の最先端にある中央防波堤の埋め立て地に建設される。この埋め立て地では緑化事業が進められ、海の森公園が整備され、公園内に馬術のクロスカントリーコースが仮設施設で整備され、総合馬術(クロスカントリー)が開催される。
 海の森公園からは東京ゲートブリッジなど東京湾と巨大都市、東京の景観が一望に見渡すことができ、大会開催後は、「海の森」として、都民のレクレーション・エリアにしたいとしている。
 ボートとカヌー競技が開催される海の森水上競技場が隣接している。


海の森クロスカントリーコース  提供 TOKYO2020

青海アーバンスポーツ会場 
 選手村からも近い青海エリアの敷地に、仮設で整備される競技会場。東京湾が見える場所に位置し、都市型スポーツ競技のバスケットボールの3×3やスポーツクライミングが開催され、世界各国の若者のアスリートが集う東京2020大会を象徴する会場のひとつとなる。
パラリンピックでは、5人制サッカーの競技会場となる。


青海アーバンスポーツ会場の建設地(現駐車場)  筆者撮影

潮風公園
 潮風公園の前身は、東京港改造計画に基づいて造成された13号埋立地の一画の「13号地公園」で、この地域が臨海副都心として整備されるに伴い、全面改修工事が行われ「潮風公園」として生まれ変わった。臨海副都心内では最大の海辺の公園で、レインボーブリッジを背景とした東京湾の景観も素晴らしい。お台場海浜公園と隣接している。
 潮風公園の中心にある「太陽の広場」にビーチバレーボールの競技会場が仮設で建設される。


潮風公園 ビーチバレー競技会場 提供 TOKYO2020

有明アーバンスポーツパーク(自転車[BMX] スケートボード)
 若者に人気のあるBMX競技については、江東区有明地区に仮設会場を整備する計画だったが、大会組織員会は自転車(トラック・MTB)と共に既設施設の「日本サイクルスーツセンター」に会場を変更したいとした。しかし国際自転車連合は観客が集まりやすい首都圏での開催にこだわって難色を示し、結局、有明地区で開催することが決まった。約5000席の観客席を備えたBMXコースを、ゆりかめめ・有明テニスの森駅の隣接地に仮設で建設する。さらにスケートボードの競技会場も建設し、周辺を「都市型スポーツ」の拠点、アーバンスポーツパークとして整備する


有明アーバンスポーツパーク 完成予想図  提供 TOKYO2020


陸上自衛隊朝霞訓練場
 陸上自衛隊朝霞訓練場は、陸上自衛隊朝霞駐屯地に隣接して設置された施設で、訓練場内は自動車教習所、屋内射撃場、弾薬庫等が設置されており、一部の区域で陣地構築等の小規模な訓練も可能である。3年に一度、自衛隊記念日に中央観閲式が実施されことで知られている。
 屋内射撃場は、射撃の競技場・練習場として使用され、1964年東京五輪大会では射撃競技の会場となった。
 2020東京五輪大会時には訓練場内に仮設施設が整備され、オリンピックとパラリンピックの射撃競技が開催される。


陸上自衛隊朝霞訓練場  出典 東京2020大会招致委員会

既存施設の競技場

東京辰巳国際水泳場
 水球の競技会場となる東京辰巳国際水泳場は、東京都の水泳競技場の代表的な施設として建設され、1993年にオープンした。
50m×25mで公認8レーンで、水深を1.4mから3mまで変えられる可動床が設置されているメインプールや50m×15mで7レーンのサブプール、25m×25mで水深5mの国際公認ダイビングプールを備え、全国規模の大会などが多数開催されている。観覧席は固定で3,600席、仮設で1,400席、あわせて5,000席がある。ダイビングプールの観客席はメインプールと共通である。
 このメインプールは2008年に北島康介選手が世界新記録を樹立したり、2017年には渡辺一平選手がその記録を塗り替えるなどの舞台となった。


東京辰巳国際水泳場  出典 東京2020大会組織委 

お台場海浜公園 

マラソン水泳・トライアスロン 深刻な東京湾の水質汚染
 2017年10月、2020東京大会組織員会は、マラソンの水泳とトライアスロンの会場で、大腸菌(Coli)が水質許容基準の上限の20倍、便大腸菌(faecal coliform bacteria)が上限の7倍も検出されたと公表した。
 組織委では、雨期に海岸から流出する細菌の量を抑制するために、お台場マリンパークに水中スクリーンを設置するなど多数の実験を行い、水質改善に努めているとした。
 コーツ副会長は「トライアスロン競技連盟は依然として水質を懸念している。大会組織委から水のスクリーニング・カーテンの入れ方などの実験について説明を受けが、この姿勢には非常に満足している」としたが、水質問題に依然として懸念が残るとして改善を求めた。


お台場海浜公園  提供 TOKYO2020

江の島ヨットハーバー
 江の島ヨットハーバーは神奈川県藤沢市の沖にある「江の島」の中にある。
 1964東京オリンピックのヨット競技の会場となり、江の島の北東側海岸にあった岩場を埋め立てて、ヨットハーバーを整備した。
 埋め立て地の内、約330平方メートルにヨット係留施設を建設し、鉄筋3階建クラブハウスや約500台駐車可能の駐車場なども整備された。また2000t級の観光船なども発着できる岸壁も建設した。
 2020東京五輪大会ではセーリング(ヨット ウインドサーフィン)の競技会場となる。

シラス漁に影響 江の島セーリング会場
 セーリング競技については、国際セーリング連盟は、バンコクの会議で、「準備が1年遅れている」と指摘し、地元の漁業者との交渉が進まず、レース海面決定が遅れていることや津波対策や警備対策に懸念を持っているとした。
 コーツ副会長も、記者会見で、2020東京大会組織委員会に対し、地元の漁業者へ与える影響について懸念を表明したと付け加えた。
 江の島で開催されるセーリング競技では、ディンギー5艇種によるヨットとウインドサーフィンが行われる。海上に設置された3つのブイ(三角形のコース)を周回して争われる競技である。
 レース海面は、鎌倉市沖から葉山町沖の海域に、直径1852メートルと1574メートルの円形の5つのエリアの設定が計画されている。
 一方この海域は、古くから湘南名物のシラス漁の好漁場として知られている。
 セーリング競技団体はレース海面をなるべく沿岸に近い浅瀬に設定することを求めているのに対し、漁業者はシラス漁への影響を懸念してなるべく沖合にしたいとして調整が継続されていて、未だにレース海面が決まっていない。
 シラス漁の操業海域は、5市1町の8漁業組合に独占的に認めている「共同漁業権」エリアが設定され、さらにその沖合にはどの漁協も操業できる海域が広がっている。
 シラス漁は、元旦から3月10日までは禁漁だが、五輪セーリング競技の公式練習や大会開催期間はシラス漁の漁期と重なり、漁業者への影響は必至である。
 そこで浮上するのが漁業補償の問題だが、神奈川県と関連漁協の間の具体的な協議は始まっていない。
 漁業補償がからんでレース海面の決定は難航が予想され、セーリング開催準備も難問を抱えている。


江の島セーリング会場  提供 TOKYO2020


江の島沖のセーリング会場  提供 TOKYO2020  

釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ
 釣ヶ崎海岸(通称志田下ポイント)は九十九里浜(千葉県一宮町)の南端の海岸で、「世界最高レベル」ともいわれる良質な波が、年間を通じて打ち寄せる海岸として知られ、多くのサーファーが訪れる。
 プロサーファーやハイレベルなサーファーが集まることから「波乗り道場」とも呼ばれ、地元出身の多くの有力選手が活躍している。
ハイレベルな大会も多数開催されており、平成28年5月と平成29年5月にはこれまで国内で開催された国際大会の中でも最高レベルにあたる「QS6000 ICHINOMIYA CHIBA OPEN」が開催され、世界トップレベルの選手達がライディイグを披露した。
 2020東京五輪大会ではサーフィン競技の会場になる。


釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ  提供 TOKYO2020

 
釣ヶ崎海岸 サーフィン  提供 TOKYO2020
 

迷走 霞ケ浦CCゴルフ会場
 2017年1月4日、森喜朗組織委会長は、ゴルフ会場の霞ケ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)について「輸送を計画通りにできるのかどうか。選手の疲労なども考えると、運営側としては心配だ」と述べ、アクセス面の懸念を示した。
 東京晴海の選手村から会場までは40キロ以上も離れている上に、渋滞の激しい関越自動車道を通るため、期間中に設置される五輪専用レーンを設置しなければならない。専用レーンを利用しても1時間半程度かかるとし、「強い(上位)選手ほど帰るのが遅くなる。遅ければ選手村に午後10時ごろ。翌朝6時(始動)となれば大変だ」と述べ、4日間の日程で選手の疲労度を懸念した上で、輸送計画の精査を求めた。 
さらに、内陸部で真夏には気温が40度近くになることもあり暑さ対策の懸念も指摘した。
 森会長は、問題の解決が難しい場合、2012年招致計画の会場だった江東区の若洲ゴルフリンクス(都営パブリックコース)や、千葉県などにゴルフ場があることも指摘し、会場変更の検討にも言及した。
 一方、小池都知事は、「21世紀に女性が正会員になれないということに違和感がある」と述べ。男女平等をうたう五輪憲章に反するという懸念を示した。国際オリンピック委員会(IOC)は日本ゴルフ協会(JGA)など4団体で構成する五輪ゴルフ対策本部や大会組織委員会に対応を求めた。
また2013年の立候補ファイルでは、若洲から霞ケ浦へ変更されたが、なぜ変更されたのか、その経緯が不明朗だという批判がこれまでも巻き起こっていた。「誰がどう考えても若洲の方が良い」とする意見も強い。
 2017年3月20日、「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は、臨時の理事会を開き、規則を改定し、女性正会員を容認することを出席した理事が全員一致で議決した。
 これまで霞ヶ関カンツリー倶楽部は、女性がすべての営業日を通じて利用できる正会員になることを認めていなかった。
 「霞ヶ関カンツリー倶楽部」は「時代に沿った対応をすすめるため、自主的に改定の判断をした」とのコメントを出した。


霞ヶ関カンツリー倶楽部  提供 TOKYO2020

伊豆ベロドローム
 伊豆ベロドロームは、国際自転車競技連合(UCI)規格の周長250m木製走路を有する屋内型自転車トラック競技施設として2011年に開業した。観客席は、常設で1,800席、仮設で1,200席。全日本選手権自転車競技大会トラック・レースなど多くの国内主要大会で使用されている。また ナショナルトレーニングセンターとしての役割を果たすとともに、広く一般の方も利用できる施設になっている。
 自転車(トラック)は当初計画では、「有明ベロドローム」(仮設施設)を建設する予定だったが、建設費の高騰で、計画見直しを大会組織委員会が提案し、伊豆・修善寺にある「日本サイクルスポーツセンター」内にある「伊豆ベロドローム」に変更することが承認された。「伊豆ベロドローム」では、パラリンピックの自転車競技(トラック)も開催する。
 またマウンテンバイク(MTB)も、「海の森マウンテンバイクコース」(仮設)の建設を中止して、「日本サイクルスポーツセンター」内の既存の「伊豆MTBコース」を改修して使用することが決まった。
 このコースは全長2,500m、高低差85mのオフロードコースで全日本選手権大会なども開催され、初級者から上級者までが利用できるようにエリアやルートが分かれている。コースの途中には、富士山を望むことができるビューポイントもある。
 五輪大会のマウンテンバイク(MTB)競技は、クロスカントリーで行われ、起伏に富む山岳コースを舞台に全選手が一斉にスタートして着順を競うものでパワーとテクニックが必要となる。
 1周5km以上のコースを使用し、周回数は予想競技時間(男子2時間)にあわせた周回数となる。

* 「ベロドローム」とは自転車競技場の意味で、『Velo(ベロ)』はラテン語が語源のフランス語で自転車、『drome(ドローム)』はラテン語で競技場を意味する。




伊豆ベロドローム  


日本サイクルスーツセンター全景 出典 日本サイクルスーツセンター

富士スピードウェイ
 ロードレースのコースは、当初は、スタートとゴール共に、観客の集まりやすい皇居外苑としていた。
 しかし、ロードレースのコースは選手の実力差が出るように勾配のある難しいコース設定が求められ、リオ五輪では終盤は高低差約500メートルの山岳ルートを周回するコースが選ばれている。競技団体から、こうした条件を満たす富士山麓のコースが求められた。しかもテレビ映りの絶好な富士山を背景にすることができることも大きな要因だった。ゴールは富士スピードウェイ(静岡県小山町)が決まり、出発点は武蔵の森公園となった。
 組織委員会としても、都内の周回コースは一般交通への影響や警備の負担が大きく、富士山コースを受け入れた。
 それにしても「テレビ五輪」を象徴する計画変更である。


富士スピードウェイ  提供 TOKYO2020

サッカーの予選開催競技場 
 サッカーの予選開催競技場は、札幌ドーム(札幌市)、宮城スタジアム(宮城県利府町)、埼玉スタジアム2002(さいたま市)、横浜国際総合競技場(横浜市)の4か所がすでに決まっていた。組織員会では、茨城県立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、豊田スタジアム(愛知県豊田市)、吹田市立スタジアム(大阪府吹田市)の3か所を追加したいとして国際サッカー連盟と調整したが、最終的に、茨城立カシマサッカースタジアム(茨城県鹿嶋市)、新国立競技場、東京スタジアムの4か所が追加開催競技場として決まり、全国7カ所で開催されることになった。
 決勝は男子が横浜国際総合競技場、女子は新国立競技場」で開催する。
 
選手村
 中央区晴海の東京ドーム3個分に及ぶ広大な都有地、約13万4000ヘクタールの敷地に、14~17階建ての21棟のマンション型の選手村と商業施設が建設される。工事費は約954億円。選手村の居住ゾーンは3街区に分けて、約1万7000人の五輪関係者が宿泊可能な施設となる。各住戸は、東京湾の風景が望めるつくり。周辺環境、海からのスカイラインを考慮し、様々な高さの建物を配置するとしている。
 大会終了後は分譲マンションとして販売する計画で、超高層住宅棟2棟を建設し、住宅棟21棟、商業棟1棟に整備して、5650戸のニュータウンに衣替えする。2016年7月、三井レジデンスなど11社で構成する民間事業者グループが開発事業を受注し、2017年1月には着工する。基本的に国や都の財政負担なしに整備する方針だ。日本の気候に応じた伝統的な建築技術と最先端の環境設備と融合した環境負荷の少ない街づくりを体現する1つのモデルとなることを目指す。
 しかし、東京都は選手村用地の盛り土や防潮堤の建設を始め、上下水道や周辺道路の整備に410億円を投入する計画だ。大会後は臨海ニュータウンになるので、社会資本整備投資経費として理解できるが、東京都の五輪開催経費、選手村整備費にはまったく算入していない。
 また都有地約13万4000ヘクタールを、周辺価格の約10分の1という「破格の優遇措置」で事業者グループに売却したという疑念が生まれて批判が集まった。


選手村  提供 TOKYO2020

IBC/MPC
 東京オリンピックの世界の報道機関の拠点、国際放送センター(IBC International Broadcasting Center)とメインプレスセンター(MPC Main Press Center)は東京ビッグサイト(江東区有明地区)に設置される。
 国際放送センター(IBC / International Broadcasting Center)は、世界各国。の放送機関等のオペレーションの拠点となる施設である。IBCの設営・運営は五輪大会のホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)であるOBS(Olympic Broadcasting Services )が行う。
 IBCには、国際映像・音声信号のコントロール(Contribution)、分配(Distribution)、伝送(Transmission)、ストレージ(VTR Logging)など行うシステムが設置されるOBSエリアや各放送機関等がサテライト・スタジオや放送機材、ワーキング・ブースなどを設置する放送機関エリアなどが整備される。
 メインプレスセンター(MPC / Main Press Center)は、新聞、通信社、雑誌等の取材、編集拠点である。共用プレス席、専用ワーキングスペース、フォト・ワーキングルーム、会見室・ブリーフィングルームなどが整備される。
 IBCとMPCには、約2万人のジャーナリストやカメラマン、放送関係者などのメディア関係者が参加する。
 
 東京ビックサイトは、江東区有明地区の東京湾ベイエリアにある国際展示場で、敷地面積24万平方メートル、延べ床面積23万平方メートル、会議棟、西展示棟、東展示棟からなる日本で最大のコンベンションセンターで、毎年さまざな業種の約230の見本市・展示会が開催されている。
 五輪大会開催のために、西展示棟南側に、延床面積約6万5000平方メートルの5層階の「拡張棟」を、約228億円の整備費で建設している。展示ホールや会議施設、事務所などが設けられる。さらに床面積約1万平方メートルの東展示棟の「増設棟」を約100億円で建設した。
 東京ビッグサイトは、当初はフェンシングなど3つの競技場として使用する予定だったが、その後の調整で、IBCのスペースが狭隘なことから、3競技会場を幕張メッセに変更して、IBCは東展示棟に集約して配置することになった。また、MPCの配置については、ICの配置変更に伴って余裕が生まれた会議棟と西展示棟のスペースで配置が可能になり、「拡張棟」は、MPCとしては使用しないことが決まった。
 東京ビックサイトにIBC/MPCに設置すると、最大20カ月に渡って占有されるため、見本市・展示関連企業から約2兆円の売り上げを失うとして反発を受けている。


国際放送センター・メインプレスセンター  提供 TOKYO2020



何処へ行った「世界一コンパクトな大会」
 新規に競技場を建設すると、建設費はもとより、維持管理費、補修修繕費などの後年度負担が確実に生まれる。施設利用料などの収入で賄えるのであれば問題ないが、巨額の赤字が毎年生まれるのでは、“レガシー”(未来への遺産)どころか次世代への“負の遺産”になる懸念が大きい。五輪開催期間は、オリンピックが17日、パラリンピックが13日、合わせてわずか30日間である。新規の施設整備は極力止めるのが基本だろう。
 また忘れてはならないのは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致計画のキャッチフレーズは、「世界一コンパクトな大会」、ヘリテッジゾーンと東京ベイゾーンの選手村から半径8キロメートル圏内に85%の競技場を配置して開催するとしていた。「世界一コンパクトな大会」の公約は消え去ってしまった。

 それにしても東京五輪の「招致ファイル」は一体、なんだったのだろうか?
 舛添要一前都知事は、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」と述べている。結局、杜撰な招致計画のツケを負担させられるのは都民であり国民である。



東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌



月刊ニュメディア「東京オリパラ」連載 加筆
2016年12月7日  初稿
2019月1月12日   改訂
Copyright (C) 2019 IMSSR

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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東京五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)

2020年01月21日 06時11分19秒 | 東京オリンピック


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)






IOC マラソンと競歩の札幌開催 猛暑への危機感 
 2019年10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌開催に変更する代替案の検討に入ったと発表した。猛暑による選手らへの影響を考慮した措置としており、札幌は東京都内より五輪期間中の気温が5~6度低いことなどを理由としている。
 IOCは大会組織委員会や東京都、国際陸上競技連盟と協議を進める方針を示し、東京五輪の準備状況を監督する調整委員会を10月30日から都内で開催し協議するとした。「持久系の種目をより涼しい条件下で実施することは、選手と役員、観客にとって包括的な対応」と札幌開催の理由を述べた。
 五輪開幕まで1年を切り、IOCが会場変更を提案するのは異例の事態で、実現には難航も予想される。
 東京五輪大会のマラソン・競歩競技は、暑さ対策として、招致段階の計画からスタート時間を前倒しして、マラソンは午前6時、競歩の男子50キロは5時半、男女20キロは6時に変更した。しかし、10月6日に中東のドーハで閉幕した世界選手権では、高温多湿の猛暑を考慮して深夜スタートにしたのにもかかわらず、マラソンや競歩で棄権者が続出し、選手やコーチから強い批判を浴びていた。
 東京五輪のマラソンは、女子が来年8月2日、男子は同9日開催で、コースは新国立競技場を発着し、浅草寺、銀座、皇居などを巡る予定で、競歩は皇居周辺を周回するコースを予定していた。
 IOCのバッハ会長は「選手の健康は常に配慮すべき課題の中心で、マラソンと競歩の変更案は、IOCが懸念を深刻に受け止めている証だ。選手にベストを尽くせる条件を保証する方策である」と述べた。国際陸連のコー会長は「選手に最高の舞台を用意することは重要で、マラソンと競歩で最高のコースを用意するためにIOCや組織委などと緊密に連携していく」とした。
強く反発した小池都知事
 小池都知事は18日の記者会見で、強い不満を表明した。「アスリート・ファースト」に理解を示しながら、「開催都市と協議もなく、突如提案されたことに疑問を感じざるを得ない」として、「これまで準備を重ねてきた。東京で、という気持ちに変わりはない」と強調。30日から始まるIOC調整委員会で東京開催を主張する可能性を示唆した。 
 また小池氏は、15日に大会組織委員会の武藤敏郎事務総長から会場変更案の説明を受けた際、移転に伴う経費を「国が持つとおっしゃっていた」と明かした。これに対し、武藤氏は18日、都内で記者団に「そんなことは言っていない。国に頼んでみようかという話はした」と説明。菅義偉官房長官は同日の会見で「大会の準備、運営は都と大会運営委が責任を持ってするものだ」と述べた。
 マラソン・競歩の札幌開催経費の負担をどうするのかも焦点となった。
 9月15日に開催した五輪代表選手選考会を兼ねたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は、大会本番の検証を兼ねて、本番とほぼ同じコースで行われた。
 男子マラソンでは、1位になった中村匠吾(富士通)と2位になった服部勇馬(トヨタ自動車、女子マラソンでは1位になった前田穂南(天満屋)と2位になった鈴木亜由子(日本郵政グループ)がマラソン日本代表に内定した。
 東京都はこれまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策として約300億円を投入して、コースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を行い整備予定の約136キロのうち約129キロが完了している
 また東京都では、この大会で、沿道の50万人以上の観客向けに、暑さ対策として日よけテント設営や冷却グッズ配布などを行って本番に備えた。
 札幌移転計画が発表されたのは、東京都がこの検証結果を基に休憩所の増設など大会本番への方針を決めた直後で、関係者は「移転が決まれば従うしかないが、やりきれない思いもある」と落胆した。

「地獄」のドーハ世界選手権
 国際オリンピック委員会(IOC)が札幌開催の検討を始めた背景には、同じ高温多湿のドーハで9~10月に行われた世界選手権で棄権者が続出し、強い批判を浴びたことがある。スタート時間はマラソンが深夜11時59分、競歩は同11時30分。選手は急遽、錠剤型の体温計を飲み、深部体温を計測されながらレーズに臨む事態になった。
 女子マラソンはスタート時、気温32度、湿度74%。68人中、途中棄権は28人で完走率が60%を割ったのは大会初。天満屋の武冨監督は「2度とこういうレースは走らせたくない。昼やっていたら死人が出たのでは」と非難した。
 スタート時気温31度、湿度74%の男子50キロ競歩も完歩率は約61%。前回大会覇者、リオ五輪王者も含め、46人中18人が棄権。金メダルの鈴木も「50キロ持つか不安だった」と話し、東京五輪のコース変更を訴えた。「地獄だった」と表現した選手もおり、五輪への懸念が深まっていた。
 
IOCバッハ会長、札幌に「決めた」 五輪マラソン移転
 翌10月17日、バッハIOC会長は、カタール・ドーハで行われた各国オリンピック委員会連合(ANOC)の総会で、2020東京五輪大会のマラソン・競歩競技の開催会場について、「札幌に移すことを決めた」と発言した。
 札幌開催に向けて協議を行うということではなく、「決定」としたのである。
 バッハIOC会長は各国・地域の関係者を前に「IOC理事会は、東京の組織委員会と密に相談しながら、五輪でのマラソンと競歩種目を、東京から800キロ北にあり、気温が5~6度低い札幌に移すことを決めた」と明言した。そして「全てはアスリートの健康と体調を守るため。重要なステップだ」と胸を張って述べた。
 札幌開催に関して国際オリンピック委員会(IOC)の強気の姿勢がうかがわれる。
 これに対し、森喜朗組織委会長は「東京都は同意していないことをバッハ会長に申し上げた」としながら、「正直言って、相談してどうこう、ではない」と語り、札幌開催を容認する姿勢を示した。
 バッハ会長は、小池百知事に連絡する前に森喜朗組織委会長に相談し、了解をとっていたことが明らかになった。
 このことが小池都知事の強い反発を招くことになる。

 札幌開催を実現するには多くの難題を抱えている。
 コース設定からやり直す必要があるが、日本陸連幹部も「全く知らなかった」と驚きを隠せない。コース設定から仕切り直しとなると、陸上関係者からは「非現実的。1年を切った段階では厳しい」との声が上がる。札幌市では夏に北海道マラソンを開催しているが、運営面での準備期間は少なすぎるという深刻な懸念が生まれている。
 なにより開催都市、東京都と都民の国際オリンピック委員会(IOC)に対する反発が懸念される。これまで盛り上がってきた2020東京五輪大会の熱気を一気に冷やすことにつながりかねない。マラソン・競歩の札幌移転を契機に、都民のオリンピック批判が再び湧き上がる可能性も生まれてきた。

五輪マラソン札幌変更「決定だ」 コーツ調整委員長 知事に明言
 2019年10月25日、国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ調整委員長は、東京都庁で小池百合子知事と会談し、東京五輪陸上のマラソンと競歩を札幌に変更する案について「決定だ」と断言した。
 さらにコーツ委員長は、男女マラソンのメダリストの表彰式を閉会式で行うとともに、東京以外の都市で実施された競技の選手たちが閉会式参加を前に東京でパレードをする案も示して、札幌への変更に理解を求めた。
 これに対し、小池知事は「一生懸命準備してきて、都民もがっかりしている。納得できる説明がない。いきなり最後通牒となっているのは、まったく解せない」」とし、「東京でマラソンと競歩を行うと気持ちに変わりはない。(30日から始まる)IOC調整委でしっかり議論していきたい」と反論した。
 しかし、コーツ委員長は、「(札幌開催は)は決定事項だ。東京が主張したらどうするという問題ではない」と断言した。
 小池都知事は、仮に札幌開催になった場合は、追加経費(都民ファースの試算では約340億円)は「都が負担する考えはない」と明言した。一方、コーツ委員長は、V3予算案に計上している予備費の存在を指摘した。
 ドーハの大会では、酷暑をさけて男子マラソンも女子マラソンも異例の深夜11時59分スタート、それでも女子マラソンがスタートした9月28日の深夜は気温32.7度、湿度73.3%という過酷な気象条件だった。女子マラソンの68人の出場選手の内、約40%の28人が棄権、ゴール後に39人が救護所に担ぎ込まれたというまさに「命がけ」のレースとなった。コーツ委員長は、ドーハと東京は気温や湿度という気象条件で極めて似ているとした。
 東京都は、午前6時のスタートをさらに1時間早めて午前5時にスタートするという案を検討しているとしたが、コーツ委員長は、午前5時ではまだ暗闇でマラソンコースの景色が伝わらないし、放送用のヘリコプターが飛べないとして「午前5時案」を一蹴し、酷暑対策から見ても「スタート時間を早めても意味がない」と述べた。
 また小池都知事は、「とにかくプロセスが納得できない。東京都はこれまで調整・準備を行ってきて、警備・交通規制、沿道、宿泊などあらゆる観点から検討してきた。(今年の7月に来日した)IOCのバッハ会長は東京都の準備状況を高く評価していた」と憤り示した。
 東京都は、これまで、マラソンや競歩など路上競技の暑さ対策としてコースの路面温度を抑える遮熱舗装工事を、都道約136キロを対象に進めてきた。すでに約129キロ、大半が完成している。 さらに、コースの給水所にポリ袋に砕いた氷を詰めた「かち割り氷」、ゴールには氷入り水風呂を用意する。かち割り氷は選手が走りながら体を冷やせるほか、水風呂はゴール後に熱射病の症状が見られる選手に対処するためである。観客の暑さ対策でも、日よけテント設営や冷却グッズ、手回し扇風機を配るなど検証を重ねている。
 こうした暑さ対策で、東京都はすでに約300億円を投じたとしている。札幌開催が実現すればこうした経費は水泡に帰すことなる。

五輪マラソン・競歩 札幌開催めぐり協議開始
 10月30日、東京・晴海で、国際オリンピック委員会(IOC)の調整委員会が、ジョン・コーツ委員長や森喜朗大会組織委員会委員長、小池百合子東京都知事、橋本聖子五輪担当相が出席して3日間の予定で始まった。
 会議の冒頭で、コーツ委員長は、「10月16日にIOC理事会はマラソンと競歩の札幌での開催を決定した。この決定は迅速に決まった。IOC理事会がなぜこの決定をしたか東京都民からの理解を得なければならない。コンセンサスが得られず、良好な関係が築けないままで、日本を離れる気持ちはない。IOCがなぜこの決定をしたのか理解してもらいたい」とした。これに対し、小池都知事は、「10月16日にIOCから東京五輪のマラソンと競歩に関して突然会場変更計画の発表がバッハ会長から発せられた。東京都や都民にとっては大変な衝撃で、都や都議会になんら詳しい説明のないままの提案で、開催都市とは何なのかとのとの怒りの声寄せられている。開催都市の長として都民の代表としてマラソンと競歩の東京での開催を望みたい」と述べ、「開幕まで9カ月と切って準備が総仕上げの段階で開催地の東京に最後まで相談のないままこのような提案が行われたことは極めて異例の事態」と強く反発した。IOCからの札幌開催についての連絡が、東京都が一番遅くなって「蚊帳の外に置かれ、しかもなんの事前の協議もなくいきなり「決定」とされたことに猛烈に反発した。
 これに対して、橋本五輪担当相は、「競技会場は、開催都市契約を締結した当事者のIOC、東京都、大会組織委員会の間で協議するものと考えている」として協議を見守る立場を表明した。また森組織委会長は、「大会まであと9か月という中で、納得できる結論を出すことが重要」とし、「ラグビーW杯で『ワンチームの精神』は日本国民に感銘を与えた。この動きを五輪につなげることが大事だ」として小池都知事を牽制した。
 コーツ委員長は、「すでにIOCの決定は進んでいる。国、東京都、大会組織委員会、IOCの四者で実務者会議を立ち上げて実務者協議を行うことを提案したい。実務者会議には選手が選手村から競技会場に移動する輸送部会とオリンピックの遺産をどう残すのかをテクニカルな議論する部会の二つの部会も設置したい」と述べ、11月1日に再びトップレベルで四者協議を行いたいとした。
 東京都は、実務者協議で、▼経緯の説明、▼マラソン東京開催の可能性、▼競歩東京開催の可能性、▼暑さ対策、▼東京開催を望む都民の声、▼会場変更、▼財政負担の7つの項目について議論をしたいとしている。
 一方、大会組織委員会は、札幌開催で新たに生じる経費をすべてIOCに負担を求めることとし、東京都には一切、負担を求めない方針と伝えられている。札幌開催のコースは札幌マラソンをベースにしながら、スタート地点を大通り公園にするという案をIOCに提案する方向とされている。また、パラリンピックのマラソンについては、国際パラリンピック委員会(IPC)は東京開催(9月6日)を確認している。
橋本聖子五輪担当相は、10月19日に札幌で、「ドーハの世界陸上で棄権したアスリートが考えていた以上に多かったことに関して、相当な危機感を持って決断した」とし、札幌開催に理解を示し、IOCへの信頼感を示した。スピード・スケートや自転車競技で世界を舞台に活躍したアスリートとして、酷暑での過酷なレースの開催に反発していたのであろう。また森組織委会長も「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」として、IOCの決定を容認する姿勢だ。
 また札幌市は、2026年の冬季五輪大会の招致を目指していて、マラソンと競歩の札幌開催に前向きである。
 あくまで東京開催を主張する小池都知事は孤立し、札幌開催の包囲網はすでに出来上がっている。また五輪憲章では、競技会場の選定についてはIOC理事会の権限を幅広く認められていてのでIOCの決定を覆すのは難しい。札幌開催は既定方針として、経費負担や開催日、コース選定などの条件に絞られていると思われる。小池都知事の「苦渋」の決断が求められた。東京都にとっても、札幌開催を巡っての混乱が長引くことで、2020東京五輪大会全体に悪影響が及ぶことが最大の懸念材料となった。

マラソン・競歩札幌開催費は誰が負担する? 破たん寸前V3予算「1兆3500億円」
 東京五輪大会の開催経費は、東京都、国、大会組織委員会の3者で協議を重ね、2018年12月21日、総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表している。 
 V3予算では、1兆3500億円とは別枠で、「予期せず発生し得る、緊急に対応すべきき事態等に対処する」として1千億円から最大で3千億円の「予備費」を設けている。予測できない天変地異やテロ発生、大規模災害などに対処する経費とした。
 しかし、この「予備費」は、財源の裏付けがなく、東京都、国、大会組織委員会の誰がどれだけ負担するのかが決まっていない。曖昧な性格のままに放置されている。
 実は、この予備費とは別に、大会組織委員会は「調整費」として、350億円をV3で計上している。今後、新たな支出が発生してきた場合に対応する大会組織委員会の予備費である。
 しかし、酷暑対策費が膨らむことが確実になっていることや交通対策費や警備費も増えることなどで、大会組織委員会の財政状況は極めて苦しい。300億円以上といわれている札幌開催経費を負担することは不可能なのは明らかである。
 小池都知事は、10月15日に武藤事務総長から説明を受けた際、「国が持つ」と伝えられたという。一方、大会組織委員会の森会長は17日、「『IOCが持ってください』と、そういうことを言わないといけない」と述べた。一方、菅官房長官は18日、「東京大会は東京都が招致して開催するもの。その準備・運営は東京都と大会運営委員会が責任を持ってするものであると理解している」と述べ、コーツIOC調整委員長は、「大会予算の予備費で充当して欲しい」として、真っ向から食い違っている。
 小池都知事は、経費は「原因者が負担すべき」と主張する。2020東京オリンピック・パラリンピックの経費は東京都が開催地を含めて提案したらこそ負担するのであって、札幌開催の経費は積極的であれ、消極的であれ、それをやりたい人が負担すべきであると主張する。
 IOCの主張通り、仮に予備費から支出する場合は、按分はどうするかは別にして、国、大会組織委員会で負担することになる。
 2016年末に、海の森水上競技場、オリンピックアクアティクスセンター、有明アリーナの会場建設を巡って、小池都知事と森大会組織委員会会長、コーツIOC副会長との間で激しい対立が繰り広げられたのは記憶に新しい。
 マラソンと競歩の札幌開催を巡って、三つ巴の攻防戦の第二幕が切って落とされた。

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承
 11月1日昼、東京・晴海でマラソンと競歩の札幌開催を巡って国際オリンピック委員会(IOC)、国、東京都、大会組織委員会で調整委員会(四者協議トップ級会合)が開かれ、札幌開催が合意された。
 会合の冒頭で、コーツ調整員会委員長から、4つの号事項が示され、▼会場変更の権限はIOCにある、▼札幌開催で発生する新たな経費は東京都に負担させない、▼既に東京都が大会組織委員会が支出したマラソン・競歩に関する経費については、精査・検証の上、東京都が別の目的で活用できないものは、東京都に負担させない、▼マラソン・競歩以外の競技は、今後、会場変更をしないとした。
 これに対して、小池都知事は「東京開催がベストだが、大会を成功させるこが重要なことに鑑みて、IOCの最終決定を妨げることはしない。『合意なき決定』だ」と札幌開催に同意することを表明した。
 この日朝、四者協議に先立って、バッハ会長は、小池都知事に直接メールを送り、マラソン開催地の札幌移転にともない、使用されなかった都内のマラソンコースを活用して、大会閉幕後、「オリンピックセレブレーションマラソン」を開催したらどうかという提案していたことが明らかになっている。
 小池知事はIOCからの突然のコース変更提案に、準備に心血を注いできた都民は失望しているとして、IOC側に「ぜひとも、誠意ある対応を示す必要があると繰り返してきた」と指摘。その上で「(バッハ会長から)真摯なメッセージを頂戴した」と評価して、今後、この新イベントについてIOCとともに具現化していくことに意欲を示している。
 バッハ会長の対応の巧みさが際立つ新提案で、これで札幌開催の合意に向けての流れが決まった。
四者会合で小池都知事は「地球温暖化の影響でこれから夏はさらに暑くなり、7月~8月の大会開催は、北半球のどこの都市で開催しても、暑さの問題が生じて無理がある。アスリートファーストの観点でIOCは五輪大会の開催時期をよく考える必要がある」と今後の五輪大会に向けてクギを刺した。
 これに対して、コーツ委員長は「『アジェンダ2020』ですでにオリンピック憲章を改正し、協議の開催地は開催都市以外や、場合によっては開国以外の開催も認められることになっている」と応じた。
 一方、10月30日、国際陸連などが札幌開催に向けて、マラソンと競歩の計5種目を3日間で開催する2案をまとめたことが明らかになった。いずれの案も男女のマラソンを同じ日に実施する計画である。
 変更案の一案は8月7日に男女20キロ競歩、8月8日に男子50キロ競歩を実施。マラソンは女子と男子を同じ日の8月9日に行う。
 二案は5種目を7月27~29日か7月28~30日に3日間で行う。男女マラソンは同日開催するが日にちは明示していない。二案の場合は新国立競技場で陸上競技のトラックが始まる7月31日以前の開催になり、同じ時期に東京と札幌の2カ所に分かれて陸上競技を行うことが避けられる。
 国際陸連は参加の各国・地域の連盟に対し、2案のどちらを望むかを10月31日までに回答するよう求めている。


四者協議トップ級会合 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長と小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 コーツ調整委員長 2019年11月1日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 小池都知事 2019年11月1日 筆者撮影



際立った森組織委会長と武藤事務総長の手腕」
 IOCの札幌開催案を受けて、森組織委会長は東京都内で記者団に「暑さ対策の一環からみれば、やむを得ない。受け止めるのは当然」と述べ、いち早くこれを容認する姿勢を示した。
 IOCより札幌開催の一報を聞いて、森組織委会長は、武藤事務総長と二人だけで善後策を協議したという。最大の問題は小池都知事をどう納得するかが焦点だった。小池都知事が経費負担にこだわっているのを察知して、当初は予備費で札幌開催経費をまかなうという意向を示したIOCを説得して、全額IOC負担とし、東京都には一切負担させないことで小池都知事を納得させる戦略をとった。
 その一方で、IOCが負担するという札幌開催の経費増加分は、選手や大会関係者の旅費や宿泊費など一部で、大会運営費はもともと予算化されている上、札幌開催の方が東京開催よりコンパクトになる可能性大きいため、きわめて限定した額にとどまる見通しを持ったと思われる。コース整備も札幌マラソンのコースをフル活用したり周回コースにすることで最小限に抑えられる。また、東京都がすでにマラソン開催の準備に支出した経費の補填についても、道路の遮熱舗装などは、マラソン開催だけの目的ではなく、東京の街全体の暑さ対策を進めるインフラ整備費、「レガシー経費」とされた場合は、五輪開催経費の対象にはならないため、すでの東京都が支出した300億円のほとんどは対象にならないと可能性がある。元財務次官の切れ者の武藤氏であれば、簡単に見抜くことができたであろう。残されたのは、都民の反発や不満、落胆といった感情をどう抑えるかである。こうした感情が反オリンピックにつながるがIOCにとっては大きな痛手だろう。バッハ会長は、2020五輪大会終了後、東京都が準備したマラソンコースを利用して「オリンピック・セレブレーション・マラソン」を開催することを提案して、都民の感情に配慮する「切り札」を切った。
 札幌開催を巡る騒動では、森会長と武藤事務総長の沈着冷静な老練な手腕が際立った。IOCに札幌開催経費を負担させることでで東京都を納得させる根回しを行ったと思われる。大会組織委員会とIOC、タッグを組んで、周到に小池都知事の包囲網を張ったのである。今回の一件で、大会組織委員会はIOCの一層の信頼感を得てポイントを挙げた。

マラソンと競歩は真夏の東京開催を断念せよ 「アスリートファースト」の理念は何処へ行った?
 マラソンと競歩の札幌開催に強く反発する小池都知事は、これまで開催準備を進めていく際のコンセプトとして、「アスリートファースト」を何度も強調してきた。
 地球温暖化の異常気象が原因なのか、ここ数年の東京の真夏の酷暑は異常である。
 そもそも東京の8月に五輪大会を開催しようとするのが無謀な計画だろう。
 マラソンは、本来はスピード、走力、持久力を競う競技で、「暑さ」の「我慢比べ」を競う競技ではない。東京の真夏でレースはまさに「命がけ」のレースを選手にしいることになる。こうした競技運営は「アスリートファースト」の理念とはまったくかけ離れている。IOCの意思決定のプロセスや経緯は大いに批判されてしかるべきだ。しかし、五輪大会は「アスリートファースト」でなければならいだろう。小池都知事は酷暑の東京でのマラソンや競歩開催に固執して「アスリートファースト」の理念は放棄するのか。
 今回の札幌移転について、IOCの強引な進め方については、強く批判されてしかるべきだろう。今後の五輪の運営について禍根を残した。
 しかし、そのことは別にして、筆者は、マラソン・競歩の札幌開催は大賛成である。東京開催を支持する専門家もいるが、選手に「命がけ」のレースを強いて、なにがスポーツなのかまったく考えていないことに唖然である。
 経費が問題なら、札幌大会は本来の東京大会のコンセプトである「コンパクト」な競技会にすればよい。マラソン・競歩だけでなく水質汚染や水温が問題化しているトライアスロンやマラソンスイミングもきれいな海で泳ぐことができるように会場変更すればよい。東京以外で開催することになぜ抵抗するのだろうか。
 どうしても東京でマラソン・競歩を開催したければ、開催時期を秋や冬の期間にずらして行えばよい。競技を集中させなければならいない理由はなにもない。あるのは、一極集中にこだわり巨大な利益を守ろうとする商業主義だろう。
 オリンピックの肥大化や行き過ぎた商業主義が批判されてから久しい。競技の開催地や開催時期も分離することで、「アスリートファースト」の理念の下で「世界一コンパクト」な大会を目指すべきである。

難航 札幌移転 経費分担
 のマラソン・競歩の札幌開催は、東京都が費用負担しないことを条件に受け入れる形で合意した。IOCは「アスリートファースト(選手第一)」を理由に押し切ったが、肝心の費用分担の議論は先送りされるなど課題は山積している。開幕まで9カ月を切ったが、難問は抱えたままである。
 急遽決まった札幌移転に伴う追加費用の試算はIOCも組織委は行っていない。都議会最大会派の都民ファーストの会が先月25日に示した「340億円超」との見積もりも「根拠があいまい」(組織委関係者)との見方が多い。
 都外開催の経費負担については2017年5月、国、都、組織委の協議で枠組みを決めている。①大会後に撤去する観客席などの仮設施設の整備費(約250億円)は都が負担②国や民間が保有する施設の改修費(約250億円)を組織委が支出③警備や輸送などの運営費など約350億円は「五輪宝くじ」の収益を充てる。今回は国際オリンピック委員会(IOC)の一方的な措置として、都は費用負担を拒んだ。
 コーツ調整委員長は、四者協議で、東京都には札幌移転経費を負担させないとしたが、誰が負担するのかは明らかにしていない。国際オリンピック委員会(IOC)が負担するとは一切、言及していないのである。
 IOCは、一貫して大会組織委員会予算の「予備費」をあてにする姿勢を崩していない。
 「予備費」は、「1兆3500億円」とは別枠で、災害など予期せぬ事態に対応する費用として1000億~3000億円がV3予算で計上されている。しかし財源は決まってなく、組織委にチケット販売などによる増収分があれば充当するが、なければ都か国に負担が回る仕組みである
 コーツ氏は今後の費用分担の協議相手として札幌市と北海道も対象もげる。ただ鈴木直道・北海道知事、秋元克広・札幌市長とも「大会運営経費は組織委負担が原則」として都外の他の自治体同様、雑踏警備など通常の行政の範囲内の支出にとどめる姿勢だ。組織委内では今回はIOCの判断による移転のため、IOCがチケット販売に伴う取り分(総収益の7・5%)を充てることを望む声が上がっており、既に水面下での綱引きが始まっている。
 大会組織委員会としては、「1兆3500億円」の枠組みを死守しなければならいない中で、大会経費を押し上げる可能性のある札幌移転という難題を抱えた。
 国際陸上競技連盟はマラソン・競歩競技の5種目の開催予定を、これまでの5日間開催から3日間に短縮し、経費を抑制する方向で協議を始めたが意見の集約には時間がかかりそうだ。まだまだ迷走は終わらない。

マラソン札幌開催で費用合意 運営費は組織委とIOC、道路整備は道と市
 11月8日、大会組織委員会と北海道、札幌市の協議が開かれ、移転経費について、競技運営に必要な費用は組織委と国際オリンピック委員会(IOC)、道路整備など行政に関わる経費は道と市が持つことで合意した。
 東京大会は都外にある会場でも仮設施設の整備費は都が負担が、マラソンと競歩の経費は東京都は負担せず、組織委とIOCが受け持つことが決まっている。組織委の武藤敏郎事務総長は鈴木直道・道知事や秋元克広・札幌市長に方針を伝え、記者団に「都が負担するはずだったものを道や市が支払うことはない」と述べた。組織委はIOCに、応分の負担を求めるとした。



大会開催経費 1兆3500億円を維持 組織委員会予算 V4発表
 2019年12月20日、2020東京五輪大会組織委員会はV4予算を発表し、大会組織委員会の支出は 6030 億円、東京都は5973億円、国は1500億円、あわせて1兆3500億円で、V2、V3予算と同額とした。
 収入は、好調なマーケティング活動に伴い、国内スポンサー収入が V3 から 280 億円増の 3480 億 円となったことに加え、チケット売上も 80 億円増の 900 億円となる見込みなどから、V3 と比較して 300 億円増の 6300 億円となった。
  支出は、テストイベントの実施や各種計画の進捗状況を踏まえ、支出すべき内容の明確化や新たな 経費の発生で、輸送が 60 億円増の 410 億円、オペレーションが 190 億円増 の 1240 億円となった。一方、支出増に対応するため、あらかじめ計上した調整費を250 億円減とした。競歩の競技会場が東京から札幌に変更になったことに伴い、V3 において東京都負担とな っていた競歩に係る仮設等の経費 30 億円を、今回組織委員会予算に組み替え、組織委員 会の支出は、V3 から 30 億円増の 6030 億円となった。東京都の支出は30億円減5970 億円となった。
 焦点の、マラソン札幌開催の経費増については、引き続き精査して IOC との経費分担を調整して決めているとした
 また、東京 2020 大会の万全な開催に向けた強固な財務基盤を確保する観点から、今後予期せずに 発生し得る事態等に対処するため、270 億円を予備費として計上した。
 大会組織委員会では、今後も大会成功に向けて尽力するとともに、引き続き適切 な予算執行管理に努めるとした。
 2019年12月4日、会計検査院は、2020年東京五輪大会の関連支出が18年度までの6年間に約1兆600億円に上ったとの調査報告書をまとめて公表した。これに東京都がすでに明らかにしている五輪関連経費、約8100億円を加えると、「五輪開催経費」は「3兆円超」になる。(詳細は下記参照)
 「1兆3500億円」と「3兆円」、その乖離は余りにも大きすぎる。大会開催への関与の濃淡だけでは説明がつかず、「つじつま合わせ」の数字という深い疑念を持つ。
 12月21日、政府は、来年度予算の政府案が決めたが、五輪関連支出は警備費や訪日外国人対策、スポーツ関連予算などを予算化している。東京都も同様に、来年度の五輪関連予算を編成中で年明けには明らかになる。国や東京都の五輪関連経費はさらに数千億単位で増えるだろう。さらにマラソン札幌開催経費や1道6県の14の都外競技場の開催費も加わる。
 「五輪開催経費」は、「3兆円」どころか「4兆円」も視野に入った。



V4予算


V4予算(大会組織委員会)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (1)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (2)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (3)


2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (4)



2020東京五輪大会に一石を投じた都政改革本部調査チーム
小池都知事の五輪改革 迷走「3兆円」のレガシー (5)




2020年1月1日
Copyright (C) 2020 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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コメント

東京オリンピック 4者協議 トップ級会合 コーツ副会長 小池都知事 森組織委会長 実務者会合

2020年01月16日 11時46分18秒 | 東京オリンピック
混迷を繰り返した四者協議~組織委・東京都・国・IOC~
ガバナンスの欠如を露呈した2020東京五輪大会運営




組織委員会 大会開催経費V4 1兆3500億円 苦渋のつじつま合わせ?(2019年12月20日)

マラソンと競歩の札幌開催 四者協議で合意 小池都知事「合意なき決定」として了承(2019年11月1日)


コーツIOC調整委員長と小池東京都知事 2019年11月1日 筆者撮影





五輪開催経費(V3予算) 「1兆3500億円」維持 削減できず
 2018年12月21日、大会組織委員会と東京都、国は、東京2020大会の開催経費の総額を1兆3500億円(予備費1000億円~3000億円除く)とするV3予算を公表した。
 1年前の2017年12月22日に明らかにしたV2予算、1兆3500億円を精査したもので、経費圧縮は実現できず、V2予算と同額となった。
 武藤敏郎事務総長は、国際オリンピック委員会(IOC)の要請に答えて、V3ではさらに経費削減に努める考えを示していたが、開催計画が具体化する中でV2では計上していなかった支出や金額が明らかになったほか、新たに発生した項目への支出が増えて「圧縮は限界」として、V2予算と同額となった。
 
「350億円」縮減 「1兆3500億円」(V2)
 2017年12月22日、東京2020大会組織委員会は、大会開催経費について、1兆3500億円(予備費を含めると最大で1兆6500億円)とする新たな試算(V2)を発表した。2017年5月に東京都、組織委、国で総額1兆3850億円とした大枠合意から更に350億円削減した。
 施設整備費やテクノロジー費など会場関係費用については仮設会場の客席数を減らしたり、テントやプレハブなど仮設施設の資材については海外からも含めて幅広く見積もりを取り、資材単価を見直したりして250億円を削減して8100億円とし、輸送やセキュリティーなどの大会関係費用については100億円削減して5400億円とした。
 開催経費の負担額は東京都と組織委が6000億円、国が1500億円でV1予算と同様とした。
 国際オリンピック委員会(IOC)は10億(約1100億円)ドルの経費節減を求めていたが、V2では「350億円」縮減に留まった。組織委の武藤敏郎事務総長は来年末発表するV3では削減にさらに努める考えを示した。

開催経費「1兆3850億円」 都・国・組織委・関係自治体で費用負担大枠合意 組織委と都6000億円、国1500億円
 2017年5月31日、2020年東京五輪大会の開催経費について、東京都、国、大会組織委員会、それに都外に会場がある7道県4政令市の開催自治体(「関係自治体」)は連絡協議会を開き、総額「1兆3850億円」の費用分担の大枠で合意した。
 組織委員会が6000億円、国が1500億円、東京都が6000億円としている。残りの350億円については、誰が負担するのかは、結論を先送りした。
 1道6県、13の都外会場の「仮設経費」約500億円は「立候補ファイル」通りに、全額東京都が負担することにした。
 しかし、東京都が「350億円」と試算した「警備、医療、輸送など開催に必要な事項」の開催関連経費については、東京都は開催自治体に負担を求めたが、積算根拠が不明朗で受け入れられないなどと反発が相次いで、調整がつかず、今後、整理・精査した上で、再協議をするとした。
 立候補ファイルでは、「関係自治体」は「警備や医療サービス、会場への輸送など大会開催に必要な事項を実施する」と記載されている。今回の協議会ではその負担原則を確認したが、合意の中に各自治体の具体的な負担額を盛り込むことはできなかった。
また都外の会場使用に伴う営業補償や移転補償については、都が負担し、国も補助金などの措置で「関連自治体」の負担分の軽減を検討するとした。

 協議会では、今後の経費負担のルールを確認するために「経費分担に関する基本的な方向」が了承された。
▼ 東京都
(1)会場関係費 都内・都外の仮設施設、エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料 
(2)都内会場周辺の輸送、セキュリティ経費 
(3)パリンピックの4分の1の経費
(4)都所有の恒久施設整備費や既存施設の改修費。
▼ 組織委員会
(1)会場関係費 オーバーレイ 民間や国(JSCを含む)所有施設の仮設費
(2)エネルギーとテクノロジーのインフラ費、賃貸料
(3)大会関係費 輸送、セキュリティ、オペレーション日
(4)パリンピックの2分の1の経費 
▼ 国
(1)パリンピックの4分の1の経費 
(2)セキュリティ対策費、ドーピング対策費
(3)新国立競技場の整備費
▼ 関係自治体
(1)輸送、セキュリティ対策費
(2)関係自治体が所有する恒久施設の改修費

 東京都の小池百合子知事は「地は固まった」と評価した。
 今回明らかになった2020東京大会の開催経費(V2)は「1兆3850億円」である。2016年12月、組織委員会が四者協議で明らかにした開催経費(V1)では「1兆5000億円」、それに別枠で予備費を1000億~3000億円が加わるので最大1兆8000億円、今回の「1兆3850億円」も同額の予備費を計上しているので、最大「1兆6850億円」となる。
 小池都知事は「1000億円を超える額の圧縮」と強調して経費軽減につなげたとした。しかし、圧縮経費の詳細については会場使用期間短縮による賃借料の縮減などを挙げたが、詳細な説明は避けた。小池都知事にとって、五輪開催予算の圧縮は、豊洲市場問題と並んで最重要課題である。
 一方、丸川珠代五輪担当相は「地方がオールジャパンで進めていることを実感できるように国も支援したい」と述べ、補助金の活用などを検討する考えを示した。
 また、4者で仮設整備の発注などを一括で管理する「共同実施事業管理委員会」(仮称)を設置することでも合意した。

 しかし、IOC調整委員会のコーツ委員長は、「1兆3850億円」からさらに10億ドル(約1100億円)の圧縮を求めた。五輪開催予算の圧縮は2020東京五輪大会の最大の焦点となった。



第2回2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた関係自治体等連絡協議会の資料

“青天井”? 五輪開催経費
 2020東京五輪大会の開催経費については、「1兆3850億円」では、到底、収まらないと思われる。
国が負担するセキュリティーやドーピング対策費は「1兆3850億円」には含まれてはいない。経費が膨張するのは必至とされているが、見通しもまったく示されていない。唖然とするような高額の経費が示される懸念はないのだろうか。
また今後、計画を詰めるに従って、輸送費や交通対策費、周辺整備費、要員費等は膨れ上がる可能性がある。
 「予備費3000億円」はあっという間に、使い果たす懸念がある。
組織委員会の収入も、2016年12月の試算から1000億円増で「6000億円」を目論んでいるが、本当に確保できるのであろうか。
 五輪関係経費は、国は各関連省庁の政府予算に振り分ける。各省庁のさまざまな予算項目に潜り込むため、国民の眼からは見えにくくなる。大会経費の本当の総額はさらに不透明となる。東京都の五輪関係経費も同様であろう。
また大会開催関連経費、周辺整備費、交通対策費などは、通常のインフラ整備費として計上し、五輪関連経費の項目から除外し、総額を低く見せる“操作”が横行するだろう。
 あと3年、2020東京五輪大会に、一体、どんな経費が、いくら投入されるのか監視を続けなければならいない。ビックプロジェクトの経費は、“大会成功”という大義名分が先行して、“青天井”になることが往々にして起きる。
新国立競技場整備費を巡っての迷走を忘れてはならない。
2020東京大会のキャッチフレーズ、“世界一コンパクな大会”はどこへ行ったのか。


東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念“世界一コンパクト” 競技会場の全貌

“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」




東京五輪の経費 最大1兆8000億円 四者協議のトップ級会合






4者協議トップ級会合 コーツIOC副会長はシドニーからテレビ電話で参加 2016年12月21日 Tokyo 2020 / Shugo TAKEMI
 2016年12月21日、東京都、組織委員会、政府、国際オリンピック委員会(IOC)の四者協議のトップ級会合が開かれ、組織委員会が大会全体の経費について、最大1兆8000億円になると説明した。組織委員会が大会全体の経費を示したのは今回が初めてである。
 会議には、テレビ会議システムを使用され、コーツIOC副会長がシドニーで、クリストフ・デュビ五輪統括部長がジュネーブで参加した。
 冒頭に、小池都知事が、先月の会議で結論が先送りされたバレーボールの会場について、当初の計画どおり「有明アリーナ」の新設を決めとした。「有明アリーナ」は、五輪開催後はスポーツ・音楽などのイベント会場、展示場として活用すると共に、有明地区に商業施設やスポーツ施設も整備し、地区内に建設される「有明体操競技場」も加えて、、“ARIAKE LEGACY AREA”と名付けた複合再開発を推進して五輪のレガシーしたいと報告し了承された。
 「有明アリーナ」の整備費は約404億円を約339億円に圧縮し、東京都、民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」を導入して、民間資金を活用する。競技場見直しを巡る経緯について、小池都知事は「あっちだ、こっちだと言って、時間を浪費したとも思っていない」と述べた。
 これに対して、コーツIOC副会長は「協議を通して3つの会場に関して予算が削減できたし、有明アリーナの周りのレガシープランについても意見が一致した。こうした進展を喜ばしく思っている」と称賛した。
 一方、組織委員会は大会全体の経費について、1兆6000億円から1兆8000億円となる試算をまとめたことを報告し、組織委員会が5000億円、組織委員会以外が最大1兆3000億円を負担する案を明らかにした。
 小池都知事は「IOCが示していたコスト縮減が十分に反映されたものということで、大事な「通過点」に至ったと認識している」と述べた。
 これに対して森組織委会長は「小池都知事は『通過点』と行ったが、むしろ『出発点』だと思っている。今回の件に一番感心を持っているのは、近県の知事の皆さんである」とした。
 一方、コーツIOC副会長は、「1兆8000億円にまで削減することができて、うれしく思っている。IOC、東京都、組織委員会、政府の4者はこれからも協力してさらなる経費削減に努めて欲しい」と「1兆8000億円」の開催予算を評価した。
 また開催経費分担について、小池都知事は、「コストシェアリングというのは極めてインターナルというかドメスティックな話なので、この点については、4者ではなく3者でもって協議を積み重ねていくことが必要だ」とし、「東京都がリーダーシップをとって、各地域でどのような形で分担ができるのか、早期に検討を行っていきたい」と述べ、年明けにも都と組織委員会、国の3者による協議を開き、検討を進める考えを示した。









開催経費「1兆8千億円」は納得できるか?
 12月21日開催された4者協議で、武藤事務総長は「組織委員会の予算が、膨れ上がったのではないかいという報道があったが、そのようなものではない。ただ今申し上げた通り、IOCと協議をしつつ、立候補ファイルでは盛り込まれてはいなかった経費(輸送費やセキュリティ費)を計上して今回初めて全体像を示したものだ」と胸を張った。
 “膨れ上がってはいない”と責任回避をする認識を示す組織委員会に、さらに“信頼感を喪失した。
 東京大会の開催経費は、立候補ファイル(2012年)では、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算)の合計で7340億円(2012年価格)、8299億円(2020年価格)とした。これが、最大「1兆8千億円」、約2.25倍に膨れ上がったのは明白だ。組織委員会は“膨れ上がった”ことを認めて、その原因を説明する義務がある。
 さらに最大の問題は「1兆8千億円」の開催経費の総額が妥当かどうかである。
 海の森水上競技場の整備費の経緯を見ると大会準備体制のガバナンスの“お粗末さ”が明快にわかる。
 招致段階では、「約69億円」、準備段階の見直しで「約1038億円」、世論から強い批判を浴びると、約半分の「491億円」に縮減、小池都知事の誕生し、長沼ボート場への変更案を掲げると、「300億円台」、最終的に「仮設レベル」なら「298億円」で決着した。
やはり東京五輪大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。
 海の森水上競技場以外に、同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。「1兆8千億円」の開催経費の中に、縮減可能な経費が潜り込んでいると見るのが適切だろう。組織委員会の予算管理に対する“信用”は失墜している。「1兆8千億円」の徹底した精査と検証が必須である。
 「1兆8千億円」という総額は明らかにしたが、その詳細な内訳については、公表していない。「1兆8千億円」が妥当な経費総額なのかどうか、このままでは検証できない。まず詳細な経費内訳を公表する必要があるだろう。
 その上で、東京都、国、開催自治体の間で、誰が、いくら負担するかの議論をすべきだ。


「開催費用1兆8千億円」だったら東京五輪招致を世論は支持したか?
 組織委員会は「開催経費は決して膨れ上がっていない」と胸を張っているが、当時想定できなかった経費がその後加わったのか、想定はしていたが大会開催経費をなるべく少なく見せるために意識的に加えなかったのかはよく分からない。しかし、森喜朗会長自らTBSのニュース番組(2016年5月16日)に出演し、当初の大会予算について「最初から計画に無理があったんです。「3000億でできるはずないんですよ」と述べていた。
 舛添前都知事も「舛添要一東京都知事は、「『目の子勘定』で(予算を作り)、『まさか来る』とは思わなかったが『本当に来てしまった』という感じ」とした上で、「とにかく誘致合戦を勝ち抜くため、都合のいい数字を使ったということは否めない」とテレビ番組に出演して話している。
 あっさり「1兆8000億円」と言ってもらいたくない。
開催費用を巡ってはまさに“無責任体制”のまま進められていたのである。
 2020東京五輪大会に立候補する際に、「開催費用 1兆8千億円」としたら、都民や国民は招致を支持しただろうか。招致の責任者の説明責任が問われてもやむを得ないだろう。


「組織委員会5000億円」 収支支均は帳尻合わせ
 12月21日に開催された4者協議で、森組織委会長は「決して組織委員会のお金が5000億で、それより大きくなったので、その負担をなにか東京都と国に押し付けているのではないかいという報道がよくあるが、これはまったく違う」と述べた。
 組織委員会の提示した予算は、「組織委員会」が「5000億円」で「収支均衡予算」、東京都や国、開催自治体が「1兆3000億円」とした。
しかし、実態は、組織委員会の収入は「約5000億円」、収入から逆算して組織委員会の負担を「5000億円」に“調整”して、残りの「1兆3000億円」を、組織委員会以外の東京都、国、開催地方自治体の負担としたのであろう。なりふり構わず苦し紛れの“帳尻合わせ”予算と見るのが合理的である。
組織委員会が負担すべき経費は、精査して積み上げたとしているが、どの経費を、いくらを合理的に積算したかは明らかでされていない。
その象徴が、仮設関連経費だ。予算書では、「組織委員会」が「800億円」、「その他」が「2000億円」としたが、どんな根拠で、どのように仕分けしたのか明らかにしていない。その他、「ソフト[大会関係]」の輸送、セキュリティ、テクノロジー、オペレーションもどうようだ。「予備費」を全額「その他」に計上するのも、組織委員会の予算管理の責任を曖昧にすることにつながりかねない。
新国立競技場や海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンター、有明アリーナなどの東京都が整備する恒久施設の経費は、すでに整備費が見直され、誰がどれだけ負担するか明らかになっている。同様のプロセスが必須だ。
 組織委員会の予算を、なにがなんでもなりふり構わず“均衡予算”にしないと、IOCの了解が得られなかったからであるからであろう。“みせかけ”の“均衡予算”になった。その“矛盾”は直ちに露呈するだろう。
 組織委員会が本来負担すべき経費を適正に積算して、総額がいくらなのかをまず明らかにするべきだろう。その上で、立候補ファイルの「3013億円」と比較して、経費が膨れ上った原因を明らかにすべきだ。
その上で、“帳尻”合わせの“操作”をしないで、“組織委員会の“赤字”は一体、どのくらいになるのかを明らかにし、責任の所在を明確にすることが必要だ。東京都や国、開催自治体に負担を要請するのはその後である。
 このままでは、組織委員会の開催予算管理の“杜撰”な体質が一向に改まらない懸念が大きい。


五輪開催経費 大会組織委、東京都、国の負担割合は不明瞭
 そもそも「1兆8千億円」には、大会組織委員会が負担する経費だけではなく、東京都や国が負担する経費も含まれている。立候補ファイル(2012年)でも、「大会組織予算」(組織委員会予算)と「非大会組織予算」(「その他」予算 東京都や国、地方自治体が負担する予算)に分けて開催予算を提示している。

 「警備費」は、「組織委員会」が「200億円」、「その他」が「1400億円」とした。 競技会場や選村、IBC/MPCなどの施設内や施設周辺の警備費は、組織委員会が負担するのは当然で、「200億円」の負担は少なすぎる。大会組織委員会の負担をなるべく少なく見せかけ、帳尻合わせをしたと思える。
 一方VIP関連の輸送、交通機関や主要道路、成田空港や羽田空港、さらに霞が関の政府機関、東京都庁や主要公共機関、電力・通信などの主要インフラ施設など警備まで組織委員会の経費で負担させるのは合理性を欠く。国の責任が重要となる。伊勢志摩サミットでは国が約340億円の警備費を負担した。東京五輪大会の規模ともなるとこの数倍は楽に超えるだろう。国は五輪に関わる警備費は一体いくらになるのか明らかにする必要がある。

 また「輸送費」ついては、「組織委員会」が「100億円」、「その他」が「1300億円」としたが、選手や大会関係者のシャトルバス運行に伴う経費などは組織委員会が負担するのは当然だろう。地方開催の場合の選手や大会関係者の輸送も大会の責任だろう。これも「100億円」とするの過少計上である。
 しかし、VIPの選手や大会関係者の輸送に伴うオリンピック専用レーンの設置は、首都高速道路、湾岸道路などに広範囲に必須とされているが、その約200億弱とされている通行制限に伴う高速道路会社への補てん費等は、東京都や国なども応分の負担するのは当然だろう。組織委員会と案分するのが筋である。

 「テクノロジー」や「オペレーション」については、それぞれ総額「1000億円」としたが、 内訳が示されていないため、経費総額の根拠が極めて曖昧になっている。
 「組織委員会」と「その他」の仕分けは、ほぼ折半とされているがこれも不明瞭だ。
しかし今回は、「1000億円」は総額だけが記入されているまったく白紙同様の請求書を組織委員会が国、東京都に出したのである。これでは到底、納得することはできないだろう。
 「その他」の経費、「1150億円」は巨額だが、内訳が明らかでない。精査する必要が必須である。
 また「3000億円」としている予備費を国や東京都などの「その他」に計上していることは納得できない。組織委員会の予算管理責任を曖昧にするからである。
 森組織委会長は「そして運営だとか場所の設定だとかその他もろもろのことがこれからある。改装の問題、エネルギーの問題、セキュリティの問題、いろいろある。セキュリティひとつにしてもどこが持つのか、やってみなければわからない。何が起きるのか不確定要素は多い。この東京大会は、特に夏だし、あるいは台風の多い時だ。何があるかこれからわからない。まだ3年、4年先の話だ」と述べている。
自然災害や不測の事態が発生して、開催経費が膨れ上がり、予備費で補填するのはやむを得ないだろう。一方、組織委員会の予算管理を厳重に監視する必要がある。東京五輪大会の開催経費を巡る“混迷”を振り返ると、新国立競技場や海の森水上競技場など、その“青天井”体質への歯止めが必須だ。













地方自治体は開催経費の負担に抵抗 “混迷”はさらに深刻化
 東京五輪大会開催経費の負担を巡っては、“混迷”を極めている。
 「あくまでも主催は東京都」(森組織委会長)、 「都と国の負担を注視する」(小池都知事)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)、「開催経費は組織委員会が負担すべき」、互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、費用負担を巡って険悪な雰囲気が立ち込めている。
 12月26日、東京都以外で競技を開催する自治体の知事などが東京都を訪れ、関係する自治体のトップらが東京都の小池知事に対し、計画どおり組織委員会が全額負担するように要請した。
これに対して、小池都知事は「年明けから関係自治体との連絡体制を強化する協議会を立ち上げる。東京都・国・組織委員会で協議を本格化させ費用分担の役割について年度内に大枠を決める」とした。
2020東京大会では、東京都以外の競技会場が現時点で合わせて6つの道と県の13施設・15会場に及ぶ。
その後、組織委員会を訪れ、森組織委会長と会談した。
 会議の冒頭、黒岩神奈川県知事が「費用負担は、立候補ファイルを確認して欲しい」と口火を切った。立候補ファイルには「恒久施設は自治体負担、仮設施設は組織委員会」と記載されている。
 これに対して、森組織委会長は費用分担の話し合いが遅れたことを謝罪した上で、「小池さんが当選された翌日ここに挨拶に来られた。早くリオオリンピックが終わったら会議を始めて下さいとお願いした。待つこと何カ月、東京都が始めない、それが遅れた原因だ」とその責任は会場見直し問題を優先させた東京都にあるとした。
 さらに「(開催費用分担の原則を記載した)立候補ファイルは、明確に申し上げておきますが、私でも遠藤大臣でもなく東京都が作った。もちろん組織委員会さえなかったこれで組織委員会と怒られてもね。僕らがあの資料をつくったわけではないんです。私が(会長)になった時は、あれができていた」と述べた。
 サッカー競技の開催が決まっている村井宮城県知事に対しては、「村井さんの場合はサッカーのことでお見えになったんですよね。これは実は組織委員会ができる前に決まっていたんです。村井さんの立場はよく分かるけれども私どもに文句を言われるのはちょっと筋が違う」とした。
そしてボート・カヌー会場の見直しで宮城県の「長沼ボート場」が浮上した際に、村井氏が受け入れる姿勢を示したことにも触れ、「(長沼に決まっても)東京都がその分の費用を出せるはずがない。だからあなたに(当時)注意した」と牽制した。
 これに対して、村井宮城県知事は、「あの言い方ちょっと失礼な言い方ですね。組織委員会ができる前に決まったことは、僕は知らないというのは無責任な言い方ですね。オリンピックのためだけに使うものというのは当然でききますのでそれについては宮城県が負担するというのは筋が通らない」と反論した。
 12月21日の4者協議で、組織委員会、東京都、国の開催費用分担を巡って対立する雰囲気を感じ取ったコーツIOC副委員長は、組織委員会、東京都、国、開催自治体で「“経費責任分担のマトリクス”」を次の4者協議までに示して欲しい。これはクリティカルだ」と強調した。IOCからも東京五輪大会のガバナンスの“お粗末”さを、またまた印象づける結果となった。
 「準備が半年は遅れたのは東京都の責任」(森組織委会長)などと“無責任”な発言を繰り返しているようでは、東京五輪大会の“混迷”は一向に収まること知らない。



海の森水上競技場、アクアティクスセンターは新設 バレー会場は先送り 4者協議
 2016年11月29日、東京大会の会場見直しや開催費削減などを協議する国際オリンピック委員会(IOC)、東京都、大会組織委員会、政府の4者のトップ級会合が、東京都内で開かれ、見直しを検討した3競技会場について、ボートとカヌー・スプリント会場は計画通り海の森水上競技場を整備し、水泳競技場はアクアティクスセンター(江東区)を観客席2万席から1万5000席に削減して、大会後の「減築」は止めて、建設する方針を決めた。
 一方、バレーボール会場については、有明アリーを新設するか、既存施設の横浜アリーナを活用するか、最終的な結論を出さず、12月のクリスマスまで先送りすることになった。しかし横浜アリーナの活用案は、競技団体の有明アリーナ意向が強いとして、「かなり難しい」(林横浜市長)情勢だ。
 都の調査チームがボート・カヌー会場に提案していた長沼ボート場は、ボート・カヌー競技の事前合宿地とすることを、コーツIOC副会長が“確約”し、小池都知事も歓迎した。
 海の森水上競技場は当初の491億円から300億円前後に整備費を縮減。アクアティクスセンターは座席数を2万から1万5000席に減らし、大会後の減築も取りやめたことで当初の683億円から513億円に削減された。

開催経費「2兆円」 IOC同意せず
 高騰が懸念されている開催経費について、組織委員会の武藤敏郎事務総長は「総予算は2兆円をきる」との見通しを示し、「これを上限として、予算を管理しなければならない」とした。
 これに対し、IOCのコーツ副会長は「2兆円が上限というのは高過ぎる。それよりはるかに削減する必要がある」と述べ、さらに削減に努めるよう求めた。
 またコーツ副会長は、会合終了後、記者団に対し、組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については組織委員会が示した2兆円という大会予算の上限については、「特に国際メディアの人に対して」と注釈を付けた上で、「IOCが2兆円という額に同意したとは誤解してほしくない」と、了承していないことを強調した。その理由については、「大会予算は収入とのバランスをとることが大切で、IOCとしては、もっと少ない予算でできると考えている。現在の予算では、調達の分野や賃借料の部分で通常よりもかなり高い額が示されているが、その部分で早めに契約を進めるなどすれば、節約の余地がある」と述べた。


世界に恥をかいた東京五輪 “ガバナンス”の欠如
 「大山鳴動鼠一匹」、「0勝3敗」、小池都知事の“見直し”に対してメディアの見出しが躍り始めた。しかし会場変更は手段であって目的はない。目的は“青天井”のままで膨れ上がり、“闇”に包まれたままの開催経費の削減と透明化だ。
 海の森水上競技場については、11月30日放送の報道ステーションに出演した小池都知事は、「仮設というと安っぽい響きがあるので、“スマート”に名前を変えたらどうか。名前を変えるだけで随分スマートになる」とし、20年程度使用する「仮設レベル」の“スマート”施設として、建設費297億円で整備することを明らかにした。これまでの計画では約491億円とされていたのが約200億円も圧縮されたのである。
 海の森水上競技場の整備問題は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備体制の“杜撰さ”を象徴している。唖然とする“お粗末”としか言いようがない。整備費の変遷を見るとその“杜撰さ”は明快だ。
 招致段階の「69億円」、見直し後の「1038億円」、舛添前都知事の見直しの「491億円」、最終案の「298億円」、その余りにも変わる整備費には唖然とする。「69億円」は杜撰を極めるし、「1038億円」をそのまま計画に上げた組織の良識を疑う。そして小池都知事が「長沼ボート場案」を掲げたら、一気に300億円台に削減されたのも唖然というほかない。
 やはり東京大会の運営組織のガバナンスの欠如が露呈している。海の森水上競技場以外に同様に“杜撰”に処理されている案件が随所にある懸念が生まれる。事態は、予想以上に深刻だ。
 4者協議のトップ級会談で、組織委員会の武藤事務総長は“2兆円”を切る”と言明したが、コーツIOC副会長に「“2兆円“の上限だが、それでも高い。節約の余地が残っている。2兆円よりずっと下でできる。IOCは、それをはっきりさせたい」と明快に否定された。
 実は、“2兆円”の中で、新国立競技場や東京都が建設する競技場施設の整備費は20%程度で、大半は、組織委員会が予算管理する仮設施設やオーバーレイ、貸料、要員費などの大会運営費を始め、暴騰した警備費や輸送費などで占められているのである。IOCからはオーバーレイや施設の貸料が高すぎると指摘され、“2兆円”を大幅に削減した開催経費を年内にIOCに提出しなければならない。勿論、経費の内訳も明らかにするのは必須、都民や国民の理解を得るための条件だ。
 組織委員の収入は約5千億程度とされている。開催経費の残りの1兆円3000億円以上を、国、都、関係地方自治体が負担しなければならない。一体、誰が、何を、いくら負担するのか調整しなければならない。しかし未だに実は何もできていないことが明らかになっている。
 ガバナンスの欠如が指摘されている今の組織委員会の体制で調整が可能なのだろうか?
 国際オリンピック委員会(IOC)にも危機感が生まれているだろう。世界は東京大会の運営をじっと見つめているに違いない。
 2020年まで4年を切った。


会見終了後、自ら進んで笑顔で握手して報道陣に“親密さ”アピール 2016年12月2日 筆者撮影


四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


上山都政改革本部調査チーム座長と小池都知事 四者協議トップ級会合 東京・台場 2016年11月29日 筆者撮影


海の森水上競技場 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル


小池都知事が主導権 四者協議トップ級会合
 四者協議トップ級会合は当初、一部非公開で議論される予定だったが、小池百合子都知事の意向で完全公開となった。会合後に記者団に対して、小池知事は、「フルオープンでない部分があると聞いて、だったら最初から結論を言ったほうがいいと思って、そのようにした」と述べ、変更した理由を明らかにした。まずは異例の“全面公開”の会合にすることで小池都知事のペースで始まった。
 小池都知事は、議論を後回しにして、冒頭で「ボート・カヌー会場は海の森水上競技場、オリンピック アクアティクスセンターは予定通り建設、バレーボール会場は先送り」の東京都案を明らかにした。これに対して組織委員会は不満の意を唱えたが、進行役のコーツIOC副会長が引き取って、IOCとして東京都案を支持すると表明し、東京都案はあっさり承認された。
 小池都知事は会合開始直前に、コーツ副会長に“直談判”をして、“全面公開”と“バレーボール会場の先送り”を承諾してもらったことを、報道ステーション(11月30日)に出演して、明らかにしている。小池都知事は、ボート・カヌー会場を海の森水上競技場することの“見返りに”、バレーボール会場の先送りをIOCに認めさせたのであろう。IOCは、渋々認めたというニュアンスが、「(横浜アリーナの検証作業は)大変な作業になる。野心のレベルが高い作業だ」(コーツ氏)という発言から伺える。
 また小池都知事は、「日常的にメールでコーツ副会長とは連絡を取り合っている」(報道ステーション)と、コーツ副会長とのホットラインが築かれていることを明らかにした。どうやらIOCとのパイプは、森氏だけではなくなったようである。会合が終わって、真っ先に小池都知事がコーツ副会長に近づいて笑顔で握手をしていた。 
 森組織委会長は、東京都のバレーボル会場の横浜アリーナ案について強く反発し、「クリスマスまで何を検証するのか」とか「僕の知りうる情報では横浜の方が迷惑していると聞いている」としたが、これに対して小池都知事は「横浜市にも賛同してもらったところで、お決め頂いたら是非やりたいという言葉を(横浜市から)もらっていた」と反論した。
 双方、言い分がまった違うので、一体どうなっているのかと思ったら、会合終了後、組織委員会から記者団に対して、「先ほどの森組織委会長の発言は、“迷惑”としているのは事前に何の相談もなかった競技団体で、『横浜』ではありません」と訂正要請がされた。森組織委会長は小池都知事にボート・カヌー会場の見直しや横浜アリーナ案に対して、たびたび強い口調で批判をし、両者の間に“火花”が散っていた。
 ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。ちなみに林横浜市長は「困惑はしていない。要請があればそこからスタートする。積極的に是非やってほしいという言い方はとてもできない」と微妙な立場を述べている。
 また横浜市は東京都と組織委員会に対して、書面(11月25日付)で「国際、国内の競技団体、さらにIOCの意向が一致していることが重要」とか「(民有地を利用する際の住民理解や周辺の道路封鎖などは)一義的に東京都や組織委員会が対応すべき」と事実上難色を示しているこが明らかになった。横浜市は、四者協議の資料として提出したもので、具体的な内容は「配慮のお願い」で新たな意思決定ではないとした。
 さらに開催費用の議論については、東京五輪大会をめぐる“迷走”ぶりを象徴している。
 森組織委会長は、「“3兆円”を国民に言われるとはなはだ迷惑だ」と都政改革本部を批判した。これに対して小池都知事は「“3兆円”は予算ではなく、大会終了後、結果として総額でいくらかかったかを試算するものだ。予算段階では公にできないものもある」と反論した。また森組織委会長は、「警備費や輸送費などは国が持つことを検討してほしい」と述べたのに対し、丸川五輪相は「平成23年の閣議了解で大会運営費は入場料収入や放送権収入でまかなうとしている」と述べ、否定的な姿勢を示した。IOCのメンバーを前に、開催費用や費用負担を巡って、組織委員会、国、都がバトルを繰り広げたのである。コーツIOC副会長は、「関心を持って聞いた」としたが、本音、何ともお粗末な東京五輪の運営体制と唖然としたに間違いないだろう。東京大会の招致で高らかに世界各国に訴えた“マネージメント力の卓越さ”は一体、どこへいったのか? 
 組織委員会は、開催費用の総額を“2兆円”とトップ級会合で明らかにして四者協議でコンセンサスを得たいという思惑があったと思える。しかし、IOCから“2兆円”は高額過ぎると批判を浴び、結局、“2兆円を切る”というおおまかなことしか明らかにできなかった。組織委員会は東京五輪の開催経費の総額と詳細を今回も示せなかった。その“2兆円”もIOCから否定され、さらに大幅に削減するように求められた。組織委員会の面目はまるつぶれ、お粗末さを露呈した。IOCにとって、“経費削減”、“肥大化の歯止め”は、五輪大会の持続性を確保するために至上命題なのである。“2兆円”を1兆円以上切り込む必要が迫られている。その対象は競技場の建設費ではなく、組織委員会が管理する大会運営費である。瀬戸際に立たされたのは組織委員会だ。
 一体の東京五輪の開催経費の総額は、いつ明らかにされるのだろうか? 個々の競技場の建設費問題よりはるかに重要だ。
 東京五輪の“迷走”と“混乱”はまだまだ続きそうだ。


主導権争い激化 2020年東京オリンピック・パラリンピック 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長


実務者作業部会再開 隔たりは埋まらず難航 結論はトップ級会合に先送り
 2016年11月27日、東京都、政府、組織委員会、IOC=国際オリンピック委員会の4者協議作業部会が再び開かれ、競技会場の見直しや開催経費削減などについて議論が行われた。
 作業部会はIOCのデュビ五輪統括部長、都の調査チームの上山信一慶応大教授、組織委の武藤敏郎事務総長などが出席し出席非公開で行われ、焦点のボートとカヌー、バレーボール、水泳の3つの競技会場を中心に、6時間に渡って議論が行われた。競技会場の見直しについては、東京都の提案を元に、11月初めの第一回会議で課題の洗い出しが行われ、その後、候補となっている会場の視察や費用の分析が進められてきた。
 会議終了後、IOCのクリストフ・デュビ五輪統括部長は「各競技会場について詳細に検討した結果をトップ級会合に提示する。その場で最終的な決断するのか、さらに検討を求めるかは彼ら次第だ」と述べ、トップ級会合で最終的な“結論”を出すとしたが、先送りされる可能性も示唆した。一方、小池都知事も「決まるものは決まるかもしれないし、決まらないものは先に送ることになるかもしれない。明日の協議次第だと思っている」と先送りの可能性について述べている。仮に海の森水上競技場や有明アリーナが、計画は変更されるにしても予定通り建設されることになれば、それと“引き換え”に、小池都知事はIOCや組織委員会に経費削減策の具体策を求めることになるのは必至だろう。
 最終的な“結論”に至るかどうかの主導権は小池都知事に握られているのである。
 29日のトップ級会合は公開予定で、民放の午後の情報番組やNHKでは生中継も行われる。
 3会場のうち、バレーボールは当初計画の有明アリーナ(江東区)新設、横浜アリーナ(横浜市)活用の2案を中心に最終調整している。最も時間を費やして議論をしたとされている。東京都案としてバレーボール会場に急浮上した国立代々木競技場は、結局、議題には上がらなかったとされ、事実上、代々木案は消滅したと見るむきもあるが、トップ級会合で浮上する可能性もあり、。議論は難航しそうだ。ボート・カヌー会場は湾岸部に新設する海の森水上競技場を仮設施設として整備する方向が有力、大会開催後の利用の見通しについても議論された。オリンピック アクアティクスセンターは、観客席を計画の2万席から1万5千席に削減する案が検討されたが、特に異論はなかった模様だ。
 また、大会経費を抑える新たな仕組みについて具体策の検討が行われた。資材を安く調達したり、第三者による専門家チームが費用の妥当性を検証したりするなど、民間の手法を取り入れる方針だ。
 東京大会の開催費用については、東京都の調査チームは総予算が“3兆円”を超える可能性があるとしたが、四者協議作業部会は、“2兆円”との試算のをまとめ、トップ級会合に報告する予定だ。IOCは組織委の資材調達費用が高すぎる点などを見直し、経費削減を指示していたと伝えられている。
 これでようやく東京大会の開催経費の総額が初めて公式に明らかにされることになった。しかし、これが開催経費問題の“終着点”ではなく、これから開催経費の具体的な項目を個別に厳しくチェックし、経費削減をさらに図る努力が必須だ。これまでの予算管理のの“青天井”体質とは決別しなければならない。
(参考 朝日新聞 読売新聞 毎日新聞 NHK 時事通信 2016年11月28日)

「四者協議」の実務者作業部会 見直しの結論の方向性は出さず
前面に出た東京都 影に追われた大会組織委員会 存在感が無い国

 東京オリンピック競技会場の見直し案などを議論する「四者協議」の実務者会合が、11月1日から3日までの3日間に渡って行われた。
 会合には、クリストフデュビIOC五輪統括部長や東京都調査チーム統括の上山信一特別顧問、武藤敏郎組織委員会事務総長、IOCのアスリート委員のコベントリー氏や組織委員会のスポーツディレクターの室伏広治氏らオリンピックのメダリストも参加した。
 2日目の会合では、上山信一特別顧問が、東京都のボート・カヌー、水泳、バレーボールの3つの競技場の見直し案を説明した。
国際オリンピック委員会(IOC)と組織委員会は会場変更については慎重な姿勢を示しているとされている中で、会合では、ボート・カヌーとバレーボール競技場の見直し案について議論が行われた。
 この内、海の森水上競技場については、海の森水上競技場の選定に深くかかわった国際ボート連盟の担当者も出席し、大会運営の専門的な立場から意見を述べたが、見直し案の結論の方向性は議論されなかったとされている。
またIOCの出席者からは、施設、輸送、警備費など経費が高額な組織委側の見積もりに対し、IOCから甘さを指摘する意見や、レガシー(遺産)となる部分については、地方自治体の費用負担も必要との意見も出たとされている。
 実務者会合に出席したクリストフデュビIOC五輪統括部長は、会合終了後、記者団に、「とても良い会合だった。3日間の協力について満足している。特定の方向性を打ち出すというよりも事実をつかむための情報交換を行った。東京都民や東京都にとってレガシーを残すための努力はどんなものでも歓迎する。(長沼ボート場や横浜アリーナの)選択肢は残っている。作業部会の目的は決定することではない。決定は4者協議の代表が今月末に行う」と述べ、今回の作業部会では競技会場の見直しの方向性は決めず、作業部会で出た議論を文書にまとめた上で、結論は11月30日に行う予定の四者協議のトップ級会合で出すとした。
 これに対して、小池都知事は、「東京都として複数の案を示した。東京都とIOCが同じ舞台で直接会話し、同じ考えを共有できた。大変に敬意を表したい」の述べ、東京都が国際オリンピック委員会(IOC)と直接、話し合いができる場ができたことを評価した。これまで、国際オリンピック委員会(IOC)は大会組織委員会を窓口に大会開催計画を話し合って、事実上、決めてきた。 「四者協議」が始まったことで、東京都がIOCの「交渉相手」として加わったことで、大会組織委員会の影が薄くなった。 大会組織委員会は“主導権”を失い、東京都が表舞台に躍り出た。


* 11月29日開催される四者協議トップ級会合は、「テクニカルグループミーティング関する報告とまとめ」と「今後についてについては公開され、「議事整理」は非公開としたが、小池都知事の直前の提案ですべて公開に変更

小池都知事VSバッハIOC会長会談 主導権争い熾烈  
 2016年10月18日、トーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長と東京都の小池百合子知との会談が行われた。
 競技会場整備の見直しと開催経費削減を巡って小池東京都知事と森大会組織委会長の対立が激化し、混迷が深刻化している中で、バッハIOC会長は訪日し、両者の調整に乗り出したのである。
 小池氏は「五輪会場の見直しは今月中に結論を出し、さまざまな準備を進めていきたい」と述べ、バッハIOC会長が提案した、国、東京都、大会組織委員、IOCで構成する「四者協議」を11月に開催することに合意した。
 会談の冒頭、小池都知事は「3兆円」に膨れ上がったとされる開催費用のコスト削減について、「(競技場)の見直しについては80%以上の人たちが賛成をしているという状況にある。都政の調査チームが分析し、3つの競技会場を比較検討した。そのリポートを受け取ったところで、今月中には都としての結論を出したい。オリンピックの会場についてはレガシー(未来への遺産)が十分なのか、コストイフェクティブ(費用対効果)なのかどうか、ワイズスペンディングになっているのか、そして招致する際に掲げた『復興五輪』に資しているかがポイントになる」と述べた。
 これに対し、バッハ会長は「“もったいない”ことはしたくない。IOCとしてはオリンピックを実現可能な大会にしたい。それが17億ドル(約1770億円)をIOCが(組織委員会に)拠出する理由だ」と語り、小池都知事は親指を挙げて笑顔で答えた。
 そして、バッハ会長は、コスト削減を検討する新たな提案として、「東京都、組織委員会、日本政府、IOCの四者で作業部会を立ち上げ、一緒にコスト削減の見直しを行うということだ。こうした分析によってまとめられる結果は必ず“もったいない”ということにはならないと確信している」と四者協議開催を提案した。 これに対して小池都知事は、「来月(11月)にも開けないか」と応じた。
 会談は、当初は冒頭のみ報道陣に公開する予定だったが、小池都知事の要請で異例の全面公開となった。殺到した取材陣は合計139人、午後2時過ぎに行われたこともあって、民放の情報番組では生中継で会談の模様を伝えた。
 11月に開催される4者協議も小池都知事はオープンにしたいと要請し、バッハ会長もこれを承諾したとされている。

 翌朝の朝刊各紙は、「同床異夢」(朝日新聞)、「四者協議 都にクギ」(読売新聞)、「IOC会長 先制パンチ」(毎日新聞)、スポーツ紙では「小池知事タジタジ、IOC会長にクギ刺されまくる」(日刊スポーツ)などの見出しが並んだ。

 小池都知事は、都政改革本部が主導して海の森水上競技場など3会場の抜本的な見直しをまとめ、東京都が主導権を握ってIOCや競技団体と協議を行うという作戦だったと思える。
 ところがバッハIOC会長は、経費削減という総論には賛同しながら、具体的な方策については、「四者協議」の設置を提案して、東京都、組織委員会、政府、IOCの四者で競技場の見直し協議を行うことを提案した。
 「四者協議」には、国際オリンピック委員会(IOC)からはコーツ副会長が出席し、IOCの代表を一任される。コーツ副会長は、元オリンピック選手で国際ボート連盟の“ドン”と言われ、五輪開催地の競技場整備の指導・監督をするIOCの調整委員会の委員長で、大きな権限を握る実力者だ。
 コーツ副会長は、「シドニー(コーツ氏の地元)では海水でボート・レースをやっているから問題はない。日本人は気にすべきでないしIOCとしても問題ない」とし、海の森水上競技場を暗に支持する発言を繰り返している。
 小池都知事の思惑からすれば、「四者協議」は誤算だったに違いない。小池都知事と森組織委会長の対立激化に懸念を深めたバッハIOC会長が業を煮やして混乱の収拾に乗り出して、小池都知事にクギを刺して、大会組織委員会に“助け船”を出したということだろう。
 これまで五輪を巡るさまざま局面で難題を処理してきたコーツIOC会長の巧みな対応は、さすがということであろう。

 しかし、小池都知事は決して「敗北」はしていない。
 「四者協議」で、都政改革本部が提案した3つ競技場の見直しがたとえうまくいかなくても、“失点”にならないと思える。
 海の森水上競技場の見直しでいえば、小池都知事が仕掛けている長沼ボート場への変更についても、仮に現状のまま海の森水上競技場の開催で決着しても、それは、組織委員会や競技団体、IOCが反対したからだと説明すれば、責任回避ができる。
 また、海の森水上競技場は、埋め立て地という地盤条件や自然条件を無視して建設計画が進められていて、極めて難しい整備工事になるのは間違いない。海面を堰き止めて湖のような静かな水面を保つのも至難の業で、難題、風と波対策がうまくいくかどうがわからないし、施設の塩害対応も必要だろう。つまり、海の森水上競技場は計画通り建設しても、実際に競技を開催しようとすると不具合が次々と露見して、追加工事や見直しは必須だろう。まだ誰もボート・カヌーを実際に漕いだ選手はいないのである。競技運営も天気まかせで、開催日程通り進められるかどうか、極めてリスクも多い。
 その責任は、海の森水上競技場を推進した組織委員会や競技団体がとるべきだろうと筆者は考える。整備費、約491億円の中に、なんと約90億円の巨額の予備費が計上されている。つまりかなりの追加工事が必要となる難工事になると想定しているからである。経費削減で予備費も無くそうとしているが、追加工事が必要となったらどうするのか? 風や波対策の追加工事の必要になったらその請求書を東京都は組織委員会や競技団体送り付けたら如何だろうか?
 ボート・カヌー競技の長沼ボート場への誘致に力を入れて取り組んだ宮城県にとっても、たとえ誘致がうまくいかなくても、いつのまにか忘れさられていた「復興五輪」という東京五輪のスローガンを国民に蘇らせることができたのは大いにプラスだろう。これまでほとんど誰も知らなかった長沼ボート場は一躍に全国に名前が知られるようになった。

 さらにバッハIOC会長は安倍総理との会談で、追加種目の野球・ソフトボールの被災地開催を検討したいと述べ、結果として「復興五輪」は更に前進することになりそうである。小池都知事が強調した「復興五輪」は、野球・ソフトボールの被災地開催が実現する方向で検討されることになり、形は変わるが小池都知事の功績に間違いない。

 開催経費削減についても、海の森水上競技場でいえば、小池都知事と都政改革本部が「長沼ボート場」移転案を掲げたことで、あっという間に、整備費用が約491億円から約300億円に、なんと約190億円削減されることになりそうだ。小池都知事が動かなかったら、東京都民は約190億円ムダにしていたところだ。さらに東京都が再試算すると、オリンピック アクアティクスセンターで約170億円、有明アリーナで約30億円、3施設の合わせて、最大で約390億円削減できる見通しとなったとされている。
 約390億円は巨額だ。これも小池都知事の大きな“功績”、東京都民は“感謝”しなければならないだろう。
 小池都知事は「四者協議」の設置で、IOCと同じテーブルにつき、直接、議論をする場を確保した。また「四者協議」で具体的な見直し案を提出できるのは東京都しかと思われる。組織委員会や競技者団体は、経費削減の具体的な対案を提出する能力はないだろう。結局、“受け身”の姿勢をとらざるを得ない。やはり都政改革本部が見直しの主導権を握っているのだろう。しかし、IOCも絡んできたことで、“混迷”は更に深刻化したことは間違いない。一体、誰がどのように収束させるのだろうか?まったく見通せない状況になった。


東京五輪費用「3兆円超」 都チーム推計 3施設見直し案 ボート・カヌー会場は長沼(宮城県)を提言
 「結果から申し上げると今のやり方のままでやっていると3兆円を超える、これが我々の結論です」
 2016年9月29日、2020年東京五輪・パラリンピックの開催経費の検証する都政改革本部の調査チーム座長の上山信一慶応大学教授はこう切り出し、大会経費の総額が「3兆円を超える可能性がある」とする報告書を小池都知事に提出した。
 大会経費は、新国立競技場整備費(1645億円)、都の施設整備費(2241億円)、仮設整備費(約2800億円)、選手村整備費(954億円)に加えて、ロンドン五輪の実績から輸送費やセキュリティー費、大会運営費などが最大計1兆6000億円になると推計。予算管理の甘さなどによる増加分(6360億円程度)も加味し、トータルで3兆円を超えると推計した。 招致段階(13年1月)で7340億円とされた大会経費は、その後、2兆円とも3兆円とも言われたが、これまで明確な積算根拠は組織委員会や国や東京都など誰も示さず、今回初めて明らかにされた。
調査チームは「招致段階では本体工事のみ計上していた。どの大会でも実数は数倍に増加する」と分析。その上で、物価上昇に加えて、国、都、組織委の中で、全体の予算を管理する体制が不十分だったことが経費を増加させたと結論付けた。 
 そしてボート、カヌー・スプリント会場「海の森水上競技場」は、当初計画の7倍の約491億円に膨れ上がった経費に加えて、「一部の競技者が会場で反対している」「大会後の利用が不透明」だとして、宮城県長沼ボート場を代替地に提言した。「復興五輪」の理念にも合致するとしている。また「オリンピックアクアティクスセンター」の観客席の規模縮小やバレーボール会場の「有明アリーナ」の規模縮小や展示場やアリーナの既存施設の活用を提案した。


都政改革本部 調査チーム調査報告書


都政改革本部 五輪調査チーム調査報告書


五輪開催経費は誰が責任をもって管理するのか
 2016年9月下旬、東京オリンピック・パラリンピックの予算などを検証している東京都の調査チームは、開催費用を独自に推計した結果、3兆円を超えるとしたうえで、コスト削減に向け、都内に整備する予定の3つの競技会場を都外の施設へ変更するなど計画の大幅な見直しを提案し、五輪開催経費を巡って“迷走”が始まった。
 これまで開催費用については、「2兆円を超える」(森大会組織委委員会長)、「3兆円は必要だろう」(舛添要一前都知事)など曖昧な発言が繰り返されただけで、誰も開催費用の総額を明らかにしてこなかった。招致計画では約7340億円(資材費・人件費の暴騰で約8000億と試算)、関係者からは「足りるはずがないと皆で話していた」「招致のために低く見積もっていた」との声が聞こえてきたという。一体、大会開催費用は誰が責任を持つべきなのだろうか。
 2007年3月、イギリスのジョーウエル文化・メディア・スポーツ相はロンドン五輪の開催経費は約93億3500億ポンド(1兆2975億円)になる見込みだと発表した。招致計画の予算24億ポンド(約3029億円)の約4倍に膨れ上がるとした。
 経費が膨れ上がった原因は、再開発経費やインフラ投資経費も見込んでいな
かったことだと説明した。この内、約53億ポンド(約7367億円)をオリンピックパークの建設費(競技場建設を含む)、約27億ポンド(約3753億円)を予備費としている。その後、下院や監査局が予算のチェックを実施、使途の内訳や推移は定期的に公表された。そして2012年10月、英政府はロンドン五輪の総費用は予算(最終予算額92億9800万ポンド)を約3億7700万ポンド(約524億円)下回り、89億2000万ポンド(1兆1240億円)と発表した。この他に大会組織委員会の運営費が約20億ポンドかかったので、ロンドン五輪の開催経費の総額は約109億ポンド(約1兆5151「億円)としている。ヒュー・ロバートソン(Hugh Robertson)スポーツ閣外大臣は、予算内に収めた運営当局を賞賛し、「2012年ロンドン五輪が、将来の五輪およびパラリンピックの運営の新たな基準となるのは間違いない。90億ポンド以内での大会運営はほぼ達成された」と語った。
 重要なポイントは五輪開催の約5年前には、英政府は政府の責任で五輪開催費用の総額の見通しを公表し、定期的にチェックしていたことだ。ふりかえって東京大会の開催費用は総額で一体いくらになるのか、これまでは“青天井”のままで開催準備が進められ、都政改革本部が初めて、“推計”で“3兆円”を明らかにしたという経緯がある。
 競技施設整備やインフラ整備、大会運営費など開催費用は、国や都、組織委員会などがバラバラに管理し、開催費用の総額は、“青天井”で、まったくの無責任体制と批判されても致し方ない。ロンドン五輪では国が責任を持って行った。東京大会の開催費用管理の責任体制はどうするのだとうか、これからが正念場だろう。このままでは無責任体制のツケを東京都民や国民が払わされることに追い込まれる。新国立競技場の“失態”が再び繰り返されるのだろうか?

* 使用為替レート(ポンド=円)
 為替レート 1ポンド=139.0円(2016年11月28日) 本稿で使用レート
* 参考
 都政改革本部調査チームの報告書は、ポンド=円の為替レートを「過去10年の最小値である2012年平均1£=126円と、最大値である2007年平均1£=236円の中間値:1£=181円で換算」し、組織委員会の経費も含めて総額を「2兆1137億円」としている。



2016年12月22日  初稿
2017年7月1日   改訂
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
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