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新国立競技場 安藤忠雄 ザハ・ハディド 審査委員長の“肩書き”が泣いている 

2023年01月04日 10時02分49秒 | 新国立競技場
審査委員長の“肩書き”が泣いている
新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏


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新国立競技場問題 安藤忠雄氏が記者会見 (2015年7月16日)   出典 PAGE Youtube


 総工費が「2520億円」に高騰して、世論から厳しい批判を受けている新国立競技場建設問題について、新競技場のデザインを決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた安藤忠雄氏(73)が経緯について初めて記者会見を行い、「デザインの選定までが仕事でコストの決定議論はしなかった」と述べた。
冒頭に、7月7日に開かれた新国立競技場の計画を公に議論する最後の機会となった「有識者会議」に欠席した理由について「大阪で別の会合があったので欠席した」と釈明した。
 「私たちが頼まれたのはデザイン案の選定まで、実際にはアイデアのコンペなんですね。こんな形でいいなというコンペですから、徹底的なコストの議論にはなっていないと思う。私自身こんなに大きなものは造ったことがない。流線形で斬新なデザインでした。なによりもシンボリックでした。この難しい建築工事を日本ならできると私は思いました」
 また、政府内で総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことについて、「建築家、ザハ・ハディド氏のデザインは外すわけにはいかないと思うが、2520億円は高すぎる。もっと下がらないかと私も聞きたい。徹底的議論して調整して欲しい」と述べた。
 新競技場の総工費が問題になってから、安藤氏が公の場で発言するのは初めてで、JSCによると、安藤氏からJSCに会見の要望があったという。
 安藤氏は、総工費が正式に示された7日の有識者会議を欠席したことから、下村文部科学相から「選んだ理由を堂々と発言してほしい」と指摘されていた。
 安藤忠雄氏は新国立競技場建設のデザインコンクールの責任を負う審査委委員長、その対応には唖然とさせられる。「世界でいちばん」をめざす新国立競技場にはザハ・ハディド氏のデザインが「いちばん」相応しく、高額の経費がかかっても建設すべきだと主張してこそ「世界で一流」の建築家であろう。
 審査委員長の“肩書き”が泣いている。

(2015年7月16日)


朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき

朝日新聞は東京五輪の「オフイシャルパートナー」を返上せよ


朝日新聞社説 2021年5月26日

東京オリンピック 渡航中止勧告 開催に影響なし 過剰反応 メディア批判

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催明言 コーツIOC副会長

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


新国立競技場問題 安藤忠雄氏が記者会見 (2015年7月16日)
PAGE Youtube



安藤忠雄氏擁護論 ザハ・ハディド作品には“目を見張った”
 新国立競技場の二つのデザインを見比べて欲しい。
 1枚目は、国際デザイン・コンクールで最優勝賞を受賞したザハ・ハディド氏の作品、二枚目は建設費の高騰を批判されて変更縮小したデザイン案、どちらがインパクトのあるデザインだと思いますか?



国際デザイン・コンクールで最優秀賞となったザハ・ハディド作品  出典  日本スポーツ振興センター(JSC)


縮小変更案   出典 日本スポーツ振興センター(JSC)

 筆者は、ザハ・ハディド氏のデザインが、はるかに斬新で近未来を彷彿とさせるインパクトがあるデザインだと思う。その意味で、ザハ・ハディド氏のデザインを採用した安藤忠雄氏の“眼力”を高く評価したい。勿論、膨れ上がった建設費の問題や余りにも斬新デザインは景観を損なうという景観問題があるのも理解している。
 また膨れ上がった建設費の問題は致命的であることも理解した上だ。
 それに比べて、縮小変更デザイン案はなんとも“お粗末”な“見栄えのしない”デザインだと筆者は思う。「自転車のヘルメット」とか、「古墳」、「ロボット掃除機」、はてまた「便器の蓋」とか酷評されている。なんとも冴えないデザインである。
 このデザインで新国立競技場を建設するなら、いっそのこと横浜の「日産スタジアム」や大阪の「ヤンマースタジアム長井」のように「普通」のスタジアムで建設した方がはるかに良い。 
 そして周辺整備費をしっかり使って、神宮外苑エリアを五輪開催の“レガシー”(未来への遺産)にしたらどうか?


スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」
 Zaha Hdid Architecsの作品が評価されたポイントは、「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」である。極めてシンボリックな形態で、「背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイデアが示されている」としている。また可動式の屋根も“実現可能”で、イベント等の開催時には、「祝祭性」に富んだ空間が演出可能で、「大胆な建築構造がそのままダイナミックなアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがあった」としている。
 さらに「橋梁ともいうべき象徴的なアーチ状主架構の実現は、現代日本の建設技術の粋を尽くすべき挑戦となる」と評価している。
 これに対して、当初から、Zaha Hdid Architecsのデザインは、「景観」を壊すとして強い批判があった。ジャパン・タイムズは社説で「美しい神宮外苑の公園に、うっかり落とされた醜いプラダのバッグのようだ」とし、「ザハ・ハティドの呪い」とコメントしている。「歴史ある外苑の雰囲気に溶け込まない」、議論が未だに終息していない。
 それにしても、経費を削減するために、急遽、見直しを行って作成された縮小変更デザイン案は余りにもお粗末。 「便器の蓋」、「古墳」、「自転車のヘルメット」、痛烈な批判が浴びせられている


次世代を見据えた建築デザインの難しさ
 次世代の見据える建築物のデザインを考えるのは極めて難しい。インパクトを求める未来派志向と景観との調和を求める環境志向、日本文化の伝統を求める伝統志向、それぞれ価値観や評価基準がまったく異なり、意見はまとまらない。
 筆者は、ザハ・ハディド氏のデザインを批判するつもりは一切ない。彼女は建築デザイン家として、「近未来感覚の斬新さ」をあくまで追求してプロフェッショナルのデザインを創造する芸術家である。自由な発想で世界各国に斬新なデザイン作品を提示しているのは素晴らしいことだ。
 筆者がかつて勤務していたオフイスの隣に1964年の東京オリンピックの競泳会場となった国立代々木競技場第一体育館がある。この体育館の設計をしたのは建築家の丹下健三氏である。実に時代の先端を行く吊屋根形式のデザインで体育館を設計した。当時の建設技術では極めて難度が高く、実現が難しいのではないかと言われていた工法に挑戦した。その斬新なデザインにまったく批判がなかったわけではないだろう。しかし、その優美な曲線を持った外観は東京オリンピックのシンボルの一つとして評価されるようになり、代々木のランドマークとなった。建築物の先端性とはこのように理解するのが適切なのではないか。時代”の一歩先を行けば評価されるし、二歩先を行くと誰も理解してくれないが世の常である。ザハ・ハディド氏は、そのギリギリの境界を狙っている挑戦的な建築家だと思う。但し建設費を無視しているのが致命的な欠点だ。




新国立競技場のデザイン募集 国際コンペ実施
 「8万人を収容する観客席、開閉式の屋根、大規模な国際大会のほか、コンサートなども開ける多機能型の“新国立競技場”を建設する……2012年7月20日、国立競技場を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター」(JSC)が、“新国立競技場”のデザインを募集する国際コンペを実施した。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズは、「『いちばん』をつくろう」である。
「日本を変えたい、と思う。新しい日本をつくりたい、と思う。もう一度、上を向いて生きる国に。そのために、シンボルが必要だ。日本人みんなが誇りに思い、応援したくなるような。世界中の人が一度は行ってみたいと願うような。世界史に、その名を刻むような。世界一楽しい場所をつくろう。それが、まったく新しく生まれ変わる国立競技場だ。世界最高のパフォーマンス。世界最高のキャパシティ。世界最高のホスピタリティ。そのスタジアムは、日本にある。「いちばん」のスタジアムをゴールイメージにする。だから、創り方も新しくなくてはならない。私たちは、新しい国立競技場のデザイン・コンクールの実施を世界に向けて発表した。そのプロセスには、市民誰もが参加できるようにしたい。専門家と一緒に、ほんとに、みんなでつくりあげていく。『建物』ではなく『コミュニケーション』。そう。まるで、日本中を巻き込む『祝祭』のように。
この国に世界の中心をつくろう。スポーツと文化の力で。そして、なにより、日本中のみんなの力で。世界で「いちばん」のものをつくろう。」
国際デザイン・コンクールを実施するにあたって日本スポーツ振興センターが宣言したコメントである。
建築家の安藤忠雄氏(建築家 東京大学名誉教授)が審査委員長となった。
審査員は、鈴木博之(建築家 青山学院大学教授)、岸井隆幸(建築家 日本大学教授)、内藤 廣(建築家 前東京大学副学長)、安岡正人(建築家 東京大学名誉教授)、都倉俊一(作曲家 日本音楽著作権協会会長)、小倉純二(日本サッカー協会会長)、河野一郎(医学博士 日本スポーツ振興センター理事長)の7名に加えて、世界的に著名な建築家のノーマン・フォスター(イギリス)、リチャード・ロジャース(イギリス)の2名が務めた。
 しかし、ノーマン・フォスター氏とリチャード・ロジャース氏は2次審査から加わるとしていたが、結局、一度も来日せず、JSCの担当者が作品のパネルや資料を持参してイギリス国内で別途、審査を行ったという。
 両氏の不誠実な姿勢には良識を疑うと共に、日本スポーツ振興センター(JSC)の杜撰な審査運営にも唖然とする。


新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“キーワード”は、“「いちばん」をつくろう”と“FOR ALL”
以下出典 新国立競技場 国際デザイン・コンクール ホームページ


新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“メッセージ”


取り壊された旧国立競技場   出典:日本スポーツ振興センター(JSC)

イベントも開催する多機能スタジアム 総工費は1300億円程度
 新国立競技場は、東京都新宿区霞ヶ丘町にある現在の国立競技場を解体した跡地につくる。観客席の収容人数を今の約5万4000人から8万人規模へと大幅に増やす。
 敷地面積も拡張して、現在の約7万2000平方メートルから約11万3000平方メートルに増やし、隣接する日本青年館を取り壊すほか、現在ある公園も敷地に加えた。
総工事費は解体費を除いて1300億円程度とした。
新競技場にはラグビーやサッカー、陸上競技の大規模な国際大会が実施できる最高水準の機能を求める。例えば、現在8レーンある陸上用トラックを国際規格の9レーンに増やすことなどを想定する。2019年に開催されるラグビーのワールドカップ、またFIFAワールドカップの開催も視野に入れた。
 さらに、コンサートや展覧会などのイベントの開催も可能にし、「芸術・文化の発信基地」を目指す「多機能スタジアム」がキーワードである。開閉式の屋根を設けて、大会やイベントが天候に影響されず開催できるようにする。芝生の育成に必要な太陽光や風、水、温度を調整できる機能も求めた。
 観客席は陸上競技を催す際に8万人を収容。ラグビーやサッカーでは選手と観客に一体感や臨場感が生まれるようにピッチに近い場所せり出す可動式の観客席も設置する。コンサート会場にも使える多機能型スタジアムとして、優れた音響環境も備え、屋根には遮音装置を備える。
世界水準の「ホスピタリティー」も要求する。バリアフリーはもちろん、バルコニー席が付いた個室の観戦ボックスや要人向けのラウンジ、レストランなどを整備する。大会やイベントを開催していないときでも来場者が楽しめるように、商業や文化施設を備えた競技場を目指す。
 新競技場の施設だけでなく、JR千駄ヶ谷駅や東京メトロ外苑前駅といった周辺駅から歩行者が快適にアクセスする動線の確保や、周辺に再配置する公園や公開空地についての提案も求めるのが特徴である。
 まさに、“未来への遺産・レガシー”を追い求めた“夢”のようなコンセプトである。
 完成すれば、東京の新たな“ランドマーク”になると期待も集めた。

 しかし、問題は、その“実現性”をどこまでプロポーザルに求めたかである。事業費および工期についての考え方も提出することにしていたが、その内容はA4版1枚、または1000字以内と定められていたという。
 「1300億円」の巨大建設プロジェクトの国際コンペの募集要項としては、“破格”に簡略な扱いであったと思われる。
 “デザイン・コンクール”なので、提案者にはデザインの卓越性だけを求めて、“実現性”は厳格に求めず、審査する側が検証するという姿勢だったのだろうか。それならば審査する段階で“実現性”を精緻に検証しなければならない。




ザハ・ハディド アーキテクスの作品    出典 新国立競技場 国際デザインコンクール 最優勝賞

46作品が応募 最優秀作品はザハ・ハディド氏のデザイン
 国際デザイン・コンクールの募集は、2012年5月30日に開始、9月25日に締め切られた。このような大規模な建築物の国際デザイン・コンクールとしては“異例”の約4か月間という短期間だったが、世界中から46作品が集まった。
 1次審査では、作品の匿名性を確保した上で、日本人の8人の審査員がそれぞれ推薦した作品について審査し、11作品に絞り込んだ。
 2次審査では、ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャースの両氏も審査に加わり、10名の審査委員で投票を行い、上位作品について、「未来を示すデザイン性」、「技術的なチャレンジ」、「スポーツイベントの際の臨場感」、「施設建設の実現性」などの観点から詳細に議論を行った。
 その結果、Zaha Hdid Architecs、COX Architecture、SANAA(Seijima and Nishizawa and Associates)+Nikken Sekkeiの3つの作品に絞られた。
 3つの作品については、審査員の間で評価が分かれて、激しい議論が繰り広げられたという。そして再投票を実施したが、Zaha案とCOX案が同率で1位、決着がつかなかった。結局、審査委員長の安藤忠雄氏が最終的な判断を一任され、安藤氏はZaha案を選んだ。安藤忠雄氏は 「インパクトのあるデザインは、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致の後押しになる」と強くザハ・ハディド氏の案を押したという。
 最優勝賞にZaha Hdid Architecs、優勝賞にCOX Architecture、入選SANAA(Seijima and Nishizawa and Associates)+Nikken Sekkeiを、審査員員会の総意として決定した。
  2012年11月15日、Zaha Hdid Architecsの作品が、最終的に「日本が世界に発信する力」や「実現性を含めた総合力」が評価され、日本スポーツ振興センター(JSC)は正式に決定した。
一方、建設費について強い懸念を表明した審査委員もいた。
 しかし審査会では、経費の問題については、「掘り下げた議論をすることはなかった」とし、「経費はまあなんとかなるだろう」と空気が支配的だったという。
 「予算1300億円」は曖昧にされたのは間違いない。拙速、杜撰というそしりは免れないだろう。
新国立競技場のデザインは、2013年9月の2020年オリンピック開催地を決めるIOC総会までに決める必要に迫られていた。2020年東京オリンピック・パラリンピック招致競争で“勝利”を収める切り札の一つしようとしたのである。
 2013年1月にIOCに提出した東京五輪招致ファイルに記載する必要があった。




ザハ・ハディド作品を選んだ審査委員会の責任
 審査講評では、Zaha Hdid Architecsの作品は、「実現性を含めた総合力」が評価されたとしているので、実現性も議論されたに違いない。実現性には、建築工法、工期、そして「1300億円」の総工費という条件がクリヤーできるかどうかも含まれていなければならい。審査では、総工費に懸念を示す意見を表明する審査員もいたが、結局、「1300億円」はほとんど“議論”されず、無視されていたようである。2020東京五輪大会は今世紀を代表する国家プロジェクトだから、経費は気にしなくても何とかしてくれるだろうという甘えが審査委員会を支配したいたと思える。「1300億円」ではとうていできないことを知っていながら、夢だけを語れば良いと思ったのだろうか?
 審査に加わった10名の内、都倉俊一氏と河野一郎氏を除く8名は、超一流の建築専門家である。応募作品を審査すれば、総工費がおおまかに1000億程度なのか、2000億なのか、3000億なのか位の見当は簡単につけることはできたと思うのが自然だろう。
 安藤忠雄氏は、記者会見で「『1300億円でいけると思っていたか?』という質問ですが、それが条件でしたけど、私自身はそんなに大きなものを造ったことがないですからね。『(そんなに)要るんだな、すごいな』ということぐらいしか思っていなかった」と述べている。
 これでは建築について素人の筆者とまったく同じレベルである。安藤氏は「世界一流」の建築家、唖然である。「世界一流」の看板が泣いている。
 基本設計に入ってからの経費問題の迷走は、専ら、文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)にあるのはいうまでもない。しかし、安藤忠雄氏には、経費問題も耳に入っていたと思うのが自然だろう。これまで沈黙を守っていた責任は負うべきだと思う。




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破格に高額 新国立競技場「1550億円」

巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト

デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)

2015年7月20日
Copyright (C) 2015 IMSSR


*****************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
*****************************************
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新国立競技場 聖火台

2021年08月25日 13時11分53秒 | 新国立競技場
聖火台「夢の大橋」設置へ
新国立競技場内は開閉会式時のみ使用の仮設聖火台


東京オリンピック 開会式 異例の開会式に 小山田~賢吾氏(楽曲担当)辞任、小林賢太郎氏(演出チーフ)解任




2020 FAN PARK/2020 FAN ARENA 東京在住者に限り公開

2020 FAN PARK

出典 TOKYO2020

 競技体験や東京2020オフィシャルショップの他、アギトスのスペクタキュラーが設置され、東京2020大会の様々なコンテンツが楽しめるエリア。

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみが入場可能。
 来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示が必要。。
 また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供する。

■開催日程:
2021年8月24日 - 2021年9月5日
■アクセス:
東京臨海高速鉄道「東京テレポート駅」徒歩5分
■開催時間:
10時00分~20時00分

※新型コロナウィルス感染症拡大等により、時間が変更となる場合がある。
 新型コロナウィルス感染症拡大防止の一環として、2020 FAN PARKの入場は事前の来場登録が必要。

2020 FAN AREA

出典 TOKYO2020

 オリンピック・パラリンピックを同じ時期・同じエリアで体験できるエリアで、大会パートナーによるブースの他、競技体験、ミライトワ・ソメイティのスペクタキュラーなど、東京2020大会の様々なコンテンツを楽しむことができる。
新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみの入場とさせていただきます。
来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示をお願いする場合がございます。
また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供します。
開催日程:

 新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、県境をまたいだ移動を避ける必要がございますため、東京都在住の方のみが入場可能。
 来場当日は、住所確認が出来る「運転免許証」「保険証」「マイナンバーカード」「電気・ガス・水道などの公共料金領収証(現住所が記載された発行日から3カ月以内のもの)」などのご提示が必要。
 また、希望された小中学生とその保護者の方に優先的な体験機会を提供する。

■開催日程:
2021年8月24日 - 2021年9月5日
■アクセス:
東京臨海高速鉄道「東京テレポート駅」徒歩2分 青海展示場
■開催時間:
10時00分~20時00分

※新型コロナウィルス感染症拡大等により、時間が変更となる場合がある。
 新型コロナウィルス感染症拡大防止の一環として、2020 FAN PARKの入場は事前の来場登録が必要

来場登録サイト
https://fanpark-arena.tokyo2020.org/top.html


TOKYO WATERFRONT CITY 東京都オリンピック・パラリンピック準備局


聖火、「夢の大橋」の聖火台に点灯
 2020東京五輪大会の開会式から一夜明けて、国立競技場の開会式で大坂なおみが灯した聖火が、お台場エリアと有明エリアを結ぶ「夢の大橋」のたもとに設置された聖火台に移された。
 この聖火台は、国立競技場の聖火台とまったく同じデザインだが、大きさは直径1.2メートル、高さ90センチメートルの約3分の1のコンパクサイズ。
 開会式で使用された聖火台は、陸上競技などを開催するために撤収、閉会式の時に再び設営される。

 
 「夢の大橋」のプロムナード りんかい線「東京テレポート」駅から徒歩約10分 筆者撮影(以下同)

 
 見学に訪れる市民はまだまばら コロナ感染防止対策で柵で囲われ、遠巻きに見物
 
 

 
 燃料は水素ガス使用

 
 報道陣に取材を受ける都市ボランティア

 
 2020東京五輪大会の雰囲気を市民が楽しめるファンゾーンはほぼ完成しているがいまは公開中止。スポンサー企業の設営したパビリオンが立ち並ぶ。入場数制限など感染防止策を講じて、公開したらどうか。

 
 ENEOSのパビリオン

 
 VISAのパビリオン

 
 オメガのパビリオン

聖火台 観覧自粛呼びかけ 鉄の柵置いて立ち入りを制限
 7月15日、大会組織委員会は、大会期間中に臨海部に設置される聖火台の周辺への立ち入りを制限して、現地での観覧の自粛を呼びかけることを決定した。
 聖火台の周辺には鉄の柵を置き、立ち入り制限区域を設けられる。
 また、選手とハイタッチできる場所や競技体験ブース、五輪公式グッズショップ、スポンサー企業のパビリオンなど設置も中止になり、計画は大幅に見直される。
 パラリンピック期間中の扱いは、五輪閉幕後に決める

「TOKYO WATERFRONT CITY」 東京 2020 の取り組みの見直しについて
〜オリンピック期間中(7 月 12 日〜8 月 22 日)の実施取り止めおよび聖火台の観覧自粛〜
7月15日 TOKYO2020大会組織委員会


■ オフィシャルショップ、スポーツイニシエーションなどの実施を予定していた「2020 ファンパーク」および「2020 ファンアリーナ」については、実施を取り止める。それに伴い、2020 ファンパーク内に設置する「プレイグラウンド」でのアスリートトレーニングの公開やス
ポーツイニシエーションの実施も取り止める。
■ 夢の大橋に設置する「聖火台」については、緊急事態宣言下で不要不急の外出の自粛が呼びかけられていることを踏まえ、来場の自粛をお願いする。
■ 「オリンピックプロムナード」については、実施を予定していたライブパフォーマンスおよび飲食提供を取り止める。
■ 有明アーバンスポーツパーク内で実施を予定していた「アーバンフェスティバル」については、無観客での大会実施となるため、実施を取り止める。

深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「1万人上限」五者協議で決定 「開催中止」の大合唱 思考停止状態のメディアのお粗末 1都4県と北海道は「無観客」

東京五輪 メディア批判 盲目的に「中止」唱えるメディアのお粗末 根拠なしパンデミック・リスク 五輪開催すべき
「Withコロナの時代のニューノルマル」をレガシーに


朝日新聞社説批判 「中止の決断を」に反論する 五輪は開催すべき

東京オリンピック 尾身会長批判 五輪リスク 「ワクチン」「検査体制」「医療体制」一体何を提言したのか

東京に4回目の緊急事態宣言
 7月8日、政府は、新型コロナウイルス感染症対策本部(本部長・菅義偉首相)の会合を開き、東京都に4回目となる緊急事態宣言の発令を決めた。沖縄県への宣言と首都圏3県、大阪府への「まん延防止等重点措置」は延長する。期間はいずれも12日から8月22日まで。
 一方、北海道、愛知、京都、兵庫、福岡の5道府県に適用中の「重点措置」は7月11日をもって解除する。
 東京は感染再拡大が止まらず、7月7日には新規感染者920人に急増してパンデミック第五波が確実視され、五輪開催期間やお盆休みの対策強化が必要と判断した。菅首相は東京への宣言発令について「再度感染拡大を起こすことは絶対に避けなければならない。先手先手で予防的措置を講ずる」とし、「国民にさまざまな負担をかけることは、大変申し訳ない思いだ」と述べる一方、ワクチンの効果などを見極めた上で宣言を「前倒しで解除することも判断する」と述べた。
 菅首相は、東京五輪に関し「全人類の努力と英知で難局を乗り越えていけることを東京から発信したい」と強調。「安心安全な大会を成功させ、歴史に残る大会を実現したい」と表明した。
 「緊急事態宣言」対象の東京と沖縄では、飲食店に対して酒類提供停止と午後8時までの営業時間短縮を要請する。「重点措置」の区域でも酒類提供を原則停止とし、知事の判断で緩和できるようにする。首相は「(要請に応じる)飲食店に対しては協力金を事前に支払うことを可能とする」と語った。

1都3県、北海道、福島は「無観客」 宮城、福島、茨城(学校連携のみ)は「有観客」
 これを受けて、7月8日夜、大会組織委員会、東京都、国、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)は「五者協議」を開催し、「緊急事態宣言」が発出された東京都内の全会場の無観客開催にすることで合意した。また「緊急事態宣言」が発出されていない埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県や、茨城、宮城、福島、静岡、北海道の会場については、それそれの地域の感染状況を踏まえて、自治体の首長と協議の上、具体的阻止を決めることで合意した。「無観客」でもIOCなど大会関係者は運営に関わる人に人数を絞った上で入場を認める方針。
 「五者協議」に引き続き、東京都以外で競技会を開催する、埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県や茨城、宮城、福島、静岡、北海道も加わり、「関係自治体等連絡協議会」が開かれ、茨城、宮城、福島、静岡、北海道は、「収容定員の50%」か「上限1万人」の少ない方で、「有観客」で開催することに合意した。
 しかし、その後、合意内容は直ちに撤回され、埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県は「無観客」、茨木は「学校連携」のみとすると発表した。
 北海道は、札幌で開催されるサッカー予選の5セッションは「収容定員の50%」か「上限1万人」の少ない方で、有観客することで合意していたが、鈴木北海道知事は、記者会見で、試合終了が午後9時を過ぎる試合については引き続き検討するとし、首都圏の1都3県から観客が訪れないように大会組織委員会に求めたことを明らかにした。
 北海道は、翌7月9日、一転して、サッカー予選は「無観客」とする発表した。感染が拡大している首都圏などから来訪者で道外からの人流が増えることで、感染拡大の懸念に配慮した措置である。
 また、7月10日、福島あずま球場で開催されるソフトボール予選6試合(日本対豪州戦を含む)と野球予選1試合(日本対ドミニカ戦)はすべて「無観客」とすると発表した。
 野球・ソフトボールの福島開催は、東京2020大会の開催意義として掲げている「復興五輪」のシンボルとなっていただけに、関係者や地元市民の落胆は大きい。
 この結果、2020東京五輪大会では、42会場で750セッションが開催されるが、この内、「無観客」は37会場724セッション、96.5%にも及び、「有観客」は、茨城、宮城のサッカー予選と静岡の自転車競技の5会場26セッションとなった。
 大会組織委員会は、1年延期前には448万枚のチケットの販売を完了していたが、今回の措置で、ほとんどが払い戻しの対象となり、大会組織委員会のチケット収入約900億円は宙に浮くことなる。大会組織委員会の収入(V5)は、合計7210億円、約12.5%を占める。大会組織委員会の財政調整額は150億円を計上しているが、900億円の収入が消えれば、大幅な赤字転落は必至である。
 大会組織委員会が赤字になった場合は、一義的には東京都が負担、東京都が負担しきれない場合は、国が負担するという原則になっている。
 東京都と国で、「負の遺産」の押し付け合いが今後激化するだろう。
 
 1都3県、北海道、福島の無観客開催が決まり、パブリックビューイングも中止され、市民が唯一、五輪大会の雰囲気を体感できる場は、聖火台を中心に設置される臨海部のイベントエリア、「TOKYO WATERFRONT CITY」だけになった。

五輪・パラ 臨海部 飲食屋台取りやめ規模縮小へ コロナ対策で
 6月25日、東京2020大会中に聖火台が設置されるなど大会を象徴するエリアとして整備する東京臨海部の競技会場周辺について、大会組織委員会は、新型コロナウイルスの感染対策として飲食の屋台を取りやめるなど規模を縮小することを決めた。
 臨海部のお台場、青海、有明地区は、7つの競技会場や国際メディアセンター、五輪スポンサー企業の展示場などが集まっている。東京都ではこのエリアを「TOKYO WATERFRONT CITY」と名付け、観戦チケットを持たない市民に五輪大会の雰囲気を味わってもらう施設やイベント開催を計画している。
 このエリアの中心部には聖火台が置かれ、競技の体験などができるスポンサー企業パビリオンや選手の練習を見学できるスペースが設置されて、公式グッズの販売の大型店舗や、イートインスペースができる。
 組織委員会は、このエリアにどれだけの観客が集まるか、今回決まった上限や定員を元に試算したところ、1日最大8万人を超える観客が集まる可能性があることがわかった。さらに観戦チケットをもたない多くの一般市民が集まる可能性がある。
 こうした状況を踏まえ、新型コロナの感染対策の「人流」を抑制の方針の一環として、このエリアの規模縮小に踏み切った。

 具体的には飲食の屋台の取りやめや練習を見学できるスペースへの入場を予約制にして人数を抑えることなどを検討している。

 組織委員会の武藤事務総長は「このエリアにはオリンピックを通じて若者がスポーツに親しむという大事なコンセプトがあるが、コロナ対策の観点からにぎやかなお祭りという部分は少なくしていく。聖火台では密集が生じないよう適切な措置を検討している」(NHKニュース 6月24日)と述べた。

聖火台 臨海部のお台場エリアと有明エリアに架かる遊歩道の橋「夢の大橋」に設置
 2018年12月17日、大会組織員会、東京都、国は東京2020大会の調整会議を開き、大会期間中の聖火台を新国立競技場と臨海部のお台場エリアと有明エリアに架かる遊歩道の橋「夢の大橋」の有明側に設置する方針を決めた。スポーツクライミングやスケートボードなど若者向けの都市型スポーツ会場を集めた青海アーバンスポーツパークの一画に設置し、大勢の人が集まる「オリンピックパーク」的な位置付けでこのエリアを整備し、大会開催のシンボルにする計画だ。聖火をともす燃料に水素を採用することも検討するとしている。
 メインスタジアムとなる新国立競技場にも開閉会式で使う聖火台を設けるが、陸上など競技を実施する期間はスペースなどの問題で常設することが難しいため、他の場所に第2の聖火台を設ける方向で検討していた。
 新国立競技場を建設計画は、2012年、国際デザインコンクールが行われ、建築家ザハ・ハディド氏の巨大な流線型のユニークなデザインが採用された。東京2020大会組織委は、事前に聖火台の要件を政府や事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に伝えていたとしているが、JSCは、国際デザインコンクールを行う際に、聖火台は場外に置くことを想定していたとしていたとされている。そもそも開閉式屋根の構造物で覆われたスタジアムの仕様では、スタンドに高々と炎の燃え上がる聖火台に設置は不可能だろう。


完成した国立競技場 観客席は屋根で覆われている 提供 JSC

 ザハ・ハディド案は建設費が約3000億円にも達することが明らかになり、世論から激しい批判を浴びて、文科省とJSCは、規模を縮小した総工費2520億円の修正案を策定した。修正案では開閉式屋根は維持したが、建築面積を圧縮し、総工費を約2520億円とした。しかし、世論から激しい批判は収まらず、2015年、安倍首相の決断で白紙撤回され、出直すことになった。
 2015年秋、新デザインの公募が行われ、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームの「木と緑のスタジアム」に決定した。
 しかし、開会式や閉会式には必須である聖火台の設置が「木と緑のスタジアム」の設計には盛り込まれていなかった。新デザイン公募の募集要項に聖火台の設置についての記載はなかったのである。当初計画は2019 年ラグビーワールドカップまでに完成する前提だったので、聖火台は、東京2020大会のために必要な追加工事(オーバーレイ工事)として組織委員会が検討し、実施する方針だっとしている。
 JSCは、組織委から聞き取った要望の中に聖火台を競技場内に置くという話はなく設置は想定しなかったとしている。聖火台は開会式や閉会式のセレモニーの演出と一体の案件で、セレモニーの演出が決まってから検討する案件として、公募の仕様に盛り込まなかったという。
 「木と緑のスタジアム」を掲げる新国立競技場は、スタンドを覆う屋根に木材が使われる構造のためにスタンドの最上部に聖火台を設置すると、消防法上、問題となり、当初から聖火台の設置は不可能と見られていた。また、スタンドに熱を発する聖火台を設置するのは観客の酷暑対策上、問題があるとされていた。聖火台をスタンドに設置するのはありえなかったのである。
 新国立競技場の建設計画を巡っては、総工費圧縮が至上命題だった。総工費圧縮に集中するあまり、聖火台は忘れ去られていたのが実情であろう。なんともお粗末な新国立競技場整備計画であった。

 聖火台の設置問題が明るみになって、2015年9月、国や東京都、大会組織委員会で構成する「新国立競技場の聖火台に関する 検討ワーキング・チーム」が発足し、聖火台設置について協議を開始した。
 東京2020大会では、ロンドン大会やリオデジャネイロ大会では設置された「オリンピックパーク」がなく、大勢の人が集まるオリンピックパーク」的な拠点の整備が求められていた。そこで浮上したのは、臨海部に聖火台を設置して新たな拠点をつくる案である。

TOKYO WATERFRONT CITY 新しいオリンピック・パラリンピックの発信地を臨海部に整備
 大会組織委や東京都は、臨海部に若者に人気のあるスポーツを中心に競技エリアを整備し、潮風公園にはビーチバレー会場、お台場海浜公園ではマラソンスイミングとトライアアスロン会場を整備し、スポーツクライミングやバスケットボール(3対3)の競技会場となる青海アーバンスポーツパークや自転車競技(BMX)やスケートボードの競技会場となる有明アーバンスポーツパーク、体操や新体操の競技会場となる有明体操競技場を建設、有明テニスの森(既存施設)はテニス会場として施設を拡充、お台場、青海、有明地域一帯の臨海部を東京2020大会のシンボリックゾーンとして位置づけた。
 そしてのこの地域一帯、半径1.5キロメートルに、
▼聖火台を中心に展開されるオリンピック・プロムナード スポーツやアートのパーフォーマンスの開催 スポンサー企業のパビリオンや体験コーナー、休憩エリアを設置
▼アスリートによるエキシビションやBMX・スケートボードなどアーバンスポーツを中心とした競技体験コーナーを設置するアーバンフェスティバル、
▼3x3 バスケットボールやスポーツクライミングのアスリートが練習する姿を間近に見ることができる公開ウォームアッなどがあるプレイグラウンド、
▼スポンサー企業の展示ブースが設置される青海展示場
▼公式グッズの販売店や飲食店屋台
などの整備計画を進めた。
 聖火台はこのエリアの中心にあるお台場と有明をつなぐ遊歩道の橋、「夢の大橋」の有明側に設けて、大会開催を盛り上げる拠点にする戦略である。都市とスポーツを融合させた新たな試みとしてIOCからも期待を集め、組織委やIOCは“>TOKYO WATERFRONT CITY(TWFC)”と名付けた。
 競技場の入場券を持たない市民や観光客などが集まり五輪大会を実感できることが可能で、IBC/MPCが近いために世界のメディアが取材してテレビや新聞などで報道されて、東京2020大会のイメージアップにつながることが期待できるとしている。


TOKYO WATERFRONT CITY 東京都オリンピック・パラリンピック準備局

TOKYO WATERFRONT CITY
■OLYMPIC PROMENADE(オリンピックプロムナード)
 青海・台場地区と有明地区を東西につなぐ約2kmのセンタープロムナード一体を「オリンピックプロムナード」と名付け、大会期間中に訪れた全ての方が東京2020大会を楽しむことができるオープンな場所として展開。
 プロムナードの中心は聖火台、スポーツやアートのライブパフォーマンスや、パートナー企業の協力の下、快適に過ごしてもらうためのクールスポットや休憩スペースなどを整備する。近接する「2020 ファンパーク」や「2020 ファンアリーナ」と共に、東京2020大会の雰囲気を体験することができる。

「2020 FAN PARK」(ファンパーク)と「2020 FAN ARENA」(ファンアリーナ)
 青海地区に2カ所、東京2020大会パートナー企業が出展するパビリオン/ブースやスポーツ体験コーナー等で盛り上げるエリアを展開する。
 「2020 ファンパーク」は青海アーバンスポーツパークに隣接した屋外エリアで、「2020 ファンアリーナ」は東京テレポート駅に隣接した青海展示場内に設置される。また、この2カ所のエリアには「TOKYO 2020 メガストア」が出店され、五輪の公式ライセンス・グッズが販売される。

■PLAYGROUND(プレイグラウンド)
 今回、大会史上初の試みとして、観戦チケットを持っていない方でも世界トップレベルのアスリートと触れ合える機会を提供する。
 青海アーバンスポーツパークに隣接する「2020 ファンパーク」内に、青海アーバンスポーツパークで実施する3x3 バスケットボールとスポーツクライミングのアスリートが練習する姿を間近に見ることができる公開ウォームアップエリア「プレイグラウンド」を設置する。
 このエリアでは、練習風景を間近で観るだけでなく、練習するアスリートとハイタッチなど実際に触れ合うこともでき、競技がない日にはアスリートの練習場所であるウォームアップエリアで競技体験ができる。

■URBAN FESTIVAL(アーバンフェスティバル)
 東京2020大会新種目のBMXフリースタイル・スケートボードの会場となる有明アーバンスポーツパークと体操が行われる有明体操競技場の会場内の運河沿いで、アーバンスポーツの魅力を存分に体感いただける「アーバンフェスティバル」を展開する。
 「アーバンフェスティバル」では、アスリートによるエキシビションやBMX・スケートボード等のアーバンスポーツを中心とした競技体験コーナーも設置したりクールスポットなど来場者が快適に楽しめるコンテンツを実施したりする。

 大会終了後の「夢の大橋」の聖火台のレガシーについては、東京2020大会のレガシーとして残し、東京都が管理する計画である。 
 2台の聖火台の設置経費は、組織委員会、東京都、国の三者で負担することで今後関係者で協議するとしている。

 東京都は、コロナ感染防止対策の一環として、代々木公園や井之頭公園に設置を予定していたパブリックビューイングの設置を中止した。しかし、お台場から青海、有明地区に設置予定の聖火台と中心としたオリンピックプロムナード、プレイグラウンド、アーバンフェスティバルなどの「TOKYO WATERFRONT CITY」構想は予定通り進める計画だ。
 「TOKYO WATERFRONT CITY」は、2020東京五輪大会で、一般の市民が唯一、五輪開催の雰囲気を体験できるエリアになるため、人出が殺到して「密」になる懸念もあり、これからのコロナ感染防止対策も重要となる。


オリンピックプロムナード整備予定地


聖火が設置されるお台場と有明をつなぐ遊歩道の橋、「夢の大橋」


お台場海浜公園(トライアスロン会場 完成予想図) 出典 TOKYO2020


お台場海浜公園(トライアスロン水泳[スイム] READY STEADY TOKYO) 筆者撮影


青海アーバンスポーツパーク(スポーツクライミング READY STEADY TOKYO) 筆者撮影


青海アーバンスポーツセンター(バスケットボール3×3 READY STEADY TOKYO)筆者撮影


有明体操競技場 国技館を彷彿とさせる「和風」の外観 READY STEADY TOKYO 筆者撮影


有明アーバンスポーツパーク(自転車競技[BMX] フリースタイル会) 筆者撮影


東京ビックサイト青海展示棟 五輪スポンサー企業の展示場として使用 筆者撮影


東京国際フォーラム IBC/MPCを設置  提供 TOKYO2020


IMC CDR 出典 OBS




破格に高額 新国立競技場「1550億円」

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)




国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)


*****************************************
廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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新国立競技場 建設費 建設単価 坪単価 破格 高額

2021年05月28日 09時43分37秒 | 新国立競技場
破格に高額 新国立競技場「1550億円」


東京オリンピック 開会式 異例の開会式に 小山田~賢吾氏(楽曲担当)辞任、小林賢太郎氏(演出チーフ)解任


新国立競技場竣工
 迷走に迷走を重ねた新国立競技場が、全体工期36か月を経て、計画通りに11月30日に予定通り竣工した。
 新国立競技場の整備経費については、1590億円を上限として、賃金や物価変動が発生した場合のスライド、消費税10%の反映、設計変更に伴う修正などを行う契約で工事が開始されたが、最終的に21億円下回る1569億円となった。
 厳しいとされていた36カ月の工期は悠々達成し、工費も上限を下回ることで、日本の建築技術の高さが実証されてといっても良い。
 計画段階の唖然とした迷走ぶりに比べて、一転して見事な施工管理で完了した。
 問題は、五輪大会開催後の後利用の計画が未だに示されていないことである。
 計画では、今年中に後利用の計画を策定して大会後の改修工事の方向を決めて、指定管理者の選定を開始する予定だった。
 新国立競技場の後利用については、文科省が「大会後の運営管理に関する検討ワーキングチーム」を設立して、文部科学副大臣が座長となり、スポーツ庁、内閣官房、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京都で議論を重ね、2017年11月に「基本的な考え方」を取りまとめ、政府の関係閣僚会議(議長・鈴木俊一五輪担当相)で了承された。
 これによると、陸上トラックなどを撤去して、観客席を増設して国内最大規模の8万人が収容可能な球技専用スタジアム改修してサッカーやラグビーの大規模な大会を誘致するとともに、コンサートやイベントも開催して収益性を確保する。観客席は6万8千席から国内最大規模の8万席に増設し、改修後の供用開始は2022年を目指すとした。
 しかし、陸上競技関係者などから、陸上トラックを残して、新国立競技場を「陸上競技の聖地」として存続するべきだという声が強く出され、陸上トラックは残して陸上と球技の兼用にする方向で調整も進んでいることが明らかになった。
 新国立競技場の後利用の方向性が再び混迷を始めている。
 こうした中で、11月19日、萩生田光一文部科学相は、新国立競技場の後利用について、民営化の計画策定時期を大会後の2020年秋以降に先送りし、その後に公募を行うと明らかにした。今年半ばごろに計画を固める予定はあっさり放棄した。
 先送りした理由については、大会の保安上の理由で現時点では詳細な図面を開示できず、運営権取得に関心を持つ民間事業者側から採算性などを判断できないとの声が上がったためだと説明した。
 また萩生田氏は、焦点となっている陸上トラックの存続可否については「民間の方の意見を聞いた上で最終方向は決めるが、基本的には球技専用スタジアムに改修する方向性で継続して検討を続けていきたいと思っている」と述べた。
 一方、橋本聖子五輪相は後利用について「トラックを残すべきだという意見もあるというのは承知している。新国立にふさわしい運営をしていただけるような検討をお願いしたい」と語った。(11月19日 共同通信)
 新国立競技場の改修後の供用開始、2022年は大幅に遅れることは必至である。その間も、新国立競技場は、年間24億円の維持管理費が必要となるとされている。当面、所有者の日本スポーツ振興センター(JSC)は赤字を背負うことになる。
 陸上トラックを存続して「陸上競技の聖地」として出発しても、陸上トラックを撤去くしてサッカーなどの球技専用のスタジアムになるにしても、6万人収容の巨大スタジアムを維持するのは至難の業である。フランチャイズチームがないスタジアムの経営はなりたたないというのが常識である。
 「木と緑のスタジアム」、新国立競技場は、五輪のレガシーどころか大会後は赤字を背負ってのスタートとなるのは避けられない。
 負の遺産になる懸念は拭えない。


提供 日本スポーツ振興センター(JSC) 2019年11月撮影


竣工した国立競技場 「杜のスタジアム」 提供 JSC


筆者撮影 2019年12月15日
日本の伝統建築の技法、「軒庇」を取り入れる。縦格子には全国47都道府県の木材を使用


筆者撮影 2019年12月15日


筆者撮影 2019年12月15日
国産木材を使用した巨大屋根 観客席を覆う


筆者撮影 2019年12月15日
南北の3層に設置された大型スクリーン 南/9.7m×32.3m 北9.7m×36.2m フルHD画質


筆者撮影 2019年12月15日
五色に塗り分けられた観客席 木漏れ日を表現 約6万席(五輪大会開催時)


筆者撮影 2019年12月15日
9レーンの最新鋭の「高速トラック」
 大会組織委員会はイタリアのモンド社とソールサプライヤー契約を結び、陸上競技トラックなどの陸上競技の備品の独占的供給を受ける契約を結んだ。モンド社は11大会連続で陸上競技トラックの公式サプライヤーとなった。トラックは二層の合成ゴム製で、表層はノンチップエンボス仕上げ、下層はハニカム構造のエアクッション層となっている。


提供 JSC
 芝生は鳥取県の天然の砂丘の砂地で生産された「北条砂丘芝」を採用。2019年7月、暖地型芝草(バミューダグラス系)の「ティフトン」を敷き詰めて、秋には冬芝の種をまいて冬期間の芝生の緑も保つ。

聖火台「夢の大橋」設置へ 新国立競技場内は開閉会式時のみ使用の仮設聖火台



 2015年8月、“迷走”を繰り返した新国立競技場の建設計画は、安倍首相の最終決断で、ザハ・ハディド案を白紙撤回して、総工費「2520億円」を約「1000億円」削減して、「1550億円」とすることでようやく終息した。
 当初案で試算された「3000億円超」と比べると約半分、「2520億円」からは「1000億円」削減したとし、新国立競技場の建設費の削減は大きな成果を上げたと関係者は胸をはる。この削減額を聞いて、「見直しで大きな成果を上げたのでは」と感じる人も多いと思うが、これは“大いなる誤解”だ。
 「1550億円」は、スタジアムの建設費として本当に妥当な水準なのろうか、疑念は深まるばかりだ。

海外の五輪スタジアム建設費比較 断トツに高額「1550億円」
 「1550億円」でも、これまでに海外で建設されたオリンピック・スタジアムの建設費に比べて群を抜いて高額の建設経費だ。
 2000シドニー五輪では、収容人数11万人という五輪史上最大のオリンピック・スタジアムを建設した。総工費は「483億円」(6億9000万豪ドル)で、蝶々が羽を広げたようなデザインで注目を浴びた。大会後は、収容人数8万3500席に減築され、陸上トラックを取り外して球技専用スタジアムとなった。オーストラリアで最も人気のあるスポーツ、ラグビーのナショナルラグビーリーグ(オーストラリアとニュージーランド)の本拠地となり、”ラグビーの聖地”に衣替えをした。
またラグビーリーグの2チームをはじめ、サッカー、フットボール、クリケットなど12のプロチームのホームスタジアムになっている。

 2008北京五輪では、中国が五輪開催で世界に威信を誇示するためにオリンピックスタジアム、「北京国家体育場」を建設した。全長36キロ・総重量4万5000トンの膨大な鋼鉄を組み込んだユニークなデザインを採用し、「鳥の巣」(Big Nest)と呼ばれて世界から注目された。収容人数9万1000人で、総工費は35億元(約518億円)。
 大会後は、収容人数8万に減築し、マラソン、サッカー、馬術などのスポーツ競技会や自動車ショーなどイベント、コンサートなどで利用されている。大会開催直後は年間8万人の観光客でにぎわったが、その後は来場者も消えて閑古鳥が鳴くようになった。年間維持費は約3億元(約30億円)とされ、収支は赤字と思われる。
 * 為替レート 元=14.81円(2008年平均)
 2018年は年間26件のイベントが開催された。ユニークなのは冬期間はスノーパークとなり、スノボー・ビックエアの競技会も開催されている。しかし、8万人収容のスタジアムは、どんなイベントを開催するにしても巨大過ぎて、敬遠されているという。
 ビックイベントでは、2015年世界陸上競技大会の会場となり、2022北京冬季五輪の開会式・閉会式も開催される予定である。


北京国家体育場 鳥の巣 出典 COCOG

 2012ロンドン五輪では、イギリスのロンドン東部、オリンピック・パークの一角に、収容人数8万人のスタジアムを、4億2900万ポンド(約733億円)で建設した。大会後は、観客席を約5万4000席に減築する一方で、「格納式」可動席や全座席を覆う屋根を増築するなど改修工事を行い、その改修費は3億2300万ポンド(約493億円)に上った。 陸上トラックは残し、夏季期間は陸上競技、サッカーシーズンはサッカー場として利用することで、英プレミアムリーグのウェストハム・ユナイテッドのホームスタジアムとなった。しかし改修費が余りにも巨額になったことで、世論から激しい批判を浴びた。
 スタジアムの整備費は、建設費の4億2900万ポンド(約733億円)に改修費は3億2300万ポンド(約493億円)を加えると、総額は7億5200万ポンドという巨額の経費に膨れ上がった。
 * 為替レート £=152.70円(2013年平均)
 こうした事態を受けて、ロンドン市長は、スタジアムの運営スキームの徹底調査を指示し、このままでは年間2000万ポンド(約29億5000万円)の赤字が予想され、投資額の回収は不可能になるとして計画の見直しを表明した。
 ロンドンスタジアムでは、2015年にはラグビーW杯が開催され、2017年には世界陸上大会を開催し、陸上競技場としても利用された。また2019年には米大リーグ、MLBのヤンキース対レッドソックス戦を開催し話題になった。


ロンドン五輪スタジアム 出典 LOCOG

 2016リオデジャネイロ五輪は、2度に渡ってサッカーW杯のブラジル大会の決勝戦が行われた“サッカーの聖地”、マラカナン・スタジアムを、13億レアル(約585億6000万円)かけて、収容人数約9万人のオリンピック・スタジアムに改修して、開会式、閉会式、サッカーと開催するオリンピック・スタジアムとして使用した。
 マラカナン・スタジアムの所有者はリオデジャネイロ州、州はスタジアムを管理する民間の会社を公募し、ブラジルの大手建設会社、オデブレヒト社が率いる「コンソルシオ・マラカナン 」が約1億8,000万レアル(約81億7000万円)で2013年5月より35年間の運営権を獲得した。
 リオデジャネイロ州は、リオ五輪開催を前提にして、2014FIFAワールドカップ開催に合わせて、約13億レアル(約585億6000万円)をかけて収容人数9万人のスタジアムに全面改修を行った。
 2016年3月からは、コンソルシオは、リオ五輪大会2016開催のためにコンソルシオは大会組織委員会へスタジアムを貸与した。しかし、大会終了後、大会組織委員会がコンソルシオにスタジアムを返還したところ、五輪大会のために改修された部分が元通りになっておらず、「契約違反」としてコンソルシオ側は受け取りを拒否した。組織委員会は約2億レアル(約72億円)の負債を抱えており、スタジアムの改修費用を捻出できなかったのが原因とされている。この結果、管理者不在の状況に陥り、ピッチの芝は枯れて茶色になり、不法侵入者によってスタンドの座席が約7,000席壊されたり、事務所の備品などが盗まれるなどの問題が起きて、スタジアムは荒廃した。また、コンソルシオも、過去3年足らずの間に多額の損失を計上しており、スタジアムの運営権を他の会社に譲渡するこになった。2017年5月、フランスのコングロマリット、ラガルデール(Lagardère)が約5億レアル(約175億8000万円)で運営権を取得して、緊急課題としてエネルギー関連の改修工事を1500万レアル(約5億2000万円)投入して行うとした。


Maracanã Stadium 出典 リオデジャネイロ五輪招致ファイル


筆者作成 出典 海外スタジアムの事例 JSC(2017年)等各種資料を参照

 国内で建設されたスタジアムの建設費に比べても飛びぬけて高額だ。国内で最大のスタジアム、日産スタジアム(横浜スタジアム)は、1997年に完成したが、収容人数は7万2327人で、総工費は「603億円」、資材費や労務費などの物価上昇率を加味しても、新国立競技場の「2.5倍」の建設費は余りにも異常である。現在の物価水準でも、新国立競技場は「1000億円」程度が妥当な水準と指摘する建設専門家も多い。
 はたして、本当に「1550億円」のスタジアムは必要なのだろうか。
 さらに、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”経費が浮上したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。
 総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか、不安材料は依然として残り、国民の批判が収まるかどうか不透明である。

 とにかく、「1550億円」のオリンピック・スタジアムは破格の高額スタジアムなのは明らかである。“世界一コンパクトな大会”を掲げた2020東京五輪の精神は何処へいったのだろうか。



建設単価 飛びぬけて高額 新国立競技場
 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは“大間違い”である。
 大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るのが常識である。
 新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
 新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」(3.3平方メートル)を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
 現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさいたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
 新国立競技場は、可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止めて電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
 建設費の高騰の理由として、労務費や建設資材費の値上がりを挙げるが、国土交通省が公表している建設工事費の指標となる「建設工事デフレーター」によれば、2015年度(平成27年度)を100として、2019年度(平成31年度)は、109.6となっている。東日本大震災の復興需要が発生して建設工事費が値上がりする前の2000年度頃と比較しても、値上がりは約20%程度と見ることができる。なぜ倍近くに高騰したのか、建設工事費の値上がりでは説明がつかない。
 一体、どんなコスト管理を行ったのだろうか?
 「1550億円」やはっぱり納得できない。


迷走! ロンドン五輪スタジアム 改修費暴騰480億円! サッカー専用か?陸上競技場か?



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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)

巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト

デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?

審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏



深層情報 Media Close-up Report 「呪われた」2020東京五輪 速報 「緊急事態宣言」下でも五輪開催 コーツIOC副会長

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2018年5月19日
Copyright (C) 2018 IMSSR


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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
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新国立競技場 会計検査院 JSC 破産寸前 暗雲  

2018年11月09日 06時39分40秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7)
新国立競技場の行方に暗雲
破産寸前日本スポーツ振興センター(JSC)



出典 新国立整備スケジュール 2018年10月12日 JCS


筆者撮影  2018年10月31日


出典 新国立整備スケジュール 2018年9月18日 JCS


出典 新国立整備スケジュール 2018年9月18日 JCS



JSC 794億円の資金不足に 五輪大会開催後の改修計画に見通し立たず
 新国立競技場は、2019年11月末の完成に向けて、順調に工事が進み、2017年度中に地上躯体工事が完了し、現在は屋根工事、内装仕上工事等に着手している。
 新国立競技場の整備は日本スポーツ振興センター(JSC)が実施しているが、スタジアム本体の工事だけではなく、周辺整備や設計・監理に加えて、旧競技場の解体工事、埋蔵文化財調査、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転、新国立競技場の通信・セキュリティ関連機器や什器の整備など幅広い業務を担う。JSCは2013年度から2017年度までの支払額はすでに計738億余円に達した。五輪大会開催後の改修計画は頓挫寸前である。
 
 2016年7月、安倍首相が旧整備計画の白紙撤回とゼロベースでの見直しが指示し、JSCはすでに締結結していた旧整備計画での設計、工事、監理等に係る21契約のうち、白紙化以前に履行を完了していた13契約を除く8契約の契約を解除した。
 この結果、白紙化以前に完了していた支払額が約29億3988万余円(13契約)、契約解除の精算が約34億9416万円(8契約)、契約解除の伴う損害賠償が約4億2526万円(3件)、合わせて約68億5930万円が、白紙撤回でまったく「無駄遣い」となった。

 新たな建設計画を策定するにあたって、国、東京都、JSCは、これまで曖昧だった新国立競技場の総経費の分担を定めた。
 まず総経費の対象を、スタジアム本体・周辺整備工事や設計・監理費、1590億円と旧競技場の解体工事費55億円の合計1645億円とした。
 1645億円から、JSCが行う上下水道工事費27億円や東京都が負担する道路上空連結デッキ整備費37億円を除き、1581億円を3者の分担対象経費とした。
 1581億円の内、国はその2分の1の791億円を負担し、東京都は4分の1の395億円を負担、残りの395億円については、JSCが所管するスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てるとした。
 395億円を負担するためにJSCは、totoの売り上げから特定業務勘定(新国立競技場の建設費勘定)に繰り入れる上限を、売り上げの5%から10%に引き上げ、その一方で、totoの収益から国に納付する国庫納付金の割合を3分の1から4分の1に減らすという救済措置が与えられた。
 国の負担額791億円のうち、359億円は、これまでに国JSCに拠出した国の運営費交付金や政府出資金で、JSCは特定業務勘定に入れて積み立てていた資金を充当する。残りの432億円は、totoの収益から国に納付する国庫納付金の割合を3分の1から4分の1に減らすというJSCに対する救済措置に伴う国の負担金だ。
 新国立競技場整備の財源は、スポーツ振興くじの売り上げの一部、395億円とJSCへの救済措置分、432億円を合わせて827億円をスポーツ振興くじに頼るという結果となり、新国立競技場の総経費の半分以上が、スポーツ振興くじ、「toto頼み」ということになった。




出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院
  
 東京都の負担見込額395億円については、29年度末時点では協定書等は締結されておらず、東京都からの支払も行われていない。JSC法によれば、費用の額及び負担の方法はJSCと東京都が協議して定めることとしており、支払等の期限は定められていない。JSCや東京都によると、今後JSC法に基づいて協議を進めて支払われるとしているが、29年度末時点ではJSCへの入金時期や入金方法等は未定となっている。
 また、JSCは2017年度に五輪特定業務勘定から国立代々木競技場の耐震改修等工事に必要な費用として約7296万円、ナショナルトレニンセンター(NTC)の拡充整備のための用地取得等に係る費用として46億余円を支出している。
 JSCは、こうした支出で、29年度中に資金が不足したことから、スポーツ振興くじ勘定から五輪特定勘定へ50億1000万円の資金を融通した。そして2017年度の決算に当たり五輪特定勘定からスポーツ振興くじ勘定へ「返済」するために民間金融機関から同額の融資を受けた。

 JSCによると、新国立競技場の五輪特定勘定の収入は2020年度までは毎年、110億円程度の収入がある。また2019年度には東京都から分担経費負担額と道路上空連結デッキの整備費用の残額の約431億円が支払わられるとしている。
 一方、第Ⅱ期業務では、Wi-Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器整備を約27億2715万円で整備したり、国立代々木競技場の耐震改修等工事を実施したりして、支出が膨れ上がり、その結果2018年、2019年の2年度で794億円の資金不足に陥ることが見込まれている。
 JSCは、スポーツ振興くじ勘定などからの資金の融通はこれ以上不可能なことから、2018年4月に311億円を民間金融機関から長期借入金として借り入れた。
 311億円については2023年度までに返済する計画だが、今後借り入れる予定の400億円以上の借入金の返済については、返済が始まる2024年度以降はスポーツ振興くじからのJSCの収入が売上金額の10%から5%に戻され、収入が減少するので、返済期間は長期にわたり、難航することは必至である。
 この収支の見通しはまだ不確定で、想定どおり毎年度110億円程度の収入があるかもまったく不明である。また、東京都からの支払が想定どおり2019年度中に行われるかはまだ未確定だ。JSCの財務状況は、新国立競技場の重い負担で「破産寸前」である。
 こうした状況の中で、巨額の経費が必要とされる2020東京大会開催後の「球技専用」スタジアムへの改修工事計画は頓挫寸前に陥った。
 

出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院


 JSCは、大会終了後に国際サッカー連盟ワールドカップが開催可能にするために、陸上競技用のトラック9レーンを取り外したスペースやスタンドの上部に観客席を増設し、約8万席のスタジアムにして、サッカーやラグビー競技開催することで、観客が「臨場感」溢れた観戦が可能な球技専用スタジアムに改修する計画を打ち出している。また民間事業者へ管理運営業務を委託するコンセッション方式を導入し、民間事業者ノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置などホスピタリティ機能を充実する方針も打ち出している。大会終了後にすみやかに改修を行い、34年後半以降の供用開始を目指すことなどとなっている、 しかし、29年度末時点では財源や工事の内容、スケジュールについては何も決まっていない。国も改修計画の方針は決めたが、肝心の経費はどのくらいかかるのか、財源をどうするのかを明らかにしていない。
 新国立競技場を球技専用の新たなスタジアムに改装するためにはまた巨額の資金が必要となる。一体誰が負担するのだろうか。そもそもその巨額な投資額の採算は合うのだろうか、疑念は深い。現状でも「赤字」は毎年、約24億円だ。
 

出典「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院


 また新国立競技場の運営管理方式として、2019年中ごろを目途に民間企業に運営権を売却する「コンセッション方式」(公共施設民間委託方式)のスキームを策定し、公募を行い、2020年秋頃を目途に優先交渉権者を選定することしてしている。
 しかし、優先交渉権者の公募に際しては、新国立競技場の図面等を示した募集要項等を公表して民間事業者を募る必要があるが、セキュリティ面の問題から資料の公表は大会終了後の2020年10月頃まではできないというネックがある。
 2020年秋頃の優先交渉権者選定は絶望的だ。
 そもそも新国立競技場の運営を請け負う民間事業者がいるかどうか、疑問が大きい。

 さらに新国立競技場の完成後は維持管理費(点検・清掃費用等の保全コストやエネルギー費用の運用コスト、長期修繕費)、毎年約24億円が必要とされ、民間委託が開始するまでの期間は所有者であるJSCが毎年24億円の赤字負担をしなければならない。
 JSCはこの赤字に持ちこたえることができるのだろうか?






(参考資料 「東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果についての報告書」 会計検査院) 



新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)

東京五輪開催経費「3兆円超」へ 国が8011千億円支出 組織委公表の倍以上に膨張 会計検査院指摘
「1725億円」は五輪開催経費隠し 検証・国の会計検査院への反論 青天井体質に歯止めがかからない






2018年10月23日
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廣谷  徹
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新国立競技場 白紙撤回 1550億円 屋根建設中止 破綻 多機能スタジアム 

2018年05月21日 16時11分51秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2)
総工費「1550億円」 白紙撤回ザハ・ハディド案 破綻した“多機能スタジアム”
疑問山積 新国立競技場見直し “混迷”はまだ続く





新国立競技場の総工費「1550億円」


 「2520億円」の見直し整備計画も、世論の激しい批判を浴びて、ついに白紙撤回に追い込まれた。 
 “迷走”と“混乱”を重ねた上で、ついにザハ・ハディド案は撤回され、新国立競技場の整備計画は振り出しに戻った。

 2015年8月28日、政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。
▽総工費の上限は、「2520億円」に、これまで別枠にしていた工事費の未公表分「131億円」を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」(本体1350億円、周辺整備200億円)とする。
▽未公表分「131億円」は、芝育成システム(16億円)、連絡デッキ(37億円)、インフラ施設移設(18億円)などや組織員会新規要望(50億円) 
▽設計・監理費用は40億円以下(「2520億円」の旧計画では98億円)で、「1550億円」には含めない。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万4500平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする。
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする。 2020年1月末を目標とした技術提案を求める。
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
 ▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。


「1000億円」の削減にこだわった安倍首相
 “迷走”を続けた新国立競技場の建設費問題で、世論の激しい批判を収めるには建設費の大幅な削減が必須だった。安倍政権が重視したのは、建設費の「1千億円」を超える削減幅だった。
 新国立競技場整備の責任者を下村博文文部科学相から、遠藤利明五輪担当相へと責任者を交代させ、新たに設けた再検討推進室に予算査定に慣れた財務省や大型公共事業にノウハウのある国土交通省の出身者を集めた。
 まず、最後までこだわっていた可動式屋根の設置は完全にあきらめて、「700億円超」という巨額の建設費が必要で批判を浴びていた長さ400メートル、重さ1万トンの2本の「キールアーチ」の建設を止めた。屋根は観客席上部の固定式屋根のみとなった。これで、屋根の経費は「950億円」から75%削減し「238億円」とし、「700億円超」を削減するなどで、総額「1600億円台」が視野に入った。
 観客席の上部の固定式の屋根は、安価な「幕」製にするとした。
 さらに、述べ床面積を、豪華で広大な広さで批判に強かったVIP専用席やVIPエリアを縮小したり、スポーツ博物館や図書館、屋外展望通路をとり止めたりして前の計画から13%削減した。
 最終段階で、遠藤氏が官邸を訪れた際、資料に記載されていた建設費は「1640億円」と伝えられていたとされている。この案では客席の下から冷風が吹き出す冷房設置の設置が含まれていた。冷房装置は真夏に開催するオリンピックの観客サービスとして、関係者が最後まで設置にこだわった設備である。これを外せば、さらに「100億円」の削減が見込めた。
 「暑さ対策なら『かち割り氷』だってある」。首相は夏の甲子園名物を挙げ、遠藤氏に冷房施設の断念を指示。「首相主導の政治決着」を演出し、1500億円台の「大台」を達成したとされている。
 安倍首相は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を取り戻す作戦であった。

 しかし、「1550億円」でも、これまでに海外で建設されたオリンピック・スタジアムの建設費に比べて破格に高額である。
 2000シドニー五輪では、収容人数11万人という五輪史上最大のオリンピック・スタジアムを建設したが、総工費は「483億円」(6億9000万豪ドル)、2008北京五輪では、ユニークなデザインで話題を呼んだ「鳥の巣」は、収容人数9万1000人で、「540億円」(4億2300万ドル)2012ロンドン五輪では、収容人数8万人のスタジアムで、「827億円」(4億8000万ポンド)で整備された。
 (当時の為替レートで換算 ロンドン五輪のみ2015年6月の為替レートで換算  出典 毎日新聞 2015年6月25日)
 国内で建設されたスタジアムの建設費に比べても飛びぬけて高額だ。国内で最大のスタジアム、日産スタジアム(横浜スタジアム)は、1997年に完成したが、収容人数は7万2327人で、総工費は「603億円」、資材費や労務費などの物価上昇率を加味しても、新国立競技場の「2.5倍」の建設費は余りにも異常である。現在の物価水準でも、新国立競技場は「1000億円」程度が妥当な水準と指摘する建設専門家も多い。
 はたして、本当に「1550億円」のスタジアムは必要なのだろうか。
 また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から抜け落ちた経費が浮上したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。
 総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか、不安材料は依然として残り、国民の批判が収まるかどうか不透明である。

飛びぬけて高額の建設単価 新国立競技場「1550億円」
 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは大間違いである。
 大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るとというのが常識である。
 新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
 新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
 現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさんたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
 可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止め、電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
 一体、どんなコスト管理をしたのだろうか?
 「1550億円」やはっぱり納得できない。



再検討に当たっての基本的考え方(案) 再検討のための関係閣僚会議(2015年8月14日)

 新国立競技場は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボルとして、開会式、閉会式、陸上競技、サッカーの競技会場となると共に、2019年に開催されるワールドカップサッカーの競技会場とすることで計画された。またFIFAワールドカップの誘致も視野に入れている。
 さらに、東京の新たな“文化の拠点”にしようと、イベントのコンサートも開催でできるようにする“多機能スタジアム”を目指し、東京五輪開催の“レガシー”(未来への遺産)として次世代に残す目論見だった。
 “多機能スタジアム”は、素晴らしい構想ではあるが、“多機能”を実現しようとすると建設計画への要求水準がとにかく膨れ上がるを忘れてはならない。

2015年8月2日、総額305億円にのぼる茨城県つくば市の総合運動公園計画の賛否を問う住民投票が行われた。開票結果は反対が63,482票(80.88%)、賛成が15,101票(19.2%)、反対派が圧倒、80%を占めた。市原健一市長は白紙撤回も検討する考えを表明した。
 総合運動公園計画は、つくば駅の北8キロの45・6ヘクタールに1万5千席の陸上競技場や体育館といった11スポーツ施設などを今年度から10年間かけて整備するという計画である。
 反対派は、「この事業を進めた場合、用地購入費、建設費、施設管理運営費などの支出によって、将来の財政を圧迫し、高齢者対策、子育て支援、生活環境整備、産業振興など、本来必要な事業が困難になる可能性があります」と訴えた。

 1964年東京オリンピックの時代とは明らかに激変している。住民の意識も一変しているだろう。2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備には、その変化を敏感にくみ取る感性が求められている。
 “白紙撤回”され“仕切り直し”された新国立競技場の建設計画、果たして国民の支持は得られるだろうか? 2020東京大会関係者の“時代感覚”がまさに問われている。


(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

まだまだ残されている新国立競技場の問題点
▽ 観客席の“冷房システム”は必須!
 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”の設置は取りやめられた。「1000億円超」の削減を実現するために、整備費「100億円」とされている“冷房システム”は、最終調整で落とされた。 
 しかし、“冷房システム”は経費節約の対象とする設備ではなく、優先順位の高い設備だろう。 真夏開催の競技大会の場合、選手や観客の熱中症対策が必須である。
 酷暑対策の“ホスピタリティ”は、“冷房システム”だ。
 「開会式」やサッカーなどは、夜間に開催するから不要というのは余りにも“ホスピタリティ”重視の姿勢を欠いていると言わざるを得ない。東京の真夏は、「熱帯夜」が続く。
 安倍首相は「冷却効果が少ないなら、別な形にしてもいい。『かち割り氷』もある」と発言したとされているが、「世界で最高のホスピタリティ」を目指すスタジアムという理念はどこへ行ったのか?
 新国立競技場は50年後、100年後を見据えた「レガシー」(未来への遺産)を目指したのでないか?

▽ 天然芝は維持管理システムが重要!
 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
 天然芝の大敵、夏場の高温多湿から芝生を保護するためや、ピッチ上部の可動式“屋根”は設置しなくても観客席の屋根は設置するので日照時間は制約されるので、“芝生育成補助システム”は、必須である。荒れた芝生のピッチは、“スポーツの聖地”に相応しくない。
 「1550億円」の建設計画では、十分な“芝生育成補助システム”が含まれているのだろうか?

▽ “ホスピタリティ施設”の削減は充分か?
 建設経費増の原因となっている広大なエリアを占める「世界水準のホスピタリティ施設」を謳っているVIP専用席、プレアム席やラウンジはどうなっているか。各国のVIPが勢揃いするのは、五輪大会位なもので、通常の大会では、広大なVIP施設は不要だ。
 「世界水準のホスピタリティ施設」を謳うなら、観客席の“冷房システム”の方がはるかに重要だろう。

▽ 未解決 陸上競技場に必須のサブトラック
 世界選手権などの国際的大会や、日本選手権などが開催できる最上位クラスの『第一種』陸上競技場は、は補助競技場(サブトラック)に『全天候舗装』400メートル『第3種』公認競技場が必要』と定められている。しかも『第3種相当』の競技場には400メートルトラックが8レーンが必要だ。この補助競技場がなければ、『第一種』と認められず、主要大会を開催できない。
 旧国立競技場も、併設のサブトラックはなかったが、隣接の東京体育館の付属陸上競技場(1周200メートルが5レーン)と、代々木公園陸上競技場(1周400メートルが8レーン・第三種公認)を事実上のサブトラックとすることで、「第一種」として認定されていた。
 現在「第一種競技場」として認められている「味の素スタジアム」には「西競技場」が、「日産スタジアム」には「日産小机フィールド」が補助競技場として整備されている。補助競技場は、サブトラックとして使用されるだけでなく、単独で陸上競技としても利用されている。
 新国立競技場の整備計画では、当初は、神宮第二球場に常設するとの案があったが、スペースが足りないということでこの計画は立ち消えになり、神宮外苑の軟式野球場に設けることに決まった。しかし、この土地を所有する明治神宮が常設に反対したため仮設として整備し、大会後は取り壊すことで折り合った。
 五輪開催後の新国立競技場のサブトラックどうするのか未だに目途が立っていない。 新国立競技場で国際競技会や公式競技会の開催を目指すならサブトラックの整備は必須となる。
 またサブトラックの整備経費は、当初は「38億円程度」としていたが、当初の見積もりの甘さや旧計画が白紙撤回されたことや建設費の高騰が原因で、仮設で整備しても「100億円」に上るといわれている。恒久施設として整備すれば建設費は「100億円超」は必至である。さらに用地の確保の目途もまったくない。
 五輪開催後にサブトラックが設置できなないのなら、公式の国際競技大会や日本選手権の開催が不可能となり、9レーンの国際標準のトラックなど陸上競技場としての設備は“無用の長物”となる。
 そもそも、新国立競技場を「陸上競技の聖地」とするのは、現状では、不可能なのである。なんともお粗末な整備計画である。 

▽「五輪便乗」 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビルの無駄遣い
 2015年8月10日、参議院予算員会で、新国立競技場の建設問題が取り上げられ、民主党は“白紙撤回”されたにもかかわらず、現在も進められている関連工事の総額が約320億円あるとして、政府を追及した。この中で、問題視したのが、「JSC本部棟・日本青年館新営設計・工事・管理等」業務である。
 政府内で、密かに新国立競技場の建設計画の“白紙撤回”に向けて検討が進められている最中、6月30日に、この建設工事で「165億円」契約が、文科省とJSCで交わされた。「165億円」の内、「47億円」はJSCが負担するが、その財源は、税金とtotoでまかなうとしている。
 計画では、現在の日本青年館の南側にある西テニス場の敷地約6800㎡に、地上16階地下2階、延べ床面積約3万2000平方メートルのビル、「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を新築し、JSC本部の事務機能や日本青年館の宿泊施設・ホールなどの機能を集約した施設を整備する。JSCは、この内、4フロア、6000平方メートル、これまでの1・4倍の面積を使用して、本部機能を移転する計画である。
 2015年6月14日、競争入札で、安藤ハザマが落札、落札額は152億5000万円(予定価格は164億9626万円)だった。
 「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」建設は、文科省の新国立競技場整備に関する「予算の上限」をJSCに示した時にすでに「174億円」(内JSC本部関連は28億円)を入れ込んでいる。 膨れ上がる新国立競技場の建設費を“抑制”するために「232億円」は別枠にしたのであろう。
 それにしても「152億5000万円」使って。「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を建設する必要があるかどうか、しっかり検証したのだろうか。 神宮外苑に、新たに1240席の大ホール、客室数約220室のホテルを、税金を投入して建設する必要があるのだろうか? 
 日本青年館は、全国の青年団活動の拠点にするため、「1人1円」の建設資金募金活動を繰り広げ、 大正14年9月に総工費162万円をかけて地上4階地下1階建ての旧日本青年館が完成した。
昭和54年2月には、青年団募金5億円が集められ、政府、経済界、各界の支援を受けて総工費54億円をかけて地上9階地下3階建ての現在の日本青年館が完成した。そして約30年、首都圏には、ホテルやホールの施設は十分に整っている。“時代”は変わっているのである。「五輪便乗」と批判されても止む得ないのではない。新国立競技場の建設計画は白紙撤回して見直したが、「16階建ての高層ビル」は見直しをしなかった。


(新日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟完成予想図 出典 日本青年館ホームページ)


▽ 財源問題深刻 誰が負担する「1550億円」
 旧整備計画では、新国立競技場の建設財源を国、都、スポーツ振興くじtotoなどでまかなう方針だった。
 しかし、2015年5月、下村五輪相が舛添要一都知事に都側の負担分として「500億円」の拠出を要請したが、舛添氏は、「1550億円」の情報開示不足などを理由にが難色を示し、宙に浮いたままとなっている。政府は9月上旬、財源を検討する国と都によるワーキングチーム(WT)を発足。年内に結論を出す方向だが、具体的な議論は始まったばかりで、合意には難航が予想される。
 下村文科相は、新国立競技場のネーミングライツ(命名権)を売却して、約200億円の収入を上げるという目論見を明らかにしたが、ネーミングライツ(命名権)で得られる収入は、味の素スタジアム(調布)で約2億円(年)、日産スタジアム(横浜)で約1億5000万円(年)とされている。
 一体、「200億円」という数字はどこから出てきたのだろうか?

▽ 五輪開催後、新国立競技場を何に使用するのか?
 五輪開催後、新国立競技場は主としてどんな競技を開催する目論見なのか?
 ポイントは、陸上競技場として残すかである。五輪開催後も陸上競技場として機能させて成算があるとのだろうか? 横浜市の「日産スタジアム」、調布市の「味の素スタジアム」、また駒沢オリンピック総合運動場で陸上競技の開催は十分可能だろう。そもそも陸上競技では「6万8000人」のスタジアムは大きすぎて、観客が集められない。
 集客力のあるサッカーを中心にラグビーなどの球技場専用を目指すのがまだ現実的だろう。球技専用にするなら、観客サービスを充実させるために、陸上競技用の9レーンのトラックは取り払い、「ピッチサイド席」を設置するのが適当だろう。 サッカーやラグビーには、9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。さらにサッカーでも「6万8000人」を集客するのはかなりハードルが高い。
 最大の問題は、年間365日の内、スポーツ競技大会で利用されるのはわずか36日、イベント利用で最大12日程度の利用を想定し、残りの300日以上の利用計画が立たないことである。子供スポーツ教室や市民スポーツでの利用を促進するとしているが、「6万8000人」の観客席を備えた巨大スタジアムは子供スポーツ教室や市民スポーツにはまったく不用だろう。
 一体何にこの巨大なスタジアムを使うのだろうか。

▽ 新国立競技場は五輪大会終了後の利用計画を前提にして整備計画策定を
 「6万人」規模の巨大スタジアムの維持は、五輪開催後は絶望的だろう。観客席の縮小や競技場の設備の再整理など改築前提にして、整備計画を策定する方が現実的なのではないか。そのためには、五輪開催後、数十年に渡って、新国立競技場をどう維持していくのか、デッサンを描かなればならない。
 「1550億円」の建設計画で、新国立競技場の“五輪後”の姿は明確に視野に入れているのだろうか。





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“陸上競技”では巨大スタジアムは維持できない
 2020年東京オリンピック・パラリンピックでは開会式、閉会式、サッカーの決勝トーナメントを行うので8万人規模は必要となるだろう。またFIFAワールドカップのメイン会場にするためには“8万人規模”が必須となる。
 しかし、FIFAワールドカップの招致は、これからで何も決まっていない。
 五輪開催後の新国立競技場の利用をどうするかを考えなければならない。巨大な陸上競技場を建設しても、8万人規模の集客が期待できる競技会はないだろう。世界陸上のような大規模な国際大会でも8万人はおろか5万人の集客すら難しく、そもそも招致が実現するかどうかまったく分からない。毎年開催される日本陸上選手権のような国内大会では、わずか1.5万人程度(1日)というのが常識である。8万人のスタジアムは、完全にオーバースペックだ。陸上競技場としてはとても維持できないのは明らかである。
 また、首都圏には、横浜市に日産スタジアム(収容能力:7万2327人)や味の素スタジアム(収容能力:4万9970万人)がすでに整備されている。しかも、公式陸上競技大会には必須のサブトラックを2つのスタジアムとも併設している。新国立競技場ではサブトラックは東京五輪開催時には、仮設で対応し、その後は設置する予定はない。収容能力は8万人と陸上競技場としての規模は日本で最大だが、機能の面では“欠陥”陸上競技場なのである。
 東京五輪を契機に建設するのはいいが、そもそも大規模な陸上競技大会は開催回数が少なく、しかも最近は全日本陸上競技大会など国内の大規模な競技会は地方の陸上競技場で“持ち回り”で開催されている。日本各地にしっかりした陸上競技場が次々に整備されたことが背景にある。
 陸上競技だけでみれば、新国立競技場は“閑古鳥”が鳴くのは必至であろう。

ラグビーは観客動員が期待できない
 2019年開催のラグビー・ワールドカップは、日本が活躍すると観客動員数は期待できるだろう。8万人のスタジアムは満員近くなるかもしれない。
 しかし、新国立競技場の完成は、2019年ラグビー・ワールドカップ“終了後”の2020年4月末で、ラグビー・ワールドカップの開催はできない。なんともお粗末な新国立競技場の整備である。ラグビー・ワールドカップの開催は当分、期待できない。

 かつてラグビーは、日本では、人気のあるスポーツの一つで、旧国立競技場で観客動員数の上位にランクインしている。
 その人気を牽引したのは早稲田大学、慶応大学、明治大学などの大学ラグビーだ。旧国立競技場の観客数の記録には、1964年東京オリンピックや1958年アジア競技大会を除いて下記の試合が並ぶ。

*関東大学ラグビー対抗戦(早稲田大対明治大)(1982年)
入場者数:66,999人
*第22回日本ラグビーフットボール選手権大会決勝(釜石対同志社大)(1985年)
入場者数:64,636人
*関東大学ラグビー対抗戦(早稲田大対慶応大)(1984年)
入場者数:64,001人

 ラグビー・ブームに沸いていた時代には6万人を超える観客動員数を記録していた。しかしそれは過去の話で、2015年2月に行われた日本選手権決勝戦のヤマハ発動機とサントリーの試合の観客数はわずか約1万5千人、2015年1月に行われた全国大学選手権決勝戦の試合の帝京大学と筑波大学の試合では約1万2千人だった。競技場も旧国立競技場では収容能力が大きすぎて使用せず、全国大学選手権は秩父宮ラグビー場、全国大学選手権は味の素スタジアムで開催した。ラグビーの試合で6万人の観客動員数は“夢のまた夢”となってしまっている。通常のラグビーの国内大会の試合であれば、味の素スタジアム(収容能力:約5万人)や秩父宮ラクビー場や花園ラグビー場の規模で十分であろう。8万人のスタジアムはラグビーの開催でも全く不要である。

サッカーは「救世主」になるか
 陸上競技やラグビーに比べて、サッカーは観客動員数が大規模な国際大会だけでなく、常時、継続的に一定規模の観客数が期待できる。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックのサッカー競技やFIFAワールドカップの決勝リーグ戦では8万人クラスの観客動員数は期待できるだろう。
 2012年6月、 さいたまスタジアム2002で行われたFIFAワールドカップ・アジア地区の最終予選、日本・オマーン戦では6万3551人を記録した。同じ6月に日産スタジアムで行われたキリンチャレンジカップ、日本・イラク戦でも約6万3千人だった。
 国内の試合では天皇杯全日本サッカー選手権大会の決勝戦が多くの観客を集めるが、2014年12月に行われたガンバ大阪・モンディオ山形戦では、約4万8千人だった。
 Jリーグの公式戦であれば、2013年に日産スタジアムで行われた横浜マリノス・新潟戦が史上最高の約6万3千人、2006年にさいたまスタジアム2002で行われた浦和レッズ・ガンバ大阪戦は約6万2千人だった。
6万人を超えたのはこれまでに5試合だけである。通常は、1試合当たり約2万人から3万人程度である。
 サッカーでも、現実的に期待できるのは年に何回か6万人規模、仮にJリーグの公式戦を誘致しても、通常は2万人から3万人と想定される。
 しかもサッカーのスタジアムは、首都圏にはすでに十分に完備している。
 横浜市の日産スタジアム(収容能力:7万2327人)、さいたま市のさいたまスタジアム2002(収容能力:6万3700人)、調布市の味の素スタジアム(収容能力:4万9970万人)、いずれも国際クラスの機能を備えた競技場である。
 新国立競技場にJリーグの試合を誘致して定期的に開催すると、安定的な収入源になるが、それでも“8万人”のスタジアムは大きすぎる。 またすでに存在する首都圏のスタジアムへの影響が大きく摩擦は必至だろう。“スポーツの聖地”を目指す新国立競技場が摩擦の原因となるのでは余りにもお粗末である。
 さいたまスタジアム2002は、陸上競技場の機能はなく、イベント・コンサートも開催しない“サッカー専用”スタジアムとして観客への「サービスの充実を図っている。収容能力も6万3700人と、“6万人”クラス観客動員数を念頭に置くとまさに適正規模である。
 サッカー・スタジアムとして考えた場合、“8万人”はいらないし、新たにスタジアムを建設する必要性は感じられない。
 首都圏にはすでに“国際級”のサッカー・スタジアムがすでに十分に完備している。


陸上競技とサッカー・ラグビー兼用スタジアムの欠点
 陸上競技とサッカー・ラグビー兼用スタジアムは、基本的に“欠点”が生じる。
 下記の陸上競技とサッカー・ラグビー兼用スタジアムを見れば一目瞭然、国際基準を満たす陸上競技場には外周に9レーンのトラックを設置しなければならない。さらにトラックの外側にメインスタンドやバックスタンドには走り幅跳びや三段跳びのフィールドなどが設けられるので、球技場のピッチから観客席までは、20メートルから30メートル離れる、またサイドスタンド側だと、トラックはカーブで外側に膨らむので、スタンドとピッチの距離はさらに遠のき、40メートルから50メートルも遠のく。観客席からサッカーやラグビーの選手の動きが遠くなり、観客は熱気と迫力が感じられなくなり、スポーツの醍醐味が薄らいでしまうのである。 サッカー観戦にとっては、陸上競技場の“無駄な空間”が邪魔になるのである。



(出典 味の素スタジアム[東京都調布市])

 さいたまスタジアム2002は、サッカーの専用競技場をキャッチフレーズにし、ピッチサイドにまで観客席の設置している。サッカーファンにとってはゲームの醍醐味が味わえるスタジアムとして好評だ。これに対し、味の素スタジアムでは、サッカー・スタジアムとして使用する時は、トラックに人工芝敷いて“人工芝フィールド”とし、陸上競技のトラックをなくし、サッカーのピッチサイドのようにしている。しかし陸上競技場として使用するには、トラックの上の人工芝をはがさしトラックに戻さなければならない、その作業に少なくとも3日間程度(その逆も同じ)の時間と、人件費がかかり、陸上競技で使用することは極めて稀という状況である。
 これに対し、日産スタジアムは、陸上競技場を前提に建設されたスタジアムで、すべての観客席から、陸上トラックの全周がよく見えるように設計されていて、陸上競技観戦に適したスタジアムである。逆にサッカー観戦に場合は、一部の席からゴールが見えないという欠点もあるという。サッカー専用スタジアムである埼玉スタジアム2002と比較すると、陸上用のトラックなどがそのままピッチとの間あり、幅25~40メートルの“無駄な空間”が広がり観客とって臨場感を味わうには劣っている。
 札幌ドームは、サッカー場と野球場の機能を備えたユニークな屋根付きのスタジアムである。ピッチの天然芝は、ホヴァリングサッカーステージ”と呼ばれる“可動式の巨大な棚”の上にあり、サッカー開催時はこの“棚”でピッチを覆い、野球の開催時では、天然芝は“棚”ごと、移動させドームの外に出す。そして、ピッチには人工芝を設置する。そっくり入れ替えるのである。またサッカーと野球とではグラウンドの形も違うので、観客席は可動式になっていて、それぞれの競技に合わせてスタンドの配置も変えてしまう。まさにハイテクスタジアムである。
 新国立競技場の基本計画では、こうした欠点を克服するために、サッカーやラグビーを開催する際には、陸上競技のトラックの上を覆って、ピッチサイドまでにせり出す電動可動式の観客席を1万5千席を設置する計画だった。陸上競技や開会式、閉会式の開催時には、この観客席をスタンドに下にしまい込む仕組みである。アイデアとしては悪くない。しかし、この計画は新国立競技場の総工費が「3000億円超」に膨れ上がることが明らかになり、工費圧縮を迫られ、可動式ではなく固定式の“仮設席”に変更となった。サッカーやラグビーの試合の開催時には、陸上競技のトラックの上にスタンドを組んで“仮設席”を1万5千席つくり、陸上競技の開催時には“仮設席”を撤去するというものである。苦肉の策である。東京五輪後は、“仮設席”は設置しないとしているので、新国立競技場の収容能力は、約5万5千人、横浜市の日産スタジアム(収容能力:7万2327人)、さいたま市のさいたまスタジアム2002(収容能力:6万3700人)に及ばない。



(出典 日産スタジアム[横浜市])


(出典 さいたまスタジアム[さいたま市])

難題、天然芝
 サッカーの公式試合は、天然芝のピッチで開催することが義務付けられている。
 そこで、大規模な国際試合は国内の試合の開催を目指すサッカー・スタジアムは、膨大な経費をかけて“天然芝”の維持管理を行っている。
 芝は暑さや湿度に弱くて、日本での生育環境は極めて悪く、綿密な維持管理が必要となる。
 サッカースタジアムの場合、1年間のピッチ使用日数は約50日~60日、約一週間に約1回の割合で使用する。芝生は、試合が行われる度に、痛んで部分的にはげたり、元気がなくなり病気になったりする。 試合などで傷んだ芝生を休ませ回復させるために、芝生を、一定期間、プレーに使わない「養生」と呼ぶ期間も設けなければならない。
 また年に2回、夏用の芝と冬用の芝に定期的に全面張り替えが必須である。 この経費が多額で4千万円から1億円近く必要とされている。新国立競技場の場合は、年間で1億5千万円と見込んでいる。
 新国立競技場の場合、スポート大会の開催を年間80日(通常大会44日、大規模大会36日)、イベントを年間12日の開催を想定している。そのそも“8万人”を動員できるスポーツ・イベントが年間92日もあるかという疑問もあるが、仮に92日のスポーツ・イベントを確保して新国立競技場で開催したら“天然芝”はぼろぼろになると懸念が大きい。全面張り替えの他に補修を含めると年数回、芝生の張替えをしないとと耐えきれないかもしれない。芝の張り替え作業の期間や“養生”の期間も見込むと稼働率はかなり低くなる。新国立競技場の場合は芝の張り替え作業に約10日間、芝生養生期間に約40日間、合わせて約50日間を見込んでいる。年間約100日間以上は“天然芝”のピッチは使用できないことになる。
 一方、ドーム型スタジアムの野球場ではこうした問題は起きない。野球場は“人工芝”なのである。
 “天然芝”のピッチが必要なサッカースタジアムの維持管理は大変な労力と経費が必須なのである。



(出典 さいたまスタジアム2002)
スポーツ競技大会では維持不可能
 結論からすると「8万人収容」のスタジアムをスポーツ競技大会では維持できないということである。
 2014年5月の基本計画では、東京五輪開催後はスポーツ競技大会として、通常規模の大会を年間44日、大規模な大会をサッカー20日、ラグビー5日、陸上11日、合計36日の開催を予定し、3億8800万円の収入を得ようとする目論見だ。果たして「8万人」の観客動員が期待できるスポーツ競技大会が「36日」もあるだろうか?
 スポーツ大会では“8万人”クラスの競技場を維持できないのは“常識”である。 関係者からは「五輪後は陸上機能を外し、収益が見込めるプロ野球やJリーグに貸し出すべきだ」という声や「スポーツ競技大会で8万人の競技場を満たすことなんてできない。なんとか頑張って小さめの赤字になればいいんが……」という声が聞こえる。
 スポーツ競技大会だけでは新国立競技場は維持できない、そこでコンサートなどのイベントの開催も行う“多機能スタジアム”にしたらどうかという発想が生まれてくる。


イベント開催に必須の屋根付きスタジアムは挫折
 旧国立競技場は“スポーツの聖地”と言われていた。
 新国立競技場では、更に発展させて“文化の聖地”を目指す、建設計画をまとめる中で関係者の間でのコンセンサスになっていた。一方で東京五輪後、新国立競技場の維持管理は、スポーツ競技大会だけでは賄いきれないので、コンサートや展示会などのイベントの誘致をして、新たな収益源としようとする目論見であった。スポーツ競技大会のスタジアム利用料は、現状では、1日50万円からせいぜい100万円程度、それがイベント利用となると1000万円以上が期待できる。まさに一石二鳥を狙ったのである。
 しかし、新国立競技場でコンサートや展示会、式典などの大型イベントを開催するためには、近隣地域の騒音問題から“屋根”の設置が必須となる。 しかも遮音性のある“屋根”でなければならない。またイベント会場にするには、雨天や降雪、雷などの天候に左右されないように“屋根”が必要である。天候でイベントが中止になれば主催者は大きな損失を背負うことになるからである。
 一方で、晴天の日は、青空の下で陸上競技やサッカー、ラグビーなどを開催しないと観客はスポーツの爽快感を楽しめない。開閉式の“屋根”がどうしても必要にある。
 新国立競技場が建設される神宮の森は、大都会東京の中心エリアに立地していて、とにかくロケーションは抜群である。そのエリアが新たな“文化の聖地”となれば、2020年東京オリンピック・パラリンピックの“レガシー”(未来への遺産)となると期待する声も多かった。
 大会組織委員会の森喜朗会長も「国立競技場を文化の聖地にしようという気持ちだった」と語っている。
 しかし、屋根付きの“多機能”スタジアムの“夢”は消え去った。


「屋根」付きスタジアム 天然芝維持管理は更に大変
 
 そもそも新国立競技場に屋根を建設すると、難題が生れることが分かっていた。“天然芝”の維持管理である。
 “屋根”を設置すると、日照が限られる上に、風通しも悪くなり芝生が“蒸れる”状態になる。「夏場は蒸し風呂のよう」とスタジアムの関係者は証言する。真夏に芝生に水を蒔いても風がないので、蒸発できずに、蒔いた水がお湯になり根をやられてしまうという。
 新国立競技場では、“天然芝”を守るために、さまざま装置を設置する計画だった。

* ハイブリッド換気
 十分な自然通風を得るため、屋根とスタンドの間に大きな開口(開閉機構付)を南北に配置。また芝生面では、大型送風機により3~5m/sの風速を常時安定してつくることができ、かつ新鮮外気の導入により芝生面の湿分を常時排気することができるよう、大型送風機(10台)を導入。
* 芝生張替え
 冬期に寒地型芝と夏期に暖地型芝の張替を導入し、年2回の定期張替えを計画する。1回の張り替え作業に約10日間、芝生養生期間に約40日間、合わせて50日間、年2回とすると約100日間がピッチは使用できない。新国立競技場では年間1億5000万円の芝生予算を経常している。
* 芝生育成補助システム
 「ポップアップ式散水設備」:ピッチ全体にバランスよくかつ小水量での散水が可能。
* 「地中温度制御システム(冷水/温水)」
 地中に埋設された配管に夏期は冷水を通水し地中を冷却、冬期は温水により昇温し、特に盛夏や厳冬期の地中温度環境を改善。
* 「土壌空気交換システム」
 地中温度制御システムと組み合わせた地中温度環境の改善のみならず、地中の酸素供給、湿分除去(排水性能向上)、嫌気性物質除去などの効果により、健全な芝生を育成。
* “屋根”の南面に巨大な透過性ガラスを設置して芝生への日照を確保
 新国立競技場はスタンド部分には固定式の屋根があり、開閉式のグラウンド部分の屋根を開けても、冬季は、日照時間が不足して、“天然芝”の生育環境が保てない。
 この欠点を克服するために、“屋根”部分の南面に約1万平方メートルの巨大な「透過性ガラス」を設置して日照時間を確保する建設計画を策定した。この「南面透過性ガラス」の工事費は2億5千万円、さらに真夏の日差しを遮る「日射遮蔽装置」や「防音装置」の設置費用15億円、あわせて17億5千万が必要としている。
 しかし「透過性ガラス」の維持管理はかなり大変で、清掃費は補修費で毎年19億円、修繕費で毎年6億4千万円かかるとしている。なんと毎年、25億4千万の経費を負担し続けるのである。
  “屋根”付きスタジアムで、“天然芝”を維持するには、これだけの対応が必要になるのである。当然、経費もかさむのは当然である。“多機能スタジアム”を目指す宿命である。



(新国立競技場基本計画 FOP[フィールドオブプレイ] 出典 日本スポーツ振興センター)

「屋根」付きスタジアムでつまずいた大分銀行ドーム
 
 “屋根”付きスタジアムの運営の難しさは、関係者の間ですでに問題になっている。
 開閉式屋根のある大分銀行ドームは、半地下構造となっていることもあって芝の生育が難しい環境にあった。「こけら落とし」となった2001年のJリーグ公式戦・トリニータ対京都パープルサンガ戦では、試合中に剥れた芝生がはねてしまい、芝生の管理が問題視された。その後も芝生の状態は改善されず、2009年にサッカー日本代表の試合が予定されていたが、直前に会場変更された。芝の状態が悪かったためであるとされている。
 また開閉式の屋根もトラブルに悩まされている。
大分の場合は2001年の開設以降、2010年までに屋根の故障が十二回も発生した。2013年11月には屋根が閉じなくなり、約5か月間開けっ放しになり、大分県では四億五千万円をかけて全面改修をした。担当者は「こんなにトラブルが続くとは想像できなかった」と話しているという。



(出典 大分銀行ドーム[大分市])

豊田スタジアム 「屋根」は開けっ放しに
 愛知県豊田市にある豊田スタジアムは、サッカーJリーグ・名古屋グランパスの本拠地、収容能力は4万5千人、サッカー専用スタジアムとしては埼玉スタジアム2002に次いて、日本国内で2番目の大きさを誇る。特徴的なデザインで、全国でも数少ない開閉式屋根のサッカー施設として注目されていた。
スタジアムの所有者は豊田市、運営管理は、株式会社豊田スタジアムが行っている。
 設計は故黒川紀章さんが行い、豊田市が350億円をかけて2001年に建設した。可動式屋根は天幕式(テント)で、雨天時に広げてピッチと客席を覆う。
 2007年11月、屋根の開閉部分に故障が見つかり、1年近くかけて、大修理が行われた。
 これ以降、可動部分に不具合が多く、年間5回前後しか開閉されず、一方で維持費、修理費がかさみスタジアムの経営に重荷になっていた。
豊田市が行った外部監査で、2011年度以降は年間8億円の赤字を計上し続けていることが判明し、「赤字を減らすよう総合的に検討すべきだ」と指摘されていた。
豊田市では、スタジアム施設を維持する修繕費を見積もった結果、15年度から5年間で総額28億円を要し、この内屋根だけで16億円かかることが判明した。また2032年度までに修繕費や施設維持費などに109億円が必要とされ、この内59億円が屋根にかかわる経費という。
 こうした中で、豊田市では、2015年から開閉式屋根を「開けっ放し」にする方針を決定した。
今後、高価な特注の部品交換がかさむためで、市は「費用対効果の観点から維持は困難」と判断した。芝の養生のため閉めたままでなく開けたままにすることにした。当面は撤去はせず、施設の片隅に寄せておくが、今後、屋根の撤去も検討するという。
 豊田スタジアムを本拠地とする名古屋グランパスエイトは、次のようなお知らせを掲載している。
 「豊田スタジアムの開閉式屋根については、豊田市の決定により稼動させないこととなりました。つきましては、2015シーズン以降の豊田スタジアムで行われるホームゲームは、天候に関わらず屋根を開放した状態で開催いたします。
これにより、ピッチに近いスタンド席は雨に濡れる可能性が高くなりますので、雨天などが予想される場合は、雨具をご持参くださいますようお願いいたします。また、雨具につきましては他のお客様の視界と安全確保の理由から傘のご使用はご遠慮いただき、合羽、ポンチョなどのご使用にご協力ください。お客様にはご不便をおかけしますが、ご理解とご協力の程よろしくお願い申し上げます。」

 開閉式の屋根が設置されているスタジアムは、この他に、ノエビアスタジアム神戸(収容能力 3万4千人)があるが、屋根の維持管理に伴う大きなトラブルは起きていないようである。
 スタジアムの開閉式屋根については、維持管理や修繕費を相当見込まないと運営は難しいのではないか? 多額の経費がかかる屋根の設置については、スタジアム収支を慎重に見極めるべきである。仮に新国立競技場の開閉式屋根の復活させる場合も、その規模は破格に巨大になることを念頭に置かなければならない。



(豊田スタジアム 出典 豊田市)

イベント開催は「救世主」になるのか?
 2014年5月、日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の建設計画を縮小して、総工費を「1625億円」に圧縮することを明らかにした。それに合わせて、五輪後の「収支見込み」を明らかにした。
 それによると、「興行イベント事業」として、「スポーツ」を年間80日開催して3億8800万円、「文化(コンサート)」を年間12日開催して6億円の収入を見込んでいる。
 しかし、「年間12日、6億円の収入」は新たな疑問を生んでいる。
 そもそも1日、5000万円という破格に高額な利用料が受け入れるらけるかどうかだろう。現在では1000万円から2000万円が相場でその二倍以上の“超高額”スタジアムだ。
 「8万人」の観客動員が期待できるコンサートなどのイベントは、「年間12日」もあるのか?という疑問も大きい。観客席に空席が目立つとコンサートの“熱気”が生まれない。コンサートを成功させるには、観客席は“満員状態”にする必要があるのである。
 コンサートなどのイベント会場として首都圏で有名なのは、「武道館」(収容能力:約1万4千人)と「横浜アリーナ」(収容能力:1万7千人)である。「武道館」は、1964年東京五輪の柔道競技会場だったが、1966年のビートルズ来日公演で一躍有名となった。以来、日本のミュージシャンにとって憧れのコンサート会場となり、「武道館コンサート」はステータス・シンボルになっている。
 「横浜アリーナ」はアイススケートリンクだが、立地の良さからコンサートやイベント会場として人気がある。
 また最近では、「五大ドームツアー」が人気ミュージシャンの新しいステータス・シンボルになっている。「武道館」に比べて収容人数は倍以上の4万人から5万人規模、観客動員数を誇る“人気度”のバロメーターとなっている。
 「五大ドーム」とは、「札幌ドーム」(5万5千人)、「東京ドーム」(5万5千人)、「ナゴヤドーム」(4万人)、「京セラドーム大阪」(3万7千人)、「福岡ドーム」(3万8千人)である。いずれも屋根付きのドーム型の野球場である。
 新国立競技場は、「8万人」の収容能力を武器にイベント会場争奪戦に参入しても果たしてどれだけ“勝算”があるのだろうか。「8万人」はとにかく巨大である。
 また新国立競技場は、コンサートの開催を目的に建設した施設ではないので、音響効果はコンサートホールに比べて良くない。良好な音質で音楽を観客に聴かせるのは無理である。舞台や照明・音響設備は別途、設営しなければならないので開催経費が膨らみ、観客動員数の確保に自信がないコンサートの開催は事実上不可能だろう。次に前述したが、イベント開催に必須の“遮音装置・屋根”はない。
 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」を開き、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることを承認した。スタンド工区が「1570億円」、屋根工区が「950億」としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、屋根設置は見送り、5年後に向けて設置計画を進めるとした。(その後、安倍首相が“白紙撤回”した建設計画)。
 しかし、グランド上部の可動式“屋根”の工費は「168億円」かかるとした。 わずか「年間12日、6億円」の収入のために「168億円」追加投資するのである。しかも、単に先送りしただけで一体誰が負担するのか、まったく展望はない。あまりにも杜撰な計画であった。


イベント「年間12日」は“天然芝”をぼろぼろにする!
 スタジアムでコンサートを開催する時は、ピッチの“天然芝”の上に保護用パネルを敷きつめて、パイプいすを並べて、観客席を仮設する。準備も含めて、2日間は“天然芝”はパネルで覆われ日照はない。さらに夏の期間は、“天然芝”の表面温度が50度に達し、芝には過酷な環境となる。
 「収支の改善にはコンサート」と言われるが、“天然芝”への負担が大き過ぎ、開催回数は極力少なくするというのが関係者の常識である。
 2008年5月、味の素スタジアムでは、「X-JAPAN」のギタリストhideさんの追悼イベントが開かれた。味の素スタジアムをホームグランドとしている東京FCは、重要な試合の直前にイベントを開催されると、「芝生が荒れ試合にならない」と“激怒”したとされている。結局、スタジアム側は、5~6千万円かけて芝生を張り直したという。
 日産スタジアムでは年4日程度、味の素スタジアムは年3日、埼玉スタジアムは、“天然芝”を保護するためにコンサートは開催しない。
 仮に「年間12日」のコンサートを新国立競技場で開催したら、“天然芝”は悲惨な状態になり、サッカーの開催は不可能になるだろう。
 繰り返しにはなるが、野球場ではこうした問題は起こらない。“人工芝”だからである。
 陸上競技、サッカー、ラグビー、そしてコンサートを開催する「多機能スタジアム」、聞こえはいいが、実際は問題山積なのである。


破綻した“多機能スタジアム”
 新国立競技場はコンセプトを固める初期段階で、機能を詰め込み過ぎて失敗したのであろう。
“スポーツの聖地”、“文化の聖地”、“レガシー”(未来への遺産)、「理想」と「夢」が、2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボルとなる新国立競技場に集まった。
 その結果、五輪の招致の切り札になる「斬新なデザイン」、全天候型の“屋根”付きスタジアム、イベントも可能にする「開閉式遮音装置(屋根)」、ピッチサイドにせり出す「可動式観客席」、真夏での観戦を快適にする「座席空調」、豪華さを演出する「VIP席やVIP専用エリア」、天然芝の維持管理のための「芝育成システム」、地震対策の「免震装置」、博物館、レストラン、プレゼンルームなど、考えられる機能はほとんどすべて計画に盛り込んだ。
 そして、総工費が「3000億円」に膨れ上がり、計画の度重なる縮小に追い込まれ、ついに“白紙撤回”となった。
 最新鋭の“多機能”スタジアムは、とにかく経費が膨れ上がるのである。
 新国立競技場の建設計画は、“仕切り直し”になって、現在、急ピッチで新たな建設計画策定に向けて作業が進められている。
 筆者の提案のキーワードは「コンパクト」、“世界で一番”を目指すのはもう止めよう。総工費が膨れ上げる原因となっているキールアーチ構造は見直し、可動式屋根や遮音装置、VIPエリア、可動式観客席は中止する。イベント開催はあきらめる。デザインは旧国立競技場のようなシンプルな陸上競技場のデザインでよいのではないか。
 収容能力も「8万人」規模が五輪開催時に必要なら仮設席も含めて対応し、五輪後は、5万人クラスのスタジアムに縮小する。
 その代わり、“神宮の森”の再開発に投資をして、新国立競技場を中心に、明治神宮球場、軟式野球場、秩父宮ラグビー場、テニスコート、ジョギングコース、サイクリングコース、公園などを充実させ、市民が日常的に利用する新しい“スポーツの聖地”を考えたらどうか? 大都市東京にとってよほど意義深いと思うが…。
  “箱もの”至上主義の幻想から抜け出せない弊害だろう。高度成長、社会資本建設に奔走していた1964年の東京五輪の時代と2020年では明らかに時代は変わっている。



(旧国立競技場 出典 日本スポーツ振興センター[JSC])

キーワードは“五輪後”どうする? “負のレガシー”(負の遺産)にはするな!
 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」、そしてそのコンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催期間は、オリンピックで17日(サッカーの予選は除く)、パラリンピックで13日、わずか30日である。重要なのは、大会終了後、50年以上使い続ける社会資本にしなければならないことだ。
 一過性でなく、確実に後年度負担が生まれる社会資本の新規投資には、それなりの“覚悟”が必要である。キーワードは 「持続可能な開発」(Sustainable Development)。
新国立競技場は、“レガシー”(未来への遺産)にしなければならない。 毎年巨額の“赤字”を後世に負担させる“負のレガシー”(負の遺産)にしてはならない。







東京オリンピック ボランティア タダ働き やりがい搾取 動員 ボランティアは「タダ働き」の労働力ではない!
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
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北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
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東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市





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2015年8月4日
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廣谷  徹
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新国立競技場 検証報告 迷走 下村博文 文部科学省 JSC 

2018年05月15日 09時45分07秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5)
“迷走”新国立競技場 責任は文科省とJSC 検証報告



技術提案書A案のイメージ図  新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供






“迷走”新国立競技場 検証委設置
 2015年7月24日、下村博文文部科学相は2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設をめぐり、これまでの計画が迷走した経緯を検証するため、外部の有識者らによる第三者委員会を設置することを明らかにした。関係者の責任問題も取り上げるとしている
 第三者委は、法律家や建築関係者、アスリートら5~10人でつくる予定で、下村氏は「どこに問題があり、どういう責任が問われるのか、『お手盛り』でなく第三者の検証をお願いしたい」と述べた。
 競技場をめぐっては、民主党政権時代の12年に行った国際コンペで、イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏のデザイン案が選ばれ、当時の総工費は「1300億円」だった。ところが、設計の過程で「3千億円超」まで膨らんだため、政府は計画を縮小し、2015年6月、総費「2520億円」とする計画を決定。それでも世論の激しい批判が収まらず、白紙撤回に追い込まれた。
第三者委では、デザイン案を選ぶ過程や、総工費が二転三転した理由などについて検証する。
 文科省の責任も当然、問われることになる。舛添要一東京都知事は20日付のブログで「文科省は無能力・無責任で、これが失敗の最大の原因」と批判。24日の記者会見でも「もう少し早くしないと、気の抜けたビールを飲むような形になる」などと検証を急ぐよう求めた。
同じ日に、東京五輪の開幕までちょうど5年を迎え、政府は五輪・パラリンピック推進本部の初会合を開催した。安倍首相は「開催までに新しい競技場を間違いなく完成させ、世界の人々に感動を与える場としたい」と語った。
振り出しに戻った競技場の整備計画は、内閣官房に設置した再検討推進室で策定することになった。文科省任せの失敗を反省し、官邸主導で進めるためで、9月上旬をめどに計画を策定。その後、デザインや施工業者を一括で入札して決め、来年1、2月には整備事業に着手。20年春に完成させたいとしている。

文科省とJSCの責任重大 検証委報告書
 2015年9月24日、白紙撤回された新国立競技場の旧整備計画の問題点について、文部科学省の検証委員会(委員長=柏木昇・東京大名誉教授)は報告書をまとめて公表した。
報告書では、「国家プロジェクトに求められる組織体制を整備できなかった」として、事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長や、監督する文科省の下村博文文科相と事務方トップの事務次官に責任があったと言及した。
 また2013年9月の東京五輪・パラリンピック開催決定から4カ月間が、計画をゼロベースで見直すタイミングだったとも指摘した。
報告書を受け、下村文科相は、「責任の取り方は25日の閣議後記者会見で発表する。報告書が進退問題に言及しているとは承知していない」と述べ、責任の取り方は曖昧にした。一方、河野理事長は任期満了の今月末で退任する意向を正式表明した。
報告書は計画撤回に至った理由として、(1)関係団体トップらでつくるJSC有識者会議など集団的意思決定システムによる硬直性(2)複雑な事業を既存の縦割り組織で対応(3)消極的な情報発信−−の3点を挙げた。
 事業推進態勢についてはJSCを「当事者としての能力や権限が無いのに大変難しいプロジェクトを引き受けた」、文科省を「JSCへの管理監督が不十分だった」と批判した。その上で「関係者間の役割分担、責任体制が不明確。JSCの有識者会議に実質的な主導権を許した」と意思決定のゆがみを指摘した。
 旧計画は、12年7月の国際デザインコンクール募集開始時に工事費を1300億円と想定し、ザハ・ハディド氏の案を採用した。設計会社が大会開催決定前の13年7〜8月に工事費を3462億円と試算し、直後に工事費1358億円など七つのコンパクト化案が出された。これを踏まえ検証委は、開催決定から13年末が見直しのタイミングだったと判断した。

新国立競技場整備計画経緯検証委員会 検証報告書
平成27年9月24日 新国立競技場整備計画経緯検証委員会


検証報告書の概要 文部科学省の第三者委員会(委員長=柏木昇・東大名誉教授)

 《総論》
 【検証に当たっての前提】
 ・高い要求仕様に応えつつ、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)に間に合わせるという窮屈な工期で最高水準の技術が求められるデザインを実現すること自体、難度が高いプロジェクトだった。加えて予想を超える物価や賃金の高騰を招く特殊な建設市況や、調整プロセスの追加などにより、一層複雑さを包含するものと化していた。
 ・様々な工事費の数値は、それぞれの計算基礎と算出主体と精度が異なるものであり、このような性質の異なる数字を横並びで比較することについては慎重でなければならない。
 【見直しに至った主な要因】
 ・意思決定がトップヘビー(上層部に偏りすぎ)で機動性がなかったことにより、意思決定の硬直性を招いた。集団的意思決定システムの弊害があった。
 ・大規模かつ複雑なプロジェクトだったにもかかわらず、既存の組織・既存のスタッフで対応してしまった。
 ・情報発信による透明性の向上や、国家的プロジェクトに対する国民理解の醸成が図られなかった。
 【見直しをすべきだったタイミング】
 ・13年8月に設計JV(共同企業体)から、ザハ・ハディド氏のデザインを基礎として関係団体の要望をすべて満たした場合、工事費が3千億円を超えそうだという報告がなされ、その際に工事費の削減案が関係者間で検討されている。
 ・同年9月に20年の東京五輪・パラリンピックの招致が決定した後、この削減案に基づき、一度ゼロベースでザハ・ハディド案を見直すチャンスがあったのではないかと考えられる。
 ・従ってプロジェクトを本当に動かす必要が生じた13年9月から年末にかけてが、ゼロベースで見直す一つのタイミングだったと考えられる。
 【責任の所在について】
 ・結果として、本プロジェクトの難度に求められる適切な組織体制を整備することができなかった独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)、ひいてはその組織の長たる理事長にあると言わざるを得ない。
 ・文部科学省についても同様に解するべきであり、組織の長たる文部科学大臣及び事務方の最上位の事務次官は、関係部局の責任を明確にし、本プロジェクトに対応できる組織体制を整備すべきだった。
 《各論》
 【コストに関する問題点】
 ・デザイン競技公募で示される工事費の意味合いが、関係者の間で共有出来ていなかった。
 ・デザイン審査の過程において、今後工事費が変動する可能性について、専門家から警鐘が鳴らされる仕組みとなっていなかった。
 ・算出主体の違いによる工事費の差異や工事費高騰の可能性について、国民に対し、正確かつ丁寧な説明がなされなかった。
 ・工事費について、物価上昇分などを加えた額がどの程度を超えた場合に仕様を変更するかといった検討がなされず、上限額が無いに等しい状況だった。
 ・国費以外の財源が複数あったこともあり、工事費の上限額を明確にする意識の低下を招いた。
 【プランニングに関する問題点】
 ・招致決定後、仕様、工期、工事費という並び立たせるのが困難な要素について、いずれを優先させるのか首尾一貫していなかった。
 ・関係者らの要望事項を幅広く採り入れたことで、すべてを備える仕様となっていたが、抜本的な見直しは行われず、規模や機能の縮小を検討するにとどまっていた。
 ・国家的プロジェクトを行う政府全体としての意思の統一がなされておらず、関係者がそれぞれの立場で検討し、調整した。その結果、もともと19年のラグビーW杯に間に合わせるという窮屈なスケジュールだったにもかかわらず、時間的なロスが発生してしまった。
 【設計・工事に係る調達方法に関する問題点】
 ・プロジェクトの初期段階で、相互関係などを勘案したプロジェクト全体の調達計画が立てられていなかった。対症療法的な調達方法だった。
 ・デザイン監修者と設計者との間における役割分担が不明確だった。
 ・発注者(JSC)が、発注者支援者の専門性を十分に活用出来ていなかった。
 ・技術協力者・施工予定者の参画が遅れ、工事費の削減と工期の短縮につながらなかった。
 ・工区分割を採用したことで、工区間の調整が必要となり、工期延伸の原因の一つとなった。
 【情報の発信に関する問題点】
 ・国家的プロジェクトとして、税金を負担する国民の理解を得るための、工事費の推移などに関する情報発信が十分ではなかった。
 ・新国立競技場の用途や魅力について、広く、国民に対して積極的に発信していたとは言えなかった。
 ・プロジェクト全体を通じて、一貫して最後まで状況が説明できる専門知識を持ったスポークスマンが配置されておらず、情報発信の体制が不十分だった。
 【プロジェクト推進体制に関する問題点】
 ・JSCの理事長は組織の長として、文科省に人的支援の要請を行った事実はあるが、結果として国家的プロジェクトに求められる組織体制を整備することができなかった。
 ・文科相及び文科事務次官は、国家的プロジェクトを念頭においた進捗(しんちょく)管理体制を構築せず、報告・相談が密に行われる仕組み作りや組織風土の醸成が十分ではなかった。
 ・国家的プロジェクトにふさわしい権限と責任を伴ったプロジェクト・マネジャー(現場責任者)が組織の中に明確に位置づけられておらず、また、プロジェクト・マネジャーに相当すると思われる役職者を通常の人事ローテーションで異動させていた。
 ・多くの関係者間や関係組織間の役割分担、責任体制が不明確だったため、意思を決定する過程の透明性が確保されていなかった。
 ・大規模かつ複雑なプロジェクトに精通した専門家を発掘・配置しておらず、また、デザイン選定からプロジェクト推進までを一貫してチェックする専門性をもった組織を構築していなかった。
 《終わりに》
 検証の過程で行った聞き取りの結果で判明したことは、本プロジェクトに関わった多くの人が真摯(しんし)に仕事に取り組んできたことである。
 しかし、その一方で、プロジェクトを遂行するシステム全体が脆弱(ぜいじゃく)で適切な形でなかったために、プロジェクトが紆余(うよ)曲折し、コストが当初の想定よりも大きくなったことにより、国民の支持を得られなくなり、白紙撤回の決定をされるに至ってしまった。
 20年東京五輪・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場は今後、厳しいスケジュールの下で整備が行われることになるが、国民の信頼を回復し、全ての国民から愛される競技場となることを期待する。

(出典 朝日新聞 2015年9月25日)

下村文部相 辞意
 下村博文文部科学相は25日、閣議後の会見で、新国立競技場問題の責任を取るため、24日夜に安倍晋三首相に辞意を伝えたことを明らかにした。首相からは10月上旬に予定する内閣改造まで続投を要請され、了承した。また下村文科相は、大臣俸給から議員歳費を除いた額の6カ月分など、計約90万円を返納すると発表した。
 新国立競技場の旧建設計画が白紙撤回に至った経緯を検証する文科省の第三者委員会が24日、「適切な組織体制を整備できなかった」として下村文科相の結果責任を明記した報告書を公表。これを受けて下村文科相は、首相に電話で「自ら責任を取りたい」と伝えた。首相からは「今までの経緯の中では辞任に値しないがそういうことなら受け止めたい。近々内閣改造をするので、それまでは続けて欲しい」と慰留されたという。
 下村文科相は、「非違行為があったわけではないが、国民全体のムーブメントの先頭にたって盛り上げる立場の中、それができなかったことについて政治的責任があると考えていた。(第三者委の)報告書が出てけじめをつけた」と述べた。
 山中伸一前事務次官も給与の10%を2カ月分、約24万円を自主返納する。今月末に退任する河野一郎日本スポーツ振興センター(JSC)理事長も、給与の10%を2カ月分返納する。政府は25日の閣議で、後任理事長に、サッカーJリーグ前チェアマンの大東和美氏を10月1日付で起用する人事を了承した。

責任の所在を曖昧にした下村氏の辞任
 下村博文文部科学相は25日、検証委員会から報告書を受け取った前夜に安倍晋三首相に辞意を伝えたが、結局、安倍首相は、内閣改造を目前に控えた時期の「辞任」は、政権のダメージになるとして、内閣改造での「交代」とした。
下村氏は給与の自主返納も発表し「けじめ」を強調したが、「検証委の報告書とは別の次元で私自身の判断として辞任を申し入れた」と述べた。25日の閣議後会見で、下村文科相は辞意が「自主判断」だと再三強調した。
  “迷走”を重ねた新国立競技場整備の責任の所在を曖昧したままの“辞任”表明になった。
 2012年12月に文科相で初入閣して以来、教育委員会制度改革や「道徳」の教科化など安倍首相がこだわる教育改革を実現させてきた下村氏だったが、今年に入って「失点」が相次いだ。2月に支援団体「博友会」を巡る資金問題が週刊誌報道で浮上し、国会で激しく追及された。6月には新国立競技場の総工費の高騰問題がわき上がり、窮地に追い込まれた。それでも首相は責任を問わなかった。政権運営のダメージを回避するためだ。改造で交代は「既定路線」としたのである。
 首相が旧整備計画の白紙撤回を表明したのは7月17日。最重要課題の安全保障関連法は前日に衆院を通過したばかりだった。下村氏を更迭すれば、野党に新たな攻撃材料を与える。関連法の参院審議は難航することが見込まれており、続投させざるを得なかった。
 白紙撤回後も自らは職にとどまりながら、担当局長を交代させた下村氏への風当たりは強くなるばかりだった。
既に内閣改造が9月下旬にも行われるとの見方が広がっており、下村氏の交代は説がささやかれていた。検証報告を9月末までにまとめるとしたのは、検証を行う十分な期間を考慮したのではなく、内閣改造に間に合わせて、下村氏の交代は「既定路線」として収拾させようとする政治的な配慮を優先させたと思われる。
 2020東京オリンピック・パラリンピックの準備を巡っては、まず新国立競技場の建設問題を巡って大きな“汚点”を残したには間違いない。






新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 国際公約“ザハ・ハディド案” 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)

巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?
審査委員長の“肩書き”が泣いている 新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏


東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 競技会場の全貌
東京オリンピック 競技会場最新情報(下)膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至








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2018年5月15日
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新国立競技場 負の遺産 負のレガシー 迷走 混迷 ザハ・ハディド 2520億円    

2018年05月13日 21時03分37秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか(1)
~“迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 国際公約“ザハ・ハディド案”
縮小見直し「2520億円」~



▼ イベントも開催する多機能スタジアムに 総工費は1300億円程度
▼ 国際デザイン・コンクールの“お粗末”な審査
▼ 「アンビルドの女王」 ザハ・ハディド氏
▼ 文科省 新国立競技場建設費「1692億円」上限に
▼ 縮小建設案 景観配慮、5メートル低く 面積25%削減 総工費「1625億円」
▼ 「総工費3000億円超 工期50か月」ゼネコン2社の目論見
▼ 仮設席1万5000席と開閉式屋根は五輪後先送り 再縮減建設計画
▼ 総工費「2520億円」 経費増加「895億円」アーチ構造などが原因
▼ “五輪の聖地”を汚した解体工事入札の迷走
▼ 巨大施設の巨額維持管理費 “赤字”必死 
▼ 財源不足 「2520億円」の押し付け合い 誰が責任をとるのか?






新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)







新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1)

新国立競技場のデザイン募集 国際コンペ実施
 「8万人を収容する観客席、開閉式の屋根、大規模な国際大会のほか、コンサートなども開ける多機能型の“新国立競技場”を建設する」、2012年7月20日、国立競技場を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター」(JSC)は、新国立競技場のデザインを募集する国際コンクールを実施した。
 新国立競技場のデザインコンクールのキャッチフレーズは、「『いちばん』をつくろう」である。
 「日本を変えたい、と思う。新しい日本をつくりたい、と思う。もう一度、上を向いて生きる国に。そのために、シンボルが必要だ。日本人みんなが誇りに思い、応援したくなるような。世界中の人が一度は行ってみたいと願うような。世界史に、その名を刻むような。世界一楽しい場所をつくろう。それが、まったく新しく生まれ変わる国立競技場だ。世界最高のパフォーマンス。世界最高のキャパシティ。世界最高のホスピタリティ。そのスタジアムは、日本にある。「いちばん」のスタジアムをゴールイメージにする。だから、創り方も新しくなくてはならない。私たちは、新しい国立競技場のデザイン・コンクールの実施を世界に向けて発表した。そのプロセスには、市民誰もが参加できるようにしたい。専門家と一緒に、ほんとに、みんなでつくりあげていく。『建物』ではなく『コミュニケーション』。そう。まるで、日本中を巻き込む『祝祭』のように。
 この国に世界の中心をつくろう。スポーツと文化の力で。そして、なにより、日本中のみんなの力で。世界で「いちばん」のものをつくろう。」
 国際デザイン・コンクールを実施するにあたって日本スポーツ振興センターが宣言したコメントである。

審査委員長は安藤忠雄氏(建築家 東京大学名誉教授)。
審査員は、鈴木博之(建築家 青山学院大学教授)、岸井隆幸(建築家 日本大学教授)、内藤 廣(建築家 前東京大学副学長)、安岡正人(建築家 東京大学名誉教授)、都倉俊一(作曲家 日本音楽著作権協会会長)、小倉純二(日本サッカー協会会長)、河野一郎(医学博士 日本スポーツ振興センター理事長)の7名に加えて、世界的に著名な建築家のノーマン・フォスター(イギリス)、リチャード・ロジャース(イギリス)の2名が務めた。



新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“キーワード”は、“「いちばん」をつくろう”と“FOR ALL”


新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“メッセージ”

(出典 新国立競技場 国際デザイン・コンクール ホームページ)



(取り壊された旧国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

新国立競技場の建設が浮上したのはラグビーW杯開催
 国立競技場の建て替えの突破口を開いたのはラグビーW杯である。2009年に長年の悲願であった日本大会の招致に成功。2011年に「ラグビーW杯2019日本大会成功議員連盟」が建て替えを決議し、その後、国が調査費を計上して建て替え計画が動き出した。
 ラグビーW杯は2019年9月から11月に開催される。  
 関係者が新国立競技場の2019年春の完成にこだわるのも、ラグビーW杯に間に合わせるためだ。6月28日に退任するまで10年間、日本ラグビー協会長を務めた森五輪組織委会長の存在は極めて大きかった。
 そして、建設計画が急速に具体化したのは、勿論、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致である。
 2020東京オリンピック・パラリンピック招致委員会では、招致を成功させる切り札の一つに新国立競技場の建設を位置付けた。開会式、閉会式、陸上競技を都心に整備される最新鋭のスタジアムを建設して大会を開催することで各国の支持を得ようとしていた。
 新国立競技場の建設は、国際公約になっていた
 1964東京五輪大会のオリンピック・スタジアムとなった国立霞ヶ丘競技場(旧国立競技場)は、老朽化が激しく、耐震強度にも問題があり、建て替えか改修工事が迫られていた。
 新しい国立競技場を建設して、東京の新たなランドマークにし、「陸上競技の聖地」として2020東京大会のレガシーにすると意気込んだ。
 一方で、2011年、日本スポーツ振興センター(JSC)は大規模改修を検討していたことが明らかになっている。市民グループが情報公開で入手した内部資料によると、JSCが設計会社に詳細な耐震補強調査を依頼し、7万人収容規模への改修工事を4年の工期、総工費770億円で行えるとの試算結果がまとめられていた。
 改修案が一掃されたのは、ラグビーW杯の開催と2020東京五輪大会の招致に間違いない。
 新築か改築か、十分に議論を行わずに、2012年新国立競技場建設に向けて国際コンクールが行われて建設計画が始動した。
 そして、国立霞ヶ丘競技場は、2015年3月、解体工事が開始され、9月にはあっという間に跡形もなく取り壊された。
 しかし、新国立競技場建設計画を巡る“迷走”と“混迷”を繰り返した結果、招致活動の象徴として使用したザハ・ハディド氏の斬新な流線形のデザインの白紙撤回に追い込まれた。さらに「2019年春の完成」が間に合わなくなり、「ラグビーW杯2019」の開催も断念した。
約1500億円を投じて新たに建設する意味の半分近く失われた。
 まったくお粗末な経緯に、唖然とするほかない。


イベントも開催する多機能スタジアム 総工費は1300億円程度
 新国立競技場は、東京都新宿区霞ヶ丘町にある現在の国立競技場を解体した跡地に建設する。観客席の収容人数を今の約5万4000人から8万人規模へと大幅に増やし、延べ床面積は約29万平方メートル(地下駐車場を含む)、三層の観客席、高さ約75メートルの巨大なスタジアムである。
 敷地面積も拡張して、現在の約7万2000平方メートルから約11万3000平方メートルに増やし、隣接する日本青年館を取り壊すほか、現在ある公園も敷地に加えた。
 総工事費は解体費を除いて「1300億円」程度とした。
 新競技場にはラグビーやサッカー、陸上競技の大規模な国際大会が実施できる最高水準の機能を求める。例えば、現在8レーンある陸上用トラックを国際規格の9レーンに増やすことなどを想定する。2019年に開催されるラグビーのワールドカップ、またFIFAワールドカップの開催も視野に入れて観客席を8万人とした。
 さらに、コンサートや展覧会などのイベントの開催も可能にし、「芸術・文化の発信基地」を目指す。開閉式の屋根を設けて、大会やイベントが天候に影響されず開催できるようにする。芝生の育成に必要な太陽光や風、水、温度を調整できる機能も求めた。
 観客席は陸上競技を催す際に8万人を収容。ラグビーやサッカーでは選手と観客に一体感や臨場感が生まれるようにピッチに近い場所せり出す可動式の観客席も設置する。コンサート会場にも使える多機能型スタジアムとして、優れた音響環境も備え、屋根には遮音装置を備える。
 世界水準の「ホスピタリティー」も要求する。バリアフリーはもちろん、バルコニー席が付いた個室の観戦ボックスや要人向けのラウンジ、レストランなどを整備する。大会やイベントを開催していないときでも来場者が楽しめるように、商業や文化施設を備えた競技場を目指す。
 新競技場の施設だけでなく、JR千駄ヶ谷駅や東京メトロ外苑前駅といった周辺駅から歩行者が快適にアクセスする動線の確保や、周辺に再配置する公園や公開空地についての提案も求めるのが特徴である。
 まさに、“未来への遺産・レガシー”を追い求めた“夢”のようなコンセプトである。
 完成すれば、東京の新たな“ランドマーク”になると期待も集めた。

 しかし、問題は、その“実現性”をどこまでプロポーザルに求めたかである。事業費および工期についての考え方も提出することにしていたが、その内容はA4版1枚、または1000字以内と定められていたという。
 「1300億円」の巨大建設プロジェクトの国際コンペの募集要項としては、“破格”に簡略な扱いであったと思われる。
 “デザイン・コンクール”なので、提案者にはデザインの卓越性だけを求めて、“実現性”は厳格に求めず、審査する側が検証するという姿勢だったのだろうか。それならば審査する段階で“実現性”を精緻に検証しなければならない。


46作品が応募 最優秀作品はザハ・ハディド氏のデザイン
 国際デザイン・コンクールの募集は、2012年9月25日に締め切られ、世界中から46作品が集まった。
 1次審査では、日本人の8人の審査員がそれぞれ推薦した作品について審査し、11作品に絞り込んだ。
 2次審査では、ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャースの両氏も審査に加わり、10名の審査委員で投票を行い、Zaha Hdid Architecs、COX Architecture、SANAA(Seijima and Nishizawa and Associates)+Nikken Sekkeiの上位3作品に絞った。そして、「未来を示すデザイン性」、「技術的なチャレンジ」、「スポーツイベントの際の臨場感」、「施設建設の実現性」などの観点から3作品について詳細に議論を行った。しかし、3作品は審査員の間で評価が分かれて、最後まで激しい議論が繰り広げられ、どれを最優秀案とするか決着が着かなかったという。最後は審査委員長の安藤氏が議論を引き取り、安藤氏はZaha Hdid Architecsの作品を最優秀案に選んだ。






(ザハ・ハディド アーキテクスの作品 出典 新国立競技場 国際デザインコンクール 最優勝賞)

「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」 
 Zaha Hdid Architecsの作品が評価されたポイントは、「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」である。極めてシンボリックな形態で、「背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイデアが示されている」としている。また可動式の屋根も“実現可能”で、イベント等の開催時には、「祝祭性」に富んだ空間が演出可能で、「大胆な建築構造がそのままダイナミックなアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがあった」としている。
 さらに「橋梁ともいうべき象徴的なアーチ状主架構の実現は、現代日本の建設技術の粋を尽くすべき挑戦となる」と評価している。
 これに対して、当初から、Zaha Hdid Architecsのデザインは、「景観」を壊すとして強い批判があった。ジャパン・タイムズは社説で「美しい神宮外苑の公園に、うっかり落とされた醜いプラダのバッグのようだ」とし、「ザハ・ハティドの呪い」とコメントしている。「歴史ある外苑の雰囲気に溶け込まない」、議論は未だに終息していない。
 審査講評では、Zaha Hdid Architecsの作品は、「実現性を含めた総合力」が評価されたとしているので、“実現性”も議論されたに違いない。“実現性”には、建築工法、工期、そして「1300億円」の総工費という条件がクリヤーできるかどうかも含まれていなければならない。審査の中で「1300億円」はどのように議論されたのだろうか?
 審査委員会では一部の委員からコストを懸念する声があったものの、複数の審査委員は、「技術調査」でコストの確認は別に行われていたと思い、審査委員会では、「1300億円」に設定されたコストの確認はチェックしなかったとしている。
 審査に加わった10名の内、都倉俊一氏と河野一郎氏を除く8名は、超一流の建築専門家である。応募作品を審査すれば、総工費がおおまかに1000億程度なのか、2000億なのか、3000億なのか位の“見当”は簡単につけることはできたと思うが、総工費を巡る議論は行わなかった。
「1300億円」ではとうていできないことが分かっていながら審査委員長の安藤忠雄氏を始め、審査委員のメンバーは、“夢”だけを求めて、あえて建設費には目をつぶったのであろうか?
 最後は、オリンピック招致のためのインパクトを最優先して、ザハ・ハティド氏のデザインを選んだとされている。
 審査委員長の安藤忠雄氏は、2015年7月7日に行われた最終的に建設計画を決定する「有識者会議」にも欠席して、この件では一切、口を閉ざしている。
 いずれにしても、コスト感覚が欠けた審査作業の杜撰な体質が問われることになる。
  

2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に成功
 2013年9月7日、アルゼンチンの「ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京がライバル都市のマドリードとイスタンブールを破って、2020年オリンピック・パラリンピック大会の開催都市に選出された。
 1964年以来56年ぶりの開催で、2回目の開催はアジアで初めてとなる。大会運営能力の高さや財政力、治安の良さなどが評価され、3都市による戦いを制した。
 東京の立候補は、リオデジャネイロ(ブラジル)開催が決まった2016年大会に続き2回連続で、今回、雪辱を果たした。「低コストの大会運営」を掲げたマドリードは3回連続、「イスラム圏初の開催」を目指したイスタンブールは5回目の挑戦だったが、ともに敗れた。
 東京は、2016年大会の招致レースでは国内支持率の低迷やロビー活動の出遅れが響き惨敗した。東日本大震災後の2011年7月、当時の石原慎太郎都知事が2020年大会への再挑戦を表明し、9月に東京招致委を立ち上げ、招致活動を開始した。
 招致活動では、ザハ・ハディド氏の新国立競技場のデザインを東京大会のシンボルとしてパンフレットや資料に載せ、セールスポイントの一つに位置付けていた。ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で、安倍晋三首相も招致演説の中で、新国立競技場の建設を“公約”した。
 ザハ・ハディド氏の新国立競技場の建設は、2020東京五輪招致のアピールポンイントの一つに使っていたのである。建設を中止するれば、国際的に日本の信用は失墜することになりかねない。新国立競技場の建設は国としての“面子”がかかっていた。





総工費試算「3000億円」 新国立競技場、計画縮小へ
 2013年10月23日、下村五輪相は、参院予算委員会で、新国立競技場をデザイン通り建設した場合の総工費の試算が「3000億円に達する」ことを明らかにし、初めて公式に、膨張する総工費問題を抱えていることを示唆した。下村氏は「あまりにも膨大な予算がかかりすぎるので、縮小する方向で検討する必要がある」と述べたが、流線形が特徴のデザインは維持し、開閉式の屋根や可動式の観客席を設置するコンセプトは踏襲するとし、ザハ・ハディド氏の案を基本的に進めるとした。
 経費節減策については、競技場と最寄り駅を結ぶ通路などの簡素化など「周辺整備経」を対象にするとした。
 「3000億円」発言の根拠は、日本スポーツ振興センター(JSC)が、内内に行った「フレームアップ設計」の結果にある。
 JSCはザハ・ハディド氏の案を採用後、国内の建築設計会社に業務を発注し、ザハ・ハディド案を“実現”する「基本設計」の準備作業(「フレームアップ設計」を始めていた。ザハ・ハディド案を“忠実に”実現し、各競技団体の要望を全て盛り込んで建設した場合、総工費の試算は「3535億円」、当初額の倍以上に膨れ上がるという試算結果が出ていた。 JSCでは試算結果「3535億円」を、2013年7月30日に文科省に報告し、その直後に「1358億円~3535億円」の7つの見直し案を文科省に報告していることが、その後明らかになっている。
 しかし、文科省は、「仮定の数字だが、3千億円はありえない額だ」として、「3535億円」の試算結果を真剣に受け止めず、規模や規格など建設計画の見直しを進めれば、総工費は縮減可能とし、ザハ・ハディド案で建設を進める方針を変えなかった。
 「3000億円」を半減させるには多少の見直しでは不可能で、抜本的に建設計画を再検討しなければならいことは自明の理だ。この時点で、文科省とJSCは、この時点で、決定的なミスを犯し、その後の新国立競技場の“迷走”の原因となった。
 建設関係者の間では、密かにザハ・ハディド案の“実現性”に一気に疑念が噴出した。

「アンビルドの女王」 ザハ・ハディド氏
 ザハ・ハディド氏はイギリス在住のイラク出身の建築家で、2004年、建築界のノーベル賞といわれているプリツカー賞を女性初、最年少で受賞した。
 建築家ザハ・ハディド氏の名前は、1983年に行なわれた香港の高級クラブの建築設計コンペで、彼女の設計案「ザ・ピーク」が1位を取ったことで、一躍、世界に知れるようになった。しかし、実際に、このデザインで建設されることはなかった。以後、その余りにも斬新なデザインで物議を醸しだしたり、“実現性”に問題があったり、建設費が膨大になり建設中止になったりするケースが相次いだ。「『アンビルド』(未建設)の女王」と揶揄されていたという。
 しかし、その後、ロンドンオリンピックで使われたアクアティクス・センターや香港工科大学のジョッキークラブ・イノヴェーション・タワー、ローマの21世紀美術館、ライプチヒのBMWセントラルビルディング、グラスゴーのリバーサイド博物館などが次々に実現され、今春オープンしたソウルの新名所「東大門デザインプラザ」の設計も手掛け、約40カ国でプロジェクトが進行中だという。世界各国から注目されている建築家の一人になった。
 ザハ・ハディド氏は、コンピューターを駆使した設計を得意とし、斬新な流れるような曲線で次世代のイメージを彷彿とさせるデザインが特徴的だ。またザハ・ハディド氏のデザインは最先端の建設技術を極限まで求めて、取り入れていることで知られている。今回の新国立競技場のデザインは、まさにザハ・ハディド氏流の“先端性”を十二分に発揮した作品と思える。
 筆者は、ザハ・ハディド氏のデザインを批判するつもりは一切ない。彼女は建築デザイン家として、“未来感覚の斬新さ”をあくまで追求してプロフェッショナルのデザインを創造する“芸術家”である。自由な発想で世界各国に“斬新”なデザイン作品を提示していくのは素晴らしいことだ。
 筆者がかつて勤務していたビルの隣に1964年の東京オリンピックの競泳会場となった国立代々木競技場第一体育館がある。この体育館の設計をしたのは丹下健三氏である。当時としては実に時代の先端を行く吊屋根形式のデザインであった。当時の建設技術では極めて難度が高く、実現が難しいのではないかと言われていた工法に挑戦した。当時その斬新なデザインにまったく批判がなかったわけではないだろう。しかし、その優美な曲線を持った外観は東京オリンピックのシンボルの一つとして今も評価され、代々木のランドマークとなっている。建築物の“先端性”とはこのように理解するのが適切なのではないか。“時代”の一歩先を行けば評価されるし、二歩先を行くと誰も理解してくれないが世の常である。ザハ・ハディド氏は、そのギリギリの境界を狙っている“挑戦的”な建築家だと思う。
 問題は、ザハ・ハディド氏のデザイン作品ではなくて、そのデザイン作品を審査する側にあるのではないか?


文科省 新国立競技場建設費「1692億円」上限に
 
 総工費「3535億円」の試算が出されているにもかかわらず、2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(「フレームワーク設計」)を元にして、新国立競技場関連の予算を新競技場建設費「1388億円」、解体費「67億円」、周辺整備費(立体公園、ブリッジ等)「237億円」、合わせて「1692」億円を“上限”とする方針を決めて、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
 これを受けて、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、総工費「1625億円」(消費税5%で試算)の建設費を文部省に提示し、合意した。
 この時点の基本設計案では、開閉式の屋根を設置し、観客席の一部は、サッカーやラグビーなどの試合では座席がピッチサイドまで自動でせり出す可動式が採用されている
 総工費に解体費や周辺整備を組み入れたことは評価できる。
 「1625億円」の負担は、JSCの運営するtotoの収入、国の一般会計、東京都が負担することとした。東京都には「500億円」程度の負担を要請したいとしている。仮に東京都が「500億円」負担すると残りの1125億円をtotoと国の一般会計で負担することになる計算である。
 しかし、実は、新国立競技場関連経費は、「1625億円」には参入されなかった日本青年館とJSC本部の移転・新築経費や新国立競技場設計監理費用、埋蔵文化財調査費など「279億円」別枠で計上されており、この他にも未計上の周辺整備費があることが明らかになっている。こうした関連経費を加えると総工費は「2000億円超」に膨れ上がるのは確実である。世論の批判をかわすために、膨れ上がる総工費を少なく見せる操作が早くも行われていた。こうして新国立競技場を巡る“迷走”は更に深刻さを増していく。

縮小設計案 景観配慮、5メートル低く 「1625億円」を維持


(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

 2014年5月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)の将来構想有識者会議(委員長=佐藤禎一元文部事務次官)が開かれ、最大8万人収容の新競技場の基本設計案が承認された。周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし、立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小するとした。19年9月開幕のラグビー・ワールドカップ日本大会に向けて2019年3月の完成を目指すとしている。
 基本設計案によると、敷地面積は当初計画通り約11万3千平方メートル、延べ床面積は当初計画の約29万平方メートルから25%削減し、約22万4500平方メートルとした。
 地上6階、地下2階、建物の高さは70メートル。スタジアムの外観は、ザハ・ハディド氏の流線形の案を元に、縮減案に合わせてデザインの見直しが行われ、総工費は「1625億円」とした。
 サッカーやラグビーなどの開催時は、観客席、1万5000席を電動可動式にして、9レーンの陸上トラック上を覆い、ピッチサイドまでせり出す方式を採用。芝生の状態を保つため、地中に温度を制御する装置を入れるなど、最新技術を駆使する。屋根は客席の上部は常設とし、グラウンド上部には可動式屋根を設置してする。「屋根」は、イベント開催時などに周辺に配慮するために、吸音性を重視した膜を使用して遮音性を高める。建築基準法上は「屋根」ではなく「遮音装置」だとしている。
 延べ床面積の削減で、、競技場周囲の取り巻く立体通路や、スポーツ博物館、レストランなどの商業施設、VIP席やボックスシートなどの関連施設も縮小され、900台収容だった駐車場は約660台に減らされた。
 建物の高さは70メートルにしたことについて、JSCの河野一郎理事長は会議後、「景観には配慮した」と述べている。
 またJSCでは「1625億円」とした総工費は、「2013年7月の単価、消費税5%」での試算であるとし、「消費税8%の増税分」や「資材費や労務費の高騰」でさらに総工費が膨らむ可能性を示唆した。
 「1625億円」は、競技場本体に約「1388億円」、公園や連絡通路などに約「237億円」と記されている。「1625億円」には「237億円」の周辺整備は含めていたが、「2520億円」には、周辺整備の「237億円」は除外された。
 また文科省が示した整備方針では含めていた解体費の「67億円」も除かれ別枠の予算措置とした。
 「2520億円」はすでに破綻していて、「237億円」と「67億円」を加えた「2824」億円とすべきだろう。
 関連経費は極力別枠にして、膨れ上がる総工費を“抑制”する“見せかけ”の操作である。
 また五輪大会開催後の収支見込みも示され、可動式の屋根を設置した場合には、現在の競技場では5億~7億円程度の年間の維持費は「46億円」に膨れるが、コンサートなどの多目的利用が進み「年間50億円を超す収入が見込める」とし、約「4億円」の黒字が達成可能とした。これに対して、屋根を設置しない場合には、収入「38億円」、支出「44億円」、「6億円」の赤字としている。
 この時点で、「3000億超」というゼネコン2社の試算があることを知りながら、文科省とJSCは建設計画を縮減すれば「1625億円」で建設できると判断したのである。余りにも杜撰な体質は一向に改まらない。
 文科省やJSCの関係者は、2020東京五輪大会の招致が成功したので、「国際公約」となっている新国立競技場の建設は、総工費が膨らんでも世界に自慢ができるスタジアムを建設できれば国民の理解は得られるのでないかいと、高を括っていたのではないかという疑いがある。
 しかし世論はそんなに甘くはなかったのである。

当事者能力を欠いていた文科省とJSC
 JSCで新国立競技場の整備を担うのは「新国立競技場設置本部」、2013年2月に発足した。本部長以下27人の職員のうち12人は文科省からの出向組が占める。本部長をはじめ、設計と工事を担当する施設部の部長と、施設企画課と施設整備推進課の課長は文科省の文教施設企画部から出向していた(2014年4月現在)。
 文教施設企画部は、国立大の施設整備などを担当しているセクションで、派遣されたのは技術系職員中心である。
 「新国立競技場設置本部」の担当者は、新国立競技場のような巨大スタジアムの発注・施工管理を担った経験は皆無で、建設計画を巡って設計会社やゼネコンと複雑な調整をする能力は期待できないという懸念があった。 
 また、斬新なデザインの新国立競技場の建設は、技術的に困難な工事が想定され、JSCは実施設計から建設企業を参加させるプロポーザル方式を採用した。技術力のある大手ゼネコンの大成建設と竹中工務店の協力を得ることで入札不調などの不測の事態を避け、確実に工事を進めたいとした。
 しかし、この方式が裏目に出て、巨大スタジアムの建設の実績があり、担当者の豊富にいるゼンコン側のパワーに、文科相もJSCの当事者能力ははるかに劣り、コントロールができななかったと思われる。
 とりわけ建設費の算定では、ゼンコン側の「言うまま」だっと思われる。文科省とJSCが主導して積算した「1625億円」の総工費に対し、昨秋ごろからゼネコン側はJSCに「この額では設計通りにはできない。工期も間に合わない」主張し、「3000億円超、工期50か月」を示した。
 文科省とJSCは、この積算を真剣に検討せず、事実上握り潰し、総工費「1625億円」で突き進んだが、結局、撤回に追い込まれる。
 「3000億円超、工期50か月」がJSCトップの河野一郎理事長の耳に届いたのは2014年3月、下村文科相が把握したのはさらに後だったとされ、混乱に拍車をかけた。
 新国立競技場のような巨大プロジェクトをマネージメントするには、担当者は高度の能力が必要となる。新国立競技場は、これまでだれも経験していない斬新なデザインの巨大スタジアム、難工事が想定されていた。 
 現状の文科省やJSCの体制で、新国立競技場建設をマネージメントするのは不可能で、てこ入れするなど、組織の見直しが必須であろう。

新国立競技場 施工者は大成と竹中
 2014年10月31日、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、工事施工予定者に大成建設と竹中工務店を選定した。
 大成建設は延べ面積約21万平方メートルの競技場など本体部、竹中は開閉式で遮音装置を設けた屋根を担当することになった。
 JSCは2014年8月に新国立競技場建設工事を2工区に分けて公募型プロポーザル方式(技術提携を結んだ特定の業者と契約を結ぶ方式)で技術提案を求めた。スタンド工区は大手ゼネコン3社、屋根工区は大手2社から提案書が出され、学識経験者ら7人からなる技術審査委員会によって審査された。
審査委は選定理由について、両社が工事で連携する姿勢を示している点などを評価した。
 ザハ・ハディド氏の斬新なデザインの構築物を建設するには、極めて高度な技術力が必要なため、JSCは実施設計から業者を参加させるプロポーザル方式を採用した。技術力のある大手ゼネコンの提携することで入札不調などの不測の事態を避け、確実に工事を進めることを目指したとしている。
 しかし難点は、一般競争入札と違って価格での競争がなく、「随契方式」の相対の交渉となり、総工費は高めになることだ。
 今後、大成建設と竹中工務店は具体的な仕様を決める「実施設計」を日本設計グループとともに策定し、焦点の総工費を決めて正式契約した上で、2015年10月に着工する。以後、新国立競技場の建設を巡る主導権はゼネコン2社が握ることなる。残念ながら、JSCや文科省にゼネコン2社をコントロールする能力があるとは到底思えない。




“迷走”国立競技場の解体工事 “五輪の聖地”に汚点
 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場として建て替えが予定されている国立競技場(東京都新宿区)の解体工事では、極めて異例の事態が立て続いて起きた。発注元の日本職員が参加業者の入札関連書類を提出期限前に一方的に順次開封し、その上で予定価格を操作したのでは-との官製談合疑惑も浮上、国会でも追及された。入札は3回も行われようやく決着したが、2014年9月に開始予定の解体工事は、大幅に遅れ2015年2月にようやくスタンドの取り壊し工事に着工した。2015年5月には、スタンドなど構造物の解体工事は終了、近代日本において数々の歴史の舞台数々の舞台ともなった国立競技場は跡形もなく消えた。しかし、解体工事にからむ一連の騒動は、“五輪の聖地”の最後の1ページに汚点を残した。

1回目の入札は「不調」
 2015年5月、第1回目の一般競争入札が行われ、準大手建設会社が中心に応札したが、業者側の提示額が落札の上限である予定価格をいずれも上回り、南工区、北工区ともに「不調」となり落札業者は決まらなかった。
解体工事は工区を南北の二つに分け、予定工事発注規模をそれぞれ「20億2000万円以上」としている。工期は来年9月30日まで。
 入札は、価格とともに業者の技術力などを点数化して評価する「施工体制確認型総合評価落札方式」で実施され、5月29日に開札した。南工区、北工区合わせてゼネコンを中心に4業者が参加したが、南工区、北工区ともにいずれも予定価格を上回り、随意契約も検討したが交渉がまとまらなかったとして、「不調」となった。JSCの担当者は「価格が折り合わなかった」とし。人件費の高騰などが背景にあったと伝えられている。

2回目の入札は「関東建設興業」が「38億7180万円」で落札
 国立競技場(東京都新宿区)の解体工事(北工区、南工区)の再入札で、日本スポーツ振興センター(JSC)は27日、いずれも解体業の「関東建設興業」(埼玉県行田市)が落札したと発表した。落札金額は計「38億7180万円」。
再入札では、予定価格を約1.2倍に引き上げ、技術力や施工体制を評価対象から外して参加資格を解体専門業者にも拡大し、北工区、南工区で延べ13社が参加した。
 再入札では、北工区、南工区ともに最低価格を下回る金額を提示した延べ3社については、工事の安全性などを確認する「特別重点調査」の対象とし、調査の結果、「書類に不備があった」として両社とも失格とした。そして、北工区、南工区ともに次に低い価格を提示した関東建設興業を落札業者に決めた。落札業者は、最も低い価格を提示した業者ではなく、“繰上”選定だったのである。
 これに対して、南北両工区とも最低落札価格を入れながら失格した解体業のフジムラは、入札手続きに不公正があったと疑義を唱え内閣府の政府調達苦情検討委員会に訴えた。

入札やり直し 苦情検討委、公正性に疑義
 2015年9月30日、内閣府の政府調達苦情検討委員会は、国立競技場(東京都新宿区)の解体工事で、「官制談合の疑いがあり、入札の公正性などが損なわれていた」として、日本スポーツ振興センター(JSC)に入札をやり直すよう求めた。
日本スポーツ振興センター(JSC)は同日、工事を落札した業者との契約を破棄し、改めて入札を実施すると発表した。
  検討委の報告書などによると、JSCは本来、入札期限(7月16日午後5時)以降に開封すべき工事費内訳書を期限前に開封。また、落札の上限価格に当たる予定価格も開封作業と並行して決めていたとしている。検討委は、「工事費内訳書の開封と並行して予定価格が決められた」とするフジムラの申し立てについもJSCを厳しく批判すると共に、「調達過程の公正性や公平性、入札書の秘密性を損なった」と指摘し、政府調達のルールを定めた世界貿易機関(WTO)の協定違反と認定した。
入札期間中に、発注者である文部科学省所管の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)に談合情報が寄せられ、JSCの職員が入札期間中にもかかわらず入札書類を開封、各業者の入札価格を確認するという前代未聞の“ミス”が発覚したのである。
 JSCは「手続きが不適切という認識がなかった。関係者にご迷惑をかけ、深くおわび申し上げる」とのコメントを出した。
 2015年10月7日の参院予算委員会国会では、この問題が取り上げられ、民主党蓮舫氏が「手続きが不公正で、官製談合の疑いがある」として疑惑を追及した。
これに対し、参考人として出席したJSC河野一郎理事長は「第三者を入れた部会の調査で、談合なしと決定している」と、疑惑の払拭に努めた。

3回目の入札で解体工事の施工者決まる
 2020年東京五輪のメーン会場となる東京都新宿区の国立競技場の整備に向けて、既存競技場を解体する施工者(南工区、北工区)がようやく決まった。
 12月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、競技場の北工区の解体工事の施工者を決める一般競争入札で、最低価格を下回る額を提示しフジムラに対し、工事の安全性などを確認する「特別重点調査」に入っていたが、“問題なし”として、施工者をフジムラに決めた。落札額は「15億4900万円」(予定価格「20億2220万1000円」)。
 南工区の施工者は、15日にすでに関東建設興業が施工者に決まっていて、19日から解体工事に入っている。
落札額は「13億9400万円」(予定価格「17億3956万6000円」)。
 南工区、北工区とも応札価格が最低価格を下回り、発注者のJSCでは工事の安全性などを確認する「特別重点調査」に入ったが、今回は“問題なし”とし、両者を落札者として決めた。

 こうして今年3月から始まった競技場の解体工事の入札は、異例の3回のやり直しを経て、ようやく施工者が決まった。 
 新国立競技場は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボル、次世代に残す“レガシー(未来への遺産)”にすべき施設整備に早くも大きな汚点を残した。今は取り壊されてしまった旧国立競技場は、国民の大半から“五輪の聖地”としても守られていた。新国立競技場は一体どうなるのだろうか?。





“迷走” 大会終了の収支目論見
「収入38億円」、「支出35億円」、「黒字3億円」

 2014年8月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、五輪終了後の収支計画を発表し、スポーツ大会やコンサートなどによる収入を「38億4千万円」、維持管理費などの支出を「35億1千万円」とし、年間「3億3千万円」の黒字を確保できる見込みという試算を公表した。
 注目された年間維持費について、可動式屋根や電動可動式観客席、天然芝に配慮した大型送風機や透過性ガラス屋根、観客席の冷房装置など、最新鋭のスタジアムを目指した結果、当初は「46億円」に膨れ上がるとしたが、その後、批判を浴びて経費を圧縮し、今回は「35億1千万円」に削減した。
 それでも旧国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、新国立競技場の事業規模は5倍超に膨らむことになる。JSCは「多角的な事業展開で自立した運営を目指したい」とした。
 さらに毎年の支出とは別に、完成から50年後までに大規模改修費として「656億円」が必要とした。毎年の経費に換算すると「13億円」を上回る巨額な経費だ。今回の収支試算では大規模改修費は除外されJSCは「大規模改修時は国に補助金を要請したい」とした。
 実は「大規模改修費」を毎年の維持管理費に含めると「3億3千万円」の黒字は吹き飛び、新国立競技場は毎年約「10億円」の赤字が必至となる計算なのである。まさに“見せかけ”の“黒字”だった。
 オフイスビルやマンションなどは、5年ないし10年ごとに保守・改修工事を行わないと建築物は維持できないのは常識である。高層ビルや新国立競技場のようは巨大な建築物では、その経費は巨額に上るのは自明の理で、大規模な構造物の収支試算を行う際は、大規模改修費も組み込むのは常識である。大会開催後に、新国立競技場の維持管理に一体どの位の経費がかかるのか、誰が負担するのか、さらに疑念が増すことになった。
 この日明らかにされた収入計画では、新国立競技場は、スポーツ大会を年間80日開催、その内通常の競技会が44日、大規模なスポーツ大会が36日開催し、合わせて3億8千円の収入、コンサートなどのイベントは年間12日開催して3億円の収入、合計9億8千万円のスポーツ・イベント収入を想定した。
 旧国立競技場コンサートの開催実績は年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)として大幅に増やす強気の想定をした。イベント開催に必要な屋根の建設は、新国立競技場の大会開催後の収入の確保にとって必須となった。
 そのほか、年間最高700万円のVIP室や会員専用シートの契約料で12億5千万円(プレミアム会員事業)、競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などとして10億9千万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8千万円(コンベンション事業)を見込んだ。
 さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などで収入を拡大するとしている。
 支出では電気設備や機械の修繕費として6億3千万円、年間2回の張り替えを含む芝の管理費として3億3千万円などを計上した。
 この事業計画の最大の問題は、年間、大規模なスポーツ大会が36日、コンサートが12日しかないことだ。残りの300日以上は、何に利用するのだろうか。「8万人」の巨大なスタジアムは、“気軽に”一般市民が利用するような施設ではない。

 “迷走”を繰り返している収支試算には“唖然”とするほかない。
 2014年5月に「1625億円」の建設計画を決めた際には、可動式屋根を設置した場合は、「収入50億円」、「支出46億円」、「黒字4億円」としたが、その目論見の試算が余りにも甘すぎるという批判を浴び、翌日、「収入45億円」、「支出41億円」、「黒字4億円」に変更するという大失態を演じた。
 そして今回更に圧縮され、「収入38億4千万円」、「支出35億1千万円」、「黒字3億3千万円」に事業規模を縮減した。
 見通しの“甘さ”に厳しい批判を浴びて修正を繰り返し、ここでも“杜撰さ”が問われる結果となった
 それにしても、毎回示される収支は、10%近い黒字になる“不自然さ”はつきまとう。試算は単につじつま合わせで、果たしてこの見通し通り運営できるのだろうか、信頼感はまったくない。


ゼネコン2社の見積もりは「3088億円」、「工期50か月」
 新国立競技場のスタンド工区は大成建設、屋根工区は竹中工務店がすでに担当することが決まっているが、2015年1月から2月にかけて、2社は施工会社として積算をやり直し、建設資材の値上がりや労務費の上昇などの物価上昇分や消費税8%の増分を加えて総工費「3088億円」、スタンド工区「1840億円」、屋根校区「1248億円」とする見積もりをJSCに提出した。また工期も「50か月程度」とし、2019年3月末の完成予定も8か月程度延びるとした。(検証委員会報告書)
 「3088億円」、「工期50か月」の前提は、延べ有価面積約22万平方メートル、ザハ・ハディド案の修正デザインで、当初案通り可動式屋根(遮音装置)やキール・アーチ、ピッチサイドの電動可動席1万5000席を設置する建設計画であった。
 このままの建設計画ではラグビー・ワールドカップに間に合わない恐れも浮上し、関係者に衝撃が走った。
 一方、JSCが委託した設計JVは総工費「2112億円」という試算を出していて、施工会社の見積もり額と約1000億円も開きがでて、二者の見積もりの乖離を調整するのは不可能であると、JSCは文科省に報告した。
 この報告を受け、文科省は、フィールド上の開閉式屋根の設置を五輪後に先送りすることなどで総工費を圧縮して、工期も短縮を図るなどを検討するように指示をした。


下村文科相、東京都に「500億円」の負担を求める
 
 新国立競技場の整備費、「1625億円」の財源問題も深刻だ。
 2015年5月18日、下村博文文科相は、舛添都知事に、新国立競技場の整備費約「500億円」(「580億円」とも伝えられている)の負担を求めた。
 さらに下村氏は、さらに建設計画の見直しを検討しているとし「屋根をつけると工期に間に合わない。建設費も1600億円では済まない」と初めて公の場で明かした。屋根の開閉部分の設置を五輪後に先送りし、観客席8万席のうち電動可動式の1万5000席を仮設にして費用と工期を圧縮すると説明した。
 しかし舛添都知事は、まず負担ありきの姿勢に反発。そもそも建設費総額が一体いくらになるのかも示さず、都の負担額を求めるのは納得できず、税金を払う都民に説明できないとして根拠の説明を求めた。事実上の門前払いだったとされている。
 新国立競技場の整備費には、本体工事費とは別に周辺整備費も必要となる。
 2014年1月、文科省は、新国立競技場関連の予算を日本スポーツ振興センター(JSC)に示したが、「周辺整備費237億円」という経費を明らかにしている。「237億円」には、明治公園の整備、周辺の人工地盤の建設、周辺道路の整備などが含まれている。
 東京都に負担を求めた「500億円(580億円)」の内訳について、「周辺整備費」に加えて、競技場の客席を覆う天井や空調設備やバリアフリー設備などの本体工事に含まれる経費も入れて積み上げた額といわれている。
 東京都が負担するのは、最大でも「周辺整備費237億円」とするのが妥当だろう。


1万5000席は仮設に、開閉式屋根は五輪後先送り 再縮小設計案 
 「総工費3000億円超 工期50か月」のゼネコン2社の目論見を受けて、文科省や日本スポーツ振興センター(JSC)は、最大8万人収容の観客席のうち、サッカーやラグビー開催時に陸上トラックにせり出す電動可動式の1万5000席の観客席を手動着脱式の仮設席に変更するとともに、焦点のグランド上部の開閉式屋根の設置は五輪後に先送りにして費用を圧縮し、さらに安価な資材を使用してなどして整備費を「2500億円程度」に縮減することで検討していることを明らかにした。
 「2500億円程度」は、すでに文科省とJSCが定めた「1625億円」(上限)から、約「900」億円も膨れ上がった額である。
 新国立競技場の総工費は、まさにとどまることを知らない“青天井”になっていた。
 焦点の流線形の屋根を支える2本のアーチは、一部の専門家からは技術的に難しく、建設費が膨らんで工期が延びる原因だとして見直しを求める声が出ていたが、大会後の建設を目指すとして、現行通り建設することを決めた。
 一方、固定式の観客席上部の屋根は当初予定通り設置するとし、基本設計を進めるとした。
 しかし、遮音効果があり、雨もしのぐグランド上部の開閉式屋根は、五輪開催後、コンサートやイベント利用などを増やす「多機能スタジアム」にするために計画され、新国立競技場整備計画の“目玉”である。
 五輪後の収入の目論見にも暗雲が立ち込め始めた。
 相次ぐ混乱の原因は、「流線形の斬新なデザイン」だとされている。ザハ・ハディド氏のデザインは、競技場の屋根を支える「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大アーチが特徴的な構造物である。この「キールアーチ」は長さ約370メートル、直径7メートルにも及ぶ巨大なアーチで、施工が極めて難しく、高価な高品質の鉄が2~3万トン近く必要になるという。建設費は2本で1000億円程度に上るといわれている。「キールアーチ」の建設費だけで、新しいスタジアムが一つ建設できるだろう。「奇抜なデザインを選んだツケが今になって回ってきた」と批判する声も出てきている。
 さらに問題なのは、これまで新国立競技場の総工費には「237億円」の周辺整備を含めて算出していたが、今回の「2500億円程度」では、「237億円」の周辺整備費がどうなっているのか明らかにされていない。総経費を圧縮するために操作した懸念が生まれる。
 再三にわたって“迷走”を繰り返す新国立競技場の建設問題については、その責任体制のお粗末さが問われてもしかるべきであろう。
 文科省やJSCはこうした巨大プロジェクトのマネージメント能力に欠けているというだろうか? 先が思いやられる。

総工費「2520億円」 屋根を支えるアーチ構造などが原因で経費膨張
 2015年7月7日、新国立競技場建設の事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」を開き、最大8万人収容の新競技場の基本設計案が承認された。
 基本設計案によると、周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小、当初案の約29万平方メートルから、21万1000平方メートルに縮減するとして前回の案を堅持した。
 敷地面積は当初計画通り約11万3000平方メートル、外観は、ザハ・ハディド氏の流線形の案を元にデザインされ、地上6階地下2階。総工費は「2520億円」とした。
 「2520億円」の整備費は2014年5月に定めた基本設計案の「1625億円」より約「900億円」増えた
 建設費が「3000億円超」に膨張する可能性が明らかになり、世論の集中砲火を浴びる中で、「3000億円」を約「500億円」下回る縮減建設計画案が示されたのである。
 大成建設が担当するスタンド工区が「1570億円」、鹿島建設が担当する屋根工区が「950億円」となった。
 JSCは一両日中にも大手ゼネコンと契約を結び、今年10月に着工、19年5月の完成を予定し、19年9月開幕のラグビーW杯の開催に間に合わせる方針は堅持した。
 見直しを決めた有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日は大阪で所用があったとして会議には参加せず、余りにも“無責任”という激しい批判が浴びせられた。

 縮減建設計画では、新国立競技場の斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は設置するが、開閉式の屋根の設置は大会開催後に先送りにしたり、電動可動式の観客席を着脱式の仮設席にしたり、芝生育成補助システムの設置を取り止めたりして、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もった。
 一方で、経費増の最大の要因は「キール・アーチ」設置ための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増「765億円」である。
 「765億円」の内訳は、「キール・アーチ」と呼ばれる屋根の鉄骨やスタンドの鉄骨、内装費、そして大量の建設残土の処理など経費増としている。しかし、「765億円」のこれ以上の詳細な内訳の説明はなかった。
 また、建設資材や人件費の高騰分で約25%増、「350億円」、消費増税分が「40億円」、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとし、「260億円」の削減を差引すると、「895億円」の経費増になるとした。
 JSCは「2520億円」は「目標工事費」としており、物価動向などで増える可能性があるとしている。
 大会後に設置予定の仮設の観客席1万5千席はこの日の有識者会議の要望を受けて再び大会に合わせて常設化を検討することになった。観客席1万5千席の設置経費は「2520億円」には含まれてはなく、更に経費が必要となる。
 大会後に設置予定の開閉式屋根や1万5千席の仮設観客席は、現時点の試算で約「188億円」(屋根の設置費168億円、仮設観客席20億円)の経費が必要といている。
 屋根を設置した場合の年間の収支見込みも明らかにした。
 2014年夏の試算では、収入「38億4000万円」、支出「35億1000万円」、「黒字3億3000万円」としていたが、これを屋根を設置しない場合は、「38億円」、支出「44億円」、赤字「6億円」とし、屋根を設置した場合は、収入が「40億8100万円」、支出が「40億4300万円」で、かろうじて「3800万円」の黒字に転換すると試算を改めた。
 「3800億円」の黒字では、可動式屋根の建設費「168億円」を償却するには、40年以上必要となる計算で、大会後に可動式の屋根を建設するという計画はほとんど現実味がない。一体誰が「168億円」を負担するのだろうか。
 さらに問題なのは、建設後50年間に必要な大規模改修費は約「1046億円」と見積もったことである。
 毎年の経費として計算すると、年間、約「20億円」の巨額な経費だ。これを収支に組み入れると微々たる黒字は吹き飛んで、実は毎年巨額の赤字が出るのは必至だ。
 有識者会議のメンバーとして出席した東京都の舛添要一知事はこの計画を了承したが、焦点の都の費用負担については明言しなかった。


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

 猪瀬前東京都知事は、日本テレビのうえいくアッププラス(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区の工費の詳細を明らかにしている。

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事               86.1億円
          鉄筋工事              42.3億円
          鉄骨工事             208.7億円
          木工事               22.1億円
          金属工事             104.7億円
          電気設備             135.3億円
          空調工事             100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事               44.3億円
          鉄骨工事             427.8億円
          防水工事               5.7億円
          電気設備              30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)







■ 誰が負担するのか 財源不足は「1000億円」超は必至
 「2520億円」の巨額の経費は、一体、誰が負担するのだろうか? 最大の問題である。
 すでに決まっているのは、国が「392億円」、スポーツ振興基金の取り崩し「125億円」、スポーツくじ“toto”(売り上げの5%:2013年と2014年分)で「109億円」、合わせて「626億円」だ。
 これに期待されているのが、東京都「500億円」、命名権の売却や民間からの寄付「200億円」、toto(売上の10%に引き上げ:5年間[想定])「660億円」、最大「1360億円」程度である。
 すべてこの目論見通り進んでもまだ「534億円」が不足している。
 さらに、バリアフリー整備などの欠かせない周辺整備費「237億円」が経費に含まれているかどうかが曖昧になっている。仮に「237億円」を加えると「771億円」の財源が足らない。 大会後に設置する着脱式の1万5千席の設置費や“可動式の屋根”設置(約188億円)を加えると現状でも、必要財源は「1000億円」は軽く超えると思われる。
 「1000億円」を誰が負担するのだろうか? 結局、国民や都民の税金が投入されるのだろうか?

■ 国際公約 新国立競技場の建設
 建築家ザハ・ハディド氏の「流線型」のデザインは五輪招致のシンボルとして国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルなどにも掲載されている。
 計画を変更しなかった理由とされるもう一つが、国際オリンピック委員会(IOC)との「約束」だ。五輪招致時に新国立競技場のデザインを大きなセールスポイントと訴えてきたという経緯がある。東京五輪の開催が決まった2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で、安倍晋三首相も新国立競技場の建設を公約した。公約が守れなければ日本の面目は丸つぶれである。2020東京五輪大会は準備段階で、世界から失笑を買う失態を演じた。

 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
 新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。仮にtotoを財源にして新国立競技場の建設費に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
 オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催都市は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかを重要な課題として取り組まなければならない。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
 東京大会コンセプトは「世界一コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしていた。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」はあえなく挫折し、陸上競技の“聖地”にするというスローガンも風前の灯だ。
 新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。







東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 競技会場の全貌
“もったいない”五輪開催費用「3兆円」 青天井体質に歯止めがかからない! どこへ行った「世界一コンパクトな大会」











国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2015年7月7日
Copyright (C) 2015 IMSSR






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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net / imssr@a09.itscom.net
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新国立競技場 新デザイン 維持管理費 長期修繕費 ライフサイクルコスト 隈研吾 大成建設

2018年05月12日 09時35分55秒 | 新国立競技場
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4)
新デザイン「木と緑のスタジアム」
維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる





「8点差」の僅差で勝った大成建設・梓設計・隈研吾氏チーム
  12月22日、政府の関係閣僚会議(議長・遠藤五輪相)は、新国立競技場の整備で2チームから提案されていた設計・施工案のうち、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案で建設することを決めた。
 安倍総理大臣は、「新整備計画で決定した基本理念、工期やコスト等の要求を満たす、すばらしい案であると考えている。新国立競技場を、世界最高のバリアフリーや日本らしさを取り入れた、世界の人々に感動を与えるメインスタジアム、そして、次世代に誇れるレガシー=遺産にする。そのため、引き続き全力で取り組んでいただきたい」と述べた。
 その後に会見した遠藤利明五輪担当相は、これまで非公表だったA案の提案者は、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームだと明らかにした。したがってB案は竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム。
 日本スポーツ振興センター(JSC)が関係閣僚会議に報告した審査委員会(委員長=村上周三東京大名誉教授)の審査結果は、A案が610点、B案が602点だった。A案は工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得たのが決め手となった。注目されるのは、デザインや日本らしさ、構造、建築の項目ではB案が上回っていることである。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。
また、白紙撤回された旧計画を担当した女性建築家のザハ・ハディド氏は、事務所を通して声明を発表し、「新デザインはわれわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」とし、「デザインの知的財産権は、自分たちが持っている」と主張した。さらに「悲しいことに日本の責任者は世界にこのプロジェクトのドアを閉ざした。この信じ難い扱いは、予算やデザインが理由ではなかった」とし、建設計画見直しへの対応を批判した。 
 採用されたA案は、木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴。地上5階、地下2階建てで、スタンドはすり鉢状の3層として観客の見やすさに配慮。高さは49・2メートルと、旧計画(実施設計段階)の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総床面積19万4010平方メートル、収容人数は6万人(五輪開催時)。総工費は約1489億9900万円、工期は36か月で、完成は19年11月末である。
 一方採用されなかったB案の総工費は、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げ、地3階、地下2階建てで、スタンドは2層、高さは約54.3メートル、総床面積18万5673平方メートル、収容人数は6万8000人。総工費は約1496億8800万円、工期は34か月で、完成は19年11月末である。



求める技術提案書及び審査基準について 日本スポーツ振興センター(JSC)


審査結果 日本スポーツ振興センター(JSC)






技術提案書A案のイメージ図  新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供






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新国立競技場“仕切り直し” 2グループの提案書の概要は?
 2015年12月14日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、設計・施工の一括公募に応じた2つのグループから提出された技術提案書を公開した。いずれも総工費は1500億円弱で、工期は2019年11月30日完成の提案となった。
 斬新なザハ・ハディド案に比べて、2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、名付けたタイトルはまったく同じ「杜(もり)のスタジアム」だった。
 A案のコンセプトは「木と緑のスタジアム」、スタジアムを取り囲む階層式のテラスにふんだんに緑を取り入れ、屋根にも多くの木材を用いている。観客席を同じ形のフレームを連続して組み合わせてシンプルな構造にするなどして、コスト削減と工期短縮を図った。総工費は約1489億円。
 B案は「21世紀の新しい伝統」がテーマで、白磁の器のようなスタンド2層スタンドで、長さ19メートルのカラマツ材の柱72本で支えるデザイン。設計や地盤改良工法の工夫などでコストの抑制を図るほか、掘削する土の量を削減することなどで工期を短縮させるとしている。総工費は約1496億円。
 JSCの審査委員会は、2つのグループから提出された技術提案書をあらかじめ定められた採点方式で審査したうえで、評価点が優れていた12月22日A案を選定した。



技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業 大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

ザハ・ハディド案 日本スポーツ振興センター(JSC) 国際デザイン・コンクール

疑問! 新計画「1550億円」で示されなかった新国立競技場の収支とライフサイクルコスト 責任を回避か?
 2015年7月7日に公表された「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、建設費の上限は明らかにしたが、毎年の収支見込みやライフサイクルコスト(維持管理費や長期修繕費)を明らかにしなかった。
  “白紙撤回”された旧計画「2520億円」の建設計画を公表したときには、五輪開催後の毎年の収入は「40億8100万円」、支出は「40億4300万円」、「3800万円」の黒字という収支の見込みや完成後50年間の長期修繕費、「「1046億円」の見通しを公表した。
 仕切り直しの新建設計画では、建設経費削減のためにイベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える機能はすべて取りやめている。その結果、収支の目論見も変わり「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は、破産しているはずである。収入源に見合った維持管理経費の削減が必須だろう。
 今回の建設計画の見直しでは、国は新国立競技場の運営権を民間企業に売却し民間企業の活力をフルに活用するとしている。
 しかし、民間企業といえども、大会後の収支を合わせるのは至難の業だろう。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、「民間委託」した上で収支構造をしっかり管理させるとしているが、五輪開催後の収支の見通しについては一切コメントしていない。
 新国立競技場の今後は、運営を担う「民間企業」に丸投げされてしまった。


巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?



 新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残すスタジアムだろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を定期的に行わないと施設は維持できないのは常識である。 巨大な構造物を建設する時には、建設費のイニシャルコストに合わせて、完成後の維持管理費や長期修繕費も含めて建設計画を検討しなければならない。
 「2520億円」の建設計画では、50年間の長期修繕費は「約1052億円」、毎年約21億円の巨額の経費が必要だとしている。そして、JSCではこの「約1052億円」は、毎年の収支の目論見とは別枠にして、初めから公的資金を財源としてあてにしていることを明らかにした。
 今回、建設費「1550億円」の上限だけを示して、五輪終了後の収支やライフサイクルコストの見通しを国として明らかにしないのは無責任といわれてもいたしかたないだろう。そのツケは国が負うことになるのは明らかだ。
 12月14日、公表された2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、木材をふんだんに使った構造は、どこか法隆寺や縄文遺跡を彷彿とさせて「ぬくもり」感があふれ、国民から好感を得られるのではという印象だ。しかし、維持管理費は長期修繕費がどうなるかはしっかり検証しなければならないだろう。

公募の審査評価点に登場した「維持管理費抑制」
  今回の公募では、建設計画を評価するにあたって、「コスト・工期」を最重要視したが、その項目の中に、竣工後の「維持管理費抑制」という項目を入れ、設計上の工夫を求めた。巨大な構築物は、竣工後の膨大な維持管理費や長期修繕費の後年度負担が発生する。建設計画立案時から「維持管理費抑制」を念頭に置くのは必須である。
 「維持管理費抑制」に与えられた評価点は、10点(全体140点)だが、公募にあたって、「維持管理費抑制」という視点が設けられたことは大いに評価したい。
 選定されたA案は44点(審査員7人合計)、選定されなかったB案は50点(審査員7人合計)で、「維持管理費抑制」の評価では、選定されなかったB案がA案を6点も上回っている。
 A案の欠点は、「維持管理費抑制」の設計上の工夫は、かなり詳細に記述されているが、具体的に毎年の維持管理や長期修繕費がいったいどのくらい必要なのか明らかにされていないことだ。
 これに対し、B案は、“白紙撤回”された旧計画「2520億円」の建設計画で示された長期修繕費の試算「1046億円」を基づいて、「設計上の工夫を行わない場合の新建設計画」、そして「設計上の工夫を加えた場合の新建設計画」の3つのケースで、それぞれ維持管理費(長期修繕費も含める)がいくらになるか、試算を明らかにしている。そして、設計上の工夫での維持管理費の縮減効果が具体的にはっきりわかるようになっている。
 こうしたことで、「維持管理費抑制」の項目では、選定されなかったB案が、選定されたA案を6点も上回ったと思われる。
 A案とB案の建設計画案で、「維持管理費抑制」にどのように設計上の工夫を具体的に行われたか、その詳細に見てみよう。





100年続くスタジアムの実現 A案
 A案では、「100年続くスタジアムの実現」を掲げ、「高耐性・長寿命」、「メインテナンスのしやすさ」、「未利用エネルギーの活用」、「利用エリアの限定」の4つのカテゴリーで、38項目にも及ぶ詳細な設計上の工夫を取り入れ、維持管理費を抑制し、「100年」を視野に入れた建設計画を作成した。
 竣工後のメインテナンスを視野に入れて、耐久性のある部材を選んだり、メインテナンスがし易い構造や設備を導入したりして、維持管理費の縮減に努めている。
 また太陽光や風などの自然エネルギーを活用したり、下水管の排熱を利用したり、芝生育成システムや樹木の植栽にも配慮がなされ、“省エネ”スタジアムを目指している。
五輪開催後のイベント開催も視野に入れて、イベント規模に応じた「部分使用」が可能なシステムにしている。2~3万に規模のイベントも開催し易くなるだろう。
 竣工後の50年間の長期修繕計画も策定され、ライフサイクル・マネージメントへの取り組みは評価できるだろう。
 しかし、新国立競技場の維持管理費が一体どの位になるのか、いくつかの項目では、縮減率は記載されているが、具体的な経費額の試算が記載されていない。維持管理費の試算額を明らかにしたB案と比べると、“具体性”で一歩、差が付いた。A案、B案の6点差は、維持管理費の“具体性”の優劣だと思う。
 筆者は、「建設費」や「工期」、「デザイン」と並んで、「維持管理費」や「長期修繕費」のライフサイクルコストや「収支」が極めて重要と考える。膨大な後年度負担を次世代に残すのは避けなければならない。新国立競技場の建設計画はまだ決着してない。新国立競技場が負のレガシー(負の遺産)になる懸念はまだ拭い去れない。

 *ライフサイクルコストの低減率の算定は、実現性を踏まえ、運用50年間で試算

■ 耐久性の高い工法の採用とメインテナンスのし易さに配慮した設計で長寿命化
 ▼ 屋根鉄骨部への「亜鉛めっき」仕上げの採用
 塗装作業に作業量と経費かかる屋根鉄骨部分を「亜鉛めっき」仕上げとして塗り替えに伴うメインテナンス経費を削減する。修繕費は約11%削減される。
 ▼ 屋根木材部に高耐久性木材を採用
 屋根トラスに使用する木材は、雨がかからない場所に設置し、寿命の長期化を図る。また、使用する木材の耐用年数を改善する「加圧注入処理」を施す。
 ▼ 移動式メインテナンス・ゴンドラの設置
 4台の移動式ゴンドラで、すべての屋根架橋での作業が容易にできるようにしてメインテナンスを効率化する。修繕費が約38%削減する。
 ▼ 「風の大庇」へのアルミルーバーを採用
 ▼ 屋根仕上げ材へのステンレス塗装鋼板の採用
 ▼ 移動式メインテナンス・ゴンドラの設置
 ▼ 屋根南面のトップライトに網入り合わせガラスを採用
 ▼ 日射や風雨にさらされる外周部の柱は耐水性に優れているSRC製を採用
 ▼ 観客席の斜め梁には止水性と耐久性を持続できるSRC製を採用
 ▼ 地下外周擁護壁を設置してスタンド躯体が地下水を影響を遮断
 ▼ 軒庇木部へ「加圧注入処理」済の高耐久木材の採用

■ 樹木の種類の選定や植栽の配置を工夫 植栽の保全維持管理費を抑制
 ▼ 「空の森」 維持管理の容易な常緑樹で外苑の気候に適合し病虫害にも強い樹木を選定
 ▼ 「空の森」 植栽配置の工夫で維持管理の抑制
 ▼ 防風・転倒対策により安全性の確保
 ▼ 軒庇上部植栽のユニット化
 ▼ 外溝樹木の大地への植栽による健全な生育の確保
 ▼ 「大地の杜」散水用の井戸設置

■ 自然エネルギーを有効に利用した芝育成システム
 ▼ 維持管理が容易な夏芝の導入
 オリンピック・パラリンピックが競技大会が開催される夏季の過酷なコンディションに耐えるために、強健な夏芝種を採用する。一般に半屋外スタジアムで採用されている冬芝種を育成する場合と比較して、農薬散布量や散水量等を低減する。芝生維持管理費を約25%削減する。
 ▼ トップライトの採用で補光設備の運転時間を低減
 芝生(ピッチ)に自然光が多く取り込めるように屋根の南側には日射量を確保するためにトップライトを設置し、日照時間の最も少ない冬至でも水平面全天日射量の平均で約40%~45%の日射量を確保する。
 年間平均で、芝生(ピッチ)の水平面全天日射量70%を確保するために、補光設備を設置して日射量を補う。トップライトの設置で、補光設備の運転時間が低減され、設置台数も約13台の削減が可能となる。
 消費電力量は約42%削減される。


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

▼ 季節風の積極的な利用
 夏季は卓越風をスタジアム内部に積極的利用し、芝生(ピッチ)の通風を確保し、芝生の維持管理を図る。通風の確保のために設置する大型送風機設備を部分的に停止しても、芝生(ピッチ)の良好な通風が保たれる。
 電力量が約10%削減される。


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

 ▼ 天然芝の育成
 芝生(ピッチ)は夏芝を選定し、生産圃場で24か月以上育成管理を行い、良好な芝張りを実施する。
 東京オリンピック・パラリンピック開会式を開催すると、芝生が荒れ、その後に開催されるサッカー競技などに影響が出るため芝生の全面張り替えが必要となる可能性がある。日本スポーツ振興センター(JSC)と協議して、万全の芝生(ピッチ)コンディションを確保できるような協力体制を整える。
 ▼ 土壌の水分量を均一にする基盤構造と均等散水設備の整備
 地下水がピッチまで到達しないように遮断壁を設置し、芝生の健全性を確保する。フィールドの排水が集中豪雨の場合でもスムーズに処理できるように雨水流出抑制槽を必要量より大きく設計し、フィールドやピッチが冠水しないように配慮する。
 散水設備は、ポップアップ式散水施設を採用し、芝生面に均一に散水できるようにして、散水量の低減を図る。
 芝の育成管理に欠かせなない地中温度制御システムは、12系統に分けて個別に地中温度を制御可能にした。特にイベント開催後に、弱った芝の根張りを促し芝生を回復させたり、高温多湿の夏季に芝生の養生を行ったりする。


■ イベントの規模に応じた部分使用が可能な計画で維持管理費を削減


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

 ▼ 約90%のイベントを1層スタンド(座席数2.3万席)のみで運営可能とすることで維持管理費を削減
 ▼ 1層スタンドは4分割できる計画として、さらに維持管理を削減


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

 ▼ 客席ゾーン、階層ごとに設備系統の分離し、省エネルギー、省メインテナンスを実現
 ▼ 「空の杜」には屋外階段を設置し、外部から直接アクセスが可能にして、市民が自由に利用できるスペースとする


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

■ 設備システムの適切化で光熱費や管理コストを削減し、更新性に配慮
 ▼ 未利用エネルギーである下水熱を芝育成熱源に利用
 新国立競技場の敷地内を通過する下水本管から採熱して、芝育成のための地中温度制御システムの熱源として利用する。一般的な空調の熱源システムに比べて、年間を通して高効率な運用が可能でランニングコストを低減する。
 光熱水費が約30%削減される。
 ▼ 個別空調と中央熱源空調のベストバランス化
 光熱水費が約5%削減される。
 ▼ 待機電力と変圧器負荷損失を削減
 光熱水費が約4%削減される。
 ▼ 待機電力と変圧器負荷損失を削減
 ▼ 機械式駐車設備費用の無いへ平面駐車の駐車場計画
 ▼ シースルー薄膜太陽電池の採用で、自然エネルギーの利用
 ▼ 主要設備機器の最適運転制御による光熱費の削減
 ▼ 管理の縦動線を各エリアごとに集約配置して維持管理機能を南側に集約
 ▼ 設備機器は、機器や部品の迅速な供給やメインテナンス、機器更新が容易な国産メーカーの汎用品を採用
 ▼ 仕上げ材等への汎用品・標準品に採用
 ▼ メインテナンス・機器の更新に配慮した設備スペース
 ▼ 非常用エレベーターで5階まで昇降可能にし、屋根に設置された設備や機器のメインテナンスや機器更新を省力化

■ 竣工後も適切なタイミングで運用を支援し様々なニーズに迅速に対応


新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供

機能美を体現したシンプルなスタジアム 「50年間で600億円」維持管理費削減 B案

■ 縮減効果の算出
 B案の建設計画で、竣工後50年間の維持管理費がどうなるかを「旧計画」、設計上の工夫を加えない場合の「A」、設計上の工夫を加えた「B」の3つの試算を比較して、B案の維持管理費の縮減効果がいかに優れているかを具体的な縮減額を掲げて明らかにしている。

・「旧計画」  
 “白紙撤回”された総工費「2520億円」の建設計画(2015年7月7日)での長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
 「2798億円」(50年間)    「56億円」(毎年)       

・「A」
 B案の建設計画で公的な算出基準(一般財団法人建築保全センターの基準)に基づいて算出した維持管理費
 長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
 設計上の工夫による維持管理費削減は含まれていない
 「2157億円」(50年) 43億1000万円(毎年)

・「B」
 B案の建設計画で設計上の工夫を加えて削減した維持管理費
 長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
 「1553億円」(50年間) 「B」に比べて「604億円」の削減
 「31億1000万円」(毎年)「B」に比べて約28%削減  

* 3つの試算とも、人件費や租税公課、備品や消耗品等その他経費は含まれていない。


新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

50年間の維持管理費の試算 B案
 B案で新国立競技場を建設した場合、50年間に維持管理費がどの位になるのかを試算している。「旧計画」や設計上の工夫を行わない場合の「A」の経費額も記載され、B案の維持管理費縮減効果分かり易く説明している。
 これによると、50年間の維持管理費は、総額で1553億円と試算し、「A」と比較して、604億円、28%の縮減が可能になるとしている。
 この内、修繕・更新費では、縮減効果が546億円、管理運営費が25億円、管理運営費が25億円としている。
 しかし、試算を行う上で、10年毎程度に必要な大規模修繕費は、「旧計画」(「2520億円」の建設計画)を策定した際に試算した額、「1048億円」(完成後50年間)をそのまま使用し、毎年の維持管理費にはその50分の1の経費を入れ込みこんで試算している。木材を大量に使用した新デザインのスタジアムの大規模修繕費は新たに試算する必要があるのではないか? 疑問と懸念は依然として残された。






新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

 ▼ 民間のデータ、ノーハウを利用
・BIMデータの活用
・適切な維持管理のために竣工前、竣工後の取り組み
  非効率な機器の使用や過剰な清掃等は、維持管理費や人件費の増大につながるため、実績と経験に基づいた民間のノーハウを活用してメインテナンスの基準を作成する。


新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

*BIM(Building Information Modeling)
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、建築情報や構造情報、設備情報などの属性データも加えた建築物の統合データベースを作成し、このデータを活用して、建築の設計、施工から、竣工後の維持管理まで、あらゆる工程で建築物を管理する。
BIMのソフトウエアで建築物の3次元モデルを作成し、設計から施工、維持管理に至るまで建築物のライフサイクル全体でBIMモデリングに蓄積された情報を活用することで、建築ビジネスの業務を効率化し、イノベーションを起こす画期的なワークフローとされている。

シンプルな仕組みで維持管理費のしやすいスタジアムへ ~維持管理費を抑制させるための具体的方策~

■ 管理運営費縮減に向けた具体的取組
▼ 清掃費の縮減
▼ 外溝・植栽維持管理費の縮減
▼ 警備費の縮減
使用状況によってシャッター区域等で出入り口制限が可能なような平面計画とする。駐車場はイベント用と施設用に区分けされ、4つのエリアが独立して使用可能とする。VIPラウンジは転用して利用可能にする計画とし、外部からの専用アクセスルートを設ける。


新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

■ 水道光熱費縮減に向けた具体的取り組み
▼ 電気料金の縮減
災害対策用で設置されている保安用発電機を利用し、イベント開催時のウルトラピークを約34%カットすることで、基本料金を抑えて年間2400万円を縮減する。太陽光発電設備、40kWhを設置し、年間約230,000kWh発電することで、約300万円の電力料金を節約する。地中熱、下水熱を利用する超高効率熱源システムを導入して、空調用の電気料金を年間約260万円縮減する。大型映像スクリーンをLED1in1を採用して、平均消費電力量を約70%カットして、年間700万円の電気料金を削減する。
▼ 上水料金の縮減
 雨水や井戸水を、芝生散水、植栽灌水、水景色やトイレ洗浄水に利用して、年間1600万円の水道料金を縮減する。






新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供

 B案では、維持管理費縮減について、設計上にどんな工夫を行ったかと共に、各項目別に縮減額の試算を明示して、新国立競技場竣工後の維持管理費が一体どのようになるかを明らかにしている点で大いに評価したい。
 巨大な建設物を整備する場合、完成後のライフサイクルコストを念頭に置いて建設計画を立てるのが常識になっている。新国立競技場は、50年、100年先までを視野に入れたレガシー(未来への遺産)を目指しているはずである。五輪開催後の維持管理をどうするのか、10年ごとに必要になる大規模修繕費はどうするのか、展望をもたなければならない。
 今回のB案のプロポーザルで、課題は残るにしても、ようやく今後の50年間の維持管理費の方向性が見えてきたようである。

新国立競技場の経費のシミュレーション~人件費や公租公課等を加えるとどうなる?~
 新国立競技場の維持管理には、管理運営費や修繕費、光熱費等の維持管理費の他に、人件費や租税公課、備品や消耗品など経費などが必要となる。
 新国立競技場の収支を見る場合には、人件費や租税公課等の経費も加えた広義の維持管理費で見る必要がある。
 白紙撤回された「2520億円」の建設計画を決めた際には、管理運営費や修繕費、光熱費等の維持管理費と共に、人件費や租税公課等の経費を明らかにしている。その額は年間5.38億円、50年間で269億円である。
 この年間5.38億円、50年間で269億円をB案の維持管理費の試算に加えてみよう。(A案には維持管理費の試算が明らかにされていない) 但し、今回の建設計画の規模は、白紙撤回された「旧計画」より約10%~15%程度、縮小されているので人件費や租税公課等の経費額も縮減されているかもしれないがこのシミュレーションでは同額を想定する。
 また大規模修繕費も、「旧計画」で明らかにされた約「1046億円」(50年間)と同額を想定する。

 ◆ 新計画(B案)関する試算(設計上の工夫を行わない場合)
維持管理費     48.52億円(年)       2,426億円 (50年)
(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)
 ◆ 新計画(B案)に関する試算(設計上の工夫を行った場合)
維持管理費     36.44億円(年)       1822億円 (50年)
(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)





 新国立競技場の毎年の経費(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)は、毎年36億4400万円~48億5200万円が必要となる。また竣工後50年間では、1822億円~2426億円が必要となるという試算結果が出た。
 旧国立競技場では年間約7億円程度、その約6倍の膨大な経費額である。
 この経費額を収入で賄わないと、毎年赤字が生まれる。
 当然、新国立競技場の五輪後の収入予測と収支予測が必須であろう。
 しかし、肝心の収入予測は未だに明らかにされていない。


新国立競技場(旧計画)の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 日本スポーツ振興センター

明らかにされていない長期修繕費
 新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残す施設だろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を行わないと維持できないのは常識である。
 巨大な構造物を建設する時には、建設費のイニシャルコストに合わせて、完成後の維持管理費や長期修繕費も含めて建設計画を検討しなければならない。
 新国立競技場の長期修繕費は、旧計画「2520億円」を決定した際に、今後50年間で「1046億円」という試算を公表した。年間に換算すると約21億円という巨額な額である。日本スポーツ振興センター(JSC)では、長期修繕費は大会後の収支計画には計上せず、別枠として国の負担を前提にしている。巨額な長期修繕費を組み入れると、毎年の収支が赤字に転落してしてしまうからである。
 旧計画で、五輪開催後の新国立競技場の支出は、約「40億円」に約「21億円」を加えて、約「61億円」とするのが妥当だろう。「黒字3800万円」は粉飾で、「赤字約20億円」なのである。
 今回の「1550億円」の仕切り直し整備計画では、収支目論見や長期修繕費の試算は公表されていない。
 また今回決定されたA案の「木と緑のスタジアム」では、維持管理費の抑制方針は示したが、毎年の維持管理費や長期修繕費はまったく明らかにされていない。B案では長期修繕費は「1046億円」をそのまま引用し、毎年の維持管理費、50年間の維持管理費の総額を明示している。
 長期修繕費の試算がなされなければ、五輪開催後の維持管理の計画が立てられないだろう。

新国立競技場の維持管理費 年間「24億円」 50年間で「1200億円」
 日本スポーツ振興センター(JSC)は5日、2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の完成後の維持管理費が、1年あたり24億円になると明らかにした。建設工事を請け負う大成建設などの共同企業体が試算した。屋根や外壁、エレベーターなどの点検や修繕費や警備・清掃・定期点検・植栽管理などの保全費、電気・ガス・上下水道などの光熱費などの毎年の維持管理費と今後50年間で行わななければならない大規模な修繕費を加えて、50年間で総計「1200億円」とし、毎年の維持管理を算出した。
 大会後の利用方法によっても変わる可能性があるとしている。
 しかし、維持管理費の試算には、人件費や公租公課は入れていないので、これを加えると毎年の維持管理費は「30~40億円」程度となる。 
 「木と緑のスタジアム」を掲げ、木と緑をふんだんに使用したスタジアムの維持管理費は膨れ上げることが想定される。
 果たして「30~40億円」程度で収められるのか、懸念は残る。

ライフサイクル・マネージメント
 一般財団法人建築保全センターは「建物のロングライフ化」のために、定期的に保全工事を的確に行う必要性を強調している。時間の経過と共に、建物の様々な性能・機能が劣化し、その維持のために保守工事や大規模修理が必要となるほか、時代と共に変わる要求水準を満たすために大規模更新工事が求められている。 


一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント

 また建築保全センターでは、標準的な建物の「ライフサイクルコスト」のシミュレーションも公表している。
 「鉄筋コンクリート造 地下1階地上5階建」のビルで、耐用年数を「60年」と想定した。
 「企画設計コスト」を0.6億円、「建設コスト」を14.2億円、合わせて14.8億円を初期費用とし、「点検・保守等のコスト」、「修繕・改善コスト」、「光熱水等のコスト」、「他運用管理コスト」、「廃棄処分コスト」を試算した。
 その結果、「ライフサイクルコスト」は、初期費用も含めて86.9億円になるとした。初期費用の5.87倍に上る経費である。

 

一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント
 
 このモデルを新国立競技場にあてはめてみると、初期費用を「1550億円」とすれば、建設後60年間に「9098億円」となる。約1兆円の巨額な経費を負担しなければならないのである。

鹿島建設の“ライフサイクルコスト”試算
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 試算をしてみると、「1550億円」の施設を建設すると「4650億円」から「6200億円」の後年度負担が今後50年間に発生することになる。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担が次世代に着実に残ることになる。



運営管理とLCC 鹿島建設




新国立競技場の整備は一体いくらかかるのか? 曖昧にされている周辺整備費や関連経費
 2015年7月、旧計画から「1000削減」達成をキャッチフレーズにした「1550億」の仕切り直し建設計画を公表したときに、「2520億円」の建設計画は実は未公表の経費が「131億円」あり、実は「2651億円」だったと、突然明らかにした。「131億円」の内訳は芝生の育成施設(16億円)、最寄り駅との間を結ぶ連絡通路(37億円)など計81億円。さらに大会組織委員会の新規要望である電源の複線化などに費やす50億円などとしている。「2520億円」は、新国立競技場の整備費を低く見せる粉飾だったことを認めたのである。唖然というほかない。 「1550億円」にも粉飾のからくりはないのだろうか、疑念は拭えない。

 実は、すでに国は新国立競技場は「1550億円」では不足することを明らかにしている。
 「1550億円」には、設計・管理費「40億円以下」や旧国立競技場の解体工事費「55億円」は別枠として、入っていない。
 さらに“五輪便乗”と批判が出ている日本スポーツ振興センター(JSC)本部、日本青年館の移転経費、「174億円」も入っていない。
 また、都道などの上空デッキ整備費「37億円」、東京体育館デッキ接続改修費「16億円」、上下水道工事費「27億円」、埋蔵文化財調査「14億円」なども別枠になっている。
 “迷走”を繰り返したツケで、回収不能になった費用「62億円」も付け加わる。
 当初計画でのコンセプト、新国立競技場を中心とする周辺公園の緑との連携を目指した神宮外苑地区の整備計画、再開発はこれで十分なのだろうか。巨大なスタジアムだけを建設すれば済む問題ではない。神宮外苑地区を50年、東京のランドマークにする整備も必要だろう。まだ、必要は周辺整備費が隠されているのではないかという疑念が残る。
 これだけかというと、決してそうは言えないのが問題だ。
 新国立競技場で陸上競技の開催するために必須なサブトラックの整備問題に決着がついていない。神宮外苑に仮設でサブトラックを整備する計画だが、整備経費は当初想定の38億円の2・6倍にあたる約100億円になることが明らかになった。当初の見積もりの甘さや旧計画が白紙撤回されたこと、建設費の高騰が原因という。
 「建設工事と分離して別途導入される設備・機器等経費」や「都有地に係る費用」も「未定」として整備費の加えていない。
 一体、本当のところ、新国立競技場の整備費の総額はいくらになっているのだろうか? この疑問が解消されない限り、そもそも総工費「1550億円」としたのが妥当なのか、疑念が残るだろう。
 新国立競技場の整備は、余りに杜撰な“建設計画”と“予算管理”で未だに行われている。



 最大の問題は、「建設工事と分離して別途導入される設備・機器等経費」が「未定」とし、一切、整備費に計上していないことだろう。 
 最新のスタジアムは、4K8高繊細映像システムやVR/ARサービス、5G第五世代移動通信やWi-Fi、光ファイバーなどの通信システム、館内案内などのデジタルサイネージ、ICT設備を備えた“スマート・スタジアム”を目指すのが必須となっている。
 勿論、本体工事費「1490億円」には、その経費は含まれていない。数百億の経費がさらに必要となるだろう。
 最新鋭のスタジアムは、“スマート・スタジアム”を目指すのが常識、“箱もの”だけを整備すれば済むとという発想は余りにもお粗末だ。
 日本は、2020年に「世界最高水準」のICT社会の実現を目指している中で、その象徴である新国立競技場こそ「世界最高水準」のICTスタジアムにしなければならい。
 “スマート・スタジアム”にできなければ、新国立競技場は前世紀の遺物、“無用の長物”となるだろう。世界から失笑を買うのは必至だ。
 新国立競技場を2020東京大会の“レガシー”(未来への遺産)にするのではなかったのか。

明らかにされなかった収支計画
 2015年7月7日の「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、毎年の収支見込みはどうなっているのか、明らかにされていない。この建設計画を評価するにあたっては、今後50年間に渡る長期修繕費を組み入れた維持管理費の収支計画が必須である。
 当初計画では、スポーツ競技大会の開催だけでは賄いきれない施設維持費を、コンサートなどのイベント開催や文化事業の収入で補う戦略で、開閉式屋根を備えた「多機能スタジアム」を目指した。しかしその屋根が建設費膨張の原因ともなり計画は破綻した。
 「見直し建設計画」では、イベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える設備や機能はすべて取りやめた。その結果、「年間12日の開催」を目論んだイベント開催収入などの関連収入はほとんど見込めない。「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は挫折した。
 今回、大会後の収入見込みは明らかにしていないが、旧計画策定に際に、収入「40億8100万円、支出「40億4300万円」、黒字「3800万円」という目論見を公表している。
 しかし「40億8100万円」の収入目論見は、机上の空論となってしまった。。
 さらに、2017年11月、新国立競技場は大会開催後は9レーンの国際規格のトラックは撤去し、陸上競技場として存続することをあきらめ、サッカー、ラグビーなどの球技専用のスタジアムとすることが決まった。「陸上競技の聖地」は消え去った。
 ところが、サッカーW杯などのビックイベントの国際試合は何も決まっていないし、安定収入の頼みとなるJリーグの開催も実現は不透明、イベント開催も屋根がないスタジアムでは天候に左右されるので敬遠され、近隣住民への騒音問題もあり開催は制約を受ける。またイベント開催で、大勢の観客がスタジアムに入るとスタジアムとして最も肝心な芝へのダメージが多きいのもネックとなる。
 こうした状況の中で、新国立競技場で毎年、約「30億円程度」とされている維持管理費をまかなう収入を確保しなければならない。
 国は、新国立競技場の運営管理は、日本スポーツ振興センター(JSC)の能力を超えるとして、「民間に委託」を行い、民間企業の活力をフルに活用するとしてるが、大会後の収支を合わせるのは容易ではない。
 運営主体の日本スポーツ振興センター(JSC)では、委託先の企業に収支構造をしっかり管理させるとしているが、五輪開催後の新国立競技場の収支の見通しについては一切コメントしていない。
 新国立競技場の今後は、運営を担う「民間企業」に丸投げされたまま、不透明になった。




建設される競技場は新国立競技場だけではない!
 2020年東京オリンピック・パラリンピック関連の競技場の建設は、新国立競技場だけではない。東京都は有明アリーナ(バレーボール)、大井ホッケー競技場(ホッケー)、海の森水上競技場(ボート、カヌー)、夢の島公園(アーチェリー)、オリンピック アクアティックセンター(水泳・飛び込み・シンクロナイズドスイミング、水球)、武蔵野の森 総合スポーツ施設(近代5種、バドミントン)の7施設の新設と有明テニスの森の改装費で、総額約1828億円をかけて整備するとしている。これらの施設についても、五輪開催後、膨大な維持管理や長期修繕費を負担し続けなければならない。
 2017年4月19日、東京都は「新規恒久施設の施設運営計画」を公表し、6つの新規建設競技場の大会の利用計画や収支を明らかにした。
 それによると、黒字が予想されるのは、有明アリナーだけで、コンサートなどのイベント利用が見込まれるため年間来場者140万人、収入12億4500万円、支出8億8900万円、黒字3億6000万円としている。その他はすべて赤字で、オリンピック アクアティクスセンターは年間来場者100万人、収入3億5000万円、支出9億8800万円、赤字6億3800万円、海の森水上競技場は年間来場者35万人、収入1億1300万円、支出2億7100万円、赤字1億5800万円、カヌー・スラローム会場は年間来場者10万人、収入1億6400万円、支出3億4900万円、赤字1億8600万円、大井ホッケー場は、年間来場者20万人で、収入5400万人、支出1億4500万円、赤字9200万円、アーチェリー会場は年間来場者3万3000人、収入330万円、支出1500万円、赤字1170万円としている。
 6つの新規建設競技場だけで、年間約7億円の赤字がでる試算である。
 これに5年、10年ごとの長期修繕費も加わえると、赤字幅はさらに膨れ上がるのは必至である。
 今後50年以上、東京都民の重荷になってのしかかる。

誰が負担する大規模スポーツ施設
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、「独立行政法人は一般的には独立採算を前提としないため、法人の業務の実施に必要な資金として、国から運営費交付金や施設整備費補助金等が措置されている」として、新国立競技場の管理運営費について赤字になった場合は、国が責任を持つことになるとしている。 長期修繕費についても国の資金をあてにしている姿勢に変わりはない。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、新国立競技場の維持管理・運営事業については、民間活用の導入を図り、民間ノウハウを最大限に発揮させることで、事業収入の拡大、維持管理・運営の効率化による事業支出の削減を行うとしている。 しかし、「黒字」の実現性は未知数である。
 果たして新国立競技場を今回の企画案のどちらかで建設したら、果たしてその施設の維持管理に一体どの位かかるのか、収入はどの程度確保可能なのか、収支はどうなるのか、巨額の長期修繕費は誰が負担するのか、さらに不透明さを増している。
 日本は確実に少子高齢化社会を迎える。五輪開催後50年、100年を視野に入れると、こうした大規模なスポーツ施設は、果たして次世代に必要な社会資本なのだろうか? 次世代に必要なのは、少子高齢化社会に向けた社会資本だろう。大規模なスポーツ施設は必要最小限に留める発想が必要だ。社会資本の整備は後年度負担が生まれることを忘れてはならない。
 やはり新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は拭い去れない。







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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 「維持管理費と収支」 新国立競技場“赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残してもいいのか? 新デザイン A案に決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)






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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)






2016年1月4日
Copyright (C) 2015 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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新国立競技場 建設計画見直し 新デザイン 多機能スタジアム 1550億円 疑念

2018年05月10日 19時10分30秒 | 新国立競技場
総工費「1500億円」への疑念
“疑問”が残る新国立競技場建設計画 “混迷”はまだ続く!





新国立競技場の新建設計画 A案で決定 大成建設・梓設計・隈研吾氏グループ

 12月22日、政府の関係閣僚会議(議長・遠藤五輪相)は、新国立競技場の整備で2チームから提案されていた設計・施工案のうち、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案で建設することを決めた。
 安倍総理大臣は、「新整備計画で決定した基本理念、工期やコスト等の要求を満たす、すばらしい案であると考えている。新国立競技場を、世界最高のバリアフリーや日本らしさを取り入れた、世界の人々に感動を与えるメインスタジアム、そして、次世代に誇れるレガシー=遺産にする。そのため、引き続き全力で取り組んでいただきたい」と述べた。
 その後に会見した遠藤利明五輪担当相は、これまで非公表だったA案の業者は、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームだと明らかにした。
 日本スポーツ振興センター(JSC)が関係閣僚会議に報告した審査委員会(委員長=村上周三東京大名誉教授)審査結果は、A案が610点、B案が602点だった。A案は工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得たのが決め手となった。注目されるのは、デザインや日本らしさ、構造、建築の項目ではB案が上回っていることである。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。
 また、白紙撤回された旧計画を担当した女性建築家のザハ・ハディド氏は、事務所を通して声明を発表し、「新デザインはわれわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」とし、「デザインの知的財産権は、自分たちが持っている」と主張した。さらに「悲しいことに日本の責任者は世界にこのプロジェクトのドアを閉ざした。この信じ難い扱いは、予算やデザインが理由ではなかった」とし、建設計画見直しへの対応を批判した。 
 採用されたA案は、木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴。地上5階、地下2階建てで、スタンドはすり鉢状の3層として観客の見やすさに配慮。高さは49・2メートルと、旧計画(実施設計段階)の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
 総床面積は19万4010平方メートル、収容人数は6万人(五輪開催時)。総工費は約1489億9900万円、工期は36か月で、完成は19年11月末とした。
 一方採用されなかったB案の総工費は、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げ、地3階、地下2階建てで、スタンドは2層、高さは約54.3メートル、総床面積18万5673平方メートル、収容人数は6万8000人。総工費は約1496億8800万円、工期は34か月で、完成は19年11月末である。
 B案は竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチームが提案した。
 焦点の総工費は、A案、B案とも1500億円弱でほぼ揃った。



審査結果 日本スポーツ振興センター(JSC)


(A案の完成予想図 日本スポーツ振興センター[JSC])


(B案の完成予想図 日本スポーツ振興センター[JSC])




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新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)



「1550億円」への疑念 
 今回の新国立競技場の新建設計画の公募の条件として記載されていたのか、総工費の上限「1550億円」であった。
 一体「1550億円」はどのように算出されたのだろうか。
 実は基本になっている総工費の積算根拠は2015年1月の「3088億円」が“おおもと”になっているのである。「3088億円」は、公募で選定された大成建設(スタンド工区)と竹中工務店(屋根工区)が実質的に積算したものである。
 「1550億円」も「2520億」も、「3088億円」積算根拠をほとんで何も見直さず、床面積の縮小や屋根、キールアーチ、可動席、冷房装置、関連工事を取り止めたり、設置資材や労務費の値上がり分を加えるるなどしただけで、総工費の積算の基本は大成建設と竹中工務店が主導して行われた経費試算を根拠にしているのである。
 つまり、総工費の積算根拠は、大成建設と竹中工務店が積算した総工費、「3088億円」と基本的に変わっていないと考えられるだろう。


「3088億円 工期50か月」はゼネコン2社の見積もり
 2014年10月、新国立競技場の建設は、スタンド工区は大成建設、屋根工区は竹中工務店が担当することが「公募型プロポーザル方式」による選定で決まった。施工予定者に決まった2社は設計会社JVが行う「実施設計」に加わり、建設費の積算を施工予定者としての立場で行っていた。
 しかし、「実施設計」や総工費の積算は、2社のゼネコンが主導して行われたと思われる。設計会社JVは、ザハ・ハディド案のきわめて斬新な流線形の巨大スタジアムを手掛けた経験がなく、ゼネンコン2社の力を借りざるを得なかった。「実施設計」や総工費の積算を監督する立場にある文科省やJSCは、さらに巨大スタジアムの建設を管理する専門家がいなく、ほとんど、ゼネンコン2社の“いいなり”だったのでないか。
 新国立競技場の工事費の積算で決め手となる「キール・アーチ」(竜骨)は、設計会社JVも文科省、JSCも施工予定者の竹中工務店に“まるなげ”だったと考えられる。誰も建設したことがない巨額の「「キール・アーチ」の工事費は、照査できる人がいなかった。
 2015年夏に、ゼネンコン2社は、問題の「キール・アーチ」や可動式の屋根を設置するザハ・ハディド案に基づいて、建設資材の値上がりや労務費の上昇や消費税率の引き上げを加味して、総工費「3088億円」とする見積もりをJSCに提出した。
 「屋根工区」で「1248億円」、「スタンド工区」で「1840億円」としている。試算条件は2015年1月単価、消費税8%である。巨大アーチや開閉式屋根など特殊構造のため、資材調達や技術者の確保で総工費が膨らむとの内容だったとされている。
 文科省とJSCが主導して積算し、当時の公表されていた「1625億円」の約2倍近い見積もり額である。また工期も「50か月程度」と、2019年3月の完成予定も8か月程度延びるとして、ラグビーW杯に間に合わない可能性がり、関係者に衝撃が走った。
 新国立競技場の総工費「3088億円」が明らかになると、余りにも膨れ上がった建設費に世論の激しい批判が集中して、文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)は計画の見直し追い込まれていく。


(ザハ・ハディド案 国際デザインコンクール 日本スポーツ振興センター[JSC])


総工費「2520億円」 屋根を支えるアーチ構造などが原因で経費膨張
 世論の激しい批判を受けて、文科省とJSCは、「3088億円」の建設経過の縮減に乗り出し、2015年7月7日、新国立競技場建設の事業主体であるJSCは「有識者会議」を開き、総工費を「2520億円」に縮減し、最大8万人収容の“見直し”基本設計案を決定した。
 基本設計案によると、周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし、延べ床面積は立体型の通路を見直し、当初案の約29万平方メートルから25%程度縮小して21万1000平方メートルとした。
 外観は、ザハ・ハディド氏の流線形のデザイン案を踏襲し、地上6階地下2階。。
 今回示された整備費「2520億円」は、前回の基本設計案の「1625億円」より約「900億円」増え、大成建設が担当するスタンド工区は「1570億円」、鹿島建設が担当する屋根工区は「950億円」とした。
「3088億円超」が、世論の集中砲火を浴びる中で、「3000億円」を約「500億円」下回る縮減建設計画案に調整されたである。
 JSCは、この“見直し”基本設計案案で、一両日中にも大手ゼネコンと契約を結び、2015年10月に着工、2019年5月の完成を予定し、2019年9月開幕のラグビーW杯の開催に間に合わせる方針を堅持しようとした。
 見直しを決めた有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日は大阪で所用があったとして会議には参加せず、余りにも“無責任”という激しい批判が浴びせられた。
 縮減建設計画では、新国立競技場の斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は設置するが、開閉式の屋根の設置は大会開催後に先送りにしたり、可動式の観客席を着脱式の仮設席に変更したりして、「2520億円」の総工費から外した。 
 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もった。
 一方で、「キール・アーチ」設置ための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」増えたとしたが、詳細な内訳の説明はない。
 さらに、建設資材や人件費の高騰分が「350億円」(約25%増)、消費増税分が「40億円」、工費増加分は合わせて約「1155億円」となるとした。その結果、「260億円」の削減分を差引すると、総工費は「895億円」膨れ上がるとした。
 JSCは「2520億円」は「目標工事費」としており、物価動向などでさらに増える可能性があるとしている。
 大会後に設置予定の仮設の観客席1万5千席はこの日の有識者会議の要望を受けて再び大会に合わせて常設化を検討することになった。観客席1万5千席の設置経費は「2520億円」には含まれていない。
 大会後に予定する施設整備費は、開閉式屋根や仮設の観客席1万5千席の経費は、現時点の試算で約「188億円」とした。
 有識者として会議に出席した東京都の舛添要一知事はこの計画を了承したが、焦点の都の費用負担については明言しなかった。


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

 猪瀬前東京都知事は、日本テレビの「うえいくアッププラス」(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区の工費の詳細を明らかにしている。

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事               86.1億円
          鉄筋工事              42.3億円
          鉄骨工事             208.7億円
          木工事               22.1億円
          金属工事             104.7億円
          電気設備             135.3億円
          空調工事             100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事               44.3億円
          鉄骨工事             427.8億円
          防水工事               5.7億円
          電気設備              30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)

「2520億円」の積算は、ゼネコン2社の試算「3088億円」を根拠にした
 総工費「2520億円」の内訳から、ゼネコン2社の試算「3088億円」を検証してみよう。
 本体工事費は、2015年5月に文科省とJSCが公表した「1365億円」に、可動式屋根と電動式観客席、芝生養生システムで「260億円」、約25%の床面積削減分の約「300億円」、それに物価上昇分の約25%、「350億円」、消費税増加、「40億円」を加えて、「2300億円程度」と推定する。
 そして可動式屋根を設置するためのキール・アーチの設置費などで「765億円」を加えると、「3065億円」となり、ゼネコン2社の試算「3088億円」とほぼ一致する。
 つまり、「1625億円」の積算も、「2520億円」の積算も、ゼネコン2社の試算「3088億円」の積算を根拠にしているのである。
 新国立競技場は「1550億円」でも高すぎるのはないかという批判がある。果たして、「1550億円」が適切な水準なの検証はされていない。

 「1625億円」を「2520億円」に見直した際は、延べ床面積を約25%削減し、高さを5メートル低くして70メートルにするなどダウンサイズして、屋根の設置、電動可動席や芝生育成補助システムの取り止めで「260億円」を削減する一方で、「キール・アーチ」の設置の増分など「765億円」、物価上昇約25%分の「350億円」、消費税増分「40億円」など加えて計算しただけなのである。
 「2520億円」を「1550億円」の削減した際は、延べ床面積を更に約13%削減したり、「キール・アーチ」(約700億円)の設置や観客席の冷房装置の設置(100億円)を取り止めたりして、約「1100億円」を削減した。
 ここでも、建設積算の基本はゼネコン2社の試算「3088億円」が生き続けているのある。


 
新国立競技場の総工費「1550億円」 決定


(出典 新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議 2015年7月17日)

 政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。
 再検討後の建設計画がポイントは次の通りである。
▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
 ▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。

 政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、「約1千億円」を強調したいがために、旧建設計画の「2520億円」は見せかけの“粉飾”経費で、計上すべき経費だが別枠にしていた「131億円」を組み入れて、実は「2651億円」だったと認めるという醜態を演じた。自ら杜撰さな予算管理をなりふり構わず認めたのには唖然である。
 それでも、「1000億円超」とされているロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、「1550億円」はまだ破格に高額で国民の批判が収まるかどうか不透明である。
 また、削減幅「約1千億円にこだわったことで、周辺工事や関連経費などで、整備費に入れないで“隠した”経費があったり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか? 不安材料は依然として残る。

飛びぬけて高額の建設単価 新国立競技場「1550億円」
 安倍首相の決断で、「2520億円」から「約1100億円」削減して「1550億円」になったと聞くと、かなり建設費が削減されて適切になったと誤解する人が多いが、実はこれは“大間違い”である。
 大規模な建造物の建設費が適正であるかどうかを全体として把握する最良の手法は、「坪単価」で見るとというのが常識である。
 新国立競技場を他のスタジアムと「坪単価」で比較してみよう。
 新国立競技場は、最終案の「1550億円」(延べ床面積19万4500平方メートル)とザハ・ハディド案を踏襲してゼネコン2社が積算した「3088億円」(延べ床面積22万4500平方メートル)の「坪単価」を計算した。 「1550億円」では、265.5万円、「3088億円」では、なんと453・9万円となった。スタジアム建設の「坪単価」では、唖然とする高額だ。
 現在では国内最大規模の日産スタジアムの「坪単価」は155.7万円、サッカー専用スタジアムとては東アジアで最大規模のさんたまスタジアムは105.5万円、屋根を備えている京セラドーム大阪は122・8万円である。
 可動式屋根や「キール・アーチ」を取り止め、電動式可動席や観客席冷房装置も設置を止めても、「坪単価」は破格の265.5万円、あきれるほどの高額なスタジアムである。
 一体、どんなコスト管理をしたのだろうか?
 「1550億円」やはっぱり納得できない。



五輪終了後の収支計画はどうなっているのか?
 「2520億円」の建設計画を決めた際に、日本スポーツ振興センター(JSC)では、可動式屋根設置後という“条件付き”で、年間で、収入40億8100万円、支出40億4300万円、3800万円の黒字という収支見込みを公表している。世論の批判をかわすための“帳尻合わせ”だという批判も多い。
 旧国立競技場の維持費は約7億円、この建設計画では約6倍近くの40億円超に膨れ上がる。
 実は、「3800万円の黒字」はすでに破たんしているのが明らかになっている。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、完成後50年間に必要な大規模修繕費が約1046億円に上るという試算を公表した。年間約21億円の巨額な経費である。大規模修繕費は、建築物を維持管理するために必須の経費、なんとこの経費を別枠にしているのである。杜撰な収支計画には唖然とさせられる。
 「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、収支見込みはどうなっているのか、まだ不明である。可動式屋根の設置は取りやめたことで当初の目的であったイベント開催も可能な“多機能スタジアム”は挫折した。五輪後の収入の目論見は白紙撤回されているはずだ。一方、施設全体を縮小したので経費は多少、削減されているだろう。ともあれ新しい建設計画を評価するためには、五輪後の収支見通しが必須だ。
 それとも新国立競技場の運営は「民間に委託」としているので、政府としては、収支のメドは関知しないというだろうか? しかし、仮に五輪後の新国立競技場の収支が赤字を余儀なくされたら、そのツケは、国民に回されるのだろう。




新国立競技場 整備完成時(開閉式遮音装置等設置後)収支見込み 日本スポーツ振興センター(JSC) 2015年7月7日

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)第一号か?
 2020年東京大会のキャッチフレーズは「Discover Tomorrow(未来をつかむ)」である。
 そしてそのコンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は新建設計画で実現できるのか?
 新国立競技場が“負のレガシー(負の遺産)”になる懸念は未だに拭い去れない。


再検討に当たっての基本的考え方(案) 再検討のための関係閣僚会議
(2015年8月14日)




「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌 
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
主導権争い激化 2020年東京五輪大会 小池都知事 森組織委会長 バッハIOC会長
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか
東京オリンピック 海の森水上競技場 Time Line Media Close-up Report
相次いだ撤退 迷走!2024年夏季五輪開催都市






国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2015年12月23日
Copyright (C) 2015 IMSSR




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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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新国立競技場 赤字 維持管理費 長期修繕費 負の遺産 木と緑のスタジアム 大成建設 隈研吾

2018年05月10日 18時06分26秒 | 新国立競技場

新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3)
新国立競技場新デザイン 「木と緑のスタジアム」A案に決定
大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム
“赤字”の懸念 巨額の負担を次世代に残してもいいのか?





「伝統的な和を創出」 収容人数は6万人、総工費約1489億9900万円、完成は19年11月末
 2015年12月22日、政府の関係閣僚会議(議長・遠藤五輪相)は、新国立競技場の整備で2チームから提案されていた設計・施工案のうち、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案で建設することを決めた。
 安倍総理大臣は、「新整備計画で決定した基本理念、工期やコスト等の要求を満たす、すばらしい案であると考えている。新国立競技場を、世界最高のバリアフリーや日本らしさを取り入れた、世界の人々に感動を与えるメインスタジアム、そして、次世代に誇れるレガシー=遺産にする。そのため、引き続き全力で取り組んでいただきたい」と述べた。
 その後に会見した遠藤利明五輪担当相は、これまで非公表だったA案の提案者は、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームだと明らかにした。したがってB案は竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム。
 日本スポーツ振興センター(JSC)が関係閣僚会議に報告した審査委員会(委員長=村上周三東京大名誉教授)の審査結果は、A案が610点、B案が602点だった。A案は工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得たのが決め手となった。注目されるのは、デザインや日本らしさ、構造、建築の項目ではB案が上回っていることである。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。
 また、白紙撤回された旧計画を担当した女性建築家のザハ・ハディド氏は、事務所を通して声明を発表し、「新デザインはわれわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」とし、「デザインの知的財産権は、自分たちが持っている」と主張した。さらに「悲しいことに日本の責任者は世界にこのプロジェクトのドアを閉ざした。この信じ難い扱いは、予算やデザインが理由ではなかった」とし、建設計画見直しへの対応を批判した。 
 採用されたA案は、木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴。地上5階、地下2階建てで、スタンドはすり鉢状の3層として観客の見やすさに配慮。高さは49・2メートルと、旧計画(実施設計段階)の70メートルに比べて低く抑えた。総床面積19万4010平方メートル、収容人数は6万人(五輪開催時)。総工費は約1489億9900万円、工期は36か月で、完成は19年11月末である。
 一方採用されなかったB案の総工費は、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げ、地3階、地下2階建てで、スタンドは2層、高さは約54.3メートル、総床面積18万5673平方メートル、収容人数は6万8000人。総工費は約1496億8800万円、工期は34か月で、完成は19年11月末である。





技術提案書A案のイメージ図  新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/日本スポーツ振興センター(JSC)提供



新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成 JSC提供日本スポーツ振興センター(JSC)提供


(ザハ・ハディド案 日本スポーツ振興センター(JSC) 国際デザイン・コンクール)




新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”



疑問! 新国立競技場の収支とライフサイクルコスト
 今回、実施された新デザインの公募の基本方針は、2015年7月7日に公表された「1550億円」の“仕切り直しの建設計画”で定められた。“仕切り直しの建設計画”では、毎年の収支見込みはどうなっているのか、明らかにされていない。建設経費削減のためにイベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える機能はすべて取りやめた。その結果、収支の目論見も変わり、「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は、“風前の灯”だ。収支が赤字になったら誰が責任を持つのか?
 また、長期修繕費(ライフサイクルコスト)がどの位必要なのかも公表されない。新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残すスタジアムだろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を定期的に行わないと施設は維持できないのは常識である。誰が長期修繕費を負担するのか?
 今回、提案された2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、木材をふんだんに使った構造は、どこか法隆寺や縄文遺跡を彷彿とさせて「ぬくもり」感があふれ、国民から好感を得られるのではという印象だ。
 しかし、採択されたA案(大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム)には、維持管理費の縮減に対するコンセプトは提示されているが、一体、完成後50年に長期修繕費も含めて後年度の経費負担はどうなるのかが示されてない。ちなみに採択されなかったB案(竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム)では、具体的な経費が提示されていて、竣工後50年間の維持管理費は長期修繕費や毎年の運営費(人件費なども含む)も合わせて約1822億円、毎年約36億4000万円としている。
 A案の建設計画を評価するにあたっては、五輪後50年間、さらに100年間の収支や維持管理費や長期修繕費の見通しもしっかり視野に入れて再検証するのが必須であろう。新国立競技場の次世代の負担がどうなるか、忘れてはならない。



(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

“迷走”を繰り返した新国立競技場の収支計画
 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」で、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが決まった。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
 会議にはメンバー12人が出席したが、デザイン案を決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏は欠席した。
 JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。差引で約「900億円」増額としたのである。2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
 また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
 このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
 計画は全会一致で承認され、新国立競技場の工事は、10月に着工し、2019年5月の完成を目指す。
 これだけ批判を浴びている新国立競技場の建設計画が、12人の「有識者」によって前回一致で承認されたのは“唖然”という他ない。「有識者」とは一体何だろうか? 数名は異論を示してもしかるべきだと思うが如何? 更にこのデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長、安藤忠雄氏は今日の会議を欠席している。ザハ・ハディド氏のデザインを選定に自信があるなら、胸を張って出席して主張して欲しかった。それが“一流”の建築家だと筆者は思うが……。


「収入40億8千万円」、「支出40億4千万円」、「黒字3800万円」への疑問
 2015年7月、建設計画の決定にあわせて新国立競技場の年間の収支見込みも公表され、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、収入が40億8100万円、支出が40億4300万円、3800万円の黒字が確保できるとした。また建設後50年間に必要な大規模改修費(ライフサイクルコスト)については、約1046億円に上るという試算を明らかにした。年間に換算すると約21億円という巨額の経費が必要となるのである。大規模改修費は収支見込みに含まれていない。
 今の国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、事業規模は6倍近くに膨れ上がる巨大施設となるのである。

 新国立競技場の収入見込みを見ると、大規模なスポーツ大会(サッカー20日、ラグビー5日、陸上11日)が年36日、そのほかのイベントで年44日、合計年80日の開催で、3億9400万、コンサートなどのイベントが12日(6億円)開催される想定で、6億円の収入を計上。旧国立競技場でのコンサートの開催実績はこれまで年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)としている。
プレミア会員事業では、年間540万円や360万円のVIPボックスや、年間6万円から15万円の会員専用シートなど収入で12億3300万円、ビジネスパートナーシップ事業では、企業の広告料収入を、ゴールドが年間1億5千万円で3社、シルバーが7200万円で5社、パートナーが4800万円で10社、合わせて11億6100万円を見込んでいる。
その他、ホールやバンケットルームなどを利用したコンベンション事業で2億5700万円、フィットネス事業で1億9800万円、物販・飲食で1億9100万円、次世代パブリックビューイング事業で8900万円を見込んでいる。
 ビジネス競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などで10億9千万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8千万円(コンベンション事業)を見込む。
 さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などで収入を見込んでいる。

 一方、支出では人件費が1億9900万円、管理運営委託費が18億6300万円、その内保守管理業務は9億2800万円、警備業務は5億1100万円、清掃業務は3億7300万円、屋根及び開閉式遮音装置維持管理業務は1100万円、可動席維持管理業務は300万円である。
焦点の修繕費は10億8600万円、試算時(2014年8月)の建設資材価格や労務費単価を前提に算出している。
 その他、水道光熱費や租税公課などが支出に加わる。


大会終了後の新国立競技場の収支は大幅赤字“必死”
 焦点の年間の収支見込みについては、昨年夏の試算では「収入38億4000万円」、「支出35億1000万円」、「3億3000万円」の黒字としていた。今回の収支目論見では、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、「収入40億8100万円」、「支出が40億4300万円」、「3800万円」の黒字と試算した。支出が増えたのは完成後にかかる修繕費が6割増の年10億円となったためだとしている。それに合わせて収入見込みを約2億円増やし、無理やり、黒字にしたという印象があるが、とにかく“不明瞭”である。 わずか「3800万円」の黒字という試算は、「赤字」としたら厳しいを浴びるので、なにやら帳尻合わせの感が拭い去れない。

1日で撤回した新国立競技場の収支見通し
▼ 収入「50億円」、支出「46億円」で「4億円黒字」
 2013年11月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、初めて新国立競技場の収支見込みを公表した。収入が約「50」億円、これに対して支出は約「46億円」とし、約「4億円」の“黒字”としている。膨れ上がった建設費への批判を和らげようとしたのがその狙いだった。
 収入の内訳は、企業の展示会やイベントで14億円、年間シート契約で12億円、コンサートで12億円、その他12億円としている。開催される競技やイベントの種類は、サッカー20日、陸上競技11日、ラグビー5日、コンサート12日を中心に、年間48~57日の開催日数を見込んでいる。
 支出については、旧国立競技場の維持費約7億円と比較して、約6.5倍に膨れ上がる。
 スポーツやコンサートなどのイベントで、8万人を動員できるイベントは、年間、一体何回位あるのか、高額な会場利用費を負担できるイベントはどの位あるのか大いに疑問である。
 さらに6.5倍近くに膨れ上がった維持費に唖然とさせられる。
 維持管理費が高くなる理由は、可動式屋根の維持費やサッカーやラグビーではグランドにせり出す1万5千席の可動席の施設メンテナンス費用が主なものだ。さらに1回・数千万円や1億円ともいわれるピッチの芝の張り替えを年2回する費用も必要となる。
 余りにも“甘い”目論見での「4億円黒字」想定であった


翌日変更 収入「45億円」、支出「41億円」
 翌日の2013年11月29日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、新国立競技場の収入を約「45億円」、年間維持費を約「41億円」、との見通しを自民党の無駄撲滅プロジェクトチーム(PT、座長・河野太郎衆院議員)のヒアリングで示した。
 収入と支出を、それぞれ5億円削減し、「4億円」の“黒字”は“維持”するとしている。
収支予想の“甘い”見通しに批判が殺到し、収入、支出を圧縮して“つじつま合わせ”をしたという疑念も生まれる。
また赤字が出ても税金を投入せず、自助努力で運営させることを確認した。
 さらにJSCの示す総事業費に、JSCが移転して延べ床面積を現在の約2倍となるJSCビル建設費用が含まれていないとして、PTは文部科学省に事業全体の費用と上限を示すよう指示した。
 これを受けて、文科省では、平成26年度の補正予算でJSCの施設整備費として、すでに約200億円を計上した。この予算の趣旨は「オリンピック競技大会における過去最多を越えるメダル獲得数」を狙う選手育成強化費と説明されている。しかし、約200億円の内訳は、現国立競技場解体費用が70億円、残りの約130億円はJSCの本部移転費用等だといわれている。JSCの本部を移転することが「メダル獲得数増」にどうつながるのか。もし本当にそうなるとしたら、文科省とJSCは説明できるのだろうか?


そして再び縮小 収入「38億円」、「支出35億円」、「黒字3億円」
 2014年8月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、五輪終了後の収支計画を発表し、スポーツ大会やコンサートなどによる収入を「38億4000万円、維持管理費などの支出を「35億1000万円で、年間「3億3000万円」の黒字を確保できる見込みという試算を公表した。
 今の国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、事業規模は5倍超に膨らむことになる。
JSCは「多角的な事業展開で自立した運営を目指したい」としている。
一方で、毎年の支出とは別に、完成から50年後までに大規模改修費として「656億円」が必要として、JSCは、早くも 「改修時は国に補助金を要請したい」とした。
 オフイスビルやマンションなどは、5年ないし10年ごとに保守・改修工事を行わないと建築物は維持できないのは常識である。高層ビルや巨大な建築物では、その経費は高額になることは容易に想像できる。
 新国立競技場の維持管理費に一体どの位かかるのか、誰が負担するのか、さらに不透明になった。
 計画では新国立競技場で年間に大規模なスポーツ大会(サッカー20日、ラグビー5日、陸上11日)が36日(3億8000万円)、コンサートが12日(6億円)開催される想定で、9億8000万円のイベント収入を計上。コンサートの開催実績はこれまで年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)としている。
 そのほか、年間最高700万円のVIP室や会員専用シートの契約料で12億5千万円(プレミアム会員事業)、競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などで10億9000万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8000万円(コンベンション事業)を見込んだ。
 さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などを行う。
支出では電気設備や機械の修繕費として6億3000万円、年間2回の張り替えを含む芝の管理費として3億3000万円などを計上した。
 新国立競技場の収入と支出は更に圧縮され、「収入45億円、支出41億円」は、それぞれ7億円と6億円、減額された。
 世論の厳しい批判を浴びて見通しを修正したと思われる。再び見通しの“甘さ”が問われる結果となった
 それにしても、毎回示される収支は、10%近い黒字になる“不自然さ”はつきまとう。果たしてこの見通し通り運営できるのだろうか、疑問は晴れない。
 早くも、可動式屋根の建設は、大会終了後に“先延ばし”することが明らかにされている。上記の“屋根付き”を前提にしている収支目論見はすでに破たんしている。
 遮音効果があり、雨もしのぐグランド上部の開閉式屋根は、五輪開催後、コンサートなイベントの利用を増やすために計画されている。 日本スポーツ振興センター(JSC)では、“屋根なし”の場合、収入で10億8000万円の減、収支差で8億6千万円の減としている


屋根完成まで赤字 すでに“赤字”宣言
 2015年6月30日、下村博文文部科学相は、閣議後の記者会見で、設置を先送りした開閉式屋根がない期間、運営収支が赤字になる見通しを示した。また、「JSC(事業主体の日本スポーツ振興センター)が直接、管理運営をするのは能力を超えたことと思う」とも述べ、五輪・パラリンピック後は民間に委託し、収支改善を目指す方針を明らかにした。
 2015年7月、総工費「2520億円」の建設計画を公表した際に、屋根を設置しない場合は、「38億円」、支出「44億円」、赤字「6億円」とし、屋根を設置した場合は、収入が「40億8100万円」、支出が「40億4300万円」で、かろうじて「3800万円」の黒字になるとした。
 屋根のない新国立競技場は、赤字「6億円」と試算していたのある。
 屋根がない期間は騒音問題の配慮などからコンサートは想定通り開けないし、屋根の工事期間は競技場が使えなくなるため赤字になるとした。
 屋根を設置するれば、黒字が期待できるとしたが、屋根の設置時期や設置費用についても五輪後の経済状況にもよるとして明らかにしなかったが、下村文科相は「屋根は作れば絶対に黒字になるという計算はできる」と自信を示した。
 民間委託については有識者による検討会議を設置し、大会終了後すぐ実施できるよう議論を先行させとした。また下村文科相は「国民の税金の負担にもならないように考えるようにしたい」としている。
 新国立競技場の維持費は、「35億円」では到底収まらず、修復・改修費なども含めると年間「70億円」とする指摘する専門家もいる。年間維持費は毎年の収支にものしかかり、「3800万円」の黒字は吹き飛んで新国立競技場の収支は“赤字”になるのは必至で、次世代に“赤字”負担が重しとなって受け継がれる。
 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は一向に収まらない。


長期修繕費(ライフサイクルコスト)1046億円はどうする?
 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は新国立競技場の建設費を「2520億円」になることが決めた際に、長期修繕費が完成後50年間で、400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
 年間で換算すると約21億円という巨額な経費である。
新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残す施設だろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を行わないと維持できないのは常識である。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、「独立行政法人は一般的には独立採算を前提としないため、法人の業務の実施に必要な資金として、国から運営費交付金や施設整備費補助金等が措置されている」として、新国立競技場の管理運営費について赤字になった場合は、国が責任を持つとしている。長期修繕費についても国の資金をあてにしている。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、新国立競技場の維持管理・運営事業については、民間活用の導入を図り、民間ノウハウを最大限に発揮させることで、事業収入の拡大、維持管理・運営の効率化による事業支出の削減を行うとしている。しかし、「黒字」の実現性は未知数である。
 果たして新国立競技場を今回の企画案のどちらかで建設したら、果たしてその施設の維持管理に一体どの位かかるのか、収入はどの程度確保可能なのか、収支はどうなるのか、巨額の長期修繕費は誰が負担するのか、さらに不透明さを増している。
 やはり新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は拭い去れない。


巨額の後年度負担が次世代に”
 建設後50年間に必要な大規模改修費を前回より「400億円」増やして、約「1046」億円と見積もった。高層ビルや公共施設など大規模な構築物は、修復・改修を常に積み重ねていかないと快適な環境は保てないのは常識だろう。通常はこうした経費も収支計画に組み込むのも常識だ。
 官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
 「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
 新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
 「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が、今後50年の長期修繕費として見込まれているのである。
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
 JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして、国に財源確保を要請している。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に着実に残すことになる。


新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)第一号か?
 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
 新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。Totoは“スポーツ振興くじ”なのである。仮にtotoを財源に1000億円を新国立競技場の建設に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
 オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催地は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかが重要な課題として問われている。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
 東京大会コンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は実現できるのか?
  新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。
 次回の「新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4)」では、新デザインの維持管理費、長期修繕費、ライフサイクルコスト、収支見込を整備計画から詳細に検証する。



新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 新国立競技場 新デザイン案決定 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(7) 新国立競技場に暗雲 破綻寸前日本スポーツ振興センター(JSC)
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 破綻の懸念 総工費「2520」億円
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 破綻した“多機能スタジアム” “疑問”が残る新国立競技場見直し “混迷”はまだ続く 総工費「1550億円」




東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2016年1月4日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
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代表
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新国立競技場 検証委 白紙撤回までの経緯

2015年09月24日 18時56分37秒 | 新国立競技場




国立霞ヶ丘競技場の改築計画について(白紙撤回までの経緯)
                            2015年8月 文科省スポーツ・青少年局 
                                    新国立競技場検証委員会に提出資料

○ 平成21年2月12日
東京都が2016年大会立候補ファイルを提出
※ 主会場は、国立競技場の改築を断念し、都立のオリンピックスタジアムを晴海地区に新設(10万人規模)とした。
※ 立候補ファイルの提出に当たり、「主要競技施設については、日本国政府においてもその経費の2分の1まで負担することが可能となっている」旨の保証書(文科大臣名)を提出

○ 平成21年9月28日
鳩山総理のIOC総会出席が決定。

○ 平成21年10月2日
2016年大会開催都市はリオデジャネイロに決定し、東京は落選した。

○ 平成22年度(8月~翌年3月)
独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)において、国立霞ヶ丘競技場陸上競技場耐震改修基本計画を策定。

(まとめ)
特に、改修計画の範囲・建築計画を含めた内容の検討等、規模の異なる改修計画については、耐震改修及び老朽化した設備機器の改修の範囲にとどまらず、世界的規模のスポーツイベントの開催実現や日本におけるスポーツ文化の更なる発展のため国立競技場が担うべき将来像を提示しており、今後の改修計画方針に反映されることを考慮したものである。
(現状維持改修案:約128億円~大規模改修案:約777億円)
しかしながら一方で、今後大規模な国際競技大会の開催を視野に入れた場合、収容人員規模増大への更なる要望や大会管理運営についての機能強化、利便性・快適性についての高水準での提供等が望まれ、改修にとどまらず、施設全体の建替えを視野に入れた抜本的な見直しが必要と考える。

○ 平成23年2月15日
ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟における「国立霞ヶ丘競技場の8万人規模ナショナルスタジアムの再整備等に向けて」の決議

○ 平成23年6月24日
スポーツ基本法が公布(平成23年8月24日施行)

○ 平成23年7月16日
東京都が2020年オリンピック・パラリンピック競技大会招致への立候補を表明

○ 平成23年9月
平成24年度概算要求において、2019年ラグビーワールドカップ及び2020年オリンピック・パラリンピック競技大会東京招致を視野に入れた「国立競技場の改築に向けた調査費」(約1億円)を要求

○ 平成23年10月4日
文科大臣が記者会見において、記者から「概算要求の記者会見の中で、国立競技場の改築の部分(国立競技場改築に向けての調査費)を重点的な項目として挙げ、『元気な形で引っ張っていく形で作りたい』という発言は、どのような形をイメージしているのかを問われ、「国立競技場というのは、東京のオリンピック誘致に連動していますので、そこのところを一体化して、国立競技場を一つの、東京オリンピック誘致の中のポイントでありますので、ああいう環境の中で様々な物理的な制約を考えていくと一番いい、適した競技場だということでもありますので、東京の誘致に資していく、結びつけていくようなことにしていきたい。」と発言

○ 平成23年10月18日
東京都議会において、国立霞ヶ丘競技場の改築や周辺地域の環境整備を進めるなど、スポーツに関する施策の推進が更に求められる旨を記載した「第32回オリンピック競技大会及び第16回パラリンピック競技大会東京招致に関する決議」がなされる。

○ 平成23年12月6日~7日
衆議院、参議院において、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に関する決議が可決。※国立競技場に関する記述なし

○ 平成23年12月13日
政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の東京招致について閣議了解。
※ 「施設の新設については、その必要性等について十分検討を行い、多様な財源の確保に努める」旨、記載。

○ 平成23年12月24日
平成24年度予算(案)が閣議決定
(2019年ラグビーワールドカップ及び2020年オリンピック・パラリンピック競技大会東京招致を視野に入れた国立競技場の改築に向けた調査費(約1億円)が計上)

○ 平成24年1月31日
JSCは、「国立競技場将来構想有識者会議」を設置して、同年3月6日に第1回会議を開催し、検討を開始。

○ 平成24年2月12日
東京都が招致申請ファイルをIOCに提出
※都は、国立競技場を8万人規模に改築、総工費1000億円と記載

○ 平成24年3月30日
文部科学省は、スポーツ基本計画を策定。
「日本スポーツ振興センターは、国内外のスポーツ関係団体との連携による国内外の情報収集・分析及び提供、国立霞ヶ丘競技場等の施設の整備・充実を行い、オリンピック・ワールドカップ等大規模な国際競技大会の招致・開催に対し支援する。」

○ 平成24年7月13日
JSCは、有識者会議(第2回)を開催し、2020年東京招致メインスタジアムの基本デザイン(「オリンピックスタジアムの完成予想図」)を立候補ファイルに掲載し、招致活動のアピールポイントとするため、「新国立競技場基本構想国際デザインコンクール」の実施を決定。

〔目指す新スタジアムの姿(基本的要件)〕
・大規模な国際競技大会が開催できる、8万人規模の収容人員
・選手と観客が一体となる、臨場感あふれる観客席(可動席等)
・全天候で快適に競技・観覧でき、文化的活動への利活用にも資する、開閉式屋根
・ホスピタリティを含めた、世界水準であり日常的に来場者が楽しめるデザイン
・省エネルギーや環境に配慮した、最先端の環境技術の導入など
〔事業規模等〕競技場本体建設工事費(試算):約1,300億円程度

○ 平成24年7月20日
JSCが国際デザインコンクールを実施(作品募集開始)。募集要項に競技場本体の工事費として「約1300億円程度」と記載。
※ 上記には解体工事費、敷地外工事費、設計費、移転費等は含まない
※ JSCは、国内の既存スタジアム建設コストを参考に総工費概算額約1300億円を推計。(躯体部分は日産スタジアム(7.2万席)、屋根部分は大分スタジアム、神戸スタジアム、有明コロシアム等を参考にした。)

○ 平成24年10月30日
JSCは、応募作品46点について、11点に絞り込みを行い公表。

○ 平成24年11月7日
審査委員会(委員長:安藤忠雄氏)で、ザハのデザインを最優秀案に決定。
※ 審査前に「構造」「設備」「都市計画」「積算」等10名の調査員(10名)による技術審査を実施。1次審査では、作品の匿名性を確保した上で日本人審査員8人から推薦があった作品について、デザイン性、機能性、実現性といった様々な観点から検討を行い、まず11作品に絞り込んだ。2次審査では、グローバルな知見を求めてノーマン・フォスター、リチャード・ロジャースという世界的建築家2名(委員会は欠席、事前審査・投票)を審査員に加えた10人の審査員で投票を行い、その上位作品について、未来を示すデザイン性、技術的なチャレンジ、スポーツイベントの際の臨場感、施設建設の実現性等の観点から詳細に渡り議論を行った。

○ 平成24年11月15日
JSCは、第3回有識者会議を開催し、デザインの最優秀賞を決定
〔新国立競技場基本構想国際デザイン・コンクール〕
・最優秀賞ザハ・ハディドアーキテクト(英)
※新国立競技場基本構想デザイン第1候補
※立候補ファイル「オリンピックスタジアム」のデザイン(パース)に使用
・応募総数46点(国内12点、海外34点)
・入賞作品最優秀賞作品を含む3点





(ザハ・ハディド アーキテクスの作品 出典 新国立競技場 国際デザインコンクール 最優勝賞)

○ 平成25年1月7日
東京都が招致立候補ファイルをIOCに提出
※ H24.12.28文科省と東京都において、「改築はオリンピックのためであること、資金負担については協議に応じること」について認識共有の上、「国立競技場はオリンピックスタジアムとして8万人規模に改築、整備主体及びその資金調達はJSC」と記載することについて政府は了解。

○ 平成25年1月29日
平成25年度予算(案)が閣議決定
JSC運営費交付金として基本設計費に使用可能な13億円を計上するに当たり、JSCの中期計画に以下の文章を記載することについて財務省と文部科学省で合意。
「国立霞ヶ丘競技場の改築については、2019年ラグビーワールドカップ日本開催及び2020年オリンピック・パラリンピック東京招致、デザイン案についてのコスト縮減等の精査の結果、多様な財源の確保のあり方及び資金負担についての国、東京都及び関係者間の合意並びに東京都の都市計画の規制緩和措置等を踏まえ、そのための基本設計費を執行するものとする。」

○ 平成25年5月31日~12月31日
JSCはプロポーザル方式で設計者を選定※し、設計作業を開始。
※周辺環境等を調査するフレームワーク設計業務契約
契約の相手方:日建設計、日本設計、梓設計、アラップ設計JV(以下「設計JV」)
契約金額:約3億9200万円

○ 平成25年6月17日
東京都は、国立競技場が所在する神宮外苑地区の新たな都市計画(規制緩和等)を公示。

○ 平成25年7月1日
JSCと設計JVとの打ち合わせにおいて、設計JVから「1300億円には収まらず
2000億円を超えてしまう可能性がある」旨の発言

○ 平成25年7月3日
IOCテクニカルブリーフィング(於:ローザンヌ)において、麻生副総理が、ザハデザインのCGを使用してプレゼンテーションを実施。

○ 平成25年7月30日
設計JVからJSCに対し、ザハデザインをそのまま忠実に実現しかつ各競技団体等の要望を全て盛り込むと3000億円超との試算額が報告

○ 平成25年8月1日~12月31日
JSCは、フレームワーク設計に係るデザイン監修業務契約を締結
契約の相手方:ザハ・ハディドリミテッド(以下「ザハ事務所」)
契約金額:2億円

○ 平成25年8月5日
JSCは文部科学省に設計JVの試算額(3000億円超)を報告。
文部科学省は、大幅なコスト削減を指示。
JSCは、ザハ・ハディドアーキテクト及び設計JVにコンパクト化を指示

○ 平成25年8月20日
JSCは、文部科学省に複数のコンパクト案(延床29万㎡→22万㎡)を報告

○ 平成25年9月8日(現地時間7日)
IOC総会(於:ブエノスアイレス)において、安倍総理が、ザハデザインのCGを使用してプレゼンテーションを実施。東京都が2020年大会の開催都市に決定

○ 平成25年9月13日
文部科学省はJSCに対して更なるコスト縮減を指示

○ 平成25年9月24日
JSCは、文部科学省に全体経費試算額1852億円(解体工事費含む)となることを報告。

○ 平成25年10月19日
新国立競技場の総工費が最大3000億円になると報道。
同月23日、下村大臣が国会で、このことについての事実を確認されたため、ザハ氏のデザイン通りだと総工費が3000億円に達することから、縮減を行う旨を答弁。

○ 平成25年11月26日
JSCは、国立競技場将来構想有識者会議(第4回)を公開で開催し、基本設計条件案を有識者に報告。ただし、工事費概算額は政府と引き続き調整する旨、説明。

<主な基本設計条件>
◇ 改築工事費概算額1,852億円
新競技場建設工事1,413億円
周辺整備工事(立体公園、ブリッジ等) 372億円
現競技場等解体工事67億円
◇ オリンピック・パラリンピックをはじめとする大規模国際競技大会が開催可能なスペック(観客収容8万席、陸上競技トラック9レーン等)
◇ 確実な大会運営や多目的利用による稼働率向上に資する開閉式屋根の設置
◇ サッカー・ラグビー等の球技開催時には、臨場感を創出する可動席の設置
◇ デザインのコンパクト化
敷地面積:約11万㎡、高さ:約75m
延床面積:約29万㎡ → 約22万㎡

○ 平成25年11月27日~12月26日
文部科学省では、上記JSC案について、改築工事費概算額を精査し、12月下旬に改築工事費概算額を1699億円(本体工事費1395億円、周辺整備費237億円、解体工事費67億円(平成25年7月時点の単価、消費税率5%))として、政府部内へ説明。

○ 平成25年11月28日~12月27日
自民党行政改革推進本部無駄撲滅プロジェクトチーム(河野太郎座長)からの意見を踏まえ、設計条件の1つである新競技場の建設工事費概算額を1,625億円(平成25年7月時点の単価、消費税率5%)とした。また、年間収支見通しについて、開閉式遮音装置を設置した場合は年間+3億円、設置しない場合は年△6億円とした。
※ 改築工事費概算額1,692億円
新競技場建設工事1,388億円
周辺整備工事(立体公園、ブリッジ等) 237億円
計1,625億円
現競技場等解体工事67億円

※ 年間収支見通し第三者評価((株)集客創造研究所)
(可動屋根あり)   (可動屋根なし)
収入約50億円    約38億円
支出約46億円    約44億円
収支差約4億円    約△6億円

○ 平成26年1月10日~5月30日
JSCは、設計JVとの間に基本設計業務契約を締結。契約金額は6億700万円。
また、ザハ事務所との間に基本設計に係るデザイン監修業務契約を締結。金額は2億円。

○ 平成26年1月31日
JSCの中期計画について、「改築その他関連する経費について、引き続き精査を行い、基本設計作業を通じて、真にやむを得ない場合を除き現在の見積金額総額を超えないこと」を追記。

○ 平成26年5月28日
JSCは、有識者会議(第5回)を公開で開催して、基本設計案を説明。
その際、概算工事費は、1625億円(平成25年7月時点の単価、消費税率5%)とした。

○ 平成26年8月11日
JSCは、建設工事費概算額について、建設物価及び労務費の上昇並びに消費税率の引き上げによる影響額の見通しを文部科学省に説明。

○ 平成26年8月18日
JSCは、実施設計段階から施工技術のノウハウ等を設計に反映させ、2019年春の竣工を確実なものとするため、政府調達(プロポーザル方式)により施工予定者を公募。

○ 平成26年8月19日
JSCは、新競技場の収支計画見通しを公表。
<新競技場年間収支計画見通し>
事業収益  約38億円
維持費   約35億円
収支差   約3億円

○ 平成26年8月20日~平成27年9月30日
JSCが、設計JVとの間に実施設計業務契約を締結。契約金額は約26億4700万円。また、ザハ事務所との間に実施設計に係るデザイン監修業務契約を締結。契約金額は9億3000万円。

○ 平成26年10月31日
JSCが、提案者(スタンド工区:3者、屋根工区:2者)の中から、施工予定者を選定。(スタンド工区:大成建設、屋根工区:竹中工務店)

○ 平成26年12月5日、8日~平成27年3月31日
JSCは、施工予定者との間に技術協力業務委託契約を締結し、施工予定者が技術協力者として実施設計業務に参画。
契約金額:大成建設(スタンド工区) 約1億3400万円
竹中工務店(屋根工区)       約1億3500万円

○ 平成26年12月8日
JSCは、中期計画に「改築その他関連する経費について、実施設計作業を通じて、真にやむを得ない場合を除き現在の見積金額総額を超えないよう、引き続き精査を行うこと」と追記。

○ 平成26年12月15日、19日~平成27年9月30日
JSCは、国立霞ヶ丘陸上競技場等とりこわし工事契約を締結。
契約の相手方:(南工区)関東建設興業(株)、(北工区)(株)フジムラ
契約金額  :(南工区)15億552万円、(北工区)16億7292万円

○ 平成27年1月~2月上旬
技術協力者は、JSCに対し、両工区合わせた工期では竣工が当初計画の2019年3月末を超える。また、実施設計図(平成26年11月時点)に基づく概算工事費が3000億円超と報告。JSCは、両工区間で調整を指示。

○ 平成27年2月13日
JSCは、上記の報告及びJSC及び設計者による工事費概算額の試算が建設物価及び消費税率の上昇影響分を加味した場合、2100億円程度になることを文部科学省に報告。
更に、技術協力者の見積額について、設計JVの試算額より6割程度高めとなっており、この乖離を収めることは困難と想定されることを報告。
文部科学省から、JSCに対し両工区の更なる工期短縮の調整やコスト縮減を指示。

○ 平成27年3月12日
JSCは、工期短縮のため一部後施工などの出来高変更が必要であることや、コスト縮減策の検討状況を文部科学省に報告。
文部科学省から、ラグビーワールドカップの開催を必須とした工期の短縮方策の検討を指示。

○ 平成27年3月20日
JSCは、技術協力者から、ラグビーワールドカップに間に合わせるには開閉式遮音装置や可動席等を後施工とすることが必要であるとの提案を受ける。

○ 平成27年3月25日
JSCは、検討の現状(以下のとおり)を文部科学省に報告。
工期 :2019年春の竣工には、開閉式遮音装置の後施工等が必要
コスト:JSC・設計者の試算額及び技術協力者の概算見積額には大幅な乖離

○ 平成27年4月1日~9月30日
JSCは、技術協力者との間に実施設計及び施工段階に係る技術協力業務契約を締結。
契約金額は、スタンド工区が約2億2200万円、屋根工区が約3億円。

○ 平成27年4月1日~平成28年3月31日
JSCは、ザハ事務所との間に実施設計に係るデザイン監修業務契約を締結。契約金額は、約1億7000万円。

○ 平成27年4月10日
JSC理事長から下村大臣に対し、以下のとおり現状を報告。
工期 :2019年春の竣工には、開閉式遮音装置の後施工等が必要
コスト:JSC・設計者の試算額及び技術協力者の概算見積額には大幅な乖離

○ 平成27年5月14日
JSCは、技術協力者から2019年5月末までに可能な出来形の最終提示があったことを受け、文部科学省に報告。

○ 平成27年5月18日
下村文科大臣が舛添都知事と会談し、下村大臣が整備計画の見直し状況(開閉式遮音装置の後施工、可動席の簡素化)について言及。

○ 平成27年5月29日
槇文彦氏らがデザイン等の代案について提言。
代案の問題点としては、①新たなデザインの基本設計及び実施設計が11ヶ月と短期間であること、②許認可等の手続きが超法規的措置による前提であることが挙げられる。
なお、設計者によれば、新たなデザインによる所要期間は、基本設計6ヶ月(FW設計を除く)、実施設計9ヶ月、建築確認4ヶ月、工期42ヶ月、計61ヶ月で、6月から開始すると工事完成は2020年6月となり、ラグビーワールドカップ2019の開催には間に合わないとの試算であった。

○ 平成27年6月15日~22日
JSCは、技術協力者が提出した2019年5月末までに可能な出来形に基づく見積書について、JSCと設計者において査定の上、価格協議を行い、目標工事費が約2520億円で協議をおおむね終え、文部科学省に確認の上、施工予定者と基本的に合意。

○ 平成27年6月29日
東京オリンピック・パラリンピック調整会議において、下村文科大臣から国立競技場の整備方針について報告。

○ 平成27年7月7日
JSCが、有識者会議(第6回)を公開で開催し、
① 国立競技場の整備は、ラグビーワールドカップ2019・2020年オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた整備、大会後の整備に分けて段階的に行うこと、
② 竣工は2019年5月末(工期44ヶ月)としたこと、
③ 目標工事費は2520億円としたこと、
④ 2020年東京大会後の開閉式遮音装置の設置を前提とした運営収支は均衡する見通しであること、また、民間への委託を検討していること、について説明。
会議終了後、河野JSC理事長から下村文科大臣に会議の概要について報告。

○ 平成27年7月9日~平成28年12月28日
JSCが、スタンド工区新営工事に係る工事請負契約を締結(※)。契約金額は約32億9400万円。※本年10月の建設着工に必要な最低限の資材調達等

○ 平成27年7月17日
安倍総理が、整備計画を白紙に戻しゼロベースで見直す旨、発表。



2015年9月24日


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廣谷  徹
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新国立競技場 検証委 報告書 下村文科相・河野JSC理事長の責任を指摘

2015年09月24日 17時37分36秒 | 新国立競技場




新国立競技場 検証委 報告書公表 速報
下村文科相・河野JSC理事長の責任を指摘


 白紙撤回された新国立競技場の整備計画について問題点などを調べている文部科学省の検証委員会(委員長=柏木昇・東京大名誉教授)は、2015年9月24日、第4回検証員会を開き、報告書をよりまとめ、下村文部科学大臣に提出した。
 報告書では、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)と監督官庁である文科省の責任の所在が不明確で、意思決定に問題があったと指摘した。河野一郎JSC理事長や下村博文文科相、事務次官については、組織の長として問題が起きないように組織内の調整を図ることを怠ったとした
 この検証員会は、2015年7月17日、約3年半に渡って進められた新国立競技場の整備計画が“白紙撤回”された事態を受けて、整備計画のこれまでの経緯を検証するために、文部科学省に第三者組織として設置された。
 検証委員会の構成は、委員長に柏木 昇氏(東京大学名誉教授)、委員に國井 隆氏(公認会計士)、黒田 裕氏(弁護士)、為末 大氏(一般社団法人アスリート・ソサエティ代表理事)、古阪秀三氏(京都大学教授)、委員長代理に横尾啓介氏(経済同友会専務理事/みずほ証券常任顧問)で、検証協力者として岸 郁子氏(弁護士)の協力を得た。

「検証結果:問題点の検証」の総論として以下の点を指摘した。

(1) 検証にあたっての前提
▼ プロジェクトの難度の高さ・複雑さ
2019年開催のラグビー・ワールドカップに間に合わせるというタイトな工期で、最高水準の建設技術が求められるデザインを実現するという極めて“難易度”が高いプロジェクトであった。また、東日本大震災の復興事業の影響で、資材費や人件費などの建設費が高騰する中で、建設計画見直しが再三にわたって行われたことで、一層、“複雑”化していった。
▼ 異なる工事費の取り扱い
 さまざな工事費の数値が出されたが、それぞれの概算値は、“計算基礎”と“算出主体”、“制度”が異なるものであり、このような“性質の異なる数字”を横並びで比較することは慎重でなければならない。

(2)見直しに至った主な要因
 ▼ 集団的意志決定システムの弊害
意思決定が“トップヘビー”で、機動性がなかったことで、“意志決定の硬直性”を招いた。
▼ プロジェクトの推進体制に係る問題
 大規模かつ複雑なプロジェクトであったにも関わらず、既存の組織やスタッフで対応してしまった。
▼ 情報発信のあり方に係る問題
 情報発信の透明性の向上や、国家プロジェクトに対する国民理解の醸成が図られなかった。

(3) 見直しすべきだったタイミング▼ 2013年8月に設計会社JVから、ザハ・ハディド氏のデザインをベースに関係団体の要望をすべて満たした場合、工事費が3000億円を超えそうだという報告がなされ、その際に工事費の削減案が関係者で検討されている。
▼ 2013年9月に東京五輪の招致が決定した後、この削減案を基づき一度ゼロベースでザハ・ハディド案を見直しする一つのチャンスがあった。
▼ プロジェクトを動かす必要が生じた2015年9月から年末にかけてが、ゼロベースで見直しを行う一つのタイミングだったの考える。

(4) 責任の所在について
▼ 結果として、このプロジェクトの難度に求められる整備することができなかったJSC、ひいてはその組織の長たる理事長にあるといわざるを得ない。
▼ 文部科学省についても同様に解するべきであり、その組織の長たる文部科学大臣及び事務方の最上位たる事務次官は関係部局の責任を明確にし、本プロジェクトに対応することができる組織体制を整備すべきであった。




検証結果 事実認定
(新国立競技場整備計画経緯検証員会 2015年9月24日)




新国立競技場の工事費・解体工事費の変遷について
(新国立競技場整備計画経緯検証員会 2015年9月24日)






2015年9月24日
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新国立競技場 デザインビルド方式 設計施工一括発注方式 公共事業

2015年08月30日 21時38分49秒 | 新国立競技場

デザインビルド方式
設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?

(Design to construction system)





 デザインビルド方式(設計施工一括発注方式)は、公共事業の発注方式で、「設計」と「施工」を一括して発注する方式。
 受注者業者が保有している施工経験や建設技術を生かした設計が可能になり、工期の短縮や建設コストの削減が可能になり、「公正さ」を確保しながら、良質な成果物が得られるとしている。
 これまで、公共事業では、昭和34年の事務次官通達で、「設計コンサルティング業務の外注にあたっての設計・施工分離の原則」が示され、設計(建築設計会社等)と施工(ゼネコンなど建設会社)を別々の企業で実施させることで、設計のチェック・品質確保・建設コスト管理などを履行させることを基本としてきた。発注者は、まず設計者に設計業務を発注し、設計図を作成し、それをもとに、価格競争で行われる競争入札を行い、最低価格を提示した施工者に工事を発注する方式である。
 しかし、画一的な設計・施工分離方式では、ダンピング、入札の不調、発注者のマンパワー・ノウハウの不足、受注者の確保・育成、社会資本の維持管理などのさまざまな課題に対応しきれなくなってきた。そこで、これまで民間工事で行われたデザインビルド方式を、公共工事でも多様な入札契約方式の一つとして導入が進められていた。イギリス、アメリカ等の海外諸国では、ここ数年、デザインビルド方式の採用率が増加しているという。
 国土交通省では、平成13 年3 月に「設計・施工一括発注方式導入検討委員会」の報告書において手続き等の考え方を示し、設計・施工一括発注方式の試行が拡大された。2005年4月、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」を施行され、企業の技術提案を踏まえた予定価格の作成が可能となったことで、「デザインビルド方式」の実施環境が整備され、2009年に「設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式」として基準を示し、本格的に導入を開始した。
 国土交通省では、「デザインビルド方式」のメリットとデメリットを次のように説明している。

【デザインビルド方式の主なメリット】
▼ 効率的・合理的な設計・施工の実施
・設計と製作・施工(以下「施工」という)を一元化することにより、施工者のノウハウを反映した現場条件に適した設計、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となる。
・設計と施工を分離して発注した場合に比べて発注業務が軽減されるとともに、設計段階から施工の準備が可能となる。
▼ 工事品質の一層の向上
・設計時より施工を見据えた品質管理が可能となるとともに施工者の得意とする技術の活用により、よりよい品質が確保される技術の導入が促進される。
・技術と価格の総合的な入札競争により、設計と施工を分離して発注した場合に比べて、施工者の固有技術を活用した合理的な設計が可能となる。

【デザインビルド方式の主なデメリット】
▼ 客観性の欠如
・設計と施工を分離して発注した場合と比べて、施工者側に偏った設計となりやすく、設計者や発注者のチェック機能が働きにくい。
▼ 受発注者間におけるあいまいな責任の所在
・契約時に受発注者間で明確な責任分担がない場合、工事途中段階で調整しなければならなくなったり、(発注者のコストに対する負担意識がなくなり)受注者側に過度な負担が生じることがある。
▼ 発注者責任意識の低下
・発注者側が、設計施工を“丸投げ”してしまうと、本来発注者が負うべきコストや工事完成物の品質に関する国民に対する責任が果たせなくなる。
(出典 設計・施工一括及び詳細設計付工事発注方式 実施マニュアル 2009年3月 国土交通省

東京都 競技会場整備にデザインビルド方式を導入 事業迅速化の切り札に
 東京都は、2020 年東京五輪の競技会場整備に、設計・施工一括発注(デザインビルド、DB)方式を導入した。都財務局は2014年6月、「設計・施工一括発注方式の取扱いについて」と題する文書を公表し、デザインビルド方式の基本的な考え方を提示した。
 DB方式を適用する案件では、基本設計をプロポーザル方式で建築設計事務所や建設コンサルタント会社などに委託。実施(詳細)設計と施工を一括して、建設会社などからなる建設共同企業体(JV)に発注する。基本設計では、施設に求める性能などの要求水準や受発注者間のリスク分担などを盛り込んだ発注資料を作成。案件ごとに実施要領を定めて、発注手続きに入る。
 デザインビルド方式は総合評価方式を採用する考えだ。実施(詳細)設計は、建設会社の設計部門などJVの構成員、あるいはJVと委託契約する設計協力会社が担うこととした。基本設計を担当した会社は、実施設計段階以降は発注者支援などを手掛ける「DBアドバイザリー業務」を担い、設計協力会社になることはできない。


DB方式の実施フロー。基本設計の受注者は実施設計を受注できない(資料:東京都)
(出典 日経アーキテクチャー 2014年7月14日)

 デザインビルド方式は震災復興事業や東京オリンピック施設建設で、「工期短縮」という理由で特例的に採用されている。しかし、公共事業という公正性・透明性を求められる事業において制度的に満足できる仕組みになっているとはいえないだろう。
 公共事業の調達において、透明性の確保、説明責任には設計・施工の分離方式が原則だろう。 あくまで「例外」的な手法であり、導入は「限定的」することが必要であろう。
予定価格制度との整合性、分離・分割発注との整合性、地元企業活用手法の整備、設計変更時の工事費増減ルールの整備等、解決すべき課題はまだまだ多いという。
 なによりも懸念されるのは、強力な設計部門を自社で抱え、豊富な建設実績、新しい工法などの技術力など“圧倒的”なパワーを保持する大手ゼネコンの“寡占”体制が更に増すということである。発注者、設計会社、施工者(ゼネコン)のトライアングルのチェック&バランス体制が崩れるということだろう。
 東京オリンピック施設建設で、問われているのは、「工期短縮」と「建設コスト削減」である。とりわけ労務費や資材費が暴騰している中で、「建設コスト削減」が最大の課題だ。「デザインビルド方式」を採用するにしても、「建設コスト削減」を達成するために、発注者の姿勢が厳しく問われるだろう。




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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2015年8月30日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
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新国立競技場 入札 ゼネコン 公募型プロポーザル方式 デザインビルド方式 随意契約 価格競争

2015年08月29日 10時44分39秒 | 新国立競技場

ゼネコン主導の新国立競技場建設計画への疑問


★ 公募型プロポーザル方式は“随意契約” “価格競争なし”で“高止まり”
★ 「1625億円」から「2520億円」、そして「1550億円」 「1000億」乱高下の“怪”
★ ゼネコン主導の総工費試算
★ 問われる日本スポーツ振興センター(JSC)の発注管理能力
★ 入札には“価格競争”導入を!





新国立競技場の総工費「1550億円」決定
  政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。

▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
 ▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。

 政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、ロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、1000億円超ではまだ破格に高額で、国民の批判が収まるかどうか不透明である。
 また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”工事が発生したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか?不安材料は、依然として残る。


総工費圧縮「約1000億円」の“明細”を明らかに!
 「2520億円」から「約1000億円」削減して、「1550億円」に圧縮した“努力”は評価したいと思う。
 しかし、具体的にどんな経費を圧縮したのか、明らかにしないと納得できないのではないか。
 2015年7月、発注者の日本スポーツ振興センター(JSC)と設計会社JV、施工予定者の大手ゼネコンが積算した「2520億円」とどこが違うのだろうか?
 可動式の屋根は、設置しないので「キールアーチ」は不要になるだろう。
 観客席は、前の計画では、「6万5千席」が恒久設備で、「1万5千席」を仮設としてたが、今回の計画では「6万8千席」(恒久設備)として、余り大差はない。あとは観客席の上部の屋根は「幕」製にしたり、冷暖房設備は削減したりすることが分かる。その他の機能の何が削減ないし削減されてたのか公表すべきであろう。「公募」前なので、積算価格を公表するのは適正ではない。
 筆者の疑問は、一体、「2520億円」の概算見積もりをどこまで信用できるのかという点である。この疑問が解消されない限り、「1550億円」にも疑念が残るだろう。


ザハ氏事務所がJSC批判 「建設費高騰はデザインが原因でない」
  2015年7月28日、ザハ・ハディド氏の事務所は、ホームページ上で、「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を発表した。また、費用がかかりすぎるとされたアーチは230億円で工事が可能で、総工費の10%未満だったとしている。
 建設費が膨らんだ要因について「完成日が動かせないプロジェクト、建設コストの急上昇、さらに国際的な競争がない環境の中で、少数の候補から建設会社を選定すれば競争原理が働かなくなるとJSCに警告したが聞き入れられなかった。十分な競争原理が働かないなかで、あまりにも早期に建設会社を選定したことが見積もりの過剰な高騰を招くことになった」と建設会社の選定方法に問題があったとの見方を示し、安倍晋三首相に対し、有効な提案をする準備があると書簡を送ったことも明かした。
 2015年8月24日、ホームページ上で、“ビデオプレゼンテーション”を公開し、“白紙撤回”の取り下げを求めた。


ビデオプレゼンテーションとレポート―新国立競技場 東京 日本 Zaha Hdid Architecs


新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」
 2015年7月17日、安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
 2015年7月21日、新国立競技場について新たな計画を策定する関係閣僚会議(議長・遠藤利明五輪担当相)を設置し、首相官邸で初会合を開いた。世論の批判で当初案の白紙撤回に追い込まれた事態を受け、内閣全体で取り組む姿勢を打ち出し、官邸主導で立て直しを図るとしている。
初会合では、工期や上限コストなどを盛り込んだ整備計画を「秋口の早い時期」(遠藤氏)までに策定することを確認した。整備計画は、デザインから設計、施工を一括で発注する国際公募の条件となる。


新国立競技場工事 “見切り発車” 大成建設に資材発注「33億円」
 2015年7月9日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、スタンド工区の施工予定者に決まっている大成建設と最初の契約を結んだ。スタンド部分の一部資材を発注し、契約額は「32億9400万円」、“随意契約”である。
発注された資材は、「地盤の掘り起こし作業に向けて、掘り出した土が崩れないための壁を設置するための鉄骨材」といわれているが、その経費として「32億9400万円」が妥当なのか、高すぎるのか、どんな鉄骨材を何トン、発注したのか、情報が公開されていなのでまったく解らない。
さらにスタンド工区全体の「設計」、「仕様」、「経費見積もり」が示されてない中で、“前代未聞”の“見切り発車”である。
2015年7月17日の安倍首相が表明した“白紙撤回”で、“見切り発車”が挫折した。資材発注費「32億9400万円」は一体どうなるのだろうか?
「スポーツの“聖地”」を目指す新国立競技場の建設が、こうした杜撰”体制で進められていいのだろうか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)への道をまた一歩進んでしまった。


新国立競技場の調達方式は「公募型プロポーザル方式」
 新国立競技場の「フレームアップ設計」、「基本設計」、「工事」の調達方式は、すべて、価格競争が行われる「競争入札」ではなく、業務遂行の適正、能力を重視する「公募型プロポーザル方式」を採用している。
「フレームアップ設計」と「基本設計」はセットにして建築設計会社、「工事」はゼネコンを対象に応募者を求めた。
新国立競技場の「工事」については、特別な調達方式を採用し、建設設計会社が行う「実施設計」段階から、建設会社(ゼネコン)が「施工」担当予定者として、「技術協力」を行い、「実施設計」作業に加わる方式だ。「実施設計」で仕様や工法、工期などを確定した上で、総工費の「見積もり」を作成する。「実施設計」段階の「技術協力」と「施工」をあらかじめセットにして応募者を求める方式である。設計・施工を一括して発注する「デザインビルド」方式の“精神”と取り入れた異例の調達方式である。8月28日に決定された“仕切り直し”整備計画では、設計・施工を一括して発注する「デザインビルド」方式を採用することになった。
 実は「工事」だけの調達では、「競争入札」が原則で、「公募型プロポーザル方式」にはできないのである。「設計」業務が伴わなければならないのである。今回の場合は、「工事」に「実施設計」の「技術協力」を付け加えて、クリヤーしているのである。
 大手ゼネコン側から見ると、実質的に「工事」を価格競争が行われる「競争入札」ではなく、価格競争のない“随意契約”で、巨大プロジェクトを請け負うことができる「公募型プロポーザル方式」を、内心、歓迎しているのではなかろうか?
 この「実施設計」の「技術協力」と「見積もり」作成までが第一段階の業務で、発注者(JSC)は、「実施設計」の妥当性を審査しながら、「見積もり」合わせを相対交渉で行う。発注者(JSC)は、公募を行う際に、あらかじめ工期や総工費の上限を設定している。総工費の「上限」の範囲に収まれば第二段階の「施工」の契約に進む。双方合意に至らなければ「不調」となり、調達はやり直しとなる。
 新国立競技場の工事は、開閉式の屋根や耐震性と伸縮可動機能のあるスタンドなどの難度の高い施工技術が必要とされる。高度な技術力と経験を持つ建設業者を技術協力者として「実施設計」段階から加えることで、工期内に確実に工事を完成させることが、こうした調達方式を採用した狙いだとしている。


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新国立競技場 デザインビルド方式

公募型プロポーザル方式とは
 「公募型プロポーザル方式」は、業務の委託先や建築物の設計者を選定する際に、調達案件についての技術提案を“公募”で募り、技術提案の内容を審査して、最も優れた提案を行った応募者を選定する調達方式。
 “公募”を行う際には、応募者に業務実績など資格要件を課して、その条件を満たした者でないと応募できない。
 “公募”とはいっても、決して誰にでも門戸が開かれているわけではない。

 公共機関の調達方式は、価格の安い方を提示した応札者が受注する「競争入札方式」が原則である。しかし、専門性を要する調査業務や高度な技術力が必要な業務、デザイン性や創造性、企画力が要求される業務などの場合は、価格で競争する「競争入札」では、期待した結果が得られない場合が生じる懸念が大きい。
また、発注者側の立場から見ると、「発注者が最適の仕様を設定できない」や「仕様の前提となる条件の確定が困難な場合」が、巨大な建設工事の場合は発生する場合が多い。
発注者側の都合で、工期がタイトで、しかも完工時期を厳しく守る必要がある建築物の工事も対象となるだろう。

 これに対し、発注者が、過去の業務実績などで“随意”で業務委託先を決める「随意契約」は、発注者としては“安心感”があるが、公平性の観点や、競争原理が働かないことで価格が“高止まり”になるなど問題も多い。建築設計の場合は、「コンペ方式」で、業務委託先を選定する場合もあるが、受注できるかどうか不確実な中で、詳細な設計まで行う必要があり、応募者の負担が大きいという課題もある。また「コンペ方式」を採用すると“時間”がかかるという欠点があり、他の調達方式に比べて長期間が必要となる。設計業務の場合、コンペ方式が「設計書」を選定するのに対し、プロポーザル方式は「設計者」を選定するという違いもある。

 発注者は調達案件のために、どのような条件等を備えた者に業務を依頼したいかを定めた“公募条件”を公示する。公示する内容は、委託業務内容、応募者の資格、参加表明書・技術提案書の書式と作成要領、審査委員会のメンバーと審査基準などである。
 そして応募者に対し、書類審査を行い概ね5者程度に絞り込む。
評価するポイントは、応募者の業務実績・技術者数等により組織全体の技術力や技術者の技術力を資格・経験年数・設計実績などである。
 次に書類審査をパスした者に“技術提案書”の提出を求める。
調達案件に最も適した事業者を選ぶのが目的なので、類似の業務実績や実施チームの体制、そして業務に対する熱意や発想の豊かさを持っているかなどを記載した提案書を求める。
 業務実施者の経歴・実績、実施チームの構成、工程計画や業務に取組む基本方針・課題に対する考え方等である。
 “技術提案書”を提出したものに、第2次審査として、審査委員会は、業務請負者としての取組意欲・技術力・創造性などをヒアリングし、技術提案書の補足説明や質疑応答を通じて、“技術提案書”の的確性・実現性を評価する。
各種の項目で採点して、総合点の最も高い応募者が選定され、「優先交渉権事業者」となる。
選定後は、提案書選定の時点ですでに“競争”が終了しているとの考え方から、「随意契約」に移行する。焦点の発注価格については、相対で“見積合わせ”を行い、発注者の予定価格の範囲に収まり合意に至れば、契約を締結し“業務発注”となる。予定価格に収まらない場合は、「不調」となり、2番目の評価を得た応募者を交渉相手とする。
 「公募型プロポーザル方式」は、価格については“随意契約”による調達方式なのである。



新国立競技場新営工事(スタンド工区) 評価点集計表 日本スポーツ振興センター(JSC)

新国立競技場新営工事(屋根工区) 評価点集計表 日本スポーツ振興センター(JSC)

公募型プロポーザル方式にする理由
 国土交通省では、競争入札の調達方式にしない理由を下記の様に説明している。

★ 質の高い建築設計の実現を目指して-プロポーザル方式-
国土交通省大臣官房官庁営繕部

質の高い建築設計を実現するために
 設計者の選定にあたっては、物品購入などと同じような設計料の多寡だけでは判断できません。物品購入のように、購入するものの内容や質が、あらかじめ具体的に特定され、誰が行っても結果の同一性が保証されている場合には、競争入札によって調達することが適切であることは言うまでもありません。
 しかし、建築の設計は、設計の内容や設計の結果があらかじめ目に見える形になっているわけではなく、設計者によってその結果に差が生じるものです。したがって、設計料が安いからといっても、設計成果物が悪ければ、発注者の要求する性能・品質の建築物を得られないといった結果になりかねません。
 そこで、「官公庁施設は国民共有の資産として質の高さが求められることから、その設計業務を委託しようとする場合には、設計料の多寡による選定方式によってのみ設計者を選定するのではなく、設計者の創造性、技術力、経験等を適正に審査の上、その設計業務の内容に最も適した設計者を選定することが極めて重要」になります。


「フレームワーク設計」の実施 「基本設計」へ
 「ザハ・ハディド氏のデザイン案を基にコストや規模などの「基本設計」の条件を整理するための「フレームワーク設計」を行うこととして、“公募型プロポーザル方式”で選定手続きを開始し、2013年5月15日に、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体に決定した。
新国立競技場の整備に係る、▽スタジアム本体▽屋外環境▽造成計画・人工地盤▽既存施設(現国立競技場、JSC本部、日本青年館本館など)の取り壊し―などについて、設計条件の整理やコスト縮減の検討するものである。
 JSCはフレームワーク設計実施の目的について、ザハ作品のデザインを保ちながら「規模、コスト、都市計画条件の面から施設計画を最適化するものだ」としている。フレームワーク設計実施は、ザハ・ハディド氏の監修の下に行われるもので、JSCは別途、Zaha Hdid Architecsと「デザイン監修契約」を結んでいる。
2013年5月31日、JSCは、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体と、2億9925万円で契約をした。その後、「とりこわし工事完了時の地盤面状態や下作物解体範囲等が基本設計に影響することから、とりこわし実施設計」業務を追加したとして、9月30日、約1億円増額し、3億9175万5千円に契約を変更した。業務完了は12月31日である。
 この作業で、「基本設計」の要件が決めた上で、次の「基本設計」作業に移行する。
新国立競技場の建設工事は、「フレームワーク設計」の開始で新たな段階を迎えた。国際デザイン・コンクールでは、総工費の大枠を「1300億円」とした上で実施した「デザイン」のコンクールであり、主として「デザイン」の優劣を競うもので、詳細な設計は求めていない。だから応募されたデザインは「作品」と呼ばれているのである。
 ザハ・ハディド氏の「作品」は、基本的に建築物の「デザイン」、この「デザイン」を建築物として“具体化・実現化”するのが「フレームワーク設計」や「基本設計」である。「基本設計」で、具体的な仕様や工法、工期などが確定され、経費を具体的に積算し焦点の総工費が確定されるのである。

「新国立競技場設計条件」JSC策定 
 2013年11月26日、JSCは「フレームワーク設計」のまとめとして「新国立競技場設計条件」を公表した。
 「フレームワーク設計」では、ザハ・ハディド氏の監修を下に、ラグビーワールドカップに加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックオリンピック・パラリンピックも想定して、各分野の代表で構成されたワーキング・グループから出された要望をすべて取り入れた試算を行った。
その結果した工事費が予算を大幅に超えていたため、ザハ・ハディド氏のデザイン案を生かしつつ、規模やコストを縮小して基本設計条件をとりまとめた。
 スタジアムの延べ床面積は原案の約29万平方メートルから約7万平方メートル縮小し約22万平方メートルとするが、観客席はピッチサイドにせり出す可動席も含め8万人収容の規模は維持する。またイベントでの利用も可能にする遮音装置のついた開閉式の屋根、観客席の快適性を高める空調設備、照明設備、映像音響設備などを設置する。さらに 「世界水準のホスピタリティ施設」とするVIP専用席、プレアム席やラウンジやレストラン、スポーツジムやイベントエリアなどの商業施設が整備される。
 総工費については、「1413億円」(本体工事)と周辺工事「372億円」、現競技場の解体費67億円とした。合計すると「1852億円」である。
 周辺工事「372億円」の内訳は、「サブトラック連絡通路」が「30億円」、「人工地盤等」が「266億円」、「都営大江戸線との接続」が「11億円」、「立体都市公園」が「39億円」、「上下水道幹線移設」が「26億円」としている。
 これに対し東京都の猪瀬直樹知事は記者会見で、総工費のうち本体工事費は「国で負担すべき」とした上で、本体以外の工事費は「都民の利便性につながるものについては都の負担を検討する必要がある」として、第三者機関によるチェックや国との実務者協議を進める方針を示した。
 この「新国立競技場設計条件」を元に、次の段階の「基本設計」の作業に入る。 
「基本設計」は引き続き、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が担当することになっている。2014年1月10日、JSCは、4社の共同体と約6億円の「基本設計料」で契約した。業務終了は5月30日である。

縮小「基本設計案」 景観配慮、5メートル低く 1625億円を維持


(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

 2014年5月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)の将来構想有識者会議(委員長=佐藤禎一元文部事務次官)が開かれ、最大8万人収容の新競技場の「基本設計案」が承認された。
「基本設計」は、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が行っていたもので、JSCは約6億円の「基本設計料」で契約していた。
周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小するとした。19年9月開幕のラグビー・ワールドカップ日本大会に向け、2019年3月の完成を目指すとしている。
 基本設計案によると、敷地面積は当初計画通り約11万3千平方メートル、延べ床面積は約21万1千平方メートルで、外観は、ザハ・ハディド氏の流線形の案を元にデザインされ、地上6階地下2階。総工費は1625億円(2013年7月の単価、消費税5%で試算)とした。
1万5千席の観客席は可動式にしてピッチサイドまでせり出す方式を採用。芝生の状態を保つため、地中に温度を制御する装置を入れるなど、最新技術を駆使する。
屋根は、客席の上部は常設とし、グラウンド上部には可動式とし、周辺に配慮して吸音性を重視した膜を使用し、遮音性を高める。建築基準法上は「遮音装置」だとされている。
また空調設備、照明設備なども設置される。
年間維持費については、現在の競技場では5億~7億円程度の経費が、46億円に膨れるが、JSCは、コンサートなどの多目的利用で「年間50億円を超す収入が見込める」と試算する。
「1625億円」とした総工費は、「2013年7月の単価、消費税5%」での試算であり、「消費税の増税分で工事費はまだ上がるだろう」としている。また高騰する資材費や人件費で、さらに総工費は膨らむのは必至である。
 また「1625億円」は、競技場本体に約「1388億円」、公園や連絡通路などに約「237億円」と記されている。「1625億円」には、「237億円」の周辺整備も含まれていることを忘れてはならない。競技場本体だけでは約「1388億円」なのだ。
 さらに焦点の「1625億円」の誰が負担をするのか、一切、明らかにされなかった。
 新国立競技場の「基本設計」終了し、着工するための詳細設計、「実施設計」に移行する。「実施設計」も、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が担当する。2014年8月20日、約26億4700万円で契約した。
 業務完了は、2015年9月30日、10月1日は着工である。


新国立競技場 施工予定者は大成建設と竹中工務店
 12月、日本スポーツ振興センター(JSC)は、施工予定者の大成建設、竹中工務店と「技術協力」業務に関する契約をそれぞれ結んだ。「スタンド工区」を受注予定の大成建設とは12月5日に1億2400万円で、「屋根工区」を受注予定の竹中工務店とは12月8日に1億2500万円で契約を締結し、設計会社が進めている「実施設計」への「技術協力」が始まった。履行期限は3月31日までとし、それ以降の業務は15年度に新たに契約を結び直す予定だ。
 「技術協力」業務では、施工者の立場から、
▽設計全般に対する技術検証・技術提案
▽施工計画の検討・提案
▽スケジュール管理支援・工事工程の検討・提案
▽概算工事費の算出
▽コスト管理支援▽予定専門工事会社の選定▽専門工事会社のパッケージング-
などを行うことになった。
今後、日本スポーツ振興センター(JSC)は、ゼネコン2社と、契約締結に向け、工法、工期、仕様などの協議を行い、2015年6月頃までに、それぞれ「積算見積書」を作成し、総工費の「見積もり合わせ」する。「見積もり合わせ」は建築と設備工事を一括とし、ゼネコン2社の「見積もり額」が「予定価格」以下であれば7月までには契約し、10月には着工したいとしている。

 こうして新国立競技場の建設工事は、ザハ・ハディド・アーキテクツがデザイン監修し、日建設計・梓設計・日本設計・アラップジャパンの4社の共同体(JV)で「実施設計」を担当。また発注者支援業務として山下設計・山下ピー・エム・コンサルタンツ・建設技術研究所の共同体(JV)、「実施設計」への「技術支援」を大成建設と竹中工務店が担当する体制となった。

 ザハ・ハディド氏の“斬新”なデザインの構築物を建設するには、極めて高度な技術力が必要なため、日本スポーツ振興センター(JSC)は、設計会社が行う「実施設計」の段階から、「技術協力」という形で、施工業者を参加させる「公募型プロポーザル方式」を採用した。豊富な施工実績と技術力のある大手ゼネコンと“協力”することで「入札不調」などの不測の事態を避け、確実に工事を進めることを目指したとしている。
しかし難点は、一般競争入札と違って価格での競争がなく、総工費については“随意契約”方式の相対交渉となる。 基本的にゼネコン2社の「見積もり額」が日本スポーツ振興センター(JSC)の「予定価格」以下であれば正式契約して、着工に進む。しかし問題は、この「見積もり合わせ」は双方の相対の協議で行われるので、総工費は高めになることだ。価格が2倍から3倍になる懸念もあると言われている。
これからは、建築事務所が行う「基本設計」から、建設工事会社(ゼネコン)の「技術協力」が加わる「実施設計」の段階に移行する。
 以後、新国立競技場建設を巡る、“主導権”は、設計会社から、大成建設と竹中工務店のゼネコン2社に握られることになる。とりわけ、工法や工期、総工費などは“豊富”な“業務経験”と“技術力”を備える2社の主張通りに策定されていったと思える。 
建設設計会社も口をはさむ余地がなかったのであろう。残念ながら、日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省にゼネコン2社に反論しチェックする“能力”があったとは、到底思えない。


ゼネコンの見積もりは3088億円 工期50か月
 新国立競技場のスタンド工区は大成建設、屋根工区は竹中工務店が担当することが決まっているが、2社は施工業者として、「実施設計」に加わり、建設費の積算を施工業者としての立場で行い、焦点の「キール・アーチ」の工費負担増や建設資材の値上がりや労務費の上昇や、消費税率の引き上げで、「3000億円超」とする見積もりをJSCに提出していたことが、2015年6月始めに明らかになった。また工期も「50か月程度」と、2019年3月の完成予定も8か月程度延びるとして、ラグビー・ワールドカップに間に合わない恐れも浮上し、関係者に衝撃が走った。

 2015年8月19日、第三者委員会に提出された資料によると、ゼネコン2社は今年1~2月に、「3088億円」の報告していたという。日本スポーツ振興センター(JSCと設計会社は、独自に、資材高騰分や消費税率の引き上げ分を上乗せし「2112億円」の試算まとめていた。 その差は、なんと約「900億円」、スタジアムがもう一つ建設可能な巨額なものである。
 日本スポーツ振興センター(JSC)は、2015年2月13日に、文科省に2つの見積もりを提出し、「(金額の)乖離を収めることは困難と想定される」と報告していたことが明らかになった。

 JSCは、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体に、「フレームワーク設計」、「基本設計」、「実施設計」業務を発注している。
 「基本設計」時の見積もり額「1625億円」は、日建設計など4社の共同体が積算した額である。日建設計は、設計会社としては、“超一流”で、文科省やJSCとは違って、建築設計の専門家を抱えているいわばプロの集団である。 4社の共同体が、主として建築資材費の高騰、消費税率の上昇分は織り込んで積算した「2100億円程度」は、根拠の無い数字ではなく、建築の専門家が積算した数字である。これに対し、施工を担当するゼネコン2社は「3000億超」の見積もりを出してきた。「900億円」という巨額の差は、一体、何が原因なのであろうか。 焦点の「キールアーチ」の工費を巡って、設計会社とゼネコンと見解に違いが生じたとのだろうか? スタジアム本体工事はどうなっていたのだろうか? 一体、どこの部分の積算に違いが出たのだろうかまったく明らかになっていない。

 こうした中で、2015年5月、「基本設計」の概算工事費は、日建設計など4社の共同体が「約3000億円」と提示したのに対し、「1625億円」は、過少に見積もって公表していたという疑惑が伝えられている。、日本スポーツ振興センター(JSC)は資材の調達法や実際には調達できないような資材単価を用いるなど単価を操作するなどして1625億円と概算していたという。日本スポーツ振興センター(JSC)は「国家プロジェクトだから予算は後で何とかなる」と取り合わなかったという。
 文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)では、総工費「1625億円」とすることですでに合意しており、JSCはこの「上限」に合わせた可能性がある。ある文科省幹部は「文科省の担当者が上限内で収まるよう指示したのではないか」と指摘しているという。(出典 毎日新聞 2015年8月7日)

 繰り返すが、施工業者のゼネコン2社は、「公募型プロポーザル」方式で選定され、総工費は、発注側との協議で決まるのである。価格競争のない「随意契約」なのである。競争原理は一切働かない。協議がまとまらなければ“不調”として、“入札やり直し”とするのが適切である。
 ゼネコン2社の「3000億超」という見積もりが、本当に適正な額なのかどうか、誰がチェックしたのであろうか? ゼネコン2社の“言い値”を“鵜のみ”にしていなかっただろうか? 設計会社から、施工業者へ移行していく中で、 「1625億円」から倍近くの額に膨れ上がっていくプロセスに深い疑念を持つ。
 仮に、ゼネコン2社の「3000億円」が妥当だとすれば、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「フレームワーク設計」、「基本設計」、「実施設計」はなんだったのだろうか? 日本スポーツ振興センター(JSC)は4社の共同体に、約36億4600万円すでに支払っている。杜撰な設計作業の責任は問われて当然だろう。
 一方、2015年5月、「基本設計」の概算工事費、「1625億円」は、過少に見積もって公表していたという疑惑が伝えられている。設計会社JVが「約3000億円」と提示したのに対し、日本スポーツ振興センター(JSC)は資材の調達法や実際には調達できないような資材単価を用いるなど単価を操作するなどして1625億円と概算していたという。日本スポーツ振興センター(JSC)は「国家プロジェクトだから予算は後で何とかなる」と取り合わなかったという。
 文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)では、総工費「1625億円」とすることですでに合意しており、JSCはこの「上限」に合わせた可能性がある。ある文科省幹部は「文科省の担当者が上限内で収まるよう指示したのではないか」と指摘しているという。(出典 毎日新聞 2015年8月7日)

 第三者の専門家が、当事者だけの言い分を“鵜呑み”にせず、しっかり検証して真相を解明する必要があるのではないか。

 文科省などは、「3000億超」をようやく深刻に受け止め始め、コスト削減に大慌てで乗り出し、JSCに建設計画の再検討を指示した。JSCは、密かに、具体策の検討に着手し、3月下旬にはゼネコン側からラグビーW杯に間に合うよう開閉式屋根や可動席などを五輪終了後に後回しにする提案を受け、検討作業を経た上で、その案を文科省に報告した。4月には、日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長が正式に下村博文文科相に報告し、建設計画を見直し、総工費は「3000億超」を更に圧縮することした。


新国立競技場建設費 2520億円承認
  2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」を開き、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが承認された。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
 有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日、大阪で所用があったとして欠席した。
 JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。差引で約「900億円」増額としたのである。
 しかし2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
 ザハ・ハディド案は基本的に「建築デザイン」が中心で、総工費について詳細に積算した上での算出はしていない。
 しかし、その後、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が「フレームワーク設計」を行い、その上で「基本設計」も終えている。「基本設計」の段階では、工法、工期など仕様がほぼ固まっており、各費目の積算をした上で、総工費の想定額が算出される。4社の共同体には、こうした設計業務で、約10億円も支払っている。その上で、「1625億円」の総工費の想定額が算出されているのである。
 「基本設計」終了後の総工費想定額は、精度の高い数字で、通常、最終的な契約額とのズレは、10%程度といわれている。
 但し、「1625億円」は、「2013年7月の単価」で「消費税5%」で試算しており、その後の資材費や人件費の値上がりや「消費税8%」分は、上乗せになるのは理解できる。しかし、総工費が総額で約1000億円も膨れ上がるのは理解できない。
 「10億円」費やした日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「基本設計」が杜撰だったのか?
 それとも大成建設と竹中工務店がさまざまな条件を考慮して、極力“高め”の総工費を設定したのか? 
 今回の新国立競技場の工事発注が、競争入札ではなく、「公募型プロポーザル方式」と呼ばれる事実上の“随意契約”で行われていることが、「1000億」の原因なのでなかろうか? 
 価格競争が行われないと、発注価格は“高止まり”になるのは常識である。
 新国立競技場の建設計画を“白紙撤回”して“仕切り直す”なら、基本設計から「1000億」も、なぜ膨れ上がったのか、本当に妥当な額なのか、しっかり検証しなければならない。

 また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
 このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。



(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

「2520億円」の内訳と疑問
 猪瀬前東京都知事は、日本テレビのうえいくアッププラス(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区とスタンド工区に分けてそれぞれ詳細を明らかにしている。
▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事                  44.3億円
          鉄骨工事                427.8億円
          防水工事                 5.7億円
          電気設備                 30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事                   86.1億円
          鉄筋工事                  42.3億円
          鉄骨工事                 208.7億円
          木工事                   22.1億円
          金属工事                 104.7億円
          電気設備                 135.3億円
          空調工事                 100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

 総工費「2520億円」は、当初案を大幅に縮小・削減した建設計画で算出した額である。それでも当初の目論見の「1300億円」のほぼ倍に膨れ上げっている。その原因について、長さ約370メートル、重さ約3万トンとされる2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」だと強調されてきた。しかし「キールアーチ」の工事費は、約「428億円」である。さらに問題はスタンド工区の工事価格である。スタンド工区は特に技術的に難しい工事だとは言われていない。スタンド工区だけで「1570億円」を計上している。建築資材費や人件費の値上がりや、旧国立競技場の取り壊し工事が5か月遅れたことによる「突貫工事」になったことや、消費税8%は承知している。しかし、「基本計画」策定時の総工費概算「1625億円」の際の積算と具体的にどこが変わったのだろうか? 果たしてゼネコン2社は適正に積算がなされたのであろうか? 発注者である日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省はしっかりチェックしたのだろうか?疑問は晴れない。


問われる発注者・日本スポーツ振興センター(JSC)の管理能力
 猪瀬前東京都知事は、MXTVのインタビューに答えて、「スタンドはキールアーチとは関係ない。そこで何で北京やロンドンの3倍もかかっているのかどう考えてもおかしい。随意契約で第3者の検証がなく高い価格になっている。高い価格の構造を、デザインがちょっと変わっていると問題をすり替えているのはおかしい。」と述べた。
 またデザインについてはIOCに屋根が評価されたとしている。
「屋根はこれまではオリンピックの施設についていなかった。スタジアムに。それが新しかった。屋根を付けなければ意味がない」と語った。
(出典 新国立競技場問題 猪瀬前知事「どう考えてもおかしい」 2015年7月9日 MXTV)
 “随意契約”の価格が“高止まり”になることに懸念を表明し、第三者委員会よる精査の必要性を述べている。

 大規模なプロジェクトやデザイン性等が重視される建築物、さらに高度な技術が求められる建築物などは、公募型プロポーザル方式で進めないと、“確実性”や“安定性”が担保できないという点は理解できる。
 しかし、問題は、公募型プロポーザル方式で調達をすると、「設計」、「仕様」、「施工」がすべて“随意契約”ベースで進められる点である。
 問題は「価格」を競う「価格競争入札」、あるいは「企画」と「価格」を競う「総合評価落札方式」と比較すると、経費が“高止まり”になることである。
 巨大プロジェクトの場合、経費見積もりは膨大になる。それを精査する側には高度な知識を備えた“熟練者”が必要だ。建設経費に見積もりは、鉄骨、コンクリート、部材など、どんな材質の素材を仕様するのか、総量は何トンなのか、その単価はいくらなのか、建設機械は何を使用して、何日仕様するのか、工事担当者の延べ日数は何日で単価はいくらなのか、総工費を積算するには膨大な項目の経費を積み上げなければならない。

 発注者側に、経費見積もりを精査できる“プロフェッショナル”の人材や「企画」・「設計」を吟味できる人材、さらに工事の施工・管理をチェックできる人材が必須となる。
 新国立競技場の建設の発注者は、日本スポーツ振興センター(JSC)である。
そしてJSCを“指導”・“監督”するのは文部科学省。
これまでの経緯を見ると、JSCと文科省に、新国立競技場建設という巨大プロジェクトを管理する“能力”に疑念が生じている。


新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」 “迷走”第二幕へ
 安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
 2020年東京オリンピック・パラリンピックの“シンボル”である新国立競技場の迷走は収まらない。





巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?



新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(1) “迷走”と“混迷”を重ねる新国立競技場 “国際公約”ザハ・ハディド案 縮小見直し「2520億円」
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(2) 白紙撤回ザハ・ハディド案 仕切り直し「1550億円」 破綻した“多機能スタジアム”
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(3) 新デザイン「木と緑のスタジアム」決定 大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏のチーム “赤字”への懸念 巨額の負担を次世代に残すのか? 
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4) 検証新デザイン 維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(5) 新国立競技場“迷走” 文科省とJSCに責任 検証委
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(6) 陸上競技の“聖地”は無残にも消えた 新国立競技場はサッカーやラグビーの球技専用スタジアムに




「準備は1年遅れ」「誠実に答えない」 警告を受けた大会組織委
マラソン水泳・トライアスロン 水質汚染深刻 お台場海浜公園
北朝鮮五輪参加で2020東京オリンピックは“混迷”必至
東京オリンピック 競技会場最新情報(上) 膨張する開催経費 どこへいった競技開催理念 “世界一コンパクト”
東京オリンピック 競技会場最新情報(下) 競技会場の全貌
“もったいない” 五輪開催費用「3兆円」 小池都知事の“五輪行革に暗雲
四者協議 世界に“恥”をかいた東京五輪“ガバナンス”の欠如 開催経費1兆8000億円で合意
“迷走”海の森水上競技場 負の遺産シンボル
“陸の孤島” 東京五輪施設 “頓挫”する交通インフラ整備 臨海副都心
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか





国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)




2015年7月10日
Copyright (C) 2015 IMSSR



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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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新国立競技場 建設費削減 1550億円 見直し 迷走

2015年08月29日 10時40分12秒 | 新国立競技場

“疑問”が残る新国立競技場建設計画 建設費「1550億円」 “混迷”はまだ続く?




新国立競技場の総工費「1550億円」決定
  政府は関係閣僚会議を開き、総工費を「1550億円」とする新しい整備計画を決定した。

▽総工費の上限は、「2520億円」に未公表分を加えた「2651億円」と比べて、約「1100億」円余り削減して「1550億円」とする。
▽基本理念は、「アスリート第一」、「世界最高のユニバーサルデザイン」、「周辺環境等との調和や日本らしさ」。
▽観客席は6万8000程度とする。
▽サッカーのワールドカップも開催できるように、陸上トラック部分に1万2千席を設置し、8万席への増設を可能にする。
▽屋根は観客席の上部のみで「幕」製とする。
▽「キールアーチ」は取りやめる。
▽観客席の冷暖房施設は設置しない。
 観客の熱中症対策として休憩所や救護室を増設する。
▽陸上競技で使用するサブトラックは競技場の近辺に仮設で設置する。
▽総面積は旧計画の22万2000平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小する。
▽VIP席やVIP専用エリアの設置は“最小限”にする。
▽スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小する。
▽競技場は原則として陸上競技、サッカー、ラグビーなどのスポーツ専用の施設とする。但し、イベントでの利用も可能にする
▽災害時に住民らが避難できる防災機能を整備する。
▽工期は、2020年4月末とする
▽設計・施工業者を公募する際に2020年1月末を目標とした技術提案を求め、審査にあたって、工期を目標内に達成する提案に評価点を与えて優遇し、工期を極力圧縮することに努める。
▽財源については、“先送り”をして、多様な財源の確保に努め、具体的な財源負担の在り方は、今後、政府が東京都などと協議を行い、早期に結論を出す。
▽9月初めをめどに、設計から施工を一貫して行う「デザインビルト」方式を採用して、入札方式は「公募型プロポーザル方式」とし、応募の資格要件を課した上で、事業者を「公募」で募集する。

 政府は「約1千億円の削減幅」をアピールして、国民の理解を得たいとしているが、ロンドン五輪や北京五輪のオリンピックスタジアムの建設費に比較しても、1000億円超ではまだ破格に高額で、国民の批判が収まるかどうか不透明である。
 また、削減幅にこだわったことで、基礎工事や周辺工事などで、算定から“抜け落ちた”工事が発生したり、労務費や資材費が値上がりするなどして、実際には「1550億円」が更に膨らむ懸念がどうしても残る。また焦点の「2015年1月」完成を目指した場合は、総工費は「1550億円」の上限は維持できるのだろうか?不安材料は、依然として残る。


新国立競技場新建設計画 再出発への“疑問”

▽ 総工費圧縮「約1000億円」の“明細”を明らかに!
 「2520億円」から「約1000億円」削減して、「1550億円」に圧縮した“努力”は評価したいと思う。
 しかし、具体的にどんな経費を圧縮したのか、明らかにならないと納得できないのではないか。
2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議で決定した「2520億円」と一体、どこが違うのだろうか? 「2520億円」の試算は、日本スポーツ振興センター(JSC)と設計会社JV、施工予定者の大手ゼネコンが積算している。
 施設の総面積を旧計画の22万4500平方メートルから約13%減の19万4500平方メートルに縮小したので総工費は削減可能だろう。
 可動式の屋根は、設置しないので「キールアーチ」は不要になるだろう。
屋根の経費は「950億円」から75%削減し「238億円」と算出している。観客席の上部の屋根は「幕」製にするとしている。
 観客席は、前の計画では、「6万5千席」が恒久設備で、「1万5千席」を仮設としていたが、今回の計画では「6万8千席」(恒久設備)として、余り大差はない。
 冷暖房設備は削減したり、スポーツ博物館や屋外展望通路の設置は取りやめて、地下駐車場も縮小することは明らかにされている。
 その他の機能や設備で、何が“残った”のか、何が削減ないし縮小されたのか、詳細に公表すべきであろう。但し、 今は「公募」前なので、積算価格は公表するのは適切ではないだろう。
 筆者の疑問は、7月に公表された「2520億円」の概算見積もりをどこまで信用できるのかという点である。工事費の積算が適正にされていたのだろうか?
また、「2520億円」は“粉飾”された総工費で、実は“未公表”の経費が「131億円」あり、実は「2651億円」だったということを今回、突然明らかにした。「131億円」の内訳は芝生の育成施設(16億円)、最寄り駅との間を結ぶ連絡通路(37億円)など計81億円。さらに大会組織委員会の新規要望である電源の複線化などに費やす50億円などとしている。唖然である。
 更に、「1550億円」には、設計・管理費、「40億円以下」は別枠として、入っていない。“五輪便乗”と批判が出ている日本スポーツ振興センター(JSC)本部、日本青年館の移転経費、「152億円」も入っていないし、すでに工事が進んでいる旧国立競技場の解体費も別枠で予算措置を講じている。
新国立競技場の建設経費を巡っては、余りに“杜撰”な“予算管理”である。
 一体、本当のところ、総額はいくらになっているのだろうか?
 この疑問が解消されない限り、「1550億円」にも疑念が残るだろう。


▽ 完成時期「2020年春」では無理?
 完成時期を、IOCは「2020年1月」に早めるように強く要請しているが、どうするのか? 新国立競技場は、メインスタジアムとして、開会式と閉会式を開催するのが最大の“使命”である。「3ヶ月」で、開会式の準備をするのは「無理」とされている。ロンドン五輪、北京五輪、ソチ冬季五輪、開会式は、開催国が威信をかけて華麗な演出を競う。
 それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底、不可能だと思う。 ロンドンオリンピックでは開会式のリハーサルに200日に及んだという。「2020年春完成」で本当に開会式の準備に間に合うタイムスケジュールが組めるのか? 大会運営者はどのように考えているのだろうか?
「テストマッチ」の開催も必須である。招致ファイルでは、陸上競技は「2020年2月、4月」、サッカーは「2019年11月、12月」としている。仮に新国立競技場完成後の「3ヶ月」に詰め込むことは可能なのか。さらに競技場のさまざま機能のチェックやセキュリティ対策やVIP対応、観客の動線、選手や大会役員の管理、さらに競技場の運営スタッフのトレーニングなども含めると、「3ヶ月」の準備期間では、極めて厳しいと思われる。 
最近のオリンピックでは、開会式や競技の中継放送を成功させることが大会成功のカギを握っているとされている。世界各国の視聴者にオリンピックのプレゼンスをアピールするとともに“放送権料”の確保は、IOCにとって極めて重要な難題なテーマである。映像・音声の生中継のシステム構築を行い、本番に向けて周到な準備作業やリハーサルを行うために、長期の準備期間が必要である。「3ヶ月」では不可能だろう。
「開会式」のリハーサル期間の十分な確保はほぼ絶望的だ。

 2020年東京オリンピック・パラリンピックの“看板”は“おもてなし”だったのではないか? “おもてなし”には十分な“準備”が必要だ。
 日本スポーツ振興センター(JSC)が設けた技術提案等審査委員会は、設計・施工業者選定にあたっての審査基準などを決めたが、国際オリンピック委員会(IOC)が20年1月までの完成を求めていることを踏まえ、「工期を短縮した場合に評価が高くなる項目を基準に盛り込んだ」と見られている。(毎日新聞 8月27日)
 完成時期も含めて競争に委ねるという“曖昧”な建設計画に大きな懸念が残された。依然として、新国立競技場の建設を巡っては“混迷”が続く。

▽ 「周辺整備費237億円」はどこへいった? 「周辺整備費237億円」の内訳は、「明治公園整備」33億円、「周辺人工地盤」143億円、「歩行者ブリッジ外苑西」22億円、「歩行者ブリッジ新宿道」19億円、「水道等インフラ移設」15億円、「サブトラック連絡通路」4億円、「明治公園撤去」1億円とされている。 総工費「2520億円」が決められた際には、明らかにされてなかったが、含まれていなかった可能性が強い。
 「周辺人工地盤」については、新国立競技場の建設用地が、高低差7~8メートルの斜面になっており、この敷地をフラットにして競技場や公園を建設するために必要な基盤整備である。また最寄りの駅からのアクセスを確保する「歩行者ブリッジ」、立体公園化する「明治公園整備」など、“バリアフリー”を確保するために基盤整備として必須の工事である。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのキーワードの一つは“バリアフリー”、パラリンピック開催をきっかけに、車いすなどでも容易に移動可能な障害者や高齢者に“やさしい”街づくりに大都会東京が大きく踏み出すとしていたのではないか。
 今回の「1550億円」には、「周辺整備237億円」は、どのように処理しているのだろうか? “曖昧”にする問題でない


▽ 観客席の“冷房システム”は必須!
 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”をどうするのか? 経費節約の対象となる設備ではなく、優先順位の高い設備だろう。“酷暑”対策の“ホスピタリティ”は、“冷房システム”だ。
 「開会式」やサッカーなどは、夜間に開催するから不要というのは余りにも“ホスピタリティ”重視の姿勢を欠いて言わざるを得ない。
 安倍首相は「冷却効果が少ないなら、別な形にしてもいい。『かち割り氷』もある」と発言したとされているが、「世界で最高のホスピタリティ」を目指すという理念はどこへ行ったのか?
 新国立競技場は50年後、100年後を見据えた「レガシー」(未来への遺産)を目指したのでないか?


▽ 天然芝は維持管理システムが重要!
 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
 天然芝の大敵、夏場の高温多湿から芝生を保護するためや、ピッチ上部の可動式“屋根”は設置しなくても観客席の屋根は設置するので日照時間は制約されるので、“芝生育成補助システム”は、必須である。荒れた芝生のピッチは、“スポーツの聖地”に相応しくない。
 「1550億円」の建設計画では、十分な“芝生育成補助システム”が含まれているのだろうか?


▽ “ホスピタリティ施設”の削減はどうなっているのか?
 建設経費増の原因となっている広大なエリアを占める「世界水準のホスピタリティ施設」を謳っているVIP専用席、プレアム席やラウンジやレストランはどうなっているか。観客席の“冷房システム”の方がはるかに重要だろう。

▽ 五輪開催後、新国立競技場を何に使用するのか?
 五輪開催後、新国立競技場は主としてどんな競技を開催する目論見なのか?
ポイントは、陸上競技場として残すかである。五輪開催後も陸上競技場として機能させて成算があるとのだろうか? 横浜市の「日産スタジアム」、調布市の「味の素スタジアム」、また駒沢オリンピック総合運動場で陸上競技の開催は十分可能だろう。
集客力のあるサッカーを中心にラグビーなどの球技場専用を目指すのが現実的だろう。球技専用にするなら、観客サービスを充実させるために、陸上競技用の9レーンのトラックは取り払い、“ピッチサイド席”の設置するのが適当だろう。 サッカーやラグビーには、9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。


▽ 陸上競技場に必須のサブトラック!
五輪開催時は、「仮設」で対応するとしているが、五輪開催後はどうするのか? 新国立競技場を陸上競技場として、国際競技会や公式競技会の開催を目指すなら、サブトラック問題は避けて通れない。
 五輪開催後のサブトラックの設置のメドが立たなければ、9レーンの国際標準のトラックなど陸上競技場としての設備は“無用の長物”となる。

▽ 新国立競技場は五輪終了後の“改築”を前提にして整備計画策定を!
 「8万人」規模のスタジアムの維持は、五輪開催後は“絶望的”だろう。観客席の縮小や競技場の設備の再整理など“改築”を前提にして、整備計画を策定する必要がある。そのためには、五輪開催後、数十年に渡って、新国立競技場をどう維持していくのか、デッサンを描かなればならない。
「1550億円」の建設計画で、新国立競技場の“五輪後”の姿は明確に視野に入れているのだろうか?

▽ 五輪終了後の収支計画はどうなっているのか?
「2520億円」の建設計画を決めた際に、日本スポーツ振興センター(JSC)では、可動式屋根設置後という“条件付き”で、年間で、収入40億8100万円、支出40億4300万円、3800万円の黒字という収支見込みを公表している。
「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、収支見込みはどうなっているのか、まだ不明である。この建設計画を評価するにあたっては、五輪後の収支見通しを示すのが必須であろう。
それとも新国立競技場の運営は「民間に委託」としているので、政府としては、収支のメドはコメントしないのか? 日本スポーツ振興センター(JSC)はどうするのか?

▽ 無駄”になった約60億円をどう処理する?
“白紙撤回”されたことで、日本スポーツ振興センター(JSC)が契約し、発注しているZaha Hdid Architecsや設計会社、工事を請け負うゼネコンへの支払い約62億円の大半が戻らないとされている。
“無駄”になった約62億円は、だれが負担するのか? その責任は誰がとるのか?



(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

★ 最新記事 新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか


新国立競技場“迷走” 第三者検証員会設置へ
2015年7月24日、下村文部科学大臣は、新しい国立競技場の整備計画の見直しに至った経緯を検証するため、建築関係者やアスリートなどを委員とする第三者委員会を設置し、9月中旬にも中間報告を取りまとめたいとした。
 「もともとのデザインを選んだ時期から今日に至るまでをきちんと検証し、どこに問題があったのか、どのようなスキームの中で、どういう責任が問われるのかということについて、お手盛りではなく、第三者による検証を委員会にお願いしたい」と述べた。
 2015年8月7日、第三者による検証委員会の初会合が開かれ、提出された資料からは、2013年7月、総工費は「3535億円」に上るとの試算が日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体から日本スポーツ振興センター(JSC)に示されていたことが明らかになった。4社の共同体は、5月に新国立競技場の設計業務を行う事業者に入札によって選定され、「基本設計」のフレームを決める「フレームワーク設計」を開始していた。
2020年五輪・パラリンピックの東京開催を決めた2013年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会の2ヵ月前である。
 日本スポーツ振興センター(JSC)では、当時は、「国際デザイン・コンクール」を行う際に定めた「1300億円」としていた。日本スポーツ振興センター(JSC)では、この報告を受けた文科省から、大幅なコスト削減の指示を受け、同8月に延べ床面積を減らすなど複数のコンパクト案を報告していた。
 この情報は、安倍首相や下村文科相、森喜朗組織委員会会長(現)に伝えられていたのだろうか? それとも文科省と日本スポーツ振興センター(JSC)の担当者だけに留められたのだろうか? 疑念が生まれる。
 いずれにしても、IOC総会ではザハ・ハディド氏の当初デザインのままで、招致に向けたプレゼンテーションが行われた。
 新国立競技場を巡る“迷走”は、誰がこのプロジェクトを責任を担って進めるのか、まったく曖昧のままにしてきた「無責任体制」が最大の原因である。国際デザイン・コンクールの審査委員会、有識者会議、日本スポーツ振興センター(JSC)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、文部科学省、官邸、何が問題だったのか、しっかりと検証して欲しい。前途多難、先行きに“不安”を感じているのは筆者だけだろうか?


新国立競技場建設費 2520億円承認
 2015年7月7日、日本スポーツ振興センター(JSC)は「有識者会議」開き、新国立競技場の改築費は、当初よりも「900億円」多い「2520億円」になることが承認さてた。スタンド工区が1570億円、屋根工区が950億としている。膨大な建設費に批判が集まるなか、5年後に向けた計画が進められることになった。
会議にはメンバー12人が出席したが、デザイン案を決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏は欠席した。

JSCは、新国立競技場について斬新なデザインの象徴となる「キール・アーチ」は残すが、開閉式の屋根の設置を先送りにし、可動式の観客席を着脱式にするとしている。 この結果、約「260億円」を削減し、スタンド本体の総工費を「1365億円」と見積もったとしている。一方で、「キール・アーチ」のための資材費や特殊な技術が必要な工費の負担増で「765億円」、建設資材や人件費の高騰分が350億円(約25%増)、消費増税分が40億円、合わせて約「1155億円」の経費が増えたとしたとしている。
 差引で約「900億円」増額としたのである。しかし2014年5月の試算から増加したのは約「「1155億円」、何と1000億円を超えていたのである。
ザハ・ハディド案は基本的に「建築デザイン」が中心で、総工費について詳細に積算した上での算出はしていない。
しかし、その後、日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体が「フレームワーク設計」を行い、その上で「基本設計」も終えている。「基本設計」の段階では、工法、工期など仕様がほぼ固まっており、各費目の積算をした上で、総工費の想定額が算出される。4社の共同体には、こうした設計業務で、約10億円も支払っている。その上で、「1625億円」の総工費の想定額が算出されているのである。
「基本設計」終了後の総工費想定額は、精度の高い数字で、通常、最終的な契約額とのズレは、10%程度といわれている。
但し、「1625億円」は、「2013年7月の単価」で「消費税5%」で試算しており、その後の資材費や人件費の値上がりや「消費税8%」分は、上乗せになるのは理解できる。しかし、総工費が総額で約1000億円も膨れ上がるのは理解できない。
「10億円」費やした日建設計・日本設計・梓設計・アラップジャパンの4社の共同体の「基本設計」が杜撰だったのか?
それとも大成建設と竹中工務店がさまざまな条件を考慮して、極力“高め”の総工費を設定したのか? 
今回の新国立競技場の工事発注が、競争入札ではなく、「公募型プロポーザル方式」と呼ばれる事実上の“随意契約”で行われていることが、「1000億」の原因なのでなかろうか? 価格競争が行われないと、発注価格は“高止まり”になるのは常識である。
新国立競技場の建設計画を“白紙撤回”して“仕切り直す”なら、基本設計から「1000億」も、なぜ膨れ上がったのか、本当に妥当な額なのか、しっかり検証しなければならない。

 また、開閉式の屋根を大会後に設置したあとの収支計画も明らかにし、黒字額は前回は「3億3千万円」としたが、今回は約10分の1の年間「3800万円」に大幅に縮小された。また屋根の設置時期については明らかにしなかった。
 このほか、完成後50年間で、修復・改修費が前回の試算より400億円増えて、1046億円に膨れ上がったことを明らかにした。
計画は全会一致で承認され、新国立競技場の工事は、10月に着工し、2019年5月の完成を目指す。



(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)


(国立競技場将来計画有識者会議 新国立競技場設計概要 段階的整備について 2015年7月7日)

「2520億円」の内訳と疑問
 猪瀬前東京都知事は、日本テレビのうえいくアッププラス(2015年7月25日)に出演して、「2520」億円の内訳について、屋根工区とスタンド工区に分けてそれぞれ詳細を明らかにしている。
▼ 屋根工区
直接工事  727.9億円
          土工事                  44.3億円
          鉄骨工事                427.8億円
          防水工事                 5.7億円
          電気設備                 30.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備費   219.8億円
共通費   152.0億円
工事価格  879.9億円
消費税    70.4億円
工事費   950.3億円  (屋根工区合計額)

▼ スタンド工区
直接工事 1247.7億円
          土工事                   86.1億円
          鉄筋工事                  42.3億円
          鉄骨工事                 208.7億円
          木工事                   22.1億円
          金属工事                 104.7億円
          電気設備                 135.3億円
          空調工事                 100.3億円
          直接仮設・仕上げ工事・設備工事等 548.6億円
共通費   205.7億円
工事価格 1453.4億円
消費税   116.3億円
工事費  1569.7億円  (スタンド工区合計額)

 総工費「2520億円」は、当初案を大幅に縮小・削減した建設計画で算出した額である。それでも当初の目論見の「1300億円」のほぼ倍に膨れ上げっている。その原因について、長さ約370メートル、重さ約3万トンとされる2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」だと強調されてきた。しかし「キールアーチ」の工事費は、約「428億円」である。さらに問題はスタンド工区の工事価格である。スタンド工区は特に技術的に難しい工事だとは言われていない。スタンド工区だけで「1570億円」を計上している。建築資材費や人件費の値上がりや、旧国立競技場の取り壊し工事が5か月遅れたことによる「突貫工事」になったことや、消費税8%は承知している。しかし、「基本計画」策定時の総工費概算「1625億円」の際の積算と具体的にどこが変わったのだろうか? 果たしてゼネコン2社は適正に積算がなされたのであろうか? 発注者である日本スポーツ振興センター(JSC)や文科省はしっかりチェックしたのだろうか?疑問は晴れない。


有識者会議の委員は?
 安西祐一郎(日本学術振興会理事長)▽安藤忠雄(建築家)▽小倉純二(日本サッカー協会名誉会長)▽佐藤禎一(元文部事務次官)▽鈴木秀典(日本アンチ・ドーピング機構会長)▽竹田恒和(日本オリンピック委員会会長)▽張富士夫(日本体育協会会長)▽都倉俊一(日本音楽著作権協会会長)▽鳥原光憲(日本障がい者スポーツ協会会長)▽馳浩(スポーツ議連事務局長)▽舛添要一(東京都知事)▽森喜朗(東京五輪・パラリンピック組織委員会会長)▽横川浩(日本陸上競技連盟会長)▽笠浩史(東京五輪・パラリンピック推進議連幹事長代理)=敬称略、五十音順

日本のスポーツ界を代表する“そうそう”たるメンバーで構成されている。


最後の議論の場
 2015年7月7日、激しい批判にさらされた新国立競技場の建設計画を巡って、「最後の議論の場」となる“有識者会議”が開催された。
「2520億円」という当初計画の「1300億」の約倍に膨れ上がった建設経費やデザイン案維持への納得のいく説明がされないまま、責任の所在もあいまいなままで進めらてきたこことに世論の批判が殺到していた。JSCが施工業者と契約する7月上旬までに公で行われる「最後の議論の場」にもなるだけに、多くのキーマンが顔をそろえ、JSCの諮問機関の役割を果たす有識者会議がどう意見を集約するかが注目されていた。
JSCはこの会議で、「10月着工」、「2019年」完成で、工事着工に向けた「大きなステップ」(JSC)として、建設計画について了承を得たい考えだった。
“有識者会議”は、文科省の管轄下にある日本スポーツ振興センター(JSC)の理事長の私的諮問機関であり、あくまで“意見を集約”する場で、議決する場ではない。会議の出席者が順番に各人の意見を述べる場だとされている。
しかし、建設計画の了承には、出席委員の過半数の支持が必要になるとされ、仮に支持が過半数に達せず、“承認されず”となれば、建設計画を前に進めるのは事実上不可能だろう。
 なお有識者会議には、安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)と安藤忠雄氏(建築家)が欠席した。新国立競技場のデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長を務めた安藤忠雄氏は、この日、大阪で所用があったとして欠席した。


全員一致”の“了承” 
 会議では、日本オリンピック委員会の竹田恒和会長が、五輪招致で安倍晋三首相が「このスタジアムを造る」と発言したことに触れて「国際公約を守るのは重要」と指摘するなど、スポーツ界の重鎮からは計画推進を求める声が相次いだ。
 「膨れる不安にも説明が必要だ」と膨らむ総工費に疑問を投げかけたのは、「東京五輪・パラリンピック推進議員連盟」幹事長代理の笠浩史衆院議員(民主)だけだったという。委員からは逆に、「(ピッチサイドの移動席が)仮設ではサッカーW杯を招致できない」(日本サッカー協会の小倉純二名誉会長)、「屋根がないことで外国人アーティストと長期契約が結べない」(日本音楽著作権協会の都倉俊一会長)との注文が相次いだ。
出席者によれば、「『2520億円』の金額の根拠について、JSCから十分な説明はなかった」とか、「どの時点で計算が違ってきたのか、説明がないのでみんな驚いていた」(週刊文春 7月23日号)としている。
会議を締めくくったのは森喜朗東京五輪組織委員会会長で、「(総工費は)極めて妥当なところ」とし、これを受けて、河野日本スポーツ振興センター理事長が「異議なしで宜しいでしょうか」と述べて(週刊文春 7月23日号)、「2520億円」の「基本計画」は“全員一致”で“承認”され、会議は1時間あまりで終わった。


有識者”の責任
 これだけ批判を浴びている新国立競技場の建設計画が、12人の「有識者」によって前回一致で承認されたのは“唖然”という他ない。「有識者」とは一体何だろうか? 数名は異論を示してもしかるべきだと思うが如何? 更にこのデザインを選定した国際デザイン・コンクールの審査員長、安藤忠雄氏は今日の会議を欠席している。ザハ・ハディド氏のデザインを選定に自信があり、新国立競技場を建設する意義を評価するなら、胸を張って会議に出席して、自ら主張して欲しかった。それが“一流”の建築家だと筆者は思うが……。

すでに“破たん”している「2520億円」
 「2520億円」の見込み額は“破たん必至”と懸念されている。
 “過少”に見込み額を設定するために、“操作”されていることは明らかである。
  グランド上部の可動式の“屋根”はオリンピック終了後、建設するとしているが、工費は「168億円」かかるとしている。単に先送りしただけで、一体誰が負担するのか、まったく明らかにしていない。
 イベントの収入見込みが年間たった6億円しかないのに、「168億円」をかけて“屋根を建設することに国民は納得するだろうか?
 2020年東京オリンピック・パラリンピックが終わり、“祝祭”の熱気も消えた後に、多額の費用をかけて、“屋根”は建設するのは絶望的かもしれない。
 仮に“屋根”の建設ができなければ、約1000億円かけて建設する巨大な「キール・アーチ」は、まったく“無用の長物”となる。文科省とJSCはどう考えているだろうか?
 サッカーやラグビーなど開催時にピッチにせり出す可動式の観客席、1万5千席は着脱式に変更するとしているが、この経費は含まれていない。一体、いくらかかるのか? 誰が追加で負担するのか?
 陸上競技の大規模な大会開催には、サブトラックの整備も欠かせない。2020年東京オリンピック・パラリンピックは仮設で対応するとしてとしているが、その後、どうするのか。スポーツの“聖地”を目指した新国立競技場は、陸上競技のスタジアムとしては“不完全”なものになるだろう。

 「基本計画」では総工費に含まれていた新国立競技場の「周辺整備費」「237億円」が消えている。
 JSCでは周辺整備について以下の整備を行うとしている
▽人口地盤等(バリアフリー)
▽都営大江戸線との接続 (バリアフリー)
▽サブトラック連絡通路
▽立体公園(バリアフリー)
▽上下水道幹線移設費
 新国立競技場ではパラリンピックも開催されることを忘れてはならない。周辺施設やアクセスをバリアフリーにするのは必須であろう。2014年5月に策定された「基本計画」では、本体工事だけでなく「周辺整備費」あったのではないか?  今回の「2520億円」では、どのように処理されているのか明らかにされていない。
 総工費「2520億円」が承認されてから、約1週間後、早くも、歩行者用デッキ(立体歩道)やインフラ設備の移設費、合わせて約72億円を入れていないことが分かった。(スポーツ報知 2015年7月14日)2014年5月に示した「基本設計」では、駅からのアクセスが多いと想定する歩行者用デッキ(立体歩道)1号、2号の整備費を37億円と水道などのインフラ設備の移設費の35億円と合わせ、計72億円と試算し、当時の総工費「1625億円」には、この72億円が含まれていたという。JSCは「今回示した総工費に72億円は含まれていない」と認め、未記載の理由について「歩行者デッキなどは見直しを図っていくので含めなかった」と回答したという。
 意図的に総工費を削減する“見せかけ”が行われているのではという疑念が生まれる。

 さらに巨大な「キール・アーチ」の建設には、膨大になる鉄骨の重量を支えるために前例のない大規模な基礎工事が極めて重要になる。建設工事を進めていく過程で、工事費の追加が懸念される。
 また、世界で最先端のスタジアムを目指すなら、高精細映像システムや最新の4KLED巨大スクリーンなどの映像設備や光ファイバーなどの通信ネットワークや高速WiFi設備、デジタルサイネージ、音響設備等のインフラが必須だろう。話題のウエアブル端末サービスも必要だ。総務省は2020年には“世界で最高水準”のICT社会を実現すると宣言している。”“箱”だけ作っても、“中身”がなければ世界に誇れるスタジアムにはならいない。「2520億円」にどこまで含まれているのか不透明である。本当は、“箱もの”の議論は終えて、“世界で最高水準”のICTを実現するスタジアムにするために知恵を絞る時期だろう。当然、経費もかかる。
 現状の建設費の目論見から計算しても、「2520億円」に加えて、可動式の屋根の建設費「168億円」や芝育成システム、ガラスカーテンウオール、可動席、それに周辺整備費は必要で、「3000億円」は上回ると見込むのが妥当と思う。“数字合わせ”を無理やり行ったのではないかという懸念を持つ。
 すべてが、「キール・アーチ」のデザインにこだわったために“犠牲”になっているのではないか……?

「五輪便乗」? 日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟建設 16階建の高層ビル 
 2015年8月10日、参議院予算員会で、新国立競技場の建設問題が取り上げられ、民主党の蓮舫元行政刷新相は、“白紙撤回”されたにもかかわらず、現在も進めらている関連工事の総額が約320億円あるとして、政府を追及した。
 この中で、問題視したのが、「JSC本部棟・日本青年館新営設計・工事・管理等」業務である。
 政府内で、密かに“白紙撤回”に向けて検討が進められている最中、6月30日に、この建設工事で「165億円」契約が、文科省とJSCで交わされた。「165億円」の内、「47億円」はJSCが負担するが、その財源は、税金とtotoでまかなうとしている。

 実は、新国立競技場関連経費は、「2520億円」とは別枠で、JSC本部・日本青年館の移転費用等(174億円)や新国立競技場設計監理費用(91億円)、埋蔵文化財調査費(14億円)など「279億円」の経費が必要だとして、2014年1月、文科省と財務省は合意している。
 平成26年度の政府予算で、「2020オリンピック・パラリンピックの東京招致・開催支援等」という項目で、「現在の国立霞ヶ丘競技場(陸上競技場)は、建築後50年以上が経過し、競技場そのものの老朽化が進むとともに、今日開催される大規模な国際競技大会の主会場としての仕様を満たさない状況となっていることから、2019年ラグビーワールドカップ日本開催、2020年オリンピック・パラリンピック東京招致等を視野に入れ、同競技場の改築を目指す。平成26年度においては、新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事等を行う」として、約230億円を計上している。一見すると、「新競技場の実施設計及び既存建物の解体工事」と誰もが思うのは間違いない。


(平成26年度予算概算要求 財務省)

 実はこの中に、新国立競技場の建設用地内にあるJSC本部と日本青年館の移転費も、「支援等」として“こっそり”入れ込み、「五輪便乗」と問題視されている。
 計画では、現在の日本青年館の南側にある西テニス場の敷地約6800㎡に、地上16階地下2階、延べ床面積約3万2000平方メートルのビル、「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を新築し、JSC本部の事務機能や日本青年館の宿泊施設・ホールなどの機能を集約した施設を整備する。JSCは、この内、4フロア、6000平方メートル、これまでの1・4倍の面積を使用して、本部機能を移転する計画である。
 2015年6月14日、競争入札で、安藤ハザマが落札、落札額は152億5000万円(予定価格は164億9626万円)だった。
 「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」建設は、文科省の新国立競技場整備に関する「予算の上限」をJSCに示した時にすでに「174億円」(内JSC本部関連は28億円)を入れ込んでいる。 膨れ上がる新国立競技場の建設費を“抑制”するために「232億円」は別枠にしたのであろう。
それにしても「152億5000万円」使って。「日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟」を建設する必要があるかどうか、しっかり検証したのだろうか。 神宮外苑に、新たに1240席の大ホール、客室数約220室のホテルを税金を投入して建設する必要があるのだろうか? 
 日本青年館は、全国の青年団活動の拠点にするため、「1人1円」の建設資金募金活動を繰り広げ、 大正14年9月に総工費162万円をかけて地上4階地下1階建ての旧日本青年館が完成した。
昭和54年2月には、青年団募金5億円が集められ、政府、経済界、各界の支援を受けて総工費54億円をかけて地上9階地下3階建ての現在の日本青年館が完成した。そして約30年、首都圏には、ホテルやホールの施設は十分に整っている。“時代”は変わっているのである。「五輪便乗」と批判されてもやむ得ないのではないか?
「東京五輪」を名目にした“便乗・膨張体質”が早くも露呈している。


(新日本青年館・日本スポーツ振興センター本部棟完成予想図 出典 日本青年館ホームページ)



誰が負担するのか 財源不足は「1000億円」超は必至
 「2520億円」の巨額の経費は、一体、誰が負担するのだろうか? 最大の問題である。
 すでに決まっているのは、国が「392億円」、スポーツ振興基金の取り崩し「125億円」、toto(売り上げの5%:2013年と2014年分)で「109億円」、合わせて「626億円」だ。
 これに期待されているのが、東京都「500億円」?、命名権など「200億円」?、toto(売上の10%に引き上げ:5年間)「660億円」で、最大「1388億円」だ。
 すべてこの目論見通り進んでもまだ「530億円」が不足している。
 周辺整備費「237億円」も入れると、現状でも「767億円」の財源が足らない。
 可動式の観客席に代わって着脱式にする1万5千席の設置費や大会終了後、整備するとしている“可動式の屋根”、最新鋭の芝生育成補助システム、東西面ガラスカーテンウォールの設置を加えると現状でも、財源不足は「1000億円」は軽く超えると思われる。一体、財源はいくら必要なのか、まったく不透明のままである。
 誰が負担するのだろうか? 結局、国民や都民の税金が投入されるのだろうか?


大会終了後の新国立競技場の収支は大幅赤字“必死”
 焦点の年間の収支見込みについては、昨年夏の試算では「収入38億円」、「支出35億円」、「3億3000万円」の黒字としていた。今回の収支目論見では、開閉式屋根を設置した場合という条件付きで、「収入40億8100万円」、「支出が40億4300万円」、「3800万円」の黒字と試算した。支出が増えたのは完成後にかかる修繕費も6割増の年10億円となったためだとしている。合わせて収入見込みを約2億円増やし、無理やり、黒字にしたという印象があるが、とになく“不明瞭”である。
 
巨額の後年度負担が次世代に
建設後50年間に必要な大規模改修費を前回より「400億円」増やして、約「1046」億円と見積もった。高層ビルや公共施設など大規模な構築物は、修復・改修を常に積み重ねていかないと快適な環境は保てないのは常識だろう。通常はこうした経費も収支計画に組み込むのも常識だ。
 官公庁の施設マネジメントを行う一般財団法人建築保全センターは、大規模な建築物などの五十年間の長期修繕費について、「すべき修繕、望ましい修繕、事後保全」は建設費の百五十四パーセント、「すべき修繕、望ましい修繕」同九十六パーセント、「すべき修繕」同五十一パーセントとしている。
 「事後保全」とは、建造物や設備にトラブルが発生したら、その都度、修理、修復、設備更新を行う修繕作業である。
 新国立競技場の場合、可動式屋根や可動式観客席、芝生養生システムや空調設備などの最新鋭設備、他の官公庁の施設に比べて、保守修繕費がかさむのは明らかであろう。
 「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、建設費とほぼ同額の「2419億円」、「すべき修繕、望ましい修繕」のケースでは、「3880億円」が、今後50年の長期修繕費として見込まれているのである。
 また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 この試算では、「2520億円」の施設を建設すると「7560億円」から「1兆80億円」の後年度負担が、今後50年間に発生することになる。
 JSCでは、約「1046億円」でさえ、早くも、ギブアップして、国に財源確保を要請している。
 競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担を次世代に着実に残すことになる。


新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)第一号か?
 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
 新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。Totoは“スポーツ振興くじ”なのである。仮にtotoを財源に1000億円を新国立競技場の建設に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
 オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催地は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかが重要な課題として問われている。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
 東京大会コンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は実現できるのか?
  新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。





東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
新国立競技場建設費 2520億円破綻
二転三転「維持費と収入」 新国立競技場収支への“疑念
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト




2015年7月8日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
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コメント (1)
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