新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?(4)
新デザイン「木と緑のスタジアム」
維持管理費・長期修繕費 ライフサイクルコストはどうなる
「8点差」の僅差で勝った大成建設・梓設計・隈研吾氏チーム
12月22日、政府の関係閣僚会議(議長・遠藤五輪相)は、新国立競技場の整備で2チームから提案されていた設計・施工案のうち、「木と緑のスタジアム」をコンセプトにしたA案で建設することを決めた。
安倍総理大臣は、「新整備計画で決定した基本理念、工期やコスト等の要求を満たす、すばらしい案であると考えている。新国立競技場を、世界最高のバリアフリーや日本らしさを取り入れた、世界の人々に感動を与えるメインスタジアム、そして、次世代に誇れるレガシー=遺産にする。そのため、引き続き全力で取り組んでいただきたい」と述べた。
その後に会見した遠藤利明五輪担当相は、これまで非公表だったA案の提案者は、大成建設・梓設計・建築家の隈研吾氏で構成するチームだと明らかにした。したがってB案は竹中工務店・清水建設・大林組の共同企業体と日本設計・建築家の伊東豊雄氏のチーム。
日本スポーツ振興センター(JSC)が関係閣僚会議に報告した審査委員会(委員長=村上周三東京大名誉教授)の審査結果は、A案が610点、B案が602点だった。A案は工期短縮の項目で177点(B案は150点)と高い評価を得たのが決め手となった。注目されるのは、デザインや日本らしさ、構造、建築の項目ではB案が上回っていることである。B案に参加した建築家の伊東豊雄氏は採点結果の妥当性について疑問を投げかけている。
また、白紙撤回された旧計画を担当した女性建築家のザハ・ハディド氏は、事務所を通して声明を発表し、「新デザインはわれわれが2年かけて提案したスタジアムのレイアウトや座席の構造と驚くほど似ている」とし、「デザインの知的財産権は、自分たちが持っている」と主張した。さらに「悲しいことに日本の責任者は世界にこのプロジェクトのドアを閉ざした。この信じ難い扱いは、予算やデザインが理由ではなかった」とし、建設計画見直しへの対応を批判した。
採用されたA案は、木材と鉄骨を組み合わせた屋根で「伝統的な和を創出する」としているのが特徴。地上5階、地下2階建てで、スタンドはすり鉢状の3層として観客の見やすさに配慮。高さは49・2メートルと、旧計画(実施設計段階)の70メートルに比べて低く抑え、周辺地域への圧迫感を低減させた。
総床面積19万4010平方メートル、収容人数は6万人(五輪開催時)。総工費は約1489億9900万円、工期は36か月で、完成は19年11月末である。
一方採用されなかったB案の総工費は、「純木製の列柱に浮かぶ白磁のスタジアム」を掲げ、地3階、地下2階建てで、スタンドは2層、高さは約54.3メートル、総床面積18万5673平方メートル、収容人数は6万8000人。総工費は約1496億8800万円、工期は34か月で、完成は19年11月末である。
求める技術提案書及び審査基準について 日本スポーツ振興センター(JSC)
審査結果 日本スポーツ振興センター(JSC)
技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
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新国立競技場“仕切り直し” 2グループの提案書の概要は?
2015年12月14日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、設計・施工の一括公募に応じた2つのグループから提出された技術提案書を公開した。いずれも総工費は1500億円弱で、工期は2019年11月30日完成の提案となった。
斬新なザハ・ハディド案に比べて、2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、名付けたタイトルはまったく同じ「杜(もり)のスタジアム」だった。
A案のコンセプトは「木と緑のスタジアム」、スタジアムを取り囲む階層式のテラスにふんだんに緑を取り入れ、屋根にも多くの木材を用いている。観客席を同じ形のフレームを連続して組み合わせてシンプルな構造にするなどして、コスト削減と工期短縮を図った。総工費は約1489億円。
B案は「21世紀の新しい伝統」がテーマで、白磁の器のようなスタンド2層スタンドで、長さ19メートルのカラマツ材の柱72本で支えるデザイン。設計や地盤改良工法の工夫などでコストの抑制を図るほか、掘削する土の量を削減することなどで工期を短縮させるとしている。総工費は約1496億円。
JSCの審査委員会は、2つのグループから提出された技術提案書をあらかじめ定められた採点方式で審査したうえで、評価点が優れていた12月22日A案を選定した。
技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業 大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
技術提案書A案のイメージ図 新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
ザハ・ハディド案 日本スポーツ振興センター(JSC) 国際デザイン・コンクール
疑問! 新計画「1550億円」で示されなかった新国立競技場の収支とライフサイクルコスト 責任を回避か?
2015年7月7日に公表された「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、建設費の上限は明らかにしたが、毎年の収支見込みやライフサイクルコスト(維持管理費や長期修繕費)を明らかにしなかった。
“白紙撤回”された旧計画「2520億円」の建設計画を公表したときには、五輪開催後の毎年の収入は「40億8100万円」、支出は「40億4300万円」、「3800万円」の黒字という収支の見込みや完成後50年間の長期修繕費、「「1046億円」の見通しを公表した。
仕切り直しの新建設計画では、建設経費削減のためにイベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える機能はすべて取りやめている。その結果、収支の目論見も変わり「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は、破産しているはずである。収入源に見合った維持管理経費の削減が必須だろう。
今回の建設計画の見直しでは、国は新国立競技場の運営権を民間企業に売却し民間企業の活力をフルに活用するとしている。
しかし、民間企業といえども、大会後の収支を合わせるのは至難の業だろう。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、「民間委託」した上で収支構造をしっかり管理させるとしているが、五輪開催後の収支の見通しについては一切コメントしていない。
新国立競技場の今後は、運営を担う「民間企業」に丸投げされてしまった。
巨額の負担が次世代に 日本は耐えきれるか? ライフサイクルコスト
デザインビルド方式 設計施工一括発注方式は公正な入札制度か?
新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残すスタジアムだろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を定期的に行わないと施設は維持できないのは常識である。 巨大な構造物を建設する時には、建設費のイニシャルコストに合わせて、完成後の維持管理費や長期修繕費も含めて建設計画を検討しなければならない。
「2520億円」の建設計画では、50年間の長期修繕費は「約1052億円」、毎年約21億円の巨額の経費が必要だとしている。そして、JSCではこの「約1052億円」は、毎年の収支の目論見とは別枠にして、初めから公的資金を財源としてあてにしていることを明らかにした。
今回、建設費「1550億円」の上限だけを示して、五輪終了後の収支やライフサイクルコストの見通しを国として明らかにしないのは無責任といわれてもいたしかたないだろう。そのツケは国が負うことになるのは明らかだ。
12月14日、公表された2案とも、明治神宮外苑の周囲の環境に配慮したデザインで、木材をふんだんに使った構造は、どこか法隆寺や縄文遺跡を彷彿とさせて「ぬくもり」感があふれ、国民から好感を得られるのではという印象だ。しかし、維持管理費は長期修繕費がどうなるかはしっかり検証しなければならないだろう。
公募の審査評価点に登場した「維持管理費抑制」
今回の公募では、建設計画を評価するにあたって、「コスト・工期」を最重要視したが、その項目の中に、竣工後の「維持管理費抑制」という項目を入れ、設計上の工夫を求めた。巨大な構築物は、竣工後の膨大な維持管理費や長期修繕費の後年度負担が発生する。建設計画立案時から「維持管理費抑制」を念頭に置くのは必須である。
「維持管理費抑制」に与えられた評価点は、10点(全体140点)だが、公募にあたって、「維持管理費抑制」という視点が設けられたことは大いに評価したい。
選定されたA案は44点(審査員7人合計)、選定されなかったB案は50点(審査員7人合計)で、「維持管理費抑制」の評価では、選定されなかったB案がA案を6点も上回っている。
A案の欠点は、「維持管理費抑制」の設計上の工夫は、かなり詳細に記述されているが、具体的に毎年の維持管理や長期修繕費がいったいどのくらい必要なのか明らかにされていないことだ。
これに対し、B案は、“白紙撤回”された旧計画「2520億円」の建設計画で示された長期修繕費の試算「1046億円」を基づいて、「設計上の工夫を行わない場合の新建設計画」、そして「設計上の工夫を加えた場合の新建設計画」の3つのケースで、それぞれ維持管理費(長期修繕費も含める)がいくらになるか、試算を明らかにしている。そして、設計上の工夫での維持管理費の縮減効果が具体的にはっきりわかるようになっている。
こうしたことで、「維持管理費抑制」の項目では、選定されなかったB案が、選定されたA案を6点も上回ったと思われる。
A案とB案の建設計画案で、「維持管理費抑制」にどのように設計上の工夫を具体的に行われたか、その詳細に見てみよう。
100年続くスタジアムの実現 A案
A案では、「100年続くスタジアムの実現」を掲げ、「高耐性・長寿命」、「メインテナンスのしやすさ」、「未利用エネルギーの活用」、「利用エリアの限定」の4つのカテゴリーで、38項目にも及ぶ詳細な設計上の工夫を取り入れ、維持管理費を抑制し、「100年」を視野に入れた建設計画を作成した。
竣工後のメインテナンスを視野に入れて、耐久性のある部材を選んだり、メインテナンスがし易い構造や設備を導入したりして、維持管理費の縮減に努めている。
また太陽光や風などの自然エネルギーを活用したり、下水管の排熱を利用したり、芝生育成システムや樹木の植栽にも配慮がなされ、“省エネ”スタジアムを目指している。
五輪開催後のイベント開催も視野に入れて、イベント規模に応じた「部分使用」が可能なシステムにしている。2~3万に規模のイベントも開催し易くなるだろう。
竣工後の50年間の長期修繕計画も策定され、ライフサイクル・マネージメントへの取り組みは評価できるだろう。
しかし、新国立競技場の維持管理費が一体どの位になるのか、いくつかの項目では、縮減率は記載されているが、具体的な経費額の試算が記載されていない。維持管理費の試算額を明らかにしたB案と比べると、“具体性”で一歩、差が付いた。A案、B案の6点差は、維持管理費の“具体性”の優劣だと思う。
筆者は、「建設費」や「工期」、「デザイン」と並んで、「維持管理費」や「長期修繕費」のライフサイクルコストや「収支」が極めて重要と考える。膨大な後年度負担を次世代に残すのは避けなければならない。新国立競技場の建設計画はまだ決着してない。新国立競技場が負のレガシー(負の遺産)になる懸念はまだ拭い去れない。
*ライフサイクルコストの低減率の算定は、実現性を踏まえ、運用50年間で試算
■ 耐久性の高い工法の採用とメインテナンスのし易さに配慮した設計で長寿命化
▼ 屋根鉄骨部への「亜鉛めっき」仕上げの採用
塗装作業に作業量と経費かかる屋根鉄骨部分を「亜鉛めっき」仕上げとして塗り替えに伴うメインテナンス経費を削減する。修繕費は約11%削減される。
▼ 屋根木材部に高耐久性木材を採用
屋根トラスに使用する木材は、雨がかからない場所に設置し、寿命の長期化を図る。また、使用する木材の耐用年数を改善する「加圧注入処理」を施す。
▼ 移動式メインテナンス・ゴンドラの設置
4台の移動式ゴンドラで、すべての屋根架橋での作業が容易にできるようにしてメインテナンスを効率化する。修繕費が約38%削減する。
▼ 「風の大庇」へのアルミルーバーを採用
▼ 屋根仕上げ材へのステンレス塗装鋼板の採用
▼ 移動式メインテナンス・ゴンドラの設置
▼ 屋根南面のトップライトに網入り合わせガラスを採用
▼ 日射や風雨にさらされる外周部の柱は耐水性に優れているSRC製を採用
▼ 観客席の斜め梁には止水性と耐久性を持続できるSRC製を採用
▼ 地下外周擁護壁を設置してスタンド躯体が地下水を影響を遮断
▼ 軒庇木部へ「加圧注入処理」済の高耐久木材の採用
■ 樹木の種類の選定や植栽の配置を工夫 植栽の保全維持管理費を抑制
▼ 「空の森」 維持管理の容易な常緑樹で外苑の気候に適合し病虫害にも強い樹木を選定
▼ 「空の森」 植栽配置の工夫で維持管理の抑制
▼ 防風・転倒対策により安全性の確保
▼ 軒庇上部植栽のユニット化
▼ 外溝樹木の大地への植栽による健全な生育の確保
▼ 「大地の杜」散水用の井戸設置
■ 自然エネルギーを有効に利用した芝育成システム
▼ 維持管理が容易な夏芝の導入
オリンピック・パラリンピックが競技大会が開催される夏季の過酷なコンディションに耐えるために、強健な夏芝種を採用する。一般に半屋外スタジアムで採用されている冬芝種を育成する場合と比較して、農薬散布量や散水量等を低減する。芝生維持管理費を約25%削減する。
▼ トップライトの採用で補光設備の運転時間を低減
芝生(ピッチ)に自然光が多く取り込めるように屋根の南側には日射量を確保するためにトップライトを設置し、日照時間の最も少ない冬至でも水平面全天日射量の平均で約40%~45%の日射量を確保する。
年間平均で、芝生(ピッチ)の水平面全天日射量70%を確保するために、補光設備を設置して日射量を補う。トップライトの設置で、補光設備の運転時間が低減され、設置台数も約13台の削減が可能となる。
消費電力量は約42%削減される。
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
▼ 季節風の積極的な利用
夏季は卓越風をスタジアム内部に積極的利用し、芝生(ピッチ)の通風を確保し、芝生の維持管理を図る。通風の確保のために設置する大型送風機設備を部分的に停止しても、芝生(ピッチ)の良好な通風が保たれる。
電力量が約10%削減される。
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
▼ 天然芝の育成
芝生(ピッチ)は夏芝を選定し、生産圃場で24か月以上育成管理を行い、良好な芝張りを実施する。
東京オリンピック・パラリンピック開会式を開催すると、芝生が荒れ、その後に開催されるサッカー競技などに影響が出るため芝生の全面張り替えが必要となる可能性がある。日本スポーツ振興センター(JSC)と協議して、万全の芝生(ピッチ)コンディションを確保できるような協力体制を整える。
▼ 土壌の水分量を均一にする基盤構造と均等散水設備の整備
地下水がピッチまで到達しないように遮断壁を設置し、芝生の健全性を確保する。フィールドの排水が集中豪雨の場合でもスムーズに処理できるように雨水流出抑制槽を必要量より大きく設計し、フィールドやピッチが冠水しないように配慮する。
散水設備は、ポップアップ式散水施設を採用し、芝生面に均一に散水できるようにして、散水量の低減を図る。
芝の育成管理に欠かせなない地中温度制御システムは、12系統に分けて個別に地中温度を制御可能にした。特にイベント開催後に、弱った芝の根張りを促し芝生を回復させたり、高温多湿の夏季に芝生の養生を行ったりする。
■ イベントの規模に応じた部分使用が可能な計画で維持管理費を削減
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
▼ 約90%のイベントを1層スタンド(座席数2.3万席)のみで運営可能とすることで維持管理費を削減
▼ 1層スタンドは4分割できる計画として、さらに維持管理を削減
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
▼ 客席ゾーン、階層ごとに設備系統の分離し、省エネルギー、省メインテナンスを実現
▼ 「空の杜」には屋外階段を設置し、外部から直接アクセスが可能にして、市民が自由に利用できるスペースとする
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
■ 設備システムの適切化で光熱費や管理コストを削減し、更新性に配慮
▼ 未利用エネルギーである下水熱を芝育成熱源に利用
新国立競技場の敷地内を通過する下水本管から採熱して、芝育成のための地中温度制御システムの熱源として利用する。一般的な空調の熱源システムに比べて、年間を通して高効率な運用が可能でランニングコストを低減する。
光熱水費が約30%削減される。
▼ 個別空調と中央熱源空調のベストバランス化
光熱水費が約5%削減される。
▼ 待機電力と変圧器負荷損失を削減
光熱水費が約4%削減される。
▼ 待機電力と変圧器負荷損失を削減
▼ 機械式駐車設備費用の無いへ平面駐車の駐車場計画
▼ シースルー薄膜太陽電池の採用で、自然エネルギーの利用
▼ 主要設備機器の最適運転制御による光熱費の削減
▼ 管理の縦動線を各エリアごとに集約配置して維持管理機能を南側に集約
▼ 設備機器は、機器や部品の迅速な供給やメインテナンス、機器更新が容易な国産メーカーの汎用品を採用
▼ 仕上げ材等への汎用品・標準品に採用
▼ メインテナンス・機器の更新に配慮した設備スペース
▼ 非常用エレベーターで5階まで昇降可能にし、屋根に設置された設備や機器のメインテナンスや機器更新を省力化
■ 竣工後も適切なタイミングで運用を支援し様々なニーズに迅速に対応
新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体作成/JSC提供
機能美を体現したシンプルなスタジアム 「50年間で600億円」維持管理費削減 B案
■ 縮減効果の算出
B案の建設計画で、竣工後50年間の維持管理費がどうなるかを「旧計画」、設計上の工夫を加えない場合の「A」、設計上の工夫を加えた「B」の3つの試算を比較して、B案の維持管理費の縮減効果がいかに優れているかを具体的な縮減額を掲げて明らかにしている。
・「旧計画」
“白紙撤回”された総工費「2520億円」の建設計画(2015年7月7日)での長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
「2798億円」(50年間) 「56億円」(毎年)
・「A」
B案の建設計画で公的な算出基準(一般財団法人建築保全センターの基準)に基づいて算出した維持管理費
長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
設計上の工夫による維持管理費削減は含まれていない
「2157億円」(50年) 43億1000万円(毎年)
・「B」
B案の建設計画で設計上の工夫を加えて削減した維持管理費
長期修繕費の試算「1046億円」(50年間)に加えて、毎年の 修繕費(設備・建築)や管理運営費(警備・清掃・環境衛生・駐車場・芝・設備)、水道光熱費を加える。
「1553億円」(50年間) 「B」に比べて「604億円」の削減
「31億1000万円」(毎年)「B」に比べて約28%削減
* 3つの試算とも、人件費や租税公課、備品や消耗品等その他経費は含まれていない。
新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
50年間の維持管理費の試算 B案
B案で新国立競技場を建設した場合、50年間に維持管理費がどの位になるのかを試算している。「旧計画」や設計上の工夫を行わない場合の「A」の経費額も記載され、B案の維持管理費縮減効果分かり易く説明している。
これによると、50年間の維持管理費は、総額で1553億円と試算し、「A」と比較して、604億円、28%の縮減が可能になるとしている。
この内、修繕・更新費では、縮減効果が546億円、管理運営費が25億円、管理運営費が25億円としている。
しかし、試算を行う上で、10年毎程度に必要な大規模修繕費は、「旧計画」(「2520億円」の建設計画)を策定した際に試算した額、「1048億円」(完成後50年間)をそのまま使用し、毎年の維持管理費にはその50分の1の経費を入れ込みこんで試算している。木材を大量に使用した新デザインのスタジアムの大規模修繕費は新たに試算する必要があるのではないか? 疑問と懸念は依然として残された。
新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
▼ 民間のデータ、ノーハウを利用
・BIMデータの活用
・適切な維持管理のために竣工前、竣工後の取り組み
非効率な機器の使用や過剰な清掃等は、維持管理費や人件費の増大につながるため、実績と経験に基づいた民間のノーハウを活用してメインテナンスの基準を作成する。
新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
*BIM(Building Information Modeling)
BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略称で、コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、建築情報や構造情報、設備情報などの属性データも加えた建築物の統合データベースを作成し、このデータを活用して、建築の設計、施工から、竣工後の維持管理まで、あらゆる工程で建築物を管理する。
BIMのソフトウエアで建築物の3次元モデルを作成し、設計から施工、維持管理に至るまで建築物のライフサイクル全体でBIMモデリングに蓄積された情報を活用することで、建築ビジネスの業務を効率化し、イノベーションを起こす画期的なワークフローとされている。
シンプルな仕組みで維持管理費のしやすいスタジアムへ ~維持管理費を抑制させるための具体的方策~
■ 管理運営費縮減に向けた具体的取組
▼ 清掃費の縮減
▼ 外溝・植栽維持管理費の縮減
▼ 警備費の縮減
使用状況によってシャッター区域等で出入り口制限が可能なような平面計画とする。駐車場はイベント用と施設用に区分けされ、4つのエリアが独立して使用可能とする。VIPラウンジは転用して利用可能にする計画とし、外部からの専用アクセスルートを設ける。
新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
■ 水道光熱費縮減に向けた具体的取り組み
▼ 電気料金の縮減
災害対策用で設置されている保安用発電機を利用し、イベント開催時のウルトラピークを約34%カットすることで、基本料金を抑えて年間2400万円を縮減する。太陽光発電設備、40kWhを設置し、年間約230,000kWh発電することで、約300万円の電力料金を節約する。地中熱、下水熱を利用する超高効率熱源システムを導入して、空調用の電気料金を年間約260万円縮減する。大型映像スクリーンをLED1in1を採用して、平均消費電力量を約70%カットして、年間700万円の電気料金を削減する。
▼ 上水料金の縮減
雨水や井戸水を、芝生散水、植栽灌水、水景色やトイレ洗浄水に利用して、年間1600万円の水道料金を縮減する。
新国立競技場整備事業 伊東・日本・竹中・清水・大林共同企業体作成/JSC提供
B案では、維持管理費縮減について、設計上にどんな工夫を行ったかと共に、各項目別に縮減額の試算を明示して、新国立競技場竣工後の維持管理費が一体どのようになるかを明らかにしている点で大いに評価したい。
巨大な建設物を整備する場合、完成後のライフサイクルコストを念頭に置いて建設計画を立てるのが常識になっている。新国立競技場は、50年、100年先までを視野に入れたレガシー(未来への遺産)を目指しているはずである。五輪開催後の維持管理をどうするのか、10年ごとに必要になる大規模修繕費はどうするのか、展望をもたなければならない。
今回のB案のプロポーザルで、課題は残るにしても、ようやく今後の50年間の維持管理費の方向性が見えてきたようである。
新国立競技場の経費のシミュレーション~人件費や公租公課等を加えるとどうなる?~
新国立競技場の維持管理には、管理運営費や修繕費、光熱費等の維持管理費の他に、人件費や租税公課、備品や消耗品など経費などが必要となる。
新国立競技場の収支を見る場合には、人件費や租税公課等の経費も加えた広義の維持管理費で見る必要がある。
白紙撤回された「2520億円」の建設計画を決めた際には、管理運営費や修繕費、光熱費等の維持管理費と共に、人件費や租税公課等の経費を明らかにしている。その額は年間5.38億円、50年間で269億円である。
この年間5.38億円、50年間で269億円をB案の維持管理費の試算に加えてみよう。(A案には維持管理費の試算が明らかにされていない) 但し、今回の建設計画の規模は、白紙撤回された「旧計画」より約10%~15%程度、縮小されているので人件費や租税公課等の経費額も縮減されているかもしれないがこのシミュレーションでは同額を想定する。
また大規模修繕費も、「旧計画」で明らかにされた約「1046億円」(50年間)と同額を想定する。
◆ 新計画(B案)関する試算(設計上の工夫を行わない場合)
維持管理費 48.52億円(年) 2,426億円 (50年)
(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)
◆ 新計画(B案)に関する試算(設計上の工夫を行った場合)
維持管理費 36.44億円(年) 1822億円 (50年)
(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)
新国立競技場の毎年の経費(人件費・租税公課等を含む 大規模修繕費を含む)は、
毎年36億4400万円~48億5200万円が必要となる。また竣工後50年間では、1822億円~2426億円が必要となるという試算結果が出た。
旧国立競技場では年間約7億円程度、その約6倍の膨大な経費額である。
この経費額を収入で賄わないと、毎年赤字が生まれる。
当然、新国立競技場の五輪後の収入予測と収支予測が必須であろう。
しかし、肝心の収入予測は未だに明らかにされていない。
新国立競技場(旧計画)の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 日本スポーツ振興センター
明らかにされていない長期修繕費
新国立競技場は、建設後50年、100年先の次世代に、レガシー(未来への遺産)として残す施設だろう。そのためには5年ないし10年ごとに保守・改修工事や大規模改修工事を行わないと維持できないのは常識である。
巨大な構造物を建設する時には、建設費のイニシャルコストに合わせて、完成後の維持管理費や長期修繕費も含めて建設計画を検討しなければならない。
新国立競技場の長期修繕費は、旧計画「2520億円」を決定した際に、今後50年間で「1046億円」という試算を公表した。年間に換算すると約21億円という巨額な額である。日本スポーツ振興センター(JSC)では、長期修繕費は大会後の収支計画には計上せず、別枠として国の負担を前提にしている。巨額な長期修繕費を組み入れると、毎年の収支が赤字に転落してしてしまうからである。
旧計画で、五輪開催後の新国立競技場の支出は、約「40億円」に約「21億円」を加えて、約「61億円」とするのが妥当だろう。「黒字3800万円」は粉飾で、「赤字約20億円」なのである。
今回の「1550億円」の仕切り直し整備計画では、収支目論見や長期修繕費の試算は公表されていない。
また今回決定されたA案の「木と緑のスタジアム」では、維持管理費の抑制方針は示したが、毎年の維持管理費や長期修繕費はまったく明らかにされていない。B案では長期修繕費は「1046億円」をそのまま引用し、毎年の維持管理費、50年間の維持管理費の総額を明示している。
長期修繕費の試算がなされなければ、五輪開催後の維持管理の計画が立てられないだろう。
新国立競技場の維持管理費 年間「24億円」 50年間で「1200億円」
日本スポーツ振興センター(JSC)は5日、2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の完成後の維持管理費が、1年あたり24億円になると明らかにした。建設工事を請け負う大成建設などの共同企業体が試算した。屋根や外壁、エレベーターなどの点検や修繕費や警備・清掃・定期点検・植栽管理などの保全費、電気・ガス・上下水道などの光熱費などの毎年の維持管理費と今後50年間で行わななければならない大規模な修繕費を加えて、50年間で総計「1200億円」とし、毎年の維持管理を算出した。
大会後の利用方法によっても変わる可能性があるとしている。
しかし、維持管理費の試算には、人件費や公租公課は入れていないので、これを加えると毎年の維持管理費は「30~40億円」程度となる。
「木と緑のスタジアム」を掲げ、木と緑をふんだんに使用したスタジアムの維持管理費は膨れ上げることが想定される。
果たして「30~40億円」程度で収められるのか、懸念は残る。
ライフサイクル・マネージメント
一般財団法人建築保全センターは「建物のロングライフ化」のために、定期的に保全工事を的確に行う必要性を強調している。時間の経過と共に、建物の様々な性能・機能が劣化し、その維持のために保守工事や大規模修理が必要となるほか、時代と共に変わる要求水準を満たすために大規模更新工事が求められている。
一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント
また建築保全センターでは、標準的な建物の「ライフサイクルコスト」のシミュレーションも公表している。
「鉄筋コンクリート造 地下1階地上5階建」のビルで、耐用年数を「60年」と想定した。
「企画設計コスト」を0.6億円、「建設コスト」を14.2億円、合わせて14.8億円を初期費用とし、「点検・保守等のコスト」、「修繕・改善コスト」、「光熱水等のコスト」、「他運用管理コスト」、「廃棄処分コスト」を試算した。
その結果、「ライフサイクルコスト」は、初期費用も含めて86.9億円になるとした。初期費用の5.87倍に上る経費である。
一般財団法人 建築保全センター 建築等のライフサイクル・マネージメント
このモデルを新国立競技場にあてはめてみると、初期費用を「1550億円」とすれば、建設後60年間に「9098億円」となる。約1兆円の巨額な経費を負担しなければならないのである。
鹿島建設の“ライフサイクルコスト”試算
また鹿島建設では、建築物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費のおよそ3~4倍の経費が必要で、竣工時に長期修繕計画を作成し、計画的に修繕更新を行うが重要としている。 試算をしてみると、「1550億円」の施設を建設すると「4650億円」から「6200億円」の後年度負担が今後50年間に発生することになる。
競技場など“箱もの”は、建設費だけ調達すればよいというわけにはいかない。巨額の後年度負担が次世代に着実に残ることになる。
運営管理とLCC 鹿島建設
新国立競技場の整備は一体いくらかかるのか? 曖昧にされている周辺整備費や関連経費
2015年7月、旧計画から「1000削減」達成をキャッチフレーズにした「1550億」の仕切り直し建設計画を公表したときに、「2520億円」の建設計画は実は未公表の経費が「131億円」あり、実は「2651億円」だったと、突然明らかにした。「131億円」の内訳は芝生の育成施設(16億円)、最寄り駅との間を結ぶ連絡通路(37億円)など計81億円。さらに大会組織委員会の新規要望である電源の複線化などに費やす50億円などとしている。「2520億円」は、新国立競技場の整備費を低く見せる粉飾だったことを認めたのである。唖然というほかない。 「1550億円」にも粉飾のからくりはないのだろうか、疑念は拭えない。
実は、すでに国は新国立競技場は「1550億円」では不足することを明らかにしている。
「1550億円」には、設計・管理費「40億円以下」や旧国立競技場の解体工事費「55億円」は別枠として、入っていない。
さらに“五輪便乗”と批判が出ている日本スポーツ振興センター(JSC)本部、日本青年館の移転経費、「174億円」も入っていない。
また、都道などの上空デッキ整備費「37億円」、東京体育館デッキ接続改修費「16億円」、上下水道工事費「27億円」、埋蔵文化財調査「14億円」なども別枠になっている。
“迷走”を繰り返したツケで、回収不能になった費用「62億円」も付け加わる。
当初計画でのコンセプト、新国立競技場を中心とする周辺公園の緑との連携を目指した神宮外苑地区の整備計画、再開発はこれで十分なのだろうか。巨大なスタジアムだけを建設すれば済む問題ではない。神宮外苑地区を50年、東京のランドマークにする整備も必要だろう。まだ、必要は周辺整備費が隠されているのではないかという疑念が残る。
これだけかというと、決してそうは言えないのが問題だ。
新国立競技場で陸上競技の開催するために必須なサブトラックの整備問題に決着がついていない。神宮外苑に仮設でサブトラックを整備する計画だが、整備経費は当初想定の38億円の2・6倍にあたる約100億円になることが明らかになった。当初の見積もりの甘さや旧計画が白紙撤回されたこと、建設費の高騰が原因という。
「建設工事と分離して別途導入される設備・機器等経費」や「都有地に係る費用」も「未定」として整備費の加えていない。
一体、本当のところ、新国立競技場の整備費の総額はいくらになっているのだろうか? この疑問が解消されない限り、そもそも総工費「1550億円」としたのが妥当なのか、疑念が残るだろう。
新国立競技場の整備は、余りに杜撰な“建設計画”と“予算管理”で未だに行われている。
最大の問題は、「建設工事と分離して別途導入される設備・機器等経費」が「未定」とし、一切、整備費に計上していないことだろう。
最新のスタジアムは、4K8高繊細映像システムやVR/ARサービス、5G第五世代移動通信やWi-Fi、光ファイバーなどの通信システム、館内案内などのデジタルサイネージ、ICT設備を備えた“スマート・スタジアム”を目指すのが必須となっている。
勿論、本体工事費「1490億円」には、その経費は含まれていない。数百億の経費がさらに必要となるだろう。
最新鋭のスタジアムは、“スマート・スタジアム”を目指すのが常識、“箱もの”だけを整備すれば済むとという発想は余りにもお粗末だ。
日本は、2020年に「世界最高水準」のICT社会の実現を目指している中で、その象徴である新国立競技場こそ「世界最高水準」のICTスタジアムにしなければならい。
“スマート・スタジアム”にできなければ、新国立競技場は前世紀の遺物、“無用の長物”となるだろう。世界から失笑を買うのは必至だ。
新国立競技場を2020東京大会の“レガシー”(未来への遺産)にするのではなかったのか。
明らかにされなかった収支計画
2015年7月7日の「1550億円」の仕切り直しの建設計画では、毎年の収支見込みはどうなっているのか、明らかにされていない。この建設計画を評価するにあたっては、今後50年間に渡る長期修繕費を組み入れた維持管理費の収支計画が必須である。
当初計画では、スポーツ競技大会の開催だけでは賄いきれない施設維持費を、コンサートなどのイベント開催や文化事業の収入で補う戦略で、開閉式屋根を備えた「多機能スタジアム」を目指した。しかしその屋根が建設費膨張の原因ともなり計画は破綻した。
「見直し建設計画」では、イベント開催、コンベンション機能などの五輪後の収益事業を支える設備や機能はすべて取りやめた。その結果、「年間12日の開催」を目論んだイベント開催収入などの関連収入はほとんど見込めない。「多角的な事業展開で自立した運営」という当初の目標は挫折した。
今回、大会後の収入見込みは明らかにしていないが、旧計画策定に際に、収入「40億8100万円、支出「40億4300万円」、黒字「3800万円」という目論見を公表している。
しかし「40億8100万円」の収入目論見は、机上の空論となってしまった。。
さらに、2017年11月、新国立競技場は大会開催後は9レーンの国際規格のトラックは撤去し、陸上競技場として存続することをあきらめ、サッカー、ラグビーなどの球技専用のスタジアムとすることが決まった。「陸上競技の聖地」は消え去った。
ところが、サッカーW杯などのビックイベントの国際試合は何も決まっていないし、安定収入の頼みとなるJリーグの開催も実現は不透明、イベント開催も屋根がないスタジアムでは天候に左右されるので敬遠され、近隣住民への騒音問題もあり開催は制約を受ける。またイベント開催で、大勢の観客がスタジアムに入るとスタジアムとして最も肝心な芝へのダメージが多きいのもネックとなる。
こうした状況の中で、新国立競技場で毎年、約「30億円程度」とされている維持管理費をまかなう収入を確保しなければならない。
国は、新国立競技場の運営管理は、日本スポーツ振興センター(JSC)の能力を超えるとして、「民間に委託」を行い、民間企業の活力をフルに活用するとしてるが、大会後の収支を合わせるのは容易ではない。
運営主体の日本スポーツ振興センター(JSC)では、委託先の企業に収支構造をしっかり管理させるとしているが、五輪開催後の新国立競技場の収支の見通しについては一切コメントしていない。
新国立競技場の今後は、運営を担う「民間企業」に丸投げされたまま、不透明になった。
建設される競技場は新国立競技場だけではない!
2020年東京オリンピック・パラリンピック関連の競技場の建設は、新国立競技場だけではない。東京都は有明アリーナ(バレーボール)、大井ホッケー競技場(ホッケー)、海の森水上競技場(ボート、カヌー)、夢の島公園(アーチェリー)、オリンピック アクアティックセンター(水泳・飛び込み・シンクロナイズドスイミング、水球)、武蔵野の森 総合スポーツ施設(近代5種、バドミントン)の7施設の新設と有明テニスの森の改装費で、総額約1828億円をかけて整備するとしている。これらの施設についても、五輪開催後、膨大な維持管理や長期修繕費を負担し続けなければならない。
2017年4月19日、東京都は「新規恒久施設の施設運営計画」を公表し、6つの新規建設競技場の大会の利用計画や収支を明らかにした。
それによると、黒字が予想されるのは、有明アリナーだけで、コンサートなどのイベント利用が見込まれるため年間来場者140万人、収入12億4500万円、支出8億8900万円、黒字3億6000万円としている。その他はすべて赤字で、オリンピック アクアティクスセンターは年間来場者100万人、収入3億5000万円、支出9億8800万円、赤字6億3800万円、海の森水上競技場は年間来場者35万人、収入1億1300万円、支出2億7100万円、赤字1億5800万円、カヌー・スラローム会場は年間来場者10万人、収入1億6400万円、支出3億4900万円、赤字1億8600万円、大井ホッケー場は、年間来場者20万人で、収入5400万人、支出1億4500万円、赤字9200万円、アーチェリー会場は年間来場者3万3000人、収入330万円、支出1500万円、赤字1170万円としている。
6つの新規建設競技場だけで、年間約7億円の赤字がでる試算である。
これに5年、10年ごとの長期修繕費も加わえると、赤字幅はさらに膨れ上がるのは必至である。
今後50年以上、東京都民の重荷になってのしかかる。
誰が負担する大規模スポーツ施設
日本スポーツ振興センター(JSC)では、「独立行政法人は一般的には独立採算を前提としないため、法人の業務の実施に必要な資金として、国から運営費交付金や施設整備費補助金等が措置されている」として、新国立競技場の管理運営費について赤字になった場合は、国が責任を持つことになるとしている。 長期修繕費についても国の資金をあてにしている姿勢に変わりはない。
日本スポーツ振興センター(JSC)では、新国立競技場の維持管理・運営事業については、民間活用の導入を図り、民間ノウハウを最大限に発揮させることで、事業収入の拡大、維持管理・運営の効率化による事業支出の削減を行うとしている。 しかし、「黒字」の実現性は未知数である。
果たして新国立競技場を今回の企画案のどちらかで建設したら、果たしてその施設の維持管理に一体どの位かかるのか、収入はどの程度確保可能なのか、収支はどうなるのか、巨額の長期修繕費は誰が負担するのか、さらに不透明さを増している。
日本は確実に少子高齢化社会を迎える。五輪開催後50年、100年を視野に入れると、こうした大規模なスポーツ施設は、果たして次世代に必要な社会資本なのだろうか? 次世代に必要なのは、少子高齢化社会に向けた社会資本だろう。大規模なスポーツ施設は必要最小限に留める発想が必要だ。社会資本の整備は後年度負担が生まれることを忘れてはならない。
やはり新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になる懸念は拭い去れない。
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2016年1月4日
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廣谷 徹
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