
伊勢志摩サミット 国際放送センターIBC(International Broadcasting Centre)サービス・システム 徹底検証

伊勢志摩サミット 国際メディアセンター 三重県立サンアリーナ 筆者撮影

首脳会合ワーキングセッション 出典 外務省フォト

英虞湾を望むG7首脳 出典 外務省フォト

安倍首相議長会見 出典 外務省フォト
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国際放送センター(IBC)と国際メディアセンター(IMC)
■ 国際放送センター(IBC:International Broadcasting Centre)とは何か?
国際放送センター(IBC)は、オリンピックやFIFAワールドカップ、世界陸上などの国際スポーツ競技大会やG7サミットやG20サミット、APEC、気候変動枠組条約締約国会議(COP)、IMF世銀総会などの大規模な国際会議の開催時に設置される放送サービス・システム。
IBCには、会議場や競技会場、イベント会場からのライブ中継映像・音声やENG取材映像が集められ、世界各国の放送機関等に配信される。IBC内には、IBCの“心臓部”であるマスター・コントロール・ルーム(MCR:Master Control Room)が設置され、各ベニューからライブで伝送されてくる映像・音声信号の調整・配信・録画などを行う。また世界各国の放送機関等の専用ブースや特設スタジオが設置され、全世界に向けて、会議や競技、イベントの中継映像・音声や記者リポート、ニュース素材等が発信される。最初に本格的な国際放送センターが設けられたのは1964年東京オリンピック大会で、現在のNHK放送センターにIBCが設置され、世界各国の放送機関等に映像・音声が配信され、放送を通して視聴者に届けられた。
国際メディアセンター(IMC)と共用で、各種の会見が頻繁に行わる多言語同通サービス付きの複数の会見場やプレスデスク、レストランや銀行、郵便局、各ベニューへのシャトルバス・サービスなどが整備される。
オリンピックやFIFAワールドカップ、国際陸上などで大規模なスポーツ・イベントで設置されるIBCは、高額の放送権料を支払い放送権を獲得したライツホルダー(RHBs)しか参加できない。競技映像・音声の権利は厳密に管理されRHBsのみが利用可能である。
これに対して、G7サミットやG20サミット、APEC、気候変動枠組条約締約国会議(COP)、IMF世銀総会などの大規模な国際会議では、主催者が発行するアクレディを取得すれば、新聞社、通信社、放送機関などすべてのメディアが、すべて無償でホスト映像・音声の取得が可能である。
国際放送センター(IBC)の設置は、国際メディアセンター(IMC)[以下参照] と同じ建物内に設置されることが多いが、ホスト映像・音声の利用がRHBsに限定されているオリンピックやFIFAワールドカップなどでは、IBCエリアを完全に分離して、IBCエリアにはRHBs関係者のみ立ち入りが限定される。
一方、国際会議では、IBCエリアとプレスエリアは、同一エリアに整備されて分離はされず、すべてのプレス関係者の取材拠点となる。

東京オリンピック・パラリンピック大会のメディア施設(MPC/IBC)は東京ビックサイトに設営された。向かって左側がIBCエリア、右側がMPCエリア。オリンピックの場合、国際メディアセンター(IMC)と呼ばず、メインプレスセンター(MPC)と呼ぶ。機能的には同質の施設である。世界で最大規模のIBC/MPCを設置するのはオリンピック。筆者撮影

FIFAワールドカップQatar2022 では、ドーハ市内のWEST BAY地区にある世界最大級の展示場を有するドーハ見本市・会議場(Doha Exhibition and Convention Center)にIBC/MPCが設置された。 オリンピックに次ぐ規模である。出典 Qatar2022
■ 国際メディアセンター(IMC:International Media Centre)とは何か?
国際メディアセンター(IMC)は、新聞・放送・通信社・雑誌・インターネットなどすべての報道関係者の取材・編集・送出拠点である。放送機関等が使用する国際放送センター(IBC International Broadcasting Center)も同じ建物内に整備される。IBCはホスト映像・音声の利用がRHBsに限定されているオリンピックやFIFAワールドカップなどでは、IBCエリアを完全に分離して、IBCエリアにはRHBs関係者のみ立ち入りが限定される。国際放送センター(IBC)が、放送関係者用の施設であるのに対し、国際メディアセンター(IMC)は、幅広いメディア関係者の施設の総称である。
国際メディアセンターに参加するプレスは、最も大規模な国際会議であるG7サミットの場合、邦人プレス3000人、海外プレス1000人、合わせて4000人程度)とされている。議長会見場1か所と各国首脳会見場5か所程度が設置される(米国は除く)。国際メディアセンターの延べ床面積は約1万平方メートル程度が必要となる。
米国の主要放送局(ABC、CBS、NBC、CNN、FOX)は、大統領が出席する国際会議にあたっては“US Pool”を組み、ホスト国が準備する国際メディアセンターには入らず、独自に別個、“US Pool”専用のプレスセンターを設立し、取材・編集・送出拠点とする。米国大統領の会見も国際メディアセンターの首脳会見場では行わず、別途、設置して、映像・音声は“US Pool”が管理する。
“US Pool”が管理する映像・音声を世界各国の放送機関が利用する場合は、ABC、CBS、NBC、CNN、FOXのいずれかに提供としてもらう必要がある。たとえばNHKはABCから映像・音声の提供を受ける。
既設の建造物で、国際メディアセンター(IMC)の十分なスペースが確保できて利用可能な場所が確保できない場合には、仮設で新たに建設する場合もある。
北海道洞爺湖サミットでは、洞爺湖町のリゾート施設の駐車場に建設した。総床面積1万1000平方メートル、プレスセンター棟とサミット議長・各国首脳会見棟からなる仮設の建物で、総工費は28億2000万円、サミット開催後は取り壊された。
伊勢志摩サミットでは、既存施設の三重県立サンアリーナに設置された。

G7北海道洞爺湖サミット IMC ルスツ・リゾート(洞爺湖町)2008年7月 筆者撮影

G7エルマウサミット2022のIMC 大型テントなどを利用して仮設で市内の駐車場に設営 出典 tagessuau
■ IBC/IMCのセキュリティ管理 アクレディ管理(Accreditation Management)
国際放送センター(IBC)や国際メディアセンター(IMC)で取材、制作、編集活動を行う放送機関等は、業務に従事するスタッフ一人一人、全員が、主催者が管理するアクレディの登録が義務付けられる。アクレディの申請には、住所、氏名、生年月日、パスポート番号などの個人情報や、所属するメディアや団体の情報が必要となる。またフリーのジャーナリスト等については、ジャーナリストとしての実績の提示が求められる。申請されたIDは、主催者によって審査され、審査をパスすれば、ID識別票が発行される。
IBC/IMCは、世界各国のメディアに対し、取材、制作、編集活動の便宜サービスを与える場であり、ID審査は、通常、かなり厳密に行われる。
とりわけ国際会議の場合、各国の首脳や閣僚、要人が多数集まるため、厳しいセキュリティ管理が求められる。
■ Host(主催者)/Host Country (主催国)
国際会議や国際スポーツ競技大会の開催にあたっては、主催者(Host)がイベント全体を運営・管理する。
Host Country(主催国)は、IBC業務を担うHost Broadcasterを指名する。
大規模な国際会議の主催者(Host)は、開催国(国)が担う。開催にあたっての運営業務は、サミットやAPECは外務省、IMF世銀総会は財務省、COPは環境省といったように所管省庁が行う。サミットやAPECのように“持ち回り”で開催される国際会議はほとんどがホスト国が会議運営の実権を握る。一方で、COPのような国連関連機関の国際会議を日本で開催するときは、会議開催の主催者は国連機関であり、日本はホスト国として会議開責任機関(事務局)となり、主催者の意向を踏まえながら、協力して会議の運営にあたる。MF世銀総会も同様で、IMF・世銀が主催者であり、会議運営の基本的な要件は決定権を持つ。しかし、会議場の設営等のロジスティックスのほとんどの実務は、ホスト国が担当することになる。会議開催に係る経費は、IMCやIBCも含めて、原則として国(各省庁)が負担する。但し、IMF世銀総会などは主催国が一部、経費を負担することがある。
会議の開催準備を開始するにあたって、最初に、主催者とホスト国との間で、それぞれの責任範囲や経費負担について、契約書や確認書を交わすことが多い。その後、主催者の国際機関は、ホスト国に対し、詳細な記述が記載された“会議設営・運営基準(マニュアル)”を示し、ホスト国は、それに基づいて準備をしなければならない。IBC/IMCの設営・運用に関する記述も詳細に記されている場合が多い。
国際スポーツ競技大会の場合は、“組織委員会”や競技連盟が主催者(Host)となる。オリンピックは、国際オリンピック委員会(IOC:International Olympic Committee)、FIFAワールドカップは、国際サッカー連盟(FIFA:Fédération Internationale de Football Association)、世界陸上競技選手権大会は、国際陸上競技連盟(IAAF:International Association of Athletics Federations)、ISUワールドカップ(スピード・スケート)やISUグランプリシリーズ(フィギア・スケート)は国際スケート連盟(ISU:International Skating Union)、アジア競技大会はアジアオリンピック評議会(OCA:Olympic Council of Asia)が主催者(Host)である。[注1]
[注1] オリンピックやアジア大会などでは、国際オリンピック委員会(IOC)やアジアオリンピック評議会(OCA)の管理の下で、大会の準備・運営組織として、各都市組織員会(OCOGC)が設立される。
■ ホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)
国際放送センター(IBC)を設置・運営する担当者をホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)と呼ぶ。ホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)は、会議やイベントの主催者から指名され、国際放送センター(IBC)の設置準備、システムの設計、機材の準備、設営、運用を担い、ホスト映像(国際映像)の制作・配信を、全責任を持って対応する。さらに首脳会議場やフォトセッション、関連イベント、記者会見などについては、中継車や機材を配置し、ライブで映像・音声を中継して、IBCに伝送する。またENGクルーを複数、配置して各種の関連イベントなどを撮影しIBCに送り込む。
国際会議の場合は、国営放送がある国では、国営放送がホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)の指名を受けることが多い。日本では、サミットやAPECなどの大型国際会議では、これまでは、外務省の要請を受けて、NHKが担当していた。これに対して、COP10名古屋やIMF・世銀総会では、競争入札でホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)が決まった。欧州ではEBU(欧州放送連合)が指名される場合が多い。一方、米国や東南アジア、オセアニア等では、競争入札が行われ、落札した企業が担当するが、必ずしも放送事業者とは限らず、民間のメディア企業がIBC設営・運用業務を担うことが多い。
スポーツ・イベントの場合は、主催者からイベントの放送権を独占取得した場合には、その放送事業者やメディア企業がホスト・ブロードキャスターとなる。ホスト・ブロードキャスターは、放送権を、世界各国の放送事業者やメディア企業に譲渡してビジネスにする。
オリンピックのホスト・ブロードキャスター(Host Broadcaster)はオリンピック放送機構(OBS)、FIFAワールドカップはホスト・ブロードキャステヒング・サービス(HBS)が独占的に担当している。
* オリンピック放送機構(OBS:Olympic Broadcasting Services)とは、国際オリンピック委員会(IOC)によって2001年5月に設立されたオリンピックとパラリンピックの独占的なホストブロードキャスターである。この機関が発足する以前、ホストブロードキャスターの業務は、各大会の組織委員会または第三者の放送局に委託されていた。OBSは、夏季・冬季の各大会ごとに設けられる国際放送センター(IBC)の設営し、各競技場に中継車を配備して映像・音声信号制作を行い、オピック放送の国際信号を制作して、世界各国の放送権を獲得した放送事業者((RHBs)に向けて配信する。

国際放送メディアセンター(三重県営サンアリーナ) 以下筆者撮影
伊勢志摩サミット 国際メディアセンター(IMC)は三重県営サンアリーナに設置
2015年9月8日、外務省は、伊勢志摩サミットの国際メディアセンター(IMC)を、伊勢市朝熊町の県営サンアリーナに設置すると発表した。
サンアリーナは延床面積約2万4000平方メートルの三階建て施設。延床面積約1万4000平方メートルのメインアリーナと約4900平方メートルのサブアリーナやトレーニングルーム、会議室などの施設が整備されている。
この他に隣接する駐車場に、IMCのアネックス(付属棟)、鉄骨2階建て、延べ約8000平方メートルの仮設増設棟を建設した。外観は伊勢の街並みの黒壁など、地元の伝統的なデザインを取り入れ、木の丸柱に囲まれた通路などを設置し、「和」を感じさせる建物で、事業費は約28億5000億円。 日本の先端技術、伝統文化を発信する展示スペースや、メディア用の食事の提供スペースも設けた。このアネックスはサミット終了後、数日間一般公開をした後、約3億円かけて取り壊される予定である。
国際メディアセンター(IMC)は、世界各国から訪れる新聞、雑誌、通信社、そして放送機関などのメディアの取材・編集拠点、約4000人のメディアの参加を見込んでいる。国際メディアセンター(IMC)には、専用ワーキング・ブースや共用ワーキング・スペース(約1020席 2個所)や共用ブリーフィング・ルーム(2か所)、インフォーメーション&ITヘルプデスク、IMCシャトルバス・インフォーメーション、外務省報道官室(外務省事務局)(アネックス)、展示スペース(アネックス)、プレス用レストラン(アネックス)、そして放送機関用の国際放送センター(IBC)が設置される。施設内には、CCTV(館内共聴テレビ)で、G7サミットの様子やイベント・スケジュール、各種案内が放送され、高速のWifi環境も整備された。
国際放送センター(IBC)は、世界各国の放送機関向けに設置される施設で、首脳会合や議長会見、各国首脳会会見、関連イベントなどの映像・音声のホスト信号が配信される。映像・音声信号を調整、監視、分配するマスター・コントロール・ルーム、IBCブッキング・オフイス、共用編集室、音声ルーム、IP伝送サービスコーナーなどが設置される。 また各放送機関専用のワーキング・ブースや共用ワーキング・スペース、記者リポポジションも整備された。映像・音声メディア機関の拠点が国際メディアセンター(IBC)である。
国際放送センター(IBC)の施設は、サンアリーナだけなく、賢島内にある賢島宝生苑にサブメディアセンター1(SMC1)と議長国首脳会見場、志摩市の伊勢志摩ロイヤルホテルにサブメディアセンター2(SMC2)(各国首脳会見場)が設置された。
SMC1は、賢島内で取材活動をするメディアの拠点で、志摩観光ホテル・クラシックや志摩観光ホテル・ベイスイートで行われたG7首脳会合やワーキング・デイナー、ワーキング・ランチ、アウトリーチ首脳会合などのENG取材映像(代表取材)の伝送ポイントが設営されと共に、賢島内で取材活動を行う記者やカメラマンの待機場所となった。ENG伝送については、Japanプールは10回、米国プールは3回、ドイツプールは2回、EUは1回の伝送を行った。また、サミットの総括を行う議長国首脳会見場も設置された。
SMC2には、各国首脳会見場、3カ所が伊勢志摩ロイヤルホテル内に整備された。
国際放送センター(IBC)の設置・運営業務やホストブロードキャスター業務は、請負事業者を公募したが応募したのがNHKだけだった。NHKは、外務省と随意契約協議を行い、約7億3400万円で外務省から業務を受託した。
伊勢志摩サミットの映像・音声サービス
ホスト・ブロードキャスターの中継ポイントは、G7首脳会合やワーキング・ディナー、ワーキング・ランチ、アウトリーチ首脳会合などが行われる志摩観光ホテル・クラシックや志摩観光ホテル・ベイスイート、賢島宝生苑(SMC1、議長国会見場)、伊勢志摩ロイヤルホテル(各国首脳会見場)、各国首脳が到着する中部国際空港、伊勢神宮である。合計で中継車を4台、中継カメラ台数37台を使用した。
志摩観光ホテルでは、中継車1台、カメラ15台、1行事当たり1台から3台を配置、賢島宝生苑では、中継車1台、カメラ3台(議長国会見場)、音声はオリジナル、同通(英・日・仏・独・伊)、伊勢志摩ロイヤルホテルでは、キャリイング・システムを使用し、カメラは1会見場当たり1台、3会見場に配置した。伊勢神宮では五十鈴橋、参道、記念植樹、本宮前など9台のカメラを配置、カメラ・ケーブルの総延長は6.5kmに及んだ。中継を担当したのはホストブロードキャスターのNHK、「行く年くる年」での中継実績が活かされた。
記者リポポイントは、サンアリーナ(IBC)内に15枠、1枠はカメラ・音声・照明機器、ブッキング・オフイスまでの回線付、2枠はブッキング・オフイスまでの回線付、残りの12枠はスペースのみの設置とした。
また、志摩地球海村にも記者リポポイント(共用)、1枠が設置され、SNG車を配置した。
映像・音声伝送スキームは、外務省が「映像伝送回線」として調達したNTT西日本のメガリンク(40Mbps)を使用した。 回線は異なるルートで二重化、セキュリティを確保して、伊勢志摩ロイヤルホテル(各国首脳会見場)、賢島宝生苑(SMC1、議長国会見場)、中部国際空港からサンアリーナ(IBC)へHD(2K)の非圧縮で伝送した。 一方、ホストブロードキャスターは、賢島宝生苑(SMC1、ENG伝送)、伊勢志摩ロイヤルホテル(各国首脳会見場)、志摩地球海村(記者リポポイント)とサンアリーナ(IBC)間は合計15回線の光回線を設置し、中継やENG取材のホスト映像・音声信号や各社が取材するユニー映像・音声の伝送サービスが行われた。
さらにSNG3台を配置し、伊勢志摩ロイヤルホテル(各国首脳会見場)や伊勢神宮(中継終了後、伊勢志摩ロイヤルホテルに移動)、志摩地球海村(記者リポポイント)からSNG伝送を実施した。この内、伊勢志摩ロイヤルホテルに配置したSNG車は2ch伝送が可能なSNG車を配置した。
G7サミットの公式行事ではないが、今回、伊勢志摩ロイヤルホテル内で、G7サミットの前日に安倍首相とオバマ米大統領の二国間の首脳会談が行われ、日米共同記者発表や安倍首相の“ぶら下がり”が急遽、行われた。この映像伝送にジャパンプールはLiveUを初めて使用した。
LiveUの受信ポイントからは、Nexionのジャパンプール回線を使用して、東京へ伝送し、NHKと民放5社へ在京分岐を行った。LiveUは小型のハンディタイプの送受信装置を使用して、簡便に中継が可能なため、APTVやReutersTVなどの海外のメディアでは多用されている。しかし、映像・音声の伝送が通信環境で不安定になる懸念も大きく、日本の放送機関では試行中である。
ENG取材では、ホストブロードキャスターが10クルー配置して、ホスト映像を撮影してIBCで各メディアに配信した。
伊勢志摩サミットでは、資料用として、初めて4K撮影を2台のカメラで行った。
撮影内容は「伊勢神宮宇治橋付近と雑感」(3分)、G7首脳伊勢神宮訪問(10分)、G7夫人伊勢神宮記念撮影(4分)、G7首脳記念撮影(5分20秒)、サミット雑感(13分)である。カメラはSONYのXAVC59.94を使用し、S×SからHD(2K)にダウンコンして読み込み、各社に配信した。
国際放送センター(IBC)内で各メディアへの映像・音声のホストフィードは、G7首脳会合やワーキング・ディナー、ワーキング・ランチ、アウトリーチ首脳会合、議長国会見、各国首脳会見場)、各国首脳到着、伊勢神宮参拝などで、2チャンネルを使用してサービスした。配信された映像信号のフォーマットは、HD-SDI 1080/59.94i、NTSC、PALの3種類で、音声はオリジナル、日、英、仏の4か国語である。ホスト映像はサーバーにストレージされクラウド配信サービスも行われた。世界各地のメディアは、IDを取得すれば、インターネットを通して映像・音声信号のダウンロードが可能で、ファイルフォーマットはMXFファイル(SONY XDcam)とMPEG4を使用した。
MCRのルーターは、一時側でSONY・HKSP/80/81(256×245)、2次側で朋栄MFR-8000(256×256)、バックアップで、朋栄MFR-5000(128×128)を使用した。
またサミット終了後のオバマ大統領広島訪問の関連映像素材については、外務省は極めて異例の対応として、代表取材映像を伊勢志摩サミットのIBCで世界各国のメディアに対して配信サービスを実施した。
各ブースでサービスを受けたメディアは、「2チャンネルプラン」が14機関、「2チャンネル自由選択プラン」が15機関、「ラジオ2チャンネルプラン」が2機関だった。
北海道洞爺湖サミットでは、洞爺湖町のリゾート施設の駐車場に国際メディアセンター(IBC)を建設した。総床面積1万1000平方メートル、プレスセンター棟とサミット議長・各国首脳会見棟からなる仮設の建物で、総工費は28億2000万円、サミット開催後は取り壊された。
三重県はサミットの誘致活動段階から既設の施設、サンアリーナを国際メディアセンター(IMC)の候補地に挙げていた。

国際放送メディアセンター(三重県営サンアリーナ)

専用ブースとCCTV

国際放送センター(IBC)MCR

IBC 映像・音声分配システム 専用ブースを持たないメディアにホスト映像・音声をサービス

ブリーフィング・ルーム

オバマ米大統領広島訪問の生中継、CCTV画面に見入る報道陣 G20で最も脚光を浴びたのは首脳会合ではなくオバマ米大統領広島訪問

議長会見場 背景は英虞湾 演出効果満点のローケーション
以上 筆者撮影
わずか3日間のために28億5000万円かえてIMCアネックスと建設 日本の先端技術や伝統文化を発信
外務省は、IMCが設置されたメインアリーナに隣接する駐車場に、鉄骨2階建て、延べ約8000平方メートルの“アネックス”を仮設で建設した。日本の先端技術や伝統文化を発信するのがその目的である。建設工事は鴻池組が受注し総工費は28億5000万円、サミット開催の4日前に駆け込みで完成した。開催後は3億円の解体費用をかけて取り壊す予定である。
アネックスには、日本庭園や政府広報展示、三重情報館、屋外展示場を設けた。
政府広報展示については、「医療・保健」コーナーでは介護ロボット・HONDAの歩行アシストやヒト型ロボット、「インフラ・交通」コーナーでは三菱リージョナルジェット、超電導リニア、新幹線E7系、「環境・エネルギー」では温室効果ガス観測技術衛星、エネループ(ソーラーストレージ装置)など、「復興・防災」では、地震観測システムや東日本大震災の現状や復興、「宇宙・深海」では、深海探査用ドローン・ほばりん、H3ロケット、8Kスーパーハイビジョンなどを展示した。
また屋外展示場では、TOYOTAやHONDAの水素自動車や電気自動車が展示されれ試乗も行われた。
サンアリーナから首脳会合場の志摩観光ホテル(賢島)までの距離は約二十キロ。三重県は日本の環境技術を各国にアピールしようと、報道関係者らの送迎にハイブリッド・バスを利用した。
またプレス用レストランでは、地元の海産物や伊勢うどん、地酒などの「美しの国」、三重県をアピールする料理をずらりと並べて国内外のメディア担当者に地元グルメをアピールした。プレス用レストランで提供するメニューの8割以上が三重県産食材を使用したという。
IMCアネックス(付属棟)が利用されたのはわずか3日間、延べ8000人のメディア関係者などが訪れたが、一般市民には解放されなかった。
G7サミット終了後、市民からわずか3日のために28億5000万円かけて建設し、取り壊すのは“無駄遣い”の象徴だと批判が高まり、三重県と外務省では、10日間程度、地元の小学生や一市民に公開をし、11月上旬、予定通り壊された。
28億5000万円かけて、IMCアネックスを建設する必要が本当にあったのか、十分に検証すべきだろう。

新設されたIBC・アネックス G7首脳会合の3日間だけのために28億5000万円をかけて新設 閉幕後解体、解体費3億円

新設されたIBC・アネックス

展示フロア

次世代自動車の展示 水素自動車
以上 筆者撮影
アメリカのメディアセンターは独自に設置
アメリカは、大統領が出席するサミットなどの国際会議に際しては、独自に別の場所にUSメディアセンターを設け、取材・編集活動を行うので、主催国が設営する国際メディアセンター(IMC)は使用しないのが通例である。大統領の会見や報道官のブリーフィングもUSメディアセンターで行われる。伊勢志摩サミットでは、鳥羽国際ホテルにUSメディアセンターは設置された。
USメディアセンターには、ブリーフィングルーム兼プレスワーキングルームとUSプールのIBCが設けられる。アメリカの放送局は、米国大統領の参加する国際会議等には、ABC、CBS、NBC、CNN、FOXの5社でUSプールを構成してオペレーションを行う。USプールは、主催国の設置する国際放送センター(IBC)には入らず、独自の映像・音声のオペレーション拠点を構築する。プーラーと呼ばれるプールの代表は、5社が順番で務めるのが慣例だ。IBCの機材は各社で保有している機器を使用し、セッティングや調整、オペレーションを代表して行う。
国際放送センター(IBC)は、USプールに中継やENG取材のホスト映像・音声信号を光回線を使用して配信する。しかし、米国大統領の会見等USプールの映像・音声は、国際映像として国際放送センター(IBC)には配信されない。USプールの映像・音声が必要な各国放送局は、USプールを構成する5社のいずれかから配信を受けるか、APTVやローターTVなどから素材を入手しなければならない。
実は、主催国が設置する国際メディアセンター(IMC)や国際放送センター(IBC)はアメリカの主要メディアを除いた世界各国のメディアの拠点なのである。
G7エルマウ・サミット2022

G7首脳ファミリーフォト 背景はドイツ最高峰のツークシュピッツェ山(Zugspitze)の山並み ドイツとオーストリアの国境線にある 出典 G7-gipfel-elmau

G7首脳ファミリーフォト 出典 G7-gipfel-elmau

議長国ドイツのショルツ首相と岸田首相

Schloss Elmau 開催地のカルミッシェ・パルテンクルヒュン(GarmischPartenkirchen)は1936年冬季五輪の会場 ウインタースポーツのリゾート地として有名 出典 deutshland.de
2022年6月26日から28日の3日間、ドイツのエルマウでG7首脳会議(サミット)が開催された。日本からは岸田文雄首相が出席した。
主な議題:
• インフレおよび景気後退の懸念に対する共通の対応策
• 「気候クラブ」の前進
• インフラと投資のためのパートナーシップ強化
• 外交・安全保障問題に関する調整、ロシアへの圧力強化
• ウクライナに対する支援拡大
• エネルギー供給の確保
• 気候変動対策の迅速化
• COVID-19パンデミックの克服
• 飢餓との闘い
• 世界におけるジェンダー平等の推進

世界経済を議題とする首脳セッション 出典 G7-gipfel-elmau

世界経済を議題とする首脳セッション 出典 G7-gipfel-elmau

外交・安全保障を議題とするワーキングディナー 出典 G7-gipfel-elmau

焦点のウクライナ情勢を議題とする首脳セッション 出典 G7-gipfel-elmau

気候変動・エネルギー・保健を議題とする首脳セッション 出典 G7-gipfel-elmau
主な成果:
• ウクライナ支援
財政・人道・軍事・外交面の支援を必要な限り続け、復興支援を行う
• 「気候クラブ」の設立
気候危機に対するグローバルな対応として立ち上げる
• グローバルな食料安全保障に向けた連合
世界の人々を飢えと栄養不足から守る
• エネルギー供給の確保
排出削減目標や環境目標で妥協せず、ロシア産エネルギーへの依存を低減する
• グローバル・ヘルスの強化
パンデミックに対しより適切に備え、対応する

スピーチをする岸田首相 出典 G7-gipfel-elmau

写真撮影に向かうG7首脳 出典 G7-gipfel-elmau

写真撮影に向かうG7首脳 出典 G7-gipfel-elmau

G7首脳とアウトリーチ首脳 出典 G7-gipfel-elmau

国際メディアセンター(IMC)は カルミッシェ・パルテンクルヒュン市内の駐車場に仮設で建設 約3000人に報道陣が参加 出典 tagesshau/de

国際メディアセンター(IMC) 出典 Losberger Boar

IMCのプレス席 出典 Losberger Boar

大型テントを有効利用 出典 nussli.com

国際メディアセンターに整備された記者リポポジション 出典 Fucus on-line

写真撮影をする各国報道陣 出典 G7-gipfel-elmau

アイスアリーナに設営された警備本部 約18000人の警察官を動員 出典 Merkur.de

警備本部がスタジアムに建設した150人収容の仮設拘置所 出典 Forcus on-len
北海道洞爺湖サミット国際放送センター(IMC/IBC)

北海道洞爺湖サミット IMC ルスツ・リゾート(洞爺湖町)2008年7月 筆者撮影
北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議 G8)は、2008年7月7日~9日まで北海道洞爺湖町のウインザー・ホテルで、福田総理の議長のもと開催された。日本でサミットが主催されるのは、平成12年の九州・沖縄サミット以来8年ぶりであった。
北海道洞爺湖サミットでは、7日のアフリカ諸国等とのアウトリーチ会合に始まり、8日にG8の首脳会合やワーキング・ディナー、9日に主要経済国首脳会合(MEM)が開かれ、9日午後、総理の議長国記者会見をもって閉幕した。
G8会合の主要な議題は、世界経済、環境・気候変動、開発・アフリカ及び政治問題で、G8首脳による議論が行われた。

G8首脳 洞爺湖をバックに記念写真 出典 外務省フォト

G8首脳会合 出典 外務省フォト

ウインザー・ホテル ロビーのG8首脳 出典 外務省フォト
◆ 国際メディアセンター(IMC)の設置
北海道洞爺湖サミットを取材する報道関係者のために、洞爺湖町にあるスキー・リゾートホテル、ルスツリゾートホテル内に国際メディアセンターが(IMC)設置された。国際メディアセンター主要な建物は、ルスツリゾートの駐車場のスペースに仮設で建設された。環境に配慮して建設された設計で、使用された木材は再利用可能とした。[注3 下記の図を参照]
* 開設期間(予定)
2008年7月5日正午から7月10日(木)正午まで (期間中24時間運営)
* 利用対象者
国際メディアセンターへのアクセスが許可される北海道洞爺湖サミット取材記者証及び政府発行のID所有者。
* 主な設備とサービス
(IMC)
インフォメーションデスク
代表取材者デスク(プールデスク)
共用ワーキングスペース
ブリーフィングルーム
首脳記者会見場(議長会見場、各国首脳会見場)
議長国報道担当本部
各国報道担当官連絡室
サミットフォト室
サミットテレビ(CCTV)
レストラン
ATM
医務室 等
(IBC)
マスターコントロールルーム(MCR)
ブッキングオフイス
回線コントロールセンター
光ファーバー伝送システム
SNG伝送車
IP高速伝送サービス・ルーム
方式変換サービス
編集室
音声スタジオ
各社専用ワーキングブース
首脳記者会見場(議長会見場、各国首脳会見場)ホスト中継 サービス
記者リポート・ポジション(ルスツリゾート駐車場、サイロ展望台(洞爺湖展望台)
ウインザー・ホテル(首脳会合場)サブIBC(ルスツリゾートへの伝送拠点)
首脳会合、ワーキングディナー等中継サービス
ロボットカメラ(ウンザー・ホテル周辺の丘)
関連イベントENG取材
◆ 展示
政府広報、自治体、企業等による特設コーナーを設置して、日本や北海道の魅力を紹介する他、報道関係者向け各種サービスを提供した。
建物の入口には、環境ショーケースが設置され、屋内外を利用し、日本の環境における取り組みや省エネなど環境技術に関する展示・デモンストレーション(次世代自動車の試乗等)実施した。また地下に蓄積した雪を利用した冷房システムも設置した。
また首脳会議場とIMC間には、環境に配慮した次世代自動車(燃料電池バス)などを活用したシャトルバスを運行した。
◆ 国際メディアセンター 「IMCザ・メイン」
国際メディアセンターは、洞爺湖町のルスツリゾートの駐車場に建設された。プレスセンター棟は鉄骨造、地上2階建。議長・各国首脳会見場棟は、鉄骨造、地上1階建。延べ面積 は2棟合わせて約11,000㎡で、報道関係者、邦人3,000人、外国人1,000人の利用を想定した。“環境サミット”とされた今回のサミットのテーマに相応しく、建物は環境に配慮した様々な機能が盛り込まれた設計になっていた。
工費は約30億円、竹中工務店・日本設計グループが建設を担当した。
■ “雪冷房”システム
雪室(雪貯蔵庫)、敷地の段差により生じたプレスセンター棟の下部に設け、サミット開催期間の冷房に必要な雪を貯蔵した。貯蔵した雪に縦穴を開け、そこに外気を通すことで冷風を生み出して、建物全体に冷風を送り冷房する。溶けた直後の温度の低い融雪水を使用して冷水をつくり、それを循環させて大きい部屋の冷房機器にも利用した。その他、シースルーソーラーパネルや、北海道産の間伐材フレームによる壁面緑化など、最新の環境技術を駆使した「環境ウォール」で建物を覆った。

■ 建設資材のリサイクル
国際メディアセンターの建物は、サミット終了後、解体することになっていたので、解体後の資材の再利用・再資源化を大前提に建設材料の選定や設計を行った。リサイクル率は、重量比で99%を達成し、2008年10月末に解体作業は完了した。

北海道洞爺湖サミット 首脳会合が開催されたウインザーホテル(洞爺湖町) 出典 JTB






(注) 国際会議のIBCの一般的なモデルのシステムをイメージ化したもので、特定の国際会議のIBCを表したのものではない

“迷走” 2020年東京オリンピック・パラリンピックのメディア施設整備~IBC(国際放送センター)・MPC(メインプレスセンター)~
2020東京五輪大会 国際放送センター(IBC)とメインプレスセンター(MPC) 設営場所と使用後の再活用策
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ロンドン五輪 リオ五輪 北京五輪 オリンピックのメディア拠点 IBC(国際放送センター) MPC(メイン・プレス・センター)/ MPC(メイン・プレス・センター)
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国際放送センターIBC(International Broadcasting Centre)サービス・システム ~機能と設備~
国際放送センター(IBC)で使用される映像信号フォーマット(Video Signal Format
IBC International Center System (English)

国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)
2016年4月1日
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Toru Hiroya
廣谷 徹
代表
国際メディアサービスシステム研究所
International Media Service System Institute (IMSSR)
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