語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【保健】大企業の「販売促進手段」に化したトクホ ~不当表示~

2015年06月09日 | 医療・保健・福祉・介護
 (承前) 

 (7)トクホは政府の許可を受けたものだが、必ずしも信頼されていない。問題がいくつもあるのは事実だからだ。
  (a)健康効果がきわめて限定的である。<例>「キリンメッツコーラ」も「サッポロプラス」も「難消化性デキストリン」を有効成分とし、食事の際に脂肪の吸収を抑えるとしているが、その程度はごくわずかだ。
  (b)有効性がきわめて限定的である。<例>「肥満体になる一歩手前」の人が脂っこい食事をするとき、同じ食品を摂るよりもトクホを摂った方がいくらか健康によい、という程度のものがほとんど。・・・・問題は、そういう理解をしている消費者は少数であることだ。
  (c)安全性も万全ではない。<例>「エコナ騒動」。花王のトクホ商品「健康エコナクッキングオイル」は1999年に発売され、「脂肪がつきにくい」のを謳い文句に10年間売れ続けた。しかし、発癌物質に変わる可能性のある成分が含まれていることを2009年に指摘され、結局、販売中止と許可返上に追い込まれた。この騒動では、安全性に疑問が生じたときの行政の対応について明確な定めがない、という制度上の欠陥も明らかになった。
  (d)最大の問題は、誇大な広告・宣伝の蔓延だ。トクホは、「お腹の調子を整える」「体に脂肪がつきにくい」といった表示が許可されているだけなのだが、事業者は広告で消費者が飛びつきたくなるような表現を工夫する。その多くは有効性試験で得られたデータとかけ離れたもので、「これさえ飲めば食生活の乱れが一気に解決する」かのような印象を与える広告も少なくない。【注】

 (8)トクホ制度は、いま岐路に立っている。保健機能食品の新顔(「機能性表示食品」)が4月に解禁され、6月中旬には商品が売り出されるからだ。
 新制度では、効果や安全性を企業が判断し、消費者庁に届け出れば、60日後から販売できる。開発にかかる費用も期間もトクホに比べてはるかに安く、短くて済む。「消費者庁が審査したものではない」旨の表示は必要だが、その表示は多くの消費者の目に入らないかもしれない。

 (9)機能性表示食品の出現によって、政府のお墨付きを得たトクホの優位性が高まるか、それとも存在意義を失ってしまうか。
 いわゆる健康食品の氾濫こそ問題だ。政府が審査するトクホ制度は必要だ。安倍政権が規制改革で米国型の健康食品制度をめざしているときだけに、トクホを本来のあるべき姿に戻して活用すべきだ。それには審査をもっと厳密にし、安全性に係る情報は公開する必要がある。【中村幹雄・鈴鹿医療科学大学客員教授】
 「条件付きトクホ」や「疾病リスク低減表示」を廃止するとともに、制度全般の見直しを図れ。<例>①許可に有効期間を設けて「更新制」とする。②事業者に新しい知見の報告や市販後の調査を義務づける。③事業者名に事故関連情報の報告を義務づけ、消費者庁はその公開制度を導入する。【佐野真理子・主婦連合会参与】

 (10)何よりも必要なのは、不当表示に適性な処分を行うことだ。
 健康増進法、景品表示法、医薬品医療機器等法(旧薬事法)など不当な広告を規制する法律がある。にも拘わらず、いまはほとんど機能していない。
 広告の適正化を図る必要性は、消費者委員会の「建議」(2013年1月公表)でも強調されている。

 【注】トクホを定める健康増進法は、「健康の保持増進の効果等について、著しく事実に相違する表示や著しく人を誤認させる表示をしてはならない」(32条の2)と定め、違反者には勧告や措置を命じ得る。しかし、この条項に基づく勧告が発動されたことは一度もない。
 日本弁護士会は、2013年11月の意見書で、健康増進法32条の2の規定は不十分だとし、改正を求めている。

□岡田幹治(ジャーナリスト)「大企業の「販売促進手段」に成り果てたトクホ ノンアルコール飲料まで許可」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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 【参考】
【保健】大企業の「販売促進手段」に化したトクホ ~ノンアルコール飲料~
【食】機能性表示食品の安全性 ~茶カテキン過剰摂取の危険性~
【食】健康食品の七つの大罪 ~2兆円規模の成長産業~」 
【食】復活した「魚肉ソーセージ」 ~添加物満載~
【食】2年ぶりに食品安全委員会の評価再開 ~花王「エコナ」が復活か?~
【食】消費者庁が健康食品の機能性表示案を提示
【食】効能表示をしたい健康食品業界と歯止めをしたい消費者庁」 
【保健】2兆円市場の「真実」 ~健康食品・サプリ~




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