田坂広志・多摩大学大学院教授は、放射性廃棄物の専門家、2011年3月29日から9月2日まで、内閣参与として原発事故対策、原子力行政改革、原子力政策転換に取り組んだ。
その『官邸から見た原発事故の真実』によれば、事故直後に首都圏3,000万人の避難も想定した、という。米国も最悪のシナリオを描き、首都圏の米国人9万人に対して避難勧告を出す寸前だった。米国がこの強硬意見を採用しなかったのは、避難勧告すれば日本人を含めた首都圏が深刻なパニックに陥る、という理由だったからだ。
福島第一原発事故発生時で生じた冷却機能喪失による最大の危険は、4号機の使用済み燃料プールにあった。1~3号機は、まがりなりにも核燃料が原子炉内に入っている。しかし、使用済み燃料プールは何の閉じ込め機能もない「剥き出しの炉心」の状態だった。あの段階で新たな水素爆発が起これば、福島第一サイトで放射線量が上昇し、あるレベルを超えると人間が近づけなくなる。そして、大量の放射能が環境中に放出される。その可能性があった。そして、今もまだその可能性は残っている。
最悪の事態をまぬがれたのは、単に「幸運に恵まれた」だけにすぎない。さらなる水素爆発は起こらなかったし、大きな余震も津波も生じなかったし、原子炉建屋や燃料プールのさらなる大規模崩壊も起こらなかった。
「冷温停止状態の達成」は、冷温停止とは違う。そして、「冷温停止状態」は、今回の事故が我々に突き付けてくるさまざな問題の入口にすぎない。だから田坂は、政界・財界・官界のリーダーたちの「根拠のない楽観的空気」が現在の最大のリスクだ、と批判する。彼らの楽観的な気分は、国民の政府に対する「信頼」を決定的に失わせるからだ。すでに「絶対安全神話」の崩壊により、信頼が失われた。起こった事故への対応が、信頼喪失に追い打ちをかけた。原発再稼働に向けての「やらせメール」など組織文化的も問題も次々に浮上してきた。
原子力問題において、もっとも大切なのは「信頼」なのだ。国民に政府に対する不信と疑心が広がれば、政府の国民に対する「安心」「安全」のメッセージは全く意味を失う。
信頼を回復するには、まず、
(a)「身を正す」ことだ。つまり、原子力行政の徹底的な改革を行わなければならない。次に、
(b)「先を読む」のだ。つまり、工程表の作成といった当面の問題にとどまらず、汚染水の処理から「高レベル放射性廃棄物」の最終処分まで、長期的展望を示さなければならない。「高レベル放射性廃棄物」の問題は、原子力のアキレス腱で、「技術」を超えた問題だ。なぜなら、
①「未来予測の限界」という問題がある。「10万年後の安全」を科学と技術で実証することはできない。
②「世代間の倫理」の問題だ。地層処分は、未来の世代に負担とリスクを残すことを意味する。
高レベル放射性廃棄物の最終処分という極めて難しい判断を国民に仰ぐために、政府に求められる絶対条件は、信頼だ。
国民の信頼は、福島原発事故によって失われた。信頼を回復するには、前述の(a)と(b)が不可欠だ。
しかし、政府は「問題が表沙汰になったとき、その解決に取り組む」姿勢(当面主義)をとっているように、国民の目に映る。そうした姿勢は、国民の政府に対する信頼を大きく損ねる。
したがって政府は、福島原発事故後の日本がこれから直面する深刻かつ困難な諸問題について、いち早く、その全体像を明らかにし、それらの諸問題についての国民の疑問に、率先して答える努力をしなければならない。野田政権が国民に対して説明すべき疑問は、次の7つだ【注】。
(1)「原子力発電所の安全性」への疑問
(2)「使用済み燃料の長期保管」への疑問
(3)「放射性物質の最終処分」への疑問
(4)「核燃料サイクルの実現性」への疑問
(5)「環境中放射能の長期的影響」への疑問
(6)「社会心理的影響」への疑問
(7)「原子力発電のコスト」への疑問
【注】これら疑問の要点は、「【震災】原発>国民の信頼を失った日本の原子力行政 ~7つの疑問~」の「5)野田政権が答えるべき「7つの疑問」」参照。
以上、田坂広志『官邸から見た原発事故の真実 ~これから始まる真の危機~』(光文社新書、2012)に拠る。
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その『官邸から見た原発事故の真実』によれば、事故直後に首都圏3,000万人の避難も想定した、という。米国も最悪のシナリオを描き、首都圏の米国人9万人に対して避難勧告を出す寸前だった。米国がこの強硬意見を採用しなかったのは、避難勧告すれば日本人を含めた首都圏が深刻なパニックに陥る、という理由だったからだ。
福島第一原発事故発生時で生じた冷却機能喪失による最大の危険は、4号機の使用済み燃料プールにあった。1~3号機は、まがりなりにも核燃料が原子炉内に入っている。しかし、使用済み燃料プールは何の閉じ込め機能もない「剥き出しの炉心」の状態だった。あの段階で新たな水素爆発が起これば、福島第一サイトで放射線量が上昇し、あるレベルを超えると人間が近づけなくなる。そして、大量の放射能が環境中に放出される。その可能性があった。そして、今もまだその可能性は残っている。
最悪の事態をまぬがれたのは、単に「幸運に恵まれた」だけにすぎない。さらなる水素爆発は起こらなかったし、大きな余震も津波も生じなかったし、原子炉建屋や燃料プールのさらなる大規模崩壊も起こらなかった。
「冷温停止状態の達成」は、冷温停止とは違う。そして、「冷温停止状態」は、今回の事故が我々に突き付けてくるさまざな問題の入口にすぎない。だから田坂は、政界・財界・官界のリーダーたちの「根拠のない楽観的空気」が現在の最大のリスクだ、と批判する。彼らの楽観的な気分は、国民の政府に対する「信頼」を決定的に失わせるからだ。すでに「絶対安全神話」の崩壊により、信頼が失われた。起こった事故への対応が、信頼喪失に追い打ちをかけた。原発再稼働に向けての「やらせメール」など組織文化的も問題も次々に浮上してきた。
原子力問題において、もっとも大切なのは「信頼」なのだ。国民に政府に対する不信と疑心が広がれば、政府の国民に対する「安心」「安全」のメッセージは全く意味を失う。
信頼を回復するには、まず、
(a)「身を正す」ことだ。つまり、原子力行政の徹底的な改革を行わなければならない。次に、
(b)「先を読む」のだ。つまり、工程表の作成といった当面の問題にとどまらず、汚染水の処理から「高レベル放射性廃棄物」の最終処分まで、長期的展望を示さなければならない。「高レベル放射性廃棄物」の問題は、原子力のアキレス腱で、「技術」を超えた問題だ。なぜなら、
①「未来予測の限界」という問題がある。「10万年後の安全」を科学と技術で実証することはできない。
②「世代間の倫理」の問題だ。地層処分は、未来の世代に負担とリスクを残すことを意味する。
高レベル放射性廃棄物の最終処分という極めて難しい判断を国民に仰ぐために、政府に求められる絶対条件は、信頼だ。
国民の信頼は、福島原発事故によって失われた。信頼を回復するには、前述の(a)と(b)が不可欠だ。
しかし、政府は「問題が表沙汰になったとき、その解決に取り組む」姿勢(当面主義)をとっているように、国民の目に映る。そうした姿勢は、国民の政府に対する信頼を大きく損ねる。
したがって政府は、福島原発事故後の日本がこれから直面する深刻かつ困難な諸問題について、いち早く、その全体像を明らかにし、それらの諸問題についての国民の疑問に、率先して答える努力をしなければならない。野田政権が国民に対して説明すべき疑問は、次の7つだ【注】。
(1)「原子力発電所の安全性」への疑問
(2)「使用済み燃料の長期保管」への疑問
(3)「放射性物質の最終処分」への疑問
(4)「核燃料サイクルの実現性」への疑問
(5)「環境中放射能の長期的影響」への疑問
(6)「社会心理的影響」への疑問
(7)「原子力発電のコスト」への疑問
【注】これら疑問の要点は、「【震災】原発>国民の信頼を失った日本の原子力行政 ~7つの疑問~」の「5)野田政権が答えるべき「7つの疑問」」参照。
以上、田坂広志『官邸から見た原発事故の真実 ~これから始まる真の危機~』(光文社新書、2012)に拠る。
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