語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】がもたらす影響とは? ~日米共同作業で進む食の荒廃~

2015年10月28日 | 社会
 (1)10月5日、強引ともいえる手法でTPP交渉の大筋合意がなされた。
 TPP参加をにらみ、これまで日本政府が進めてきた規制緩和を見れば、食と農が深刻な打撃を受けるのは確実だ。

 (2)遺伝子組み換え(GM)食品・添加物。
 日本政府は相次いで規制緩和を進めてきた。
 2015年6月23日、食品工場などで用いるGM微生物に関して、本来、安全性を確認して申請しなければいけなかったものを、手続きをしないで使えるようにしてしまった。
 その1年前には、大半のGM食品添加物について「安全性審査も申請も必要ない、名称も公表しなくてよい」とする2014年6月27日付け通達を出している。これにより、GM食品添加物の大半が消費者の目から隠されてしまった。

 (3)GM食品表示。
 米国政府や多国籍企業が次のターゲットにしているのが、これだ。
 EUが行っている厳密なGM食品表示によって、ヨーロッパではGM食品が流通していない。これを米国政府や多国籍企業は苦々しく思っている。現在進行中の欧米間自由貿易交渉でも最大の壁になっている。
 日本の表示についても同様で、撤廃に向けて動き出すのは確実だ。

 (4)食品添加物。
 日本政府は、食品添加物そのものに関しても、国際的に広く使われているものの日本では未承認だった添加物を「貿易障壁となる」という理由で、「国際汎用添加物」として扱い、審査を簡略化して次々に認めてきた。その結果、指定添加物は、10年間で、
   2005年 361品目
   2015年 449品目
にまで増え、既存添加物365品目と合わせると814品目になった。
 さらに承認作業を加速させるために、政府による規制・制度改革に係る方針(2011年4月8日閣議決定)に基づき、「食品添加物の指定手続きの簡素化・迅速化」措置がとられたのだ。

 (5)残留農薬問題。
 ポストハーベスト農薬の安全審査の簡略化が狙われている。すでに米国通商代表部(USTR)は、輸入果物の表皮に塗る農薬について、規制緩和を求めている。日本では果物の表皮に農薬を塗ってはいけないから、現在は例外扱いで食品添加物として承認している。
 しかし、米国側から見ると、農薬と食品添加物の二重の安全性審査を経なければならず、手間がかかる。審査の一本化を求めているのだ。
 この次にくるのが、穀物や野菜などの残留農薬の基準緩和だ。以前、GM食品の登場に合わせて、米国で除草剤「ラウンドアップ」の残留基準が緩和、日本の基準も20倍も緩和された。さらに2013年にも米国でラウンドアップの基準が再緩和されたことから、日本での再緩和も必至となっている。

 (6)テレビや新聞は、TPPで安い輸入食品が増え、消費者には朗報だ、という論調がほとんどだ。
 しかし、外国産にはポストハーベスト農薬のほかにも、食肉に使われる
   ・ホルモン剤
   ・抗生物質
   ・放射線照射
など安全性を脅かす要因はたくさんある。
 さらには、安い食品や食材が入れば、日本の食品産業もより安くして対抗しようとする。
 それがもたらすものは、労働者の非正規化、時間外労働の不払い、低賃金といった労働現場の荒廃だ。
 昨年、冷凍食品工場で農薬を混入する事件が起きた。過酷な労働条件に不満を抱いた労働者による犯罪だった。労働現場が荒廃すれば、食の安全が脅かされる。
 TPPは、確実に次のものをもたらす。
   ・安全性を脅かす規制緩和
   ・安全性に問題がある輸入食材・食品・添加物の増加
   ・国産の荒廃

□天笠啓佑「TPPがもたらす影響とは? 日米共同作業で進む食の荒廃」(「週刊金曜日」2015年10月23日号)
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 【参考】
【古賀茂明】【TPP】の漂流と「困った人たち」
【TPP】漂流する可能性が出てきた ~大筋合意見送り~
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道(2)
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道
【米国】が狙い撃ちする日本の自動車部品メーカー ~カルテル摘発続出~
【TPP】の最大の抵抗勢力 ~米国の議会と社会~
【TPP】というゾンビに食い荒らされる日本
【TPP】というドラキュラの死とTPPのゾンビ化
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
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【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
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【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~


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